〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例3】 AppBank株式会社 「過年度に係る決算短信等(一部訂正)の公表について」 (2016.2.17) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、AppBank株式会社(以下「AppBank」という)が平成28年2月17日に開示した「過年度に係る決算短信等(一部訂正)の公表について」である。 過年度の決算短信等の一部を訂正し公表するという内容であり、同日に以下の適時開示も行っている。訂正の内容は、外注費に計上していた額を長期未収入金に振り替えたうえで、その長期未収入金の全額に対して貸倒引当金を計上するというものである。 2 訂正に至った経緯 AppBankによる適時開示の流れから今回の訂正に至った経緯を見ると、下表のとおりである。 架空の外注費を計上し、その代金を自身の懐に入れるという、同社の元役員による横領が判明した。そして、架空の外注費は、その元役員に対する長期未収入金に振り替える、また、その長期未収入金の回収も難しそうであるため、その全額に対して貸倒引当金を計上するという訂正が必要になったのである。 なお、同社は、この元役員を東京地検特捜部に刑事告訴し、受理されたという内容の「当社の元役員に対する刑事告訴について」を平成28年3月14日に開示している。 3 AppBankの管理体制 AppBankは平成27年10月15日に東京証券取引所マザーズ市場に上場したのだが、上場後、平成27年12月10日の「当社元役員による業務上横領の疑いについて」までの間に下表のような適時開示を行っている。 平成27年10月15日の「業務関連データの外部流出について」と平成27年12月7日の「業務関連データの外部流出についての経過報告」は、同社の業務関連データの一部が不正に外部へ持ち出された可能性があることが判明したというものであり、平成27年10月16日の「(訂正)「主要株主の異動に関するお知らせ」の一部訂正について」は、平成27年10月16日に開示した「主要株主の異動に関するお知らせ」を同日中に訂正するというものである。 同社の社内調査委員会の調査報告書でも指摘されているが、これらの適時開示からは、同社の管理体制に問題がなかったとは言い難いことがわかる。 4 監査・上場審査の問題 こうした事例が起きると、「監査法人は何をしているのだ!」「証券取引所による審査は機能しているのか?」といった声が出てくる。監査や上場審査に問題があったのだろうか。 AppBankの社内調査委員会の調査報告書によると、同社の「監査の状況」は次のようなものであった(DTTは、同社の監査人である有限責任監査法人トーマツ)。 そして、同報告書は、次のとおり、「監査人の責任」は無かったとしている。 基本的に監査は、対象となる会社から提供される情報に基づいて行われる。そのため、会社が、監査法人をだまそうと考え、嘘の情報を出してきたり、すべての情報を出してこなかったりすると、監査法人は不正を見抜くことができない場合がある。上場審査も同様である。 監査法人も証券取引所も、可能な限り懐疑心を発揮して、不正を見抜くように努めるべきであるが、どうしても監査と上場審査には限界がある。その点については留意しておかなければならないだろう。 なお、AppBankの元役員による横領は、実は税務調査の過程で見つかったものである。監査と上場審査では見抜くことができなかった不正を税務調査は見抜くことができたのであるが、だからといって、税務調査は監査や上場審査よりも優れているということにはならないだろう。それらは、目的も、手法も、実施者の権限も(監査法人や証券取引所に権限など無い)、すべてが異なるものである。 ちなみに、同社は、平成28年3月10日に「公認会計士等の異動に関するお知らせ」を開示し、監査法人が有限責任監査法人トーマツから明治アーク監査法人に異動するとしている。「異動の決定又は異動に至った理由及び経緯」には、次のように記載されているだけであり、本当の理由はわからない。 5 再びIPO冬の時代到来か? IPO(新規株式公開)の数は、2006年のライブドアショック、2008年のリーマンショックを経て、2009年の19社まで減少したものの、その後は回復しつつある。しかし、こうした事例が起きると、投資家の不信感、上場審査の強化を招き、IPO冬の時代に戻ってしまうのではないかと心配になってくる。 IPOの数は、IPO冬の時代 → IPO数増加に向けた動き → IPO数回復 → 問題企業出現 → 投資家の不信感・上場審査の強化 → IPO冬の時代、といったサイクルを繰り返しているように思われる。 ここで再びIPO冬の時代が到来してしまったら、本当に成長可能性があるベンチャー企業が直接金融により資金を調達することが困難になり、日本経済にとって損失である。監査法人や証券取引所は不正を見抜くように努めるべきだろうし、また、証券会社も、より質の高い企業の発掘に努めるべきだろう(IPOは、まず証券会社が企業を発掘し、審査したうえで、証券取引所に推薦して行われる)。 しかし、それと同時に、投資家にも冷静さが求められるように思われる。問題企業が現れたとしても、すべての新規公開企業に問題があるわけではない。また、業績予想を過信することなく(「予想」ではなく「目標」に過ぎないことも)、企業が開示するすべての情報に目を配るべきだろう。 (了)
