公開日: 2015/07/02 (掲載号:No.126)
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『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)』への対応ポイント 【第1回】「公開草案の読み方」

筆者: 阿部 光成

『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)』への

対応ポイント

【第1回】

「公開草案の読み方」

 

公認会計士 阿部 光成

 

平成27年5月26日、企業会計基準委員会は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」(企業会計基準適用指針公開草案第54号。以下「公開草案」という)を公表し、意見募集を行っている(意見募集期間は、平成27年7月27日まで)。

公開草案は、現行の「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(日本公認会計士協会。以下「監査委員会報告第66号」という)を、基本的に引き継ぐものであるが、新たに規定された部分については、実務に大きく影響するものと考えられる。

なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅰ 公開草案を読むときのポイント

前述のように、公開草案は、監査委員会報告第66号の内容を引き継ぐ部分と新たに規定する部分に分かれている。

公開草案を読む場合には、次の2つのことに注意するとその趣旨を理解しやすくなるものと思われる。

 「踏襲している」と記載されている部分(監査委員会報告第66号を引き継いでいる部分の説明)

 「結論の背景に示された例示」(特に、新たに規定された部分に関する例示)

 

Ⅱ 定義

定義では、「一時差異等加減算前課税所得」がポイントになると考えられる(公開草案3項(9))。

「一時差異等加減算前課税所得」とは、将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額(及び該当する場合は、当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額)を除いた額をいう。

将来の収益力を基礎として繰延税金資産の回収可能性を判断する場合、将来減算一時差異については、将来、発生する課税所得を減額する効果をもつことになる(公開草案3項(3))。

このときの課税所得の見積りに、将来減算一時差異などを加減するのかどうかについては、「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果実務指針」という)21項において、次のように規定されている。

将来の課税所得の見積りに関して、本項で述べる課税所得とは、当期末に存在する将来加算(減算)一時差異のうち、解消が見込まれる各年度の解消額を加算(減算)する前及び当期末に存在する税務上の繰越欠損金を控除する前の繰越期間の各年度の所得見積額である。

公開草案では、「一時差異等加減算前課税所得」の定義を設けて、内容を明確にしており、将来において当期末に存在する将来減算一時差異を解消するために必要な課税所得が生じるかどうかを判断するために、将来に関する要件に関して用いている(公開草案57項)。

「一時差異等加減算前課税所得」の算定方法については、[設例1]が設けられているので、ぜひ、お読みいただきたい。

 

Ⅲ 繰延税金資産の回収可能性の判断等

基本的に、従来の考え方を踏襲している。

 繰延税金資産の回収可能性の判断における回収可能性の水準に関する基本的な考え方(一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと見込まれるかどうかなど。公開草案6項、58項)

 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順(公開草案11項、60項)

 スケジューリング不能な将来減算一時差異の取扱い(公開草案13項、61項)

公開草案の公表に際して、「【参考】公開草案と監査委員会報告第66 号等の比較」が公表されている。

当該【参考】を読むと、多くの事項が改正されているように思われるが、上記のように、基本的には、監査委員会報告第66号などを踏襲していることが理解できると思われる。

このため、「踏襲している」や「見直さないこととした」などの説明が付されている事項については、実務に対して大きな影響は与えないものと思われる。

 

Ⅳ 会社分類の枠組み

監査委員会報告第66号は、過去の業績等に基づいて、会社を例示区分に分類し、将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を判断することとしている。

公開草案は、次のように規定し、監査委員会報告第66号における企業の分類に応じた取扱いの枠組みを基本的に踏襲した上で、当該取扱いの一部について必要な見直しを行っている(公開草案15項、63項)。

公開草案15項

収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等に基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断する際に(第6項参照)、第16項から第32項に従って、要件に基づき企業を分類し、当該分類に応じて、回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定する。

公開草案16項

なお、第17項、第19項、第22項、第26項及び第30項に示された要件をいずれも満たさない企業は、過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移、当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み、将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類する。

監査委員会報告第66号では、例示区分に直接該当しない場合であっても、それぞれの例示区分の趣旨を斟酌し、会社の実態に応じて、それぞれの例示区分に準じた判断を行う必要があると規定している(5(1))。

前述のように、公開草案は、企業を分類する要件を規定したが、分類の実行可能性の観点から、必要と考えられる分類の要件を示しているので、各要件のいずれも満たさない企業が存在することが考えられる(公開草案64項)。

当該企業については、諸事情を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類することとなる(公開草案16項)。

