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国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第41回】「課税当局は外国の課税当局からどのように情報を入手しているのか」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第41回】 「課税当局は外国の課税当局からどのように情報を入手しているのか」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 私は以前から海外に財産を分散して保有しています。国外財産調書の提出義務があるといっても、海外の財産まで調べることは難しいと思うので、適当に対応しておこうと思いますが、いかがでしょうか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷租税条約等に基づく情報交換 経済のグローバル化は人や物の行き来を増加させ、それに伴い、日本に居住している日本人が所有する財産の中に占める国外財産の割合も増加している。 国外財産を利用した租税回避行為が問題となった場合、税制改正を通じて歯止めを行っているが、これだけでは国外財産に係る課税漏れを防ぐことはできない。そこで課税当局としては、多様な方法で情報を入手して精度の高い分析を行い、課税漏れを防ぐために、国内において、国外財産調書制度や国外送金等調書制度を創設している。 また、課税当局が外国の課税当局との間で、租税条約等に基づき納税者の情報を交換する制度がある。この制度には①自動的情報交換、②要請に基づく情報交換、③自発的情報交換がある。 日本の課税当局は、これらの情報交換を利用してどのように外国の課税当局から情報を入手しているのかを、上記3分類のうち自動的情報交換と要請に基づく情報交換の2つについて検討する。   ▷自動的情報交換 自動的情報交換は、各国の課税当局がCRS(共通報告基準)により非居住者に係る金融口座情報を交換する制度である。この制度による情報交換は2018年から始まった。2019年11月時点においては85(国・地域数)から1,891,040口座の情報を受領し、64(国・地域数)へ473,657口座の情報を提供している。2018年は新規口座と既存の口座のうち残高1億円超が対象となったが、2019年以降は個人の既存の低額口座も対象となっている。 金融口座情報を報告する義務のある金融機関は、銀行、生命保険会社、証券会社、信託等投資事業体であり、報告の対象となる金融口座は、預金口座、キャッシュバリュー保険契約、年金保険契約、証券口座等、信託受益権の投資持分であり、報告の対象となる情報は、口座保有者の氏名、住所、居住地国、外国の納税者番号、口座残高、利子配当等の年間受取総額等である。   ▷要請に基づく情報交換 要請に基づく情報交換は、個々の納税者に対する税務調査を国内で行ったけれども、情報が不足しており十分に解明できない場合に、必要な情報を外国の課税当局に依頼するものである。 この情報交換はどのようなプロセスで行われたかを、東京地方裁判所平成25年(行ウ)第618号租税協定に基づく情報交換要請取消等請求事件、平成27年(行ウ)第172号租税条約に基づく情報交換要請取消等請求事件(TAINSコード:Z267-12980)に基づいて検討する。   ▷どのような事案か パソコン周辺機器メーカーの創業者A・B夫妻(日本在住)が、保有する持株会社の株式を現物出資してオランダにX社を作った。A・B夫妻はX社株式全部をオランダにあるY財団に預託して、Y財団から預託証書を受け取った。 A・B夫妻の子であるCはシンガポールで永住権を有しており、シンガポールに全額出資のZ社を設立して投資運営を行っていた。A・B夫妻は2009年9月28日に、保有するX社株式の預託証書をZ社に譲渡した。そしてA・B夫妻はこの譲渡所得に関する申告について、株式等の譲渡所得として申告分離課税を行わず、役員報酬と損益通算する申告をした。 この申告に関して所得税の税務調査(他に相続税の税務調査)が行われ、A・B夫妻にZ社が運用する投資信託の内容、X社及びY社の定款や預託証書に係る契約書等の提出を求めたが、A・B夫妻は応じなかった。 そこで国税庁国際業務課長は、シンガポールの課税当局とオランダの課税当局に対して情報の提供を求めた。その理由として、A・B・C等一族の所得を把握したい。X社株式預託証書を時価に比べて低い譲渡価額でZ社に譲渡した。その結果、Z社に含み益が生じていることが想定され、Z社の株主であるCがA・Bから含み益の移転について贈与税課税の可能性がある。また、A・BはX社株式預託証券の譲渡所得について損益通算を行っているが、株式等の譲渡所得に該当するか検討する必要がある。これらの問題点を検討するための情報を国内の税務調査だけでは入手ができなかったので、外国の課税当局に要請して情報を入手したい、というものである。   ▷情報入手のプロセス(シンガポール) 国税庁の国際業務課長が2012年11月22日付でシンガポール課税当局に対し、情報の提供を依頼した。そして、シンガポールの課税当局は2013年1月17日付で 租税条約に基づく情報交換の促進のためとして、Z社に対して預託証券譲渡に係る譲渡価額と譲渡時の時価の情報の提供等、Cに対して三菱東京UFJ銀行シンガポール支店にある関係者8名の保有者の特定の口座について2006年1月から2012年2月までの取引明細書の提示等を求めた。 2013年4月19日に当局の検査官が、三菱東京UFJ銀行シンガポール支店にある上記8名の保有者により保有されるすべての口座の2006年1月1日から2011年12月31日までの情報提供を求めて高等裁判所に訴え、2013年5月31日高等裁判所は当局の申立てを全面的に認めた。これに対して不服なZ社やC等が取消し等を申し立てたが、いずれも棄却された。 そしてこの決定に不服なAが上告して、2015年1月22日付最高裁においては特定された口座の保有者により保有されているすべての口座に広げて銀行取引明細書の写しの作成や引渡しを命じた部分は規定に違反するとして取り消し、関係者の保有する特定された口座の銀行取引明細書の写しの作成と引渡しを命ずる内容に変更した決定書を公表した。   ▷情報入手のプロセス(オランダ) 2012年11月27日付で国税庁の国際業務課長がオランダ課税当局に情報の提供を依頼し、2013年2月5日付でオランダの課税当局がX社に対して租税条約に基づく情報収集のために実地監査を行うことを予告する書面を送付し、2009年から2011年までの記録が必要であるため決算書、総勘定元帳、X社の定款、議事録、Y財団の規則や通信文書、請求書、銀行取口座取引明細書等の提出を求めた。   ▷この事案の行方 この事案については、A・Bの納税地が変更になった後も税務調査が引き継がれ、2013年5月27日付で「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」が発せられたが、国税庁の国際業務課長はシンガポールへの情報要請を継続して行っていた。 そして、C等は日本において、租税協定に基づく情報交換要請取消等請求や国家賠償請求を行ったが敗訴となり、本稿執筆現在、控訴中である。   ▷まとめ 現在の状況では、自動的交換においても口座の残高情報が入手できることから、以前よりも迅速に情報を入手することができるようになってきている。しかし、自動的情報交換の対象は金融財産で、かつ口座の残高に限られることから、調査で重要な資金移動情報までは手に入らず、具体的に更正・決定ができるほどの情報収集は、個別要請に頼らざるを得ない。 上記の事例においては、日本の当局から外国の当局に連絡した場合、3ヶ月以内には本格的な情報収集に着手している。 このように日本において海外情報の開示を拒んだとしても、情報がとれないことはないということを念頭に税理士も対応すべきである。   (了)

