貸倒損失における税務上の取扱い 【第52回】 「法人税基本通達9-4-1の具体的内容」 公認会計士 佐藤 信祐 第47回から第51回までは、法人税基本通達9-6-1から9-6-3に規定されている貸倒損失の取扱いについて解説を行った。 本稿では、やや似た規定ではあるが、法人税基本通達9-4-1に規定する子会社整理損失について解説を行う。 7 子会社整理損失 (1) 概要 法人税基本通達9-4-1では、 と規定されている。なお、この場合における子会社等には、「当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる」と規定されている。 このような法人税基本通達9-4-1が設けられた趣旨として、国税庁のHPにおけるタックスアンサーN0.5280「子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等」では、Q2-3において、 としている。 すなわち、法人税基本通達9-4-1の趣旨は、親会社から他の者(一般的には他の債権者)に対して寄附行為があることを前提としながらも、経済合理性がある場合には、寄附金として取り扱わないというものであると考えられる。 (2) 子会社の解散における適用 このように、子会社の解散において法人税基本通達9-4-1を適用することができると考えられるが、実務上は、第48回で解説したように、和解型(対税型)の特別清算を行うことにより、法人税基本通達9-6-1(2)を適用する場面が増えてきている。 それでもなお、子会社の事業をグループ内で継続することが見込まれていない場合には、通常清算により法人税基本通達9-4-1を適用する場面もあり得ると考えられる。 具体的には、債権者平等の原則に反したうえで、親会社が優先的に債権放棄を行う場合が考えられる。そして、連帯保証を行っていなかったとしても、株主平等の原則に反したうえで、親会社が子会社の債務を引き受ける場合が考えられる。さらに、子会社の清算のための事務費用を負担するために、親会社が子会社に対して追加貸付けを行う場合が考えられる。法人税基本通達9-4-1はこのような場面を想定したものであり、多くのケースにおいて適用することが可能であると考えられる。 さらに、グループ法人税制導入前は、親会社が少数株主から子会社株式を買い取る際に、解散直前の時価ではなく、出資した金額で買い取るケースについて、「出資時の経緯からやむを得ないものであると判断される場合には、損金として認められ得ると考えられる。」(※)と解説した。しかしながら、グループ法人税制の導入により、100%子会社が解散し、残余財産が確定したとしても、子会社株式消却損を損金の額に算入することができなくなった(法法61の2⑯)。 (※) 拙稿「赤字子会社の整理に伴う税務Q&A」旬刊経理情報1019号23頁(平成15年) 実務上、このような少数株主からの子会社株式の買取りを行った場合には、買取後に100%子会社になるケースが多いと考えられる。すなわち、少数株主から子会社株式を買い取ったとしても、子会社株式の帳簿価額を引き上げるだけであり、子会社の残余財産の確定時に当該子会社株式の帳簿価額を損金の額に算入することができないため、実務上、このような買取りのために要した費用について、損金の額に算入することができるケースは稀であると考えられる。 (3) 子会社の売却における適用 赤字子会社のM&Aにおいて、買い手側が債務超過の解消を要請するケースは少なくない。さらに、平成10年代におけるM&Aでは、数年間の赤字の見込み額を考慮したいわゆる負ののれんに相当する金額についても、売り手側が負担することを要請してきたケースも存在した。 このような債務超過額や負ののれんに相当する金額の債権放棄については、法人税基本通達9-4-1が想定する「経営権の譲渡」に伴う債権放棄であり、同通達の要件を満たすケースは多いと思われる。 なお、実務上、M&Aの対象となる赤字子会社の繰越欠損金を維持したうえで債権放棄を行ってほしいというニーズが少なくない。このような要請に応えるために、第三者割当増資を行ったうえで、株式譲渡を行うという手法が考えられる。具体的には、以下の仕訳のようになる。 【親会社の仕訳】 ① 増資時 ② 株式譲渡時 【子会社の仕訳】 この手法であれば、赤字子会社の繰越欠損金は維持されるし、親会社において株式譲渡時に認識される株式譲渡損については、法人税基本通達9-4-1により損金の額に算入することが可能になる。 しかしながら、このような増資による債務超過の解消が株式の譲渡段階で損金の額に算入することができるのは「経営権の譲渡」に該当することが前提であり、グループ内で売買する場合には適用されないという点に留意が必要である。 次回では本連載の最終回として、法人税基本通達9-4-2の取扱いについて解説を行う。 (了)
