此の国にも『日本企業』! 【第5回】 「《モンゴル》 モンゴルで暖かな省エネ住宅を ~(株)高組・マイベース~」 中小企業診断士 西田 純 今月は、北海道で長年培った高気密・高断熱住宅建設技術を応用してモンゴルで普及型の住宅建設事業を進める旭川市の(株)高組と、同社のモンゴルにおける現地法人であるマイベース社を取り上げます。 〈投資会社を通すことでリスクを低減〉 マイベース社は、北海道旭川市に本拠を置く建設会社の(株)高組が100%子会社としてモンゴルに設立した投資会社で、現地の建設会社と組んで住宅開発案件に参画することを主な目的にしています。 そのプロセスにおいて親会社たる(株)高組から派遣された技術者の指導により、現地建設会社の施工技術向上が図られるという仕組みになっており、(株)高組が自ら100%のリスクを取って独資で住宅建設をするというわけではないことがプロジェクトの安全性を高めていると言えます。 〈北海道で培った技術を海外へ〉 従業員わずか25名の(株)高組にとって、近年そして将来的にも市場縮小が続くことが予想される北海道で売上維持を図ることは容易なことではありませんでした。他方で北海道という立地を生かせるかもしれない機会として、サハリンやモンゴルでの住宅建設など、海外のビジネスチャンスに関する情報はさまざまなルートを通じ入手できていました。 日本式の高気密高断熱住宅は、同じ寒冷地のロシアやモンゴルでは一般的とは言えず、断熱性の低い旧式の住宅で寒い日は石炭をどんどん焚くのが一般的な方法です。冬のウランバートルは街が石炭の煙で煤だらけになり、PM2.5も高レベルで健康被害が懸念されているのだそうです。省エネ住宅を導入することで、冬の空気を少しでもきれいにできたら・・・(株)高組の取組みにはそんな思いが込められていました。 〈成功に繋がった公的資金の活用〉 サハリンへの住宅輸出を成功させた実績に続き、(株)高組は2011年に「JAPANブランド育成支援事業」を利用してモンゴルで市場調査を行う機会を得ました。さらに2012年、国際協力機構が新たに始めた中小企業向けのF/S支援事業において、モンゴルで寒冷地仕様省エネ住宅建設に関する調査を実施できたことが同社にとっての転機になりました。 調査を通じてモンゴルでは、近代的な住宅建設技術が導入されている事例は少なく、特に施工技術面で大きく立ち遅れていることが指摘されるとともに、経済の急成長に伴って新築住宅の需要が飛躍的に伸びる可能性があることが確認されました。 海外進出を考える中小企業にとって、信頼できるパートナー探しほど重要なプロセスはないと言っても過言ではないでしょう。(株)高組の成功要因の一つは、これら公的資金による複数の調査機会を上手く組み合わせて、じっくりとパートナー探しを行ったところにあります。 〈挑戦はまだ始まったばかり〉 2012年に登記を終えたマイベース社は観光事業と資産運用で毎年黒字を計上し、2015年1月には初の建設プロジェクトとして、現地パートナーと組んで2棟10戸のタウンハウスを完成させました。現在は現地住宅ローンを活用して、回収不能債権を作らないよう慎重に販売活動を行っています。 今後は住宅開発案件をさらに進めるとともに、日本政府のインフラ開発援助案件への参入を目指して、現地子会社社員を増員し、社員教育を強化しています。 (了)
2015年5月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.118が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
monthly TAX views -No.28- 「ピケティ氏による問題提起と金融所得課税」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 まずは以下の図表を見ていただきたい。 申告納税者の所得税負担率(平成25年度) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 上図は財務省の「申告納税者の所得税負担率(13年度)」サンプル調査の結果を表したもので、太い実線は、わが国の所得階層ごとの負担割合を示している。これを見ると、所得1億円まで負担率(実効税率)は増加するが、1億円を超えると負担割合は逓減する。 このような負担の逆転現象が生じる原因は、高所得者に偏った株式譲渡益や配当(金融所得)が、低税率(図表の時点では10%)で分離して課税されるためで、図表の点線部分はそのことを表している。 これが2014年からは20%に引き上げられた。その影響を筆者が簡単に試算したのが図表の薄いグレーの線であるが、1億円でピークをつけることは変わらない。 このような実効税率の推移は米国でも同様で、世界有数の富豪であるバフェット氏が、「自らの所得に対する実効税率は17%で、自分の秘書の税負担33%より低い」として高所得者の税負担の増加を求める運動を行ったことは有名である。 アベノミクスで株価や地価が上がり、トマ・ピケティ氏による著書『21世紀の資本』も契機となって、わが国でも格差議論が盛んにありつつある。仮に格差対策を税制で行うべきだという議論になれば、ここにその解決の糸口がある。 注意すべきは、「配当や株式譲渡益といった金融所得を勤労所得と合算して累進税率を課す総合課税を行うべきだ」という議論である。マイナンバーの導入がその追い風になる。 しかし今日のグローバルな資金移動のもとでは、金融所得に対して分離課税(あるいは勤労所得の税体系と比べて低い税率での課税)を基本とすることが世界の主流となっており、当面課税方式を変えるべきではない。 そこで、分離課税の税率を、例えば2、3%引き上げてはどうかという議論となるが、その際には、金融所得間の損益通算の範囲を拡大する、つまり預金利子をも含め、金融所得一体課税を拡充し投資家のリスクテイク能力を高める必要がある。またNISAも今以上に拡大する必要があるだろう。 アベノミクスの成果ともいえる配当や株式譲渡益の拡大に、多少の負担増を求めることは、決して唐突な考えではない。 (了)