#No. 371(掲載号)
#菅野 真美
2020/05/28

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第22回】「建物の寄附とその建築資金として借り入れた借入金の承継を同時に行った場合」

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第22回】 「建物の寄附とその建築資金として借り入れた借入金の承継を同時に行った場合」   公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香   - 質 問 - 美術館の運営を目的とする特定一般法人を設立するため、私Xは所有する建物とその敷地を美術館として運営するために寄附し、この建物の建築資金として金融機関から借り入れた借入金も同時に承継させる予定です。 この場合、私は租税特別措置法第40条の規定の適用を受けられますか。   - 回 答 - 特定一般法人へ建物の譲り渡しとともに債務の引き受けが行われているため、資産の譲渡と債務の引き受けが実質的に対価関係にあると考えられます。 したがって、この譲渡は無償譲渡ではなく有償譲渡となることから、当該寄附については、租税特別措置法第40条の規定の適用を受けることはできません。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 贈与という名目で法人に対し資産を移転した場合でも、当該移転に伴い債務を引き受けさせることによる経済的な利益による収入がある場合には、当該移転については、所得税法第59条第1項第1号の規定の適用はなく、当該経済的な利益による収入に基づいて同項第2号の規定の適用の有無を判定することとされています(所基通59-2)。 租税特別措置法第40条は所得税法第59条第1項第1号の規定の特例であるため、そもそも所得税法第59条第1項第1号の規定の適用を受けることがないのであれば、租税特別措置法第40条も適用の対象外ということになります。 したがって、本事例のように、建物の贈与と、その建物の取得に際し借り入れた借入金の両方を特定一般法人に承継させる場合には、建物の贈与について租税特別措置法第40条の規定の適用を受けることはできません。   (了)

#No. 371(掲載号)
#中村 友理香
2020/05/28

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第48回】「仮想通貨の会計処理」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第48回】 「仮想通貨の会計処理」   RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 日本でも様々な仮想通貨が発行されている。この仮想通貨の会計処理について、基準がなかったため、2018年3月14日にASBJより実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(以下、「仮想通貨取扱い」という)が公表された。今回は、この「仮想通貨の取扱い」について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が「保有」する仮想通貨と仮想通貨交換業者が預託者から「預かっている」仮想通貨で会計処理が異なるため、まず、「保有」する立場か「預かっている」立場かを判断する。 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者の「保有」している仮想通貨の場合は、【STEP2】を検討する。仮想通貨交換業者で預託者から「預かっている」仮想通貨の場合は、【STEP3】を検討する。 (1) 仮想通貨の売却時の会計処理 仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者が、仮想通貨を売却した場合、仮想通貨の売却損益を売買の合意が成立した時点において認識(約定日基準)する(仮想通貨取扱い13)。 損益の計上区分は、仮想通貨取扱いでは決められていないため、各社の状況に応じて、決定することになる。 (2) 期末評価 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者の保有する仮想通貨の期末評価は、仮想通貨の活発な市場が存在する場合と存在しない場合で異なる。 【活発な市場が存在する場合とは】 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者の保有する仮想通貨について、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合をいう(仮想通貨取扱い8)。   ① 仮想通貨の活発な市場が存在する場合 保有する仮想通貨(仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨を除く。以下同じ)について、活発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、市場価格と帳簿価額との差額は当期の損益として処理する(仮想通貨取扱い5)。 ② 仮想通貨の活発な市場が存在しない場合 保有する仮想通貨について、活発な市場が存在しない場合、取得原価をもって貸借対照表価額とする。ただし、期末における処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む)が取得原価を下回る場合には、当該処分見込価額をもって貸借対照表価額とし、取得原価と当該処分見込価額との差額は当期の損失とする(仮想通貨取扱い6)。 なお、翌期以降、当該損失を戻し入れることはできない(仮想通貨取扱い7)。 【処分見込価額の見積り】 処分見込価額は、独立第三者の当事者との相対取引を行った場合の価額等、資金の回収が確実な金額に基づくことが考えられるが、資金の回収が確実な金額を見積ることが困難な場合にはゼロ又は備忘価額を処分見込価額とする(仮想通貨取扱い43)。   損益の計上区分は、仮想通貨取扱いでは決められていないため、各社の状況に応じて、決定することになる。 《設例①:活発な市場が存在する場合》 ・A社の決算月は3/31である。 ・A社は、当期に活発な市場が存在する仮想通貨を5,000取得した。 ・当期末の仮想通貨の市場価格は4,000である。 〈取得時〉 〈当期末〉 (※) 取得価額5,000-市場価格4,000=1,000 《設例②: 活発な市場が存在しない場合》 ・A社の決算月は3/31である。 ・A社は、当期に活発な市場が存在しない仮想通貨を5,000取得した。 ・当期末の処分見込価額は5,000である。 ・翌期末の処分見込価額は4,000である。 〈取得時〉 〈当期末〉 (※1) 取得価額5,000≧処分見込価額のため、会計処理不要 〈翌期末〉 (※2) 取得価額5,000-処分見込価額4,000=1,000 次は、【STEP4】を検討する。 (1) 仮想通貨に係る資産及び負債の認識 仮想通貨交換業者は、預託者との預託の合意により仮想通貨を預かった場合、預かった仮想通貨を資産として認識する。当該資産の当初認識時の帳簿価額は、預かった時の時価とする。 また、同時に預託者に対する返還義務を負債として認識する。当該負債の当初認識時の帳簿価額は、資産の帳簿価額と同額とする(仮想通貨取扱い14)。 (2) 期末の資産の評価及び負債の貸借対照表価額 仮想通貨交換業者は、預託者から預かった仮想通貨に係る資産の期末の帳簿価額について、仮想通貨交換業者が保有する同一種類の仮想通貨と分離したうえで、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の分類に応じて、仮想通貨取扱い第5項及び第6項(上記【STEP2】(2)①及び②参照)と同様の方法により評価を行う。 また、預託者への返還義務として計上した負債の期末の貸借対照表価額を、対応する預かった仮想通貨に係る資産の期末の貸借対照表価額と同額とし、預託者から預かった仮想通貨に係る資産及び負債の期末評価からは損益を計上しない(仮想通貨取扱い15)。 次は、【STEP4】を検討する。 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨、及び仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨について、以下の注記が必要である(仮想通貨取扱い17)。 ただし、仮想通貨利用者は、仮想通貨利用者の期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額が資産総額に比して重要でない場合、注記を省略することができる。また、仮想通貨交換業者は、期末日において保有する仮想通貨及び預託者から預かっている仮想通貨の合計額が資産総額に比して重要でない場合、注記を省略することができる(仮想通貨取扱い17)。 なお、上記注記は、計算書類では必ずしも求められていない。 *  *  * 以上、4のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)

