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会計上の『重要性』判断基準を身につける~目指そう!決算効率化~ 【第5回】「ガラス片は小さくても危ない」~質的重要性の話

会計上の『重要性』 判断基準を身につける ~目指そう!決算効率化~ 【第5回】 「ガラス片は小さくても危ない」 ~質的重要性の話   公認会計士 石王丸 周夫   重要性の基準値の算定方法を解説する前に、「質的重要性」という考え方に触れておきたいと思います。 まず手始めに、以下の問題にチャレンジしてみてください(解答は問題のすぐ下にあります)。 いかがでしたか? 正解できたでしょうか。 前回まで、金額の大小による重要性判断を前提に話を進めてきましたが、本問では、取引の内容や性質等による重要性という概念を扱っています。以下、この解答について触れながら、解説していきます。   《小さなガラス片が砂に混じっていたら》 【第4回】で取り上げた「砂場の話のたとえ」を再び使います。 これは、砂場の砂をふるいにかけてきれいにする話でした。子供が安全に遊べるように、大きな石が混じっていたら取り除いてあげるというのが、砂をふるいにかける目的です。 砂をふるいにかけると、ふるいの目を通り抜けていかないような石が網の上に残ります。その程度の大きさの石が取り除かれれば、目的は達成されるとします。 しかし、本当にそれで砂場の砂は安全になるでしょうか? 例えば、ガラス片が砂に混じっていたらどうでしょう。 しかも、ふるいの目を通り抜けてしまうような小さなガラス片だとしたら・・・ ふるいの下に落ちたものは、大きさ的にはふるいの目より小さなものばかりです。ところがガラス片は、いくら小さいとはいえ、鋭利な部分があるので、これが砂に混じっていては危険です。 つまり、ふるいの下に落ちたものは、砂に混じっていても問題ない(重要性が乏しい)とは断定できないのです。   《重要性は2つの面から見る》 会計における重要性判断も同じです。 金額的に重要性があるかどうかという側面のほかに、質的に重要性があるかどうかという側面も見ていく必要があります(⇒したがって、問題5のアの記述は正しいです)。 図で表すとこんな感じです。 ABCDについて、それぞれ見ていきましょう。 Aは量的(金額的)にも質的にも「重要」ですから、総合評価は、文句なしに「重要」です。 Bは質的には「重要でない」となっていますが、量的には「重要」です。量的に「重要」であることは、それだけでも無視できないだろうと考え、総合評価は「重要」になります。 ひとつ飛ばしてDですが、Dは量的にも質的にも「重要でない」ですから、当然ながら総合評価は「重要でない」です。 問題はCです。Cは量的には「重要でない」ですが、質的には「重要」となっています。先ほどのガラス片のたとえは、まさしくこのCになります。 質的重要性という考え方を持っていない人は、この総合評価を「重要でない」としてしまいます。しかし、そうしてはいけないことはすでにおわかりだと思います。内容や性質等について具体的に把握した上で、総合評価を下すべきです。   《質的重要性の有無の具体的チェック項目》 経理実務において、金額的に重要性がない場合でも、質的観点から注意しなければいけない事項としては、以下のようなものが考えられます。 上記は例示ですので、すべての事象が網羅されているわけではありません。同様の状況が認められれば、個別に検討して質的重要性を判断していくことになります。 なお、重要性判断における質的側面の検討の必要性については、日本公認会計士協会から以前公表されていた監査基準委員会報告書第5号「監査上の重要性」に見ることができます。 現在この考え方は、監査基準委員会報告書320「監査の計画及び実施における重要性」に引き継がれ、「特定の取引種類、勘定残高又は開示等に対する重要性の基準値」として整理されています。   (了)

