《速報解説》 「平成27年分 年末調整のための各種書式」公表と同時に、 個人番号記入欄が追加された 「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」等が公表 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 9月25日に、国税庁より「平成27年分 年末調整のための各種書式」が記載例とともに公表された。 その中には、個人番号(マイナンバー)の記入が求められる「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の様式と記載例も含まれている。 保険料控除申告書と配偶者特別控除申告書の様式に、昨年と変わるところはない。平成28年分の扶養控除等申告書には、新たにマイナンバーを記入する欄が設けられている(下図参照)。 申告書を提出する本人のマイナンバーだけでなく、控除対象配偶者や扶養親族のマイナンバーについても記入の上、提出を受けることとなる。 〈平成28年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 赤囲み部分が、新たに設けられた個人番号記入欄 平成28年分の扶養控除等申告書は、平成28年最初の給与支払日の前日までに、従業員等から提出を受ければよいものであるが、実務的には今年の年末調整に必要となる平成27年分の保険料控除申告書等とともに、本年10月から11月頃に提出を受ける企業が多いと思われる。 平成28年分の扶養控除等申告書の受取りは、企業にとってマイナンバーを意識する最初の業務であることも多い。制度導入後、間もない時期での対応となるため、マイナンバーの記入について事前に周知しておく等の対策を講じておく必要がある。 なお、源泉徴収や年末調整の業務に関連するマイナンバーの取得手続や注意点については、後日、本誌上において「〈平成27年分〉おさえておきたい年末調整のポイント」として、解説を行う予定である。 (了)
《速報解説》 会計士協会、国税関係書類に係るスキャナ保存制度の見直しに伴う 監査人の留意事項を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年9月30日、日本公認会計士協会は、自主規制・業務本部 平成27年審理通達第3号「平成27年度税制改正における国税関係書類に係るスキャナ保存制度見直しに伴う監査人の留意事項」を公表した。 電子帳簿保存法におけるスキャナ保存要件の改正により、すべての契約書、領収書等についてスキャナ保存が可能となるとともに、スキャナ保存後の原本の破棄も可能となる。 このため、監査における監査証拠としての取扱いに関して、審理通達が発せられたものである。 監査を受ける会社にも関係する内容であるので、実務上の対応に注意が必要である。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 電子帳簿保存法におけるスキャナ保存要件の改正 電子帳簿保存法におけるスキャナ保存要件の改正に関しては、国税庁ホームページをご覧いただきたい。 主な内容は、次のとおりである。 Ⅲ 監査上の対応 すべての契約書、領収書等についてスキャナ保存を行って、スキャナ保存後に原本を破棄した場合、監査人としては、重要な監査証拠となり得る書類を利用できない可能性がある(監査基準委員会報告書500「監査証拠」参照)。 このため、審理通達は、次のことを要請している。 (了) ↓参考記事↓
2015年10月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.138を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.33- 「見えない『日本型軽減税率』の行方」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 9月10日、財務省が与党税制協議会に提出した「日本型軽減税率」の評判は芳しくない。「国民の7割が反対」という世論調査まである。 おそらくそれを承知で財務省が公表せざるを得なかったのは、以下のような極めて政治的な理由からである。 ◆ ◆ ◆ 今から3年前の税・社会保障一体改革についての3党合意を結ぶ際に、当時与党の民主党は、低所得者対策として給付付き税額控除を主張、当時野党の公明党は、軽減税率の導入を主張した。当時野党の自民党は、本音では軽減税率に反対であるが、そのことはあえて主張しなかった。 この際の約束は、消費税率を10%に引き上げる税制抜本改革法7条に規定された。低所得者対策として、給付付き税額控除か軽減税率の導入を検討する、それまでの間は簡素な給付措置で対応する、というのがその内容である。 