税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第16回】 「金融機関提出書類の作成ポイント(その8 粉飾決算について)」 公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆 前回まで、金融機関に提出する各資料の作成ポイントを解説した。今回および次回では、その補足として、粉飾決算と経営指標について述べる。まず今回は、粉飾決算を取り上げる。粉飾の手法や、金融機関が粉飾を見抜く方法、社長から粉飾を相談された場合の対応について解説する。 粉飾を行う誘因 これまで述べてきた通り、会社の借金返済能力は、当期純利益+減価償却費と表される。その能力に応じて融資金額が決定されるため、会社には当期純利益を粉飾しようとする誘因が働く。 粉飾の手法 粉飾の手法は単純であり、売上の水増し、費用の過少計上である。次のような架空の仕訳が切られる。 貸借対照表項目で表現すれば、資産の過大計上、負債の簿外処理である。 金融機関が粉飾を見抜く方法 決算書は融資判断に影響する重要な書類であるから、金融機関はそれに粉飾が行われていないか関心を持つ。といっても、金融機関の担当者が会社に来て、決算書や帳簿の元になる証憑書類を1つ1つチェックするということはない。会社が提出した過去3年分の決算書を比較分析することによって粉飾を見抜く。主な分析方法は次の通りである。 貸借対照表を中心に比較分析が行われる。その理由は、上記仕訳の通り、損益項目に粉飾処理を行うと、必ず貸借対照表項目に影響があるから、そして、貸借対照表は期末日1日分のストック表であり、年間フロー表である損益計算書よりもチェックが容易だからである。期末日時点の貸借対照表の資産、負債、純資産、繰越利益剰余金の正しさを確かめることによって、損益計算書、当期純利益の正しさを間接的に確かめることができる。 それでは、分析方法をそれぞれ説明していく。 ▷ 貸借対照表項目に対する回転期間分析 回転期間分析は、売掛金、棚卸資産、買掛金に対して行われる。計算式はそれぞれ次の通りである。 計算式が意味するのは、「貸借対照表項目が発生してから消滅するまで、どれくらいの月数がかかるのか」ということである。例えば、売掛金の回収サイトが1ヶ月の会社であれば、期末時点で売上1ヶ月分の売掛金が計上されているはずである。回転期間は1ヶ月に近似する。商品を仕入れてから販売するまで2週間程度であれば、棚卸資産の回転期間は0.5ヶ月に近似するはずである。 回転期間を使ってどのように分析するのか、数値例を使って説明する。 売掛金の回転期間は前期まで1.0ヶ月だったのが、当期は1.8ヶ月になっている。実態と異なるゆがみが生じる。回転期間が当期に突然倍近く伸びたことについて金融機関から合理的な説明を求められる。それができない場合、粉飾を疑われる。粉飾額が大きくなればなるほどゆがみも大きくなるので、相手を納得させるのは困難となる。 棚卸資産と買掛金の回転期間分析も同様である。3期分の決算書を提出するので、1期だけに粉飾操作をしても、異常点はすぐに気付かれる。 ▷ 貸借対照表項目の内容チェック 現金や売掛金、未収入金、前払費用、固定資産、未払金など、事業に関係する資産負債項目のうち、金額が大きいものについてチェックされる。法人税申告書に添付されている内訳書類の期間比較や、内訳内容に対して質問が行われる。 例えば、売掛金や未収入金の勘定内訳書を期間比較することによって、滞留債権の有無が把握される。回収見込みが無いと判断されれば、その金銭債権の資産性は否定される。前払費用などの諸勘定に関しても同様に、本来、費用として計上すべきものを資産計上していないか、チェックされる。どういう目的で、誰に対して支払ったものか、質問を受ける。固定資産については、法人税申告書別表16でチェックされる。減価償却費の償却不足がある場合、その部分の資産性が否定される。毎期計上されていた未払費用が、当期から突然計上されなくなった場合、その理由を尋ねられることもある。 貸借対照表項目を分析した結果、粉飾または粉飾が疑われる項目については、資産性が否定され、金融機関側で実態に即した決算書に作り替えられてしまう。粉飾仕訳の逆仕訳が切られるイメージである。 損益項目の修正として、貸借対照表の繰越利益剰余金が切り下げられる。繰越利益剰余金のうち、当期純利益が切り下げられれば、借金返済能力の切り下げとなる。切り下げ額によっては、資産超過だった貸借対照表が債務超過に反転することもありうる。【第11回】で述べたとおり、実質債務超過と判断されてしまうと、融資可能性は非常に厳しいものになってしまう。 以上のとおり、粉飾を行うと、必ず貸借対照表にゆがみが生じる。金融機関はそれを手掛かりに粉飾を見抜く。金融機関は、融資のプロとして様々な粉飾処理を経験しているのであるから、たいていは見抜かれると思っておいた方が良い。 粉飾に気付かれず、運良く融資を得られたとしても、その後も粉飾を重ねることになる可能性が高い。業績が大きく伸びれば、粉飾額を実態に近づける調整ができるけれども、そうでない場合は、粉飾を毎年繰り返すことになる。黒字粉飾した後、大赤字の決算書を金融機関に提出することは、粉飾を自白するのと同じだからである。粉飾した決算書を出し続けるしかなくなる。決算書のゆがみは毎年大きくなり、結局は金融機関に粉飾を見抜かれ、信用を失う。追加融資の可能性はなくなり、最悪、融資の取りやめとなる恐れもある。 社長から粉飾を依頼された場合の対応 資金調達支援を行う中で、「銀行向けに決算書を黒字粉飾してほしい」と相談を受けることがある。その場合、まずは公正不偏の態度をもって対応する。「粉飾を一度行うと後には引けなくなる可能性があること」そして「粉飾はいずれ見抜かれること」を社長に説明する。