マイナンバー制度と 税務手続 【第3回】 「本人確認の方法(概要)」 税理士 坂本 真一郎 今回からは、税理士等が個人番号を取り扱うケースに応じて、当該個人番号を収集・提出する際の「本人確認の方法」について見ていきたい。 【税理士等が個人番号を取り扱うケース】 税理士等が個人番号関係事務実施者(※1)として個人番号を取り扱う事務については、以下のケースに分類される。 (※1) 個人番号関係事務とは、事業者が番号法に基づき、従業員等の個人番号を給与所得の源泉徴収票、支払調書、健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届等の書類に記載して、行政機関及び健康保険組合等に提出する事務であり、この事務を行う者を「個人番号関係事務実施者」という。 なお、番号法2条9項では、「この法律において個人番号関係事務実施者とは、個人番号関係事務を処理する者及び個人番号関係事務の全部又は一部の委託を受けた者をいう。」とされている。 (※2) 税理士等が業務委嘱契約に基づき、顧問先である個人の納税者の個人番号のみを記載した所得税等の確定申告書等を作成し所轄税務署等に提出する場合(納税者の扶養親族の個人番号を取得しない場合)には、当該納税者そのものが個人番号関係事務を行わないことから、代理人である税理士等は「個人番号関係事務実施者」に該当しない(番号法2条9項)。しかしながら、このように個人番号関係事務を行わない場合であっても、顧問先の個人番号を含む特定個人情報を取り扱うことに変わりはないため、税理士法の規定を遵守し、必要かつ適切な安全管理措置を行う必要がある(「税理士のためのマイナンバー対応ガイドブック(日本税理士会連合会)」より抜粋)。 【本人から本人確認を行う方法】 個人番号利用事務実施者が、個人番号が記載された書類の提出を受ける場合、または、事業者等の個人番号関係事務実施者が番号法で規定されている利用目的により個人番号を収集する場合には、その番号が正しい番号であることの確認(番号確認)と、その番号が間違いなく本人のものであることの確認(身元確認)が必要となる。 原則として、 のいずれかの方法で確認する必要がある。 なお、これらの方法が困難な場合には、過去に本人確認を行って作成したファイルで番号確認を行うこと、雇用関係にあることなどから本人に相違ないことが明らかであると個人番号利用事務実施者が認めるときは、身元確認を不要とすることなども認められている。 詳しくは下記表1-1「本人から〈対面・郵送〉で本人確認を行う方法」のとおりである。 また、対面・郵送だけでなく、オンラインや電話により個人番号を収集する場合にも、番号確認と身元確認が必要となる。詳しくは下記表1-2「本人から〈オンライン〉で本人確認を行う方法」及び表1-3「本人から〈電話〉で本人確認を行う方法」のとおりである。 表1-2 「本人から〈オンライン〉で本人確認を行う方法」 表1-3 「本人から〈電話〉で本人確認を行う方法」 (注) 本人確認の上特定個人情報ファイルを作成している場合であって、個人番号利用事務・個人番号関係事務にあたって電話で個人番号の提供を受け、当該ファイルにおいて個人情報を検索、管理する場合に限る。 【代理人を通じて本人確認を行う方法】 個人番号利用事務実施者や事業者等の個人番号関係事務実施者が、代理人から個人番号の提供を受ける場合には、 という「3つの確認」を行う必要がある。 具体的には、 により確認が行われるが、これらの方法が困難な場合には他の方法も認められており、詳しくは下記表2-1「代理人を通じて〈対面・郵送〉で本人確認を行う方法」のとおりである。 また、オンラインや電話による場合も同様に、代理権の確認、代理人の身元確認及び本人の番号確認が必要となる。詳しくは表2-2「代理人を通じて〈オンライン〉で本人確認を行う方法」及び表2-3「代理人を通じて〈電話〉で本人確認を行う方法」のとおりである。 表2-1 「代理人を通じて〈対面・郵送〉で本人確認を行う方法」 (注) 郵送の場合は、書類又はその写しを提出 表2-2 「代理人を通じて〈オンライン〉で本人確認を行う方法」 表2-3 「代理人を通じて〈電話〉で本人確認を行う方法」 (注) 本人確認の上特定個人情報ファイルを作成している場合であって、個人番号利用事務・個人番号関係事務にあたって電話で個人番号の提供を受け、当該ファイルにおいて個人情報を検索、管理する場合に限る。 * * * 以上をふまえたところで、次回は、税理士等が個人番号を取り扱うケースごとに、具体的な「本人確認の措置」を見ていきたい。