#No. 124(掲載号)
#石王丸 周夫
2015/06/18

〔会計不正調査報告書を読む〕【第32回】株式会社リソー教育「当社元取締役等に対する損害賠償請求の提起に係る意見書」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第31回】 株式会社リソー教育 「当社元取締役等に対する損害賠償請求の提起に係る意見書」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者委員会調査報告書受領後の経緯】   株式会社リソー教育の概要 株式会社リソー教育(以下「リソー教育」という)は、1985(昭和60)年7月設立。TOMASという名称の学習塾を直営方式で経営している。売上高18,776百万円、経常利益978百万円、従業員数527名(平成27年2月期)。本店所在地は東京都豊島区。東証1部上場。 今回損害賠償請求の対象となったのは、リソー教育の元取締役2名と、リソー教育の連結子会社、株式会社名門会(以下「名門会」という)の元社長である。名門会は家庭教師派遣事業を営み、売上高4,770百万円、経常利益59百万円を上げている。   元取締役等に対する損害賠償請求 第三者委員会から調査報告書を受領したリソー教育は、そのわずか4日後、会計不正に主体的な役割を果たしていたとされた2名の取締役及び1名の子会社取締役の辞任を発表した(詳しくは本連載【第15回】を参照されたい)。 すなわち、当時、リソー教育代表取締役社長であった伊東誠氏(第三者委員会報告書ではC専務。以下本稿では、「伊東元社長」という)及び常務取締役であった赤尾光治氏(第三者委員会報告書ではD常務。以下本稿では、「赤尾元常務」という)並びに名門会代表取締役社長であった大森喜良氏(第三者委員会報告書では甲社長。以下本稿では、「大森名門会元社長」という)の3名が、取締役についても辞任したうえで、当時の岩佐実次代表取締役会長(第三者委員会報告書ではA会長。以下本稿では「岩佐会長」という)が代表取締役社長を兼務するというものであった。 今回公表されたリリースでは、この3名を相手方として、平成27年5月8日付で、東京地方裁判所に対して損害賠償請求訴訟の提起を行い、請求金額は各相手方に対してそれぞれ3億円とすることが公表され、同時に、本件訴訟においてリソー教育側の代理人となる弁護士の意見書が添附されている。 本稿では、リソー教育が元取締役等の責任をどのように追及し、本件訴訟の提起に至ったのかを検証したい。   意見書の概要 添附された意見書は4通である。関根修一弁護士らが作成した「リソー教育取締役会向け」「同監査役会向け」のものが各1通(以下、双方を総称して「関根弁護士意見書」という)、須藤修弁護士らが作成した「リソー教育取締役会向け」「同監査役会向け」各1通(以下「須藤弁護士意見書」という)である。 これは、リソー教育元取締役に対する責任追及は同社監査役が、リソー教育元取締役以外(具体的には名門会元取締役)に対する責任追及はリソー教育取締役が、訴訟を提起することに対応している。 なお、須藤弁護士意見書はあくまでセカンドオピニオンとしてのものであり、以下の概要については関根弁護士意見書からの引用である。単に「意見書」と記載した場合には、関根弁護士意見書を意味することをご了承いただきたい。 意見書の中で最も紙幅を費やしているのは、リソー教育代表取締役会長兼社長であり、名門会代表取締役会長であった岩佐会長に対する法的責任の追及の是非・可否である。 1 損害金額の算定 (1) 違法配当等 違法配当の総額約5,155百万円から、一部株主(その過半は岩佐会長からのもの)からの返還金約921百万円を控除する必要があり、売上返戻等引当金の一部取り崩し額約950百万円をも損害額の算定には影響するとしている。 (2) 課徴金 金融庁による徴金納付命令によって納付した課徴金は4億1,477万円であり、これは、「因果関係の割合的認定や過失相殺の類推適用により、課徴金の全部又は一部が、各役員等に対して責任が認められる損害となる」としている。 (3) 決算修正費用 九段監査法人(意見書では「Y監査法人」)に支払った決算修正費用5,040万1,890円も発生した損害である。 (4) 調査費用 リソー教育は、本件事案の調査費用として各専門家に対し、総額2億1,323万7,653円を支払った。 2 岩佐会長の法的責任 岩佐会長の法的責任の追及に関する意見書の主張をいくつか引用する。 その骨子は、岩佐会長には粉飾決算を行う(行わせる)動機がないこと、粉飾決算によって財産上の損失を被るのは大株主である岩佐会長であること、道義的責任と法的責任は異なるというものであり、結論としては、「岩佐会長に対しては、法的な責任を追及するのは、難しいものと考える」としている。 3 本件訴訟の相手方となった3人の元取締役等の法的責任と損害賠償請求額 意見書は、伊藤元社長と赤尾元常務について、不適正会計の事実を認識しており、剰余金の分配可能額を超える配当に関する責任(会社法462条1項)及び任務懈怠に対する責任(同法423条1項)の請求をすべきものと思料する、と結論づけている。 また、大森名門会元社長に対しては、リソー教育は、不法行為(民法709条)、あるいは第三者委に対する任務懈怠責任(会社法429条1項)による責任追及を行うことが可能である、としている。 ただし、具体的な損害賠償請求額については、「同人の資力も含め、どの程度の請求額(一部請求を含む)にするかについては、実務的な配慮は必要(伊藤元社長、赤尾元常務に対するもの)」、「資力等も踏まえて、それなりに考慮する必要(大森名門会元社長に対するもの)」と述べるに止まっている。 4 その他の取締役等の法的責任と損害賠償請求額 その他のリソー教育の元取締役らに関しては、すでに子会社の部下のいない課長に降格する処分がされ、実質的な懲戒を受けていることを理由に「二重処罰の禁止の精神も含め、訴訟提起については、慎重に判断する必要がある」という意見を受け、リソー教育は訴訟の提起を見送っている。 また、名門会の元取締役らについても、リソー教育との関係でいえば、「従業員的な立場にあるもの」であり、大森名門会元社長の指示により「やむなく応じた面もあり」得ること、在任期間が短いことなどを理由に、「責任追及まで行う必要があるのか疑問に感じざるを得ない」という意見を受け、こちらも訴訟の提起を見送っている。   意見書の特徴 1 第三者委員会報告書に対する批判的な記述 意見書の冒頭「検討方法と調査対象について」で触れられているが、関根弁護士意見書作成にあたって、第三者委員会委員長は報告書作成の前提資料の提出をせず、また、各委員もヒアリングに応じなかったということである。 それが理由かどうかは不明だが、意見書は全般に、第三者委員会報告書の表現に対して批判的である。例えば、違法配当の損害額に認定にあたっても、「疑わしきはリソー教育の不利益に」の精神によって算定された報告書の認定額ではなく、会社提供の資料に従っている。それ以外にも、気になる記述をいくつか引用する。 2 岩佐会長に対する法的責任追及の考え方 意見書は、岩佐会長の責任問題について、「道義的責任はともかく、法的責任は追及できない」という立場である。この結論だけを取り上げれば、第三者委員会報告書と意見書には大きな意見の隔たりはない。ではなぜ、元取締役等に対する損害賠償請求訴訟の提起にあたって、改めて「意見書」を公表する必要があったのだろうか。 これはまったくの私見であるが、第三者委員会報告書に対する「第三者委員会報告書格付け委員会(以下「格付け委員会」と略称する)」による厳しい批判に対する、リソー教育からのある種の反論が、本意見書を公表することによってなされているのではないかと思料する次第である。 2014年8月22日を評価日とする格付け委員会の評価は、C評価4名、D評価3名、F評価2名であった。なお、F評価とは、「内容が著しく劣り、評価に値しない報告書(不合格)」(格付け委員会HPより)ということであり、非常に厳しいものとなっている。 批判のポイントは、以下の3点に要約される。 上記①の批判に対して、あらためて、「法的責任の追及・判定」を行ったのが、今般公表された「意見書」であるとの位置付けが可能であろうし、「要約版」と「正式版」の異同についても、意見書には、以下のような記述が存在する。 さらにフォレンジック調査についても、以下のとおりの言及がある。 3 意見書が踏み込まなかった疑問点 上記のとおり、今般の意見書公表には、格付け委員会をはじめとする第三者委員会報告書に対する批判に対する反論であるという趣旨が強いものと思料するが、1点だけ、応えきれていない大きな疑問が残ったままである。 それは、格付け委員会委員である齊藤誠弁護士により指摘された次の事実である。 本件に関しては、リソー教育が株主等との間で係争中の訴訟に影響を及ぼす可能性が高いため、意見書には言及がなかったものと考えられるが、齊藤弁護士の言う「誰によって如何なる判断で行われたか」によっては、意見書の前提条件が変わってしまう可能性もあるのではないかという問題提起を行ったうえで、本稿を締め括りたい。 (了)