粉飾を考える前に、融資判断にプラスになる材料が無いか、社長と一緒に洗い出すという対応が望ましい。 経営者から報酬をもらっている会計士や税理士は公正不偏の態度を取れず、粉飾や脱税を依頼されても断れない、独立性がないと批判されることが多い。しかし、決してそんなことはない。顧客から報酬をもらう立場であっても、独立性を保持することは可能である。 その方法は、特定の顧客に対する経済的依存度、売上構成割合を減らすことである。すなわち「御社との契約が切れても、私は十分食べていけます」という態度を取れるようにしておくことである。「無理な要求をするのであれば、契約を解消させて頂きます」と経営者に対抗することで、逆に有利な立場で交渉し、経営者の間違った考えを改めることができるかもしれない。会計学者A.C.リトルトンが「職業会計人の持つべき資質」として挙げている「経済的独立性」である。 会計事務所経営の話になるけれども、顧客を2、3社失った程度で経営が傾いたり、事業部門が赤字転落するような状態では、独立性が危険にさらされていると認識した方が良い。この点は、町の会計事務所でも、税理士法人でも、最近騒がれている監査法人でも同様である。 * * * 次回は、補足のもう1点として、融資に有利となる経営指標について解説する。 (了)
《速報解説》 「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」が正式公表(更新) ~決算日において国会で「成立」している税法の税率を適用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年3月14日、企業会計基準委員会は「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第27号)を公表した。 これにより、平成27年12月10日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号)18項では、税効果会計上で適用する税率は、決算日現在における税法規定に基づく税率によるものと規定し、改正税法が当該決算日までに「公布」されており、将来の適用税率が確定している場合は改正後の税率を適用するとしている。 適用指針は、決算日において公布されている法人税法等に規定されている税率に代えて、決算日において国会で「成立」している法人税法等に規定されている税率によることとしている(適用指針5項、17項)。 1 法人税、地方法人税及び地方法人特別税に関する税率 2 住民税(法人税割)及び事業税(所得割)に関する税率 決算日において国会で成立している地方税法等に基づく税率とは、次の税率をいう(適用指針7項)。 適用指針7項(2)②イに定める差分を考慮する税率を算定する方法については、公開草案は「原則として、次のいずれかの方法による」としていたが、適用指針は「例えば、次の方法がある」としている。これは、税制改正の趣旨等を勘案して、他の合理的な方法があれば当該方法により算定することを妨げるものではないためである(適用指針21項)。 なお、次の2つの設例が設けられている。 3 決算日後に税率が変更された場合の取扱い 適用指針は(※)「決算日後に税率が変更された場合の取扱い」を結論の背景において記載していたが、適用指針は、本文において「開示」を設けて、「決算日後に税率が変更された場合の取扱い」を規定している(適用指針10項)。 (※)〔2017/1/9追記〕 上記赤字部分につき公開時点では「公開草案は」となっておりましたが、正しくは上記の通り「適用指針は」の誤りです。お詫びの上、訂正させていただきます。 決算日後に税率が変更された場合には、適用指針4項から9項による税率を用いて決算を行い、かつ、決算日後に当該税率の変更を伴う法律が成立した場合、税効果会計基準 第四 4に従って、その内容及び影響を注記することになる。 Ⅲ 適用時期等 平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用する。 Ⅳ コメント対応について 〔2016/3/23追記〕 平成28年3月23日、企業会計基準委員会は「企業会計基準適用指針公開草案第55号『税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)』の主なコメントの概要とそれらに対する対応」をホームページに掲載した。 主なコメントの内容などは次のとおりである。 1 中間(連結)財務諸表及び四半期(連結)財務諸表についての適用時期 四半期連結財務諸表及び四半期財務諸表、中間連結財務諸表及び中間財務諸表については、平成28年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の四半期連結会計期間及び四半期会計期間並びに中間連結会計期間及び中間会計期間に係る財務諸表から適用する(コメント4。適用指針11項を参照)。 2 会計方針の変更 適用指針の適用は、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)5項(1)の定めに該当するため、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われることとなる(コメント5)。 ただし、通常、適用指針の適用により遡及適用した表示期間のうち過去の期間における影響はなく、同会計基準35項に定める財務諸表利用者への意思決定への影響に照らした重要性も乏しいと考えられると述べられている。 