《速報解説》 会計士協会、「年金基金の財務諸表に対する監査に関する実務指針」を改正 ~3月公表の監基報800等改正を受け監査報告書の文例を見直し~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年4月9日付けで(ホームページ掲載日は2020年4月28日)、日本公認会計士協会は、「業種別委員会実務指針第53号「年金基金の財務諸表に対する監査に関する実務指針」の改正について」を公表した。 これは、監査基準委員会報告書800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」の改正(2020年3月17日)などを受けて、監査報告書の文例を中心に改正するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 監査報告書の文例について、次の改正が行われている。 上記のほか、理事者確認書の記載例における継続企業の前提に関する記載も改正されている。 Ⅲ 適用時期等 「業種別委員会実務指針第53号「年金基金の財務諸表に対する監査に関する実務指針」の改正について」(2020年4月9日)は、2020年3月31 日以後終了する事業年度に係る年金基金の財務諸表に対する監査から適用する。 (了)
《速報解説》 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策税制が4月30日に公布、同日施行される ~設備投資減税に係る経産省所管の改正省令も施行~ Profession Journal編集部 既報のとおり4月7日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置」に基づく改正税法が、国税・地方税ともに、4月30日付の官報特別号外第55号にて公布、同日に施行された。 今回施行された法令は国税に関する「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律(法律第25号)」及び地方税に関する「地方税法等の一部を改正する法律(法律第26号)」並びに関連する政省令となる。 また、「固定資産税の特例(固定ゼロ)の拡充・延長措置」及び「テレワーク等のための中小企業の設備投資税制(中小企業経営強化税制の拡充措置)」に伴い、「経済産業省関係生産性向上特別措置法施行規則の一部を改正する省令」及び「中小企業等経営強化法施行規則の一部を改正する省令」も官報同号にて公布・施行されている。 なお、今回の特例措置の1つとして、新型コロナウイルスの影響により事業等に係る収入に相当の減少があった事業者が、令和2年2月1日から同3年1月31日までに納期限が到来する所得税、法人税、消費税等ほぼすべての税目(印紙で納めるもの等を除く)について、1年間、無担保・延滞税なしで納税が猶予されるが、上記臨時特例法によると災害時に適用される国税通則法第46条《納税の猶予の要件等》を読み替えて規定されるものとなっている。 なお、上記納税猶予の特例は、以下①②のいずれも満たす個人・法人が対象となり、規模は問われない。 (※) 「一時に納税を行うことが困難」かどうかの判断については、少なくとも向こう半年間の事業資金を考慮に入れるなど、申請者の置かれた状況に配慮し適切に対応するとされている。 関連する省庁のページは以下のとおり。 (了)
2020年4月30日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.367を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第34回】 「租税法律主義の厳格さ【補論】」 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 今回は、「租税法律主義と租税回避との相克と調和」を1回休んで、第3回で検討した「租税法律主義の厳格さ」について、最近の研究を踏まえその成果を【補論】として述べておくことにする。 公益財団法人日本税務研究センターでは、「憲法と租税法」共同研究会(金子宏東京大学名誉教授が顧問格で研究員は13名)が昨年3月から12月まで14回にわたって開催され(以下「税研センター共同研究」という)、筆者は「租税法律主義(憲法84条)」を担当し、先月その研究成果を論文にまとめた(「日税研論集」第77号(近刊)で公表予定)。その過程で、第3回での検討に十分でないところがあったことに気がついたので、脱稿を機会に今回、補うことにしたのである。もっとも、今回も、検討の枠組みの点では、第3回と同様、租税法律主義の厳格さを「自律的」厳格さ(Ⅱ)と「他律的」厳格さ(Ⅲ)に分けて検討を行うこととする。 Ⅱ 租税法律主義の「自律的」厳格さ 1 判例の立場 第3回では、まずⅡで、旭川市国民健康保険条例事件・最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁の次の判示(下線筆者)から、法治主義すなわち法律による行政の原理のうち法律の留保の原則が租税について民主主義的租税観(第1回Ⅲ2参照)に基づき厳格化されるという意味における租税法律主義の「自律的」厳格さを明らかにし、行政裁量(行政立法裁量・要件裁量・効果裁量)に対する統制を論じた。 2 明治憲法下での租税法律主義の意義 税研センター共同研究で筆者は、わが国における租税法律主義の展開を概観しながら租税法律主義の法的性格・法的構造を検討することとし、まず、明治憲法における租税法律主義について若干の検討を加えた。