《速報解説》 ASBJがGM課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱いを公表 ~税効果適用指針にかかわらず、GM課税制度の影響を反映しないとする取扱いを継続~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年3月22日、企業会計基準委員会は、「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(改正実務対応報告第44号)を公表した。 これにより、2024年1月24日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対する主なコメントの概要とその対応も公表されている。 グローバル・ミニマム課税のルールには、所得合算ルール(Income Inclusion Rule(IIR))のほかに、軽課税所得ルール(Undertaxed Profits Rule(UTPR))及び国内ミニマム課税(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax(QDMTT))があり、改正実務対応報告第44号は、今後法制化された場合のこれらの取扱いも含めたグローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の取扱いを定めるものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 改正実務対応報告第44号は、所得合算ルール(IIR)に係る取扱いだけでなく、今後の税制改正により法制化される予定の軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)等の取扱いも含めて、国際的な動向等に変化が生じない限り、税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととする取扱いを継続するとしている(15-5項)。 会計処理について、改正前の「改正法人税法の成立日以後に終了する」と「(四半期連結決算及び四半期決算を含む。)」の文言を削除し、次のように規定する(3項、3-2項)。 Ⅲ 適用時期等 改正実務対応報告第44号は、公表日(2024年3月22日)以後適用する。 (了)
《速報解説》 JICPA、「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正案を公表 ~「グループ監査における特別な考慮事項」の改正を受け、一部様式も大きく変更~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年3月21日、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023年1月12日改正)を受けたものである。 意見募集期間は2024年4月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 「《3.グループ監査における特別な考慮事項》」について、監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」を受けた記載に改正されている。 次の様式についても大きく変更されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会が「財務報告に係る内部統制の監査」の改正案を公表 ~監査報酬、非監査報酬及び報酬依存度に係る報酬関連情報の開示の記載例を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年3月19日、日本公認会計士協会は、「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、報酬関連情報(監査報酬、非監査報酬及び報酬依存度)の開示の記載例を追加するものである。 意見募集期間は2024年4月3日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 公開草案の「付録3 一体型内部統制監査報告書の文例」において、「報酬関連情報」の記載例が追加されている。 具体的な文例は公開草案をお読みいただきたい。 Ⅲ 適用時期等 2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用する。 ただし、倫理規則(2022年7月25日変更)と併せて2023年4月1日以後終了する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から早期適用することを妨げない。 (了)
