暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第73回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 29 CARF(暗号資産等報告枠組み)と日本版CARF (1) CARF・日本版CARFの概要① OECDは暗号資産の台頭がもたらす課税上の問題への対応に取り組んでいる。 暗号資産は、利用者自身で暗号資産を管理するためのプライベートウォレットなどを使うことで、従来の金融機関などの仲介者を介さずに移転・保有することが可能である。 仲介者を介さずに、個人で暗号資産を保有し、取引している場合には、税務当局にとっては情報の照会先や提出依頼先がない。 このため、税務当局においては、自国の納税者に係る暗号資産の取引又は保有等に関する情報を選別したり、入手したりすることが困難となる。 その結果、各国の税務当局はその管轄内で行われた課税に関連する活動を完全に把握することができず、関連する納税義務が適切に履行されているかを確認することが困難になっている。 このような状況は、CRS(共通報告基準)(※)によって実現された、世界的な課税の透明性の向上という成果を徐々に損なうという、重大なリスクをはらんでいる。 (※) CRSとは、自動的情報交換の対象となる非居住者の金融口座の特定方法や情報の範囲等を各国・地域で共通化する国際基準のこと。これを通用することにより、金融機関の事務負担を軽減しつつ、金融資産の情報を税務当局間で効率的に交換し、外国の金融機関の口座を通じた国際的な脱税及び租税回避に対処することを目的としている(国税庁「非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度(FAQ)」(平成28年7月(令和6年4月最終改訂))2頁)。 さらに、個人がプライベートウォレットを用いて暗号資産を保有し、かつ、国境を越えて自由に移転できることから、暗号資産が違法行為の手段として利用されたり、納税義務の回避に使われるリスクが存在する(OECD, PUBLIC CONSULTATION DOCUMENT: CRYPTO-ASSET REPORTING FRAMEWORK AND AMENDMENTS TO THE COMMON REPORTING STANDARD 4-5(2022); OECD, INTERNATIONAL STANDARDS FOR AUTOMATIC EXCHANGE OF INFORMATION IN TAX MATTERS: CRYPTO-ASSET REPORTING FRAMEWORK AND 2023 UPDATE TO THE COMMON REPORTING STANDARD 11-12(2023))。 こうした背景を踏まえ、OECDは、2022年から2023年にかけて、暗号資産取引に関する税務情報を、納税者の居住地国との間で、標準化された方法により、自動的に交換することで課税の透明性を確保する世界的な枠組みであるCARF(Crypto-Asset Reporting Framework:暗号資産等報告枠組み)を策定した。 CARFの概要は下図のとおりであり、現在、日本を含む60以上の国・地域が令和9年又は令和10年からこの枠組みに従った情報交換を開始することを表明している(国税庁「非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度の導入について」(令和7年6月)、OECD, Jurisdictions Committed to Implement the Crypto-Asset Reporting Framework (CARF) in Time to Commence Exchanges in 2027 or 2028 as Part of the Global Forum’s CARF Commitment Process(2025))。 情報交換の対象となる税務情報には、暗号資産の残高情報は含まれていないものの、利用者や事業体に係る実質的支配者の氏名、住所・所在地、居住地国、納税者番号、生年月日、出生地のほか、報告対象となる暗号資産の種類、法定通貨による購入や売却、暗号資産の交換、受領及び移転に係る暗号資産の名称、総額、総数量、件数などが含まれる(OECD, PUBLIC CONSULTATION DOCUMENT, at 4-5; OECD, INTERNATIONAL STANDARDS, at 11-12, 14, 18-19, 34-35)。 (了)
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第55回】 「国外財産調書に係る過少申告加算税の加算措置」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 国外財産調書及び債権債務調書について過少申告加算税の加重措置が適用される「重要なものの記載が不十分である」とはどのような場合をいうのでしょうか。 〔A〕 国税不服審判所の裁決において、記載すべき事項について誤りがあり、又は記載すべき事項の一部に記載漏れがあることにより、修正申告等の基因となる国外財産又は財産ないし債務の特定が困難である場合をいうという判断が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 国外財産調書及び債権債務調書 (1) 国外財産調書 ① 制度の概要 居住者で、その年の12月31日現在の国外財産の価額が5,000万円を超える居住者は、その財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を、その年の翌年の6月30日までに提出しなければならない(国送法(※1)5①)。