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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載14〕 税額控除の対象となる試験研究費の範囲と税務調整

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載14〕 税額控除の対象となる 試験研究費の範囲と税務調整   税理士 鈴木 達也   1 研究開発税制の概要 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除は、大法人及び中小法人でも活用できる制度である。また、大法人は平成24年4月1日開始事業年度から青色欠損金の損金算入制限(法法57①)が適用され、青色欠損金額を有していても、課税所得が生じることがあるため、研究開発税制による税額控除により納税額を軽減することができる。 この税額控除の制度は、青色申告書を提出する法人の各事業年度において、その事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額がある場合には、試験研究費の12%相当額をその法人のその事業年度の所得に対する法人税の額から控除することとされている(措法42の4①)。   2 試験研究費の意義 税務上の試験研究費とは、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用(措法42の4⑫一)で一定のものをいう。 この試験研究は、工学的・自然科学的な基礎研究※1、応用研究※2及び工業化研究※3(開発・工業化等)を意味するもので、新製品や新技術の試験研究に加え、現に生産中の製品の製造や既存の技術の改良等のための試験研究であっても対象となる。例えば、製造現場における量産化のための試験研究も含まれる。 逆に、「製品の製造」又は「技術の改良、考案若しくは発明」に当たらない人文・社会科学関係の研究は対象とはならない。したがって、例えば、次のような費用は含まれない※4。 なお、会計上は試験研究費という文言がなく、研究開発費等に係る会計基準(以下「会計基準」という)では、研究開発費が定義されている。研究開発費とは、新製品の計画・設計又は既存製品の著しい改良等のために発生する費用(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針(以下「実務指針」という)4)をいい、税務上の試験研究費に含まれる製造現場における量産化のための試験研究や現に生産している製品の改良のために継続的に行われる試験研究は、研究開発費に含まれない。 ※1 自然現象に関する実験等によって法則を決定するための研究 ※2 基礎研究の結果を具体的な物質、方法等に実際に応用して工業化の資料を作成する研究 ※3 基礎研究及び応用研究を基礎として工業化又は量産化をするための研究 ※4 国税庁『Q&A研究開発減税・設備投資減税について(法人税)』(平成15年10月)   3 試験研究費の範囲 製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用で一定のものとは、他社への委託研究費、その試験研究を行うために要する原材料費、人件費(専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限る)及び経費をいう(措令27の4⑥一、二)。会社の経理処理によっては、試験研究費が各勘定科目に計上されているため、集計漏れがないように注意が必要である。 その試験研究費のうち損金算入されない金額及び試験研究に充てるために他者から受けた金額を除いたものが、税額控除の対象となる試験研究費となる。 以下、実務を想定して試験研究費を考察していく。 (1) 委託研究費 例えば、製造子会社が基礎研究を親会社に委託している場合など、他社に試験研究を委託する費用は、試験研究費の対象となる(措令27の4⑥二)。 なお、委託研究費は、研究開発の内容について検収(中間検収を含む)を行った時点で費用として処理すべきであり、契約金等は前渡金として処理しなければならないが、その契約金等の支払時に費用処理しているケースが散見されるので、研究開発の委託契約や検収書を確認した上で適切な処理をする必要がある。 なお、自社で行う試験研究費を集計することが難しい場合には、この委託研究費のみを申告することもできる。 (2) 新製品の開発に係る試験研究費 自社の試験研究費を把握する上で、まず次の事項を確認し、あわせてその会計処理も知っておきたい。 ① 研究プロジェクトとスケジュール 新製品の開発に係る試験研究の研究プロジェクトとそのスケジュールにより全体像を把握する。会社の経理担当者も、どのような試験研究が行われているかを知らない場合がある。そのようなときは経理担当者を同席の上、開発責任者から試験研究の内容を聞くようにすると、経理担当者の試験研究に対する意識も高まる。 ② 試験研究の開始時期 試験研究の開始時期は、機関決定の書類や稟議書等により確認できる。一般的に試験研究には多額の費用が投じられるため、会社として研究テーマや研究内容を決めている。中小企業では少人数で試験研究を行うため機関決定をしていない場合もあるかもしれないが、税務調査に備え書類を用意しておくことがよいであろう。 ③ 量産化の決定時期 会計上、製品の量産化の決定をもってその製品の研究開発は終了する。それまでの経費は費用処理とされ、それ以降の経費はその製品の製造原価となる。そのため、量産化の決定時期は会計処理をする上での重要なメルクマールとなる。量産化が決定するときには、その試験研究により開発された製品が一定レベルに達しているかどうかの評価会議が開かれ、その会議で量産化の承認がされる。なお、このような会議が開かれない場合には、取締役会や稟議書等の書類によりその時期を明らかにしておくのがよいであろう。 また、ソフトウェア開発における量産化の決定時期は、製品マスターの完成時点、具体的には、機能評価版のソフトウェアであるプロトタイプが完成した時点とされ、量産化の決定前の費用は、研究開発費となる。また、プロトタイプを制作しない場合には、製品として販売するための重要な機能が完成しており、かつ重要な不具合を解消した時点とされる(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A Q10)。 ④ 量産化後、新製品発売までの期間における業務 会計上、量産化のための開発が行われ、新製品が発売されるまでに生じた費用(試験研究費を含む)は、新製品の製造原価としてその新製品の棚卸資産に配賦されることとなる。また、この期間中に事業年度末が到来した場合には、仕掛品として資産計上しなくてはならない。 この期間に行われる量産化のための試験研究は、製品の製造又は技術の改良のための試験研究に該当するため、試験研究費となる(会計上の研究開発費には該当しない)。ただし、すべての研究者が試験研究を行っているわけではなく、試験研究以外の業務(例えば、営業への説明や顧客対応)を行うことがあるため、その業務の有無を確認しておく必要がある。 【新製品の製造に係る試験研究】 【ソフトウェア開発に係る試験研究】   (3) 原材料費 試験研究のために要した原材料費は、試験研究費となる。なお、その原材料を用いて試作品を製作した場合に、その試作品が販売可能なものであれば、棚卸資産として評価すべきであろう。一方で、試作品が転用・売却できず廃棄するしかないものであれば、棚卸資産として評価する必要もない。 (4) 人件費 ① 試験研究の専従者とそれ以外の者 開発部門に属する人件費のうち、試験研究費の対象となる人件費は、専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限られる(いわゆる直接人件費)。そのため開発部門に所属する者であっても、例えば事務職員、守衛、運転手等のように試験研究に直接従事していない者に係るもの(いわゆる間接人件費)はこれに含まれないこととなる(措通42の4(1)-3)。 また、評価や分析などの業務を行い開発部門に属さない者であっても、相当期間試験研究の業務に従事する者の人件費であれば、試験研究費の対象となる。なお、「専門的知識をもって当該試験研究の業務に専ら従事する者」については、下記の個別通達が出ているので参考にしていただきたい。 ② 管理職の人件費 開発部長など、その部門を管理する業務が多い者であっても、実態として専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に該当するのであれば、その者の人件費は試験研究費に含まれる。一般的に開発部長は、研究者として専門的知識を持ちプロジェクト全般にわたり業務を担当していると考えられる。 中小企業の場合には、役員が研究プロジェクトの中心な役割を果たすことも少なくない。このような場合には、その役員が専門的知識をもってプロジェクトに参加し、その職務や従事状況が明確であれば、その人件費(他の研究者と比べ同程度の役員報酬部分に限る)は試験研究費に含まれると考えられる。 ③ 従事比率 新製品の製造に係る試験研究を行う者であっても、常に試験研究をしているわけではない。既に発売された製品の保守や簡単な改良、営業サポートをすることがある。そのため、すべての時間を試験研究に費やしているということにならず、試験研究に従事していない時間を除く必要がある。 原則的には、各人別に作業日報を作成し、明確に試験研究への従事状況を管理するのが理想であるが、大企業であってもそこまでは管理できていないようである。このような場合には、月次単位で各人別に作業内容を明確することで合理的な試験研究費が集計できる。 ④ 賞与引当金・退職給付引当金 試験研究費のうち損金算入されない金額は、税額控除の対象とならないため、人件費のうち期末に税務調整をしている賞与引当金(その社会保険料を含む)や退職給付引当金について、試験研究費の調整が必要である。 つまり、試験研究の業務に専ら従事する者の人件費を計算する上で、これらの者の期首の賞与引当金等を加算し、期末の賞与引当金等を減算して、損金に算入された人件費を計算する。 (5) 試験研究に係る経費 試験研究に係る経費とは、開発部門や試験研究をする者の家賃、光熱費、交通費など間接的に試験研究に要した経費をいう。これらの経費に特許申請費用、工業所有権の実施権の取得費用など試験研究後の経費が含まれている場合には、これらの費用を試験研究費から除く必要がある。加えて、上記(4)で試験研究に従事していない期間に対応する経費についても試験研究費に該当しないこととなる。 また、税額控除の対象となる試験研究費は、損金算入された金額に限られる(措法42の4①)ため、交際費や寄附金が損金不算入となる法人では、これらの損金不算入とされる金額を除くこととなる。 なお、増加試験研究費の特別控除(措法42の4⑨一)の適用にあたっては、比較年度、基準年度及び適用年度の試験研究費の範囲、試験研究費を計算する場合の共通経費の配賦基準等については、継続して同一の方法によることとなる(措通42の4(1)-2)。 (6) 補助金や他社から受けた受託研究費 その試験研究費に充てるため他の者(その法人との間に連結完全支配関係がある他の連結法人を含む)から支払いを受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額が税額控除の対象となる試験研究費となる(措法42の4①)。 その他の者から支払いを受ける金額には、次のものが含まれる(措通42の4(1)-1)。 上記(1)~(6)を図で示すと、アミかけ部分が税額控除の対象となる試験研究費となる。 ※1 量産化後の製品の保守対応に係る人件費、税務調整した賞与引当金等 ※2 上記※1の人件費に対応する間接費や交際費損金不算入部分など (次ページへ続く)   4 税務調整が必要な試験研究費 次に掲げる項目については、試験研究費の会計上と税務上の処理が異なることがある。 税務調査においても調査項目となることがあるので、注意が必要である。 (1) 製造原価となる研究開発費 会計上、研究開発費はすべて発生時に一般管理費又は当期製造費用として費用処理することとされている(会計基準3、同注2)。一般的な研究開発費は、原価性がないと考えられるため一般管理費として処理し、工場などの製造現場で発生する研究費であっても、製造原価に含めることが不合理であると認められるときは、当期製造費用に算入してはならないとされている(実務指針4)。 一方、法人税基本通達では、試験研究費を基礎研究、応用研究及び工業化研究に分け、そのうち工業化研究に該当することが明らかなものは製造原価に算入し、それ以外のものは、製造原価に算入しないことができることとされている(法基通5-1-4(2))。ここでいう「工業化研究に該当することが明らかなもの」とは、特定の製品の製造に係る研究、採用している製造技術や製法の改良を目的として継続的・経常的に行われる研究が該当すると考えられる。 つまり、工業化研究に該当することが明らかな試験研究費については、会計で費用処理され、税務上は製造原価に算入しなければならず、この部分で税務調整が必要となる。会計上一時の費用として処理された製造原価となる試験研究費は原価差額として税務調整することとなる。 具体的には、その試験研究費を他の原価差額に加算し、その加算後の原価差額がプラスのときは、期末棚卸資産に対応する部分の金額をその期末棚卸資産に加算することとなる(法基通5-3-1)。また、その原価差額を一括して次に掲げる算式により期末棚卸資産に配賦する方法も認められている(法基通5-3-5)。 この税務調整した金額は、損金の額に算入されていないため、控除対象となる試験研究費に含まれないので注意が必要である。 (2) 自社利用ソフトウェアの開発費用 ① 税務調整 会計上、ソフトウェアの開発費用のうち、試験研究に該当する部分は、費用処理する(会計基準3)。 一方、法人税基本通達では、ソフトウェアの取得価額に算入しないことができるものとして、研究開発費の額を挙げている(法基通7-3-15の3(2))。ただし、自社利用のソフトウェアの研究開発費の額については、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限られており、それ以外のものはソフトウェアの取得価額に算入しなくてはならないとされている(同括弧書)。 実務上、自社利用のソフトウェアが開発中止になるまでは、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかになることはないため、自社利用のソフトウェアの開発費用の全額がソフトウェアの取得価額とされる。 そのため、自社利用のソフトウェアの開発費用で、会計上、研究開発費として費用処理された部分は、税務調整が必要となる。もっとも、会計監査上、ソフトウェアの資産計上については、厳密な処理が行われているとは言い難く、研究開発費であっても資産計上されている部分が多いように見受けられる。 ② 税額控除の対象金額 ここで問題となるのは、上記①の通達によりソフトウェアの取得価額とされた部分が税額控除の対象となる試験研究費に該当するか否かである。 この通達の趣旨は、次のとおりである。 『法人税基本逐条解説(六訂版)』(税務研究会)P550 私見ではあるが、試験研究費がソフトウェアの取得価額となったとしても試験研究であることに変わりはないため、試験研究費として税額控除の対象となる余地があるのではないか。ただし、税額控除の対象となる試験研究費は損金算入されることが条件となっているため、ソフトウェアの取得価額になったときには税額控除の対象とならず、そのソフトウェアが減価償却され損金算入された時点で税額控除の対象になると考えられる。 過去においても試験研究費が法人税法上の繰延資産とされていたときには、法人の選択により繰延資産とすることができた。この場合には、その繰延資産である試験研究費の償却額が、税額控除の対象となる試験研究費とされていたようである。 (3) 特定の研究開発目的の機械装置等 会計上、特定の研究開発目的にのみ使用され、他の研究に使用できない機械装置や特許権等を所得した場合には、取得時に研究開発費として処理することとされている(実務指針5)。 一方、税務上は他に使用ができないものであっても、減価償却資産として実態を備えているものであれば、研究開発用減価償却資産(耐用年数省令別表六)として法定耐用年数で償却する必要がある。そして、その機械装置等が役目を終え除却したときに、未償却残高を費用処理することとなる。 この除却費用が試験研究費に該当するかどうかについては、その除却が試験研究の継続過程において通常行われる取替更新に基づくものであれば試験研究費に含まれ、災害、研究項目の廃止等に基づき臨時的、偶発的に発生するものであれば試験研究費に含まれない(措通42の4(1)-5)。 (了)
#14(掲載号)
#鈴木 達也
2013/04/11
会計 税務・会計 解説 解説一覧 IFRS

