被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔会計面のアドバイス〕 【第8回】 「後発事象」 公認会計士 深谷 玲子 1 決算日後の被災 法人が被災したタイミングが決算日後の場合、財務諸表(※)に後発事象としての注記が必要となる。 (※) 本稿内の財務諸表とは、会社法の計算書類、連結計算書類及び臨時計算書類並びに金融商品取引法の財務諸表、四半期財務諸表、中間財務諸表、連結財務諸表、四半期連結財務諸表及び中間連結財務諸表を含む。 「後発事象」とは、決算日後に発生した会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象をいう。 なお、「発生」の時点は、当該災害の発生日又は当該災害を知ったとき、である(監査・保証実務委員会報告第76号「後発事象に関する監査上の取扱い」第5項)。 決算日後に災害が発生した場合において、財務諸表に後発事象として注記する必要があるのは、 の両方に該当する場合である。 ① 後発事象の注記が必要とされている法人 「後発事象として財務諸表に注記が必要な法人」とは、以下のものをいう。 ・〇・・・注記必要(会社計算規則第98条) ・×・・・注記不要(会社計算規則第98条2項) ・「公開会社」とは、会社法第2条5号に定義されている、株式に譲渡制限を定めていない株式会社をいう。 ② 法人にとって「重要な」後発事象 後発事象のうち、法人にとって「重要な」後発事象に当たるものは財務諸表に注記しなければならない。 ここで「重要な」とは、会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に対して的確な判断をするために「重要な」ものをいう。 ただし、どの程度の災害被害額であれば「重要な」に該当するのかについては、具体的な数値は定められていない(監査・保証実務委員会報告第76号「後発事象に関する監査上の取扱い」)。したがって、法人が質的・金額的側面から実質的に判断することとなる。 なお、上記①②に該当しないと判断した場合は、当該事業年度の財務諸表への注記は不要であり、翌事業年度の財務諸表において適切に反映することとなる。 ③ 後発事象として注記すべき事項 上記①②の両方に該当した場合、当該事業年度の財務諸表に後発事象として注記をする。注記すべき内容は、下記の通りである。 (監査・保証実務委員会報告第76号「後発事象に関する監査上の取扱い」付表2) なお、影響額を見積もる場合には、信頼度の高い資料にその根拠を求める等により客観的に見積もる必要がある。影響額を客観的に見積もることができない場合には、その旨及び理由等の開示が必要となる。 つまり、影響額を客観的に見積もることができないことを理由として注記自体をしないことはできないことに留意が必要である。 ④ 災害発生の時期と実務上具体的な開示の対応 後発事象として財務諸表に注記すべき後発事象であっても、決算スケジュールとの関係で当該事業年度の財務諸表への注記が実務的に不可能な場合もある。 監査報告書を受け取った後は、監査報告書により証明された範囲についての変更はできない。その結果、財務諸表を変えずに監査報告書以外で後発事象の内容を開示するか、財務書類等に注記して監査報告書を再度受け取りなおすことになる。 具体的な対応の例として、有価証券報告書提出会社かつ会計監査人設置会社の場合を示すと、次の通りである。 〈有価証券報告書提出会社かつ会計監査人設置会社の場合〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 監査役の監査報告書日より後となった場合は、いずれの書類によっても開示は事実上不可能であるため、後発事象としての注記の必要はない。ただし、株主総会より前であった場合には、株主総会において取締役から報告する等の対応が考えられる。 2 後発事象の注記の具体例 以下、平成28年4月に発生した熊本地震を例に、後発事象の注記がどのようになされたか具体的にみていく。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第122回】 退職給付会計⑩ 「退職給付制度間の移行―将来勤務に係る部分から移行した場合」 仰星監査法人 公認会計士 永井 智恵 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 退職給付債務の減少に伴う処理 (※1) 移行前の退職給付債務400-移行後の退職給付債務350=50 ② 未認識過去勤務費用、未認識数理計算上の差異及び会計基準変更時差異の未処理額の移行時の処理 〈会計処理の解説〉 退職給付制度間の移行には、確定給付型の退職給付制度から他の確定給付型の退職給付制度への移行や、確定給付型の退職給付制度から確定拠出年金制度への移行があります(適用指針第3項)。 退職給付制度間の移行において、確定給付年金制度の将来勤務に係る部分を改訂し、将来勤務に係る部分を確定拠出年金制度へ移行する場合、退職給付債務の増額又は減額の会計処理が適用されます(適用指針第13項(1))。 