ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第1回】 「代表的なハラスメントの定義とその特徴」 弁護士 柳田 忍 1 はじめに 昨今、「ハラスメント」という言葉を聞かない日はないと言っても過言ではない。どの業界、どの企業もハラスメント問題とは無縁ではなく、このような状況を受けてハラスメント対策を掲げた記事やセミナーは数多く掲載・開催されているが、多くの企業において、ハラスメントに対して適切に対応できていないのが現状であるように思う。 企業において、適切なハラスメント対策ができていない理由は、ハラスメント問題が孕むリスクの把握と、リスクが現実化した場合の損失を踏まえたうえで、意思決定を行っていないことが一因であると思われる。 そこで、本連載においては、調査・紛争・事後対応(再発防止策)の各段階において、ハラスメント問題が有するリスクとこれにより引き起こされるおそれのある損失を踏まえたうえで、企業として対応すべき事項について説明する。 なお、本連載の意見等にわたる部分については筆者個人によるものであり、所属する団体等の見解を代表するものではないことを申し添える。 2 ハラスメントとは まず、職場において特に問題となることが多いパワー・ハラスメント、セクシュアル・ハラスメント及びマタニティ・ハラスメントについて、定義及び実務上の留意点について説明する。また、最近、特に問題となることが増えてきている「SOGIハラスメント」についても若干の解説を行うものとする。 (1) パワー・ハラスメント(パワハラ) 職場のパワハラは、①優越的な関係に基づいて行われること、②業務上必要かつ相当な範囲を超えて行われること、③その雇用する労働者の就業環境を害すること、の3つを満たすものと定義されている(2020年6月施行予定の「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」第30条の2第1項)。 そして、これら3つをすべて満たす代表的なものとして、次の6つの類型が挙げられている(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年1月15日厚労省告示第5号))。 パワハラに該当する言動はこの6類型に限られないが、特に最近は、職場における「不当」な取扱いがあれば、とりあえず「パワハラ」と整理して主張がなされることが多い。 従業員からパワハラ被害の申告を受けると動揺する企業が多いが、そのような申告の中には、パワハラと称していても実態は人事権の行使に対するクレームに過ぎないものも多く、それぞれの申告の本質を踏まえた対処を行うことが肝要である。 また、パワハラに当たるかどうかの判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準としつつ、個別の事案の判断に際しては、労働者の「心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮」すべきであるとされている(前掲指針)。 ここで言う「平均的な労働者」とは、現在の平均的な労働者を意味するものと考えられるため、「自分が若い頃はこの程度の指導は普通だった」というのは、「平均的な労働者の感じ方」には当たらないということもありうる。 (2) セクシュアル・ハラスメント(セクハラ) セクハラは「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること」(対価型)及び「当該性的な言動により当該労働者の職業環境が害されること」(環境型)と定義されている(男女雇用機会均等法第11条第1項)。 セクハラに当たるかどうかの判断に際しても、パワハラと同様、当該労働者の主観を重視しつつも、一定の客観性が必要であると考えられており、被害を受けた労働者が女性である場合は「平均的な女性労働者の感じ方」を、男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当であるとされている(「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(平成18年10月11日雇児発第1011002号))。したがって、「被害者が嫌だと思ったらセクハラになる」というのは必ずしも正しい理解とは限らない。 (3) マタニティ・ハラスメント(マタハラ) マタハラとは、女性労働者が妊娠・出産した場合に休業や軽易業務への転換等の制度利用を行う場合や、労働者が育児等のために休業や時短勤務等の制度利用を行う場合に、当該女性労働者や労働者に対して職場における解雇その他の不利益取扱いを行ったり、職場環境を害する行為を行ったりすることを指す。 マタハラを引き起こす原因になりうるのが、従業員が妊娠・出産・育児等により休業等の制度利用を行うことによって当該従業員の業務のいわゆる「しわ寄せ」を受ける従業員の存在であり、使用者がこれらの従業員への対処を誤ると、これらの従業員の不満の矛先が制度利用を行った労働者に向かうことになりかねないため、これらの従業員への対応も重要なポイントである。 また、女性従業員がマタハラの加害者になることも少なくなく、使用者としては「女性同士だから分かり合えるはずだ」などという安易な考えを持つべきではない。 (4) SOGIハラスメント(SOGIハラ) 「SOGI」とは、Sexual Orientation(好きになる人の性別(性的指向))とGender Identity(自分がどの性別かという認識(性自認))の頭文字をとった言葉で、SOGIハラスメントとは、性的指向や性自認に関連して行われる差別や嫌がらせ、不利益な取扱い等を指す。 SOGIハラとして特に問題となるのが、身体上の性別と自認する性が一致しない者(トランスジェンダー)による自認する性と一致したトイレや更衣室の利用の要求への対応である。 2019年12月12日に、東京地方裁判所において、経済産業省がトランスジェンダーである職員に対して女性用トイレの利用を認めない措置をとったことが違法である旨の判断がなされたが、判決文によると、当該経産省の措置は顧問弁護士のアドバイスに従ったものであったようである。 この問題に関する対応策は未だ確立したとは言えないところであり、ある時点における最適解が短期間で最適解でなくなってしまうことがありうる点に留意すべきである。 (5) その他のハラスメント 上記以外にも、カスタマー・ハラスメント(顧客や取引先による嫌がらせ・カスハラ)、スメル・ハラスメント(臭いに関する嫌がらせ・スメハラ)、就活ハラスメント(就活生に対する嫌がらせ)といった様々な「ハラスメント」が存在する。これらの中には、法的問題に発展するものもあれば、法的問題には至らない「不快な言動」に留まるものもあろう。 この点、職場におけるハラスメントの多くが優越的地位を背景に行われる差別や嫌がらせであり、上記の代表的なハラスメントの定義や判断基準等がこのような現状を踏まえて策定されていることに照らすと、これらのその他のハラスメントが職場において行われる場合は、上記のパワハラ、セクハラ等の判断基準を応用して法的問題に至っているか否かを判断できる場合が多いのではないかと思われる。また、このような問題は、個人を尊重する意識の欠如に端を発することが多いということも念頭に置くべきである。 (了)
〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第4回】 「基本契約と個別契約の違いと締結時の注意点」 虎ノ門第一法律事務所 弁護士 石橋 輝之 〔質 問〕 ①当事務所の顧客が、取引先から取引基本契約の締結を求められています。今までは、取引ごとに契約書を作成したり、発注書や請書等のやり取りで済ませていたようです。今さら取引基本契約を締結する必要はあるのでしょうか。 ②また、取引基本契約を締結する際の注意事項などがあれば教えてください。 〔回 答〕 ①取引基本契約を締結する目的は、個別契約のたびに詳細な条件を定めるよりも、取引に共通して適用される条件についてまとめて合意をしておくことが都合が良いためです。 そのため、今後、その取引先と取引を継続して行うのであれば、取引基本契約を締結することは有意義ですが、単発の契約しか行わないということなら不要であるといえます。 ただ、取引先によっては単発の契約であっても取引基本契約を結ぶ決まりを設けている場合もあるかと思います。そのような場合は、締結に応じるほかないでしょう。 また、取引先が当該顧客との取引について、連帯保証人を付してほしいと考える場合に、取引基本契約を締結するということもあります。この場合は、取引先との力関係の中で、取引基本契約を締結するのか、締結するとしても連帯保証人の条項を削除してもらうのかどうか等を検討することになります。 ②契約の有効期限、当事者は誰となるのか、また、いかなる契約について、取引基本契約が適用されるのかを明確にする必要があります。 取引基本契約と個別契約の内容が矛盾した場合の処理も、取引基本契約で明記しておくべきでしょう。 なお、取引基本契約の締結により商品やサービスの発注義務が例外的に発生する可能性もありますので、この点については留意が必要です。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 取引基本契約を締結する目的 (1) 取引基本契約の原則的効力 取引基本契約で定められている各種条項は、当該取引基本契約が適用される各取引(個別契約)に共通して適用される条項となる。取引基本契約は、共通条項を定めているに過ぎないため、通常は、取引基本契約を締結したこと自体で、商品を納入する義務や代金の支払い義務等(売買の場合)が生じるわけではない。そのため個別契約の成立によって、初めてそれらの義務が生じることになる。 (2) 取引基本契約を締結する目的 取引基本契約を締結する目的は、負担の軽減にある。取引のたびに詳細な条件を記載した契約書を締結するのは、双方にとって負担であり、取引基本契約を締結した上で、実際の各取引(個別契約)においては、電子メールや発注書・請書等のやり取りにて簡便に済ませるのが合理的である。 これが一番の理由であるといえるが、実務上は、契約の一方当事者が他方当事者との各取引について連帯保証人を付してほしいがために取引基本契約の締結を求めてくるということもある。 一般的には、代表者が連帯保証人となるように求められるであろうから、代表者としては、取引基本契約を締結するかどうかについて慎重に検討をすべきということになる。 これについては、逆にいえば、取引先に連帯保証人を付してほしいと考える者は、取引基本契約の締結に際し、連帯保証人を付してもらうよう求めることができるということになる。 2 取引基本契約を締結するに際しての一般的な注意事項 (1) 取引基本契約が適用される個別契約の明確化 契約の有効期限、当事者は誰となるのか、また、いかなる契約について、取引基本契約が適用されるのかを明確にする必要がある。 取引基本契約の有効期限や契約の当事者に迷うことは少ないと思われるが、「いかなる契約」という点については、多少考慮が必要である。 中小企業が当事者となる場合は、過度に慎重になる必要はないが、大企業と締結する場合に、取引基本契約が適用される契約を限定しないと、ある1つの部門との取引を念頭に締結した取引基本契約が、他の部門との取引にも適用されてしまうことがあり得る。 想定していなかった事態が生じるのを避けるため、いかなる契約について取引基本契約が適用されるのかは、しっかりと検討しておくことが必要である。 (2) 取引基本契約と個別契約の矛盾の解消 取引基本契約と個別契約の内容に矛盾がある場合に、どちらの契約が適用されることになるのかについて疑義が生じる可能性があるため、これについても注意が必要である。 一般的には、「個別契約を優先する」という規定を取引基本契約に定めている事例が多いが、確認を要する。 3 取引基本契約の締結による受注義務の発生 (1) 原則 通常、取引基本契約の締結自体では、商品やサービスの発注義務や応諾義務が発生するわけではない。裁判例でも、契約上、受注者側が独占的に商品を供給できるとの約定がない事例(他社からも供給が可能な事例)において、取引基本契約に基づく、受注者側の商品供給義務の存在を否定しているものがある(東京地判昭和55年9月16日)。 (2) 例外 取引基本契約の内容や締結に至る経緯等によっては、発注や応諾の義務が発生してしまうということも例外的には存在する。 例えば、受注者側が商品の製造から販売に至る各場面において、発注者側の要望に応えるなど、当事者間に強い協力関係が維持されてきたことなどから、当事者間には、発注者側が需要に応じた数量の商品を受注者側に対して発注することが当然の前提であるとの認識が存在していたと推認できるため、発注者側には取引基本契約に基づく債務として発注義務があったと判断している事例がある(東京地判平成20年9月18日)。 また、受注者側が独占的に商品を供給するとの約定がある取引基本契約の場合は、原則として、受注者側に商品を供給する義務があるとの裁判例がある(東京地判平成12年8月28日)。 このように、契約の締結の経緯や内容等から、取引基本契約の締結により、取引を行う義務まで発生してしまう場合がある。 これを回避するためには、「取引基本契約の締結により、受注義務又は発注義務を負うものではないことを確認する」などの条項を取引基本契約に明記しておく必要がある。逆に発注義務を発生させたいのであれば、その旨を明記することも検討すべきであろう。 4 民法改正との関係 最後に、民法改正との関係を説明する。 2017年に成立した「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」が、本年(2020年)4月1日に施行された。 (1) 取引基本契約との関係 まず、取引基本契約であるが、民法改正により無効となるわけではない。改正後の民法の強行法規(特約でも排除できない民法の条項)に違反する部分は効力を失うことになるが、売買や請負に関する民法の規定の大半は任意規定(特約で変更できる条項)であるため、当該取引基本契約の内容は本年(2020年)4月1日以降も適用されると考えていい。 (2) 個別契約との関係 個別契約については、締結が本年(2020年)4月1日以降となる場合は、改正後の民法が適用されることになるが、取引基本契約も有効であるから、民法の条項を修正している取引基本契約の条項については、それが適用されることになる。 (3) 取引基本契約及び個別契約に規定がない事項 取引基本契約にも個別契約にも定めのない事項については、個別契約の締結が本年(2020年)4月1日以降であれば、改正後の民法の規定が適用となる。 (4) 取引基本契約が更新された場合 本年(2020年)4月1日以降に取引基本契約が更新された場合(自動更新の場合も含む)、更新後の契約については、改正後の民法が適用されるとの期待があると考えられるため、改正後の民法が適用されることになると解される(取引基本契約や個別契約で民法の規定が修正されているのであれば、それに従う)。 (了)
