給与計算の質問箱 【第56回】 「令和6年10月からのパート・アルバイトの社会保険適用拡大」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 令和6年10月からのパート・アルバイトの社会保険の適用拡大についてご教示ください。 A 以下、適用拡大の対象企業や対象者、社会保険への加入手続、給与計算について解説する。 * * 解 説 * * 1 適用拡大の対象企業 厚生年金保険の被保険者数(正社員、週30時間以上勤務のパート、アルバイトの数)が51人~100人の企業が対象である。新たに適用拡大の対象となることが見込まれる場合には、「特定適用事業所該当事前のお知らせ」が9月上旬までに送付される予定である。 〈図表1〉社会保険の適用拡大のイメージ (出典) 厚生労働省・日本年金機構「社会保険適用拡大ガイドブック」 2 適用拡大の対象者 以下の①~④の全てを満たすパート・アルバイトが対象である。 3 社会保険への加入手続 令和6年10月以降に、会社は被保険者資格取得届を年金事務所へ提出する。 4 給与計算 月末締め翌月25日払いの会社の従業員が令和6年10月1日に社会保険に加入した場合、11月25日支給の10月分の給与から10月分の社会保険料を天引きする。 時給1,200円のパート、アルバイトの手取り額がどの程度減少するかを試算した(〈図表2〉参照)。色分けしてある箇所は、例えば、令和6年9月までは週17時間勤務すれば手取り81,600円であったが、令和6年10月から社会保険に加入する場合は、同程度の手取りを得るためには週20時間勤務が必要となることを意味する。 〈図表2〉手取りの減少額 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 手取りが減るというデメリットはあるが、健康保険からの給付や将来の年金額の増加といったメリットがあることは言うまでもない。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第56回】 「「建物等が未完成でも鑑定評価を行うことができる場合」とは」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 背景と趣旨 【第41回】では、対象不動産を確定するための条件(例えば、対象不動産が土地と建物からなる場合に、そのままの状態を前提として鑑定評価を行うのか、建物が存在しないものとして更地の鑑定評価を行うのか等いくつかのケースがあります)について述べました。 そこでは、その1つに「未竣工建物等鑑定評価」(=土地造成が未了又は未完成の建物につき工事の完了を前提として鑑定評価をすること)がある旨も紹介しましたが、具体的な解説は加えていませんでした。 不動産鑑定士が鑑定評価をする場合、その対象が土地であれば既に宅地として利用されているもの(=造成済みのもの)又は造成前の素地そのものの価格を求めているのが通常です。また、建物が対象であれば完成後の新築建物又は築年数の経過した中古建物の価格を求めているのが通常です。 しかし、不動産鑑定評価基準(以下、「基準」と呼びます)の平成26年5月1日付一部改正(同年11月1日施行)により、一定の条件を備える場合には、以下の状態でも、工事の完了を前提として鑑定評価の対象とすることができることとされています。 筆者はこのような鑑定評価の案件を実際に手掛けたことはありませんが、(仮に実施する場合でも)工事完了前のものを完了したものとみなして価格を求めるだけに、安易な対応はリスクを高めるものといえます。 鑑定評価をめぐる従来の常識が変化しつつあるなかで、今回は「未竣工建物等鑑定評価」について、どのような条件を備えればこれが認められるのか、その際不動産鑑定士が留意すべき事項は何か等について述べていきます。 2 「未竣工建物等鑑定評価」とは 基準では、「未竣工建物等鑑定評価」を、「造成に関する工事が完了していない土地又は建築に係る工事(建物を新築するもののほか、増改築等を含む。)が完了していない建物について、当該工事の完了を前提として鑑定評価の対象とすること」と定義しています(総論第5章第1節Ⅰ.1.(5))。すなわち、建物だけでなく、土地についても造成工事完了前のものを含むことから、「建物等」という表現がなされています(そのため、今回のタイトルも「建物等が・・・」としてあります)。 