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国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第10話】「優良法人の税務調査(その4)」

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第10話】  「優良法人の税務調査(その4)」  公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   (前回のつづき) 「やはり・・・無理かなあ・・・」 渕崎統括官が田村上席に声をかけた。 法人課税第三部門の職員は、皆、税務調査で出張していて、渕崎統括官と田村上席しかいない。 「・・・?」 田村上席は、振り向いて、渕崎統括官を怪訝そうに見る。 「いや、あの例の・・・更生計画案で切り捨てられた債権なんだが・・・」 渕崎統括官は、苦笑いしながら言う。 「ああ、あれですか・・・」 田村上席は、大きく頷く。 「あれは、仕方ないでしょう」 渕崎統括官は、未練がましく首を傾けている。 「それに、優良法人ですから・・・」 田村上席は、渕崎統括官を諭すような口調で言った。 統括官と上席の立場が逆転しているようである。 「・・・まあ、優良法人であるかどうかはともかく、理論上は、翌期に切捨てが確定している金額なのだから、法人税法施行令96条2号が適用されて・・・結局・・・あの損失処理が引当金として認められるということだな」 渕崎統括官は、自分を納得させるようにつぶやく。 「まあ、上の決裁を受けるときには、ややこしいから、この件は省略しておこう・・・他については、特に問題もなかったのだから、優良法人として継続する手続はすることにしよう」 渕崎統括官は、調査記録等をファイルした書類を机の横にポンと置いた。 「ところで、今回の税務調査の結果を会社に伝えなければならないから、すまんが田村上席、会社に連絡してくれないか?」 実地調査が終了してから、3週間が過ぎている。 「私も会社に行くのですか?」 田村上席が尋ねる。 「いや、税務調査の結果の報告だから・・・私一人で行くよ」 渕崎統括官は笑って応える。 「・・・そう言えば、吉田税理士がしきりに、あの債権の損失処理の結末を気にしていましたね」 田村上席は、吉田税理士が渕崎統括官に、債権の損失処理の意見を聞きたがっていた様子を思い出した。 「そうだな」 渕崎統括官も頷く。 「・・・まあ、今回は、不問にするとでも言っておくか・・・」 渕崎統括官は、吉田税理士の生真面目そうな顔を思い出しながら言った。 どんよりとした空から、大粒の雨が降っている。 渕崎統括官は、濡れた傘の滴を落としながら、会社の玄関に置かれている受話器を取る。 しばらくすると、若い女性の事務員が2階から下りてきて、渕崎統括官を会議室に案内した。 濡れた肩をハンカチで拭いていると、齋藤課長と吉田税理士が会議室に現れた。 「どうも、雨の中、ご苦労様です」 齋藤課長が声をかける。 「いや、だいぶ濡れてしまって・・・」 渕崎統括官は、ハンカチで拭きながら応える。 「よかったら、タオルでも持ってきましょうか?」 齋藤課長が尋ねると、渕崎統括官は首を横に振りながら、ハンカチを後ろのポケットに仕舞った。 「もうすぐ、会長も来ますので」 吉田税理士が渕崎統括官に言う。 「はい、今日は税務調査の結果報告で、すぐに終わりますから」 渕崎統括官は、2人に告げた。 田村上席が会社にアポイントメントを取るときに、今回の税務調査では、特に問題はなかったと事前に伝えてある。 会長が会議室に入ってきた。 「どうも、今日はご苦労様です」 会長は挨拶をすると、齋藤課長の席の横に座る。 3人を前にして、渕崎統括官は、税務調査の結果報告を述べる。 「今回は、御社において3日間、実施調査をした結果について、ご報告に来たのですが、結論から言えば、特に問題はないということであります。会社の経理状況も良好でありますし、特に、指摘すべき問題点もありませんので、御社においては、優良法人として今後も継続できるように、こちらで上申したいと思います」 会長と齋藤課長は、満足そうに頷く。 「ところで・・・更生計画案で切り捨てられた債権・・・の処理については・・・?」 吉田税理士が尋ねる。 「あの件については、とりあえず、今回は不問にします。しかし、後で・・・会計検査院で指摘された場合、修正してもらうことになるかもしれません」 渕崎統括官は、少し強い口調で言う。 「・・・しかし・・・」 吉田税理士が声を出そうとしたとき、会長が遮った。 「まあ、まあ、吉田先生、それで良いじゃないですか。今回は何も指摘がなかったということだし・・・優良法人として上申もしていただけるということですから・・・」 会長は、少し不満そうな吉田税理士を諭す。 「ところで、優良法人の税務調査がこれで終わったので、一度、うちの署長と副署長に会っていただきますが、それについては、また後日、ご連絡させていただきますので」 渕崎統括官はそう言うと、会長に優良法人の申請に必要な書類(会社・個人の履歴等の記載)を手渡した後、早々に退席した。 (つづく)
#24(掲載号)
#八ッ尾 順一
2013/06/20
税務 税務・会計 解説 解説一覧 財産評価

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載24〕 判決により取扱いが変更となった通達改正に係る事案の更正の請求