[新型コロナウイルスを乗り越えるための] 中小企業の経営相談 【第1回】 「財務状況の把握」 虎ノ門第一法律事務所 弁護士 山口 智寛 株式会社バンカーズ・アイ 代表取締役 山田 正貴 ◆はじめに◆ 新型コロナウイルス肺炎の感染拡大により、企業活動が大きく停滞しています。事業計画の中止、売上低下、仕入停止、予定していた出資の撤回、売掛金の未回収といった問題が次々に押し寄せて来て、急速に財務状況が悪化し、どうしてよいかわからなくなっている事業者も少なくありません。実際に、事業停止や破産に追い込まれる企業も増えてきています。 事業者の立場として、あるいは事業者を支援する専門家の立場として、この局面を乗り切るためには、ネガティブな発想のみに支配されて思考停止、活動停止状態に陥ってはなりません。できる限り広く正確な情報を収集することに努め、事態の打開に協力してくれる人を募り、今できる最善のことは何かをよく考え、そして実践していく。私たちにはそれができるか否かが問われています。 この連載では、経営不振に陥った事業者(主に中小企業を想定していますが、基本的には規模の大小や組織構成を問わずに当てはまる内容です)、及び、経営不振に陥った事業者を支援する立場にある専門家向けに、危機を乗り越えるために必要な「今すぐに役立つ」情報を提供していきます。少しでも記事を読んでくださった方のお役に立つことができれば幸いです。 -相談内容- 当社はコロナショックのあおりを受けて売上げが激減してしまっています。このままだと会社の存亡自体が危ないということは肌感覚で感じているのですが、具体的に「いつ」「どうなってしまうのか」は把握できていません。どうすれば自社の財務状況を正確に把握できるでしょうか。 ● ● ● 回 答 ● ● ● 1 財務状況の把握の必要性 経営者が自社の財務状況が悪化していることを感じていても、具体的にどの程度悪化しているのかは把握できていないという場合は非常に多い。あるいは、事業から利益を生み出すことができていると安心していたところ、一時的な運転資金の不足により結局事業継続が困難になってしまうということもある。 経営目標や事業計画を設定しておらず、いわゆる「どんぶり勘定」で経営をしている会社、経営者が決算書を注視していない会社、融資を受けるために決算書の中身を粉飾しており実態数値を把握できていない会社は、平時においてもこのような状況に陥りやすい。コロナショックにより社会、経済に混乱が生じている今は、尚更である。 もとより会社経営には不確定な要素が多く、経営者の不安の種は尽きない。しかし、漠然とした不安を抱えているだけで、その不安の中身を具体的に知らないというのは、姿の見えない敵と戦っているようなものである。 企業活動の本質は、手元資金を活用して事業を行い、それによって利益を獲得して資金を生み出し、その資金を活用してまた事業を行うという循環の中にある。経営不振に陥っているということは、この循環のどこかに問題が生じているということを意味する。 そこで、財務状況の改善の第一歩として、自社の財務状況を分析して、どこにどのような問題があるのかを明確にすることが必須である。 2 どうやって財務状況を把握するのか (1) 財務諸表の分析 敢えて言うまでもないが、会社の財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書等)は財務状況の把握のための最も直接的な資料となる。企業活動の結果は、財務諸表において客観的な数値として表されており、その数値から自社の経営状況とその課題を把握することができる。 主な分析手法として、収益性分析、安全性分析、生産性分析といった方法があり、経済産業省が無料で提供しているツール「ローカルベンチマーク」(通称:ロカベン)を使うと、これらの手法による分析を簡単に行うことができる。 指示に従って自社の財務情報及び周辺事情を入力すると、各種の指標に関する点数が表示されて、「自社がどのような会社なのか」がわかる。さらに、業界内の平均値との比較もできるので、是非活用していただきたい。 (2) 試算表(月次)の分析 試算表は、財務諸表を作成する前に勘定への転記が正確に行われているかどうかを月次で検証するための集計表である。言ってしまえば、1ヶ月ごとの貸借対照表と損益計算書であり、特に、売上の状況、利益の状況、現預金残高の増減状況の把握のために有効である。また、現在値の把握だけでなく、将来値の予測や目標値の設定にも使うことができる。 試算表は、可能な限り、迅速かつ正確に作成することが好ましい。試算表ができ上がるのが遅くなれば、その分、会社の経営改善のための意思決定も遅くなるし、できたものが不正確であれば、誤った意思決定をしてしまう可能性も出てくる。 迅速性の点については、できれば月末に締めた数字を元に翌月15日ころまでには実際値を元にした試算表ができているようにしたい。正確性の点については、請求書や通帳の適切管理、経理書類の整理、在庫の正確な把握等の前提が必要であり、そのためには会社内の各部署と経理部門や外部専門家とのスムーズな連携が求められる。 (3) 資金繰り表(日次)の分析 資金繰り表(日次)は、会社の日々の資金状況の集計表である。貸借対照表の勘定科目のうち現金と預金の部分のみを一日単位で記録したものであるが、単純に「入金」と「出金」だけで管理するのではなく、具体的な入出金の中身(例えば、入金であれば売上なのか借入金入金なのか、出金であれば仕入支払いなのか借入金返済なのか納税なのか等)について、区分ごとに色分けして可視化するとなお良い。 このような資金繰り表を元に、現預金残高の減少が続いている場合に資金ショートの可能性がある日を予測したり、逆に資金に余裕があるタイミングを見定めたりすることができる。そこを出発点として、経営改善のスケジュールと方策を検討することとなる。 3 緊急時の財務状況改善のポイント:まずは利益確保より資金確保 本来、財務状況の改善のためには、本業での「利益」の確保と、手元「資金」の確保の両面からのアプローチが必要であるが、今回のコロナショックのような緊急時においては、まずは資金確保を優先すべきである。 先述のとおり、企業活動が「手元資金を活用して事業を行い、それによって利益を獲得して資金を生み出し、それをまた事業に使う」ことの循環であるとして、その出発点はあくまでも手元資金である。手元資金が枯渇すれば事業活動そのものが立ち行かなくなり、最悪、倒産が現実味を帯びてくる。資金に余裕があればこそ、経営者は心理的余裕をもって経営に専念でき、金融機関への返済や経費の削減に頭を悩ませたり、取引相手との条件交渉で足元を見られたりしなくて済む。 したがって、緊急時の財務状況の改善策としては、まず、資金繰りに焦点を当て、融資や補助金などの資金を増やすための手段と、金融債務のリスケや各種支払いの繰り延べなどの資金流出を減らすための手段の検討を最優先で行うべきである。次回の記事(4/16公開予定)ではこの点に焦点を当てる。 4 専門家への相談 多忙な経営者が、上記のような分析や検討を独力で行うことは無理がある。また、会社の顧問税理士が、「経営改善に役立つ」財務分析資料の作成や分析、それらに基づく資金繰りの助言に対応できるとは限らない(これは税理士が悪いという意味ではなく、会社が従前から顧問税理士に依頼していた内容と財務状況の改善のために必要な内容がかけ離れているという側面が大きい)。そのような場合には、経営改善に強い税理士や資金繰りコンサルタント等の専門家の関与があることが望ましい。 なお、会社の経営状況を良くするためには、結局のところ、経営に関して責任を持つ者が主体的に動くことが必要不可欠である。経営改善について専門家が関与する場合でも、経営者は全てを他人任せにしてはならず、必ず自分自身が腑に落ちるまで説明を受けて情報を共有し、当事者意識をもって各種対応にあたるべきである。 (了)
《速報解説》 「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置(案)」を閣議決定 ~対象者には無担保・延滞税なしで1年間、ほぼすべての税を納税猶予、 中堅法人の欠損金の繰戻し還付適用を一定期間可能に~ Profession Journal編集部 政府は昨日(令和2年4月7日)、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置(案)」を閣議決定した。すでに関連省庁から情報が公表され始めているので、下記に概要及び主要ページへのリンクを紹介する。今後公表される情報については「令和2年度税制改正に関する《資料リンク集》」にて随時更新していくので、そちらをご覧いただきたい。なおこれらの税制措置は、これから関連税制法案が国会で審議され成立することが前提となる。 ◆納税を猶予する「特例制度」 新型コロナウイルスの影響により事業等に係る収入に相当の減少があった事業者は、令和2年2月1日から同3年1月31日までに納期限が到来する所得税、法人税、消費税等ほぼすべての税目(印紙で納めるもの等を除く)(※)について、1年間、納税を猶予する。担保の提供は不要。延滞税も課されない。 (※) これらのうち既に納期限が過ぎている未納の国税(他の猶予を受けているものを含む)についても遡って適用可能。また地方税(基本的に全ての税目が対象(証紙徴収による地方税は除く))においても無担保かつ延滞金なしで1年間、徴収猶予を適用できる特例が設けられる。 以下①②のいずれも満たす場合(個人法人の別、規模は問わず)に対象となる。 ① 新型コロナウイルスの影響により、令和2年2月以降の任意の期間(1ヶ月以上)において、事業等に係る収入が前年同期に比べて概ね20%以上減少していること。 ② 一時に納税を行うことが困難であること。 ◆欠損金の繰戻しによる還付の特例 現行制度では中小企業(資本金1億円以下の法人)について適用が認められる青色欠損金の繰戻し還付制度について、いわゆる中堅企業(資本金1億円超10億円以下の法人)も適用を受けることが可能となる。 ① 令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する事業年度に生じた欠損金額について適用。 ② ただし、大規模法人(資本金の額が10億円を超える法人など)の100%子会社及び100%グループ内の複数の大規模法人に発行済株式の全部を保有されている法人等を除く。 ◆消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例 新型コロナウイルス感染症の影響を受けている事業者のうち、次の要件に該当する場合は、税務署への申請・承認により、課税期間の開始後であっても、課税事業者を選択する(又はやめる)ことが可能となる。 ① 特例に係る法律(案)の施行後に申告期限が到来する課税期間において、 ② 新型コロナウイルス感染症の影響により、 令和2年2月1日から令和3年1月 31 日までの期間の内、 一定期間(1ヶ月以上の任意の期間)の収入が、 著しく減少(前年同期比概ね 50%以上)した場合で、かつ、 ③ 当該課税期間の申告期限までに申請書を提出した場合 ◆中小事業者等が所有する償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税の軽減措置 中小事業者の税負担を軽減するため、中小事業者の保有するすべての設備や建物等の令和3年度(2021年度)(※)の固定資産税及び都市計画税を、売上の減少幅に応じ、ゼロ又は1/2とする。 (※) 令和2年度(2020年度)の固定資産税及び都市計画税は、上記の特例措置(収入が前年同月比20%以上減)に基づき、1年間、納税猶予可能。 〈軽減割合〉 令和2年2月~10月までの任意の3ヶ月間の売上高が、前年の同期間と比べて、 ① 30%以上50%未満減少している者:2分の1 ② 50%以上減少している者:全額 ◆固定資産税の特例(固定ゼロ)の拡充・延長 生産性向上特別措置法により、現在、中小企業が新たに投資した設備については、自治体の定める条例に沿って、投資後3年間、固定資産税が免除される特例(固定ゼロの特例)について、 生産性向上に向けた中小企業の新規投資を促進するため、この特例の適用対象に事業用家屋と構築物(門や塀、看板(広告塔)や受変電設備)を追加するとともに、令和3年3月末までとなっている適用期限を2年間延長する。 ◆テレワーク等のための中小企業の設備投資税制(中小企業経営強化税制の拡充) 中小企業者等が、テレワーク等のための設備の取得等をした場合に、中小企業経営強化税制(設備の即時償却又は設備投資額の7%(資本金が3,000万円以下の法人は10%)の税額控除)の適用を受けることができることとする。 〈要件〉 遠隔操作、可視化、自動制御化のいずれかに該当する設備 〈対象設備〉 ・機械装置 ・工具 ・器具備品 ・建物附属設備 ・ソフトウエア ◆特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書の印紙税の非課税 公的金融機関や民間金融機関等が、新型コロナウイルス感染症によりその経営に影響を受けた事業者に対して行う特別な貸付けに係る契約書については、印紙税を非課税とする。 (※) 既に契約を締結し印紙税を納付した者に対しては遡及して適用。 ◆自動車税・軽自動車税環境性能割の臨時的軽減の延長 自家用乗用車(登録車及び軽自動車)を取得した場合、自動車税環境性能割及び軽自動車税環境性能割の税率を1%分軽減する特例措置について、その適用期限(現行:令和元年10月1日から令和2年9月30日まで)を6月延長し、令和3年3月31日までに取得したものを対象とする。 ◆中止等されたイベントに係る入場料等の払戻請求権を放棄した者への寄附金控除の適用 政府の自粛要請を踏まえて文化芸術・スポーツイベントを中止等した結果、主催者に大きな損失が生じている状況を踏まえ、文化芸術・スポーツに係る一定のイベント(不特定かつ多数の者を対象とするイベントであって、令和2年2月1日から令和3年1月31日までに日本国内で開催する予定だったものであり、かつ、現に中止等されたものを対象)の入場料等について、観客等が払戻請求権を放棄した場合には、その放棄した金額について寄附金控除(所得控除又は税額控除)の対象とする(地方税も同様)。 ◆住宅ローン控除の適用要件の弾力化 〈需要変動平準化のための住宅ローン控除の特例の適用〉 新型コロナウイルス感染症の影響による住宅建設の遅延等への対応として、住宅ローンを借りて新築した住宅、取得した建売住宅又は中古住宅、増改築等を行った住宅に令和2年12月末までに入居できなかった場合でも、次に掲げる要件を満たす場合には、控除期間が13年に延長された住宅ローン控除を適用できることとする(令和3年分以後の所得税について適用)。 ① 新型コロナウイルス感染症の影響によって新築住宅、建売住宅、中古住宅又は増改築等を行った住宅への入居が遅れたこと ② 一定の期日(※)までに、新築、建売住宅・中古住宅の取得、増改築等に係る契約を行っていること ③ 令和3年12月末までの間に②の住宅に入居していること (※) 新築の場合は令和2年9月末まで、建売住宅・中古住宅の取得、増改築等の場合は令和2年11月末 まで。 〈中古住宅取得から6ヶ月以内の入居を求める要件について〉 住宅ローンを借りて取得した中古住宅について、その取得の日から入居までに6ヶ月超の期間が経過していた場合でも、次に掲げる要件を満たす場合には、当該住宅ローンに住宅ローン控除を適用できることとする(令和2年分以後の所得税について適用)。 ① 取得後に増改築等を行った中古住宅への入居が、新型コロナウイルス感染症の影響によって遅れたこと ② ①の増改築等の契約が、中古住宅取得の日から5ヶ月後まで又は特例法施行の日の2ヶ月後までに行われていること ③ ①の増改築等の終了後6ヶ月以内に、当該住宅に入居していること (※) 現行制度と同様、住宅ローン控除可能額のうち所得税から控除しきれなかった額は、控除限度額の範囲内で個人住民税から控除される。 ◆耐震改修した住宅に係る不動産取得税の特例措置の適用要件の弾力化 耐震基準不適合既存住宅について、その取得の日から6月以内に耐震改修を行い、耐震基準に適合することにつき証明を受け、かつ、入居した場合に、当該住宅が新築された時点に応じて一定の額に税率を乗じて得た額を減額する特例措置について、特例対象住宅をその取得の日から6月以内に居住の用に供することができない場合において、次に掲げる要件を満たすときは、当該特例措置を適用できることとする等所要の措置を講ずる。 ① 新型コロナウイルス感染症の影響によって当該耐震改修した住宅を居住の用に供することとなった日が当該取得の日から6月を経過する日後となったこと。 ② ①の耐震改修に係る工事の請負契約を、当該住宅の取得の日から5月を経過する日又は法律の施行の日から2月を経過する日のいずれか遅い日までに締結していること。 ③ ②の耐震改修に係る工事の終了後6月以内に、当該住宅を居住の用に供すること。 (※) 令和3年度末入居分までの特例措置 (了)
