マイナンバーの会社実務 Q&A 【第21回】 「平成29年分給与所得者の扶養控除等申告書における マイナンバーの記載の省略」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 平成29年分給与所得者の扶養控除等申告書において、マイナンバーの記載を省略できるケースがあれば教えてください。 〈A〉 平成28年分給与所得者の扶養控除等申告書にマイナンバーが記載されている場合であっても、平成29年分給与所得者の扶養控除等申告書にはマイナンバーを記載しなければならない。 ただし、次の2つのケースにおいては、マイナンバーの記載を省略することができる。 (了)
「中小企業等経営強化法」の成立について ~中小企業を支援する新たな枠組みの導入へ~ 【後編】 佐伯 徳彦 (※1) (※1) 中小企業庁事業環境部企画課長補佐(総括)。今回の法改正については、非常に多くの方々から御知見・御示唆・御協力・御理解を頂いた。改めて感謝申し上げたい。 Ⅳ 経営力向上計画(法第13条~第15条) 1 背景 「経営力向上計画」は、今回の改正により、新たに設けた経営力向上のための計画類型となる。基本的に、自社の「本業」の生産性向上を目的としている。中小企業者等の方々には、この計画の認定を取って頂くことにより、様々な支援措置を受けることができる。 2 記載に当たってのポイント 「経営力向上計画」においては、おおむね、①自社の現状認識、②生産性向上の目標(基本的には労働生産性の向上目標)、③経営力向上の内容の3つを重点的に記載して頂き、あとは利用される施策を踏まえて、御記入頂くことになる。 申請書は、簡素化するため様式上は2枚となっているが、記載頂く内容は、必ずしも2枚にとどめて頂く必要はない。 主なポイントとしては、次のとおり。 まず現状認識について、自社の経営課題や状況を書いて頂くこととなるが、審査上重視する点としては、具体的な「経営力向上の内容」につながるような分析となっているか、という点となる。また、「ローカルベンチマーク」(※2)の指標を用いることも推奨している。 生産性向上の目標については、基本的に労働生産性の向上を要件としているが、「事業分野別指針」において、当該分野の特別の指標を設ける場合があるため、「事業分野別指針」についても確認をお願いしたい。労働生産性は、(営業利益+人件費+減価償却費)/従業員数又は従業員×労働時間となる。これは現状の数値を算出できれば、数字を作ることは難しくはないと思われる。 経営力向上の内容については、「事業分野別指針」における「経営力向上の内容に関する事項」を参考にして頂きつつ、自社にとって具体的にどのような措置を講じられるのか分かりやすく記載して頂き、労働生産性がなぜ上がるのかについて、説明がつながるように説得的に記載して頂きたい。 また、「事業分野別指針」がない場合でも、経営力向上計画の申請は可能となっている。その際、経営力向上の内容に何を書けばよいのか、という相談も頂いているが、「中小企業等の経営強化に関する基本方針」を参考にして頂きたい。 具体的には、第4経営力向上-第2項経営力向上の内容に関する事項-第2号「事業活動に有用な知識又は技能を有する人材の育成」、第3号「財務内容の分析の結果の活用」、第4号「商品又は役務の需要の動向に関する情報の活用」、第5号「経営能率の向上のための情報システムの構築」を参考にされたい。 (※2) 詳しくは、経済産業省HPを御覧下さい。 3 主な手続 まず、固定資産税の軽減措置を受けることを検討される場合には、あらかじめメーカーや商社を通じて、生産性に係る証明書を取ることができるのか相談をお願いしている。また、金融支援を受ける場合にもあらかじめ金融機関と相談をお願いしている。特に、金融支援は、計画認定があれば自動的に受けられる訳ではなく、金融機関による別途の審査があるため、注意されたい。 また、認定経営革新等支援機関による申請書の確認を受けることを要件とはしていないが、計画の客観性を担保する観点から奨励はしており、指導・助言を受けている場合には「チェックリスト」に記載を頂きたい。 申請書の提出の際には、チェックリストを添付して頂くとともに、固定資産税の軽減措置を受ける場合には、設備の生産性向上要件に係る証明書(中小企業等経営強化法の経営力向上設備等に係る仕様等証明書)の添付をお願いしているので、忘れないようにお願いしたい。 その上で、主務大臣に提出して頂くことになる。主務大臣は、業種を所管する大臣となり、具体的な窓口としては地方支分部局であることが多い。この点については、中小企業庁のホームページをご覧頂くか、相談窓口まで電話を頂きたい。 なお、審査に要する期間は1か月を念頭に置いているが、年末など、固定資産税の軽減措置との関係で申請が殺到することも想定される。このため、遅くとも年内では11月半ばまでに申請を受理されるように手続を進めて頂くことをお願いしたい。 固定資産税の軽減措置を受けられる場合には、この上で、市町村に対して償却資産について固定資産税の申告を行って頂くことになり、申請書と認定書の写しが必要となる。申告期間は、市町村によって異なるが、1月1日の賦課期日から1月末日頃となる。市町村の定める方法により特例の適用を申請した上で、申告を行った年の4月から始まる年度の固定資産税が軽減されることになる。申告、特例の申請を忘れないようにして頂きたい。 4 取消の要件 経営力向上計画の取消については、主務大臣が「経営力向上計画に従って経営力向上に係る事業が行われていないと認めるとき」(法第14条第2項)としており、計画どおりに事業を実施していない場合となる。計画どおりに事業を行った場合において、労働生産性の目標などが未達成の場合であっても、ただちに取り消されるわけではない。 5 経営革新計画との関係(法第8条) 中小企業等経営強化法では、「経営革新計画」が存在しており、「経営力向上計画」との役割分担について御質問頂くことも多い。一言で申し上げれば、経営革新計画では「新たな収益源」を求める活動を支援している一方、「経営力向上計画」では本業の生産性向上を支援することを目的としているところである。 6 その他の主な論点 「経営力向上計画」の申請のタイミングであるが、通常、税制の軽減措置を受けようとすると計画認定を受けた後で資産を取得する場合が支援対象となるが、今回は、法律施行後の7月1日以降であれば、新たな機械及び装置の取得後60日以内に申請書が受理されれば、申請することを可能とさせて頂いている。 V 支援措置 1 固定資産税の軽減措置(地方税法附則第15条第46項) 繰り返しになるが、今回の法改正では、固定資産税の軽減措置が導入された。具体的には、「経営力向上計画」に基づいて、新たに導入した機械及び装置についての課税標準が、3年間半額になる(※3)。