2020年2月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.358を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第68回】 「社会保障費の増額と税の優遇」 税理士 山本 守之 1 平成と令和の予算比較 わが国の平成2年度と令和2年度の予算を比べてみましょう。平成2年度の予算では、特例国債から脱却できていますが、令和2年度の予算では社会保障関係費が増え、赤字国債になっています。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 財務省資料 上記の図表を見ると、社会保障費の増額を借金でまかなった形であることがよくわかります。 一方、令和2年度税制改正大綱では、大企業の内部留保を取り崩して投資した場合には税の優遇をするという党税調の方針が明らかです。 2 オープンイノベーションの促進 令和2年度税制改正で創設されるオープンイノベーション促進税制は、企業が設立後10年未満の非上場企業に対し1億円以上(中小企業の場合は1,000万円以上)を出資した場合、その株式取得額の25%を法人税の課税所得から差し引くことで、税の負担を軽くするというものです。ただし、海外のベンチャー企業への出資の場合は5億円以上が必要となります。 この税制は投資減税を行うことで、ベンチャー企業の成長を促進する狙いがあります。 これは、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に、一定のベンチャー企業の株式を出資の払込みにより取得した場合に適用されますが、この場合の「一定のベンチャー企業の株式」とは、後述するオープンイノベーション性等の要件を満たすベンチャー企業に対する出資の払込みとして経済産業大臣が証明したものにより取得した株式をいいます。 また、この場合の「証明」とは、出資後に企業が一定の資料を経済産業省に提出し、出資した年及び5年間の特定期間内で経済産業大臣が証明したものです。 出資を行う事業会社とベンチャー企業の関係を示すと、次のようになります。 この出し手(事業会社)と受け手(ベンチャー企業)の条件とオープンイノベーション性の要件を示すと、次のようになります。 (出所) 財務省資料 上記税制の適用を受けた事業会社が、当該株式を譲渡した場合や配当の支払いを受けた場合等には、特別勘定のうち対応する部分を取り崩し、益金に算入します。ただし、特定期間(5年間)保有した株式については、この限りではありません。 3 5G(第5世代移動通信システム)導入促進税制 5G導入促進税制では、安全性・信頼性が確保された5G設備の導入を促す観点から、「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律」(国会で審議中)の規定に基づく、認定導入計画に従って導入される一定の5G設備に係る投資を行う企業に対して、税の優遇措置を行います。 価格競争力のある中国製の5Gの関連機器に対応するため、わが国は5Gの普及加速の必要があり、経済安全保障の視点から創設された税制です。 整備計画の前倒しをしたり、農地や商業施設などのローカル5Gを整備し、政府が認定した安全性の高い企業を対象に、令和2年度から2年間の限定措置として、投資にかかった金額の15%を法人税額から控除するか、設備額の30%を減価償却可能とします。 また、ローカル5Gの設備にかかる固定資産税を最初の3年間だけ半額とします。 携帯電話などに使われる5Gですが、通信速度は4Gの数十倍となります。5G導入により、車の自動運転や過疎地域の医療の充実など、様々なサービスが受けられるようになることが期待されます。 (出所) 財務省資料 (出所) 財務省資料 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第30回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -租税回避否認規定の類型- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は、租税回避否認の法的根拠について否認規定不要説と否認規定必要説を検討したが、今回は、否認規定の類型を整理した上で、否認規定に関するわが国の租税立法政策と一般的否認規定の意義及び問題を検討することにする。 租税回避の否認規定は、講学上、行為態様アプローチによる租税回避の定義(第21回Ⅱのほか第22回も参照)を前提にして、特定の「異常な」行為による租税回避に対象を限定してこれを否認する個別的否認規定(①)と、「異常な」行為を特定せず、そのときどきに問題になるであろう、何らかの「異常な」行為による租税回避を否認する一般的否認規定とに大別される(【70】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)。後者は、さらに、個別分野別の一般的否認規定(②)とすべての分野を包括する一般的否認規定(③)とに区別される。 近時の比較法的研究においては、上記の①についてSAAR(specific anti-avoidance rule)、②についてTAAR(targeted anti-avoidance rule)、③についてGAAR(general anti-avoidance rule)という名称がそれぞれ使われることがある。 Ⅱ 租税回避否認規定に関するわが国の租税立法政策 わが国の租税回避否認規定の歴史は、第25回で「租税回避論の沿革(淵源)」について確認したように、大正12年における同族会社の行為計算否認規定の創設に遡るといってよかろう。