《速報解説》 収益認識に関する表示及び注記事項について定めた 「改正収益認識会計基準」等が公表される ~2021年4月1日以後開始事業年度から適用も早期適用可~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月31日、企業会計基準委員会は、次のものを公表した。これにより、2019年10月30日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、主に収益認識に関する表示及び注記事項について規定するものである。 なお、2020年5月15日に、企業会計基準公開草案第66号(企業会計基準第29号の改正案)「収益認識に関する会計基準(案)」等の主なコメントの概要とそれらに対する対応(以下「コメント対応」という)が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 範囲及び定義等 改正収益認識会計基準の適用範囲に、「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号)における定義を満たす暗号資産及び金融商品取引法における定義を満たす電子記録移転権利に関連する取引を含めない(改正収益認識会計基準3項(7)、108-2項)。 定義又は用語について、次の改正を行っている。 Ⅲ 表示及び注記事項 1 収益の区分表示又は注記及び表示科目 次のように規定する(改正収益認識会計基準78-2項、155項、156項、改正収益認識適用指針104-2項)。 2 貸借対照表上の表示科目等 改正前の収益認識会計基準88項を削除し、次のように規定する(改正収益認識会計基準79項、159項、改正収益認識適用指針104-3項)。 3 重要な金融要素が含まれる場合の取扱い 顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)を損益計算書において区分して表示する(改正収益認識会計基準78-3項、157項)。 4 顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示 国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」において要求されている顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示に関しては、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)の見直しと合わせて検討することとし、改正収益認識会計基準において当該開示は求めない(改正収益認識会計基準158項)。 5 注記事項 改正収益認識会計基準では、注記に関して、次の基本的な方針としている(改正収益認識会計基準101-2項~101-6項)。 6 重要な会計方針の注記 顧客との契約から生じる収益に関して、次に定める項目を重要な会計方針として注記する(改正収益認識会計基準80-2項、160項~165項)。 上記以外にも、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記する(改正収益認識会計基準80-3項)。 7 収益認識に関する注記 収益認識に関する注記における開示目的は、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することであるとし、次の注記事項を規定している(改正収益認識会計基準80-4項~80-6項、166項~168項、171項)。 収益認識に関する注記の記載方法等についても詳細に規定している(改正収益認識会計基準80-7項~80-9項、169項、170項、172項、173項)。 8 工事契約等から損失が見込まれる場合 工事契約会計基準に定める次の注記を引き継ぐ(改正収益認識適用指針106-9項、106-10項、193項)。 9 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における表示及び注記 10 四半期財務諸表における注記 すべての四半期の四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表において、年度の期首から四半期会計期間の末日までの期間に認識した顧客との契約から生じる収益の分解情報の注記を規定する(改正四半期会計基準19項(7-2)、25項(5-3)、58-4項~58-9項)。 Ⅳ 会計処理の見直しを行ったもの 改正前の収益認識会計基準では契約資産を金銭債権として取り扱うとしていたが、改正収益認識会計基準では、契約資産が金銭債権に該当するか否かについて言及しないこととし、次の会計処理を規定している(改正収益認識会計基準77項、150-3項)。 なお、コメント対応では、契約資産の開示については、2018年会計基準における「契約資産を金銭債権として取り扱う」との定めを削除していることを踏まえ、契約資産についての改正時価開示適用指針における時価の開示は不要であると考えられる旨を改正時価開示適用指針第20-2項に記載している(論点の項目(71)、(74))。 Ⅴ 設例及び開示例 次の設例及び開示例を追加している。 また、次の設例を変更している。 Ⅵ 適用時期等 (了)
《速報解説》 ASBJが「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の確定を公表 ~解釈に関する混乱を避けるため公開草案からは一部記載の変更も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月31日、企業会計基準委員会は、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(企業会計基準第31号)を公表した。これにより、2019年10月30日から意見募集素していた公開草案が確定することになる。 これは、「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実を図るものである。 なお、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(改正企業会計基準第24号)の公表に伴い、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に対しても未適用の会計基準等に関する注記に関する定めが適用されることとなるとしているので、注意が必要である(「公表にあたって」)。 2020年5月15日に、企業会計基準公開草案第68号 「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」の主なコメントの概要とそれらに対する対応(以下「コメント対応」という)が公表されている。 コメント対応では、記載内容を個別に定めることについて、チェックリスト化することへの懸念が寄せられているとし、具体事例は記載しない対応としたことが述べられている(論点の項目(4)、(21)等)。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 基本的な方針 会計基準の開発にあたっての基本的な方針は、個々の注記を拡充するのではなく、原則(開示目的)を示したうえで、具体的な開示内容は企業が開示目的に照らして判断するものである(14項)。 会計基準の開発にあたっては、IAS 第1号「財務諸表の表示」125項の定めを参考とし、IAS 第1号第125項と同様の内容の開示を求めたうえで、内容をより適切に表す会計基準の名称として「会計上の見積りの開示に関する会計基準」を用いている(14項)。 2 開示目的 当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスク(有利となる場合及び不利となる場合の双方が含まれる)がある項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを目的とする(4項、17項)。 会計基準18項では、企業の「置かれている状況」の文言が使用されている。