この措置は、中小企業の設備投資を促進する目的としては初めてのこととなる。今回の改正法の附則第3条により、地方税法を改正し、地方税法附則第15条第46項が新設された。 主な要件としては、①経営力向上計画において記載した機械及び装置であること、②販売開始から10年以内のもの、③旧モデル比で生産性(単位時間当たりの生産量、精度、エネルギー効率等)が年平均1%以上向上するもの、④1台又は1基の取得価額が160万円以上するもの、となる。本件は、生産性向上設備投資促進税制のA類型の要件から、最新設備の要件が求められないもの、と御理解頂いて、おおむね差し支えない(※4)。 なお、申請主体は、経営力向上計画の申請主体がすべて対象となるのではなく、租税特別措置法における「中小事業者」と「中小企業者」が対象になる。 具体的には、個人事業主(中小事業者)として、常時使用する従業員の数が1,000人以下(租税特別措置法第10条第6項第4号及び租税特別措置法施行令第5条の3第8号)、法人(中小企業者)としては、資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下の法人、出資を有さない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下(同法第42条の4第6項第4号及び同法施行令第27条の4第5項)となり、みなし大企業(※5)は対象とならない。 このうち、旧モデル比の生産性向上要件の証明については、あらかじめ定めた工業会等が実施することとなる。なお、工業会等については、いわゆる耐用年数省令(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)第1条第1項第2号に基づき、別表第二「機械及び装置の耐用年数表」を基礎に整理されているので、中小企業庁のホームページをご覧頂きたい。 固定資産税の軽減措置を受けることを希望される際には、経営力向上計画の申請書に、生産性向上に係る証明書を添付して頂くことになる。申請者におかれては、導入する設備を取り扱っているメーカーや商社に対して、工業会等からの生産性要件に係る証明書の発行を依頼して頂きたい。 (※3) 平成28年度税制改正大綱(平成27年12月16日自由民主党・公明党)において、第二 平成28年度税制改正の具体的内容-二 資産課税-3 租税特別措置等-(地方税)- 〔新設〕-〈固定資産税・都市計画税〉の(2)に記載されているものが本税制となる(p.47)。 (※4) 筆者はたまたま生産性向上設備投資促進税制の企画を担当させて頂いた。奇遇に感じている。 (※5) 具体的には、発行済株式又は出資の総数又は総額の2分の1以上の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が1億円を超える法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人)の所有に属している法人、その発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上が大規模法人の所有に属している法人を言う。 2 信用保証の別枠化(法第16条第7項から第9項) 中小企業者は、各信用保証協会において、保証を受けることができるが、経営力向上計画の認定を受けた場合には、新設される「経営力向上関連保証」により別枠等として保証や保証料の引下げを受けることができる。 具体的には、普通保険、無担保保険、特別小口保険については、別枠化(法16Ⅶ)され、海外投資関係保険(法16Ⅷ)、新事業開拓保険(法16Ⅸ)については、増枠されることになる。 なお、今回拡大される枠については、「新事業活動」に限定される(中小企業等経営強化法施行規則第9条)点には留意を頂きたい。 信用保証料の引下げの措置も講じている。保証料そのものは各信用保証協会において定めているが、信用保証協会に対して、株式会社日本政策金融公庫が保険を行っている。その保険料を引き下げる(※6)(法16Ⅺ)ことを通じて、保証料の引下げを行っている。 信用保証の別枠化をご利用される場合には、取引先の金融機関に御相談頂くか、各信用保証協会に御相談頂きたい。 (※6) 具体的な保険料率は、普通保険及び無担保保険については0.41%、特別小口保険については0.19%となる。 3 中小企業投資育成株式会社法の特例(法第17条) 中小企業投資育成株式会社は、中小企業投資育成株式会社法に基づき、東京、名古屋、大阪の3か所に設置されている。主な役割は、「中小企業の自己資本の充実を促進」することにあり、未公開企業に対する投資を行っている。 中小企業投資育成株式会社法第5条に基づき、各中小企業投資育成株式会社は資本金3億円以下の株式会社の株式の引き受けができるが、この特例により、3億円を超える場合においても株式の引き受けを行うことができる。 4 スタンドバイクレジット(海外金融機関向けの債務保証)(法第18条) 株式会社日本政策金融公庫は、海外の金融機関に対して、4.5億円まで債務保証を行うことができ、これにより、中小企業者は現地通貨での資金調達が容易となる。スタンドバイクレジットは、「債務保証」の英訳である。 海外の金融機関としては、平安銀行(中国)、バンクネガラインドネシア(インドネシア)、KB國民銀行(韓国)、CIMB銀行(マレーシア)、バノルテ銀行(メキシコ)、メトロポリタン銀行(フィリピン)、ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(シンガポール)、合作金庫銀行(台湾)、バンコック銀行(タイ)、ベト・イン・バンク(ベトナム)となっている(※7)。 (※7) 2016年6月現在。詳しくは、株式会社日本政策金融公庫HPを参照されたい。 5 独立行政法人中小企業基盤整備機構による債務保証(法第19条) 信用保証は中小企業向けの債務保証であるが、中小企業者等の「等」となる中堅企業を中心に債務保証を独立行政法人中小企業基盤整備機構が行うものとなる。債務保証の保証比率は50%と低いが、25億円までの保証が可能であり、保証料率は0.3~0.4%となる。お申し込みの際には、取引先金融機関や独立行政法人中小企業基盤整備機構に相談されたい。 6 食品流通構造改善促進法による債務保証(法第20条) 食品製造業者等又は食品製造事業協同組合等は、食品流通構造改善促進法第4条第1項に基づき、農林漁業者又は農業協同組合等と共同して、構造改善計画の認定を受ければ、公益財団法人食品流通構造改善促進機構による債務保証(同法12①)を受けることができる(保証上限6億円、保証料率0.8%)(※8)。 