なお、平成26年の基準の一部改正に伴い、従来の基準には存在しなかった「未竣工建物等鑑定評価」の規定が追加されたのは、国際的な評価基準との整合性を図るためであるとされています。 3 「未竣工建物等鑑定評価」を行う際の留意点 基準には以下の規定が置かれており、不動産鑑定士にとっては細心の留意が必要とされています(下線は筆者によります。以下同様)。 また、不動産鑑定評価基準運用上の留意事項(Ⅲ.1.(2)①)には、鑑定評価書の利用者の立場に立った次のような保護規定も置かれています。 上記のとおり、対象不動産が未竣工の状態でも鑑定評価を行うことができるとはいっても、そのためには様々な前提条件があります。さらに、このような状態で鑑定評価を行うことが鑑定評価書の利用者の利益を害する(=その結果を利用する者を誤った判断に導き損失を与える)おそれがある場合には、「未竣工建物等鑑定評価」という条件を付した鑑定評価を行うことは避けなければなりません。 なお、少々紛らわしくなりますが、上記の条件を付した鑑定評価ができる場合とは「評価を行う現在の時点を価格時点として、その時点で竣工しているもの」という前提付きのものであって、いまだ「不動産と認められない状態である建築中の建物について、建築中の状態を所与として」鑑定評価を行うことはできないということです(「不動産鑑定評価基準に関する実務指針」(総論第5章A.b)の趣旨によります)。その理由は、建築の途上では状況が刻々と変化し、鑑定評価の対象不動産として明瞭に確定できないことからしても明らかです(造成中の土地についても同じことがいえます)。 4 まとめ 上記2でも述べたとおり、現在施行されている基準に「未竣工建物等鑑定評価」の規定が追加されたのは、国際的な評価基準との整合性を図るためであるといわれています。その背景として、不動産市場がグローバル化するなかで、平成26年の基準改正当時、不動産の評価基準についても国際的な基準との整合性を高めることが求められていたという事情があったことも指摘されています。 このような状況変化を踏まえると、不動産鑑定士にも従来の常識にとらわれないものの見方、考え方が一段と要求される時代となってきたことを思い知らされます。 (了)
《税理士のための》 登記情報分析術 【第15回】 「登記事項等に関する改正」 ~外国人の氏名についてのローマ字氏名の登記事項化~ 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 本連載【第12回】でも解説をしたが、いわゆる所有者不明土地問題や空き家問題に対応するために行われた民法等の一部改正により、不動産登記法等も改正され、令和6年4月1日から新しい登記事項が加わるなどの改正が行われた。今回は改正内容のうち、「外国人の氏名についてのローマ字氏名の登記事項化」について解説を行う。 1 外国人の氏名はカタカナ等で登記されていた 外国人であっても原則として日本の不動産を購入することができる。近年は投資目的でのマンションやリゾート地の購入に留まらず、居住用として住宅を購入する事例も見られるようになってきている。 外国人が日本の不動産を購入する場合でも、所有権の保全のために登記を行うことになる。氏名がアルファベットで表記される人の場合は、カタカナに置き換えて登記され、中国や韓国の人のように氏名に漢字が用いられている場合は、日本で使用できる漢字に置き換えて登記がなされていた。 2 従来の取扱いの問題点 不動産を購入した外国人の氏名をカタカナや日本で使用する漢字に置き換える場合、どのようなカタカナや漢字を使用するかについて、外国人である不動産購入者自身で決めることは難しい。そのため仲介に入っている不動産会社や登記を担当する司法書士が相応しい表記を考えて登記を行うことになる。 このような取扱いであると、外国人が複数の日本の不動産を購入した場合、不動産ごとに異なる表記で氏名が登記され、所有者の特定の妨げになることなどが問題として指摘されていた。 3 外国人の氏名についてはローマ字表記を併記することに こうした問題を解決するため、令和6年4月1日以降に外国人が不動産の所有権を取得する登記や、既に所有している不動産について氏名の変更登記を行う場合には、外国人氏名についてローマ字表記を併記することになった。 【ローマ字氏名が併記された登記記録例】 登記申請にあたっては、登記をしようとする外国人の氏名の正しいローマ字表記を証明するために、住民票の写し(住民基本台帳に記録されている外国人の場合)や、パスポートの写しなどを添付することになる。 