相続税の実務問答 【第44回】 「令和元年台風第19号による被災地内の土地等がある場合の相続税の申告期限」 税理士 梶野 研二 [答] お父様がお亡くなりになられたことによる相続税の申告書は、本来、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内、つまり令和2年3月10日までに提出しなければなりませんが、あなた方の場合には、相続財産の中に令和元年台風第19号による災害に係る「特定地域」に指定された長野県内に存する土地がありますので、相続税の申告期限は、少なくとも特定非常災害に指定された令和元年台風第19号の発生日の翌日から10ヶ月を経過する日、すなわち令和2年8月11日まで延長されます(国税通則法の規定に基づき申告期限がさらに延長される場合があります)。 なお、遺産分割の結果、この土地を弟さんが1人で相続することとなったとしても、相続人全員の相続税の申告期限が延長されることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 特定の災害が発生した場合の相続税の特例措置 相続税の課税価格の計算上、各財産の価額は、相続開始日の時価によることが原則であり(相法22)、相続税の申告書は相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に提出することとされています(相法27①)。 しかしながら、相続税の申告書の提出期限までの間に発生した災害により甚大な被害が生じた場合には、「被災者の不安を早期に解消するとともに、税制上の対応が復旧や復興の動きに遅れることのないよう」(財務省「平成29年度税制改正の解説」582頁)にとの観点から、平成29年度の税制改正により次の特例措置が設けられました。 2 特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の計算の特例 相続税の課税価格の計算上、相続や遺贈により取得した財産の価額は、相続開始時における各財産の時価とされており(相法22)、相続開始後に生じた原因により財産の価額が下落したとしても、相続税の課税価格の計算には影響しません。 しかしながら、特定非常災害の発生日前に相続が開始し、かつ、その相続に係る相続税の申告書の提出期限前に特定非常災害が発生した場合には、相続又は遺贈により取得した財産のうち、特定非常災害の発生日において所有していた特定土地等又は特定株式等について相続税の課税価格に算入すべき価額は、その特定非常災害の発生直後の価額とすることができることとされました(措法69の6①)。 この「特定非常災害」とは、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」第2条第1項の規定により特定非常災害として指定された災害をいいます。令和元年の台風第19号は、「令和元年台風第19号による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」(令和元年政令第129号)により特定非常災害に指定され、その発生日は令和元年10月10日とされています。 また、「特定土地等」とは、特定地域内にある土地又は土地の上に存する権利をいい、「特定株式等」とは、特定地域内に保有する資産の割合が高い一定の法人の株式又は出資(上場株式等を除きます)をいいます。この場合の「特定地域」とは、被災者生活再建支援法第3条第1項の規定の適用を受ける地域(同項の規定の適用がない場合には、その特定非常災害により相当な損害を受けた地域として財務大臣が指定する地域)をいい、令和元年台風第19号に関しては、次の地域が該当します。 〇「令和元年台風第19号」による災害に係る特定地域 3 相続税の申告書の提出期限の延長の特例 相続税の申告書は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に提出しなければなりません。しかしながら、この本来の提出期限までの間に災害が発生した場合には、本来の申告書の提出期限内に申告をすることが困難となることも考えられます。 そこで、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者のうちに、上記2の特例の適用を受けることのできる者がいる場合には、その相続又は遺贈により財産を取得した相続人及び受遺者の全員の相続税の申告書の提出期限が、次の①②のいずれか遅い日まで延長されることとされました(措法69の8①)。 4 ご質問の場合 あなた方が、お父様の相続が開始したことを知った日が令和元年5月10日であるとしますと、本来の相続税の申告書の提出期限は、その日の翌日から10ヶ月を経過する日、すなわち令和2年3月10日です。 しかしながら、相続財産のうちに特定地域内に指定された長野県内の土地がありますので、この土地は、令和元年台風第19号による被害の発生直後の価額により評価することができるとともに、相続税の申告書の提出期限は、少なくとも特定非常災害の発生日(令和元年10月10日)の翌日から10ヶ月を経過する日(この10ヶ月を経過する日は令和2年8月10日ですが、同日が祝日(山の日)であるため、その翌日の8月11日)となります。なお、国税通則法第11条の規定により申告期限が8月11日より後の日とされた場合には、同条の規定により延長された申告期限となります。 なお、遺産分割の結果、この土地を弟さんだけが相続することとなったとしても、相続人全員の申告期限が延長されることとなります。 (了)
