《速報解説》 ストックオプション税制の緩和措置 ~令和6年度税制改正大綱~ 税理士 中尾 隼大 令和5年12月14日に自由民主党・公明党が公表した「令和6年度税制改正大綱」では、いわゆるストックオプション税制について緩和措置等が盛り込まれたため、本稿ではそのポイントを解説したい。 (1) 概要と目的 ストックオプションを行使した際に、経済的利益部分の課税が繰り延べられるその権利行使価格の上限について、今回の税制改正対応において最大年3,600万円に引き上げることが示された。現行は1,200万円であるため、3倍の水準となる。 改正の目的は、スタートアップが資金や人材を確保しやすい環境を整えるとともに、出口がIPOに偏重している現状において、M&Aの場面でも機動的に対応できるようにすることで、M&Aを促進することにある旨が示されている。 (2) ストックオプション税制の改正点 現行制度からの改正点は次のようになる。 その他、ストックオプション税制の適用対象者について、取締役や従業員に加え、所定の認定を受けた企業では、高度な知識や技能を有する社外高度人材も含まれるとされていたところ、今回の税制改正大綱にて以下の緩和が実施されると示された。 (了)
《速報解説》 国際最低課税額に対する法人税の見直し ~令和6年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 霞 晴久 市場国への新たな課税権の配分(「第1の柱」)とグローバル・ミニマム課税(「第2の柱」)の2つからなる国際合意(※1)に基づき、政府与党が12月14日に公表した令和6年度税制改正大綱(以下「大綱」という)では、令和5年度税制改正に引き続き、OECDより新たに発出されたガイダンスや、国際的な議論の内容を踏まえ、一層の法制化を進めることとされた。 (※1) 2021(令和3)年10月8日付のOECD/G20による「BEPS包摂的枠組み」を指す。 1 国際最低課税額に対する法人税等の見直し 「第2の柱」は、年間総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループを対象とし、一定の適用除外部分を除いた所得について各国ごとに最低でも実効税率15%(最低税率)の課税を確保する仕組みである。「第2の柱」は、①所得合算ルール(IIR(※2))、②軽課税所得ルール(UTPR(※3))、及び③国内ミニマム課税(QDMTT(※4))の3つのルールで構成されており、令和5年税制改正で①が創設された。①は、企業グループの子会社等が軽課税国に所在する場合、その親会社等に対しその所在地国で最低税率に達するまで課税が行われる制度であるのに対し、②は、企業グループの親会社の所在地国における実効税率が最低税率を下回る場合、子会社等の所在地国で最低税率に達するまで課税される制度であるため、②は①による課税を補完する機能を有する。大綱では明示されていないが、令和6年度税制改正において、①及び②は令和5年度税制改正の際の整理に従い同様の対応とされる(※5)。一方、③は、企業グループに属する会社等の所在地国における実効税率が最低税率を下回る場合に、当該所在地国で、その最低税率に達するまで課税する制度であり、他国における①及び②を減殺する効果において、自国に所在する会社等を防衛する機能を有する。③は、2024年以降も引き続きOECDにおける議論が予定されており、国際的な動向を踏まえ、令和7年度税制改正以降の法制化で検討される見込みである。 (※2) Income Inclusion Rule (※3) Undertaxed Profits Rule (※4) Qualified Domestic Minimum Top-up Tax (※5) (企業グループの)構成会社等がその所在地国において一定の要件を満たす自国内最低課税額に係る税を課することとされている場合には、その所在地国に係るグループ国際最低課税額を零とする適用免除基準を設ける等の措置が導入される。 なお、我が国の国際最低課税額に対する法人税の制度適用開始は、2024年(令和6)年4月1日以降開始会計年度とされ、その申告・納付期限は会計年度終了後の1年3ヶ月後とされる。ただし、最初の申告・納付期限は1年6ヶ月以内とされており、3月決算法人の場合の最初の申告・納付期限は2026(令和8)年9月30日となる。 