(了)

※第2回は7/9に公開されます。

『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)』への

対応ポイント

【第1回】

「公開草案の読み方」

 

公認会計士 阿部 光成

 

平成27年5月26日、企業会計基準委員会は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」(企業会計基準適用指針公開草案第54号。以下「公開草案」という)を公表し、意見募集を行っている(意見募集期間は、平成27年7月27日まで)。

公開草案は、現行の「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(日本公認会計士協会。以下「監査委員会報告第66号」という)を、基本的に引き継ぐものであるが、新たに規定された部分については、実務に大きく影響するものと考えられる。

なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅰ 公開草案を読むときのポイント

前述のように、公開草案は、監査委員会報告第66号の内容を引き継ぐ部分と新たに規定する部分に分かれている。

公開草案を読む場合には、次の2つのことに注意するとその趣旨を理解しやすくなるものと思われる。

 「踏襲している」と記載されている部分(監査委員会報告第66号を引き継いでいる部分の説明)

 「結論の背景に示された例示」(特に、新たに規定された部分に関する例示)

 

Ⅱ 定義

定義では、「一時差異等加減算前課税所得」がポイントになると考えられる(公開草案3項(9))。

「一時差異等加減算前課税所得」とは、将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額(及び該当する場合は、当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額)を除いた額をいう。

将来の収益力を基礎として繰延税金資産の回収可能性を判断する場合、将来減算一時差異については、将来、発生する課税所得を減額する効果をもつことになる(公開草案3項(3))。

このときの課税所得の見積りに、将来減算一時差異などを加減するのかどうかについては、「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果実務指針」という)21項において、次のように規定されている。

将来の課税所得の見積りに関して、本項で述べる課税所得とは、当期末に存在する将来加算(減算)一時差異のうち、解消が見込まれる各年度の解消額を加算(減算)する前及び当期末に存在する税務上の繰越欠損金を控除する前の繰越期間の各年度の所得見積額である。

公開草案では、「一時差異等加減算前課税所得」の定義を設けて、内容を明確にしており、将来において当期末に存在する将来減算一時差異を解消するために必要な課税所得が生じるかどうかを判断するために、将来に関する要件に関して用いている(公開草案57項)。

「一時差異等加減算前課税所得」の算定方法については、[設例1]が設けられているので、ぜひ、お読みいただきたい。

 

Ⅲ 繰延税金資産の回収可能性の判断等

基本的に、従来の考え方を踏襲している。

 繰延税金資産の回収可能性の判断における回収可能性の水準に関する基本的な考え方(一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと見込まれるかどうかなど。公開草案6項、58項)

 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順(公開草案11項、60項)

 スケジューリング不能な将来減算一時差異の取扱い(公開草案13項、61項)

公開草案の公表に際して、「【参考】公開草案と監査委員会報告第66 号等の比較」が公表されている。

当該【参考】を読むと、多くの事項が改正されているように思われるが、上記のように、基本的には、監査委員会報告第66号などを踏襲していることが理解できると思われる。

このため、「踏襲している」や「見直さないこととした」などの説明が付されている事項については、実務に対して大きな影響は与えないものと思われる。

 

Ⅳ 会社分類の枠組み

監査委員会報告第66号は、過去の業績等に基づいて、会社を例示区分に分類し、将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を判断することとしている。

公開草案は、次のように規定し、監査委員会報告第66号における企業の分類に応じた取扱いの枠組みを基本的に踏襲した上で、当該取扱いの一部について必要な見直しを行っている(公開草案15項、63項)。

公開草案15項

収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等に基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断する際に(第6項参照)、第16項から第32項に従って、要件に基づき企業を分類し、当該分類に応じて、回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定する。

公開草案16項

なお、第17項、第19項、第22項、第26項及び第30項に示された要件をいずれも満たさない企業は、過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移、当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み、将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類する。

監査委員会報告第66号では、例示区分に直接該当しない場合であっても、それぞれの例示区分の趣旨を斟酌し、会社の実態に応じて、それぞれの例示区分に準じた判断を行う必要があると規定している(5(1))。

前述のように、公開草案は、企業を分類する要件を規定したが、分類の実行可能性の観点から、必要と考えられる分類の要件を示しているので、各要件のいずれも満たさない企業が存在することが考えられる(公開草案64項)。

当該企業については、諸事情を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類することとなる(公開草案16項)。

(了)

※第2回は7/9に公開されます。

連載目次

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

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