《速報解説》 国税庁、法人税基本通達等の改正により コロナ被災の取引先支援に自然災害時の取扱いを適用する旨を追記 Profession Journal編集部 新型コロナウイルス感染拡大やそれを受け発令された政府の緊急事態宣言によって、経営の見通しが立たず苦境に陥る企業や事業者が多い中、国税庁は4月13日付けで法人税基本通達等を一部改正し、取引先支援を行った法人に対し災害時の取扱いが適用されることを明らかにした。 通常、得意先等の取引先(※)に対する売掛債権等を免除した場合には、その免除による損失は寄附金や交際費等とみなされるが、自然災害を受けた取引先に対し、その復旧を支援することを目的とした免除については、寄附金や交際費等に該当しないものとして取り扱うことができる。また、被災した取引先への災害見舞金や、下請企業の従業員等のために支出する見舞金品も交際費等には該当しないとされる。 (※) 「得意先等の取引先」には、得意先、仕入先、下請工場、特約店、代理店等のほか、商社等を通じた取引であっても価格交渉等を直接行っている場合の商品納入先など、実質的な取引関係にあると認められる者を含む。 具体的には下記の通達によってこれらの取扱いが示されている。 上記の項目は阪神・淡路大震災が発生した平成7年の通達改正で創設されたものだが、今回の改正では、各項目に注書きとして以下のような追加が行われた(連結納税関係も同様)。 これにより今回の感染症の影響で経営危機に陥っている取引先に対し、売掛金、未収請負金、貸付金などの全部又は一部を免除したことによる損失は、寄附金や交際費等に該当しないこととされる。 一部地域のみ甚大な影響を及ぼす自然災害とは異なり、感染症の影響は全国に及んでいるため、この状況下で経営の安定している企業自体限られるかもしれないが、金融機関からの追加融資や政府からの資金援助が実行されるまで一定の時間を要する中、売掛債権等の免除による取引先支援を行うことは、結果的に自社の経営の安定につながるとも考えられよう。 (了)
《速報解説》 金融庁、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会について 柔軟かつ適切な対応を求める声明を公表 ~継続会開催による対応を提案~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年4月15日、金融庁に設置された新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会は、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」を公表した。 これは、2020(令和2)年4月14日の「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」に続くものであり、主に、3月期決算の場合に通常6月末に開催される株主総会の運営に関するものである。 また、同日、日本公認会計士協会は、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)」を公表し、上記の金融庁の公表に関する注意喚起を行っている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 株主総会運営 新型コロナウイルス感染症の拡大下における決算業務及び監査業務に際して、当初予定したスケジュールの形式的な遵守に必要以上に拘泥することは、関係法令が確保しようとした実質的な趣旨をかえって没却することにもなりかねないとの危機意識から、以下の点を踏まえつつ、柔軟かつ適切に対応していくことを求めている。 Ⅲ 企業及び監査法人 企業及び監査法人においては、有価証券報告書、四半期報告書等の提出期限について、9月末まで一律に延長する内閣府令改正が行われること等を踏まえ、従業員や監査業務に従事する者の安全確保に十分な配慮を行いながら、例年とは異なるスケジュールも想定して、決算及び監査の業務を遂行していくことが求められている。 Ⅳ 投資家 投資家においては、投資先企業の持続的成長に資するよう、平時にもまして、長期的な視点からの財務の健全性確保の必要性などに留意することが求められるとともに、各企業の決算や監査の実施に係る現下の窮状を踏まえ、上記の定時株主総会・継続会の取扱い等についての理解が求められている。 (了)
2020年4月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.365を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第78回】 「緊急経済対策における税制上の措置」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇過去最大規模の緊急経済対策 4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されるとともに、事業規模は過去最大の108兆円にのぼる新型コロナウイルス感染症緊急経済対策が閣議決定された。 これは新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、I.感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発、Ⅱ.雇用の維持と事業の継続、Ⅲ.次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復、Ⅳ.強靭な経済構造の構築、Ⅴ.今後への備え、を5つの柱として、様々な施策が盛り込まれている。 今回の経済対策に盛り込まれている税制上の措置では、新型コロナウイルス感染症のわが国社会経済に与える影響が甚大なものであることに鑑み、感染症及びその蔓延防止のための措置の影響により厳しい状況に置かれている納税者に対し、緊急に必要な税制上の措置を講ずることとしている。 具体的には、国税に関しては、納税の猶予制度の特例、欠損金の繰戻しによる還付の特例、テレワーク等のための中小企業の設備投資税制、住宅ローン控除の適用要件の弾力化、文化芸術・スポーツイベントを中止等した主催者に対する払戻請求権を放棄した観客等への寄附金控除の適用、消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例、特別貸付けに係る契約書の印紙税の非課税が盛り込まれた。 また地方税に関しては、国税と同様の措置(納税猶予、寄附金控除、住宅ローン)の他、中小事業者等が所有する償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税の軽減措置、生産性革命に向けた固定資産税の特例措置の拡充・延長、自動車税・軽自動車税環境性能割の臨時的軽減の延長、耐震改修した住宅に係る不動産取得税の特例措置の適用要件の弾力化が盛り込まれた。 なお、本特例の実施については、関係法案が国会で成立すること等が前提となる。 〇納税の猶予 イベントの自粛要請や入国制限措置など、新型コロナウイルスの感染拡大防止のための措置に起因して多くの事業者の収入が急減しているという状況を踏まえ、収入に相当の減少があった事業者の国税・地方税及び社会保険料について、無担保かつ延滞税なしで1年間、納付を猶予する特例を設けることとされた。 現行制度においても、一定期間(原則1年)において大幅な赤字が発生した場合に納税を猶予する制度はあるが、適用を受けるには、原則として担保の提供が必要であり、延滞税は軽減される(1.6%)ものの支払いが必要である。 