#No. 371(掲載号)
#西田 友洋
2020/05/28

税効果会計を学ぶ 【第5回】「繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法及び税率」

税効果会計を学ぶ 【第5回】 「繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法及び税率」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の「税率」に基づいて計算する。 今回は、税効果会計で用いる税法と税率について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 法定実効税率 税効果会計基準は、繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算すると規定している(税効果会計基準第二、二、2)。 当該税率について、税効果適用指針は、「法定実効税率」を定義し、連結納税制度を適用する場合を除いて、次の算式によると規定している(税効果適用指針4項(11))。 【法定実効税率の算定方法】 税効果適用指針は、「[設例10]法定実効税率の算定」において詳細に計算式を示している。 実務上、決算ごとに、税率の改正が行われているかどうかをチェックし、法定実効税率を適切に算定するように注意する。   Ⅲ 税効果会計で用いる税法 1 決算日において国会で成立している税法 税法は、国会の審議を経て改正されるが、税効果会計で用いる「税法」は、いつの時点の税法かが論点となりうる。 税効果適用指針は、税効果会計で用いる「税法」とは、決算日において国会で成立している税法であり、決算日において国会で成立している税法とは、決算日以前に成立した税法を改正するための法律を反映した後の税法をいうと規定している(税効果適用指針44項、146項、147項)。 税法及び税率に関連して、税効果適用指針では次の用語が用いられているので、その定義に注意する(税効果適用指針44項、46項)。 2 成立日基準 法人税及び地方法人税について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している法人税法等に規定されている税率である(税効果適用指針46項)。 また、住民税(法人税割)及び事業税(所得割)について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している地方税法等(住民税等の税率が規定されている税法)に基づく税率である(税効果適用指針47項)。 税効果適用指針は、①当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立していない場合と②当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立している場合に分けて規定している(税効果適用指針の[設例11] を参照)。 決算日において国会で成立している地方税法等に基づく税率をまとめると、次のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 3 公布日基準 かつて、個別税効果実務指針は、改正税法が決算日までに「公布」されており、将来の適用税率が確定している場合は、改正後の税率を適用すると規定していた(個別税効果実務指針18項)。つまり、改正税法が決算日までに公布されているかどうかを基準としていたのである。 ところが、この公布日を基準とする取扱いについては、3月末日を決算日とする企業において、当事業年度に税法を改正するための法律が当該決算日前までに国会で成立していても、官報による公布が当該決算日間際までなされないことが多く、決算手続や業績予測等の実務的な対応に困難を伴うなどの意見が聞かれた。 このため、「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第27号。税効果適用指針の公表によりすでに廃止)では、税効果会計で用いる税率は、決算日において国会で成立している法人税法等に規定されている税率によるとされたのである(税効果適用指針149項)。 税効果適用指針は、当該規定を引き継ぎ、前述のように、国会の成立日を基準としている(税効果適用指針46項)。 (了)