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載24〕 判決により取扱いが変更となった 通達改正に係る事案の更正の請求   税理士 小林 磨寿美   平成25年2月28日、東京高裁(平成24年3月2日東京地裁)において、平成16年の相続事案について、平成2年の通達改正において定めた大会社における株式保有特定会社の判定基準を株式保有割合25%以上とした取扱いを適用することは、平成9年の独禁法改正以後の平成15年の大法人の株式保有割合の実情16.31%(平成元年度7.38%)であることを考慮すると、合理的でないとした判決が確定した。 国税庁はこの判決を受け財産評価基本通達189(2)を改正し、大会社の株式保有特定会社の判定基準を株式保有割合「25%以上」から「50%以上」とした改正通達を、平成25年5月28日に発遣し、ホームページ上にて5月31日に公表した。   1 通達の有利改正と更正の請求 『「財産評価基本通達の一部改正について」通達等のあらましについて(情報)(平成25年5月28日)(平成25年5月31日)』の別添の「あらまし」では、この改正通達の適用時期として、「本改正に係る改正後の評価通達(大会社の判定基準)は、平成25年5月27日以後に相続、遺贈又は贈与(以下「相続等」という。)により取得した財産を評価する場合に適用するほか、本改正が判決に伴うものであり、過去の相続税等についても、通則法第23条第2項第3号の規定に基づき更正の請求をすることができる(注)ことを踏まえ、平成25年5月27日以後に相続税等の申告をする者が、平成25年5月27日前に相続等により取得した財産を評価する場合にも適用することができる。」としている。 つまりは、平成25年5月27日以後の相続税等の申告について、この改正を適用することができることに加え、通則法第23条第2項第3号の規定に基づき、過去の相続税等についても更正の請求をすることができることを明らかにしている。 従来、租税が納付された後に租税確定行為の基礎とされていた通達が納税者の有利に変更されても、租税確定行為が過去に遡って無効になることはないとされていた。 それが、平成17年のゴルフ会員権の取得費についてのいわゆる右山判決を契機として、平成18年度の国税通則法の改正があり、後発事由による更正の請求(通法23②)に、「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈その他の国税庁長官の法令の解釈が、更正又は決定に係る審査請求若しくは訴えについての裁決若しくは判決に伴って変更され、変更後の解釈が国税庁長官により公表されたことにより、当該課税標準等又は税額等が異なることとなる取扱いを受けることとなったことを知ったこと。」(通令6①五)が追加された。 上記高裁判決においては、株式保有割合に加えて、その企業としての規模や事業の実態等を総合考慮して判断するとしていたが、改正通達では「大会社の判定基準」を50%としたのみであるため、個別の事案の適用関係について、実態判定する必要がない。通達の遡及適用の可否は、形式基準の判定のみで判断することができる。 また、今回の事例は、通達制定当時において適当であった要件が、社会情勢等の変化により当てはまらなくなったものであるため、その当てはまらなくなったことが明らかになった時以後の事案において、つまり本件相続開始時(平成16年)以後においては、改正通達の判定基準が適当であるということになる。   2 更正の請求期間と減額更正の期間制限 「更正の請求」という制度は、それ自体では税額が確定されず、納税者の請求を受け、税務署長が減額更正をすることにより、はじめて税額が確定される。そして、更正の請求期間があるだけでなく、税務署長の減額更正についても、期間制限が設けられている。 具体的には、相続税については5年間、贈与税については6年間、更正の請求をすることができ(通法23①)、これに加えて後発事由に該当する場合は、その事由が発生した翌日から2月間、更正の請求が可能である。後発事由の発生自体には、法定申告期限から何年以内のものに限るなどの期間の制限はない。 一方、減額更正については、相続税については法定申告期限から5年、贈与税については6年経過後においては原則としてすることができない(通法70①、相法36①)。もっとも、後発事由があった場合に対応して、除斥期間も延長する規定が設けられている(通法71①)。しかし、後発事由のうち、通達の有利変更の場合、この特別の除斥期間の適用がないため、法定申告期限等から既に5年を経過している相続税、6年を経過している贈与税については、法令上、減額できないことになる。 ただ、平成23年12月改正で更正の請求期間が延長されたことに伴い、更正をすることができないこととなる日前6月以内にされた更正の請求に係る更正は、その更正の請求があった日から6月を経過する日まで、することができることとなっている(通法70③)。この改正の趣旨から、期限ぎりぎりの更正の請求であっても、減額更正は行われるものと思われる。 つまりは、贈与税については法定申告期限から6年内であるから平成19年分~24年分について、相続税については法定申告期限から5年内であるから平成20年5月31日申告期限のものから、適用可能であったことになる。   3 後発事由による更正の請求と通常の更正の請求の関係 今回の更正の請求は国税通則法23条2項に当てはまることから、通達改正を知った日の翌日から2月以内、つまり、平成25年8月1日(ただし、相続税について法定申告期限から5年目の応当日が先に到来する場合はその日)までに更正の請求をしなければならないと考える向きが多い。 しかし、23条2項括弧書には、「納税申告書を提出した者については、当該各号に定める期間の満了する日が前項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限る。」とあるため、2項の要件に該当するならば、同時に同条1項の通常の更正の請求の適用があることとなる。 したがって、平成23年分、24年分の贈与税については、申告期限から6年以内の更正の請求、相続税については、23年12月2日以降申告期限到来分から、申告期限から5年以内の更正の請求が可能となる。   4 更正の申出のできる期間 さらに、平成23年12月1日以前の申告期限到来分については、更正の申出をすることができる。 つまりは、平成19年分~22年分の贈与税で平成25年8月1日までに更正の請求をしなかった場合については、6年以内の更正の申出。同様に、相続税で平成22年8月以降23年12月1日までの申告期限分については、3年間の更正の申出が可能となる。 ただし、更正の申出は法令上の根拠のある制度ではなく、減額更正期間の延長はないため、期限ぎりぎりの申出だと減額更正はされない危険もある。 以上をまとめると、通達の遡及適用の範囲は次のようになる。 【贈与税】 【相続税】 (注)更正の申出の場合は、各期間終了の日より6月前までの申出が無難。 (了)
#24(掲載号)
#小林 磨寿美
2013/06/20
会計 税務・会計 管理会計 解説 解説一覧