国外財産調書制度は平成24年度の税制改正で整備されたが、その導入趣旨について、税制改正の解説(※2)では以下のように説明されている。 (※1) 正式名称は、「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」という。 (※2) 財務省「平成24年度税制改正の解説」613頁 ② インセンティブ措置 国外財産調書制度の導入を促進するため、以下のような制度が設けられている。 (2) 財産債務調書 ① 制度の概要 所得税及び復興特別所得税の納税義務者で、その年の総所得金額及び山林所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日において、その価額の合計額が3億円以上の財産又はその価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産(※3)を有する場合には、その財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項を記載した財産債務調書をその年の翌年の6月30日までに、所轄税務署長に提出しなければならない(国送法6の2)。 (※3) 国外転出特例対象財産とは、所得税法60条の2第1項に規定する有価証券並びに同条2項に規定する未決済信用取引等及び同条3項に規定する未決済デリバティブ取引に係る権利をいう(国送法6の2①、所法60の2①~③)。 財産債務調書制度は平成27年度の税制改正で導入されたが、それまで所得税法上の「財産債務明細書」として所得基準に合致する納税者についてのみ提出を求めてきたものを、平成27年度改正で導入された国外転出時課税制度の実効性を担保する目的も持たせて、所得基準と資産基準を併用して対象者を大口納税者に絞ったうえで、資産を時価で記載させるなど記載内容を充実させたものである(※4)。 (※4) 青山慶二「国外送金等に係る調書の提出等に関する法律に規定する国外財産又は財産債務に係る過少申告加算税の特例による加重措置を適用した事案」(TKC税情2025.2)32頁脚注4参照 財産債務調書を提出する者が国外財産調書を提出する場合には、その財産債務調書には、国外財産調書に記載した国外財産に関する事項の記載は要しないとされている(国送法6の2⑤) ② インセンティブ措置 財産債務調書についてもその適用を促進するため、国外財産調書と同様、過少申告加算税の5%軽減又は5%加重のインセンティブ措置が設けられており、内容はほぼ同一のため、記載は省略する。 以下では、国外財産調書につき、過少申告加算税の加重措置の適用の是非が争われた最近の裁決例を採り上げる。 2 過去の裁決例 令和5年12月7日国税不服審判所裁決(東栽(所)令5-48)(※5) (※5) 国税不服審判所HP (1) 事案の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という)が、国外財産等に関して生じる所得の申告漏れ等があったとして修正申告書の提出をしたところ、原処分庁が、国送法に規定する国外財産又は財産債務に係る過少申告加算税の特例による加重措置を適用して過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 請求人は、令和元年分ないし令和3年分(以下「本件各年分」という)の所得税等について、法定申告期限までに申告し、また、本件各年分に対応する国外財産調書及び財産債務調書をそれぞれ原処分庁に提出した。その後請求人は、原処分庁の調査を受け、令和4年3月5日、令和2年分の所得税等について、保有していた国内G株式に係る譲渡所得の計算誤り等があったとして、修正申告書を提出した。 さらに、請求人は、原処分庁の調査を受け、令和4年8月22日、本件各年分の所得税等について、米国に保有する賃貸用建物(以下「本件物件」という)に係る減価償却費の過大計上やG株式に係る譲渡所得の計算誤りに起因する各種申告漏れ等があったとして、修正申告書を提出した。原処分庁は、各修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定処分に当たり、各年分の国外財産調書及び財産債務調書に記載すべき事項に誤りがあることを理由に、国外財産調書及び財産債務の加重措置を適用した。 請求人は、原処分庁による各加重措置が適用されたことを不服として審査請求した。 (2) 主な争点 本件の争点は、過少申告加算税について、加重措置が適用されるか否か、具体的には、請求人が提出した各調書は、「重要なものの記載が不十分である」(国送法6③及び同法6の3②)と認められるか否かである。 (3) 審判所の判断 ① 法令解釈 国外財産調書の提出制度は、国外財産に係る課税の適正化の観点から、納税者本人から国外財産の保有について申告を求める制度であり、国外財産調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして、国外財産軽減加重措置が設けられている。また、財産債務調書の提出制度は、所得税等の申告の適正性を確保するため、納税者の保有する財産及び債務に関する情報につき納税者本人から提出を求める制度であり、同様に、財産債務軽減加重措置が設けられている。 