退職給付債務の増額又は減額は、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」(以下、「基準」)上の過去勤務費用に該当するため、原則として、各期の発生額について、平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理することとなります(基準第25項)。 本事例では、確定給付年金制度の将来勤務に係る部分を確定拠出年金制度へ移行しているため、制度間移行は退職給付制度の終了に該当せず、退職給付債務の増額又は減額の会計処理が適用されます。このため、減少した部分に係る退職給付債務50(=移行前の退職給付債務400-移行後の退職給付債務350)を退職給付に係る調整額として認識します(①の仕訳)。 また、当該増額又は減額が行われる前に発生した未認識過去勤務費用、未認識数理計算上の差異及び会計基準変更時差異の未処理額については、従前の費用処理方法及び費用処理年数を継続して適用します(適用指針第12項)。 本事例では、未認識過去勤務費用20(借方)、未認識数理計算上の差異40(貸方)及び会計基準変更時差異の未処理額80(借方)が、それに該当します。 * * * 次回は、退職給付制度間の移行のうち、大量退職があった場合について解説します。 (了)
税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第1回】 「農業に関する将来の方向性」 税理士 島田 晃一 1 農業を取りまく現況と今後の方向性 近年の農業環境は、農業従事者の高齢化及び後継者不足や海外の農産物との競争など岐路に立たされている。国内農業については味や安全性などの付加価値やブランド化などを推進すること、また、農地集約のための売買や貸付けなどを積極的に行うことにより大規模化、効率化を進めていくことが求められている。 行政においても農地の集約化を後押しする施策がメインになっている。それに伴い税制面においても、農地集約のための売買に関しては譲渡所得の特例措置などを設け、集約化を側面から後押ししている。これら農地の集約化のための税制面の特例については、次回以降、具体的に説明していくことにする。 また、農業従事者の高齢化及び後継者不足による耕作放棄が今後さらに増加していくことが予想される。このような遊休農地の増加に対処するため、これらの農地の第三者への売却や貸付けにより農地の維持を図ることが求められており、これは前述した農地の集約化にも繋がっていくものである。 2 都市農業に関する方向性 (1) 都市農業の特殊性と農地の維持 都市農業については、地方農業とは事情が異なる部分がある。すなわち、都市農業を営む者の多くが、農業収入が生活の糧ではなくサラリーマンが副業で休日に農作業を行ったり、以前に農地であった土地の一部を宅地化し不動産賃貸事業により主な収入を得ているのが現状である。 農地自体については、生産緑地指定を受けていれば、固定資産税・都市計画税は宅地や雑種地と比較して大幅に低く、金銭面から見た農地の維持について大きな困難を生むことは少ない。それよりも、都市農地の維持に関しては、周辺の住環境の問題それに附随するトラブルに左右される場合がある。 例えば、「風の強い日など土埃などが舞い周辺住民から苦情があった」、「農薬を使う際、臭いや住民の健康に悪影響を及ぼすといった苦情があった」などといった問題である。 これらの問題に適切に対処し、周辺住民の理解を得るということも、都市農地の維持の観点から重要なことである。 (2) 都市農業振興法の施行と税制上の措置 行政面からは、これまでの都市農業政策を転換する動きが出ている。以前から、自治体によっては、災害時の住民の避難場所や景観維持のため、ある程度の面積を有している一団の農地について、積極的に生産緑地の追加指定を行っている。また、都市部においては日常的に農業に触れあう機会がないことから、市民農園として多くの人に農業体験をしてもらうといった事業も推進されている。 これらの動きを法律的に担保するため、平成27年4月には都市農業振興法が施行され、これまでの市街化区域農地を宅地化することを前提とした方向から、都市農地としてそのまま維持する方向への転換が示された。 これは、将来の人口減少による住宅地需要の減退が避けられない見通しであること、一方で、防災拠点・景観の確保、国民の農業に対する理解・農業体験などが重視されるようになってきているという事情がある。 都市農業振興法では、第8条において、都市農業振興のための税制上又は金融上その他の措置を講じなければならないとされるとともに、第9条において「都市農業基本計画」を定めることが定められている。その後、平成28年5月に提示された「都市農業基本計画」においては、都市農業振興のための様々な施策が挙げられている。 