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国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

租税争訟レポート 【第14回】理由附記の不備による課税処分の取消し

租税争訟レポート【第14回】 理由附記の不備による課税処分の取消し   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝      【事案の概要】 納税者である控訴人(第1審原告)は、東大阪市が全額寄附をし、大阪府から設立許可を受けて設立された財団法人(公益法人等に該当する)であり、処分行政庁から法人税の青色申告の承認を受けている。 控訴人は、その行う事業を、公益事業会計及び収益事業会計の2つの事業に区分して経理しており、本件各事業年度において、収益事業会計として区分していた事業のみを法人税法2条13号に規定する収益事業に該当するとして、本件各事業年度の法人税の確定申告をした。 処分行政庁は、控訴人が営む事業のうち、公益事業会計に区分して経理していた事業についても収益事業に該当するとして、平成19年11月28日付けで、控訴人に対し、各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分をした。 控訴人は、本件各更正処分等を不服として、異議申立て、審査請求を経て、平成21年11月5日、本訴を提起した。   【争点となった東大阪税務署長による「更正の理由」(平成19年3月期の例)】    【本件理由附記に関する当事者の主張】 1 控訴人 本件各附記理由は、帳簿の記載に誤りがあるのか、法の適用の結果であるのかが不明であり、違法であって、取り消されるべきである。 仮に、本件各附記理由が帳簿記載を否認しないでしたものであるとしても、本件各附記理由には、本件各事業が収益事業に該当するとの結論に至る判断過程について何の記載もなく、処分行政庁が自己の判断過程を逐一検証することは全く不可能である。 加えて、本件の場合は、収益事業と判断するには膨大複雑な法人税法施行令、施行規則を検討して判断する必要があるから、少なくとも関係法規の適用関係だけでも理由に記載すべきである。 よって、本件各附記理由は、処分行政庁の判断の慎重と合理性を担保しその恣意を抑制するという趣旨目的に反するものであり、この要件を欠いた本件更正処分は違法である。 2 被控訴人 本件各附記理由は法人税法130条の求める要件を満たすものである。 (1) 法の適用については結論のみを示せば足りる 更正の理由には、①更正の原因となる事実、②それへの法の適用、③結論の3つを含むところ、②に関連して生ずる法の解釈の問題や収入・支出の法的評価ないし法的判断の問題については、結論のみを示せば足り、結論に到達した理由ないし根拠を示す必要はないと解されている。 (2) 判断過程を逐一容易に検証することができる 本件各附記理由には、①「更正の原因となる事実」について、更正処分の対象として個々の業務について、契約等年月日、契約書名及び計上漏れとなっていた金額が記載され、更正の原因となる事実はすべて網羅されており、③「結論」についても、「収益事業収入計上漏れ」として、「当該事業年度の所得金額に加算しました。」と記載されている。 そして、②「法の適用」についても、公益法人等は、収益事業から生じた所得についてのみ法人税が課され(法人税法7条)、その収益事業の範囲については、同法2条13号において定められているところ、本件各附記理由には、上記更正の原因となる事実について、法人税法2条13号に該当する旨を明記していることから、更正理由の附記として欠けるところはない。   【裁判所の判断】 1  本件各附記理由について 以下の認定判断を総合すると、本件各附記理由は、法人税法130条の求める理由附記として不備があるものといわざるを得ない。 (1) 本件各附記理由の内容 本件各附記理由は、収益事業の収入に該当すると認定した収入の金額については、各契約書に基づきその算定過程について具体的に記載するものであるが、法適用に関しては、「法人税法2条13号に規定する収益事業の収入に該当する」との結論を記載するにとどまり、なぜ収益事業の収入に該当するのかについての法令等の適用関係や、なぜそのように解釈するのかの判断過程についての記載が一切ない。 (2) 本件各更正処分の理由等 処分行政庁は、本件各更正処分をした理由として、本件各事業がいずれも法人税法施行令5条1項10号に規定する「請負業」に該当するものであり、また、法人税法施行規則4条の3が定める要件(実費弁償原則)を満たさず、さらに、実費弁償通達が定める実体要件及び手続要件の双方を満たすものではない旨判断したことが認められる。 ところが、本件各附記理由には、こうした施行令、施行規則及び通達の各規定、その適用関係についての判断過程の記載が一切ないことから、処分行政庁が本件各更正処分をするに当たり、そうした法令等の適用関係やその判断過程を経ていることを検証することができない。   2  被控訴人の主張の検討 (1) 法の適用については結論のみを示せば足りるのか 更正通知書に更正の理由を附記すべきものとされているのは、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨によるものであるところ、法の適用について課税庁と納税者との間で見解が対立する場合等においては、課税庁の恣意の抑制や納税者の不服申立ての便宜等の要請は、法の適用判断の過程について生ずるものと考えられる。 事実関係を示すことで法の適用関係が一義的に明らかである場合やこれを容易に推測することができる場合等、法の適用については結論のみを示せば足りる事案が存することは否定できないが、一般的に法の適用については常に結論のみを示せば足りるとする被控訴人の主張は採用しがたい。 (2) 判断過程を逐一容易に検証することができるか 本件各附記理由の「収益事業収入計上漏れ」の記載は、本件各事業が収益事業に該当するとの判断を前提として、その所得金額ひいては税額を算出する判断過程を記載したものであって、本件各事業が収益事業に該当するか、実費弁償となっているかについての判断過程を記載したものとは解されない。 本件各附記理由の記載によって、実費弁償となっていないとする処分行政庁の判断過程を検証することが可能であるとは認めがたいところであるし、処分行政庁の判断過程が控訴人に示されたとみることは困難である。 (3) まとめ 以上のとおり、被控訴人の各主張は、いずれも採用することができず、本件各附記理由について不備があるとする当裁判所の判断を左右するものではない。 3  本件各更正処分等の違法性の検討 本件各附記理由は、法人税法130条2項の求める理由附記として不備があり、違法であるといわざるを得ず、その余の争点につき判断するまでもなく、本件各更正処分及びこれを前提とする本件賦課決定処分はいずれも取消しを免れない。   【解説】 改正国税通則法の施行により、平成25年1月から、すべての処分について理由附記が実施されることとなった。 本判決は、更正処分における理由附記に不備があるとして、裁判所が処分の全部取消しを命じたものであり、課税実務に与える影響は大きいといえよう。 冒頭の引用した「更正の理由」は、それなりの体裁を整えているように読める。しかし、裁判所は、附記理由については、法の適用に関する結論のみでは足りず、法の下位規定の適用に関する処分行政庁の判断過程を示す必要があるとして、被控訴人側の主張を一蹴した。 特に、法の適用について課税庁と納税者との間で見解が対立する場合において、課税庁の恣意を抑制し、また、納税者の不服申立ての便宜を図るという法の趣旨から、納税者において、「課税庁の判断過程を検証することが可能である」理由の附記を求めた点は、たいへん評価できる。 なお、改正国税通則法74条2項では、調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、「その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする」と規定されていることから、調査結果の説明が不十分であった場合、納税者からの質問に対する回答がなかった場合、結果説明と更正決定処分の内容が違っている場合など、いずれも処分の違法性を問える可能性が生じるため、調査結果の内容説明(事務運営指針によれば、原則として口頭で行われる)については、納税者側で記録を残しておくことが、これまで以上に重要になることは間違いない。   (了)
#37(掲載号)
#米澤 勝
2013/09/26
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「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」の解説 【第4回】「経営改善に関する指導及び助言について」