勿論、「租税あるいは税法あるところ必ず租税回避あり。」といえる以上、明治維新後の近代税制をつぶさに検討すれば個別的否認規定を見出すことはおそらくできるであろうが、わが国の租税回避論は実定税法上の議論としては同族会社課税の分野における一般的否認規定の創設を契機とし、しかも同規定を中心に展開されてきたといってよいように思われる。 わが国の租税回避否認規定の歴史に関して次に注目すべきは、税制調査会『国税通則法の制定に関する答申』(税制調査会第二次答申・昭和36年7月)4頁における一般的否認規定導入に関する次の提案である。 この提案について、税制調査会『国税通則法の制定に関する答申の説明』(答申別冊)12-14頁は次のとおり説明を加えていた。この説明は、わが国において一般的否認規定(この説明では「租税回避行為に対する最後の担保的な規定」)の導入について「公式に」検討し公表されたおそらく唯一の公的資料であるから、少し長くなるが、その主要な部分を引用しておこう。 この答申の説明では、租税回避の否認を「実質課税」(第27回Ⅲ2参照)の意味で捉えているようにも思われるが、その当否それ自体の問題は措くとしても、そうであれば、「実質課税」をどのように実定税法上要件化するのか、また、租税回避行為として否認される取引行為と否認されない取引行為とをどのような要件によって区別するのか、例えば「事業目的の検定」をどのように要件化するのか等、「租税回避行為に対する最後の担保的な規定」としての一般的否認規定の導入には更に検討すべき問題があったように思われる。 ただ、一般的否認規定は、国税通則法の制定に当たっては、実質課税の原則に関する規定及び行為計算の否認に関する宣言規定とともに、「その制度化につき将来の検討に委ねることを適当とするもの」(大蔵省主税局「国税通則法の制定について」税法学132号(1961年)27頁、28頁)として導入が見送られたことから、それらの問題は、結局、顕在化することなく、その議論は終息した。その議論のいわば「総括」として、志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔平成31年改訂/16版〕』(大蔵財務協会・2019年)25-26頁は、それらの規定の考え方について「考え方として目新しいものでなく、むしろ、現行税法の底にあるとみられる以前からの考え方を抽象的に表現したものといえるであろう。その限りにおいて、この考え方は、それ自体として否定されるべきものとは思われない。」とした上で、次のとおり述べている(下線筆者)。 この「総括」は、一般的否認規定の意義と問題(次のⅢ参照)を的確に整理し、一般的否認規定の導入見送り後のわが国の租税立法政策のあり方を示している。加えて、租税回避の否認につき判例法が重要な役割を果たしてきたという諸外国の「実情」に関する認識も正鵠を射たものである。その認識は、清永敬次教授が成文法主義をとる大陸法系のドイツの租税基本法42条について連邦財政裁判所の判例の分析を重視してこられた研究(その集大成として同『租税回避の研究』(ミネルヴァ書房・1995年/復刻版2015年)第2編参照)における問題意識と共通するところがあると思われる。 そこで示された租税回避の否認に関する租税立法政策のあり方は、今日でも、「新しい租税回避の類型が生み出されるごとに、立法府は迅速にこれに対応し、個別の否認規定を設けて問題の解決を図るべきであろう。」(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)139頁)といわれるように、基本的にはなお維持されているとみてよかろう。税制調査会「経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方」(令和元年9月中期答申)16頁がBEPS後の「国際的な租税回避への対応」について次のとおり述べているのも、そのような意味に解される。 ただ、近時、組織再編成に係る行為計算の否認規定(平成13年度税制改正。法税132条の2、所税157条4項、相税64条4項、地税72条の43第4項)、連結法人に係る行為計算の否認規定(平成14年7月連結納税制度導入。法税132条の3)、恒久的施設帰属所得に係る行為計算の否認規定(平成26年度税制改正。法税147条の2、所税168条の2)といった個別分野別の一般的否認規定が増加してきており(【70】。ただし、前二者は、否認の対象とする租税回避の類型が税法上の課税減免規定の濫用による租税回避(第22回Ⅲ参照)に限定されていることに注意すべきである。この点に関連する検討については次回参照)、さらに、BEPSプロジェクトに伴い一般的否認規定(GAAR)の導入論が高まってきている(差し当たり、森信茂樹編『税制特集Ⅳ-BEPSと租税回避への対応』フィナンシャル・レビュー126号(特集・2016年)所収の各論文、同「一般的否認規定の検討を」本誌278号、同「中期答申に明記された租税回避スキームの義務的開示」本誌343号参照)。 そのような状況の下でもう一度「原点」に立ち返り、一般的否認規定の意義と問題を検討しておくことにも意味があると考えるところである。以下の検討は、拙稿「租税回避の法的意義・評価とその否認」税法学577号(2017年)245頁、265-268頁をベースにしたものである。 Ⅲ 一般的否認規定の意義と問題 既にみたように、租税回避の一般的否認規定は「抽象的表現そのものに意義がある」(前記Ⅱの最後の囲みの中の下線部)が、そのような規定は、法律学では、一般に、一般条項と呼ばれる。一般条項は、「その規定の内容が、一般的・抽象的に定められている」ような条項と定義されるが(遠藤浩ほか編『現代法辞典』(ぎょうせい・1982年)21頁[伊藤進執筆])、一般的否認規定は、一般条項の一種である。 