#No. 371(掲載号)
#阿部 光成
2020/05/28

社外取締役と〇〇 【第2回】「社外取締役と会社法改正」

社外取締役と〇〇マルマル 【第2回】 「社外取締役と会社法改正」   西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 野澤 大和   1 はじめに 「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)(以下「令和元年改正法」といい、改正後の会社法を「改正会社法」という)が、2019年12月4日に成立し、同月11日に公布された。改正項目は多岐にわたるが、平成26年改正会社法(平成26年法律第90号)(以下「平成26年改正法」という)では実現しなかった社外取締役の選任の義務付けが実現したことが注目される。 本稿では、平成26年改正法及び令和元年改正法による社外取締役に関連する会社法の改正の趣旨とその内容を概観する。近時の会社法改正による社外取締役に関連する改正項目は下記のとおりである。 《近時の会社法改正による社外取締役に関連する改正項目》   2 平成26年会社法改正 (1) 社外取締役の要件の厳格化 社外取締役には、業務執行者に対する監督機能を果たすことが期待されているところ、平成26年会社法改正前の社外取締役の要件(平成26年改正前の会社法2条15号)の下では、親会社等の関係者及び兄弟会社の業務執行者や、業務執行者の近親者であっても社外取締役になることができるため、これらの者に業務執行者に対する実効的な監督を期待することはできないという指摘や、過去に一度でも使用人になる等して業務執行者の指揮命令系統に属したことがある者は社外取締役になることができなかったが、そのような者であっても、一定期間の経過によって業務執行者との関係が希薄になれば、社外取締役の機能を実効的に果たすことができるという指摘がされていた(※1)。 (※1) 坂本三郎編著『一問一答平成26年改正会社法〔第2版〕』(商事法務、2015)101頁。 そこで、平成26年改正法では、社外取締役の要件を厳格化し、親会社等の関係者及び兄弟会社の業務執行者や、会社の業務執行者等の配偶者又は2親等内の親族は、当該会社の社外取締役になることができないこととし(会社法2条15号ハ~ホ)、また、取締役への就任前における会社又はその子会社との関係に係る要件の対象となる期間を、原則として10年に限定するとともに、社外取締役への就任前の10年内のいずれかの時において会社又はその子会社の業務執行者以外の取締役等であったことがある場合には、当該取締役等への就任前10年間にまで遡ることとした(同号イ、ロ)。 (2) 社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務 平成26年会社法改正に至る法制審議会会社法制部会において、社外取締役の選任を義務付けるかどうかは、重要な検討課題として取り上げられたが、積極・消極双方の立場の意見が対立し、コンセンサスを得られなかった(※2)。 (※2) 坂本・前掲(※1)81頁。 そのため、社外取締役の選任を義務付けることとはせずに、会社法上、事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)であって、有価証券報告書を提出しなければならないもの(以下「上場会社等」という)が社外取締役を置いていない場合に、取締役に、当該事業年度に関する定時株主総会において、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明する義務を課すこととした(会社法327条の2)(※3)。 (※3) 坂本・前掲(※1)84頁。 なお、平成26年改正法附則25条(以下「平成26年検討条項」という)において、施行後2年を経過した時点で社外取締役の選任状況等を勘案・検討し、必要があると認めるときは「社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとする」とされた。   3 令和元年会社法改正 (1) 社外取締役の選任の義務付け 令和元年会社法改正に至る法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会においては、平成26年検討条項や平成26年改正法の施行後の社外取締役の選任比率の上昇(※4)等社会経済情勢の変化を受けて、上場会社等について少なくとも1人の社外取締役の選任を義務付けるか否かについて議論された。 (※4) 2019年には全上場会社の98.4%が社外取締役を1名以上選任している(東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」(2019年8月1日)6頁参照)。 当初、部会では、賛成意見と反対意見が対立していたが、中間試案のパブリックコメントの結果も踏まえ、わが国の資本市場が信頼される環境を整備し、上場会社等については、社外取締役による監督が保証されているというメッセージを内外に発信すべきであるなどとして、最終的には、会社法において、上場会社等に社外取締役の選任を義務付けることでコンセンサスが得られた(※5)。 (※5) 竹林俊憲=邉英基=坂本佳隆=藺牟田泰隆=青野雅朗=若林功晃「令和元年改正会社法の解説〔Ⅴ〕」旬刊商事法務2226号(2020)7頁。 「社外取締役を置くことが相当でない理由」の取締役の説明義務を規定する会社法327条の2が改正され、社外取締役の選任が義務付けられた(改正会社法327条の2)。社外取締役の選任義務付けの規律の対象となる会社は監査役会設置会社の上場会社等であり、上場会社でなくとも、その要件を満たせば、社外取締役の選任が義務付けられることに留意する必要がある。 また、上場会社等において、事故等により社外取締役が欠けることとなった場合であっても、社外取締役を選任するための手続を遅滞なく進め、合理的な期間内に社外取締役が選任されたときは、その間にされた取締役会の決議は無効とならないと解されている(※6)。 (※6) 竹林ほか・前掲(※5)8頁。なお、「遅滞なく」とは、具体的に置かれた事情に応じた幅のある概念であるが、社外取締役を選任するための株主総会の開催の準備のために要する期間であり、会社の規模や状況に応じて合理的な対応をすれば問題ないと解されている(神田秀樹=竹林俊憲=古本省三=井上卓=石井裕介「〈座談会〉令和元年改正会社法の考え方」旬刊商事法務2230号(2020)30~31頁〔神田秀樹発言〕)。 なお、改正会社法327条の2の経過措置(令和元年改正法附則5条前段)により、施行(※7)の際に現に上場会社等であって社外取締役を置いていない監査役会設置会社は、臨時株主総会を開催する必要はなく、施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を選任すれば足りる(※8)。 (※7) 令和元年改正法は、原則として公布の日から1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される(令和元年改正法附則1条本文)。なお、株主総会資料の電子提供制度及び支店の登記の廃止に係る改正については、公布の日から3年6月を超えない範囲において政令で定める日から施行される(令和元年改正法附則1条但書)。 (※8) 竹林ほか・前掲(※5)9頁。 (2) 業務執行の社外取締役への委託 社外取締役が会社の「業務を執行した」(会社法2条15号イ)場合には、社外取締役の要件を満たさないこととなると解されており、「業務を執行した」を広く解釈すると、経営陣が買収者となるマネジメントバイアウト(以下「MBO」という)や親子会社間の取引等において会社と業務執行者その他の利害関係人との利益相反を回避する観点から期待される社外取締役の活動機会を過度に制約するおそれがあると指摘されていた(※9)。 (※9) 竹林ほか・前掲(※5)4頁。 そこで、MBOや親子会社間の取引のように、会社と取締役又は執行役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役又は執行役が当該会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは(※10)、当該会社は、その都度、取締役会の決議によって、当該会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができることとするとともに、これにより委託された業務の執行をしたときであっても、社外取締役の要件を満たさないこととならないことが規定上明確にされた(改正会社法348条の2第1項、第3項)。 (※10) 社外取締役への業務執行の委託が可能となる利益相反等の要件は広く解してよく、業務執行取締役がやるよりも社外取締役に委ねたほうがよいときや、取締役会が委ねようと考えるときには委託することができると解されている(神田ほか・前掲(※6)32頁〔神田秀樹発言〕)。 ただし、社外取締役が業務執行取締役の指揮命令により業務を執行したときは、社外取締役の要件を満たさなくなること(同法第3項但書)には留意が必要である。 改正会社法348条の2は、令和元年改正前の会社法の解釈上、「業務を執行した」に該当しないと考えられている社外取締役の一定の行為(※11)について、新たに「業務を執行した」に該当することとするものではないと解されており(※12)、セーフ・ハーバーとしての機能を有するものである(※13)。 (※11) 例えば、経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」(2015年7月24日)別紙3「法的論点に関する解釈指針」6頁参照。もっとも、同指針で掲げられた行為の限界等が必ずしも明らかではないことも踏まえて、改正会社法348条の2の規律が設けられたことに留意する必要がある(神田ほか・前掲(※6)32頁〔竹林俊憲発言〕)。 (※12) 竹林ほか・前掲(※5)5頁注1。 (※13) 神田秀樹「『会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案』の解説〔Ⅴ〕」旬刊商事法務2195号(2019)7頁。   4 おわりに 平成26会社法改正及び令和元年会社法改正を通じて、社外取締役に期待される機能を果たすための制度的な枠組みは整備されたと考えられる。今後は、その機能を実効的に発揮できるようにするために、各社の個別事情に照らし、実務において、コーポレートガバナンス・コード等のソフトローも踏まえ、社外取締役の複数選任や社外取締役に相応しい人材及び資質の確保等を検討していく必要があろう。 (了)

