給与計算の質問箱 【第8回】 「複数の会社に勤務する場合の税金と社会保険料」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 複数の会社に勤務する場合の税金と社会保険料について教えてください。 A 次の①~⑤につき、徴収及び書類の提出等が必要となる。 * * 解 説 * * ① 源泉所得税 主たる給与を支払う場合の源泉所得税は、源泉徴収税額表の「甲欄」による。 「主たる給与」とは、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人に支払う給与をいう。 従たる給与を支払う場合の源泉所得税は、源泉徴収税額表の「乙欄」による。 「従たる給与」とは、主たる給与の支払者以外の給与の支払者が支払う給与をいう。 ② 住民税 主たる給与を支払う会社が特別徴収(給料から住民税を天引き)する。 ③ 労災保険 労災保険は全額会社負担なので給料計算に関係しない。複数の会社に従業員として勤務する場合、それぞれの会社で労災保険の対象となり、それぞれの会社が労災保険料を負担する。 ④ 雇用保険 複数の会社に従業員として勤務し、かつ、それぞれの会社で雇用保険の加入条件を満たす場合、生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける会社(※)でのみ雇用保険に加入する。 (※) 一般的には勤務する複数の会社のうち最も賃金の高い会社 ⑤ 健康保険、介護保険、厚生年金保険 被保険者が同時に複数の会社に使用される場合、会社は「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を提出し、被保険者は複数の会社に使用されることになってから10日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を、選択する会社の所在地を管轄する事務センター(年金事務所)へ提出する。添付書類は健康保険証となる。 * * * ◎A社の給料計算 以上より、 ◆240,000円 - 雇用保険料720円 - 健康保険料11,844円 - 厚生年金保険料21,960円 - 源泉所得税4,980円 - 住民税10,000円 = 190,496円 よって、190,496円が、A社からの振込額となる。 ◎B社の給料計算 以上より、 ◆200,000円 - 健康保険料9,870円 - 厚生年金保険料18,300円 - 源泉所得税12,000円 = 159,830円 よって、159,830円が、B社からの振込額となる。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第8回】 「ニーズが多いのは継続賃料の評価」 ~鑑定評価における「賃料」の捉え方~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 「土地の賃料」と「建物の賃料」 土地の賃料は「地代」とも、建物(敷地を含む。以下、特段の断りなく「建物」と呼ぶ場合は敷地も含みます)の賃料は「家賃」とも呼ばれます。 家・賃といっても、賃料算定の対象となっているのは建物の部分だけでなく、その敷地も含まれている点に留意する必要があります(建物を借用すれば、当然のことながらその敷地も使用することになるからです)。ただし、建物を賃借する人に生ずるのはあくまでも「借家権」であり、土地の利用権を地主に直接主張できる「借地権」は、法的にも生じません。 ちなみに、地代という場合、他人の土地を賃借してその上に自分の建物を建てることを目的に支払う賃料を意味します(借地借家法のうち借地に関する規定が適用されます)。 一方、家賃という場合、他人の建物を賃借してそこに居住する(事業を営む)ことを目的に支払う賃料を意味します(ただし、借地借家法のうち借家に関する規定が適用されるため、貸主は自分の都合だけで借主を退去させることが難しくなります)。 2 「新規賃料」と「継続賃料」 最初に区別しておかなければならないのは、一概に賃料といっても、いつの時点での賃料を問題とするかです。例えば、これから新たに土地や建物を賃貸する場合と、従来から契約が継続している状態で地代や家賃を改定しようとする場合とでは、捉え方が異なってきます。 前者の場合を「新規賃料」、後者の場合を「継続賃料」と呼んで区別しています。 実際に、新規地代をいくらにすればよいかが問題とされるケースは、定期借地権のように期間満了とともに確実に土地が返還されることが法律で保証されている場合や、親族間又は親子会社間の土地賃貸借、置場や一時使用等の利用目的を除けば、それほど数はないといってよいでしょう。 その理由は、建物の所有を目的とする新規の借地供給(普通借地権)(※)は、現在きわめて稀にしか行われていないからです(借地借家法による借主保護により、普通借地権を設定した場合には契約期間が満了しても建物が存在する限り、貸主に正当な事由がなければ土地の返還を受けることはできません)。 (※) 普通借地権とは、旧借地法の時代から規定されていた「建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権」を意味します。新しい借地借家法では存続期間が30年とされ、期間満了時に地主に更新を拒絶する正当な事由がなければ、契約は更新されてしまいます。 そのため、地代をめぐって実際に問題となるのは、継続地代(賃料改定の目安とする地代)のケースが圧倒的に多いといえます。 家賃の場合も、地代とは状況は異なりますが、新規家賃をめぐって当事者が鑑定評価を依頼するケースはそれほど多くはありません。その理由は、建物を借りようとしている人が募集家賃(提示家賃)に対して自分の支払える範囲を超えていると感じた場合、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼してその結果を交渉材料にしようとまでは考えないからです(このような場合には、条件の類似する他の物件を探すことでしょう)。 参考までに、仮に新規賃料を鑑定評価によって求めることを依頼された場合には、不動産鑑定士は依頼内容を検討し、正常賃料を求めればよいのか、限定賃料を求めればよいのかを判断することになります。 ここで、「正常賃料」とは、平易に表現すれば、特定の当事者間だけでなく、誰と貸し借りする場合でも等しく当てはまる賃料であるといえます(市中における募集賃料が1つのイメージです)。 これに対して「限定賃料」とは、特定の人との間でのみ(少々割高でも)経済合理性をもって成り立つ賃料であるといえます。例えば、隣地を借地したいというような場合、対象地や相手先が限定されることもありますが、それ以上に隣地を借地することにより一体地の効用が高まるためです。 次に、現実的にニーズの多い継続賃料の鑑定評価について取り上げます。 3 継続賃料の評価をめぐって ここで「継続賃料」とは、あくまでも既存の契約期間中の賃料のことを指します。 なお、新規に借地権を設定する際の地代や新規に建物賃貸借を行う場合の家賃は貸主・借主間の任意の取り決めによりますが、その後の賃料改定は借地借家法の制約を受けることに留意が必要です。 借地借家法では地代や家賃の額については何らの規定を置いていませんが、当事者同士で地代家賃の改定について話し合いがつかない場合は、その解決は裁判に委ねられるのが実情です。