「商業・サービス業・ 農林水産業活性化税制」の解説 【第4回】 「経営改善に関する 指導及び助言について」   公認会計士・税理士 新名 貴則   本税制の概要は次のとおりであり、中小企業等が器具備品及び建物附属設備を取得した場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除(当期の法人税額の20%が上限)を認める税制措置である(措法42の12の3)。 ただし、下記の要件を満たす必要がある。 今回は、この中の「指導及び助言」について詳細に解説する。   1 認定経営革新等支援機関等による指導・助言 平成24年8月30日に「中小企業経営力強化支援法」が施行され、税務、金融及び企業財務に関する専門的知識や支援の実務経験が一定水準以上の個人・法人を、中小企業に対して専門性の高い支援事業を行う経営革新等支援機関として認定する制度が創設された。 「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」は、この認定を受けた「認定経営革新等支援機関」から、経営改善に関する指導及び助言を受けて行う設備投資が対象となる。 具体的には、次のような個人・法人が「認定経営革新等支援機関」となっている。 税理士や税理士法人、公認会計士や監査法人などであれば、そのすべてが「認定経営革新等支援機関」であるというわけではなく、その中でも認定を受けている者だけが「認定経営革新等支援機関」に該当する。 また、「認定経営革新等支援機関」に準ずる機関として、次の機関による指導及び助言を受けて設備投資を行う場合も、本税制の対象となる。   2 指導及び助言を受けた旨を明らかにする書類 本税制の適用要件として、「認定経営革新等支援機関等による経営改善に関する指導及び助言を受けて行う設備投資」であることが要求されている。そのため、指導及び助言を受けた認定経営革新等支援機関等から、「指導及び助言を受けた旨を明らかにする書類」の交付を受け、これの写しを法人税申告書に添付する必要がある。 「指導及び助言を受けた旨を明らかにする書類」には、次のような事項の記載が必要であるが、特に定められた様式はない。ただ、中小企業庁から当該書類のイメージが公表されているので、これを参考にするとよい。 (了)
#37(掲載号)
#新名 貴則
2013/09/26
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経理担当者のためのベーシック税務Q&A 【第6回】「資本的支出と修繕費」―蛍光灯をLED照明に取り替えた場合―

