有価証券報告書における作成実務のポイント 【第12回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 今回は、有価証券報告書のうち、【経理の状況】の【注記事項】退職給付関係とストック・オプション関係までの作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2025年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。 1 退職給付関係 退職給付制度がある場合、確定給付制度、確定拠出制度、複数事業主制度について注記が求められている。連結の注記であるため、連結子会社についても注記が必要であることから、連結子会社の退職給付制度についても情報を収集する必要がある。 また、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表においては注記不要である。 (1) 確定給付制度 確定給付制度については、以下の1から10を注記する。 【事例:旭有機材(株) 2025年3月期の有価証券報告書】 (2) 確定拠出制度 確定拠出制度については、以下の1から3を注記する。 【事例:岩谷産業(株) 2025年3月期の有価証券報告書】 (省略) (省略) (3) 複数事業主制度 複数事業主制度については、以下の1から2を注記する。 【事例:フジオーゼックス(株) 2025年3月期の有価証券報告書】 (省略) 2 ストック・オプション関係 ストック・オプションの情報について注記を記載する。親会社が付与したストック・オプションのみならず、連結子会社が付与したストック・オプションも注記対象である。 実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」に従って会計処理する場合、従業員等に対して付与された権利確定条件付き有償新株予約権も注記対象である。 なお、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表においては注記不要である。 (1) ストック・オプション、自社株式オプション又は自社の株式の付与又は交付に関する注記 (2) ストック・オプションに関する注記 【事例:(株)ノジマ 2025年3月期の有価証券報告書】 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第26回】 「職場における熱中症対策義務」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 熱中症の重篤化を防止するため、労働安全衛生規則が改正され、令和7年6月1日から施行されています。特定の条件下で働く労働者を対象とした熱中症対策が事業者の法的義務となります。 今回は、義務化された熱中症対策について、解説します。 * * 解 説 * * 1 労働安全衛生規則改正 労働安全衛生法では、「事業者は高温などによる健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない」と規定されています(労働安全衛生法22条2号)。 その必要な措置は労働安全衛生規則で定めるものとされ、今回の改正は、この規定を受けて、熱中症対策の具体的な内容が明記されました(労働安全衛生規則612条の2)。 2 義務化の対象となる作業条件 熱中症対策を義務とする作業について、作業環境と作業時間における条件が示されています。対象となるのは、以下の条件に該当する作業です。 〈作業条件〉 (※) 「WBGT値」とは、単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、気温だけでなく、湿度や輻射熱(地面や建物からの照り返しなど)も考慮して計算される数値のことです。より人体が感じる暑さに近い指標と言われており、WBGT値がWBGT基準値を超えると熱中症のリスクが高まり、身体作業強度の低い作業への変更、作業場所の変更などの対策が必要になります。WBGT値の実況と予測が環境省の熱中症予防サイトで確認でき、参考値を得ることができます。 3 事業者に義務付けられた措置 上記条件に当てはまる作業を行う事業者には、熱中症の重篤化を防止するため、「報告体制の整備」「実施手順の作成」「関係者(労働者)への周知」をすることが義務付けられました。 (1) 報告体制の整備 熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、「熱中症の自覚症状がある作業者」及び「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定めなければなりません。 (2) 実施手順の作成 熱中症のおそれがある労働者を把握した場合に、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を、事業場ごとにあらかじめ定めておかなければなりません。 実施手順には、次の事項を盛り込む必要があります。 〈実施手順の内容(例)〉 (3) 作業従事者への周知 事業者は、上記(1)の報告体制と(2)の実施手順を、作業に従事する者に確実に周知しなければなりません。 周知の方法については、法令では直接定められていませんが、厚生労働省の資料では、下記の方法が例示されています。 〈作業者への周知(例)〉 4 違反した場合の罰則等 義務化される熱中症対策を怠った場合、事業者には6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます(労働安全衛生法119条)。 