このような両調書の提出制度の趣旨から、国送法において、国外財産調書に「国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項」を記載すること、及び財産債務調書に「財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項」を記載することが規定されていることに照らすと、国送法第6条第3項及び同法第6条の3第2項に規定する「重要なものの記載が不十分である」と認められる場合とは、それぞれ、国送法施行規則第12条第1項(国外財産調書)及び同規則第15条第1項(財産債務調書)が規定する記載すべき事項について誤りがあり、又は記載すべき事項の一部に記載漏れがあることにより、修正申告等の基因となる国外財産又は財産ないし債務の特定が困難である場合をいうものと解され、これと同趣旨の国送法通達6-3(国外財産調書)の取扱い及び同通達6の3-3(財産債務調書)の取扱いは当審判所においても相当と認められる。 そして、国外財産軽減加重措置及び財産債務軽減加重措置が両調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして設けられていることに鑑みると、「重要なものの記載が不十分である」か否かを含めて、各軽減加重措置の適用の可否の判断は、各調書自体の記載内容から行うべきである。 ② あてはめ 審判所は、以下のように事実認定し、国外財産調書及び財産債務調書の各記載内容は、いずれも各調書に記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分である」と認められるから、過少申告加算税について加重措置が適用されると判断した。 ➤本件物件について 本件物件は不動産所得を生ずべき業務の用に供されていたから、種類欄及び用途欄には、いずれも記載の誤りがあると認められる。また、その所在欄には居住用建物である旨の「Residence Property」との記載があるのみで、その所在地の記載はなく、さらに、戸数及び床面積の記載もない。 以上のように、令和元年分国外財産調書及び令和2年分国外財産調書は、本件物件の種類欄や用途欄の記載に誤りがあるだけでなく、所在地や戸数、床面積についても記載に誤りがあり、又は記載がないから、令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告の基因となった本件物件を当該各記載内容から特定することは困難であると認められる。 ➤G株式について 請求人が(中略)G社の株式について記載したとする各順号3欄は、財産債務の区分欄に「匿名組合契約の出資の持分」と記載されているほか、その種類欄は、「株式」及び「G社」と記載すべきところを組合出資持分と解される「SECURITIES PARTNERSHIP INVESTM」と記載されており、記載の誤りがあると認められる。また、数量欄は「0」と誤って記載されており、取得価額の記載もない。 以上のように、(中略)G社の株式について、「株式」であるとの種類の記載やその数量の記載もないのであるから、令和2年分第1修正申告及び令和3年分修正申告の基因となった本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式を当該各記載内容から特定することは困難であると認められる。 3 検討 請求人は、「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」に当たるか否かは、国外財産調書又は財産債務調書の内容から財産の特定が困難か否かで判断するべきものではなく、自身が毎年確定申告していることや、原処分庁の調査担当職員から対象物件について確認等があったことに鑑みると、これらの財産は既に特定済みであるから、「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」には当たらない旨主張した。これに対し審判所は、「重要なものの記載が不十分である」か否かを含めて、国外財産軽減加重措置又は財産債務軽減加重措置の適用の可否の判断は、国外財産調書又は財産債務調書自体の記載内容から行うべきであり、これらの記載内容に基づくと、本件において「重要なものの記載が不十分である」と認められることは上記のとおりであるとして、請求人の主張を排斥した。事実関係からして、請求人の主張が認められる余地は全くなかったものと思われる。 (了)
◆◇◆◇◆ 決算短信の訂正事例から学ぶ実務の知識 【第17回】 「表示方法変更時における過年度数値の組替え忘れ」 公認会計士 石王丸 周夫 決算短信では、連結財務諸表を2期併記します。当連結会計年度と前連結会計年度の2期分です。 併記されている2期の情報のうち、前連結会計年度に係る事項を「比較情報」(当連結会計年度に係る連結財務諸表に記載された事項に対応する前連結会計年度に係る事項)といいます。比較情報を作成することは連結財務諸表規則に定められており、決算短信の添付資料である連結財務諸表の開示様式については連結財務諸表規則に従うため、決算短信の連結財務諸表は2期併記となっています。 今回取り上げる訂正事例は、この比較情報の数値が訂正になった事例です。メインの情報である当連結会計年度の数値については何ら問題なく、訂正はありませんでした。 さっそく訂正事例を見ていきましょう。 訂正事例の概要 訂正されたのは、連結損益計算書の営業外費用の内訳でした。訂正前と訂正後を見比べてみましょう。 〈決算短信の連結損益計算書(訂正箇所抜粋)〉 【訂正前】 【訂正後】 まず、訂正前を見てください。 営業外費用の内訳は3つあります。支払利息、支払手数料、その他の3つです。 次に、訂正後を見てください。 営業外費用の内訳が少し変わりました。支払利息とその他の2つだけになっています。支払手数料は消えてしまっています。 これはどうしたことかというと、前連結会計年度に関して、訂正前において支払手数料として計上されていた14,683千円を、訂正後においては「その他」に統合したのです。当連結会計年度の方はどうかというと、訂正前の状態において支払手数料は「-」となっていましたので、この統合の影響はありません。 