経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第6回】 「資本的支出と修繕費」 ―蛍光灯をLED照明に取り替えた場合―   仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久     1 修繕費と資本的支出の区分 固定資産の維持管理や原状回復のために支出した金額は、基本的には「修繕費」となります(法基通7-8-2)。一方、固定資産の価値を高め、使用可能期間を延長させるために支出した金額は、基本的には「資本的支出」となります(法令132、法基通7-8-1、7-8-2)。   2 LED照明の効果 一般的には、LED照明の導入効果として、次のような点が挙げられます。   3 照明設備(建物附属設備)については交換工事を行わないケース LED照明の節電や長寿命化等の効果により、固定資産の価値を高め、使用可能期間を延長しているものとして、資本的支出に該当するとも考えられます。 しかしながら、LED照明等の照明器具は、建物附属設備である照明設備を構成する部品の1つであり、その部品の性能が高まったことにより建物附属設備自体の価値が高まったとはいえないと考えられますので、蛍光灯のみをLED照明に取り替えるケースでは、修繕費として処理することができます(国税庁・質疑応答事例「自社の事務室の蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えた場合の取替費用の取扱いについて」)。 例えば、ある事業所で蛍光灯を200本使用している場合、1本9,000円の蛍光灯型LED照明にすべて交換し、取替費用が1本当たり1,000円かかるとします。この場合、2,000,000円〔=(9,000+1,000)×200本〕の費用が発生しますが、全額を修繕費として処理することができます。   4 照明設備(建物附属設備)についても交換工事を行うケース 建物天井のピットに装着された照明設備も交換し、一定規模の配管工事を併せて行う場合には、単なる部品の交換ではなく照明設備の取替えに該当しますので、新たに照明設備を取得したものとして検討することが必要となります。 具体的には、資産計上、消耗品費処理、修繕費処理のいずれに該当するかについて、金額や取引内容に応じて、資本的支出と修繕費の判定を行います。また、修繕費に該当するかどうかの判定は修繕費や改良費等の費目によって判断するのではなく、その実質によって判断することが必要ですが、以下の支出に該当する場合には、その支出した金額を修繕費とすることができます。 (1) 少額又は周期の短い費用(法基通7-8-3) 修理・改良等の金額が20万円未満の場合 おおむね3年以内の期間を周期として行われる修理や改良等である場合 (2) 形式基準による修繕費の判定(法基通7-8-4) 修繕費であるか資本的支出であるかが明らかでないケースで、以下のいずれかの場合 支出した金額が60万円未満 支出した金額が修理や改良等をした固定資産の取得価額のおおむね10%以下 (3) 資本的支出と修繕費の区分の特例(法基通7-8-5) 修繕費であるか資本的支出であるかが明らかでないケースで、継続適用を要件として、以下のいずれか少ない金額を修繕費としている場合 支出した金額の30%相当額 修理や改良等をした固定資産の取得価額の10%相当額 例えば、天井への埋め込み型の蛍光灯や、廊下やエレベーターホール等の埋め込み型のダウンライト等の場合には、天井に設置された照明器具そのものを交換する等、一定規模の配管工事や電源工事が発生します。 このような場合には、照明設備として資産計上することが必要になるケースも生じてくると思われます。 (了)
#37(掲載号)
#草薙 信久
2013/09/26
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貸倒損失における税務上の取扱い 【第2回】「各税法における貸倒損失の取扱い」

貸倒損失における税務上の取扱い 【第2回】 「各税法における貸倒損失の取扱い」   公認会計士 佐藤 信祐   税務上の貸倒損失というと、法人税法の規定のみを想定してしまうことがあるが、所得税法、消費税法、相続税法においても、貸倒損失についての議論が存在し、実務上、法人税法のみの検討だけでは不十分なことが多い。 また、例えば、法人税法における取扱いが、消費税法における取扱いに影響を与えることもあり、複数の租税法を横断的に検討することで理解が深まることもある。 本稿では、法人税法、所得税法、消費税法及び相続税法における貸倒損失の取扱いについてそれぞれ解説を行う。   1 法人税法 法人税法には貸倒損失に係る規定は存在せず、法人税法22条4項において、「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と規定されているに過ぎない。 そのため、法人税基本通達9-6-1から9-6-3においては、貸倒損失に係る取扱いが定められており、法人税基本通達9-4-1、9-4-2においては、子会社支援損失に係る取扱いが定められている。 詳細な取扱いについては、本連載を通じて解説する予定であるが、大雑把に言うと、以下のような取扱いになっている。   2 所得税法 (1) 貸倒損失に係る規定 所得税法51条2項においては、 と定められている。 また、具体的な内容については、所得税基本通達51-10~17に定められているが、同通達51-11~13の規定内容を見る限り、法人税基本通達9-6-1~9-6-3の内容と大きくは変わらない。 なお、不動産所得、事業所得又は山林所得についてのみ貸倒損失の計上が認められていることから、例えば、オーナー社長が、自身が経営する法人に対して有する金銭債権について債権放棄を行ったとしても、オーナー社長においては法人から受け取る給与所得の計算上、必要経費に算入することは認められない。 (2) 譲渡所得の特例 前述のように、譲渡所得の計算においては貸倒損失の計上が認められていない。しかしながら、所得税法64条においては、資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例が定められており、以下の場合には、譲渡所得の計算上、回収することができなかった部分等については、譲渡がなかったものとして取り扱うことが可能である。   3 消費税法 消費税法39条においては貸倒れに係る消費税額の控除等の取扱いが定められており、課税資産の譲渡等の相手方に対する売掛金その他の債権に対する貸倒損失が発生した場合には、消費税額から控除することが可能である。 また、貸倒れに係る消費税額の控除等が認められる場合として、消費税法施行令59条、消費税法施行規則18条において具体的に定められているが、その内容を見る限り、法人税基本通達9-6-1~9-6-3の内容と大きくは変わらない。 そのため、法人税基本通達9-4-1、9-4-2により子会社支援損失を計上した場合には、貸倒れに係る消費税額の控除等が認められないことになるが、子会社等に対する金銭債権については、売上債権ではなく、貸付債権であることが多く、そもそも、法人税基本通達9-6-1~9-6-3に該当したとしても、貸倒れに係る消費税額の控除等の対象にすることができないため、実務上、これが問題になることはほとんどない。   4 相続税法 相続税法においては、貸倒損失に関する規定は存在しない。これは、被相続人から相続人に対して相続しようとした金銭債権が、そもそも相続の段階で貸し倒れていた場合には、架空財産であることから、相続財産に含めることができないからである。なお、相続前に債権放棄を行い、相続財産を減らしたことについて争われた事案(浦和地裁昭和56年2月25日判決)があるが、いずれ本連載においても、解説を行う予定である。 そのため、理論上は、法人税基本通達9-6-2、9-6-3に該当するような金銭債権について、法的には存在するものの、実質的には回収が不能なものについて、どのように評価して相続税の課税所得の計算に算入すべきであるかという点が問題になる。 この点については、財産評価基本通達204、205には明確に定められていないが、法人税基本通達9-6-2、9-6-3の要件を満たすようなものについて、相続財産に含めるべきであると争われることは稀であるため、実務上はほとんど問題にはならないと考えられる。   5 総括 このように、貸倒損失についての取扱いは、法人税法のみならず、その他の税目についても検討が必要になる。 なお、本稿においては省略したが、所得税法においては貸倒引当金に係る取扱いや、債務免除を受けた者における取扱いについても、通達において明らかにされている。 実務においては、例えば、法人から個人に対して債権放棄を行った場合には、以下のような分析が必要になってくる。 さらに、法人税法における貸倒損失の分析において、所得税法、消費税法における貸倒損失に係る事例が参考になる場面もあるかもしれない。ひょっとしたら、それぞれの租税法における目的が異なることから、異なる分析をする必要がある場面もあるかもしれない。 この分析については、それぞれの事案に応じ、慎重に検討をする必要があると考えられる。 本連載においては、基本的には法人税法における取扱いを分析することを目的にしているが、このような事情を鑑み、必要に応じ、所得税法、消費税法、相続税法の判例や裁決事例についても触れる予定である。 (了)  
#37(掲載号)
#佐藤 信祐
2013/09/26
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税務判例を読むための税法の学び方【19】 〔第5章〕法令用語(その5)

