日本の企業税制 【第34回】 「国別報告事項の提供制度の創設」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 1 国別報告事項の提供制度の創設 平成28年度税制改正においては、OECDのBEPSプロジェクトの最終報告書(行動13「移転価格文書化制度及び国別報告書」)を踏まえ、特定多国籍企業グループに係る国別報告事項の提供制度が創設された。 これは、特定多国籍企業グループの構成会社等である内国法人(原則として、「最終親会社等」)が、当該特定多国籍企業グループの各最終親会計年度に係る国別報告事項を、当該各最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内に、e-Taxにより、当該内国法人の本店又は主たる事務所の所在地の所轄税務署長に提供する制度であり(措法66の4の4①)、その提供は、英語により行うこととされている(措規22の10の4④)。 この制度のベースには金商法上の連結財務諸表が用いられているが、細かい点で差異があることに注意しなければならない。 2 国別報告事項を提供する企業グループ この制度の対象となるのは、「特定多国籍企業グループ」であるが、「特定」「多国籍」「企業グループ」の3段階で規定されている。 まず、「企業グループ」とは、次の企業集団をいう(措法66の4の4④一、措令39の12の4②、措規22の10の4⑥)。連結財務諸表が作成されるものの他に、「上場するとしたならば」連結財務諸表が作成される「こととなるもの」も該当する。 次に、「多国籍」企業グループとは、次の企業グループをいう(措法66の4の4④二、措令39の12の4③)。海外に子会社がなくても、PE(恒久的施設)があれば、多国籍企業グループに該当する可能性があることに注意が必要である。 最後に、「特定」多国籍企業グループとは、多国籍企業グループのうち、直前の最終親会計年度における多国籍企業グループの連結財務諸表における売上金額、収入金額その他の収益の額の合計額が1,000億円以上であるものをいう(措法66の4の4④三、措規22の10の4⑦)。 3 最終親会社等と構成会社等 原則として国別報告事項を提供する主体となる「最終親会社等」とは、企業グループの構成会社等のうち、その企業グループの他の構成会社等に係る議決権の過半数を自己の計算において所有していることその他の事由により、当該他の構成会社等の意思決定機関を支配しているもの(親会社等)であって、その親会社等がないものをいう(措法66の4の4④五、措令39の12の4⑤)。 したがって、上場子会社のように、それ自体で連結財務諸表を作成している会社であっても、「親会社等」が存在することから、「最終親会社等」には該当しないことがわかる。 構成会社等とは、次の会社等をいう(措法66の4の4④四、措令39の12の4④)。連結財務諸表における連結の範囲とは重複する部分が多いものの、微妙に異なる部分があることに注意が必要である。 まず①によって、損益の状況のみが取りこまれている持分法適用会社は、国別報告事項の提供においては対象ではないことがわかる。一方、②によって、いわゆる非連結の連結子会社は国別報告事項の提供においては対象の範囲内であることがわかる。 (了)
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第44回】 「混沌とした租税回避論の再整理(その2)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 2 「課税要件の充足を免れること」と「課税減免要件の充足を図ること」 従来の租税回避の通説的理解は、「課税要件の充足を免れて、税負担の軽減を図ること」とされてきたことは既に述べたとおりである。 そうであるとすれば、りそな銀行事件におけるX社は、課税要件の充足を免れるどころか、あえて要件の充足を図っているのであるから、従来の租税回避の定義によれば、X社の行為は「租税回避」ではないことになる。 加えて、りそな銀行事件において、最高裁が、本件取引を「制度を濫用するもの」と述べている部分にも着目しておきたい。 最高裁のこの判示については、あえて課税減免規定の要件を充足し租税負担の軽減を図る行為を租税法制度の濫用と捉え、そうした行為についても否認し得ることを示したものとの見解もあるが、この点は学説上今も争いがあるところである。 このように、「課税要件の充足を免れる」という従来の租税回避の定義を再考し、「課税減免要件の充足を図る」行為、いわば租税法制度の濫用的行為をどのように捉えるべきかが今日的な問題となっている。 3 中間概念としての租税回避 前回述べたとおり、「租税回避=課税要件の充足を免れること」という従来の定義によれば、租税回避である以上課税されないものと理解されることになる。 このように、課税効果のみに、要するに結果のみに着目すれば、「租税回避は課税されない」のであるから節税と同義ともいえるであろう。節税であれば課税されないのであって、結果は同じともいい得る。 そうであるとすると、租税回避を積極的に定義付ける意味はどこにあるのであろうか。節税でもなければ脱税でもないという、いわば中間の仮置きの概念なのであろうか。 もし仮置きの概念ならば、そうしたものに法的な積極的意義を見いだすことができるのか、はたまた、積極的に意義づける必要があるのかも疑問に思われる。 したがって、「租税回避」という概念を使用するに当たっては、この点のきちんとした整理が重要である。 そこで、ここにいう中間概念を「租税回避の試み」とし、結果として課税要件の充足を免れた場合を「租税回避」と表現し、従来の租税回避の定義に従って整理を進めてみたい。 「租税回避の試み」という中間概念たる「仮置き」の時点では、まだ租税負担の軽減という目的(結果もしくは効果)が達成されるかどうかは不明であり、「租税回避の試み」に成功した場合にはじめて「租税回避」と理解するのである。 4 租税回避と節税、そして濫用 「租税回避」を、結果として課税要件の充足を免れたこと、要するに租税負担回避の試みが成功した場合であるとすれば、結果の観点から「節税」に接近することになるのは上述のとおりであるが、この点は木村弘之亮教授の見解が参考となる。 