コーポレートガバナンス・コードのポイントと 企業実務における対応のヒント 【第6回】 「取締役会等の責務③」 ~取締役会の多様性確保について(4-11)~ あらた監査法人 マネージャー 米国公認会計士 阿部 環 〔取締役会等の責務〕 東京証券取引所(東証)は、2015年5月13日、「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」が取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード(原案)」(以下「CGコード」)を東証の有価証券上場規程の別添として定めるとともに、関連する上場制度の整備を行った。 前回、前々回に引き続き、本稿では、CGコード第4章「取締役会等の責務」から、「原則4-11. 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件」について、フランスでの実務を紹介しつつ解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。 〔取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件〕(原則4-11) 本稿では、この原則の前半部分である「バランス・多様性・適正規模」について解説することとする。 では「バランス・多様性・適正規模等」とは何か。この点、我が国より15年近く先駆けて、1999年にコーポレートガバナンス・コード(※1)を導入したフランスで、これらの開示がどういった項目として取り扱われ、どの程度浸透しているのかを見てみたい。 (※1) フランス私企業協会(AFEP)およびフランス企業連盟(MEDEF)の作業部会が策定したAFEP/MEDEFコードは1999年に初めて制定され、その後、数回の改訂を経て、現在参照されているものは2013年6月版である。 フランス金融庁(AMF)とは別に、2013年に設置されたコーポレートガバナンス高等委員会(以下、「CG高等委員会」)は、2014年10月21日付で初めて出した実施状況に関する報告書(※2)のなかで、コーポレートガバナンスに関連する開示について、勧告や項目別の統計を発表した。 (※2) Haut Comité de Gouvernement D’Entreprise – Rapport d’activité (Octobre 2014) 下の表はフランスの上場会社の「取締役に関する情報開示」についての統計である。 〈取締役に関する情報開示〉 (フランスCG高等委員会 2014活動報告書 50ページより) (※3) 英語名称をアニュアル・レポートとする会社もあるが、フランス語では「Document de référence」。AMFが推奨する様式の年次報告書一式。本稿では「年次報告書」とする。 (※4) フランス SBF120は、CAC40とユーロネクスト・パリ(旧パリ証券取引所)に上場されているフランス企業株で時価総額、流動性が最も高い80 銘柄から構成されている。 (※5) CAC 40(Cotation Assistée en Continu)は、株価指数の一種。ユーロネクスト・パリに上場されている株式銘柄のうち、時価総額上位40銘柄を選出して構成されている。 上記の結果は、我が国のCGコードが提唱している「知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模」についてすべてを網羅しているとはいえないが(例えば性別に関してなど)、すでに大多数の割合の会社が取締役についての情報を8つの項目について積極的に開示していることは特筆すべきであろう。 例えば2013年にはSBF120社のうちすべての会社が、任期の開始時期および終了時期、年齢、主な役割、他社との兼任の状況の5項目について開示しているのである。 ただし日本のCGコードは大きな方向性を示すプリンシプル・ベースであるのに対し、フランスのCGコード(先に挙げたAFEP/MEDEFコード)は同じプリンシプル・ベースでも具体的に開示すべき項目が提示され、数値目標が設定されている場合もあるので、このような統計をとる際に足並みがそろう結果となったということも言える。 また開示の一定水準を確保するために、CG高等委員会が「CGコード適用ためのガイド」(※6)なるものを出していることも、情報開示を充実させる後押しとなっているように思われる。CG高等委員会による性別に関する調査結果については独立して示されているため、後に説明する。 (※6) GUIDE D’APPLICATION DU CODE AFEP-MEDEF DE GOUVERNEMENT D’ENTREPRISE DES SOCIETES COTEES DE JUIN 2013 ところで日本の有価証券報告書でも、国籍以外の上記項目については開示されているが、フランスの企業における開示は情報も厚く、有価証券報告書上の開示とは趣旨が異なっている。1社1社をみていくと、各社ユニークな形式で情報を提供している。 有価証券報告書の開示については、いかに他社に倣うか、他社例を見つけるか、というのが作成のポイントになっている向きもあると思われるが、フランスではどれだけ独自性をもった開示ができるか、財務諸表の利用者にいかに有益な情報が提供できるか、というところがポイントになっている。まるで開示とはどうあるべきか、ということを語りかけているようである。 日本のCGコードが、ルール・ベースではなく、プリンシプル・ベースを採用したということは、今後日本の企業は開示を通じてどうステークホルダーにアピールしていくかが問われるであろう。日本の企業にとって、「多様性」「バランス」といった際に、ステークホルダーが何を重視するか、今回のCGコードの適用を機に各社は大いに考える必要がある。 