税務判例を読むための税法の学び方【19】 〔第5章〕法令用語 (その5)   自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘   (前回はこちら) 5 「推定する」「みなす」「とする」 ① 推定する 一定の事実関係について、通常予測されうるものを前提に、一応の事実を推測して、その法令上の取扱いを定めようとすることが行われる。 このようなときに用いられる法令用語が、「推定する」である。 すなわち、「推定する」というのは法律上の取扱いについて一応決めるだけであるので、本当の事実がそれと異なる場合には、反証を挙げてこれを否定することができる。 以下に例を1つ示す。 これは国税通則法第12条1項2項の規定である。なお、内容の把握上、第1項も記載する。 この第2項に「推定する」とあるが、それは国税に関する法律の規定に基づいて税務署長等が郵便又は信書便によって書類を発送した場合には、通常到達すべきであった時に送達があった、すなわち郵便物が届いたものとして推定される。 しかし、特別の事情があって届いていない場合に、反証を挙げてこれを否定することができれば、通常到達すべきであった時に送達がなかった、すなわち届いていなかったことを主張できる。 次に、語尾が「して」となっている「推定して」の例として、所得税法158条を挙げる。 この条文前段の説明は省くが、この前段の内容に該当する場合には、税務署長は各事業所の主宰者が各事業所から生ずる収益の享受者と推定して、更正又は決定をすることができると定められているが、主宰者の側で反証を挙げてこれを否定することができれば、収益を享受していないことを主張できる。 ② みなす 本来性質の異なるものを、一定の法律関係について、法令の定めにより同様のものとして取り扱おうとするときに用いられる法令用語である。この点において、反証により否定することが可能な「推定する」とは異なる。 すなわち、「みなす」の場合には、法令上確定的に、その「みなす」と定められているものとして取り扱う。したがって、反証によってこれを否定することはできない。 なおこれは、「擬制的にそのように扱う」という趣旨であって、本来はその「みなす」とされているものとは性質が異なるものである。 所得税法第150条を例として取り上げる。 この150条の各号には、青色申告の承認の取消し事由が列挙されているが、それに該当する場合には、その提出した青色申告書は、法令上確定的に、青色申告書以外の申告書として扱われることになる。 ③ とする これは前回「ものとする」のなかで説明したものであるが、ここで再度説明する。 なお、ここで取り上げる「とする」は、「制度としてそのように決める」という意義の中で、上記「みなす」と同様、法令上確定的に、その「とする」と定められているものとして取り扱う用例のものに限定して説明する。 上記の「みなす」という用語が、「擬制的にそのように扱う」という趣旨であるのと制度的にそのように決めるという場合に「とする」と表現するのとは大きく異なる。すなわち「とする」は、本来そのように扱っておかしくない性質をもっているので「制度としてそのように決める」という場合に用いる。 所得税法第6条の3の各号の規定のなかには、この「みなす」と「とする」がある。 この1号及び2号の場合は、本来的に内国法人(1号)又は外国法人(2号)として扱っておかしくない性質をもっているので「制度としてそのように決める」という趣旨で用いている。 1号について見れば、法人課税信託の信託された営業所が国内にある場合の当該受託法人は内国法人であるか否かを問わず内国法人として扱う旨規定されている。しかし3号においては、「会社とみなす」と規定されているものは、受託法人のなかでも「会社でないものに限る」と規定され、あくまでも会社でないものを会社として扱う趣旨で「みなす」を用いている。 このように、「みなす」は本来、その「みなす」とされているものとは性質が異なるものを擬制的にそのように扱う場合に用いるものである。 (了)
#37(掲載号)
#長島 弘
2013/09/26
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載37〕 会社分割において金銭等を交付する場合の取扱い

