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決算短信の訂正事例から学ぶ実務の知識 【第11回】「業績予想修正後に起きるミス」

◆◇◆◇◆ 決算短信の訂正事例から学ぶ実務の知識 【第11回】 「業績予想修正後に起きるミス」   公認会計士 石王丸 周夫   【第10回】に引き続き、業績予想での誤記載を取り上げます。 次期の業績予想は、期末の決算短信に記載された後、次年度の四半期決算短信に引き継がれて開示されます。予想数値に変更がなければ、同じ数値がそのまま引き継がれていきます。次年度の期末まで変更がないこともありますが、次年度の期末が近づくにつれ、着地が見えてくるため、業績予想の修正(訂正ではなく変更)が行われることもあります。 今回の訂正事例は、そのタイミングでの四半期決算短信の事例です。3月決算企業が、2月に「業績予想および配当予想の修正に関するお知らせ」と第3四半期決算短信を公表した際の、四半期決算短信での訂正事例です。 早速訂正事例を見ていきましょう。   訂正事例の概要 サマリー情報の業績予想欄にて、対前期増減率の数値がすべて訂正となりました。一方、売上高等の財務数値の予想数値はいずれも訂正はありません。計算を間違えたかのようにも見えますが、比率がすべて間違っていたことから、単なる計算ミスでもなさそうです。 訂正イメージは次のとおりです。 〈訂正事例をもとにした誤記載のイメージ〉 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) %以外の数字はXで表示しています。   四半期決算短信特有の注意点 対前期増減率の数値が間違った原因はともかく、これが間違っていても、その間違いに気づきにくい理由があります。それは四半期決算短信特有のポイントです。 上の訂正事例は第3四半期に係る四半期決算短信でした。第3四半期決算短信のサマリー情報で開示される連結経営成績(P/L項目)の数値は、当年度の第3四半期と前年度の第3四半期の数値です。これに対して、連結業績予想の欄で開示されるのは、当年度1年間の連結業績予想値です。したがって、その対前期増減率は、前年度の期末の実績数値をベースに計算されます。 そのため、対前期増減率が合っているかどうかを目視でおおよそ確認しようと思っても、ベースになる前期実績数値(P/L項目)が四半期決算短信には載っておらず、四半期決算短信上だけでは確認できないのです。 上の訂正事例が開示前に社内で発見できなかったのは、そのような理由があると思います。   訂正前の数値は何の数値だったのか さて、訂正前の対前期増減率ですが、すべての数値が間違っていたことから、これはおそらく何か別の数値を間違って転記してしまったとみられます。 それが何だったのか探してみたところ、全く同じ数値が見つかりました。第3四半期の四半期決算短信と同日に発表された「業績予想および配当予想の修正に関するお知らせ」に記載されている数値です。当該開示書類は、前期末の決算発表時に公表した次期業績予想(前期末から見て次期ということ)の数値を、最近の業績動向を踏まえて修正したという内容です。 その中で、「前回発表予想」(前期末公表)と「今回修正予想」を並べたうえで、その修正により前回発表予想からどれだけ増減するかという増減率を記載しています。「前回発表予想」をベースにした増減率です。 この増減率が、上の訂正事例の訂正前の増減率と全く同じでした。四半期決算短信での業績予想の増減率は対前期増減率なので、これとは異なります。同日に発表された資料ということで、混乱があったのかもしれません。   開示前のチェックポイント 今回の訂正事例の訂正原因は、単純な事務ミスの側面もありそうですが、業績予想の情報についての理解不足があったことは否定できないと思います。間違っていたのは対前期増減率だけなので、大きな影響はないかもしれませんが、対前期増減率はその企業の成長率を意味します。これが間違っていたというのは、やはり軽視できないでしょう。 特に売上高については、訂正前が△3.0%であるのに対して、訂正後は3.1%です。減収の予想が増収に訂正されています。利益項目は、訂正前も後も軒並み減益予想ですので、訂正前は減収減益、訂正後は増収減益ということです。この違いは企業の損益構造を考える際にポイントとなります。このような視点から業績予想欄を確認すれば、誤りに気づく可能性もありそうです。 (了)

