ファーストステップ 管理会計 【第2回】 「標準による管理の限界」 ~ダイエットには限界がある?~ 〔原価管理編①〕 公認会計士 石王丸 香菜子 ◆標準原価とは何か 原価管理には、「標準」という概念があります。【第1回】の直接材料費の例では、食パン1000斤を作るのに必要なはずの小麦粉の量250kgは「標準消費量」であり、仕入れられる予定だった小麦粉の単価200円は「標準価格」になります。食パン1000斤を作るのにかかるはずだった原価は、「標準原価」と言います。 原価計算基準によれば、「標準原価」とは、 であるとされていますが、これだけではイメージしにくいかもしれません。 ◆ダイエット時の目標体重と同じ ある日、あなたがダイエットを決意したとします。その場合、まずは目標体重を決めるはずですね。 標準原価は、この目標体重に似ています。 では、ダイエットの目標体重はどのように決めるでしょうか。 トップモデルのような体重を目標にするでしょうか。ただし目標が厳し過ぎると、ダイエットは実現せずに終わり、目標の意味をなしません。 標準原価では、これを「理想標準原価」と言います。理論的に最も理想的な価格や能率・操業度を前提とした標準原価です。これは、標準を決める際の出発点として使うことはあっても、理想的過ぎて原価管理には適しません。 ダイエットをするときの目標体重としては、努力すれば達成できそうな体重を選ぶはずです。 標準原価では、これを「現実的標準原価」と言います。 現状で考えられる操業度において、努力次第で達成可能な目標値としての標準原価です。 あるいは、ダイエット前の数年間の平均体重を目標体重とすることもあるでしょう。平均体重を出す場合、例えば女性でお腹に赤ちゃんがいた時期があれば、その時の体重は除外するはずです。標準原価では、これを「正常標準原価」と言います。天災などによる異常値を排除した過去平均値など、正常値としての標準原価です。 原価管理には、「現実的標準原価」か「正常標準原価」を用います。システムを導入して、目的に応じて複数の標準原価を利用しているケースもあります。 ◆ダイエットには限界がある? 標準による管理は、「標準」という目標を目指す、いわばノルマ管理で、その考え方自体は役立つ方法です。特に【第1回】で取り上げたベーカリーのような人手中心のシンプルな製造業では、直接材料費や直接労務費の標準管理が有効です。 ですが、現在では、人手中心のシンプルな製造業ばかりではありません。機械やコンピュータによる自動作業中心の製造業が多く、また、モノを製造するのではないサービス業が国内で最も多い業種です。 このような企業の変化を受けて、標準による管理には限界が生じています。 ◆ロボットはダイエットできない 機械やコンピュータ中心の自動製造では、多くの場合、ミスやロスがほとんど発生せず、コストはほぼ予定通りに生じます。このようなケースでは、ノルマを課してコストを目標値に収めるという標準管理の手法は、意義が低くなります。人間ではないロボットはダイエットできないのと同じです。 ◆コストは製造段階よりも上流で決まってしまう 自動化の進んだ製造業では、製品を作るための直接原価は、製造段階よりも以前の企画・設計段階でほとんど決まってしまうのが実情です。実際に製品を製造する段階では、コストはほぼ計画通りに生じていくだけになります。そのため、製品の企画・設計段階で原価と品質を作りこんでいく「原価企画」の重要性が高くなっています。 ロボットに後からダイエットさせることはできないので、あらかじめスリムなロボットにしてしまうイメージです。 まずは、市場の状況を踏まえて目標売価を決定し、そこから目標利益を差し引いて目標原価を算定します。この目標原価を達成するために、原価低減を行って戦略的に原価を作りこんでいきます。 具体的方法は企業によってさまざまですが、複数製品で部品を標準化したり、競合他社製品を分解してその手法を取り入れたり(「ティアダウン」と呼ばれます)、新規のサプライヤーを開拓したりすることなどで、コストダウンを図っていきます。 ◆原価企画は広義の原価管理 標準による原価管理は、製造段階で原価を目標の範囲内に収めていく原価維持(コストコントロール)を目的としており、「狭義の原価管理」と言えます。一方、原価企画は、製品の企画・設計段階において、市場の状況も考慮したうえで戦略的にコストをマネジメントすることが目的であり、「広義の原価管理」と言えます。 ◆原価の構造を考える ここで、原価の構造について考えてみましょう。 原価を分類するには複数の方法がありますが、形態別に考えると、原価は材料費・労務費・経費の3つに分けることができます。 一方、製品との関連によって分類する方法もあります。製品の製造に関して、原価が直接的に発生する場合は直接費であり、間接的に発生する場合は間接費です。 この2つの分類法を組み合わせると、以下のように分類できます。 間接材料費・間接労務費・間接経費を合わせて、「製造間接費」と呼びます。 ◆原価構造の変化 シンプルな人手中心の製造業では、原価のうちの直接材料費や直接労務費の比率は相対的に高いものでした。しかし、現在のように自動化が進んだ製造業では、これらのウェイトが下がる傾向にあります。原価企画によりそもそもの材料費の低減が行われ、また、自動化により直接製造作業に当たる人員が大幅に少なくなっているからです。 代わりに、機械やシステムの償却費や、間接部門の人員の労務費、市場のさまざまなニーズにこたえるための間接的な経費など、製造間接費が増大しています。サービス業はこの極端な例で、原価のほとんどが製造間接費です。 ◆製造間接費の管理の重要性が増している 直接材料費や直接労務費については、【第1回】で解説したような標準による管理が有効です。 それでは、製造間接費についてはどのような管理を行うべきなのでしょうか。 現在の企業の状況を考えると、製造間接費の管理が、従来よりも重要性を増していると言えます。製造間接費についても標準による管理を行えないことはないのですが、実はその効果には限界があります。 連載の【第4回】以降では、この製造間接費の管理について解説します。 次回はその前提知識として、原価計算の大まかな仕組みを取り扱います。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔会計面のアドバイス〕 【第5回】 「固定資産の処理」 公認会計士・税理士 新名 貴則 1 固定資産の被害 大地震や集中豪雨などによって法人が被災した場合、法人の所有する工場や営業所などの建物や、機械設備、車両運搬具などの固定資産に物理的な被害が発生することがある。 このような場合、まずは被災後に固定資産の実地棚卸を行い、被害状況を確認する必要がある。 実地棚卸によって固定資産に対する被害が把握された場合、その被害状況に応じて次のような対応が考えられる。 2 固定資産の被害に対する会計処理 (1) 固定資産が全壊又は消滅した場合 固定資産が全壊又は消滅した場合、被災直前の当該固定資産の帳簿価額の全額を取り崩し、「固定資産滅失損」等の適当な科目を用いて、損益計算書の特別損失に計上する。災害による他の費用・損失とまとめて「災害損失」等の科目で特別損失に計上し、その内訳を注記することもできる。 (2) 固定資産の一部が損壊した場合 固定資産の全部ではなく一部が損壊した場合は、被災直前の当該固定資産の帳簿価額のうち、損壊した部分を取り崩し、「固定資産滅失損」等の適当な科目を用いて、損益計算書の特別損失に計上する。 一部損壊の場合は、全壊や消滅の場合と異なり、その後の対応に複数の選択肢がある。そして、どの対応を選択するかによって会計処理も異なってくる。 具体的には、①原状回復を行って再度稼働させるのか、②そのまま放置(遊休化)しておくのか、あるいは③除却してしまうのかということである。 以下、それぞれのケースについて詳しく見ていく。 ① 原状回復を行う場合 災害により損壊した固定資産の原状回復にかかる費用は、修繕費の会計処理に準ずる。つまり、原状回復に止まらず、価値を増加させたり耐用年数を延長させたりするものであれば、資本的支出として資産計上する必要がある。これには該当せず、原状回復に止まるものであれば、特別損失として計上することになる。 当期に発生した原状回復費用は、当期の特別損失として計上する。決算日時点で未払いであるものは未払金を計上する。決算日後に予定されているものは、引当金の要件を満たすものについては引当金を計上する。 当期に発生した資本的支出についても、決算日時点で未払いであるものは未払金を計上する。ただし、決算日後に予定されている資本的支出については、引当金の計上対象とはならない。 ② そのまま放置(遊休化)する場合 災害により一部が損壊した固定資産について、原状回復を行った上での再稼働や、除却等の意思決定を行わず、当面そのままで放置しておく場合も考えられる。 この場合、当該資産は遊休資産に該当することになる。遊休資産で重要性のあるものについては、他の資産グループから独立した単位として減損の検討を行うことになる。 ③ 除却する場合 災害により一部が損壊した固定資産について、再稼働はせず除却する場合は、被災直前の当該固定資産の帳簿価額の全額を取り崩し、「固定資産除却損」等の適当な科目を用いて、損益計算書の特別損失に計上する。 除却の意思決定は行ったものの、実際の除却処理が決算日までに実行されていない場合には、有姿除却として除却損を計上するか、減損の対象として減損損失を計上することになる。 3 保険金の会計処理 災害により棚卸資産や固定資産に損害が発生した場合、損害保険契約による保険金を受け取るケースも多いと考えられる。 被災した事業年度において保険金を受け取った場合は、当該事業年度の収益として計上することに何ら支障はない。また、決算日までに受取保険金が確定している場合は、未収入金を計上することになる。 しかし、災害という特殊な状況下においては、保険金の受取りが確定するまでに、通常より時間がかかるケースも考えられる。この場合、未収入金を計上せず、付保の状況を注記で開示することが考えられる。 4 減損会計への影響 災害により直接的な損害が発生した固定資産に係る会計処理は、上記「2 固定資産の被害に対する会計処理」で解説したとおりである。 直接的な損害が発生していない固定資産についても、被災による事業計画の見直し等によって、将来キャッシュ・フローに影響が生じる場合が考えられる。 このような場合には、被災後の将来キャッシュ・フローに基づいて減損の判定をやり直す必要性が生じる。また、被災によって経済的残存耐用年数が短くなる可能性も考慮する必要がある。 (了)
