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日本の企業税制 【第84回】「各府省庁の「令和3年度税制改正要望」を概観する」

日本の企業税制 【第84回】 「各府省庁の「令和3年度税制改正要望」を概観する」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   9月末に、各府省庁から令和3年度税制改正要望が出揃った。 今回の要望項目数は、単純合計で、国税236項目、地方税239項目、重複排除ベースで、国税153項目、地方税166項目であった。   〇廃止・縮減項目 一方、廃止・縮減項目数は単純合計ベースで国税7項目、地方税5項目、重複排除ベースで国税3項目、地方税4項目であった。 今回、廃止・縮減項目として挙げられた国税の3項目(重複排除ベース)は、国土交通省の「過疎地域における事業用資産の買換えの場合の課税の特例措置の廃止(所得税・法人税)」、経済産業省・国土交通省・農林水産省・環境省の「省エネ再エネ高度化投資促進税制(再生可能エネルギー発電設備等の特別償却)の廃止(所得税・法人税)」、経済産業省の「事業承継ファンドから出資を受けた場合の法人税等の特例の廃止(法人税)」であった。 また地方税では、経済産業省の「事業承継ファンドから出資を受けた場合の法人税等の特例の廃止(法人住民税・事業税)」、経済産業省・環境省の「コージェネレーションに係る課税標準の特例の廃止(固定資産税)」、国土交通省の「特定都市河川浸水被害対策法に規定する雨水貯留浸透施設に係る課税標準の特例措置の廃止(固定資産税)」及び「特例事業者等が不動産特定共同事業契約に基づき不動産を取得した場合に係る課税標準の特例措置の縮減(不動産取得税)」の4項目(重複排除ベース)であった。   〇研究開発税制の拡大・延長 経済産業省の要望の筆頭には研究開発税制の見直しが掲げられた。特に今回の要望では、①研究開発投資の増加を促すための「税額控除上限」の引上げ、②リアルデータ・AIを活用したビジネスモデルの転換に不可欠でありながら、現状制度の対象外となっている、クラウド環境で提供するソフトウェアに係るアルゴリズム構築等の研究開発行為を税制の対象に追加等の措置が盛り込まれた。 このほかにも、期限を迎える総額型の控除率の上乗措置の適用期限の延長、試験研究費の額が平均売上金額の10%超の場合の上乗措置の適用期限の延長、中小企業者等について、試験研究費が8%超増加した場合の上乗措置の適用期限の延長も要望されている。 研究開発税制の拡充は、経済産業省の他、内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、環境省、防衛省の要望にも掲げられている。   〇自社株式等を対価としたM&A等 経済産業省の要望では、昨年の会社法改正で創設された株式交付制度も念頭に、企業の機動的な事業再構築を促すための株式を対価とするM&Aの円滑化を図るため、事前認定を不要とするなど実効的、かつ恒久的な制度として、被買収会社株主の株式譲渡益への課税繰延措置の創設が掲げられている。 また、同省は、ウィズコロナ/ポストコロナ時代のビジネスモデル変革の促進の観点から、こうした経営改革を前提に、①コロナ禍による厳しい経営状況からのV字回復の実現と、②ビジネスモデルの変革に資するDX投資の促進に対し、租税特別措置(投資への特別償却・税額控除、繰越欠損金の控除上限の引上げ等)を講ずるよう要望している。   〇中小企業税制 新型コロナ禍から立ち上がる中小企業の成長支援、地域経済の活性化の観点から中小企業税制関係の項目が多数の省庁で挙げられている。 まず、中小企業による経営資源集約化等(事業譲渡、株式譲渡、合併等)に係る税制措置の創設が、経済産業省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省から要望されている。 また、期限を迎える中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制については、経済産業省のほか、総務省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省(商業・サービス業・農林水産業活性化税制は国土交通省を除く)からも2年の延長が要望されている。 これらの他、中小企業者等の資金繰り負担の緩和の観点も踏まえ、中小企業者等の法人税率の特例の延長が経済産業省から要望され、また、金融庁からは、第三者への事業承継に係る課税猶予措置の創設、中堅・中小企業向けプロパー融資(金融機関が実行する国内勘定の企業向け融資のうち信用保証協会の保証がない融資)の前年度比増加額の一定割合について損金として認められる税制特例の創設も要望されている。   〇国際金融ハブ取引 金融庁は、昨今の香港の情勢を踏まえ、金融事業者・高度金融人材の日本への受け入れを加速し、日本を国際金融ハブとして確立するための税制措置を経済産業省とともに要望している。また、期限を迎える教育資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長は文部科学省とともに、結婚・子育て資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長は内閣府とともに要望している。   〇確定拠出年金の拠出限度額 厚生労働省からは、企業型・個人型確定拠出年金の拠出限度額の見直しが要望されている。 企業型確定拠出年金(企業型DC)の拠出限度額は、現行は月額5.5万円となっており、企業型DCと確定給付企業年金(DB)を併せて実施する場合は、月額5.5万円からDBの掛金額を控除する必要があるが、現行制度では全てのDBの掛金額を月額2.75万円と一律に評価し、企業型DCの拠出限度額は残りの月額2.75万円となっている。しかし、現在のDBの掛金額の実態は、月額2.75万円より低い場合が多く、DB間で格差も大きい。また、個人型確定拠出年金(個人型DC)の拠出限度額は、現行は企業年金(DB・企業型DC)の加入状況によって異なっている(月額2万円、1.2万円等)。こうしたことを踏まえ、企業型DC・個人型DCの拠出限度額について、DBごとの掛金額の実態を反映し、より公平な算定方法に改善を図るよう求めている。   〇固定資産税の評価替え 土地関係では、3年に1度の固定資産の評価替えのタイミングにあたる中、近年商業地の地価が上昇しており、地価上昇地点においては税負担額が増加するおそれがあることから、国土交通省は、現行の負担調整措置等を3年間延長するとともに、新型コロナ禍の影響により経済が大きな打撃を受けているという状況に応じて所要の措置を講じるよう求めている。経済産業省からも同様の要望がなされている。 また、現在、法制審議会の民法・不動産部会では、所有者不明土地問題への対処の観点から検討が進められているが、法務省は、①相続登記の促進のための登録免許税の特例措置の拡充及び延長と、②相続登記等の申請の義務化等を含めた不動産登記法等の見直しに係る登録免許税の減免措置、を要望している。 (了)