〔多様性~女性の活躍促進〕 次に、避けては通れない話題であろう「女性の活躍促進」についても触れたい。日本のCGコードでは、原則2-4にて「女性の活躍促進を含む社内の多様性確保」を提唱している。 一方、フランスのCGコードでは、さらに踏み込んで、この「女性の活躍促進」という理念が、取締役会の構成比率にまで波及している。背景には非財務情報開示を義務付けるEU指令(※7)があるといえるであろう。具体的には、取締役会の女性比率を2013年(に開かれる株主総会)までに20%、2016年(に開かれる株主総会)までに40%にする、という目標をCGコードが課しているのである(フランスCGコード6.4)。 (※7) 欧州議会は、2014年2月26日、欧州委員会が2013年4月に提示していた企業の非財務情報開示の義務化に関する会計指令の改正案に合意した。これにより、従業員数500名以上の公益性の高いEU企業に対して、取締役会の多様性に関する企業の方針等についての情報開示が義務付けられることになる。 その結果、前述のCG高等委員会は2014年活動報告書にて、上場会社がどう対応したかについて公表している。この目標を達成した企業がどの程度あるのか、下図を見ていただきたい。 〈取締役会において、20%の女性比率を達成した割合〉 (表中の年は株主総会の開催年を示す。) この報告書によると2014年の株主総会開催時点における「女性比率20%」の達成率は、SBF120企業で95.3%、CAC40で97.2%である。 CG高等委員会では というコメントを発している(フランスCG高等委員会 2014活動報告書 23ページより)。 残念ながら、業種別による女性比率については、言及されていない。また2014年の株主総会時における女性取締役の平均比率は、SBF120企業で29.7%、CAC40で31.5%と、平均して取締役の3割を女性が占める結果となっている。 〈取締役会における女性比率〉 (表中の年は株主総会の開催年を示す。) 上述のような海外事例を参考にし、改めて我が国のCGコードが提唱している「取締役会における知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模」とは具体的に何かということを考える際、「女性」という切り口は基本的項目として出てくるのではなかろうか。 女性比率を高めることが、なぜフランスで提唱されているかということについては、歴史的な背景によるところと、国民の声を大きく反映していることもあり一口には語れないが、取締役の比率に限らず、女性の就業率や管理職比率を向上させるための活躍支援に関する施策または税制を政府がとっている。 単なる「女性の参画」という形だけの対応ではなく、異なる経験を持つ人の知恵を動員する、という本質的な意味を持たなければならないのは言うまでもない。 〔実効性~取締役・監査役の兼任〕 「多様性」の話の次に、取締役・監査役が本来期待されている役割を時間の制約なく十分に果たすことで、「実効性」の確保が図られるという趣旨をもつ補充原則4-11②に話を進めよう。 兼任の数については、「合理的な範囲にとどめる」として、具体的な数値設定がなされていない。よって、どう解釈するかは、各社に判断を委ねられる形となっている。各社が自主的に判断する、というのは我が国の国民にとっては難しい課題のようにも思えるが、CGコードが適用され各社の開示が始まれば、「合理的な範囲」の傾向は見えてくるものと思われる。 しかしながら、各社の足並みをそろえることは本コードの目的ではないため、会社ごとに個別の判断をし、「合理的な範囲」について話し合いを持ち方針を決めていくというプロセスが、多くの会社にとって有意義になることであろう。 ここで問われているのは、兼任している状況のなかで、取締役が適宜に十分な情報共有が可能であり、有事の際には即座に会社のために決断・行動ができるのか、ということでもある。 今回参考にしたフランスの場合、CGコード 19章で としている。その結果、SFB120のうち120社全社が兼任の状況について兼任数を開示しており、2013会計年度ではSFB120社のうち、94.4%の会社がこれを遵守している(CG高等委員会 2014活動報告書 76ページ)。 日本とフランスでは、CGコードの歴史も在り方も違うが、今後長期的な視点で取締役会のあり方を検討していく上で日本企業の参考となるかもしれない。 〔フランスの取締役会の構成と特徴〕 最後に、フランスの取締役会の構成と特徴に関する開示例を挙げることとする。 〈取締役会の構成と特徴〉 (フランス DANONE 2014年次報告書より) (※8) これは、2015年4月29日開催の定時株主総会にて、選任議案通りに取締役が選任されることを前提とした数値である。 上記の表をみていただくと、まず「多様性」を意識した開示をしているということがわかっていただけるであろう。 年々、独立取締役の比率が高まり、平均の任期は短くなっていることがわかる。また、女性の比率は年々高まり、平均年齢は若くなっている。「平均年齢が高い」ということは「経験豊富なベテランがそろっている」ともいえるので、必ずしも平均年齢が低ければよいということはないが、「多様性」という観点から、様々な年代の取締役がいれば、自ずと平均年齢は低くなる傾向にあるだろう。 DANONEの場合、総合食品メーカーとして子供から老人までを対象とした事業形態から、取締役に対し年齢や性別の「多様性」を求められるというのはある。「多様性」とは一概にこうだとは言えず、取締役の年齢に関しても、ビジネスモデルによって理想の形は違う。 では、パブリックセクターのEDF(フランス電力)やGDF Suez(フランス・ガス)ではどうなっているかというと、取締役の女性比率に関してはEDFで25%、GDF Suezで42.86%と意外にも高い比率を示している。