「従業員の解雇」をめぐる 企業実務とリスク対応 【第7回】 「普通解雇③」 ~出勤不良、体調不良による解雇~ 弁護士 鈴木 郁子 1 はじめに ~「欠勤の理由は何か?」を確認することから始まる~ 欠勤は従業員の権利ではない。欠勤は理由があれば当然に許されると考えている従業員もいるが、誤解である。欠勤が継続すれば、労務提供義務の債務不履行に当たり、普通解雇原因となり得る。とはいえ、欠勤の理由如何によって、解雇しやすさ、会社が現実になすべき対応は、大きく異なってくる。 まず、欠勤は、大きく分けると、 の2つに分けられる。 また、「正当な理由のある欠勤」の代表的なものは「病欠」であるが、この「病欠」も に分けられる。 以下、これらのケースに分けて企業側の対応を解説していくが、欠勤の場合、普通解雇だけではなく、懲戒解雇、休職、行方不明退職、有給休暇など他の制度との関係も問題となってくるところ、実務上、その関係や位置づけがよく理解されておらず、混乱しているケースが多々見られるので、それらについても簡単に触れることにしたい。 なお、実際の解雇にあたっては、①解雇制限に違反しないこと、②解雇手続の履践は当然必要となるが、この点については【第4回】を参照されたい。 2 無断欠勤・理由のない欠勤 (1) 解雇事由となり得るか 無断欠勤・理由のない欠勤は、労務提供義務の不履行として普通解雇事由となり、また、職場の秩序維持違反として懲戒事由、場合によっては懲戒解雇事由となり得る。 そして、解雇権濫用に当たらず解雇が適法といえるかどうかは、 等の総合考慮によって決まることになる(解雇権濫用法理については【第4回】参照)。 (2) 無断欠勤による解雇 無断欠勤自体は、本来懲戒事由でもあり、欠勤の中でも解雇しやすい類型ではある。とはいえ、無断欠勤といっても、急病でどうしても会社に欠勤を報告できず、やむを得ず無断欠勤となってしまうこともある。 したがって、会社に欠勤の理由を報告できなくなった理由が何なのか、理由のない無断欠勤といえるかを確認する必要がある。 また、就業規則との関係でも注意が必要である。 通常、就業規則における懲戒事由の項には、「**日以上の無断欠勤は譴責」「**日以上の無断欠勤は減給」「**日以上の無断欠勤は懲戒解雇」等と規定されていることが多い。しかしながら、懲戒解雇は、形式的に就業規則上の懲戒事由に該当するだけでなく、実質的に懲戒解雇に該当するといえるだけの実質的該当性が必要であるため、就業規則上の無断欠勤日数の条件を充たしたからといって、直ちに懲戒解雇できるわけではない。 なお、就業規則上、14日以上の無断欠勤の場合には懲戒解雇できる旨規定されていることが多く、これは「労働者の責に帰すべき事由」があるとして即時解雇できる場合として(【第4回】参照)、通達が「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」をあげていることによるものと思われる。 もっとも、解雇予告手当不要として解雇できる場合(【第4回】参照)と懲戒可能な場合は必ずしもイコールではない(趣旨が異なる)。そして一般に、14日の無断欠勤で懲戒解雇というのは労働者に酷であるとも思えるため、普通解雇の方に留めるべきであるし、また、普通解雇とする場合であっても、出勤の督促は必ず行うべきである。 (3) 無断欠勤の従業員と連絡がとれない場合の対応 ところで、無断欠勤の場合において、そもそも、従業員と全く連絡がとれなくなってしまうこともある。その場合、無断欠勤で解雇という手段を講じるのではなく、就業規則に従業員の行方不明による当然退職の規定がある場合には、これを使うことも考えられる。 行方不明による当然退職の規定は、解雇では、解雇の意思表示が従業員に到達しないと雇用契約終了の効力が生じないところ、行方不明の場合には解雇通知の受領の確認が難しく、公示送達の迂遠な手続によらなければ、いつまでも退職させられないことの支障を回避するため設けられるものである。 行方不明の当然退職の規定では、退職の効力が生じる行方不明の期間について、1ヶ月や1ヶ月に満たない期間が設定されていることが多い。しかしながら、そもそも一定の行方不明期間経過による当然退職が有効とされるのは、行方不明の事実により従業員から黙示の辞職の申入れがあったと擬制し得るからである。そして、法(民法627条2項)によれば、従業員からの辞職の申入れにより退職の効力を生じるのは、給与の締日との関係で申入れ時期にもよるが、申入れから最大で1ヶ月半後である。 