今回の特例措置では、具体的には、本年(2020年)2月以降の一定期間(1ヶ月以上)において収入が前年同期比で概ね20%以上減少した場合、法人税や消費税、固定資産税など基本的に全ての税目及び社会保険料について、無担保かつ延滞税なしで1年間納税を猶予する措置を実施することとされている。 〇欠損金の繰戻し還付の特例 納税猶予と同様の趣旨から、資本金1億円超10億円以下の企業に生じた欠損金について、欠損金の繰戻しによる法人税等の還付制度の適用を可能とする。 現行法では、中小企業(資本金1億円以下)のみが繰戻し還付の対象であるところ、中堅企業(資本金1億円超10億円以下)の法人について繰戻し還付を認める(2020年2月1日から2022年1月31日までに終了する事業年度)。 〇テレワーク等のための中小企業の設備投資税制 新型コロナウイルス感染症の拡大により顕在化した社会的課題に対応する非対面・非接触ビジネスを促進するため、平成31年度税制改正で2年延長された中小企業経営強化税制に新たな類型を追加する措置が講じられる。 新たな類型として、事業プロセスの遠隔操作、可視化、自動制御化のいずれかを可能とする設備を取得した場合、即時償却又は7%(資本金3,000万円以下の法人は10%)の税額控除ができる。 対象設備の金額要件は、機械・装置は160万円以上、工具は30万円以上、器具備品も30万円以上、建物附属設備は60万円以上、ソフトウェアは70万円以上である。 〇チケットの払戻請求権放棄について寄附金控除の対象化 政府の自粛要請を踏まえて一定の文化芸術・スポーツイベントを中止等した場合に、当該イベントの入場料等について、観客等が払戻請求権を放棄した場合は、当該放棄した金額について、所得税の寄附金控除(所得控除又は税額控除)の対象とする(住民税でも対応)。なお、この特例を用いた寄附金控除の対象金額は20万円を上限とする。 また、この適用を受けるには、確定申告の際、特例対象のイベントであることを証明するものと払戻請求権を放棄したことを証明するものを添付する必要がある。 〇住宅ローン控除の適用要件の弾力化 従前の住宅ローン控除制度は、毎年末の住宅ローン残高又は住宅の取得対価のうちいずれか少ない方の金額の1%が10年間にわたり所得税の額から控除され、所得税からは控除しきれない場合には、住民税からも一部控除されることとなっていた。加えて、消費税率10%が適用される住宅の取得をして、2019年10月1日から2020年12月31日までの間に入居した場合には、控除期間が3年間延長されている。 今回の措置では、新型コロナウイルス感染症の影響による住宅建設の遅延等への対応として、本年(2020年)12月末までに入居できなかった場合でも、①新型コロナウイルス感染症の影響によって新築住宅、建売住宅、中古住宅又は増改築等を行った住宅への入居が遅れたこと、②一定の期日(新築の場合は2020年9月まで、建売住宅・中古住宅の取得、増改築等の場合は2020年11月末まで)に契約を行っていること、③2021年12月末までに②の住宅に入居していること、という3要件を満たせば、控除期間が13年に延長されている制度を適用できることとされている。 〇耐震改修した住宅に係る不動産取得税の特例措置の適用要件の弾力化 現行制度では、耐震基準不適合既存住宅について、その取得の日から6ヶ月以内に耐震改修を行い、耐震基準に適合することにつき証明を受け、かつ入居した場合に、当該住宅が新築された時点に応じて一定の額に税率を乗じて得た金額を減額することとされている。 今回の措置では、前記住宅ローン控除と同様に、新型コロナウイルス感染症の影響によって入居の時期が遅れた場合を念頭に、①新型コロナウイルス感染症の影響によって耐震改修した住宅を居住の用に供することとなった日が取得の日から6月を経過する日後になったこと、②耐震改修に係る工事の請負契約を住宅取得の日から5月を経過する日又は法律の施行の日から2月を経過する日のいずれか遅い日までに締結していること、③耐震改修に係る工事の終了後6月以内に当該住宅を居住の用に供すること、という3要件を満たせば、2021年度末入居分まで、この不動産取得税の特例が適用されることとされている。 〇固定資産税・都市計画税の軽減措置 中小事業者の税負担を軽減するため、本年2月~10月までの任意の3ヶ月間の売上高が、前年の同期間と比べて、50%以上減少している中小事業者について、その有するすべての償却資産と事業用家屋を対象に、その2021年度の固定資産税及び都市計画税の全額を免除(売上高の減少が30%~50%の場合、1/2を免除)することとされた。なお、すでに課税が行われている2020年度の固定資産税及び都市計画税については、前記の納税猶予で対応する。 このような制度創設とともに、既存の制度の拡充も行われる。 現在、中小企業が新たに投資した設備(一定の生産性向上に資する機械装置・器具備品・工具・建物附属設備)については、自治体の定める条例に沿って、投資後3年間、固定資産税が免除ないし2分の1まで軽減することとされている。本年2月末現在で、この制度の適用の前提となる導入促進基本計画を策定し国の同意を受けた市町村は全国で1646自治体を数え、このうち1642自治体が固定資産税を免除している。 今回の特例では、この制度の対象に、事業用家屋(取得価額の合計額が300万円以上の先端設備とともに導入されたもの)と構築物(旧モデル比で生産性が年平均1%以上向上するもの)を追加するとともに、適用期限を2年延長する(2021年3月末→2023年3月末)。 〇自動車税・軽自動車税環境性能割の臨時的軽減措置の延長 消費税率10%引上げに伴う臨時措置として、2019年10月から2020年9月末までに購入された自家用自動車・軽自動車については、自動車税・軽自動車税の環境性能割の税率1%分を引き下げる措置が講じられているところである。 今回の措置ではこの臨時措置について、国内の自動車需要を支える観点から、軽減期間を2021年3月まで6ヶ月延長することとされた。 (了)
相続税の実務問答 【第46回】 「新型コロナウイルス感染に伴う申告期限の延長」 税理士 梶野 研二 [答] お兄様については、国税通則法第11条の規定により、相続税の申告期限を延長することができますので、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出してください。 また、お母様及びあなたの申告期限についても、申告期限の延長が認められるものと思われますので、所轄の税務署にご相談ください。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税の申告書の提出期限とその延長 被相続人から相続や遺贈により財産を取得した者(相続時精算課税適用者を含みます)で相続税の申告の必要のある者は、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に課税価格、相続税額などを記載した相続税の申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません(相法27)。 ところで、災害その他やむを得ない理由により、相続税などの国税に関する申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収に関する期限(以下「申告書等の提出期限」といいます)までにこれらの行為をすることができないと認められる場合には、国税庁長官、国税局長、税務署長等は、その理由のやんだ日から2ヶ月以内に限り、当該期限を延長することができることとされています(通法11)。 この「災害その他やむを得ない理由」とは、国税に関する法令に基づく申告、申請、請求、届出、その他書類の提出、納付又は徴収に関する行為の不能に直接因果関係を有するもので、おおむね次に掲げる事実をいうものと解されています(国税通則法基本通達(徴収部関係)第11条関係1)。 