また、重篤化した場合等は、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を問われる可能性もあります。 5 結びに 前述のとおり、熱中症対策義務は、企業規模・業種や作業内容が屋内か屋外かなどは問われません。条件に該当する作業を行う事業者は全てその対象となります。 そのため、建設業などの屋外作業が多い業種だけでなく、製造業等の工場や倉庫での作業を中心とする業種や、外出が多い営業職なども、作業条件に該当すればその対象となります。したがって、事業所の業務内容を確認する必要があります。 また、熱中症は重篤化すると命にかかわります。今回の義務化の対象となっていない作業であっても、熱中症対策は必要ですので、その予防や労働環境の現状把握(作業環境及び作業時間)に留意することが大切です。 (了)
〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第5回】 「外国人労働者を雇用する際の留意点」 〈製造業〔Q5〕〉 弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 中野 博和 【Q】 当社では、新たに外国人労働者を雇用しようと考えています。外国人労働者を雇用する場合の留意点を教えてください。 【A】 外国人を雇用する場合、不法就労助長罪が成立しないように在留資格を確認する必要があるなど、以下の解説にて紹介するとおり、様々な法規制がありますので、注意が必要です。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 ハローワークへの届出等 外国人、すなわち日本国籍を有しない者の雇入れ及び離職の際には、その氏名、在留資格、在留期間、生年月日、性別、国籍・地域、資格外活動許可又は報酬活動許可の有無及び在留カード番号をハローワークに届け出ることが必要である(労働施策総合推進法28条、同法施行規則10条~12条)。ただし、外国人であっても、特別永住者、又は在留資格が外交、若しくは公用である場合には、届出の必要はない。 ハローワークへ届け出る事項については、在留カードやパスポートなどにより確認することになる。 2 在留カードの確認 実際には当該外国人が必要な在留資格を有していないにもかかわらず、在留資格があること等を十分に確認しないまま雇い入れてしまったような場合、不法就労助長罪(入管法73条の2第1項)が成立し得る。 不法就労助長罪は、故意がある場合だけでなく、過失がある場合にも処罰の対象となる上(入管法73条の2第2項)、確認に当たって尽くすべき手段を全て尽くさなかった場合には、同罪における過失が認められるため、非常に過失が認められやすくなっている。 外国人の在留資格には、①就労が認められ、かつ活動範囲に制限がないもの、②就労が認められるが、活動範囲に制限があるもの、及び③就労が認められないものがある。ただし、就労が認められない在留資格についても、資格外活動許可(入管法19条1項、2項)を得れば、1週について原則として28時間以内(在籍する教育機関が学則で定める長期休業期間にあるときは、1日について8時間以内)といった活動時間の制限等、一定の範囲内で就労が認められる(入管法施行規則19条5項)。なお、この資格外活動許可(包括許可)については、副業等も含めて1週について28時間以内である必要があるため、副業の有無やその就労時間についても確認する必要がある。 そのため、在留期間の徒過により不法滞在となっているような場合だけでなく、適法な在留資格自体はあるものの、就労が在留資格に基づく活動範囲外である場合にも、その確認を怠れば、不法就労助長罪が成立し得る。 不法就労助長罪が成立する場合、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金又はその両方が科される可能性がある。なお、令和6年の入管法改正により、法定刑の上限が引き上げられ、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその両方が科されることになる。この入管法改正は、令和6年6月21日から3年以内に施行される予定である。 在留カードを見慣れていないため、どのように確認をすればよいのかが分からない場合もあるかもしれない。そのような際には、法務省の「「在留カード」及び「特別永住者証明書」の見方」において、在留カード番号や在留資格などの項目や偽造・変造の有無の確認方法が紹介されており、参考になる。また、在留カード等読取アプリケーションを活用することでも、偽造・変造の有無等を確認することができる。 なお、使用者が、外国人労働者の在留カードやパスポートを預かって保管することは、損害賠償請求の対象になる可能性がある(損害賠償請求事件・熊本地判令和3年1月29日判時2510号33頁など)ほか、当該外国人労働者が技能実習生の場合、本人の意思に反して在留カード、パスポートを保管したときは、技能実習法48条1項、111条5号、(育成就労制度に移行後は、育成就労法48条1項、111条5号)により6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処される可能性があるため、注意が必要である。 3 分かりやすい労働条件の明示 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない(労働基準法15条1項)。 厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年8月3日厚労告276号)では、労働条件の明示にあたり、モデル労働条件通知書やモデル就業規則を活用する、母国語等を用いて説明する等、当該外国人労働者が理解できる方法により明示するよう努めることと記載されている。この点については、あくまで努力義務にすぎないため、必ずこれに従わなければならないというわけではないが、日本語が不慣れな外国人を雇い入れる場合には、後のトラブルを未然に防止する観点から、厚生労働省のモデル労働条件通知書やモデル就業規則を活用するなど、労働条件等に関し労使双方に認識の違いが生じないようにしておくことが肝要である。 なお、モデル労働条件通知書及びモデル就業規則については、それぞれ厚生労働省のHPに掲載されている。 4 技能実習計画認定等の取消し 技能実習生を受け入れるためには、技能実習計画が認定される必要がある(技能実習法8条1項)ところ、技能実習計画が認定された後、「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき。」(技能実習法16条1項7号)に該当する事実が認められた場合、技能実習計画の認定が取り消されてしまうので注意が必要である。 なお、令和6年の法改正により、技能実習法は育成就労法へ改正されたが、育成就労法は、令和6年6月21日から起算して3年以内に施行されることとなっており、育成就労法においても、育成就労計画認定の欠格事由として、「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をした日から起算して5年を経過しない者」(育成就労法10条9号)と規定されていることから、「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為」が認められる場合には、同様に、育成就労計画の認定が取り消されることとなるものと考えられる。 実務上は、労働安全衛生法違反や労働基準法違反により罰金等の刑罰が科された場合に、技能実習法16条1項7号の取消事由に該当するとして、技能実習計画の認定を取り消す事例が多いが、ここで注意が必要なのは、この法令に関する不正行為等は、技能実習生を含む外国人労働者との関係に限らず、日本人労働者との関係において労働関係法令に関して不正行為等を行った場合にも、技能実習法16条1項7号の取消事由に該当するとして、技能実習計画の認定を取り消されてしまうという点である。 例えば、外国人労働者に対しては賃金の未払いはないものの、日本人労働者に対しては賃金の未払いが発生しており、この点について労働基準法違反として処罰された場合にも、技能実習法16条1項7号の取消事由に該当するとして、技能実習計画の認定を取り消されてしまうこととなる。 また、技能実習計画の認定が取り消されてしまった場合、5年間は、再度、技能実習計画の認定を受けることができない(技能実習法10条9号)。 技能実習法は、人材確保の手段ではなく、人材育成を通じた国際貢献を目的とするものではある(一方で育成就労法は、我が国の人手不足分野における人材の育成・確保を目的としている)が、多数の技能実習生を受け入れている場合には、技能実習計画認定が取り消されれば、同等の労働力の確保が課題となり得るため、技能実習計画認定が取り消されないように気を付ける必要がある。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例106】 ニデック株式会社 「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する 公開買付けの撤回に関するお知らせ」 (2025.5.8) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、ニデック株式会社(以下「ニデック」という)が2025年5月8日に開示した「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する公開買付けの撤回に関するお知らせ」である。タイトルどおり、同社は株式会社牧野フライス製作所(以下「牧野フライス」という)に対してTOB(株式公開買付け)を行っていたのだが、それを撤回することにしたという内容である。 2 事前接触も同意もない買収 牧野フライスは2025年4月10日に「第三者提案の具体化・検討のために必要な時間を確保すべきことに鑑みたニデック株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」を開示し、ニデックによるTOBに対して反対意見を表明しており、ニデックによるTOBは「同意なき買収」であった。なお、「同意なき買収」とは、以前「敵対的買収」といわれていたものであり、経済産業省が2023年に公表した「企業買収における行動指針」において、そのように言い換えられることになった(筆者個人としては、そうした言い換えに意味があるとは思わないが)。 また、ニデックによるTOBは牧野フライスの同意を得ていないだけでなく、牧野フライスに対して事前接触も行っていなかった。ニデックは2024年12月27日に「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」を開示し、2025年4月4日から牧野フライスに対するTOBを開始する予定であるとしていたのだが、そこには次のような記載があった(下線は筆者による)。 