4 外国人の不動産取得は司法書士に事前確認を 外国人の不動産取得に関する登記手続については、本稿で解説した以外にも、本連載【第14回】で解説したとおり、当該外国人が海外居住者である場合には、国内連絡先を登記する必要があるなどの変更がされている。筆者も司法書士として外国人の登記に関わることがあるが、準備に思いのほか手間がかかることが少なくない。税理士も外国人投資家の国内不動産の取得に関わることがあるかもしれないが、事前に司法書士にどのような準備が必要か確認をするとよいだろう。 (了)
《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第15回】 「投資の可能性を広げる「ETF」」 株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝 〇株式市場の混乱 2024年8月は株式市場の乱高下でスタートしました。特にNISAをきっかけに投資を始めたという方の中には、株価の行方が心配で眠れぬ夜を過ごしたという方もいらっしゃるでしょう。何しろ8月5日の日経平均は4,451円安と過去最大の下げ幅を記録し、7月11日の最高値4万2,224円から一気に25%も下落してしまったのですから、不安を感じるのが自然です。 しかし、ここでせっかく始めた投資を投げ出してはいけません。こういうときこそ、「積立」と「分散」の意義を改めて確認することをお勧めします。 〇積立投資の意義 株価が大きく下落すると、「今のうちに売った方がよいのでは?」と思い、株価が持ち直すと「今のうちに買い増しした方がよいのでは?」と悩みます。テレビやインターネットでも、「一時の下げだから心配ない」という人がいれば、「これまでが上がりすぎたのだから、下がって当然だ」という人もおり、何を信じてよいのかわからなくなります。 おそらく真実は、「株価を予想できる人はいない」という一言に尽きるのではないかと考えます。下がると思って待ち構えていても期待した値段で首尾よく買うことはできないし、上がると思って待ち構えていても期待した値段で首尾よく売ることもできないのです。 だからこそ、「積立」で投資をするのが私たちにとっての最善です。例えば、定時定額で投資信託を購入すると、値段が高いときには少ない口数しか購入できず、反対に値段が安いときにはより多くの口数を購入することができます。利益は「値段×数量」で決まりますから、より安く、そしてより多く投資信託を購入することが多くの利益を得ることにつながります。 〇分散投資の意義 8月5日に4,451円下落した株価は、翌6日には3,217円戻しました。これは1営業日の下落額・上昇額としては過去最大なのだそうで、驚いた方も少なくないでしょう。とはいえ、すべての銘柄が同様に値を戻したわけではなく、明暗が分かれました。 例えば、キーエンスは5日に7,310円下落し、翌6日には9,380円上昇しました。値戻し率は128.3%と日経平均構成銘柄内でトップとなりました。他にはHOYA、ニトリ、オムロン、東京ガスが続きました。 一方で、値段が思うように戻っていない企業もあり、やはり個別株への投資は、一般の方にはなかなかハードルが高いと言わざるを得ません。だからこそ、私たちが取り入れるべき手法は、市場に丸ごと投資をする「分散投資」となります。 例えば、日経225やTOPIXに連動するインデックス型の投資信託を購入すれば、日本の株式市場に丸ごと投資をすることができます。そのときパフォーマンスに影響を与えるのが、信託報酬というコストです。 NISAのつみたて投資枠で購入できる日本株のインデックスファンドを見てみると、信託報酬は0.113%が最も安く、その後0.143%と続いています。もちろんこれらの信託報酬も十分安いと考えられますが、もし今後投資の幅を広げていきたいという方は、ETFを検討してもよいでしょう。 〇ETFと投資信託 ETF(上場投資信託)は、証券取引所に上場している投資信託です。指数に連動するので、インデックスファンドの仲間だと思っていただいて結構です。 しかし、投資信託が、証券会社や銀行などの販売会社、運用会社、信託銀行の3つに信託報酬を分配するのに対し、ETFは取引所に上場しているため、販売会社に手数料を支払う必要がなく、その分信託報酬を抑えられる傾向にあります。