#No. 124(掲載号)
#米澤 勝
2015/06/18

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第85回】繰延資産③「創立費・開業費」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第85回】 繰延資産③ 「創立費・開業費」   仰星監査法人 公認会計士 薄鍋 大輔     〈事例による解説〉   〈会計処理〉(単位:千円) ① X1年4月(創立費支出時) (*1) 繰延資産として計上 ② X1年6月(開業費支出時) (*2) 繰延資産として計上 ② X2年3月31日(決算時) (*3) 6,000×12ヶ月/60ヶ月=1,200 (*4) 12,000×10ヶ月/60ヶ月=2,000 ③ X3年3月31日(決算時) (*5) 6,000×12ヶ月/60ヶ月=1,200 (*6) 12,000×12ヶ月/60ヶ月=2,400 以後、同様の会計処理を行う。   〈会計処理の解説〉 繰延資産全般に関する解説は、本連載【第83回】をご参照ください。 (1) 創立費 「創立費」とは、会社の負担に帰すべき設立費用、例えば、定款及び諸規則作成のための費用、株式募集その他のための広告費、目論見書・株券等の印刷費、創立事務所の賃借料、設立事務に使用する使用人の給料、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、創立総会に関する費用その他会社設立事務に関する必要な費用、発起人が受ける報酬で定款に記載して創立総会の承認を受けた金額並びに設立登記の登録免許税等をいいます。 創立費の会計処理は次の通りです。 なお、会社法では、創立費を資本金又は資本準備金から減額することが可能とされました(計算規則第43条第1項第3号)。しかし、実務対応報告第19号「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」では、創立費は、株主との間の資本取引によって発生するものではないことから、当該会計処理は認められないこととしています。 (2) 開業費 「開業費」とは、土地、建物等の賃借料、広告宣伝費、通信交通費、事務用消耗品費、支払利子、使用人の給料、保険料、電気・ガス・水道料等で、会社成立後営業開始時までに支出した開業準備のための費用をいいます。 開業費の会計処理は次の通りです。 (*) その営業の一部を開業したときも含む 〈按分計算のイメージ〉 ※7月は2014年7月に続き、金融商品会計を取り上げます。 (了)