一般条項については、「立法者が予見して列挙することが困難な多様な自体に対処し、具体的に妥当な法の適用を可能にする長所があるが、法適用者の権限を過大にして、法的安定性を害する危険もある。」(髙橋和之ほか編集代表『法律学小辞典〔第5版〕』(有斐閣・2016年)27頁)といわれるが、租税回避の一般的否認規定の導入について、積極論は一般条項のそのような「長所」に着目するのに対して、消極論はそのような「危険」に着目すると整理することができる。既にみた「抽象的な表現による規定の解釈問題を生じ、そのおもむくところ、税務当局者による拡大的、恣意的解釈にゆだねることとなっては、納税者の正当な権利利益を擁護する上に大きな不安が生ずることになるのではないかという懸念」(前記Ⅱの最後の囲みの中の下線部)も、そのような「危険」を表現したものであろう。 一般条項の「危険」を的確に指摘するものとして、ヘーデマン『一般条項への逃避-法及び国家に対する危険-』(Hedemann, Die Flucht in die Generalklauseln: Eine Gefahr für Recht und Staat, 1933)が有益である。同書は、一般条項の安易な利用(濫用)すなわち「一般条項への逃避」が、まず法的思考・立法者の活動及び裁判官の活動の「軟弱化」(第1の危険)をもたらし(66頁)、次に法的生活全体の「不安定性」(第2の危険)をもたらし(67頁)、最後に「恣意」(第3の危険)をもたらす(70頁)旨を述べているが、同書の印刷中の1933年3月24日に、ナチス独裁制の「基本法」ともいうべき「民族及び帝国の危難を除去するための法律」(いわゆる全権委任法ないし授権法)が成立したことによって、第3の「恣意」の危険が顕在化し現実のものとなったことは歴史的事実である。 一般条項と全権委任法・授権法とは、法適用者に対する授権の範囲・規模の違いはあれ、白紙委任規定である点では共通している。全権委任法がナチス独裁下で法適用者の「恣意」の危険を広範かつ大規模に顕在化・現実化させた事実に鑑みると、いわば「小規模の授権法」としての一般条項も、その問題性の「本質」は法適用者の「恣意」の危険にあると考えざるを得ない。もし立法者がそのような「危険」を承知の上である問題について敢えて一般条項を定めたのであれば、それはその問題に対する立法者の「お手上げ(敗北)宣言」というべきものであろう。 租税回避の一般的否認規定も、一般条項である以上、多かれ少なかれ、そのような本質的危険を免れることはできないが、その「最も純粋な」形態は、岡村忠生教授が理論的観点から提示される「いかなる論者が想定する租税回避をも包含できる一般的否認規定」(同「一般的租税回避否認規定について-否認理論の観点から」ジュリスト1496号(2016年)44頁)に見出すことができよう。その規定は次のとおりである。 岡村教授は、この規定を提示した後、次のとおり述べておられる(同・前掲論文44頁。下線筆者)。 岡村教授の以上の見解は、一方で、一般的否認規定について「小規模の授権法」としての「本質」を的確に捉えるものであるが、他方で、同規定の適用者の「恣意」の危険を容認するおそれのあるものでもある。その問題性の甚大さは、岡村教授が「租税法律主義や現在の権力分立を変更する可能性」を示唆されているところからも、明らかであろう。岡村教授が否認理論の観点から提示された一般的否認規定は、まさに税務署長に対する白紙委任規定というべきものである以上、政令委任についてさえ個別的・具体的委任を要請する課税要件法定主義を租税法律主義が放棄しない限り、決して許容されるものではなかろう。 Ⅳ おわりに 以上で、租税回避の否認について否認規定の類型を整理し、そのうち一般的否認規定の意義と問題を整理した。 現在説かれている一般的否認規定導入論をみると、既存の個別分野別の一般的否認規定について分野の限定を解除することを念頭に置いたものが多いように思われる(例えば、鈴木久志「租税回避行為の否認についての一考察-我が国の租税法へ一般的租税回避否認規定を導入することの必要性を中心に-」税務大学校論叢94号(2018年)1頁、特に94頁以下参照)。確かに、そのような一般的否認規定であれば、先にみた岡村教授の提示される一般的否認規定と比べて、一般条項に内在する危険、特に「恣意」の危険は少ないであろうが、しかし、既に個別的否認規定のほか個別分野別の一般的否認規定が整備されてきたわが国の現状からして、租税法律主義及びその前提となる権力分立制の下では、そのような一般的否認規定を導入する必要性なり立法事実の有無が厳しく問われるべきであろう。 むしろ、今日においてなすべきことは、既に導入された個別分野別の一般的否認規定に関する学説の深化及び判例の積重ねを通じてその「具体的な相貌」(志場ほか共編・前掲書26頁)を明らかにしていくことであるように思われる。次回は、このような観点から、個別的否認規定と個別分野別の一般的否認規定との関係について検討することにする。 なお、最後に、一般的否認規定の導入論議について手続法的観点から付言しておくと、タックス・コンプライアンスの確保に向けたOECDの取組みの背後にあるとされる「税務行政モデルの転換」は、次のとおり、「命令・支配モデル」から「命令・支配モデルと協力モデルの使い分け」への転換として理解されているが(吉村政穂「租税手続法の一環としての一般的否認規定?-国税通則法制定に関する答申をめぐる議論を振り返る」日税研論集71号(2017年)35頁、49-50頁)、その転換が実現されるならば、一般的否認規定の導入に関する今後の検討にも一定の影響を与えることになるかもしれない。 