経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第96回】 外貨建取引⑤ 「外貨で授受した前渡金・前受金の会計処理」 仰星監査法人 公認会計士 上村 治 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 手付金支払時(X1年3月1日) (※1) 200ドル×100円/ドル=20,000円 ② 決算日(X1年3月31日) ③ 取引実行時(X1年3月1日) (※2) (1,000ドル-200ドル)×115円/ドル=92,000円 〈会計処理の解説〉 1 手付金支払時 外貨による前渡金の支払は、外貨建取引であるため(外貨建取引等会計基準(以下、外貨基準)注解1)、取引発生時である前渡金の支払時の為替レートをもって会計処理することになります(外貨基準一、1)。 事例では、輸入取引に先立ち200ドルを手付金として支払っており、前渡金は支払時の為替レート1ドル100円で処理します。 2 決算日の会計処理 前渡金は将来、財またはサービスの提供を受ける費用性資産です。そのため、将来入金のある金銭債権ではないため(実務指針25)、決算日に期末時レートによる換算を行う必要はありません。 事例では、決算日の為替レートは1ドル100円から108円に変動していますが、前渡金を換算替えする必要はなく、手付金支払時の為替レート1ドル100円で換算した20,000円のまま貸借対照表に計上されます。 3 取引実行時 外貨建取引高のうち、前渡金が充当される部分については、前渡金の支払時の為替レートによる円換算額を付し、残りの部分については、取引発生時の為替レートにより換算します。 事例では、手付金として支払われた前渡金200ドルについては手付金支払時の為替レート1ドル100円で処理され、残りの800ドルについては取引発生時の為替レート1ドル115円で換算します。 事例では、輸入取引の際に前渡金を支払った場合を解説しましたが、輸出取引を行う際に前受金を受け取った場合でも同様に処理します。 すなわち、①前受金の受取時には受取時点の為替レートで換算し、②決算日では期末時レートでの換算を行う必要はなく、③取引実行時には前受金が充当される部分については、前受金の受取時の為替レートによる円換算額を付し、残りの部分は取引発生時の為替レートにより換算します。 4 重要性が低い場合の例外処理 営業利益及び経常利益に重要な影響を及ぼさないと認められるときは、当該取引高の全額を取引発生時の為替相場により換算し、この金額を取引高に計上することができます。この場合、前渡金又は前受金の金銭の受け渡しの時の為替レートと取引発生時の為替レートとの相違から換算差額が生じますが、これは為替差損益として処理します(実務指針26 ただし書き)。 * * * 次回は、外貨建取引に関する会計処理のうち、在外支店の換算について解説します。 (了)
[平成27年9月30日施行] 改正労働者派遣法のポイント 【第2回】 「新しい期間制限の考え方」 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 第2回は、改正項目の中でも最も注目されている「新しい期間制限の考え方」についてみていく。 1 「業務」単位から「事業所」「個人」単位へ 改正前は、派遣可能期間は、派遣労働者が従事する「業務」単位で決められていた(【資料1】)。 例えば、ある営業課の「営業事務」に派遣労働者を従事させていた場合、その「営業事務」に派遣労働者を従事させることができるのは原則1年、一定の手続きを経て3年が上限であった。営業課の「営業事務」という「業務」ごとに派遣可能期間が決められていたため、仮に派遣労働者が変わっても派遣期間は通算され、その「営業事務」に3年を超えて派遣労働者を従事させることはできない仕組みとなっていた。 改正後は、派遣労働者が従事する「業務」単位ではなく、派遣労働者を受け入れる派遣先の「事業所」単位と派遣労働者である「個人」単位の2つの点で派遣可能期間が制限される。 【資料1】 改正前の派遣可能期間 2 新しい期間制限の考え方 (1) 「事業所」単位の期間制限 派遣先の「同一の事業所」における派遣可能期間は原則「3年」となる。「事業所」単位で派遣可能期間を考えるため、事業所内の複数の部署で派遣労働者を受け入れていた場合は、その事業所全体で最初に期間制限を受ける派遣受入を開始した部署の受入日から3年を経過する日までが、その事業所にあるすべての部署の派遣可能期間となる。 なお、ここでいう「事業所」とは、次の観点等から実態に即して判断することとされている。 ただし、一定の手続きを行うことによって、派遣可能期間は3年を上限として何度でも延長することができる。この「一定の手続き」とは、派遣可能期間が終了する1ヶ月前までに、事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、当該労働組合がない場合は事業所の労働者の過半数を代表する者(以下、過半数労働組合等)の意見を聴取することである。 なお、意見聴取にあたっては、次の点にも注意が必要となる。 「事業所」単位では、派遣可能期間は原則3年であるものの、過半数労働組合等の意見を聴取する毎にその期間を3年上限で延長することができるため、適切に手続きを行うことにより、「同一の事業所」で派遣労働者を長期間受け入れることが可能となる。 (2) 「個人」単位の期間制限 派遣先の「同一の組織単位」における「同一の派遣労働者」の派遣可能期間は「3年」となる。ここでいう「組織単位」とは、 とされ、組織単位については、労働者派遣契約で定めるべき事項等に追加されている。 「個人」単位では、派遣可能期間は3年で、「事業所」単位のように延長はできないため、「同一の組織単位」で3年を超えて「同一の派遣労働者」の受入を行うことはできない。なお、受入の組織単位が変われば、「同一の派遣労働者」を継続して受け入れることが可能となる。 ただし、紹介予定派遣である場合を除き、派遣先が派遣労働者を特定することを目的とする行為は禁止されていることから、派遣先が派遣元に対して同一の派遣労働者を指名して別の部署に派遣するよう依頼することはできないため注意が必要だ。 