明治憲法では、現行憲法84条に相当する規定は62条1項であり、30条に相当する規定は21条であったが、それぞれ次のとおり定めていた(旧漢字は改めた)。 明治憲法62条1項について、明治憲法の「半官的な逐条説明書」(岩波文庫の伊藤博文(宮沢俊義校註)『憲法義解』(岩波書店・2019年)7頁の校註者はしがき)といわれる伊藤博文『憲法義解』は、次のように解説している(同55頁)。 この解説からすると、租税法律主義が租税の賦課・徴収に関する法治主義を意味するものとして捉えられていたことは、明らかである。このことは、「租税の賦課が政府の専断に依ることを得ず必ず議会の協賛を要することは、一般の法治主義の原則から生ずる当然の事理で、敢て本条の規定を待たない。」(美濃部達吉『逐条憲法精義』(有斐閣・1927年)622頁)として述べられていたところである。 法治主義は、明治憲法下では、次のとおり、「法治行政の原則」すなわち法律による行政の原理として捉えられ、その内容のうち特に法律の留保の原則が重視されていた(美濃部達吉『日本行政法 上巻』(有斐閣・1936年/復刻版1986年)68-70頁。下線筆者)。 3 財政民主主義の具体化としての租税法律主義の厳格化 租税法律主義は、今日でも、基本的には、「近代法治主義の、租税の賦課・徴収の面における現われ」(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)79頁。【11】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)であると考えられているが、では、旭川市国民保険条例事件・前掲最大判において法律の留保の原則の「厳格化」が説示されたのはなぜであろうか。 この点については、現行憲法における憲法原理(天皇主権の外見的立憲主義から国民主権の立憲主義へ)の転換の、財政の面での現れとして、現行憲法が「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」(83条)と定め財政民主主義を宣明したこと(最大判昭和52年5月4日刑集31巻3号182頁参照)が、重要な意味をもつものと考えられる。 財政民主主義は「財政立憲主義」という用語と互換的に用いられることもあるが(大石眞『憲法講義Ⅰ〔第3版〕』(有斐閣・2014年)271頁参照)、財政立憲主義が、もし財政議会主義として「単純に、国会が定めた一般的基準に依つてのみ財政が行われるということを意味するのであれば、それは近代法治国の行政原理の一適用に過ぎないもので、それ以上に何ら特別な意味はない。・・・・・・。租税その他の権力的課徴金の場合には、基準はむしろ一般的抽象的であることによつて平等性が保障せられる。それはまさに法律による行政の原理の適用せられる場合である。」(法学協会編『註解日本国憲法 上巻』(有斐閣・1953年)1259頁)しかしながら、現行憲法上の財政立憲主義は、「単に形式的な財政国会議決主義ではなく、財政民主主義を意味するもの」(樋口陽一ほか『注釈 日本国憲法 下巻』(青林書院新社・1984年)1303頁[浦部法穂執筆])である。 そうすると、現行憲法上の財政立憲主義すなわち財政民主主義の「収入面における具体化」(樋口ほか・前掲書1311頁[浦部執筆])としての租税法律主義も、民主主義の要素を内包するものでなければならない。この点について、大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁は「およそ民主主義国家にあつては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきものであり、我が国の憲法も、かかる見地の下に」租税法律主義を定めている旨を判示するところである。ここでいう「見地」が「民主主義的租税観」である(【14】)。 既にみたように、明治憲法下では、租税法律主義は法律による行政の原理として捉えられ、その内容のうち法律の留保の原則が重視されてきたが、この原則は、元来は「自由主義的イデオロギーに奉仕するもの」で「行政権に対する民主的コントロールという、民主主義の理念からするアプローチは希薄であった」(塩野宏『行政法Ⅰ〔第6版〕行政法総論』(有斐閣・2015年)81頁)ものの、現行憲法における財政民主主義・租税法律主義の下では、民主主義の要素を内包する原理として再構成されなければならないことになる。ここに、旭川市国民保険条例事件・前掲最大判で述べられている租税法律主義の厳格化の意義があると考えられる。 もっとも、そうであるとしても、この判決が法律による行政の原理を「国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則」として義務の賦課や権利の制限という納税者に不利な取扱いについてのみ法律の根拠を要するとしていること(いわゆる侵害留保の原則ないし侵害留保原理)は、租税法律主義の厳格化の射程を狭く捉えすぎているように思われる。というのも、税務官庁が租税負担を軽減・排除する効果をもつ経費控除・所得控除・税額控除等を認めたり課税要件の充足により成立し又は確定した納税義務を免除したりするなど納税者にとって有利な取扱いをする場合についても、財政民主主義の具体化としての租税法律主義は、法律の根拠を要求すると考えられるからである。 4 租税法律主義の厳格化としての課税要件法定主義 財政民主主義の具体化としての租税法律主義の厳格化は、憲法解釈論上、憲法84条から「狭義の租税法律主義即ち租税の種類及び課税の根拠だけでなく、課税物件・課税標準・税率・納税義務者などもすべて法律の定めを要すること」(法学協会編・前掲書1268頁)という原則を導き出すことに帰結した。