会計リレーエッセイ 【第4回】「IFRS雑感」

会計リレーエッセイ 【第4回】 「IFRS雑感」   有限責任あずさ監査法人パートナー (前IASB理事) 山田 辰己   1 アジアにおけるIFRS採用国の拡大 筆者は、2001年4月から2011年6月まで国際会計基準審議会(IASB)の理事を務めた。その後、有限責任あずさ監査法人に勤め、そこでは、アジア地域の国際財務報告基準(IFRS)の普及に関する仕事をしている。 その関係で、韓国、マレーシア、インドネシア及び台湾といった国々を訪問する機会がある。これらの国々では、2011年又は2012年からIFRSが導入され、少なくともすべての上場企業に強制適用されている。また、韓国やマレーシアの場合には、IASBが新設・改訂する都度自国で適用しているIFRSに反映されている。 しかし、インドネシアの場合には、2009年版のIFRSが、台湾では2010年版が、2012年に導入されている。最新IFRSとのタイムラグを埋めるため、今後どのようにキャッチアップするかが、これらの国では大きな課題となっている。さらに、インドネシアやマレーシアでは、一部のIFRSのカーブアウトをしているため、厳密には、IFRSと完全に同一ではない。 ただし、このような多様性があるものの、香港やシンガポールも全面的な採用に動いており、アジア諸国では、IFRSの採用が着実に進んでいる。また、これらの国々では、IFRSの設定における日本のより積極的なリーダーシップに対する期待は強く、我が国が、アジア諸国のこの期待に応えてほしいものと感じている。   2 我が国のIFRSの任意適用 我が国は、2010年3月期からIFRSの任意適用を認めている。任期適用を行う企業は、金融庁長官が指定する「指定国際会計基準(現時点では、2012年10月までのIFRSがそのまま指定されている)」を適用しなければならない(IFRSのアドプション)。 一方、任意適用をしない企業は、日本基準に基づいて連結財務諸表を作成しなければならないが、この日本基準を、2007年8月にIASBと企業会計基準委員会(ASBJ)との間で結ばれた「東京合意」に基づいて、IFRSと同じにする努力が継続して行われている(コンバージェンス)。 2009年には、企業会計審議会から2012年を目処に、日本の上場企業にIFRSを採用するかどうかの意思決定を行うというロードマップが示され、日本でのIFRS導入の機運が高まったが、2011年6月の内閣府特命担当大臣(金融担当)の発言以降は、その機運が急激に冷めている。 そのような背景には、のれんの非償却、開発費の資産認識、非上場株式の公正価値測定及び企業年金の会計処理といった日本の経営者の感覚に合わないIFRSの処理に対する反対がある。筆者は、このような反対がある現状では、当面は、強制適用に向かうより、任意適用の継続の方がベストと考えている。   3 モニタリング・ボードのプレスリリースのインパクト(2013年3月) モニタリング・ボードは、IASBが所属するIFRS財団の組織の一部を構成しており、評議員の選任の承認や評議員の責任の遂行のレビューを行うとともに助言を提供するなどといった権限を持っている。モニタリング・ボードは、現在5名(EC(欧州委員会)、金融庁長官、SEC(米国証券取引委員会)委員長、IOSCO(証券監督者国際機構)の新興市場委員会議長及びテクニカル委員会議長)のメンバーで構成されているが、これを最大11名まで拡大することが2012年2月に公表されている。 そして、今年3月には、既存のメンバーが、今後もメンバーであるために満たさなければならない要件が示され、その中に、そのメンバー国の国内市場で、IFRSが「顕著な適用(prominent application)」をされていることが含まれた。また、メンバーとしての資格要件の評価は、2013年から開始され、3年に1度見直すこととされており、この要件を満たすためには、IFRSを任意適用する(又は任意適用を行う意向を表明する)企業が、2016年までにかなり増大する必要があると考えられる。それを達成できない場合には、日本の国際的な地位に影響が出ると予想される。   4 IFRS問題は経営上の大きな問題 冒頭にも触れたように、IFRSは、現在アジア諸国で相次いで採用されている。世界で100を超える国々が何らかの形でIFRSを受け入れている現状から見ると、米国の今後の動向いかんという面もあるが、今後10年といった長さで見ると、IFRS採用国が減少することはあまり考えられない。 日本では今後とも任意適用が続くとしても、IFRSが世界標準として定着すると予測するなら、この問題は、各企業が投資家などの外部関係者とどのようにコミュニケーションをはかるかという経営方針に係る大きな問題だと言える。 また、モニタリング・ボードのメンバーの要件を満たすためには、2016年までにIFRS採用企業数が拡大する必要があるが、現在の適用企業数は10社を超える程度である。 任意適用の拡大には、日本の経営者が納得しないIFRSの会計処理についてIASBとどのように折り合いをつけるかという方向性が重要だと思われるが、この問題に対処している関係者には、この困難な方程式を短期間に解いてもらいたいと願っている。 (了)
#14(掲載号)
#山田 辰己
2013/04/11
会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計 金融商品会計

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第2回】金融商品会計②「満期保有目的の債券の期末評価」―額面より低い価額で債券を取得した場合の会計処理(償却原価法)

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第2回】 金融商品会計② 「満期保有目的の債券の期末評価」 ─額面より低い価額で債券を取得した場合の会計処理(償却原価法)   仰星監査法人 公認会計士 石川 理一   〈事例による解説〉 期中の満期保有目的の債券の取得取引の概要は、以下のとおりです。 取得価額と額面との差額は、すべて金利の調整部分とします。 〈決算において必要となる会計処理〉 〈会計処理の解説〉 償却原価法とは、金融資産又は金融負債を債権額又は債務額と異なる金額で計上した場合において、当該差額に相当する金額を弁済期又は償還期に至るまで毎期一定の方法で取得価額に加減する方法をいいます。この場合、取得価額に加減した額は受取利息又は支払利息に含めて処理します(金融商品会計基準(注5))。 取得価額に取得差額を加減する「一定の方法」には、利息法と定額法の2つの方法があり、原則としては利息法によるものとされていますが、継続適用を条件として、簡便法である定額法を採用することも認められています。今回の事例では、定額法での会計処理を示しています。 原則的方法である利息法とは、債券のクーポン受取総額と金利調整差額の合計額を債券の帳簿価額に対し一定率となるように、複利をもって各期の損益に配分する方法です。定額法と比較して、計算が複雑になります。 [定額法による償却原価法]   (了)
#14(掲載号)
#石川 理一
2013/04/11
中小企業会計 会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