そうすると、退職の効力が生じる行方不明期間としては、1ヶ月半程度を見込んでおいた方が安全である。 なお、無断欠勤が連続せず、断続的に生じている場合には、(1)に述べた一般論に基づき、解雇の可否を判断することとなる。使用者から従業員に対し無断欠勤について注意を行い、改善の機会を与えることは必須である。 (4) 理由のない欠勤による解雇 欠勤の理由の報告がある場合であっても、やむを得ない欠勤とそうでない欠勤とでは、後者の方が前者より、期間が短く頻度が少なくとも、解雇が有効となりやすい。 とりわけ会社に病気を理由とする欠勤届を提出しつつ遊びに行っていたなど、会社に報告していた欠勤の理由が虚偽であることが判明した場合には、虚偽申告の事実自体が重大な懲戒事由の1つとなりうる。 したがって、このような場合は、直ちに懲戒解雇処分はできないが(懲戒処分にはすべきである)、懲戒・注意にもかかわらず同様の行為が繰り返されれば、他の欠勤の場合より早期に解雇できる場合がある。 3 私傷病による病欠 (1) 傷病の原因を確認する 病欠の場合、まずは、従業員に対し診断書の提出を求めることになる。しかしながら、傷病に罹患した原因が私傷病か業務起因かで会社の対応は異なってくるため、その確認が必要となる。 病欠の原因が私傷病である場合には、通常、就業規則で普通解雇事由とされている「身体・精神に故障があり、業務に耐えられない」等に該当し、また、欠勤状態自体は病気とのやむを得ない理由であるとはいえ、労務提供義務を履行できていない点において債務不履行に当たり、普通解雇事由となり得る。 (2) 私傷病休職規定に則る もっとも、勤務期間や病欠の期間との関係でどの程度の病欠であれば解雇できるかとの判断は難しく、そのために、私傷病休職規定を設けている会社が多い。 私傷病休職規定とは、私傷病による長期欠勤が一定期間に及んだ場合に一定の期間の休職期間を認め、その期間に治癒し復職できなれば、当然退職とするか解雇するというものである(なお、当然退職ではなく解雇となっている場合には、あわせて解雇手続(【第4回】参照)を行うことも必要である)。私傷病休職規定は、その意味で、解雇の前段階、解雇の猶予措置としての意味を持つ。 したがって、欠勤の原因が私傷病である場合、まずは診断書の提出を求め、業務に耐え得ない傷病なのかを確認し、休職規定のある場合にはこれを適用し、規定に従って処理をすることとなる。 休職命令を発令するかしないかは、本来、使用者の自由であるが、休職制度があるのにこれを適用せず、解雇を行うことは、治癒の見込みがないなどの場合を除き(かかる場合にはそもそも休職制度自体の適用がないと解釈できる)、解雇権濫用に当たると判断される可能性が高い。 (3) 私傷病休職規定がない場合は 私傷病休職規定がない場合には、どのように対応すればよいか問題となるが、ある段階でいきなり解雇をするというよりも、休職と類する対応をとる(※)のが無難であるし、本人の納得も得られやすい。 (※) 例えば、本人に対し、指定した期間内に治癒しなければ解雇することを告げるなど。 その場合の休職期間(解雇猶予期間)については、勤務期間(勤務期間が長い従業員ほど休職期間は通常長く認められる)、症状等に配慮し、一般的な会社の休職規定等を参考に決めればよいと思われる。 4 業務起因による病欠 (1) その病欠が業務起因によるものかを判断 業務起因による病欠の場合には、解雇において一定の法律上の制限が出てくるという点で、また、会社による配慮が必要という点で(労災の問題が生じる上、そのほかに会社に対し損害賠償請求等がなされる場合もある)、会社がなすべき対応は、私傷病の場合とは全く異なる。 このため、まずは業務起因と私傷病の判別が重要となる。 業務中の事故により傷病に罹患し勤務できなくなった場合などは分かりやすいが、注意すべきは、うつ病・心因反応等の精神疾患や過労に基づく疾患の場合である。 長期の病欠が問題となった場合には、本人の申告がなくとも、これが過労によるものではないか(※)、また、社内のセクハラやパワハラによるものではないか等、確認していただきたい(厚生労働省による「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」参照)。その上で、これが業務起因による可能性が高いのであれば、慎重な対応をした方がよい。 (※) 労災の認定においても、残業時間が一定時間を超える場合には業務起因と推認されるので、直近の残業時間は必ず確認したい。 なお余談になるが、明らかに私傷病であるにもかかわらず(例えば、病状が客観的に業務とは全く関係しない)、本人が業務起因としての配慮を求め、労災申請をちらつかせる場合には、むしろ本人に労災申請をしてもらい、業務起因性について労働基準監督署の判断を求めるという方法もある。 (2) 業務起因の病欠による解雇制限 病欠が業務起因の場合には、法律上、次のような制限ある。 