3 期間制限を受けない特例 改正後は、「事業所」単位と「個人」単位の2つの点で派遣可能期間が制限されるが、特例として、次に該当する場合は期間制限を受けない。なお、③から⑤については、改正前とほぼ同じ内容となっている。 例えば、派遣元で期間の定めなく雇用されている者が派遣される場合には、改正前の「専門26業務」と同様に期間制限を受けないため、派遣先は派遣可能期間を気にすることなく長期間派遣受入が可能となる。 4 期間制限を超えて派遣労働者を受け入れた場合 期間制限を受けない特例に該当する場合を除き、過半数労働組合等への意見聴取を行うことなく同一の事業所で3年を超えて派遣労働者を受け入れた場合(「事業所」単位の期間制限違反)や、同一の組織単位で3年を超えて同一の派遣労働者を受け入れた場合(「個人」単位の期間制限違反)は、労働契約申込みみなし制度が適用され、派遣先の意向に関わらず、自動的に派遣先が派遣労働者へ労働契約の申込みをした扱いとなり、派遣労働者が承諾すれば労働契約が成立することになる。 また、意見聴取する際に労働者の過半数を代表する者を適切に選出していない場合も、意見聴取が行われていないものと同じ扱いとなり、労働契約申込みみなし制度が適用されるため注意が必要だ。 なお、改正前と同様に、派遣契約と次の派遣契約の間が3ヶ月を超えている場合には、前後の派遣期間は通算されない(いわゆるクーリング期間)。 5 適用対象となる契約は? 新しい期間制限の考え方は、施行日(平成27年9月30日)以降に“締結”される労働者派遣契約によって行われる労働者派遣に適用される。よって、施行日前に締結された労働者派遣契約は、新しい期間制限の考え方の対象とはならない。 なお、平成27年9月29日以前に締結された労働者派遣契約は、改正前の法律が適用されるため、当該契約に関しては派遣可能期間の制限に関わる「労働契約申込みみなし制度」の適用対象とはならない。 * * * 以上、新しい期間制限のポイントを確認したが、今後は、「事業所」単位と「個人」単位の2つの点から派遣可能期間を管理する体制が必要となる。派遣可能期間を超えて派遣を受け入れた場合は「労働契約申込みみなし制度」の対象となるため、特に派遣先は、しっかり内容を理解した上で今後の対策を講じられたい。 (了)
中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第14回】 「任意加入と国民年金基金」 特定社会保険労務士 古川 裕子 国民年金は、20歳から60歳まで(サラリーマン等の第2号被保険者を除く)加入することが原則であるが、希望すれば60歳から65歳までは任意に加入することができる。また、国民年金基金も原則20歳から60歳までの加入であるが、国民年金に任意加入している人は、60歳以降も国民年金基金に加入することができる。 1 国民年金の任意加入について 25年以上の受給資格期間のない人が受給資格を満たすためや、受給資格期間を満たしていても学生のときに未納期間があるため満額の年金が受給できない人が、できるだけ満額の年金(27年度価額780,100円)に近づけることを目的として、60歳から65歳まで、国民年金に任意加入できる。 ただし、任意加入者は、5年間加入できるということではなく、40年(480月)の加入期間に達した(満額の年金が受給できる)時点で加入資格を失う。 上記のほかに、海外に住んでいる20歳以上65歳未満の日本人(在外邦人)も任意加入することができる。 〈事例1〉 厚生年金保険に加入中(第2号被保険者)であるので、国民年金に任意加入はできない。 この事例の場合は、老齢基礎年金としては、年金額は増えないが、60歳以降厚生年金保険に加入して保険料を支払っているため、65歳からの老齢厚生年金の経過的加算として原則年金額は増額される。 2 60歳から65歳の人の国民年金基金 前回で述べたように、国民年金基金は個人事業主等の第1号被保険者が加入することができるが、平成25年4月から、60歳以上65歳未満の国民年金の任意加入者も国民年金基金に加入できるようになった。ただし、国民年金の加入期間が480月ある人(65歳から満額の老齢基礎年金を受給できる人)は任意加入ができないので、国民年金基金にも加入できない。 国民年金基金は、60歳になると加入資格が喪失する。そこで、60歳以降に国民年金に任意加入する人で、国民年金基金の加入をする場合は、改めて加入することになる。この場合の掛金額は、新たな掛金額となり、60歳までの加入内容を継続することはできない。 (1) 給付(年金)のタイプと掛金 (2) 年金額 加入時の年齢(月単位)ごとに年金額が設定されているので、加入口数等により受け取る年金額が決まる。 〈事例2〉 65歳まで加入した場合、1口目の年金額は60,000円で、2口目の年金額は30,000円となる。 例えば、満額の老齢基礎年金を受給できる場合、65歳から年金額870,100円(780,100+60,000円+30,000)で月額約72,500円となる。 3 基金に加入するときの留意点 国民年金基金に加入した人は、国民年金本体の保険料を滞納した場合、その滞納期間に対する基金の年金給付は受給できない。国民年金の保険料を滞納していて、国民年金基金だけの掛金を納付した場合には、その期間に納付した掛金は、そのまま還付されることになる。 国民年金基金は、国民年金に上乗せする年金制度なので、国民年金本体の保険料を納付することなく、国民年金基金だけを利用することはできない。また、国民年金の保険料を免除されている人も加入することができない。 《おさらいQ&A》 (了)