#No. 390(掲載号)
#小畑 良晴
2020/10/15

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第19回】「使用人兼務取締役に係る役員報酬と事業報告」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第19回】 「使用人兼務取締役に係る役員報酬と事業報告」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 使用人兼務取締役の位置づけ 会社法上、監査役は使用人を兼ねることができず(会社法335②)、監査等委員である取締役は、監査等委員会設置会社等の使用人を兼ねることができない(会社法331③)。しかし、これら以外の取締役に関してはこのような規定がなく、株式会社において使用人と取締役を兼ねる例は従来から多数存在していた。現在では、使用人兼務取締役を認める考えが支配的見解となっている。使用人兼務取締役は、その名の通り委任契約に基づく取締役としての地位と(※1)、労働契約に基づく使用人としての地位の2つの地位を有することとなる。 (※1) 取締役と会社の関係については【第10回】参照。 これに対し、法人税法は「使用人兼務役員」と称して、使用人と取締役を兼ねる立場を対象とした規定が設けられており、法人の役員のうち、部長、課長、支店長、工場長、営業所長、支配人、主任等の、法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するもののみが使用人兼務役員となることができると示されている(法法34⑥、法基通9-2-5)。したがって、社長や理事長、副社長や専務等の職制上の地位を有する役員は、使用人兼務役員となることはできない(法令71①、法基通9-2-4)(※2)。 (※2) 「専務取締役」に選任されていない役員が当該名称を付した名刺を持ち営業活動を行っていた場合に、使用人兼務役員に該当するとされた事例として、国税不服審判所昭和56年1月29日裁決(裁決事例集No.21-107頁、TAINS:J21-3-03)がある。 また、【第1回】のみなし役員と同じく、同族会社の特定株主等に該当する役員も使用人兼務役員とは取り扱われないこととなる(法令71①五、法基通9-2-7)。   (2) 使用人としての給与部分の取扱い このような使用人兼務取締役に対して報酬を支給する場合、取締役に対する役員報酬については株主総会等で決議することは当然として、使用人としての給与部分も役員報酬と同様、株主総会等で決議するべきなのかという問題がある。 この点については、既に最高裁判決が存在しており、「使用人として受ける給与の体系が明確に確立されている場合においては、使用人兼務取締役について、別に使用人として給与を受けることを予定しつつ、取締役として受ける報酬額のみを株主総会で決議することとしても、取締役としての実質的な意味における報酬が過多でないかどうかについて株主総会がその監視機能を十分に果たせなくなるとは考えられない(下線部筆者)」と示している(※3)。 (※3) 最高裁昭和60年3月26日判決(判例時報1159号150頁、TAINS:未搭載)。仮に各取締役が使用人としての給与を自由に決定できるのであれば、会社法上の利益相反取引とみなされる可能性もあるため(会社法356①二)、株主総会にその事実を開示して承認を受ける必要があると思われる。 その上で、法人税の所得計算においては、使用人兼務役員の使用人としての給与や賞与は損金算入されるということが前提となる(法法34①括弧書き)。この場合において、使用人としての賞与に関しては事前確定届出給与に関する届出書の提出も不要となる。しかし、使用人としての賞与について、他の使用人と異なる時期に支給したり、通常の賞与時期に支給せず未払金として計上したりした場合には、当該使用人賞与部分は損金不算入となる(法令70三、法基通9-2-26)。 使用人兼務役員に係る役員給与を考える上で特に注意したい点は、このような過大役員給与の判定である。すなわち、過大役員給与の判定の場面で(※4)、実質基準については使用人の給与部分がその判定対象に含まれ(法基通9-2-21)、形式基準においては、株主総会等で役員給与部分のみ決議していることを前提に、使用人としての職務相当として認められる範囲のみが形式基準判定の対象外となることに留意したい(法令70一ロ)。 (※4) 詳細は【第3回】参照。 したがって、会社法上、税務上双方において、このような使用人と取締役を兼ねるリスクを回避するためには、使用人としての給与額は給与テーブル等を設定し、客観的に決定することが最低限必要となる。また、使用人としての職務相当を超えた額を形式的に使用人給与として支給した場合は、税務上の疑義が生じるだろう(※5)。 (※5) 使用人としての給与の適正額の考え方は法人税基本通達9-2-23に示されており、それによると、①類似職務に従事する他の使用人に対して支給した給与額に相当する金額、②比準すべき使用人がいない場合には、当該使用人兼務役員が役員になる直前に受けていた給与の額等、を斟酌して適正額を判断することとなる。   (3) 事業報告への反映 本件は上場企業であるため、公開会社としての事業報告が必要となる(会社法施行規則119以下)(※6)。事業報告では、株式会社の会社役員に関する事項のうち、役員等の報酬の総額や、各会社役員の報酬等の額又はその算定方法に係る決定に関する方針の概要などを明らかにしなければならない(会社法施行規則121四~六)。 (※6) 会社法上は、公開会社につき、発行する株式の全部又は一部について譲渡制限を課していない会社と位置付けている(会社法②五)。 すなわち、冒頭の質問にあった使用人としての給与部分の取扱いは会社法施行規則で明示されていないため、事業報告に反映させる義務はないと考えられる。しかし、「会社役員に対する重要な事項」であれば事業報告に反映させる必要があるため(会社法施行規則121十一)、例えば取締役としての役員報酬部分よりも使用人としての給与の方が極端に高額な場合等は、使用人兼務取締役が支給を受ける金額全てを示す必要もあるだろう。 なにより、上場企業であれば、株主総会で使用人兼務取締役に係る人件費について質問を受けることもある。株主からの信頼を獲得するためには、使用人兼務取締役が支給を受ける総額のうち、役員報酬部分と使用人部分の割合等、ある程度の情報は開示する必要があるのではないかと思われる。したがって、使用人の給与額の割合を高め、事業報告に反映させないようにすることは、リスキーだと言わざるを得ないだろう。 (了)