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第3回】 「建物賃貸借契約を合意解約したことに伴って貸主が受領した金員が 不動産所得に当たるとされた事例」 税理士 佐藤 善恵 (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 納税者(甲)の父(乙)は、ショッピングセンターの一部を区分所有して、A社に賃貸期間20年で賃貸していたが、乙の死亡後に、その権利を承継した甲が、その賃貸借契約を合意解約等した。これにより、A社は甲に対して1億9,000万円余り(本件金員)を支払うこととなった。甲は本件金員を譲渡所得として申告したが、税務署長はこれを不動産所得として更正処分をしたために争いとなったものである。 ここでは、本件の争点のうち、本件金員が不動産所得に係る収入金額に当たるか否かについて取り上げる。 なお、事実関係は、争点等に影響を及ぼさない範囲において、簡略化している。 〔事実関係〕 (1) 平成4年4月11日、A社はD社及び乙とともにショッピングセンター建設に関する事業協定を締結した。これにより①A社、D社及び乙は、建物(本件建物)を建設し、②A社、D社及び乙は、本件建物完成と同時に、本件建物を各々区分所有し、乙は自己所有部分をA社に賃貸することとした。 (2) 本件建物の敷地(本件土地)は、乙のほか十数名の者の所有する27筆の土地から構成されており、A社は、乙以外の者から、本件土地上に本件建物を建設する同意を得て、借地権の設定を受けた。 なお、本件建物のうち乙が区分所有する部分(本件区分所有建物)に対応する敷地の利用関係は建物所有を目的とする使用貸借とし、A社は敷地所有者から借地権の設定を受けた上、転借に関する承諾を得た。 (3) A社は、乙に対し本件建物の建設に必要な建築関係費用を建設協力金として支払う。 その建設協力金は、乙が所有する本件建物の区分所有権(部分)に関する賃貸借契約の成立と同時に、その70%を同契約の保証金に変更し、残りの30%を同契約の敷金の一部に変更する。 (4) 乙とA社は、平成4年11月27日、本件建物のうち乙が区分所有する各部分(本件区分所有建物)を、A社に賃貸する賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結した。なお、その内容は要旨次の条項を含んでいる。 (※) 建設協力金から変更される部分に当たる(上記(3)に対応)。 (5) 乙は平成17年1月3日に死亡し、甲が本件賃貸借契約に係る地位等を承継した (6) 甲とA社は、平成17年9月27日、本件賃貸借契約を合意解約すると同時に、A社は本件建物を利用したショッピングセンター事業から撤退して、この合意解約に伴い建設協力金(本件保証金の残高)及び本件敷金を清算すること、本件建物のうちA社及び他の区分所有者の所有部分の売却に併せて、甲の本件区分所有建物も第三者に譲渡することに双方合意した。 (7) 甲とA社は、平成19年11月26日、同日付で本件賃貸借契約を合意解約するとともに、以下の事項について合意した([本件解約合意])。 (8) 甲は、平成19年11月27日、A社との間で、甲所有土地(図解の部分)について、土地賃貸借契約([本件土地賃貸借契約])を締結し、A社が本件建物のうちA社及びD社の所有する区分所有部分を、甲所有土地上に持つことに合意した。この契約では、A社が甲に対して月額17万円の賃料を支払う旨の定めはあるが、借地権設定の対価(権利金)に関する定めはない。 〔地裁における双方の主張(要旨)〕 〔課税要件〕 ◆所得税法施行令94条1項2号◆ 〔東京地裁の判断(要旨)〕 ▷解説 裁判所は、本件金員の趣旨を判断するために、一連の経緯や甲の金銭面の事情等を観察している。A社は、赤字累積によってショッピングセンター事業からの撤退が不可避な状況下で、本件賃貸借契約の解約を申し出て、一方、甲としては、本件保証金等の返還の原資は、20年間の賃料収入を前提にしていた(と推認されている)。 このような状況を踏まえると、甲は、保証金等の返還にあたって、残存期間の賃料収入を確保する必要があり、本件金員はそのためのものであると解せられた。 〔判断の分水嶺〕 本件における判断の分水嶺は、裁判所が、本件解約合意について、甲の将来の賃料収入相当額をA社が補償することについて、両者が合意したものであると推認したところにある。 この点、甲は、本件金員に賃料補償の趣旨が含まれていなかったと主張し、その理由として、賃料補償の対象となる物件を譲渡する(本件区分所有建物をD社に売却する)ことを予定していたこと等を挙げていた。 しかし、裁判所は、①本件解約合意において、甲が本件保証金等の支払債務を引き続き負うことが合意されていたこと、②本件賃貸借契約における賃貸人の地位をDが承継することは予定されておらず、本件保証金等にかかる返還債務を承継することになっていたことを述べて、甲は、賃料補償が得られるからこそ、中途解約に応じて、本件区分所有建物を売却することにも応じたとみるのがむしろ自然であるとして、甲の主張を排斥した。 〔本判決が示唆するもの〕 本件は、当事者の合意内容について、推認を用いて判断した事例である(※)。 