同教授は、租税回避を課税根拠規定の適用を回避して租税の負担を免れる行為であるとされ、節税について、課税減免規定の要件を充足させて租税の負担を免れる行為であると説明される(木村弘之亮「節税と租税回避の区別の基準」小川英明=松澤智=今村隆編『新・裁判実務大系 租税争訟〔改訂版〕』346頁(青林書院2009))。 【図1】 租税回避と節税 【図1】のような理解によるとき、これら2つの行為で問題となるのは、これらの行為が「不当」になされた場合であるかどうかであるが、かかる不当性については「濫用」という視角から整理をすることができると考える。 りそな銀行事件で見たように、濫用の問題も今後の議論の対象とせざるを得ないのであって、それをいかに整理するかという点に関心を寄せるべきであろう。 Ⅲ 租税回避・節税・脱税という3つの枠組み 1 3つの枠組みの関係性 そもそも、「租税回避」「節税」「脱税」という3つの枠組みにはどのような意味があるのであろうか。 当然のことながら、ある行為が、「租税回避」や「節税」に当たらなければ、すなわち「脱税」となるということではない。 脱税とは課税要件が充足されているにもかかわらず、その全部または一部を秘匿する行為等をいうのであるから(金子宏『租税法〔第21版〕』126頁(弘文堂2016))、租税回避や節税に該当しないものが、脱税とされるわけではもちろんない。 租税回避の試みがなされたとき、結果としてそこに課税要件の充足が認められれば租税回避の試みは失敗し、課税になるわけであるが、それが「偽りその他不正の行為」(所法238)によるものか否かは別の議論である。 他方で、租税回避の試みが、結果として課税要件を充足していないということになったとしても、それが節税になるわけでもない。租税回避の試みが成功し、租税回避がなされたとしても、それは節税ではない。 なぜなら、節税は、あくまでも課税減免要件の充足を意味するのであって、課税根拠要件の回避である租税回避とは、これもまた別の議論であるからである。 そうであるとすれば、この3つの枠組みの意義に若干の疑問を覚える。 少なくともこれら3つの概念は、表裏一体の関係にあるような概念ではなく、それぞれ別個の概念であると考えるべきであろう。 すなわち、Aでなければ必然的にBになるとか、Bでなければ当然Cであるというような関係性ではなく、A、B、Cはそれぞれ重なり合わない別々の概念であることを確認しておきたい。 【図2】 3つの枠組みの関係性 2 節税の試み なお、「節税」という概念も結果としての概念と考えるべきであろう。 「租税回避の試み」という行為と、その行為が成功した場合の「租税回避」と同様に、「節税の試み」という行為が成功すれば「節税」という結果が生じるのである。 「節税の試み」とは課税減免要件の充足を図ろうとする行為であり、成功すれば節税、すなわち租税負担の軽減を図ることができる一方、その試みが失敗すれば単に課税となるだけである。 繰り返しになるが、節税の試みが失敗したからといって、租税回避になるとか、脱税に該当するなどといったことでは決してないのである。 もっとも、近時、りそな銀行事件のように課税減免要件を満たすことによって、法の趣旨から外れたところで租税負担の減免や軽減を図ろうとする節税の試み事例が散見されており、上記の議論のみでは整理がつかなくなっている。 前述のとおり、節税は課税減免要件を満たすことであると整理すれば、課税根拠要件の充足の有無という従来の租税回避論ではそれを対象とすることができない。 りそな銀行事件のような、課税減免要件の充足をあえて行おうとする行為、すなわち法の趣旨から逸脱するような「節税の試み」が発生していることを念頭に置くと、従来の整理が必ずしも十分なものであるとはいえないのではなかろうか。 そこで議論を従来の租税回避に係る部分と、節税に係る部分とに明確に2つに分けて述べていく必要があると思われる。 両者の区分の方法としては、課税要件の観点から分ける方法と、その行為形態に着目する方法とが考えられる。順次確認してみたい。 (続く)
相続税の実務問答 【第2回】 「遺産の内容が分からない場合の相続税の申告」 税理士 梶野 研二 [答] 遺産の全容が明らかでない場合であっても、相続税の申告義務があると認められるときには、相続の開始したことを知った日から10ヶ月以内に、遺産の把握に努め、できる限り真実の遺産内容を反映した相続税の申告をし、算出された税額を納付しなければなりません。 相続税の申告期限までに申告・納付をしなかった場合には、無申告加算税や延滞税が課されることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税の計算の仕組み わが国の相続税は、法定相続分課税方式を導入した遺産取得課税方式、すなわち、被相続人の財産の総額(債務がある場合には債務の金額を控除した金額)を基に、民法に定める各相続人が民法に定める相続分に応じて被相続人の財産を相続したものと仮定して相続税の総額を計算し、それを各相続人の取得財産の価額に応じて按分して、各相続人の相続税額を算出するという方法を採用しています。 したがって、相続財産の全容が明らかにならない限り、正しい相続税額の計算はできないこととなります。 2 財産の全容が分からない場合 (1) 相続税の期限内申告の義務 相続税の申告期限までに遺産分割が整わない場合には、共同相続人が法定相続分で相続をしたものとして相続税の計算をすることになります(相法55)。 しかし、相続人間で、遺産の分割について争いがあり、被相続人と同居していた相続人が遺産の全部又は一部について明らかにしてくれない場合、あるいは、1人暮らしだった被相続人の生前の生活状況が不明で財産の所在等を確認することができない場合など、相続税の計算に必要な遺産の全容が把握できないケースや、相続税の課税価格に加算される相続開始前3年以内に被相続人から相続人に対して行われた贈与(相続時精算課税を選択している場合には、相続時精算課税を選択してから後の被相続人からのすべての贈与)の有無を確認することができないケースがあります。 