国籍に関しては、EDFではフランス人が100%であり外国人取締役はいない。GDF Suezでは17人中3人(17.65%)の取締役が外国人であると公表している(出所:EDF 2014年次報告書 、GDF Suez 2014年次報告書)。 〔おわりに〕 本稿でお伝えたしたいことは、日本のCGコードも、フランスや英国のコーポレートガバナンス・コード同様、コンプライ・オア・エクスプレインの手法を採用しており、今後企業が形式的ではない開示を充実させていく上で海外の事例は参考になるであろうということ。もう1つは、ヨーロッパの中でフランスだけが特に細かく開示の規則があるということはなく、欧州の企業に投資するステークホルダーはこの程度の情報を受け取ることについて当然の権利ととる向きもあるであろう。 よって、外国人投資家をもつ、または今後外国人投資家を増やそうという日本の企業にとって、他国の開示情報は参考になるのではないか、ということである。 * * * 今回は取締役会等の責務について解説した3回目であるが、次回も取締役会等の責務について、「取締役会の有効性評価(4-11③)」に続く。この連載を通じて、コーポレートガバナンス・コードの企業実務における対応のヒントとなれば幸いである。 なお、資料として用いたフランス語の文献の日本語訳は、著者が本稿のために訳したものであり、正式に公表されている日本語訳ではないことをお断りする。 (了)
〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第8回】 「基幹システム導入は『経営のトップ』を巻き込め」 公認会計士 五島 伸二 はじめに 基幹システム導入に関わるベンダー選定の最終プレゼンの場。 出席した社長、役員、選定プロジェクトのメンバーに対し、パワーポイントを使って懸命に自社の優位性を訴えるベンダーの担当者。 プロジェクトメンバーは熱心に説明を聞いているが、社長や役員は退屈そうに配付された資料をパラパラめくっている。 ベンダーのプレゼンが終わり質疑応答の時間となっても、質問するのはプロジェクトメンバーばかりで、社長、役員からは特に質問は出ない・・・ ベンダー選定のプレゼンの場において、よく目にする光景である。 ではなぜ、社長、役員といったトップは、経営に大きな影響を及ぼす自社の基幹システム導入に関わるプレゼンに、関心を示さないのであろうか。 ▼なぜ経営トップはシステム導入に関心がないのか?▼ その理由は、簡単である。 ベンダー選定のプレゼンの場で論じられていることが、経営トップの“関心を引く内容”ではないからである。 そもそも「基幹システム」とは、販売業務、購買業務、在庫管理業務、経理業務など、企業の基幹業務を支える業務システムの集合である。 したがって、基幹システムの新規導入や更新ということになると、基幹業務で抱えている課題をなんとか新システムで解決しようと、業務上の要件を中心に検討する傾向がある。 例えば、経費集計を楽にしたいとか、在庫移動を自動処理したいとか・・・ そして、そういう議論の結果を反映したRFP(Request For Proposal:提案依頼書)が作成され、そのRFPに基づいてベンダーは提案書を作成し、最終選考まで残ったベンダーは提案書に沿って業務上の課題を中心にプレゼンを行う。 これでは、いくらベンダーが一生懸命プレゼンをしても、経営トップにとってはピンと来ないということになる。 基幹システムの導入は、多くの企業において、金額基準からも質的基準からも、取締役会決裁あるいは社長・役員決裁となることが多い。このためプレゼンの場にトップがいることは、形式的には当然である。 しかし、せっかくそのような重要な場が設けられているのに、経営トップに関心のある実質的な議論がされないというのはおかしな話である。 ▼本来は「経営レベルの議論」が必要▼ 基幹システムはあくまで業務システムであり、基幹システムの導入によって業務上の課題解決を検討することは、重要ではある。ただし、基幹システムは経営判断に必要な多くの情報(データ)を抽出する元になるシステムであり、また、基幹システムに自社の独自のビジネスプロセスを組み込むことにより、競争優位を保つ企業は実際に多い。 すなわち、基幹システムの導入は、「単なる業務システム」の導入ではなく、経営レベルの論点をしっかり議論して導入すべき「経営情報システム」の導入なのである。 そういう意味で、基幹システム導入に際し議論されるべき事項は、本来は経営トップの関心事であるはずにもかかわらず、選定のプロセスにおいて、上記のように業務上の要件を中心とした検討に偏向することにより、脇に追いやられてしまうのである。 このような状況は、基幹システムの正しい選定を誤らせるという非常に大きなリスクへつながるといえよう。 実際に筆者は、経営トップから、システム稼働後になって 「うちのシステムからは経営に必要な情報がちっとも出てこない!」 とか 「他社ではできていることがなぜうちではできないのか!」 といった話をよくお聞きする。ベンダー選定の段階でトップが深く関与しないことで、このような事態になることは避けたい。 ▼現場主義もほどほどに▼ 以上は、ベンダーの「選定場面」で経営トップの関与がないことによるリスクであるが、同様にその「導入過程」においても、トップの関与がないことが、大きなリスクへつながる。 すなわち、経営トップが十分に関与しないことにより、現場レベルの判断で業務上の要件を過度に盛り込み、スムーズに稼働開始までたどり着けない、あるいは予算をオーバーするといった問題が発生しやすくなるのである。 例えば、受注業務の事務担当者が長年の作業の中で培った細かな業務手順をシステム化しようとしたり、月に数回しか発生しない例外的事項をシステム化しようとしたり、現行の手作業ベースの生産管理手法をそのままシステムにのせようとしたり・・・ もちろん現場の声に耳を傾けるのは良いことであるが、本連載でも繰り返し述べてきたように、システム導入時には、どの要件を採用し、どの要件を切り捨てるかを「冷静に」判断しなければならない。