#No. 605(掲載号)
#石王丸 周夫
2025/02/06

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第57回】「M&Aを実行することだけが成功とは限らない」

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第57回】 「M&Aを実行することだけが成功とは限らない」   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒M&Aの実行要否を検討する際の参考にする。 売り手企業 ⇒M&Aの実行要否を検討する際の参考にする。 支援機関(第三者) ⇒M&Aの実行要否を検討する重要性を理解して買い手・売り手に対する助言に活かす。 その他の対象者 ⇒M&Aの実行要否を検討する重要性を理解する。   1 M&Aは手段・出口の選択肢の1つ 本稿は「中小企業のM&Aの成否を決める」と連載のタイトルにありますので、あたかもM&Aが前提であり、中小企業におけるM&Aが当然のスタンスであるとのご理解をいただいているかもしれませんが、今回は、その前提やスタンスを少し批判的に見たいと思います。 〈複数手段・選択肢の1つとしてのM&A〉 上図のとおり、買い手にとっても、売り手にとっても、経営を進める先の手段や選択肢はたくさんあります。M&Aは双方にとっての目的というより手段と考えられますので、M&Aありきではなくて、たくさんある手段の1つを選択する、その手段の1つにM&Aがあると捉えるのが妥当です。つまり、M&A以外のより良い手段があるならM&Aに頼る必要はありませんし、M&Aありきで考えてはM&Aがその企業にとってベターやベストとは言えない可能性もあるのです。 買い手であれば、自力成長、戦略的提携、海外進出、子会社の設立、合弁、M&Aといった手段を講じ、自社のみで成長を図るだけでなく、他社との協業関係を通じて自社に不足するリソースを補う相手を探しながら、自社のいる市場でのポジションを有利にするでしょう。 売り手の場合には、自社単独での存続を図るほかに、中小企業であれば、ほぼ必ず承継の問題に直面しますので、一般的に親族内外の承継手段を検討する中でM&Aを選択するケースが考えられます。 また、承継にかかわらず、事業を売り抜ける「出口戦略」としてIPO(Initial Public Offering)を目指す中小企業があります。M&Aも出口戦略の1つとして知られていますので、売り手の価値を高めて売り手にとって有利な出口を探す中で、M&Aがベストだと言えそうならM&Aを選択することになります。 「M&A」というワードが一般化されるにつれ、買い手も売り手もM&Aを実行するのが当然だと考えるかもしれません。M&Aの仲介業者や金融機関などから提案を受ければ、M&A一択だと思うかもしれません。目先にM&Aがあれば、M&Aを所与として何も考えずにM&Aに進むかもしれません。 しかし、各社にとって最も大事なのは、M&Aをすることではなく、選択した手段を講じながら各社が望む目的を叶えることです。その目的を叶えるための1つの手段、解決策がM&Aである点を忘れないこと、M&Aが唯一の選択肢ではないことを理解しておくことがM&Aを検討する皆様、当事者の皆様にとって大事だと思います。   2 買い手にとってのM&A 中小企業の買い手がM&Aを検討する際は、目的が自社の成長や拡大であっても、生き残りであっても、M&Aを機に自社を好転させたいと考えるケースが多いと思います。M&Aが選択肢の1つである点は1で述べましたが、M&Aを取り巻く戦略はキャッシュと切れない関係にあります。 〈最適資金配分の例〉 上図に示すように、キャッシュは、手元資金、外部から調達した資金、自ら事業を通して生み出すキャッシュインフローといった主な資金獲得手段を通じて得ます。