養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第9回】 「離縁に伴う復氏・復籍」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 [1] はじめに 前回は養子の離縁に関し、普通養子と特別養子それぞれの手続面について説明を行ったが、今回は普通養子離縁と特別養子離縁に伴う「復氏」と「復籍」に関して説明を行う。 特別養子は普通養子の特別類型である以上、民法その他の離縁に関する規定は、特則が設けられているものを除き、特別養子離縁にも適用される。そこで、以下、普通養子の離縁に伴う復氏と復籍を中心に解説を行う。 [2] 普通養子の離縁に伴う復氏・復籍 1 離縁による復氏と例外 養子は養親との離縁により、原則として縁組前の氏に復する(民816①本文)。 もっとも、(ア)婚姻によって氏を改めた者(夫の氏を称することとなった妻)が単独で養親の養子となった場合には、養親の氏ではなく、夫の氏(夫婦の氏)を称し続けることとなるので、その後の養親との離縁によっても復氏することはない(斉藤のまま)。 また、(イ)縁組後に婚姻して配偶者の氏を称した者(夫の氏を称することとなった妻)は、その配偶者の氏(斉藤)を称すべきものとされるので、この場合も養親との離縁によって復氏することはない(斉藤のまま)。 ただし、(ウ)その後、妻が離婚した場合には、直ちに縁組前の氏(三木)に復するものとされている(昭25・11・9民事甲2909号回答)。 さらに、配偶者とともに養子をした養親の一方のみと離縁した場合にも復氏しない(民816①但書)。これは、夫婦共同縁組を行った場合には、夫婦各自に養子との縁組行為があるため、一方と離縁しただけでは、他方との縁組は存続し、その効果として復氏しないと考えるからである。 2 離縁の際に称していた氏の続称 縁組の日から7年を経過した後に、離縁によって縁組前の氏に復した者(元養子)は、離縁の日から3ヶ月以内に戸籍法上の届出をすることによって、離縁の際に称していた氏を称することができる(続称・民816②、戸法73の2)。 これは、永年にわたり使用してきた氏を変更することで被るであろう、復氏者の不利益を避けることを目的として、昭和62年民法改正により明文化された。 この点、同様の制度である離婚後の婚氏続称の届出の場合には、婚姻期間の長短を問わないのに対し、縁氏続称の場合に7年を超える縁組期間に限定しているのは、養子縁組の場合には、婚姻と異なり、氏の変更を目的として濫用的に利用されるおそれがあることを考慮したものとされている。 養子が15歳未満の場合、法定代理人が代わって続称の届出をすることはできない。続称は本人の利益のためにするものであり、身分行為として特別の規定がない限り代理に親しまないからである。 なお、離縁後3ヶ月を経過した後になって離縁の際に称する氏への変更を希望する場合には、戸籍法107条1項の氏の変更の手続によることとなる。 3 離縁による復籍と例外 離縁によっても復氏せず、戸籍に変動がない者については、その身分事項欄に離縁事項が記載されるにとどまるのに対し、離縁によって復氏した者は、縁組前の戸籍に復するのが原則である(戸法19①本文)。 もっとも、①復籍すべき戸籍が既に除籍されている場合、②復籍すべき者が新戸籍編製の申出をした場合には、復氏しながら復籍せずに、新戸籍を編製し、その新戸籍に入ることを認めている(戸法19①但書)。 また、縁組前の戸籍に復する者に配偶者がいる場合には、その夫婦について新戸籍が編製される(戸法20)。 離縁の際に称していた氏を称する旨の届出があった場合には、離縁の届出と同時に続称届出をした場合と復籍後に続称届出をした場合とで若干手続に差異があるものの、その届出をした者を筆頭者とする戸籍が編製されていないとき、またはその者を筆頭者とする戸籍に同籍者があるときは(自己の子が在籍している場合など)、続称の届出をした者について新戸籍が編製される(戸法19③)。 [3] 特別養子の離縁に伴う復氏・復籍 特別養子は普通養子の特別類型である以上、民法その他の離縁に関する規定は、特則が設けられているものを除き、特別養子離縁にも適用される。そのため、離縁による復氏(民816①本文)、離縁の際に称していた氏の続称(民816②、戸法73の2)の規定は特別養子離縁にも適用がある。 ただし、特別養子縁組では、養親夫婦は共に離縁する必要があるため(前回参照)、配偶者とともに養子をした養親の一方のみと離縁した場合に復氏しないとする民法816条1項但書が適用されることはない。 戸籍の処理に関しても、離縁によって復氏せず、戸籍に変動がない場合には、特別養子の身分事項欄に離縁事項を記載するのみであり、離縁によって特別養子が実親の氏に復する場合には、特別養子は実親の戸籍に復する。 もっとも、復籍すべき戸籍が既に除籍されている場合、特別養子が新戸籍編製の申出をした場合には、新戸籍が編製される。 (了)
常識としてのビジネス法律 【第28回】 「知的財産権入門(その1)」 弁護士 矢野 千秋 1 知的財産権の流れ (1) 知的財産権とは 知的財産権とは、アメリカで使われているIntellectual Propertyの訳語である。そして昨今の新聞、雑誌等をにぎわせている言葉であるが、知的財産権という用語を正確に定義している例は少ない。 一般には、「知的財産権」という用語を、特許権、実用新案権、意匠権、商標権を含む産業財産権(工業所有権)と、それ以外の著作権等の権利の漠然とした総称として使っている例が多い。 要は、人間の幅広い知的創造活動の成果について、その創作者に一定期間の権利保護を与えるものが知的財産権制度である。 知的財産権は2種に分けられる。まず「産業財産権」であるが、これには特許権、実用新案権、意匠権、商標権が含まれ、特許庁が所管している。他方、産業財産権に含まれない人間の精神的創造物に対して認められる「独占的排他権」で、著作権、パブリシティーの権利、不正競争行為差止請求権、半導体チップに対する回路配置利用権等がある。 (2) 知的財産権の関連法 我が国における知的財産権に関する主な法律としては以下のものがある。 本稿では上記①乃至③について解説する。 2 特許権と実用新案権 (1) 基礎知識 実用新案法は「物品の形状、構造又は組合せに係る考案の保護及び利用を図ることにより、その考案を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」(実用新案法1条)。そして考案とは「自然法則を利用した技術的思想の創作をいう」(実用新案法2条1項)。特許法の発明と比べると、「高度」という要件が抜けており、登録を受けられる対象が「物品の形状、構造又は組合せ」に限られている。したがって、方法、物質、一定の形状を有さないもの等の考案は保護対象にならない。 