現場だけにその判断を任せると、部門間の利害衝突という側面により、結論が出ないことがよくある。 さらには、各部署がほどほどに満足するように要件を決められて要件が膨れ上がったり、本当に経営に役立つ要件が後回しになったりという事例も散見される。 結果として、各部署からの要求の多くを盛り込んだ「要件定義書」が出来上がり、それをシステムで実装しようとして、上記のようにスケジュールやコストの面で問題が生じることになる。 このような事態は、経営トップが当初からこの場に参与し、経営レベルの判断で不要な要件をスパッと切り捨ててもらうことで、防ぐことができるのだ。 ▼では、いかにして経営トップを巻き込むか?▼ 基幹システムのベンダー選定や導入の場面において、経営トップの関与が重要なことはお分かりいただけたと思う。 では、実際にどうやって社長や役員を基幹システム導入の場に巻き込んでいけばよいのであろうか? 筆者は、基幹システム導入に彼らを巻き込むために、まずは以下の4点が重要と考えている。 上記の①~④を実践し、基幹システム導入に経営トップを巻き込むことで、現場主義偏重ではなく、本当の意味でその会社の経営に役立つシステムを導入することができる。 導入プロジェクトのメンバーは、絶えずトップが何に関心があるのか、何を困っているのかを把握し、トップの関心のある課題を報告したり、判断を仰ぐことで、積極的に巻き込んでいくよう意識して取り組むことが重要である。 ▼課題は経営トップのITリテラシー▼ もっとも、こう言っては身もふたもないのだが、トップが基幹システム導入に関連し種々の判断を的確にするには、トップ自身にある程度のITリテラシー、つまりITを活用する能力が求められる。 ただ実際は、それなりの規模の会社の社長が「私はITは素人なので・・」といった発言をされることがある。 正直なところなのだろうが、あまり望ましい発言ではない。 これからは、会計数字が読めないトップが経営の舵取りができないように、ITの素養がないトップに経営を任せるのが難しい時代になりつつあると言えよう。 ▼基幹システム導入はトップダウンで▼ 最後に、筆者が経験した経営トップダウンによるシステム導入の話をしたい。 ある外資系企業にERPを導入したときの話であるが、「商社の先にいる最終ユーザー向けの単価をどのように把握し管理するか?」というテーマの会議に、その企業の社長が毎回出席されていた。 なぜならその企業にとって、上記のテーマがERPを導入する主要な目的の1つであり、最終ユーザー向け単価情報が競争優位を確保するためのキーになるからである。 会議の場で社長は、自身の価格政策に関する考えを明確に示し、最終ユーザー向けの単価の効果的な管理を実現するよう部下に厳命し、我々コンサルタントにも何度も念押しをした。 そして、その論点が片付いたら、それ以外の業務上の細かな要件については優秀なマネージャーに任せ、社長が現場レベルの会議に出席されることはなかった。 そう、まさにトップダウンである。 基幹システムの導入とは、そういうことなのである。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第29話】 「そのアドバイス、踏み込みすぎていませんか?」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 * * * ◆ワンポントアドバイス◆ 工場内の数字については、製造の担当者や生産コンサルタント等に任せましょう。 その結果として出て来た数字をまとめて、経営実態を『見える化』し、予定数字の設定や予実対比に注力しましょう。 会計以外の分野に踏み込むのは、大きなリスクを伴います。 (了)
《速報解説》 国税庁「美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQ」を公表 ~過去取得分の減価償却は適用初年度のみ適用可能に Profession Journal編集部 既報のとおり、国税庁は、法人税基本通達7-1-1(書画、骨とう等)に定める減価しない美術品等の範囲について、取得価額20万円以上から100万円以上へと引き上げる見直しを行ったわけだが、この改正に関して、このたび同庁はHPに「美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQ」を公表した。 改正通達では、経過措置により過去に取得した美術品等について、再判定を行った結果、減価償却資産に該当するものは減価償却が可能としているが、そのチャンスは平成27年1月1日以後最初に開始する事業年度だけとする取扱いを明らかにしている。 ●減価償却資産に該当することとなる美術品等の範囲を再確認 改正通達は、平成27年1月1日以降に取得した美術品等に適用されることとなるわけだが、その美術品等の範囲は次のとおり。 さて、改正通達では、経過措置を設けており、それより昨年以前に取得した上表の条件(1)に合致する美術品等についても償却が可能となる。 経過措置により資産区分を減価償却資産へ変更する美術品等については、過去に遡って資産区分の変更を行うものではないため、平成27年1月1日以後最初に開始する事業年度(「適用初年度」)から減価償却を行うことになる点を明らかにしている。 ●減価償却方法の有利不利の検討が必要 また、減価償却を行う場合の償却方法だが、下表のとおり、それぞれの美術品について、①その美術品等を実際に取得した日に応じた償却方法か、②取得日を適用初年度開始の日とみなすこととして定額法又は200%定率法を選択できる。 また、中小企業者等については租税特別措置法67条の5(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例)を適用できる(経過的取扱い)。 (2015/5/28追記) 2015年5月27日付け国税庁ホームページにて下記の情報が公表されましたのでご注意ください。 「美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQの修正」 また、上記の償却パターンに加えて、経過措置を適用せず、従来どおり償却を行わないという選択肢もあるため、それぞれを適用した場合の有利・不利の判断を行うことが求められる。 ●経過措置の適用は適用初年度のみ可能に 上記のように、法人にあっては減価償却が任意であるため、平成27事業年度では経過措置によらず償却を行わない選択もあるわけだが、「平成28事業年度に償却を開始する」という計画も考えられる。 この点についてFAQでは、本改正が適用初年度に減価償却資産に該当するかの再判定を行い、減価償却資産に該当する美術品等については、その適用初年度以後の事業年度に限って減価償却を行うことができるとの改正の趣旨を説明している。 そのため、「適用初年度において減価償却資産の再判定を行わなかった美術品等については、従前の取扱いのとおり、減価償却を行うことはできない」ことを明示している。 「対象資産の減価償却はいつでも可能」と考えると、償却のチャンスを逃がすこととなるため、関与先には周知徹底を図りたい。 (了)
《速報解説》 東証より「コーポレートガバナンス・コード」確定版が公表 (適用は6月1日から) ~「有価証券上場規程の一部改正」 「コーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領」等も明らかに 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年5月13日、東京証券取引所は、「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う有価証券上場規程等の一部改正について」として、次のものを公表している。 「『コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度の整備について』に寄せられたパブリック・コメントの結果について」(以下「コメント対応」という)も公表されている。 「コーポレートガバナンス・コード」については、有価証券上場規程の別添として定められている。 「コーポレートガバナンス・コード」は、「コーポレートガバナンス・コード原案」(平成27年3月5日公表)を受けたものであり、「コーポレートガバナンス・コード原案」の内容から、変更はないとのことである。 「コーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領」も公表されているので、実際の記載に際しては注意が必要である。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 コーポレートガバナンス・コード関係の整備 「コーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領」の「Ⅰ コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び資本構成、企業属性その他の基本情報」の「1.基本的な考え方」の「(1)コードの各原則を実施しない理由」及び「(2)コードの各原則に基づく開示」では、記載内容に変更が生じた場合は、変更が生じた後最初に到来する定時株主総会の日以後に一括して修正することが可能であることについて述べられている。 また、同作成要領の「(2)コードの各原則に基づく開示」では、 と述べられている。 コメント対応では、上場会社が、コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しておらず、かつ、その理由の説明を行っていない場合には、実効性確保手段の対象となることが述べられている。 また、コーポレート・ガバナンス報告書の記載内容については、適時開示と同様に有価証券上場規程412条が適用されるとし、明らかな虚偽の内容を含む悪質な開示などは、当該規程の違反となることが述べられている。 (有価証券上場規程445条の3) (「コーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領」) 2 独立役員の独立性に関する情報開示の見直し (有価証券上場規程施行規則211条4項6号等) Ⅲ 適用時期等 コーポレートガバナンス・コード及び改正後の有価証券上場規程等は、平成27年6月1日から適用される。 (了) ↓お薦め連載記事↓
2015年5月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.119が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第29回】 「「海洋掘削装置」は所得税法上の「船舶」に当たるか?(その2)」 ~同一税法内部における同一用語の解釈~ 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 4 解説 (1) 概念解釈の道筋 まずは下図をご覧いただきたい。 《判定図》 概念の解釈の通例に従えば、まず、対象となっている概念の定義があるか(図中①)、定義はなくとも文脈等から意味を把握することができるか(図中②)。それが可能であれば、それによることになるのは当然であるが、そうでない場合には、まず、固有概念であるか(図中③)、次に固有概念ではないとした場合に、借用概念であるか否か(図中④)を検討することとなる。 