ETFは、NISAにおいて主に成長投資枠で購入できますが、TOPIXに連動するETFであれば、信託報酬が0.06%程度とかなり低く魅力的なものもあります。 また、投資信託との違いとして、値段の決まり方も挙げられます。投資信託は、購入するタイミングでは値段が決まっていません。その投資信託を通じて投資を行っているすべての銘柄の終値を集計して投資信託の値段が決まります。そのため、投資信託を購入する際には、「1万円分投資信託をください」という約束をし、その後に「基準価格が〇〇円なので××口購入できました」というお知らせがくるのです。一方ETFは証券取引所に上場されているので、株式のように値段が変動します。したがって、NISA口座で購入する際でも、「この値段で買いたい/売りたい」と指定する指し値も可能です。 さらに、ETFの場合、分配金を受け取れるという特徴もあります。NISAのつみたて投資枠の対象となっている投資信託は、一般的には分配金を出さず、再投資により資産を大きくすることが目的ですが、ETFでは、基本的には年に1回分配金を払い出します。そのため、分配金を楽しみにしたいという方であれば、より株式投資に近いETFも魅力的です。 * * * 今回の株価乱高下を学びの絶好の機会ととらえ、さらに投資に前向きに取り組み、投資の幅を広げたいという方は、ぜひETFも研究してみてください。 (了)
《速報解説》 会計士協会、監査におけるAI利用の研究文書を公表 ~AIが会計士の業務及び役割にもたらす変化への展望示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年8月13日、日本公認会計士協会は、「監査におけるAIの利用に関する研究文書」(テクノロジー委員会研究文書第11号)を公表した。 監査におけるAIの研究・開発については、大手監査事務所を中心に進められ、実際に監査実務の現場に導入されるようになっている。 そこで、監査において利用されるAIに関する理解を更新し、具体的な活用方法及び課題について改めて整理するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 研究文書の対象とするAI 研究文書はAIに関する技術的な解説を目的とするものではないとのことである。 現時点で「AI」に関して確立された定義はなく、一口にAIと言ってもその形態や用途は様々であるとのことである。 研究文書は、監査人による監査手続等を行うことに特化したAIを対象としている。 Ⅲ 監査におけるAIの利用 監査におけるAIの特徴として、監査に関連する大量のデータを活用した高度な分析や、自動化による監査人の工数を削減することが可能となる点が挙げられている。 生成AIの利用として、生成AIによって文書のドラフトを作成し、その後監査人が監査調書として仕上げるといった利用や、監査や会計に関する基準等を学習させることにより、監査人による監査基準や会計基準に関する質問に対し、生成AIが該当する基準を提示する、という利用が想定され、すでに監査現場での導入が開始又は検討されているとのことである。 ただし、AIの生成する情報には誤りが含まれる可能性があり、生成AIの利用が拡大したとしても、会計及び監査に関する監査人としての専門知識は依然として求められるとのことである。 Ⅳ 被監査会社におけるAIの利用 被監査会社においてもAIの利用が始まっているとして、次のものが紹介されている。 Ⅴ AIの精度・信頼性 監査チームは、AI監査ツールは監査のすべての局面において万能ではないことを踏まえ、AI監査ツールを利用するに当たり、個々の局面で利用することが適切かを判断することが重要である。 AI監査ツールは過去のデータに基づいた結果を出力するため、例えば、新しいビジネスモデル又はスキームができた場合、有効な結果を導き出さない可能性がある。 AIは、時折あたかも正しいかのように誤った回答をすることがあるため、利用者による結果の真偽の評価が重要であるとのことである。 監査人は、AI監査ツールが出力した結果を活用して監査手続を行うため、AI監査ツールの出力結果を鵜呑みにすることは非常に危険とのことである。 Ⅵ AIの説明可能性 AIのうち、特に、ディープラーニングを活用したモデルにおいてはAIによる処理が非常に複雑なため、処理過程が監査人にとって「ブラックボックス化」してしまい、どのような処理がされて、出力結果が得られたかを説明することが難しいという問題がある。 