まず、業務災害による休業期間中及びその後30日は、従業員を解雇できない(労働基準法19条1項)。 ただし、治癒に何年もかかる場合に、解雇できず雇用を保障しなければならないのでは、使用者にとって酷である。 そこで、療養開始後3年を経過して従業員が治癒しない場合に使用者が打切補償(平均賃金の1,200日分)を支払った場合(労働基準法19条1項但書)、または、傷病補償年金が支給された場合(労災保険法19条)には、解雇制限が解除され、解雇できることになる。 なお、症状固定した場合(それ以上治癒しても回復しない時点)には、その時点から30日を経過すれば解雇制限が解除される。 (3) 会社としての配慮を もっとも、解雇制限が解除される場合であっても、解雇にはなお慎重を期すべきである。 私傷病休職の場合には、原則として休業期間中に治癒しなければ、それも元の職務に復帰できるほど回復できなければ「治癒」とはいえないため、退職・解雇となる余地があるが、業務起因の場合は、同様に解し得ない。 他ならぬ会社の業務が原因であり、本人も望まぬ傷病に罹患し勤務できない状態となっているのであるから、会社としては当然、従業員に対する配慮が必要となる。 元の職務に復帰できるほど回復できなくとも、例えば、職種や仕事の内容を変更すれば、また勤務時間を短縮したり、リハビリ出勤をはさめば勤務可能なのであれば、そのような配慮をすべきである。本人の復職希望や勤務のための配慮全くなくしての解雇は無効であると考えておいた方がよい。 このような配慮なく解雇を強行した場合には、解雇を争われる可能性も高くなり、加えて、労災でカバーできなかった損害分等の損害賠償請求等が提起されるリスクも覚悟する必要がある。 いずれにせよ業務起因の場合には、慎重に対応し、また、従業員側と休業期間中の生活、復職時期、復職の方法等について話し合いを十分に尽くし解決するのがよい。 5 病欠以外の理由のある欠勤について ~限度を超えたものは解雇事由となるか~ 冒頭述べたように、従業員の欠勤は権利ではない。このため、例えば家族の急病等といった理由のあるやむを得ない欠勤といえども、これが一定程度以上になれば、解雇できないわけではない。 この点、どの程度の欠勤があれば解雇できるのかは、その欠勤の程度・態様が業務にどの程度支障を来たすかにもよるため、一概に言うことはできない。 もっとも、有給休暇が1年につき8割以上出勤した者に対する恩恵として付与されるものであり、2割の欠勤を法が見込んでいることからすれば、少なくとも1年の欠勤が2割以下であれば解雇できないと考えておいた方がよい。 いずれにせよ、2の(1)で述べた基準によって解雇の可否を判断することになるが、理由のある欠勤であるため、欠勤の程度、欠勤による業務の支障の程度がどの程度か、その説明をどの程度行ったのか等がポイントとなる。 なお、育児・介護に対する関係では、育児介護休業、子の看護・介護休暇の制度があり、そもそも法が一定の場合に一定の休業・欠勤を認めている点は注意されたい。 6 欠勤と有給休暇の関係に留意 ここで、有給休暇と欠勤処理の関係が実務上問題となることが多いので、最後に触れておきたい。 有給休暇を取得した場合には、当然のことながら、その有給休暇取得分を欠勤(債務不履行)とみて解雇の是非を検討することはできない。 本来、有給休暇の取得については事前の申入れが必要であるが、現実的には多くの会社において、欠勤の場合の事後的な有給休暇の振替えを認めていることが多い。 しかしながら、そのような運用が行き過ぎると、本来なら欠勤として処理し解雇原因の1つとなり得るところが、そのために解雇できなくなってしまうことがある。 したがって、有給休暇は事前申請が原則であることを徹底し、仮に有給休暇の事後的な振替えを認めるとしても、本人の申請があり、事前に申請できないことにつき合理的な理由があり、急な欠勤による業務上の支障が少なかったと会社が判断する場合に限定し、なおかつ、回数制限を設けるなどの工夫をする必要があろう。 また、そもそも事後的な振替えを認めるかについては、上記のリスクを踏まえ、会社としては慎重な判断が必要である。 (了)
税務ピンポイント解説 【第3回】 「マンション購入時に気をつけたい「50㎡の“壁”」」 Profession Journal 編集部 皆さんはマンションを購入する際に、何を重視するでしょうか? 様々な要素がありますが、注意したいポイントに「床面積」があります。 なぜなら、「床面積が50㎡以上」か否かによって、次の各種の税制上の特例が受けられるかどうかが決まってしまうからです。 (※) ④については「240㎡以下」という限度面積が設定されています。 ここでいう「床面積」とは、一般的に物件資料などで使用されている「壁芯面積」ではなく、登記簿上の面積である「内法の面積」であることに注意が必要です。つまり、壁芯面積で50㎡を超えていても内法面積で満たせなければ、上記の特例は受けられないことになります。 まさに「50㎡の“壁”」が立ちふさがっているのです。 