このような場合であっても、相続税法には、申告の猶予を認める規定は設けられていません。したがって、相続人は、被相続人の財産債務について調査をし、相続税の納税義務があると認められた場合には、相続税の申告期限内に相続税の申告をしなければなりません。 (2) 期限内に申告・納付しなかった場合 相続税の申告期限までに、申告や納付がなされなかった場合には、原則として無申告加算税が賦課され、また、延滞税が発生することになります。 相続税の申告期限までに申告をしなかったことに、正当な事由があった場合には、加算税は賦課されませんが、相続税の申告期限までに遺産の全容が明らかにならなかったとしても、その時点で判明している遺産の額が相続税の基礎控除額を超えることが認識されていた場合、あるいは相続人として当然に行うべき努力をしたならば、遺産の額が基礎控除額を超えることが判明したと認められるような場合には、「正当の事由」が存するとは認められません。 この点に関し、次の判決が参考になります。 3 相続人間で遺産総額の異なる申告がなされる場合 相続人が2名以上いる場合には、相続税の申告書を共同して提出するのが一般的ですが、相続人ごとに、あるいは相続人のうち一部の者のみが共同して申告書を提出することもできます。そのため、相続人間に争いがあるようなときには、2以上の異なった内容の申告がされることがあります。 ある財産が、1人の相続人の相続税の申告書には計上されているが、別の相続人の申告書には計上されていないケース(他の相続人に相続財産の一部を隠匿しているケースや相続財産の範囲に認識の違いがあるケースなど)や、申告書に記載された財産は同一であっても、その評価額に差異があるケースなどが考えられます。 申告書の提出前に、相続人間、あるいは税務申告の委任を受けた税理士間で調整を図ることができればよいのですが、争いのある相続人間では、それも容易ではないことが多いと思います。 このような場合、通常、税務署職員による税務調査を経て、財産の範囲や評価額について一本化されることとなります。この時点で申告漏れや過少申告が指摘された場合には、原則として、過少申告加算税や延滞税の負担が生じることになります。相続財産の分割が未了であるために、相続税法第55条の規定により、法定相続分で財産を相続したものとして相続税の申告がなされている場合には、分割が完了するのを待って税務調査が行われることもあるようです。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q7】 「外貨建の利付債券の償還時に生じた為替差損益の取扱い」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 税務上、公社債の償還差益及びそれに伴う為替差損益に対する課税については、従前は原則雑所得として総合課税の対象とされていました。しかし、平成26年度税制改正により、平成28年1月1日以後は、譲渡と同様に取り扱われることとなりました。 なお、発行日が平成27年12月31日以前の公社債についても、譲渡日が平成28年1月1日以後の場合は、新税制が適用されます。 1 償還差損益の課税 平成28年1月1日以後、公社債の元本の償還(買入償還を含む)により交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額(元本の価額の変動に基因するものを含む)は、公社債の譲渡に係る収入金額とみなされます。これは、債券が特定公社債か一般公社債かを問わず、同じ取扱いとされます。 したがって、本件の債券(特定公社債)の償還により支払を受ける金銭等については、公社債の譲渡による収入金額として取り扱われ、他の所得と区分し、上場株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(以下、「上場株式等に係る譲渡所得等」)として、申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)が適用されます。特定口座内において証券会社により源泉徴収がなされる場合を除き、原則として申告が必要です。 2 償還差損益の計算 国外発行の公社債の元本の償還により交付を受ける金銭等の邦貨換算については、公社債の区分に応じ、それぞれ以下の日におけるTTBにより円換算した金額となります。 為替レートは、対価の支払をする者(すなわち国内証券会社)の主要取引金融機関(その支払者が対顧客直物電信買相場を公表している場合にはその支払者)の当該外貨に係るTTBにより邦貨換算した金額によります。 なお、債券の取得価額の邦貨換算は、取得した債券の外貨金額を取得時のTTSで換算した金額となります。 結果として、為替差損益部分については、上場株式等の譲渡に係る譲渡所得に含められることになり、別途雑所得として区分する必要はないと考えられます。 3 本件へのあてはめ おたずねの場合、以下の金額が上場株式等に係る譲渡所得等の金額として取り扱われます(購入手数料や売却手数料はないものとします)。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第16回】 「マイナンバーに関するセミナー参加費・資格取得費の取扱い」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 マイナンバーを業務上取り扱う社員3名を「マイナンバーの実務」をテーマにした有料のセミナーに参加させました。また、マイナンバー実務検定2級を取得してもらうため、資格の学校に講座代金を支払いました。これらの費用は当社の経費になるでしょうか。 詳細は、次の通りです。 〈A〉 経費になる。技術や知識の習得費用は、次のいずれかの要件を満たし、かつ、その費用が適正な金額であれば、経費になる。いずれの要件も満たさない、あるいは、いずれかの要件を満たすものの金額が適正でなければ、社員に対する給与になる。 ポイントは、アンダーライン部分の“仕事に直接必要”の箇所である。今回のケースにおいては、セミナー参加費については上記〈要件1〉、資格取得費については上記〈要件2〉に該当する。また、費用も多額でなく適正な金額である。 したがって、研修費などの勘定科目で経費として処理すればよい。 (了)