#No. 390(掲載号)
#中尾 隼大
2020/10/15

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の現行法上の問題点と今後の課題 【第7回】「適格合併」

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第7回】 「適格合併」   公認会計士 佐藤 信祐 《第2章:税制適格要件》 1 適格合併 (1) 従業者従事要件及び事業継続要件の緩和 平成30年度税制改正により、従業者従事要件及び事業継続要件が緩和され、当初の組織再編成の後に完全支配関係のある法人に従業者又は事業を移転したとしても、従業者従事要件及び事業継続要件に抵触しないこととされた。 吸収合併を例に挙げると、被合併法人から合併法人に引き継がれた従業者又は事業が合併法人と完全支配関係のある法人に移転したとしても、従業者従事要件及び事業継続要件に抵触しないことになる(法法2十二の八ロ)。グループ法人税制が導入されていることを考えると、完全支配関係のある法人に従業者又は事業が移転したとしても、被合併法人から引き継がれた資産に対する支配が継続していると考えられるため、税制適格要件を緩和することについては問題ないと思われる。 しかしながら、繰越欠損金の引継ぎ(法法57②)については、現行法を見直す必要があると考えられる。例えば、下図のように、三角合併により事業規模要件又は特定役員引継要件を満たすことのできる子会社を経由して繰越欠損金を移転させることが可能になったからである。 【三角合併+多段階組織再編成】 《ステップ1:適格合併(三角合併)》 《ステップ2:適格新設分社型分割》 《ステップ3:適格合併》 もちろん、このような手法は、東京高判令和元年12月11日TAINSコードZ888-2287(TPR事件)のように、包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用される可能性があるが、拙稿「〈検証〉TPR事件 東京地裁判決」「〈検証〉TPR事件 東京高裁判決」で述べたように、平成22年度税制改正後には、本事件の射程が及ぶと解することは困難である。 そうなると、法人税法2条ではなく、法人税法57条2項の制度趣旨により、同様の事案に対する包括的租税回避防止規定の適用を検討する必要がある。すなわち、理論上は、適格合併以外の適格組織再編成に対しても繰越欠損金の引継ぎを認めるべきであるが、移転する事業に係る繰越欠損金の計算の困難性を考慮した結果、適格合併以外の適格組織再編成に対しては繰越欠損金の引継ぎが認められなかった(※1)。このような制度の簡素化を利用して法人税の負担を不当に減少させる行為は、制度趣旨に反することが明らかであることから、包括的租税回避防止規定を適用することができると思われる。 (※1) 「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」参照(朝長英樹『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』47頁(平成13年、日本租税研究協会)掲載)。 これに対し、立法論からすると、適格合併以外の適格組織再編成に対しても繰越欠損金の引継ぎを認めるべきであると考えられる。「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」では、適格分割型分割にのみ言及されているが、他の適格組織再編成であっても、簿価で資産及び負債を取得するだけでなく、その計算要素も引き継ぐべきであることから、合理的な計算を行ったうえで、繰越欠損金を引き継ぐことを認めるべきであると考えられる(※2)。 (※2) 「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」において、適格分割型分割にのみ言及されている理由として、適格合併及び適格分割型分割が資産及び負債を簿価で引き継いだものとみなす制度であり(法法62の2①②)、適格分社型分割、適格現物出資及び適格現物分配が資産及び負債を簿価で譲渡したものとみなす制度(法法62の3①、62の4①、62の5③)であるからだと思われる。 そうなると、残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎが、特定の資産との結びつきが希薄であることを理由として法人株主に引き継ぐ制度になっていることから(※3)、完全支配関係のある法人に移転した資産の割合に応じて繰越欠損金を引き継ぐという制度も可能かもしれない。 (※3) 佐々木浩ほか『平成22年版改正税法のすべて』284頁(大蔵財務協会、平成22年)。 