例えば、不正リスクの高い取引として、特定の取引が抽出されたとしても、なぜその取引が抽出されたのか把握できないため、監査人がどのような検証・フォローアップをすべきか分からず、被監査会社に対しても説明できなくなってしまうとのことである。 仮にAIの処理結果の間違いについて、監査人が発見できなかった場合でも、AIに責任能力はなく、AIを利用したことを理由に監査人は免責されるわけではないため、監査人は、AIの処理結果が合理的なものか説明可能性を評価する必要がある。 Ⅶ 今後の会計士に求められるスキル AIの導入により会計士が不要になることはないが、AIの活用を通じて会計士も進化する必要があるとのことである。 AIリテラシーの向上、データの信頼性の評価、被監査会社とのコミュニケーションなどについて記載されている。 (了)
《速報解説》 JICPAが「上場会社等の監査を行う監査事務所の 適格性の確認のためのガイドライン」を改正 ~品質管理レビューの実績等を踏まえ、着眼点及び判断基準を新規追加又は拡充~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年8月9日付けで(ホームページ掲載日は2024年8月13日)、日本公認会計士協会は、「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正を公表した。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。 このガイドラインは、レビューチームが、適格性の確認のために品質管理レビューを行うに当たり、上場会社等の監査を行う監査事務所が、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を公正かつ的確に遂行するに足りる体制を備えているかどうかを判断するに当たっての着眼点及び判断基準を示すことを目的としている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正の内容 主な改正の内容は次のとおりである。 ガイドラインでは、【極めて重要な不備事項】、【重要な不備事項】の判断基準が記載されている。 当該判断基準において示されている不備の程度は、あくまでも1つの目安であり、【重要な不備事項】とされている状況も、監査事務所の状況によりその不備の程度が重大であると捉えられる場合には、【極めて重要な不備事項】として判断されることもあるとのことである。 (了)
《速報解説》 日税連、「国税庁からのお知らせ」として 宅地造成費の正誤についてHP上で公表 ~納税者が不利な影響を受けうる農地等の分類も示す~ Profession Journal 編集部 8月6日、国税庁は、都市計画上の市街化区域内における市街地農地等の相続税・贈与税の評価額算出に用いる「宅地造成費の金額表」について、金額に一部誤りがあったとして修正を行ったことを公表していたところ、これを受け、日本税理士会連合会は同月9日に「〈国税庁からのお知らせ〉「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」における「宅地造成費の金額表」の正誤について」を公表した。 誤りがあったのは、令和元年分(令和元年7月1日公開分)の高松国税局管内4県及び令和6年分(令和6年7月1日公開分)の関東信越国税局管内6県・大阪国税局管内2府4県における市街地農地等に適用される金額であり、これらが記載されている「宅地造成費の金額表」の正誤表を次のとおり公表している。 また、今回の誤りによって納税者が不利な影響を受けうる農地等の分類を次のとおり示している。 なお、「これらの誤った金額表を利用していると考えられる納税者の方には、今後税務署から個別に連絡の上で所要の対応をとらせていただく方針」としたうえで、「お手元に保管されている相続税・贈与税の申告書の写しなどから誤った金額表を利用されていたと考えられるものを把握された場合には、税務署にお申し出くださるようよろしくお願いいたします。」としている。 (了)