この考案のうちで、産業上利用し得る(産業上の利用可能性)、今まで世間に知られていない(新規性)、従来技術から極めて容易に想到できない(進歩性)考案に実用新案権が付与される。要は、特許の水準に達しない技術的アイデアを保護する制度である。 実用新案権者は登録実用新案を実施する権利を専有し、侵害者に対しては侵害行為の差し止めや損害賠償請求が可能であるが、実用新案の出願は無審査で登録されるために登録性を有するか否かは当事者間の判断に委ねざるを得ず、そのため実用新案権の行使においては、登録実用新案に係る特許庁審査官作成の実用新案技術評価書を提示して警告した後でなければ、権利行使ができない(実用新案法29条の2)。 (2) これまでの法改正 平成5年の改正(旧実用新案法は、特許法と類似した内容であったが、改正された実用新案法は無審査登録となり、かつ出願日から6年という極めて短い存続期間の権利となり、特許法とは異質のものになった)以後、実用新案登録出願は激減したが、中小企業や個人企業などでは実用新案登録出願の無審査登録の存置を望む声が根強かった。逆にその分特許出願は増加し、このままでは審査の順番待ちの遅滞を招きかねない状況であった。 そこで無審査登録制度は残しつつ、より魅力的な実用新案制度を作り、併せて特許出願の審査の迅速化を図る改正が平成16年に行われた。この改正法は平成17年4月1日から施行されている。改正の概要は、①実用新案登録に基づく特許出願の新設、②存続期間の延長、③訂正できる範囲の拡大である。 ① 実用新案登録に基づく特許出願 従来から実用新案登録出願から特許出願への出願の変更の制度はあった(特許法46条1項)。けれども実用新案は早期に登録されるため、実際には特許出願への出願の変更は困難であった。また、実用新案が登録されてから特許権のような長期の権利化を望むこともありえる。そこで、登録された実用新案に基づく特許出願を可能にした(特許法46条の2)。 ② 存続期間の延長 特許が出願の日から20年であるのに対し、実用新案は存続期間が平成16年改正で出願の日から10年となった(実用新案法15条。平成17年4月1日以降の出願)。 ③ 訂正できる範囲の拡大 登録前の補正は、出願の日から政令で定める期間(実用新案法施行令1条により2ヶ月とされている)に限られ、特許と同様、新規事項を追加する補正は登録無効の理由とされている(実用新案法37条1項7号)。 登録後の訂正は、請求項を削除する場合のみ可能とされていたが(旧実用新案法14条の2)、平成16年の改正で前記に加えて、実用新案登録請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明を行うことが可能になった(実用新案法14条の2第2項)。なお、この場合、特許制度の訂正と同じく、新規事項の追加、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張・変更する訂正は禁止されている(同条3項、4項)。 (1) 基礎知識 特許権は設定の登録によって発生し、出願の日から20年をもって終了する(特許法66条1項、67条1項)。 特許法は「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」(特許法1条)。そして発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」(特許法2条1項)。「自然法則を利用した技術的思想」であるから演奏技術や投球技術などは除かれるし、ゲームルール等の人為的取り決めも除かれる。 この発明のうちで、産業上利用し得る(産業上の利用可能性)、今まで世間に知られていない(新規性)、従来技術から容易に想到できない(進歩性)発明に特許権が付与される。発明は物に限らず、方法や物を生産する方法の発明であってもよい。特許権者は特許発明を実施する権利を専有し、侵害者に対しては侵害行為の差し止めや損害賠償請求が可能である。 (2) これまでの法改正 (a) 平成23年改正法 ① 通常実施権等の対抗制度の見直し 当然対抗制度にした(特許法99条、実案、意匠も同)。すなわち通常実施権は登録を必要とせずに、特許権の譲受人等の第三者に対して対抗できる制度とした。理由は、登録は共同申請であり、特許権者の協力が得づらい。実務上特許権を譲り受けようとする者は、デューディリジェンス等によりライセンス契約の有無を事前に確認しており取引の安全は確保されている。そこで通常実施権等(仮通常実施権も登録不要)の登録制度を廃止したものである。 ② 再審の訴え等における主張の制限 侵害訴訟等の判決確定後に特許無効の審決等が確定したことをもって再審事由にはできないものとした(特許法104条の4、実案、意匠も同、商標は再審制限)。理由は、特許法104条の3があり侵害訴訟等で特許無効の抗弁等を出す機会は保証されていたのであるから、その後に特許無効の審決等が確定したことを再審事由と認めるのは紛争の蒸し返しであるからである。 ③ その他 冒認出願等にかかる救済措置の整備(特許法74条1項、実案、意匠も同)、審決取り消し訴訟提起後の訂正審判の請求の禁止、無効審判の確定審決の第三者効の廃止(特許法167条、実案、意匠、商標も同)などがある。 (b) 平成26年改正法(平成27年4月1日から施行) ① 救済措置の拡充 国際的な法制度に倣い、出願人に災害等のやむを得ない事由が生じた場合に手続期間を延長することができるものとした(特許法108条4項(理由がなくなった日から14日以内で、その期間経過後6ヶ月以内)等、実案、意匠、商標も同)。 ② 特許異議申立て制度の創設 請求人側からは特許無効審判制度の負担の大きさの指摘があり、特許権者側からは権利を早期安定化することが容易ではないとの指摘があった。そこで何人も特許公報の発行の日から6ヶ月以内に限り特許庁長官に対して特許異議の申立ができるものとした。 そして全件書面審理に統一し(特許法第118条第1項)、特許権者による訂正があった場合には特許異議申立人にも意見提出を認めることとする(特許法120条の5第5項)などし、あわせて特許無効審判の請求人は利害関係人のみに限ることとした(特許法123条2項)。 (c) 平成27年改正法(平成27年7月10日公布。