3 税率改正以外の税法改正項目の適用について 適用指針は「繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している税法(略)に規定されている税率による」(適用指針5項)と規定し、税率に関する取扱いを示している。 しかしながら、通常、税制改正では、税率の改正だけでなく、欠損金の繰越控除など他の項目も一体として改正されている。 このため、「税率に限らず、税効果会計の適用上関連する税法上の規定全般について、いつの時点のものを適用するかに関する一般的な考え方を示してはどうか」として、税率改正以外の税法改正項目も、公布日ではなく、国会で成立した日を基準とするのかどうかについてのコメントがあった(コメント8)。 これに対して、「本適用指針は、税効果会計に関する実務指針全体の移管作業において税効果会計に関する適用指針に統合されることを予定している。税効果会計の適用上関連する税法上の規定の適用については、その記載の要否を含めて当該統合時に改めて検討することとしたい。」と述べられている。 平成27年5月26日の改正で削除されたが、改正前の「税効果会計に関するQ&A」のQ12では、次の記載があった。 (了) ↓お薦め連載記事↓
2016年3月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.161を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第29回】 「軽減税率に係る消費税法の構造」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇改正税法の審議状況 平成28年度税制改正に関する改正法案の国会審議が行われている。 国税については、所得税法等の一部を改正する法律案が2月5日に国会に提出され、2月16日から審議が開始された。一方、地方税については、地方税法等の一部を改正する等の法律案が2月9日に国会に提出され、2月18日から審議が開始された。両法案は3月1日に衆議院を通過し、前者は3月9日から、後者は3月11日から参議院での審議が行われている。 今回の改正の中でも大きな改正が行われるのが、軽減税率制度やインボイス制度が創設される消費税法である。 平成29年4月1日から消費税の軽減税率が導入されるものの、インボイス(適格請求書)の導入は平成33年4月1日からという時期のずれがあることから、まず、平成29年4月1日からの4年間の経過期間中の規定は、改正法案附則第34条以下で手当てされ、平成33年4月1日以後のインボイス導入後の姿が、消費税法本則の改正として規定されている。 したがって、当面の実務対応にあたっては、改正法附則を参照する必要がある。 〇軽減税率とその対象 軽減税率の対象は、改正法案附則第34条第1項に規定されている。 規定のつくりとしては、第1項柱書きで、適用税率が消費税については6.24%であることが示された上で、その対象となるものとして、同項第1号で、飲食料品の譲渡、第2号で新聞(週2回以上発行されるもの)の定期購読契約に基づく譲渡が挙げられている。 さらに、飲食料品については、第1号柱書きでは、飲食料品の定義に関して、食品表示法の飲食料品であること、酒類を除くこと、一体化商品のうちの一定のもの(政令事項)が該当することが明らかにされ、同号イでは、飲食料品の譲渡から除かれる、外食の定義、同号ロでは、飲食料品の譲渡から除かれる、いわゆるケータリング等の定義とその例外事項(有料老人ホーム等)が、それぞれ規定されている。 第1号イの外食の定義では、 とされている。 この規定から、外食に該当するには、 を満たす必要があり、持ち帰りのための容器に入れたり、包装をしたようなものは該当しないことが読み取れる。 なお、平成33年4月以降に適用される消費税法本則においては、これらの規定は、税率については第29条に、軽減税率の対象については第2条第1項第9号の2で、別表第一に内容を委ねた上で、別表第一において、改正法案附則第34条第1項と同じ規定がおかれている。 〇経過期間の区分経理と特例措置 平成29年4月1日以降の4年間については、インボイス導入までの経過期間ということで、極力、これまでの制度に準じた取扱いがなされるが、適用税率が2つになることから、最小限度の区分経理の実務が不可避となる。それがいわゆる「区分記載請求書等保存方式」である。 仕入税額控除のために必要な請求書等の記載事項として、これまでのものに加え、軽減税率適用対象のものに、そうであることを明示するとともに、適用税率ごとの対価の合計額が追加されている(改正法案附則34③)。なお、請求書等にその記載が漏れている場合には、受け取った事業者が自ら追記することも可能である(改正法案附則34④)。 このように経過期間においても区分経理の事務が発生することとなるが、それが困難な場合に備えて、中小事業者に対する売上税額、仕入税額の計算の特例措置(改正法案附則38、39、40)、さらには、中小事業者以外の事業者についても初年度限りの特例措置が講じられている(改正法案附則41、42、43)。 〇インボイス制度 一方、33年4月1日から始まるインボイス制度については、改正法附則ではなく、消費税法本則に規定されている。 まず、定義規定である第2条第1項第7号の2を創設し「適格請求書発行事業者」の定義を行い、仕入税額控除の対象を適格請求書に記載された消費税額とすることとし(消費税法30①)、第57条の2以下に、インボイス制度が具体的に示されている。 まず、第57条の2では、適格請求書発行事業者登録制度を導入することとしている。 第57条の4では、適格請求書発行事業者の義務として、交付義務と写しの保存義務が規定されている。また、本条において、適格請求書及び適格簡易請求書の記載事項も明らかにされている。適格請求書においては、前述の区分記載請求書の記載事項に加えて、事業者の登録番号と、税率の区分ごとの消費税の額の記載が必要となる。 なお、免税事業者への経過措置は、改正法案附則第52条、第53条で計6年にわたるものが用意されている。 (了)