「平成24年版 中小企業の会計に関する指針」の主な改正点と留意点 【第4回】「各論における改正事項『貸倒引当金』」及び「チェックリスト利用上の注意点」

「平成24年版 中小企業の会計に関する指針」の 主な改正点と留意点 【第4回】 「各論における改正事項『貸倒引当金』」 及び「チェックリスト利用上の注意点」   税理士 永橋 利志   1 貸倒引当金計上の留意点 金銭債権について、取立不能のおそれがある場合には、その取立不能見込額を貸倒引当金として計上しなければならない。 この「取立不能のおそれがある場合」とは、債務者の財政状態や取立てのための費用や手続の困難さ等を総合的に判断することになるが、会計上、取立不能見込額の算定方法は、一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等に区分し、それぞれの区分に応じて貸倒引当金を算定する。 実際の算定に当たっては、過去の貸倒実績率等の合理的基準により算定することが求められる等、中小企業にとってはハードルの高いものとなっている。 中小会計指針では、このような状況に照らして、平成23年12月税制改正前の法人税法の区分に基づいて算定される貸倒引当金の繰入限度額が、明らかに取立不能見込額に満たない場合を除き、その繰入限度額を後期の貸倒引当金繰入金額とすることができるとしている。 なお、「法人税法上の区分」とは、まず、一括評価金銭債権と個別評価金銭債権に区分され、さらに、個別評価金銭債権は、法律による長期棚上げ債権、債務超過が1年以上継続し事業好転の見通しのない場合等の回収不能債権、破産申立てや更正手続等の開始申立て等があった場合の金銭債権に区分され、それぞれ法人税法上の規定に基づき、繰入限度額が計算されることになる。 ※「中小企業の会計に関する指針(平成24年版)」p.11より ただし、中小会計指針を適用している企業でも、資本金の額が1億円を超えるような場合には、上記の税制改正により、旧規定による繰入限度額を計上した場合には申告調整をする必要があり、今般の改正により、中小会計指針では、その注意点を脚注に示すこととした。   2 差額補充法と洗替法 中小会計指針を含め会計では、引当金が毎期継続的に計上される場合の処理は、差額補充法によることとしているが、法人税法では、洗替法による処理を原則としていることから、中小企業において、引当金の計上は、洗替法により計上することが多くある。 これに対し、前期末決算に計上した貸倒引当金に係る金銭債権が、当期に当該債権が貸倒れとなった場合の処理として、まず、当該貸倒引当金を充当し、当期末決算において、要計上額と貸倒引当金残高の差額を当期繰入金額とすることは、洗替法による場合より費用収益対応の観点からも合理的であると考えられる。 ただし、差額補充法は、法人税法上認められている処理ではないため、差額補充法によった場合の対応として「法人が貸倒引当金その他法に規定する引当金につき当該事業年度の取崩額と当該事業年度の繰入額との差額を損金経理により繰り入れ又は取り崩して益金の額に算入している場合においても、確定申告書に添付する明細書にその相殺前の金額の金額に基づく繰入れ等であることを明らかにしているときは、その相殺前の金額によりその繰入れ及び取崩しがあったものとして取り扱う。」(法基通11-1-1)としている。 つまり、法人税法上の貸倒引当金に係る明細書に洗替法による場合の金額に基づく繰入等であることを明らかにしているときは、洗替法による処理であるとして取り扱われ、損金算入が認められる。 中小会計指針上も定められた規定ではないが、個別注記項目として、貸倒引当金の繰入れについて、差額補充法によることを明記した上で、例えば、法人税法に定められている洗替法に拠った場合の戻入額と繰入額を記載することでの対応も可能であろう。 今般の中小会計指針の改正により、この点について、本通達の規定を関連規定として掲載することで、法人税法上の損金算入が可能となる場合を明確にしている。   3 チェックリスト作成の留意点 (1) チェックリストの見直しに際しての基本的考え方 現行の「中小企業の会計に関する指針の適用に関するチェックリスト」は、平成20年5月に改訂されたものが、今日まで使用されている。 これは、この間にチェックリストの項目に係る大幅な改正がなかったことの証左であるが、今般の中小会計指針の改正により、チェックリストについても項目等の見直しが図られるであろう。 その見直しに際しても、チェックすべき項目数を大幅に見直すのではなく、中小会計指針が適用されていれば、昨年公表された「中小企業の会計に関する基本要領」(以下「中小会計要領」という)の内容も包摂していることを明確にするべきであると考える。 これまで、中小会計指針を適用してきた企業が、あえて中小会計要領を適用することは、中小企業会計の健全性等から考えても、何ら意義を見出すことができないことから、中小会計指針が中小会計要領を包摂する位置にあることを認識し、中小会計指針を継続的に適用することが大事である。 今般の中小会計指針の改正に伴うチェックリストの見直しも、そのような方向に沿ったものでなければならない。 (2) チェックリスト作成の注意点 上記(1)の基本的考え方を認識した上で、チェックリスト作成に際し注意すべき点を確認することとする。 まず、チェックリストは、計算書類を作成した中小企業から提供された会計情報(帳簿書類等)に基づき、当該企業の関与税理士等が中小会計指針の各規定に照らして、適正に処理がされているかどうかを判断し、その結果を当該中小企業に報告するものであることを認識すべきである。 したがって、チェックリストは、監査報告としての機能を持つものでもなく、当該中小企業の会計の正確性を税理士が担保するものではない。 次に、個別のチェック項目について、「無」の欄が設けられている項目と設けられていない項目の違いを確認する。 「無」の欄があるものは、確認事項欄について、「~がある場合」という前提条件が付加されている。例えば、「引当金:No.34」では「将来発生する可能性の高い費用又は損失が特定され、発生原因が当期以前にあり、かつ、設定金額を合理的に見積ることができるものがある場合」としている。 前回述べた「引当金計上の4要件」に合致しない場合には、引当金を計上することはできないので、チェックリストでは「無」となる。このことは、他の項目にも共通しており、確認事項欄に「~がある場合」となっている項目には、「無」の欄が設けられている。 これに対し、「無」の欄がないものは、「預貯金:No.1」のように、預貯金があれば、必ず通帳等が存在するものであり、「~ある場合」という前提条件を付加する必要がないものであるので、その場合には、「YES」か「NO」の選択をすることとなる。 チェックリストは、すべての項目について、「YES」や「NO」を付すべきものではなく、前提条件に合わないものがある場合には、「無」であることを意思表示しなければならない。 また、「無」の多寡と中小会計指針の適用に係る判断とは別物であることを改めて確認する必要がある。   4 まとめにかえて 中小企業の会計のあり方に係る議論が活発になってから、10年余りが経過した。 中小会計指針は、平成17年の制定後、毎年、改正することとされている。今般の改正は、規定の大幅な見直しではなく、中小企業にとって、利用しやすくするための、表現ぶりの見直し等が主な内容である。 これまで確認してきたような、今般の改正の趣旨や注意点を十分に理解し、多くの中小企業が、企業経営に会計情報を積極に取り込めるよう中小会計指針を積極的に採用することを願ってやまない。 【参考】 日本税理士会連合会ホームページ ・「「中小企業の会計に関する指針(平成24年版)」の公表について」 ・「中小企業の会計に関する基本要領」 ・「中小企業の会計に関する指針の適用に関するチェックリスト」 (連載了)
#14(掲載号)
#永橋 利志
2013/04/11
会計 税効果会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

税効果会計を学ぶ 【第7回】「一時差異等に係る税効果の認識」

-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。   税効果会計を学ぶ 【第7回】 「一時差異等に係る税効果の認識」   公認会計士 阿部 光成   第7回となる本稿では、一時差異等に係る税効果の認識について解説を行う。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 一時差異等に係る税効果の認識 税効果会計の適用に伴い、次のように会計処理される(「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果会計実務指針」という)15項)。   Ⅱ 繰延税金資産の回収可能性 1 収益力に基づく課税所得の見積り 一時差異等に係る税金の額は、将来の会計期間において回収又は支払いが見込まれない税金の額を控除し、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上しなければならない(個別税効果会計実務指針16項)。 個別税効果会計実務指針21項では、大きく分けて を規定している。 我が国では、税法上、将来加算一時差異をもたらすケースはそれほど多くはない。このため、繰延税金資産の可能性を判断する際には、上記①収益力に基づく課税所得の十分性がポイントになることが多いと考えられる。 これに関して、個別税効果会計実務指針21項は次の要件を示し、課税所得が発生する可能性が高いかどうかを判断するためには、過年度の納税状況及び将来の業績予測等を総合的に勘案し、課税所得の額を合理的に見積もる必要があると述べている。 監査上の取扱いとして、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(監査委員会報告第66号)がある。 同委員会報告では、将来年度の会社の収益力を客観的に判断することは実務上困難な場合が多いとし、会社の過去の業績等の状況を主たる判断基準として、将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の指針を示している(監査委員会報告第66号5)。 2 繰延税金資産の回収可能性の見直し 繰延税金資産の回収可能性は、毎決算日現在で見直すことになる(個別税効果会計実務指針23項)。 このため、過年度に計上していた繰延税金資産が回収不能と判断されることとなった場合には、回収不能分について繰延税金資産を取り崩すこととなる。 また、過年度に未計上であった繰延税金資産について回収可能と判断されることとなった場合には、回収されると見込まれる金額まで新たに繰延税金資産を計上することとなる。   Ⅲ 繰延税金負債の支払可能性 繰延税金負債について、「その支払いが見込まれない場合」とは、事業休止等により、会社が清算するまでに明らかに将来加算一時差異を上回る損失が発生し、課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合に限られると規定されている(個別税効果会計実務指針24項)。 このため、将来加算一時差異に関しては、繰延税金負債は基本的に計上されることとなり、それが計上されないことは極めて稀なケースということになると考えられる。 (了)
#14(掲載号)
#阿部 光成
2013/04/11
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改正労働契約法──各企業への適用に当たっての注意点 【第2回】「無期労働契約転換ルールの適用とその効力」