公布の日から1年を超えない範囲内で政令で定める日から施行) 現行法では、企業で職務として行われた発明(職務発明)に係る特許を受ける権利は、従業者に帰属し、この権利が従業者から企業に承継される際、相当の対価を受けることができると規定されている。しかし、現状では、発明の対価の額を巡って、発明者と企業が争い、訴訟に発展するケースもあり、経済界などから、日本に開発拠点を置くことのリスクにつながり、海外に開発拠点を持つ企業との競争で不利で国際競争力を削ぐとして、制度改正を求める声が上がっていた。 そこで、本改正において、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を承継させることを定めたときは、職務発明の特許を受ける権利はその発生の時から、使用者等に帰属することとされた(特許法35条3項)。 しかし、こうした契約、勤務規則その他の定めを設けない場合は、職務発明の特許を受ける権利は従業者等に帰属することとし、使用者等は、従業者等がその職務発明につき特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有するが(特許法35条1項)、その職務発明に係る特許を受ける権利や特許を得たい場合には、別途、当該従業者等との間で譲渡の合意をする必要があるとしたものである。 本改正により、従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利等を取得等させた場合には、相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利を有することとなった(特許法35条4項)。 (3) 特許が認められる要件 (a) 産業上の利用可能性(特許法29条柱書) 特許制度は産業の発展のために設けられているのであるから、産業上利用できないような発明に特許を与えて保護する必要はない。ここで産業とは、農業、水産業、鉱業などの一次産業も含む広い概念である。 医療における手術の方法などのように人体を必須の構成要件とするような発明は、産業上利用できない発明であるとして特許されない。ただ、人体から分離した尿や血液などの分析方法などは特許権の対象になる。 (b) 新規性(特許法29条1項) 発明は技術的思想の創作であるから、当然に新規性が要求される。したがって、次のような発明は特許されない。 まず、特許出願前に日本国内または外国において公然知られた発明(特許法29条1項1号)で、これを「公知」発明という。 「公然」とは、秘密を脱した状態をいうと解されている。このため、多数の人が知っていても、全員が守秘義務を負っているときは公知ではない。逆に、1人しか知らなくても、その人が守秘義務を負っていなければ公知とされる。具体的にはテレビ放映されたような場合が含まれる。 ついで、特許出願前に日本国内または外国において公然実施をされた発明(同2号)、これを「公用」発明という。「公然」の意味は1号と同じである。そして実施は特許法2条3号に規定されているとおり、物の発明では、生産、使用、譲渡、貸し渡し、輸出入などであり、方法の発明では方法の使用、物を生産する方法の発明では、方法の使用に加えてその方法で生産した物の使用、譲渡、貸し渡し、輸出入なども実施に当たる。典型的には公開の店舗で販売されたような場合である。 さらに、特許出願前に日本国内または外国において、頒布された刊行物に記載された発明または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(同3号)、これを「文献公知」の発明という。「刊行物」とは、公開を目的として複製された文書、図面、写真などをいう。 これら新規性の有無は、出願時を基準にして判断される。 (c) 進歩性(特許法29条2項) 発明は新規であるだけでは足りず、ある一定以上のレベルを要求すべきである。このレベルを判断するために、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(この人物を「当業者」と呼ぶ。架空の人間である)が、公知発明などに基づいて容易に発明できたときは「進歩性がない」とされる。 (d) 先願主義(特許法39条) たまたま異なる人によって同一の発明がなされることがある。この場合、わが国では発明時点の先後ではなく、出願が先のものが特許される。これを先願主義という。 同一の発明について異なった日に二以上の特許出願があったときは、最先の特許出願人のみが特許を受けることができる(特許法39条1項)。 同一の発明について同一の日に二以上の特許出願があったときは、特許出願人の協議により定めた一の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。協議が成立せず、または協議をすることができないときは、いずれの出願人も特許を受けられない(同2項)。 いったんなされた特許出願(先願)が却下されたり、出願人が取り下げたような場合は、先願の地位(後願を排除する効力)は残らない(同5項)。また、平成10年の改正で、特許出願が拒絶されたり、出願人が放棄したような場合も先願の地位が残らないものとされた(同5項)。 (e) 明細書の記載が不備でない(特許法36条) 明細書は出願している発明の内容を公開する役目を果たすものである。したがって、明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明および発明の詳細な説明を記載しなければならない(特許法36条3項)。 明細書の「発明の詳細な説明」は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しなければならない(同4項1号)。 その発明に関連する文献公知発明のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知っているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載する(同4項2号)。 「特許請求の範囲」には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない(同5項)。 