特定株主等によって支配された欠損等法人の 欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)の取扱い ~「繰越欠損金の使用制限」が形式的に適用される事例の検討~ 【第3回】 「〈事例1〉欠損等法人が100%子会社の合併により 新規事業を開始するケース(第1号事由)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 〈事例1〉 欠損等法人が100%子会社の合併により新規事業を開始するケース(第1号事由) 《検討》 本ケースのように、ある事業会社を買収しようとした場合に、売主の希望により、その事業会社の100%親会社の株式を取得するケースがある。この場合、買収した100%親会社は、事業会社の株式を所有するだけの会社であり、買収者にとって100%親会社をそのまま残す必要はないため、買収後に、その100%親会社と事業会社の合併を検討することも多い。 このような場合、欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の規定(法法57の2、60の3)は適用されるのであろうか。 [検討1] A社及びB社は欠損等法人に該当するか? まず、本ケースでは、A社とB社のそれぞれが欠損等法人に該当するかを検討することとなる。 A社は、平成25年10月1日に、新しい親会社であるP社との間にP社による特定支配関係を有することとなるが、特定支配事業年度(平成25年4月1日~平成26年3月31日の事業年度)において、特定支配事業年度前の事業年度において生じた繰越欠損金を所有するため、欠損等法人に該当することとなる。 なお、A社では、平成25年10月1日(支配日)に所有するB社株式について、含み損が30百万円(税務上の帳簿価額100百万円-時価純資産価額70百万円)生じており、含み損の金額がA社の資本金等の額の2分の1に相当する金額と1,000万円とのいずれか少ない金額(基準額)以上であるため、特定支配事業年度(平成25年4月1日~平成26年3月31日の事業年度)において評価損資産を所有しているため、仮に繰越欠損金がない場合であっても欠損等法人に該当する。 B社についても同様に、欠損等法人に該当する。 この場合、B社はA社による支配関係が生じているが、同一の者(P社)による支配関係に該当するため、特定支配関係には該当せずに、B社の支配関係の連鎖の頂点に立つP社による支配関係が新たな特定支配関係となり、P社による買収日(平成25年10月1日)が特定支配関係を有することとなった日(支配日)となる。 [検討2] 特定事由に該当するか? 次に、欠損等法人A社又は欠損等法人B社において、一定の期間までに特定事由が生じたかを検討する。 A社は、平成25年10月1日(特定支配日)の直前において事業を営んでいなかったが、平成28年1月1日の合併により被合併法人B社の事業を引き継ぐことで、特定支配日以後5年を経過した日の前日(平成30年9月30日)までに事業を開始することになるため、第1号事由に該当することとなる。 また、この場合、特定事由に該当することとなった日(該当日)は、平成28年1月1日となる。 なお、B社については、買収前の事業を継続しており、今後も継続する見込みであること(第1号事由、第2号事由、第4号事由)、B社に対する債権の売買も行われていないこと(第3号事由、第4号事由)、買収を起因とした役員の退任もないこと(第5号事由)から特定事由は生じていない。 [検討3] 使えなくなる繰越欠損金と繰越欠損金が使えなくなる事業年度は? 欠損等法人A社において、平成27年4月1日~平成28年3月31日事業年度(適用事業年度)から、平成26年4月1日~平成27年3月31日事業年度以前の事業年度に生じた繰越欠損金が使用できなくなる(つまり、平成27年3月期に有する繰越欠損金の全額が使用できない)。 また、平成27年4月1日~平成30年3月31日までの適用期間(なお、特定支配日以後5年を経過する日は、平成30年9月30日となる)において生ずる特定資産の譲渡等損失額は損金不算入となる。この場合、P社による特定支配関係がある被合併法人B社(関連者)からの引継資産は欠損等法人A社の特定資産に含まれることとなる。 [検討4] 被合併法人B社の繰越欠損金の使用制限は生じるのか? 欠損等法人A社は、該当日(平成28年1月1日)以後に自己を合併法人とする適格合併を行ったため、被合併法人B社の繰越欠損金は合併法人A社には引き継がれない(なお、適格合併は、欠損等法人の適用事業年度開始の日以後3年を経過する日(特定支配日以後5年を経過する日後となる場合にあっては、同日)後に行われていない)。 以上より、本ケースでは、組織再編税制上は、合併法人A社及び被合併法人B社について、繰越欠損金の利用制限及び特定資産譲渡等損失額の損金算入制限が生じないにもかかわらず、法人税法第57条の2及び60条の3の適用により、第1号事由に該当する場合、欠損等法人A社の繰越欠損金は切り捨てられ、特定資産の譲渡等損失額が損金不算入となり、さらに、特定事由が生じていない被合併法人B社の繰越欠損金も切り捨てられることとなる。 