公開草案に対して、当該企業に「固有」の情報を具体的に記述すべきとのコメントが寄せられたが、コメント対応では、本公開草案において「置かれている状況」という文言を使用したのは、「固有」の文言を使用した場合に、例えば業界全体にわたる経営環境の変化などがあったときに「固有」の文言が、ある特定の会社にのみ及ぼされ、業界全体に影響するものは該当しないと解釈される可能性があると考えたためであるとのことである(論点の項目(4)、(11))。 会計基準に基づく開示は、将来予測的な情報の開示を企業に求めるものではないが、開示する項目の識別に際しては、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示するという開示目的を達成するために、翌年度の財務諸表に及ぼす影響を踏まえた判断を行う(19項)。 公開草案における考慮すべき将来の期間を「翌年度」とする提案に対し、「翌年度以降」の財務諸表に影響を及ぼす可能性がある項目とすべきというコメントが寄せられたが、IAS 第1号第125項の定めも踏まえた検討の結果、会計基準では「翌年度」としている(19項)。 3 開示する項目の識別 会計上の見積りの開示を行うにあたり、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別する(5項、23項~24項)。 公開草案で提案した開示目的の内容に関して、発生可能性の閾値の解釈について混乱が生じることを避けるなどの理由により、公開草案の「可能性が高い」との記載を削除し、「翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目」と記載を変更している(20項)。 4 注記事項 次の事項が規定されている(6項~9項、32項、33項)。 Ⅲ 未適用の会計基準等に関する注記 「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(改正企業会計基準第24号)の公表に伴い、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に対しても未適用の会計基準等に関する注記に関する定めが適用されることとなる。 改正企業会計基準第24号の原則的な適用時期は、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表からであるが、本改正の趣旨に鑑みて、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の公表後、適用までの間は、改正企業会計基準第24号第22-2項「未適用の会計基準等に関する注記」を類推適用し、次の事項を注記することが適切と考えられている(「公表にあたって」)。 かつて、企業会計基準公開草案第33号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第32号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準の適用指針(案)」に対するコメントとそれに対する対応では、次のように考え方が示されていた。 Ⅳ 適用時期等 (了)
《速報解説》 「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が意見募集を経て正式公表 ~関連する会計基準等の定めが明らかでない場合の注記事項充実を図る~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月31日、企業会計基準委員会は、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(改正企業会計基準第24号)を公表した。これにより、2019年10月30日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続」に係る注記情報の充実を図るものである。 会計基準の名称については、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)から「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(改正企業会計基準第24号)へ改正されている。 なお、本会計基準の公表により、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に対しても未適用の会計基準等に関する注記に関する定めが適用されることとなるとしているので、注意が必要である(「公表にあたって」)。 2020年5月15日に、企業会計基準公開草案第69号(企業会計基準第24号の改正案)「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」の主なコメントの概要とそれらに対する対応(以下「コメント対応」という)が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合 「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」とは、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しない場合をいう(4-3項)。 これに関連して次のことが記載されている(44-4項、44-5項)。 公開草案では、「関連する会計基等の定めが明らかでない場合」に関して、参考となる既存の会計基準等(他の会計基準設定主体が定めた会計基準等を含む。)がある場合との記載があったが、提案された形で「他の会計基準設定主体が定めた会計基準」の適用を認めることは意図しない形で他の会計基準設定主体が定めた会計基準が準用されかねないなどのコメントを受け、当該記載は削除されている(コメント対応の論点の項目(7))。 2 会計方針の例 改正企業会計基準第24号は、「企業会計原則」注解(注1-2)の定めを引き継いでおり、重要な会計方針に関する注記における従来の考え方を変更するものではない(28-2項、29-2項)。 そして、「財務諸表には、重要な会計方針を注記する」とし、次の例を示している(4-4項、4-5項)。 なお、会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められていない場合には、会計方針に関する注記を省略することができる(4-6項、44-6項)。 Ⅲ 未適用の会計基準等に関する注記 会計基準では、従来の「未適用の会計基準等に関する注記」(改正前の企業会計基準第24号の12項)を、改正企業会計基準第24号の22-2項に移動させ、「未適用の会計基準等に関する注記」と整理している。 この整理は、「未適用の会計基準等に関する注記」に関する定めは、既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等全般に適用されることを明確化することを意図している(28-3項)。 このため、改正企業会計基準第24号の22-2項「未適用の会計基準等に関する注記」では、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に対しても未適用の会計基準等に関する注記に関する定めが適用されることに注意が必要である。 未適用の会計基準等に関する注記については、決算日までに新たに公表された会計基準等について注記を行うことになるが、決算日後に公表された会計基準等についても当該注記を行うことを妨げるものではない。この場合は、いつの時点までに公表された会計基準等を注記の対象としたかを記載することが考えられる(68-2項)。 改正企業会計基準第24号の原則的な適用時期は、2021年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表からであるが、本改正の趣旨に鑑みて、改正企業会計基準第24号の公表後、適用までの間は、改正企業会計基準第24号第22-2項「未適用の会計基準等に関する注記」を類推適用し、次の事項を注記することが適切と考えられている(「公表にあたって」)。 かつて、企業会計基準公開草案第33号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第32号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準の適用指針(案)」に対するコメントとそれに対する対応では、次のように考え方が示されていた。 Ⅳ 適用時期等 (了)