そのキャッシュの総額を、数ある資金使途のうちの「何に」、「いくら」、「いつ」投じるかを決める資金配分の選択と意思決定のプロセスの中から、M&Aが選択されたときにはじめて、買い手としてのM&Aの検討、相手先探し、M&Aの実行、PMI(Post Merger Integration)などのM&Aに関連する各プロセスに進むことになります。 したがって、経営判断としてM&Aが選択される意思決定プロセスがないままに、M&Aの実行が先に来ることはありえません。そのため、「トレンドだから」、「M&Aに希望を抱くから」、「キャッシュが余っているから」といった漠然とした理由、明確ではない理由でM&Aを選択するのは、M&Aの目的なきまま実行に至るbad choiceです。 上図をご覧いただくとおわかりのように、資金使途の選択肢は1つではありません。この使途の中でM&Aの位置付けは「戦略投資」になりますので、一般的には長期的な視点のもとで投資資金の回収、つまり、投資した資金(キャッシュアウトフロー)を上回る資金が長期的に得られるか、かつ、安定的な回収が可能かどうかを投資の前段階で十分に見極めてからM&Aを選択しなければなりません。 買い手の目的が成長ならば、確かに選択肢の1つとしてM&Aは魅力的ですが、M&Aである必然性はないため、目的を叶える他の手段があるのならば、それを選択すればよいだけの話です。 近年は、物価上昇トレンドに応じて賃金も上昇させる動きが各企業において見られます。資金の配分先として、将来への投資という観点から人的資本への投資が自社にとって望ましいのであれば、役員・従業員へのキャッシュアウトフローを決断すること、優先することも考えられます。 買い手にとってM&Aは、経営判断において自社がまず何を遂げたいのかの議論を置き去りにして安易に飛びつくものではない点は申し上げておきたいと思います。   3 売り手にとってのM&A 〈売り手における複数の原因と結果としてのM&A〉 売り手がM&Aを行う場合、事業承継のため、企業経営の出口を確定させるため、単にキャッシュを得るためといった様々な背景が考えられます。ある原因による結果としてM&Aを選択するとすれば、ある原因は複数考えられますが、中小企業の売り手の場合は、上図に記載の原因の場合が多いのではないかと思います。企業の存続を考える中で積極・消極かは問わずM&Aに頼るケース、経営者の不在や適任者の不在からM&Aを選択するケース、株主ニーズからM&Aを選択するケース、相続財産を含むキャッシュの獲得を狙うためM&Aを選択するケース、バイアウトとしてのM&Aを選択するケースなどです。 中小M&Aの場合、株式譲渡がM&Aの手段としてよく用いられますので、基本的には株式の譲渡を通じて、売り手企業のすべてが第三者の手にわたることになります。この現象は撤退や売却の判断に近いため、他人に今後を託すとして自社をクローズしてよいかどうかの判断を慎重に検討することになります。クローズしてよいならM&Aは有力な選択肢となりますが、仕方なくクローズする、苦渋の選択でクローズするなら、知見のある第三者を頼れば、もしかしたらM&Aによらない選択肢を発見できるかもしれません。 つまり、以下のようなM&A以外の選択肢や道を模索することができるかもしれません。 対して、株主ニーズ、資金回収ニーズ、出口戦略の場合は、キャッシュ化する、売り抜けることが目的のケースが多いので、資金回収そのものがゴールとなるようであれば、確かにM&Aは有力な手段になり得ます。 とはいえ、中小M&Aでは、経営を続けたいのに続けられない事情、理由があってM&Aを選択しなければならず、売り手になるケースが多いと思われます。M&Aが選択肢となる企業経営上の様々な原因がある場合、「それならM&Aですよね」と言う前に他の有効な手はないのか、その手を尽くす検討をしてからでもM&Aは遅くないのではないか、と立ち止まって考えることも筆者は重要だと思います。 中小企業の経営者は思い入れがあって現在の経営に至っているはずです。簡単に手放せるものではないからこそ、存続の道を図ろうとする中で、M&Aありきではない選択肢を与える第三者がいれば、どれほど心強いことでしょう。 (了)