この原則(「狭義の租税法律主義」)は今日では「課税要件法定主義」(【29】)と呼ばれ、判例においても「日本国憲法の下では、租税を創設し、改廃するのはもとより、納税義務者、課税標準、徴税の手続はすべて前示のとおり法律に基いて定められなければならないと同時に法律に基いて定めるところに委せられていると解すべきである。」(最大判昭和30年3月23日民集9巻3号336頁。大嶋訴訟・前掲最大判も同旨)として確立されている。 明治憲法下の租税法律主義(法律による行政の原理)が、前述のとおり、租税について原則として必ず法律で定めること(法律の留保)を要し命令で定めてはならないという、いわば「形式的・消極的意味での法定(法律の留保)」を要請していたのに対して、現行憲法は、その要請を、これに法律の法規創造力の原則(41条参照)を加味して、堅持しつつ、租税法律の留保事項すなわち規律事項にまで踏み込んでいわば「実質的・積極的意味での法定(法律の留保)」を要請していると解される。その要請が課税要件法定主義である。 Ⅲ 租税法律主義の「他律的」厳格さ 第3回では、租税法律主義の「自律的」厳格さと「他律的」厳格さとの関係について、明確な理解を示すことができていなかったが、税研センター共同研究を通じて、その関係についても理解を深めることができた。 前記Ⅱの4では、課税要件法定主義を財政民主主義の具体化としての租税法律主義の厳格化の観点から検討したが、実は、わが国では、課税要件法定主義は、別の観点からも説かれてきたところである。すなわち、明治憲法下では、既にみたように、租税法律主義は租税の分野における法律による行政の原理と性格づけられていたところ、1930年代以降になると、おそらくはドイツの租税債務関係説の研究・紹介(杉村章三郞「『独逸連邦租税法』の研究(2・完)」法学協会雑誌48巻6号(1930年)899頁、アルベルト・ヘンゼル著/杉村章三郞訳『独逸租税法論』(有斐閣・1931年)第2編参照)の影響を受けたものと思われるが、次のような見解(美濃部達吉『日本行政法 下巻』(有斐閣・1940年/復刻版1986年)1124頁。下線筆者)がみられるようになった。 この見解は納税義務の成立を租税債務関係説に基づいて観念していると解されるが、そうすると、そこでは、法律の「内容」が着目され、租税法律主義は、少なくとも租税実体法に関しては、租税立法者に対して、「租税債務法では私法に於ける意思の要素に代る」(ヘンゼル著/杉村訳・前掲書87頁。金子・前掲書156頁、【88】も参照)ものとされる課税要件(納税義務の成立要件)の各構成要素を法律で定めることを、要請する考え方(課税要件法定主義)として、再構成されることになると考えられるのである。 ここで注目されるのが、課税要件法定主義に関する金子宏教授の見解である。金子教授は、夙に、租税法律主義を「罪刑法定主義になぞらえて」(初期において同「租税法律主義について」税経通信20巻5号(1965年)21頁、最近において同・前掲書81頁)、その(最も重要な)内容として課税要件法定主義を構成してこられたが、この点については、次のような理解が示されている(南博方「租税法と行政法」租税法研究11号(1983年)1頁、8頁)。 この理解は、租税実体法における課税要件と刑法における構成要件が、それぞれの充足による法律効果の発生に関して同じ法律構成を採ることに、着目するものであると解される。 以上で検討してきたように、租税債務関係説は、租税法律主義の内容として課税要件法定主義を構成するための理論的基礎を(も)提供したと考えられる(要件裁量否定論の理論的基礎を提供したことについては第3回Ⅲ参照)。 Ⅳ おわりに 今回は、第3回で検討した租税法律主義の「厳格さ」について、現行憲法下では、租税法律主義は、財政民主主義の具体化のために、明治憲法下における法律による行政の原理としての性格に加えて、民主主義の要素を内包する課税要件法定主義として厳格化されていること(Ⅱ)、及び租税債務関係説は、租税法律主義と結び付いて、第3回Ⅲ2で述べた要件裁量否定論に理論的基礎を提供しただけでなく、課税要件法定主義にも理論的基礎を提供したこと(Ⅲ)、という2つの点を補った。 (了)
法人版事業承継税制・個人版事業承継税制の相違点比較 税理士・社会保険労務士 赤津 光宏 非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度(法人版事業承継税制)が創設されて10年以上が経過し、当初は使いにくいと言われていた同税制も数次の改正を経ることで適用要件が緩和され、年間400件程度であった申請件数も平成30年においては年間6,000件程度に迫るものとなった(平成31年2月5日中小企業庁「事業承継・創業政策について」参考)。 また、令和元年度税制改正により、個人の事業用資産についての相続税・贈与税の納税猶予・免除(個人版事業承継税制)が創設された。 両税制の立法趣旨・根本思想は同じものであると考えられるが、事業体が法人組織か個人事業かという違いにより、適用要件などに相違点がある。その相違点を把握することで両制度についての理解を深めていきたい。以下、主な相違点を列挙しながらその内容を解説する。 ① 適用期限 ② 経営承継期間 ③ 継続届出書提出・都道府県知事への年次報告書提出 ④ 青色申告要件 ⑤ 雇用確保要件 ⑥ 小規模宅地等特例との併用 ⑦ 担保提供 ⑧ 代表者が重度障害を負った場合の取扱い (了)