その中で注目すべき点は、税制上の措置として、① 三大都市圏以外の市街化区域内農地(生産緑地地区を除く)における固定資産税・都市計画税納税の負担軽減、及び、② 相続税の納税猶予における農地の貸借時の猶予打切りの見直しについて言及していることであろう。 3 都市農地における農地の納税猶予適用における諸問題 相続の際、相続人が農地を売却したり、宅地に転用して賃貸住宅などを建設し農業以外の土地活用を図る事例も多いが、逆に、このまま農地として維持していこうという選択を採る場合もある。ただし、相続人がある程度の規模以上の農地を残したいという選択をしたならば、よほどの金銭的な余裕がない限り、相続税の納税猶予の適用を受ける必要が出てくる。 したがって、相続税の納税猶予に関しては、都市農地の相続を取り扱うにあたって内容を必ず理解しておく必要がある。 特に注意したい点は、前述したように、都市・地方を問わず農業従事者の高齢化が問題となっており、農地を所有していた被相続人が80代、農地を相続し相続後農業に従事する者が60代であるという事例も充分想定される。このような場合、相続後期間を置かず農業従事者が病気などで農地を維持できなくなってしまう恐れもある。その際には、原則として納税猶予は打ち切られ、猶予されていた税額及びそれに対応する利子税を納めなければならない。 ただし、市街化区域外の農地については、「特定貸付」といい、農業経営強化促進法に基づく一定の事業のために農地を貸し付けた場合、納税猶予の継続が認められる。 仮に、特定貸付が受けられない地域に農地があったり、貸付け申込み後1年経過しても特定貸付ができなかった場合には、「営農困難時貸付け」といい、重度の精神障害又は身体障害により農業の継続が困難になったことを条件として、その農地を他に貸し付けても納税猶予の継続が認められる。 都市農地に関しては、特定貸付の対象外の地域にあるため、現段階においては、営農困難時貸付けを受けられない場合、農地の地方公共団体や第三者への貸付けは納税猶予の打切り事由に該当してしまう。 このような事態を避けるために、前述したように「都市農業基本計画」において税制面の手当がされるよう記載されている。また、平成28年度の税制改正大綱の検討事項においても次のような記載がある。 要するに、相続発生時において農地を相続した相続人が地方公共団体や第三者に農地の賃貸等を行った場合において納税猶予を受けられる措置を検討するということである。さらに、納税猶予を受けている相続人が第三者に農地の賃貸等を行った場合、納税猶予の打ち切りの対象にしない措置も検討されていくと考えられる。 * * * 以上、連載第1回となる今回は、農業を取りまく現況と将来像、特に都市農業に係る税制の今後について簡単に述べてきた。 大きな流れとしては、「地方における農地の集約化」、及び、「都市部における宅地化推進から農地維持への方針転換」が打ち出されているのがわかる。 次回以降は、これらの流れを踏まえた農地に関する税制に関する詳細と、それを理解するための周辺知識について述べていく予定である。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 【第2回】 「“認知症”とはどのような病気なのか?」 -押さえておきたい基礎知識- クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 1 “認知症”とは、そもそもどういった病気であるのか この記事を読まれている方ならば、”認知症”と聞いたとき、漠然とではあるがすぐに何らかのイメージが浮かぶであろう。もしかすれば、身近に認知症のご親族がいらっしゃり、ご苦労されている方もあるかもしれない。 認知症という言葉自体には馴染みがあったとしても、認知症という病気について大まかな医学的知識を学ぶ機会は、意外に少ないと思われる。 今回は、認知症に関連する様々な法的問題を取り上げる前提として、まずこの“認知症”というものがいかなるものであるのか、最低限把握しておきたい医学的知識を確認したい。 2 認知症の4つのタイプ 認知症とは、いかなる状態をいうのか。 結論を簡単に述べれば、認知症とは、 をいう。 我々は誰しも、年齢を重ねるに従って物忘れがひどくなった、若い頃と比べて仕事や日常生活において記憶力の低下を感じる、テレビで見かけるタレントの名前が覚えられない等々、大なり小なりの“老化”を感じる瞬間がある。 しかし、認知症というものは、このような加齢による単なる“老化”とは根本的に異なるということを始めに確認しておく必要がある。 認知症とは、脳の病理的な変化、すなわち脳内の神経細胞同士のつながり(ニューロン・ネットワーク)に支障が生じることで、認知機能が低下することなのである。 たとえば、「昨日の夜に何を食べましたか」と質問されたとき、一瞬詰まって即答できず、考えこんでしまう場合も多いだろう。 このとき、老化による単なる物忘れであれば、「ほら、お隣さんからの貰い物をおかずにしたから・・・」とか「あなたの大好物の・・・」等と多少のヒントをもらえば思い出せる場合がほとんどである。これは、いわゆる記憶の3要素と言われる「記銘」「保持」「想起」のうち、想起だけがすぐに行えない状態だといえる。 