#No. 124(掲載号)
#薄鍋 大輔
2015/06/18

「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」を活用するポイント 【第2回】「適用手続と留意点」

「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」を 活用するポイント 【第2回】 「適用手続と留意点」   社会保険労務士 佐藤 信   1 はじめに 前回は有期雇用特別措置法の適用対象となる者や特例の内容について紹介したが、今回は、主に特例の適用を受けるための手続きについて触れていくこととする。   2 特例の適用 次の手順により、労働契約法の無期転換ルールに対する特例の適用を受けことができる。 以下、各手順の詳細を見ていくこととする。 (1) 計画の作成 ① 高度専門職 雇用管理に関する次のいずれかの措置を行うこととする「第一種計画認定申請書」を作成する。 ② 継続雇用の高齢者 高年齢者雇用安定法に規定する高年齢者雇用確保措置(定年の引上げ・継続雇用制度の導入・定年廃止のいずれか)および継続雇用の高齢者の雇用管理に関する措置として次のいずれかの措置を行うこととする「第二種計画認定申請書」を作成する。 (2) 計画の提出 ① 提出先 雇用管理措置の認定申請は、本社・本店を管轄する都道府県労働局(または本社・本店を管轄する労働基準監督署を経由)に、認定申請書等を提出することにより行う。 (※) 郵送や電子申請による提出も可。 (※) 社内に複数の事業上がある場合、申請書は、事業場ごとに作成する必要はなく、本社・本店で一括して作成することで足りる。 ② 提出物 都道府県労働局には次のものを提出する。 (3) 認定 ① 通知 都道府県労働局における審査の後、認定通知書または不認定通知書が交付される。 認定通知書の交付は、原則として、申請した都道府県労働局(労働基準監督署経由で申請した場合は、労働基準監督署)で行われる。 高度専門職についての特例の適用を希望する場合であって、会社に複数のプロジェクトがあるときは、それぞれについて計画の認定申請を要することに注意を要する。 なお、継続雇用の高齢者については、一事業主につき複数の申請をする必要はない。 ② 変更の申請 認定後は、一定期間ごとに更新をするようなことは定められていないが、次のような場合には計画の変更申請を行う。 ③ 報告 都道府県労働局長は、特例に関する認定を受けた事業主に対し、認定に当たって提出した計画に記載された事項の実施状況について報告を求めることができるとされている。 ④ 認定の取消し 認定された計画が不適当なものとなった場合や、適切な実施のための指導と助言に従わない場合、認定を取り消されることがある。 この場合は、通常の無期転換ルールが適用され、当初の労働契約からの通算契約期間が5年を超えていれば、それまで特例の対象となっていた労働者であっても、原則どおり無期転換申込権が発生することに注意を要する。   3 関連事項 (1) 就業規則の届出 常時10人以上の労働者を使用する事業場では、実施する雇用管理措置の内容に関し就業規則の変更を行う場合は、所轄労働基準監督署長に届出をする。 雇用管理に関する措置について、労働者に対し意見聴取や周知を行うなど、関係労働者の理解と協力を得ながら進めていくことが望ましい。 (2) 労働条件の明示 特例の適用に当たっては、紛争防止の観点から、事業主は、労働契約の締結・更新時に、特例の対象となる労働者に対して、無期転換申込権が発生しない期間を書面で明示するとともに、高度専門職に対しては、特例の対象となるプロジェクトの具体的な範囲も書面で明示することとされている。   4 参考情報 有期雇用特別措置法と関連のある参考情報として、労働契約法第18条(いわゆる無期転換ルール)について触れていくこととする。 ① 無期労働契約への転換 この法律においては、通算契約期間が5年を超えた全労働者との有期労働契約が、自動的に無期転換をすることとされているわけではない。 通算契約期間が5年を超える労働者が、使用者に無期労働契約締結の「申込み」をしたときは、使用者が当該申込みを承諾したものとみなされる。したがって、申込みのない労働者と有期労働契約を継続することは可能である。 ② 労働条件 無期労働契約の労働条件(職務、勤務地、賃金、労働時間など)は、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一の労働条件(契約期間を除く)となる。ただし、別段の定め(※)をすることにより、変更することは可能とされている。 (※) 「別段の定め」とは 、労働協約、就業規則、個々の労働契約(無期転換に当たり労働条件を変更することについての労働者と使用者との個別の合意)が該当する。   5 終わりに 前回の2(2)において触れた通り、この特別措置法による特例の効果は、都道府県労働局長の認定を受けた日より前に遡って生じることとなる。 したがって、施行日(平成27年4月)以降に慌てて計画の作成や手続きを行うより、労使間で十分な話し合いの機会を設け、双方が理解・納得をした上で実施を進めていきたいところである。 有期労働契約を締結する労働者がいる場合は、労働基準法、労働契約法、パートタイム労働法(短時間労働者の場合)、など様々な法令を踏まえた上で取り組むべき事項があるため、運用に当たり不明点や不安な箇所がある場合は行政機関(都道府県労働局、労働基準監督署、公共職業安定所等)に相談の上で、労働条件の決定等を行っていくとよいであろう。 (連載了)