会計上の『重要性』 判断基準を身につける ~目指そう!決算効率化~ 【第12回】 「重要性判断の実践事例③」 ~全面時価評価法とすしネタの時価表示 公認会計士 石王丸 周夫 今回は、連結財務諸表作成時の子会社の資産及び負債の評価における重要性判断を取り上げます。 まず手始めに、連結財務諸表作成手続に関する以下の問題にチャレンジしてみてください(解答は問題のすぐ下にあります)。 いかがでしたか。正解できたでしょうか。 やや細かな論点ですが、こんなところにも重要性判断が顔を出すことを知っておくと、役に立つことがあります。 以下、この解答について触れながら、解説していきます。 《重要性の原則の適用》 連結財務諸表の作成に当たっては、重要性の原則が適用されます。 連結財務諸表における重要性の原則については前回(第11回)でも触れましたが、企業会計基準第22 号「連結財務諸表に関する会計基準」の(注1)のとおりです。企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する利害関係者の判断を誤らせない限り、本来の厳密な会計処理方法に拠らないことができるというものです。 (注1)では、重要性の原則が適用される具体的項目を、例示としていくつか挙げています。 そのうちの1つが、今回取り上げる「子会社の資産及び負債の評価」です。 《評価差額で重要性を判断する》 連結貸借対照表の作成にあたっては、支配獲得日において、子会社の資産及び負債のすべてを支配獲得日の時価により評価する方法(全面時価評価法)により評価します。その評価額と当該資産及び負債の個別貸借対照表上の金額との差額を「評価差額」といい、子会社の資本とします。これが本来の厳密な会計処理です。 これに対して、重要性の原則を適用した場合はどうなるかというと、子会社の個別貸借対照表上の金額をそのまま据え置くことができるのです。これが簡便法です。 そして、この簡便法を適用できるケースはというと、企業会計基準第22 号「連結財務諸表に関する会計基準」第22項のとおり、評価差額に重要性が乏しい子会社の資産及び負債ということです。 ここで注意しておきたいのは、判断基準が評価差額の金額にあるという点です。 資産及び負債自体の金額ではないのです。 資産及び負債の額が少額であっても、評価差額が大きい場合は、重要性が乏しいとはいえないというわけです(⇒したがって、問題12のアの記述は誤りです)。 《評価差額の重要性は項目ごとに判断する》 子会社の資産及び負債の評価に関する重要性の原則の適用については、会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」第13項に、もう一歩踏み込んだ記述があります。 重要性の有無は、個々の貸借対照表項目の時価評価による簿価修正額ごとに判断するというものです(⇒したがって、問題12のイの記述は誤りです)。 なぜこのように判断するのか、その理由も同実務指針に書いてあります。第56項です。 簿価修正額について借方に発生するものと貸方に発生するものとを相殺して純額で判断すると、対象となる資産及び負債の実現時点に差が生じた場合、各実現年度の損益に大きな影響を及ぼすことになるからです(⇒したがって、問題12のウの記述は正しいです)。 では、個々の貸借対照表項目の時価評価による簿価修正額がいくらであれば、重要性が乏しいと判断してよいのでしょうか。 結論から言うと、「明らかに僅少な額」以下であれば、重要性が乏しいと判断してもまず問題にならないと考えられます。 子会社の資産及び負債の評価は、一見、連結貸借対照表の資産及び負債の残高にしか影響しないと思われがちですが、そうではありません。上に述べたとおり損益に影響が及ぶこともあります。したがって、重要性判断に際しては慎重を期す必要があり、明らかに些細なことを示す「明らかに僅少な額」を使用することが適当です。 実務的には、以上を踏まえて、貸借対照表項目のうち土地だけを時価評価するというケースがよく見られます。 寿司屋に例えれば、ネタごとの値段を表示している店で、大トロやアワビのような高級な(重要性の高い)ネタだけは「時価」としているようなものです。 《負ののれんが発生するケースも要注意》 子会社の資産及び負債の評価の省略が損益に影響を及ぼすことは、以下のようなケースからもわかります。 負ののれんが発生する資本連結のケースです。 評価差額を厳密に認識しているケースでは、資本連結の仕訳はこうなります。 親会社の投資勘定と子会社の資本勘定を相殺するに際して、子会社の資産及び負債の評価から発生した評価差額10も消去します。「負ののれん発生益」は貸借差額によって求められ、これは一括して連結損益計算書に利益計上されます。 一方、評価差額に重要性が乏しいと判断して、評価差額を認識しなかったケースでは、同じ資本連結の仕訳はこうなります。 評価差額を認識していないので、投資と資本の消去に際しても評価差額は出てきません。そして、その分だけ「負ののれん発生益」の金額が違ってきています。評価差額を認識するかどうかが、損益にまともに影響してくるのです。 この例から考えても、子会社の資産及び負債の評価を軽く考えてはいけないことがわかります。こうした点に留意して重要性判断を行っていくことが大切です。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第95回】 外貨建取引④ 「外貨建金銭債権債務の決算および決済時の処理」 仰星監査法人 公認会計士 上村 治 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 取引実行時(X1年3月1日) (※1) 1,000ドル×100円/ドル=100,000円 ② 決算日(X1年3月31日) (※2) (108円/ドル-100円/ドル)×1,000ドル=8,000円 ③ 回収時(X1年4月30日) (※3) 1,000ドル×115円/ドル=115,000円 〈会計処理の解説〉 1 外貨建金銭債権債務の意義 外貨建金銭債権債務は、契約上の債権額または債務額が外国通貨で表示されている金銭債権債務をいいます(外貨基準注解4)。