事前接触を行わなかった理由は、牧野フライスの株主が正しい選択を行うことができるようにするためであるとされている。 3 買収への対応方針 牧野フライスは2025年3月19日に「買収への対応方針」の導入を決定し、「ニデック株式会社による当社株式に係る公開買付け(予告)につき、第三者提案の具体化・検討のために必要な時間を確保することのみを目的とする、当社の会社の支配に関する基本方針及び当社株式の大規模買付行為等への対応方針(買収への対応方針)の導入に関するお知らせ」を開示しており(「買収への対応方針」とは、以前「買収防衛策」といわれていたものであり、これも「企業買収における行動指針」において言い換えられることになった)、そこには次のような記載がある。 この「買収への対応方針」は、あくまで牧野フライスの株主が判断する時間を確保することが目的であり、ニデックがTOBの開始を2025年5月9日以降に遅らせるか、ニデックよりも良い条件を示す買収者が現われれば、廃止するとしている。 しかし、ニデックが2025年4月3日に「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を開示し、予定どおり2025年4月4日にTOBを開始したため、牧野フライスは2025年4月10日に「買収への対応方針」に基づき新株予約権無償割当てを決定し、「買収への対応方針(時間確保措置)に基づく新株予約権の無償割当て、新株予約権の無償割当てに係る基準日設定、及び、株主意思確認を第86回定時株主総会において行うことのお知らせ」を開示した。 それに対して、ニデックは2025年4月16日に新株予約権無償割当ての差止仮処分の申立てを行い、「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)の買収防衛策に基づく新株予約権無償割当ての差止仮処分の申立てに関するお知らせ」を開示した(あえてなのか、あるいは気付かなかったのかは不明だが、ニデックは「買収への対応方針」ではなく「買収防衛策」という用語を使っている)。なお、その開示の最後には次のような記載がなされ、詳細は適時開示されていない。 4 株主のため? しかし、ニデックによる差止仮処分の申立ては却下され、同社は2025年5月7日に「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)の買収防衛策に基づく新株予約権無償割当ての差止仮処分の申立て却下決定に関するお知らせ」を開示した。今回の開示には、TOBを撤回することにした理由について次のように記載されている。 ニデックは、牧野フライスに対して事前接触を行わなかった理由について、牧野フライスの株主が正しい選択を行うことができるようにするためであるとしていた。そうであるならば、TOBの開始時期を延ばして、判断する時間をより多く与えた方がいいだろうし、より良い条件を示す買収者の出現を待ってあげた方がいいのではないだろうか。 ニデックは、牧野フライスの株主のためではなく、自社のために事前接触を行わなかったのだと思われる。牧野フライスにホワイトナイトを探す隙を与えず、TOBを自社に有利な条件で済ませたいために、そのようにしたのだろう。それが本当の理由だとしたら、ニデックは開示に虚偽の理由を書いたことになる。 牧野フライスは結局他社に買収されることになりそうである。同社が2025年6月3日に開示した「MM ホールディングス合同会社による当社株式に対する公開買付けの開始予定に関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」によると、MM ホールディングス合同会社によるTOBの買付価格は11,751円であり、ニデックによるTOBの買付価格11,000円よりも高い。牧野フライスの株主のためには、こちらの方が良い。 (了)
《速報解説》 「特定目的信託財産の計算に関する規則」等の改正府令が公布される ~新リース会計基準等の公表を受け、新たな注記事項等を規定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025(令和7)年6月25日、「特定目的信託財産の計算に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第62号)が公布された。これにより、2025年4月28日から意見募集されていた改正(案)が確定することになる。改正(案)に対して特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 以下では、「特定目的信託財産の計算に関する規則」について解説する。 「投資信託財産の計算に関する規則」などの主な改正内容も基本的に同様である。 1 定義 賃貸等不動産の定義について、「所有する不動産」を「所有し、又はリースにより使用する権利を有する不動産」と改正する(2条2項11号)。 また、使用権資産を定義し、リースの対象となる資産を使用する権利をいうとする(2条2項12号)。 ファイナンス・リース、所有権移転ファイナンス・リース、所有権移転外ファイナンス・リースも定義する(2条2項13号~15号)。 2 資産及び負債 資産の内容において、使用権資産を規定し、また、負債の内容において、リース負債を規定する(17条、26条)。 3 注記 「リースに関する注記」において、次の事項の注記を規定する(重要性の乏しいものを除く。22条)。 ただし、金融商品取引法24条5項において準用する同条1項の規定による有価証券報告書を提出しなければならない受託信託会社等以外の受託信託会社等は、当該事項の注記を要しない(22条1項)。 