措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第21回】 「認定NPO法人及び特例認定NPO法人の承認特例等対象法人への追加」 -令和2年度税制改正- 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 - 質 問 - 令和2年度の税制改正で、承認特例制度等の対象法人に認定NPO法人及び特例認定NPO法人が新たに追加されたと聞きました。従来とどのように変わったのですか。 - 回 答 - 通常、無償で財産を寄附した場合、寄附者の個人に対しては時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得税が課税されます。ただし、寄附の相手が公益法人等であり、その寄附が一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときには、当該所得税について非課税とする制度(以下「非課税措置」という)が設けられています(措法40)。 また、上記の非課税措置に関し、手続きが簡素化された承認特例制度(以下「承認特例」という)があり、こちらの制度では、承認申請書を国税庁長官に提出した場合で、その提出した日から1ヶ月以内(寄附財産が株式の場合は3ヶ月以内)に、その申請について国税庁長官の承認がなかったとき、又は承認しないことの決定がなかったときは、その申請について承認があったものとみなされることになっています(措令25の17⑦)。 従来、非課税承認特例の対象法人に、認定NPO法人及び特例認定NPO法人は入っていなかったのですが、令和2年度税制改正により新たに対象法人に追加されました。 また、非課税承認を受けた後、その寄附を受けた一定の公益法人等がその寄附財産を譲渡し、買換資産を取得する場合で、一定の要件を満たすときは、同種の資産への買換でなくても非課税承認を継続することができるという特例(特定買換資産の特例)が平成30年度税制改正で創設されていましたが(措法40⑤)、この適用対象に認定NPO法人及び特例認定NPO法人は入っていませんでした。ところが、こちらも同様に令和2年度税制改正により対象法人として、追加されることとなりました。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 1 承認特例の制度 次の3つの要件を満たす寄附であることを証する一定の書類を添付した申請書を、寄附をした日から4ヶ月以内に納税地の所轄税務署長を経由して国税庁長官に提出した場合で、その提出した日から1ヶ月以内(寄附財産が株式等である場合には3ヶ月以内)に、その申請について国税庁長官の承認がなかったとき、又は承認をしないことの決定がなかったときは、その申請について承認があったものとみなされ、現物寄附を行った個人の譲渡所得税が非課税とされます(措令25の17⑦)。 この特例の対象となる法人は、国立大学法人等(国立大学法人、大学共同利用機関法人、公立大学法人、独立行政法人国立高等専門学校機構若しくは国立研究開発法人をいいます)、公益社団法人、公益財団法人、学校法人又は社会福祉法人であり、令和2年度税制改正により認定NPO法人及び特例認定NPO法人が追加されました。 この改正は、令和2年4月1日以後にされる財産の贈与又は遺贈について適用されます。 2 特定買換資産の特例の制度 非課税承認を受けた後、その寄附を受けた一定の公益法人等がその寄附財産を譲渡し、買換資産を取得する場合で、以下の一定の要件を満たすときは、同種の資産への買換でなくても非課税承認を継続することができるという特例(特定買換資産の特例)があります(措法40⑤)。この対象法人として、令和2年度税制改正により認定NPO法人及び特例認定NPO法人が追加されました。 この改正は、令和2年4月1日以後にされる財産の譲渡について適用されます。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第47回】 「債務保証」 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 債務保証とは、主たる債務者が債務を履行しない場合に、保証人が当該債務を履行する責任を負うことを契約することによって債権者の債権を担保するものである(監査・保証実務委員会実務指針第61号「債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関する監査上の取扱い(以下、「監保61」という)」2)。 我が国では、例えば、子会社が行った金融機関の借入に対して、親会社が債務保証を行ったり、子会社の仕入に対して債務保証を行ったりすることがある。今回は、この債務保証について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 債務保証により、損失が発生する場合、引当金を計上する。ただし、引当金は、下記4要件を充たした場合に計上する。そのため、まず、(①及び②は当然に充たしていることを前提に)③及び④のいずれも充たすかどうかを検討する。 《引当金の4要件》 主たる債務者の財政状態の悪化等により、債務不履行となる可能性があり、その結果、保証人が保証債務を履行し、その履行に伴う求償債権が回収不能となる可能性が高い場合で、かつ、これによって生ずる損失額を合理的に見積もることができる(③及び④の要件を両方充たす)場合(※)は、「債務保証損失引当金」を計上するため、【STEP2】を検討する。 一方、③、④のいずれか又は両方を充たさない場合は、「債務保証損失引当金」を計上しないため、【STEP3】を検討する。 (※)具体的には、以下のような状況が挙げられる(監保61.4(1))。 ➤主たる債務者が、法的、形式的な経営破綻の状態にある場合のほか、法的、形式的な経営破綻の事実は発生していないものの深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められる場合 ➤実質的に経営破綻に陥っている場合 ➤経営破綻の状況にはないが経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が高いと認められる場合 債務保証により、損失の発生額可能性が高く、かつ、損失金額を合理的に見積ることができる場合、「債務保証損失引当金」を計上する。 債務保証損失引当金の金額は、以下のとおり、算定する(監保61.4(2))。 (注)債務保証損失引当金繰入額の表示区分は、金額、発生事由等により決定する。 【STEP1】のとおり、引当金の要件③及び④のいずれか、又は両方とも充たさない場合、以下のとおり、注記が必要である(監保61.4(3)、財務諸表等規則58、連結財務諸表規則39の2、会社計算規則103①五)。 【注記における留意点】 ➤原則として、すべての債務保証について保証先ごとに総額で表示する(監保61.3(1))。 ➤根保証(継続的取引に係る債務を保証するために設定した一定の限度額の範囲内で保証する契約)の場合、原則として、期末日の債務額と保証極度額のいずれか少ない金額を注記する。ただし、保証極度額で注記することもできる(監保61.3(1)④)。 ➤保証人が債務者から担保提供を受けている場合や、債務者が債権者に直接、担保提供している場合でも、総額で債務保証の額を記載する。なお、その旨及び当該担保資産の実質的価額を付記することができる(監保61.3(2))。 ➤債務額の元本に加え、遅延未払金利等も債務保証の対象となっている場合には、当該遅延未払金利等も加算して注記する(監保61.3(2))。 ➤債務保証損失引当金を計上している場合、注記する債務保証の金額は、債務保証の総額から債務保証損失引当金を控除した残額とする(監保61.4(4)⑤)。 * * * 以上、3のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
税効果会計を学ぶ 【第3回】 「一時差異等」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 税効果会計基準では、貸借対照表上の資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額を「一時差異」と定義し、「一時差異」が生じた年度にそれに係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する(税効果会計意見書三、1、税効果会計基準第二、一、2、税効果適用指針88項、89項)。 第3回は、一時差異等について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 税効果会計の対象となる税金 税効果会計の対象となる税金は、「利益に関連する金額を課税標準とする税金」である(税効果適用指針91項)。そして、「法人税等」とは、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金である(税効果適用指針4項(2))。 例えば、収入金額その他利益以外のものを課税標準とする事業税(付加価値割及び資本割)及び住民税の均等割は、税効果会計の計算に含まれる税金ではない。 また、特定同族会社に適用される留保金課税は、各事業年度の留保金額が一定の額を超える場合に追加して課される税金(法人税法67条)であるため、税効果会計の計算には含まれない。 このような取扱いは、税効果会計基準の取扱いを引き継ぐものである(税効果適用指針91項)。 Ⅲ 一時差異と一時差異等 税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額の相違に着目して、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続である(税効果適用指針6項)。 この連結貸借対照表及び個別貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額を「一時差異」という(税効果適用指針4項(3))。 税効果会計では、「一時差異」のほかに、「一時差異等」の用語が用いられている。 「一時差異等」とは、「一時差異」と「税務上の繰越欠損金等」の総称のことである。また、「税務上の繰越欠損金等」には、繰越外国税額控除や繰越可能な租税特別措置法(昭和32年法律第26号)上の法人税額の特別控除等が含まれる。 このように、税効果会計では、類似する用語が用いられているので、実務で適用する際には注意が必要である。 Ⅳ 財務諸表上の一時差異 個別財務諸表において生じる一時差異のことを、「財務諸表上の一時差異」といい、将来減算一時差異又は将来加算一時差異に分類される(税効果適用指針4項(4)、79項)。 それぞれの定義は次のとおりである。 また、財務諸表上の一時差異は次のケースで発生する(税効果適用指針75項)。 かつて、個別税効果会計実務指針5項では、「収益又は費用の帰属年度の相違」に係る一時差異には、法人税申告書別表四の留保欄に計上され、別表五(一)に転記の上、翌期以降に繰り越されるものが含まれると規定されていた。 Ⅴ 将来減算一時差異と将来加算一時差異の例示 将来減算一時差異又将来加算一時差異の例示は次のとおりである(税効果適用指針84項、85項)。 