以上が訂正の内容になります。 どうして訂正しなければならないのか 上記の訂正内容は、過年度数値について一部科目を統合しただけのことです。そのままでもよかったのではないかと思いたくなるかもしれません。 しかし、そうではありません。 訂正前と訂正後の営業外費用の姿は、連結損益計算書の利用者に、それぞれ違った情報を伝えています。 訂正前の営業外費用は、当連結会計年度において支払手数料は0円だったという情報を発信しています。当連結会計年度の営業外費用の内訳は支払利息とその他であり、支払手数料は「-」となっている以上、支払手数料は1円たりとも計上されていないことを意味しています。 一方、訂正後の営業外費用は、支払手数料が発生しているかどうかは、当連結会計年度においても前連結会計年度においても識別不能であるという情報を発信しています。当連結会計年度及び前連結会計年度のいずれにおいても、営業外費用の内訳の「その他」に支払手数料が含まれている可能性を否定できませんが、この情報だけではそれはわかりません。 以上の違いを踏まえると、仮にこの企業の当連結会計年度の支払手数料が0円だったとしたら、訂正前のままでよいことになるので、訂正は行っていないはずです。しかし、実際には訂正していることから、当連結会計年度における支払手数料は0円ではなかったということがわかります。支払手数料は発生しているが、重要性が乏しいので「その他」に含めたということになるわけです。 その場合、当連結会計年度と並べて掲載される前連結会計年度の連結財務諸表は、当連結会計年度の表示に合わせて表示してあげなければなりません。そうでなければ、利用者にとって比較が難しくなるからです。それゆえに、当連結会計年度の表示方法の変更に合わせて、過年度の連結財務諸表を組み替えます。上記の訂正事例はそのような訂正でした。 会計基準の確認 会計基準を確認しておきましょう。 (企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第14項) また、営業外費用の内訳について、その他に含めてよいかどうかの判断基準についても定めがあります。 (連結財務諸表規則第58条) 本事例の場合、当連結会計年度の支払手数料の金額は、22,059千円(営業外費用総額)の100分の10以下だったということがわかります。 開示前のチェックポイント 表示方法の変更時に比較情報の組替えがなされていないという誤記載を見つけるには、数値欄に「-」がある科目に注意するという方法があります。 特に連結損益計算書の営業外費用は、経常的に発生する損益区分に含まれるため、毎期発生する可能性が高いと考えられます。それにもかかわらず「-」となっていれば、表示方法の変更があった可能性を考えて、内容を確認するとよいでしょう。 作成者自ら開示前に自己点検する場合は、表示方法を変更した箇所があれば覚えているはずですので、比較情報についても組替えしたかを思い起こしてみればよいかと思います。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例69】 「別荘地の管理契約と管理費負担に関する問題」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私は、父から別荘地を相続しました。その後、別荘地の管理業者から管理費の請求を受けました。私は、その管理業者と契約を結んだ覚えはなく、父も契約していなかったはずです。別荘も建てておらず、土地も全く利用していません。それでも支払わなければならないのでしょうか。 管理会社の話では、「契約がなくても支払義務を認めた最高裁判例がある」とのことです。なぜそのような結論になるのでしょうか。 1 検討の視点 バブル期には「別荘を持つこと」が一種のステータスとして捉えられ、全国各地で多くの別荘地が開発・販売された。その際、土地の所有者と管理会社との間で、道路や排水施設などの共用部分を維持するための管理契約が結ばれることが一般的であり、こうした別荘地では、所有者の使用の有無にかかわらず、管理会社が共通の施設を維持するために一定のサービスを継続して提供している。 その一方で、相続などにより新たな所有者が登場し、管理契約を締結していないまま土地を保有するケースも増えている。本事例は、そのような管理契約を締結していない所有者が管理費の支払義務を負うか、この点について判示した2つの最判令和7年6月30日(以下「令和7年判決」という)を踏まえて検討する。 2 別荘地の管理契約とは 別荘地の管理契約とは、別荘地の所有者が、別荘地の共益的な施設等(道路・排水設備・街路灯・ゴミ集積所など)の維持管理を管理会社に委託するものである。そのため、他の所有者が管理契約を締結していた場合、所有者は自ら管理契約を締結するか否かにかかわらず、共益的な利益を得ることができることになる。 管理契約は、個々の所有者と管理会社との間で締結されることが多いと思われるが、所有者全体で構成された「管理組合」(法人格のない団体)が一括して契約する場合もある。具体的な管理業務の内容は個別の契約によるが、令和7年判決の管理契約では、次のような事項が含まれていた。 3 2つの令和7年判決 2つの令和7年判決では、別荘地を利用していない所有者が、管理会社と管理契約を締結していないにもかかわらず、管理業務による利益を受けたと評価できるか(=不当利得が成立するか)が争点となった。高裁レベルでは判断が分かれており、最高裁の判断が注目されていたところ、令和7年判決は不当利得の成立を認めるに至った(なお、不当利得を否定した高裁判決は「管理業務が土地の経済的価値に与えた影響が不明である以上、利益を受けたとはいえない」ことを理由としていた)。 