2 地方税との関係 (1) ①IIR及び②UTPRについて 外国に所在する法人等が稼得する所得を基に課税する仕組みであり、課税対象と地方公共団体の行政サービスとの応益性が観念できないため、地方税である法人住民税・法人事業税(特別法人税を含む)の課税は行わないこととされた。他方、現行の税率に基づき、法人税額と地方法人税額(国税)の比率は、907:93となるよう制度が措置される。 (2) ③QDMTTについて ③QDMTTは、内国法人等が稼得する所得を基に課税する仕組みであり、こちらは応益性が観念できることから、国・地方の法人課税の税率の比率を前提とし、法人住民税・法人事業税相当部分は地方法人税に含めて国で一括徴収することとされる。その場合の法人税額と地方法人税額の比率は、753:247となる。 3 外国子会社合算課税との関係 国際的なルールにおいても、「第2の柱」と外国子会社合算税制は併存するものとされている。すなわち、「第2の柱」導入以降も、外国子会社を通じた租税回避を抑制するための措置として、外国子会社合算税制は引き続き重要とされる。しかしながら、対象企業にとって、2つの制度に対応することで追加的な事務負担が生じることは否めない。そこで、大綱では、外国子会社合算税制について可能な範囲で追加的な見直しを行うとともに、令和7年度税制改正以降に見込まれる更なる「第2の柱」の法制化を踏まえて、必要な見直しを検討するとしている。 4 今後の動向 「第1の柱」である市場国への新たな課税権の配分については、現在、多国間条約の早期署名に向け、各国間で議論されている。大綱では、今後、わが国が市場国として新たに配分される課税権に係る課税のあり方、地方公共団体に対して課税権が認められることとなる場合の課税のあり方、条約上求められる二重課税除去のあり方等について、国・地方の法人課税制度を念頭に置いて検討するとしている。 (了)
《速報解説》 事業承継税制における特例承継計画の提出期限延長 ~令和6年度税制改正大綱~ 太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 令和5年12月14日に公表された「令和6年度税制改正大綱」(与党大綱)において、事業承継税制の承継計画の提出期限について、以下の改正が行われた。 上記の改正は、新型コロナウイルスの影響の長期化や急激な物価上昇により、経営者の事業承継が遅れているため、早期に事業承継への取組みを促すために行われる。 なお、法人版事業承継税制(特例措置)及び個人版事業承継税制の適用期限は、それぞれ2027年(令和9年)12月31日、2028年(令和10年)12月31日と従来のままであるので注意が必要だ。 また、与党大綱では法人版事業承継税制(特例措置)について、「令和9年12月末までの適用期限については今後とも延長を行わない」旨が改めて明記されている(与党大綱18頁)。 (了)
《速報解説》 外形標準課税の制度的見直し ~令和6年度税制改正大綱~ 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 本稿では、令和5年12月14日に公表された「令和6年度税制改正大綱」(与党大綱)における、外形標準課税に関する改正について解説する。 1 外形標準課税の現状と課題 (1) 現状 外形標準課税は、税負担の公平性の確保、応益課税としての税の性格の明確化、税収の安定化、経済活性化の促進等を図るため、平成16年度に資本金1億円超の大法人を対象に導入され、その後平成27年度及び28年度税制改正において、より広く負担を分かち合い、企業の稼ぐ力を高める法人税改革の一環として、所得割の税率引下げと併せて、段階的に拡大されてきた。 都道府県が安定的に行政サービスを提供していくため、法人事業税の税収を安定化させることが外形標準課税導入の目的の1つであり、実際のところ、所得割に比べ、付加価値割及び資本割は安定的に推移している。また、外形標準課税対象法人(以下、「外形対象法人」という)に係る税収は、所得割により課税した場合と比べ、中長期的に見れば概ね税収中立で推移している。ただし、近年は、企業業績が好調であることから、都道府県の減収幅が大きくなる傾向がある。 外形標準課税の対象法人数及びその割合は、いずれも平成18年度をピークとして減少傾向が継続している。すなわち、平成18年度では、全法人数約250万社のうち、外形対象法人数は約3万社(1.18%)であったのに対し、令和3年度では、全法人数約268万社のうち、外形対象法人数は約2万社(0.72%)であり、数では約1万社の減少、割合では2/3に減少している。 (2) 課題 ① 減資による影響 平成24年度から令和2年度にかけて、外形対象法人数は約4,000社の純減となっている。このうち、減資による減少と増資による増加の差は約3,000社と推計されている。このように外形標準課税の対象法人数は、資本金1億円以下への減資を中心とした要因により、導入時に比べ約3分の2まで減少している。 減資の主なパターンは、以下の通りである。 法人課税に係る税制改正のタイミングにおいては、資本金1億円超から1億円以下への減資が増加、特に項目振替型の減資が最も多くなっている。これに対して、資本金1億円超の範囲内での減資においては、有償減資や欠損填補型の減資が中心であり、項目振替型の減資は非常に少ないといえる。 《無償減資》 (ア) 項目振替 (イ) 損失の処理 《有償減資》 (ウ) 株主への払戻し ② 持株会社化・分社化による影響 また、持株会社化・分社化の際に、外形標準課税の対象範囲が実質的に縮小する事例も生じている。すなわち、事業部門の分社化や持株会社化、外部の企業の子法人化などの組織再編の際に、子法人の資本金を1億円以下に設定すること等により、外形標準課税の対象となる部分が大幅に縮小している事例も見られるのである。 《持株会社化前》 《持株会社化後》 ③ 課題 こうした減資や組織再編による対象法人数の減少や対象範囲の縮小は、法人税改革の趣旨や、地方税収の安定化・税負担の公平性といった制度導入の趣旨を損なう恐れがあり、外形標準課税の対象から外れている実質的に大規模な法人を対象に、制度的な見直しを行う必要性が指摘されていた。 2 改正内容 (1) 減資への対応 ① 内容 外形標準課税の対象法人については、現行基準である資本金1億円超はそのまま維持される。ただし、当分の間、前事業年度に外形標準課税の対象であった法人であって、当該事業年度に資本金1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超えるものは、外形標準課税の対象とされる。 改正前に外形標準課税の対象外である法人については、現行基準に該当しない限り、引き続き外形標準課税の対象外となる。また、改正後に新設される法人については、現行基準に該当しない限り、外形標準課税の対象外となる。 ② 適用時期 上記改正内容は、令和7年4月1日に施行し、同日以後に開始する事業年度から適用される。 なお、施行日以後最初に開始する事業年度については、上記改正内容にかかわらず、公布日を含む事業年度の前事業年度(公布日の前日に資本金が1億円以下となっていた場合には、公布日以後最初に終了する事業年度)に外形標準課税の対象であった法人であって、当該施行日以後最初に開始する事業年度に資本金1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超えるものは、外形標準課税の対象とされる。 上記改正内容は、当該事業年度の前事業年度に外形標準課税の対象であることが前提となっている。また、改正内容は、令和7年4月1日以後開始事業年度から適用される。そこで、令和7年4月1日以後最初に開始する事業年度の前事業年度末までに減資することにより、改正内容が適用されなくなってしまうため、これを防ぐために設けられた規定である。ただし、上記カッコ書きにより、公布日前日までに減資をしている場合には、改正内容は適用されないと思われる。つまり、改正法が広く国民に公表される前であれば規制しないが、公表されてからの駆け込み減資は認めない趣旨だと考えられる。 (2) 100%子法人等への対応 ① 内容 資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人(※1)又は相互会社・外国相互会社(特定法人)の100%子法人等(※2)のうち、当該事業年度末日の資本金が1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額(公布日以後に、当該100%子法人等がその100%親法人等に対して資本剰余金から配当を行った場合においては、当該配当に相当する額を加算した金額)が2億円を超えるものは、外形標準課税の対象とされる。 (※1) 当該法人が非課税又は所得割のみで課税される法人等である場合を除く。 (※2) 100%子法人等とは、次の法人をいう。 ・特定法人との間に当該特定法人による完全支配関係がある法人 ・100%グループ内の複数の特定法人に発行済株式等の全部を保有されている法人 資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人からは、所得割のみで課税される法人が除外されていることから、親法人の資本金が1億円以下の場合のその親法人は特定法人には該当しない。 100%子法人等の具体例を示すと以下の通りである。下図のうちA社、B社、C社、D社及びE社は、全て100%子法人等に該当する。 (ア) 特定法人との間に当該特定法人による完全支配関係がある法人 (イ) 100%グループ内の複数の特定法人に発行済株式等の全部を保有されている法人 100%子法人等からその100%親法人等に対して資本剰余金から配当を行い、資本剰余金の額を減少させたとしても、その配当に相当する額を加算することになっているので注意が必要である。なお、加算対象となる資本剰余金からの配当は公布日以後に行うものに限定されているため、公布日前に行う場合には加算対象にはならないと思われる。 ② 適用時期 上記改正内容は、令和8年4月1日に施行し、同日以後に開始する事業年度から適用される。 なお、上記(1)及び(2)の改正内容は、その適用時期が異なっている点に注意が必要である。 3 解説 (1) 減資に対応するための追加的な基準 ① 改正直前の議論 令和5年11月の「地方法人課税に関する検討会」では、外形標準課税の対象法人のあり方として次のことが指摘されていた。 ② 改正内容 以上のような議論の中、当初、総務省は資本金と資本剰余金の合計額は、「50億円超」とする案を持っていたようであるが、最終的には、「10億円超」となった。 また、改正前に外形標準課税の対象外である法人及び改正後に新設される法人については、現行基準に該当しない限り、外形標準課税の対象外となる。これは、中小企業をはじめとした地域経済への影響に十分配慮するとともに、スタートアップの推進等の政府の経済政策との整合性にも配慮したものといえよう。 (2) 持株会社化・分社化に対応するための追加的な基準 ① 改正直前の議論 ② 改正内容 以上のような議論がされていたが、結果として、親法人については、資本金と資本剰余金の合計額が50億円超の法人(及び相互会社・外国相互会社)となった。100%子法人等の範囲については、法人税の規定を参考にしたものとなっている。また、資本金と資本剰余金の合計額が2億円超の法人が対象となっているが、これは小規模な子法人の事務負担等に配慮した結果と思われる。 新たに外形標準課税の対象となる法人については激変緩和措置が設けられる点に注意が必要である。 (了)
《速報解説》 適格請求書等保存方式に係る帳簿の記載事項の見直し等 ~令和6年度税制改正大綱~ 税理士 石川 幸恵 令和5年12月14日に公表された「令和6年度税制改正大綱」(与党大綱)では、令和5年10月1日に開始された適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)について、帳簿の記載事項の見直しが行われた。適格請求書等保存方式開始時からの帳簿記載について適用されることとなっており、事業者の負担軽減に配慮したものと考えられる。また、経過措置について制限が設けられ、こちらは「納税なき控除」による租税回避を防ぐ見直しと捉えられる。 ◎ 改正の内容 (1) 帳簿への住所等の記載見直し 次の取引については適格請求書等の保存不要で仕入税額控除が認められるが、帳簿に仕入れの相手方の住所又は所在地を記載する必要があるとされていた(消令49①、消規15の4)。 インボイスQ&A問110には、帳簿に住所を記載する方法として、「〇〇市 自販機」、「✕✕銀行□□支店ATM」といった例示がされていたが、実務にあたって負担に感じていた事業者も多かったと思われる。 今般の改正では、上記の2つの取引(3万円未満の課税仕入れに限定あり)について住所等の記載が不要とされる。 (2) 簡易課税制度又は2割特例の適用を受ける事業者の帳簿の記載 簡易課税制度や2割特例の趣旨の1つに事務処理の負担軽減がある。しかし、これらの適用を受ける事業者が税抜経理方式により経理すると、課税仕入れにつき適格請求書の交付を受けたかどうかを区分して仮払消費税等を計上しなければならず(下記仕訳例)、事務処理の負担軽減という趣旨に反する。 (例) 税込み11万円(標準税率適用)の材料代支払いの仕訳 〈適格請求書の交付の交付を受けた課税仕入れである場合〉 〈適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れである場合(経過措置の適用あり)〉 このため、継続適用を条件として、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについても上段の適格請求書の交付を受けた課税仕入れと同じ仮払消費税等(※)とすることができるなどの所定の見直しが行われる。 (※) 軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には108分の8を仮払消費税等とする。 (3) 免税事業者等からの仕入れに係る経過措置(いわゆる8割・5割控除)の制限 適格請求書等保存方式の下では、適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れについては仕入税額控除を受けることができないが(消法30⑦)、以下の期間については適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられている(28年改正法附則52、53)。 この経過措置につき、一の適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れの額の合計額がその年又はその事業年度で10億円を超える場合にはその超えた部分の課税仕入れについてこの経過措置の適用を認めないこととする。 (了)
《速報解説》 令和7年度改正へ結論持越しとなった「扶養控除等人的控除の見直し」 ~令和6年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 12月14日公表の与党大綱(令和6年度税制改正大綱)では、子育て世帯に関係する改正事項がいくつか示されている。 本稿ではそのうち令和7年度改正へ結論持越しとなったが、与党大綱の「第一 令和6年度税制改正の基本的考え方」の「6.扶養控除等の見直し」(以下「与党大綱前文」という)において具体的な見直しの内容が示された扶養控除、ひとり親控除、生命保険料控除について取り上げる。 なお、いずれの見直し内容も与党大綱の本文(「具体的内容」)には記載がなく、令和7年度税制改正において具体的な結論を得ることとされていることから、法制化は先となる可能性が高いため、今後の改正情報に十分ご注意いただきたい。 以下、解説を行う。 【1】 扶養控除の見直し(高校生の年代⇒控除額の縮小) 令和6年12月以降、児童手当について所得制限が撤廃されるとともに、支給期間が高校生の年代まで延長されることとなった。 与党大綱前文では、上記児童手当の見直しに伴い、新たに児童手当の支給対象となる「16歳から18歳まで」の扶養控除について、15歳以下の取扱いとのバランスを踏まえた見直し(控除額の縮小)案が示された。 ただし、高校生の年代は、教育費等の支出がかさむ時期でもあることから、単に扶養控除を廃止するのではなく、かつて高校実質無償化に伴い廃止(※)された特定扶養親族としての上乗せ部分(所得税25万円、住民税12万円)を復元する内容となっている。 (※) 平成23年分の所得税(住民税は平成24年度分)から廃止。 〈年齢16歳から18歳までの扶養控除の控除額〉 【2】 ひとり親控除の見直し(要件の見直し・控除額の拡大) 困難な境遇に置かれているひとり親の自立支援を進める観点から、与党大綱前文では、ひとり親の所得要件を1,000万円以下に引き上げるとともに、ひとり親控除の控除額を3万円引き上げる見直し案が示された。 〈ひとり親控除〉 【3】 生命保険料控除の見直し(子育て世帯⇒控除額の拡充) 与党大綱前文では、生命保険料控除のうち新生命保険料に係る一般枠(遺族保障)について、23歳未満の扶養親族を有する場合には、現行の4万円(所得税)の適用限度額に対して2万円の上乗せ措置を講ずる見直し案が示された。 なお、生命保険料控除に関し、以下の2点についても言及されている。 (了)