新型コロナウイルス感染症に関しては、これまでの災害時のように資産等への損害や帳簿書類等の滅失といった直接的な被害が生じるものではありませんが、この感染症の患者が把握された場合には、その者が軽症であっても入院を余儀なくされ、また、濃厚接触者に対する外出自粛の要請等が行われるなど、自己の責めに帰さない理由により、その期限までに申告・納付等ができない場合も考えられ、このような理由は、「災害その他やむを得ない理由」に該当すると考えられます。 したがって、新型コロナウイルス感染症の感染等により、相続税の期限内申告ができないと認められる場合には、申告期限の延長が認められることとなります。 2 申告書等の提出期限の延長の方法 この申告書等の提出期限の延長については、次の3つの方法が定められています(通令3①②③)。 上記③の場合の申請は、災害その他やむを得ない理由がやんだ後相当の期間内に、その理由を記載した書面(「災害による申告、納付等の期限延長申請書」)により行うこととなります(通令3④)。 《参考》 「災害による申告、納付等の期限延長申請書」の様式 3 ご質問の場合 新型コロナウイルス感染症に関しては、上記2の②の場合に該当するとして、所得税、贈与税及び消費税の申告書の提出期限などが延長されました(令和2年3月6日国税庁告示第1号)が、相続税に関しては、これまでのところ上記2の①又は②の指定はされていません。そこで、上記2の③に該当すると認められる場合には、納税者は、個別に相続税の申告書の提出期限の延長の申請をすることとなります。 新型ウイルス感染症は、猛烈な勢いで感染が拡大しており、その症状が現れた者は長期にわたって隔離状態におかれ、症状が現れていないとしても、自宅待機を余儀なくされ、社会活動に大きな制約を受けることとなり、国税の申告等の手続きを行うことが困難となります。 ご質問の場合、お兄様については、相続税の申告期限が迫った時点で、新型コロナウイルス感染症に感染し、現在、隔離状態に置かれており、他人との接触ができず、そのために相続税法に定める申告書の提出期限である4月28日までに申告することが難しくなったとのことですから、相続税の申告期限の延長が認められるものと思われます。申告期限の延長を申請する場合には、新型コロナウイルス感染症の陰性が確認されるなど通常の生活ができるようになった後、速やかに「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を納税地の税務署長に提出する必要があります。 また、お母様及びあなたについては、直接、新型コロナウイルス感染症に感染したわけではありませんが、新型コロナウイルス感染症に感染したお兄様のもとに相続税の申告に必要な資料があることなどから、相続税の期限内申告ができないとのことです。新型コロナウイルス感染症に関しては、関与税理士等の感染や同感染症により税理士事務所の通常の業務体制が維持できなくなったことなどから国税の期限内申告が困難となった場合なども、申告書等の提出期限の延長の対象とされます(注)。 ご質問の場合もこれらの場合に類似した状況にあり、申告期限の延長が認められる余地があるものと思われますので、所轄税務署にご相談ください。なお、申告期限の延長の申請をする場合には、お兄様と同様の手続きをとる必要があります。 (「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」(令和2年3月・国税庁)より) (注) 今回の実務問答は、令和2年4月10日現在の法令及び取扱いに基づいています。 なお、令和2年4月14日に国税庁から「相続税の申告・納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ」が公表されましたので、参考にしてください。このFAQによれば、延長申請をする場合には、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」の提出に代えて、申告書の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」である旨を付記するだけでよいとされています。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第13回】 「業績悪化時におけるストック・オプション制度導入メリット」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) ストック・オプションとは ストック・オプションとは、新株予約権の一種であり、役員や従業員に対し付与されるものである。その目的は、役務提供の対価としての付与であり、付与された役員や従業員にとっては、自らが努力することで企業価値等が向上し、インセンティブを得られるという設計となっている。これに対して、発行法人側にとっても、資金をあまり費やさずに有能な人材を確保できるという点がメリットとして認識されている。 ストック・オプションは平成9年5月の商法改正によって我が国に導入された制度であり、幾度かの改正を経て、現在では、①業績連動型ストック・オプション(通常型といえる)、②株式報酬型ストック・オプション、③有償ストック・オプションの3種に大別されると考えられ、①と②が無償、③が有償であるという区分も可能である。 なお、②については、譲渡制限株式(※1)の代替としての存在価値があると考えられている。これは、①の業績連動型ストック・オプションのうち、通常は行使価格を1円と設定することで、事実上、株式自体を報酬として付与している効果を生み出すものである。 (※1) このうち、リストリクテッド・ストックについては、【第4回】参照。 (2) 付与対象者個人の課税関係 最も分かりやすいのは、有償で購入する場合の取扱いである。この場合は、通常の有価証券と同じく、売却時において払込価額と売却価額の差額に課税される。 これに対して、上記①と②の無償で付与されるストック・オプションは、税制適格に該当するか否かでその取扱いが異なる。具体的には、以下に要件を掲げている税制適格ストック・オプションに該当した場合、その付与された個人は権利行使時に課税がなされず、株式の売却時まで課税が繰り延べられることとなる。 なお、上記②の株式報酬型ストック・オプションは、上記の通り通常、権利行使価額を1円と設定されることが多く、以下の要件5を充足せずに税制適格とはならない(※2)。 (※2) 国税庁の文書回答事例「権利行使価格が1円である新株予約権(ストックオプション)を付与された場合の税務上の取扱いについて」にて、付与時ではなく、権利行使時に課税される旨が明らかにされている。 【個人の課税関係まとめ】 (※) その付与が、役員の退職に起因するものであると認められる場合には退職所得となる(所基通23~35共-6(2))。 (3) 発行法人側の課税関係 (2)の通り、個人に付与される無償のストック・オプションは税制適格となるか否かで所得税の取扱いが異なっているが、この適格・非適格の判断は、法人税の所得計算においても影響がある。すなわち、ストック・オプションに係る発行法人側の処理は、その費用の額に係る損金算入の可否及び時期が主要論点となるが、税制非適格ストック・オプションの場合、法人が個人から役務提供を受け、その対価として新株予約権を交付した場合、その個人について「給与等課税事由」が生じた日において役務提供を受けたものとして法人税法が適用される(法法54の2①)(※3)。 (※3) この「役務提供」とは、所得税法に規定する給与所得、事業所得、退職所得及び雑所得とされる(法令111の3②)。 