さらに言えば、適格分社型分割ではなく、事業譲渡により完全支配関係のある法人に従業者及び事業を移転させた後に適格合併により合併法人に繰越欠損金を引き継ぐことも可能になってしまうため、残余財産が確定した場合に限らず、完全支配関係のある法人に従業者又は事業を移転させた場合には、合理的な計算を行ったうえで、繰越欠損金を引き継ぐという制度を導入すべきということになる。 しかしながら、そのような制度にした場合には、完全支配関係がある法人の取引に係る譲渡損益の繰延べ(法法61の13)についても、譲渡法人で譲渡損益を実現させるのではなく、譲受法人で譲渡損益を実現させるべきということになってしまい、どんどん複雑な制度になってしまう。 このように、公平な税制を作ろうとすれば、どこまでも複雑になってしまうため、どこかで折り合いをつける必要がある(※4)。どこかで折り合いをつけるためには、わずかに残った抜け穴に対して、包括的租税回避防止規定を適用することが容易であり、わずかに残った落し穴が許容できる範囲であることが重要であると思われる。 (※4) 組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度に限って言えば、「簡素で公平な税制」を実現することは不可能である。 そう考えると、残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎについては、現行制度をそのまま維持しつつも、適格合併以外の適格組織再編成に対して、合理的な計算を行ったうえで、繰越欠損金を引き継ぐという制度にすべきであると考えられる。このような制度にした場合には、適格分社型分割ではなく、事業譲渡により完全支配関係のある法人に従業者及び事業を移転させた後に、適格合併により合併法人に繰越欠損金を引き継いだ場合には、本来であれば、合併法人に繰越欠損金を引き継ぐのではなく、事業の譲渡先に繰越欠損金を引き継ぐべきであったとして、包括的租税回避防止規定の適用が容易になると考えられる。 (2) 資本金基準の問題点 共同事業を行うための適格合併に該当するためには、事業規模要件又は特定役員引継要件を満たす必要があり、事業規模要件を満たすためには、被合併法人の被合併事業と合併法人の合併事業のそれぞれの売上金額、当該被合併事業と合併事業のそれぞれの従業者の数、当該被合併法人と合併法人のそれぞれの資本金の額若しくは出資金の額又はこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないことが必要になる(法令4の3④二)。 このように、売上金額、従業者の数又は資本金の額の規模の割合のうち、いずれか1つが5倍を超えなければ、事業規模要件を満たすことができる。このうち、資本金の額については、適格合併にだけ認められた指標であり、適格分割(法令4の3⑧二)、適格現物出資(法令4の3⑮二)、適格株式交換(法令4の3⑳二)及び適格株式移転(法令4の3㉔二)については認められていない。適格分割及び適格現物出資については、一部の事業のみが移転することもあるため、会社全体の規模を示す指標である資本金の額を認めていないというのは理解できるが、適格株式交換及び適格株式移転についても認めていない理由は不明である。 さらに、本来であれば、会社全体の規模を示す指標として、資本金の額よりも簿価総資産価額又は簿価純資産価額のほうが適切であると思われる。例えば、簿価純資産価額100億円、資本金の額1億円の法人と簿価純資産価額1億円、資本金の額3,000万円の法人が合併した場合に、資本金の額の規模の割合が5倍以内であることを理由として、事業規模要件を満たせてしまうのは、制度上の問題があるとは言えないだろうか。 もちろん、様々な会社のHPでは、資本金の額を開示していることから、資本金の額が事業規模を示している一面はあると思うが、中小企業の組織再編成を見てみると、資本金の額が1,000万円から5,000万円の法人が多く、ほとんどの事案において事業規模要件を満たしてしまっている。 このような弊害を改善するために、資本金の額ではなく、簿価総資産価額又は簿価純資産価額により事業規模要件を判定するような改正が望ましいと考えられる。ただし、簿価総資産価額又は簿価純資産価額により事業規模要件を判定する場合には、事業ごとに区分することができるため、(イ)会社全体で判定するのか、事業ごとに判定するのか、(ロ)事業ごとに判定する場合には、他の組織再編成においてもその指標を使うことを認めるのかという点についても検討すべきであると思われる。 *   *   * 次回では、適格分割について解説を行う予定である。 (了)