改正労働契約法 ──各企業への適用に当たっての注意点 【第2回】 「無期労働契約転換ルールの適用とその効力」   特定社会保険労務士 奥田 エリカ   前回は、1つ目の改正ポイント「有期労働契約から期間の定めのない労働契約への転換」における無期労働契約の申込権について、その対象となる有期労働契約の定義、期間の通算方法等を検証したが、今回は実際の雇用管理上の注意点を中心に検討する。 ◆転換申込権の説明義務 実務上、無期労働契約の転換申込権が発生する有期労働契約の更新に際して、会社側には、労働者に転換申込権があることを通知する必要があるのだろうか。 この点については、厚生労働省労働基準局労働条件政策課が策定した質疑応答では、「法第18条には、そのような説明をする義務は定められていない」とされている。つまり、無期労働契約への申込権について対象労働者に説明をするか否かは任意であり、黙っていても問題はないこととなる。 しかし、無期転換の申込みは、労働者が行使すれば会社はこれを承諾したものとみなされるため、当事者双方が確認をする見地からも、また無用のトラブルを避けるためにも、制度について説明をする方がよいだろう。 ◆転換申込権が行使されたときの効果は? 無期労働契約に転換となった後の労働者は、正社員になるのかというと、そうではない。 もちろん、これを機に正社員に登用することは問題ないが、今回の法改正では、「契約期間の定めがなくなる」という点のみが求められ、その他の労働条件は別段の定めがない限り、有期労働契約の労働条件と同一のままとなる。 とはいえ、現実に無期転換の申込みをする労働者が出てくるとすれば、有期労働契約期間の労働条件をそのまま引き継ぐことは、不適当な場合が予想される。契約社員であるが、期間の定めがないという、いわゆる「無期契約社員」という新たな雇用区分に対して、少なくとも、定年年齢は決めておく必要があろう。 また、無期契約社員となったからには、有期労働契約期間中と異なる労働条件を定めたいという場合には、就業規則等の整備や、新たな条文の追加も必要となる。 上記を踏まえた就業規則の規定モデルは、以下のとおりである。 なお、「別段の定め」はどの程度まで認められるか、会社が一方的に決定できるのか、という点が気になる。 上記のように勤務場所を変更する場合などは、本当にその職務に住所変更を伴う転勤が必要なのかが問われる。労働条件の引下げを伴う場合には、労働者との協議や、その内容の合理性も踏まえなくてはならないだろう。 結局、職務内容や責任の範囲が同じままであるにもかかわらず、無期転換後の労働条件を労働者に不利なものとすることは、無期契約転換への申込みを阻害する目的と捉えかねない。 このような場合は、別段の定め自体が無効とされることとなる。 ◆転換申込みをした有期契約労働者との契約を終了することはできるか? 無期労働契約への申込みが行われた場合には、使用者が承諾したものとみなされ、その時点で無期労働契約が成立する。したがって、申込みを行った契約の期間満了日の翌日から無期労働契約となる。いったん申込みがなされると、選択の余地はなく、有期労働契約から無期労働契約へ転換されることとなる。 ただし、無期労働契約の申込みをした有期労働契約社員との契約を、会社が終了することが不可能なわけではない。 例えば、下図において有期労働契約の労働者が転換申込みをした後(すなわち①で示した期間内)に、同労働者との契約を転換前に終了する場合を考察しよう。 厚生労働省「労働契約法改正のあらまし」P4より ※PDFファイル この場合、会社は現行の有期労働契約とすでに成立した無期労働契約という2つの契約を終了させなくてはならない。 前者については、2つ目の改正ポイントである「雇止め法理の適用」(次回解説)を考慮し、適正な雇止めの通知を行うこと、また、後者の終了手続では、通常の労働者に対するものと同じ解雇の手続が必要となる。 つまり、現契約、成立している無期労働契約のいずれに対しても、終了について客観的に合理的な理由と社会通念上相当性が求められ、かつ、あらかじめ雇止めを通知し、解雇予告を行わなくてはならない。無期労働契約申込みが行われた後の契約終了にあたっては、会社にとって煩雑さが増すといえる。 ◆無期転換ルールのまとめ 以上、2回にわたり、改正ポイントの1つ目である「無期転換ルール」について考察してきたが、今回の法改正は、会社が雇用期間が長期にわたった有期労働契約の労働者を、どう処遇していくか真剣に考えるタイミングであると考える。 会社あるいは人事担当者としては、有期労働契約で労働者を雇用し続ける理由と長期的な人材活用計画を考え直す機会ではないだろうか。 次回は、2つ目の改正ポイントである「雇止め法理の法定化」に係る実務を検討する。 (了)
#14(掲載号)
#奥田 エリカ
2013/04/11
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会社が取り組む社員の健康管理【第6回】「メンタルヘルス対策」