公明党は、その後、政権交代につながる衆議院選挙で、軽減税率の導入を公約にした。引き続く2回の選挙もこの公約で戦い、自民党との合意も、「消費税率10%引上げ時に導入」というところまで進んできた。 一方、軽減税率に消極的な自民党は、政権交代後の平成25年度与党税制改正大綱に「軽減税率の導入」を記述したものの、「財源問題」と「事業者をはじめとする国民の合意」を条件として付した。 このような政治状況の下で出てきたのが、今回の財務省案である。 ◆ ◆ ◆ 財務省案は、「軽減税率」という枠の中での「最大限の抵抗」を試みた案といえよう。マイナンバーカードを使う点などは、筆者の目にもハードルが高すぎると映る。今後はさまざまな改善案が出てくると予想される。 軽減税率問題の究極の本質は、インボイスや線引きの難しさ、ではない。 どこまで行っても、財源の問題だ。 飲食(酒を除く)を対象に軽減税率を導入すれば、1.3兆円の税収が吹き飛ぶ。これは、子ども・子育て支援制度の財源である7,000億円の約2倍である。さすがに公明党も、最終局面では、この点に配慮せざるを得ないと考える。 ではどうなるのか。 現段階での予想は全く難しい。 あえて言えば、次の2つの可能性であろうか。 ◆ ◆ ◆ 第1は、(改良)財務省案に加えて、「米・みそ・しょうゆ」プラスα(インボイスの不要な範囲での軽減)である。 「軽減税率の導入」という公明党の顔は立つ。インボイスは入らないので、事業者の反対は少ない。 第2は、簡素な給付措置を拡充した上で継続することである。 法律には、まとまらない場合には「簡素な給付措置」と記されている。しかしこれは先延ばし策なので、公明党から、将来に向けての何らかの証文をとられる可能性がある。また、安保法制への公明党の貢献を配慮せよと、官邸から横やりが入ってくる可能性もある。 いずれにしても、このような議論は、公平な税制の構築という議論ではなく、国民不在の政治の議論である。 ◆ ◆ ◆ 最後に、この問題をややこしくしている要因に、新聞が軽減税率を要求する当事者だという問題がある。 読売新聞は連日軽減税率の導入を主張しているが、「低所得者対策」としての軽減議論ではなく、自らの業界の経営問題を持ち込んだ導入賛成論だ。つまり、「公益」と「私益」を混同した議論といえよう。 自分の業界だけは軽減税率に、ということになれば、住宅など様々な業界から大陳情合戦が起きる可能性がある。 なぜ新聞各社は、国民の立場に立った議論を展開しないのだろうか。 なさけない限りの軽減税率議論である。 (了)
〈直前対策〉 税理士事務所に必要な マイナンバー制度への対応と “おさえておきたい”ポイント 【第1回】 「税理士事務所として準備すること」 税理士 特定個人情報保護委員会事務局 総務課上席政策調査員 鈴木 涼介 1 安全管理措置とその目的 税理士事務所は、顧問先企業や納税者(以下「顧問先企業等」という)、事務所の従業員に係る個人番号及び特定個人情報(以下「特定個人情報等」という)を大量に保有することになる。 特定個人情報等については、漏えい、滅失又は毀損の防止その他の特定個人情報等の管理のために、必要かつ適切な安全管理措置を講じなければならない(番号法12、33、34、個情法20、21)。 したがって、税理士事務所の事前準備作業としては、特定個人情報等を取り扱う前までに、安全管理措置を講ずることがあげられる。 ここで最も多い誤解が、「最低限、何をやればよいのか」といった視点で安全管理措置を捉えてしまうことである。 安全管理措置の目的は、「特定個人情報等の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の特定個人情報等の管理」である。この目的を達成できるのであれば、その手法は問わない。 例えば、物理的安全管理措置の手法として、個人番号が記載されている書類等について「施錠できるキャビネットに保管する」というものがある。しかし、この手法を採用して、施錠できるキャビネットを購入したとしても、その施錠のための鍵を無造作に机の上に放置したり、誰でも使えるようにしたりしていては、措置を講じた意味がない。 したがって、「何をすればよいか」ではなく、「どのように情報を管理するか」を意識して、安全管理措置を講ずることが重要である。 2 規程類の策定と各種措置 安全管理措置の内容としては、 とがある。 「基本方針」は、いわゆるプライバシーポリシーや個人情報保護方針といったものに相当するものであり、関係法令・ガイドライン等の遵守、安全管理措置に関する事項、質問及び苦情処理の窓口などを記載することになる。基本方針は策定が義務付けられているものではないが、税理士事務所は、特定個人情報等を大量に取り扱うことから、策定することが望ましい。 「取扱規程等」は、事務の流れを整理して、特定個人情報等の具体的な取扱いを定めるものである。