ここでいう「命令・支配モデルと協力モデルの使い分け」は、一般的否認規定についていえば、税制調査会・前掲中期答申23頁でも検討の重要性が指摘された「BEPSプロジェクトでベストプラクティスとして取り上げられた義務的開示制度(MDR:Mandatory Disclosure Rules)」との「相互補完関係」(税制調査会・第6回国際課税ディスカッショングループ(2015年10月23日)資料・BEPSプロジェクトについて(詳細)3/4「行動12 義務的開示制度」の「報告書の概要」)を意味するものといえよう。 一般に、補完すべき「欠陥」には「不足」の欠陥と「過剰」の欠陥があると考えられるが、義務的開示制度と一般的否認規定との「相互補完関係」において補完すべき「欠陥」として想定されているのは、租税回避による課税「不足」の欠陥であろう。ただ、「小規模の授権法」としての一般的否認規定は税務行政に「命令・支配モデル」による執行を求め、ひいては「恣意」の危険を惹起させるおそれがある以上、同規定による租税回避の否認に伴うそのような「過剰」の欠陥については、これを補完(規制)する実体法及び手続法上の制度的手当て(裁量統制措置)が別途必要となると考えられる。そのような制度的手当てなくしては、「命令・支配モデルと協力モデルの使い分け」への「税務行政モデルの転換」は適正には実現され得ず、そのため、一般的否認規定の導入の障壁も依然として残されたままになるであろう。 (了)
〔令和2年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第4回】 (最終回) 「「法人税の軽減税率」 「消費税率の引上げ」 「法人の有する仮想通貨の取扱い」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 令和元年度税制改正における改正事項を中心として、令和2年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。【第3回】は「中小企業の設備投資を支援する措置の延長等」及び「地域未来投資促進税制の見直しと延長」について解説した。 最終回となる【第4回】は「法人税の軽減税率」、「消費税率の引上げ」及び「法人の有する仮想通貨の取扱い」について解説する。 1 法人税の軽減税率 中小企業者等において、800万円までの課税所得に適用される軽減税率は本来19%だが、平成31年3月期決算申告までは、特例措置により15%に引き下げられていた。 この措置は平成31年3月31日までに開始する事業年度が対象であったが、令和元年度税制改正により2年間(令和3年3月31日までに開始する事業年度まで)延長された。したがって、令和2年3月期決算申告においても、15%が適用される。 【法人税率(平成31年3月期と変化なし)】 (※) 資本金又は出資金1億円以下の法人のうち、一定の要件を満たすもの 2 消費税率の引上げ 「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(改正消費税法)によって、令和元年10月1日より、消費税(地方消費税を含む)の税率が10%に引き上げられた。また、これと同時に軽減税率8%も導入された。 【消費税の税率】 軽減税率の対象となるのは、下記の飲食料品及び新聞の譲渡である。 これにより、令和2年3月期決算申告においては、新税率10%、軽減税率8%、旧税率8%が混在することになる。また、軽減税率8%と旧税率8%は、同じ8%といっても消費税率と地方消費税率の内訳が異なる。したがって、取引をこれらの税率ごとに区分して集計した上で、消費税申告書を作成する必要がある。 さらに、消費税率引上げの前後においては、経過措置が設けられている。この対象となる取引がある場合は、経過措置が強制的に適用されるので、注意が必要である。 【主な経過措置】 3 法人の有する仮想通貨の取扱い 「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(実務対応報告第38号)」が公表されたことを受け、令和元年度税制改正において、法人が保有する仮想通貨の取扱いが明確化された。仮想通貨は棚卸資産から除外され、売買目的有価証券と同様の取扱いをする必要がある。 平成31年4月1日以後に終了する事業年度から適用されるので、令和2年3月期の決算申告においては、適用されることになる。 (連載了)
〔免税事業者のための〕 インボイス導入前後の実務対応 【第3回】 「免税事業者が適格請求書発行事業者になるための手続①」 -申請期限及び経過措置- 税理士 石川 幸恵 適格請求書発行事業者の登録について消費税の免税事業者に説明する際、次のような事項をわかりやすく伝える必要がある。 【第3回】及び【第4回】では①と②について、【第5回】では③について整理する。 1 適格請求書発行事業者の登録の要否を判断するポイント (1) 取引相手が適格請求書の交付を求めるかどうか(インボイスQ&A 問6) 取引相手が適格請求書の交付を求めるのは、仕入税額控除をするためである。そのため、取引相手が課税事業者であれば、取引相手から適格請求書発行事業者の登録を求められる可能性が高い。取引相手が消費者ならば、消費者は適格請求書の交付を求めないので、登録の必要性は低い。 個人客を相手とする事業であっても、消費者とは限らないので注意が必要である。飲食店や小売店、タクシーなどは、立地や営業場所等によっては、ビジネス利用の比率が高いことも考えられる。ビジネス利用の際には適格請求書の交付を求められるので、個人客が主な取引相手であっても、現時点において領収書を求められる頻度や金額、競合他社について分析した方が良い。 (2) ビジネスモデルへの影響 新たに消費税の納税義務が発生することにより、事務の負担増、利益率の減少が起こる。