会社が取り組む 社員の健康管理 【第6回】 「メンタルヘルス対策」   社会保険労務士 佐藤 信   1 はじめに 近年、経済・産業構造が変化する中で、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合が高くなってきた。 精神障害等に係る労災補償状況をみると、請求件数、認定件数とも近年、増加傾向にあり、社会的にも関心を集めている(下記【参考】を参照)。 このようなことから、心の健康問題が労働者、その家族、事業場及び社会に与える影響がますます大きくなってきたといえる。 今回はメンタルヘルスの予防策を中心に、職場で取り組んでいくことが望ましいものについて触れていくこととする。   2 事業者による積極的なメンタルヘルスケア ストレス要因は、仕事、職業生活、家庭、地域等に存在している。 心の健康作りは、労働者自身がストレスに対処することの必要性を認識することが重要であるが、職場に存在するストレス要因は、労働者自身の力だけでは取り除くことができないものもある。 このため、事業者によるメンタルヘルスケアの積極的推進が重要であり、組織的かつ計画的な対策の実施が大きな役割を果たすことになる。   3 計画の実施 計画の実施に当たっては、次の4つのメンタルヘルスケアが継続的かつ計画的に行われるよう教育研修・情報提供を実施する必要がある。 上記4つのケアを効果的に推進し、職場環境等の改善、メンタルヘルス不調への対応、職場復帰のための支援等が円滑に行われるようにしていかなければならない。 以下、労働者自身及び職場による対処として実施しておきたいものを触れていくこととする。   4 労働者自身による対処(セルフケア) 心の健康作りを推進するためには、労働者自身がストレスに気付き、これに対処するための知識、方法を身に付け、それを実施することが重要である。 ストレスに気付くためには、労働者がストレス要因に対するストレス反応や心の健康について理解するとともに、自らのストレスや心の健康状態について正しく認識できるようにする必要がある。 次に掲げる項目等を内容とする教育研修、情報提供を行っていくとよい。 なお、社内に教育研修、情報提供に関する知識を有する者がいないときは、行政機関等の問い合わせ窓口を利用していくとよい。 厚生労働省が設置しているメンタルヘルスポータルサイト「こころの耳」において、専門相談機関が公開されている。   5 職場による対処(ラインによるケア) (1) 管理者に対する教育研修・情報提供 管理監督者は、部下である労働者の状況を日常的に把握しており、また、個々の職場における具体的なストレス要因を把握し、その改善を図ることができる立場にあることから、職場環境等の把握と改善、労働者からの相談対応を行うことが求められる。 会社は、管理監督者に対し、次に掲げる項目等を内容とする教育研修、情報提供を実施しておきたい。 なお、実施にあたり不明点があるときや社内体制が整っていないときは、労働者への教育研修と同様に前記厚生労働省サイトに掲載された相談機関を活用していただきたい。 (2) 管理監督者による部下への接し方 職場によるケアで大切なのは、管理監督者が「いつもと違う」部下に早く気付くことである。 速やかな気付きのためには、日頃から部下に関心を持って接しておき、いつもの行動様式や人間関係の持ち方について知っておくことが必要である。 なお、病気の判断は管理監督者自身が行うのではなく、産業医又は医師が扱う範囲のものであるため、管理監督者が異常を感じたときは産業医など専門家に委ねる必要がある。 日頃から、産業医その他の専門家のところに相談に行く仕組みを事業場の中に作っておくことが望ましい。   6 職場環境等の改善を通じたストレスの軽減 職場の照明・温度などの物理環境や作業レイアウトも労働者の心理的なストスの原因になることがある。 情報の流れ方、職場組織の作り方なども労働者のストレスに影響を与えることがあるため、作業環境の整備はストレスの軽減促進のためにも実施しておきたい。 なお、職場環境の改善策については、前回の記事(第5回 快適な職場環境作り)を参照していただきたい。   7 職場のいじめ・嫌がらせによるメンタルヘルス不調の防止 職場のいじめ・嫌がらせは、職場内の人間関係を悪化させるとともに、職場の秩序を乱し、労働者の勤労意欲の阻害や組織の生産性の低下をもたらし、さらには心身の不調をもたらすなど、労働者のメンタルヘルス不調の原因にもなることがある。 職場のメンタルヘルス対策においては、「職場のいじめ・嫌がらせ」の防止も重要であり、全社的な取組みを実施しておく必要がある。 (1) ストレスを抱える上司からのいじめ ① 問題点 上司がメンタルヘルス不調のためにイライラしてささいなことで部下を強く叱責したり、部下のメンタルヘルス不調による仕事の効率の低下や遅刻・突発休暇の増加を上司が本人の資質の問題と考えて強く叱責して、結果的にいじめになるような例がある。 ② 対応策 まずは、上司自身のストレスへの気付きの機会の付与、メンタルヘルス不調の早期発見、心の健康問題の正しい知識の付与等のための教育・研修を実施する。 (2) 上司の理解不足からくるいじめ・嫌がらせ ① 問題点 上司自身が「厳しい指導」と考える言動が、時代の変化や労働者の意識の変化とともにいじめ・嫌がらせとなり得ることがある。 ② 対応策 管理監督者(上司)や部下に対する意識改革のための教育を実施する。 パワーハラスメントの相談窓口を設置し、職場全体で部下との接し方や指導方法を見直す機会を設ける。 (3) メンタルヘルス不調に伴う被害者意識の発生 ① 問題点 自尊心の強さ、過敏性などより、通常の職場の人間関係に適応できず、本人がいじめ・嫌がらせを受けたと感じることがある。 ② 対応策 本人の状態を理解して否定的な感情を抑え、本人の問題行動については(叱責ではなく)指導・修正させるとともに、場合によっては人間的な成長を促す指導・教育を実施する。   8 個人情報の保護 メンタルヘルスケアを進めるに当たっては、健康情報を含む労働者の個人情報の保護に配慮することが極めて重要である。 メンタルヘルスに関する労働者の個人情報は、健康情報を含むものであり、その取得、保管、利用等において特に適切に保護しなければならないが、その一方で、メンタルヘルス不調の労働者への対応に当たっては、労働者の上司や同僚の理解と協力のため、当該情報を適切に活用することが必要となる場合もある。 個人情報の利用目的の公表や通知、目的外の取扱いの制限、安全管理措置、第三者提供の制限など十分な対策をとっていかなければならない。   9 おわりに メンタルヘルス不調により休業した労働者が円滑に職場復帰し、就業を継続できるようにするためには、回復に向けて本人の治療を継続していくことのほか、会社及び周囲の労働者の多大な支援が必要となることがある。 そのような状況となる一歩前に措置を講じるなど予防を強化し、メンタルヘルス不調による休業者を発生させない職場作りを行っていきたい。 次回は、過重労働に伴う健康障害について触れていくこととする。 (了)
#14(掲載号)
#佐藤 信
2013/04/11
労務・法務・経営 法務