2024年3月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.561を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第125回】 「新税制及びストックオプション・プール実現に係る “産業競争力強化法の改正"」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 3月2日、令和6年度税制改正に係る「所得税法等の一部を改正する法律案」が衆議院を通過した。衆議院財務金融委員会では、6項目にわたる附帯決議がなされた。 例えば、所得税の定額減税に関しては、その実施にあたり、「対象者が確実に減税措置を受けられるよう、適切な執行体制を確保するとともに、十分な周知・広報を行うほか、各事業者や自治体の事務負担にも配慮し、減税事務の円滑な実施に努めること」とされた。 また、戦略分野国内生産促進税制やイノベーション拠点税制(イノベーションボックス税制)等の新たに創設される各種の企業関係税制に関しては、「今後、各措置の適用実態を検証し、企業等の行動変容を促すインセンティブ措置として機能しているか否か等の観点から、政策効果や必要性をよく見極めた上で、一部の企業等に対する過度の優遇にならないよう、不断の見直しを行うこと」とされた。 〇産業競争力強化法の改正 令和6年度税制改正で創設される戦略分野国内生産促進税制やイノベーション拠点税制等に関しては、産業競争力強化法の規定が参照されている。 これらの税制措置等に対応し、2月16日、「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出された。 今回の改正では、令和6年度税制改正で創設される戦略的国内投資の拡大に向けた、戦略分野への投資・生産に対する大規模・長期の税制措置及び研究開発拠点としての立地競争力を強化する税制措置や、国内投資拡大に繋がるイノベーション及び新陳代謝の促進に向けた、我が国経済のけん引役である中堅企業・スタートアップへの集中支援等の措置を講じることとしている。 産業競争力強化法は、平成25年に制定以来、平成30年と令和3年に改正が行われており、今回は3回目の改正となる。 〇戦略分野国内生産促進税制に関連する改正 産業競争力強化法の改正においては、第一に、国際競争に対応して内外の市場を獲得すること等が特に求められる商品を「産業競争力基盤強化商品」として定義し(電気自動車等、グリーンスチール、グリーンケミカル、持続可能な航空燃料(SAF)、半導体)、これを「生産及び販売」する計画(事業適応計画)を主務大臣が認定した場合、戦略分野国内生産促進税制及びツーステップローン等の金融支援を行う。 戦略分野国内生産促進税制では、事業適応計画の認定から10年間にわたり、「産業競争力基盤強化商品」の生産及び販売量に比例した減税措置(法人税額の40%(半導体は20%)を上限とする税額控除)が講じられる。 〇イノベーション拠点税制に関連する改正 第二に、知的財産の活用状況等の調査規定を新設し、一定の知的財産を用いていることを確認できた場合に、令和7年度から開始するイノベーション拠点税制(令和6年4月1日以降に取得した特許やAI関連のプログラムの著作権の譲渡所得・ライセンス所得について30%の所得控除)を適用する。 〇中堅企業のカテゴリーの創設 第三に、常用従業員数2,000人以下の会社等(中小企業者除く)を「中堅企業者」、特に賃金水準が高く国内投資に積極的な中堅企業者を「特定中堅企業者」と定義し、特定中堅企業者等による成長を伴う事業再編の計画を主務大臣が認定した場合、令和6年度税制改正で拡充された中堅・中小グループ化税制(中小企業事業再編投資損失準備金制度)、大規模・長期の金融支援(ツーステップローン)、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)による助成・助言等の措置を講じる。 中堅・中小グループ化税制では、成長意欲のある中堅・中小企業が、複数回のM&Aを実施する場合には、積立率を現行の70%から、2回目には90%、3回目以降は100%に拡充し、据置期間を現行の5年から10年に延長することとされている。 〇ストックオプション・プール(会社法の特例) 第四に、スタートアップがストックオプションを柔軟かつ機動的に発行できる仕組み(いわゆるストックオプション・プール)を特例的に可能とする。 具体的には、現行の会社法では、非公開会社については、ストックオプションの発行にあたっては株主総会の特別決議が必要であり、取締役会に決定を委任できる事項が限られ、しかも委任の有効期間は1年である。 今回の改正法案では、設立の日以後の期間が15年未満の株式会社について、「株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合」として経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて、「経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合」には、取締役会へ委任できる事項を拡充するとともに(権利行使価額、権利行使期間)、委任の有効期間の制限を撤廃し、設立後15年までとする。 (了)