これには外貨預金が含まれます(外貨基準一.2.(1)①)。 2 取引実行時の会計処理 取引価格が外国通貨で表示されている物品の売買は外貨建取引です(外貨基準 注1)。そのため、取引発生時の為替レートで会計処理することになります(外貨基準一.1)。 事例では、製品の輸出取引を行っており、売上高・売掛金ともに取引発生時の為替レートである1ドル100円で会計処理されます。 3 決算日の会計処理 外貨建金銭債権債務については、決算時の為替レートにより換算します。また、決算時における換算により生じた換算差額は為替差損益として処理します(外貨基準一.2.(1)②)。 事例では、決算日において、売掛金1,000ドルを決算時の為替レートである1ドル108円で換算替えします。この換算替えにより生じる8,000円は為替差益として処理します。 なお、金銭債権債務ではない場合でも、決算時の為替レートにより換算する項目があります。それは、未収収益及び未払費用です。 未収収益および未払費用は計算期間末日における期日未到来の経過勘定であり、厳密には金銭債権債務ではありません。しかしながら、外貨建未収収益及び未払費用は、期日が到来した時点で外貨建金銭債権債務となり、将来に外貨の授受があることから、為替換算上、外貨建金銭債権債務に準じて処理します (外貨建取引等の会計処理に関する実務指針27、68)。 4 決済時の会計処理 外貨建金銭債権債務の決済に伴って生じた損益は、原則として、当期の為替差損益として処理します(外貨基準一.3)。 事例では、決算時の為替レートが1ドル108円であるのに対して、決済時の為替レートは115円であり、決済差額が7,000円生じるため、為替差益として処理します。 * * * 次回は、外貨建取引に関する会計処理のうち、外貨で授受した前渡金・前受金の会計処理について解説します。 (了)
[平成27年9月30日施行] 改正労働者派遣法のポイント 【第1回】 「労働者派遣法改正の背景」 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 第1回は、改正の内容をみる前に、なぜ今労働者派遣法が改正されたのか、改正の背景や目的について確認する。 1 改正の契機は「附帯決議」 今回の改正は、平成24年の労働者派遣法改正時に「附帯決議」として衆参両議院の厚生労働委員会で示された事項が契機となっている(【資料1】)。 参議院のサイトによると、「附帯決議とは、政府が法律を執行するに当たっての留意事項を示したものですが、実際には条文を修正するには至らなかったものの、これを附帯決議に盛り込むことにより、その後の運用に国会として注文を付けるといった態様のものもみられます」とある。附帯決議は、法的に拘束力を持つものではないが、決議事項についてはその後の取組について国会で確認されることになるため、政治的には拘束力を持つものとされている。 附帯決議をきっかけに検討がなされ、法律として成立することはしばしばみられるが、今回はまさにこの例であり、平成24年改正時に積み残された課題等について検討が行われ改正されるに至った。 【資料1】 2 わかりにくい現行制度 労働者派遣は、職業安定法で禁止されている「労働者供給」(=供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること)の例外として、“臨時的・一時的な労働力の需給調整手段”として“常用代替のおそれが少ないもの”、つまり、正社員の職場を奪わないことを前提に解禁された。このため、派遣可能期間には制限が設けられ(原則1年、上限3年)、3年を超える長期間の派遣は認めない仕組みとなっていた。 しかし、いわゆる「専門26業務」(政令で定めた業務(【資料2】)、平成24年改正により26業務から28業務へ変更)は、専門的な知識や特別の雇用管理が必要なため“常用代替のおそれがない”として、例外的に派遣可能期間に制限を設けず、長期間の労働者派遣が可能となっていた。 【資料2】 政令で定めた業務 「専門26業務」であれば派遣可能期間に制限がなく長期間の労働者派遣が可能なため、その該当性が重要になるのだが、「専門26業務」にあたるか否かについては判断に迷うことも多く、行政と企業で見解が異なる場面もみられた。また、「専門26業務」の周辺業務として、「付随業務」と「付随的な業務」という2つの考え方があり、派遣労働者を「付随業務」に従事させるのはいいが、「付随的な業務」に従事させる場合は業務全体の1割以下でなければならない等、複雑な仕組みとなっていた。 そこで、実務的にも判断に迷うことがないわかりやすい制度へ変更する必要があった。 3 「10.1問題」 法律の成立からわずか19日で、しかも、通常1日施行が多い中で30日施行となった背景には「10.1問題」がある。これは、平成24年改正時に創設された「労働契約申込みみなし制度」が平成27年10月1日から施行されることに伴い、労務トラブルが多発するのではないかと懸念されている問題だ。 ここで、「労働契約申込みみなし制度」について、改めてその概要を確認しておこう。 「労働契約申込みみなし制度」は、派遣先が違法派遣であることを知りながら派遣労働者を受け入れていた場合、違法状態が発生した時点で、その時点における同一の労働条件で派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなす制度だ。 