#No. 371(掲載号)
#野澤 大和
2020/05/28

今から学ぶ[改正民法(債権法)]Q&A 【第13回】「売買における買主の権利の明文化(その2)」

今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第13回】 「売買における買主の権利の明文化(その2)」   堂島法律事務所 弁護士 奥津  周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 前回の解説で、瑕疵担保責任から契約不適合責任への変更の内容については理解できました。では、この改正を受けて、現在使っている売買契約書は見直しが必要となるでしょうか。 【A】 従来から利用している売買契約書が改正法施行後(2020年4月1日以降)直ちに利用できなくなるわけではない。しかし、瑕疵担保責任に関する条項、損害賠償に関する条項など、改正に合わせて見直しをすべきものはある。 見直すべき条項の具体例は、次のとおりである。   1 用語の修正 改正法により瑕疵担保責任は契約不適合責任へと変更になった。従前の契約書では、契約書の文言としても「瑕疵」という言葉が用いられていることが多かった。また、不適合があったときの履行の「追完」という文言も、改正前民法にはなかった。 改正法下においては、契約書の文言も改正法の内容に従って整理するべきである。   2 追完請求権に関する条項 改正法では、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡しなどを請求できる(追完請求権、改正法562条1項)。 このことを明確化するために、以下のような条項を記載することが考えられる。 一方で、売主には、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることが認められている(改正法562条1項但書)。例えば、買主は代替品を請求したが目的物を簡単に補修することもできるときに、それが買主にとって不相当な負担でないときは、売主は補修によって対応することができる。 買主としては、負担の有無や売主の希望にかかわらず、常に追完の方法の選択権がある方が有利である。そこで、売主の選択権を排除するために、以下のような条項を定めることも考えられる。   3 代金の減額請求 改正法では、2で説明した履行の追完が可能な場合には、買主は履行の追完の催告をしたうえで、売主が相当期間内に履行の追完をしないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる(改正法563条1項)。 このことを明確化するために、以下のような条項を記載することが考えられる。 しかし、商品がほんのわずかに傷ついている場合などのように、買主としても代替品をもらうことや売主に修理してもらうよりも、代金を減額してもらったが方が合理的な場合も考えられる。そうした場合に、買主側としては履行の追完の催告を行うことなく減額の請求をすることができるように、代金の減額請求の条項を下記のように定めることも考えられる。   4 損害賠償と免責事由 改正前の瑕疵担保責任は、売主は無過失責任と理解されてきた。したがって、瑕疵の損害について売主に何らの帰責性がなくとも、買主は売主の瑕疵担保責任を追及することができた。 一方、改正法での契約不適合責任は、目的物の欠陥があったときの売主の責任を一種の債務不履行責任として理解することになった。そして、追完請求、代金減額請求、解除については、売主の帰責性にかかわらず買主は権利行使可能であるが、損害賠償については、売主は、契約不適合が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして売主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、売主は損害賠償責任を負わないとされた(改正法415条1項)。 改正前は、上記のとおり損害賠償を含めて無過失責任と理解されていたため、従来の契約書では、瑕疵担保責任の条項のところで帰責性については何も触れていないものが通常であった。しかし、改正法下において同じ契約書を使っていると、帰責性について何も記載がないということは、改正法下の法令通り、売主に契約不適合に帰責性がないときは、損害賠償義務を負わないということになり、同じ契約書であっても改正前より買主に不利な契約となる可能性がある(ただし、売買契約で目的物に契約不適合があったときに、売主に帰責性がないというケースは稀だとはいえる)。 そこで、改正前と同様に、契約不適合に対して売主に帰責性があるかどうかにかかわらず、買主は損害賠償請求ができるという条項をおくことが考えられる。 【条項例】   5 損害賠償について 【第12回】でも解説した通り、改正法においては損害賠償の範囲が、転売利益などを含む「履行利益」の範囲まで拡大することとなった(なお、改正前においても、瑕疵担保責任の場合に、常に損害賠償の範囲が信頼利益に限定されると解されていたわけではなく、事案によって柔軟な解決がなされてきた面はある)。 損害賠償を一定の範囲に限定したり、あるいは金額的な上限を設定することは、売主にとってその責任の範囲を限定して明確にするために改正前においてもなされてきたが、改正法下においても、そのニーズは変わらない。特に、履行利益も対象になることで損害賠償の範囲が広がったとも理解され得るので、売主にとっては注意が必要である。 【条項例1】 【条項例2】 (了)