そこで、課税事業者になった場合の消費税の納税額について試算するべきである。 消費税の納税による所得減が生活を圧迫するのであれば、適格請求書発行事業者になるタイミングで値上げができるか、適格請求書の必要ない対消費者ビジネスへシフトできるかを検討した方が良い。 2 適格請求書発行事業者の登録手続 (1) 課税事業者による原則的な登録手続 適格請求書発行事業者の登録を受けることができるのは、課税事業者に限られる(インボイス制度導入後の新消費税法57の2)。 課税事業者が適格請求書発行事業者の登録を行う手続は、次のとおりである(インボイスQ&A 問2、問3)。 ① 申請書の提出 納税地の所轄税務署長に、適格請求書発行事業者の登録申請書を提出する。 ② 効力発生日 登録の効力は、適格請求書発行事業者登録簿に登載された日(登録日)に発生する。 ③ 提出期限 効力の発生に合わせた提出期限は、特に設けられていない。課税事業者選択届出書や簡易課税制度選択届出書、課税期間特例選択変更届出書とは異なり、課税期間の中途であっても登録日より効力が発生する。 (2) 適格請求書発行事業者登録申請書の提出に関する経過措置 令和5年10月1日から適格請求書等保存方式が導入されるにあたって、経過措置が設けられている。経過措置には、①免税事業者の登録に関するものと、②提出時期に関するものがある。 ① 課税事業者選択届出書の提出不要と課税事業者となる時期 免税事業者が令和5年10月1日の属する課税期間中に登録を受ける場合、次の経過措置がある(28年改正法附則44④、インボイスQ&A 問4、問5、インボイス通達5-1)。 ② 令和5年10月1日に登録を受けようとする場合の申請書の提出期限 令和5年10月1日に登録を受けようとする場合は、原則として、令和5年3月31日(特定期間の判定により課税事業者となる場合は令和5年6月30日)までに、登録申請書を提出しなければならない。 ただし、提出できなかったことにつき困難な事情がある場合には、令和5年9月30日までの間に、登録申請書にその困難な事情を記載して提出し、税務署長により適格請求書発行事業者の登録を受けたときは、令和5年10月1日に登録を受けたこととみなされる(28年改正法附則44但書、改正令附則15、インボイスQ&A 問4)。 (3) 適格請求書発行事業者の登録申請書様式 ① 提出時期により3様式に分けられている 国内事業者用の適格請求書発行事業者の登録申請書は、以下のように提出時期によって3つの様式に分かれている。 (※) 上記の他、国外事業者用の様式(第1-(2)号様式、第1-(4)号様式、第1-(6)号様式)が定められている。 これらは上記(2)の経過措置の適用の有無により分けられていると考えられる。 ② 適格請求書発行事業者の登録申請書様式の違い 適格請求書発行事業者の登録申請書については、本稿執筆時点において、記載要領等が公表されていないため、今後、国税庁から公表される情報にも留意されたい。なお、国税庁から公開されている申請書の表記は「平成」であるが、本稿では「令和」に置き換えている。 〔第1-(1)号様式と第1-(3)号様式の違い〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 * * * 次回は、ケースごとの登録手続について確認する。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例83(個人住民税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措法37の12の2) 上場株式等に係る譲渡損失は、その年分の上場株式等に係る配当所得の金額と損益通算ができ、損益通算してもなお控除しきれない譲渡損失の金額は、翌年以後3年間にわたり、確定申告をすることにより株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得の金額から繰越控除できる。 なお、上場株式等に係る譲渡損失の金額を繰り越す場合には、譲渡損失が生じた年分以後、株式等の譲渡がない場合であっても連続してその繰り越す譲渡損失の金額を記載した確定申告書に、確定申告書付表「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用」を添付して提出しなければならない。 ◆確定申告書を提出していない場合 譲渡損失が発生した年分やその後の年分において確定申告書を提出していない場合には、期限後申告により「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」と確定申告書付表「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用」を添付して、発生年分から使用年分まで確定申告書を提出すれば、譲渡損失を使用することができる。 ◆確定申告書を提出しているが譲渡損失の申告をしなかった場合 譲渡損失が発生した年分において確定申告書を提出しているが譲渡損失の申告をしなかった場合には、所有口座の種類により次のような取扱いになる。 ◆所得税と異なる課税方式による個人住民税の課税選択 平成29年度税制改正で、特定上場株式等の配当や譲渡(源泉徴収がある特定口座)に係る所得については、平成29年4月1日から所得税と異なる課税方式により個人住民税を課することができることになった。 したがって、特定上場株式等の配当所得等を含めた所得税の確定申告書が提出されている場合であっても、その後に個人住民税の申告において特定上場株式等の配当所得等につき、他の課税方式(申告不要制度、総合課税、申告分離課税)を選択することができる。 