IFA総会にみる日本の問題点
川田
村井先生は、IFAの総会にはかなり前から出ておられたんですか。
村井
1989年からです。その時はブラッセル開催でした。ちょうど関西大学とルーヴァンにあるカトリック・ルーヴァン大学とが交流していて、ルーヴァン大学のバニステンデール(Frans Vanistendael)教授がベルギーから来て、レードラーも来るのを知っていましたので、当時ヨーロッパでもドイツ以外の国にはあまり行ったことがなかったので、参加することにしました。それからまたいろいろな交流が広がったんですね。それからIFAはほぼ毎年出ています。
川田
その当時出ておられた日本人は、非常に少なかったんでしょうね。
村井
覚えているのは宮武敏夫さんと大塚正民さんぐらいです。日本人はそういう国際的な場にはあまり行かないので、レードラーも私によく「ただ行くだけでも、参加するだけでもいいから、日本人はもっと税の国際会議に出るべきだ」と言っていました。
川田
私も出席し始めたのは最近なんですけど、大変勉強になりますね。特に若い人にはぜひ行ってほしい。推薦人が2人いれば、税理士など実務家でもいいし、学者でもいい。基本的に制約はないんですね。諸外国からは、若い方がけっこう参加しているんですよね。日本の若い人にもぜひ参加していただきたいですね。
村井
川田先生がおっしゃるように、日本は今でも世界第3の経済大国なんだけど、そういう場でなぜ日本人は少ないのかというジレンマはあります。
実は2007年のIFA第61回総会は京都でやったんですが、そのとき感じたヨーロッパとの違いは、ああいう国際会議を開いたときに、欧米では企業がものすごくサポートするんですね。どんどん寄付をする。
川田
たしかにそうですね。
村井
私は関西の企業に応援を頼もうと思って、関経連に紹介してもらって企業訪問へ行ったのですが、「私の会社は税金は関係ありません」とか言われて、がっかりした記憶があります。
やはり、学者が学会をやるときの日本の環境というのは、欧米に比べるととてもやりづらい。ドイツだと何かの学会をやるとなれば、すぐに企業がサポートしてくれるんです。
川田
うらやましいですね。そのような差が出るのは文化の違いなんでしょうか。
村井
そうかもしれません。
川田
ヨーロッパでは、学者と企業の交流が盛んなのでしょうか。
村井
そうだと思います。IFAの大会では、寄付をした企業の名前が表示されるのですが、見ると、その国の代表的な企業が寄付しているんですね。当然、お金もたくさん集まる。
それからもう1つ面白いと思った違いは、例えばミュンヘンでIFAをやったときに、すでに京都開催が決まっていましたのでいろいろ調べていたのですが、ミュンヘン市がIFAの参加者に、市バスなどの1週間無料券をくれるんです。それから美術館などの施設についても、IFAの会員というだけでディスカウントしてくれたりする。
そういうことを見たので、京都市にもそれを言ったんですけどね、残念ながらできなかった。
川田
そういう理解があると、運営する側は助かりますよね。参加者からみた印象もずいぶん違うと思います。
研究者を大切にする国
村井
ドイツは世界で一番研究者を大切にする国だと思います。
例えば今年7月に、ミュンヘンのマックス・プランク研究所に招ばれて1ヶ月滞在するんですね。マックス・プランク研究所というのは自然科学が主で、租税法の研究所はまだできて10年ぐらいです。その予算は、すべて政府がもっている。それで、私みたいな年配者でも、滞在期間中、奨学金をくれるんですよ。
川田
奨学金ですか。うらやましいですね。
村井
つまり国籍や年齢を一切問わないで、学問に対して最大のリスペクトを与える。先ほどお話した北川善太郎さんもハーバード大学でずっと講義をしていたしドイツの大学でも講義をしたけど、比較するとやはりドイツが世界で一番研究者を大切にするということを言っていました。
ドイツ、スイス、オーストリアと3つの国が国境を接しているボーデン湖(Bodensee)という湖があるんですが、そこのドイツ側にリンダウ(Lindau)という町があって、そこで最近、毎年何をやっているかというと、ドイツ政府とスウェーデン王室が組んで、ノーベル経済学賞の受賞者を全員呼んでいるんですね。
何を考えているかといったら、そこにドイツの若い研究者を行かせて、ノーベル賞の受賞者と交流させる。それで、今はアメリカがノーベル賞を独占しているのですが、またかつてのように、ドイツが巻き返しに出るという取組みなんですね。ちなみにスウェーデン王室はボーデン湖ドイツ領にあるマイナイ島を所有しています。あるいは「第二のダボス」をねらっているとも憶測されています。
川田
初めて伺いました。素晴らしいし、壮大な話ですね。
村井
それぐらいのことを国がやっているということです。
川田
なるほど。村井先生のように、海外でのご経験がないと気づかないお話ですね。
立場を離れた議論を行うべき
川田
ところで、それほどまでにいかないとしても、身近なところで日本が抱える問題点のようなものはあるのでしょうか。
村井
そうですね。日本では、様々な立場を離れた議論の場がやや少ないと思います。
例えば大阪国税局の中で毎月研究会をやっていまして、そこには裁判官や訟務検事等も参加してくれるのですが、先ほどお話したフォーゲル・ゼミの状況と比較すると、裁判官も国税の人も、ほとんど自分の意見を言わない。
川田
そうかもしれませんね。私見であっても、もっとぶつければいいと思うのですが。
村井
だから私は議論を引き出す役割で、「今日は皆さん方、自分の立場を離れて言ってくださいね」と誘導するんだけども、なかなか難しいですね。辛うじて話をしてくれることもありますが、やはり自分のポジションの枠でしか物を言わないという感じで。
ただし、逆にレードラーが日本の国税庁に行っていろいろ日本の制度について質問するでしょう。そうしたら、外国人に対しては結構オープンにしゃべっているらしい。「日本の国税庁はオープンですね」と言われたりするんです。
川田
なるほど。確かに、おっしゃるように外国人に対しては割合オープンですね。税務大学校でも、もっと海外の大学の人たちを呼んで話をしてもらったほうがいいのかもしれませんね。
(後編(4/23公開)へ続く)