給与計算の質問箱 【第2回】 「配偶者控除と配偶者特別控除の見直し」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 今年(令和2年)から、配偶者控除と配偶者特別控除の要件が変更になるそうですが、変更点について教えてください。 A 変更点は、配偶者控除、配偶者特別控除ともに配偶者の合計所得金額の要件が10万円増額になる点である。 * * 解 説 * * 1 配偶者控除の変更点 (1) 令和元年分の配偶者控除 配偶者控除を受けるための要件は、次のとおりである。 配偶者控除額は、【図表1】を参照。 【図表1】 令和元年分の配偶者控除 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 令和2年分以降の配偶者控除 配偶者控除を受けるための要件は、次のとおりである。 配偶者控除額は、令和元年分と同じである(前掲【図表1】参照)。 (3) 具体例 ▷令和元年、令和2年ともに、配偶者の収入が給与収入103万円のみ、それ以外の要件はすべて満たしているケース (※) 給与所得控除額の計算については前回参照。 2 配偶者特別控除の変更点 (1) 令和元年分の配偶者特別控除 配偶者特別控除を受けるための要件は、次のとおりである。 配偶者特別控除額は、【図表2】を参照。 【図表2】 令和元年分の配偶者特別控除 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 令和2年分以降の配偶者特別控除 配偶者特別控除を受けるための要件は、次のとおりである。 配偶者特別控除額は、【図表3】を参照。 【図表3】 令和2年分以降の配偶者特別控除 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (3) 具体例 ▷令和元年、令和2年ともに、配偶者の収入が給与収入180万円のみ、それ以外の要件はすべて満たしているケース (※) 給与所得控除額の計算については前回参照。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第13回】 「適格合併を行った場合の被合併法人の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格合併を行った場合の被合併法人の取扱いについて解説します。 1 資産負債の引継ぎ 適格合併があった場合には、被合併法人の有する資産・負債は、最後事業年度終了の時の帳簿価額による合併法人への引継ぎがあったものとされ、被合併法人において譲渡損益は生じないこととされています(法法62の2①)。したがって、適格合併が行われたことを理由に評価損益を計上することは認められません。 引き継ぐ負債には、被合併法人の法人税、地方法人税、法人住民税で申告期限が合併の日以後であるもの及び被合併法人の新株予約権に代えてその新株予約権者に交付すべき資産の交付に係る債務も含まれます(法令123②③)。 2 みなし事業年度 被合併法人の事業年度の中途で合併が行われた場合には、その事業年度開始の日から合併の日の前日までの期間を1事業年度とみなします(法法14①二)。このみなし事業年度が被合併法人の最後事業年度となります。「合併の日」とは、合併契約で効力が生じる日として定めた日をいい、新設合併の場合には設立登記の日をいいます(法基通1-2-4、1-4-1)。 3 申告納付手続き 被合併法人は合併により消滅するため、最後事業年度の申告納付手続きは合併法人が行うこととなります(通法6、地法9の3、消法59)。 4 最後事業年度の所得計算、税額計算上の留意点 被合併法人の最後事業年度の所得計算、税額計算は、基本的には通常の各事業年度の計算と同様に行います。被合併法人が最後事業年度終了時に有する減価償却資産、繰延資産については、通常通り損金経理した金額のうち償却限度額に達するまでの金額が損金になります。ただし、最後事業年度が1年に満たない場合には、月数按分処理が必要になるため、留意が必要です。 5 被合併法人の役員、使用人に対する退職給与 一般に役員に対して支給する退職給与は、株主総会等で金額が具体的に確定した日又は退職給与を支給した日の属する事業年度の損金になるとされています(法基通9-2-28)。 合併に伴い退職した被合併法人の役員に対して退職給与を支給する場合に、合併承認総会等において金額が確定されていないときは、被合併法人が退職給与として支給すべき金額を合理的に計算し、最後事業年度において未払金として損金経理してもよいとされています(法基通9-2-33)。 