中小企業等経営強化法では、この例外として、食品製造業者等が単独で経営力向上計画の策定を行う場合でも、同機構から債務保証を受けることができることになる。 (※8) 詳しくは、公益財団法人食品流通構造改善促進機構HPを参照されたい。 7 認定取得事業者向けの支援措置(認定の「パスポート」化) この他、認定取得事業者向けの支援措置についても、併せて検討を進めている。 まず、商工組合中央金庫が独自の判断で、経営力向上計画の認定を取得している中小企業者等に対する融資を行っており、金利の軽減や審査の短縮化を行っている。 また、補助金の優先採択についても併せて取り組みを進めており、平成27年度補正予算であるものづくり・商業・サービス新展開支援補助金の第二次公募分(8月24日が閉め切りとなっている。)から、本計画の認定を取得している事業者に対して、審査の際に加点することとしているところである。 引き続き、補助制度をはじめとして、支援措置の拡充を図り、本認定が中小企業施策を利用する際の「パスポート」となるように確保することとしているところである。 Ⅵ 経営革新等支援機関 経営革新等支援機関は、中小企業による経営革新計画等の策定及び実施を支援することを目的に、平成24年改正により新設されたものである(改正法の名前は、「中小企業経営力強化支援法」であり、混同されることもある。)。現状では、25,611機関(平成28年10月7日現在)が認定されている。 1 法律上の業務追加 経営革新等支援機関は、経営革新や異分野連携新事業分野開拓を行おうとする中小企業に対して経営資源の内容、財務内容その他の経営状況の分析を行うほか、実際の計画策定や事業の実施に係る指導助言を行うことになっているが、本改正により、これに加えて、経営力向上を行おうとする中小企業者等が新たに支援の対象として追加されることになる(法21Ⅱ①、②)。 2 基本方針に基づく業務追加 経営革新等支援機関については、今回の法改正に合わせて、「基本方針」に基づく業務の追加が行われている(※9)。 (※9) なお、「基本方針」は、今回の法律改正にあわせて、「中小企業の新たな事業活動の促進に関する基本方針」から「中小企業等の経営強化に関する基本方針」に改正されている。 ① 計画策定の促進業務 経営力向上計画については、計画策定を中小企業者等に対して推奨することを「経営力向上に係る事業の計画に基づく取組の促進」として定めている(基本方針第5Ⅰ③)。 ② 「ローカルベンチマーク」の活用促進業務 「ローカルベンチマーク」の活用を促すことを配慮事項として定めている(基本方針第5Ⅲ②へ)。 ③ 事業承継 同じく、「事業承継ガイドライン」を踏まえた計画的な事業承継の促進を配慮事項として定めている(基本方針第5Ⅲ②ト)。 Ⅶ 事業分野別経営力向上推進機関 1 背景 生産性向上に向けた取り組みを全国的に拡げていくためには、個別企業による取り組みを支援し奨励するだけでなく、民間の立場から、幅広く中小企業者等に対して生産性向上を推進する活動を行う組織を支援することが政策的にも有意義である。この観点から、「事業分野別経営力向上推進機関」を新設した。 2 主な役割 また、事業分野別経営力向上推進機関は、事業分野別指針の普及啓発や研修を行う(法26Ⅱ①)ほか、経営力向上のための最新の知見に係る情報の収集等を行うことになる(法26Ⅱ②)。 また、この得られた知見を事業分野別指針に反映するため、主務大臣に対する意見を行う「専門家その他の関係者」(法12Ⅳ)の役割を果たすことも想定している。さらに、主務大臣が経営力向上計画の認定業務を行うにあたり、主務大臣が「必要と認めるときは」、「資料の提出その他の必要な協力」を行うこととしている(法15)。 上記の背景を踏まえ、主な担い手として、典型的には業界団体や組合などの業種に関する専門的知見を有する事業者団体を想定しているが、特段これに限定していない(法26Ⅰ)。多くの方々からの申請をお待ちしている。 3 支援措置 法律上の支援措置として、独立行政法人中小企業基盤整備機構から専門家の派遣その他の必要な協力を受けることができる(法29)。また、研修を行う場合には、雇用保険法第63条の「能力開発事業」として、労働保険特別会計からの助成及び援助を受けることができる(法30)。 Ⅷ 結語 ~残された課題 今回の改正により、中小企業等経営強化法への法律の仕組みが変更され、業種ごとに事業分野別指針を整備し、中小企業の本業そのものに対する支援に対して、支援措置を強化することになる。 この仕組みは、経済産業省・中小企業庁のみならず、オール霞が関で実施することになり、より実効性を担保できうるものと考えている。 事業分野別指針や執行体制の整備は、引き続き見直しや拡充を図っていく必要があるが、今回の法改正による整備が、日本の中小企業、中堅企業、非営利活動法人の方々の経営の転換のきかっけとなることを願ってやまない。 今回の法改正では、中小企業と他の法人類型との関係、新陳代謝のあり方、労働生産性、業種に着目した施策体系など、これまであまり取り上げられてこなかった視点を導入したものと考えている。将来的な課題として、本改正を、中小企業政策の体系の中においてどのように位置づけ、また、整理を図るべきかは大きな課題となりうる。本改正が、今後の政策の一つのマイルストーンとなることを期待したい。 (連載了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例43(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措法41の5) 個人が所有期間5年を超える居住用財産の譲渡をした場合において、その譲渡年の前年から譲渡年の翌年までの間に一定の買換資産の取得をし、かつ、その取得年の翌年までの間に居住の用に供したときは、その譲渡による譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額のうち一定の方法により計算した金額は、一定要件の下で他の所得との損益通算ができる。ただし、この損益通算の特例は、買換資産を取得した年の年末において、その買換資産の取得に係る住宅借入金等の残高がある場合に限り適用できる。 〈期間及び取得期限〉 先行取得した場合 ◆譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期(所基通36-12) 譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとする。ただし、納税者の選択により、当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときは、これを認める。