本件解約合意、本件売買契約及び本件土地賃貸借契約は、形式的には、甲主張のように一連をなしていると見えなくもない。しかし、当初の本件賃貸借契約の合意内容や契約に至る経緯をみれば、本件解約合意における当事者の真意は、自然と明らかになる。 納税者が主張するストーリー全体に不自然さがないかどうかは常に考えなければならない。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第5回】 「金銭又は有価証券の受取書①(課否判定のチェックポイント)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は物品販売業者です。 商品の販売代金を口座振込みにより受け取った際に、振込人に対して入金済のお礼状を送付していますが、課税文書に該当するのでしょうか。 また、課税文書に該当した場合、印紙税額はいくらになりますか。 (参考) 商品販売代金の受領事実を証明する目的で作成されたものであるため、第17号の1文書(売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書)に該当し、記載金額は3,240,000円、印紙税額は1,000円となる。 [検討1] この事例の場合、標題は「入金のお礼」となっており、内容は商品販売に係る金銭の受領事実を証明するものであるため、第17号の1文書に該当する。 [検討2] お礼文書中に請求書の発行の日、記号番号の記載があることにより、当事者間において商品売上代金に係る受取金額が明らかであるため、その請求書に記載されている受取金額が記載金額となる((注1)参照)。 なお、記載金額は請求書において3,240,000円(消費税額等込)と記載されているが、この場合は「消費税額等が区分記載されている」とはいえず((注2)参照)、全体が記載金額となる((注2)のように区分記載すれば記載金額3,000,000円で印紙税額600円)。 また、仮に入金のお礼状の文中に請求書の引用がなく、単なる入金の旨の記述だけであれば、印紙税額は記載金額なしの200円となろう。 (注1) 第17号に掲げる文書のうち、売上代金として受け取る金銭若しくは有価証券の受取書に当該売上代金に係る受取金額の記載のある支払通知書、請求書その他これらに類する文書の名称、発行の日、記号、番号その他の記載があることにより、当事者間において当該売上代金に係る受取金額が明らかであるときは、当該明らかである受取金額を当該受取書の記載金額とする(通則4のホ(3))。 (注2) 「消費税額等が区分記載されている」場合又は「税込価格及び税抜価格が記載されている」ことにより、その取引に当たって課されるべき消費税額等が明らかである場合には、消費税額等は記載金額に含めないとされる。 具体的な記載例は下記のとおりである。 ▷ まとめ 振込による入金の場合は、このように丁寧なお礼状を送付するケースは、以前に比べて少なくなっているものの、会社の規程書式ではなく営業担当者等が便宜上作成し送付していることにより、思わぬところで印紙税不納付の指摘を受けるケースがある。 したがって、文書を統括する部門においては規程書式以外の文書を担当者サイドで勝手に作成しないよう周知を図るとともに、作成する際には印紙税の検討を行うことも必要である。 なお、郵送でなく、FAXあるいは電子メールにて送信した場合においては現物の交付がなされない以上、たとえ「入金のお礼」をFAXあるいは電子メールにおいて送信したとしても、課税文書を作成したこととはならない。 また、作成者が保管している原本は、振込人に交付されるものではないため、課税文書には当たらず、FAXあるいは電子メールにおいて受信し、相手方においてプリントアウトされた文書についても、コピー文書と同様のものであり、課税文書には当たらない。 ただし、FAXあるいは電子メールを送信後に原本を郵送等において送付する場合には、その原本については課税文書に当たることとなるので注意が必要である。 (了)
法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第13回】 「外国法人の所得税」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 3-3 外国法人の所得税 3-3-1 外国法人に係る所得税の課税標準 《改正前》 外国法人は、国内源泉所得のうち、所得税法第161条第1号の2から第7号まで又は第9号から第12号までに掲げる所得の支払いを受けるときは、所得税の納税義務があることとされている(旧所法7①五)。 外国法人の所得税の課税標準は、PEを有する法人は、所得税法第161条第1号の2から第7号まで及び第9号から第12号までに掲げる国内源泉所得とされているが、PEを有しない外国法人の課税標準には、これらのうち161条第1号の2(組合事業利益の配分)は含まれていない。 これは、組合事業利益の配分は、国内においてPEを有して組合事業を行う非居住者・外国法人のわが国における申告を確保すべき源泉徴収の対象とするために同条第1号の国内源泉所得から切り離して別掲されたものであり、国内にPEを有しない外国法人には源泉徴収をしないこととしているためである。 《改正後》 帰属主義への見直しにより、国内源泉所得について改正が行われている。