《速報解説》 国税庁、インボイスに関して「多く寄せられる質問」を更新 ~複数年をまたぐ取引に係る適格請求書の交付に関する設問ほか1問を追加~ 税理士 石川 幸恵 令和6年7月26日、国税庁はホームページで、適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」)に関し、「多く寄せられる質問(令和6年4月以降版)」を更新し、設問2問を新設した。 新たに追加された設問は次の2問。 株式会社や個人事業者など一般の事業者の実務には問ⓕの方が影響が大きいと考えられるため、問ⓕから先に解説する。 (1) 複数年をまたぐ取引に係る適格請求書の交付(問ⓕ) 毎月の保守契約のように一定期間継続して役務提供を行う取引は、期間が売手の課税期間をまたぐ場合がある。このような場合の適格請求書の交付について次のように整理された。 ① 課税期間をまたぐ場合の交付方法 ② 簡便な交付方法とする場合の注意点 ③ 課税期間ごとに区分して交付(原則)する方法について 問ⓕにて、課税期間ごとに区分して交付(原則)する場合の端数処理方法の図解が示されたことも実務に有用な情報と思われる。 (2) 地方公営企業法適用の特別会計に移行する際の適格請求書発行事業者の登録(問ⓔ) ① 概要と一般の事業者への影響 地方公共団体の特別会計が地方公営企業法の規定を適用する特別会計に移行する場合、旧特別会計は廃止され、適格請求書発行事業者の登録番号は失効する。移行後の新たな特別会計は改めて適格請求書発行事業者の登録申請を行い、登録番号の付番を受ける必要がある。 このとき、新たな特別会計も法人の新規設立の場合と同様、特別会計の設置日の属する課税期間の初日から登録を受けることが可能である(インボイスQ&A問11)。 株式会社や個人事業者など一般の事業者への影響としては、事務所などで利用する上下水道に関し、このような移行があると、料金の適格請求書の登録番号に変更が生ずることが挙げられる。 ② 背景 総務省は、地方団体が公営企業の経営基盤の強化や財政マネジメントの向上等にさらに的確に取り組むため、民間企業と同様の公営企業会計を適用し、経営・資産等の状況の正確な把握、弾力的な経営等を実現することを推進している。これを受けて近年、地方公共団体の上下水道事業等の多くが公営企業会計に移行している。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2024年8月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.581を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第134回】 「消費税の性質論(その2)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 4 検討 (1) 「実質的な過剰転嫁ないし実質的なピンハネ」 本件判決が、「仕入れ税額控除制度等は、運用如何によっては、消費者に対する実質的な過剰転嫁ないし実質的なピンハネを許す余地を含んだ制度であることは否定できない。しかし、税制改革法はむしろ適正な転嫁を要求しているのであるから、右制度が、事業者に対して、消費者に対する実質的な過剰転嫁ないしピンハネを法的に保障しているということはできない。したがって、消費税法それ自体が財産権を侵害するものとはいえない。」としている点は注目すべきである。 判決文として、「実質的な過剰転嫁」や「実質的なピンハネ」を許す余地を含んだ制度であるという点を否定できないとしているのは、適正な転嫁がなされないことが事実上あり得るとしているということである。そもそも、消費税制度がそれらを事業者に保障しているものでないという点から、消費税法が財産権保障を侵害するものではないとしても、この説示の意味するところは奈辺にあるのであろうか。 税制改革法11条は次のように規定する。 すなわち、消費税の転嫁について、税制改革法11条1項は「適正に転嫁するものとする」と抽象的に述べているだけである。 どのような具体的な転嫁方法を採用するべきか、あるいはその額をどのように算出すべきであるのかについては税制改革法には規定されておらず、また、消費税法においても一切この点については規定されていないのである。税制改革法11条2項も、「転嫁に寄与するため」に消費税の仕組み等の周知徹底などの措置を講ずるとしているだけである。 いわば、これでは、取引当事者に委ねられているといっても過言ではなく、転嫁をしようがしまいが、あくまでもそれは取引当事者間における契約の内容に包蔵されてしまい、単なる価格決定の問題に収斂しゅうれんされてしまうことになるのではなかろうか。 