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第9回】 「別表6(7) 試験研究費の増加額等に係る法人税額の特別控除に関する明細書」、「別表6(8) 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除における平均売上金額、比較試験研究費の額及び基準試験研究費の額の計算に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、複数の書き方パターンがある様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第9回目は、前回採り上げた研究開発税制のうち、解説できなかった残りの「別表6(7) 試験研究費の増加額等に係る法人税額の特別控除に関する明細書」と、その計算明細である「別表6(8) 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除における平均売上金額、比較試験研究費の額及び基準試験研究費の額の計算に関する明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 別表6(7)は、青色申告書を提出する法人が租税特別措置法第42条の4第4項の規定(試験研究費の増加額等に係る法人税額の特別控除)の適用を受ける場合に作成する。 いわゆる研究開発税制は、現在、以下の4つの制度により構成されている。 上記①から③の制度は前回解説した別表6(6)及びその計算明細である別表6(8)を用いるが、今回解説する別表はそれ以外の④の制度を適用する場合に用いることになる。 ④の試験研究費の額が増加した場合等の税額控除制度は、青色申告法人の平成20年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する各事業年度において損金の額に算入される試験研究費の額がある場合で、次の(1)又は(2)のいずれかに該当するときに、上記①~③の制度とは別枠で、その試験研究費の額の一定割合の金額をその事業年度の法人税額から控除する制度(ただし当期の法人税額の10%が上限)である。 Ⅲ 「別表6(7)」、「別表6(8)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成28年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 別表6(7) 試験研究費の増加額等に係る法人税額の特別控除に関する明細書 別表6(8) 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除における平均売上金額、比較試験研究費の額及び基準試験研究費の額の計算に関する明細書 〔Ⅰ 平均売上金額の計算に関する明細書〕 〔Ⅱ 比較試験研究費の額及び基準試験研究費の額の計算に関する明細書〕 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q17】 「私募外国株式投資信託の償還時の取扱い」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 所得分類 所得税法上、公募でなく、かつ、金融商品取引所等に上場等もされていない株式投資信託は、租税特別措置法第37条の10第1項に規定する「一般株式等」に分類されます。この取扱いは、株式投資信託が外国投資信託の場合も同様です。 所得税法上、一般株式等に分類される投資信託の終了又は一部解約により交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額(以下、「金銭等の合計額」という)のうち、当該投資信託について信託された金額を超える部分の金額については、配当所得に係る収入金額とされます。 さらに、私募株式投資信託の終了又は一部解約により交付を受ける金銭等の合計額のうち株式投資信託について信託されている金額に達するまでの金額は、私募投資信託の受益権の譲渡による収入金額とみなされます。したがって、当該収入金額とその私募投資信託の取得価額との差額が一般株式等に係る譲渡所得等とされます。 図解すると、以下のようになります。 〈投資信託の解約時の所得分類〉 2 課税方法 ① 配当所得 配当所得として取り扱われる部分については、一般株式等の配当所得に該当するため、1回に支払を受ける金額が少額の場合を除き、申告が必要です。総合課税の対象となります(上場株式等の配当所得等に係る申告分離課税の適用はありません)。 本件の償還金額を日本における支払の取扱者(【Q4】のキーワード参照)を通じて支払を受ける場合は、配当所得とされる金額について20.42%(所得税及び復興特別所得税)の税率にて源泉所得税が課されます。この源泉所得税は、申告所得税額から控除することができます。 ② 株式等の譲渡所得 本件は私募かつ非上場の株式投資信託の受益権であり、一般株式等に該当します。一般株式等の譲渡所得等の金額とされる金額については、他の所得と区分し、申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)が適用されます。譲渡損が生じた場合、一般株式等に係る譲渡所得等の範囲内で損益通算が可能です(※)。 (※) 平成27年12月31日以前は、上場株式等かそれ以外の株式等(一般株式等)の区別はなく、株式等の譲渡に係る譲渡所得等の範囲内での損益通算が可能でしたが、平成28年1月1日以後は、株式等を「上場株式等」又は「一般株式等」に区分し、それぞれの所得内でのみ損益通算が可能となりました。 本件は私募かつ非上場である株式投資信託の受益権の譲渡であり、上場株式等に係る譲渡損失について認められている特例(上場株式等に係る配当所得等との損益通算及び翌年以降3年間の繰越し)の適用はありません。 ③ まとめ 上記の通り、償還金額のうち一定の金額が配当所得、残りが一般株式等の譲渡所得等として取り扱われ、所得区分が異なることから、個々人の取得価額、投資信託に信託された金額及び償還金額によっては、プラスの配当所得及びマイナスの譲渡所得(譲渡損失)が発生する可能性があります。その場合、両者を相殺(損益通算)することができません。 (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第18回】 「租税法上の評価②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回では、大阪高裁昭和62年6月16日判決について解説を行った。 本稿では、東京高裁平成12年9月28日判決について解説を行う。