その過程で、改定後の賃料をめぐり鑑定評価書が提出されますが、(当事者間の)直近合意時点における賃料がどれだけであったかに制約を受ける部分が多く、新規賃料の決定とは考え方が大きく異なってきます。 ちなみに、不動産鑑定評価基準では継続賃料を次のとおり定義しています。 上記のとおり、継続賃料は継続中の賃貸借契約等に基づく賃料改定を前提とするものであり、正常賃料の場合と異なり賃貸借等の当事者は特定されています。 また、継続賃料と限定賃料との関係ですが、限定賃料が新規賃料を前提とし、特定の当事者間でのみ成り立つ賃料であるというという点で、継続賃料は限定賃料とも異なっています。 なお、不動産鑑定評価基準では、継続賃料を求める際に留意すべき点として、以下の事項を掲げています。 この規定は最近における最高裁判例の傾向を踏まえてのものであり、契約当事者間の公平に留意の上、鑑定評価額を決定するという考え方も継続賃料に特有のものです。 最後に、専門的になりますが、継続賃料を評価する際には、差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法という手法を適用して様々な角度から改定後の賃料を試算します。その結果、最も説得力の高い手法を吟味して最終結論を導くわけですが、鑑定評価書を提出してそれで終了、というわけにはいかない点に難しさが潜んでいます。 なぜならば、継続賃料の評価の結果は貸主・借主の利害関係に直接影響し、一方が満足すれば他方が不満に受け取ることが目に見えるからです。 その意味で、鑑定評価書を提出した後が、まさに不動産鑑定士の正念場といえます。 (了)
改正相続法に対応した実務と留意点 【第14回】 「総合的な事例の検討②」 弁護士 阪本 敬幸 今回は、総合的な事例について検討する。 1 問題の所在 本問のXは、滞納賃料債務をC及びDに請求したいと考えている。Cは相続人であるとともに連帯保証人となっており、Dは相続人である。 相続法とは離れるが、「賃貸借契約から生じる一切の債務を保証する」といった契約は根保証契約にあたり、改正債権法により、個人根保証契約を締結する際には極度額の定めが必要とされることとなった(改正後債権法465条の2第2項)。また、この極度額の定めは、書面で行う必要がある(改正後債権法465条の2第3項、民法446条第2項)。XがCと賃貸借契約に関して根保証契約を締結したのは2015年であり、その後賃貸借契約は更新が繰り返されている。この状況においてXは、Cに対して根保証契約に基づく請求ができるかが1つ目の問題である。 次に、XがB、C、Dに対し、B、C、Dの相続人たる地位に基づき相続債務の支払を求める場合、Xとしては、Aが所有していた甲不動産を仮差押又は差し押さえることが考えられる。しかし、Aは甲不動産をDに相続させるという遺言を作成しており、B・Cとの関係で差押が認められるかという点が2つ目の問題である。 2 根保証契約の問題 改正後債権法465条の2は、個人根保証契約を締結するにあたっては、極度額を書面により定めなければならないとする。この改正後債権法465条の2は、改正債権法施行後に締結された根保証契約に適用があり、2020年4月1日より前に締結された契約については適用がない(改正債権法附則21条第1項)。 本件では、X・C間の根保証契約は2015年に締結されているが、X・A間の賃貸借契約は2年契約であり、更新が繰り返されている。このような場合、X・C間の根保証契約には改正後債権法の適用はあるだろうか。 この点について、民法改正から間が無いため裁判例は見当たらないが、法務省の立案担当者からは以下のような見解が示されている。 他方、法務省のホームページには、保証契約が更新後の債務をも保証する趣旨で締結された場合には、2020年4月1日以降に賃貸借契約の更新があったとしても、現行法が適用されるという説明もある(「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」19頁) 一見、両者は矛盾するようであるが、「賃貸借契約の更新時に新たな保証契約が締結、あるいは合意により保証契約が更新」されたか否かにより、改正後債権法の適用があるかを判断するということであり、矛盾するわけではない。 本件において、2020年4月1日以降の賃貸借契約の更新時に、X・C間で新たな保証契約締結・更新があったといえれば、改正後債権法の適用があり、XはCに対し保証契約に基づく請求を行うためには改正後債権法465条の2の要件を満たす必要がある。例えば賃貸借契約の更新時に、毎回新たな契約書を作成し、Cが署名押印していたというような事情があれば、新たな保証契約締結・更新があったといえるから、この場合は新たな契約書には極度額の定めを記載しておかなければ、根保証契約は無効ということになろう。 他方、賃貸借契約に自動更新特約があり、何の手続きもされていない場合や、当初の契約書に「保証人は、契約更新後も含めて、賃借人に生じたすべての債務を保証する」といった文言があれば、新たな保証契約の締結・更新があったわけではないと言いやすい。 このように、改正債権法施行後に賃貸借契約更新があり、書面により極度額を定めた根保証契約が締結されていなかったとしても、連帯保証人に対する請求が可能となる場合も考えられる。Xの立場としては、安易に、「書面による極度額の定めがないから、保証人に対する請求はできない」などと判断しないように注意すべきである。 3 遺言による権利承継と第三者との関係 本件のように、法定相続分を超えて権利の承継があり、第三者との間で対抗関係が生じた場合について、改正後民法899条の2は、対抗要件の具備の先後により決する旨を定めた。 本件では、AがXに対し負っていた債務200万円については、法定相続分に応じてBが2分の1、C・Dが各4分の1を相続する。したがってXは、Bに対し100万円、C・Dに対し各50万円ずつ請求することが可能である。 そしてAが所有していた甲不動産も、法定相続分に従えばBが2分の1、C・Dが各4分の1を相続したはずであり、遺言が無ければ、Xとしては、B、C、Dの甲不動産の共有持分について、何の問題もなく差押・仮差押をすることが可能であった。 Aの遺言により、Dが甲不動産の全部を相続することとなったが、改正後民法899条の2により、Dは自己の法定相続分を超える4分の3の共有持分について、登記がなければXに対してこれを対抗することができない。 Xとしては、登記の先後により決せられるという点に留意して、差押・仮差押手続を急ぐよう努めるべきである。 (了)