これに対して、会計上の取扱いを確認すると、無償のストック・オプションである限り「ストック・オプション等に関する会計基準」が適用され、付与日から権利確定日にかけて費用処理されていくこととなる。すなわち、会計上は権利確定日までに費用処理するのに対し、税務上は権利行使の日の属する事業年度で損金算入される。 このうち、本稿で前提とする付与者が役員である場合においては、平成29年度税制改正を経て、事前確定届出給与か業績連動給与の損金算入要件を充足する限りストック・オプション費用の損金算入が認められることとされた(法法34)。 一方、税制適格ストック・オプションに関しては、「給与等課税事由」が生じないため、ストック・オプション費用が損金算入される機会はない。この理由として、税制非適格である場合は付与された役員等個人が権利行使時に課税されることに対し、「裏表」の考え方であると整理する論考がある(※4)。 (※4) 佐藤修二「人的資本の拠出者に対する課税」『現代租税法講座 第3巻 企業・市場』(日本評論社、2017)78頁。もっとも、佐藤氏はこのような「裏表」の考え方について、課税当局の発想としては理解できないわけではないが、理屈の上ではそのような必然性はない旨を述べている。 また、有償のストック・オプションに関する費用は、「当該役務の提供の対価として当該個人に生ずる債権をもって相殺される」という条件に該当しないため、損金算入できないと思われる(法法54の2①)。 (4) 業績悪化時に導入するメリット 以上がストック・オプションに関する税務上の取扱いの概要であるが、企業の業績悪化時にも導入するメリットがある。 まず、従来から金銭での役員報酬のみ支給していた企業にとって、ストック・オプション制度を導入することで役員報酬のキャッシュアウトと費用計上の両面において軽減されることが見込まれる。 次に、ストック・オプション費用自体が少なくなることが見込まれる。ストック・オプション等に関する会計基準では、上記のように「付与日における公正な評価額を付与日から権利確定日までの期間にわたって費用処理」することが求められている。したがって、一般的には業績悪化時に株価が下落するため、ストック・オプション費用計上額が少なくなり、キャッシュアウトも発生しない。 また、株価下落時には、上場企業は自社株買いを行うことがある。したがって、将来的な権利行使時において、取得した自社株式を消却せずに交付することもできるだろう。 もっとも、導入する場合、個人側は主に税制適格か否か、法人側は損金算入可否とその後のインセンティブ効果をも検討する必要がある。ストック・オプションは権利行使をしなければ全く意味のないものとなるため、付与された役員は権利行使価額を上回るための努力を行うことが見込まれ、その努力は企業価値や株価上昇に結び付く。これがインセンティブが働くということである。 例えば、業績連動型ストック・オプションの場合、税制適格とするなら年間権利行使合計額が1,200万円以下という要件があるため、インセンティブはある程度限定的となる。加えて、「上場ゴール株」と呼ばれるチャートに見られるような株価下落の一途を辿っている状況で、株価より権利行使価額が大きく上回っていれば、役員のモチベーション維持が困難かもしれない。 これに対して、株式報酬型ストック・オプションであれば、権利行使価額が通常1円と設定されるため、業績悪化による株価下落局面においてもインセンティブが働くことが見込まれる。しかし、上述のように法人の所得計算において損金算入できないというデメリットもある。 ストック・オプション制度導入を検討するタイミングが株価下落局面の場合、インセンティブ効果を重視するならば株式報酬型ストック・オプションが相対的に適切ではないかと考える。ストック・オプション制度導入においては、このようなメリットデメリットを考慮しながら、その法人に合った制度を構築する必要があるといえるだろう。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第15回】 「非適格合併を行った場合の被合併法人の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、非適格合併を行った場合の被合併法人の取扱いについて解説します。 1 資産負債の譲渡損益 (1) 原則 被合併法人が合併により合併法人にその有する資産等の移転をしたときは、合併時の時価による譲渡をしたものとします。譲渡損益は、被合併法人の最後事業年度の損金又は益金の額になります(法法62①②)。 (2) 完全支配関係がある法人間で非適格合併が行われた場合 ① 内容 グループ法人税制の適用により、完全支配関係がある法人間で非適格合併が行われた場合には、譲渡損益調整資産(②参照)に係る譲渡損益が繰り延べられ、譲渡損益調整資産については簿価で移転したのと同様の結果となります(法法61の13①)。譲渡損益調整資産以外の資産については、原則通り、譲渡損益を認識します。 ② 譲渡損益調整資産 「譲渡損益調整資産」とは固定資産、棚卸資産である土地等、有価証券(売買目的有価証券を除きます)、金銭債権、繰延資産のうち、直前の帳簿価額が1,000万円以上の資産をいいます。 2 みなし事業年度 被合併法人の事業年度の中途で合併が行われた場合には、その事業年度開始の日から合併の日の前日までの期間を1事業年度とみなします(法法14①二)。このみなし事業年度が被合併法人の最後事業年度となります。「合併の日」とは、合併契約で効力が生じる日として定めた日をいい、新設合併の場合には、設立登記の日をいいます(法基通1-2-4、法基通1-4-1)。 3 申告納付手続き 被合併法人は合併により消滅するため、最後事業年度の申告納付手続きは合併法人が行うこととなります(通法6、地法9の3、消法59)。 4 最後事業年度の所得計算、税額計算上の留意点 被合併法人の最後事業年度の所得計算、税額計算は、基本的には通常の各事業年度の計算と同様に行います。被合併法人が最後事業年度終了時に有する減価償却資産、繰延資産については、通常通り損金経理した金額のうち償却限度額に達するまでの金額が損金になります。ただし、最後事業年度が1年に満たない場合には、月数按分処理が必要になるため、留意が必要です。 5 被合併法人の役員、使用人に対する退職給与 一般に、役員に対して支給する退職給与は、株主総会等で金額が具体的に確定した日又は退職給与を支給した日の属する事業年度の損金になるとされています(法基通9-2-28)。 合併に伴い退職した被合併法人の役員に対して退職給与を支給する場合に、合併承認総会等において金額が確定されていないときは、被合併法人が退職給与として支給すべき金額を合理的に計算し、最後事業年度において未払金として損金経理してもよいとされています(法基通9-2-33)。 この取扱いは、被合併法人の役員であると同時に合併法人の役員を兼ねている者又は被合併法人の役員から合併法人の役員となった者に対し、合併により支給する退職給与についても適用されます(法基通9-2-34)。 合併により退職した被合併法人の使用人に対して退職給与を支給する場合には、退職給与規定等で退職給与を支給する旨及びその金額が定められているときは、最後事業年度において未払金として処理しても債務として確定しているため、損金の額に算入されます。 6 欠損金の繰戻し還付 非適格合併の場合、被合併法人の最後事業年度に生じた欠損金額又は合併の日前1年以内に終了した事業年度において生じた欠損金額があるときは、合併の日以後1年以内に欠損金の繰戻しによる法人税の還付請求ができます(法法80①④)。 7 資産調整勘定、負債調整勘定 非適格合併の場合には、資産調整勘定の残高は、被合併法人の最後事業年度の損金の額に算入し、負債調整勘定の残高は、被合併法人の最後事業年度の益金の額に算入することとなります(法法62の8④⑦)。 