#No. 605(掲載号)
#荻窪 輝明
2025/02/06

空き家をめぐる法律問題 【事例64】「「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を踏まえた賃貸借契約の留意点」-残置物の処理編-

空き家をめぐる法律問題 【事例64】 「「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を踏まえた 賃貸借契約の留意点」 -残置物の処理編-   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私は賃貸業を営んでおりますが、賃借人が賃貸借契約期間中に死亡した場合に、賃貸借契約や残置物の処理を円滑に行うために、どのような対策を取ればよいでしょうか。   1 検討の視点 単身高齢者等が賃借物件内で孤独死したような場合に、賃貸借契約や残置物の処理を円滑に行えるようにするために、国土交通省及び法務省は、令和3年6月に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」(以下「モデル契約条項」という)を公表している。 モデル契約条項には、①賃貸借契約に関するもの、②賃借人が賃貸借契約の存続中に死亡した場合に、賃貸借契約を終了させるための代理権等を受任者に与える委任契約(以下「解除関係事務委任契約」という)に関するもの、③賃貸借契約の終了後に残置物の処理を委託する準委任契約(以下「残置物関係事務委託契約」という)に関するものが含まれている。そこで、本事例では、モデル契約条項を踏まえて、残置物の処理に関する契約内容を検討することにしたい。   2 モデル契約条項の全体像 モデル契約条項は、賃貸借契約に、解除関係事務委任契約と残置物関係事務委託契約を組み合わせて、賃貸借契約の終了とその後の残置物処理を円滑に行えるようにすることを想定している。その全体的な流れは次のとおりである。 (出典) 国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項の活用ガイドブック」18頁より抜粋   3 解除関係事務委任契約について 賃借人が賃貸借契約の期間中に死亡したとしても、賃貸借契約は当然には終了しないため、契約を終了させるためには、合意解除等による必要がある。そこで、賃借人が契約期間中に死亡した場合に備えて、賃借人(委任者)は、受任者に対して、賃借人の死亡後に、合意解除をする権限等を付与しておくことが考えられる。   4 残置物関係事務委託契約について (1) 契約の効力等 モデル契約条項では、残置物関係事務委託契約は、賃貸借契約が終了するまでに、賃借人が死亡したことを停止条件として効力が生じるものとされている(残置物関係事務委託契約のモデル契約条項第2条)。受任者として主に想定されるのは、賃借人である委任者の推定相続人や居住支援法人等の第三者である。賃貸物件の管理業者も受任者となることは否定されないが、利益相反も生じうることから、できる限り回避した方が無難である。 また、賃借人の相続人が賃貸借契約を承継する場合には、残置物の要否等の判断は、当該相続人に委ねた方が合理的である。そこで、モデル契約条項では、相続人が賃貸借契約を承継してから残置物の要否等を判断するまでに必要な期間を考慮して、受任者が賃借人の死亡を知ってから一定期間(たとえば6ヶ月)が経過するまでに賃貸借契約が終了しない場合には、残置物関係事務委託契約を終了させることとしている(残置物関係事務委託契約のモデル契約条項第11条)。 (2) 残置物の処理方法の概要 残置物には廃棄を予定している動産から第三者に譲渡することを予定している動産まで含まれうるため、受任者が残置物をどのように処理するべきかを事前に定めておく必要がある。 