そして「特許請求の範囲」の記載は、特許を受けようとする発明が「発明の詳細な説明」に記載したものであること、特許を受けようとする発明が明確であること、請求項ごとの記載が簡潔であることなどが必要である(同6項)。 (4) 特許権の効力 特許は新規の技術を開発した人に国から与えられる代償であり、発明者に業として特許発明の実施を専有する権利(特許法68条)、すなわち特許権が与えられる。ここで「実施」とは、物の発明では製造や販売や賃貸などを指し、方法の発明ではその方法を使用することなどを指す。物を生産する方法の発明は単に方法の使用にとどまらず、その方法により生産した物の使用、譲渡などの行為も実施に当たるとされる(特許法2条3項3号)。 また、侵害となる無権限の実施行為は、「業として」行われているものでなければならない。「業として」とは、広く「事業として」との意味で、必ずしも営利目的を有する場合に限られない。たとえば、国の公共事業に特許発明を使用することも「業として」に当たる。逆に、個人的な目的で、家庭などで特許発明を使用しても「業として」にはならない。また、必ずしも反復継続してなされる必要はなく、1回だけの特許発明の使用でも「業として」になる。 実施を独占できるのだから、他人が無断で発明を業として実施していれば、その実施の中止を求めることができる。これを差止請求権という。 また、無断で発明を実施されたわけだから、その間の損害の賠償を求めることができる。これを損害賠償請求権という。 これらは他の産業財産権など(著作権、不正競争防止法も含む)でも共通している。 ① 差止請求権 特許権者は、特許権を侵害する者、または、侵害するおそれのある者に対して、侵害行為の停止または予防を請求できる(特許法100条1項)。これを差止請求といい、侵害者が特許権の存在などまったく知らなかったような場合でも請求できる(実用新案法27条、意匠法37条、商法36条、著作権法112条、不正競争防止法3条)。 ② 損害賠償請求権 民法709条は「故意または過失により、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任がある」と規定している。特許権の侵害も同じことで、この規定によって損害賠償請求ができる。 そしてこの規定では「故意または過失」が1つの要件とされているが、特許権は特許公報などで公示されているので、侵害者には侵害行為について過失があったものと推定する規定(特許法103条)が置かれている。 また、平成10年の改正で、損害賠償額の算定方式が変更されている。侵害者に対して損害賠償請求をする場合、被告が侵害物を譲渡したときは、原告の損害額は、被告の譲渡数量に原告が販売した場合の1個当たりの利益額を乗じた額とすることができる(特許法102条1項)。 さらに、特許権者らは、侵害者に対して、その発明の実施に対して受けるべき金銭の額に相当する額を損害額とできる(同3項)。また、損害額の立証の容易化がなされている。(実用新案法29条、意匠法39条、商法38条、著作権法114条、不正競争防止法4、5条) ③ 不当利得返還請求権 法律上の原因なく、他人の財産などによって利益を受け、これによって他人に損失を与えた者は、その利益の存する限度で返還する義務を負わされる(民法703条)。そして、その利益を受けた者が悪意だったときは、利益に利息を付けて返還し、なお損害があるときは、さらにその賠償が必要である(民法704条)。これを不当利得の返還請求といい、特許権の侵害にも適用される。 ④ 信用回復措置請求権 特許権者は、故意または過失によって特許権を侵害し、これによって特許権者の業務上の信用を害した者に対して、業務上の信用を回復する措置を請求し、裁判所は必要な措置を命ずることができる(特許法106条)。具体的に言えば、新聞などに謝罪広告の掲載を求めるようなものである(実用新案法30条、意匠法41条、商法39条、著作権法115条、不正競争防止法14条)。 (続く)
此の国にも『日本企業』! 【第10回】 「《モザンビーク》 水産資源のフロンティア開発に夢を託して ~ガルフ食品(株)~」 中小企業診断士 西田 純 今回は、アフリカ南東部に位置するモザンビークでハマグリの加工を手掛けようとしているガルフ食品(株)をご紹介します。 〈水産資源で注目されるモザンビークへ〉 モザンビークといえば、独立戦争そして内戦を経験し、つい20年ほど前までは戦火の絶えない国として知られていたところで、筆者が知っていることといえば豊富な天然資源に依存した経済と、内戦の傷跡ともいえる地雷問題くらいの国でした。 日本から遠く離れたそんな国にどうして、と思って調べてみると、モザンビークにはガルフ食品(株)以外にもすでに日系の水産加工メーカー1社が進出しているとのこと。最近ではマグロが取れなくなった、あるいはサンマの資源が減少しているなど、水産国・日本にとって心配なニュースも少なくない中で、モザンビークは日本企業の活躍ぶりが目立つ進出先のようです。 〈モザンビークのハマグリを日本の食卓に〉 それでもどうしてまたモザンビークに?という質問に、同社代表取締役の加藤仁士さんは「現地ではハマグリの資源が豊富で、自社の技術が使えると考えたから」と回答してくれました。 そもそも、貝類は水産資源の中では比較的資源枯渇の心配が少ない分野だそうで、日本に居る貝類が1,500種類くらい、ところが世界中では10万種類を超える貝が生息しているのだそうです。南米やインドにも、品質管理さえしっかりすれば十分に流通可能な資源があることが確認されていて、しかもそれらの国では「貝はあまり食べられていない」のだそうです。 世界を見ればアメリカや欧州など、貝を食用にする国は少なくないそうですが、ホタテや牡蠣などの特定種に限らずさまざまな貝を食し、寿司ネタやつくだ煮などの多様な食べ方をするのも、またハマグリとアサリを厳密に区別するのも日本流の食べ方だそうで、加工段階でも貝の分別と衛生管理にきちんとした技術を適用できれば、世界中に眠る未開拓資源の規模はまだまだ大きいと言えるのだそうです。 