林總の管理会計[超]入門講座 【第5回】「変動費と固定費の関係」

林總の 管理会計[超]入門講座 【第5回】 「変動費と固定費の関係」   公認会計士 林 總   (了)
#24(掲載号)
#林 總
2013/06/20
リース 会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第10回】リース会計③「リース資産の減価償却の方法」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第10回】 リース会計③ 「リース資産の減価償却の方法」   仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広   〈事例による解説〉 〈会計処理〉 (1) 所有権移転ファイナンス・リース取引に該当する場合 ① ×1年4月1日(リース契約締結時) ② ×1年4月30日(第1回支払日) ③ ×1年4月30日(減価償却費の計上)   (2) 所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当する場合 ① ×1年4月1日(リース契約締結時) ② ×1年4月30日(第1回支払日) ③ ×1年4月30日(減価償却費の計上)   〈会計処理の解説〉 「所有権移転ファイナンス・リース取引」とは、リース契約上の諸条件に照らして、リース物件の所有権が企業に移転するファイナンス・リース取引をいいます。 一方、「所有権移転外ファイナンス・リース取引」は、所有権移転ファイナンス・リース取引以外のファイナンス・リース取引をいいます。 前回までの解説を踏まえ、リース取引を分類すると以下のようになります。   リース契約には、「所有権移転条項」という条件が付されたものがあります。 この条項は、リース期間終了後又はリース期間の中途で、リース物件の所有権が企業に移転するというものです。所有権移転条項のあるファイナンス・リース取引は所有権移転ファイナンス・リース取引と判定されます。 前回までに解説したとおり、ファイナンス・リース取引は、リース会社から資金調達をして、固定資産を購入したという会計処理を行います。そのため、リース資産の減価償却費についても、リース物件を購入したものとして、自社がそのリース物件を購入した場合に適用する減価償却の方法で算定するのが原則です。 しかし、所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合、リース期間終了後にリース物件をリース会社に返還しなければなりません。ファイナンス・リース取引は固定資産を購入したと考えますが、契約上、所有権移転条項がない以上、リース物件を使用できる期間はリース期間に限定されてしまいます。 そのため、所有権移転外ファイナンス・リースに該当する場合は、リース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして減価償却費を算定します。 以上を踏まえ、本事例の会計処理を検討してみましょう。 本事例におけるリース契約締結時及び第1回支払日の仕訳は、前回解説したものと同様です。 所有権移転ファイナンス・リース取引に該当する場合、減価償却費は自己所有の固定資産に適用する減価償却方法と同一の方法により算定します。よって、工作機械Aの経済的耐用年数、借手企業の減価償却方法を用いて、以下のように計算します。 一方、所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当する場合、減価償却費はリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして算定します。よって、リース期間5年、残存価額ゼロとして、以下のように計算します。 (了) ※7月は棚卸資産会計を取り上げます。
#24(掲載号)
#大川 泰広
2013/06/20
会計 税効果会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

税効果会計を学ぶ 【第12回】「役員賞与に係る引当金とストック・オプション、将来加算一時差異」

-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。   税効果会計を学ぶ 【第12回】 「役員賞与に係る引当金と ストック・オプション、将来加算一時差異」 公認会計士 阿部 光成   前回までに触れていない一時差異等のうち、役員賞与に係る引当金とストック・オプション、将来加算一時差異を取り上げる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 役員賞与に係る引当金とストック・オプション 「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果会計実務指針」という)14項では、税引前当期純利益の計算において費用又は収益として計上されるが、課税所得の計算上は永久に損金又は益金に算入されない項目については、将来、課税所得の計算上で加算又は減算させる効果をもたないため一時差異等には該当せず、税効果会計の対象とはならないとされている。 「税効果会計に関するQ&A」のQ2では、役員賞与に係る引当金及びストック・オプションに係る費用について次のように述べている。 これらは、一時差異等の定義を満たしており税効果会計の対象となるのか、それともそもそも一時差異等に該当しないのかという論点について、整理したものと解される。 1 役員賞与に係る引当金 役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理されることとされ、当事業年度の職務に係る役員賞与を期末後に開催される株主総会の決議事項とする場合には、当該支給は株主総会の決議が前提となるので、当該決議事項とする額又はその見込額(当事業年度の職務に係る額に限る)は、原則として、引当金に計上する(「役員賞与に関する会計基準」(企業会計基準第4号)3項、13項)。 税務上、役員給与のうち損金に算入される額は、一定の要件を満たしたものに限られているので(法人税法34条から36条)、会計上、費用処理された役員賞与のうち将来にわたって損金算入されないものは、将来減算一時差異に該当しないので、税効果会計の対象とはならない。 2 ストック・オプションに係る費用 いわゆる税制適格ストック・オプション(租税特別措置法29条の2)については、従業員等の個人において給与所得等が非課税となり、法人において当該役務提供に係る費用の額が損金に算入されないので(法人税法54条2項)、将来減算一時差異に該当せず、税効果会計の対象とはならない。 また、いわゆる税制非適格ストック・オプションについては、従業員等の個人が給与所得等として課税されるときは、給与等課税事由が生じた日(権利行使日)に、法人において、当該役務提供に係る費用の額が損金に算入されるので(法人税法54条1項)、ストック・オプションの付与時において将来減算一時差異に該当し、税効果会計の対象となる。   Ⅱ 将来加算一時差異 1 将来加算一時差異の例示 将来加算一時差異は、将来の課税所得の計算上で加算効果のある一時差異であり、差異が生じたときに課税所得の計算上減算され、将来、当該差異が解消するときに課税所得の計算上加算される(個別税効果会計実務指針9項、10項)。 例えば、減価償却資産について剰余金の処分(積立金方式)により圧縮記帳を実施した場合は、会計上の簿価は固定資産の取得価額で計上され、その後の減価償却計算等の基礎となるが、税務上の簿価は固定資産の取得価額から圧縮積立金を控除した後の額となり、当該資産の会計上の簿価と税務上の簿価との間に差額が生ずる。 当該差額は、将来の減価償却の実施により、会計上の減価償却費が税務上の減価償却費の損金算入限度額を超過することになり、当該償却超過額に相当する額について圧縮積立金を取り崩し、将来の課税所得の計算上当該圧縮積立金取崩高が加算されることになるため、将来加算一時差異となる。 そのほか、将来加算一時差異の例としては次のものがあげられる。 2 積立金方式による諸準備金等 個別税効果会計実務指針20項では、圧縮積立金、特別償却準備金、その他租税特別措置法上の諸準備金の積立額及び取崩額は、税効果相当額を控除した純額によると規定している。つまり、純資産の部に計上する諸準備金等については、繰延税金負債控除後の純額を積み立てることとなる。 諸準備金等に係る一時差異については、個別税効果会計実務指針15項に従って適用すると税効果額が繰延税金負債として計上され、同額が損益計算書上の法人税等調整額に計上される。これにより、繰越利益剰余金の金額は、法人税等調整額に借記した額だけ税効果会計を適用する前に比べて減少することとなる(個別税効果会計実務指針38項、39項)。 このため、諸準備金等は、純資産の部に繰延税金負債控除後の純額をもって計上することになり、純資産の部に計上する諸準備金等については、繰延税金負債控除後の純額を積み立てることとなる。 いったん純資産の部で積み立てられた諸準備金等は、税務上の加算に対応して取り崩すことになる。 (了)
#24(掲載号)
#阿部 光成
2013/06/20
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