#No. 371(掲載号)
#奥津 周、北詰 健太郎
2020/05/28

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例47】前田道路株式会社「剰余金の配当(特別配当)並びに臨時株主総会招集及び剰余金の配当(特別配当)に関する基準日設定についてのお知らせ」(2020.2.20)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例47】 前田道路株式会社 「剰余金の配当(特別配当)並びに臨時株主総会招集及び剰余金の配当(特別配当)に関する基準日設定についてのお知らせ」 (2020.2.20)   公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、前田道路株式会社(以下、「前田道路」という)が2020年2月20日に開示した「剰余金の配当(特別配当)並びに臨時株主総会招集及び剰余金の配当(特別配当)に関する基準日設定についてのお知らせ」である。 1株当たり650円、総額535億円の特別配当を行うこととしたという内容だが、同社の2019年3月期の1株当たり配当額は70円、2019年12月末時点の連結貸借対照表上の現金預金は631億円であるため、同社にあるキャッシュをあらかた吐き出すような巨額配当である。   2 前田建設によるTOB この巨額配当の背景には、前田建設工業株式会社(以下、「前田建設」という)による前田道路に対するTOB(株式公開買付け)がある。前田建設は、2020年1月20日に「前田道路株式会社株式(証券コード:1883)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を開示し、前田道路を子会社化するためのTOBを実施していた(前田道路も、同じ2020年1月20日に「前田建設工業株式会社による当社株式に対する公開買付けに関するお知らせ」を開示)。 なお、筆者は、このTOBが実施されるまで、両社が親子関係にあるものだと思っていた(両社の企業ロゴは同じである)。筆者以外にも、そう思われていた方が多いのではないだろうか。ちなみに筆者の自宅近所のビルには、両社の支店が一緒に仲良く入っている。   3 前田道路の反対意見 前田建設によるTOBに対して、前田道路は、2020年1月24日に「前田総合インフラ株式会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」を開示し(「前田総合インフラ株式会社」は前田建設の完全子会社)、反対意見を表明した。よって、このTOBは敵対的TOBということになる。 前田道路は、その開示において、事業シナジーは見込まれないことなど、反対する理由をいくつか記載しているのだが、株主を説得できる内容にはなっていない。他の敵対的TOBで述べられる反対意見も同様なのだが、相手の子会社になった場合のマイナスばかり列挙されている。 それでは、株主としては、株式を持ち続けているとマイナスになるので、TOBに応じるべきという判断になるはずである。株主に対して、「TOBに応じないように」と説得するなら、株式を持ち続けた方が得であると言わなければならない。そう言えないのなら、もう負けなのである。   4 巨額配当の理由 前田道路の巨額配当について、新聞等では(2020年2月21日付日本経済新聞等)、前田建設によるTOB撤回を狙ってのことだと報じられたが(注)、「剰余金の配当(特別配当)並びに臨時株主総会招集及び剰余金の配当(特別配当)に関する基準日設定についてのお知らせ」では、次のように記載されている。 前田建設の子会社になると、内部留保を吸い上げられてしまうから、その前に株主に差し上げてしまいます、ということのようである。 (注) 確かに「剰余金の配当(特別配当)並びに臨時株主総会招集及び剰余金の配当(特別配当)に関する基準日設定についてのお知らせ」にも、次のような記載がある。   5 なぜこのタイミング? ということは、この巨額配当は、今後の事業に影響しかねない、捨て身の行為なのだろうか。「剰余金の配当(特別配当)並びに臨時株主総会招集及び剰余金の配当(特別配当)に関する基準日設定についてのお知らせ」には、次のようにも記載されている。 巨額配当を実施しても、まったく問題がなく、かえってプラスだというのである。そうであるならば、なぜこのタイミングで、一度に巨額の配当を行うのだろうか。なぜもっと早く行わなかったのだろうか。   6 少数株主の利益? 前田道路の主張は、「当社は、株主に還元すべき利益を還元せず、ため込んできました、これまで株主の利益は考えてきませんでした」と言っているのと等しい。「前田総合インフラ株式会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」でも「剰余金の配当(特別配当)並びに臨時株主総会招集及び剰余金の配当(特別配当)に関する基準日設定についてのお知らせ」でも、少数株主の利益保護がうたわれているのだが、果たして同社が本当に少数株主の利益を考えているのか、疑わしく思える。 なお、前田道路は、当初、前田建設に対して、前田建設が保有する前田道路株式を売り渡すことを提案していた(2020年1月20日に「前田建設工業株式会社が保有する当社株式の取得及び資本関係解消提案に関するお知らせ」を開示)。前田建設が当時保有していた前田道路株式は500億円超であり、もしもそれが行われていたら、前田建設以外の前田道路株主が保有する前田道路株式の価値の下落を招き、彼らに損失を負わせていただろう。   7 3日も遅れて 前田建設によるTOBは、結局、撤回されることなく成立した。前田建設は、2020年3月13日に「前田道路株式会社株式(証券コード:1883)に対する公開買付けの結果及び子会社の異動に関するお知らせ」を開示して、前田道路に対するTOBが成立したことを伝えている。 それに対して、前田道路の方は、その3日後の2020年3月16日に「前田総合インフラ株式会社による当社株券に対する公開買付けの結果並びに親会社、その他の関係会社及び主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ」を開示して、前田建設によるTOBが成立したことを伝えている。本来であれば、2020年3月13日に開示すべきであり、これは遅延開示である。しかも3日も遅れてである。 TOBの成立を受け入れたくなかったのだろうか。いつまでも開示しないので、東証から注意されて、やむを得ず開示したのだろうか。ともかく、その開示姿勢からも、前田道路の経営陣が、株主、投資家のことなど考えていないことは、明らかである。 (了)