「石原産業役員責任追及訴訟第一審判決」から読む会社経営者としての責任の分水嶺【3】

「石原産業役員責任追及訴訟 第一審判決」から読む 会社経営者としての責任の分水嶺 【3】   弁護士 中西 和幸   10 フェロシルトが産業廃棄物であることについて責任が認められた取締役 (1) 平成13年4月27日開催の取締役会に出席した取締役 平成13年4月27日開催の取締役会に出席した取締役について、Y5及びY23も含め、役職と属性及びフェロシルトの廃棄物性に関して認識していた事情をもとに、いずれも廃棄物処理法違反であるかどうかを認識し得なかったとして、責任を認めていない。 (2) 推進会議の構成員である取締役 推進会議の構成員については、これらの者が反対すればフェロシルトの搬出を阻止できたとしたうえで、Y23については、平成13年8月6日の会議及び同月付稟議において、T国際空港が受入れを断りこれにつきY5が推進会議において虚偽の説明をしたことを知っており、Y5の説明にも疑いを向け、「フェロシルトは有償の処分が実態である」との発言がされたことについて気が付くことが可能であったとして責任を認めた。 また、Y5については、自ら虚偽の発言をし、また、自ら有償の処分が実態であると発言したことを根拠として、産業廃棄物であることを認識できたと認定している。 その一方で、他の取締役については、その役職と属性及びフェロシルトの廃棄物性の認識について検討したうえで、責任がないものと認定している。 (3) 平成13年8月10日付稟議書に捺印した取締役 標記稟議書では、平成13年4月27日に取締役会において承認された搬出費用を超える費用を支出することが決裁の対象であった。そして、発議分掌上位者である被告Y5及び合議者の被告Y21、Y23、被告Y12、被告Y14 及び被告Y22 が、それぞれの押印に際し、相当の論拠に基づいて、フェロシルトが「廃棄物」に該当し、本件新規搬出先へ搬出することは産業廃棄物処理法に違反するとの意見を述べた場合には、本件新規搬出先への搬出が中止される可能性があったと論じた。 そのうえで、まず、Y23及びY5について、各取締役の役職と属性及び廃棄物性について認識した事情を検討し、T国際空港からフェロシルトの受入れを断られていたことを知っていたこと、8月6日の推進会議におけるY5の説明が虚偽であることを知っていたことを契機として、商品として販売するならば本来発生しない「埋立費用」(本来ならば購入者が負担する費用である)に気が付くなど、Y1らの説明に不自然な点があり、会社から本件新規搬出先の業者に対して売却代金を上回る費用が支払われ、実質的に会社がフェロシルトの処理費用を負担するなど、フェロシルトは取引価値のないものであり、廃棄物に該当することを認識し得たと認定している。 (4) Y23及びY5が賠償すべき損害 産業廃棄物であることを認識し得たY23及びY5が賠償すべき損害として認定されたのは、QMS違反と異なり、約72万トンのフェロシルトについて会社が支払った、運搬費、用途開発費、改質加工費等の名目の産業廃棄物処分費用からフェロシルトの売却代金を差し引いた22億6,700万円と、産業廃棄物処理法違反による罰金5,000万円であるとされた。   11 事件全体を通じたまとめ (1) 担当取締役としての責任 ア 責任が重い取締役 本判決において、工場長であったY5とY6の事実認識における最大の差異は、T国際空港がフェロシルトの受入れを延期したのではなく断ったことを認識していたかどうかである。Y5は、これを知りつつ推進会議において虚偽の説明を行っているのに対し、Y6は推進会議の構成員ではなく、無論、T国際空港がフェロシルトの受入れを断っていたことを知らなかったため、責任を負わなかったのである。 このように、担当取締役であっても、そのカギとなる事実関係を知らなければ義務違反にならないのであるから、事実を知らないようにして責任を軽減したくなるかもしれない。しかし、「何も知らない」「何も聞かない」では、職務を遂行することすらできない。こういった点でみると、取締役の責任は重いが、それゆえに従業員と比較してより高額の報酬が得られるともいえる。 イ 虚偽の説明と虚偽説明の放置 Y5やY23とその他の取締役を分けた差異について、本判決をよく読んでみると、Y5及びY23は、T国際空港がフェロシルトの受入れを断ったことを知っていたことだけではなく、Y5は推進会議において虚偽の説明を行ったこと、Y23は推進会議におけるY5の虚偽の説明を訂正しなかったことが認定されている。すなわち、実質的には、自らの職務に忠実に正確な説明を行い、又は、説明が虚偽であることを知ったらこれを訂正するといった、その職務に誠実に正面から向き合うことが重要であり、正面から向き合わなかったが故に、責任を問われたのではなかろうか。 特に、フェロシルトがアイアンクレーという毒性のある産業廃棄物の加工品であり、その取扱いに慎重さが要求されるリスクの高い製品であることを知っていた以上、虚偽説明を行い、又は放置することは許されないとされたという側面があるのではないか。 (2) 社内規定・マニュアルの重要性と監視・監督義務 通常の企業であれば、社内規定やマニュアルが一定の水準で整備されている。この社内規定やマニュアルは、会社が組織として活動する際に、さまざまなリスクを回避し効率的な会社経営を行うために整備されるものである。管理職や管掌取締役は、まさにかかる社内規定やマニュアルが遵守されているかどうかを監視・監督・調査・指導することが主要な業務といえよう。 したがって、部下が社内規定やマニュアルに違反したとしても、管掌取締役は、違反を疑わせるような事実を認識していなければ、Y6のように他の役職員を信頼してよいとしても、これを疑わせる事実を認識していた場合には、これを調査・監視・是正しなければ、会社としてリスクを回避し又は極小化することはできないのである。その意味でも、管掌取締役の責任は重大といえよう。 一方、他の取締役としては、管掌取締役以上に社内規定やマニュアルを知っていることを要求するのは酷であるし、また、会社経営として非効率的でもあるから、まず第一次的に管掌取締役の責任が問われるのはやむを得ないであろう。 (3) 会議体構成員の明暗 本件では、実行本部の構成員の責任は問われておらず、推進本部の構成員の一部、とりわけ、平成13年8月6日の会議出席者と同月10日付の稟議に捺印した者の一部について責任が問われている。 このように、フェロシルトの搬出を阻止できる機会が限られていた本件では、特定の会議等に関与していたかどうかということに加え、その時にどのような事実を認識していたかという点で、明暗が分かれている。 本判決に従うと、管掌取締役としては、当該会議において、事前に十分な情報を得ているか、会議時の説明が正確か、意思決定が独断でないか、等相当程度慎重に運営しなければならないことになる。かかる管掌取締役の義務は重いが、「取締役」という会社における地位等にかんがみれば、自らの管掌する業務に関する会議に慎重に臨まなければならないというのは、過大な責任とまではいえないのではなかろうか。 本判決は、取締役の責任の重さを改めて認識させられるものといえよう。 (参考文献:金融商事判例1367号41頁、1399号24頁、旬刊商事法務1970号15頁) 本解説記事は、裁判所が公表した判決文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121119105409.pdf の記号を使用しています。 参考文献 資料版商事法務342号131頁以下(但し、上記判決文と記号が一部異なる) (連載了)
#14(掲載号)
#中西 和幸
2013/04/11
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企業の香港進出をめぐる実務ポイント 【第4回】「香港の税制(前編)」