取扱規程等の策定は義務であり、税理士事務所は必ず策定しなければならない。 基本方針及び取扱規程等については、「税理士のためのマイナンバー対応ガイドブック」(日本税理士会連合会)(以下、「税理士ガイドブック」)にひな型が掲載されているため、それを参考に策定することが効率的であると考えられる。 この場合、基本方針は、ひな型のとおり利用することが考えられるが、取扱規程等については、それぞれの税理士事務所の規模や事務の流れによって内容が変わりうるものであることから、単にひな型をそのまま書き写すのではなく、各事務所にあった形にカスタマイズすることが重要である。 組織的・人的・物理的・技術的安全管理措置については、まさしく税理士事務所の様々な状況によって変わりうることから、各事務所の規模等に応じて、適切に措置を講ずることとなる。 『組織的安全管理措置』のうち「取扱規程等に基づく運用」は、「取扱規程等に基づく運用の確保」と「監査時等の確認手段の確保」との2段階で考えることが重要である。この点、税理士ガイドブックにおいては、「特定個人情報等の取扱いに関する事務チェックリスト」や「執務記録」を利用する方法が例示されている。なお、このほか、システムに実装されている機能を用いて、アクセスログ等を記録・保存して管理することも考えられる。 『人的安全管理措置』は、事務所の従業員に対して、特定個人情報等の取扱いの許可事項、禁止事項、その理由について周知徹底することが重要である。 『物理的安全管理措置』は、税理士事務所の場合、作業スペースのすべてが取扱区域に該当すると考えられることから、来客スペースとの区分を明確にし、来客などの外部の者に特定個人情報等が漏えい等しないようにすることが重要である。また、盗難等の防止策としては、特定個人情報等が記載された書類は鍵のかかるキャビネットに保管し、パソコンについてはセキュリティーワイヤーなどで固定することが考えられる。さらに、個人番号を廃棄又は削除した場合には、廃棄又は削除したことの記録を保存しておく必要がある。 『技術的安全管理措置』は、特定個人情報等が記録されたパソコンやシステムを使用できる者を制限するとともに、その者が取り扱う特定個人情報等の範囲を制限し、適正な範囲で利用できるようにすることが重要である。また、外部からの不正アクセス等を防止するため、ウィルス対策ソフト等の導入やパソコンに標準装備されている自動更新機能等の活用によるソフトウエア等の更新を行うことが重要である。 3 委託契約の見直し 番号法においては、個人番号利用事務又は個人番号関係事務の全部又は一部の委託をする者は、委託を受けた者において取り扱う特定個人情報の安全管理が図られるように、その委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行うことが求められている(番号法11)。 すなわち、税理士事務所は、委託元である顧問先企業等から「必要かつ適切な監督」を受けることとなる。 この「必要かつ適切な監督」には、「委託先に安全管理措置を遵守させるために必要な契約の締結」や「委託先における特定個人情報の取扱状況の把握」などが含まれ、その契約内容として、秘密保持義務や特定個人情報の目的外利用の禁止など一定の規定を盛り込まなければならない(※)。 (※) 規定すべき事項については、「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(特定個人情報保護委員会)P20を参照。 したがって、税理士事務所は、特定個人情報等を取り扱う前までに、顧問先企業等との業務委託契約の内容を見直す必要がある。 この点、税理士ガイドブックにおいては、 という3つの書類のひな型が示されている。 顧問契約などを締結して契約書を作成している場合には、①の業務契約書の改訂及び②の合意書の作成が必要となる。 この契約書の改訂とは、契約条項の1つとして、以下の条項を追加することとなる。 【税理士ガイドブックより抜粋】 契約書を作成していない場合は、本来的には契約書を作成すべきではあるが、マイナンバー制度への対応という課題については、③の覚書を作成して対応することとなる。 (了)