#No. 124(掲載号)
#佐藤 信
2015/06/18

社外取締役の教科書 【第1回】「社外取締役制度のねらいとは何か?(目的論)」

社外取締役の教科書 【第1回】 「社外取締役制度のねらいとは何か?(目的論)」   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 1 はじめに 最近の新聞や経済誌の見出しを眺めてみると、「社外取締役」という言葉を目にする機会が非常に多い。 しかし、 その具体的内容は何か? なぜ社外取締役の導入が声高に叫ばれているのか? 「社外」の取締役とはどのような立場の者か? 等々、漠然としたイメージだけでは答えの出ない問題も多い。 社外取締役を巡る現状は、ここ数年で目まぐるしい変化・発展を重ねている。 本連載では、すでに複雑なものとなっている社外取締役制度について一通りの知識を体系的に整理し、ビジネスパーソンあるいは会社と関わりが深い士業にとっての「教科書」となることを目標に解説したい。 なお、本連載において今後予定している項目は次の通りである。   2 社外取締役制度の“ねらい”とは何か? -導入の目的 解説の出発点として、そもそも「社外取締役」とは何を目指すものなのかを簡単に確認したい。 結論を先に述べれば、その目的は、 「ガバナンスの強化」 「社外のノウハウ・知見の取り入れ」 という2点に集約できる。 以下、この目的についてくわしく検証したい。 (目的その1) ガバナンスの強化 株式会社は、社会から集まってきたヒト・モノ・カネの結節点であり、外部から独立した「組織体」として存在する。 この組織体においては、会社設立以来の歩みとともに、様々な活動の歴史が刻まれていく。そのプラス面は、輝ける社史・業績となるが、マイナス面は各方面における「しがらみ」として蓄積されていく。 この「しがらみ」は、意識的にせよ無意識的にせよ、事業活動の停滞や非効率的な会社運営、会社内部での無意味な足の引っ張り合い等というさまざまな悪影響を会社に及ぼす。 それでは、この「しがらみ」を打破し、法令を遵守しながら業績を伸ばし、株式市場においても魅力的な存在となるためには、どうすればよいか。 その解決策の1つが、「社外取締役制度」なのである。 【図表1】 社外取締役を必要とする土壌 例えば、これまで長年にわたり、「身内」だけで活動してきた会社組織に、ある日突然外部から役員が参画してきたとする。社外から来た役員は、社内のしがらみに縛られず、一歩引いた第三者の視点から、容赦のない疑問や提案を突きつけてくるだろう。 そのため、経営戦略を議論する取締役会の場でも、従前までの穏当なもの、社内政治に配慮したもの、「なあなあ」な取り組みでは済まされず、社外役員からの問題提起に対して合理的な説明ができるか、新しい視点からの提案をどう受け止めるか等が問題とされる。 その結果、社外取締役による監督効果が働くことで会社を巡る意思決定の過程が透明化され、「身内」ではない株主や取引先、一般消費者といったステークホルダーの理解を得やすい事業活動を行うことが期待できる。 アメリカのブランダイス判事は「日光は最良の消毒薬」との言葉を残しているが、その趣旨は社外取締役による経営の監督にもあてはまるだろう。 これが、「ガバナンス(企業統治)の強化」という観点である。   (目的その2) 社外のノウハウ・知見の取り入れ 他方、外部の知見をより直接的に自社の経営戦略に活かすために、社外取締役制度を導入する場合も多い。 例えば、企業がさらなる成長戦略を打ち出したい場合、実際に会社経営の最前線に立ち、数々の難しい局面における経営判断をなした経験のある経営者に参画してもらうことで、その経験や客観的な視点を自社に取り入れたいという場合がある。 また、自社の社外取締役に著名な財界人や名物経営者、大物官僚OBに就任してもらうことで、対外的な信用を増したり、その人脈を通じた取引チャンネルの拡大を期待する場合もある。 会社経営上の意図としては、以上のような「社外のノウハウ・知見の取り入れ」という観点が重視されていることも見逃せない。   3 社外取締役制度の潮流-近年の動向 (1) アベノミクスと連動する形での会社法改正 以上のような目的を実現するため、過去にも数々の場面で社外取締役の積極的導入が提案されてきた。しかし、これには消極的な企業が多数であった。その理由としては、表向きは「我が業界は特殊であり、馴染みのない方に事業経営を理解してもらうことは困難である」とか「当社を取り巻く複雑な経営環境を適切に理解してもらえる人材が見当たらない」等といったものが挙げられることが多かったが、その本音は、「外部から自社の経営に異論を挟まれることを避けたい」という面も多分にあったものと思われる。 そのような状況が続く中で、安倍政権は“アベノミクスの第三の矢”として「新たな成長戦略」を掲げ、その具体化として「日本再興戦略~JAPAN is BACK~」を発表した。 そこでは、産業の新陳代謝の促進を図る一環として、社外取締役の導入を推進する会社法改正等を含めた「コーポレート・ガバナンスの強化」が明示されるに至った。 社外取締役の導入強化を盛り込んだ平成26年会社法改正(平成27年5月1日施行)は、このような背景のもとに成立したものである(日本再興戦略も2014年に改訂がなされている)。 (2) ソフトローの拡充化 上記のように、これまで我が国において「会社のあり方」を定める役割は、伝統的に会社法等の法令(いわゆるハードロー)が担ってきた。法治国家であれば当然のことであろう。 これに加え、近時注目されているのは、法的強制力はないものの、国や企業が拘束感を持ち従っている各種の行動規範(ソフトロー)の存在である。 これは公益的な存在が作成することが多く、例としては、JAS規格や証券取引所の上場審査基準等が挙げられる。 社外取締役の導入に関して実務上のインパクトが大きかったのは、2009年12月、東京証券取引所における「有価証券上場規程」の一部変更であった。 これは、独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役)の1名以上の確保を義務付けたものである。 しかし、社外監査役の導入により上記基準をクリアした企業が多かったため、東証一部上場の会社でみても、社外取締役を導入したのは過半数をわずかに超える程度であった。 そのため、より一層のガバナンス強化として、前記の「日本再興戦略」を踏まえ、2014年2月には金融庁設置の有識者会議が、機関投資家を対象とした「日本版スチュワードシップ・コード(「責任ある機関投資家」の諸原則)」を公表した。 これは、投資先企業の企業価値の向上や持続的な成長を促すために、責任ある機関投資家として有用と考えられる諸原則を定めたものである。 投資を受ける企業としても、この諸原則を念頭に置いて事業活動を行う必要があり、企業の持続的成長の基盤となるガバナンス強化への取組みとして社外取締役の導入姿勢が関係してくることになる。 加えて、2015年3月には金融庁と東京証券取引所を共同事務局とする有識者会議が、上場企業を対象とした「コーポレートガバナンス・コード」の原案を公表、5月13日付けで有価証券上場規程の別添として確定され、同年6月1日から適用が開始されている。 この動きに伴い、有価証券上場規程も一部変更され、独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきこと等が定められた。 このように、社外取締役制度を含めた会社を巡る公的規制は、ハードローとソフトローが重層的な構造をなす、非常に複雑な体系となっている。 【図表2】 会社を巡る規制の重層化 以上の基本的観点を前提として、次回から制度の内容を具体的に解説していきたい。 (了)

#No. 124(掲載号)
#栗田 祐太郎
2015/06/18

コーポレートガバナンス・コードのポイントと企業実務における対応のヒント 【第8回】「コーポレートガバナンス・コードが求める情報開示の拡充について(4-1、8、9、11)」