#No. 371(掲載号)
#鈴木 広樹
2020/05/28

《速報解説》 新型コロナ税特法で創設された「特例の猶予」、国税庁FAQからみたポイント~柔軟な取扱いが認められる一方、申請手続は計画的に行う必要あり~

《速報解説》 新型コロナ税特法で創設された「特例の猶予」、国税庁FAQからみたポイント ~柔軟な取扱いが認められる一方、申請手続は計画的に行う必要あり~   Profession Journal編集部   4月30日に公布・施行された「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律」(以下、新型コロナ税特法)及び「地方税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第26号)」における各特例措置のうち、最もインパクトが大きいのは、感染症の影響で売上が減少した者に対して国税・地方税のほぼすべての納税が無担保・延滞税なしで1年間猶予される特例の猶予制度だろう。 3月決算法人の法人税等申告期限が近づく中、国税庁が公表した「国税の納税の猶予制度に関するFAQ」や「特例の猶予申請書」様式などから、この制度の要点を確認しておきたい。   〔特例の猶予の位置づけ〕 まず今回の「特例の猶予」は、従前の「換価の猶予」(国税徴収法151、151の2:原則担保必要、延滞税軽減)と「納税の猶予」(国税通則法46:原則担保必要、延滞税なし)に加えて新たに創設されたもので、新型コロナ税特法3条において国税通則法46条を読み替えて規定されている(新型コロナ税特法3:担保不要、延滞税なし)。これらの制度を混同しないことが必要だ。 前提として、今回のコロナ禍で影響を受けた者が適用できるのは、「特例の猶予」だけではない。売上の減少などの要件を充たさない場合でも、「換価の猶予」を適用できる余地があり、今回の新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難なケースについては、明らかに担保を提供できる状況でない限り、担保を不要するという柔軟な取扱いがなされる(問21)。また国税通則法46条に定める「納税の猶予」は、主に災害などで被害を受けた場合を想定した制度だが、感染症の患者が発生した施設で消毒作業が行われたことで備品や棚卸資産を廃棄した場合など、納税者がその事実につき著しい損失を受けた場合には適用される余地がある(問2)。 実際に、「特例の猶予申請書」の裏面には、特例の猶予が不許可となった場合には、換価の猶予の申請を行ったものとみなされ審査を受けることができるというチェック項目が用意されている。 なおこれらの猶予制度はあくまで“納税の猶予”であって、申告期限が延長されるわけではないため、例えば3月決算法人の法人税の申告期限を延長する場合には、別途手続が必要となる。詳しくは国税庁「「法人税及び地方法人税並びに法人の消費税」の申告・納付期限の期限延長手続について」を参照されたい。   〔猶予される税金〕 次に、特例の猶予によって納税が猶予される税は、ほぼすべての国税・地方税が対象となるが、国税では①印紙で納付する印紙税、②外国貨物を保税地域から引き取る場合の消費税、③出国する際に直接税関長に納付する方式の国際観光旅客税については対象とならない。また地方税では④証紙徴収によるものも対象外となる(※)。なおこの制度を知らず無理をして納税した場合に、後になってこの制度を知ったとしても、納税したものが返還されることはないため注意が必要だ(問5)。 (※) 都税のうち自動車税環境性能割、狩猟税等も対象外とされている。 さらに対象となる税目のうち、令和2年2月1日から令和3年2月1日1月31日(※)に納期限が到来するものとされているため、例えば、①納期限が令和2年4月16日となる個人事業者の所得税、②納期限が令和2年2月末日となる令和元年12月末決算法人の法人税・消費税の確定申告分、③納期限が令和2年11月末となる令和3年3月末決算法人の消費税の中間申告分等は、特例猶予の対象とされる(問37)。なお冒頭の関係法令の施行日である4月30から2ヶ月間、つまり令和2年6月30日(火)までに限り、既に納期限が過ぎている未納の国税についても、遡って特例を適用することができる。 (※) 令和3年1月31日が日曜日のため2月1日へ変更された(令和2年7月1日国税庁HP更新)。   〔特例の猶予の要件:①収入の減少率〕 特例の猶予は、①新型コロナウイルス感染症の影響により令和2年2月以降の任意の期間(1ヶ月以上)において、事業等の収入が前年同期と比較して、おおむね20%以上減少しており、②国税を一時に納付することが困難な場合に認められる。 まず1つめの要件である「20%以上の収入減少」については、和2年2月1日から納期限までの間の任意の期間(1ヶ月以上。例えば緊急事態宣言の発令から1ヶ月間など、暦通りでなくとも可)の収入金額が、前年同期の収入金額に対して概ね 20%以上減少していれば、特例猶予の要件に該当するとしており(問24)、特例の猶予申請書でも当年と前年の収入(売上)と支出(仕入、販管費、借入金返済、生活費)を3月分記載する欄が設けられている(下図参照)。なお、今般国や都道府県から支給される特別定額給付金や持続化給付金等は、臨時的な収入に当たるとして、この収入金額に含める必要はない(問31)。 (※) 特例の猶予申請書より一部抜粋 FAQによると、前年同期の収入金額が分からない場合は、前期の法人税申告書に添付した法人事業概況書の裏面にある「月別売上高等の状況」(個人事業者(青色申告事業者)の場合は青色決算書の2面にある「月別売上(収入)金額及び仕入金額」)を参考とするよう求めている(問27)。また、開業して1年に満たないなど前年同期に事業を行っていない事業者は減少率が算出できないが、この場合、比較に適した期間で減少率を算出することになるため、直近1年程度の収入状況が分かる資料を用意した上、最寄りの税務署や国税庁納税猶予相談センターへの相談が必要となる。 上記について、まず収入の落ち込みが今回の新型コロナ感染症の影響によるものかを証明する必要はなく、申請書の「イベント等の自粛で収入が減少」「外出自粛要請で収入が減少」「入国制限で収入が減少」「その他の理由で収入が減少(この選択肢の場合、理由を簡単に記載する)」のいずれかにチェックを付ける。 また、減少率が20%未満となった場合でも、そのことのみをもって一概に特例の適用が認められないということはない、という点に気をつけたい。収入の減少が 20%に満たない場合でも、今後、さらに減少率の上昇が見込まれるときなどは、これを勘案して総合的に判断されるため(問25)、諦めずに、まずは最寄りの税務署や国税庁納税猶予相談センターへの相談を行っておきたい。   〔特例の猶予の要件:②一時に納付することが困難な場合〕 要件の2つ目、「一時に納付することが困難な場合」について、FAQでは「具体的に、納付可能金額(手元資金-当面の資金繰りに必要な額)が納付すべき国税の額に満たないケースが該当する」としている(問16)。つまり、手元に納税資金はあるものの、先行きが心配なためという理由では、特例の猶予は受けられない(問4)。 (追記:2020/6/24) 上記について、5/15更新により「納税資金がある方でも、当面必要な運転資金を下回る場合は特例猶予を受けることができる場合がある」とされている。 申請書の記載においても、まず「当面の運転資金の状況」として「当面の運転資金等+今後6ヶ月に予定されている臨時支出等の額=当面の支出見込額」を算出、次に「現金・預貯金残高」からこの「当面の支出見込額」を差し引いた額を「納付可能金額」としたうえ、「納付すべき国税」から「納付可能金額」を引いた金額を、特例の猶予の「猶予額」として算出する流れになっている(下図参照)。 (※) 特例の猶予申請書より一部抜粋 ここでも気になるのが、手元資金(上記の「現金・預貯金残高」)に、今般支給される給付金や緊急融資を含める必要があるのかという点だが、計算上はこれらの額を含める必要はあるものの、事業継続のため支出先が決定している場合には、上記「臨時支出等の額」を増加させることで、実質的に猶予を受けられる額には影響しない(問17)。このように給付金の取扱いが、上述の収入金額の算出の際とは異なるため、注意が必要だ。   〔申請の期限〕 最後に特例の猶予の申請期限だが、原則として納期限までに申請書を提出する必要がある(e-Taxによる電子申請、税理士による代理申請も可)。ただし、冒頭の関係法令の施行日である令和2年4月30日から2ヶ月を経過する日、つまり令和2年6月30日(火)までは、納期限後の申請も可能となっている。このため、令和2年3月末決算法人が、令和2年5月末が納期限となる法人税・消費税について特例の猶予を受けようとする場合、申請期限は令和2年5月末ではなく、令和2年6月30日となる(問40)。 なお申請書の提出後、猶予の許可についての結果が通知されるまでは、4月下旬時点において1~2週間程度かかっており、1~2週間で「猶予許可通知書」が到着しない場合は税務署において確認したい事項があると考えられるため、税務署からの連絡を待つか、心配な場合は申請先の税務署への問い合わせを行うことになる(問53)。 注意したいのは、中間申告分や、源泉所得税など納期限が毎月到来する場合でも、納期限ごとに猶予の申請が必要となる点だ(問41)。申請期限を経過した後でも事業資金の貸付を受けるための手続を行っていたなどやむを得ない理由があると認められる場合には申請を行うことができるとされているが(問42)、漏れのないよう計画的な手続を行いたい。 以上ここまで紹介してきた内容は国税に関するもので、別途地方税についても猶予の申請が必要となる(問55)。さらに社会保険料についても税制同様、猶予の制度が設けられたが、こちらも別の手続を必要とする。 この点についてFAQでは、地方税や社会保険料の猶予の申請を行う際に、国税の猶予申請書と猶予許可通知書のコピーを添付することで、記載内容の省略や審査期間の迅速化が図られるとしているが、上記のとおり国税の猶予の許可にも申請から1~2週間程度を要するとされているため、早めの申請を行っておきたい。 (了)