そこで、所得税法161条3号の「船舶」についてみるに、同法には明確な定義がない(図中①)が、この規定の前後の文脈や沿革等から「船舶」の意義を明らかにすることができるであろうか(図中②)。 所得税法161条3号は、居住者又は内国法人に対する船舶の貸付けによる対価を国内にある不動産の貸付けによる対価と並べて国内源泉所得と規定しているのであるが、そもそも、この規定の沿革をみれば、同号にいう「船舶」の意義を明らかにできるかもしれない。 そこで、その沿革を確認すれば、昭和37年法律第44号による改正前の旧所得税法1条2項1号の規定の下において、次のような理由により改正されたものであると解される。 しかしながら、このような規定の文言や規定の沿革・経緯からは、所得税法161条3号の「船舶」の意義を直ちに明らかにすることはできそうにない。 (2) 固有概念該当性 すると、次に、固有概念であるかどうか(図中の③)について考える必要があろう。 所得税法は、同法161条3号のほか、同法2条1項19号、同法15条《納税地》5号、同法26条1項、同法58条《固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例》1項4号及び同法225条《支払調書及び支払通知書》1項9号において「船舶」という用語を用いているが、これを定義する規定は置いていない。 これらの規定を見ると、所得税法において「船舶」という用語は、不動産所得の定義、減価償却資産の定義、国内源泉所得の範囲について用いられていることが分かる。 「減価償却資産」について、前回に示した所得税法2条1項19号を受けて所得税法施行令6条《減価償却資産の範囲》4号は、所得税法2条1項19号に規定する政令で定める資産の一つとして「船舶」を掲げている。そして、所得税法施行令129条《減価償却資産の耐用年数、償却率等》の規定による委任に基づき定められた耐用年数省令1条《一般の減価償却資産の耐用年数》1項1号は、所得税法施行令6条4号に掲げる資産の耐用年数は耐用年数省令別表第1《機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表》に定めるところによる旨を規定している。ところで、耐用年数省令別表第1は、「船舶」を「船舶法(明治32年法律第46号)第4条から第19条までの適用を受ける鋼船」、「船舶法第4条から第19条までの適用を受ける木船」、「船舶法第4条から第19条までの適用を受ける軽合金船(他の項に掲げるものを除く。)」、「船舶法第4条から第19条までの適用を受ける強化プラスチック船」、「船舶法第4条から第19条までの適用を受ける水中翼船及びホバークラフト」及び「その他のもの」に大別して、その耐用年数を定めている。 その運用に関して、耐用年数通達2-4-4《サルベージ船等の作業船、かき船等》は、 と通達している。 ところで、船舶法20条は、「第4条乃至前条ノ規定ハ総トン数20トン未満ノ船舶及ヒ端舟其他櫓櫂ノミヲ以テ運転シ又ハ主トシテ櫓櫂ヲ以テ運転スル舟ニハ之ヲ適用セス」と規定している。このことから、同法4条から19条までの適用を受ける船舶とは、「総トン数20トン未満の船舶及び端舟その他ろかいのみで運転し、又は主としてろかいで運転する舟」以外の船であることが分かる。 しかしながら、耐用年数省令別表第1の種類欄の「船舶」には、「その他のもの」という項目があるところ、ここにいう「その他のもの」には、「しゅんせつ船及び砂利採取船」、「発電船及びとう載漁船」、「ひき船」といった「鋼船」や、「とう載漁船」、「しゅんせつ船及び砂利採取船、「動力漁船及びひき船」、「薬品そう船」といった「木船」のほか、「その他のもの」が列挙されている。 この構造又は用途としての「その他のもの」たる船舶のうちの細目としての「その他のもの」が何を指しているのかが判然としないことから、耐用年数省令別表第1の種類欄の「船舶」からは減価償却資産としての「船舶」が何を指しているのか、すなわち、「船舶」の範囲について解明することはできそうにない。明らかなのは、船舶法4条から19条までの適用を受ける船舶のみを指しているわけではないという点のみである。 すなわち、ここからは、①総トン数20トン未満の船舶、②端船、③ろかいのみで運転する舟、④主としてろかいで運転する舟も、減価償却資産としての「船舶」に含まれる余地があるということが分かる。 他方、所得税法26条1項は、 と定めている。 所得税法26条に規定する不動産所得における「船舶」については、課税実務の取扱いにおいては、次のように通達されており、総トン数20トン以上のもののみを指すとしている。 しかしながら、上記でみたとおり、減価償却資産としての「船舶」の規定においては、このような などという縛りはなく、小型船舶あるいはろかい船も、減価償却費の計算上は、「船舶」として扱われる可能性があると思われる。 仮に上記通達の解釈が妥当であるとすると、所得税法上の「船舶」には、多様な意味内容のものが含まれているということになりそうである。 本件において、東京地裁は、所得税法の規定における「船舶」の意義を条文の文言から明らかにすることができるものとはいい難いとする。所得税法26条1項と耐用年数省令別表第1を見る限りにおいては、判決の説示は妥当であるように思われる。 上記所得税基本通達の理解の仕方が正しいとすると、所得税法26条1項における、「船舶」という用語は固有概念として捉えており、他の法律からの借用概念としては捉えていないといえそうである。しかし、これはあくまで同法26条1項にいう「船舶」が固有概念であるということにとどまり、本件の争点たる同法161条3項の「船舶」については更なる検討が必要であろう。 (続く)