「特定目的信託財産の計算に関する規則」22条1項の規定にかかわらず、ファイナンス・リースの借手である受託信託会社等が当該ファイナンス・リースについて資産及び負債を計上する会計処理を行っていない場合におけるリースに関する注記は、リースの対象となる資産(固定資産に限る)に関する事項とする(22条2項)。 この場合において、当該資産の全部又は一部に係る次に掲げる事項(各資産について一括して注記する場合にあっては、一括して注記すべき資産に関する事項)を含めることを妨げない(22条2項)。 「金融商品に関する注記」において、金融商品(リース負債を除く)の時価に関する事項と改正する(8条の2)。また、「賃貸等不動産に関する注記」も改正する(8条の3)。 Ⅲ 施行期日等 公布の日(2025年6月25日)から施行する。 経過措置に注意する。 (了)
《速報解説》 国税庁、取引相場のない株式等の業種目を改定 ~3業種目の新設、1業種目の統合により類似業種の業種目数は113から115へ~ 税理士 柴田 健次 国税庁は令和7年6月9日(国税庁ホームページでの掲載は令和7年6月16日)に「類似業種比準価額計算上の業種目分類について(情報)」を公表した。 上記情報において類似業種比準方式で評価する場合における業種目分類を、下記の別添のとおりとすることとしている。 1 改定の内容 「日本標準産業分類」は前回改定(平成25年)から10年が経過し、その間の経済・社会の状況に変化が生じたことを踏まえ、第14回改定が行われた(令和6年4月施行)。 これに伴い、令和7年分の類似業種株価等通達について、業種目の見直しを行った。 また、標本会社の業種目の判定を行った結果、標本会社が少数となる業種目については、特定の標本会社の個性が業種目の株価等に強く反映されることとなることから、このような影響を排除するため、業種目の統合を行うとともに、標本会社が多数となる業種目については、業種目の新設を行った。 (注) 「日本標準産業分類」は、統計を産業別に表示する場合の統計基準として、事業所において社会的な分業として行われる財及びサービスの生産又は提供に係る全ての経済活動を分類するものであり、行政機関が作成する公的統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的として、総務大臣が公示している。 なお、日本標準産業分類は、以下の総務省統計局のホームページで閲覧することができる。 2 具体的な改定内容 評価会社の業種目は、直前期末以前1年間における取引金額に基づき、総務省の日本標準産業分類に基づいて区分することとされている。標本会社の業種目の判定についても、同様に日本標準産業分類に基づいて区分されている。 そして、日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目の対応関係を一覧にしたものが「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表」(以下『対比表』という)として公表されており、今回、その『対比表』が改定となった。これまでは平成29年分として公表されていたものを使用していたが、令和7年以降は、今回公表された『対比表』を使用することになる。 改定により業種目が統合されたものが1つ、新設されたものが3つあるため、類似業種の業種目の数は113(平成29年以降の『対比表』)から115(令和7年以降の『対比表』)となった。 今回、統合されたものと新設されたものは、下記の通りとなる。 ① 統合されたもの ② 新設されたもの ■改定前の『対比表』(平成29年分)一部抜粋 ■改定後の『対比表』(令和7年分)一部抜粋 3 業種目の判定手順 評価会社の業種目は、下記の通り行うことになるが、正確に業種目を判定するためには、日本標準産業分類で分類項目を確認した後で、『対比表』に基づき業種目を特定する必要がある。 上記の判定の際に類似するか類似しないかの判断が必要となるが、その判断は、「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」(下記参照)の分類の一番下に「その他の〇〇業」があるか否かで判断することになる。例えば、各種商品小売業(79番)と飲食料品小売業(81番)の売上の構成比がそれぞれ40%ずつある場合には、1つの大分類(小売業)の中に2以上の類似する中分類の業種目別の割合の合計が50%超に該当し、その大分類の中にある類似する中分類のその他の小売業(83番)が業種目となる。 これに対して、各種商品小売業(79番)と無店舗小売業(86番)の売上の構成比がそれぞれ40%ずつある場合には、1つの大分類の業種目中の2以上の類似しない中分類の業種目別の割合の合計が50%超に該当し、その大分類の業種目として小売業(78番)が業種目となる。 なお、特定した業種が小分類に区分されているものにあっては小分類による業種目、中分類のものにあっては中分類の業種目、大分類による場合には大分類の業種目を使用することになる。ただし、納税義務者の選択により、類似業種が小分類による業種目にあってはその業種目の属する中分類の業種目、類似業種が中分類による業種目にあってはその業種目の属する大分類の業種目を使用することができるため、小分類又は中分類に分類された業種目がある場合には、それぞれ中分類又は大分類の業種目でも計算し、いずれか有利な方を選択することになる(評価通達181)。 