#No. 370(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2020/05/25

《速報解説》 会計士協会、「監査報告書に係るQ&A」を改正~新規上場時の有価証券届出書に係るKAMの適用範囲を明確化~

《速報解説》 会計士協会、「監査報告書に係るQ&A」を改正 ~新規上場時の有価証券届出書に係るKAMの適用範囲を明確化~ 公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年5月14日付で(ホームページ掲載日は2020年5月22日)、日本公認会計士協会は、「監査報告書に係るQ&A」(監査基準委員会研究報告第6号)の改正を公表した。 これは、新規上場の際に提出される有価証券届出書に関する、監査上の主要な検討事項(KAM)の適用範囲に関する取扱いを明確にするためのものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 新規上場時の有価証券届出書に係る監査におけるKAMの記載の要否(任意適用する場合を除く)について、3つのパターンごとに図解されている(25ページ)。 KAMの記載は、2020年3月期では早期適用となり、2021年3月期では強制適用となる。 25ページの図解では、2022年3月期を申請期とするケース(パターン1)、2023年3月期を申請期とするケース(パターン2とパターン3)が記載されているので参照されたい。 KAMの記載の要否は、監査証明府令3条4項の規定に基づいて決定するので、図解のどのパターンに該当するのかについて注意が必要である。 (了)

#No. 370(掲載号)
#阿部 光成
2020/05/25

《速報解説》 金融庁、「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」を公表~財務情報における追加情報の開示について強く期待される事項等を示す~

《速報解説》 金融庁、「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」を公表 ~財務情報における追加情報の開示について強く期待される事項等を示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020(令和2)年5月21日に、金融庁は、「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」を公表した。 また、令和2年3月27日に公表した「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施について(令和2年度)」を更新している。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示 1 財務情報における追加情報の開示 企業会計基準委員会の議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(2020年4月10日公表、5月11日追補)を受けて、財務情報である追加情報において、会計上の見積りに用いた仮定をより具体的に開示することが強く期待されている。 2 非財務情報(記述情報)の開示 非財務情報(記述情報)では、2020年3月期決算から適用される「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(平成31年1月31 日、内閣府令第3号)おいて、連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、「当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響」などを開示することが求められている。ただし、この内容を財務情報である追加情報において開示した場合には、非財務情報の開示ではその旨を記載することによって省略することができる。 「会計上の見積り」以外では、非財務情報において、今般の新型コロナウイルス感染症の影響について、「事業等のリスク」における感染症の影響や対応策、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」における業績や資金繰りへの影響分析、経営戦略を変更する場合にはその内容等の充実した開示を行うことが強く期待されている。   Ⅲ 有価証券報告書レビューによる対応 「令和2年度 有価証券報告書レビューの実施について」の「別紙2」が更新されており、次のように記載されている。 (了)

#No. 370(掲載号)
#阿部 光成
2020/05/25
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