コーポレートガバナンス・コードのポイントと 企業実務における対応のヒント 【第8回】 「コーポレートガバナンス・コードが求める 情報開示の拡充について(4-1、8、9、11)」   あらた監査法人 シニアマネージャー 公認会計士 平岩 修一   〔CGコードの各原則に基づく情報開示〕 東京証券取引所(以下「東証」)は、2015年5月13日、「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」が取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード(原案)」を受けて、「コーポレートガバナンス・コード」(以下「CGコード」)を東証の有価証券上場規程の別添として定めるとともに、関連する上場制度の整備を行った。CGコードおよび改正後の有価証券上場規程等は、2015年6月1日に適用が開始されている。 CGコード原則のうち特定の事項を開示すべきとする11原則[図表1]については、その開示の受け皿として、上場会社等に提出が義務付けられる「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の様式に新たに「コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示」の記載欄が追加された。 [図表1] CGコード原則のうち特定の事項を開示すべきとする11原則 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) CGコードより筆者要約 当該「コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示」および「コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由」の記載欄を含む、新様式での「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」[図表2]の提出は、2015年6月1日以後最初に開催される定時株主総会の日から6ヶ月を経過する日までに行うことが容認されている。なお、これ以外の記載欄については、従来どおり、定時株主総会の日以後遅滞なく更新することが要請されている。 [図表2] 新様式での「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」のイメージ (※) 東証の記載要領より筆者作成  本稿では、特定の事項を開示すべきとする11原則のうち、「原則4-1.取締役会の役割・責務(1)」、「原則4-8.独立社外取締役の有効な活用」、「原則4-9.独立社外取締役の独立性判断基準及び資質」、「原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件」について、情報開示の拡充への留意点を解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。   〔取締役会の役割・責務(1)〕 (原則4-1) 基本原則4の中で、取締役会の主要な役割・責務として「(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと」が挙げられていることを受けて、原則4-1においてその内容が示されている。 補充原則4-1①においては、原則4-1の経営戦略や経営計画等についての建設的な議論を行うために、取締役会と経営陣の権限分配が適切かつ明確に定まっていることが前提条件にあり、経営陣に対する委任の範囲を定め、その概要の開示が求められている。 この補充原則の背景には、現状、我が国の多くの取締役会において、その決議事項となる「重要な業務執行」を広範に捉えすぎており、結果的に取締役会は監督・業務執行の両面を担い、業務執行者自らが監督するという矛盾が生じている、という問題認識があると考えられる。 この点は、我が国の上場会社の多くが取締役会を毎月(年間12回)開催していることに対して、コーポレートガバナンス・コードを長年運用しており、監督機能を主たる責務とする英国の取締役会の開催頻度は年間平均で8.2回(2014年)という調査結果(※1)にも表れている。 (※1) Grant Thornton「Corporate Governance Review 2014」 基本原則4および原則4-1の趣旨から、意思決定の迅速化と監督機能の強化を図るために、取締役会は、あらゆる事項を検討・決定する場ではなく、会社の戦略的な方向付けに関する重要事項を建設的に議論し、決定する場でなければならない。このような観点から、取締役会の決議事項は、会社法の許す範囲で極力限定したうえで、業務執行者たる経営者の役割・責務、つまり委任の範囲を改めて確認し、明確に定めることが求められている。 開示される情報は、経営における監督機能(=取締役会)と執行機能(=経営者)の分離の観点から、情報利用者が経営陣に対する委任の範囲を理解することができる程度の概要を含むことが求められていると考えられる。   〔独立社外取締役の有効な活用〕 (原則4-8) 独立社外取締役は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上において助言や監督を行うという極めて重要な役割・責務を果たすことが期待されている。しかし、原則4-8の背景説明にもあるとおり、「単にこれを設置しさえすれば会社の成長が図られる、という捉え方は適切ではない。・・・その存在を生かすような対応がとられるか否かが成否の重要なカギとなると考えられる」。その存在が十分に活かされる可能性を高めるという観点から、原則4-8において複数の独立社外取締役を設置することが求められている。 独立社外取締役の比率の更なる向上へ向けた自主的な取り組みを促す観点から、原則4-8において少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社に対しては、その取り組みの方針を開示すべきとされている。 具体的には、自社の状況から、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える理由や背景、どの時期までにどういった取り組みを行っていくのかなどの見通しを示すことになると考えられる。 なお、2015年6月1日付で3社(大東建託株式会社、株式会社みずほフィナンシャルグループ、サントリー食品インターナショナル株式会社)がすでに新しいCGコードに対応したコーポレート・ガバナンスに関する報告書を提出している。 [図表3]はCGコードの原則4-8に関連する事項のこれら企業の開示内容を要約したものである。 [図表3] CGコードの原則4-8に関連する事項の開示内容の要約 (※) 東証のコーポレート・ガバナンス情報サービスから検索した各社のコーポレート・ガバナンスに関する報告書(最終更新日2015年6月1日)およびその参照先より筆者要約   〔独立社外取締役の独立性判断基準及び資質〕 (原則4-9) 社外取締役の独立性判断基準には、会社法の社外性要件に追加的な条件を加えた、金融商品取引所、すなわち東証が定める独立性基準が存在している。しかしながら、CGコードの原則4-9の背景説明にもあるとおり、これらの独立性基準は「抽象的で解釈に幅を生じさせる余地があるとの見方」や、「機関投資家や議決権行使助言会社による解釈が様々に行われる結果、上場会社が保守的な適用を行うという弊害が生じているとの指摘」もあり、さらには「幾つかの点において、諸外国の基準との差異も存在する」とされている。 このような解釈の幅に起因する様々な問題認識から、原則4-9では、独立社外取締役に期待されている役割・責務を独立性の観点から担保するために、東証の独立性基準をベースとしつつも、自社に合った独立性判断基準を策定し、それを開示することが求められている。 この策定にあたっては、各社の事情を考慮して行われるべきであると考えられるが、例えば自社における外国人投資家比率も考慮し、諸外国のルールを参照することや、機関投資家や議決権行使助言の基準も参考にすることも有用である。 自社の独立性判断基準を開示することは、投資家などのステークホルダーにとっては、CGコードが独立社外取締役の設置を求める趣旨、つまりは有効な助言、監督、少数意見の反映などが、独立性の面から担保されているかを判断する材料になると考えられる。このため、ステークホルダーとの対話を促進する観点から、自社の独立性判断基準の開示は具体的かつ簡潔明瞭であることが望ましいと考える。 ただし、過度に形式的な判断基準の設定を促進するのではなく、自社にとって適切な独立社外取締役の個々人に対する独立性の実質的な判断があれば、「コンプライ・オア・エクスプレイン」の趣旨に照らしてここで合理的に説明を付すべきである。 なお、独立社外取締役の独立性判断基準については、本連載の【第4回】「取締役会等の責務①~独立社外取締役の独立性判断基準について~(4-9)」を併せて参照されたい。   〔取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件〕 (原則4-11) 原則4-11では、取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件の1つとして、バランス・多様性・適正規模等の確保が記載されている。 また、補充原則4-11①において、取締役会の全体としてのバランス、多様性および規模に関する考え方を定め、取締役会の選任に関する手続・方針と併せて開示することが求められている。 これは、株主等のステークホルダーへの説明責任を果たす観点から、経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名に関する一般的な方針と手続(選任・指名の決定プロセス)をあらかじめ定めておき、これを開示することを求めているものと考えられる。なお、取締役の選任に関する方針・手続とは、「原則3-1.情報開示の充実」の「(ⅳ) 取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続」を示している。 いずれも、ステークホルダーにとって有用な開示となるように各社で工夫することが肝要だが、開示の程度・内容については、同様のコンプライ・オア・エクスプレインの手法を採用しているため、コーポレートガバナンス・コードを長年運用している英国等の上場会社の開示例等を参照することも有用である。 例えば、2014年のガバナンスに関する開示優秀企業の表彰(※2)受けた英国企業、マークス・アンド・スペンサー社では、2014年アニュアルレポート上で2ページを使って取締役の指名方針と手続きについて、指名委員会の構成メンバーと年間の活動状況、新任・退任メンバー別の説明も含めて詳しく記載している。 (※2) PwC英国「Building Public Trust Awards 2014」 なお、英国の機関設計において、取締役の選任に関する方針・手続は独立非業務執行取締役が過半数を占める指名委員会が担当している。このため、ここでの英国の事例は会社法の「指名委員会設置会社」以外は直接的には該当しないが、海外の上場会社のベストプラクティスの開示例は、会社でどこまでの記載をするかの検討材料となると思われる。 また、今後、コーポレート・ガバナンスに関する報告書の開示が進めば、開示内容の傾向はつかめるかもしれない。ただし、各社の足並みをそろえることは本CGコードの目的には合致しないため、会社ごとにCGコードの適用を個別に判断し、話し合いを持ち、方針や手続を決めるというプロセスをとることが、多くの会社にとって有意義であろう。 (了)