連結納税適用法人のための 平成28年度税制改正 【第8回】 「移転価格文書化制度(その1)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 [11] 移転価格文書化制度 1 多国籍企業グループの移転価格文書化制度 多国籍企業グループによるグループ内取引を通じた所得の海外移転に対して、適正な課税(移転価格課税)を実現するためには、国外関連者との取引やグローバルに行う取引の全体像を把握することが必要とされる。 そこで、BEPSプロジェクトでは、経済界のコンプライアンス・コストに配慮しつつ、税務当局のために透明性を高めることを目的として、多国籍企業グループに対して、共通様式に基づいた多国籍企業情報の報告等(移転価格に係る文書化)として、次に掲げる3種類の文書を税務当局に提供等することが勧告された。 この勧告を踏まえ、平成28年度税制改正において、次のように多国籍企業情報の報告等に係る制度が整備された。 なお、改正前の移転価格文書化制度は、租税特別措置法施行規則第22条の74に定められている独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(改正後のローカルファイルに相当する書類)を作成しない場合に、国税当局によって推定課税及び同業者調査が行われるという制度であったが、企業に文書化を義務付ける制度ではなかった。 しかし、改正後は、企業に上記3つの文書を作成することを義務化しており、その点で従来の移転価格文書化制度と大きく異なることとなる。 以下ではそれぞれの文書について、3回にわたって解説することとする。 (1) 国別報告書 ① 概要 特定多国籍企業グループに係る国別報告事項の提供義務者である内国法人(最終親会社等又は代理親会社等)は、特定多国籍企業グループに係る国別報告事項を、最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内に、電子情報処理組織を使用する方法(e‐Tax)により、税務署長に提供しなければならない(措法66の4の4①)。 (*) なお、下記の用語の定義は次のとおりである(措法66の4の4④)。 《多国籍企業グループと構成会社等の範囲》 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ② 提供義務者 国別報告事項の提供義務者は、次に掲げる者とする(措法66の4の4①②)。 上記2及び3については、我が国の国税当局が、特定多国籍企業グループの最終親会社等 (代理親会社等を指定した場合には、代理親会社等)の居住地国(我が国が締結した租税条約等の相手国に限る)を通じて当該特定多国籍企業グループに係る国別報告事項の提供を受けることができないと認められる場合に限る(措令39の12の4①)。 また、上記2又は3の提供義務者に該当する内国法人又は恒久的施設を有する外国法人が複数ある場合は、当該内国法人又は恒久的施設を有する外国法人のいずれか1法人が代表して国別報告事項を提供すればよい(措法66の4の4③)。 この場合、当該1法人が、次に掲げる事項を、最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内に、電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax)により、所轄税務署長に提供する必要がある(措規22の10の4⑤)。 (*) ③ 提供義務者に関する国税当局への報告義務 多国籍企業グループに係る国別報告事項の提供義務者等を明らかにするために、特定多国籍企業グループの構成会社等である内国法人又は構成会社等である恒久的施設を有する外国法人は、当該特定多国籍企業グループの最終親会社等及び代理親会社等に関する情報として次に掲げる事項(最終親会社等届出事項)を、最終親会計年度終了日までに、電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax)により、税務署長に提供しなければならない(措法66の4の4⑤、措規22の10の4⑨)。 (*) なお、報告義務者に該当する内国法人又は恒久的施設を有する外国法人が複数ある場合は、当該内国法人又は恒久的施設を有する外国法人のいずれか1法人が代表して報告すればよい(措法66の4の4⑥)。 この場合、当該1法人が、次に掲げる事項を、最終親会計年度終了日までに、電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax)により、所轄税務署長に提供する必要がある(措規22の10の4⑩)。 (*) ④ 報告事項 国別報告事項は、次に掲げる事項をいう(措法66の4の4①、措規22の10の4①)。 (*) ⑤ 使用言語 英語(措規22の10の4④)。 ⑥ 提供義務の免除 直前の最終親会計年度における多国籍企業グループの連結財務諸表における総収入金額(売上金額、収入金額その他の収益の額の合計額。連結財務諸表がない場合には、多国籍企業グループの財産及び損益の状況を明らかにした書類に基づいて計算した当該合計額に相当する金額)が1,000億円未満である場合における当該多国籍企業グループについては、国別報告事項の提供義務が免除される(措法66の4の4④三、措規22の10の4⑦)。 ⑦ 提供期限 最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内(措法66の4の5①)。 ⑧ 適用時期 平成28年4月1日以後に開始する最終親会計年度に係る国別報告事項について適用する(平成28年所法等改正法附則1、98⑤)。 つまり、連結親法人の平成29年3月期の国別報告事項について、平成30年3月31日までに税務署長に提供する必要がある。 ⑨ 提供義務の担保策 国別報告事項を提供期限内に税務署長に提供しない場合は、30万円以下の罰金に処する(措法66の4の4⑦⑧)。 * * * 次回はマスターファイル(事業概況報告事項)について解説する。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第17回】 「青色申告承認取消処分の理由付記制度の概要等」 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也 1 はじめに 本連載の【第1回】で述べたとおり、これまでの議論や事例の蓄積状況及び法人の9割以上が青色申告を行っている現状などを踏まえ、第1回~前回まで、法人税の青色申告書に係る更正の理由付記(法人税法130条2項)の十分性が問題となった裁判例・裁決例を中心に検討を行ってきた。 もっとも、理由付記については、青色申告書に係る更正のみならず、青色申告の承認取消しに係るものについても議論や事例が蓄積している。この青色申告の承認取消しは、その取消事由の存在する事業年度にまで遡って行われるものである上、その取消しによって青色申告者のみに認められている繰越欠損金(法人税法57条)や特別税額控除・特別償却(租税特別措置法42条の4、42条の6など)の利用が認められないことになるなど、納税者に対する影響は決して小さいものではない。 そこで、今回から第19回までは、青色申告承認の取消処分の通知書(法人税法127条4項)に係る理由付記の事例研究を行う。 2 青色申告制度の概要 青色申告制度は、適正な課税を実現するために不可欠な帳簿の正確な記帳を推進する目的で設けられたもので、所定の帳簿書類の備付け等を行っている者に限って、税務署長の承認を受けて青色の申告書を提出することを認め(法法121①) 、課税手続や、欠損金の繰越控除及び繰戻還付など税額計算等に関する各種の特典(法法57、80、130、131、措法67条の5など)を与えるものである(最高裁昭和49年9月20日第二小法廷判決・刑集28巻6号291頁、最高裁昭和62年10月30日第二小法廷判決・集民152号93頁参照)。 かような青色申告制度の適正な履行を担保するために、法は、青色申告法人に対し、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならないという、適式の帳簿書類の備付け等義務を課すとともに(法法126①)、当該義務に違反するなど一定の場合には、税務署長は青色申告の承認を取り消すことができるとしている(法法127①)。なお、本稿では、法人税法127条2項に規定する連結納税の承認の取消しに伴う青色申告の承認の取消しについては取り扱わない。 青色申告の承認の取消しがあったときは、当該事業年度開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書(納付すべき義務が同日前に成立した法人税に係るものを除く)は、青色申告書以外の申告書とみなされる。この青色申告承認取消処分は、書面により通知しなければならず、かつ、その書面には、その取消しの処分の基因となった事実が、青色申告承認取消事由を定める法人税法127条1項各号のいずれに該当するかを付記しなければならない(法法127④)。 青色申告承認取消処分に係る理由付記については、青色申告書に係る更正の理由付記と同様に、その処分の内容自体に取り消されるべき瑕疵がないとしても、理由付記を欠いていたり、あるいは、理由の記載はあるものの、法が要求する理由付記の記載の程度に照らして十分な内容ではない場合には、処分が取り消される。 しかしながら、青色申告承認取消処分に係る理由付記については、理由付記に当たり、どの程度の記載をすべきであるかの手掛かりとなる条文が存在すること及び少なくとも、条文の文言は「その取消しの処分の基因となった事実」が法人税法127条1項の「いずれに該当するかを付記しなければならない」となっており、処分の「理由」を付記しなければならないとはなっていないことを指摘しておく。 3 青色申告承認の取消事由 (1) 4つの取消事由 青色申告承認の取消事由は以下の4つである(法法126、127①、電子帳簿保存法11③四)。 このうち1号取消事由と3号取消事由について、次の(2)及び(3)で補足をしておく。 (2) 1号取消事由 1号取消事由は、備付帳簿書類の種類、その記載項目、記載方法等の瑕疵など、いわば外観的にその帳簿書類が青色申告の基礎として適応性を欠くことを理由として青色申告承認を取り消す場合である(最高裁昭和42年4月21日第二小法廷判決・訟月13巻8号985頁)。 1号取消事由について、税務調査における帳簿書類の不提示がこれに該当するか否かという点を巡り、積極説に立つ課税庁と消極説に立つ納税者との間で争われてきたが、下級審裁判例はこぞって積極説に立ち、最高裁平成17年3月10日第一小法廷判決(民集59巻2号379頁)は、次のとおり、結論的には積極説を採用しているといえる。 なお、国税庁長官が発遣している平成12年7月3日付「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」(以下「青取事務運営指針」という。)の1(1)においては、「帳簿書類の提示がない場合には、青色申告の承認の取消事由に該当する旨を告げて、帳簿書類を提示して調査に応ずるよう再三再四その説得に努める。」と定められているが、再三再四の説得を行わずに1号取消事由該当を理由に青色申告承認取消処分を行ったからといって、直ちに当該処分が裁量権の濫用に当たるなどとして、違法なものとなるわけではない。 事務運営指針は、事務の在り方に関する内部的な取決めであって、これの不履行が直ちに違法をもたらすものではないと考えられる上、青取事務運営指針1項は、納税者が帳簿書類を保存していないと自ら申し立てているにもかかわらず、あえて再三にわたって提示を求めるなどという無意味な行為を要求する規定の趣旨ではないと解されているからである(名古屋地裁平成16年10月28日判決・判タ1204号224頁)。 (3) 3号取消事由 現行法は、「その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録したこと」と、「その事業年度に係る帳簿書類の記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」とが、それぞれ別個の取消事由となる規定振りとなっており、どちらかに該当すれば取消事由となる。前者は故意や意図が存するケースを想定しているが、後者はそのようなケースに止まらない。 なお、次の4で述べるとおり、法人税法127条1項の規定からすると、3号取消事由に該当する事実が認められた場合、所轄税務署長には、青色申告承認を取り消すか否かに関して裁量権があることは明らかであるところ、当該裁量権の行使については、特段の規定は置かれておらず、当該税務署長は、当該取消事由に隠蔽ないし仮装等の内容及び程度、その態様、これらに至る経緯、改善の可能性等諸般の事情を総合的に判断して取消しの有無を判断すべきものと解されている(東京地裁平成16年10月15日判決・税資254号順号9780)。 4 青色申告承認取消処分の裁量処分性 青色申告承認取消処分は、税務署長の裁量処分であると解されている。すなわち、税務署長は、取消事由に該当する事実があれば必ず青色申告の承認を取り消さなければならないというものではなく、現実に取り消すかどうかは、個々の場合に応じ、税務署長がその合理的裁量によって決すべきものであると解されている(大阪高裁昭和38年12月26日・行集14巻12号2174頁、最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決・民集28巻3号405頁、最高裁昭和49年6月11日第二小法廷判決・集民112号101頁等参照)。 実際、青取事務運営指針においても、3号取消事由について不正所得500万円以上などの金額基準を設定したり、4号取消事由について2事業年度連続して期限内に申告書の提出がない場合に取消処分を行うものとするなどの裁量基準が定められている。事務運営指針は法が定める青色申告承認取消要件を満たしている場合に、所轄税務署長が青色申告承認を取り消すか否かについての裁量権を付与されていることを前提に、当該裁量権行使の内部基準を定めたものであるといえよう(大阪地裁平成17年6月17日判決・税資255号順号10058及びその控訴審である大阪高裁平成17年11月10日判決・税資255号順号10198)。 5 青色申告承認取消処分に係る理由付記の程度 青色申告承認取消処分に係る理由付記の程度については、課税庁が支持する条項説(取消事由の該当号数のみを記載すれば足りるとするもの)と、納税者が支持する事実説(取消しの基因となった具体的事実をも記載しなければならないとするもの)との間で対立があったが、最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決(民集28巻3号405頁)は事実説を採用することで、上記対立に決着を付けた(最高裁昭和49年6月11日第三小法廷判決・集民112号101頁も同判決を踏襲)。 この最高裁昭和49年4月25日判決は、青色申告承認取消事由を定めた旧法人税法25条5項及びその取消通知書への理由の付記を定めた同条9項に関するものであるが、同判決の判示内容を現行法人税法127条に即して要約してみると、おおむね次のとおりとなる。 (1) 理由付記の趣旨目的と記載の程度 法人税法が青色申告承認取消しの通知書に理由付記を命じたのは、青色申告承認の取消しがその承認を得た法人に認められる納税上の種々の特典を剥奪する不利益処分であることにかんがみ、取消事由の有無についての処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、取消しの理由を処分の相手方に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えるためであり、この点において、青色申告の更正における理由付記の規定その他一般に法が行政処分につき理由の付記を要求している場合の多くとその趣旨、目的を同じくするものであると解されている。 このことから、そこにおいて要求される付記の内容及び程度は、特段の理由のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならず、単に抽象的に処分の根拠規定を示すだけでは、それによって当該規定の適用の原因となった具体的事実関係をも当然に知り得るような例外の場合を除いては、法の要求する付記として十分でないといわなければならない。 (2) 3号取消事由における記載の程度 青色申告承認取消事由は、青色申告制度の基盤をなす納税者の誠実性ないしその帳簿書類の信頼性が欠けると認められる場合を類型化したものであるが、具体的事案においていかなる事実がこれに該当するとされるのかは必ずしも明らかでなく、特に3号取消事由は極めて概括的で具体性に乏しいため、取消通知書に同号に該当する旨付記されただけでは、処分の相手方は、帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性が疑わしいとされた理由が、取引の全部又は一部を隠蔽し若しくは仮装したことによるのか、それともそれ以外の理由によるのか、また、右の隠蔽又は仮装が帳簿書類のどの部分におけるいかなる取引に関するのか等を、その通知書によって具体的に知ることはほとんど不可能である。 (3) 裁量権行使の適否を争う的確な手がかり のみならず、承認の取消しは、形式上同項各号に該当する事実があれば必ず行われるものではなく、現実に取り消すかどうかは、個々の場合の事情に応じ、処分庁が合理的裁量によって決すべきものとされているのであるから、処分の相手方としては、その通知書の記載からいかなる態様、程度の事実によって当該取消しがされたのかを知ることができるのでなければ、その処分につき裁量権行使の適否を争う的確な手がかりが得られないこととなるのである。 (4) 事実説の採用 以上の点から考えると、法人税法127条1項各号の該当号数を示しただけでは取消しの基因となった具体的事実を知ることができない場合には、通知書に当該号数を付記するのみでは足りず、取消しの基因となった具体的事実自体についても処分の相手方が具体的に知り得る程度に特定して摘示しなければならないものと解するのが相当である。 (5) その他 理由付記を命じた規定の趣旨が、処分の相手方の不服申立てに便宜を与えることだけでなく、処分自体の慎重と公正妥当を担保することにもあることからすれば、取消しの基因たる事実は通知書の記載自体において明らかにされていることを要し、相手方の知、不知には関わりがないものというべきである。 なお、理由付記不備の瑕疵は、後日、異議決定(再調査決定)又は裁決において処分の具体的根拠が示されたとしても、それにより治癒されるものではない。 6 参考裁判例の要旨 (1) 1号取消事由 法人税法は、その取消しの処分の基因となった事実が法人税法127条1項各号のいずれに該当するかを記載すべき旨定めるに止まり、1号取消事由に該当する場合に、備付け、記録又は保存のいずれの義務違反があるかまで記載すべきものとはしていないから、この点の不記載をとらえて本件処分の通知書の記載が不十分であるとすることはできない。 所得税法150条2項〔法人税法127条4項に対応する規定〕の趣旨・目的に照らせば、青色申告取消処分通知書に付記すべき事項としては、取消しの処分の基因となった事実及び当該事実が所得税法150条1項各号〔法人税法127条1項に対応する規定〕のいずれに該当するかを明示すれば足り、それ以上に当該事実が財務省令の定めるどの義務のどの条項に違反するかまでを記載することは要求されていないと解すべきである。 (2) 4号取消事由 付記の内容として法人税法127条1項各号を掲げるほかに、若干の文言が記載されていたとしても、それが抽象的なものであって単に号数を掲げたのと異ならないとみられる場合にも、付記の内容が不十分であるといわねばならないことはいうまでもない(もっとも、同条1項のうち4号については、単に条項号数を記載することをもって、付記理由として十分であると見得るであろう)。 本件青色申告承認取消処分は、法人税法127条1項4号の確定申告書をその提出期限までに提出しなかったことをその理由とするものである。そうすると、本件処分の通知書が、本件取消処分の基因となった事実として、〇〇年度の法人税確定申告書がその提出期限までに提出されていないことを明示したうえで、当該事実が法人税法127条1項4号に該当する旨を記載していることは明らかであるから、この記載は、本件青色申告承認取消処分の基因となった事実を原告が知り得る程度に具体的に特定して摘示するという点で、欠けるところはない。 法人税法127条4項が理由付記を要求するのは、処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、取消理由を相手方に知らせることにより不服申立てに便宜を与えることを目的とするものであるところ、一般に、通達は、上級行政庁の下級行政庁に対する命令又は示達であって(国家行政組織法14条2項)、法規範としての性質を有するものではないから、その違反に対しては、行政機関内部において是正されるのは格別、処分の相手方において不服申立てができるものではなく(最高裁昭和33年7月29日第三小法廷判決・税資26号759頁参照)、このことは、青取事務運営指針についても妥当すると解されるから、青取事務運営指針の遵守の事実まで青色承認取消通知書に付記すべきであるとは解されない。 (3) 青色申告書に係る更正の理由付記との関係 青色申告承認取消処分は、青色申告制度の基盤をなす納税者の誠実性ないしその帳簿書類の信頼性が欠けると認められる類型的場合(法人税法127条1項各号)に当たるとしてなされる処分であり、青色申告書の更正処分とは前提とするところが相違するから、理由付記の程度について両者を同列に論じるべきであるとはいい難い。 (4) その他 青色申告承認取消処分の理由として同条項各号のうち2つ以上の号数が掲げられている場合において、その1つでも理由付記として十分であると認められるときは、他の理由が付記として不十分であっても、結局当該取消処分は―裁量権の濫用にあたる場合は格別―適法であるといわねばならない。 その帳簿書類によっては正確な所得算出が不可能であるため、青色申告書提出の承認が取り消されることは両者同様であるとしても、法人税法127条1項1号と3号とでは、処分庁においてその承認取消を相当とするかどうかを認定判断すべき事項を異にすることが明らかであるから、両者それぞれ別個の取消処分を構成するものと解すべきであって、このことは、同条4項が、承認取消を通知するに当たって、その取消の基因となった事実が1項各号のいずれに該当するものであるかを付記すべきことを特に定めていることからも窺うことができる。 青色申告承認取消通知書に理由付記の不備があるとしても、当該取消処分は当然無効ではなく、取消しの原因となるにすぎない。 青色申告承認取消通知書の記載内容に、交付を受けた納税者にとって極めて容易に了知できるような誤記があった場合に、このような極めて明白な誤記をもって、理由付記に不備があるということはできない。 * * * 次回は、上記の内容を踏まえ、1号取消事由及び3号取消事由の双方に該当することなどを理由に行われた青色申告承認取消処分に係る理由付記の事例を取り上げる。 (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第13回】 「譲渡制限株式の譲渡③」 公認会計士 佐藤 信祐 前回及び前々回は、譲渡制限株式の譲渡が経営権の移動に準じて取り扱うことができる場合として、東京高裁平成20年4月4日決定、福岡高裁平成21年5月15日決定について解説を行った。 本稿では、大阪高裁平成元年3月28日決定、広島地裁平成21年4月22日決定について解説を行う。 3 大阪高裁平成元年3月28日決定・判時1324号140頁 (1) 事実の概要 本事件の原審である昭和61年9月3日決定が公刊物未登載であるため、事実関係や当事者の主張は不明であるが、抗告審で述べられている裁判所の判断は実務においても重要であるため、その部分についてのみ解説を行う。