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載37〕 会社分割において金銭等を交付する場合の取扱い   税理士 竹内 陽一   1 会社分割と金銭等の交付 会社分割は、会社法においては、「分社型分割」として規定され、分割会社からの承継資産に対応する分割承継会社の対価は自由となり、その全額を承継会社株式以外の金銭等とすることができる。 法人税法においては、対価が金銭等の場合には、非適格分割となる。   2 分割型分割と金銭等の交付 会社法においては、「分割型分割」は、「分社型分割」+ 「剰余金の配当」として整理されており、効力発生日に分割承継会社株式のみを配当財産とする場合は分割契約書にその旨を記載する必要があり、金銭等を株主に交付する場合は対価総額の5%未満とされている。   3 分割型分割における交付金銭等の対価総額5%未満要件 会社法上、対価総額の5%未満の金銭等の交付しか容認されていないということではなく、この交付する金銭等が対価総額の5%未満の場合は、分配可能額による剰余金の配当規制の適用除外とされているにすぎない。 この対価総額の5%以上100%までの金銭等の交付を行う場合は、分割会社において、剰余金の配当規制に抵触しないことが、会社分割を行う条件となる。対価総額の5%以上の金銭等を交付する場合及び100%金銭交付の分割型分割を行う場合には、剰余金の減少額は分配可能額の範囲内でなければならない。   4 法人税法における分割型分割 法人税法においては、会社法の定めにかかわらず、法人税法2条12号の9(分割型分割の定義)において、分割型分割とは、分割の日に分割対価資産のすべてが分割法人の株主等に交付される場合の分割と定義しており、分割の効力発生日と金銭等の交付の同日要件はあるが、交付金銭等に上限はない。   5 法人税法における適格組織再編成と対価要件 適格組織再編成における株式以外の対価が交付される場合の適格判定等は、次の表のとおりである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   6 分割型分割において剰余金の配当を現物によって行った場合に一に満たない端数が出るときの取扱い 分割承継法人から交付される対価が分割承継法人株式のみであって、分割法人の株主に交付する際に、交付する分割承継法人の株式に一に満たない端数が生ずる場合、その端数に応じた金銭を交付しても、その分割は、非適格分割とされることとはならず、その金銭を交付された株主においては、譲渡所得となる。 この一に満たない端数に関しては、分割法人株主が分割法人を経由して分割承継法人に譲渡し、分割承継法人においては自己株式を買い取る、ということになる。この自己株式の買取りに関しては、会社法234条4項(一に満たない端数の処理)の対象外であるが、同項の端数株式の買取りに準じてみなし配当を発生させないこととされている(法令23③九)。 この一に満たない端数の取扱いに関しては、分割法人を経由して分割承継法人に自己株式を買い取らせるという手続を省略して、分割法人が、分割承継法人から、端数が出ない分割承継法人株式と分割法人の株主に交付する代わり金の交付を受け、そのまま剰余金の配当をすることが考えられる。この場合には、この金銭等の額が対価総額の5%未満であれば、この剰余金の配当は分配規制の対象外とされる。 税法上は、このような処理が行われた場合には、分割法人を経由して分割承継法人に自己株式を買い取らせるという手続を省略したものとして、みなし配当を発生させない取扱いとなるものと考えられる。   7 一に満たない端数が出る場合の分割法人と分割承継法人の処理 一に満たない端数に相当する額の金銭の交付が行われる場合、上記のとおり、みなし配当を発生させない取扱いとなり、株主においては、譲渡所得の計算が行われることとなるものと考えられるが、分割法人と分割承継法人においては、次のような処理が必要となる。 なお、この分割は、適格分割の要件を満たしているものとし、各項目の金額は、どのような処理が行われるのかということが分かりやすいような適宜の金額としている。   8 反対株主の買取請求権が行使された場合の分割法人と株主の処理 (1) 反対株主の買取請求権が行使された場合で分割の日前に価格合意と決済がされたときの処理 反対株主の買取請求権が行使された場合で分割の日前に価格合意と決済がされたときの分割法人と株主の処理は、税制上はみなし配当が生ずる金庫株取引となり、適宜の金額にて処理例を示すと、次のとおりとなる。   (2) 分割の日後に価格合意がされ、分割の日に反対株主にも剰余金の配当として分割承継法人株式が交付された後、合意した分割法人株式の対価が支払われる場合の処理 分割の日後に価格合意がされ、分割の日に反対株主にも剰余金の配当として分割承継法人株式が交付された後、合意した分割法人株式の対価が支払われるという場合には、効力発生日に反対株主にも分割承継法人株式が交付されるため、一旦は、他の株主と同様の処理が行われることとなる。 このため、分割法人とその株主は、一旦、次の処理を行うこととなる。 その後、価格合意して譲渡契約が成立し、分割法人の株主が分割法人株式の対価を受け取る場合には、分割法人の株主は、分割承継法人株式を分割法人に返還し、改めて、分割法人株式の分割法人への譲渡の処理を行うこととなる。 分割法人は、その株主から分割承継法人株式の返還を受けることとなるが、その返還は、分割法人が一旦行った分割法人株式の株主への交付がなかったものとするものであり、分割法人においては、実質的には、適格分社型分割と自己株式の買取りとを行った状態と同様であるため、分割法人が行っていた分割法人株式を交付して資本金等の額と利益積立金額を減少させる処理を修正する処理と自己株式の買取りの処理を行うのが適当と考えられる。 このように、分割法人において、分割法人が行っていた分割法人株式を交付して資本金等の額と利益積立金額を減少させる処理を修正する処理を行うのは、分割の日後に価格合意がされた場合に、分割承継法人株式が返還されることによって分割法人がどのような状態となるのかということを経済的実質に即してみると、適格分社型分割と自己株式の買取りとを行った状態と同様であると判断されることによるものであり、適格分割型分割とした分割を適格分社型分割に変更するというものではないため、分割承継法人において分割型分割として行った処理を変更する必要はない。 この場合の分割法人とその株主の処理は、次のとおりである。 (了)
#37(掲載号)
#竹内 陽一
2013/09/26
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林總の管理会計[超]入門講座 【第11回】「経費の予算管理をめぐる考え方」

