建設業が危ない!
労務トラブル事例集・
社会保険適用の実態
【第1回】
「社会保険加入の現状」
なりさわ社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士 成澤 紀美
1 建設業における社会保険未加入問題
建設業は、上位の工事発注元から下位の一人親方・職人まで、複数の下請構造となっており、末端になればなるほど小規模零細事業者・個人事業主となることから、労災保険・雇用保険・健康保険等の保険への未加入が多い業種といえる。
労災保険は、業務上での様々な事故が多いことから加入率も高いが、一方で、業務上の事故が発生した際には、保険料率が上がることを避けたいがために、元請事業者が下請事業者に自身の保険利用を強制するなどの不正もしばしば見受けられる。
2 建設国保とは
建設業の健康保険・厚生年金保険については、全国建設工事国民健康保険組合(以下「建設国保」)という制度がある。
これは全国の大工・とび・土木・造園・左官・板金などの建設工事業に従事する者が加入できる保険制度として、昭和45年6月に設立されたもので、通常の健康保険に比べると保険料が安いという特徴がある。
加入資格は、建設工事業に携わっている個人事業所又は一人親方が原則となる。ただし、株式会社などの法人事業所や常時5人以上の従業員を雇用している個人事業所は、健康保険(協会けんぽなどの被用者保険)と厚生年金保険に加入することが義務づけられているが、すでに建設国保に加入している者は、日本年金機構に手続を行い「健康保険適用除外」の承認を受けることで、引き続き建設国保に加入することになっている。
3 平成24年10月調査における加入状況
では現実に、どの程度の加入状況となっているのか。
平成24年10月調査の「公共事業労務費調査における保険加入状況調査の結果」によると、企業別では雇用保険の未加入企業は5%、健康保険の未加入企業は11%、厚生年金保険の未加入企業は11%となっている。
労働者別(一般の被保険者、日雇い、短期雇用)では、雇用保険の未加入は25%、健康保険の未加入は39%、厚生年金保険の未加入は40%となっており、4割が健康保険・厚生年金保険へ加入していないという状況になる。
元請・下請別での加入率でみると、元請79%、1次下請55%、2次下請以下は46%と、下請になるほど加入率は低くなり、年齢別では24歳以下で平均54%程度、65歳以上では50%以上が未加入という状況である。
都道府県別でみると、全国平均で58%に対し、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の都市部での加入率が38%程度と加入率が低い。
職種別では、関連職種平均で58%に対し、とび工・鉄筋工・型枠工は43%程度と加入率が低くなる。これは小規模事業所や個人事業主比率が高い職種での加入が低い傾向につながると考えられる。
社会保険への加入がされていない状況は、技能労働者に対する処遇が低い状況でもあり、万が一、ケガや病気になった際に、適正に保険を利用することができず、健康保持ができない状況が続くと持続的な発展に必要な人材が確保できず、業界全体の発展にも影響することから、行政では5年計画で社会保険加入推進を掲げている。
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次回は、なぜこのように社会保険未加入が多い状況となっているのかをお伝えしたい。
「公共事業労務費調査(平成24年10月調査)における社会保険加入状況調査結果について」
(了)