これにより、組合事業利益の配分に係る国内源泉所得は、「PEを通じて」組合契約等に基づいて行う事業から生ずる利益の配分で一定のものと改正されている。 この改正に伴い、PEを有しない外国法人が組合事業利益の配分所得を有することはなくなったため、PEを有しない外国法人の課税標準を定める規定を削除するなどの整備を行った(所法178)。 3-3-2 国内に恒久的施設を有する外国法人の受ける国内源泉所得に係る課税の特例 《改正前》 外国法人は国内源泉所得の分類に応じて定められた税率を乗じて計算した金額の所得税を課すこととしている(所法179)。ただし、その外国法人がPEを有するなど一定の要件を備え、かつ、所轄税務署長の証明がある場合には所得税を課さないこと(源泉徴収を要しない)としている(旧所法180①)。 《改正後》 帰属主義への見直しにより、外国法人に対しては、PEを有する法人と有しない法人に区分して法人税を課税することになった。そして、PEを有する法人はPE帰属所得に係る所得については法人税が課され、それ以外の国内源泉所得については、一定のものを除いて法人税が課されない(所得税の源泉徴収だけで課税関係が終了する)こととされた。 これにより、この制度の対象となるのは、PEを有する外国法人で一定の要件を備えているもののうち、所得税法第161条第1項第4号から第7号まで、第10号、第11号、第13号、第14号に掲げる国内源泉所得でその外国法人のPEに帰せられるものとされた(所法180①)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第42回】 「法人税基本通達改正の歴史⑪」 公認会計士 佐藤 信祐 前回までは、平成10年度税制改正、通達改正までの流れについて解説を行った。その後も法人税基本通達の見直しがなされているが、本稿においては、平成12年度の法人税基本通達改正と、不良債権処理についての事前照会について解説を行う。 11 平成12年度法人税基本通達の改正 平成12年度には、「法人税基本通達の一部改正について(平成12年6月28日、課法2-7)」が公表され、貸倒引当金についての通達が改正されている。 主なものは、貸倒損失として計上した金銭債権を個別評価金銭債権に対する貸倒引当金として処理することができるという点(法基通11-2-1の2、なお、平成14年2月15日課法2-1により法基通11-2-2に番号を変更)と、未収利息に対する個別評価金銭債権に対する貸倒引当金について定められたという点(法基通11-2-6の3、なお、平成14年2月15日課法2-1により法基通11-2-8に番号を変更)である。 このうち、前者については、貸倒損失と貸倒引当金との関連性を示すものであるため、本稿において解説を行う。 同通達においては、「貸倒引当金の損金算入に関する明細書」または「個別評価する金銭債権に関する明細書」(平成14年2月15日課法2-1により、「個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書」)が添付されていない場合であっても、それが貸倒損失を計上したことに基因するものであり、かつ、当該確定申告書の提出後にこれらの明細書が提出されたときは、法人税法52条4項に規定する宥恕規定を適用し、貸倒損失として損金の額に算入することができない場合であっても、個別評価金銭債権に対する貸倒引当金の要件を満たしているのであれば、貸倒引当金として損金の額に算入することが可能であることが定められた。 この趣旨として、 であると説明されている。 この結果として、貸倒損失として認識できなかったとしても、税務調査の段階で貸倒引当金として処理するように宥恕規定を適用することが可能になった。これはひとつの大きな改正であり、納税者にとってはリスクヘッジができるようになったということに等しい。 これに対し、平成23年度税制改正においては、貸倒引当金の設定は、金融機関や中小法人等に限定されてしまったため、大法人に該当する事業会社にとっては、あまり意味のある制度ではなくなってしまったと考えられる。 12 不良債権処理についての文書回答事例 前回解説したように、平成10年度の法人税基本通達の改正が行われ、法人税基本通達9-4-2において、合理的な再建計画に基づくものであるならば、銀行による融資先の債権放棄により生じた損失について、損金の額に算入することができることが明らかにされた。 しかしながら、全ての案件について事前相談を行うというのは現実的ではないため、まず、平成13年9月19日に、私的整理に関するガイドライン研究会から国税庁に対して行われた事前照会(「私的整理に関するガイドライン」に基づいて策定された再建計画により債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて)に対する回答により、私的整理ガイドラインに基づき策定された再建計画により行われた債権放棄等により生ずる損失について、法人税基本通達9-4-2の要件を満たし、損金の額に算入することができることが明らかにされた。 その後、平成15年5月2日に産業再生機構から国税庁に対して行った事前照会(株式会社産業再生機構が買取決定を行った債権の債務者に係る事業再生計画に基づき債権放棄が行われた場合の税務上の取扱いについて)、平成16年3月1日にRCCから国税庁に対して行った事前照会(「RCC企業再生スキーム」に基づき作成された再建計画により債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて)について、それぞれ同様の回答がなされた。 