平成27年度税制改正における 「受取配当等の益金不算入制度」の見直しについて 【前編】 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 1 改正前の制度の概要 内国法人が受ける配当金については、二重課税排除のため、原則として、益金の額に算入されない。しかし、株式を保有する目的は一律ではなく、利殖が目的と考えられる場合には、配当金の50%相当額は課税の対象となる。これに対し、企業支配を目的とする場合には、原則通り、課税の対象とはされない。 利殖目的か、企業支配目的かは、株式に対する持株比率により判断することになっており、改正前は25%以上保有する場合が企業支配目的とされていた。ただし、借入金等の負債利子がある場合には、負債がない場合と比べて課税の公平を保つため、配当金から一定の計算式で得られた負債利子を控除した上で、益金不算入額を計算する。 2 改正の内容 平成27年度税制改正では、実効税率の引下げに伴う、代替財源の確保のための一環として本制度が見直され、持株比率基準の見直し、継続保有要件の見直し、非支配目的株式等の創設、負債利子控除制度の見直し、証券投資信託の収益の分配金に対する課税の見直しなどの諸点が改正された。 (1) 持株比率基準の見直し 改正前は、上記1で見た通り、持株比率25%以上保有する場合(関係法人株式等)を支配目的と考え、負債利子は考慮するものの、配当金の全額を益金不算入の対象とした。ただし、配当金を受け取る法人と、これを支払う法人との間に完全支配関係が成立している場合(完全子法人株式等)には、負債利子は考慮しないことになっている。 これに対して、改正後は、支配目的の基準が「25%以上」から、「3分の1超(33%超)」へと変更された。また、名称も「関係法人株式等」から「関連法人株式等」へと改正された。改正後の関連法人株式等の定義は次の通りである。 「関連法人株式等」とは、内国法人が他の内国法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く)の発行済株式又は出資(当該他の内国法人が有する自己の株式等を除く)の総数又は総額の3分の1を超える数又は金額の株式等を有する場合として政令で定める場合における当該他の内国法人の株式等(完全子法人株式等を除く)をいう。 (2) 継続保有要件の見直し 上記(1)で述べた関係法人株式等から関連法人株式等への改正については、持株比率だけでなく、継続保有要件についても見直しがされている点に留意が必要である。 具体的には、上記(1)に掲げた関連法人株式等の定義で「政令で定める場合」として、政令に詳細が規定されている。改正前は、配当の支払いに係る効力発生日以前6月以上継続して25%以上の株式を保有することが必要であった。 これに対して、改正後は、配当の計算期間の初日から末日まで継続して3分の1超の株式を保有することが必要となる。この場合の計算期間とは、原則として、前回配当の基準日の翌日から今回配当の基準日までの期間となる。ただし、前回配当の基準日の翌日が、今回配当の基準日から起算して6月前の日以前の日である場合には、その6月前の日の翌日から今回配当の基準日までの期間が計算期間となり、この期間継続保有していればよい。 例えば、年1回の決算配当を行っている法人であれば、その法人の株式の3分の1超を、今回配当の基準日以前6月の期間継続保有していれば関連法人株式等に係る配当となる。これに対して、四半期ごとに配当を行っている法人であれば、前回配当の基準日の翌日から今回配当の基準日までの期間継続保有していれば関連法人株式等に係る配当となる。 このように改正前は配当の効力発生日をもとに判定していたところ、改正後は配当の基準日をもとに判定することになった点、また、改正前は6月の継続保有期間が求められたのに対し、改正後は計算期間の初日から末日までの継続保有が求められ、その期間は必ずしも6月とは限らない点に留意が必要である。 (3) 非支配目的株式等の創設 改正前は、支配目的以外で保有する株式、すなわち、完全子法人株式等及び関係法人株式等のいずれにも該当しない株式等については、配当金の50%相当額が課税の対象とされた。 改正後は、支配目的以外で保有する株式に対する課税を強化するため、これが2区分に細分化された。すなわち、「非支配目的株式等」と「その他の株式等」の2区分である。ここで非支配目的株式等とは、次の通りである。 「非支配目的株式等」とは、内国法人が他の内国法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く)の発行済株式又は出資(当該他の内国法人が有する自己の株式等を除く)の総数又は総額の100分の5以下に相当する数又は金額の株式等を有する場合として政令で定める場合における当該他の内国法人の株式等(完全子法人株式等を除く)をいう。 この場合の5%の持株割合の判定をどのようにするかは「政令で定める場合」として政令に規定されている。具体的には、配当の支払いに係る基準日時点で行うとされていることに留意が必要である。 なお、基準日において有する株式のうちに、いわゆる短期保有株式等がある場合には、その短期保有株式等を有していないものとして判定を行う。 そして、非支配目的株式等に係る配当については、益金不算入割合が50%から20%に縮減された。 (4) 負債利子控除制度の見直し① 受取配当等の益金不算入額は、負債利子があるときは、配当金から株式等に係る負債利子を計算し、これを控除した上で算定する。自己資金で株式を取得した場合と、借入金で株式を取得した場合とで課税の公平を保つためにこのような計算になっている。ただし、完全子法人株式等に係る配当については、負債利子は考慮せず、益金不算入額を計算する。 平成27年度税制改正では、上記(1)及び(2)に記載の通り、支配目的の基準が「25%以上」から「3分の1超」へ改正されるとともに、支配目的以外で保有する株式等に係る配当についても「非支配目的株式等」と「それ以外」に細分され、後者については益金不算入割合が「50%」と改正前と同様であるが、前者については「20%」とされた。 これらの改正はいずれも課税対象を拡大するものであり、企業によっては、その影響が大きいことも想定されるところである。 そこで、平成27年度税制改正では、上記改正内容の緩和策として、負債利子控除制度が見直された。 すなわち、改正前は完全子法人株式等に係る配当を除き、すべて負債利子を考慮することとされていたが、改正後は、非支配目的株式等とその他の株式等に係る配当については負債利子を考慮せず益金不算入額を計算することになった。 その結果、負債利子を考慮するのは、関連法人株式等に係る配当のみとなる。 上記(1)から(4)の改正内容をまとめると下記の表の通りになる。 (了)