この制度の対象となる違法派遣は4タイプ(【資料3】)。これら4タイプのいずれかに平成27年10月1日以降該当していた場合は、派遣先の意向に関わらず、自動的に派遣先が派遣労働者へ労働契約の申込みをした扱いとなり、派遣労働者が承諾すれば労働契約が成立することになる。 【資料3】 労働契約申込みみなし制度の対象となる違法派遣 先述の「専門26業務」のわかりにくさを解消することは、違法派遣の4タイプのうち「③ 期間制限に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること」と関係する。 例えば、派遣先が「専門26業務」に該当していると考えて3年を超えて労働者派遣を受け入れていたところ、ある日、突然、派遣労働者から『私がやっている業務は「専門26業務」には該当しないのではないですか?既に3年を超えているので「労働契約申込みみなし制度」の対象となり、直接雇ってもらえると聞いたのですが。』と言われたらどうするか。「専門26業務」への該当性を明確に説明できる状況になければ、派遣先は対応に苦慮することになるだろう。 このような状況下で、トラブルを避けるために平成27年9月末までに終了する派遣契約が増えるのではないか、また、平成27年10月以降「労働契約申込みみなし制度」の適用を巡る訴訟が多発するのではないかと考えられていた。そこで、混乱を避けるためにも、期間制限の考え方に関するわかりにくさを10月1日前までに解消しておく必要があった。 4 改正の目的 今回の改正の目的としては、大きく次の3つがあげられる。 まず1つめは、実際に働く派遣労働者や派遣元・派遣先にとってわかりやすい制度にすることである。「専門26業務」にあたるかどうかで派遣可能期間の取扱いが大きく変わる現行制度を見直し、新しい考え方が導入されている。 2つめは、派遣労働者の雇用の安定と処遇改善を推進することである。リーマンショック以降に“派遣切り”が社会問題となり、平成24年改正から「派遣労働者の保護」が法律名にも明記され、派遣労働者を保護する施策が追加されたが、今回の改正でさらに付加されている。 3つめは、派遣事業への規制強化である。労働者派遣は法制定以降、派遣労働が可能となる対象業務を拡大する等の規制緩和を進めてきたが、悪質な派遣業者も少なからずいることから、平成24年改正より緩和から規制へと軸を変えている。今回の改正は派遣事業の許可そのものに関わる内容を含んでいる。 * * * 以上、労働者派遣法が改正された背景や改正の目的について確認したが、労働者派遣を導入して既に30年が経過し、運用上の不具合を是正する時期にきているといえるのではないだろうか。 【第2回】からは、個別の改正点についてみていく。 (了)
経産省研究会による 会社法の「法的論点に関する解釈指針」の ポイントと企業実務への影響 【後編】 西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 柴田 寛子 【前編】に続き、「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」(以下「本研究会」という)が2015年7月24日に公表した「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革」(以下「本報告書」という)の別紙3「法的論点に関する解釈指針」(以下「本指針」という)で示された内容と企業実務への影響について解説していく。 4 役員就任条件(報酬・会社補償・保険料負担・提訴判断) 本指針は、その第3項目として「役員就任条件(報酬・会社補償・保険料負担・提訴判断)」についての解釈指針を示している。 具体的には、①インセンティブを強化した役員報酬の導入、②役員に対する損害賠償請求についての会社補償の許容範囲、③会社役員賠償責任保険(D&O保険)の保険料負担の許容範囲、及び④会社が取締役に対する責任追及訴訟を提訴するか否かの判断プロセスの見直しの各項目について、現行法上の問題点の分析と新たな法解釈を示すものである。 また、これらの各項目の検討に共通して、役員としての責任を適切に限定・軽減することが積極的な職務執行へのインセンティブとして重要である一方で、責任限定・軽減には利益相反を伴うため、手続の適正を確保する必要があるという基本的視点が示されている。 (1) 役員報酬 会社法上、取締役の報酬は、株主総会の決議で定める必要があり(会社法361条1項)、その趣旨は、取締役同士の馴れ合いにより、過剰な報酬を支払うこと、つまり「お手盛り」の防止であると解されている(最判昭和60年3月26日)。 実務においては、株主総会における枠取り決議を行った後、個別の報酬は取締役会又は(取締役会により委任を受けた)代表取締役が決定している場合が多く、かかる報酬決定のプロセスも、上記趣旨に照らし適法であると解されている。 本指針は、報酬にインセンティブの機能を強化するべきとの基本方針を示すが、具体的な報酬内容の決定は、会社の経営戦略と密接に関連するものであるから、株主総会においてその内容を決定することが適切であるとは言い難いとする。したがって、現在の実務以上に、株主総会が報酬決定に関与することを求めるものではない。株主との関係については、むしろ、インセンティブ機能を分かりやすく開示する取組みが重要であるとされている。 