しかし、認知症の場合は、以上とは根本的に異なってくる。認知症では、その体験・ストーリーそれ自体を丸ごと忘れ、当の本人にも「忘れた」という自覚がないというのである。 つまり、「昨日の夜にご飯を食べたかどうかすら思い出せない」という状態となるのである。前述の3要素にならえば、記銘・保持の面ですらも著しく支障が生じている状態となるが、本人の意識ははっきりしている場合が多い(意識清明)と言われている。 通常、ひとくちに認知症という呼び方がされるが、これは様々な原因疾患を総称した呼び名に過ぎない。認知症の原因となりうる疾患は約70種類前後にも上ると言われている。 ここでは、認知症全体の約9割を占める4つの代表的な類型につき、簡単に整理してみたい。 【認知症の代表的な4類型のまとめ】 (※) この4類型以外の原因疾患は、①神経変性性認知症(神経細胞の変性によるもの)と②二次性認知症(脳腫瘍等、①以外の疾患によるもの)とに大別される。 税理士とすれば、もし仮に自らのクライアントや関係者において上記の診断名が付いた場合には、たとえ認知症であることが判明していないケースであっても、認知症の発症やこれに伴う判断能力の有無・程度等について十分注意を払う必要がある。 3 認知症の発症による日常生活への影響 以上のような疾患により認知症を発症した場合には、具体的には次のような症状が生じる(主にアルツハイマー型認知症での例)。 【認知症がもたらす諸症状】 以上のように、特にアルツハイマー型認知症においては、進行とともに、本人あるいは家族の基本的な日常生活に多大な影響を及ぼす場合も多い。 そのため、現在では、認知症の早期発見や生活環境の構築(一人で悩まず、また家族だけで悩まず、医療機関や地域のつながりと連携をはかる必要性)が重要であると言われる。 そして、上記のような症状が一度出始めれば、自己の財産管理であったり、不動産の売買や各種の契約締結等といった契約行為を適切に行うための判断能力が適切に備わっているのか、絶えず注意を払っていく必要が生じる。 そのために、このような高齢者を保護する各種制度が必要となってくるわけである。このことについて、次回以降で詳しく説明したい。 (了)
〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第6回】 「F/Sの目的を再確認する」 中小企業診断士 西田 純 前回は、F/Sを実施するうえでの経営ビジョンの重要性についてお話しました。 今回は、実施中に起こりがちなF/Sの目的と異なる方向性が見えてくる場合の対応についてお話します。 調査段階で社内の協力が得られにくくなるケースについてはすでにお話しましたが、それとは別に、予想しなかった外部の影響を受けてF/Sの方向性自体が当初とは変わってくるという場合があります。 ▷ 外部環境の変化は予め予測しておく ありがちなのが、F/S実施中に関係する規制あるいは許認可の仕組みに変化が起き、F/Sそのものにも影響を及ぼすことが懸念されるという場合です。あるいは経済・社会の変化が影響を与えるケースもあるかもしれません。また、技術の進歩も脅威となる場合があります。 このようなケースに備える意味で、F/Sの環境分析においては「PEST分析」という手法が取り入れられています。 これは、Politics, Economy, Society and Technologyの頭文字を取ったもので、それぞれ政治・経済・社会・技術の4つの観点から、予測される「変化」を読み解こうとするものです。 F/Sが中期の損益予測を主体として実施されるのに対して、PEST分析はむしろ長期の変化を見通す視点で行われることから、このステップを実施することによって新規事業に致命的な変化をもたらす可能性のある事象への対応策を、あらかじめ織り込んでおくことができます。 以下の例では、日本食ブームを当て込んで、東南アジアで生産した和牛の肉を日本や近隣の市場国へ輸出するという事業を想定したPEST分析の例を挙げています。なお、これは技法を説明するためだけに想定した架空のプロジェクトであり、PEST分析も厳密な調査に基づくものではないことを予め付言します(そんなに外れていないとは思いますが)。 さらに考えを進めると、PEST分析で予測されるような変化が仮に起こった場合、事業環境はどのような影響を受けるのか、あらかじめシミュレーションしておいた方が良い、というニーズが出てきます。 このような想定に基づいて変化が起きた場合とそうでない場合について考える方法を「シナリオ・プランニング」と言います。 シナリオ・プランニングにおいては、PEST分析で想定されたような事象が起きた場合にどのような影響が出るのかを想定し、その影響度(インパクト)と実現可能性の二軸を使って、基本となるシナリオ(ベースライン)を決め、これに対して検討すべきシナリオを想定します。この中で、可能性は高くともインパクトが大きくない、あるいはすでに織り込み済みと思われる要素については、思い切って検討対象から外します(この例では、国内の高齢化やデフレ再燃など)。 