〈Q&A〉 消費税転嫁対策特措法・下請法のポイント 【第5回】 「消費税転嫁対策特措法が禁止する「買いたたき」とその典型例」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 福塚 侑也 はじめに 第5回は、第4回で解説した下請法上の「買いたたき」に続き、消費税転嫁対策特措法上の「買いたたき」について述べる。 これまで、公取委が消費税転嫁対策特措法に違反するとして勧告・社名公表に踏み切った事例のほとんどは、「買いたたき」が行われた事例である。すなわち、「買いたたき」は、消費税転嫁対策特措法が禁止する5つの消費税転嫁拒否等の行為(第1回参照)の中でも、圧倒的に重要な違反類型であるといって間違いない。 しかしながら、名称は同じであるにもかかわらず、消費税転嫁対策特措法の禁止する「買いたたき」は、下請法の「買いたたき」とは大きく内容が異なる。 そこで、以下、消費税転嫁対策特措法における「買いたたき」の考え方及び「買いたたき」に当たるか否かの判断の鍵となる「合理的理由」の考え方を述べた上で、当局が重点的に取り締まっていると考えられる2つの典型的な「買いたたき」のパターンを解説することとしたい。 1 消費税転嫁対策特措法における「買いたたき」の考え方 【Q】 下請法上の「買いたたき」に当たるか否かは、価格の低さと交渉プロセスを総合的に考慮して判断されるということでしたが(第4回参照)、消費税転嫁対策特措法上の「買いたたき」も、同様に判断されるのでしょうか。 【A】 いいえ、全く異なります。 消費税転嫁対策特措法上の「買いたたき」とは、「合理的理由」がないのに、消費税率引上げ後に税率引上げ分をそのまま上乗せしない行為をいいます。 消費税転嫁対策特措法における「買いたたき」とは、商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むことをいう。 そして、「通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒む」とは、特定事業者が、平成26年4月1日以後に特定供給事業者から供給を受ける商品又は役務の対価について、合理的な理由なく通常支払われる対価よりも低く定める行為をいい、上記「通常支払われる対価」とは、通常は、特定事業者と特定供給事業者との間で取引している商品又は役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額をいうとされる(公取委「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」(以下「公取委ガイドライン」という))。 公取委ガイドラインの上記説明は少々複雑に見えるが、要するに、特定事業者が当局に「合理的理由」の存在を説明できない限り、従前の価格に消費税率引上げ分をそのまま上乗せしなければならないということであり、税率引上げ前の金額で据え置くことはもちろん、税率引上げ分に満たない金額を上乗せしたに止まる場合も、買いたたきに該当するという趣旨である。 したがって、何らかの事情により、消費税率引上げ分をそのまま上乗せしない場合には、その「合理的理由」の存在を説明できるかどうかが、重要な鍵を握ることになる。 2 「合理的理由」はどのような場合に認められるか 【Q】 「買いたたき」に当たらないために必要な「合理的理由」は、どのような場合に認められますか。 【A】 「合理的理由」が認められるためには、一般的に、以下の2つの要素を充たす必要があると考えられます。 (a) 消費税率引上げ分をそのまま上乗せしないことの合理性を基礎づける客観的な事情の変化が存在すること (b) 上記事情を踏まえ、当事者間で十分な協議の下に対価の額が合意されていること 公取委ガイドラインは、買いたたきに当たらないために必要とされる「合理的理由」が認められる場合として、以下の例を挙げている。 そこで、上記3つの事例の共通点を検討すると、まず、原材料価格等の下落、特定供給事業者におけるコスト削減効果、原材料の市価など、消費税率引上げ分をそのまま上乗せしないことの合理性を基礎づける客観的な事情の変化が前提とされていることが分かる。 また、いずれの事例にも、「当事者間の自由な価格交渉の結果」というフレーズが盛り込まれていることも分かる。 そのため、「合理的理由」が認められるためには、上記【A】記載の2つの要素を充たす必要があると考えられるのである。 なお、「自由な価格交渉の結果」と認められるためには、単に協議したというのみでは足りず、「特定供給事業者が納得して合意している」こと、すなわち真の意味での合意が求められることに留意する必要がある。 3 「買いたたき」として勧告・社名公表される典型事案とは 【Q】 消費税転嫁対策特措法上の「買いたたき」に当たるとして、勧告・社名公表された典型的な事案は、どのようなものですか。 【A】 これまで、「買いたたき」に当たるとして勧告・社名公表された事案の大半は、以下の2つのいずれかのパターンに当てはまります。 ① 個人事業者等からサービスの提供を受け、内税で定めた業務委託料を支払っている場合に、消費税率引上げ後も消費税率引上げ分を上乗せしなかった事案 ② 店舗等を賃借し、内税で定めた家賃等を支払っている場合に、消費税率引上げ後も消費税率引上げ分を上乗せしなかった事案 これまでに勧告・社名公表に至った事案の大半は、上記【A】記載の①又は②のいずれかのパターンに当てはまる。 上記①の典型例は、スポーツクラブがインストラクターに支払う業務委託料、家庭教師業を営む企業が家庭教師に支払う業務委託料、ホテル業を営む企業が支配人に支払う業務委託料、出版社がフリーライターに支払う執筆料、建設業者が他の建設業者に支払う工事外注費等である。また、上記②の典型例は、企業が賃借する店舗や駐車場(課税対象となるもの)の賃料である。 これらは、いずれも、消費税率引上げの前後を通じ、継続的に同種のサービスの提供を受け、内税で定められた同額の対価を支払い続けた結果、消費税率引上げに伴い、本体価格がいわば自動的に減縮されるため、買いたたきに該当してしまうという事案である。 つまり、例えば、スポーツクラブがインストラクターに対し、平成26年3月以前には指導1時間当たり3,000円(税込み(消費税率5%))の業務委託料を支払っていたとすると、上記時点の本体価格は2,858円となる。しかし、同年4月以降は消費税率が8%に引き上げられたから、その後も支払総額が変わらないとすると、本体価格は2,778円へと減縮されることになる。さらに、令和元年10月以降は消費税率が10%に引き上げられたから、その後も支払総額が変わらないとすると、本体価格は2,727円へと減縮されてしまうのである。 そして、このような本体価格の減縮について、通常、合理的理由があると考えることは難しい。 すなわち、例えば、価格が日々変動する生鮮食料品等はもちろん、原材料価格、動力費、人件費、輸送コストなど様々な事情により調達価格が容易に変動しうる工業製品等であれば、消費税率引上げ後に消費税率引上げ分だけ調達価格が上昇していないとしても、その原因が本体価格の変動にあるのか、消費税率引上げ分を上乗せしなかったことにあるのかを判別することは容易でない。 これに対し、上記①のように企業が継続的に同種のサービスの提供を受けている場合や、上記②のように継続的に店舗等を賃借している場合には、そもそも明確な原価を想定しづらく、税率引上げ前後で本体価格決定の背景となる客観的事情が大きく変動することは考えづらいため、消費税率引上げ分をそのまま上乗せしないことの合理性を基礎づける客観的な事情の変化(前記2(a))を見出しがたいのである。 そのため、税率引上げ後に税率引上げ分だけ支払額が上乗せされていないとすれば、消費税率引上げ分の上乗せがなされなかったのではないかという推論が容易に成り立つことになる。 消費税転嫁対策特措法違反として勧告・社名公表の憂き目に遭うことを回避するには、まずは、上記①又は②のパターンに当てはまるものを中心に、対価を内税で定めて支払っている取引がないかを確認することが最優先といえるだろう。 なお、特定供給事業者としてサービスを提供する個人事業者等の中には、免税事業者も多数含まれると考えられるが、公取委は、「相手が免税事業者であるとの理由で消費税率引上げ分の上乗せをしないことは許されない」との考え方を明示しているため(※)、注意が必要である。 (※) 「公取委ガイドライン」第1部第1の3(4)エ 参照。 (了)