本事件は、同族株主以外の株主であっても、純資産価額による買取りが保障されている場合には、純資産価額方式による評価をすべきであると判断された事件である。 2 東京高裁平成12年9月28日判決・TAINSコード:Z248-8734 (1) 事実の概要 本事件は、平成5年11月24日死亡した能沢十太郎(以下「亡十太郎」という)の共同相続人である原告らが、フォーエスキャピタル株式会社の株式(以下「本件株式」という)を特例的評価方式により評価して相続税の申告をしたところ、純資産価額方式により評価すべきであるとして、被告が原告らに対して平成7年7月31日付けで更正及びこれに対する過少申告加算税賦課決定(以下「本件各処分」という)を行ったのに対し、原告らが申告額を超える部分に係る本件各処分の取消しを求めた事件である。 なお、第一審判決文には、以下の事実関係が記載されており、その背景を理解すると裁判所の判断も分かりやすい。 (2) 第一審(東京地裁11年3月25日判決・TAINSコード:Z241-8368) (3) 控訴審 控訴審は、第一審の判断をそのまま踏襲しているため、詳細な解説は省略する。 (4) 評釈 このように、裁判所は納税者側の主張を認めず、国側の課税処分を認めた。判決文では、引受価格をいう記載もあるが、「同年前月末現在における本件株式につき純資産価額方式により計算された金額である別件発行における引受価格」と表現されていることから、実質的には純資産価額方式による評価額である。 本事件は、財産評価基本通達6項が適用されるべき事件であるようだが、6項は適用されていない。これは、「行政組織内部における機関相互の指示、監督に関して定めた規定」であることから、納税者にとっては関係のない話とされている。 本事件で留意すべき事項は、特例的評価方式が利用できることを理由として、節税商品を販売していたという事実関係があるという点である。そのため、かなり特殊な事案であると言えるが、例えば、①一部だけ特例的評価方式で移転した後に、残りを原則的評価方式で移そうとしたり、②一時的にファンドなどに中心的な同族株主になってもらい、残りの株主に特例的評価方式で移転した上で、当該ファンドから発行会社が買い戻したりするなど、実務上、特例的評価方式で相続できないかという相談を受けることがある。 実務上は、ケースバイケースであると思われるが、本事件を参考にすれば、慎重な対応が必要になる内容であると考えられる。 なお、類似の事件として、東京高裁平成15年7月31日判決・TAINSコード:Z253-9403があるため、興味のある読者は参照されたい。 次回では、東京高裁平成17年1月19日判決について解説を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【93】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その21:「文理解釈と立法趣旨①」(最判平22.3.2)) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 1 はじめに この判例は、立法趣旨からの課税庁の主張を是認した下級審の判決に対して、文理解釈による納税者側の主張を認めた事案である。 判例法としての射程は限定的であるが、法令解釈の基本的スタンスとして、立法趣旨等による論理解釈は文理からでは不明な点がある場合に限られるものであって、文理からその意味が明らかな場合には文理解釈によるべきことを示した判決といえる。 2 事案の概要 パブクラブ経営者(原告、控訴人、上告人)が、勤務するホステスに対する報酬(半月ごとに支払)の源泉徴収金額を算定するに当たり、ホステスが欠勤、遅刻等をした場合の「ペナルティ」の額を報酬の総支給額から控除した上で、所得税法施行令第322条の支払金額から控除し得る金額として「5,000円に当該支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額」とあることから、出勤日数にかかわらず5,000円に半月の日数を乗じた額を差し引いた残額に100分の10を乗じていた。 これに対して課税庁は、「ペナルティ」の額を報酬の総支給額から控除し得ず、所得税法施行令第322条の控除し得る金額は、5,000円にホステスの出勤日数を乗じた額にとどまるとして、差額分の納税告知処分等を行った。そこでパブクラブ経営者が、その取消しを求めた事案である。 なお、各ホステスに対して支払う報酬の額については、「1時間当たりの報酬額」(本件各集計期間における指名回数等に応じて各ホステスごとに定まる額)に「勤務した時間数」(本件各集計期間における勤務時間数の合計)を乗じて計算した額に、「手当」(本件各集計期間における同伴出勤の回数に応じて支給される同伴手当等)の額を加算して算出していた。 なお、さいたま地裁を第一審とする類似の事案が同時に進行し、最高裁判決は同日にほぼ同様の内容の判決を下しているが、ここでは判決が公開されている東京地裁を第一審とする事案をもとに進めていく。 3 関係法令 4 争点 所得税法施行令第322条における「当該支払金額の計算期間の日数」の意義。 なお、この事案では「本件各ペナルティの控除の可否」も争点として争われているが、この点は割愛する。 * * * 次回からは、実際の裁判所の判断内容について見ていく。 (続く)
〈業種別〉 会計不正の傾向と防止策 【第3回】 「不動産業」 公認会計士・税理士 中谷 敏久 どのような業種業態か? 不動産業は「土地建物の賃貸・仲介、売買、管理」を主な業務としており、その業務を行うためには、宅地建物取引業者として国土交通大臣又は都道府県知事の免許が必要である。またその免許は5年ごとに更新しなければならない。 賃貸・仲介業務については取引金額がそれほど高額ではないため町の不動産屋でも対応可能であるが、売買業務については取引金額が必然的に高額になるため、資金力のある信用度の高い上場会社が取り扱うケースが多い。上場会社といっても財閥系の老舗の上場会社もあれば、新興市場に上場しているデベロッパーと呼ばれる会社も存在する。特に1990年代のバブル経済がはじけ、都心の一等地が放出されるようになってきてからは、新興デベロッパーの躍進にはめざましいものがある。 戦後の高度成長期から土地の価格は上がり続け、土地は減価しないものと考えられていた。しかし、バブル経済崩壊後デフレの時代が20年以上続き、土地の価格も一部の地域を除いて毎年低下の一途をたどっている。時を同じくして会計ビッグバンが始まり時価会計が採用されてからは、土地の含み損を会計上認識するという大変革が起こったのである。 どのような不正が起こりやすいか? 不動産業では、2つの会計不正が起こりやすい。 