この取扱いは、被合併法人の役員であると同時に合併法人の役員を兼ねている者又は被合併法人の役員から合併法人の役員となった者に対し、合併により支給する退職給与についても適用されます(法基通9-2-34)。 合併により退職した被合併法人の使用人に対して退職給与を支給する場合には、退職給与規定等で退職給与を支給する旨及びその金額が定められているときは、最後事業年度において未払金として処理しても債務として確定しているため、損金の額に算入されます。 6 欠損金の繰戻し還付 適格合併による解散の場合、原則として、被合併法人の未処理欠損金額は合併法人に引き継がれるため、欠損金の繰戻し還付の適用はありません(法法80④)。 7 事業税 被合併法人の最後事業年度の事業税は、被合併法人では損金にすることができず、合併法人において、その金額が確定した年度に損金算入されます。 8 最後事業年度の法人税申告書の添付書類 最後事業年度の法人税申告書には、貸借対照表、損益計算書等の他に、合併契約書の写し、組織再編成に係る主要な事項の明細書(適格組織再編成に該当するかの判定に必要な情報、移転資産負債の明細を記載するもの)を添付する必要があります。 9 具体例 (被合併法人の合併時の貸借対照表) 〔前提〕 〔被合併法人の移転税務仕訳〕 ◆適格合併を行った場合の被合併法人の取扱いのポイント◆ 被合併法人の最後事業年度の所得計算、税額計算は、基本的には通常の各事業年度の計算と同様に行います。 最後事業年度が1年に満たない場合には、減価償却、繰延資産など月数按分処理が必要になります。 適格合併により被合併法人が解散しても、欠損金の繰戻し還付の適用はありません。 最後事業年度の申告納付手続きは合併法人が行い、法人税の申告書の添付書類には合併契約書の写し等が必要になります。 (了)
会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」 【第2回】 「“人材育成”について聞きたい!」 石王丸公認会計士事務所 《登場人物紹介》 〈ベテラン経理のコバヤシさん〉 世界シェアトップの某メーカーで30年以上にわたり経理部に勤務。その間に会社は東証一部上場を達成。年々、開示制度の充実強化が図られる中で、5年間で13日の連結決算早期化を実現。 〈会計士〉 決算早期化の秘訣を知りたい公認会計士。といっても、そういうコンサルをしているわけではなく、単なる興味本位。 * * * (注) なお、本連載「会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」」の著作権は、石王丸周夫公認会計士及びベテラン経理のコバヤシさんに属するものとします。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第36回】 「被結合企業の株主に係る会計処理③」 -受取対価が結合企業の株式のみである場合 (①関連会社を被結合企業とした企業結合と ②子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とした企業結合)- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、被結合企業の株主に係る会計処理のうち、受取対価が「結合企業の株式のみ」(①関連会社を被結合企業とした企業結合と②子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とした企業結合)である場合の会計処理を解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理(関連会社を被結合企業とした企業結合) 関連会社を被結合企業とする企業結合では、被結合企業の株主に係る会計処理は、次のように行う(結合分離適用指針277項~279項)。 Ⅲ 受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理(子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とした企業結合) 子会社や関連会社以外の投資先(共同支配企業を除く)を被結合企業とする企業結合では、被結合企業の株主に係る会計処理は、次のように行う(結合分離適用指針280項~281-2項)。 (了)