また、円安・円高のようにどちらにも振れる可能性がある事象については、インパクトとの関係で取り上げるかどうか判断します(今回は、これまでに起こった為替変動を超えるものではないだろうとの読みで検討対象から外します)。同様に、可能性もインパクトも高くないと判断される要素も検討から外します(【図1】)。 【図1】 想定されるシナリオの分類 ここまでの作業で、ベースラインシナリオに対して「可能性は高くないかもしれないが、発生すると大きなインパクトを持つ」と想定されるシナリオが3本出そろいました。これを想定される発生確度の順に分けて、発生した場合にベースラインシナリオが受けるであろう影響について検討します(【図2】)。必要があればそれぞれの場合について財務分析を含む詳細な検証を実施します。 【図2】 変化に対応するために ここまで見通しておくことで、F/S自体も変化に適応する懐の深さを確保することになります。事前に様々な可能性を検討しておくことで、F/Sの目的に関する関係者の理解も深まりますので、準備段階では手間を惜しまずに備えを尽くすように取り組んでください。 ▷ F/Sの目的を再確認する しかしながらF/S実施の段階で、PEST分析を含む十分な備えをしていたとしても、外部環境が予想しなかった影響をもたらすという場合はありえます。自然災害の発生による経済構造の根本的な変化などは、どれだけ準備しても起きるときには起きるものです。 そうした場合の手仕舞いや、仕掛かりとなった調査・データ収集などをどのような形で保存し、先々の役に立てるのか、そのときの判断基準となるのが「F/S実施の目的」です。 これを明文化しておく、あるいは経営者が適宜F/Sの目的を自ら再確認するなど業務上の定点としての役割を果たすことで、業務の混乱や停滞を最低限に止めることができます。 F/Sの目的については、初期の予算伺い文書など社内の決裁文書に明示的な表現で残しておくと良いでしょう。また、F/Sプロジェクトチームの執務室などに大書して貼っておく、というのも有効な手段です。 さて、この連載も今回で折り返し地点に到着しました。F/Sに例えれば、社内外の変化に上手く適応して、調査分析がある程度進んできた段階といえます。ある程度の結論が見えてきたところでは、明示的な判断が求められます。 * * * 次回は「F/Sの結果を総合的に判断する」と題して、大局的な視野に立った結論の導き方についてお話します。 (了)
2016年9月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.183を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.44- 「NISA拡充は消費型所得税への移行であって優遇税制ではない」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 来年度税制改正の大きな論点の1つは、NISA(少額投資非課税制度)の取り扱いだ。 現行のNISAには、①非課税期間(5年)の恒久化、②口座開設期間(平成35年まで)の恒久化、③スイッチングの柔軟化・容認という3つの課題がある。 6月に閣議決定された「骨太方針2016」では、「3.(3)ストックを活用した消費・投資喚起」の項で、「老後の生活等に備えた自助による資産形成を支援するためにも、NISAの利便性を向上させるとともに、平成35年までの投資可能期間を恒久化することを検討する。」とされており、上記②についての議論が始まる。 一方、昨日(8月31日)に公表された金融庁の税制改正要望は、「年間投資上限額60万円、非課税期間20年の「積立NISA」の創設(現行NISAと選択制)を恒久措置として導入」することを目玉とし、その上で現行NISAについては、投資可能期間(現行:平成35年まで)の恒久化に加え、非課税期間(現行:5年間)終了時の対応を要望している(下記参照)。 NISAの拡充・恒久化に対する財務省・税制当局の壁は厚い。念頭にあるのは、税収減であろう。 * * * 平成27年11月に公表された、政府税制調査会「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理」の中に、以下の記述がある(下線部筆者)。 (※) 政府税制調査会「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理」p10より このように、老後の蓄えのために自助努力を支援する税制については、総論では合意ができているといってもよい。 問題は、証券税制の延長で議論され導入されたNISAが、このコンセプトに該当するかどうかということである。 筆者は、個人が自助努力で将来の生活資金などを蓄えていくことの重要性に鑑み、それを政府として税制で支援していくことの必要性を、米国IRAの制度にならって「日本版IRA」という名称で訴えてきた。 また、その方法として、本来は、米国型の誰でも加入できる貯蓄制度を創設することが望ましいが、それが直ちには難しいというならば、NISAを拡充していくことが考えられる。