そこで、モデル契約条項では、①委任者が死亡した時点で存する金銭を除く動産のうち、廃棄しないものとして指定した動産を希望送付先に送付させ、②委任者が指定をしなかった金銭を除く動産を廃棄させることにしている(①を「指定残置物」といい、②を「非指定残置物」という)。なお、モデル契約条項の指定残置物、非指定残置物、金銭の取扱いを整理すると次のようになる。 (注) 括弧内の条文番号は、残置物関係事務委託契約のモデル契約条項の該当番号である。 (※) 金銭には指定残置物や非指定残置物を換価した場合の現金も含む。 受任者が指定残置物を送付したり、非指定残置物の搬出等を行う際に、委任者の相続人との間で、残置物の処理をめぐって争いになる可能性もある。そこで、受任者が実際に業務を遂行する一定期間前(たとえば2週間前)に、委任者の相続人等の利害関係者に通知をして、検討する機会を確保しておくことが有益である(残置物関係事務委託契約のモデル契約条項第5条第2項)。 (3) 指定残置物に関する留意点 指定残置物として指定される動産は、主として、第三者の所有物や、委任者が特定財産承継遺言や死因贈与契約の対象にした動産になると考えられる。指定がなければ受任者は非指定残置物として廃棄することになるが、委任者が指定を失念したため、受任者が第三者の所有物を廃棄したような場合に、受任者が債務不履行責任や不法行為責任を負うか問題となりうる。指定残置物としての指定は委任者の責任において行うことからすると、受任者に廃棄したことについて過失が認められるのは、第三者の所有物であることが明らかであるにもかかわらず廃棄したような限定された場面になると考えられる。 また、所在不明等のために指定残置物を送付できない場合に備えて、受任者に指定残置物を換価又は廃棄できる権限を定めておくことが望ましい(残置物関係事務委託契約のモデル契約条項第7条1項ただし書)。モデル契約条項第8条では、換価によって得られた金銭を相続人に返還するものとしているが、当該金銭を本来の送付先に交付したい場合には、その旨も定めておく必要がある(実際には供託することになる)。 (4) 非指定残置物に関する留意点 受任者には第三者の所有物を廃棄する権限はないため、非指定残置物の対象となるのは、委任者が死亡した時点で所有していた動産である。もっとも、外観上、残置物の所有者は明らかではないこともあり、委任者の相続人や第三者から権利を主張される可能性もある。そこで、モデル契約条項では、受任者が非指定残置物として廃棄処理等をすることができる時期を、食料品等の保管に適さない動産を除いて、賃貸借契約が終了し、かつ、賃借人が死亡してから少なくとも一定期間経過後(たとえば3ヶ月経過後)と定めている(残置物関係事務委託契約のモデル契約条項第6条1項)。 ところで、モデル契約条項では、換価することができる非指定残置物については、換価するよう努めるものとしている(残置物関係事務委託契約のモデル条項第6条1項ただし書)。この点に関して、委任者の特定の相続人から非指定残置物を取得したいとの提案を受けた場合に無償で譲渡することができるか問題となりうる。 モデル契約条項では、第三者に正当な対価で譲渡した場合には、その対価は相続人に支払うものとされていることや(残置物関係事務委託契約のモデル契約条項第8条)、受任者は、委任者の相続人全員に対して注意義務を負うことからすると、客観的価値のある非指定残置物を特定の相続人に無償で譲渡することは注意義務に反するおそれがある。したがって、受任者は、特定の相続人に非指定残置物を譲渡する場合には、正当な対価で譲渡することとし、そのことについて他の相続人の意思を確認しておくべきである。 また、受任者は委任者全体の利益のために業務執行を行うことから、複数の相続人から客観的価値のある非指定残置物を取得したいとの希望を受けた場合には、特定の相続人に譲渡するよりも、第三者に譲渡し、その対価を相続人全員に支払う方が穏当であると考えられる。 (了)