#No. 124(掲載号)
#平岩 修一
2015/06/18

〈IT会計士が教える〉『情報システム』導入のヒント(!) 【第9回】「新システムの導入と旧システムのデータの取り扱い」

〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第9回】 「新システムの導入と旧システムのデータの取り扱い」   公認会計士 坂尾 栄治     はじめに -新しいシステムを導入するとき- 新たにシステムを導入するときには、新システムで新たにできることに目が行きがちになる。導入フェーズでも、実現したいことを定義して、定義に基づき設計、設定、開発を行うことになる。頭の中は新機能のことでいっぱいである。 新システムが稼働したら、使いやすい入力画面からデータを入力し、今まで手作業で行っていた業務が自動化され、今まで見ることができなかった情報がボタン1つで表示されるようになる。 そう、新システムを導入する業務が全く新しい業務なのであれば、確かにそれでいいのだが、今まで行っていた業務を新システムによって改善したとなると少し話は違ってくる。 何が違ってくるのかというと、今までシステム行っていた業務で蓄積されたデータがシステムの中に存在するということである。そして、このデータをどうするかといった議論を十分に行うことが、新システムの導入プロジェクトで非常に重要なものとなってくる。   ▼旧システムのデータを新システムに移し替える▼ 新たにシステムを導入する場合、旧システムから過去のデータを新システムに移し替える場合がある。このデータの移し替えを通常「移行」と呼んでいる。 新たにシステムを導入するときには、必ずしも旧システムのデータを新システムに移す必要があるわけではない。過去のデータは旧システムで参照し、新しいデータは新システムで参照するといった運用を行うケースもよく見かける。 しかしながら、会計システムのように、期首のデータをセットしないとシステムの運用ができないものや、過去数年のデータを時系列で表示したい場合には、旧システムにある過去のデータを移行する必要がある。 他にも様々な理由で旧システムのデータを新システムに移行することが求められる。   ▼移行は大変!?▼ 移行というと、データを移し替えるだけのことなので、プログラムで簡単に実行できるという印象がある。 しかし、実際のデータを見てみると、非常にめんどうくさい作業であることに気づく場合が多い。 データの移行に際しては、以下に注目する必要がある。 移行データを準備するにあたっては、上に挙げたような項目に対応していく必要がある。 「①旧システムのデータの正確性・整合性」について、名寄せを例に書くと以下のようになる。 紙幅の関係で詳細は割愛するが、②~④でも①と同様に手間のかかる作業が必要となる。 かなり大変な作業になることが想像いただけるのではないだろうか。   ▼システム導入のアンカー▼ 移行の厄介なところは、通常の場合、システム導入の最終段階にスケジューリングされていることである。 何が厄介なのかというと、1つは前工程の遅延のあおりを受けて、計画した期間が確保できない場合が多いということである。 また、最後の項目であるため、計画策定時の精度が低くなる傾向にある点である。ただでさえ、前工程の内容の影響で、移行範囲や要求精度が影響を受け、計画との乖離が生じやすいところに加えて、目先のタスクではないことから、精度の低い計画となってしまうことが多いのである。 そして、稼働を1ヶ月後に控えたタイミングで、当初予定より2ヶ月遅れでテストが完了し、1ヶ月で数百万件の過去データをクレンジングし(きれいにし)、新システムに移行する必要があるといった、逃げ出したくなるような状況に追い込まれるのである。 先頭ランナーから一周遅れでバトンを渡された、リレーのアンカーのような状態である。 では、そうならないためにはどうしたらよいのであろうか。   ▼計画は早めに▼ プロジェクト期間内に余裕をもって移行を終わらせるためには、早めに移行方針を固めることが重要である。 主には以下のようなものが考えられる。 移行データの範囲と移行するデータの年数は、移行データのボリュームに直結してくる。単純に考えると、移行データが倍になれば、移行にかかる作業時間が倍になる。 そのため、移行に使える期間と必要なデータの範囲、年数を天秤にかけながら、落としどころを決める必要がある。また、移行データのボリュームは、ディスクの容量といったハードウエアにも関係してくるので、ハードウエアの制約(コストを含む)も考慮に入れる必要がある。 次に、移行データの精度であるが、これも精度を上げようとすればするほど、作業時間が増えることになる。これは、計画段階で見積もることは難しいが、目標レベルを明確にしておく必要がある。 取引先コードを例にとれば、「同一法人で10以上の取引先コードがある法人をすべて名寄せする」といった目標を明示して、完全性を追求しないようにしたいものである(完全性が必須となる項目もあるが)。 また、ギャップへの対応方針も、作業期間とユーザの要求とのバランスを考慮して落としどころを探る必要がある。前の例でいえば、新システムでは過去データの性別区分はすべて男にするとか、過去データの粒度は都道府県別のままとし県庁が所在する市区町村にデータを格納する、といった割り切りも必要なのである。 このように、データのボリュームやギャップなどの具体的なイメージをもって、現実的な計画を立てることが有効である。また、プロジェクトの早いタイミングで計画を立てることにより、先行タスクでも移行方針を意識した決定が行われるようにできるため、移行データの範囲や方針の計画からの乖離を抑えることができる。 また、早いタイミングで移行データの準備作業のイメージが具体化されていれば、移行データを効率的に作成するツール類の開発に時間をとることができる。これにより、より精度が高いデータを移行できる可能性がある。また、移行範囲や対象期間も広げることができる場合も多い。   ▼あきらめが肝心▼ そして、重要なのは“あきらめ”である。 新しいシステムに移すデータは、完璧で美しいものにしたい気持ちは理解できるが、新築の家に前の家の家具を持ち込むのであるから、大きな傷を補修する程度にとどめるべきである。 どうしても我慢できないというのであれば、過去データはExcelやPDFで保持して、新システムは新たなデータと必要最低限の期首データ等のみで運用するというのも1つの選択肢である。 移行は、思いのほか期間とコストを要するタスクである。新システムの目的に照らして、本当に移行する必要があるデータなのかどうかを十分に検討し、移行データの範囲や精度を決めることをお勧めする。 (なお本文中、意見に関する部分は私見であることを申し添えておく。) (了)