具体的には、それぞれの自治体が提供している「特定配当等・特定株式等譲渡所得金額申出書」(自治体により名称は様々である)を住民税の納税通知書送達日までにそれぞれの自治体に提出することとされている。 ◆特定上場株式等の配当や譲渡に係る所得 特定上場株式等の配当や譲渡に係る所得は、合計所得金額や総所得金額を構成するため、配偶者控除や扶養控除、住民税の非課税判定等に影響がある。さらに以下の保険料については、これらの所得金額を基に負担額が決定されるため、所得税や住民税の負担額とトータルで有利判定を行う必要がある。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第38回】 「国外居住扶養親族を立証するための送金関係書類の該当性」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 確定申告書の作成にあたって、外国にいる親族について扶養控除を適用しようと思っています。数人の家族の生活費をまとめて1人の口座に送金し、その支払いの明細書を作成して添付した場合、誰に支払うかは分かりますから、扶養控除も人数分できますか。そんなに大きな金額ではないので、実際には問題にならないようにも思えますが、いかがでしょうか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷国外居住扶養親族とは 納税者に一定の条件を満たす扶養親族がいる場合には、納税者の所得の金額の計算上、扶養控除をすることができる。 扶養親族の条件としては、納税者の配偶者以外の親族等で、納税者と生計を一にしており、その者の年間の所得金額の合計金額が令和1年においては38万円以下(令和2年以降においては48万円以下)であり、青色専従者給与や白色事業専従者でないことがある。 この規定は扶養親族が外国籍で外国居住の人も含まれることから、扶養親族として多くの親族を含めて申告等をする納税者が散見され、その実態を確認するのも難しいため、問題となっていた。 そこで平成28年分の所得税から、国外居住扶養親族について扶養控除の適用を受けるためには、確定申告を行う場合には「親族関係書類」及び「送金関係書類」を確定申告書に添付しなければならず、年末調整の場合にも給与を支払う源泉徴収義務者に「親族関係書類」及び「送金関係書類」を提出又は提示することが必要となった。 ▷「親族関係書類」「送金関係書類」とは (1) 「親族関係書類」とは 「親族関係書類」とは、次の①又は②のいずれかの書類で、その国外居住親族がその納税者の親族であることを証明するものである。 (2) 「送金関係書類」とは 「送金関係書類」とは、納税者が非居住者である親族の生活費や教育費に充てるためにお金を支払ったことを証明する下記のような書類のことである。 ▷送金関係書類の該当性について争いとなった裁決 それでは、国外居住扶養親族の送金関係書類の該当性について争われた裁決事例を検討する(平成28年分所得税及び復興特別所得税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分・棄却・平30-08-28裁決)【関裁(所)平30-2】(TAINSコード:F0-1-976)。 本事案では、平成28年分の所得税の確定申告において、納税者が、配偶者の母(義母)、配偶者の父、姉、妹、弟、甥を扶養親族として確定申告を行った。その際、添付書類として義母を受取人とする「送金履歴が記載された書類」と、義母他の親族の関係書類を提出した。その後、税務調査が行われ、送金の受取人が義母であるから義母以外の親族の送金関係書類に該当しないとして、義母以外の親族について扶養控除が認められないと指摘されたため、納税者が作成した「各人別送金一覧表」を提出した。しかし、課税庁は、各親族の送金関係書類の添付がないことから扶養控除は認められないとして更正処分を行い、それを不服とした納税者が審判請求をしたものである。 ▷争点は何か 本事案の争点は、「送金履歴が記載された書類」や「各人別送金一覧表」が送金関係書類に該当するかである。 納税者は、「各人別送金一覧表」は、各親族と請求人の双方が、誰が何の目的でいくら必要か了解された上で実際誰にいくら送金されたかを表しているから、直接各親族に送金しなかったとしても、各親族と生計を一にしていることを証明したもので、送金関係書類に該当する。例えば、配偶者の甥は学童であるから送金額を受領することが困難であり、送金額を各親族が自ら生活費として管理することは非現実的だから、個別事情を考慮すべきと主張した。 課税庁は、「送金履歴が記載された書類」は義母を受取人とするものだから、他の親族のための送金関係書類に該当せず、また「各人別送金一覧表」は請求人が作成したものであり、金融機関やクレジット会社による明細書等には該当しないので、送金関係書類に該当しないと主張した。 ▷この裁決事例から学ぶことは 審判所は、納税者の親族について、個別事情があったとしても例外を認める法令等も定められていないから、居住者が1人の国外居住扶養親族に対して他の国外居住扶養親族の生活費又は教育費に充てるための支払いをまとめて行った場合における送金関係書類は、他の国外居住扶養親族に係る送金関係書類には該当しないとして、納税者の請求を棄却した。 1人の国外居住親族に対する送金関係書類は他の国外居住親族に係る送金関係書類に該当しないということは、通達でも明示されている(所基通120-8)。 なお、居住者が、同一の国外居住親族に対して1年間に3回以上送金を行った場合は、すべての送金関係書類を提出することに代えて、その年の最初と最後の送金関係書類と作成した明細書の提出でも問題ないとされている(所基通120-9)が、これはあくまでも送金先の1人に対する送金関係書類として認められるということである。 確定申告のシーズンであり、国外居住扶養親族の取扱いについて苦慮しているケースも多いと考えられるが、この裁決事例のように、添付書類については範囲を拡大解釈して取り扱われることは難しいので、そのことを念頭に、顧問先への資料請求と説明を丁寧に行うことが求められている。 (了)