令和7年判決が最も重視したのは、管理業務の性質である。すなわち、管理業務が道路や排水設備の保守、防犯、景観維持など、別荘地全体の機能維持に資するものである以上、土地を利用していない所有者であっても、これらの業務による利益を受けていると評価でき、管理契約を締結していない所有者だけを利益の対象から除外することは困難であるという性質である。 この前提に立ち、最高裁は、管理契約を締結していない別荘地の所有者についても、管理業務により法律上の原因なく利益を受けているとし、不当利得の成立を認めている。また、高裁判決で不当利得の成立を否定する理由とされていた「管理業務による土地の経済的価値への影響」についても、管理業務によって土地の経済的価値そのものを向上させていなかったとしても、不当利得の成立に影響はないと判断している。 さらに、別荘地の所有者から「不当利得の成立を認めることは、契約自由の原則に反する」との主張もされていたが、令和7年判決は次の点を理由にこの主張を排斥している。 このような事情から、たとえ別荘地の所有者が管理業務の提供を望んでいなかったとしても、管理費相当額の負担義務は免れず、それが契約自由の原則に反するものではないと判断されている。 4 今後の展開 令和7年判決以前の下級審裁判例では、管理会社が別荘地全体の管理を行う必要があるのは管理契約上の義務であること等を理由に不当利得の成立を否定する判決(東京地判令和5年9月28日、東京地判令和5年9月8日、東京地判平成30年9月14日、東京地判平成24年2月10日等)も見られた。 これに対し、令和7年判決は、別荘地及び管理業務の特性を重視し、不当利得の成立を肯定した点に意義がある。また、別荘地の所有者が受ける利得についても、土地の経済的価値への影響とは関係なく利得を認めている(利得した額は管理契約に基づく金額と同額になるものと考えられる)。 今後、バブル期に別荘地を購入した所有者の相続や二次相続に伴い、管理契約を締結しないまま別荘地を保有するケースがさらに増加することが予想される。このため、管理費相当額の返還を求める不当利得請求訴訟も増加することが見込まれる。今後の訴訟においては、「管理業務から生じる利益の有無」をめぐり、実際の管理業務の有無、管理業務の適切性等が主な争点になっていくように思われる。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第95話】 「ふるさと納税返礼品と一時所得」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 中尾統括官は、昼食後、爪楊枝を銜えながら新聞を読んでいる。 新聞の見出しは、「ふるさと納税、返礼品の価値は 税務申告めぐり、訴訟に発展」となっている。 「・・・返礼品の価値か・・・」 中尾統括官は、銜えている爪楊枝を上下させながら新聞を読み続ける。 (※) 朝日新聞digital 2025.7.8 「・・・490件の寄付か・・・こんなに寄付をすると、毎日、自宅に返礼品が送られてきて、大変なことになると思うが・・・」 中尾統括官は、苦笑いをしながら読んでいる。 そこへ浅田調査官が昼食を終えて、やってくる。 「・・・中尾統括官・・・何をニャニャして読んでいるのですか?」 浅田調査官は、中尾統括官が持っている新聞を覗きながら訊ねる。 「・・・ふるさと納税の記事だよ・・・」 そう言うと、中尾統括官は、顔を上げる。 「・・・へえ・・・これって訴訟をしているのですか?」 浅田調査官は、立ちながら、新聞記事を読む。 「・・・ふるさと納税の返礼品は、確か・・・一時所得になるのですよね・・・」 浅田調査官は、そう言いながら話を続ける。 「・・・そして、一時所得とは、懸賞の賞金、競馬の払戻金、生命保険の満期返戻金等、営利を目的として継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものです」 浅田調査官は、東京高裁平成28年2月17日判決で述べられている一時所得の要件である「非継続要件(営利を目的として継続的行為から生じた所得以外の所得)」と「非対価要件(労務その他の役務又は資産の譲渡から生じた所得以外の所得)」の内容を思い出す。 「・・・ところで、一時所得の計算は(所法34②③)、総収入金額からその収入を得るために支出した金額を控除し、さらに特別控除額として50万円があると規定し・・・そして、この所得金額の2分の1相当額が課税される(所法22②二)ことになっている」 浅田調査官は、新聞を読みながら、一時所得の計算を頭の中で整理する。 「・・・この新聞記事によると、納税者は、一時所得の申告をしなかったので、税務署は、寄付先の自治体に照会をかけ、返礼品490件の総額の価値は、280万円が相当と判断したらしい」 中尾統括官は、爪楊枝を銜えながら新聞記事の一部を読む。 「・・・納税者は、各自治体に照会するには膨大な労力が必要で、納税者に対してこのようなことを強要することはおかしいと言っている・・・」 中尾統括官は、新聞記事の内容をそのまま伝える。 「・・・しかし・・・それは、納税者が自分の所得を申告する上で必要なことなのですから、納税者としては、当然、返礼品の価値を調べなければならないでしょう・・・」 浅田調査官は、横浜地裁判決の上記の記事を見ながら、頷く。 「・・・ところで、この納税者の寄付総額は、約660万円らしい・・・そうすると、返礼品の割合(280万円÷660万円)は、約42%になる・・・これは、総務省が定めた返礼品の基準(返礼品の返礼割合を3割以下とする)を超えることになるのでは・・・と納税者は反発しているらしい・・・」 中尾統括官は、税務六法を開いて、「地方税法37条の2第2項1号」を開く。 