ではなぜ「50㎡」が最低面積とされているのかといえば、昭和51年3月26日に閣議決定された「第Ⅲ期住宅建設五箇年計画」(国土交通省、昭和51年)で4人世帯の場合の「最低居住水準」が50㎡と定められたことにより、住宅金融支援機構などのローンの基準が50㎡に引き上げられた状況を鑑みて、各種税制優遇措置が設けられたことによります。 ちなみに「マンション・一戸建て住宅データ白書2015」(東京カンテイ、2016年1月28日)によると、首都圏での平均専有面積は61.90㎡、平均価格は5,183万円であり、日本では3LDK(3K等を含む)の間取りのマンションの供給数が群を抜いているため、3LDKのマンションの購入の際には「50㎡の壁」に阻まれることはほぼないと予想されます。 では、どのような人がこの「50㎡の壁」に注意すればよいのでしょうか。 上記の五箇年計画によれば、標準世帯の最低居住面積水準は35~47.5㎡とされています。2LDKの専有面積は40㎡前後であるため、家計に余裕のない子ども2人の世帯がここに当てはまることがわかると思います。 「平成27年 国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省、2016年7月12日)によると、児童のいる世帯の平均所得金額は712.9万円であり、一般的に住宅価格の年収倍率は5~6倍が望ましいと言われるため、もはや3LDKの物件には手が届かない世帯が多いことがうかがえます。 となると、子育て世代の2LDK(2K等を含む)に対する需要はますます高まることが予想されますが、税制上の特例の要件は、果たして現状のままでよいのでしょうか。世相に合った政策の充実が求められます。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会、「監査役監査と監査役スタッフの業務」を改訂 ~来期の全面見直しに向け中間報告書としての位置づけ~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年7月28日付(ホームページ掲載日8月10日)で、公益社団法人 日本監査役協会の本部監査役スタッフ研究会は「監査役監査と監査役スタッフの業務(中間報告書)」を公表した。 これは、平成23年9月に第38期本部監査役スタッフ研究会報告書として発表された「監査役監査活動とスタッフ業務」(通称「オレンジ本」)のうち、主要な記述部分である「第3章」を最新の内容に改訂したものである。 見直し作業は2年計画となっているため、「中間報告書」としているとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「中間報告書」は表紙などを含めて258ページに及ぶ大部のものとなっている。 次の事項や会社の機関設計の違いによる対応などについて記載されている。 監査役及び監査役スタッフの業務について、年間の時系列及び活動区分別に、次の6つに分節し、記載している。 (了)
《速報解説》 ASBJより、今後3年間の基準開発等の基本的方針を示した 「中期運営方針」が公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年8月12日、企業会計基準委員会は「中期運営方針」を公表した。 これは、これまでの企業会計基準委員会の活動を振り返るとともに、今後3年間の日本基準の開発の基本的な方針及び国際的な会計基準の開発に関連する活動を行うにあたっての基本的な方針を記載したものである。 なお、同日、「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」の改訂も公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 中期運営方針の概要 次の事項が記載されている。 Ⅲ 日本基準の開発 1 我が国における会計基準に係る基本的な考え方 我が国における会計基準に係る基本的な考え方として、次のことが述べられている。 2 日本基準を国際的に整合性のあるものとするための取組み 日本基準を国際的に整合性のあるものとするための取組みに関して、次のことが述べられている。 3 具体的な課題 「東京合意において検討対象とした会計基準より後にIASBにより公表された会計基準」として次のものがあり、今後の対応について次のように述べられている。 Ⅳ 国際的な会計基準の開発に関連する活動 IFRSの任意適用企業の拡大に伴い、国際的な会計基準の質を高めることに貢献すべく意見発信することの重要性や、国際的な会計基準の策定の場における我が国のプレゼンスの向上及び影響力の強化について述べている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「国境を越える電子商取引と消費税」に関する研究報告を公表 ~国際動向やインボイスにも言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年7月25日付(ホームページ掲載日8月12日)で、日本公認会計士協会は、「国境を越える電子商取引と消費税について」(租税調査会研究報告第31号)を公表した。 