1 保有目的による会計不正 土地建物等の不動産は、一般的には企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、その加工若しくは売却を予定しないため、固定資産として会計処理される(企業会計原則注解注16)。賃貸事業目的あるいは自社使用目的で保有する場合がそれに該当する。これに対し、不動産業では土地建物等の不動産を販売目的で保有することから、棚卸資産として会計処理されるケースがある。 すなわち、不動産業においては保有目的によって、土地建物等の会計処理を「棚卸資産」とするか「固定資産」とするか決定することができることになり、ここに第1の会計不正が発生する機会が認められる。 決算期末において、土地建物等の時価が取得価額より下がっている場合、棚卸資産として会計処理されていれば、低価法(資産の取得価額と時価とを比較して、いずれか低い方の価額を期末資産の評価額とする資産の評価方法)によって評価しなければならない(企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」)。 一方、固定資産として会計処理されていれば、低価法の適用はなく、減損会計が適用される。減損会計では、低価法のように取得価額と時価を比較して、時価が低ければ差額を評価損として計上するというような単純なものではなく、「減損の兆候」、「減損損失の認識」、「減損損失の測定」という3段階の過程を経て初めて減損損失が計上される(「固定資産の減損に係る会計基準」)。 「減損の兆候」とは、減損が生じている可能性を示す事象であり、例えば、次のような事象が該当する。 土地建物等の時価が取得価額より下がっている場合であっても、④に該当しなければ、減損損失を計上する必要はなくなる。棚卸資産の場合は時価が取得価額より少しでも下がっていれば評価損を計上しなければならないのに対し、固定資産の場合は時価が取得価額より著しく下落していなければ、減損の兆候があるとはいえないため減損損失を計上する必要はなくなるのである。 ここで「著しく下落する」とは50%以上下落する場合をいうのであるから、極端にいえば、時価が取得価額に比べて49%下落していても、減損損失の計上は回避される。 したがって、土地建物等を取得した場合に、真の保有目的は売却予定であるにもかかわらず、評価損の計上を避けるために賃貸事業目的あるいは自社使用目的として固定資産として計上することができれば、減損ルールが適用されるまで損失を会計上計上しないことが認められるのである。 なお、平成21年2月17日に「販売用不動産等の評価に関する監査上の取扱い」が改正され、 とされたため、保有目的を変更して棚卸資産から固定資産に振り替えた場合は損失を計上しなければならないことになったが、改正前は直前期末簿価での振り替えが認められていたため、損失の計上がなされないケースもあったのではないかと推測される。 2 時価評価に係る会計不正 第2の会計不正は、時価評価自体の不正である。 土地には複数の時価が存在するといわれる。実勢価格、公示地価、基準地価、路線価、固定資産税評価がそれであり、1物4価あるいは5価とも称される。 会計基準上は、これらの中から適切な時価を継続適用していれば土地の時価評価としては認められるが、土地及び建物が事業として一体利用されている場合には、不動産鑑定評価に基づいた時価を算定するケースが少なくない。なぜなら事業に用いている場合は必ずしも売却を前提としていないため、収益還元法によって不動産の価値を算定すべきだという考えがあるからである。 確かにこの考え方は合理的であり説得力がある。しかしながら、結果のみを恣意的に利用すれば、会計不正につながる危険性をはらんでいる。 不動産鑑定士が行った評価は絶対的なものと思われがちであるが、そうではない。不動産鑑定士は依頼者の提供した前提条件に基づいて不動産鑑定評価を行い、いわば依頼者に有利な鑑定を行う場合があるのである。 したがって、不動産鑑定評価額の結論のみではなく、その評価の前提となった条件が果たして合理的であるのかを吟味し、時価評価として採用ができるのか否かを慎重に見極める必要がある。 事例検証 平成25年5月22日に公表された(株)ランド(東証1部)の事例を紹介する。 第三者調査委員会の調査報告書によると、下記の点で疑義が認められたとしている。 なお、第三者調査委員会の調査が実施された場合には、その調査結果を踏まえて過年度財務諸表の修正が行われるのが一般的であるが、今回のケースでは、修正は行われていない。 不正の防止策 不動産を棚卸資産として計上するか固定資産として計上するかは、その保有目的によって決まるのであるが、恣意的に保有目的を決定したり変更したりするケースが少なくない。 それを防ぐためには、不動産の取得の経緯、調達資金の態様、収益計画の内容等を踏まえてその決定の妥当性を判断する必要がある。 また、時価評価に関しても、不動産鑑定評価が唯一絶対的なものではなく依頼者に誘導されたものである場合があることを認識し、時価評価として採用できるか否かを慎重に判断する必要がある。 同様の不正が起こりうる業種業態は? ゴルフ場業界などは不動産の取得価額と時価との差が多額になっているケースが多いため、不動産鑑定評価を恣意的に利用して、減損損失の計上を回避する不正が発生するリスクは高い。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第31回】 「圧縮記帳」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、圧縮記帳の会計処理について解説する。なお、圧縮記帳の税務上の要件や圧縮限度額の算定等については、解説していない。 法人税法上及び租税特別措置法上、主な圧縮記帳として以下が規定されている。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 圧縮記帳の会計処理は、監査第一委員会報告第43号「圧縮記帳に関する監査上の取り扱い(以下、「43号」という)」において「交換取引」、「交換取引に準ずるもの」、「国庫補助金、工事負担金等」の3つに分けられている。そのため、圧縮記帳の会計処理の検討する際は、この3つの分類のどれに当てはまるかを、まず検討する。 交換や換地処分による圧縮記帳の場合、「交換取引」に該当する。この場合、次に【STEP2】を検討する。 収用等による圧縮記帳や特定の資産の買換えで収用等に類する圧縮記帳(審理室情報第5号2.(2))の場合、「交換取引に準ずるもの」に該当する。この場合、次に【STEP3】を検討する。 国庫補助金、工事負担金等による圧縮記帳の場合、「国庫補助金、工事負担金等」に該当する。この場合、次に【STEP4】を検討する。