年次有給休暇管理上の留意点 【第3回】「パートタイム労働者の年次有給休暇」

年次有給休暇 管理上の留意点 【第3回】 「パートタイム労働者の 年次有給休暇」   社会保険労務士 菅原 由紀   ◆年次有給休暇の比例付与とは 年次有給休暇(以下、「年休」という。)の比例付与とは、パートタイム労働者等、通常の一般労働者以外の労働者(短日数労働者)への年次有給休暇の付与をいう。 年次有給休暇の比例付与は、労働基準法39条3項に定められている。 年次有給休暇の比例付与日数は、下表のとおりとなっている。   ◆月ごとの所定労働日数を勤務表等で決めているパートタイム労働者の年休付与 例えば週3回(月・水・金)の勤務等、週単位での所定労働日数が定められているパートタイム労働者の年休付与は、6月経過後、上表の通り5日となる。 一方、週単位での所定労働日数が定められていないパートタイム労働者の年休については、1年間の所定労働日数を基準として付与日数が決定される。 勤務表等により、月単位で所定労働日数を決定している場合、原則として基準日(年休付与日)時点の月の勤務表等の所定労働日数を12倍して1年間の所定労働日数を算定する。例えば、基準日の月の所定労働日数が15日であれば、14日×12=168日となり、6ヶ月経過後の年休付与は5日となる。 しかし、基準日時点の月の労働日数が他の月と比べて極端に少ない場合には、労働者に不利になるため、月ごとの平均的な労働日数を算出して付与される。   ◆勤務形態が変更となった場合の対応 例えば、平成25年4月1日の基準日時点で勤続3年6ヶ月、1日8時間、週3日勤務のパートタイム労働者については、当年分として8日の年休が付与される。 このパートタイム労働者が7月1日付けで週の所定労働日数が4日となった場合、この者についての年休はどのように考えればよいだろうか。 年休はその基準日において発生するため、その年の年休の付与日数は付与日時点の労働契約の定める所定労働日数により決定され付与される。したがって、労働契約が変更された7月1日時点において年休を追加付与する義務はない。 ただし、平成26年4月1日には、その時点で定める所定労働日数に応じた年休を付与する必要がある。また、継続勤続年数は契約更新前の期間と通算される。 したがって、週所定労働日数4日、勤続年数4年6ヶ月の「12日」を与えることになる。 (了)
#24(掲載号)
#菅原 由紀
2013/06/20
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