措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第19回】 「期限内の公益目的事業供用が困難な場合の「やむを得ない事情」とは」 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 - 質 問 - 譲渡所得の非課税措置を受けるためには、寄附財産が、その寄附日から2年を経過する日までの期間内に寄附を受けた公益法人等の公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込みである必要があります。 この「2年」という期間について、延長等の例外措置はないのでしょうか。 - 回 答 - 贈与をした者(当該贈与した者の相続人及び包括受遺者を含む)又は遺贈をした者(当該遺贈をした者の相続人及び包括受遺者を含む)及び贈与又は遺贈を受けた公益法人等の責めに帰せられない次に掲げる事情がある場合など、当該贈与又は遺贈に係る財産を、当該贈与又は遺贈があった日から2年を経過する日までの期間内に、当該公益法人等の公益目的事業の用に直接供することが困難である事情が客観的に認められる場合には、国税庁長官が認める日までの延長が認められます(措令25の17④、措置法40条通達10)。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 租税特別措置法第40条において、譲渡所得の非課税措置を受けるためには、当該贈与又は遺贈があった日から2年を経過する日までの期間内に、当該公益法人等の当該公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込みであることが要件とされています。 ただし、2年以内に当該公益法人等の公益目的事業の用に直接供することが困難である場合として政令で定める事情があるときは、国税庁長官が認める日までの期間の延長が認められています。 この「特別な事情」とは ・公益法人等が贈与又は遺贈を受けた土地の上に建設をする、贈与又は遺贈に係る公益目的事業の用に直接供する建物の、その建設に要する期間が通常2年を超えること ・災害により、当該財産等を当該期間内に当該公益目的事業の用に直接供せないこと ・建築基準法その他の法令による制限を受けるなどのため、施設の設置に関する計画の変更を余儀なくされ、施設の設置ができなくなったことに伴い、当該財産等を2年以内に公益目的事業の用に直接供せないこと ・施設の設置認可に係る行政庁の指導又は施設の設置についての隣接地などの所有者などの反対などにより、施設の設置に関する計画の変更を余儀なくされ、施設の設置ができなくなったことに伴い当該財産等を2年以内に公益目的事業の用に直接供せないこと とされています(措置法40条通達10)。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第23回】 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 〈更なる検討〉 ~法人税法22条の2第2項と22条4項のいずれを根拠とすべきか~ 仕切精算書到達基準が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当する場合、法人税法22条4項を適用して、仕切精算書到達基準による収益計上が認められることになるのであろうか。あるいは、仕切精算書到達基準による収益計上は、目的物の引渡し日に「近接する日」にも該当するものとして、法人税法22条の2第2項の適用により、認められることになるであろうか。 根拠条文をいずれとして考えるかという問題である。結論からいうと、法人税法22条の2第2項の適用により、認められることになる。 法人税法22条4項は、2項に規定する当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとするとしているが、別段の定めがある場合は除かれている。 別段の定めに関する論点については本連載の第Ⅳ部において別途検討する予定であるが、少なくとも法人税法22条の2が22条4項の「別段の定め」であるという理解は学説の支持を得つつある(金子宏『租税法〔第23版〕』355頁(弘文堂2019)、酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』286頁以下(中央経済社2019)参照)。 かように、法人税法22条の2第2項が22条4項にいう「別段の定め」に該当するのであれば、22条の2第2項は22条4項に優先して適用されることは明白である。 かかる交通整理の規定は、法人税法22条4項だけではなく、22条の2第2項にも手当てされている。22条の2第2項には、同項の「別段の定め」から22条4項を除外する規定がわざわざ設けられている。 すなわち、法人税法22条の2第2項は、「別段の定め」がある場合には適用されない(「別段の定め」がある場合には同項ではなく当該「別段の定め」に該当する規定が優先的に適用されることになる)ところ、同項の「別段の定め」から22条4項が除かれているのである。 以上からすると、資産の販売等に係る収益の計上時期については、引渡・役務提供基準又は近接日基準という具体的規範を擁する法人税法22条の2第1項や第2項の適用領域であり、22条4項の適用はない。 