《速報解説》 証券取引等監視委員会、令和2年度版の「開示検査事例集」を公表 ~非財務情報の虚偽記載を対象とする課徴金納付命令勧告を初めて行った事例を紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 証券取引等監視委員会事務局は、去る8月7日、「開示検査事例集(以下「事例集」と略称する)」を公表した。 令和2年度版の事例集では、新たに、令和元年7月から本年6月までの間に開示検査を終了し、開示規制違反について課徴金納付命令勧告を行った事例についても、概要が紹介されている。また、昨年から掲載が始まった「監視委コラム」が、大幅に増設され、最近の開示検査を通じてクローズアップされた開示制度や会計基準のほか、不正会計の実態等について解説されているのが特徴である。 本稿では、公表された事例集のうち、最近の開示検査の動向を知るうえで参考になると思われる、ⅠからⅢまでを中心にその内容をご紹介したい。 とりわけ、「Ⅲ 最新の検査事例」については、最近1年間に開示検査を終了した最新の事例について、開示規制違反の内容、その背景・原因やその是正策の概要がまとめられている(「証券取引等監視委員会からのメッセージ」より)ため、本稿の解説もこの事例を中心としたい。 Ⅰ 最近の開示検査の取組みについて 事例集「Ⅰ 最近の開示検査の取組みについて」の冒頭で、証券取引等監視委員会(以下「監視委」と略称する)は、以下のように述べている。 そのうえで、監視委の取組みついて、以下の3項目を挙げている。 なお、この3項目については、平成30年公表の事例集以来その内容を踏襲している。 Ⅱ 最近の開示検査の実績とその内容 令和元事務年度(令和元年7月~令和2年6月)に、監視委が行った開示検査は33件で、前年実績(38件)を5件下回っている。そのうち、開示検査終了件数は14件(前事務年度実績は22件であり、課徴金納付命令勧告が8件(前事務年度実績は10件)となっている。 監視委によれば、令和元事務年度の開示検査の特徴は次の4点である。 1 非財務情報の虚偽記載 監視委は、令和元事務年度の開示検査で初めて、2件の非財務情報の虚偽記載を対象とした課徴金納付命令勧告を行った。その内容は、いずれも、有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況等」における虚偽記載で、詳細は次のとおりである。 2 「関連当事者との取引」に関する注記 また、監視委は、「関連当事者との取引」について連結財務諸表への注記を行わなかったことを対象として、初めて課徴金納付命令勧告を行った。 【事例7】では、当時の代表取締役であった者が特定の法人との取引について、「関連当事者との取引」として連結財務諸表への注記を行わなければならないにもかかわらず、注記を行っていなかったことから、記載すべき重要な事項が欠けている有価証券報告書等を提出したとして、課徴金納付命令勧告を行ったものである。 3 公認会計士・監査審査会との連携 【事例3】では、上場会社の会計監査を行っていた監査法人の不適切な監査手続に起因する不正会計が多く認められたことから、公認会計士・監査審査会は、課徴金納付命令勧告を行った同じ日に、この監査法人について行政処分勧告を行っている。 4 有価証券報告書の訂正報告書について虚偽記載等に課徴金納付命令勧告 【事例4】では、虚偽記載等が判明した後に有価証券報告書を2度訂正し、最初の訂正に 係る一部の有価証券報告書の訂正報告書について虚偽記載等が認められ、課徴金納付命令勧告の対象としている。 Ⅲ 最新の検査事例 事例集に記載された「最新の検査事例」のうち、開示書類の虚偽記載による課徴金納付命令勧告事例8件については、下表のとおりである。なお、事例集では、会社名は公表されていないため、本表では、監視委の報道資料をもとに会社名を記している。 【課徴金納付命令勧告事例】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 最後に昨年の事例集から記載が始まり、本年度大幅に増設された「監視委コラム」について、タイトルを引用して、本稿を締め括りたい。いずれのコラムも事例で明らかになった問題点について、より深く解説する形式となっている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 収益認識基準等に対応した「会社計算規則の一部を改正する省令」が公布される ~意見募集の結果を踏まえ、注記の改正に関し省令案から一部修正も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年8月12日、「会社計算規則の一部を改正する省令」(法務省令第45号)が公布された。これにより、2020(令和2)年6月4日から意見募集されていた法務省令案が確定することになる。また、法務省令案に対するコメントと法務省の考え方(以下「法務省の考え方」という)も公表されている。 これは、「収益認識に関する会計基準」(令和2年3月31日、改正企業会計基準第29号)及び「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(企業会計基準第31号)等に対応するものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 損益計算書等の区分 損益計算書等における売上高の表示について、売上高(売上高以外の名称を付すことが適当な場合には、当該名称を付した項目)とする(会社計算規則88条1項1号)。 なお、貸借対照表の資産の部の区分を定める74条及び負債の部の区分を定める75条は、貸借対照表に特定の名称を付した項目を表示すべきことを定めるものではないので、74条及び75条を改正しなくとも、計算書類において、「契約資産」、「契約負債」等の勘定科目を用いることができることから、今回、法務省令を改正していない(「法務省の考え方」第3、1)。 2 会計上の見積りに関する注記 注記表に「会計上の見積りに関する注記」を加える(会社計算規則98条1項4号の2)。 会計上の見積りに関する注記は次に掲げる事項とする(会社計算規則102条の3の2)。 3 重要な会計方針に係る事項に関する注記 「重要な会計方針に係る事項に関する注記」に次の規定を加える(会社計算規則101条2項)。 4 収益認識に関する注記 「収益認識に関する注記」について、次のように改正する(会社計算規則115条の2)。 なお、有価証券報告書を提出しなければならない株式会社以外の株式会社に過大な負担となるおそれがあるという意見が比較的多く寄せられたことなどを踏まえ、法務省令案を修正し、会社法444条3項に規定する株式会社以外の株式会社にあっては、会社計算規則115条の2第1項1号及び3号に掲げる事項を省略することができるとしている(「法務省の考え方」第3、2)。 Ⅲ 適用時期等 公布の日から施行する。 経過措置に注意する。 (了)