この規定は、地方税法で「3割ルール」を明示したものであるが、この規定を根拠として、3割を超える返礼品の価値の評価を認めることはできないとする納税者の主張は、「税務官庁が納税者に対して公的見解を示したとは認められない」として、横浜地裁では斥けられている。 「・・・しかし・・・一時所得の計算をするときに、この『3割ルール』を定めた地方税法の条文は、影響しないのであろうか・・・」 浅田調査官は、頸を傾げる。 「・・・仮に、税務署が返礼品の価値を算出して、その割合が42%になっていたとしても、上限を30%として、一時所得の計算をすべきだと僕は思うけれど・・・」 浅田調査官は、中尾統括官を見る。 「・・・しかし、税務署は、110の自治体一つ一つに照会をし、膨大な労力を費やして、返礼品の価値を算出し、その結果、返礼品の割合が42%になったのだから、それをわざわざ30%に引き下げることには抵抗があると思う・・・」 中尾統括官は、手に爪楊枝を持ちながら、苦笑する。 「・・・もっとも、納税者が、寄付総額660万円の30%である198万円について、自ら修正申告をしていれば、税務署はそれを認めたと思う・・・」 浅田調査官は、大きく頷く。 (つづく)
《速報解説》 JICPAから「欠損金に関する論点整理」についての研究報告が公表される ~実務上の留意点等の取りまとめ~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年7月17日付けで(ホームページ掲載日は2025年7月30日)、日本公認会計士協会は、「欠損金に関する論点整理」(租税調査会研究報告第42号)を公表した。 これは、法人税制上の欠損金に関して、過去の税制改正の経緯を考慮し、実務上の留意点等を取りまとめたほか、諸外国における欠損金に係る税制と我が国の制度との比較検討を行ったものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 論点整理は表紙を含めて94ページあり、主な内容は次のとおりである。 企業再生税制における欠損金の活用と留意点、他社で生じた欠損金の引継制限・使用制限など、実務において有用な事項について詳細に記載している。 また、我が国における欠損金制度の課題と望まれる改正点として、次の事項について記載している。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会が会計基準の開発や会社法改正に対応した 「会計監査人非設置会社の監査役の会計監査マニュアル」の第3版を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年7月30日、日本監査役協会は、「会計監査人非設置会社の監査役の会計監査マニュアル(第3版)」を公表した。 これは、前回の改定以降の環境変化に即した記載内容の改定並びに監査役監査基準、監査報告のひな型その他の日本監査役協会の公表資料の改定を踏まえた所要の修正を行うとともに、マニュアル全体の構成を見直すものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改定内容 「第2部 会計監査の実務―チェックリスト編」では、チェックリスト項目の統合・削除・新設により、チェックリスト項目の見直しを行っている。 「第3部 会計監査の実務―解説編」では、「第2部 会計監査の実務―チェックリスト編」のチェックリストの各項目に即した解説を記載している。 近時のIPO(Initial Public Offering:新規株式公開)を目指す会社の増加を受け、第3部においては必要に応じ上場準備会社を意識した記載も追加している。 現行版の用語解説の内容は適宜関連する項目に収録している。 (了)
2025年7月31日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.629を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
〈令和7年度税制改正〉 新リース会計基準に伴う リース取引に係る所要の措置 【補論】 公認会計士・税理士 森 智幸 1 はじめに~基本通達等の改正について 2025年6月30日付で、国税庁より法人税、消費税、所得税の基本通達等の改正が公表された。 この中には、リース取引に関して新設された基本通達も含まれている。リース取引に関しては、新リース会計基準の導入に伴い、法人税法や消費税法の改正が行われたが、今回の基本通達等の改正は、それに続くものである。 そこで、今回は、借手を対象として、改正通達におけるリース税制の見直しの内容や実務における注意ポイントについて解説することにする。 なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。 2 改正通達におけるリース税制の見直しの内容 ここでは、改正通達のうち、主に新設されたものについて解説する。 (1) 法人税法 (イ) ファイナンス・リース取引 ① 所有権移転外リース資産の減価償却費(法基通7-5-3) リース資産に係る「償却費として損金経理をした金額」(法法31①)には、リース資産に係る使用権資産をリース期間の減価償却費として経理した金額が含まれるとされた。 すなわち、所有権移転外ファイナンス・リース取引に係る使用権資産についてリース期間定額法によって計算した減価償却費は、損金経理を要件として、所得の金額の計算上損金の額に算入することになる。 なお、令和7年度税制改正前も、所有権移転外リース取引に係る減価償却については法人税法施行令で定められていたため、新たな内容ではないが、留意的に明らかにするために設けられている。 ② 賃借人の会計リース期間(法基通7-6の2-10の2) リース期間定額法においては、賃借人の会計リース期間をリース期間とすることが明らかとなった。