仕切精算書到達基準が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当する場合、同基準による収益計上は、目的物の引渡し日に「近接する日」にも該当するものとして、法人税法22条の2第2項の適用により、認められるものと整理されよう。 さて、法人税法22条4項と法人税法22条の2第2項のいずれを根拠条文とするかは、公正処理基準準拠要件が求められるという点で共通点を有するが、確定決算による収益経理が要求されるか否かという点で相違点を有する。法人税法22条の2第2項を根拠条文とする場合には、確定決算による収益経理が要求されるが、22条4項を根拠条文とする場合には要求されない。 もっとも、法人税法22条の2は、第3項において、申告調整により近接日基準による収益計上を行うことも認めている。近接日基準の採用に確定決算による収益経理という要件が付されているが、申告調整による処理が認められている限りにおいては、平成30年度税制改正が申告実務に与える影響は緩和されているといえよう。 〈更なる検討〉 ~法令用語「その他の」・「その他」と契約効力基準~ 法人税法22条の2第2項は、「当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の」1項に規定する引渡し又は役務提供の日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合にその適用を検討することになる。 法人税法22条の2第2項が同項による収益計上日として認められるものとして具体的に明記しているのは「当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日」のみである。法人税法は、契約効力発生日は通常、資産の販売等に係る目的物の引渡日又は役務提供日に近接することを前提として、いわば契約効力発生基準として昇華させたものと見ることができるかもしれない。 それでは、「資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日」であれば、一律に引渡日又は役務提供日に近接する日に該当することになり、契約効力発生日と当該契約に係る実際の引渡日又は役務提供日とが時間的に相当程度離れていても近接日基準として認められるのであろうか。 ここでは「その他の」という法令用語の意義を手掛かりとして、考察してみたい。 「その他の」は、「その他の」の前に出てくる字句が、後に出てくる一層意味内容の広い字句の例示として、その一部をなしている(その広い字句に包含される)場合に用いられる。いわば、包括的な例示の役割を果たす。 他方、「その他」という場合、「その他」の前にある字句と後にある字句は、「その他の」の場合と異なり、全部対一部例示の関係にあるのではなくて、並列関係にあるのが原則である(林修三『法令用語の常識〔第3版〕』17頁(日本評論社1975)、法制執務研究会編『新訂 ワークブック法制執務〔第2版〕』766頁(ぎょうせい2018)、石毛正純『法制執務詳解〔新版Ⅱ〕』598頁(ぎょうせい2012)参照。)。 かかる用語法に従うならば、法人税法22条の2第2項にいう「当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日」は、「その他の」を挟んで後に続く一層意味内容の広い「前項に規定する目的物の引渡し又は役務の提供の日に近接する日」に包含されるものであり、1項に規定する「目的物の引渡し又は役務の提供の日に近接する日」の例示的な役割を果たしていることになる。 例示にすぎないのであるから、契約効力発生日であれば、無条件に近接日基準の採用が認められるのではなく、やはり「目的物の引渡し又は役務の提供の日に近接する日」でなければならないという見方がありうるが、議論の余地は残る。 さらにいえば、契約効力発生日による収益計上が、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものであることを要するという見方もありうる。かかる要請を満たしているか否かを個別具体的に検討する必要があるならば、一般的ないし抽象的に「契約効力発生基準」ないし「契約効力発生日基準」として議論を進めることには注意が必要である。 逆に、契約効力発生日であれば一律に、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものであるという公正処理基準準拠要件を満たすのではないかという反論もあるかもしれない。 既に指摘した、採用する収益計上の基準ベースで近接性を判断すべきか、あるいは実際の収益計上日ベースで近接性を判断するのかという点は、ここでも議論の俎上にあげることができる。 (了)
会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」 【第3回】 「“ERPパッケージ”について聞きたい!」 石王丸公認会計士事務所 《登場人物紹介》 〈ベテラン経理のコバヤシさん〉 世界シェアトップの某メーカーで30年以上にわたり経理部に勤務。その間に会社は東証一部上場を達成。年々、開示制度の充実強化が図られる中で、5年間で13日の連結決算早期化を実現。 〈会計士〉 決算早期化の秘訣を知りたい公認会計士。といっても、そういうコンサルをしているわけではなく、単なる興味本位。 * * * (注) なお、本連載「会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」」の著作権は、石王丸周夫公認会計士及びベテラン経理のコバヤシさんに属するものとします。 (了)