〔時系列でみる〕出産・子を養育する社員への対応と運営のヒント 【第8回】「国が支給する両立支援に関連する助成金」

〔時系列でみる〕 出産・子を養育する社員への 対応と運営のヒント 【第8回】 「国が支給する 両立支援に関連する助成金」   社会保険労務士 佐藤 信   1 はじめに 前回までは、出産・子を養育する社員に対し会社が対応すべきことについて触れてきた。 紹介した両立支援策の導入に向けて、各社では、制度の整備、社員教育などの実施をしながら進めていくこととなるが、その中には費用負担の面で、躊躇せざるを得ない施策もあるものと思われる。 そこで今回より2回にわたって、会社に対する国の支援制度(助成金)について触れていくこととする。 助成金は融資制度と異なり、返済を必要としないため、費用面がネックとなり両立支援制度の導入を見送ってきた会社については積極的に活用し、労使双方にとって有益となる制度作りと運用に役立てていただきたい。   2 両立支援制度に関連する助成金 両立支援制度と関連のある助成金として「両立支援助成金」と「キャリアアップ助成金」を取り上げていくこととする。 それぞれ細かな支援策によって、以下のように分かれている。 なお、キャリアアップ助成金は数種類のメニューがあるが、今回は両立支援と関連性の強いものとして「短時間正社員コース」を案内し、その他のもの(処遇や職場環境の改善に対して支給されるもの)については次回取り上げる予定である。   3 両立支援助成金の概要 厚生労働省が実施する各種の助成金・奨励金は多岐にわたるため、まずは「どのようなとき」に支給可能性があるのかを把握し、受給可能性があるものについて詳細(後述する厚生労働省のホームページやパンフレットを参照)を見ていくとよいであろう。 また、これから触れる各助成金の参考資料リンク内に「各雇用関係助成金に共通の要件等」の表示がある。これについては次の【参考1】【参考2】を参照していただきたい。   (1) 事業所内保育施設設置・運営等支援助成金 労働者のための事業所内保育施設を設置する会社等に対し、その設置、運営、増築に係る費用の一部を助成する制度である。   (2) 子育て期短時間勤務支援助成金 就業規則等により子育て期の労働者が利用できる短時間勤務制度を設け、労働者に利用させた会社に対して助成する制度である。   (3) 代替要員確保コース 育児休業取得者の代替要員を確保するとともに、育児休業取得者を原職復帰させた会社に対して助成金を支給する制度である。   (4) 休業中能力アップコース 育児休業又は介護休業中の労働者に対する休業後の再就業を円滑化するための能力の開発及び向上に関する措置を講じた会社に対して、助成金を支給する制度である。 休業期間が長期化するほど職場復帰の際に不安を抱く従業員もいると思われるが、在宅講習を対象とする助成もあるため、円滑な職場復帰の支援策を採るときに活かしていただきたい。 なお、このコースも(3)と同様に、中小企業を対象とするものである。   (5) 期間雇用者継続就業支援コース 有期契約労働者(期間雇用者)について、通常の労働者と同等の要件で育児休業を取得させて育児休業終了後原職復帰させ、あわせて職業生活と家庭生活との両立を支援するための研修等を実施する会社に対して助成金を支給する制度である。 なお、このコースも(3)(4)と同様に、中小企業を対象とするものである。   4 キャリアアップ助成金(短時間正社員コース)の概要 短時間正社員への転換や新たな雇入れを行う会社に対して助成するものであり、主にワーク・ライフ・バランスの観点から正規雇用労働者を短時間正社員に転換するケースや、短時間労働者を短時間正社員に転換するケースなどを想定した助成金である。   5 助成金情報を取得できるリンク集 本文中に両立支援に関する助成金の参考資料(リンク)を案内したが、雇用に関する助成金はその他にも設けられている。 新たな労働者の雇入れ、職場環境の改善、平成25年4月から引き上げられた障害者雇用率(参考:厚生労働省リーフレット)に対応した障害者雇用を行う際など様々な場面で利用し、会社の発展や有能な労働者の確保、能力開発に役立てていただきたい。 ■「雇用関係助成金」検索表 ■事業主の方のための雇用関係助成金 ■平成25年 雇用関係助成金パンフレット(簡略版) ※PDFファイル ■平成25年 雇用関係助成金パンフレット(詳細版)   6 おわりに 助成金は支給条件や支給額など内容変更が行われることが多く、期限付きで実施されるものもあるため、活用の際は定期的に厚生労働省サイトを確認し、最新情報をキャッチしていくことをお薦めしたい。 また、本文中に触れたが、実施予定のない計画策定や実態と異なる内容を記載した支給申請が不正受給と判断され、企業名公表や不正受給額返還の対象となることがある。 自社の制度を充実させることより、「助成金を得る」ことが主目的となるような制度の変更は避けておきたい。 次回(最終回)は、引き続き助成金(労働者の処遇や職場環境の改善を図るときのもの)を取り上げていく予定である。 両立支援制度と並行して社内での働き方や評価制度の見直し、待遇改善等を行う場合には支給対象となることがあるため、活用を検討していくとよいであろう。 (了)
#24(掲載号)
#佐藤 信
2013/06/20
労務・法務・経営 経営