なお、賃借人の会計リース期間とは、解約不能期間に次の期間を加えた期間をいう。 ③ 資産の賃貸借の範囲(法基通12の5-1-1) 法人税法第64条の2第3項の「資産の賃貸借」には、民法第601条の規定により効力を生ずることとなる契約に基づく行為のほか、資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する行為も含まれることが明らかにされた。 これは、新リース会計基準を適用する企業において、リースが法人税法における資産の賃貸借に含まれることを留意的に明らかにしたものである。 ④ リースを構成する部分とリースを構成しない部分とがある場合の取扱い(法基通7-6の2-17、12の5-1-7) リースを含む契約にリースを構成する部分とリースを構成しない部分とがある場合の取扱いが設けられた。新リース会計基準においてもリースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分に関する規定が設けられているが(基準28~29、適用指針9など)、法人税法においてもこの取扱いを行うことを明らかにしたといえる。 (ロ) オペレーティング・リース取引 ① 資産の賃貸借の範囲(法基通12の5-3-1) 法人税法第53条第1項の「資産の賃貸借」の範囲については、法人税基本通達12の5-1-1(資産の賃貸借の範囲)の取扱いを準用するとされた。したがって、新リース会計基準を適用する企業において、オペレーティング・リース取引が法人税法における資産の賃貸借に含まれることが明らかにされた。 ② 無償等賃借期間を含む賃貸借取引に係る支払額の損金算入(法基通12 の5-3-2) オフィスビルのテナント契約で見られるフリーレントのような「無償等賃借期間」について新たに通達が設けられた。この通達は、一部の課税上弊害があるもの以外の賃貸借取引について、賃借期間にわたり支払われるべきこととなる金額を、損金経理を要件として、損金の額に算入するものとするというものであるが、従来の考えと相違はない。 ③ リースを構成する部分とリースを構成しない部分とがある場合の取扱い(法基通12の5-3-3) リースを含む契約にリースを構成する部分とリースを構成しない部分とがある場合において、❶リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分ける方法、❷リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けない方法により経理しているときは、リースを構成する部分に係る資産の賃貸借について法人税法第53条(賃貸借取引に係る費用)及び法人税基本通達第 12章の5第3節(賃貸借取引)の取扱いを適用することを明らかにした。 (2) 消費税法 (イ) 新設の有無 消費税法基本通達においては、新設された通達は見られない。 (ロ) オペレーティング・リース取引の課税のタイミング 新リース会計基準では、オペレーティング・リースについても使用権資産とリース負債を計上することになった。一方、消費税法においては、リース取引の課税仕入れについては、そのリース資産の引渡しを受けた日の属する課税期間において仕入税額控除の規定の適用を受ける(消法30、消基通11-3-2)。 そのため、オペレーティング・リース取引においても、仕入税額を一括控除するのか、それとも従来通り、賃借料の支払時に仕入税額控除するのか、会計上の処理と課税仕入れの日との関係が問題となる。 この点については、消費税法の改正時には明らかになっていなかったため、基本通達において何らかの指針が出るのではないかと予想していたが、今回の改正後の基本通達においても、この点については明示されなかった。 したがって、オペレーティング・リース取引については、従来通り、賃借料の支払時を課税仕入れの日として、仕入税額控除することとして差し支えない。 (3) 所得税法 所得税の基本通達において新設されたものは以下の通りである。内容としては、法人税の基本通達とほぼ同じである。 3 実務における注意ポイント (1) 法人税~オペレーティング・リース取引における申告調整 オペレーティング・リース取引においては、会計上の費用と法人税法上の損金の額とに差異が生じることがあるため、申告調整が必要である。この点については国税庁から令和7年6月に「オペレーティング・リース取引に係る借手の申告調整について」が公表されているので参照されたい。 申告調整については、改正基本通達に記載されているものではないが、実務上重要であるので、ここで紹介することにする。 【借手の処理例】(国税庁の資料を参考に筆者作成) (2) 消費税~オペレーティング・リース取引における課税仕入れの会計処理 新リース会計基準においては、これまで述べたようにオペレーティング・リース取引についても使用権資産とリース負債を計上することになった(前記3(1)【借手の処理例】参照) 一方、消費税法上、課税仕入れについては、ファイナンス・リース取引については原則として一括控除となるが、オペレーティング・リース取引については、賃借料支払時に仕入税額控除を行う。 したがって、会計処理は同じであるものの、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引とでは、仮払消費税等の計上のタイミングが異なってくるので注意が必要である。 4 おわりに 今回はリース取引の補論として、法人税、消費税、所得税に係る基本通達の改正についてその内容と実務上の注意点を解説した。特に、借手のオペレーティング・リース取引については法人税法、消費税法において会計上と税務上の差異が生じるので注意が必要である。 本稿が、皆様の実務の参考になれば幸いである。 (連載了)