#No. 605(掲載号)
#羽柴 研吾
2025/02/06

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第89話】「新NISAと公的年金制度」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第89話】 「新NISAと公的年金制度」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「それにしても・・・人気は高いな・・・」 昼休みに中尾統括官は、新聞を見ながら呟く。 (※) 朝日新聞デジタル2025年1月21日掲載記事より抜粋。 「・・・新NISAですか・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の持っている新聞を覗く。 「・・・もちろん、君も新NISAをやっているのだろう?」 中尾統括官が聞く。 「はい」 浅田調査官は、素直に頷く。 「・・・我々の世代では、中尾統括官の時代と違って、老後の年金受取りについて期待できませんから・・・」と言うと、浅田調査官は傍らにある罫紙を取り出して、厚生労働省の資料を参考にしながら、図を描く。 「・・・我が国では、毎年の保険料収入は、その年の年金給付に充てられるという『賦課方式』を採用しています・・・平均寿命が延び、そのうえ出生率が低下すれば、税収・保険料収入が減少し、その一方で公的年金給付額が増加します・・・そうなれば、現在の年金制度を維持することは困難になります・・・」 浅田調査官は、図を見ながら言う。 「ジェネレーションのコンフリクトだな・・・」 中尾統括官は、小さな声で言う。 「・・・そこで、政府は、若い人に対して、将来の年金を期待せずに、株式の売買等でもうけて、老後の資金を蓄えなさい・・・ということで、新NISAを恒久化したのです・・・」 浅田調査官は、苦笑する。 「・・・ところで、令和5年度の税制改正で、NISA制度については、時限措置から恒久化され、更に、非課税限度額の総額が1,800万円になりました・・・これが令和6年1月から適用されました」 そう言うと、再び浅田調査官は図を描く。 そして、浅田調査官は、図の下に以下の注記を書く。 「・・・非課税枠が1,800万円あるということは・・・我々にとって、大きいです」 浅田調査官は、大きく頷く 「・・・君は・・・以前、日本株よりも米国株の値上がりの方がはるかに大きいといっていたが・・・新NISAでは、米国株を買っているの?」 中尾統括官が浅田調査官の顔を見る。 「もちろんですよ」 浅田調査官は、得意そうな表情になる。 「ただし、外国株を購入するときには、注意しなければなりません」 今度は、浅田調査官が中尾統括官を見る。 「・・・新NISA制度では、投資対象として、米国株や米国ETFも含まれます・・・そして、売却益・配当金にかかる国内の税金は非課税となります・・・しかし、米国株は国内株と売買手数料が異なり、また、為替手数料についても注意しなければならない・・・」 浅田調査官は、更に説明を続ける。 「米国株などを売買すれば、当然、為替手数料が発生します・・・インデックスファンドを買うのであれば・・・「S&P500」など米国株のインデックスであっても、ファンドを運営しているのは、日本の証券会社なので日本円で売買ができます・・・しかし、米国の個別銘柄株やETFを購入する場合には、日本の証券会社は仲介に過ぎないため、米ドルで購入しなければなりません・・・そのため、円を米ドルに替えるので為替手数料がかかるということです・・・」 浅田調査官は、簡単な図を描く。 「・・・そして、米国のETFや個別銘柄株を売却して利益を得た場合、日本では、日本株と同じく20.315%が課税されます・・・ただ、非居住者は、米国株の売却益について、米国で課税されません・・・しかし、配当金・分配金については、米国でも課税されます・・・また、米国では、日米租税条約によって、10%が源泉徴収され、その引かれた額に対して日本国内で20.315%が課税され、税率は、約30%となります・・・ただし、これは二重課税となるため、確定申告をすれば、外国税額控除で、米国での源泉徴収分の全額、又は一部の還付を受けることができます・・・」 そして、浅田調査官は、突然思い出したように、付け加える。 「・・・ただし、NISAで非課税になるのは、日本国内の課税のみですから、米国株の配当金・分配金に対する米国での10%は課税されます・・・また、この場合、二重課税にならないので、外国税額控除も受けることはできません・・・」 浅田調査官は、そう言うとニコリと笑う。 (つづく)

#No. 605(掲載号)
#八ッ尾 順一
2025/02/06

《速報解説》 令和7年度税制改正関連法案が公表される~法案段階では年収103万円の壁の引上げ幅等についてR7大綱と同様の記載~

《速報解説》 令和7年度税制改正関連法案が公表される ~法案段階では年収103万円の壁の引上げ幅等についてR7大綱と同様の記載~   Profession Journal編集部   2月5日(金)、財務省ホームページにおいて令和7年度税制改正の関連法案となる「所得税法等の一部を改正する法律案」が公表された。 自民・公明両党と国民民主党との間で、引き続き協議が行われる見込みである「年収103万円の壁」については、法案では令和7年度税制改正大綱と同様に基礎控除の引上げ(最高額を10万円引上げ)及び給与所得控除の引上げ(最低保障額を10万円引上げ)等が記載されているが、協議の結果によっては法案からの修正も想定されるため今後の審議動向に留意されたい。 (了)