国境を越えた役務の提供に係る 消費税課税の見直し等と実務対応 【第2回】 「国境を越えた役務の提供に係る消費税の従来の取扱い」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 3 国境を越えた役務の提供に係る消費税の従来の取扱い (1) デジタル財取引に対する消費税課税 EU等における付加価値税と同様に、わが国の消費税の課税対象となる取引は前述のとおり、国内取引、すなわち国内において事業者が行った資産の譲渡等である(消法4①)。したがって、国外において事業者が行った取引(国外取引)には消費税が課されない。 ところが近年、このような課税原則では対処できない取引が問題となっていた。それは、海外の事業者が提供する「電子書籍」や「ネット配信」に対して、果たして消費税の課税ができるのかという問題である。 すなわち、物品の輸入に関しては税関が消費税の徴収実務の一端を担うことにより対応可能であるが、「電子書籍」や「ネット配信」といったサービスの輸入に関しては税関の役割を果たすプレーヤーがおらず、制度の執行が問題となるわけである。 日本における電子書籍の市場規模の成長は以下の図のとおり目覚ましく、2014年度には1,160億円にのぼり、2017年度には2,000億円に達すると見込まれている(※1) 。 (※1) ICT総研「電子書籍コンテンツ市場動向調査」(2014年10月15日) 【電子書籍コンテンツの市場規模】 (出典) ICT総研「電子書籍コンテンツ市場動向調査」(2014年10月15日) 電子書籍や音楽など電子媒体で提供される「デジタル財」は、ネット経由で全世界に配信することが可能である。そのため、海外の事業者が日本国内のユーザーに向けて電子書籍や音楽などをインターネット経由で提供するケースも見られるが、前述のとおり従来の消費税法においては、事業者が行った取引が国内か国外かの判定は、事業者の事務所などの所在地により判定することとなっていた(旧消令6①七、十、②五、七)。そのため、海外の事業者(例えばアマゾン)が電子書籍を日本の消費者にネットを通じて提供した場合、国外取引に該当することから消費税が課されないこととなる(課税対象外ないし不課税取引)。 ところが、同じ取引形態であっても、日本の事業者(例えば紀伊國屋書店)が電子書籍を日本の消費者に提供した場合には、国内取引となるため消費税が課されることとなる。そのため、課税の中立性という観点から、このような提供者の違いによる不均衡ないし不公平に関しかねてから問題視されていたところであった。 仮に課税庁がこの事態を放置した場合、日本の事業者も競争上の不利を解消するため、海外から電子書籍を配信するサービスを提供するのが主流となる可能性がある。実際、楽天はカナダ法人が国内向けに電子書籍を販売する形態を採ることで、消費税の課税を回避することを検討していると報じられたところである(※2) 。 (※2) 2012年6月29日付朝日新聞。 【海外からのデジタル財の販売と消費税課税】 (2) 国際的な取引に対する消費税の課税原則 国際的な取引に対する消費税を含む付加価値税(Value Added Tax, VAT)の課税原則は、一般に、仕向地主義(※3)(destination principle)によることとされている。これに関しわが国の消費税法の規定をみてみると、貨物については、輸出の際には輸出免税の規定(消法7)が適用される一方で、輸入の際には、消費者を含めそれを引き取る者が納税義務を負うこととされている(消法5②)ことから、仕向地主義の原則に合致している。貨物に関し仕向地主義の原則が機能するのは、輸入貨物については税関を通過することが法的に義務付けられていること(関税法67)が前提となっている。 (※3) 一般に、輸出される物品や国外で提供される役務に対する付加価値税について、源泉地国ではなく仕向地国に課税権があるとする考え方をいう。反対に源泉地国に課税権があるとするものを源泉地主義(origin principle)という。金子宏『租税法(第二十版)』(弘文堂・2015年)693頁参照。 ところが、仮に仕向地主義の原則を役務の提供に関しても適用しようとすると、貨物の場合とは様相が異なることに気付かされる。すなわち、海外から提供される役務は税関を通過するわけではないため、仮にそれに消費税を課す場合、提供を受ける者にいつ、どのように申告及び納税を履行させるのかという、制度設計上の困難性が生じるのである。 特に、ネット経由で提供されるデジタル財は、若年層も広く利用する可能性があるため、消費税の申告及び納税の履行は極めて困難となることが想定されるところである。これが、デジタル財等の海外から提供される役務が「国内において行われた」わけではないとして、消費税の課税対象から除外されてきた主たる理由と考えられる。 (3) 「課税の空白」への対応の必要性 このような一種の「課税の空白」ないし「不公平」を課税庁がこれまで許していた理由としては、いずれも推論ではあるが、当該役務提供に課税する仕組みの構築が法技術的に非常に困難であったことや、消費税法導入時の税率が3%と低く従来は不公平がそれほど顕著でなかったこと、国内で提供されるサービスと国外から提供されるサービスがほとんど競合関係になく、課税の仕組みが異なっても問題が表面化しにくかったことなどが挙げられる、とされる(※4) 。 (※4) 佐藤英明「電子的配信サービスと消費課税」『ジュリスト』2012年11月号15頁参照。 このような「課税の空白」に対処するため、財務省は日本で電子書籍や音楽データ(※5)などデジタル財を販売したい海外企業に事前登録を義務付け、国内企業と同様に消費税を課す「課税事業者登録制度」を導入すべく2012年7月に研究会(※6)を立ち上げ、検討を開始していた。これは、EU(欧州連合)が同様の問題に対処するため2003年に導入した制度に倣ったものである。EUでは事前登録制度のほか、特定のサービス等の提供に関しては販売者ではなく購入者にVAT(付加価値税)の納税義務を課すリバースチャージ制度によってこの問題に対処しようとしている。 (※5) なお、音楽データの配信・ダウンロード販売で先行する米アップル社は日本法人を通じて販売しているため、国内取引に該当し消費税が課されている。 (※6) 「国境を越えた役務の提供等に対する消費税の課税の在り方に関する研究会」をいう。同研究会における検討結果は、財務省主税局税制第二課「国境を越えた役務の提供等に対する消費税の課税の在り方について」(2013年11月)として公表されている。 財務省は消費税率が8%に上がる2014年4月1日からの新たな課税制度導入に向け準備を進めていたが、時期がずれ込み、実際には2014年における政府税制調査会での検討を経て、今般の税制改正へとつなげていったというのが導入経緯である。 (了)
改正電子帳簿保存法と企業実務 【第2回】 「スキャナ保存制度の規制緩和」 税理士 袖山 喜久造 (1) 規制緩和に至った経緯 【第1回】で電子帳簿保存法の承認件数が少ないことが問題であるということに触れたが、国税関係書類のスキャナ保存については、書類のスキャンデータの真正性を担保するための措置が非常に厳しくなり、スキャナ保存した場合の経費削減や業務効率化といった効果が紙保存よりも見られないことなどが申請件数が増加しない一番の理由であった。 このような中、政府の中長期的なIT戦略に基づき、平成25年6月には「世界最先端 IT 国家創造宣言」が提言され、現行の制度はインターネットが普及する前のアナログ社会を前提として構築されたものであり、デジタル社会が前提とされたものに変革する必要があるとされ、ITの利活用を阻害している原因を明確にし、規制改革を行っていくこととされていた。 国税関係書類のスキャナ保存制度については、制度創設以来ほぼ10年が経過するにもかかわらず大きな見直しもされず、民間企業等や関係業界団体からの規制緩和要望を踏まえ、「規制改革実施計画(平成26年6月24日閣議決定)」において、規制が厳しすぎるとし、スキャナ保存の要件緩和に係る指摘がなされた。 このような状況を踏まえ、国税庁は適正公平な課税を確保しつつ、電子保存によるコスト削減等を図る観点から、要件緩和等の検討を行い、平成27年度税制改正大綱に国税関係書類のスキャナ保存関連法律の改正が盛り込まれ、平成27年1月14日閣議決定され、同年3月31日に公布された。 (2) 規制緩和の内容 国税関係書類のスキャナ保存制度については、これまで厳しい入力要件や保存要件が義務付けられていたが、今般の規制緩和による法改正により、入力方法や保存に関する要件は規制緩和された。 一方で、納税義務の適正な履行の確保の観点からは、国税関係書類の適正な保存については十分な真正性の担保措置を取るべきであるということから、入力・保存体制についての新たな要件が付け加えられている。 これがいわゆる「適正事務処理要件」である。 大規模法人などにおいては一定の内部統制が図られるよう企業内の体制がとられている会社も多くみられるが、組織内の相互チェックが十分に働かない組織において国税関係書類のスキャナ入力の真正性を保てる体制が構築されていることを新たな要件としたのである。ただし、スキャナ入力前の紙の書類の改ざんについての防止措置は、今回の要件には含まれていない。 具体的な改正内容は以下のとおりである。 以上が規制緩和の内容になる。 国税関係書類のスキャナ保存の申請をするためには、まず帳簿がきちんと備付け、保存されているかどうかを確認する必要がある。帳簿については次回(【第3回】)で詳しく解説するが、帳簿は事業年度中に行ったすべての取引を法令の規定通りに記録し、法定保存年数保存する必要がある。その帳簿に記録された1件1件の仕訳の証憑となるのが国税関係書類であるからである。これらの帳簿と書類のスキャンデータは、相互に確認できる項目を持ち、どちらからでも特定ができるよう相互関連性を保持する必要がある。 紙又はデータによる帳簿と書類が正しく保存ができていることが、スキャナ保存の申請を行う第一歩である。 (出典)国税庁パンフレット「電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の要件が改正されました(平成27年8月)」 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第15回】 「土地の賃貸借に関する契約書(駐車場賃貸借契約書)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 駐車場として土地を賃貸借するにあたり、駐車場賃貸借契約書を作成しました。印紙税の取扱いはどうなりますか? 記載金額のない第1号の2文書(土地の賃借権の設定に関する契約書)に該当し、印紙税額200円となる。 [検討1] 駐車場の賃貸借は土地の賃借権の設定に関する契約書に該当するか 駐車場における賃貸借の場合、考えられる事例は以下のとおりである。 事例は、土地の賃貸借に係る契約であり、課税文書に該当する。 しかし、駐車している車両の管理を行っている場合や、駐車場としての地面の整備又はフェンス、区画、建物の設置などをして駐車場として利用させる場合には、施設の賃貸借契約となり不課税文書となる。 [検討2] 土地の賃借権の設定に関する契約の記載金額は 第1号の2文書(土地の賃借権の設定に関する契約書)の記載金額は、設定の対価たる金額とされており、地代や賃借料は含まれない。なお、設定の対価たる金額には、権利金のほか、一般的に礼金や更新料とされており、後日返還が予定されない金額をいう。したがって、後日返還されることが予定されている保証金は契約金額には該当しない。 [検討3] 保証金の受領事実の記載があった場合 賃貸人が賃借人から保証金を受領した旨の記述が、契約書上に記載してあることから、賃借人が所持するものについては第17号の2文書(売上代金以外の金銭の受取書)にも該当するが、通則3のイの規定により、第1号の2文書(土地の賃貸借の設定に関する契約書)に該当する。 ▷ まとめ ◆所属の決定 ◆契約金額の意義(第1号の2文書(設定又は譲渡の対価たる金額)) (了)
〔平成27年分〕 相続税の申告実務の留意点 【第2回】 「小規模宅地等の評価減特例の改正」 ~特定居住用宅地等の適用対象面積の拡充、限度面積要件の緩和~ 税理士事務所ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 (1) 改正内容のポイント 平成25年度税制改正により、小規模宅地等の評価減特例(租税特別措置法69条の4)の改正が行われたが、そのうち、特定居住用宅地等の適用対象面積の拡充、限度面積要件の緩和については、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用される(平成25年改正法附則1⑤ハ、85②)。 (2) 特定居住用宅地等の適用対象面積の拡充 ① 改正内容 特定居住用宅地等に係る適用対象面積の上限が、「240㎡」から「330㎡」へ拡充された(措法69の4②二)。 新たな適用上限面積330㎡は、財務省立法担当者によれは、以下の理由により設定されたものとされている(財務省「平成25年度税制改正の解説」587頁)。 ② 特定居住用宅地等の定義 特定居住用宅地等とは、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、その被相続人の配偶者又は次に掲げる要件のいずれかを満たすその被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいう(措法69の4③二)。 特定居住用宅地等を一言で分かりやすく言えば、被相続人の居住していた家屋の敷地をイメージしておけば大半のケースでは正解となる。ただし、被相続人と生計を一にしていた親族の居住していた家屋の敷地も該当する可能性があるため(上記ハ)、該当するケースでは留意が必要である。 (3) 限度面積要件の緩和 ① 改正内容 特定事業用等宅地等及び特定居住用宅地等のみを特例の対象として選択する場合については、限度面積の調整を行わないこととし、それぞれの限度面積(特定事業用等宅地等400㎡、特定居住用宅地等330㎡)まで適用が可能とされた。ただし、貸付事業用宅地等を選択する場合については、従来どおりの調整を行う。 具体的には、次のとおりとなる。 ② 特定事業用等宅地等の定義 特定事業用等宅地等とは、「特定事業用宅地等」又は「特定同族会社事業用宅地等」をいう(措法69の4②一)。 (ア) 特定事業用宅地等とは 特定事業用宅地等とは、被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業を除く。以下イ及びハにおいて同じ)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たすその被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものいう(措法69の4③一)。 