また、保険差益の圧縮記帳(保険金等で同一種類、同一用途の固定資産を取得した場合に限る)の場合も「国庫補助金、工事負担金等」に該当するため、次に【STEP4】を検討する。 (1) 会計処理 交換取引の圧縮記帳の税務処理では、原則、交換取得資産の取得原価から圧縮損相当額を直接控除する(直接減額方式)。また、交換取得資産の取得価額について、圧縮損相当額を直接控除しないで、譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額とその交換取得資産の取得のために要した経費との合計額に相当する金額を下らない金額を交換取得資産の取得価額とすることも認められている(※)。 会計上、直接減額方式は、取得原価を減額するため、取得原価主義の考え方に照らして適切ではない。 そして、会計上は、交換取得資産の取得価額を、譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額と取得のために要した経費の合計額とする処理((※)と同様の会計処理)が適切であると考えられている(43号Ⅱ1)。 したがって、自己所有の固定資産と交換に同一種類・同一用途の固定資産を取得したときは、資産間の連続性又は同一性が認められるので、譲渡資産の帳簿価額を取得資産の取得価額として処理した場合((※)と同様の会計処理とした場合)、監査上妥当なものとして取り扱うとされている(43号一1、Ⅲ1)。 (2) 表示 交換取引の場合、譲渡資産の帳簿価額がそのまま取得資産の取得価額とされるため、圧縮損及び譲渡益に関する損益表示の問題は生じない(43号Ⅲ3)。 《設例1》 【交換時の会計処理】 (1) 会計処理 収用等による圧縮記帳の場合、税務上、直接減額方式と圧縮記帳方式が認められている。 【STEP2】で解説したとおり、直接減額方式は、取得原価を減額するため、取得原価主義の考え方に照らして適切ではない。そのため、会計上は、積立金方式が望ましい。 しかし、収用等により資産を譲渡し新たに取得した資産が、譲渡資産と同一種類、同一用途である等取得資産の価額として譲渡資産の帳簿価額を付すことが適当と認められるときに、譲渡益相当額をその取得価額から控除した場合(直接減額方式)は当面、監査上妥当なものとして取り扱う(43号一2、Ⅲ2)。 なお、収用等により資産を譲渡した事業年度に圧縮対象資産を取得できなかった場合の圧縮記帳見込額は、未決算特別勘定等の適当な科目で貸借対照表の負債の部に計上する(43号一(注2))。 《設例2》 (1) 積立金方式 (※1) 圧縮限度額10,000-(10,000×35%) 固定資産圧縮積立金は、土地の売却時に取り崩す。 (※2) 圧縮限度額10,000×35% 会計上の土地の計上額は20,000である。一方、税務上の土地の計上額は、10,000である。 したがって、会計上の土地>税務上の土地のため、将来加算一時差異が生じる。 繰延税金負債は、売却により将来加算一時差異が解消された場合、取り崩す。 (2) 直接減額方式 (※3) 圧縮限度額10,000 会計上と税務上の土地の帳簿価額が一致しているため、税効果の計上はない。 (2) 表示 交換取引に準ずる収用等に伴う代替資産の取得や、特定資産の買換え等による固定資産の取得の場合、本来なら、損益計算上、圧縮損と譲渡益とを相殺表示することが望ましいが、両建表示しても監査上妥当なものとして取り扱う(43号Ⅲ3)。 また、交換取引に準ずるものの場合、取得資産につき圧縮記帳を行った旨及び圧縮額を財務諸表に注記する。なお、当該注記は、圧縮記帳が行われた事業年度の財務諸表についてのみ行えば足りる(43号一(注3)、Ⅲ5)。 (1) 会計処理 国庫補助金、工事負担金等による圧縮記帳の場合、税務上、直接減額方式と圧縮記帳方式が認められている。 【STEP2】で解説したとおり、直接減額方式は、取得原価を減額するため、取得原価主義の考え方に照らして適切ではない。そのため、会計上は、積立金方式が望ましい。 しかし、国庫補助金、工事負担金等により取得した固定資産について、国庫補助金、工事負担金等に相当する金額をその取得価額から控除した場合(直接減額方式)も企業会計原則注解24の趣旨に照らして、監査上妥当なものとして取り扱う(43号一(注1))。 また、保険差益についても、保険金等で同一種類、同一用途の固定資産を取得した場合には、直接減額方式も監査上、妥当なものとして取り扱う(43号Ⅲ2)。 なお、国庫補助金、工事負担金等を受けた事業年度に圧縮対象資産を取得できなかった場合の圧縮記帳見込額は、未決算特別勘定等の適当な科目で貸借対照表の負債の部に計上する(43号一(注2))。 《設例3》 (1) 国庫補助金の受領(X1年度) (2) 固定資産の取得(X1年度) (3) 圧縮記帳(X1年度) ① 積立金方式 (※1) 圧縮限度額10,000-(10,000×35%) 固定資産圧縮積立金は、建物の減価償却、売却等により取り崩す。 (※2) 圧縮限度額10,000×35% 会計上の建物の計上額は30,000である。一方、税務上の土地の計上額は、20,000である。 したがって、会計上の建物>税務上の建物のため、将来加算一時差異が生じる。 繰延税金負債は、減価償却、売却等により将来加算一時差異が解消された場合、取り崩す。 ② 直接減額方式 (※3) 圧縮限度額10,000 会計上と税務上の建物の帳簿価額が一致しているため、税効果の計上はない。 (4) 減価償却(X2年度) ① 積立金方式 (※4) 6,500÷10年 (※5) 3,500÷10年 ② 直接減額方式 (2) 表示 国庫補助金や工事負担金等についても、【STEP3】の交換取引に準ずるものと同様に本来なら、損益計算上、圧縮損と受入益とを相殺表示することが望ましいが、両建表示しても監査上妥当なものとして取り扱う(43号Ⅲ3)。 また、国庫補助金、工事負担金等について、貸借対照表の表示において取得原価が国庫補助金等に相当する金額を控除した残額のみを記載する場合、取得資産につき圧縮記帳を行った旨及び圧縮額を財務諸表に注記する(企業会計原則注24、43号Ⅲ5)。 * * * 以上、4つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