その場合、預貯金も含めてオール金融所得への積み立てに対して課税後拠出、運用時・引出し時非課税(TEE型)となる。 (※) 一連の提言内容は、金融税制・番号研究会報告書として、下記JTI(ジャパン・タックス・インスティチュート)ホームページから入手できる。 「ジャパン・タックス・インスティチュート(提言 報告書)」 このような税制は、はたして優遇税制と呼ぶべきか、つまり減収額を立てる必要があるのだろうか。 * * * 所得税体系では、貯蓄から生じる利子を毎年利子所得として課税所得に取り込む。 一方消費課税体系には、消費を直接課税ベースにする消費税(VAT)方式と、貯蓄(運用益・資本所得)を非課税にする方式の2つがある。さらに後者は、貯蓄時非課税(所得控除)、引出し時(消費時)課税というEET型と、課税後拠出(貯蓄時課税)、運用時・引出し時非課税のTEE型の2つがある。どちらも税率が一定であれば、税引き後の手取りは等しくなる。 当初100の所得を、税率20%、利子率5%で10年間運用するという前提で、10年後の税引き手取り額を計算し比べたのが以下の表である。 【図表】 所得課税と消費課税の比較 (注) 毎年の運用益(80×5%=4)に20%の税率を乗じ(0.8)、10年間の合計を求めると8になる。 ここで見てきたように、課税後拠出で、運用時・引出し時非課税のTEE型の商品であるNISAを拡充することは、所得税の消費税化(消費型所得税への移行)を進めるということであり、必ずしも優遇税制ではないのである。 米国では、経済を活性化するという観点から、連邦所得税の消費課税化が進んでいる。具体的には、年金・教育・医療目的の積み立ては、その段階では課税しないEET型か、課税後の積み立てで運用益などに課税しないTEE型のどちらかの税制となっている。IRA、教育IRA、医療IRAが前者の例で、後者の例はロスIRAである。 これらは、貯蓄からの運用益にも課税する所得課税への非効率性を正す観点から出現してきたものだが、米国では、所得課税体系からだけでなく消費課税体系からも税制を見る基準があり、後者では、このような税制は優遇税制とは捉えられていない。 これに対して、今回わが国で、専業主婦や国家公務員への適用拡大が図られた日本版401k(個人型DC)は、税制の取扱いが大きく異なっている。この税制は、拠出時非課税、運用益非課税、給付時公的年金等控除が適用され、事実上非課税という、EEE型の商品である。これは優遇税制そのものであり、さらなる商品性の拡大は、所得税課税ベースの縮小を引き起こし大きな問題となる。 つまり、NISAはTEE型の税制で、必ずしも優遇税制とはいえず、経済活性化の観点から、「所得課税を消費型所得税に変えていく」ということである。 税制当局も、このような視点を持って、個人の自助努力を支援する税制議論を行ってほしいものだ。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第11回】 「売買として所有権が移転した土地建物であるが、 その売買代金とされた金額のうち一部が寄附金に当たるとされた事例」 税理士 佐藤 善恵 (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 原告の法人(X社)は、平成9年12月1日、関係法人であるB社に対し、自己が所有する土地建物(本件土地建物)を5億4,969万1,546円で売却する旨の契約(平成9年契約)を交わした。 その後、平成16年3月25日、X社は、B社から本件土地建物を5億3,000万円で買い受ける旨の契約(平成16年契約)を締結して本件土地建物を譲り受け(買戻し)た。 平成9年契約の代金5億4,969万1,546円の内訳は、土地4億8,417万2,000円、建物6,551万9,546円である。 一方、平成16年契約の代金5億3,000万円の内訳は、土地1億8,620万円、建物5,148万6,011円、損失補填金2億9,231万3,989円と明示されていた。X社は、その損失補填金を損金の額に算入して申告をしたところ、原処分庁は、それがB社に対する寄附金に当たるとして法人税の更正処分等を行った。 (※) なお、平成11年に営業権をめぐってX社とB社との間で合意が交わされた(平成11年合意)事実もあるが、詳細は省略する。 〔当事者の主張〕 ▷ 原処分庁 X社は、平成16年契約に関して、本件土地建物の譲渡対価をB社の本件土地建物の帳簿価格を基準にして決定された5億3,000万円とするために、本件土地建物の時価に加えて、2億9,231万3,989円を「損失補填金」として支払うこととしたものである。 そうすると、その2億9,231万3,989円は、X社がB社に対し、単に同社の本件土地建物の譲渡損失を負担するため、自己の損失において専ら他の者に利益を供与したといえるのであって、その支払には対価性が認められないから寄附金に該当する。 ▷ X社 平成9年契約、平成11年合意及び平成16年契約を全体としてみれば、平成9年契約はX社がB社から経済支援を受けるためになされたものであり、その法的性質は、消費貸借契約及びこれに基づく貸金返還債務についての譲渡担保設定契約(※)に類似した契約、貸金返還を条件とする解除権留保付きの売買契約に類似した契約等とみるべきである。 そして、平成16年契約は、平成9年契約によって受けた援助を解消するためになされたと解すべきであるから、「損失補填金」は損金算入されるべきである。 (※) 譲渡担保・・・目的物を債権者に譲り渡す方法による物的担保。 〔裁判所の判断〕 下記のような本件の各契約の締結、履行の状況にかんがみると、平成9年契約と平成16年契約は目的物を同じくするもののそれぞれが別個の売買契約として、法律上存在しているというべきである。 平成16年契約において本件土地建物の売買代金とされた5億3,000万円中、損失補償金と位置づけられた2億9,231万3,989円については、直接的な対価を伴わないでした支出といわざるを得ない。 〔判断の分水嶺〕 本件の判断の分水嶺は、売買という法形式が採られ、本件土地建物の所有権が移転したという事実、そして、X社の主張するような契約(合意)の存在を推認できるような証拠が認められなかった点にある。 〔本判決が示唆するもの〕 本件の平成16年契約に謳われた「損失補填金」は、単にB社の本件土地建物の譲渡損失を負担するために、X社がB社に利益を供与したものと判断された。関係会社間であっても、何の見返りも期待せずに利益供与した場合は、対価性がなく寄附金に当たるとのシンプルな論点である。 なお、現在は、グループ法人税制により、もしX社とB社に完全支配関係があれば、支出側の法人は全額損金不算入、受けた側の法人は全額益金不算入である。 〔控訴審にて〕 X社は、損失補填金を否認するのであれば、同額を売買代金として認めるべきであるとの主張をしたが、高裁は、平成16年契約において、建物代と土地代の内訳を区分していることや、関係する双方の合意書の記載を踏まえて、その主張は採用できないと述べている。 課税庁の判決情報のコメントを一部紹介する。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q9】 「個人が割引債の償還を受けた場合の取扱い」 ~割引債の発行日が平成27年12月31日以前の場合~ PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 割引債(キーワード参照)の償還差益に対する課税については、従前、割引債の発行時に源泉徴収(償還差益に対し18.378%)を行い、個人については当該源泉徴収のみで課税関係が終了する源泉分離課税とされていました。 金融所得一体課税の改正に伴い、平成28年以後は、割引債の源泉徴収については発行時ではなく、償還時(支払時)に行われることとなりました。また、償還差益は株式等に係る譲渡所得等として課税されることとなりました。 改正前の規定が適用されるかどうかは、割引債の発行日が平成27年12月31日以前か平成28年1月1日以後かにより異なります。 平成27年12月31日以前に発行された割引債で、租税特別措置法第41条の12の発行時源泉徴収の適用を受けているものについては、経過措置により、改正後の償還時課税の規定の適用はありません。 本件の割引債の発行日は平成27年12月31日以前であり、発行時に償還差益(券面金額から発行価額を控除した金額)に対して18.378%(所得税18%、復興特別所得税0.378%)の税率にて源泉徴収が行われています。このため上述の経過措置に従い、償還時に申告等の必要はありません。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第18回】 「青色申告承認取消処分の事例①」 ~青色申告承認取消事由(帳簿書類の不保存等)に該当すると判断した理由は?~ 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して、1号取消事由及び3号取消事由の双方に該当するものとして行われた青色申告承認取消処分に係る理由付記の十分性が争われた大阪地裁昭和50年5月9日判決(行集26巻5号714頁。以下「本判決」という)を取り上げる。 1 青色申告の承認の取消通知書に記載された処分の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、本件青色申告承認取消処分について、被告税務署長がその理由とする127条1項1号及び3号のいずれについても理由付記が不十分であって、これを違法として取り消すほかはないと判断した。 (1) 理由付記の趣旨目的 (2) 3号取消事由の理由付記の適否 (3) 1号取消事由の理由付記の適否 3 私見 本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 青色申告承認取消処分に係る理由付記において要求される付記の内容及び程度は、特段の理由のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならず、とりわけ法人税法127条1項3号のように該当号数を示しただけでは取消しの基因となった具体的事実を知ることができない場合には、青色申告承認取消通知書に当該号数を付記するのみでは足りず、取消しの基因となった事実自体についても処分の相手方が具体的に知りうる程度に特定して摘示しなければならない(最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決・民集28巻3号405頁)。 この点、次のとおり、本件理由付記は3号取消事由、1号取消事由のいずれにおいても、いかなる事実関係に基づいて本件青色申告承認取消処分が行われたのかを明らかにしていないから、法の求める理由付記として十分ではないと考える。 (1) 3号取消事由の理由付記の適否 法人税法127条1項3号は、「その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」を青色申告承認取消事由としているところ、本件理由付記は「貴法人は、所得計算上収入に計上すべきものを除外し、仮装名義で銀行に預金をし、所得を過少に申告しています。」として、3号取消事由に対応する事実を抽象的にしか記載しておらず、収入を除外していた取引の内容、金額、日付等の具体的な事実を記載していない。これでは、処分の基因となった事実については単に法文の文言をそのまま記載したにすぎず、本判決が述べるとおり、単に3号という該当号数のみを記載しただけの場合と実質的に異なるところがないと評価されてもやむを得ない面がある。 そうすると、上記最高裁昭和49年4月25日判決に照らして、本件理由付記のうち3号取消事由に係る部分は、法の求める理由付記として十分ではないことは明らかである。 (2) 1号取消事由の理由付記の適否 本件理由付記のうち、「貴法人は、所得計算上収入に計上すべきものを除外し、仮装名義で銀行に預金をし、所得を過少に申告しています。」という記載部分と、「なお、売上、仕入に関する記録等の保存ならびに記帳が不備であることは法人税法第127条第1項第1号および第3号に該当します。」という記載部分の関係は、明快さに欠けるところがあるが、いずれにしても、「その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が前条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていないこと」という1号取消事由に対応する具体的な事実の記載がないことは、3号取消事由の場合と同様であり、本判決が述べるとおり、単に1号という該当号数のみを記載したのと同視すべきものであると評価されてもやむを得ない面がある。 また、1号取消事由についても、数ある法定の帳簿書類のうちのどの帳簿書類が、どの期間、どのような態様で、備付け、記録、保存に不備があるかはケースバイケースであることから、やはり該当号数を示しただけでは取消しの基因となった具体的事実を知ることができないと解される。 そうすると、上記最高裁昭和49年4月25日判決に照らして、本件理由付記のうち1号取消事由に係る部分も、法の求める理由付記として十分ではないことは明らかである。 ところで、本判決は、青色申告法人が備え付けるべき帳簿、書類等の種別は多様であり、かつそれらに記載すべき内容も多岐にわたっているのであるから、1号による取消処分をするに当たっては、その理由付記の内容として、単に該当号数のみを記載するのみでは足りず、具体的に、いつからいつまでの期間内におけるいかなる帳簿、書類の備付けないし記録が不備であるのか或いは保存がなされていないのかを特定し得る程度に記載される必要があり、このような具体的記載を欠く理由付記は違法として取り消されるほかはないと解したからといって、取消庁に苛酷な負担を課するものとは考えられない旨述べている。 この点は、最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決(民集28巻3号405頁)においても、「取消しを行なう処分庁としては、既に具体的な取消事由についての調査を経ているはずであるから、これを具体的に処分の相手方に通知すべきものとしても、さほど困難な事務処理を強いられるものとは考えられない」と判示されており、妥当であると考える。 そもそも、納税者個々人からすれば、大量回帰的に処分を受けるものではなく、青色申告の承認を取り消されることの影響も決して小さいものではないのであるから、課税庁における理由付記という事務の負担を、理由の記載の程度を緩和するための材料として強調することには慎重さを持つべきではなかろうか。 * * * 本連載の最終回となる次回は、架空の試験研究費を計上していた事実等が法人税法127条1項3号に該当するものとして行われた青色申告承認取消処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)