〈令和5年度改正及び改正通達を踏まえた〉 生前贈与加算・相続時精算課税制度のポイント 【第3回】 「相続時精算課税制度の見直し②」 ~被災土地・建物の特例~ 太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 佐藤 達夫 1 被災土地・建物の特例 (1) 改正の内容 相続時精算課税の適用を受けて取得した土地又は建物が、贈与日からその特定贈与者の死亡に係る相続税の期限内申告書の提出期限までの間に、令和6年1月1日以後の災害(※1)によって一定の被害を受けた場合(※2)には、税務署長の承認を受けることにより、相続税の課税価格へ加算又は算入される土地又は建物の価額を、その贈与時の価額から災害による被災価額を控除した残額とすることができる(措法70の3の3①、措通70の3の3-1)。 (※1) 災害は、震災、風水害、火災、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び火災、鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害をいう(措令40の5の3①)。 (※2) 被害を受けた場合とは、土地又は建物が災害により物理的な損失(例えば、地割れ等土地そのものの形状が変わったことによる損失又は建物の損壊及び滅失等)を受けた場合をいい(措通70の3の3-2)、一定の被害とは、その土地の贈与時の価額又は建物の想定価額のうち、被災価額の占める割合が10%以上となる被害をいう。 〈特例の計算イメージ〉 (例) 建物が被災した場合 (注) 国税庁HP「令和5年相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」3頁の図を筆者一部加工 (2) 適用を受けるための要件 この規定の主な適用要件は、次のとおりである(措法70の3の3①)。 (3) 適用を受けるための手続き 受贈者は、原則として災害が発生した日から3年以内に、災害による被害を受けた部分の価額などを記載した申請書(※1)及び添付書類(※2)を贈与税の納税地の所轄税務署長に提出する必要がある(措法70の3の3①、措令40の5の3⑤⑥、措規23の6の2④)。また、申請をした後に被災価額に変動が生じた場合には、遅滞なく、贈与税の納税地の所轄税務署長に届け出る必要がある(措令40の5の3⑨、措規23の6の2⑦⑧)。 (※1) 申請書には、受贈者及び特定贈与者の氏名及び住所又は居所、災害により被害を受けた財産、災害が発生した日、災害による被害額及び保険金、損害賠償金などにより補填される金額などを記載する。 (※2) 添付書類は、贈与日から災害発生日まで継続所有していたことがわかる書類、り災証明書、原状回復に要する費用の見積書、保険金や損害賠償金などにより補填される金額がわかる書類などである。 (4) 適用時期 この改正は、相続時精算課税による贈与を受けた土地又は建物が、令和6年1月1日以後に、災害により被害を受けた場合に適用される(改正法附則51⑤、措通70の3の3-1)。 2 実務上のポイント (了)
相続税の実務問答 【第93回】 「相続財産の中に特定非常災害の区域内の土地がある場合の 相続税の申告期限」 税理士 梶野 研二 [答] 令和6年能登半島地震は特定非常災害に指定され、石川県は全域が特定地域とされました。このためお父様が5年前まで住んでいたW市の自宅の敷地は、「特定土地等」に該当することとなりますので、このW市の自宅の敷地をお父様から相続される妹さんの相続税の申告書の提出期限は、本来の令和6年4月10日から令和6年11月1日に延長されます。また、同じくお父様の相続人であるあなたとお姉様の相続税の申告書の提出期限も令和6年11月1日に延長されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 国税通則法の規定による申告期限の延長 (1) 国税通則法の規定 イ 国税庁長官は、都道府県の全部又は一部にわたり災害その他やむを得ない理由により、各税法に規定する期限までに国税の申告書の提出をすることができないと認める場合には、地域及び期日を指定してこれらの期限を延長します(通法11、通令3①)。 ロ また、税務署長等は、災害その他やむを得ない理由により、税法に定められた期限までに国税の申告書などが提出できないと認められる場合は、申告書の提出をすべき者からの申請により、期日を指定して申告書の提出期限を延長します(通法11、通令3③)。 (2) 令和6年能登半島地震に係る国税通則法第11条の適用 イ 令和6年1月12日に、国税庁告示第1号「富山県及び石川県における国税に関する申告期限等を延長する件」により、富山県内及び石川県内に納税地を有する者について、令和6年1月1日以降に到来する申告・納付等の期限が、別途国税庁告示により定める日まで延長されることとなりました。 相続税においては、原則として、被相続人の住所地が納税地になります(相法62①、同附則③)。したがって、令和5年2月28日以降に死亡した被相続人の住所地が富山県内又は石川県内にあった場合には、相続又は遺贈により財産を取得した者の相続税の申告書の提出期限が延長されることとなります。 ロ 相続税の納税地が富山県内又は石川県内にない相続人又は受遺者についても、令和6年能登半島地震により被災されたために相続税法に規定する期限までに相続税の申告書の提出をすることができないと認める場合には、所轄の税務署長に対して個別に申請することにより、相続税の申告書の提出期限の延長を受けることができます。 2 租税特別措置法の規定による申告期限の延長 (1) 租税特別措置法の規定 イ 特定非常災害の発生日の前に相続又は遺贈によって財産を取得した者で、相続税法第27条第1項に定める相続税の申告書の提出期限が当該特定非常災害の発生日後である場合には、相続税の課税価格の計算において災害発生日に所有していた特定土地等又は特定株式等の価額を当該特定非常災害の発生日後の価額により計算することができる特例措置(以下「特例措置」といいます)が設けられています(措法69の6①)。