組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q26】 会社分割した場合、労働保険に関してどのような手続きが必要か 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 労働保険に関しては、分割会社、承継会社のそれぞれにおいて、分割後の事業所の設置状況や指定事業・被一括事業の関係を整理した上で必要な手続きを行う。 (※) 本稿では、会社分割により事業を分割する会社を「分割会社」、それを承継する会社(新設分割の場合の新設会社も含む)を「承継会社」という。 継続事業の一括 労働保険においては、原則として労働者を1人以上雇用する事業所ごとに手続き事務(労働保険料の申告納付)を行うが、事務簡便の観点から事業の種類が同じ等の一定の要件を満たす場合は、所定の手続きを行うことにより、複数の事業所の手続き事務を1つの事業所でまとめて行うことができる。 これを「継続事業の一括」といい、手続き事務をまとめて行う事業所を「指定事業」、指定事業でまとめて手続き事務が行われる事業所を「被一括事業」という。 一般的には、同じ会社に複数の事業所がある場合でも、この継続事業の一括の手続きを行って、本社等で労働保険の手続き事務をまとめて行っていることが多い。 分割後の事業所の整理 分割時の労働保険の手続きは、分割後の事業所の設置状況や指定事業・被一括事業の関係等によって異なるため、まずは労働保険における事業所の関係を整理する必要がある。 ここでは、分割前後の事業所の設置状況が下記であることを前提として、必要な労働保険の手続きを確認する。なお、事業所はすべて継続事業で、事業の種類は同一とする。 《分割前》 ◇A社(分割会社) ◇B社(承継会社) 《分割後》 ◇A社(分割会社) ◇B社(承継会社) 労働保険の手続き ➤A社(分割会社)で必要な手続き A社では、a1事業所(東京本社)を管轄する労働基準監督署へ次の書類を提出する。 これは、a2事業所(横浜)の廃止に伴う手続きとなる。 a1事業所(東京本社)及びa4事業所(福岡)は、従業員の一部がB社に承継されるため所属従業員数は減少するものの、事業所自体は廃止されることなく設置状況は継続しているため、特に手続きは必要ない。 ➤B社(承継会社)で必要な手続き B社では、b5事業所(福岡)を管轄する労働基準監督署へ次の①の書類を提出し、b1事業所(東京本社)を管轄する労働基準監督署へ次の②③の書類を提出する。 ①は、b5事業所(福岡)を新設する手続きとなる。なお、①の届出書類の最下段には、継続一括申請予定としてb1事業所(東京本社)の労働保険番号も記載する。 ①の手続きを行った後、②③の手続きを行う。 ②は、b5事業所(福岡)の労働保険の手続き事務を、b1事業所(東京本社)でまとめて行うための手続きとなる。 ③は、労働保険概算保険料を追加申告する手続きとなり、会社分割によりA社から従業員が承継されたことにより、b1事業所(東京本社)の指定事業に関する労働保険概算保険料の基礎となる賃金総額の見込額が当初の申告より2倍を超えて増加し、かつ、概算保険料の額が申告済の概算保険料よりも13万円以上増加する場合に必要となる。 労働保険の手続きにあたっては、事業所の整理状況により取扱いが異なるため、事前に労働基準監督署等に確認することをお勧めしたい。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第2回】 「必ずしも「1+1=2」とならない土地価格」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 形状との関係 個々の土地を併合して一体化した結果、従前よりも形状が良くなったり、反対に悪くなる場合のイメージを〔図1〕に掲げます。 〔図1〕 (1) 併合により形状が良くなる場合 〔図1〕の①のケースでは、A地はもともと整形地ですが、B地は不整形で旗竿状の土地となっています(間口が狭く、道路からの細長い進入部分は通路でしか使用できません)。 この2つの土地を併合して一体の土地とした場合(太枠の範囲)、B地を含む全体の土地が間口の広い整形地となり、全体が建物の敷地として有効利用できることになります。 このような場合、B地の価値はこれを単独で評価するよりも、併合後の一体地の一部として評価した方が高くなります。 すなわち、 A地単独での価格 + B地単独での価格 < 併合後の一体地の価格 となり、併合後の一体地には従前の各土地の価値を単純に合計した以上の価値が生ずるため、「1+1=2」ということにはならないといえます。 (2) 併合により形状が悪くなる場合 〔図1〕の②のケースでは、A地及びB地はもともと整形地ですが、それぞれ規模が異なります。 この2つの土地を併合して一体の土地とした場合(太枠の範囲)、全体の土地が鍵型の不整形地となり、整形地に比べれば建物配置(レイアウト)の上でやや使用勝手の劣る土地となってしまいます。 このような場合、A地、B地の価値をそれぞれ単独で合計した結果よりも、併合後の一体地としてみた場合の価値の方が低くなります。 すなわち、 A地単独での価格 + B地単独での価格 > 併合後の一体地の価格 となり、「1+1=2」という計算は成り立たず、併合によって不合理な結果が生ずることになります。 2 道路付けとの関係~併合により角地の一部となる場合 〔図2〕のケースでは、A地は道路に一面のみが接する土地(鑑定実務ではしばしば「中間画地」と呼んでいます)、B地は角地(道路に二面が接する土地)となっています。 