#No. 390(掲載号)
#佐藤 信祐
2020/10/15

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第17回】「〔第4表〕複数事業の場合の業種区分の判定」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第17回】 「〔第4表〕複数事業の場合の業種区分の判定」   税理士 柴田 健次   Q A社の直前期末以前1年間の取引金額の内訳は下記の通りとなりますが、この場合における類似業種比準価額の計算で使用する業種目は、取引金額が最も多い不動産賃貸業の業種で考えればいいのでしょうか。 【A社の直前期末以前1年間の取引金額の内訳】 A 類似業種比準価額の計算で使用する業種目の判定は、下記の①から③の手順により行います。取引金額のうちに2以上の業種目がある場合において、業種目別の取引金額の割合が50%を超える業種目がない場合には、評価通達181-2(1)~(5)により業種目を決定するため、本問の場合には、中分類である「その他の宿泊業・飲食サービス業(業種目番号104)」に該当することになります。なお、業種目が中分類である場合には、その業種目の属する大分類も選択することができますので、「宿泊業・飲食サービス業(業種目番号99)」を選択することもできます。 一方で、第1表の2の会社規模の判定をする場合の業種区分(「卸売業」、「小売・サービス業」、「卸売業・小売・サービス業以外」)は、取引金額が最も多い金額により判定を行います(評価通達178(4))ので、不動産賃貸業の「卸売業、小売・サービス業以外」の業種区分により判定することになります。 【類似業種比準価額の計算で使用する業種目の判定手順】  ◆  ◆  ◆ ① 直前期末以前1年間の取引金額を日本標準産業分類に基づき区分 A社の直前期末以前1年間の取引金額を「日本標準産業分類(平成25年10月・第13回改定)」に基づき区分すると、下記の通りとなります。   ② 対比表を基に業種目を確認 「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表(平成29年分)」の区分に当てはめて業種目を確認します。業種目の確認を行った後に第1表の1を下記の通り記載します。 【第1表の1(一部抜粋)】 【日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表(平成29年分)(一部抜粋)】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   ③ 業種目を決定 業種目別の取引金額の割合が50%を超える業種目がありませんので、評価通達181-2(1)~(5)により判定します。上記の業種目のうち、旅館、ホテルと喫茶店は同じ大分類(宿泊業、飲食サービス業)に該当し、類似する中分類に属しますので、大分類の中にある「その他の宿泊業・飲食サービス業(業種目番号104)」を使用することになります。類似するかしないかについては、「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」(下記参照)の分類の一番下に「その他の〇〇業」があるか否かで判断することになります。 【類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等(令和2年分)(一部抜粋)】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 「その他の〇〇」の〇〇については、包括的な例示を意味します。例えば、「飲食店その他の宿泊業、飲食サービス業」とある場合には、「宿泊業、飲食サービス業」の1つの例として「飲食店」が該当することを意味するため、「飲食店」と「宿泊業、飲食サービス業」は類似する中分類の業種目に該当することになります。 なお、納税義務者の選択により、類似業種が小分類による業種目にあってはその業種目の属する中分類の業種目、類似業種が中分類による業種目にあってはその業種目の属する大分類の業種目を、それぞれ類似業種とすることができる(評価通達181)とされていますので、大分類である「宿泊業・飲食サービス業(業種目番号99)」を選択することもできます。   ☆実務上のポイント☆ 評価会社の取引金額を日本標準産業分類の区分ごとに分けることが実務上のポイントとなります。 (了)

#No. 390(掲載号)
#柴田 健次
2020/10/15

相続税の実務問答 【第52回】「遺産の一部が未分割である場合の相続税の申告」

相続税の実務問答 【第52回】 「遺産の一部が未分割である場合の相続税の申告」   税理士 梶野 研二   [答] 未分割財産については、分割済みの財産の価額と合わせて法定相続分相当額となるように分割したものとして各相続人の相続税の課税価格を計算します。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺産が未分割の場合の相続税の申告 相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によって分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算することとされています(相法55)。   2 遺産の一部が未分割の場合の課税価格の計算 遺産の全部が未分割である場合には、当該財産を各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算することに疑義はありません。 しかしながら、遺産の一部が分割され、残りの遺産が未分割である場合には、相続税の課税価格の計算方法について、次の2つの方法が考えられます。 【例】 相続人は、甲乙丙の3名で、法定相続分が各人3分の1とします。 遺産総額は150で、一部分割により甲が15、乙が20、丙が25の財産を取得しました。 この場合の、①及び②の計算は、次のとおりとなります。 未分割財産について遺産分割が行われ、当該共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合には、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、相続税の修正申告書を提出し、若しくは相続税法第32条第1項に規定する更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることができることとされています(相法55ただし書き)。したがって、上記①又は②のいずれの方法を採用したとしても、いわば分割が完了するまでの間の仮計算ともいえますので、納税者の選択に委ねるということも考えられるところです。 しかしながら、仮計算とはいえ、その結果、算出された相続税額は各共同相続人又は包括受遺者が納付しなければならない税額であり、共同相続人間又は包括受遺者との間に争いがあるため遺産分割ができないようなケースも少なくないことから、共同相続人間及び包括受遺者との間の公平な扱いが求められます。相続財産の一部が分割されたとしても、そのことによって、相続財産全体に対する各共同相続人又は包括受遺者の法定相続分又は包括遺贈の割合が変更されるわけではありませんので、各共同相続人又は包括受遺者は、他の共同相続人又は包括受遺者に対し、相続財産全体に対する自己の相続分に応じた価額相当分から既に分割を受けた財産の価額を控除した価額相当分についてその権利を主張することができます。 そうすると、相続税法第55条に規定する「民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算する」とは、各共同相続人又は包括受遺者が相続財産全体に対する自己の相続分又は包括遺贈の割合に応じた価額相当分から既に分割を受けた財産の価額を控除した残りの価額相当分を取得したものとして計算する方法、すなわち、「穴埋方式」により課税価格を計算すべきと解するのが相当であると考えられます。 (参考判決)平成19年10月24日裁決(裁決事例集No.74・274頁) (注) 平成20年5月29日裁決(裁決事例集No.75・546頁)、平成27年6月3日裁決(裁決事例集No.99)も穴埋方式によることが相当であるとしています。   3 ご質問の場合 未分割である自宅土地建物7,000万円及びその他の財産500万円(合計7,500万円)については、次表のとおり「穴埋方式」により、母が4,200万円、姉が1,000万円、あなたが2,300万円の財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算すべきであると考えられます。 (了)