4 実務上の影響 多くの業種目については影響がないものの番号が変更になっているため、令和7年以降の相続、遺贈又は贈与により取得した非上場株式の評価明細書を作成する際に注意が必要となると共に最新の「日本標準産業分類」と令和7年分の『対比表』を基に評価会社の業種目を判定する必要がある。 なお、上記の「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等(令和7年分)」の下の注意書きにも記載のとおり、令和7年2月が課税時期である場合には、類似業種株価は、令和7年2月、1月、令和6年12月、令和6年平均株価及び令和7年2月以前2年間の平均株価のうち最も低いものを使用することになるが、今回の改定で令和6年と令和7年で業種目が異なることになった場合には、令和6年12月の金額は、令和6年が課税時期であった場合に適用される類似業種株価と異なることになる。実務的には、令和7年以降のものについては、「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等(令和7年分)」を確認すれば問題はない。 (了)
《速報解説》 JICPAが「上場会社等の監査を行う監査事務所の 適格性の確認のためのガイドライン」の改正を公表 ~監査ファイルの最終的な整理期間中の改竄防止策に関する改正等行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年6月19日付けで(ホームページ掲載日は2025年6月20日)、日本公認会計士協会は、「「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正」を公表した。 これにより、2025年5月23日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。 このガイドラインは、レビューチームが、適格性の確認のために品質管理レビューを行うに当たり、上場会社等の監査を行う監査事務所が、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を公正かつ的確に遂行するに足りる体制を備えているかどうかを判断するに当たっての着眼点及び判断基準を示すことを目的としている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 ガイドラインの判断基準において示されている不備の程度は、あくまでも1つの目安であり、【重要な不備事項】とされる状況も、監査事務所の状況によりその不備の程度が重大であると捉えられる場合には、【極めて重要な不備事項】として判断することもあるとのことである。 Ⅲ 適用時期等 2025年6月19日改正のガイドラインは、2025年7月1日以後現場作業を開始する品質管理レビューから適用する。 上記にかかわらず、Ⅰ-2-5-2の判断基準⑤及び⑥については、2026年7月1日以後現場作業を開始する品質管理レビューから適用する。 (了)
《速報解説》 会計士協会、倫理規則の改正に伴い「監査ツール(実務ガイダンス)」を改正 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年6月19日付けで(ホームページ掲載日は2025年6月20日)、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正」を公表した。 これにより、2025年4月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対して特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、倫理規則改正に伴う記載の変更などである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 次のとおりである(主な様式)。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和6年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2025(令和7)年6月18日、「令和6年10月から12月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税徴収法関係が3件、国税通則法関係及び法人税法関係が各2件、相続税法関係が1件で、合計8件となっている。公表された裁決には「全部取消し」となった事例はなく、1件のみ「一部取消し」であったが、他は「棄却」となっている。 【表:公表裁決事例令和6年10月から12月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された8件の裁決事例のうち、e-Taxでの電子申告の誤操作を正当な理由と認めなかった事例(②)、固定資産の取得対価の一部が寄附金であると認定した事例(③)及び換価の猶予の不許可処分が争われた事例(⑧)について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心的な争点のみについて絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。 