報酬制度の決定プロセスに関して、本指針は、社外取締役の関与を求めている。現在の実務における報酬決定手続においては、株主と取締役との間の利益相反は、株主総会における枠取り決議により解消されているが、報酬枠の範囲内で取締役会に委任された具体的な報酬の配分の決定に際して、個々の取締役の配分決定における利益相反は完全には解消されていない。 このような取締役間の利益相反の解消の観点から、社外取締役を構成員とする委員会や社外取締役の同意や意見を得るとの決定プロセスを確保することが望ましいとされている。 (2) 会社補償の許容範囲 会社補償とは、役員がその職務に関して第三者から損害賠償責任を追及された場合に(会社法429条)、会社が当該損害賠償責任額や争訟費用を補償することをいう。 本指針は、役員の職務執行について、故意又は重過失による任務懈怠がない場合には、その職務執行に関し損害賠償を請求されることは、職務執行から生じる不可避的なリスクであり、会社にとっては費用と位置づけられるとの考え方に基づき、〈表3〉の要件を満たす場合には、現行法のもとでも、適法に会社補償を行うことができるとする。 〈表3〉 会社補償の要件 本指針において、補償契約の締結及びこれに基づく補償の実施について、株主総会の決議は不要との考え方が示されたことで(職務執行に伴う相当の費用であり、報酬には該当しないこと、また、利益相反については取締役会決議により解消されることの解釈に基づく)、実務における利用可能性は高まったと考えられる。 もっとも、取締役との利益相反的取引として、補償契約の内容については、事業報告や有価証券報告書での開示が必要となる可能性が高く、株主や投資家の監視には服すると解される。 また、上記の対象としているのは、取締役の第三者に対する責任であり、会社に対する責任は、会社法上の責任減免規定に基づくべきものであり(会社法424条から427条)、上記の対象外とされている点は念のため注意する必要がある。 (3) D&O保険料負担の許容範囲 現在の実務においては、D&O保険の保険料のうち、株主代表訴訟担保特約(代表訴訟に敗訴した場合における損害賠償金と争訟費用を担保する特約)部分の保険料(以下、「本保険料」という)は、役員個人が負担している。この実務は、一般的に、本保険料を会社が負担することは、利益相反・忠実義務違反の懸念があると考えられていることに基づく。 本指針は、役員の会社に対する損害賠償責任の有する意義を2つの観点から検討し、〈表4〉の整理を行うことにより、会社が本保険料を負担することに会社法上の問題点はなく、また、職務執行に伴う不可避的なリスクを緩和する適切なインセンティブと位置づけられるから、上記の利益相反・忠実義務違反の問題は生じないとする。 〈表4〉 会社による本保険料負担がもたらす影響の分析 もっとも、本指針も、会社による本保険料の負担には利益相反の要素があることは否定しておらず、これを解消する手続として、上記(2)の補償契約の締結についての手続要件(〈表3〉のイ)と同じ手続をとるべきことを提案している。 なお、本項目に関しては、現在の税実務では、会社が本保険料を負担した場合、役員に経済的利益の供与があったとして給与課税の対象となるとされている点に留意する必要がある(平成6年1月20日付け個別通達(課法8-2・課所4-2))。 本指針により、本保険料の会社負担について会社法上の問題点が解消された場合でも、負担額が給与所得の対象となるとの税実務に変更がない場合には、(現在も本保険料相当額を報酬に上乗せして支払われていることが多いため)役員にとって実質的なメリットは乏しく、インセンティブ付与との効果を発揮できない可能性がある。 (4) 責任追及訴訟の提訴判断 会社法上、会社が取締役に対して訴えを提起する場合、監査役が会社を代表し(会社法386条1項)、また、監査役が提訴の判断をすると解されている。加えて、株主代表訴訟において、株主が提訴請求すべき相手方は、監査役とされている(同条2項1号)。 これらの規律の趣旨は、取締役間の仲間意識により適切に提訴の判断がされない可能性を考慮して、取締役とは独立した立場にある監査役にその判断をさせるとの点にあり、決定手続の構造的な利益相反性に着目した手続規制である。 本指針は、上記の趣旨に鑑み、提訴判断は、社外取締役の監督機能を発揮すべき場面であり、監査役のみならず、社外取締役を積極的に関与させることが「実務上望ましい」とする。 また、本指針で直接には言及されていないが、将来的な検討課題として、社外取締役の監督機能を適切に活用した上で、監査役が合理的な不提訴の判断を行ったにもかかわらず、株主が代表訴訟を提訴した場合、裁判所が当該訴訟を却下できる仕組みの提案がなされている(経済産業省経済産業政策局産業組織課長・中原裕彦他「コーポレート・ガバナンスの実践〔下〕」商事法務2078号(2015年9月15日)29頁)。 5 新しい株式報酬の導入 本指針の最終項目は、新しい株式報酬の導入に関する解釈指針である。これは、海外において普及している、役員報酬として株式を直接に付与する制度が、日本では実施しにくいとの指摘を受けて、現行法制度のもとでも、それを実現するための解釈を示すものである。 具体的には、本指針は、報酬債権を現物出資することで、役員に対して株式を直接割り当てることが可能との解釈を示している。