林總の 管理会計[超]入門講座 【第11回】 「経費の予算管理をめぐる考え方」   公認会計士 林 總   予算をどれだけタイトに考えるか   予算は絵に描いた餅か?   部門別計算における責任予算制度 (了)
#37(掲載号)
#林 總
2013/09/26
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

競業避止規定の留意点 【第4回】「個別特約と就業規則」

競業避止規定の留意点 【第4回】 (最終回)  「個別特約と就業規則」   特定社会保険労務士 大東 恵子   退職後の競業避止義務契約の有効性は、競業の制限が合理的範囲を超え、債務者らの職業選択の自由等を不当に拘束し、同人の生存を脅かす場合には、その制限は公序良俗に反し無効となるのは言うまでもない。退職労働者は、これまでの経験を活かせる職業に就こうとするため、自然と同業となる。労働者の働く権利を侵害しすぎない範囲に限って、会社を守ることも許されるのである。 特約については、民法上の公序良俗違反(民法90条)として無効とすることにより、特約の適用範囲に一定の歯止めをかけている。 上記の合理的範囲を限定するにあたって、裁判例には若干のバラつきはあるが、概ね、使用者の正当な利益の保護を目的とする(ノウハウ等の要保護性)営業秘密はもちろん、技術的な秘密や営業上のノウハウ等、顧客との人間関係等についても企業利益の有無が判断される。 〔従業員の退職前の地位・業務の性質・勤続年数〕 従業員すべてを対象にした規定は、合理性が認められにくい。 就業規則への記載は勿論だが、秘密漏洩禁止と競業避止の特約などを地位や業務の性質に応じて個別契約書を締結するのが良い。 〔競業避止義務を課す業務、期間、地域〕 転職を一般的・抽象的に禁止するだけでは合理性が認められないことが多いため、具体的に事業名を明確に記載する必要がある。 期間について、1年以内は肯定的に捉えられている例が多い一方で、近年は、2年の競業避止義務期間について否定的に捉えられる判例が見受けられる。 〔代償措置の有無〕 代償措置と呼べるものがない場合には、有効性を否定されることが多い。 必ずしも競業避止義務を課すことの対価と明確に定義された代償措置でなくても、代償措置と呼べるものが存在すると肯定的に判断されることが多い。 (連載了)
#37(掲載号)
#大東 恵子
2013/09/26
労務・法務・経営 法務