1 e-Taxシステムの誤操作による期限後申告に対する無申告加算税の賦課決定処分・・・② (1) 事案の概要 本件は、審査請求人が、所得税等の期限後申告書を提出したことから、原処分庁が無申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、期限内申告書を提出できなかったのは国税電子申告・納税システム(e-Taxシステム)に誤操作を生じさせる問題があったためであり、正当な理由があるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 審査請求人は、令和5年3月1日、e-Taxシステムの確定申告書等作成コーナーを利用して、令和4年分の所得税等の確定申告書のデータ並びに令和4年12月31日分財産債務調書等のデータを作成したうえ、同日、財産債務調書等データを送信した。 次いで、審査請求人は、令和5年3月2日、消費税及び地方消費税の納付書を利用して、確定申告書のデータにより算出した令和4年分の所得税等の納付すべき税額に相当する金額を納付した。 令和5年6月29日、審査請求人は、e-Taxシステムを利用して確定申告書データを送信することにより、本件確定申告書を提出した。 (2) 争点 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、期限内申告書が提出されなかったことについて、例えば、災害、交通や通信の途絶等、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当であると述べたうえで、認定事実から、審査請求人は、法定申告期限後である令和5年6月29日に、e-Taxシステムを利用して本件申告データを送信し、確定申告書を提出したことから、確定申告書は期限後申告書に該当し、単に期限後申告書を提出したという客観的な事実のみにより、原則として、請求人に無申告加算税が課されることとなるという判断を示した。 そのうえで、国税不服審判所は、審査請求人による「利用者の意思に反する誤操作が生じてしまうe-Taxには、システム上の問題がある」という主張に対しては、e-Taxシステムにおいては、利用者が財産債務調書のみを提出する場合も想定し、「財産債務調書を送信する」という項目が用意されていることからすれば、審査請求人が操作を誤って「財産債務調書を送信する」を選択して送信したからといって、そのことをもってe-Taxシステムに、システム上の問題があるとはいえないし、e-Taxシステムには、申告等データが正常に受信されないといったシステム上の障害は確認されていないことを踏まえると、審査請求人が期限内申告書を提出しなかったのは、請求人が、e-Taxシステムの操作を誤って財産債務調書等データの送信しか行っていなかったにもかかわらず、財産債務調書等データの即時通知を見て、申告データも送信されたと誤って認識したという審査請求人自身の主観的な事情によるものにほかならないというべきであるとして、審査請求には理由がないから棄却する裁決を行った。 2 固定資産の取得対価の一部が寄附金であると認定した事例・・・③ (1) 事案の概要 本件は、農業生産法人である審査請求人が、取得した固定資産について工事請負契約書等に基づく支出金を取得価額として資産計上し、減価償却費等の額を損金の額に算入して法人税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該固定資産の取得に係る支出金には請求人の関連法人に対する寄附金の額が含まれており、かつ、当該工事請負契約書等は仮装されたものであるとして、更正処分、重加算税等の賦課決定処分及び青色申告の承認の取消処分をしたのに対し、請求人が、当該固定資産の取得に係る支出金には対価性があるから、原処分庁が当該支出金の一部を寄附金として認定したのは事実誤認であるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、(争点2)について、建設会社及び建築士の申述に基づき、審査請求人が、支払った固定資産の取得対価のうちから、審査請求人の代表取締役が代表取締役を務める審査請求人の関連法人等に、指定した金額を振り込ませたのは事実であり、建設会社及び建築士は、審査請求人の関連会社から役務の提供(反対給付)は受けておらず、審査請求人が建設会社及び建築士を介して、審査請求人の関連会社に対し金銭を対価なく移転するもの(資金の贈与)であると認められ、当審判所の調査及び審理の結果によっても、請求人が当該資金の贈与を行うことに通常の経済取引として是認することができる合理的理由は認められないことから、建設会社及び建築士に振り込ませた金額は、法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に該当するものと認めるのが相当であるという結論を導いたものである。 なお、原処分庁が寄附金と認定した3件の固定資産の取得対価のうち、1件については、国税不服審判所は、建設会社が審査請求人の関連法人に対し組立作業等及び農業用資材の購入の対価として支払をしたものと認められることから、その支払額は、審査請求人が建設会社を介して、関連法人に対し金銭を対価なく移転するもの(資金の贈与)であると認めることはできないとして、原処分の一部を取り消す裁決を行った。 3 換価の猶予の不許可処分・・・⑧ (1) 事案の概要 本件は、審査請求人が、原処分庁に対し、売上げの減少により納税資金を捻出することが困難であるとして換価の猶予の申請を行ったところ、原処分庁が、請求人は申請に係る国税を一時に納付することができないとは認められないとして不許可処分をし、また、請求人の滞納国税を徴収するため、債権の差押処分をしたのに対し、請求人がこれらを不服として原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 審査請求人は、本件猶予申請において、納付すべき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあったと認められるか否か。