〈事例1〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第3回】 「募集株式の発行等②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回は、大阪地裁昭和47年4月19日判決について解説を行った。 【第3回】に当たる本稿では、大阪地裁昭和48年11月29日判決について解説を行うこととする。 2 大阪地裁昭和48年11月29日判決・判時731号85頁 (1) 事実の概要 本事件は、会社更生法による更生手続終結決定を得た直後に、1株当たり85円である一般公募の新株発行を行う際に、①有利発行に該当する、②支配権剥奪目的の不公正発行に該当するという理由により新株発行差止の仮処分を請求し、仮処分決定を得たことから、その認可の裁判を求めた事件である。本稿は、非上場株式の評価についての連載であるため、前者のみについて解説を行うこととする。 前回と同様に、やや古い事件であるが、少数株主にとっての株式価値で評価をされた裁判例という点のみに限定すると、現在でも参考にすることができる事件である。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、裁判所は、少数株主にとっての株式価値として、配当還元方式もしくは類似会社比準方式(または同業種比準方式)を採用すべきであると判示した。 配当還元方式はともかくとして、類似会社比準方式が少数株主にとっての株式価値であると判示された点に違和感がある読者もいるかもしれないが、市場で構成される株価は少数株主による売買により構成されていることから、少数株主にとっての株式価値を示すものであるという仮説が存在し、したがって、類似会社比準方式により算定された株式価値から支配株主にとっての株式価値を算定するためには、支配権プレミアムを加算するというのが株式評価の実務である。 そのため、相続税評価では原則的評価方式のひとつとして位置づけられている類似業種比準方式が、株式評価においては少数株主にとっての株式価値になってしまうという特徴がある。 さらに、裁判所は、最終的には、挙証責任によって債権者の主張を退けている。これは、①配当還元方式のうち実績値方式を採用しているところ、会社更生手続き中で配当をなしえなかったことから、年8%に修正していたが、その根拠も全く示されていなかったこと、②類似会社比準方式において選定した企業が売上高、純資産額については類似性が認められるものの、その他の点、ことに事業の種類については、果たして類似性があるのかが不明であることなどから、債権者が算定した株価に疑問があるということが理由である。 これは、非訟事件と異なり、訴訟事件では、債権者(≒原告)に立証責任があることから、かなり会社側に有利な判決となっている。類似会社比準方式が、選定対象となる企業が存在しないことから、結果的に採用されないというのは最近の訴訟事件、非訟事件の特徴ではあるが、そうなると配当還元方式のみが少数株主にとっての株式価値の算定で採用されることになる。 そして、裁判所の判断としては、「右鑑定書が仮想した年8パーセントの配当率も、その算定根拠が全く示されていないのみならず、≪証拠略≫によれば、債務者会社は、次期(昭和47年10月1日から昭和48年9月30日まで)には15%以上の配当を目標としていたことが、≪証拠略≫によれば、債務者会社は将来年10%の配当は堅持する積り(原文ママ)でいることがそれぞれ一応認められるが、これらの事実に照らして、必ずしも妥当な予想配当率とはいえない。」としている。 しかし、年10%や15%の配当率となれば、より株価は引き上げられるはずであり、有利発行に該当するか否かの事件において、このような理由により疎明がないとするのは如何なものであろうか。債権者が、「少なくても8%」と主張したうえで、「少なくても〇〇円以上」と主張すれば、認められる余地はあったのであろうか。やや、本事件における裁判所の判断は乱暴であるという印象を拭いきれない。 次回では、やや珍しい事件であるが、大阪高裁昭和51年4月27日決定により争われた検査役選任決定に対する即時抗告事件等について解説を行う予定である。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第6回】 「マイナンバーの廃棄」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 会社が従業員から取得した個人番号を廃棄する際の対応について教えてください。 〈A〉 1 廃棄の時期 (1) 所管法令により保管期間が義務付けられている書類(【第5回】参照) 保管期間が経過した時点で廃棄する。 (2) 所管法令により保管期間が義務付けられていない書類・データ 個人番号を利用する必要がなくなった時点で廃棄する。 上記(1)、(2)の時点から実際に廃棄を行うまでの期間は、例えば、毎年度末に個人番号の見直しを行い、必要ない個人番号を廃棄するなど、会社で判断すればよいとされる。 2 廃棄の方法 (1) 書類 シュレッダーで裁断する。 (2) データ データを消去する。 廃棄した書類・データの種類、名称、責任者、取扱部署、廃棄状況等を記録として残さなければならない。その記録には、個人番号自体は含めない。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第7回】 「棚卸資産計上漏れ」 ~棚卸資産の計上が漏れていると判断した理由は?