《速報解説》 国税庁、新型コロナウイルス感染拡大により外出を控えるなど期限内申告が困難な場合には、4月17日(金)以降も柔軟に確定申告書を受け付けることを公表 Profession Journal編集部 国税庁は4月6日付けで『確定申告期限の柔軟な取扱いについて(4月17日(金)以降も申告が可能です)』を公表、令和2年4月16日(木)まで延長している申告所得税、贈与税及び個人事業者の消費税の確定申告期限について、下記のとおり、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により外出を控えるなど期限内に申告することが困難な方については、期限を区切らずに、4月17日(金)以降であっても柔軟に確定申告書を受け付けることを明らかにした。 また、4月17日(金)以降の申告相談については先着順ではなく、原則として、事前予約制とするなど、感染リスク防止により一層配意した形で行うこととしている。 (了)
《速報解説》 実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」が正式公表 ~実務対応報告第5号等の改廃は今後の検討事項に~ 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 現行の連結納税制度を見直し、令和4年4月1日以後に開始する事業年度からグループ通算制度に移行することを定めた所得税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第8号)(以下「改正法人税法」という)が、2020年(令和2年)3月27日に成立した。 これにより、グループ通算制度の適用対象となる企業は、本来、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度、つまり、2020年3月期以後の決算(四半期決算を含む)において、グループ通算制度の適用を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要がある。 しかし、時間的制約があり、かつ、政省令等が公表されていない状況(※1)では、その判断を行うことについて、実務上対応が困難であることから、2020年3月27日開催の第428回企業会計基準委員会において、実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(実務対応報告第5号等の改廃が行われるまでの間は「今までのままでよい、ただし、その旨を注記する」という特例的な取扱い。以下「本実務対応報告」という)が承認され、3月31日に公表された。 (※1) 令和2年3月31日の官報特別号外第37号にて令和2年度税制改正に係る政省令も公布されているが、連結納税制度の見直し(グループ通算制度の創設)に関連する政省令は今回の官報において公布されていない。 本実務対応報告は、2020年2月13日に公開草案が公表され、コメント募集が行われた後、企業会計基準委員会が寄せられたコメントを検討し、公表するに至ったものであるが、その内容については公開草案から変更は生じていない。 そのため、本実務対応報告の内容については、2月掲載の下記拙稿を参照してほしい。 ただし、本稿では次の3点について補足しておきたい。 なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。 [補足1] 本実務対応報告第15項では「特例的な取扱いを定めるにあたっては、例えば、繰越欠損金に重要性のない企業では、特例的な取扱いを適用する必要のない場合が生じることも考えられるため、選択適用とすることとした。」と記載されている。 ここで、特例的な取扱いを適用する必要のない場合とは、連結納税制度でもグループ通算制度でも回収可能額が変わらない場合ということになろうが、例えとして「繰越欠損金に重要性のない企業」を挙げている。これは、連結(通算)グループ内のすべての法人が繰越欠損金(連結欠損金個別帰属額)を有しておらず欠損金の通算が行われない場合や、有していても金額が少額であり欠損金の通算の税額に与える影響がほとんどない場合であれば、現行制度と新制度のいずれであっても将来の税額計算(回収可能額の計算)に重要な差異は生じないはず、ということだろう。 [補足2] 本実務対応報告は連結納税制度を採用している企業又は採用を予定している企業を適用対象としているが、改正法人税法ではグループ通算制度への移行にあわせた単体納税制度の見直しも行われている(受取配当等の益金不算入制度、寄附金の損金不算入制度、貸倒引当金、資産の譲渡に係る特別控除額の特例の見直し)。 そのため、税効果適用指針第44項に従うと、本来、単体納税制度を適用している企業も、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む)において、この見直し後の取扱いの適用を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要がある。 しかし、この見直しのうち、関連法人株式等に係る負債利子控除額の計算方法の見直しと貸倒引当金の100%グループ内債権の除外のほかは、将来の税額計算(回収可能額の計算)において織り込まれるものはないことが見込まれるため、その影響が大きくないのであれば、実務上、本実務対応報告が適用されている間は、単体納税制度を採用している企業がその見直しを考慮することはないであろう。 [補足3] 本実務対応報告は、当然のことながら、日本基準を採用している企業を対象としている。 つまり、IFRSを採用している企業については適用されない。 そのため、連結納税制度を採用している企業又は採用を予定している企業のうち、IFRSを適用している企業については、IAS第12号「法人所得税」第46項に従い、原則どおり、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度、つまり、2020年3月期の決算(四半期決算を含む)から、グループ通算制度の適用を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要がある。 この場合、本実務対応報告が公表された理由と同様に、少なくとも2020年3月期において、グループ通算制度の適用を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行うことは困難であるため、現実的な対応としては、改正法人税法で明らかになっている範囲で連結納税制度の見直しのうち回収可能額に影響が生じる取扱いを把握し、その取扱いについて部分的に影響額を試算し、それが重要な差異にならないことが見込まれるのであれば(※2)、最終的には改正前の税法の規定に基づいた繰延税金資産の回収可能額を計上するという方法しかないだろう。その点で、あくまで建前上、改正後の税法の規定に基づいた(グループ通算制度の適用を前提とした)繰延税金資産を計上するということになろう。 (※2) IFRSは基本的に連結財務諸表に適用されるため、その重要性の判断も連結(通算)グループ全体で判定することになろう。 本実務対応報告は、実務対応報告第5号等の改廃が行われるまでの当面の取扱いであるが、今後、国税庁からのQ&Aや政省令によってグループ通算制度の詳細がさらに明らかにされることによって、企業会計基準委員会において実務対応報告第5号等の改廃の検討が進められていくだろう。