《速報解説》 国税庁、インボイス制度の「多く寄せられるご質問」について新たに5問を公表 ~インボイスの再交付に係る取扱い、派遣元会社等を通じ派遣社員等へ支払う出張旅費など~ Profession Journal編集部 11月13日に国税庁が公表したインボイス制度に関し多く寄せられる質問(13問)では、既報のように買手側によるインボイスの修正を一定のルールにより差し支えないとする見解が示されるなどしたが、12月15日には同ページが更新され、新たに5問が新設された。 今回新たに公表されたのは次の5問。 問⑭では多数の会員を有する事業者団体が会員から対価を得てセミナーを開催する場合、参加者は団体会員に限られるものの、相手方を一意に特定したうえで開催されるものではなく、また、対象者も多数に上るものであることから、宛名を「●●会会員様」などとした簡易インボイスを交付することができるとしている。 また問⑰では、役務提供を行う事業者(委託者)が、予約サイトを通じて顧客からの予約や代金の精算を行い、媒介者交付特例の適用により媒介者(予約サイト運営者)から顧客へインボイスを交付しているケースで、実際の役務提供の際に、顧客から改めてインボイスの交付を求められた場合の取扱いが示されている。 この場合、役務提供者(委託者)としては既にインボイスの交付義務を果たしているものの、改めてインボイスを交付することについて消費税法上妨げられるものではないため、顧客の求めに応じインボイスを(再)交付することができるとしている。ただしこの場合、役務提供者(委託者)が交付するインボイスに記載すべき課税資産の譲渡等に係る税抜価額又は税込価額は、委託者である売手の認識している金額によることとなるとしている。 また、上記回答に続き(参考)として、「複数の交付済みのインボイスをまとめて1つのインボイスとして再発行する」ことも可能とし、その場合の消費税額等の計算について柔軟な取扱いが示されている。 この場合、「一の適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理」を行う必要(国税庁「インボイスQ&A」問57)があるため、再発行時に1つにまとめたインボイス内において改めて消費税額等を再計算する必要があるものの、「売手において既に交付した適格請求書の写しを保存しているなど、再発行であることが客観的に明らかである場合には、その記載すべき消費税額等は、既に交付した適格請求書に記載された消費税額等を基に記載することとして差し支えありません」との見解が示された。 その他、派遣社員等へ派遣元会社等を通じ出張旅費等を支払った場合のインボイスの交付・保存義務(派遣社員等へ直接支払われることが契約により明確かどうかで取扱いに差異あり)(問⑮)や、他の事業者が経営する食堂を社員食堂として従業員に利用させ一部会社負担としている場合の事業者から交付されるインボイスに係る仕入税額控除の適用(預かり金として処理しているかにより取扱いに差異あり)(問⑯)、継続的な役務提供に係る課税仕入れについて、取引先が指定したホームページ上の「マイページ」上でいつでもインボイスをダウンロードできる場合、電帳法の取扱いと同様に一定の要件の下、すべてのインボイスをダウンロードして保存する必要はなく、その保存があるものとして仕入税額控除の適用を受けることとして差し支えないとする設問(問⑱)が公表されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 パーシャルスピンオフ税制の延長・見直し ~令和6年度税制改正大綱~ 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 令和5年12月14日公表の与党税制改正大綱において、スピンオフの実施の円滑化のための税制措置の見直しが行われることとなった。本稿ではその概要について解説を行う。 1 改正の背景 令和5年度税制改正により、親会社に持分を一部残す株式分配(パーシャルスピンオフ)についても、一定の要件を満たせば適格株式分配とする特例措置(パーシャルスピンオフ税制)が1年間(令和6年3月31日まで)の時限措置として創設された。 経済産業省は、事業再編は検討から実施まで数年単位の時間が必要であり、1年の時限措置では企業側での検討が難しいことや、今年に入り、パーシャルスピンオフを含め、スピンオフの検討を複数企業が公表していることから、本税制措置について恒久化を求めていた。 これを受け、「令和6年度税制改正大綱」において、スピンオフの実施の円滑化のための税制措置の見直しが盛り込まれた。 2 現行制度 パーシャルスピンオフ税制の適用要件は以下の通りである。 (1) 株式のみ按分交付要件 完全子法人株式の80%超が移転し、かつ、現物分配法人の各株主の持株数に応じて完全子法人株式のみが交付されること (2) 従業者継続要件 認定株式分配直前の完全子法人の従業者のうち、その総数のおおむね90%以上に相当する数の者が完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれていること (3) 事業継続要件 完全子法人の認定株式分配前に行う主要な事業が完全子法人において引き続き行われることが見込まれていること (4) 役員継続要件 認定株式分配前の完全子法人の特定役員の全てが株式分配に伴って退任するものではないこと (5) 非支配要件 現物分配法人が認定株式分配の直前に他の者による支配関係がなく、かつ、認定株式分配後に完全子法人が他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないこと (6) 事業再編計画認定要件 通常の事業再編計画の認定要件に加えて、次のいずれかの要件を満たしていることが確認できること なお、現行制度の詳細にあたっては、以下の拙稿を参照されたい。 3 令和6年度税制改正大綱の内容 大綱に盛り込まれた改正案の内容は、次の通りである。 (1) 適用要件の追加 パーシャルスピンオフ税制の適用に際して、「認定株式分配に係る完全子法人が主要な事業として新たな事業活動を行っていること」という要件が新たに追加される。 (2) 認定事業再編計画の公表時期 認定を受けた事業再編計画の内容は、原則、公表されることとされており、公表時期について、その認定の日からその計画に記載された事業再編の実施時期の開始日まで(現行:認定の日)とされる。 (3) 適用期限の延長 適用期限は4年延長され、令和10年3月31日までとされる予定である。 4 今後の留意点 今回追加された適用要件で「認定株式分配に係る完全子法人が主要な事業として新たな事業活動を行っていること」と記載されているが、どのような場合に「主要な事業として新たな事業活動を行っていること」に該当するかについて、通達等で明確化されることが予想されるため、今後の情報に留意が必要である。 (了)
《速報解説》 ASBJ、四半期開示義務の廃止に係る金商法改正に対応した 「中間財務諸表に関する会計基準(案)」等を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年12月15日、企業会計基準委員会は、企業会計基準公開草案第80号「中間財務諸表に関する会計基準(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 2023年11月29日に公布された「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)により、四半期開示の見直しとして、上場企業について金融商品取引法上の四半期開示義務(第1・第3四半期)が廃止され、開示義務が残る第2四半期報告書を半期報告書として提出することになった。 これにより、改正後の金融商品取引法上、半期報告書において中間連結財務諸表又は中間個別財務諸表(以下合わせて「中間財務諸表」という)が開示されることになる。 今回の公開草案は、当該改正に対応するものである。 意見募集期間は2024年1月19日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 適用会社 公開草案は、次の会社が半期報告制度に基づき作成する中間財務諸表に適用する。 金融商品取引法上、四半期報告制度は廃止されるが、上場会社においては引き続き取引所規則に基づき第1・第3四半期決算短信の報告が行われるため、今後、(仮称)期中財務諸表に関する会計基準等の開発が行われるまでの間、四半期会計基準等は適用を終了しないことを予定しているとのことである。 Ⅲ 開発にあたっての基本的な方針と主な内容 公開草案は、期首から6ヶ月間を1つの会計期間(中間会計期間)とする中間財務諸表に係る会計処理について規定する。 中間財務諸表の記載内容は、従前の第2四半期報告書と同程度の記載内容となるように、基本的に、「四半期財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第12号)及び「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第14号)(両者を合わせて、以下「四半期会計基準等」という)の会計処理及び開示を引き継ぐ予定である。 このため、公開草案と企業会計基準第12号との比較を見ると、「四半期財務諸表」が「中間財務諸表」に、また、「四半期会計期間」が「中間会計期間」に置き換わっていることがわかる。 