現に、本件地裁判決も、消費税の転嫁は、「事業者の取引上の意思決定に任されている。」としているのである。そして、その対価の決定は、「同業者との競争といった取引上の事情や商品内容に関する事情、その他諸般の事情を総合的に判断したうえで決定されるものであること」とするのである。 転嫁が予定されているとはいっても、あくまでも、それは「予定」されているだけのことであって、転嫁自体が消費税制度にビルトインされているわけではないともいい得る。 本件判決は、この点を別の意味に展開している。すなわち、「そのこと〔筆者注:消費税の転嫁がなされるかどうかは当事者の価格決定に係る意思に委ねられているということ〕を考慮すると、消費税分の価格への転嫁が、必然的に過剰転嫁を生ぜしめるともいいがたいし、消費税法自体が右過剰転嫁を積極的に予定しているものではないことも明らかである。」とするのである。 すなわち、転嫁が予定されているだけで、実際のところで転嫁がされるかどうかは取引当事者の意思決定に委ねられているのであるから、転嫁を前提とした「過剰転嫁」は積極的に予定されているものではないとするのである。 (2) 「転嫁」を予定する租税 前述の税制改革法が規定するとおり、消費税は転嫁されることが予定されているものであり、租税負担の転嫁が予定されて納税義務者と担税者とが合致しない間接税であると説明されることがある。 果たして、そのような理解は妥当なのであろうか。本件判決は、転嫁を予定している租税として消費税を位置付けた上で、そうはいっても実際の転嫁は取引当事者の価格決定の内部的な問題であるから、転嫁されるかされないかについてまでは保障の限りではないという態度を示しているのであるが、そもそも、転嫁が予定されているというのはどういう意味なのであろうか。 消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法(平成25年法律第41号。以下「消費税転嫁対策特別措置法」という。)は、令和3年3月31日限りで、その効力を失っているが(同法附則2①)、「転嫁」について検討する素材として、確認をしておくこととしよう。 この法律は、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することを目的とするものであり、上記に示した税制改革法11条を実行あらしめるための具体的な法令であると理解することができる。 また、消費税転嫁対策特別措置法3条は、特定事業者に対して、消費税の転嫁を拒んだり、転嫁に応じることの引換えに何らかの負担を負わせようとしたりするような行為を禁止している。 これに加えて、消費税の価格転嫁に係る表示についても、次のように規定している。 加えて総額表示についてもこれを義務化して規定しているのである。そして、これは、消費税法の特例と位置付けられていることに鑑みると、広い意味で捉えることが許されるとすれば、消費税法領域・・において総額表示が明定されているといってもよいように思われるのである。 その他、10条も見ておこう。 このように、消費税法自体ではなくとも、その関連法をも概観すると、税制改革法が示すところの「消費税の転嫁」なるものが予定されているということはいえそうである。 本件地裁判決は、「転嫁」はあくまでも事実上の問題に過ぎないかのごとく説示を展開しているように思われるものの、このように見てくると転嫁は関連法も含めたところで担保されているといってもよいのかもしれない。 (3) 「転嫁」が予定されている他の租税 しかしながら、租税負担の転嫁が予定されているのは消費税をはじめとする間接税に限ったことなのであろうか。もし、その他の多くの税制においても何らかの形で転嫁が予定されているのであれば、消費税の性質論を語るときに、「転嫁」が予定されている租税であるという説明にはあまり説得力がないようなことにもなりはしないか。 例えば、直接税である法人税の租税負担の実際は、商品や製品の価格に織り込まれて最終的には取引段階において転嫁が実現しているのではなかろうか。そうであるとすると、消費税が価格に転嫁されることが予定されているというのと、法人税が実質的に価格に転嫁されているということとの間に如何なる径庭があるのであろうか。 この点は、旧来の法人税法の学説では、法人税が転嫁されるものではないとの整理の上で展開されてきたことを想起したい。 (続く)