実務においては、このような割当方法については、仮装払込(会社法209条2項、213条の2、213条の3等)に該当するのではないかとの懸念があったが、報酬債権は株主総会の報酬決議を得ている(上記4(1)参照)ことを根拠に、上記懸念は当たらないとの解釈が示された。 もっとも、株式を直接に割り当てる制度の普及のためには、役職員向けのストック・オプションについての有価証券届出書の提出義務の免除(金融商品取引法4条1項1号、同施行令2条の12、開示府令2条1項・2項)と同様の特例の導入等、金融商品取引法の整備も必要であると考えられる。 さらに、実務では、株式報酬を含むインセンティブ報酬については、法人税法上、損金算入の認められる業績連動報酬の要件(法人税法34条1項各号)が極めて限定されているとの点が、その導入を妨げる一要因となっている。 この点については、本年8月25日に経済産業省が公表した「平成28年度税制改正に関する経済産業省要望」において、複数事業年度の経営指標を用いた業績連動報酬や株式報酬についても、損金算入を可能とする法改正が提案されている。 6 おわりに 以上の通り、本指針は、攻めの経営を可能とするためのインセンティブ強化(職務執行に伴う責任範囲の限定を含む)及び監督機能の確保という観点から、上記4つの項目について、その提言を実現するための法解釈を示すものである。 本指針の策定には、法務省民事局参事官室も参画していることから、従来、解釈上問題があると考えられてきた点についても、立法上の課題と明示されているものを除き、現時点においても、本指針示されている法解釈に依拠することは可能であると考えられる。 その意味で本指針は実務上非常に有用であるが、新制度の実現・普及には、本稿で検討した通り、税務及び金融商品取引法等の関連法制の見直しも併せて必要であり、今後の議論に引き続き注目する必要がある。 (連載了)
社外取締役の教科書 【第8回】 「社外の知見・ノウハウの取り入れ(その2)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 1 「プラクティス集」からの事例紹介 【第5回】、【第6回】で紹介した「コーポレート・ガバナンスの実践」の研究会報告では、「社外の知見・ノウハウの取入れ」に関連した企業の取り組み例も取り上げられている。 この点に関する具体的なイメージを持っていただくために、今回は、「我が国企業のプラクティス集」に掲載されている事例につき紹介したい。 2 社外の事業経験の取入れの具体例 新卒で入社し、そのまま社内またはグループ会社での勤務一筋で取締役へと上り詰めた場合、入社以来一貫して取り組んできた分野・経験については蓄積が著しいが、その半面「視野が狭い」、「頭がカタい」ということも避けられない傾向である。 その中で、社外から、自社の経営陣とは全く異なる経験を積んできた人材を招くことは、非常に有用なことである。その一端を示す実例が、上記である。 また、社外取締役による助言・提案が効果的に働いた事例として、以下もある。 【「あの提案だけで60億円分の価値があった」-「無印良品」における実例】 (平成27年2月8日付け日本経済新聞より) 藤原氏は、衣料品店の全国チェーンを展開してきた中での物流戦略の経験上から、また酒巻氏は『キャノンの仕事術』、『会社のアカスリで利益10倍!』等の著者として“経営のムダとり”の専門家としての見地から、社外からのアドバイスが非常に大きな利益をもたらした好例といえよう。 3 専門知識の取入れの具体例 弁護士や税理士といった士業が社外取締役に就任する場合、前回にも触れたように、経営戦略そのものに対する助言よりも、その専門分野からのコンプライアンス上の助言を期待されるケースが多いであろう。 たとえば、一般消費者向けの食品を製造販売する企業を例に取ってみよう。 弁護士が社外取締役に就任している場合、当然に、同業種におけるコンプライアンス上の取り組み例や、過去における他社の著名な不祥事につき知識と経験を有し、これらに関して自社の取り組みを強化すべく適切な助言をなす役割を期待されるであろう。いわゆる「不祥事対応」「危機管理対策」と呼ばれる分野である。 この場合は、社外取締役として、どのような助言が可能か。 【「危機管理対策の専門家」が社外取締役に就任したら? -期待される役割】 近年に発生した大々的な“不祥事”に対する対応を見てみると、企業側の場当たり的な対応が余計に「火に油を注ぐ」結果となり、世間の評判を著しく落とすという場合が少なくない。 特にマスコミ対応は、極めて慎重かつ大局的な見地からの取り組みが要求される。ここで対応を誤れば、マスコミ発表の一部だけを切り取られて面白おかしく報道され、ネット上でも話題となり、いわゆる“炎上”状態に陥るからである。 企業としても、消費者との接点が多い業態、たとえばB to Cの製造・販売業や飲食業等においては特に意識すべきであろう。 4 今後の動向 国内外での経営競争は激しくなるばかりであり、企業の生き残りと発展とを賭けて、社外の知見・ノウハウを取り入れていく必要は増すばかりであろう。 その中でも、特に社外取締役に女性と外国人を迎える傾向は、今後より一層増加するものと考えられる。取締役会に多様性(ダイバーシティ)を求める動きである。 ある女性経営者は、「女性を主な顧客として企業であるにもかかわらず、女性取締役が1人もいない会社が多いことは驚くべきである」とのコメントを過去に出していた。 この点、平成27年7月時点で、東証一部上場企業約1,900社のうちで女性の社外取締役は343人であり、前年度と比較して2.2倍に増加している。全社外取締役3,584人に占める割合は9.6%とのことである(平成27年9月9日付け日本経済新聞より)。 企業経営への女性参画は、数字の上でも顕著な伸びを示している。 (了)