イカ・アジ・サンマ・サバ・スケソウなどの水産資源を代行輸入するビジネスを手かげているガルフ食品(株)では、2006年からモザンビークのハマグリ資源に注目しており、すでに欧州系の企業と連携して一度日本へハマグリを出荷している実績があるのだそうですが、当時のパートナーは主な関心がエビに向いており、ハマグリについては対応が二の次で「十分な品質確保が難しかった」のだそうです。その後、新たに韓国系の投資家をパートナーに迎えて自社技術の導入を計画しているのだとか。 〈障害を一つひとつ乗り越えて〉 ところが現在、同社はアフリカならではの難しさに直面しているそうで、たとえば現地で衛生的な水を確保するための殺菌装置が手に入らない、あるいは水質検査を委託できる機関がないなど、食品加工業を始めるための周辺サービスが大変貧弱なため、思うようなスケジュールでビジネスが立ち上がらないという問題をひとつずつ解決する段階にあるのだそうです。 このほかにも、現地の行政手続きが緩慢だったり、不要な規制が幅を利かせていたりと、アフリカならではの問題にも何度も直面されたのだとか。 それでもこのほど、他国で実施した水質検査の結果がどうやら入手できるところまでこぎつけたということで、「(本格的な事業開始を睨み)できればこの秋にも現地へ行きたいと思っている」(加藤氏)とのことでした。 〈現地の未来に寄与できる水産加工業の進出〉 鮮度・品質を確保するため、水産加工業は現地での労働力確保が大変重要なファクターになります。21世紀のフロンティアとして貝類の資源開拓を考えたとき、同社のようなビジネスがアフリカ諸国の沿岸部に新たな雇用をもたらす効果は非常に大きいものがあるのではないでしょうか。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「会社法監査に関する実態調査」をまとめた 研究資料を公表 ~決算短信早期化の影響受け監査期間短縮化の傾向も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年9月17日付で(ホームページ掲載日10月6日)、日本公認会計士協会は、公認会計士制度委員会研究資料第2号「会社法監査に関する実態調査-不正リスク対応基準の導入を受けて-」を公表した。 これは、不正リスク対応基準の適用を契機として日本公認会計士協会の会員を対象に実施した会社法監査に関する実態調査の結果を踏まえ、監査実務上の課題の把握とその考察を行うことを目的として取りまとめられたものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 実態調査の主な内容 1 会社法監査の実施状況の分析 「会社法監査の実施状況の分析」として、平均的な会計監査人の監査報告書日は決算日後44.3日となり、決算日から約6週間程度のタイミングとなっていることなどが分析されている。 これらの分析から、会計監査人及び監査役の監査報告書日は、法的には監査対象とはならない決算短信の発表タイミングの影響を受けており、決算短信の発表の早期化に呼応して監査期間の短縮が図られ、法定の期限前に会計監査報告の内容を通知している会社が多いと推定している。 2 東京証券取引所による決算発表の早期化の要請 東京証券取引所による決算発表の早期化の要請により、次のことが要請されている。 次の分析結果が述べられている。 「実態調査」は、会社の現状の開示スケジュールが大きく変わらないことを前提に置くと、会計監査人の監査報告書を法令が想定する時期よりも早くに提出することはできる限り避け、当該時期に提出することが望ましいと考えると述べている(8ページ)。 「実態調査」では、日本公認会計士協会の会員にアンケートを行い、その結果を考察している。 アンケートは、平成26年12月1日時点で会員登録後10 年以上経過しており、監査法人に所属している会員4,915人に協力依頼をしたものであり、回答者数は484人(約9.8%)であった。このうち、上場会社の監査に従事していると回答があったのは、455人(約9.3%)である。 (了)
《速報解説》 国税庁、「国外居住親族に係る扶養控除等」に関する Q&A等資料を公表 ~「親族関係書類」及び「送金関係書類」の実務上の取扱いを明記~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 9月25日に、国税庁から国外居住親族に係る扶養控除等について、次のQ&A及びリーフレットが公表された。 平成27年度の税制改正により、給与等の源泉徴収及び年末調整において、国外居住親族に係る扶養控除等の適用を受ける居住者は、「親族関係書類」と「送金関係書類」を源泉徴収義務者に提出又は提示することが義務付けられた。 (注) 平成28年分以降の確定申告において、国外居住親族に係る扶養控除等の適用を受ける場合にも、「親族関係書類」と「送金関係書類」を確定申告書に添付又は申告書の提出時に提示する必要がある。ただし、源泉徴収又は年末調整の際、源泉徴収義務者にそれらの書類を提出又は提示している場合は除かれる。 なお、当該制度の概要は、以下の拙稿をご参照いただきたい。 今回公表されたQ&A及びリーフレットでは、主に「親族関係書類」と「送金関係書類」について、実務的な取扱いの詳細を明らかにしている。 主な内容は次のとおりである。 (1) 「親族関係書類」と「送金関係書類」について(共通) (2) 「親族関係書類」について (3) 「送金関係書類」について (4) 扶養控除等申告書への記載方法 平成28年分の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」には、国外居住親族に係る記載事項が新たに追加されている。 (※) 国税庁「国外居住親族に係る扶養控除等の適用について(リーフレット)」p3より(一部筆者追記) 外国政府等が発行する親族関係書類は、国によって様式や記載事項が異なっていることが想定される。また、送金関係書類についても、送金先や、クレジットカードの利用者及び利用内容等を、源泉徴収義務者において確認する作業が必要となる。 この制度が導入された背景をふまえ、各書類は何を確認するために提出又は提示するものなのか等、事前に制度に対する理解を深めておきたい。 (了) ↓関連記事↓