改正金融検査マニュアルのポイントと中小企業へ与える影響 【第2回】「金融機関に求められるものとは?」

改正金融検査マニュアルのポイントと 中小企業へ与える影響 【第2回】 「金融機関に求められるものとは?」   OAG税理士法人 税理士 山下 好一   今回の金融検査マニュアル等の改正により、金融庁が金融機関に対して求めている内容は、以下のとおりである。   1 金融機関による円滑な資金供給の促進 金融機関は、中小企業等の借り手の状況をきめ細かく把握し、他業態も含め関係する他の金融機関等と十分連携を図りながら、円滑な資金供給や貸付けの条件の変更等に努めることが求められる。 特に金融機関は、株式会社地域経済活性化支援機構法第64条の規定の趣旨を十分に踏まえ、地域経済の活性化及び地域における金融の円滑化などについて、適切かつ積極的な取組みが求められる。   2 中小企業等に対する経営支援の強化 中小企業等の事業拡大や経営改善等に当たっては、まずもって、当該企業の経営者が自らの経営の目標や課題を明確に見定め、これを実現・解決するために意欲を持って主体的に取り組んでいくことが重要である。 金融機関は、資金供給者としての役割にとどまらず、必要に応じて、外部専門家・外部機関等とのネットワークを活用し、経営再建計画の策定支援、貸付けの条件の変更等を行った後の継続的なモニタリング、経営相談、指導といったコンサルティング機能を発揮することにより、顧客企業の主体的な取組みに向けた自助努力を、最大限支援していくことが求められている。 特に、貸付残高が多いなど、顧客企業から主たる相談相手としての役割を期待されているメインバンクについては、コンサルティング機能をより一層積極的に発揮し、顧客企業が経営課題を認識した上で経営改善、事業再生等に向けて自助努力できるよう、最大限支援していくことが期待される。 このような顧客企業と金融機関双方の取組みが相乗効果を発揮することにより、顧客企業の事業拡大や経営改善等が着実に図られるとともに、顧客企業の返済能力が改善・向上し、将来の健全な資金需要が拡大していくことを通じて、金融機関の収益力や財務の健全性の向上も図られるという流れを定着させていくことが重要である。 金融機関のコンサルティング機能は、顧客企業の経営課題を把握・分析した上で、適切な助言などにより顧客企業自身の課題認識を深めつつ、主体的な取組みを促し、同時に、最適なソリューションを提案・実行する、という形で発揮されることが一般的であるとみられる。 金融機関に期待される顧客企業に対するコンサルティング機能は、顧客企業の状況や金融機関の規模・特性等に応じて種々多様で、各金融機関において自らの規模・特性、利用者の期待やニーズ等を踏まえ、自主的な経営判断により決定されるべきものであり、金融機関に対して、これら全てを一律・網羅的に求めるものではないとされている。 と、このような内容になっている(「主要行等監督上の評価項目」Ⅲ-5)。 健全な事業を営む顧客に対し、必要な資金を円滑に供給することは、金融機関の最も重要な役割の一つである。したがって、金融機関には、金融仲介機能を積極的に発揮していくことが期待されている。 一方で、金融機関は、金融仲介機能を積極的に発揮していくため、健全な財務基盤と強固で包括的なリスク管理が必要となる。 したがって、金融機関は、このようなコンサルティング機能を発揮することで、リスク管理を行うことができるとともに、財務の健全化も図られるのであるから、積極的に取り組むものと考えられる。 このような金融機関の積極的な支援について、金融検査マニュアル等にもあるように、中小企業等の主体的な取組みがなければ、返済等猶予などの貸付条件の変更等も単に延命措置となってしまい、どのような支援を受けようが経営再建には至らないことを、中小企業等の経営者は認識する必要がある。 なお、金融機関は、新規融資や貸付条件の変更等の相談・申込みに対する顧客説明の適切性・十分性の確保が求められており、これらを謝絶する場合、顧客の理解と納得を得ることを目的とした説明を行わなければならない。 謝絶理由に納得ができない場合、納得できるまで説明を求め、それでも納得できる理由が得られない場合には、金融庁の金融サービス利用者相談室など、「各相談窓口」に相談することもできる。 金融庁に寄せられた相談については、定期的な立入検査の際に、情報として有効に活用している。この場合、社名を伏せるなど、相談者を特定できないようにすることも可能である。 中小企業の積極的な取組みに対しては、金融機関による金融円滑化以外にも、たとえば、経営計画の策定などに係る費用に対する補助金の支援など、「中小企業金融円滑化法の期限到来に当たって講ずる総合的な対策」にあるような支援策が用意されている。 中小企業は、これらの支援策を有効に活用すべきである。 (了)
#24(掲載号)
#山下 好一
2013/06/20
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会計事務所の事業承継~事務所を売るという選択肢~ 【第6回】「計算例でみる会計事務所の価値評価」