Ⅵ その他の一時差異の取扱い 税効果適用指針では、一時差異等に関して次のように規定している(税効果適用指針78項~83項)。 Ⅶ 一時差異等に該当しない差異 次の項目のように、税引前当期純利益の計算においては収益又は費用として計上されるが、課税所得計算においては永久に税務上の益金又は損金に算入されないものは、将来において、課税所得を増額又は減額させる効果を有さないため、一時差異等には該当しないとされており、税効果会計の対象とはならない(税効果適用指針77項)。 個別税効果会計実務指針14項では、税務上の交際費の損金算入限度超過額、損金不算入の罰科金、受取配当金の益金不算入額のように、税引前当期純利益の計算において、費用又は収益として計上されるが、課税所得の計算上は、永久に損金又は益金に算入されない項目があると規定されていた。 (了)
テレワーク導入に伴う 労務上の課題と対応策 Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明 1 はじめに 昨今、働き方改革の一環として「テレワーク」を導入する企業が増加傾向にあったが、新型コロナウイルスの感染が拡大していく中で、感染防止対策としての「テレワーク(在宅勤務)」の導入が急激に進んでいる。 大手企業においては、半ば強制的ともいえる状況で導入しているところもあり、企業においては、「原則、全社員在宅勤務」「週3日以上の在宅勤務を義務付ける」といったように、これまで以上の速度で「在宅勤務」の実施が進んでいる。 元々、1つ屋根の下で「これどうだったっけ?」などと確認しながら「顔を突き合わせて業務」を進めることが多い職場においては、急に「在宅勤務」を導入することになって、業務が回らないといった声も多く出ているようである。 では、これらを回避するためにどんなことに注意する必要があるだろうか。 2 「感染防止対策」としての「在宅勤務」という意識を! 最初に、押さえておかなければならないのは、今急いで導入しているのは、「新型コロナウイルス感染防止対策」としての「在宅勤務」であるという点である。 平時の状況ではなく、緊急事態に対応するための「在宅勤務」であり、感染防止策として密閉空間・密集場所・密接場面といった状況を避けることが求められている。この「3つの密」が重なる場所として「職場」や「通勤電車」などが考えられることから、出社をしないで「自宅で業務を行う」ことが推奨されているのである。 会社にとっても、事業継続のために、従業員の出勤する回数を減らすことが目的といえる。 したがって、「在宅ではできない業務があるからやらない」というのではなく、「少しでも在宅でできる業務はないか」といった視点が必要である。 例えば、筆者の事務所においては、個人情報を取り扱っていることもあり、すべてを在宅勤務に切り替えることは難しいが、業務を細分化していくと、いくつか在宅でも行える業務が見えてきた。具体的には「メールでの相談対応」、「文書の作成」などが挙げられる。 このように、自宅でも行える業務を見つけることで、それをまとめて行う日を「在宅勤務の日」とすることが可能となるのではないか。 3 相談相手がいない場合の工夫 「在宅勤務」で業務を行っていると、いつもそばにいるはずの相談相手がいないので困ることがある。日常の業務では、意外と些細なことでもそばにいる同僚と相談しながら業務を行っていることがわかるだろう。 もちろん、「Zoom」などのweb会議システムを利用することで、情報を共有することは可能ではあるが、「あえて会議システムを使用してまで相談することでもないか」と考えてしまい、相談ができないままということも多いだろう。 気軽にやり取りできる「Line」や「Chat work」などのコミュニケーションツールを活用することも検討に値するが、「在宅勤務」のメリットとして挙げられるのは、「集中して業務に取り組めること」である。相手方の都合で、連絡を受けていたのではこのメリットは失われてしまう。打ち合わせの予定をあらかじめ設定するなどして、集中できる環境を壊さない工夫が必要である。 4 煩雑となる労働時間管理の対策 在宅勤務の場合であっても、従業員の労働時間を適正に把握する義務は会社にある。最近の勤怠管理システムは、会社以外の場所からもスマホなどにより出退勤の時刻を打刻できるだけでなく、打刻した場所まで把握できるものも安価で提供されており、このようなシステムを活用して従業員の労働時間を把握することが可能である。他にも、勤務開始・終了をメール等で上司に報告させる方法などもあるだろう。 いずれにしろ、社内で勤務する場合と違った方法での管理となることが考えられるが、在宅勤務の場合は、従業員本人の申告を信用せざるを得ないため、適正に労働時間を申告させる必要がある。 また、在宅勤務時の労働時間については、在宅勤務時の特別なルールを定めない限りは、いつもの労働時間となる。例えば、始業終業の時刻が9時から18時となっているのであれば、この時間帯が勤務時間となる。しかし現実的に、自宅でこの時間帯ずっと集中して業務を行うことは難しいと思われるため、このような場合の解決手段として以下の2つを挙げておく。 (1) 「事業場外のみなし労働時間」の適用 下記の2つの要件を満たす場合には、原則として就業規則で定める所定労働時間働いたものとみなされる。 なお、「事業場外のみなし労働時間制」を適用できる場合であっても、労働したものとみなされる時間が、深夜もしくは休日の労働となった場合には法定の割増賃金を支払わなければならないことや健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があるとされている。 (2) フレックスタイム制の適用 「在宅勤務」に「フレックスタイム制」を併用することで、より働きやすい仕組みとなる。「フレックスタイム制」とは、従業員の好きな時間に出社して、好きな時間に退社することができる制度である。 通常はあらかじめ決められた1日の所定労働時間(一般的には8時間)を日々勤務することとなっているが、フレックスタイム制を導入すると、日々の労働時間は従業員の自由に設定することができ、1ヶ月の所定労働時間(一般的には8時間×月の所定労働日数)を満たすように勤務してもらうことになる。1ヶ月の所定労働時間(清算時間)に足りなければ、賃金を控除することができ、清算時間を超えて働いたものを残業時間として取り扱うこととなる。 また、従業員の自由な出退社を制限するために、フレキシブルタイム(この時間の中で出退社の時間を決定できる時間帯)、コアタイム(1日のうちで必ず勤務しなければならない時間帯)を設定することができる。 しかしながら、今回はあえて「コアタイム」を設定せずに運用する。例えば、フレキシブルタイムを8時から20時と設定し、コアタイムはなしで、月の所定労働日数は18日とすると、その月の清算時間は8時間×18日=144時間となる。 この場合、1日9時間の勤務をすると16日勤務で清算時間を満たすことになり、出勤日数は2日少なくても良いことになる。 従業員を完全な在宅勤務に切り替えられない場合には、出社日数を減らす手法として、この方法も検討に値するのではないだろうか。ちなみに、筆者の事務所はこれを用いて、在宅勤務の場合は、短い労働時間とし、出社した場合は少し長めに勤務するといったようにして、出勤する日数を押さえている。 5 さいごに 私見ではあるが、周りの環境や自分の気持ちの問題等、やはり自宅では、8時間にわたり集中して業務を行うことは困難であろう。職場には、資料も備品もそろっているし、何より机やいすも長時間座って作業がしやすいものとなっている。そのような環境下を離れての「テレワーク」である。 テレワークにおいては、無理に1日8時間という制限を設けずとも、半分の4時間で集中して業務を終わらせられるのであれば、それで良いと考えるべきではないだろうか。会社は、従業員を「あいつは、見てないとさぼるから」という目で見るのではなく、「従業員を信用して仕事を任せる」気持ちを持つことが大切ではないだろうか。 在宅勤務では、「働いた時間」で評価するのではなく、「やるべきことをやっているか」で評価すべきなのだと考える。 (了)
社外取締役と〇〇マルマル 【第1回】 「社外取締役の存在意義」 西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 柴田 寛子 1 はじめに 本稿は、「社外取締役と〇〇マルマル」と題する連載の第1回目である。 社外取締役に関しては、2019年12月4日に成立した「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)(以下「改正法」という)により、監査役会設置会社であっても、公開会社かつ大会社であり、有価証券報告書の提出義務を負う会社(以下「上場会社」という)において、その選任が義務化される等(なお、社外取締役の選任義務については次稿にて取り上げる)、その果たす役割は、一層重視されている。 このような近時の社外取締役への期待を背景に、本連載では、実務に根ざした多様な観点から、各回毎に異なるテーマを定め、社外取締役に関する諸論点を検証することとしたい。 2 社外取締役の導入状況 本稿のテーマとする「社外取締役の存在意義」を検討するにあたり、社外取締役の導入状況について簡潔に記載すると、2014年会社法改正及びそれに係る法務省令改正(※1)により、上場会社につき「社外取締役を置くことが相当でない理由」を定時株主総会において説明し(会社法327条の2)、かつ、事業報告及び株主総会参考書類に記載すること(会社法施行規則74条の2第1条、124条2項)が求められることとなる「前」である2013年においては、1名以上の社外取締役を選任する企業は、東証の全上場企業中、54.2%(2名以上は30.6%)であった。 (※1) これらの改正の施行日は2015年5月1日である。また、同年6月1日には、株式会社東京証券取引所(以下「東証」という)によるコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という)が施行され、東証第一部及び第二部上場企業を対象として、最低2名の独立社外取締役を選任することが推奨され、かつ、企業の実態に鑑み必要と考える場合には3分の1以上の独立社外取締役の選任を検討すべきことが求められることとなった(CGコード原則4-8)。 しかし、2017年においては96.9%(2名以上は91.9%)に至っている。また、東証の全上場企業のうち、取締役の1/3が社外取締役である企業は2017年において32.7%を占め、取締役の過半数が社外取締役である企業も、同年では4.4%存する(※2)。このように、現在の実務においては、社外取締役を複数名選任することが通例であり、かつ、取締役の1/3以上を社外取締役が占める企業も珍しくない状況にあるといえる。 (※2) 東証「東証上場会社における社外取締役の選任状況及び社外取締役を置くことが相当でない理由の開示状況について」法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会(以下「部会」という)第5回会議(2017年9月6日開催)参考資料19(3頁、7頁)。 