この相続税の特例措置を適用できるときには、租税特別措置法第69条の8第1項の規定により、相続税の申告書の提出期限は、災害発生日の翌日から10ヶ月を経過する日まで延長されます。 相続人又は受遺者の中にこの特例措置を適用できる者がいる場合には、同じ被相続人に係る相続人及び受遺者全員の相続税の申告書の提出期限が同様に延長されます。 なお、これらの相続人又は受遺者が、上記1の(1)のイにより国税庁長官により指定された地域内に納税地を有する場合には、相続税の申告書の提出期限は、国税庁長官が告示により指定する日と、災害発生日の翌日から10ヶ月を経過する日のいずれか遅い日まで延長されます。また、上記1の(1)のロにより相続税の申告・納付期限が延長された者の相続税の申告書の提出期限は、その延長された期限と災害発生日の翌日から10ヶ月を経過する日のいずれか遅い日まで延長されます。 ロ 特例措置を適用するためには、相続税の申告書に、この特例措置を適用する旨の記載をする必要があります(措法69の6③)。 (2) 令和6年能登半島地震に係る租税特別措置法第69条の8の適用 令和6年1月11日、「令和6年能登半島地震」による災害が特定非常災害に指定され(「令和6年能登半島地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」)、その災害の発生日は令和6年1月1日とされました。また、令和6年4月1日現在、石川県全域、富山県全域及び新潟県全域が特定地域に指定されています。 これにより、令和6年1月1日よりも前に相続が開始し、まだ、相続税法第27条第1項に定める申告書の提出期限が到来していない場合(注)、取得した相続財産の中に、特定地域である石川県、富山県又は新潟県に所在する土地等又はこれらの地域内にあった動産等の価額が保有資産の価額の合計額の10分の3以上である法人の株式等があるときには、これらの財産を相続又は遺贈により取得した者はもちろん、同じ者から相続又は遺贈により財産を取得した当該被相続人の相続人及び受遺者の相続税の申告書の提出期限は、11月1日まで延長されることとなりました。 (注) 具体的には、令和5年2月28日から令和5年12月31日までの間に相続が開始した被相続人の相続人又は受遺者が対象になります。 なお、国税通則法第11条の規定が適用される場合(上記1の(2)に該当する場合)には、同法の規定により延長された期限と11月1日のいずれか遅い日が申告・納付期限となります。 3 ご質問の場合 お父様は、令和5年6月10日にお亡くなりになられたとのことです。あなた方相続人が、同日にお父様がお亡くなりになられたことを知ったとしますと、相続税の申告書の提出期限は、相続税法の規定上は、令和6年4月10日になります。 しかしながら、お父様が5年前まで住んでいた石川県W市の自宅の敷地は、特定非常災害として指定された「令和6年能登半島地震」に係る特定土地等に該当しますので、このW市の自宅を相続する妹さんの相続税の申告書の提出期限はもちろん、あなたとお姉様の相続税の申告書の提出期限も、本来の令和6年4月10日から令和6年11月1日に延長されます。 なお、お父様の死亡の時の住所は名古屋市内にあったと考えられますので、あなた方の相続税の納税地は名古屋市になるため、国税庁長官の指定による申告書の提出期限の延長(上記1の(2)のイ)の対象にはなりません。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第59回】 「定期同額給与における過大役員給与」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 役員退職給与以外の過大役員給与 役員給与の損金算入額を定める法人税法34条を検討する場面において、役員給与の過大性、つまりその役員給与の額が不相当に高額かどうかという論点は、税理士としては最も注目したい論点である。 しかし、【第3回】で触れている通り、代表取締役に対してその役員給与の額が不相当に高額であると指摘がなされて争いに発展するケースは、いわゆる残波事件以前はほとんど見られなかった。残波事件以降に争点となる事例が散見されるようになったといえる。 以下では、そのうちの1つの裁判例を取り上げる。 (2) 定期同額給与について不相当に高額な部分が認められた事例 役員退職給与ではない、通常の定期同額給与においてその過大性が争われた事例に、東京地裁令和2年1月30日判決がある(※1)。以下にその概要を紹介する。 (※1) 判例タイムズ1499号176頁、TAINS:Z270-13377。評釈として、小仙健太郎「同業類似法人の最高値に基づいて『不相当に高額』な役員給与が算定された事例」税務事例53巻(2021)3号54頁。 同業類似法人との比較において、一般的には平均額が用いられるケースが大多数であるところ、この事例では、同業類似法人の役員給与の最高額によって役員給与の額のうち不相当に高額な部分が算定されていることが注目される。また、納税者が、代表者の職務の内容が一般的な同業法人の役員において想定される職務の範囲内にあるとはいえない旨を主張したことも特筆すべき点であるといえる。 