#No. 390(掲載号)
#梶野 研二
2020/10/15

給与計算の質問箱 【第10回】「令和3年分源泉徴収税額表の変更点」

給与計算の質問箱 【第10回】 「令和3年分源泉徴収税額表の変更点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 令和3年分源泉徴収税額表は、令和2年分源泉徴収税額表と比較して変更点はあるでしょうか。 A 源泉徴収税額表自体の変更点はない。ただし、令和3年分源泉徴収税額表の19ページの「2 税額表の使い方」(2)、20ページ(注)7の表現が変更になっているので、以下で解説する。 * * 解 説 * * 1 “寡婦、ひとり親”への変更 源泉徴収税額表19ページ「2 税額表の使い方」(2)について、令和2年分では“寡婦(特別の寡婦を含みます。)、寡夫”なのに対し、令和3年分では“寡婦、ひとり親”になっている。以下、引用部分の赤色の下線は筆者による。 ◎令和2年分源泉徴収税額表の記載 ◎令和3年分源泉徴収税額表の記載   2 「なお書き」の追加 源泉徴収税額表20ページ(注)7について、令和2年分では、なお書きが無いのに対し、令和3年分ではなお書きが追加されている。 ◎令和2年分源泉徴収税額表の記載 ◎令和3年分源泉徴収税額表の記載   3 上記下線部の未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し これらの改正は、令和2年分以後の所得税について適用される。具体的には、令和2年分の年末調整及び確定申告から適用開始になる。ひとり親に該当する場合はひとり親控除として35万円、寡婦に該当する場合は寡婦控除として27万円の所得控除が適用される。 月々の源泉徴収は令和3年1月1日以後に支払う給与から適用開始になる。ひとり親又は寡婦に該当する場合は、扶養親族等の数に1人加えて源泉所得税を計算する。 令和3年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書では「ひとり親」の項目が追加されている。 ◎令和2年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の一部 ◎令和3年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の一部 (了)

#No. 390(掲載号)
#上前 剛
2020/10/15

基礎から身につく組織再編税制 【第21回】「適格分割(支配関係)」

基礎から身につく組織再編税制 【第21回】 「適格分割(支配関係)」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   前回は「完全支配関係」がある場合の適格分割の要件を確認しました。今回は「支配関係」がある場合の適格分割の要件について解説します。 なお、支配関係の定義については、本連載の【第3回】を参照してください。   1 支配関係がある場合の適格分割の要件 支配関係がある場合の適格分割の要件は、次の6つです。 それぞれの要件について、以下で詳しく見ていきます。   2 金銭等不交付要件 「金銭等不交付要件」とは、分割法人の株主に分割承継法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十一)。 ただし、下記の①から④を交付しても、金銭等不交付要件に抵触しません。 (①から④の内容は前回解説した「完全支配関係がある場合の適格要件」と同様のため、解説を省略します)   3 支配関係継続要件 「支配関係継続要件」とは、支配関係がある法人同士の分割の場合に、再編後においても支配関係が継続する見込みがあることをいいます(法令4の3⑦)。 前回確認した「完全支配関係がある場合の適格要件(完全支配関係継続要件)」の「完全支配関係」を「支配関係」と読み替えて適用します。   4 従業者引継要件 (1) 従業者引継要件とは 「従業者引継要件」とは、分割直前の分割事業の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が分割後に分割承継法人の業務((2)参照)に従事することが見込まれていることをいいます(法法2十二の十一ロ(2))。 (2) 「分割承継法人の業務」について ① 分割承継法人と完全支配関係にある法人がある場合 分割承継法人の業務には、分割承継法人との間に完全支配関係がある法人の業務も含まれます。 下図のように、従業者が分割承継法人の業務だけでなく、100%グループ内の法人(P社、B社)の業務に従事していれば80%判定に含めてもよいとされています。 ② 分割後に適格合併を行うことが見込まれている場合 分割後に行われる適格合併により分割事業がその適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人の業務も含まれます。 上図の合併法人C社の業務に従事していれば、80%判定に含めてよいとされています。 (3) 「従業者」とは 従業者引継要件における「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、分割の直前において分割事業に現に従事する者をいいます。 ただし、日々雇い入れられる者で従事した日ごとに給与等の支払を受ける者については、法人が選択により従業者の数に含めないことができます。 ① 出向により受け入れた者 出向により受け入れている者であっても、分割事業に現に従事する者であれば従業者に含まれます。 ② 下請先の従業員 下請先の従業員は、自己の工場内でその業務の特定部分を継続的に請け負っている企業の従業員であっても、従業者には該当しません。   5 事業継続要件 「事業継続要件」とは、分割事業が分割後に分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法法2十二の十一ロ(3))。 ① 分割承継法人と完全支配関係にある法人がある場合 分割事業が、分割承継法人と完全支配関係がある法人において引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。 ② 分割後に適格合併を行うことが見込まれている場合 分割後に行われる適格合併により分割事業がその適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合に、その適格合併に係る合併法人において分割事業が引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。   6 主要資産負債引継要件 「主要資産負債引継要件」とは、分割により分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していることをいいます(法法2十二の十一ロ(1))。 分割事業に係る資産及び負債が主要なものかどうかは、分割法人がその事業を行う上でのその資産及び負債の重要性のほか、その資産及び負債の種類、規模、事業再編計画の内容等を総合的に勘案して判定するものとされています(法基通1-4-8)。 分割事業に係る主要な資産及び負債の分割承継法人への移転が求められていますが、継続保有は求められていません。   7 按分型要件 「按分型要件」とは、分割型分割の場合に、分割承継法人株式又は分割承継親法人株式が、分割法人の株主の有する分割法人株式の数の割合に応じて交付されることをいいます(法法2十二の十一)。   8 従業者引継要件の具体例 〔前提〕 〔従業者引継要件の判定〕 分割法人であるB社の分割事業の従業者のうち、A社では5割しか受け入れていませんが、A社と完全支配関係があるC社で残りの5割を受け入れており、分割承継法人の業務には完全支配関係がある法人の業務も含まれることから、分割法人であるB社の分割事業の従業者すべてが分割承継法人の業務に従事することが見込まれていることとなります。 〔結論〕 従業者引継要件を満たします。   ◆支配関係がある場合の適格分割の要件のポイント◆ 金銭等不交付要件により、原則、株式以外の対価を交付しないことが求められています。 支配関係継続要件は完全支配関係継続要件を読み替えて適用します。 従業者引継要件は分割法人の従業者ではなく、分割事業にかかる従業者で判定します。 合併と違い、分割は事業単位で移転することを確認するため主要資産負債引継要件が求められています。   (了)