8 繰延資産、一括償却資産 非適格合併の場合には、繰延資産、一括償却資産の残高は、被合併法人の最後事業年度の損金の額に算入することとなります(法令133の2④、法基通8-3-6)。 9 事業税 被合併法人の最後事業年度の事業税は、被合併法人では損金にすることができず、合併法人において、その金額が確定した年度に損金算入されます。 10 最後事業年度の法人税申告書の添付書類 最後事業年度の法人税申告書には、貸借対照表、損益計算書等の他に合併契約書の写し、組織再編成に係る主要な事項の明細書(適格組織再編成に該当するかの判定に必要な情報、移転資産負債の明細を記載するもの)を添付する必要があります。 11 具体例 (被合併法人の合併時の貸借対照表) 〔前提〕 〔被合併法人の移転税務仕訳〕 ◆非適格合併を行った場合の被合併法人の取扱いのポイント◆ 被合併法人の最後事業年度の所得計算、税額計算は、基本的には通常の各事業年度の計算と同様に行います。 最後事業年度が1年に満たない場合には、減価償却、繰延資産など月数按分処理が必要になります。 非適格合併により被合併法人が解散した場合には、欠損金の繰戻し還付を適用できます。 最後事業年度の申告納付手続きは合併法人が行い、法人税の申告書の添付書類には合併契約書の写し等が必要になります。 (了)
値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第1回】 「販売価格の最低ラインを知る」 ~「自分にごほうび」の値段~ 公認会計士 石王丸 香菜子 ◇◆◇はじめに◇◆◇ 我が家で食べ慣れているお菓子。最後の1つをめぐり、きょうだいゲンカが始まります。「半分ずつにしなさい!」「だって9個入りだから半分にできないもん!」「えっ?前は10個入りだったのに・・・。実質値上げかぁ。」 近頃は「値上げ」が話題になることが多いですね。値上げは、消費者の立場からすると痛手ですが、企業の立場からすると利益確保の重要な鍵を握ります。近年における人件費・物流費の高騰や増税などを考慮すると、費用削減による利益確保は難しいため、価格設定の在り方や値上げの方針が企業の業績を大きく左右すると言えるでしょう。 本連載では、値上げが企業の利益に与える影響や、正しい価格設定の在り方などを、管理会計の視点からやさしく解説します。PNガーデン社のメンバーと一緒に、値上げの「理屈」を探っていきましょう。 * * * 登場人物 * * * 「消費者は価格を左から読む」と言われることがあります。 「端数価格」と呼ばれるもので、スーパーなどの小売業界でよく見かける価格設定です。298円と300円の差はごくわずかなのですが、一番大きな桁が違うので、298円のほうが割安な印象を与えて、購入してもらいやすいのですね。ただし、格安ブーケに対するリミちゃんの反応のように、品物によっては安物感が漂ってしまうこともあるようです。 「商品の販売価格をいくらに設定するか?」・・・これは、多くの会社が頭を悩ませる課題です。販売価格を設定する際には、まず、販売価格の最低ラインを明確にしておく必要がありますが、これが意外にも難しいものです。 * * * * * * ハナダ店長は、ブーケに直接紐づけるコストとして、花の仕入原価250円のみを考えています。そして、販売価格(298円)から仕入原価(250円)を差し引くと粗利(48円)が生じることをもって、「ブーケ販売による利益が出ている」と考えているようです。この考え方は、売上から売上原価を差し引いて売上総利益を算定するという決算書(損益計算書)と同じ方式で、〈財務会計的な発想〉と言えます。 〈財務会計的な発想〉 〈財務会計的な発想〉をすると、販売価格から仕入原価を差し引いた粗利がプラスの状態であるなら、販売量を伸ばせば最終的な利益(営業利益)も増えるように思えます。 しかし、リミちゃんが指摘したように、ブーケを販売するためには、花の仕入原価以外にも、包装費や家賃、給料など、様々なコストがかかっています。仕入原価以外の様々なコストは、財務会計の損益計算書では「販売費及び一般管理費」に集められているのが通常です。そのため、販売する商品に直接紐づけて考えにくい傾向にあります。 そこで、リミちゃんとハナダ店長は、財務会計上の「売上原価」「販売費及び一般管理費」のどちらに該当するかではなく、販売量とどのような関係にあるかに着目して、コストを分類し直してみることにしました。 * * * * * * 管理会計では、販売量に比例して発生するコストを「変動費」、常に一定額が生じるコストを「固定費」と呼びます。 販売価格の最低ラインを把握する際には、財務会計上の売上原価ではなく、管理会計上の変動費全てを、商品に直接紐づけるコストとして認識する必要があります。 2人がコストを分類したところ、花の仕入原価の他に、ブーケ1束につき包装費や消耗品費などの変動費が60円かかることがわかりました。ブーケ1束当たりの変動費合計は、花の仕入原価250円+包装費など60円=310円です。販売価格は298円ですので、ブーケ1束を販売するごとに12円の損失になっています。 〈管理会計的な発想〉 * * * * * * 販売価格から変動費を差し引いた残りは、管理会計上「限界利益」と呼ばれます。限界利益がマイナスになってしまう販売価格に設定してしまうと、「売れば売るほど損失が出る」状態になります。つまり、商品の販売価格は最低でも変動費を上回っている必要があるのです。 ごく当たり前のことなのですが、決算書に散らばるコストが変動費か固定費かを明確に把握しないまま、値下げ競争に巻き込まれて販売価格を引き下げ、売上を伸ばすことだけに注力していると、このような基本を見落とすおそれがあります。商品の販売価格の最低ラインは、限界利益がプラスになる価格であることを意識することが大切です。 * * * (了)
2020年3月期決算における会計処理の留意事項 ~新型コロナウイルス感染症の影響への対応~ 【後編】 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 【前編】公開以降の公表情報について 本連載【前編】の公開後にも、以下のとおり、金融庁、日本取引所等から様々な情報が公表されている。 1 金融庁 (1) 有価証券報告書等の提出について 2020年4月14日に金融庁より、「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」が公表された。内容は、以下のとおりである。 (※)四半期報告書、半期報告書及び親会社等状況報告書も含む。 例えば、以下のとおりとなる。 なお、正式な改正は、内閣府令の改正(本稿公開時点で未公布)で確認されたい。 (2) 株主総会について 2020年4月15日に金融庁より、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」が公表された。内容は、以下のとおりである。 計算書類、監査報告等の提供を、決算日から3ヵ月より後に行う方法については、基準日を変更し、株主総会の開催日を延期する方法と継続会にする方法が考えられる。その際の留意点として、例えば以下が挙げられる。 実務上、他にも検討しなければいけない事項が発生する可能性があるため、顧問弁護士等に相談しながら、検討していただきたい。 2 日本取引所グループ 2020年4月14日に日本取引所グループより、「「有価証券報告書等の提出期限の延長」に伴う決算発表日程の再検討のお願い」が公表された。内容は、以下のとおりである。 有価証券報告書及び計算書類の提出の延期にあわせて、短信発表についても延期が必要かどかを検討する必要がある。 