#No. 124(掲載号)
#坂尾 栄治
2015/06/18

女性会計士の奮闘記 【第30話】「ようやくスタートラインへ」

女性会計士の奮闘記 【第30話】 「ようやくスタートラインへ」   公認会計士・税理士 小長谷 敦子   〈部門別損益表〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〈ノビ株式会社の業務フロー〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ◆ワンポントアドバイス◆ 会社の状況は、実際にお金を使って、業務に携わっている人が一番よく分かっています。 部門別損益表の数字の記入は会社の方に任せましょう。 社内売買のようなデリケート金額は、まず社長自らが自分の考えを明らかにして、決めていただく方がよいでしょう。 (了)

#No. 124(掲載号)
#小長谷 敦子
2015/06/18

《速報解説》 公認会計士・監査審査会より、監査事務所に対して実施した検査結果等の第三者への開示に関する取扱い情報を公開~被監査会社等からの開示要請への対応を示す~

《速報解説》 公認会計士・監査審査会より、監査事務所に対して実施した検査結果等の 第三者への開示に関する取扱い情報を公開 ~被監査会社等からの開示要請への対応を示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成27年6月11日、公認会計士・監査審査会は「検査結果等の第三者への開示について」として、次のものを公表した。 日本公認会計士協会の監査基準委員会報告書260「監査役等とのコミュニケーション」は、公認会計士法上の大会社等の監査などに関して、次のことを規定している(15-2項、A22-2項。アンダーラインは筆者が記載)。 日本公認会計士協会の会員に向けて、「監査基準委員会報告書260の改正に伴う監査役等への品質管理レビューの結果の伝達に関する留意点」も公表されており、監査役においては、これについても参考になるものと考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 基本的な取扱い 公認会計士・監査審査会が検査を実施した監査事務所に対して交付した検査結果通知書については、非公表である。 検査結果及び検査関係情報(以下「検査結果等」)の監査事務所以外への第三者への開示については、次の場合を除いて、審査会の事前承諾が必要となる。 2 審査会への事前承諾 検査結果等の第三者への開示の事前承諾については、検査先から審査会に対して、所定の事項を記載した申請書を提出することにより行う。 ただし、近時、被監査会社や被監査会社以外から、監査事務所の品質管理のシステムの整備・運用状況を確認するツールの1つとして、審査会の検査結果等の開示要請が増加してきていると考えられるとして、審査会への開示承諾申請については、次の区分ごとに行うとしている(開示承諾申請書の記載例が設けられている)。 3 Q&A 「検査結果等の第三者への開示に関するQ&A」として、第三者の範囲などについて回答が示されている。 例えば、次のQ&Aがある。  (答)  監査役等が、監査事務所より伝達された検査結果等を伝達された範囲内で、被監査会社の取締役等に対して、その職務の一環として報告等することについては、第三者への開示には該当しないものと考えられます。 (了)

#No. 123(掲載号)
#阿部 光成
2015/06/16

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#Profession Journal 編集部
2015/06/15
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