これは、平成27年度税制改正で電気通信利用役務の提供に関する内外判定や課税方式等に関する消費税法の改正が行われたことから、その制度上の課題などについて検討を行ったものである。 また、研究報告では、平成28年度改正消費税法で、今後導入が予定されるインボイス制度の概要と留意点についても解説されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 平成27年度改正消費税法のポイント 1 概要 平成27年度改正消費税法のポイントは次のとおりである(研究報告1~2ページ)。 リバースチャージ方式の下では、国内事業者が国外事業者から「電気通信利用役務の提供」を受ける場合、役務提供を受ける国内事業者側に申告納税義務が生じる。つまり、リバースチャージとは、役務提供者から役務を受ける者への申告納税義務の転換であり、リバースチャージにより役務を受ける者に転換される納税義務は役務を受ける者からみれば、前段階取引にかかる納付税額である(研究報告11ページ)。 2 電気通信利用役務に該当するかどうかの判定 消費税法基本通達5-8-3 において、電気通信利用役務の提供について、次のように例示列挙されている。 「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等に関するQ&A」(国税庁消費税室)の記載にも注意が必要である。 3 実務上の論点 次の事項などについて、実務上の判断が分かれる可能性について述べられている。 (了)
《速報解説》 再生可能エネルギー発電設備等、投資対象の追加へ対応した 「投資信託及び投資法人における特定資産の価格等の調査に係る合意された手続業務に関する実務指針」が公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年8月4日付(ホームページ掲載日8月10日)で、日本公認会計士協会は、業種別委員会実務指針第23号「投資信託及び投資法人における特定資産の価格等の調査」を改正し、専門業務実務指針4460「投資信託及び投資法人における特定資産の価格等の調査に係る合意された手続業務に関する実務指針」として公表した。 これにより、平成28年6月24日から意見募集していた公開草案が確定することとなる。 これは、平成26年8月29日に投資信託及び投資法人に関する法律施行令が改正され、投資対象に再生可能エネルギー発電設備・公共施設等運営権が追加されたこと、専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」が公表されたことなどを受けたものである。 なお、公開草案に対するコメントはなかったが、一部表現の修正を行っているとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 適用範囲 実務指針は、「投資信託及び投資法人に関する法律施行令」(平成12年政令第480号)18条、28条及び124条に定める特定資産の価格等を調査する者としての公認会計士又は監査法人(以下「業務実施者」という)が、特定資産の価格等の調査に係る業務を合意された手続業務により実施する場合の合意された手続(以下「特定資産価格調査手続業務」という)、業務実施者の責任、特定資産の価格等の調査に関する合意された手続実施結果報告書(以下「実施結果報告書」という)の作成等について取りまとめたものである(1項)。 2 契約の締結及び更新に関する留意事項 業務実施者は、特定資産価格調査手続業務に関して、専門業務実務指針4400第18項に従い業務契約書を締結するものとする(11項)。 ただし、専門業務実務指針4400第18項(5)「実施する手続の種類、時期及び範囲の詳細」については、手続対象となる特定資産、調査事項等が法令によって定められており(4項)、業務の対象となる特定資産に関する取引が常時反復的に行われる場合があること、取引が行われた計算期間の運用報告書作成までに実施結果報告書の発行が求められること等に鑑み、「投資信託及び投資法人に関する法律」に基づき特定資産価格調査手続業務を実施する旨を定める包括的な契約を締結した上で、調査対象となるファンドの取引ごとに、実施する具体的な手続について覚書を締結し、合意する方法も考えられる(11項)。 次のことに注意する(12項)。 3 再生可能エネルギー発電設備又は公共施設等運営権について 再生可能エネルギー発電設備又は公共施設等運営権(以下、両者を総称して「インフラ資産」という)が調査対象の特定資産である場合には、13項(1)にかかわらず、当該インフラ資産の取引価格と比較可能な価格としての外部の専門家の評価額を会社から入手し、それぞれ売買契約書等の取引価格が記載された証憑及び会社より入手した専門家の評価報告書と照合するとともに、両者の差額につき再計算を行う(13項(3))。 