企業の香港進出をめぐる実務ポイント 【第4回】 「香港の税制(前編)」   アースタックス税理士法人 アースタックス・ビジネスコンサルティング(香港)有限公司 税理士 白水 幹範   香港税制の全体像 1) 税制の主な特徴 ① 低税率 香港はタックスヘイブンとして認知されているように、日本や東南アジア諸国に比べ低税率に抑えられている。 ② 簡素な税制 複雑で難解な日本の税制に比べ、税金の種類が少なく税法も非常にシンプルである。相続税、贈与税、消費税、関税はない。 また、香港法人と外国法人を区別するような税制はなく、外国企業に対する優遇税制も存在しない。 ③ 非課税所得 多くのタックスヘイブン国と同様に、オフショア所得(香港外源泉所得)は非課税とされている。加えて、キャピタル・ゲイン、配当金も非課税である。 ④ 源泉徴収制度 利子、配当、給与を支払う場合の源泉徴収の制度が原則としてない(源泉徴収があるのは、非居住者へロイヤリティを支払う場合など、非常に限定的である)。 2) 税制の体系 香港の税金には、内国歳入法(IRO:Inland Revenue Ordinance)にて規定される所得に対して課される税金と、印紙税法など個別の法令にて規定されるその他の税金がある。 また、課税当局の解釈及び実務指針(DIPN:Departmental Interpretation and Practice Notes)が公表されているが、これは課税当局内の取扱通達であり、日本の基本通達に相当するもので、納税者は実務上の解釈における参考とすることができる。 3) 税金の種類 上記の体系に基づく税金の種類は、以下のとおりである。 ① 所得に対する税金 ・事業所得税(Profits Tax) ・給与所得税(Salaries Tax) ・資産所得税(Property Tax) ② その他の税金 ・印紙税(Stamp Duty) ・賭博税(Betting Duty) ・商業登記料(Business Registration Fees) ・物品税(Excise Duty) ・不動産税(Rates)   事業所得税とは 1) 納税義務者 香港で事業を行う法人、個人事業主等は、香港を源泉とする所得に対し、事業所得税が課税される。 居住者、非居住者で区別されるのではなく、香港を源泉とする所得を得ているかどうかで課税関係が決定する。香港外の源泉の所得しか得ていない場合は、課税されない。 香港源泉所得を得ている場合は、非居住者、外国法人の支店・駐在員事務所、香港に拠点を有しない外国法人についても納税義務者となる。 2) 税率(2012/13課税年度) ●法人・・・・・・・・・16.5% ●個人事業主・・・15% ※軽減措置 2011/12課税年度の事業所得税については、納税額の75%を減額する。 ただし、12,000香港ドルを上限とする。 3) 申告期限 事業所得税申告書は、通常4月に税務局から緑色の封筒に入って納税義務者に送付される。 申告書の提出期限は申告書の発行日から1ヶ月以内とされているが、税務代理人に委託する場合、一般的には税務局へ申告期限の延長申請をするため、決算期に応じて以下の提出期限までに税務申告を行う。 ・4~11月決算 翌年4月末 ・12月決算   翌年8月15日 ・1~3月決算 11月15日 なお、申告書が送付されてこない場合であっても、課税所得があるときは、事業年度終了日から4ヶ月以内に、税務局に書面による通知を行う義務がある。 4) 申告書の提出 事業所得税の申告書を提出する場合、監査報告書を添付することが要求される。 5) 課税所得の計算方法 会計上の利益に税務上必要な加減算調整を行うという点では、日本の税制と同じである。 しかしながら、その調整項目は日本とは大きく異なるため、その代表的なものを以下に列挙する。 ① オフショア所得 香港における事業活動から生じた所得(オンショア所得)に対してのみ課税されるのが原則となっているため、それ以外の所得(オフショア所得)については課税されない。 なお、実務上、オフショア申請を行った場合は、税務局からの質問状の対象とされる可能性が高い。 ② キャピタル・ゲイン、配当金 資本的資産の売却損益(キャピタル・ゲイン又はロス)、資本的性格(キャピタル・ネイチャー)の収入及び支出、受取配当金は課税されない。 ③ 減価償却費 税法独自の減価償却方法が定められているため、会計上の減価償却費とは全く異なる計算を行う。 ④ 交際費 交際費ついては日本のような特別な規定は定められておらず、それが課税所得を得るために必要な費用である限り損金算入が可能である。 6) 繰越欠損金 税務上の繰越欠損金は、原則として、永久に繰り越して将来の課税所得と相殺することができる。 7) 帳簿の保管 香港で事業活動を行う場合、取引の詳細が確認でき課税所得を容易に確定することができるだけの十分な帳簿を、英語又は中国語で作成し保管することが要求される。 帳簿は最低7年間の保管義務があり、帳簿の作成保管義務に違反した場合、最高100,000香港ドルの罰金が課される。   給与所得税とは 1) 納税義務者 香港を源泉とする給与所得を有する者は、給与所得税が課税される。 香港を源泉とする給与であれば、日本払いの給与であっても課税対象となる。 2) 税率及び税額 下記のいずれか有利な方を採用できる。 〈累進税率(2012/13課税年度)〉 〈標準税率(2012/13課税年度)〉・・・15% ※軽減措置 2011/12課税年度の給与所得税については、納税額の75%を減額する。 ただし、12,000香港ドルを上限とする。 3) 所得控除 〈人的所得控除〉   ※香港ドル(2012/13課税年度) 〈その他控除〉   ※1 香港ドル、2012/13課税年度   ※2 15課税年度 4) 申告期限 給与所得税申告書は、通常4月に、税務局から緑色の封筒に入って納税義務者に送付される。 申告書の提出期限は、申告書の発行日から1ヶ月以内である。課税対象期間は、毎年4月1日から3月31日までである。 5) 雇用主(会社)の手続 ① 雇用主支払報酬申告書(Form BIR56A, IR56B) 雇用主は、その従業員に対して課税期間(4月1日から3月31日まで)に支払った給与、賞与等について、雇用主支払報酬申告書(個人別・総括表)を作成し税務局へ提出しなければならない。 申告書は、通常4月に税務局から緑色の封筒に入って雇用主に送付される。申告書の提出期限は、申告書の発行日から1ヶ月以内である。 また、個人別の雇用主支払報酬申告書は各従業員に配布され、従業員はその記載内容に基づき給与所得税の申告を行うことになる。 ② 雇用開始通知書(Form IR56E) 雇用主は、香港で従業員を採用し、その従業員に課税所得が発生する場合には、雇用開始から3ヶ月以内に、雇用開始通知書を税務局に提出しなければならない。 通知書には、従業員の氏名及び住所、雇用開始日、雇用条件を記載する。 ③ 雇用終了通知書(Form IR56F) 雇用主は、香港で従業員の雇用を終了し、その従業員に課税所得が発生する場合には、雇用終了日の1ヶ月前までに、雇用終了通知書を税務局に提出しなければならない。 通知書には、従業員の氏名及び住所、雇用終了日を記載する。 ④ 出国通知書(Form IR56G) 雇用者は、従業員が香港から1ヶ月以上の期間にわたり香港を出国する見込みである場合、出国予定日の1ヶ月前までに、出国通知書を税務局に提出しなければならない。 ただし、香港の雇用に基づく業務での海外出張の場合は除く。 (了)
#14(掲載号)
#白水 幹範
2013/04/11
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NPO法人 “AtoZ” 【第2回】「NPO法人の認証から登記までの流れ」

NPO法人 “AtoZ” 【第2回】 「NPO法人の認証から登記までの流れ」   税理士 岩田 聡子   1 認証までの流れ(NPO法10条) NPO法人を設立するためには、次に掲げる書類を添付した申請書を所轄庁に提出して、認証を受けなければならない。 所轄庁は、申請書を受理した後、遅滞なく、①申請があった旨、②申請のあった年月日、③申請にしたNPO法人の名称、代表者の氏名及び主たる事務所の所在地並びにその定款に記載された目的等を受理した日から2ヶ月間、公衆の縦覧に供することとなる。 提出された申請書等に不備がある場合には、申請書を受理した日から1月以内に限り、その不備が所轄庁の定める軽微なものである場合にのみ、補正をすることができる。 正当な理由がない限り、申請書を受理した日から4ヶ月以内(所轄庁が条例で縦覧期間を経過した日から2ヶ月より短い期間を定めているときはその期間内)に、所轄庁は、認証又は不認証の決定を行い、書面により通知する(NPO法12)。   2 認証後の設立の登記(NPO法13条) NPO法人は、設立の認証後、申請者が主たる事務所の所在地において設立の登記を行うことにより成立する。 登記は、通知があった日から2週間以内に行わなければならず、設立の認証を受けた後、6ヶ月以内に登記をしないときは、所轄庁が認証を取り消すこともある。 また、設立をする際、NPO法人は費用の面で、優遇を受けている。 通常、株式会社であれば、設立時に法人設立や定款作成のための費用、登録免許税がかかるのだが、これらの手数料、税が無料となり、当初資金が少なくても、設立が容易となっている。   3 法人成立後の届出 NPO法人は、法人が登記により成立した後、遅滞なく、①設立登記完了届出書、②登記事項証明書、③設立の時の財産目録を所轄庁に提出しなければならない(NPO法13②)。 なお、財産目録は常に主たる事務所に備え置かなければならない。 所轄庁以外にも、県税事務所及び市役所に法人設立届出書を、収益事業を行う場合や給与等を支払う場合には税務署に収益事業開始の届出書、給与支払事務所等の開設届出書等を、労働保険・社会保険に加入する場合には労働監督署・社会保険事務所等に必要書類を提出しなければならないので、届出漏れのないように注意する必要がある。   4 設立認証申請の注意点 設立の際、作成する定款(上記1の(1))とは、法人の目的・組織・活動・構成員・業務執行などについての根本規則を記載した書面で、法人の運営は定款に従って行われるものである。 設立趣意書(上記1の(7))と定款の目的は当然一致するものであり、さらに事業計画書、活動予算書との関係においても、内容に整合性がとれていなければならない。 NPO法人で重要なことは、「公益の増進に寄与することを目的とするものである」ということであり、これに該当する特定非営利活動を行う法人であるかどうかはこれらの書類を中心としてチェックされる。そのため、特にその内容に矛盾のないよう注意する必要がある。 また、所轄庁(都道府県、指定都市)には、NPOの相談窓口もあるので、設立の際は、事前に相談をすることがよいであろう。 (了)
#14(掲載号)
#岩田 聡子
2013/04/11
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