#No. 390(掲載号)
#川瀬 裕太
2020/10/15

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第39回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第39回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   〈更なる検討〉 ~返品調整引当金を廃止した理由~ 出版業、医薬品ないし化粧品の製造業又は卸売業など、一定の対象事業を営む法人のうち、常時、その販売する棚卸資産の大部分につき、「販売先からの求めに応じ、その販売した棚卸資産を当初の販売価額によって無条件に買い戻すこと」、「販売先において、販売元の法人から棚卸資産の送付を受けた場合にその注文によるものかどうかを問わずこれを購入すること」を内容とする特約を結んでいるものについては、返品調整引当金(繰入額)の損金算入が認められていた。 すなわち、上記の法人が、その棚卸資産のその特約に基づく買戻しによる損失の見込額として、各事業年度終了時において損金経理により返品調整引当金勘定に繰り入れた金額については、一定の返品調整引当金繰入限度額に達するまでの金額は、その事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することが認められていた(旧法法53、旧法令99、100)。 平成30年度改正により、一定の経過措置が施された上で、この返品調整引当金の規定は廃止された。その趣旨について、立案担当者は次のように説明している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』272頁 また、参考として、平成30年2月23日の衆議院財務金融委員会において、星野次彦主税局長(当時)は、所得税法に「返品調整引当金という条項がありましたけれども、これが削除されておりますが、この理由を確認させていただければと思っております。」という質問に答える形で次のように説明している。 収益認識に関する会計基準の導入を「契機として」、平成8年の政府税制調査会法人課税小委員会報告を踏まえ、返品調整引当金制度を廃止することとしたというのである。同報告では、引当金について、企業会計の費用収益対応の考え方に基づき、法人税の課税所得を合理的に計算するために設けられているものであるため、制度自体を政策税制と考えることは適当でないが、「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」との観点を踏まえ、改めてその基本的あり方を検討するものとしていた。 もっとも、すべての法人に収益認識会計基準が適用されるわけではないにもかかわらず、同基準の制定を契機として返品調整引当金を廃止する理由はどこにあるのか、貸倒引当金が存置される理由はどこにあるのかなど、疑問も残る。 上記立案担当者又は星野主税局長の説明は、次のような鋭い批判と向き合うべきであろう。平成8年の政府税制調査会法人課税委員会報告に従って、引当金を縮減していくという方向性が確認されていたとしても、なぜ、その縮減が返品調整引当金の廃止を意味するのか、法人税法に特有の問題があるから返品調整引当金を廃止したのだという積極的な説明が必要である、という批判である(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅱ〔第2版〕』186頁(中央経済社2018)参照)。 少なくとも上記各説明では、説明不足の感は否めない。もっとも、その責任は立案担当当局に帰するのか、やはり立法機関である国会に帰するのか、という問題もある。 なお、返品債権特別勘定の設定は引き続き認められることとなった(法基通9-6-4)。その趣旨については、次のように説明されている(国税庁「平成30年5月30日付課法2-8ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」104頁参照)。 上記通達のような取扱いを法令ではない通達限りで認めることは租税法律主義に抵触しないのか、上記通達適用の前提となる特約や業界特有の慣行又は事情に照らして、検討する余地は残る。 上記通達について、売上額の調整勘定である点で本会計基準の取引価格の算定上の調整要素となり、本会計基準との調整は可能であること、及び廃止するとなると返品調整引当金の廃止と異なり、週刊誌等を発行する出版業界への影響が大きいことを考慮したものであるという見解が示されている(藤曲武美『収益認識の税務』106頁(中央経済社2018)参照)。   (了)