これに対し、平成15年7月28日に中小企業庁が国税庁に対して行った事前照会(中小企業再生支援協議会で策定を支援した再建計画(A社及びB社のモデルケース)に基づき債権放棄が行われた場合の税務上の取扱いについて)に対する回答は、モデルケースを提示し、当該モデルケースについては、法人税基本通達9-4-2の要件を満たすとしただけであったため、全てのケースについて、同通達の要件を満たすわけではないという結果になった。しかしながら、平成17年6月23日に中小企業庁から国税庁に対して行った事前照会《「中小企業再生支援協議会の支援による再生計画の策定手順(再生計画検討委員会が再生計画案の調査・報告を行う場合)」にしたがって策定された再建計画により債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて》に対する回答では、再生計画検討委員会を利用する案件については、法人税基本通達9-4-2の要件を満たすことが明らかにされた。 その後も、平成20年3月25日に経済産業省から国税庁に対して行った事前照会(特定認証紛争解決手続に従って策定された事業再生計画により債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて)、平成21年11月4日に企業再生支援機構から国税庁に対して行った事前照会(株式会社企業再生支援機構が買取決定等を行った債権の債務者に係る事業再生計画に基づき債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて)、平成25年6月14日に株式会社地域経済活性化支援機構から国税庁に対して行った事前照会(株式会社地域経済活性化支援機構が買取決定等を行った債権の債務者に係る事業再生計画に基づき債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて)、平成25年6月21日に株式会社東日本大震災事業者再生支援機構から国税庁に対して行った事前照会(株式会社東日本大震災事業者再生支援機構が買取決定等を行った債権の債務者に係る事業再生計画に基づき債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて)において、それぞれ同様の回答がなされるに至っている。 また、自然人に対する債権放棄については、東日本大震災の被災者を前提としているものの、平成23年8月11日に個人債務者の私的整理に関するガイドライン研究会から国税庁に対して行った事前照会(「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」に基づき作成された弁済計画に従い債権放棄が行われた場合の課税関係について)において、法人税基本通達9-6-1(3)により貸倒損失として損金の額に算入できることが明らかにされた。 そして、特定調停法についても、平成26年6月25日に、日本弁護士連合会、日本税理士会連合会から国税庁に対して行った事前照会(特定調停スキームに基づき策定された再建計画により債権放棄が行われた場合の税務上の取扱いについて)において、法人税基本通達9-4-2に従って損金の額に算入できることが明らかにされた。 このようなことから見えてくる法人税基本通達9-4-2の位置付けであるが、そもそも銀行は融資先からの回収を最大限にする責務をその出資者たる株主に負っており、安易な債権放棄をすることが認められない。すなわち、グループ会社ではなく、第3者である融資先に対する債権放棄であることから、それぞれに経済合理性のある判断が個別になされているはずである。また、銀行は債権の回収可能性を判断するプロであり、少なくても、課税当局よりはその判断能力は優れているはずである。その銀行における不良債権処理ですらこれほどまでに苦労して、法人税法上、損金の額に算入することが問題にならないようにしてきたという歴史的な経緯に目を向ける必要がある。 すなわち、事業会社の子会社に対する債権放棄については、連結財務諸表上は変わらないという判断で、どうしてもお手盛りになりやすいという側面がある。また、取引先に対する債権放棄についても、事業との兼ね合いもあり、どうしても甘くなってしまうという事例は存在し得る。 そうなってくると、銀行による融資先に対する債権放棄ですら苦労したのであれば、事業会社における子会社や取引先に対する債権放棄については、同様若しくはそれ以上に厳しい対応が行われることもあり得るという点に留意が必要になってくる。その結果、法人税基本通達9-4-2の適用はそもそもとしてハードルが高く、安易に認められるものではないという結論になる。 次回においては、平成15年度の法人税基本通達で新設されたデット・エクイティ・スワップを行った場合における債権者側の処理について解説を行う。 (了)