〔図2〕 角地は、住宅地の場合は眺望や快適性、出入りの便に優り、商業地の場合は宣伝効果、商品陳列、商品の搬出入に優る等の利点があり、道路に一面のみが接する土地に比べて価値が高いという傾向にあります。 A地をB地と併合して一体の土地とした場合(太枠の範囲)、全体の土地が角地となり、A地そのものの価値も高まる結果、何かと便利な土地に変化します。 このような場合、A地の価値はこれを単独で評価するよりも、併合後の一体地の一部として評価した方が高くなります。 すなわち、 A地単独での価格 + B地単独での価格 < 併合後の一体地の価格 となり、併合後の一体地には従前の各土地の価値を単純に合計した以上の価値が生ずるため、「1+1=2」ということにはならないといえます。 3 正常価格と限定価格 (1) 大雑把なイメージ 以上、一般的な表現を用いて土地価格の特徴を説明してきましたが、ここで一歩踏み込んで、不動産鑑定評価基準との関係を押さえておく必要があります。 それは、「正常価格」と「限定価格」という関係です。 まず、イメージを大雑把にお話すれば、〔図1〕及び〔図2〕で、A地・B地の単独価格という表現を用いて説明した価格が正常価格に該当します。 また、〔図1〕の①では、併合後に価値が上昇した一体地の一部として捉えた場合のB地の価格が限定価格に、〔図2〕では、同様に併合後に価値が上昇した一体地の一部として捉えた場合のA地の価格が限定価格に該当します。 すなわち、ここでは、併合によりもともと所有していた土地の価値が上昇するため、その分だけ単独で捉えた場合の価格よりも高い価格で評価することが合理的だという考え方が成り立ちます。 これを一言で表現すれば、「正常価格」とは市場において誰が売り買いしても等しく成り立つ価格、「限定価格」とは(正常価格に比べて割高であっても)特定の当事者間では合理性をもって成り立つ価格という概念となります。 (2) 不動産鑑定評価基準における価格の定義 不動産鑑定評価基準では、正常価格及び限定価格を次のとおり定義しています。ただ、初めてこの基準に接する方がいきなりこの定義を読んでも抽象的な部分が多いため、今まで説明してきた価格のイメージを先に描きながら目を通していただければ理解に役立つと思われます。 ① 正常価格とは ② 限定価格とは (※) 下線筆者 ③ 限定価格の理解の仕方 (ⅰ) 「正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値」とは 端的に言えば、「誰が買っても同じ値段となるような価格」といえます(デパートやスーパーに陳列されている一般商品の価格と同じイメージです)。不動産は個別性が強く、このような明らかな市場がないため、不動産鑑定士が市場に成り代わり、誰に対しても等しく当てはまる市場価格(正常価格)を求めているといえます(公示価格はその代表例です)。 (ⅱ) 「市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格」とは 今まで説明してきたように、隣地買収により従来から所有していた土地の価値も上昇するため、その分、隣地を高めに買収しても(=相場を乖離した価格で買い取っても)合理性の認められる価格を意味します。ただし、この価格は特定の当事者間でのみ合理性をもって成り立つ価格である点に留意が必要です。 (了)
中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第22回】 「会社からの老後資金借入れ」 税理士法人トゥモローズ 経営者の引退後に、会社に対する借入れが残っている場合や、会長職等で役員として残りながら会社から借入れを行う場合には、税務上の取扱いを含め留意が必要である。 そもそも、引退後に会社から借入れを行うこと自体、お勧めはしないものの、何らかの資金需要により借入れを行わざるを得ないケースや、現役時からの残債が残っていることは、実務上あり得る。 そこで今回は、元経営者が会社から借入を行った際の留意点について考えてみる。 1 認定利息の計上 個人・法人間の取引について、会社が役員から借入れを行っている役員借入金の場合には、利息の収受については設定を行わないこともある。一方で、会社が役員に貸付けを行っている役員貸付金の場合には、個人は利息を支払い、法人はその利息を収受する必要がある。 役員から利息の収受を行わなかった場合には、一定の場合を除き、会社側では認定利息として実際に受け取るべき利息相当額を益金計上するとともに、役員賞与否認として損金性のない費用とされる。一方で、役員個人に対しては、賞与に該当するものとして所得税課税が行われることとなる。 また、無利息ではないものの、役員であるが故に低い利息の設定を行った場合には、適正利息相当額と当該低い利息との差額が役員賞与否認を受ける。したがって、適正利息の設定が必要となるが、認定利息に係る利息の設定は、①会社が借入設定をしているものの実際には当該借入金相当額がそのまま役員個人へと流れているような場合には当該「会社借入金に設定された利率」により、②その他の場合には「利子税の割合の特例に規定する特例基準割合による利率」によって計算されることとなる。 