会計事務所の事業承継 ~事務所を売るという選択肢~ 【第6回(最終回)】 「計算例でみる 会計事務所の価値評価」   公認会計士・税理士 岸田 康雄    1 後継者がいない会計事務所の価値評価 会計事務所のM&Aでは、その譲渡対象のほとんどは、顧客との顧問契約や職員の雇用契約といった無形資産である。 無形資産の譲渡といっても、財産評価基本通達によれば「営業権を認識しない。」とされているため、当事者間の交渉を通じて、「斡旋料」が時価で支払われることになる。 後継者(親族内)がいない場合の会計事務所の価値評価を考えてみよう。 所長は、M&Aを行わなければ、引退と同時に廃業することになる。それゆえ、所長が引退するまでの数年間の所得しか獲得することができず、後継者に引き継ぐべき事業価値は実現できないことになる。 ここで、65歳で引退すると考えている所長が、60歳で会計事務所を売却すると仮定する。すなわち、キャッシュ・フロー(=税引後利益と税引後給与)を毎年1,500万円、5年間だけ獲得できるという設定である。 この場合の事業価値の評価については、業界慣行では経常売上高の1年分とされているものの、理論的には5年分のキャッシュ・フローの割引現在価値を計算しなければならない。ここでは割引率15%を適用する。 【計算例】 5年後に所長が引退する会計事務所の価値 以上のように、DCF法によって評価すれば、事業価値は5,000万円となる。 とすれば、今すぐ5,000万円の現金を受け取ることができるようなM&Aが実行できるならば、売ってしまっても同水準の価値が実現する。本連載第2回で既述したように、会計事務所を譲渡した対価は税務上「雑所得」で総合課税となるから、仮に所得税率を50%とすれば、1億円で取引を実行すれば5,000万円の現金が手元に残る。 したがって、M&Aを実行するかどうかの判断基準は1億円となり、これを超える買収価格が買い手から提示されれば売却してもよいという判断になるだろう。   2 後継者がいる会計事務所の価値評価 以下のような、簡略化したDCF法の計算モデルを使って、会計事務所をM&Aで売却すべきか否かの判断の基準を検討してみたい。 一般的に会計事務所の営業利益率は、30%~50%といわれている。そこで、以下の計算モデルでも、税引前営業利益率を50%と仮定する。 もちろん、地方に行けば行くほど利益率が高くなり(→50%)、競争の厳しい首都圏の事務所になると利益率は落ち込む傾向にあるため(→30%)、50%の営業利益率の会計事務所は、地方にあることをイメージすればよい。 【計算例】 会計事務所(個人)の損益計算書 ここでの税引後利益(事業所得から所得税を支払った後の手取額)は1,500万円となっているが、1,500万円は所長が現場で働くことを前提とした利益である。それゆえ、真の収益力を測るためには、所長の労働の対価を、機会費用として考慮しなければならない(他の会計事務所で働けば給与所得があると想定されるため)。 そこで、所長の労働の対価が税引後500万円であると仮定し、毎年の税引後の実質的なキャッシュ・フローを1,000万円と測定しよう。 とすれば、税引後のキャッシュ・フローは1,000万円、実質的な純利益率が17%となる。 概ね妥当な利益率であろう。 税理士業務の営業権は、既述のように評価されない。すなわち、非課税で後継者へ引き継ぐことができるため、将来キャッシュ・フローを見積もる際には相続税の支払いを考慮する必要はない。それゆえ、親族内の後継者が相続することを前提とした場合の会計事務所の価値は、将来キャッシュ・フローが永久に親族内で引き継がれるものとして評価することができるだろう。 ここで、キャッシュ・フローの成長率をゼロ、会計事務所の親族内承継が永久に繰り返されることを想定すれば、税理士業務の価値は以下のように評価される。 【計算例】 後継者への相続を前提とした価値評価 適用すべき割引率が問題となるが、仮に15%を適用するならば、毎年の実質キャッシュ・フローが1,000万円の会計事務所の事業価値は、6,667万円となる。 そこで、後継者(親族)がいるにもかかわらず、承継せずにM&Aで第三者へ売却する場合を考えてみよう。上記の計算モデルに従って売却価格を考えると、以下のようになる。 親族内承継かM&Aかを選択できる売り手の立場としては、税引後6,667万円を上回る価格提示があったならば、売却してもよい。すなわち、税率50%を前提とすれば、税引前の価格で1億3,000万円(=6,667万円÷(1-50%))であれば、M&Aを決断することができる。 これに対して、税理士法人である買い手が買収した後に獲得できる将来キャッシュ・フローを考えてみると、資産調整勘定の償却による節税効果を享受することができる。 実際のところ、会計事務所には引き継ぐ有形資産はほとんどないから、買収対価のほとんどが資産調整勘定として評価されることとなるだろう。その一方で、買収した会計事務所の業務を引き継ぐために、買い手から新しい管理者を配属させなければならない。そのための人件費がかかるため、ここでは700万円の追加費用を認識しよう。 【計算例】 買い手にとってのキャッシュ・フロー ※画像をクリックすると、別ウィンドウで拡大表示されます。 この計算モデルでは、単純化して、2011年度から2015年度にかけて、資産調整勘定の償却によって節税効果が効いてくるものとしている。 このキャッシュ・フローに対してDCF法を適用した場合、以下のような事業価値が計算される。 【計算例】 買い手が実現する事業価値 割引率はここでも同じく15%を適用すれば、その事業価値は1億3,000万円となる。すなわち、買い手は1億3,000万円までの買収価格を提示することができる。ちなみに、買収価格1億3,000万円とする場合、業界慣行である経常売上高マルチプルで評価すれば2.9倍となり、かなり高い評価となる。 以上、まとめると、売り手である個人税理士は6,667万円を超える売却価格であれば売ってもよいと考えるのに対して、買い手である税理士法人は1億3,000万円を下回る買収価格であれば買ってもよいと考える。 それゆえ本事例の場合、この両者の交渉によって合意した中間の価格で取引が成立するということになる。 (連載了)
#24(掲載号)
#岸田 康雄
2013/06/20
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〔税理士・会計士が知っておくべき〕情報システムと情報セキュリティ 【第4回】「経営者のIT導入の悩みに応える5つの視点」