2020年8月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.381を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第41回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -不当性要件と経済的合理性基準(7)- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 第37回から前回まで4回にわたって、ユニバーサルミュージック事件・東京地判令和元年6月27日(未公刊・裁判所ウェブサイト。以下「本件東京地判」という)が示した不当性要件の判断枠組み及びそこでの経済的合理性基準に係る判断を検討してきた。この判決は「極めて画期的な内容の判決」(太田洋「ユニバーサル・ミュージック事件東京地裁判決の分析と射程」租税研究844号(2020年)50頁、51頁)として注目を集めたが、本年6月24日に、結論は同じでも、一見すると「地裁が示した不当性要件の判断枠組みは否定した」(T&Amaster841号(2020年7月6日)4頁)ようにも思われる控訴審判決が、東京高裁で示された(未公刊。以下「本件東京高判」という)。 今回は、本件東京高判の判断枠組みについて、本件東京地判やヤフー事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁(以下「ヤフー事件最判」という)のそれと比較検討することによって、その意味内容を明らかにすることにしたい。 Ⅱ 不当性要件の判断枠組み 1 法人税法132条1項の趣旨及び目的と経済的合理性基準 本件東京高判は、基本的には従来の裁判例と同じく、不当性要件の判断枠組みの出発点において、次のとおり、法人税法132条1項の趣旨及び目的から経済的合理性基準を導き出している。 この判示を本件東京地判のこれに相当する判示と比較すると、本件東京地判が「同族非同族対比の基準」(清永敬次「判批」租税判例百選(別冊ジュリストNo.17・1968年)42頁)の想定の下で、最初は、行為計算の主体に着目した税負担の公平の観点から法人税法132条1項の趣旨の理解を示しつつも、その後の判示で、行為計算それ自体に着目した税負担の公平を維持するという趣旨に修正するという、やや回りくどい(最初は「据わりの悪さ」を感じさせる)判断を示したものと解される(第37回Ⅱ参照)のに対して、本件東京高判は、行為計算それ自体に着目した税負担の公平の観点から、直截に、経済的合理性基準を示したものと解される点で、本件東京地判よりも論旨が明快である。 2 法人税法132条1項と同法132条の2における不当性要件の統一的解釈 本件東京高判は、前記の判示に「そして」で続けて、本件借入れを想定しながら、組織再編成を含む企業再編等の一環として行われた金銭の無担保借入れに対する経済的合理性基準の適用について、次のとおり判示している(下線・太字筆者)。 この判示の下線部は、ヤフー事件最判の次の判示(下線・太字筆者)のうち(離れているがつなぎ合わせた場合の)実線の下線部と基本的には同じ内容の判示であり、それぞれにいう「租税回避の手段」(太字)は組織再編成(を含む企業再編等)に係る私法上の形成可能性(選択可能性)を意味することから、いずれの判示も租税回避の類型としては私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用による租税回避を対象とする判示である(第22回Ⅲ参照)。 ただ、ヤフー事件最判は、上記引用判示中の1つ目の破線の下線部では、「組織再編税制に係る各規定」を「租税回避の手段」(太字)とする税法上の課税減免規定の濫用による租税回避を対象として法人税法132条の2の不当性要件の判断枠組みを形成し、その不当性要件を濫用要件に言い換えたものと解されるが(第10回Ⅱ、第22回Ⅲ参照)、濫用要件も不当性要件と同じく規範的要件であるが故に、「濫用」という抽象的な概念の「意味内容を具体的に敷衍して」(徳地淳=林史高「判解」『最高裁判所判例解説民事篇(平成28年度)』(法曹会・2019年)84頁、109頁)上記引用判示中の2つ目の破線の下線部にいう「観点」として示したものと解される。 このような理解を更に展開すると、「観点」の中で説示された内容が「濫用」の具体的内容であり(制度濫用基準)、それは、組織再編成の場面における経済的合理性のない行為とみることができることから、制度濫用基準は経済的合理性基準の一場合であるといえよう(第10回Ⅲ参照)。 税法上の課税減免規定の濫用による租税回避については、「租税回避の手段」の観点からみると、組織再編成の分野においては、その直接的手段は「組織再編税制に係る各規定」(課税減免規定)であり、その間接的手段は組織再編成に係る私法上の形成可能性(選択可能性)であると整理することができるが(第22回Ⅲ参照)、このことと前述のこととを考え合わせると、本件東京高判もヤフー事件最判も、私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用による租税回避を前提とする限りにおいては、不当性要件という規範的要件について、その評価根拠事実(要件事実・主要事実)を経済的合理性の欠如(経済的合理性基準)とし、これを推認させる間接事実として前記引用判示中の①②等の「事情」を判断する枠組みを採用したものと解される。このような判断枠組みの基礎にある不当性要件の解釈を筆者は「法人税法132条1項と同法132条の2における不当性要件の統一的解釈」と呼んでいる(第10回Ⅲ参照。以下では単に「不当性要件の統一的解釈」という)。 では、不当性要件の統一的解釈は、本件東京高判においてどのような意味をもつのであろうか。この点については項を改めて以下で検討することにする。 Ⅲ 経営判断原則の「応用」と不当性要件の統一的解釈とのバランス 1 経営判断原則の「応用」に対する制限(歯止め) 本件控訴審において被控訴人(納税者)は経済的合理性基準に係る判断につき次のとおり主張したが、この主張は本件東京地判の判断枠組み(第37回とりわけⅢ参照)に基づくものと解される。 これに対して、本件東京高判は次のとおり判示して被控訴人の主張を斥けた(下線筆者)。 ここで、本件東京高判も、基本的には、本件東京地判と同じく経営判断原則を「応用」して、組織再編成を含む企業再編等の経営判断に係る広範な裁量(「当該企業集団の自律的判断」)を尊重していると解されるが(実線の下線部参照)、本件東京高判は、それだけにとどまらず、組織再編成を含む企業再編等について租税回避の手段としての濫用のおそれ、事業目的等の作出・付加のための操作可能性(その意味については徳地=林・前掲「判解」109頁参照)等をも考慮して(破線の下線部参照)、結局のところ、「当該行為又は計算を行う必要性のほとんどが租税回避目的であって、税負担の減少以外の経済的利益がごく僅かである場合」には、経済的合理性が認められないと判断したものと解される(1つ目の二重線の下線部参照)。ここに、不当性要件の統一的解釈の意味があると考えられる(2つ目の二重線の下線部も参照)。 このような理解によれば、本件東京高判は、経営判断原則の「応用」を認めつつ、同時にこれに対して不当性要件の統一的解釈に基づき一定の制限(歯止め)を加えることによって、会社における経済的自由の原則(第37回Ⅱ参照)と租税回避否認の考慮(税負担の公平の維持・確保)とのバランスを図ろうとしたものといってよかろう。その意味では、本件東京高判は、一般論としては・・・・・・・、租税回避論の本質(とりわけ租税回避の法的評価について第24回参照)を踏まえた的確かつ妥当な判断であると考えられる。 もっとも、その後に続く赤色点線の下線部の判示すなわち「このようなことは、不当性要件の的確な判別を困難にするものとして、法人税法132条の趣旨及び目的に反し、相当でもない。」という判示は、IBM事件・東京高判平成27年3月25日訟月61巻11号1995頁の次の判示(下線筆者)と親和性があるようにも思われ、そうであるとすれば問題である。 