すなわち、納税者は、その代表者が、顧客の大半がいるマレーシアに在留し、①顧客の意向把握、②把握した意向に沿う中古自動車をオークションで落札するための使用人への指示、③落札した自動車の顧客への売却等の中古自動車販売に必要な業務を一手に行うとともに、④広告宣伝活動、⑤顧客との信頼関係構築活動、⑥顧客から寄せられたクレームへの対応、⑦顧客に対する支払の督促といった附随業務について自ら担っていた事実を主張し、その結果、納税者は、各事業年度において極めて高い業績(売上金額が約69億円~89億円)を達成したとし、「代表者の職務の内容が『中古自動車販売等を目的とする一般的な法人の役員において想定される職務の範囲内にある』ことを前提に行われた被告の検討結果は、合理的な根拠を欠くものというべき」と主張した。 これに対して裁判所は、代表者が果たした職責及び達成した業績は相当高い水準にあったとしつつ、一般的に想定される職務の範囲内にあると認定した。相当高い水準になったからこそ、前述の判断を採用したと考えられる。 さらに、納税者の収益や使用人の給与支給額が減少傾向にある中で、本件役員給与が逆行する形で急増し、納税者の改定営業利益(営業利益に役員報酬額を足し戻したもの)の大部分を占め、その営業利益を大きく圧迫するに至っている点を指摘し、その額の高さ及び増加率は著しく不自然であると示した。これらにより、不自然に高額な役員給与を全額損金算入することで、課税の公平性は著しく害されているという他ない旨を示している。 (3) 本件裁判例の意義 裁判所が示した内容に対しては、批判的な意見がある。すなわち、本件の役員給与の支給額は数億単位となっていて他の中小企業では考えられないほどの金額であるとしつつも、代表者の職務内容について、その事実関係より、納税者の業績は代表者の人脈等があるからこそ成り立ち、同業類似法人が納税地の都道府県内には存在しないかもしれず、仮にその中で抽出された法人との比準を認める場合には、一定の倍数を乗じる等の調整を図る等の方法も考えられるとする意見である(※2)。 (※2) 品川芳宣「定期同額給与に係る『不相当に高額な部分』の算定方法」税研213号(2020)101頁。 この点、実際に、いわゆる1.5倍判決と呼ばれる東京地裁平成29年10月13日判決がある(※3)。なお、1.5倍判決の控訴審である東京高裁平成30年4月25日判決では(※4)、当該1.5倍のくだりは削除されたが、「同業類似法人の抽出が合理的に行われてもなお、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握されたとはいい難いほどの極めて特殊な事情があると認められる場合に限り、これを別途考慮すれば足りる」と示されている。 (※3) 税務訴訟資料267号順号13076、TAINS:Z267-13076。【第29回】参照。高裁では異なる判断が示されたが、同業類似法人から抽出された係数に1.5倍を乗じて調整するという方法が示されている。 (※4) 訟務月報65巻2号133頁、TAINS:Z268-13149。 しかし、本件のような事情であってもこのような考慮は図られず、前述の判断に留まっている。この点から、少なくとも、法人の業績が低下傾向であるならば、役員報酬の額を急増させることは不自然であるといえると示されたことを知っておくべきであるといえる。 このように、本件は、法人である納税者の収益等が減少傾向になる中、代表者の役員報酬額のみが急増したという事実が、結果として更正処分等を招く一因になったとも考えられる(※5)。この点、一般的には、法人の財務内容を勘案しつつ、適正な役員報酬の額を毎期算定すべきであったといえる。 (※5) 代表者は非居住者であるという推論が成り立つため、法人税の実効税率より非居住者の源泉所得税率の方が低いという事実が、高額な役員報酬を支給するインセンティブが働いていたとする指摘もある。品川芳宣「役員給与のうち『不相当に高額な部分』の算定方法」T&A master843号(2020)30頁。 上記の残波事件では、役員の経営能力に焦点を当てて同業類似法人を抽出することは客観性を欠くとも示されているため、同業類似法人の抽出は機械的に行われることを念頭に置き、その法人の業績や将来見通しをも勘案しながら、適正額の算定を行う必要があるだろう。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第62回】 「適格株式交換を行った場合の申告調整」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格株式交換を行った場合の申告調整の具体例について解説します。 1 適格株式交換を行った場合の株式交換完全親法人の処理 (1) 前提条件 【株式交換完全子法人B社の株式交換直前の貸借対照表】 会計上の資産・負債と税務上の資産・負債には、下記の差異が生じています。 (2) 会計処理 株式交換完全親法人A社の会計処理は、下記のとおりです。 会計上「取得」と判定される株式交換では、株式交換完全親法人となる会社が取得する株式交換完全子法人株式の取得原価は、時価で算定することとされています。 (3) 税務処理 株式交換完全親法人A社の税務処理は、下記のとおりです。 ① 株式交換完全子法人株式の取得価額 適格株式交換により株式交換完全親法人が取得する株式交換完全子法人株式の取得価額は、次のとおりです(法令119①十)。 本例の場合、株式交換の直前において株式交換完全子法人の株主はC社のみであり、50人未満のため、株式交換完全親法人A社が取得するB社株式(株式交換完全子法人株式)の取得価額は、C社が有していたB社株式の株式交換直前の帳簿価額相当額の2,000となります。 ② 資本金等の額 株式交換完全親法人において株式交換により増加する資本金等の額は、次のとおりです(法令8①十)。 株式交換完全親法人A社において増加する資本金等の額は、2,000となります。 ③ 利益積立金額 適格株式交換の場合には、株式交換完全親法人A社の利益積立金額は増加しません。 (4) 会計処理と税務処理の調整 会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。 調整仕訳は、次のとおりです。 この調整仕訳については、損益項目が含まれないため、別表4での申告調整は行わず、別表5(1)のみで調整することとなります。 (5) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 (注) ※印は調整仕訳により生じたものであることを表示するために記入しています。 ◆ポイント◆ 株式交換完全親法人A社において増加する利益積立金額が0、増加する資本金等の額が2,000となっているかを別表5(1)で確認することが重要です。 2 適格株式交換を行った場合の株式交換完全子法人の処理 適格株式交換を行った場合には、株式交換完全子法人B社が有する資産について時価評価を行う必要はなく、特段の課税関係は生じません。 3 適格株式交換を行った場合の株式交換完全子法人の株主の処理 (1) みなし配当 適格株式交換が行われた場合には、株式交換完全子法人の利益積立金額は株式交換完全子法人の株主に交付されないため、株式交換完全子法人の株主においてみなし配当を計上する必要はありません。 (2) 譲渡損益 投資が継続していると認められる場合には、譲渡損益の計上を繰り延べるとされています(法法61の2⑨)。「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を受けていないことをいいます。 株式交換完全子法人の株主であるC社は、株式交換によりA社株式のみの交付を受けているため、譲渡損益は生じません。 (3) A社株式の取得価額 株式交換完全子法人の株主が対価として株式交換完全親法人株式のみを交付された場合のその株式交換完全親法人株式の取得価額は、株式交換完全子法人株式の帳簿価額に付随費用を加算した金額とされています(法令119①九)。 株式交換完全子法人の株主であるC社は株式交換によりA社株式のみを交付されているため、A社株式の取得価額は、株式交換直前のB社株式の帳簿価額である2,000となります。 (4) 会計処理 株式交換完全子法人の株主C社の会計処理は、次のとおりです。 (5) 税務処理 株式交換完全子法人の株主C社の税務処理は、次のとおりです。 (6) 会計処理と税務処理の調整 会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。 調整仕訳は、次のとおりです。 この調整仕訳については、損益項目が含まれないため、別表4での申告調整は行わず、別表5(1)のみで調整することとなります。 (7) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 (了)
給与計算の質問箱 【第51回】 「令和6年分所得税の定額減税」 ~年調減税~ 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 実施が見込まれる令和6年分所得税の定額減税のうち、年調減税についてご教示ください。 A 以下、令和6年分所得税の定額減税のうち、年調減税を中心に概要を解説する。 なお、定額減税及び月次減税の概要については前回を参照いただきたい。 * * 解 説 * * ◎ 年調減税の概要 (1) 年調減税の対象者 年末調整の対象者のうち、給与以外の所得を含めた合計所得金額が1,805万円以下となる人が年調減税の対象となる。 なお、給与以外の所得を含めた合計所得金額は、給与所得者の基礎控除申告書により把握することができる。 〈給与所得者の基礎控除申告書(一部抜粋)〉 年末調整の対象者は、以下のとおりである。ただし、令和6年中の主たる給与の収入金額が2,000万円を超える人は除く。 (2) 年調減税額の計算 「扶養控除等申告書」、「配偶者控除等申告書」、「年末調整に係る定額減税のための申告書」(本人の合計所得金額1,000万円超かつ配偶者の合計所得金額48万円以下の場合)などから同一生計配偶者や扶養親族の人数を確認する。 同一生計配偶者は、生計を一にする配偶者のうち合計所得金額が48万円以下の居住者をいう。また扶養親族は、所得税法上の控除対象扶養親族だけでなく、16歳未満の扶養親族も含めた居住者をいう。 人数を把握した上で、本人3万円、同一生計配偶者及び扶養親族1人につき3万円を合計して年調減税額を計算する。 (3) 年調減税額の控除 住宅ローン控除後の年調所得税額から年調減税額を控除する。その金額に102.1%を乗じたものが年調年税額となる(下図参照)。 〈年調年税額計算の流れ〉 (※) 上図につき国税庁「給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた」11頁より抜粋。 なお、定額減税(月次減税事務及び年調減税事務)の詳細については、下記国税庁の「定額減税特設サイト」等も参考とされたい。 (了)