〔税理士・会計士が知っておくべき〕 情報システムと情報セキュリティ 【第4回】 「経営者のIT導入の悩みに応える 5つの視点」   公認会計士 五島 伸二   経営者が抱えるIT導入に関する悩みとは? 多くの経営者は、自社のIT導入に関して多くの悩みを抱えている。 とりわけ多額の投資を必要とするERPや会計システムなど、基幹システムの導入についての悩みは大きい。 「コストがかかりすぎるような気がする」 「パッケージや導入ベンダーの選定は正しかったのか?」 「過去にIT導入で多額の損失を出したが、今回は大丈夫だろうか?」 など、その悩みはさまざまであるが、中小・中堅企業では社内に相談できる相手もいないのが実情である。   経営者のIT導入の悩みにどう応えるか? そんな背景もあり、日ごろから経営者の抱えるさまざまな経営上の悩みに応えている公認会計士や税理士などのプロフェッションは、経営者からIT導入に関する相談を受けることがある。 では、経営者からIT導入に関する相談を受けた場合、どのように対応すればよいだろうか? 筆者の知人の公認会計士は、そういった相談に乗るのを極力避けるようにしているそうだ。 知人曰く「ITは専門外でよく分からない。相談に乗って間違った助言をしてしまったら、一気に信用を失うからね」とのこと。 しかし、経営者は、公認会計や税理士にITの専門家としての意見を求めているわけではない。経営や管理の専門家としての見解が聞きたくて、相談をもちかけているのである。 そういった点をふまえて、以下では、経営者のIT導入に関する悩みに応える時に必要な5つの視点を挙げてみた。 いずれも、筆者のこれまでのITコンサルティングの経験の中で感じたIT導入に失敗しないためのポイントである。なお、これら5つの視点は、中堅企業に基幹システムを導入する場合を想定している。   経営者のIT導入の悩みに応える5つの視点 【視点その1】 「ユーザー部門がIT導入に積極的に参画しているか?」 IT導入に際しては、まずはIT導入によって実現すべき業務を設計する。これを業務要件定義という。業務要件を定義したら、それをシステムの機能に落とし込む。これをシステム要件定義という。 業務要件が正しく定義できていないと、システム要件の定義が正しくできない。つまり、せっかくITを導入しても、システムが機能せず、新システムでやろうとしていた業務ができなくなるのである。 したがって、業務要件をきっちり詰めないうちに先に進むのは、とても危険である。 本稼動直前に行われるユーザー部門の受入テストの段階で重大な「要件漏れ」が発覚して、手戻りが頻発するといった状況になりかねない。 そのためには、ユーザー部門がIT導入の最初からに積極的に参画し、自分たちが何をやりたいのか、どうすればIT導入の効果が出るのかを業務要件に明確に反映させる必要がある。 ユーザーの参画が不十分なIT導入プロジェクトは、失敗する可能性が極めて高くなる。 【視点その2】 「ユーザー部門の要求に応えすぎていないか?」 前項と矛盾するようだが、ユーザー部門の要求に過度に応えないというのも重要なポイントである。 これは、例を挙げると、営業アシスタント職が長年にわたって培った細かな業務手順をすべて要件に取り込もうとしたり、年に数回しか見ない帳票を作ったりするようなことである。 IT導入にユーザー部門の参画は必須ではあるが、これは、ユーザー部門の要求をすべて要件に取り入れるということではない。そのようなことをすると、システム化の範囲が広がりすぎて、コストや工数が膨れ上がり、IT導入プロジェクトが途中で頓挫しかねない。 IT導入において、何を実現して何を捨てるかを判断するには、「割り切り」が必要になる。 では、どうやって割り切ったらいいのだろうか? そこで重要となるのが、ITの導入目的の明確化である。 IT導入の目的とは、業績評価制度の改善、販売情報の共有推進、在庫管理の効率化など、IT導入で実現すべき項目のことである。 IT導入の目的を明確にすることで、その目的に照らしてどこまでの要件を取り込むのか、何を優先し、何を後回しにするかといったことに関する判断の軸ができる。その軸を基準にして割り切るのである。 【視点その3】 「費用対効果を求めすぎていないか?」 システム化の可否や範囲を決める際、IT投資の費用対効果は重要な判断基準と考えられている。 しかし、例えば基幹システムの導入などは、いわばインフラ投資なので費用対効果は明確に算定できない。 そのため、あまりに費用対効果にこだわってIT導入を進めると、IT導入で本当に解決しなければならない経営課題が解決されないといったことになりかねない。 ITコンサルタントの間でよく話題になるのは、日本企業のIT投資に関する意思決定の遅さである。 費用対効果などと言っているうちに、アジアのライバル企業はさっさとERPを導入して全社ベースの情報基盤を構築し、グローバルなサプライチェーン管理を実現していたりする。 費用対効果を無視することはできないが、ITで何を実現すべきかの絶対的なよりどころにするのではなく、大まかに算定して、あくまでも参考として取り扱うべきである。 【視点その4】 「プロジェクトリーダーの人選は正しいか?」 IT導入に関して、プロジェクトのリーダーの選定は非常に重要である。 筆者の経験でも、プロジェクトリーダーの人選がプロジェクトの円滑な進行にかなり大きく影響しているといえる。 プロジェクトリーダーの人選を誤ると、システムベンダーを使いこなさなければならない立場なのにベンダーの言いなりになってしまっていたり、各部門からの要求を丸のみして要件を膨れ上がらせたりと、リーダーが本来の機能を果たさず、プロジェクトの混乱の原因になる可能性が高い。 IT導入プロジェクトのリーダーは、通常、経営企画室や情報システム部門から選定されることが多いが、所属部門にこだわらず、チームをまとめあげる能力があって本当に「やりきれる人」を人選することが肝要である。 【視点その5】 「トップダウンで進めているか?」 冒頭で述べたように、経営者はIT導入に対して多くの悩みを抱えている。しかし、実際に経営者自身がIT導入に強力に関与して進めている例は少ない。 むしろ、「自分はITに疎いので、IT導入はすべて担当者に任せている」という経営者が多い。 しかし、考えてみてほしい。 経営者が「自分は会計に疎いので、決算書のことはすべて担当者に任せている」と発言したら、どうであろうか? そのような会社には誰も投資しないし、銀行もお金を貸してくれないだろう。 ITも会計も経営の問題であり、その意味で経営者自身が第一番目の担当者のはずである。 それゆえに、IT導入は経営者が関与してトップダウンで進めていくことが重要である。 IT導入をトップダウンで進める最大の利点は、導入がスピードアップすることである。 逆に、IT導入をボトムアップで進める、すなわち、関係する多くの部門から出される要求を調整しながら進めていくのは、この変化の激しい時代には大きなリスクを抱え込むことになる。 なぜなら、ボトムアップで進めると導入に時間がかかり、導入が完了したときには経営環境が変化していてIT資産の陳腐化が進んでしまっていたという結果になりかねないからである。   経営者のよき相談相手として 以上、プロフェッションが顧客のIT導入に関して相談に乗る場合に有効な5つの視点を挙げた。 IT導入に悩む経営者の相談に乗る場合は、これらの視点を念頭に経営者と話をすることで、顧客企業が抱えているIT導入の課題を明らかにすることができるであろう。 (了)
#24(掲載号)
#五島 伸二
2013/06/20

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