会計上の『重要性』 判断基準を身につける ~目指そう!決算効率化~ 【第2回】 「『重要性の原則』とは 『四角い部屋を丸く掃く』こと」 公認会計士 石王丸 周夫 第2回は「重要性の原則」についてのお話です。 まず手始めに、「重要性の原則」に関する以下の問題にチャレンジしてみてください(解答は問題のすぐ下にあります)。 いかがでしたか? 正解できたでしょうか。 上の3つの文章はいずれも企業会計原則に記載されている「重要性の原則」に関するものです。重要性判断について学ぶには、まず押さえておかなければならない基本知識といえます。以下、この解答について触れながら、解説していきます。 《簡便な会計処理とは、おでこに手を当てて熱を測ること》 本連載の第1回では、重要性判断が必要になる場面は2つあると述べました。今回はそのうちの【場面①】の方にスポットをあてます。【場面①】というのは、「重要性の乏しい取引に簡便な会計処理を適用する」という場面でした。 ではまず、簡便な会計処理とはどういうことなのかを確認しておきます。会計的に定義されているわけではありませんが、以下のように考えるとよいでしょう。 子供の熱を測るときに、おでこに手を当てて熱を測る方法、これが「簡便法」です。 これに対して、体温計で正確に測る方法、こちらが「原則法」になります。 簡便法というのは、決して「間違った方法」ではありません。体温が高ければおでこが温かくなるので、それを手で感じ取ろうという理屈です。正確性は劣りますが、手早く測定できるというメリットがあります。 会計処理の場合も同じです。簡便な会計処理というのは、正確性では原則法に劣りますが、迅速性では勝っています。そして、手を当てて熱を測る方法と同様、間違った方法ではないということも頭に入れておいてください。 《原則法と簡便法の使い分け》 では、原則法と簡便法をどのように使い分けるのかを考えてみます。 子供の熱を測るケースではこんな感じになります。 子供の体温を測るとき 同様に、会計処理の場合はこうなります。 会計処理方法の選択:原則法か簡便法か 重要性の基準値を設定し、取引1件当たりの金額がそれを上回る場合は原則法により処理し、下回る場合は簡便法も認めるという図式です。重要性が乏しい場合は「四角い部屋を丸く掃く」ことが認められるというわけです。 たとえば、費用をどの時点で計上するかについての処理基準を考えてみると、「発生主義」という原則法に対して、「現金主義」という簡便法があります。発生主義というのは、消費されたタイミングで費用計上する方法で、現金主義というのは、支払ったタイミングで費用計上する方法です。これを上の図に当てはめると以下のようになります。 費用の計上基準の選択:発生主義か現金主義か 重要性の基準値を境に、重要性ありの場合は発生主義が必須で、重要性が乏しい場合は現金主義によることが認められるというものです(⇒したがって、問題2のイの記述は誤りです)。 《簡便法は間違いではない》 上に述べた話は、企業会計原則に記載されている重要性の原則に従ったものです。 ここで注目しておきたいのは、最後の部分です。簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理だと述べています。 簡便法は間違った方法ではないということが、ここでお墨付きを与えられています(⇒したがって、問題2のアの記述は正しいです)。 《重要性の原則の適用例》 企業会計原則注解【注1】では、重要性の原則の適用例として5つの例を挙げています。 上記(1)の消耗工具器具備品は、たとえばスパナやドライバー等のことで、重要性が乏しければ資産計上の必要がないということになります(⇒したがって、問題2のウの記述は誤りです)。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第30回】 株式会社かわでん 「第三者委員会調査報告書(平成27年3月13日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【調査委員会の概要】 株式会社かわでんの概要の概要 株式会社かわでん(以下「かわでん」と略称する)は、1926(大正15)年9月創業。旧商号は川崎電気株式会社。配電盤、自動制御盤、分電盤などの配電制御設備メーカー。2004(平成16)年11月、日本証券業協会に株式を店頭登録。売上高18,179百万円、経常利益71,364百万円(数字はいずれも平成26年3月期)。従業員数564名。本店所在地、山形県南陽市。東京証券取引所JASDAQ上場。 調査報告書のポイント 1 調査に至った経緯――購買外注チーム担当者の不審 平成26年秋ころ、山形工場購買外注グループの担当者は、別の担当者に対し、平成24年9月に退職した元従業員X1から発注依頼の電話がかかってくることに疑問を抱き、チームリーダーに相談したものの、チームリーダーは問題ないとの認識を示すのみであった。その後、12月になって、グループマネージャーが、X1からの依頼に基づく発注が多額であることを知り、社内の職制上の上位者である工場長を通じ、情報を経営トップに報告する。 12月11日、取締役製造本部長、工場長、グループマネージャーらが山形工場に来社したX1を問い詰めたところ、不正な取引であったことを認めるに至ったため、12月19日に社内調査委員会を設置して調査を行うとともに、平成27年1月16日、本件不正行為の事実解明などを目的として、かわでんと利害関係を有しない中立・公正な外部の専門家から構成される第三者委員会を設置したものである。 