なお、以下のような一定の場合には、上述の取扱いによらず、給与課税を行わなくともよいこととなっている。 2 自己資本比率の低下 業種や事業内容等にもよるが、一般的に自己資本比率が40%を超える程度あれば銀行融資の際に有利に働くといわれる。この自己資本比率の算定の中で、役員貸付金は金融機関の査定においてその債権性は認められず、ゼロ評価とされる。また、役員貸付が数期にわたって計上されたままになっている状況は、返済能力の観点から、金融機関では問題視される。 したがって、この役員貸付の存在は、自己資本を毀損するとともに金融機関の心象が悪くなり、借入金利にも影響を受けることとなる。 3 役員貸付金の解消 引退後に収入が減少した後の返済は、老後資金の減少の観点から、できるだけ避けておきたいところである。また、役員貸付金を残したまま、先代経営者が亡くなった場合には、その債務は相続人が引き継いでいくこととなり、まさしく“負の遺産”を相続人へ遺すこととなってしまう。 したがって、役員貸付金は可能な限り解消を行っておくべきであるが、その解消方法としては、以下のような方法が考えられる。 ① 役員給与からの返済 引退後に会長職などに就任することが可能であれば、非常勤役員として役員給与を収受し、そこから役員貸付金の返済に充てることを検討したい。その際には、分掌変更後の役員給与の設定には留意が必要となる。詳細については、前回(会長又は顧問として報酬を得る場合)の解説内容を確認していただきたい。 ② 退職金で一括返済 役員貸付金の返済のタイミングとしては、役員退職金の受給時が最も現実的なタイミングであろう。スポットで大きな金額を動かせる最後のタイミングであることや、役員退職金と役員貸付金を相殺することができれば、個人の負担感も少なくなる。 この役員退職金の設定については、会社の資金繰りや税法上の適正額の観点からその設定が実務上も悩ましい部分であるが、詳細は前回や【第12回】【第13回】について確認をいただきたい。 ③ 個人資産の売却 個人所有の不動産などを会社へ売却し、その売却対価をもって役員貸付金と相殺する方法がある。この場合において、売却利益が生じたときには、譲渡所得として所得税等が課せられるため、個人・法人間での時価設定に留意されたい。 ④ 会社が債権放棄 会社が会長職等である者に対して行った債権放棄については、会計上は貸倒損失等として貸倒処理を行うこととなるが、税務上はその損金性は認められずに「役員賞与」として認定される可能性が非常に高くなる。 (了)
令和時代の幕開けに思い馳せる 会計事務所経営 【第11回】 「カリスマ営業マンの共通点」 ~謙虚で素直でマメな理由とは~ (セールスマンシップ論②:知識≦スキル≦品格) 株式会社アーヌエヌエ 代表取締役 杉山 豊 前回から営業における「セールスマンシップ」についてお伝えしていますが、「セールスマンシップだけでも連載できたのではないか」と思うほど、言いたいことが溢れています。 今回含めて連載は残すところ2回となり、一抹の寂しさと後ろ髪を引かれる思いがありますが、この残り2回の中でセールスマンシップについて精一杯お伝えしたいと思います。 ➤相手を敬い、慮る思考を根幹に 私も営業マンとしては、いくらか評価を受けていますが、私の周りには、それはとても優秀な営業マンがたくさん存在しています。 そんな方々の共通点からセールスマンシップを考察するとともに、自分自身でも営業をする際に心がけている事柄も併せてお伝えさせていただきます。 前回、そして今回の「知識≦スキル≦品格」というタイトルの通り、「カリスマ営業マン」と呼ばれる人たちは品格、人間力が素晴らしいのです。 どこが素晴らしいのか? それはまず【謙虚】であることです。 先生方の周りにもそんな営業マンはいませんか? さて、その謙虚さはどこから生まれるのか? それは「お客様を慮り、敬い、気遣っているから」だと考えています。 自信と共に生まれてくる自分自身への尊厳は、やがて傲慢さを生み出すことすらあります。 「優れた営業成績は自分自身に力があってこその成果であり、自分自身の力、存在こそがお客様を幸せにしている」と間違った自負を抱いてしまうことが原因でしょう。 カリスマ営業マンは、そこが全く違います。 「実るほど頭を垂れる稲穂かな」と昔から言われている通り、デキる営業マンほど営業成績と相反して素晴らしく謙虚な方が多いのです。 彼らの思考の根幹にあるのは、「お客様こそが私に利潤をもたらしてくれていて、自分自身が生活できているのは、まさにお客様という存在のおかげだ」ということです。 身近にいるデキる営業マンをそんな感性でぜひ見ていただきたいと思います。 そして同じように、先生方も、「先生」と言われる立場だからこそ、謙虚に振る舞うことでお客様を惹きつけることができるのではないでしょうか。 謙虚さとは、前回お伝えした「あなたの幸せが私の喜び」の思考の出発点である「お客様の幸せとお客様でいていただける感謝の念」を持っていることだと思います。 なお、「遠慮」と「謙虚」を勘違いされている方をしばしば見ます。 