「特定の事業用資産の買換え特例(9号買換え)」 平成27年度改正のポイント 【第2回】 「改正前後の適用関係(経過措置)と 1~10号の適用期限・要件を整理する」 税理士 内山 隆一 ▷はじめに 平成27年度税制改正で延長・見直しが行われた特定事業用資産の買換え特例(措置法37条、65条の7)における9号買換えついて、前回は改正後の要件を確認したが、今回は改正前後の取扱い(経過措置)について整理するとともに、1号から10号までの本制度全体の適用要件・適用期限についてまとめた。特に個人(措置法37条)の適用期限については誤りやすいので留意しておきたい。 1 買換資産の範囲の見直し(改正措置法附則67、82) 下表のとおり、個人・法人とも譲渡資産の譲渡及び買換資産の取得がともに平成27年1月1日以後であった場合のみ、改正後の法律が適用される。 2 圧縮率の引下げ(改正措置法附則67、82) 下表のとおり、個人・法人とも譲渡資産の譲渡及び買換資産の取得がともに地域再生法の改正法施行日(平成27年8月10日 平成27年5月13日現在未施行)以後であった場合のみ適用される。 (追記) 地域再生法の改正法の施行日は、平成27年8月10日。 3 各特例の適用期限及び適用要件の整理 今回の改正により9号買換えの適用期限が平成29年3月31日まで延長されたため、この特例制度全体(法人・個人)の適用期限は以下のとおりとなった。 また、1号から10号までの譲渡資産・買換資産の要件をまとめると以下のとおりである。 【適用要件・適用期限(一覧)】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (連載了)
欠損金の繰越控除制度に関する 平成27年度税制改正事項 【第2回】 「経営再建中の法人及び新設法人における特例」 公認会計士・税理士 新名 貴則 前回は「控除限度額と繰越期間の見直し」について、中小法人等の該当・非該当による影響も含め解説したが、今回は経営再建中の法人及び新設法人に対して設けられた特例制度について解説する。 1 経営再建中の法人における特例 経営再建中の法人において、通常の法人と同様に欠損金の繰越控除限度額を設定すると、納税が再建の負担となってしまう可能性がある。 そこで、次のような事実が発生した法人については、特例措置が設けられた。 上記のような事実が発生した法人については、一定期間内の事業年度(※)においては控除限度額を控除前所得の全額とされたのである。 (※) 手続開始の決定等の日から、計画認可の決定等の日以後7年を経過する日までの期間内の日の属する各事業年度。 (*) 金融商品取引所への再上場等があった場合、再上場の日等以後に終了する事業年度は対象外 これについては、平成23年12月の税制改正によって繰越控除限度額が控除前所得の80%相当額とされた際にも、同様の経過措置が設けられていた。しかし、この経過措置は平成27年度改正による上記の特例措置に統合され、廃止された。 【事例】 ◆決算期・・・3月末決算 ◆更生手続の開始決定・・・平成27年5月1日 ◆更生計画の認可決定・・・平成28年8月1日 ◆中小法人等・・・該当しない この事例では、更生計画の認可決定があったのは「平成28年8月1日」であるから、この日以後7年を経過する日といえば、「平成35年7月31日」を指すことになる。 したがって、特例措置の対象となる期間は、 となる。 つまり、平成28年3月期から平成36年3月期までの各事業年度においては、控除限度額が控除前所得の全額となる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 新設法人における特例 設立後間もない法人においても、通常の法人と同様に欠損金の繰越控除限度額を設定すると、納税が法人の成長の負担となってしまう可能性がある。 そこで、設立直後の法人についても、一定期間内の事業年度(※)においては、控除限度額を控除前所得の全額とする特例措置が設けられた。 (※) 法人の設立(合併法人にあっては合併法人又は被合併法人のうちその設立が最も早いものの設立等)の日から、同日以後7年を経過する日までの期間内の日の属する各事業年度。 (*) 金融商品取引所への上場等があった場合、上場の日等以後に終了する事業年度は対象外 (*) 資本金等が5億円以上である大法人の100%子法人、及び100%グループ内の複数の大法人に発行済株式等のすべてを保有されている法人は対象外 【事例】 ◆決算期・・・3月末決算 ◆法人の設立・・・平成27年6月1日 ◆中小法人等・・・該当しない この事例では、法人が設立されたのは「平成27年6月1日」であるから、この日以後7年を経過する日といえば、「平成34年5月31日」を指すことになる。 したがって、特例措置の対象となる期間は、 となる。 つまり、平成28年3月期から平成35年3月期までの各事業年度においては、控除限度額が控除前所得の全額となる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (連載了)