#No. 390(掲載号)
#泉 絢也
2020/10/15

〈ツボを押さえて理解する〉仕訳のいらない会計基準 【第4回】「会計基準のプロフィール紹介(中編)」-財務諸表の表示科目に関係する会計基準、財務諸表の注記を伴う会計基準-

〈ツボを押さえて理解する〉 仕訳のいらない会計基準 【第4回】 「会計基準のプロフィール紹介(中編)」 -財務諸表の表示科目に関係する会計基準、財務諸表の注記を伴う会計基準-   公認会計士・税理士 荻窪 輝明 3回にわたって見ていく会計基準のプロフィール紹介ですが、今回は(中編)です。 前回に続き、第2回「会計基準の世界を俯瞰する」で分けたジャンルを踏まえて、その会計基準がどのジャンルにどの程度の割合で属しているかイメージを付しました。あくまで個人の見解によるものですが参考にしてください。 今回は5つに分けたジャンルのうち「」と「」を見ていきます。 〔ジャンル属性の説明〕 *  *  * 3回にわたる会計基準のプロフィール紹介も次回で最後です。次回は「」と「」を見ていきます。 (了)

#No. 390(掲載号)
#荻窪 輝明
2020/10/15

値上げの「理屈」~管理会計で正解を探る~ 【第7回】「埋没原価を正しくとらえる」~ものは言いよう~

値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第7回】 「埋没原価を正しくとらえる」 ~ものは言いよう~   公認会計士 石王丸 香菜子   登場人物 *  *  * 同じ品物やサービスでも、状況によって異なる価格が設定されていることがあります。「お盆の時期の飛行機代が高い」、「美容室で新規のお客は特別割引になる」、「飲み屋さんで早い時間帯はビールが半額になる」、「遊園地内で買うペットボトルが妙に高い」などなど・・・。顧客の種類や時間、場所などの要素に応じて、同じ品物やサービスを複数の価格で販売することは、「価格差別」と呼ばれます。 *  *  * 数日前にハナダ店長が、切り花120本を1本当たり100円で仕入れたとします。1本当たり170円の定価で販売していましたが、120本のうち20本は売れ残り、今後の定価販売は難しいとしましょう(簡略化のため、固定費は考慮しないとします)。 管理会計では、「」という考え方があります。どのような意思決定をするとしても、変わりなく存在するので、意思決定上考慮する必要がないコストを指します。 数日前に仕入れた切り花について考えると、その時点で12,000円のコストがすでに発生しています。今後(将来に向かって)、売れ残りの20本をいくらで販売しようと、コストが12,000円発生したことに変わりはありません。つまり、仕入値12,000円は埋没原価になるので、今後の意思決定においては考慮する必要がないことになります。 ですから、仕入値のことは忘れて、売れる値段で売ればよいのですね。20本を廃棄すれば何も得られませんが、どんな安値でも販売できれば追加でいくらかの収益を得ることができるというわけです。 損益を考えるときには、コストが発生する前なのか、コストが発生した後なのかに注意しましょう。損益分岐点売上高などを求める損益分岐点分析(詳しくは【第3回】を参照)は、あくまでも「事前」の分析です。実際に商品を仕入れた後や製品を製造した後では、すでに発生してしまった仕入値や製造原価は埋没原価になります。簡単な例では理解しやすいのですが、多数のデータや選択肢がある意思決定の場面では、埋没原価に惑わされがちです。 *  *  * 発生したコストが埋没原価であることだけを考えれば、リミちゃんの言うとおり、大幅に値引き販売することになったとしても、売れずに廃棄するよりはましです。ただし、会計以外の側面についても、立ち止まって考えてみる必要がありそうです。 閉店間際に値引き販売を行うと、本来なら定価で購入してくれるはずだったお客さんまで、値引き価格で購入する状況が生じやすくなります。夕方5時以降に値引き価格で販売する場合、4時50分ごろに来たお客さんはおそらく・・・ これでは、本来得られるはずだった利益をみすみす逃してしまうことになりますね。 それだけでなく、商品の価格には品質を表すバロメーターとしての側面もあるので、安易に値引きしてしまうと、商品の品質に対するイメージを損なうおそれがあります。また、値引き価格で購入した経験のあるお客さんは、その商品に対して値引き価格の印象を持つので、次回以降、定価で購入するのは割に合わないと感じ、定価購入したいと思わなくなることもあるでしょう。値引き販売を行わない方針のブランドショップや高級果物店などは、こうした側面を重視しているのです。 管理会計上の埋没原価を正しくとらえることは不可欠ですが、会計上の数値に現れない潜在的な側面も、価格を決める際には熟慮したいですね。 同じ商品を異なる価格で販売する「価格差別」を成功させるには、いくつかの条件があります。①顧客や市場を、ニーズが異なるいくつかのカテゴリーに何らかの要素によって分けることができ、②カテゴリー間で再販売できない状況では、価格差別がうまくいくことが多いようです。顧客のカテゴリー間で大きな不公平感が生まれない工夫が必要なこともあります。 値引き販売を検討する場合には、安易にただ値引きを行うのではなく、こうした条件を満たし、価格差別を通じて潜在的な需要を掘り起こせるような方法を探してみるとよいですね。 (了)

#No. 390(掲載号)
#石王丸 香菜子
2020/10/15
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