~ 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して、棚卸資産の明細書と商品出納帳との照合により、預け在庫の期末棚卸資産計上漏れを認定した法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた岐阜地裁平成12年12月6日判決(税資249号1002頁。以下「本判決」という)を取り上げる。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した(控訴審である名古屋高裁平成13年10月30日判決・税資251号順号9014もこの判断を維持している)。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性 4 私見 (1) 関係法令の確認 法人税法における売上原価に係る損金算入の考え方を確認しておく。 売上原価について、法人税法22条3項1号は、「当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額」を当該事業年度の損金の額に算入すべき金額とする旨規定している。「当該事業年度の収益に係る」という文言からわかるように、原価は収益と個別的に対応させて計上することとされており、ある商品の仕入高は当該商品を売り上げた事業年度の売上原価として損金の額に算入することになる。 もっとも、法人税法は売上原価の算定方法について細かく示した規定を用意していない。したがって、売上原価の算定方法は、企業会計における売上原価の算定方法に従うことになり(法法22④)、結局、売上原価を算定する算式は次のとおりとなる。 この算式からは、期末商品棚卸高が増えると売上原価は減少して法人税の所得金額が増加し、期末商品棚卸高が減ると売上原価は増加して法人税の所得金額が減少するという関係であることがわかる。なお、法人税法が、このような算式に基づく売上原価の計算を予定していることは、棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法について定める法人税法29条1項とも整合する。 以上からすれば、本件生機がX社の当期における売上原価を構成するか、これを構成せずに期末棚卸資産として計上すべきかを判断する過程は、次のとおりとなる。 (2) 求められる理由付記の程度 課税庁は、X社において当期の売上原価として計上し、期末棚卸資産として計上していなかった本件生機について、当期の売上原価に算入(損金算入)するのではなく期末棚卸資産として計上(損金不算入)しなければならないものと認定して更正処分を行ったことになる。そうであれば、X社の帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当するものと考える。 したがって、理由付記の程度としては、 ことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 本件理由付記には、X社は本件生機を売上原価として計上し、期末棚卸資産として計上していなかったことが記載されている。また、本件生機の品名、数量、金額等を具体的に摘示した上で、X社の帳簿書類である棚卸資産の明細書と商品出納帳とを対照させた結果、B社から仕入れ、期末にC等に預けていた本件生機が期末棚卸資産に計上されていないことを根拠に、期末棚卸資産計上漏れとして当事業年度の所得に加算した旨が記載されている。 したがって、本件理由付記は、①当期商品仕入高に本件生機が含まれること及び②本件生機は期末棚卸資産として計上すべきであることという課税庁の判断過程を、帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示するものである。 そうであれば、本件理由付記は、その記載内容から法令上の根拠が明らかになるものであり、かつ、法令上の要件に対応する具体的な事実を記載するものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであるから、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであると考える。 * * * 次回は、減価償却資産を架空資産と認定した上で、これに係る減価償却費の損金算入を否認した法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【78】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その6:「事業に従事したことその他の事由」の解釈② ~夫弁護士・妻弁護士事件(最判平16.11.2)) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 2 「夫弁護士・妻弁護士事件」(最高裁平成16年11月2日判決) 前回示した問題の所在に続き、具体的な判決内容を見ていくこととする。 この判決は、弁護士業を営む原告の所得税の申告につき、被告(国)が、妻が「生計を一にする配偶者」であるとして所得税法56条を適用し、原告が同じく弁護士である妻に対して支払った報酬は必要経費として算入することができないとして更正処分等をしたため、原告が各処分の取消を求めた事案である。 (1) 第一審の判断 重要な事案であるが裁判所ホームページには掲載されていないため、ここで判決を紹介しながら進めていこう。 この裁判では、争点が以下の2つとなっている。 ① 争点1 所得税法56条の適用要件について、一般的法命題として以下のように判示する。 次いで、事実認定として、以下のように判示する。 また続けて、原告の主張に対して次のように判示する。 原告は、この点、次のような主張をしていた。 