「遠慮」とは、自らが傷つくことを恐れるがあまり躊躇する思考ですが、「謙虚」とは、まさに相手を立て、慮る思考です。 若い方には特に多いので、先生の事務所の従業員の方々に、ぜひこう伝えてあげてください。 「遠慮はするな、謙虚でいろ」と。 ➤顧客想いの嘘をつかない姿勢が信頼の源泉 そして、カリスマ営業マンには【素直】な方がとても多いように思います。 私たちは大人になるにつれて理性がどんどんフィルターをかけてしまって、「素直な心」を失ってしまうように感じます。 しかし、どうして素直な方に人は心惹かれるのでしょうか? それは、自分自身が失ったものだからこそ、それに対する憧れや清々しさに惹かれているからかもしれません。 「素直さ」という嘘のない透明感が、信頼を勝ち得るのに一役買っているのでしょう。 「良いものは良い、悪いものは悪い」と言うだけなら簡単です。 では、それが自身で取り扱っている商品だったら、素直にそう言えるでしょうか? 相手から信頼を得るためには、時には自身の取り扱う商品でさえ否定できる強さが求められます。 サラリーマン時代、私は税理士の先生と一緒に生命保険の提案にお客様のもとへ伺いました。 私の取り扱う商品、提案する商品は明らかに他社の商品より劣っていました。 そんな中で私の放った「この商品に関しては他社で入ることをお勧めします」という言葉によって、その後にお客様、そして税理士の先生から感謝と信頼を得られたことは言うまでもありません。 「素直さ」とは「純粋」であるというよりも、営業の世界で言い換えれば「顧客想いの嘘をつかない姿勢」のことなのかもしれません。 ➤絶対に忘れてはいけない2つのフレーズ そして、絶対に忘れてはいけない、素直さを代表するフレーズが2つあります。 それは「ありがとう」と「ごめんなさい」という言葉です。 私は50余年生きてきた中で、この2つの言葉にどれだけ救われたかわかりません。 今ではこれらの言葉自体に感謝しています。 「ありがとう」という感謝の気持ち、そして「ごめんなさい」という謝罪の気持ちを、お客様に限らず従業員、そしてご家族や知人・友人の皆さんにまで心から言葉で伝え、心から態度で示していますか? 子供の頃はできていましたね。 親、又は学校の先生から、そうするよう教わったはずです。 でも、大人になるにつれて「素直さ」が失われて、いつのまにか気持ちの良いコミュニケーションができなくなっていったのではないでしょうか? それが不満や不安、不信を生み出し、苦情やトラブルに形を変えていくのです。 自らの胸に手を当てて、この「素直さ」について今一度考えてみてください。 これまで出会ったデキる営業マンには、やはり「素直」な方が多かったのではないでしょうか? 「素直さ」こそ、営業に大切な素養の1つです。 ➤お客様に合わせて「スピード感」を持った行動を! さて、デキる営業マンの共通点の3つ目、それは【マメ】であることです。 マメさはどこからくるのか? それはお客様への責任感からだと考えています。 マメさを表現するにあたり、営業マンとして取るべきスタンスの1つは、「スピード感」を持つことです。 この3つ目は、実は多くの先生方に気づいて欲しい、感じて欲しい、そして考えて欲しいことです。 もちろん「スピード」だけでは、マメかどうかを表すことはできません。 でも、マメさについて「スピード」が重要となる事例を1つだけ紹介させてください。 先生方はお客様からのメール、LINEやショートメール、Facebookのメッセンジャーをすぐに返信していますか? 先生方はスピード感と相反関係にある業務をされていることが多いように思います。 1つの間違い、失敗が致命傷となり得るお仕事ですから、先生方は正確性を担保するため、慎重に業務を進めることが多いのではないでしょうか。 その代償として、スピード感が失われることがあることは十分に承知しています。 でも、1つ考えていただきたいのは顧問先の経営者、お客様の気持ちです。 メールを送った側、SNSでメッセージを送った側の気持ちは、どんな気持ちでしょうか?。 まずは、経営者はメッセージを「見たのか、見ていないのか」だけを知りたいのです。 経営者はいつも「YES」「NO」の意思決定を瞬時に求められます。 そんな中で、自分のペースと違うスピードでビジネスが回っていたら、それはストレスに他なりません。 しかし、安心してください。 経営者は、決してその場で答えを求めているわけではないのです。 メッセージを「見たのか、見ていないのか」、ただそれだけを求めているのです。 だから、メールやSNSを開いた時に返信を先送りにせず、例えば次のように返してあげてください。 この対応をするだけで、経営者は安心するのです。 多くの先生方に共通する、メールに対するこの感性については、お伝えしたほうが良いと思い、この場をお借りしました。 しかし、このような感性の先生方が多い中で、私が返信が早いと感じる方も存在します。 その先生方の多くは、やはり共通して会計業界を引っ張っている方々です。 実は営業マンの中にも「スピード感」のない人たちはたくさんいます。 