#Profession Journal 編集部
2025/02/05

《速報解説》 相次ぐインサイダー取引事案の発生に伴い、注意喚起として「インサイダー取引に関するQ&A」が公表される

《速報解説》 相次ぐインサイダー取引事案の発生に伴い、 注意喚起として「インサイダー取引に関するQ&A」が公表される   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年1月16日付けで(ホームページ掲載日は2025年2月3日)、日本公認会計士協会は、「インサイダー取引に関するQ&A」(法規・制度委員会研究報告第5号)を公表した。 2008年9月に、インサイダー取引防止のための検討プロジェクトチームからの報告「インサイダー取引に関するQ&A」を公表しているが、その後、インサイダー取引事案が相次いで発生していることから、今回、会員に対して改めて注意喚起を行うことを目的に、当該Q&Aを更新する形で、取りまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 公認会計士が「インサイダー取引規制」に違反した場合には、刑事罰又は課徴金の対象となることに加え、さらに「公認会計士の信用を傷つけ、又は公認会計士全体の不名誉となるような行為」(公認会計士法26条)と判断され、また、「正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用した」(公認会計士法27条)と判断されれば、公認会計士法違反となり、さらなる処分等を受けることも考えられるとのことである。 公認会計士以外の会計事務所の従業者もインサイダー取引規制の対象か、会計事務所を退職した場合又は監査業務提供先の担当を外れた場合の取扱いなど17項目について解説されている。 (了)

#阿部 光成
2025/02/04

《速報解説》 金融庁、昨年12月に続く「記述情報の開示の好事例集2024」第4弾として「コーポレート・ガバナンスに関する開示例」を公表

《速報解説》 金融庁、昨年12月に続く 「記述情報の開示の好事例集2024」第4弾として 「コーポレート・ガバナンスに関する開示例」を公表   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025(令和7)年2月3日、金融庁は、「記述情報の開示の好事例集2024(第4弾)」を公表した。 昨年11月以降、次のように「記述情報の開示の好事例集2024」が公表されており、今回の公表はこれらに続いて、コーポレート・ガバナンスに関する開示(コーポレート・ガバナンスの概要、監査の状況、株式の保有状況)について議論したものである。また、「定量分析」も更新されている。 今後は第5回勉強会以降のテーマを追加して、公表、更新することを予定しているとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 投資家・アナリスト・有識者が期待する開示を充実化させるための取組み 株主総会開催前に、有価証券報告書を提出している会社を紹介している。   Ⅲ コーポレート・ガバナンスの概要の開示例 主な開示のポイントとして、取締役会及び委員会の具体的な検討内容の開示において、特に重要な事項の記載を充実することは有用であること、取締役会の実効性評価により識別した課題と対応を開示することは引き続き有用であることなどが記載されている。 好事例として採り上げた企業の主な取組みが記載されている(自社のガバナンスの実効性をステークホルダーに理解いただけるよう、取締役会での議論状況や、取締役の支援体制等について、できる限り具体的に記載したことなど)。 好事例のポイントとして、次のことが記載されている。   Ⅳ 監査の状況の開示例 主な開示のポイントとして、重点監査項目を列挙することも有用だが、重点監査項目に対する監査結果や監査役会等の認識を記載することはより有用であることなどが記載されている。 好事例として採り上げた企業の主な取組みが記載されている(監査役会実効性評価の開示が外部(報道機関など)の目に触れ、取組みについて新聞などで紹介されたことで自社の活動が認知されたことなど)。 好事例のポイントとして、次のことが記載されている。   Ⅴ 株式の保有状況の開示例 主な開示のポイントとして、政策保有株式の売却により得た資金の使途を具体的に示すことが有用であることなどが記載されている。 好事例として採り上げた企業の主な取組みが記載されている(内閣府令の趣旨に従い、形式ではなく、実質的な株式投資の状況を保有目的別に記載したことなど)。 好事例のポイントとして、次のことが記載されている。 (了)