3 日本公認会計士協会 (1) 「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」 2020年4月10日に日本公認会計士協会より、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」が公表された。会計上の見積の監査にあたっての留意事項がまとめられている。概要は、以下のとおりである。 会社は、できるだけ内部及び外部情報を入手し、その情報に基づき仮定を設定した上で、(悲観的でも楽観的でもない)事業計画を作成することが重要である。また、その作成過程をしっかりと監査人に説明することが重要である。 (2) 「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)」 2020年4月15日に日本公認会計士協会より、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)」が公表された。上記1(1)及び(2)に関連して、日本公認会計士協会からアナウンスが行われている。具体的な内容は、上記1(1)及び(2)と同様である。 なお、計算書類及び有価証券報告書の提出が伸びることで、後発事象(本稿【後編】Ⅱ(10)参照)の検討期間も伸びることになる。そのため、後発事象の検討についても、監査人と十分に協議することが重要である。 4 国税庁 2020年4月8日に国税庁より、「法人税及び地方法人税並びに法人の消費税の申告・納付期限と源泉所得税の納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ」が公表された。また、2020年4月13日に「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」の更新版が公表された。 【前編】Ⅰ1から更新されたもののうち、特に重要であると考えられるものは、以下のとおりである。 (1) 法人の申告・納付の期限の個別延長 新型コロナウイルス感染症の影響により、法人がその期限までに申告・納付ができないやむを得ない理由がある場合には、申請により期限の個別延長(※)が認められる。 (※)法人税、消費税、源泉所得税に係る各種申請や届出なども同様である。 【やむを得ない理由】 やむを得ない理由には、例えば、法人の役員や従業員等が新型コロナウイルス感染症に感染したようなケースだけでなく(【前編】1(2)参照)、次のような方々がいることにより通常の業務体制が維持できない、事業活動を縮小せざるを得ない、取引先や関係会社においても感染症による影響が生じているなどにより決算作業が間に合わず、期限までに申告が困難なケースなども該当する。 また、上記以外の理由であっても、感染症の影響を受けて申告・納付期限までに申告・納付が困難な場合には、個別に申告・納付期限の延長が認められる。 (2) 申告・納付期限 新型コロナウイルス感染症の影響により、期限内に申告・納付することが困難な法人は、申告・納付ができないやむを得ない理由がやんだ日から2ヶ月以内の日を指定して申告・納付期限が延長される。つまり、申告書等を作成・提出することが可能となった時点で申告を行うことになる。 (3) 個別延長の手続 別途、申請書等を提出する必要はなく、申告書の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」である旨を付記する。 このため、当初の申告期限以降に、申告書を提出する際には、新型コロナウイルス感染症の影響による申告期限及び納付期限を延長する旨を申告書(手書の場合)や送付書(電子申告の場合)に記載し、提出する。源泉所得税においては、納付を行う際に所得税徴収高計算書の「摘要」欄に「新型コロナウイルスによる納付期限延長申請」 である旨を付記する。 (4) 業績が悪化した場合に行う役員給与の減額 新型コロナウイルス感染症により、以下のような状況(例示)のため、役員給与を減額した場合、「業績悪化改定事由による改定」に該当する。したがって、改定前に定額で支給していた役員給与と改定後に定額で支給する役員給与は、それぞれ定期同額給与に該当し、損金算入することができる。 Ⅱ 新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項 新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項としては、以下が挙げられる。 (1) 上場有価証券の評価 新型コロナウイルス感染症が広まった3月以降、株価が下落傾向にある。そのため、会社で保有している上場有価証券について、減損の検討が必要になる場合も多いと考えられる。 (※) 回復可能性がある場合とは、時価の下落が一時的なもので、期末日後、概ね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準まで回復する見込みのある場合をいうが、これを立証することは、通常難しいと考えられる。 【会計処理】 (2) 関係会社株式の評価 新型コロナウイルス感染症の影響により、関係会社(子会社及び関連会社)の業績が悪くなっている場合も多いと考えられる。この場合、関係会社株式の評価を慎重に検討する必要がある。非上場の関係会社株式の評価における具体的な検討は、以下のとおりである。なお、上場の関係会社株式の評価は、上記(1)のとおりである。 ① 株式の評価 関係会社の財政状態の悪化(下記①参照)により実質価額が著しく低下(下記②参照)した場合は、減損処理する。 【会計処理】 ただし、実質価額について、関係会社の事業計画等をもとに回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、減損処理は不要である。 事業計画等は実行可能で合理的なものでなければならず、回復可能性の判定は、特定のプロジェクトのために設立された会社で、当初の事業計画等において、開業当初の累積損失が5年を超えた期間経過後に解消されることが合理的に見込まれる場合を除き、おおむね5年以内に回復すると見込まれる金額を上限として行う。 したがって、回復可能性を監査人に説明する際には、基本的に5ヶ年の実行可能で合理的な事業計画を作成し、どうしてそのような数値になるのか、具体的に説明する必要がある。 なお、新型コロナウイルス感染症の将来への影響がわからない場合、実行可能で合理的な事業計画を作成することが難しくなる可能性がある。そのため、社内での情報収集を早めに行うことが重要であると考えられる。 ② 投資損失引当金の計上 関係会社株式の減損処理を行う必要はないが、以下のとおり、健全性の観点から、投資損失引当金を計上できる場合がある。 【会計処理】 ③ 債務超過に対する引当金 関係会社が債務超過である場合、実質価額がマイナスであるため、関係会社株式はゼロまで減損処理する。一方、関係会社株式は、減損においてはゼロまで評価を切り下げることしかできないが、関係会社の債務超過額は、最終的には、親会社が負担(子会社の場合は、全額負担、関係会社の場合は、他の株主との契約で決められた分の負担)する可能性が高いと考えられる。そのため、債務超過額のうち、負担する部分について関係会社事業損失引当金等で損失処理する必要がある。 【会計処理】 ◎関係会社に対する債権がある場合及び関係会社に対して債務保証を行っている場合 関係会社に対する債権がある場合や関係会社に対して債務保証を行っている場合、関係会社に対する債権部分には貸倒引当金を計上し、債務保証部分には、債務保証損失引当金を計上する。そして、この2つの引当金の合計と債務超過額の差額を関係会社事業損失引当金等で計上することも考えられる(下図参照)。 一方、貸倒引当金や債務保証損失引当金としては計上せずに、債務超過額全額に対して関係会社事業損失引当金等で計上することも考えられる。 (3) 非上場株式の評価 関係会社株式以外の非上場株式を発行している会社についても、新型コロナウイルス感染症の影響により、業績が悪化している可能性がある。業績が悪くなっている場合、非上場株式の評価についても慎重に検討する必要がある。 非上場会社の財政状態の悪化(下記①参照)により実質価額が著しく低下(下記②参照)した場合は、減損処理する。 【会計処理】 (4) 固定資産(のれんを含む)の減損 新型コロナウイルス感染症の影響により、業績が悪化している会社、店舗、支店、工場等が多くなっている可能性がある。業績が悪くなっている場合、固定資産(のれんを含む)の減損についても慎重に検討する必要がある。具体的な検討は、以下のとおりである。 【会計処理】 (5) 貸倒引当金 新型コロナウイルス感染症の影響により、得意先(関係会社を含む)の業績が悪化し、売上債権の回収が延滞したり、貸倒れが発生する可能性がある。また、関係会社へ貸付を行っている場合も貸付金の回収が延滞したり、貸倒れが発生する可能性がある。 そのため、貸倒引当金についても慎重に検討する必要がある。具体的には、期末日以前のみならず、期末日後の回収状況や法的整理等の情報を適時に入手した上で、債権を以下の3つに区分し、それぞれの区分ごとに貸倒引当金を算定する必要がある。特に、「貸倒懸念債権」又は「破産更生債権等」に該当する得意先、関係会社がないか、慎重に検討する必要がある。 【会計処理】 貸倒引当金繰入額は、原則、その性質に応じて販管費又は営業外費用に計上するが、新型コロナウイルス感染症の影響により発生した貸倒引当金繰入額は、非常に特殊な事象であるため、金額が多額に発生する場合には、特別損失に計上することも考えられる。 (6) 債務保証損失引当金 新型コロナウイルス感染症の影響により、関係会社の業績が悪化し、経営難に陥り、関係会社において取引先に対する仕入債務の返済や金融機関への借入金の返済が滞る可能性がある。このような場合に、関係会社の仕入債務や借入金について、親会社が債務保証を行っている場合、債務保証に係る損失が発生する可能性がある。 そのため、債務保証損失引当金についても慎重に検討する必要がある。具体的には、期末日以前のみならず、期末日後の関係会社の仕入債務の支払状況や金融機関への借入金の返済状況に関する情報を適時に入手し検討する必要がある。 【会計処理】 債務保証損失引当金繰入額は、発生事由等に応じ営業外費用又は特別損失に計上することが考えられる。 (7) リストラクチャリング関連の引当金 新型コロナウイルス感染症の影響により、業績が悪化し、経営難に陥った場合、将来に向けての立て直しのためにリストラ(支店・店舗・工場等の閉鎖、早期退職の募集等)を決定することが考えられる。このような場合、例えば、以下のような損失について見積った上で、リストラクチャリング関連の引当金の計上を検討する必要がある。 (※) 従業員が早期退職制度に応募し、金額を合理的に見積ることができる時点で費用処理する。 【会計処理】 上記の勘定科目は例示であるため、各社の実態に応じて、適切な名称を付すことが考えられる。 (8) 繰延税金資産の回収可能性 新型コロナウイルス感染症の影響により、会社の業績が悪くなっている場合も多いと考えられる。その場合、繰延税金資産の回収可能性の検討において、以下の点について、慎重に検討する必要がある。 ① 税効果の企業の分類 業績の悪化により、課税所得が減少する場合、税効果の企業の分類を変更しなければいけない可能性がある。 ② 一時差異等加減算前課税所得の見積り 分類3から分類4の会社において、繰延税金資産の回収可能性の検討に当たっては、一時差異等加減算前課税所得の見積りは非常に重要である。 しかし、新型コロナウイルス感染症の将来への影響がわからない場合、合理的で説明可能な事業計画を作成することが難しいため、一時差異等加減算前課税所得を見積ることが困難となる可能性がある。そのため、社内での情報収集を早めに行うことが重要である。 また、事業計画を監査人に説明する際には、合理的で説明可能な事業計画を作成し、どうしてそのような数値になるのかを、具体的に説明する必要がある。 【会計処理(繰延税金資産を取り崩す場合)】 (9) 棚卸資産の評価 通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とする。ただし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする。 新型コロナウイルス感染症により、棚卸資産の滞留が増加したり、赤字でないと販売できなくなるなどの状況が発生した場合には、多額の棚卸資産評価損を計上しなければいけない可能性がある。そのため、3月及び4月の販売実績及び5月以降の販売に関する情報を収集し、正味売却価額を合理的に見積った上で、棚卸資産評価損を計上する必要がある。 【会計処理】 棚卸資産評価損は、原則、売上原価に計上するが、収益性の低下に基づく簿価切り下げ額が新型コロナウイルス感染症による臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには特別損失に計上できる。 (10) 後発事象の注記 後発事象には、以下の2つがある。 新型コロナウイルス感染症の影響で、期末日後にいろいろな事象が発生したり、意思決定が行われるものと考えられる。後発事象の発生時点や内容により、修正後発事象又は開示後発事象のいずれに該当するかが異なるため、上記のいずれかに該当しそうな事象がある場合、適宜、監査人に確認することが望まれる。 《新型コロナウイルス感染症に関連する開示後発事象の例示》 (注) 上記項目は、開示後発事象としての例示であるが、発生時点等によっては、修正後発事象に該当する可能性もある。 (11) 継続企業の前提に関する注記 ① 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況 新型コロナウイルス感染症の影響で、業績が悪化している場合、新たに「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況(以下、「事象又は状況」という)」が存在する場合に該当する可能性がある。 そのため、「事象又は状況」が存在する場合に該当していないかどうかを慎重に検討する必要がある。 《継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況の例示》 ② 継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるとき 期末において、「事象又は状況」が存在する場合には、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策(効果的で実効可能なもの)を検討する必要がある。新型コロナウイルス感染症の影響により、以下の対応が必要であると考えられる。 そして、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する「重要な不確実性」が認められるときは、継続企業の前提に関する以下の事項を計算書類及び有価証券報告書に注記する。 なお、貸借対照表日後において、「事象又は状況」が解消し、又は改善したため、継続企業の前提に関する「重要な不確実性」が認められなくなったときには上記の注記を行う必要はない。ただし、この場合には、当該「事象又は状況」を解消し、又は改善するために実施した対応策を重要な後発事象として注記することも考えられる。 ③ 有価証券報告書の「経理の状況」より前における記載 上記②の注記が必要でない(「重要な不確実性」がない)場合であっても、「事象又は状況」が存在する場合には、有価証券報告書の「事業等のリスク」及び「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」にその旨及びその内容等を開示する。 