税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第4回】 「具体的な資金調達支援の流れ(その1)」 ~資金調達の相談を受けた時にまずどうするか~ 公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆 1 会社が融資を受けるまで 会社が融資を得るまでの段階、順序は次の通りである。 今回から、各段階の順に支援内容を説明していく。まず最初は、社長から資金調達の相談を受けた場合の対応について解説を行う。 2 資金調達支援の第一歩は、まず会話と質問から 顧問税理士として社長と会話する中で、「資金が必要」「資金を調達したい」という相談を受けた場合に、最初にするべきことは資金調達の目的や希望金額などを社長に質問することである。 最初に会話・口頭レベルで相談を受けた段階では、社長の中での資金調達の必要性や使用目的、金額などが具体的になっておらず、「資金調達を行いたい」という気持ちも固まっていないことが多い。 そこで、税理士からの質問に答えることによって、資金調達の必要性を再認識するとともに、調達に向けての意志を固めてもらう。調達に向けての第一歩である。会話や質問をすることも、税理士にとって重要な支援の1つなのである。 3 融資制度の判断についてはプロに任せる 調達に向けての意思が固まると、次に社長の関心は「どの金融機関から、どれくらい融資を得られるのか」「金利はいくらか」という点に移る。 税理士としては、日頃から融資に関する情報を集め、こういった社長の疑問に即答できるのが理想ではあるが、現実的には不可能である。 というのも、融資制度は非常に複雑だからである。融資判断は銀行や信用金庫、支店によって異なるのはもちろん、担当者レベルでも異なる。さらに各金融機関には、新事業開拓用、海外展開用、設備投資用等、様々な融資制度が用意されており、それぞれ融資上限や返済期限、金利水準も異なる。 融資のプロではない税理士にとって、どの金融機関のどの融資制度が一番有利なのか判断するのは難しい。 よって、どの融資制度が良いかは、その融資のプロである金融機関に相談した方が確実である。社長にはまず金融機関に相談に行くようにすすめる。その方が、結果的に会社の状況や資金使途に合わせて、最も有利な融資制度を紹介してもらえることに繋がる。 金融機関出身の税理士であれば、自身で適切な融資制度を紹介できるかもしれない。しかし、そうではないほとんどの税理士は「この融資制度が使える、使えない」と安易に言うべきではない。 一例ではあるが、筆者が以前、神奈川県の中古車販売業の会社から融資相談を受けたときのことである。 相談を受けた段階で、それまでの筆者の経験から「あまり大きな融資は得られないだろう」と予想していた。しかし実際に社長が金融機関に相談に行ったところ、特別な融資制度があることを紹介され、その結果、筆者の予想を大きく上回る額の融資を受けることができた。 融資についての正確な判断は、融資のプロにしかできないのである。 しかし、「とりあえず相談に行って下さい」と伝えても、社長からさらに詳しい情報を、と求められることもあるだろう。その場合は、融資制度の一覧を社長に見せるのが良い。 中小企業の場合、日本政策金融公庫から融資を受けるか、信用保証協会の保証を受けた上で、金融機関から融資を受けるというケースがほとんどである(詳細は【第5回】で解説する)。 日本政策金融公庫や信用保証協会のホームページには融資制度の一覧が公表されているので、情報を求められた際には「一覧の中のどれかが利用できるかもしれません」というように、それらを参考情報として提示すればよいだろう。 4 融資全体の流れを説明 初めて融資を検討する社長には、申し込みの手続の流れや、事業計画書、資金繰り表などが必要になること、申し込みから口座入金まで2~3週間程度かかることなどを説明する。 その際、税理士は仲介者として財務資料の作成支援をすること、金融機関等から財務の質問があった場合には対応することを伝える。そうすれば社長に心強く感じてもらえるだろう。 また、金融機関に訪問する際の細かい留意点として、以下のような内容も社長に伝えておくとよい。 * * * 以上、税務顧問先の社長から融資相談を受けた場合の対応について解説を行った。融資制度に詳しくないのであれば、下手なことは言わず、社長には金融機関に相談に行くようすすめた方が会社にとって有益かつ効率的である。 次回は、では社長に相談に行ってもらうとして、一体どの金融機関に向かえば良いのか、という点について説明する。 (了)
〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第1話】 「書面添付(その1)」 ~意見聴取後の修正申告~ 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「おい、谷垣君!」 田中統括官が谷垣調査官を呼んだ。 昨年7月の人事異動で、谷垣調査官は、河内税務署資産課税第三部門に配属された。 谷垣調査官は、国専(国税専門官採用)40期生である。 「法人課税部門からこんな資料をもらったんだけど。」 田中統括官はそう言いながら、資料を谷垣調査官に見せた。 「何ですか?」 谷垣調査官は、資料を見ながら尋ねた。 「見れば分かるだろう。」 田中統括官は、少し怒ったように言った。 「法人課税部門の調査結果だよ。」 谷垣調査官は、資料をもう一度見直した。 「確かに『棚卸資産の漏れ1億円』とか『売上除外6,000万円』とか、書かれていますね。」 谷垣調査官はうなずきながらつぶやいた。田中統括官が確認する。 「そこの会社の名前・・・『株式会社兼田建設』となっているだろう。」 「兼田建設・・・どこかで聞いた名前ですね。」 谷垣調査官は頸をかしげた。 「半年前に相続税の申告があった兼田悦三の会社だよ。」 田中統括官は少し声を高くした。 「兼田悦三?・・・そうそう、相続税の申告が出てましたね。」 谷垣調査官は大きくうなずく。兼田悦三は、兼田建設の会長である。10年前に社長の地位を長男の周平へバトンタッチしている。 「確か、総遺産価額が5億円を超えていましたね。ですから、兼田という、その名前を覚えていたのでしょう。」 谷垣調査官は田中統括官の顔を見た。 「ところで、この資料を私に見せたと言うことは、相続税の申告に関係があるということですか?」 田中統括官はニヤリと笑って言った。 「そうだ。兼田悦三は兼田建設の株式を50%所有していたから、法人税の税務調査によってその株価の評価額が変われば、相続財産も当然増える・・・」 谷垣調査官は、田中統括官が資料を手渡した意味をようやく理解した。 「この法人税の税務調査によると、株価もかなり高くなりそうですね。」 谷垣調査官は、じっと資料に書かれている数字を見ている。 「さっそくその資料に基づいて、兼田建設の株価を再計算してくれ。」 田中統括官は谷垣調査官に株式の評価額の算定を指示した。 「はい。それで、相続税の税務調査に行けばよいのですか?」 谷垣調査官の声は弾んでいる。 「大きな増差額が期待できそうですね。」 谷垣調査官はうれしそうに資料を見る。ただ、田中統括官は浮かない顔をしている。 「しかし、この相続税の申告書には、書面添付がなされている・・・」 「書面添付?」 谷垣調査官は、目をパチパチさせた。 「おいおい、税理士法33条の2に規定している計算事項等を記載した書面だよ。」 田中統括官は困った表情を浮かべた。 「書面添付ですか? どこかで聞いたことがあるような・・・」 谷垣調査官はまだ頸をかしげて言った。 「税理士法35条1項を読みなさい!」 田中統括官は、強い口調で言った。谷垣調査官は、机上にある税務六法を手に取り、ページをめくった。 谷垣調査官は条文を読み上げたあと、田中統括官に尋ねた。 「・・・ということは、兼田悦三の相続税の税務調査をする前に、意見聴取をしなければならないということですか?」 「そうだ。」 田中統括官が答えた。 「とすると、意見聴取の段階で納税者から相続税の修正申告書が提出されたら、どうなるんですか?」 「どうなるって・・・修正申告に対して加算税を課すことができるか、という意味を聞いているのか?」 田中統括官の問いに、谷垣調査官は大きくうなずいた。 「意見聴取は、調査を行うかどうかを判断する前に行うものだから、意見聴取の質疑応答に基因して修正申告書が提出されても、その申告書は、更正があるべきことを予知してされたものに当たらないとされている・・・」 田中統括官は、引き出しから事務運営指針(平成24年12月19日)を取り出して、谷垣調査官に見せた。 谷垣調査官の表情が険しくなる。 「ということは、重加算税はとれない、ということですね・・・意見聴取であれば・・・」 田中統括官は、苦笑いしながらうなずいた。 (つづく)
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《速報解説》 金融庁、会計監査の信頼性確保に向けた取組みを含む 「平成27事務年度 金融行政方針」を公表 ~会計不正事案など受け「会計監査の在り方に関する懇談会」の設置も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年9月18日、金融庁は「会計監査の在り方に関する懇談会」の設置を含む「平成27事務年度 金融行政方針」を公表した。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計監査の在り方に関する懇談会の設置 金融庁は「会計監査の在り方に関する懇談会」を設置することを公表した。 この背景には、近年のIPO(株式新規公開)を巡る会計上の問題や会計不正事案などを契機として、改めて会計監査の信頼性が問われている状況にあるとの認識がある。 なお、「会議の構成員は、経済界、学者、会計士、アナリストなど、関係各界の会計監査に関する有識者とする」とのことである。 Ⅲ 平成27事務年度 金融行政方針 平成27年9月18日に公表された「平成27事務年度 金融行政方針」は、金融行政が何を目指すかを明確にするとともに、その実現に向けて述べている。 会計監査の在り方や開示及び会計基準の質の向上について、以下のように述べられている(7~10ページ)。 1 会計監査の質の向上 2 開示及び会計基準の質の向上 以下の事項のほか、証券取引等監視委員会による勧告・告発等の厳正な対応、虚偽記載等の原因となった内部管理上の問題の指摘・改善、適正な開示のための取締役、監査役(委員)等に対する働きかけの強化についても述べている。 (了)