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、国税徴収法第151条の2が規定する換価の猶予の制度は、滞納者につき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあると認められる場合において、その者が納税について誠実な意思を有すると認められるときは、税務署長が納付を困難とする金額を限度として、その申請に基づき、1年以内の期間に限り、原則毎月の分割納付を条件として、その納付すべき国税につき滞納処分による財産の換価を猶予することができるという制度であり、納税者が個人であるときは、①事業に不要不急の資産を処分するなど事業経営の合理化を行った後においても、なお国税を一時に納付することにより事後の決済資金に不足を生じ、その結果、滞納者がその事業を休止若しくは廃止せざるを得ない又はこれと同等の状態に至るおそれがあると認められる場合、又は②国税を一時に納付することにより、滞納者の必要最小限の生活費程度の収入が確保できなくなると認められる場合のいずれかに該当する場合をいうものと解されるという見解を示した。 そのうえで、国税不服審判所は、換価の猶予が納税者救済のための例外的な制度であることから適用に当たっては、納税者間において不公平が生じることを回避し、税務行政の適正妥当な執行を確保する必要があるため、猶予取扱要領 により、一定の判断基準及び運用方針を定めており、その趣旨に鑑みると、猶予取扱要領の定めが合理性を有するものと認められる場合には、これを当該事案に適用することが不合理であるという特段の事情がない限り、当該定めに従った判断は相当であるというべきであるとして、猶予取扱要領65の定めに基づき、換価の猶予の申請に係る国税の額から、現在納付可能資金額を控除した納付困難な額が算定されるか否かを検討した結果、本件猶予申請においては、納付困難な額が算定されないこと、提出された証拠資料等によっても、審査請求人につき、猶予取扱要領の定める基準を適用することが不合理であるといえる事情もないことから、国税徴収法第151条の2第1項に規定する国税を一時に納付することによりその事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあったとは認められないという判断を示したうえで、審査請求は理由がないから、棄却する裁決を行った。 (了)
《速報解説》 国税庁が「インボイスの取扱いに関するご質問」を6/10付けで更新 ~適格請求書の交付に当たって金銭的負担を求めることの適否など計3問を追加~ 税理士 石川 幸恵 令和7年6月10日、国税庁はホームページ上で「インボイスの取扱いに関するご質問(令和7年6月10日更新)」を掲載し、「適格請求書の交付に当たっての金銭的負担」を含む計3問を公表した。 今回公表された3問は次のとおり。 1 適格請求書の交付に当たっての金銭的負担(問Ⅴ) 適格請求書は書面による交付に代えて電子データで提供することも可能である。書面と電子データのいずれによるかは取引の相手方との関係性を踏まえて事業者が判断することとなる。 問Ⅴでは、電子データによる提供を原則としている場合で、取引先から書面での交付を求められたときに社会通念上相当と認められる程度の手数料を徴収することは差し支えない点を明らかにしている。なお、手数料の徴収にも適格請求書の交付義務が生じることとなる点には留意が必要である。 一方で、取引上の地位に差のある相手に、著しく高額な手数料負担を求めるような場合には、独占禁止法の優越的地位の濫用に該当する恐れがあるので注意されたい。 2 適格請求書の交付に当たっての期間制限(問Ⅵ) 小売業は適格簡易請求書の交付が認められている。顧客からレシートの亡失を理由に再交付を求められたときに、レジシステムの機能上、再交付できないケースの対応が問Ⅵの論点である。 問Ⅵでは既に適格簡易請求書を交付していれば、交付義務は果たされているものとされ、改めて交付する必要はないとしている。一方で、そもそも一度も交付していない場合で、出力可能期間の徒過等により出力できなくなったときは、手書きなど他の手段により交付しなければならない。 問Ⅵでは触れられていないが、再交付を受けられなかった顧客はどうしたらよいのだろうか。再交付を受けられなかった場合、適格簡易請求書の保存要件を満たせないため、原則として仕入税額控除は認められない。ただし、令和11年9月30日までは経過措置により税込1万円未満の課税仕入れについては帳簿の記載のみで、仕入税額控除が可能とされている(インボイスQ&A問111、28年改正法附則53の2、改正令附則24の2①)。この経過措置を受けられるのは一定の規模以下の事業者に限られるため、適用の有無について確認が必要である。 3 プラットフォーム課税の対象となる取引に係る適格請求書等(問Ⅶ) 令和7年4月1日よりプラットフォーム課税がスタートした。以前、下記拙稿にて、プラットフォーム課税が適用される取引に関する適格請求書の交付について言及したが、今回公表された国税庁の問Ⅵにより、特定プラットフォーム事業者により交付されることが確認された。また、電子データによって交付された時の保存についても改めて確認している。 (了) ↓お勧め連載記事↓