4 確認書 業務実施者は、実施結果報告書の発行に先立ち、業務実施期間中に業務依頼者から提示を受けた資料及びその他の説明について、業務依頼者から確認書を入手しなければならない(14項)。 確認書の日付は、業務依頼者が、業務の対象とする情報等に対して責任を認めた日付であるため、実施結果報告書の日付より後にはならず、通常、実施結果報告書の日付とする(14項)。 確認書の文例として「付録2」が示されている。 Ⅲ 適用時期等 「業種別委員会実務指針第23号「投資信託及び投資法人における特定資産の価格等の調査」の改正について」(平成28年8月4日)は、平成30年4月1日以降に発行する実施結果報告書に適用する。 ただし、専門業務実務指針4400第3項、第4項及びすべての要求事項が適用可能である場合には、平成28年8月4日以後に発行する実施結果報告書から適用することができる。 (了)
《速報解説》 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の対象となる 「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」の第一弾が公表 ~認定事業数は102、特徴的な事業例の紹介も Profession Journal編集部 地方創生応援税制、いわゆる「企業版ふるさと納税」は、既報のとおり改正地域再生法の施行日である平成28年4月20日からスタートしている。 ただし、この税額控除の適用対象となるのは地方公共団体が国から認定を受けた「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」への寄附に限られており、施行日時点では認定を受けた事業が存在しなかったことから、その具体的検討ができない状況が続いていた。 このほど8月2日付けで、まち・ひと・しごと創生本部のホームページ上において下記の通り、本特例の対象として認定された、第一弾の「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」の内容が明らかとなった。 同事業の第2回の認定は本年11月中、第3回は来年3月中とされていることから、当面は今回公表された事業の中から寄附を行う事業の検討・選択をすることになろう。 今回公表された認定事業数は102事業(一覧はこちら)、全体事業費は323億円に上る(102事業のうち95事業は8月2日に計画認定、7事業は8月下旬に地方創生推進交付金と一体で計画認定の予定)。 事業分野別に見ると、地域産業振興や人材の育成・確保等を目的とした「しごと創生」に関するものが74事業と最も多く、「地方への人の流れ」(移住・定住の促進等)が12事業、「まちづくり」(コンパクトシティ等)が10事業、「働き方改革」(少子化対策等)が6事業となっている。 また都道府県別に見ると、県と市を合わせ認定事業数が最も多いのは岐阜県の8事業、続いて新潟県の7事業、総事業費では大阪府が111億6,630万円と飛びぬけている。ちなみに東京都は本特例の対象となる認定地方公共団体の対象外とされている(「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)活用の手引き」p7)。 寄附の検討を行っている企業としては、今回認定を受けた102事業からどのように選択すべきか悩ましいところだが、本社が所在する地方公共団体への寄附は対象外とされているなど、寄附を行う企業と地方公共団体との関係において制約が設けられているため、まずは下記の資料等を参考にした絞込みから行うのがよいだろう。認定事業へ寄附をすればすべて適用可能というわけではない点には十分留意されたい。 (「地域再生計画認定申請マニュアル(抜粋版)〈地方創生応援税制関係〉(平成28年4月)」p4)。 また今回公表された資料では別紙3として「地方創生応援税制に係る特徴的な事業例」がまとめられており、例えば認定事業数の多い岐阜県であれば、県による「航空宇宙産業を支えるまち・ひと・しごと創生計画」、同県の各務原市による「博物館を核とした航空宇宙産業都市魅力向上事業」が紹介されており、KPI(成果目標)として県内航空宇宙産業の製造品出荷額(県)、企画展来場者数(市)が設定されるなど、県と市が一体となった事業が紹介されている。 他にもバラエティに富んだ事業が紹介されているため、まずはこちらから確認し、自社のブランディング向上につながるような視点で事業を選定することも一考だろう。 なお、寄附金の支払い後は地方公共団体から交付される領収書が、国税・地方税の申告時において、本特例の対象となる特定寄附金の証明となる(詳細は下記の連載を参照されたい)。 〈地方創生応援税制のフロー図〉 (※) 「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)活用の手引き(平成28年4月)」内閣府地方創生推進事務局、P4より (了) ↓お薦め連載記事↓