#阿部 光成
2025/02/04

《速報解説》 政策保有株式の開示に関する改正開示府令が公布される~パブコメを受けガイドラインを一部修正~

《速報解説》 政策保有株式の開示に関する改正開示府令が公布される ~パブコメを受けガイドラインを一部修正~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025(令和7)年1月31日、官報号外第19号において「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第6号)が公布された。 これにより、2024年11月26日から意見募集されていた内閣府令(案)等が確定することになる。内閣府令(案)等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方も公表されている。コメントのNo.47に記載のコメントを受けて、企業内容等開示ガイドラインの文言が修正されている。 これは、政策保有株式の開示について改正するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 有価証券報告書及び有価証券届出書における「株式の保有状況」の開示に関して、当期を含む最近5事業年度以内に政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式(当事業年度末において保有しているものに限る)について、次の開示を求める。 また、企業内容等開示ガイドラインにおいて、次の規定を設け、「純投資目的」の考え方を明示する。 内閣府令(案)等に対するコメントのNo.11では、政策保有目的から純投資目的に変更後、5事業年度を経過すると開示対象から外れることとなる理解でよいかとのコメントに対して、ご理解のとおりですとの金融庁の考え方が示されている。 また、内閣府令(案)等に対するコメントのNo.13から15は、「保有目的の変更後の保有又は売却に関する方針」に関するコメントであり、次の考え方が金融庁から示されている。 内閣府令(案)等に対するコメントのNo.42、43は、企業内容等開示ガイドラインに関するものであり、「売却を妨げる事情」は「発行者との関係において」存在するものであることが重要であるとのことである。   Ⅲ 施行時期等 公布の日(2025(令和7)年1月31日)から施行する。 改正後の「企業内容等の開示に関する内閣府令」の規定は、2025(令和7)年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書及び有価証券届出書から適用する。 (了)

#阿部 光成
2025/02/04

プロフェッションジャーナル No.604が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年1月30日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.604を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2025/01/30

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例142(消費税)】 「「相続があった場合の納税義務の免除の特例」により、令和5年1月から課税事業者であったが、これに気付かず「2割特例」を適用して申告してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例142(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆相続があった場合の納税義務の免除の特例 相続により被相続人の事業を承継した相続人の納税義務の有無については、相続があった年は、相続人又は被相続人の基準期間における課税売上高のうちいずれかが1,000万円を超えるかどうかにより判定し、相続のあった年の翌年及び翌々年は、相続人の基準期間における課税売上高と被相続人の基準期間における課税売上高の合計額が1,000万円を超えるかどうかにより判定する。 ◆簡易課税制度選択届出書の効力(消基通13-1-3の2) 被相続人が提出した「簡易課税制度選択届出書」の効力は、相続によりその被相続人の事業を承継した相続人には及ばない。したがって、その相続人が簡易課税制度の規定の適用を受けようとするときは、新たに「簡易課税制度選択届出書」を提出しなければならない。 なお、簡易課税制度の適用の有無を判定する場合の基準期間の課税売上高は、あくまで相続人の基準期間の課税売上高だけで判定する。 〈相続があった場合の判定に用いる基準期間の課税売上高〉 ◆適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)(平成28年改正法附則51の2①②) (1) 経過措置の内容 「2割特例」とは、インボイス発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった場合又は免税事業者が「課税事業者選択届出書」の提出により課税事業者となった場合には、仕入税額控除の金額を、特別控除税額(課税標準である金額の合計額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の80に相当する金額)とすることにより、納付税額をその課税標準に対する消費税額の20%とすることができる経過措置である。したがってインボイス発行事業者となる前から課税事業者である場合等には適用できない。 (2) 適用できる期間 「2割特例」を適用できるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間である。このため、免税事業者である個人事業者が令和5年10月1日から登録を受ける場合には、令和5年分(10~12月分のみ)の申告から令和8年分の申告までの計4回の申告が適用対象となる。 (出典) 財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」 (3) 適用できない場合 次のような場合には「2割特例」の適用はできない。 (4) 適用を受けるための手続き 「2割特例」の適用に当たっては、事前の届出は必要ない。消費税の確定申告書に「2割特例」の適用を受ける旨を付記することにより、適用を受けることができる。       (了)

#No. 604(掲載号)
#齋藤 和助
2025/01/30
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