2 調査報告書により判明した事実 (1) 本件不正行為の概要 本件不正行為は、かわでん静岡営業所の担当者であったX1が、山形購買外注チームの担当者D3に対し、電話による電線の発注依頼を行い、D3は、仕入先であるMM社に対し、X1の指定した場所に直送するよう発注を行っていたところ、納品された電線は、X1によって不正に取得され、廃品回収業者X2に転売されていたというものである。 (2) 本件不正行為による取引件数、発注金額 調査報告書によれば、本件不正行為は平成19年10月29日の発注から始まり、発覚直前の平成26年12月5日発注分までの約7年間、行われていた。 3 調査報告書の特徴 (1) 重なった従業員による不正行為 調査報告書によれば、かわでんでは本件不正行為発覚より前に4件の懲戒処分事案が発生していたということである。 このうち、本件不正行為と類似しているのが平成23年の福岡営業所における懲戒事案である。かわでんでは、社内調査委員会が実施すべき再発防止策・改善策として、以下の3点を挙げたうえで、②に関して、「単体部品発注のデータを注視し、異常発生を早期発見するための施策」も実施すべきと指摘していた。 しかし、こうした施策に関して取締役会において具体的議論が行われた形跡はなく、当然、全社的にこうした施策が実行された事実も認められない。 このような取締役会の姿勢を、調査委員会は、以下のようにコメントして、不正行為の発生、早期発見が実現しなかった要因の最初に置いている。 (2) 管理意識の不十分性 調査委員会は、次の要因として、「管理意識の不十分性」として、次の4点を挙げている。冒頭にも記したように、本件不正行為は、2年以上前に退職した元従業員からの電話による口頭発注依頼を「製造依頼書」など所定の書類を確認することもなく、購買外注チーム担当者が発注し、指定の納入場所に直送させていたというものであるが、そうした事務処理が異常視されなかった理由と読みとることもできよう。 (3) その他の要因 調査委員会は、購買業務を監視すべき他の部署についても、それぞれの牽制機能の不足を指摘している。具体的には次の3点である。 4 調査委員会による再発防止策 調査委員会は、問題点を「直接的」なものと「背景的事情」に分けて提示したうえで、それぞれについて再発防止策を提言しているので、確認しておきたい。 (1) 直接的な問題点に係る再発防止策 購買業務関係における以下のような問題点である。それぞれにつき、調査委員会の再発防止策の提言が掲げられているところ、特に「直送品の検収手続き」については、多くの他社事例でも問題点として指摘されており、不正リスクに対する感度がもう少し高ければ、もっと早くに不正を発見することができたのではないかと思料する。 (2) 背景的事情に係る問題点と再発防止策 背景的事情に係る問題点として、調査委員会は、3つのカテゴリーに分け、指摘を行っている。上述したように、原価差異の分析が行われていれば、不正行為の早期発見につながった可能性は大きいものと考えられるし、かわでんでは「セクハラ」に特化した内部通報制度しかなかったところ、外部の弁護士等を通報窓口とする内部通報制度が整備され、周知されていれば、最初に「元従業員からの発注依頼」という異常点を察知した購買担当者によって通報がなされ、早期発見につながった可能性もあった。 また、職制変更が行われても規程が変えられなかった結果、購買部門を管掌するのが工場長であるのか、購買部であるのかが不明になっていたこと、購買部門・管理部門の人員不足が、不正行為を早期に発見できなかった背景的問題点として指摘されている。管理部門に体制強化については、調査委員会は、わざわざ以下のようなコメントを経営陣に提言しているのが印象的である。 5 調査報告書公表後のリリース (1) 東京証券取引所による「公表措置及び改善報告書の徴求について」 東京証券取引所は、3月17日、「公表措置及び改善報告書の徴求について」を公表し、かわでんに対して、改善報告書を徴求したことを明らかにした。 東京証券取引が、公表措置及び改善報告書の徴求を行った理由として、同リリースには以下のような記述がある。 (2) 東京証券取引所への「改善報告書」の提出に関するお知らせ 上記の東京証券取引所による徴求に応えて、かわでんは、3月31日、東京証券取引所に対し「改善報告書」を提出した旨のリリースを出した。 そこでは、基本的には調査委員会の提言を踏襲しつつ、さらにかわでんの業務実態に即した再発防止策が並べられているので、まず、項目を引用したい。 【直接的事項の改善措置】 【全般的事項の改善措置】 調査委員会があえて言及した「提言を実行するための管理部門の人員強化」について、改善報告書では、「平成27年4月に他部門からの配置転換1名と新卒者1名の配置を実施」するとし、さらに「人員体制の見直しを毎年2月に」行うとしている。それとは別に「コンプライアンス事務局(プロジェクトチーム)を発足させる」こととしており、こうした施策との兼ね合いで一概には言えないかもしれないが、わずか2名の増員で、しかも1名は新卒者という人員増が「強化」とまで呼ぶことができるのかどうか、いささか心もとない気はする。 6ヶ月後を目途に東京証券取引所に提出することになる「改善状況報告書」にどのような改善措置の実施状況が報告されるのか、注視したい。 (了)