返信の遅い営業マン、返信を忘れる営業マン、それだけで仕事が無くなる危機感を、私は営業マンに伝えています。 間違えない正確性ももちろん「お客様への責任感」です。 でも、気持ちを慮り、スピードを大切にするのも「お客様への責任感」です。 いずれにしても、TPOに合わせた対応、顧客の個性や感性に合わせた対応こそ、選ばれる営業マン、いやビジネスマンだと考えます。 【謙虚】で【素直】で【マメ】である。 カリスマ営業マンに必要なこれらの素養は、現代の人間にとってもコミュニケーションを円滑にするために必要な素養なのかもしれません。 * * * 次回はいよいよ最終回です。 先生方がこの連載を読んで、営業マンへの見方や営業の世界への考え方に少しでも変化があれば、私はこのお仕事をお引き受けしてよかったと思っています。 (了)
《速報解説》 ASBJ、「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」を公表 ~実務対応報告第5号及び第7号の改廃を行うまでの特例的取扱いを示す~ 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 令和2年度税制改正において、連結納税制度の見直しが行われ、令和2年1月31日に「所得税法等の一部を改正する法律案」が国会に提出された。 グループ通算制度の適用は2022年4月1日以後開始する事業年度からであるが、「所得税法等の一部を改正する法律」(以下「改正法人税法」という)が成立した場合、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という)第44項に従うと、2022年4月1日以後、グループ通算制度の適用を行う企業については、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む)において、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計の適用(特に、繰延税金資産の回収可能性の判断)を行う必要がある。 つまり、本来、予定どおり、2020年3月に改正法人税法が成立した場合、2020年3月期の決算(四半期決算を含む)から、グループ通算制度の適用を前提とした繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要がある。 しかし、現実的に考えた場合、政省令も公表されていない状況での実務上の対応は、時間的にも困難であることから、企業会計基準委員会(ASBJ)では、2020年3月期の決算からどのような対応をすべきかを示すために『実務対応報告公開草案第58号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」』(以下「公開草案」という)を作成し、2020年2月13日に公表、広く意見を募集することになった。 公開草案のポイントは次のとおりとなる。 1 特例的な取扱い つまり、グループ通算制度の詳細がわかり、以下の実務対応報告の見直しが行われるまで、「今までのままでよい、ただし、その旨を注記する」という特例的な取扱いが示されている。 2 適用対象 このうち、「改正法人税法の成立日の属する事業年度において連結納税制度を適用している企業」は既に連結納税制度を採用している企業であり、「改正法人税法の成立日より後に開始する事業年度から連結納税制度を適用する企業」とは、来期から連結納税制度を採用する企業を意味している。 後者については、来期から連結納税制度を採用する企業も今期の本決算(あるいは第3四半期)から連結納税制度又はグループ通算制度の適用を前提とした繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要があるため、適用対象に含まれている。 なお、今回の改正は、グループ通算制度への移行にあわせた単体納税制度の見直し(受取配当等の益金不算入制度の見直しなど)も行われるため、この見直しも特例的な取扱いの対象に含めることにしているが、適用対象はあくまで既に連結納税制度を採用している企業と来期から連結納税制度を採用する企業であり、単体納税制度を採用している企業(来期から連結納税制度を採用する企業を除く)は適用対象外としていることに注意を要する。 また、例えば、繰越欠損金に重要性のない企業では、特例的な取扱いを適用する必要のない場合が生じることも考えられるため、特例的な取扱いについては、企業の選択適用にすることにしている。 3 適用時期 適用時期は、公開草案が実現した実務対応報告の公表日以後とされているが、あくまで、実務対応報告第5号等の改廃をASBJが行うまでの間となる。 4 実務対応報告第5号等の見直しのポイント 公開草案では、2020年4月以降に予定される実務対応報告第5号等の改廃について、以下の論点を挙げている。 公開草案の内容とポイントは以上であるが、これから2020年3月期に決算を迎える企業とシステム開発会社にとっては、(当然の取扱いであるが)一安心できる内容だろう。 (了)