この判示について、筆者は、租税法規の趣旨・目的の措定論(第12回参照)のヴァリエーションともいうべき判断であり、「趣旨の措定」による目的論的解釈の過形成として批判したところであるが(第36回Ⅲ2参照)、もし本件東京高判において前記の判示(赤色点線の下線部)が重要な意味をもつならば、本件東京高判に対しても、これと同様の批判が妥当することになろう。 しかし、前記の判示は、そのような重要な意味をもつ判示ではなく、むしろ、本件東京高判の結論を左右しないいわば傍論的な判示であると考えられる。このことは、次の2でみる控訴人(国)の主張に対する本件東京高判の判断から、読み取ることができよう。「不当性要件の的確な判別」は、とりわけ前記Ⅱ2の②の「事情」については、これに含まれる「評価的要素」に関する会社・企業集団の裁量的判断の尊重によって、可能であるからである。 2 不当性要件の統一的解釈の拡張に対する制限(歯止め) 控訴人は、不当性要件の統一的解釈を前提として、経済的合理性基準に係る判断において考慮すべき「事情」のうち前記Ⅱ2引用判示中の②の事情について、次のとおり主張した。 この主張は、会社・企業集団の経営判断(事業目的の設定等)に係る裁量の範囲を限定しようとするものと解されるが、本件東京高判は次のとおり判示してそのような主張を退けた(下線筆者)。 この判示は、②の事情それ自体が「評価的要素」を含んでいるという解釈をベースにするものであるが、その解釈によれば、不当性要件の判断枠組みの中で、「租税回避以外の事業目的等が『正当なものといえるか』どうか」すなわち「行為・計算の合理性を説明するに足りる程度の事業目的等が存在するかどうか」(徳地=林・前掲「判解」108頁、109頁)が審査されることになろう。 このような審査は、本件東京地判が行ったと解される、目的・手段の合理的関連性の有無に関する相応性審査(第37回Ⅲ2、前回Ⅲ参照)に相当する一種の裁量審査(②の「事情」に係る経営判断に含まれる「評価的要素」の審査)であると考えられる。しかも、次に引用する本件東京高判によるその審査の結果も、「本件8つの目的を達成するための手段として計画されたとされる本件再編成等スキーム及びこれに基づく本件組織再編取引等が、上記の目的とどのような関係にあるか」に関する本件東京地判の検討結果(前回Ⅲ参照)と基本的に同じく、会社・企業集団の裁量的判断を尊重するものであると考えられる。 そうすると、本件東京高判は、前記②の事情を「具体的かつ客観的に」限定することによって不当性要件の統一的解釈(に基づく租税回避否認)を拡張しようとする試み(主張)に対して、前記②の事情につき会社・企業集団の裁量的判断を尊重することによって、一定の制限(歯止め)を加えたとみることができよう。 なお、控訴人は「本件における不当性要件の判断枠組みとして、経済的合理性を欠く場合には、独立当事者間の通常の取引と異なっている場合なども含まれ得る旨主張する」ことによって、不当性要件の統一的解釈(に基づく租税回避否認)を拡張しようとするが、これに対して、本件東京高判は、次のとおり判示し控訴人の主張を斥けた。 この判示は、本件東京高判における不当性要件の判断枠組みが経営判断原則の「応用」を基本とするものであることを確認することによって、不当性要件の判断枠組みの形成ないし設定のレベルで不当性要件の統一的解釈(に基づく租税回避否認)を拡張しようする試み(主張)を、否定したものと解される。 Ⅳ おわりに 以上を要するに、本件東京高判は、一方で、前記Ⅲ1で述べたように、経営判断原則の「応用」に対して、一般論としては、不当性要件の統一的解釈に基づき一定の制限(歯止め)を加えるとともに、他方で、不当性要件の統一的解釈(に基づく租税回避否認)を拡張しようとする試み(主張)に対して、本件における経済的合理性基準に係る判断を通じて、一定の制限(歯止め)を加えたとみることができよう。 このうち後者の制限(歯止め)に当たっては、前記②の事情について組織再編成を含む企業再編等に係る会社・企業集団の裁量的判断を尊重したものと解されるが、このことは、一般論として経営判断原則の「応用」と不当性要件の統一的解釈とのバランスを取りつつ、本件における経済的合理性基準に係る判断において、論理構成は異なるとしても、会社の経営判断に係る裁量を尊重する経営判断原則の「思想」ないし「政策的な考慮」(第38回Ⅱ2参照)を貫徹したことを意味するように思われる。 その意味では、冒頭のⅠで引用した「地裁が示した不当性要件の判断枠組みは否定した」という本件東京高判に対する理解は、的確なものとはいえないであろう。 なお、本件東京高判については、本年7月7日に、国が上告受理申立てを行ったとのことである(T&Amaster843号(2020年7月20日)7頁参照)。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第20回】 「役員持株会を用いた対策の留意点」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳 相談内容 私は、化学製品卸売業を営むK社で総務部長を務めています。当社は、創業オーナーであったA氏に親族内の後継者が存在しなかったことから、創業直後から当社で働いてきた非同族の取締役B(社長)を中心とする役員5名による非同族承継を行いました。 その際、A氏から非同族の役員5名への株式移転コストを抑えることを目的として従業員持株会を設立し、20名程度の従業員が従業員持株会を通じて株式を保有することにしました。また、取引先にも各5%の株式を保有してもらうなど、すべての株主の議決権割合が15%未満となるよう大胆に株式を分散させることで、全員が配当還元価額により株式を取得することが可能となるような事業承継対策を行いました。 〈K社の持株割合〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 このたび、来月行われる定時株主総会での任期満了をもって、取締役の1名(F氏)が退任することになりました。B社長は、これまで通り取締役会のメンバーで3分の2以上の株式を保有し続けたいと考えていますが、残る取締役4名がF氏の株式を取得すると議決権割合が15%以上となってしまうため、配当還元価額により株式を取得することができなくなると顧問税理士から指摘を受けました。 そこで、F氏の退任前に役員持株会を設立し、取締役5名の保有株式を役員持株会で保有する形に組み替えるアイデアが検討されています。F氏が当社の取締役を退任した後も役員持株会の会員として留まることができるように、役員持株会の会員資格を「K社の取締役及び元取締役」とし、当面の間、F氏に株式を保有し続けてもらう計画ですが、問題ないでしょうか。 仮に、F氏が役員持株会の会員になることができない場合には、F氏と取引先2社が加入する取引先持株会を設立し、取引がなくなった場合やF氏に相続があった場合に株式を買い戻せるようにするアイデアも出ていますが、そのようなことは可能なのでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 役員持株会 非上場会社の役員持株会は、民法第667条第1項に規定する組合契約に基づき設立されることが一般的です。会員規約において株式の引き出しを認めず、退会時や取締役を退任するなど会員資格を喪失した際には現金で払戻しを行う旨を定めておくことで、退会者が出た場合でも、役員持株会で株式を保有し続けることが可能であることから、株式の社外流出を防ぐ機能があると考えられています。 