この点、原告の主張は正しく、戦後は個人単位課税に制度の根本を変えながらも、この世帯単位課税という戦前の名残を残すことになったのは、以下のシャウプ勧告から読み取れるように、所得分割による税負担回避を防止するためであった。 ◆シャウプ使節団編(1949)『日本税制報告書第1巻』第1編第4章E節「世帯単位の取扱」より抜粋 このシャウプ勧告を受けて、旧所得税法11条の2が制定されたのであるが、それは以下のように規定されていた。 だが、立法趣旨が原告の主張するものであるとしても、56条の文理から、この原告の主張する解釈が可能か否かが争われた。 また原告は、所得税法第12条及びその解釈通達である所得税基本通達12-5(2)からもこの点を主張している。 そして原告は、続けて次のように主張する。 しかし、所得税法12条の原則に対して、56条が特則として規定がなされている以上、この12条による原告の主張は説得力を欠いたものである。 というのもこの通達は、生計主宰者以外の親族が医師、歯科医師等として、生計主宰者とともに事業に従事している場合には、その当該親族もまた生計主宰者とは別に事業主となる点を明確にしているが、生計主宰者と当該親族との間において授受された対価についてまで別個の事業主体として計算することまでを明らかにしたものではないのである。基本的にはこのように個別に計算するとしても、生計主宰者と当該親族との間において授受された対価については56条が例外として適用されるということに何ら矛盾はないのであるから、この所得税基本通達12-5を論拠に主張するのは難しいものと思われる。 ② 争点2 次のように判決の冒頭で原告の主張を取り上げている。 これに対しては、以下に示すように、【72】で紹介した大島訴訟による合憲性の推定に基づく「ゆるやかな合理性の基準」によって合憲と判断している。 続けてこの観点からの検討に入り、以下のように判示する。 ここでは、その立法目的の点で、合理性があるとし、また「他の企業等で勤務している生計を一にする親族が事業者の事業にも従事していて、事業者が対価を支払ったという場合」にも同様の必要経費の不算入が生じることから、特別不平等な規定ではないとの結論を導いている。 しかし他の事業内容の場合には容易に法人化が可能であり、士業のいくつかに限って法人化が難しいため不利益が生じるという点を軽視した判決ともいえよう。 もっともこれを、上記「ゆるやかな合理性の基準」から見た場合に、違憲とまで言えるかは難しいものと思われる。 (2) 控訴審の判断 これも第一審同様、重要な事案であるが裁判所ホームページには掲載されていないため、ここで判決を紹介しながら進めていこう。 ① 争点1(争点は、第一審と同じである) この判決は、冒頭部分に法律解釈として一般的法命題を掲げていない。よって事例判決の形式で判決が出されている。 続けて控訴人の主張に対して、次のように判示する。 このように控訴審において、今回のテーマである「事業に従事したことその他の事由」についての主張がなされている。 この点、控訴人は次のように主張していた。 この「従事する」の用語の意味についての控訴人の主張は、注目に値する。というのも、控訴人の主張するように、この事案のような対等事業者として報酬を受け取った場合に「従事する」とはならないように思えるからである。 「従事する」という以上、「事業の一員として参加し又は事業に雇用される等従たる立場で当該事業に関係している」というような従属的な関係にあってこそ「従事」なのである。 裁判所の判示に「従属的な立場で当該事業に関係する場合に限定されると解すべき根拠は、規定の文言上何ら見当たらない」とあるが、それは「従事」の「従」の文字に何ら意味がないと解しているからである。しかし、「従事」の文字から考えればこれが従たる立場で当該事業に関係した場合を指すものと解すべきであろう(もっとも「その他の事由」がこの「従事」に制約を受けるか否かといった問題はあるが)。 また控訴人は続けて第一審同様、所得税法第12条等を根拠とした主張をしているが、これに対しては以下のように判示されている。 ② 争点2 当裁判所も、所得税法56条が消費単位課税を採用し、同条の適用される「生計を一にする配偶者その他の親族に対価を支払う場合」と同条の適用されない「それ以外の者に対価を支払う場合」との間に設けた区別は、合理的なものであり、憲法14条1項の規定に違反するものではないから、その違反をいう控訴人の主張は、理由がないものと判断する。そのように判断する理由は、原判決が説示するとおりであるから、これを引用する。 そうすると、憲法14条1項の違反をいう控訴人の主張は、採用することができない。 (3) 最高裁の判断 これは裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。 ここでは、最初にこの所得税法56条の立法趣旨を述べた後、 と「従事」の文言については触れずに判示する。 そしてまた専従者となりえない場合との不均衡については特に言及することなく所得税法57条1項や3項が と判示し、一部士業に法人化が困難な場合ある点については全く考慮することなく、判断を示している。 もっとも法人化が困難であるという問題は、税法の問題なのではなく業法側の問題という主張もありえようが、租税公平主義の点からすれば、その差異にも配慮した立法が必要であったはずであり、この点、軽視すべきものではないといえよう。 また争点2については、「ゆるやかな合理性の基準」から、この規定を合憲と判断している。 * * * 次回は同じ論点として重要な「夫弁護士・妻税理士事件」を見ていくこととする。 (続く)