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和元年7月~9月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2020(令和2)年3月26日、「令和元年7月から令和元年9月までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり12件となっており、所得税法が4件、相続税法及び国税徴収法が各3件、国税通則法及び消費税法が各1件となっている。 国税不服審判所によって課税処分等の全部又は一部が取り消された裁決が8件、棄却された裁決が4件となっている。 【表:公表裁決事例令和元年7月~9月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された12件の裁決事例のうち、取引先との間での通謀があったどうかの認定が争点となった国税通則法の事例と所得税法に関する必要経費の範囲と事業専従者給与を争点とした裁決事例について、その判断のポイントを中心に紹介したい。いつものお断りであるが、論点を整理するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 1 検収日付に関し、取引先との間で通謀はないと判断した事例・・・① 本件は、石油の輸出入業、精製業及び販売業等を目的とする法人である審査請求人が、手書きの図面を電子データ化する費用を損金の額に算入したことについて、原処分庁が、当該電子データ化が完了していないにもかかわらず、相手方と通謀して虚偽の証憑書類を作成し、当該費用を損金の額に算入したことが事実の仮装の行為に当たるとして、法人税等及び消費税等の重加算税の賦課決定処分をしたことに対し、請求人が、相手方と通謀して虚偽の証憑書類を作成した事実はないとして、これらの処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 請求人には国税通則法第68条第1項に規定する事実の仮装があったか否か。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、通則法68条1項について、次のとおり、法令解釈を行った。 そのうえで、認定した事実、関係者の申述及び答述に基づき、請求人の従業員及び工事施工会社の従業員は、工事に関するファイルが提出された時点で役務の提供が実質的に完了しているとの認識の下、検収書に施工完了日及び検収日を2017年3月20日と記載したと認められ、両者が通謀し、虚偽の施工完了日及び検収日が記載された検収書を作成することにより、本件工事に係る役務の提供が完了していないにもかかわらず、あたかも役務の提供が完了したかのように故意に事実をわい曲したとは認められないと判断した。 審判所は、上記の判断に基づき、請求人による審査請求には理由があることから、原処分の一部を取り消す旨の裁決を行った。 2 賃貸していた土地の上に存する賃借人所有の建物収去のための支出を必要経費と認めた事例・・・③ 本件は、不動産貸付業を営む個人事業者である審査請求人及びその母(以下、審査請求人と併せて「請求人ら」という)が、賃貸していた土地上に存する土地の賃借人所有の建物収去に要した費用について、いずれも不動産所得の金額の計算上必要経費に算入して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、収去費用は家事上の経費に該当し、必要経費に算入することができないとして所得税等の更正処分等を行ったことに対し、請求人らが、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 建物収去費は、請求人らの不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できるか。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」に該当するためには、これと必要経費に算入されない家事上の経費との区分が明確となる必要があり、客観的にみて、その支出が不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要であることを要すると解するのが相当であるとしたうえで、さらに、その判断にあたっては、単に業務を行うものの主観的判断によるのではなく、業務の内容等個別具体的な諸事情に即して社会通念に従って客観的に行われるべきであるとの法令解釈を述べた。 そのうえで、審判所は事実認定に基づき、次の2つの判断を示したうえで、本件の建物収去費は、請求人らの、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができるとして、請求人らの審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととするという裁決を行った。 3 事業所得における青色事業専従者給与の一部を否認した事例・・・④ 本件は、歯科医院を営む歯科医師である審査請求人が、事業所得の金額の計算上、請求人の配偶者に対して支払った青色事業専従者給与を必要経費に算入して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該青色事業専従者給与の金額のうち労務の対価として相当であると認められる金額を超える部分の金額は必要経費に算入できないとして、更正処分等を行ったことに対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 本件における青色事業専従者給与額は請求人の配偶者の労務の対価として相当か否か、また、相当と認められない場合、請求人の配偶者の適正給与相当額はいくらか。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、所得税法は、青色申告の承認を受けている事業者が、青色事業専従者に支払う給与の金額のうち、一定の状況に照らし、その労務の対価として相当であると認められるものは、必要経費に算入することができる旨規定しており、この「一定の状況」として、①労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、②その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況及び類似同業者に従事する者が支払を受ける給与の状況並びに③その事業の種類及び規模並びにその収益の状況を掲げているとしたうえで、その趣旨として次のように述べている。 審判所は、本件における青色事業専従者給与額が請求人の配偶者の労務の対価として相当か否かについて、各年における配偶者の労務の性質及びその提供の程度を前提として、青色事業専従者給与額と労務の性質が配偶者と最も類似する同じ歯科医院で働く歯科衛生士が各年において支払を受けた給与の額とを比較する方式(以下「使用人給与比準方式」という)及び、青色事業専従者給与額と請求人の類似同業者の事業に従事する青色事業専従者が各年において支払を受けた給与の額の平均額とを比較する方式(以下「類似同業専従者給与比準方式」という)によって検討を行った。 その結果、請求人の配偶者の労務の性質は歯科衛生士労務の性質とは異なり、また、配偶者の労務の影響の程度については、客観的な証拠によって認定することはできないと判断し、配偶者の各年分の適正給与相当額を算定するに当たって使用人給与比準方式によることは相当ではないとの結論に至った。 一方、原処分庁が採用した類似同業専従者給与比準方式による適正給与相当額の算定には、類似同業者の抽出基準の一部が相当でないとして、審判所として、抽出基準を見直したうえで、適正給与相当額の算定を行った。 その結果、審判所が算定した適正給与相当額は原処分の算定した額を上回り、請求人の納付すべき所得税額は原処分庁の更正処分における金額を下回ることから、原処分庁による更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の一部を取り消す裁決を行った。 (了)