このように、役員による議決権の安定的な保有や株式の社外流出を目的に設立されることの多い役員持株会ですが、投資家(役員)から出資を集めて株式を保有し、配当金などの収益を出資者に分配するなど、投資ファンドに似た性格を持つ制度であるため、制度設計や運営を誤ると金融商品取引法の規制の対象となる点に注意が必要です。 [2] 金融商品取引法に関する留意点 (1) 集団投資スキーム持分 金融商品取引法においては、民法第667条第1項に規定する組合契約のうち、出資者が出資又は拠出をした金銭を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は財産の分配を受けることができる権利について、一定のもの(※1)を除いて、これを有価証券とみなして金融商品取引法の規定を適用する旨が定められています(金商法2②五)。 (※1) 有価証券とみなさなくても公益又は出資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定める権利(金商法2②五ニ)。 有価証券とみなされた集団投資スキーム持分の自己募集や、出資・拠出を受けた有価証券の自己運用を業としている者に対しては、金融商品取引業の登録(※2)を受けることが義務付けられており、登録を受けずに出資の勧誘等を行った場合には金融商品取引法違反(5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又は併科)に該当する可能性があります(金商法2⑧、29、197の2①十の四)。 (※2) 自己募集は第二種金融商品取引業、自己運用は投資運用業の登録が必要。 (出所) 「いわゆるファンド形態での販売・勧誘等業務について」(金融庁ホームページ) 金融商品取引法においては、出資の総額及び純資産額が5,000万円未満の投資運用業、同じく1,000万円未満の第二種金融商品取引業について登録を拒否する旨が定められており、配当還元価額などの比較的低い価額で株式を取得することが想定される役員持株会や従業員持株会、取引先持株会を金融商品取引業として登録することは現実的ではありません(金商法29の4①四イ・五ロ、金商令15の7①四・五)。 (2) 集団投資スキーム持分に該当しない制度設計 会社の運営する持株会が集団投資スキーム持分に該当することなく、金融商品取引法違反でないようにするためには、持株会がみなし有価証券の対象から除外される「有価証券とみなさなくても公益又は出資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定める権利」(金商法2②五ニ)に合致するような設計・運営であることが必要となります。 集団投資スキーム持分の適用除外となるための「政令で定める権利」は、持株会の種類ごとに、①会員資格、②契約内容、③拠出金額の3つが下表のとおり定められています。 (※) 金商令1の3の3五・六、金商法2条府令6、7を元に筆者作成。 [3] 結論 役員持株会が有価証券とみなされる集団投資スキーム持分とならないためには、役員持株会の構成員となる会員が、「株券の発行者の役員、従業員、被支配会社の役員又は従業員」で構成されていることが必要です。したがって、御社の場合、退職する取締役(F氏)を引き続き役員持株会の会員として留めることについては再考が必要でしょう。 また、取引先持株会については、「株券の買付けを金融商品取引業者に媒介、取次ぎ又は代理の申込みをして行うものに限る」旨が規定されていることからも、証券会社等に運営受託してもらう形でなければ集団投資スキーム持分に該当してしまうため、株主3名による取引先持株会というアイデアも現実的ではありません。 役員持株会や従業員持株会、取引先持株会が集団投資スキーム持分に該当し、有価証券とみなされることにより、金融商品取引法違反となることがないように、会員資格に留意するか、退任するF氏の後任を選任してF氏から株式を取得するなど、持株会制度以外の方法を検討することが必要でしょう。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
令和2年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第7回】 「「開始・加入・離脱に伴う時価評価と繰越欠損金の取扱い」 「利益・損失の二重計上の防止措置」 「地方税」」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [8] 開始・加入・離脱に伴う時価評価と繰越欠損金の取扱い グループ通算制度の開始・加入・離脱時において、一定の場合には、資産の時価評価や繰越欠損金の切り捨て等の制限が生じる。 (1) 時価評価除外法人 グループ通算制度の開始又は通算グループへの加入に伴う資産の時価評価について、対象外となる法人(時価評価除外法人)は次の法人となる(法法64の11①、64の12①)。 ※1 Aの各要件とは、次の(ⅰ)から(ⅲ)までの要件、Bの一定の要件とは、次の(ⅰ)から(ⅴ)までの要件となる(法法64の12①、法令131の16③④、法規27の16の11②、3①②)。 なお、非適格株式交換等により加入した株式交換等完全子法人のうち、金銭等不交付要件を除いても非適格株式交換等に該当するものは(ハ)の時価評価除外法人から除かれており、時価評価対象法人となる。 (ⅰ) 完全支配関係の継続要件 ⇒通算親法人との間に通算親法人による完全支配関係が継続することが見込まれていること (ⅱ) 従業者継続要件 ⇒加入法人の従業者のおおむね80%以上が加入法人の業務に引き続き従事することが見込まれていること (ⅲ) 主要事業継続要件 ⇒加入法人の主要な事業が加入法人において引き続き行われることが見込まれていること (注) 加入の直前に支配関係がない場合で、その主要な事業が(ⅳ)の子法人事業でない場合、その子法人事業についても、加入法人又はその加入法人との間に完全支配関係がある他の法人において引き続き行われることが見込まれていること (ⅳ) 事業関連性要件 ⇒子法人事業(加入法人又はその加入法人との間に完全支配関係がある他の法人の完全支配関係発生日前に行う事業のうちのいずれかの主要な事業)と親法人事業(通算親法人又は他の通算子法人の完全支配関係発生日前に行う事業のうちのいずれかの事業)が相互に関連するものであること (ⅴ) 事業規模比5倍以内要件又は特定役員継続要件 ・事業規模比5倍以内要件 ⇒子法人事業と親法人事業の売上金額、従業者の数又はこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと ・特定役員継続要件 ⇒完全支配関係発生日の前日の子法人事業を行う法人の特定役員(常務以上の役員)の全てが加入に伴って退任をするものでないこと (2) 時価評価対象法人のグループ通算制度の開始・加入前の繰越欠損金の切り捨て 時価評価除外法人以外の法人(時価評価対象法人)のグループ通算制度の開始・加入前において生じた繰越欠損金は、切り捨てられる(法法57⑥)。 (3) 時価評価除外法人のグループ通算制度の開始・加入前の繰越欠損金及び含み損等に係る制限 時価評価除外法人(親法人との間の支配関係が5年超の法人等一定の法人※2を除く)のグループ通算制度の開始・加入前の繰越欠損金及び資産の含み損等については、次のとおり、繰越欠損金の切り捨てのほか、支配関係発生日以後5年を経過する日と効力発生日以後3年を経過する日とのいずれか早い日まで一定の金額を損金不算入又は損益通算の対象外とする等の制限が行われる。 ※2 「親法人との間の支配関係が5年超の法人等一定の法人」とは、次の1又は2のいずれかの要件を満たす法人をいう(法法57⑧、64の6①、64の14①)。 1 5年前の日又は設立日からの支配関係継続要件 次のいずれかに該当する場合をいう(法法57⑧、64の6①、64の14①、法令112の2③、131の8①、131の19①)。 (ⅰ) 当該通算法人と通算親法人(当該通算法人が通算親法人である場合、いずれかの通算子法人)との間に開始・加入日の5年前の日から継続して支配関係がある場合 (ⅱ) 当該通算法人又は通算親法人(当該通算法人が通算親法人である場合、通算子法人の全て)が5年前の日後に設立された法人である場合であって、当該通算法人と通算親法人(当該通算法人が通算親法人である場合、通算子法人のうち設立日の最も早いもの)との間に当該通算法人の設立日又は通算親法人の設立日(当該通算法人が通算親法人である場合、通算子法人の設立日のうち最も早い日)のいずれか遅い日から継続して支配関係がある場合 2 みなし共同事業要件 (ⅰ) ❶❷❸の要件に該当する場合、(ⅱ) ❶❹の要件に該当する場合、(ⅲ)❺の要件に該当する場合をいう(法法57⑧、64の6①、64の14①、法令112の2④、131の8②、131の19②、法規26の2の2、27の16の5、27の16の13、3①②)。 ❶ 事業関連性要件 通算前事業(当該通算法人又は当該通算法人との間に完全支配関係がある他の法人の通算承認日前に行う事業のうちのいずれかの主要な事業)と親法人事業(通算親法人(当該通算法人が 通算親法人である場合、いずれかの通算子法人)又は当該通算親法人(当該通算法人が通算親法人である場合、いずれかの通算子法人)との間に完全支配関係がある他の法人の通算承認日前に行う事業のうちのいずれかの事業)が相互に関連するものであること ❷ 事業規模比5倍以内要件 通算前事業と親法人事業の売上金額、従業者の数又はこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと ❸ 事業規模拡大2倍以内要件 通算法人支配関係発生時(通算親法人(当該通算法人が通算親法人である場合、いずれかの通算子法人)との間の支配関係発生時)と通算承認日における通算前事業の規模(上記❷の要件を満たすいずれかの指標)の割合がおおむね2倍を超えないこと ❹ 特定役員継続要件 通算承認日の前日の通算前事業を行う法人の特定役員(常務以上の役員)である者(当該通算法人と通算親法人(当該通算法人が通算親法人である場合、通算子法人のいずれか)との間の支配関係発生日前(支配関係が通算前事業を行う法人又は親法人事業を行う法人の設立により生じた場合は同日)において通算前事業を行う法人の役員であった者に限る)の全てが開始・加入に伴って退任をするものでないこと ❺ 次に掲げる法人のいずれかに該当すること 一 加入時の時価評価除外法人で共同事業要件(上記(1)②(ハ)Bの要件)を満たす法人 二 共同で事業を行うための適格株式交換等の要件(金銭等不交付要件を除く)に該当する株式交換等により加入した株式交換等完全子法人 ※3 確定した決算で経理した原価及び費用の額の合計額のうちに占める損金経理した減価償却費の額の割合が30%を超える事業年度をいう(法法64の6①③、法令131の8⑥)。 (4) 通算グループからの離脱 通算グループから離脱した法人が主要な事業を継続することが見込まれていない場合等には、その離脱直前の時に有する一定の資産については、離脱直前の事業年度において、時価評価により評価損益の計上が行われる(法法64の13、法令131の17)。 [9] 利益・損失の二重計上の防止措置 グループ通算制度では、利益・損失の二重計上の防止を強化するため、投資簿価修正を中心に次の取扱いに見直される。 いずれも利益・損失の二重計上の防止を強化するための見直しであるが、実務上、影響が大きいと思われるのが、上記②の見直しである。 グループ通算制度でも、連結納税制度と同様に、通算グループからの離脱時に離脱法人の株式の投資簿価修正を行うことになるが、連結納税制度では、連結法人に該当する期間中の利益積立金額の増減額を帳簿価額修正額とするのに対して、グループ通算制度では、離脱法人株式の離脱直前の帳簿価額を離脱法人の簿価純資産価額に相当する金額とすることになる。 この点、株式の取得価額が簿価純資産価額より大きい場合、例えば、過去に多額なのれんを含めて買収した通算子法人の株式を売却する場合、単体納税制度や連結納税制度と比べて、株式譲渡原価が小さくなり、結果、株式売却益が大きく(株式売却損が小さく)なるため、税負担が増えることになる(もちろん、逆のケースもある)。 そのため、子法人の株式の売却を検討しているグループ法人については、グループ通算制度に移行する前に当該株式を売却することを検討する必要が生じてくるだろう(もちろん、逆のケースもある)。 [10] 地方税 (1) 事業税 事業税(所得割)の計算の仕組みは、連結納税制度と変わらない。 連結納税制度と同様に、開始・加入前の繰越欠損金の切り捨て、損益通算、欠損金の通算を適用しない場合の所得の金額に基づいて事業税(所得割)を計算する(地法72の23①②)。 また、事業税の繰越欠損金を法人税とは別に単体納税と同様に計算する点も同様となる。 [事業税額の計算式] (2) 住民税 住民税では、法人税割の課税標準の計算について、法人税における繰越欠損金の切り捨てや損益通算等の影響を排除するための調整計算を行う(地法23①三・四、292①三・四、53③④⑥⑪~⑭⑯~⑳、321の8③④⑥⑪~⑭⑯~⑳)。 その点、連結納税制度と同様の仕組みであるが、その計算方法、用語、調整項目数など、グループ通算制度のプロラタ計算に合わせて非常に複雑な仕組みになっている。 住民税(法人税割)の計算式は以下のとおりとなる。 [住民税額の計算式] [加算調整額] 法人税割の課税標準となる法人税額の算定について、次の項目の加算を行う。 [住民税の欠損金] 法人税割の課税標準となる法人税額の算定について、当該事業年度開始日前10年(※1)以内に開始した事業年度において生じた次に掲げる住民税の欠損金の控除を行う。 (※1) 控除対象通算適用前欠損調整額について、2018年4月1日前に開始した事業年度において生じた繰越欠損金に係るものは「9年」、2018年4月1日以後に開始した事業年度において生じた繰越欠損金に係るものは「10年」となる(令和2年地法改正法附則5⑦)。 (※2) 連結納税制度における「控除対象個別帰属調整額」と「控除対象個別帰属税額」は、グループ通算制度に移行した後は『控除対象通算適用前欠損調整額』として繰越控除される(令和2年地法改正法附則5④⑤)。この場合、繰越期間は、元々の「控除対象個別帰属調整額」又は「控除対象個別帰属税額」の繰越期間となる。 (※3) 地方税法第53条第6項では「通算適用前欠損金額の生じた事業年度後最初の最初通算事業年度について法人税法第57条第6項又は第8項の規定(繰越欠損金の切り捨ての規定)の適用があることを証する書類を住民税の確定申告書に添付する」ことを控除対象通算適用前欠損調整額の控除の要件としているため、最初通算事業年度の翌事業年度以後に新たな事業を開始して切り捨てられた繰越欠損金は含まれない。 (了)