民法改正(中間試案)―ここが気になる!― 【第10回】「民法総則」

民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第10回】 「民法総則」   弁護士 中西 和幸   連載の最後に、民法総則について解説する。 今回の民法改正が「債権法改正」といわれることがあるとおり、債権法が中心であり、民法総則については大きな改正は少ない。その改正の主なものは、「錯誤」と「時効」である。   1 錯誤 (1) 表示上の錯誤 ① 要件の整理 まず、旧民法で錯誤の典型例とされている表示上の錯誤について規定されている。例えば、「Aを買う」と意思表示をするつもりが「Bを買う」と表示してしまったように、対象を誤って表示した場合が考えられる。 こうした場合の錯誤の要件について、中間試案では、民法95条においては「要素の錯誤」という、その錯誤がなかったならば表意者は意思表示をしなかったであろうと考えられ(主観的因果性)、かつ、通常人であってもその意思表示をしないであろうと認められる(客観的重要性)もののみが意思表示の効力に影響を与えるものと判例上の解釈が定着しているところ、この判例の論理を明文化して定義しているものである。 すなわち、特段、ルールが変更されている部分ではない。 ② 効果の変更 前述の要件を満たし、表示上の錯誤が要素の錯誤に当たる場合の法的効果について、民法95条の「無効」を取り消すことができるものとし、明文上のルールを変更している。 この点、「取り消すことができる」法律行為については、意思表示を行った者等法令上定められた者に限って「取り消し」の意思表示を行うことができる者とされている一方、「無効」は主張することができる者が限定されていない。そのため、錯誤による無効を第三者が主張すると法的安定性や当事者の意思に反するという不都合が古くから指摘されていた。 もっとも、判例上、錯誤による無効を主張できる者は意思表示を行った者に限定されており、実質的には判例を明文化したに過ぎず、実務上は影響がない改正と解される。 (2) 動機の錯誤 錯誤による法的紛争において多く争われたものは、動機の錯誤である。 前述の例に沿えば、「Aを買う」と意思表示をしたつもりで「Aを買う」と意思表示をしているため、表示上の錯誤ではないが、その前提となる動機を誤って「Aを買う」と意思決定をした場合をいう類型である。 この場合、現行法では、判例上動機が明示又は黙示に表示されて法律行為の内容となっていた場合には錯誤無効の主張が認められている。中間試案では、その判例を明文化して、表意者の認識が法律行為の内容になっているときと規定している。 なお、動機の錯誤についてもその効果は取り消すことができるものとされている。 (3) 不実表示 動機の錯誤の一類型として、表意者の錯誤が、相手方が事実と異なることを表示したために生じたものであるときは、表意者の認識が法律行為の内容になっているか否かを問わず、動機の錯誤にあたるものとされている。 これは、新たに設けられたルールであり、「不実表示」といわれている。 (4) 表意者の重過失 錯誤に陥った意思表示を行った者に重大な過失がある場合、原則として取消しができないものとされている。この点は民法上も規定されている。 中間試案では、これに加え、相手方が表意者の錯誤について知り又は重大な過失がなかったときや、相手方と表意者が同一の錯誤に陥っていたときは、取消しができるものとし、民法の明文にはない新しいルールを追加している。 (5) 第三者保護 民法には、錯誤の場合は詐欺(民法96条3項)や通謀虚偽表示(同94条2項)のように、善意の第三者に意思表示の取消しや無効を主張できない旨が明記されていない。 そのため、中間試案では、上記規定と平仄をそろえるため、善意無過失の第三者に対抗できないことを明記している。 (6) 実務への影響 錯誤の規定については、基本的には判例を明文化し、他の規定と平仄をそろえるなど、これらについては実務上さほど影響を与えるものではないものと思われる。 しかし、「不実表示」については、この規定のみが消費者保護を指向した、質の異なる規定である。法制審議会の議論において、元々異なる分野であった規定が錯誤の項目に盛り込まれたものである。こうした経緯に加え、「消費者保護」という特定の目的を持った規定が民法という基本法に盛り込まれることに違和感があるが、さらに、裁判等における法的解釈に際しても、消費者保護的な発想から逃れられないことが予想される。 さらに、どのような場合に不実表示となるかという点は実務の蓄積を待たなければならず、仮に規定が設けられた場合、施行後当面の間は予測可能性がなく、手探りの実務が続くため、やや保守的な運用にならざるを得ないであろう。 これに加え、不実表示の効果が「取り消すことができる」というだけであり、損害賠償や瑕疵修補等と比較して柔軟性を欠くとの指摘もあり、不実表示に関する規定が今後どのような規律となるか、また運用上不都合が生じるか生じないか、予測がつかないところである。   2 消滅時効 (1) 概要 時効については、制度自体の賛否について様々な考え方があるが、中間試案では、主に、短期消滅時効の廃止と時効期間の起算点の問題について実質的な改正が提案されている。その他に、時効中断等手続や技術的な側面について改正が提案されているが、本稿ではスペースの都合上省略する。 (2) 短期消滅時効の廃止 民法では、債権の消滅期間を原則10年としながら、職業の細かい区分に基づき、3年、2年、1年と短期消滅時効を定めている(民法170条から174条まで)が、これを廃止するものである。 この点については、補足説明を読む限り、附随する問題があるとはいえ、改正される可能性が高いものと推測される。 (3) 時効期間の始期 時効期間の始期については甲案と乙案が並列して提案されている。 甲案は、時効期間の起算点を維持したまま債権の消滅時効の期間を5年に短縮する提案である。 一方乙案は、 というように、債権の発生原因と債務者を知っているか否かで分けて規定するものである。 契約のように債権の発生原因及び債務者を認識している場合は、現行法より短期の消滅時効とし、事務管理、不当利得など、債権者が債権の発生原因及び債務者を知ることが容易でない場合に、現行民法の時効期間を適用するという規定である。 現行法では、原則として債権の消滅時効は10年、商事債権は5年、不法行為債権3年であり、相互のバランスが問題とされ、前述の提案となっている。 (4) 不法行為に関する時効期間 不法行為による損害賠償請求権の時効期間については、現行民法では除斥期間とされ、中断することができない等被害者に不利益とされていたため、「損害及び加害者を知ったときから3年」又は「不法行為の時から20年」という時効期間として整理し、除斥期間でないことが明文化されている。 また、生命・身体への侵害による損害賠償請求権について、より長期の消滅時効を定めることが検討されている。 (5) まとめ 時効期間については、各消滅時効の期間が統一されていないことを修正して整理するものであるが、当事者の納得感が得られる改正はどの範囲かの問題ともいえる。職業別の短期消滅時効の廃止は、おそらく改正されるであろうと予想される。 一方、時効期間の始期については、債権の発生原因や債務者を本当に知っているかどうかなどの事実認定が争われる可能性があり、結局その要件が不明確となったり複雑となったりするなどの可能性がある。また、甲案や乙案のどちらが採用されても、現在の時効期間が短縮される可能性があると考えた方が無難であろう。 もっとも、事業者としては、事業年度や確定申告の関係上、1年を超えて権利行使が可能であるが行使しない債権があること自体、実は自らが権利の上に眠っていることを表明しているともいえよう。 実務としては、民法がどのように可決されようが、時効について対策を立てるよりも、時効が問題となるような債権管理自身を問題とすべきであり、原則として権利行使が可能となってから1年以内に権利行使を行う、あるいはリスケジューリングを行うなどの対応を怠りなく行うことが、より必要と思われる。 (了)
#37(掲載号)
#中西 和幸
2013/09/26
労務・法務・経営 経営

顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第16回】「仕入・買掛債務管理のKPI(その③ 支払)」

顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第16回】 「仕入・買掛債務管理のKPI (その③ 支払)」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 今回は、「仕入・買掛債務管理」を構成する業務プロセスから、「支払」の基本を問うKPIを取り上げる。 仕入計上やその変更計上が行われた後、購買取引の支払段階では、資産保全の観点で業務管理が重要となるが、そのような業務管理のサービスレベルを評価するKPIを紹介しよう。   KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 前回も述べたが、仕入・買掛債務管理において、会社が担う一般的な機能として、「購買業務」、「債務残高管理」、「値引・割戻」という3つの機能が挙げられる。 「購買業務」に着目してその機能を分解すると、「購入契約」、「仕入」、「期日別債務残高管理」、「決済」で構成される。 今回解説するKPIは、このうち「期日別債務残高管理」と「決済」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:仕入・買掛債務管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   さらに、経済産業省スタンダードでは、「期日別債務残高管理」と「決済」に関連する業務プロセスを次のようにまとめている。 まず、「期日別債務残高管理」では、仕入計上された買掛金元帳から期日到来予定分を抽出する。 次に、「決済」では、仕入先から送られた請求書と期日到来予定の債務を照合し、請求内容検証と支払依頼のための社内承認を経る。 今回のKPIは、期日別債務残高管理を通じて期日が到来する予定が判明した買掛金の支払いに必要な社内承認について、リスク管理のレベルを問うものである。 〈経済産業省スタンダード:2.4.1期日別債務残高管理〉   〈経済産業省スタンダード:2.5.1請求内容検証〉   〈経済産業省スタンダード:2.5.2支払依頼〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 定義が不明瞭な用語はないと思われるので、調査項目の文言の行間を解説しよう。 「買掛金元帳」について、それが備えるべき前提条件がある。 「買掛金元帳」が「請求書」と照合されるためには、本連載の【第13回】で述べたとおり、仕入計上段階で買掛金元帳が取引の実在性と金額の正確性を証明する証憑に基づいて記帳されること、さらに、【第14回】で述べたとおり、仕入値引や仕入戻が適正に買掛金元帳に反映されることを担保する予防的な業務管理が不可欠ということである。 すなわち、①自社の注文書控、②仕入先からの納品書、送り状、又は自社の検収報告書に基づき適時に適正に買掛金が計上されているからこそ、支払段階における架空支払や過大支払を防ぐ最後の砦として、仕入先からの「請求書」と「買掛金元帳」を照合することに意味が出てくるのであり、適正な買掛金の計上がおぼつかない「買掛金元帳」は、「請求書」と照合するに値しないと考えている。 したがって、「請求書と買掛金元帳を照合」には、請求書と納品書を照合すること、請求書と検収報告書を照合することを含むと考えて差し支えない。 このように、仕入・買掛債務管理における一連の業務管理とKPIは、相互に関連しているのである。   KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、購買業務の決済において、実在する物品又は役務の購入取引に基づいた債務履行を担保するため、仕入先からの請求書だけに依拠するのではなく、都度行う予防的な検証手続を整備することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 前提となる職務分掌は、仕入・買掛債務管理で、発注依頼、購買、支払いを行う担当者を分離することに加え、支払業務プロセスの中で、支払依頼書作成、買掛金消込の記帳、支払実行を行う担当者を分離することである。 では、もし会社の中で、このようなKPIを設定した価値判断が共有されず、購買担当者が支払業務も兼務し、請求書と買掛金元帳との照合を怠る場合、どういう事態が想定されるのか。 まず、架空支払や過大支払による会社資産の不適正な流出が発生する可能性がある。 さらに、架空支払や過大支払の延長線上には、仕入先に請求金額以上の金額を支払い、仕入先がその点について民法上の善意(知らないこと)か悪意(知っていること)かを問わず、差額を個人口座に返金させて着服する不正リスクが存在する。 筆者(株式会社スタンダード機構)がこれまで行った業務改善コンサルティングで見聞した経験則では、仮にこのKPIによる予防的な業務管理が破られても、定期的な残高照合による発見的な業務管理で、買掛金元帳の赤残の発生を端緒に架空支払や過大支払を発見することができるが、会社の内部者が不適正な支払いを隠蔽するために架空の買掛金を計上していれば、期末決算における実地棚卸まで発見が遅れてしまう。 さらに、悪質な場合、実地棚卸の発見的統制を破るため、在庫自体を隠蔽する手口も考えられるだろう。   顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、購買業務を構成する期日別債務残高管理や決済に関連する業務プロセスと必要な職務分掌が仕入・買掛債務管理に組み込まれていることを確認していただきたい。 例えば、購買規程、経理規程を閲覧し、職務分掌が整備されていることを確認することが考えられる。さらに、その職務分掌を前提に、一定期間の請求書、買掛金元帳、仕入計上段階の証憑を試査により閲覧し、業務管理の実施者による照合の痕跡が証跡として残っていることを確認していただきたい。 さて、読者の顧問先において、すべての支払実行前に、請求書と買掛金元帳を照合していただろうか。 *  *  * 次回からは、「棚卸資産管理」のKPIを取り上げる。 「棚卸資産管理」を構成する複数のKPIのうち、まず「受払検証」に関連する業務プロセスを評価するKPIから取り上げる。 (了)
#37(掲載号)
#島 紀彦
2013/09/26

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