特定事業用宅地等を一言で分かりやすく言えば、被相続人の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業以外。事業的規模でなく業務的規模である場合も含む)の用に供していた家屋の敷地をイメージしておけば大半のケースでは正解となる。 ただし、被相続人と生計を一にしていた親族の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業以外。事業的規模でなく業務的規模である場合も含む)の用に供していた家屋の敷地も該当する可能性があるため(上記ロ)、該当するケースでは留意が必要である。 (イ) 特定同族会社事業用宅地等とは 特定同族会社事業用宅地等とは、相続開始の直前において被相続人及びその被相続人の親族その他その被相続人と一定の特別の関係がある者が有する株式の総数又は出資の総額がその株式又は出資に係る法人の発行済株式の総数又は出資の総額の10分の5を超える法人の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業以外。事業的規模でなく業務的規模である場合も含む)の用に供されていた宅地等で、相続又は遺贈によりその宅地等を取得した個人のうちにその法人の役員であるその被相続人の親族がおり、その宅地等を取得した親族が相続開始の時から申告期限まで引き続きその宅地等を所有し、かつ、申告期限まで引き続きその法人の事業の用に供されている場合におけるその宅地等をいう(措法69の4③三)。 特定同族会社事業用宅地等を一言で分かりやすく言えば、被相続人と一定の関係がある同族会社の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業以外。事業的規模でなく業務的規模である場合も含む)の用に供していた家屋の敷地を想定すればよい。 ③ 貸付事業用宅地等の定義 貸付事業用宅地等とは、被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業に限る。以下「貸付事業」という)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たすその被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいう(措法69の4③四)。 貸付事業用宅地等を一言で分かりやすく言えば、被相続人の不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業(業務的規模である場合も含む)の用に供していた家屋の敷地をイメージしておけば大半のケースでは正解となる。 ただし、被相続人と生計を一にしていた親族の不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業(業務的規模である場合も含む)の用に供していた家屋の敷地も該当する可能性があるため(上記ロ)、該当するケースでは留意が必要である。 (4) 相続税申告書様式 小規模宅地特例の適用面積は、相続税申告書様式の第11・11の2表の付表1で計算される。以下の赤線で囲んだ部分が、この税制改正により修正された部分である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 なお、平成27年分以降用の小規模宅地等特例の適用にあたっては、自己申告する者の増加を見込んで、他の特例適用と混乱しないよう提出書類の明確化が図られている。平成26年分までとは様式番号が異なるため注意しておきたい(詳しくは下記を参照のこと)。 (5) 実務に与える影響・留意点 特定居住用宅地等の適用対象面積の拡充、限度面積要件の緩和という小規模宅地特例の改正により、小規模宅地特例の適用対象となる面積は増加するため、効果的に活用できれば相続税を圧縮できる可能性がある。 特に、特定居住用宅地等(上限330㎡、80%評価減)と特定事業用等宅地等(上限400㎡、80%)とは完全併用可能となったため、該当する相続税申告事案では従前と比較して大幅な税額圧縮となる可能性が高い。しかし、実務的には該当するケースは多くはないと推測され、多くは相続財産が自宅土地のみの場合、又は自宅土地に加えて賃貸アパート敷地を有している場合、であると推測される。 上記を踏まえて、以下、相続財産が①自宅土地のみの場合、②自宅土地に加えて賃貸アパート敷地を有している場合において、改正による影響を考慮する。 ① 相続財産が自宅のみの場合 この場合、特定居住用宅地等の適用対象面積が330㎡までに上限が引き上げられたことのみ影響がある。 ② 相続財産が自宅土地に加えて、賃貸アパート敷地を有している場合 この場合、特定居住用宅地等の適用対象面積が330㎡までに上限が引き上げられたことにより、特定居住用宅地等として適用可能な面積が増加するだけでなく、貸付事業用宅地等として適用できる面積が、改正前と比較して、増加する可能性がある。 事例を示したほうが理解しやすいため、以下事例で示すこととする。 《ケース》 自宅土地:200㎡ 賃貸アパート敷地:400㎡ いずれも小規模宅地特例の適用要件を満たし、かつ、同一価格の路線価に接道しているとする。 〈改正前〉 小規模宅地特例適用対象面積 ・自宅土地:200㎡(<上限240㎡) ・賃貸アパート土地:33.3㎡ (算定式) 条文に従い、算定過程を示すと以下の通りである。 ・200㎡×5/3+貸付事業用宅地等×2=400 ・貸付事業用宅地等=(400-200×5/3)÷2=33.3 〈改正後〉 小規模宅地特例適用対象面積 ・自宅土地:200㎡(<上限330㎡) ・賃貸アパート土地:78.7㎡ (算定式) 条文に従い、算定過程を示すと以下の通りである。 ・200㎡×200/330+貸付事業用宅地等=200 ・貸付事業用宅地等=200-200×200/330=78.7 (了)
〈要点確認〉 非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度 ~昨今の事業承継税制等をめぐる改正事項~ 【第3回】 「平成27年度税制改正事項の確認とケーススタディ」 エアーズ税理士法人 税理士 瀧尻 将都 従来、1代目経営者(先代経営者)より贈与税の納税猶予制度を利用して、株式を取得した2代目経営者が、1代目経営者が存命中に、その株式を3代目経営者に対して贈与する場合、納税猶予が打ち切られ、納税が必要となっていた。 このような取扱いであったのは、1代目から2代目への相続税について、世代飛ばしを認めない趣旨からであった。 高齢化が進むことにより、1代目が超高齢で2代目も高齢である場合、3代目に納税猶予制度が使えないケースが見受けられ、制度が硬直的であるという批判が大きかったことから、平成25年度改正に引き続き、要件緩和がなされた。 平成27年度改正においては、厳格な適用要件が設けられている経営贈与承継期間後であれば、後継者が贈与税の納税猶予の適用を受けることを前提に、経営承継受贈者に係る贈与税が免除される仕組みが法制化された。 また、この改正に伴い、経営贈与承継期間内であっても、経営承継受贈者が経営を継続するにやむを得ない事情があって代表権を喪失した場合には、後継者が贈与税の納税猶予の適用を受けることを前提に、経営承継受贈者に係る贈与税が免除されることとなった。これらの改正は、平成27年4月1日以後に贈与又は相続若しくは遺贈により取得する非上場株式等に係る贈与税又は相続税について適用される。 1 平成27年度改正後の事業承継税制の概要 ① 連続贈与の創設 経営贈与承継期間経過後に、経営承継受贈者(2代目経営者等)が後継者(3代目経営者等)へ特例受贈非上場株式等を贈与(以下「猶予継続贈与」という)した場合において、その後継者(3代目経営者等)が贈与税の納税猶予制度の適用を受けるときは、その適用を受ける特例受贈非上場株式等に係る猶予税額が免除される。 ② 贈与者が死亡した場合のみなし相続制度の改正 贈与者が死亡した場合のみなし相続制度は改正前と同じであるが、再贈与後の1代目経営者が死亡した場合、2代目経営者からの贈与ではなく、1代目経営者から3代目経営者に相続があったものとみなして取り扱うこととなった。この場合、1代目経営者から2代目経営者への贈与(もっとも古い贈与)時の価額が相続税の課税価格となる。 ③ 一定のやむを得ない場合の経営承継期間内の贈与制度の創設 経営贈与承継期間内に、経営承継受贈者(2代目経営者等)が後継者(3代目経営者等)へ特例受贈非上場株式等を贈与した場合(身体障害等のやむを得ない理由(注1)によりその経営承継受贈者が認定贈与承継会社の代表者でなくなった場合に限る)において、その後継者(3代目経営者等)が贈与税の納税猶予制度の適用を受けるときは、その適用を受ける特例受贈非上場株式等に係る猶予税額が免除される(注2)。 (注1) 「やむを得ない理由」とは、例えば介護保険法の規定による要介護認定(要介護状態区分が要介護5に該当するものに限る)を受けたことなどをいう。 (注2) 免除の際、提出することとされている免除届出書は、その贈与に係る贈与税の申告書を提出した日から6ヶ月を経過する日までに提出しなければならない。 ④ その他 認定承継会社等に係る認定事務が都道府県に移譲された。 2 連続贈与の場合のケーススタディ 再贈与が行われた場合、世代飛ばしが可能となり、株価対策を実質的な税負担をすることなく行える。従来、要件が厳しすぎることもあって敬遠されていた制度であるが、今後、有効な対策の1つになると考える。 (了)