また、上記②の注記をする場合でも、当該注記に係る「事象又は状況」が発生した経緯及び経過等について、「事業等のリスク」及び「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に記載する。 ④ 事業報告における記載 会社法に基づく事業報告においても、株式会社の現況に関する事項(会社法施行規則120①Ⅳ、Ⅷ、Ⅸ等)に、適切な開示をすることが望まれる。 ⑤ 後発事象の注記 貸借対照表日後に「事象又は状況」が発生した場合で、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する「重要な不確実性」が認められ、翌事業年度以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼすときは、重要な後発事象として、以下の事項を計算書類及び有価証券報告書に注記する。 上記のような後発事象のうち、貸借対照表日において既に存在していた状態で、その後、その状態が一層明白になったものについては、継続企業の前提に関する注記の要否を検討する必要がある。 Ⅲ 会計上の見積りにあたって 新型コロナウイルス感染症の影響により、決算作業が遅れている場合も多いと考えられる。また、事業計画を作成することも困難な状況になっている場合も多いと考えられる。 そのため、株式の評価、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性等の「会計上の見積り」をどのように行うか悩まれている経理担当者も多いと思われる。 このような中、2020年4月10日にASBJより2020年4月9日に開催された第429回ASBJの議事概要が公表された。当該議事概要では、以下のとおり、会計上の見積りを行う上での留意点がまとめられている。 以上から、決算にあたり、以下の対応を行うことが必要であると考えられる。 【実務上の対応】 ➤企業グループ内で、現在発生している事象又は発生する可能性のある事象に関する情報(内部情報)を収集する。 ➤客観的な外部情報をできるだけ収集する。 ➤内部情報及び外部情報に基づいて、一定の仮定を設定する。その仮定に基づき、事業計画等を作成する。また、修正(特に、下方修正)する必要がないか検討する。 ➤仮定及び事業計画等が不合理でないかどうか、監査人と協議(に説明)する。 ➤会計上の見積りにおける仮定について、追加情報の注記が必要かどうか検討する。 (連載了)
税効果会計を学ぶ 【第2回】 「資産負債法と繰延法」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 税効果会計の方法には、資産負債法と繰延法とがあり、わが国の会計基準では、資産負債法を採用している。 第2回は、税効果会計の基本となる資産負債法と繰延法について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 資産負債法と繰延法 「税効果会計に係る会計基準の設定に関する意見書」では、税効果会計の方法には繰延法と資産負債法とがあるが、資産負債法によることとし、貸借対照表上の資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額を「一時差異」と定義している(税効果会計意見書三、1、税効果会計基準第二、一、2、税効果適用指針88項)。 このように、税効果会計の方法には、資産負債法と繰延法がある(税効果会計意見書三、税効果適用指針88項)。 両者の基本的な相違は、「調整対象となる差異の内容」と「適用する税率」にある。 Ⅲ 資産負債法 1 差異の内容 資産負債法とは、会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額との間に差異が生じており、当該差異が解消する時にその期の課税所得を減額又は増額する効果を有する場合に、当該差異(一時差異)が生じた年度にそれに係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する方法である(税効果適用指針89項(1))。 2 適用する税率 資産負債法により計上する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率は、一時差異の解消見込年度に適用される税率である(税効果適用指針89項(1))。 Ⅳ 繰延法 1 差異の内容 繰延法とは、会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金の額との間に差異が生じており、当該差異のうち損益の期間帰属の相違に基づくもの(期間差異)について、当該差異が生じた年度に当該差異による税金の納付額又は軽減額を当該差異が解消する年度まで、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法である(税効果適用指針89項(2))。 2 適用する税率 繰延法により計上する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率は、期間差異が生じた年度の課税所得計算に適用された税率である(税効果適用指針89項(2))。 Ⅴ 税効果会計基準で採用した資産負債法 1 資産負債法の採用 税効果会計基準で採用した方法は資産負債法である(税効果会計意見書三、税効果適用指針88項)。 資産負債法は、税率変更等に応じて繰延税金資産又は繰延税金負債の回収額又は支払額をより適切に示す方法であり、国際的にも主流となっている方法である(「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」(企業会計審議会)第二部、二、3(3))。 一時差異(資産負債法)と期間差異(繰延法)の関係は、次のように整理される(税効果適用指針90項)。 ただし、未実現損益の消去に係る税効果会計については、資産負債法の例外として繰延法が採用されているので、税効果会計の適用に際しては注意が必要である(税効果適用指針34項、131項)。 企業会計基準委員会の審議では、国際財務報告基準(IFRS)では資産負債法が採用されており、また、米国会計基準においても棚卸資産以外の資産の未実現損益の消去に係る税効果会計については資産負債法が採用されることから、連結税効果実務指針における繰延法の取扱いについて国際的な会計基準と整合性を図り、資産負債法に変更すべきとの意見もあった(税効果適用指針131項)。 検討の結果、未実現損益の消去に係る税効果会計については、従来どおり、繰延法の採用が継続されている(税効果適用指針34項、136項)。 2 設例 本連載の第1回で用いた数値例により、資産負債法に従って解説を行う。 《数値例》 〈税効果会計を適用する場合〉 (※1) (税引前当期純利益5,000+評価減1,000)×法定実効税率40%=2,400 (※2) 評価減1,000(=税務上の帳簿価額1,500-会計上の帳簿価額500)×法定実効税率40%=400 (仕訳) 税効果会計基準では資産負債法を採用しているので、当該方法に従って算出すると、税務上の資産の額1,500と会計上の資産の額500との差額1,000が一時差異となる。 法定実効税率40%が、将来において、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率である場合には(税効果適用指針45項)、前述の一時差異1,000に40%を乗じて、繰延税金資産400が認識されることになる。 (了)