《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(平成27年1月~3月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、平成27年9月30日、「平成27年1月から3月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加されたのは表のとおり、全6件の裁決であり、このところ、平均して10件以上の裁決を公表してきたことを考えると少なくなっている。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等が一部取消された事例が2件、棄却又は却下された事例が4件であった。税法・税目としては、国税通則法と所得税法関係が各2件、相続税法と国税徴収法関係が各1件であった。 【公表裁決事例平成27年1月~3月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された6件の裁決事例のうち、税務調査手続の違法性と理由付記に関する国税不服審判所の考えが示された事例を紹介したい。 なお、毎回のことであるが、論点を簡素化するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 1 調査手続の違法と修正申告の効果・・・① (1) 争点 審査請求における争点は次のとおりである。本稿では、[争点1]「調査手続の違法と賦課決定処分の取消し」について、審査請求人の主張とこれに対する国税不服審判所の判断を検討したい。 (2) 審査請求人の主張 審査請求人は、各修正申告等について、調査手続の違法又は錯誤により無効となるため、各賦課決定処分は取り消されるべきである、と主張した。 ① 調査手続の違法について ② 錯誤について 請求人は、調査担当職員から、調査対象期間の説明及び調査結果の内容の説明がなかったため、請求人は、どのような内容の書類に署名押印したのかも分かっていない状態で本件各修正申告書等を提出したものであり、仮に、7年間分の修正申告等であると分かっていたら、本件各修正申告書等には署名押印をしなかった。したがって、本件各修正申告等は、錯誤により無効となる。 (3) 審判所の判断 これに対し、審判所は、各修正申告等が調査手続の違法又は錯誤により無効となるかについては、以下の判断に基づき、各修正申告等が無効となることはないとした。 ① 調査手続の違法について 調査手続の違法は、それのみを理由として修正申告及び期限後申告の有効性に影響を及ぼすものではないと解されることから、たとえ調査手続に違法があったとしても、そのことのみで修正申告及び期限後申告が無効となることはないのであるから、請求人の主張は採用できない。 ② 錯誤について 調査経過記録書等には、調査担当職員が請求人に、平成25年11月22日の調査の終了に際し、調査結果の内容の説明を行い各修正申告等の勧奨を行ったとの記述があり、調査担当職員等の答述内容は何ら不自然な点はないことからすると、調査担当職員は、説明資料を用いて調査結果の内容の説明を行い各修正申告等の勧奨を行ったと認められる。 また、請求人は、各修正申告書等に署名押印をしたことについては争っていないことから、署名押印は、請求人の意思に基づいて行われたとの推定ができ、修正申告等は具体的な納税義務を発生させるものであるから、修正申告等の内容を確認しないで署名押印をすることは通常あり得ないこと、調査担当職員は請求人に、7年間分の調査結果の内容の説明を行ったと認められることを総合して判断すると、請求人の主張するような錯誤があったとは認められない。 2 更正・決定通知の理由付記・・・② (1) 争点 審査請求における争点は次のとおりである。本稿では、これらのうち、[争点2]の「理由付記」について、審判所の判断を確認したい。 (2) 審査請求人の主張 請求人は、次のように主張して、所得税各更正等通知書の理由付記に本件所得税各更正処分等を取り消すべき不備があり、また、所得税各更正等通知書において、加算税に係る理由付記も必要である、とした。 (3) 審判所の判断 審判所は、青色申告に係る所得税の更正通知書に更正の理由を付記すべきものとする規定の趣旨について、「更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜」と説示したうえで、帳簿書類との関係において、次のように述べている。 そのうえで、審判所は、「請求人は、事業所得を生ずべき業務について、その事業所得の金額に係る取引を記録する帳簿を作成していない」ことを理由に、所得税各更正処分は、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当するため、所得税各更正等通知書に記載された、事業所得の金額に加算する金額の判断部分に係る理由は、原処分庁の恣意抑制及び納税者の不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的な記載がされていると認められることから、本件所得税各更正処分を取り消すべき不備はない、とした。 また、請求人による「納税者にとって不利益処分であれば、具体的に理由付記する義務があるので、加算税についての本件所得税各更正等通知書における理由付記及び本件消費税等各決定等通知書における理由付記について必要である」という主張について、審判所は、所得税の更正処分のうち「雑所得の金額」及び各賦課決定処分並びに消費税等の各決定処分等については、その処分の理由を付記すべき旨を定めた法令の規定はないことから、この点についての違法はない、と結論づけている。 (了)
《速報解説》 改正「中小企業会計指針」の公開草案が公表 ~「重要性の原則」の適用など取扱いを明確化~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年10月2日、日本公認会計士協会、日本税理士会連合会、日本商工会議所、企業会計基準委員会は、「中小企業の会計に関する指針」の改正に関する公開草案を公表した。 意見募集期間は、11月2日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 以下の改正が提案されている。 (了) ↓お薦め連載記事↓