3 社外取締役の効用 上記2のとおり、社外取締役の選任が広く普及する現状において、社外取締役の効用として、一般的には、取締役会や委員会を通じた監督や助言、社内向け講演会やリーダー研修の講師、個別案件・分野における助言、CEOの相談相手、将来のトップ候補との面談・会食、外部の人材や会社等の紹介等が指摘されている(※3)。 (※3) 江川雅子「コーポレートガバナンス・コード導入後の取締役会の実態」旬刊商事法務2196号(2019)36頁。 もっとも、少なくとも現時点において、社外取締役の導入により会社の業績が向上するという分析結果は示されていない。かえって、CGコード導入後の2事業年度に限定したものではあるが、東証第一部上場企業では社外取締役の選任によって特に優位な(統計学上意味のある)業績変化は見出せないが、東証第二部上場会社の場合には、むしろ業績が有意に悪化するという統計分析が示されている(※4)。 (※4) 齋藤卓爾「取締役会に関する実証分析」部会第5回会議参考資料23(22~23頁)。もっとも、上述のとおり、当該統計分析は、CGコード導入後の2事業年度に限定したものであり、かつ、部会資料として用いられることのみを目的としたものであることに留意する必要があるが、社外取締役の効用について検証しきれていないことを示す資料として有益と考えられる(田中亘「コーポレートガバナンス改革の本質を問い直す〔上〕-I 社外役員の意義と職責」旬刊商事法務2215号(2019)6頁)。 このように、社外取締役の選任による可視的な効果は見出しにくいにもかかわらず、その選任が推奨され、ひいては義務化されることとなった現状に鑑みると、取締役の存在意義について、導入企業及び社外取締役自身の双方が主体的に認識していることが重要といえる。 4 社外取締役の存在意義 それでは、社外取締役の存在意義はどのような点に見出すことができるだろうか。特に重要なものとして、以下の2点を挙げることができる。 (1) 利益相反における判断 まず、業務執行取締役等において利益相反が生じる場面において、利益相反のない取締役として対象事項の決定を行うという存在意義がある。 利益相反が生じる典型的な場面は、取締役候補の決定(指名)及び取締役の報酬の決定である。これらの「指名」及び「報酬」は、その利益相反性に鑑み、指名委員会等設置会社においては、社外取締役が過半数を占める指名委員会及び報酬委員会において決定することが会社法上の義務とされている。 指名委員会等設置会社以外のガバナンス体制をとる会社においては、このような会社法上の義務はないが、CGコードでは、これらの会社においても、独立社外取締役が取締役の過半数に達していない場合には、独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会の設置が求められている(CGコード補充原則4-10①)(なお、社外取締役と役員報酬については本シリーズの後掲の論稿にて取り上げる)。 (2) 内部統制システムの機能強化 次に、内部統制システムの機能強化という存在意義を挙げることができる。 そもそも、会社法上、内部統制システムの整備は、取締役会の責務とされている(会社法348条3項4号、362条4項6号、399条の13第1項ハ及び416条1項1号ホ)。もっとも、社内に必ずしも精通してはいない社外取締役が、各企業において、どのような内部統制システムが適しているか、その制度設計や運営状況の監督において主導的な役割を果たすことは難しいことが多いと考えられる。 しかし、内部統制システムが、代表取締役、業務執行取締役、(指名委員会等設置会社における)執行役等への報告ラインとしてのみ構築されている場合には、監督の対象となる本人にしか報告がなされないため、職務執行の適正確保という内部統制システムの本来の機能を果たすことはできない。これに対し、社外取締役(を含む取締役会)、監査委員会又は監査役会が、内部統制システムにおける直接の報告先とされていれば、その本来の機能を維持しうる(※5)。 (※5) 金融庁及び東証により設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」による「「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(4)」(2019年4月24日)4頁。 また、近時においては、監査役会設置会社における監査役監査の実効確保のため、監査役等による内部統制部門の「連携」よりも、さらに一歩踏み込んだ「活用」が提唱されている(※6)。「活用」には、監査役等による内部統制部門に対する指示等が含まれると解される(※7)。 (※6) 経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(2019年6月28日)4.5(72頁)。 (※7) 前掲(※4)田中11頁。 このように、社外取締役は、その本来の職責として、内部統制システムの整備状況を監督するにあたり、その報告先が代表取締役等に限定されていないか(社外取締役や監査役等が含まれているか)、また、監査役等による内部統制部門への連携又は活用が確保されているかを検証することで、適切な内部統制部門の構築に効果的に貢献することができる(なお、社外取締役と内部統制システムについては本シリーズの後掲の論稿にて詳述する)。 5 おわりに 以上、本稿においては、社外取締役の存在意義につき概説した。次稿以降、その存在意義を構成する要素を含む様々な観点から、社外取締役に関する諸論点を検証することとしたい。 (了)