会社役員賠償責任保険(D&O保険)導入時における 実務上の留意点 -D&O保険を機能させるために- 【第2回】 「保険金支払に関するチェックポイント」 弁護士・公認会計士 中野 竹司 前回述べたように、実際に「いざ」というときに自分が加入しているD&O保険が機能するものであるか、契約内容を理解しておく必要がある。その中でも保険金額の上限が最も重要になるであろうが、それに加えて次のような内容もチェックしておく必要がある。 以下、これらのチェックポイントごとに問題となる点を解説する。 (1) 争訟費用の前払規定 ~保険金はタイムリーに支払われるか~ 紛争の解決等により争訟費用の金額が確定してから初めて保険金を請求できる定めの場合、紛争継続中に争訟費用分の保険金を請求できず、十分な防御活動ができなくなる可能性がある。 このため経産省解釈指針別紙2では、争訟費用の前払規定があるか、ある場合には前払を受けるための手続について確認しておく必要があるとしている(p5)。 (2) 補償限度額の追加 ~他の役員が使った補償をカバーできるか~ 前回述べたように、D&O保険は補填限度額が被保険者全員で共通であることから、ある被保険者に対して保険による填補が行われた場合、他の被保険者が保険による十分な填補が受けられなくなる可能性がある。 これに対して経産省解釈指針別紙2では、社外取締役等の一部の被保険者については、別建てで個別の補填限度額の追加を提言している(p4)。 (3) 保険会社が免責される場合 ~保険金が支払われない場合~ ① 免責事由への該当 一般的に、D&O保険の約款において、免責事由が定められている。免責事由の定めは保険会社により異なるが、違法な私的な利益の取得、犯罪行為、法令違反を認識しながら行う行為、違法な報酬の取得、違法な内部取引、違法な利益供与といった原因に起因する損害賠償請求は免責となり保険料が支払われないとされる場合が多い。 これらの類型のうち、もっとも抽象的な免責事由である「違法な私的な利益の取得」については、アメリカの裁判例の解釈基準のうち、「役員が私的な利益を得たと原告が申し立てた場合に免責が適用されるとする解釈」と「原告が申し立てただけでは足りず、(判決まで必要ないが)何らかの事実的な証拠を必要とする解釈」の間で実務上運用されていると思われるが、解釈に幅があり、被保険者にとっては、保険者から容易に免責を主張されるリスクがあるとされる(※1)。 (※1) 高木玲雄・山越誠司「D&O保険における防御費用補償の活用」Business Law Journal2016.6、レクシスネクシス、63頁~64頁参照 免責事由に当たるとされると、一切保険金が支払われないため、被保険者にとっては深刻な問題となる。 この免責条項による保険金、特に防御費用相当額が支払われないという事態を防ぐためには、以下のような内容のD&O保険であれば、相当程度その危険を回避できる。 (※2) 前掲高木・山越64頁 ② 会社が損害賠償をした時の補償 多くのD&O保険では、株主が提訴した株主代表訴訟であれば保険による填補の対象となるが、会社が役員に対して損害賠償請求した場合は免責となっている。 近時、株主による提訴請求が行われた場合、会社が提訴請求の対象となっている役員に損害賠償請求を行うべきか否かを諮問する委員会が立ち上がるケースが多くなっている。そして、会社が一部の役員に責任追及訴訟を提起する場合、保険対象外となる役員が出てくる。 もっとも、この場合でもD&O保険の対象になる設計とすると、会社が旧役員の損害賠償責任を追及することにより、現役員の支払限度額が減っていくという関係になる。このような関係となってよい場面といえるか、D&O保険を契約する際には、慎重な判断が必要となると思われる。 ③ 役員間での内紛時の補償免責 多くのD&O保険では、他の被保険者、すなわち他の役員からなされた損害賠償は免責となっている。例えば、社外監査役や社外取締役等が現経営陣の責任を追及した場合には、保険金は支払われない契約内容となっている。 これは企業内の内紛や内輪もめに起因する争いに保険が介入するのは適切ではないという観点から設けられたものとされる(※3)が、いわゆる内紛により役員間の訴訟が起こることも事例として散見されることから、この場合に保険金が支払われない可能性の有無について確認・認識しておくことも有用であろう。 (※3) 三井海上火災保険株式会社編「株主代表訴訟と会社役員賠償責任保険(D&O保険)の解説」保険毎日新聞社、平成6年10月31日、24頁 なお、この場合にも役員に保険金が支出されるとなると、②と同様、他の役員の支払限度額が減るという関係になるが、それでよいか、仮にこのような内容のD&O保険を設計・契約するのであれば、慎重な判断が必要となる。 (4) 告知と免責事由の分離の有無 ~他の役員が隠した事実のせいで保険金を受け取れないことも~ 保険契約時の告知に関して、ある被保険者の告知義務違反により保険契約が解除され、告知義務違反のあった被保険者のみならず他の被保険者も保険による保護を受けられなくなる可能性がある。 また、免責事由においても、ある被保険者との関係でも免責とされている場合、他の被保険者との関係でも免責となり保険による保護が受けられなくなる可能性がある。 これに対して、経産省解釈指針別紙2では、告知や免責事項に対して分離条項(ある被保険者の告知や免責事由該当性が他の被保険者に影響しない旨の条項)を定めることが対応策として考えられるとしている(p5)。 (5) 保険契約終了後の保険の継続 ~保険の必要性が高まった状況で保険が終わってしまうことも~ 保険期間の終了に際して、既存の保険契約の更新や新たな保険契約が締結できず、保険により填補が得られなくなる可能性もある。 例えば、保険期間中に被保険者に対する損害賠償請求があった場合には、通常の場合に比して、翌年の保険契約について、既存契約の更新につき一定の検討や交渉が必要となる場合があり、他の保険会社との契約も検討が必要となってくる。 経産省解釈指針別紙2では、保険契約を締結する時点で、会社と保険会社との間で、当該保険契約が継続されない日から起算して一定期間(延長報告期間)内の損害賠償請求は保険の対象とすることができる旨定めることが対応策として考えられるとしている(p6)。 (6) 退任役員の補償 ~役員責任は退任後も続くが、カバーされているか~ 退任した役員は、保険契約の継続について情報が得られず、知らない間に保険による保護が受けられなくなる可能性がある。D&O保険がこのような場合をカバーするものか確認することも必要であろう(p7)。 (7) 組織再編に伴う補償の継続 自社の保険で補償している子会社を譲渡した場合には、譲渡前の行為に起因する損害賠償請求は、新たに親会社となる会社の保険契約では補償されない可能性がある。 また、自社が他社の子会社となった場合において、子会社となった時点より前の行為に起因する損害賠償請求は、新たに親会社となる会社の保険契約では補償されない可能性がある。 経産省解釈指針別紙2では、子会社において別途の保険契約(ランノフ・カバー)を締結することや、新たな親会社との保険契約において、自社の子会社となる前の行為も補償の対象とすることが、対応策として考えられるとしている(p7)。 (了)