国家安全保障から見る令和7年度及び近年の税制改正 -防衛特別法人税等の企業への影響- 【第2回】 公認会計士・税理士 荒井 優美子 4 「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法」の改正 令和7年度税制改正(所得税法等の一部を改正する法律)(※1)により、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法」(以下、「防衛財確法」)が改正され、立法趣旨(第1条)に、防衛特別法人税を創設し、及びたばこ税の税率の特例を定め、防衛特別法人税の収入及びたばこ税の収入額に係る額を、防衛力強化資金として受け入れることが明記された。所得税は引き続き検討することとされている(※2)。 (※1) 令和7年度の「所得税法等の一部を改正する法律」第12条、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法の一部改正」により「防衛特別法人税」が創設された。 (※2) 与党(自由民主党・公明党)「令和7年度税制改正大綱(2024年12月20日)」18頁 防衛財源確保法は、令和5年度以降における我が国の防衛力の抜本的な強化及び抜本的に強化された防衛力の安定的な維持に必要な財源を確保するための特別措置として、2023年6月16日に成立し、同年6月23日に施行されている。防衛力強化資金の設置等について、「防衛力の抜本的な強化及び抜本的に強化された防衛力の安定的な維持のために確保する財源を防衛力の整備に計画的かつ安定的に充てることを目的として、当分の間、防衛力強化資金を設置する。」(旧防衛財確法6、新防衛財確法50)こととされ、当分の間、法人には防衛特別法人税を課し(防衛財確法9)、当分の間、たばこ税の税率の特例を定める(防衛財確法49)こととされた。 このように、防衛力強化資金の設置と財源としての防衛特別法人税による課税及びたばこ税の税率の特例の期限は明記されず、「当分の間」として規定されている。防衛特別法人税と同様な課税制度である復興特別法人税(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第5章)は、課税期間が明記されており(※3)、恒久的措置として平成26年度税制改正で創設された地方法人税では課税期間の規定は無い。 (※3) 法人の2012年4月1日から2014年3月31日(制定時は2015年3月31日)までの期間内に最初に開始する事業年度開始の日から同日以後2年を経過する日までの期間内の日の属する事業年度 「当分の間」が法令で使われている例としては、国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税制度における特定課税仕入れに関する経過措置(※4)(消費税法 平成27年税制改正法附則42)があるが、その後、制度の改正の議論はされていないようである。法令において「当分の間」という用語が使われているときは、その法令(の規定)が改正又は廃止されない限り半永久的に有効なものと扱われると理解されている(※5)。したがって、財務諸表における税効果会計の計算や企業価値評価で将来キャッシュフローを計算する際に用いられる実効税率は、防衛特別法人税が恒久的措置であるとの前提で算定する必要がある。 (※4) 課税売上割合が95%以上の事業者や簡易課税制度又は小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置が適用される事業者は、「事業者向け電気通信利用役務の提供」を受けた場合であっても、経過措置により当分の間、その役務の提供に係る仕入れはなかったものとされる。 (※5) 「法令における『当分の間』という用語は、日常では、『しばらくの間』、『さしあたり』といった意味で使われます。ただし、法令において『当分の間』という用語が使われているときは、その法令(の規定)が改正又は廃止されない限り半永久的に有効なものと扱われます。『当分の間』という用語は、その法令上の措置が暫定的なものであって、将来においてそれが変更又は廃止されることが予想されることを示したに過ぎません。」(環境省HP「暫定目標の見直し期間について(案)」の『法令読解の基礎知識』(元参議院法制局部長)より抜粋) 5 防衛特別法人税の概要 令和7年度税制改正により、法人の2026年4月1日以後に開始する各事業年度を課税事業年度とする、防衛特別法人税が導入された。 課税制度の仕組みは、納税義務者、課税標準額及び申告手続き等、地方法人税や廃止された復興特別法人税と概ね同様の制度であると考えられる(【図表1】参照)。課税標準法人税額に上乗せされる税率は、地方法人税が10.3%、復興特別法人税が10%に対して、防衛特別法人税は4%である。復興特別法人税は2年間の暫定課税制度であったが、防衛特別法人税は恒久的課税制度に近いものであり、法人の規模に関係なく一律4%の上乗せ課税がされるため、基準法人税額から基礎控除額500万円を控除した金額が課税標準額とされる(【図表2】参照)。 復興特別法人税では法人税の申告書とは別の申告書の作成・提出の仕組みとされていたが、防衛特別法人税は法人税及び地方法人税の申告書と一体の様式となっている。申告書の様式は国税庁のウェブサイトで公表されている。 中間申告書の提出は2027年4月1日以後に開始する課税事業年度から適用されるため、3月決算法人では、2026年4月1日開始事業年度の中間申告書は防衛特別法人税を適用せずに納税額が計算される。 【図表1】 防衛特別法人税の概要 【図表2】 防衛特別法人税の計算イメージ (出典:国税庁「令和7年度法人税関係法令の改正の概要」13頁より抜粋) (続く)