期首から6ヶ月間を1つの会計期間(中間会計期間)とした場合と、四半期会計基準等に従い第1四半期決算を前提に第2四半期の会計処理を行った場合とで差異が生じる可能性がある項目については、従来の四半期での実務が継続して適用可能となる取扱いを規定する。 次の項目である(③から⑥は経過措置による)。 Ⅳ 適用時期等 本会計基準は、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)の附則3条に基づき、同法により改正された金融商品取引法24条の5第1項の規定による半期報告書の提出が求められる最初の中間会計期間から適用する予定である。 (了)
《速報解説》 適格現物出資の対象範囲及び対象資産等の内外判定の見直し ~令和6年度税制改正大綱~ 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 令和5年12月14日公表の与党税制改正大綱において、適格現物出資の対象範囲及び対象資産等の内外判定の見直しが行われることとなった。本稿ではその概要について解説を行う。 1 現行制度 (1) 適格現物出資の対象から除かれるもの 内国法人の国内の資産を簿価で外国法人に移転し、外国法人がその資産を売却した場合、日本では課税できなくなるため、租税回避が可能となる内国法人から外国法人の本店等への国内資産等((2)①参照)の現物出資は、適格現物出資から除かれている(法法2十二の十四)。 同様に、租税回避が可能となる外国法人から内国法人に対する国外資産等((2)②参照)の現物出資は、適格現物出資から除かれている(法法2十二の十四)。 (2) 対象資産等の内外判定 ① 国内資産等 「国内資産等」とは、国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権その他国内にある事業所に属する資産(外国法人の発行済株式等の総数の25%以上の数の株式を有する場合におけるその外国法人の株式を除く)又は負債をいう(法令4の3⑩)。 ② 国外資産等 「国外資産等」とは、国外にある事業所に属する資産(国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権を除く)又は負債をいう(法令4の3⑪)。 2 令和6年度税制改正大綱の内容 大綱に盛り込まれた改正案の内容は次の通りである。 (1) 適格現物出資の対象から除かれるもの 無形資産等については、資産価値の形成場所と所有権の帰属先が一致せず、租税回避に利用されることも多いため、内国法人から外国法人の本店等への無形資産等(※1)の現物出資は、適格現物出資から除かれることとされた。 (※1) 「無形資産等」とは、次に掲げる資産で、独立の事業者間で通常の取引条件に従って譲渡、貸付け等が行われるとした場合にその対価が支払われるべきものをいう。 ① 工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式又はこれらに準ずるもの(これらの権利に関する使用権を含む) ② 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む) (2) 対象資産等の内外判定 内外判定の執行上の安定を図り、外国法人に対する日本の課税権が及ぶ範囲の判定と一致させるため、対象資産等の内外判定について、「事業所」ではなく、「法人の本店等」及び「恒久的施設」によることとする。 ① 改正後の国内資産等 「国内資産等」とは、国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権その他内国法人の本店等又は外国法人の国内の恒久的施設を通じて行う事業に係る資産(外国法人の発行済株式等の総数の25%以上の数の株式を有する場合におけるその外国法人の株式を除く)又は負債をいう。 ② 改正後の国外資産等 「国外資産等」とは、外国法人の本店等又は内国法人の国外事業所等(※2)を通じて行う事業に係る資産(国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権を除く)又は負債をいう。 (※2) 「国外事業所等」とは、国外にある恒久的施設に相当するもの等をいう。 3 適用時期 適用時期については、令和6年10月1日以後に行われる現物出資について適用される予定である。 (了)