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 本事件では、譲渡人も譲受人もいずれも少数株主であるという点により、ゴードン・モデル方式による配当還元法が望ましいと判断された。 さらに、清算価値に基づく時価純資産価額が売買価格の最低限を画するという点が示されたということも大きい点であろう。 実際の株価算定における基礎数値については、いろいろと疑念もあるが、株価評価の手法が確立されていない時代のものであるため、ここでは、清算価値に基づく時価純資産価額を上回っている限り、ゴードン・モデル方式による配当還元法が少数株主にとっての株式価値であるという裁判所の傾向のみを理解しておけば足りるであろう。 4 広島地裁平成21年4月22日決定・金判1320号49頁 (1) 事実の概要 本事件は、ミカサの発行済株式総数のうち15.88%、議決権ベースでは26.17%を保有するミカサ・ホールディングスが乙野の代表取締役の解任に伴い、支配株主である乙野からミカサ株式を譲り受けた上で、ミカサに対し、譲渡承認請求通知を送付したものの、当該譲渡を承認しない旨の通知を受けたため、売買価格に対して争われた事件である。 (2) ミカサ・ホールディングスらの主張 (3) ミカサらの主張 (4) 裁判所の判断 (5) 評釈 このように、裁判所は、支配株主にとっての株式価値をDCF法により評価し、少数株主にとっての株式価値をゴードン・モデル方式による配当還元法により評価し、これらを1:1で折衷することにより売買価格を決定している。 このような1:1で折衷するというやり方は、裁判所も述べているように、両者の交渉力が対等であると仮定した場合のやり方であり、他の裁判例でも見受けられるものである。 細かなところを見れば、DCF法による永久成長率が0%であるとしながらも、配当が成長すると仮定したゴードン・モデル方式を採用したり、支配株主にとっての株式価値としてDCF法を採用していながら非流動性ディスカウントを用いていたりするなど、いろいろと疑問点も多い。 本連載でこれから紹介する裁判例は、いずれとも支配株主にとっての株式価値と少数株主にとっての株式価値を折衷方式により算定するものであるが、本事件はその基本ケースであるため、支配株主にとっての株式価値と少数株主にとっての株式価値を1:1で折衷するという考え方については理解しておく必要があろう。 次回では、札幌高裁平成17年4月26日決定について解説を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【88】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その16:「「退職所得」の意義③」(最判昭58.9.9)) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 前回の地裁の判断に引き続き、今回は控訴審(東京高裁昭和53年3月28日)の判断についてみていく。 5 裁判所の判断(控訴審(東京高裁昭和53年3月28日)の判断) これは裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。そこには当事者の主張として付加された点も掲載されており、ここでは割愛するため、ぜひ見てもらいたい。 * * * 次回は、上告審(最高裁昭和58年9月9日)の判断を取り上げた上で、判決の意義について解説を行う。 (続く)
〔経営上の発生事象で考える〕 会計実務のポイント 【第8回】 「訴訟があった場合」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 日本公認会計士協会準会員 素村 康一 1 偶発債務の注記 《解説》 偶発債務とは、債務保証や係争事件に係る賠償義務等、現実に発生していない債務で、将来において事業の負担となる可能性のあるものをいう(財務諸表等規則第58条)。なお、「事業の負担」とは、損失が生じることを意味すると考えられる。 このような偶発債務を有しており、将来、確定債務となったときに財務諸表に与える影響が大きい場合には、財務諸表利用者の理解に資するため、財務諸表に注記する必要がある。 したがって、訴訟が提起された場合、将来において損失が生じる可能性があり、当該損失に対して引当金(後述)を計上していないときには、重要性が乏しい場合を除き、財務諸表に以下について注記する必要がある。 訴訟の概要及び相手方等 金額 【図1】 訴訟が提起された場合 2 訴訟損失引当金の計上 《解説》 日本では、引当金に関する包括的な会計基準は設定されておらず、引当金を計上すべきか否かは、企業会計原則注解18が示す4要件を満たすか否かで判断する。なお、実務を拘束するものではないが、日本公認会計士協会より、会計制度委員会研究資料第3号「我が国の引当金に関する研究資料」が公表されている。そちらも適宜ご参照いただきたい。 企業会計原則注解18が示す4要件は以下のとおりである。これらをすべて満たす場合は引当金を計上しなければならない。 今回のケースでは、和解金の支払は将来の特定の損失であり、また、当期以前の事象(特許の取得)に起因するため、①及び②の要件は満たす。 そして、和解金の支払の確定により、③損失の発生可能性が高まり、かつ、④金額を合理的に見積ることができることから、期末日において引当金を認識することになると考えられる。 このケースでは、監査報告書の提出日までに和解金の支払が確定したため、期末日にさかのぼって引当金を計上することになると考えられる。 なお、監査報告書の提出日までに敗訴又は支払を伴う和解が確定しない場合であっても、裁判のいずれかの段階で敗訴した場合には、一般的には訴訟損失の可能性が高まっており、損失金額の合理的な見積りも可能であると考えられるため、通常、期末日において引当金を認識することになると考えられる。 【図2】 【検討事項のチェックリスト】 ~訴訟があった場合~ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)