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土地評価をめぐるグレーゾーン《10大論点》 【第7回】「私道の評価」

土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第7回】 「私道の評価」   税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉   1 「不特定多数の者の通行の用に供されている」とは [1] 不特定多数の者の通行の用に供されている私道とは 私道の評価は、その私道が 「不特定多数の者の通行の用に供されている」か 「特定の者の通行の用に供されている」か によって評価額が異なる。 さて、「不特定多数の者の通行の用に供されている」とは、どのような私道をいうのであろうか。 [2] 国税庁質疑応答事例 具体的には、以下のような私道が該当する。 [3] 争訟事例 「不特定多数の者の通行の用に供されている私道」とは、①道路としての用法に応じて利用されることにより、第三者が通行することも容認せざるを得ないものであること、②道路内建築の制限により、通行を妨害する行為が禁止されること(建築基準法44条)、及び③私道の廃止又は変更が制限されること(同法45条)などの所有及び利用に対する公法上の制限が認められるものをいう(平成17年7月1日裁決〔TAINS・F0-3-223〕)。   2 3割評価の合理性とは [1] 3割評価の根拠 特定の者の通行の用に供されている道路が3割評価される理由は、不動産鑑定評価基準の理論を基礎に、不動産鑑定士等の実践面における活動の成果を十分取り入れて旧国土庁が作成している『土地価格比準表』において、私道の利用状況が共用私道(特定の者に共同で通行の用に供される私道)か準公道的私道(不特定多数の者の通行の用に供される私道)かに応じ、前者の減価率を50%から80%まで(価値率50%から20%まで)とし、後者の減価率を80%以上(価値率20%以内)としていることからして、評価通達24は合理的であると解されている(平成24年11月13日裁決〔裁事89巻333頁〕)。 例えば、平成23年12月19日裁決〔TAINS・F0-3-335〕においては、以下のような私道(本件私道)も3割が妥当とされている。 (※) 拙著『グレーゾーンから考える相続・贈与税の土地適正評価の実務』(清文社・2014)P175より [2] 私道が10%とされた事例 ただし、私道に沿接する建物の一部が飲食店及び展示場であり、この利用者が自由に通行していることから公道に準ずるような状況にあると認められること、両側の宅地は他人の所有地で、本件私道が宅地転用される可能性がほとんどないことから10%の割合で評価するのが同等とされているような事例もある(平成8年6月26日裁決〔TAINS・F0-3-330〕)。   (了)

#No. 113(掲載号)
#風岡 範哉
2015/04/02

贈与実務の頻出論点 【第5回】「幼児に対しての贈与は可能か」

贈与実務の頻出論点 【第5回】 「幼児に対しての贈与は可能か」   税理士法人チェスター   解 説 [1] 民法における未成年者の贈与 民法では親権者を次のように規定しています。 未成年の子は父母の親権に服している。 親権者は子の財産に関する法律行為についてその子を代表する。 子の財産は親権者が注意をもって管理しなければならない。 成年になったとき親権者は財産の計算をしなければならない。 このとき養育等にかかった費用は財産から相殺できる。 未成年の子への贈与は、子が贈与の事実を知っていたかどうかにかかわらず、親権者が贈与を受ける意思を示せば成立します。贈与を受けることは、利益相反行為には該当しないため、特別代理人の手続をするまでもなく、親権者の一存で契約が成立します。 祖父母から未成年の孫への贈与の場合、祖父母と孫の親権者として親が贈与契約します。 親から未成年の子への贈与の場合、親自身が贈与者であり受贈者の代理人となります。同一人物のもとで贈与契約が行われ、贈与が成立することになります。 未成年の子が成年になったら、親権者が財産を管理する義務はなくなるため、親は子の財産内容を整理し、すみやかに子に財産の管理を移しましょう。成年になった子の財産の存在をその子自身が知らず、引き続き親が管理していると問題が生じる可能性があります(民818、824、827、828)。 [2] 未成年者への贈与事例 贈与は口頭でも成立しますが、未成年の子への贈与で親権者が贈与契約した場合には、誰に対する贈与なのか、贈与事実が存在していたか、といった贈与事実がわかりづらくなるため、贈与契約書を作成するようにしましょう。 平成19年6月26日の国税不服審判所の裁決事例では、未成年の子に対する親権者自身からの贈与で、贈与税の申告がなされていたものの、贈与契約書がありませんでした。この事例では、贈与税の申告は必ずしも贈与事実の存否を明らかにするものではないので、将来贈与の事実に疑義が生じないよう贈与契約書を作成するのが自然、と判断されています。 また、父が未成年の子名義の預金に保険料支払があるつど、保険料相当額の贈与を行った契約について、贈与が認められた裁決があります。一方、贈与契約の法律行為が有効に成立していると認められない場合には、保険料負担者が親とされてしまい、保険金受取時に課税されてしまった事例もあるので、注意が必要です。 (了)

#No. 113(掲載号)
#税理士法人チェスター
2015/04/02

こんなときどうする?復興特別所得税の実務Q&A 【第23回】「源泉所得税及び復興特別所得税を納期限までに納付しなかったとき」

こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第23回】 「源泉所得税及び復興特別所得税を納期限までに納付しなかったとき」   税理士・社会保険労務士 上前 剛   当社は、源泉所得税の納期の特例の承認を受けています。平成26年7月~12月分の源泉所得税及び復興特別所得税477,521円を納期限(平成27年1月20日)までに納付せず、平成27年4月2日に自主的に納付しました。納付が遅れたペナルティとして不納付加算税と延滞税が課されるそうですが、どのくらいかかるのでしょうか? 源泉所得税及び復興特別所得税を納期限までに納付しなかったときに課される不納付加算税と延滞税ついてご教示ください。 1 不納付加算税の算出方法 ① 原則 ② 納期限後に税務署からの告知を受けるなどせず、自主的に納付した場合 今回のケースにおいては、自主的に納付していることから、不納付加算税は、納税額×5%である。なお、5,000円未満の不納付加算税は、納付不要である(国税通則法119④)。   2 延滞税の算出方法 ① 納期限の翌日~2月を経過する日(2月を経過する日までに完納した場合は、完納の日) ② 2月を経過する日の翌日~完納の日 今回のケースにおいては、納期限の翌日から2月を経過していることから、延滞税は、上記2つの算式の合計額である。なお、1,000円未満の延滞税は、納付不要である(国税通則法119④)。 以上より、不納付加算税23,500円、延滞税3,600円を後日税務署から届く納付書により納付しなければならない。 (了)

#No. 113(掲載号)
#上前 剛
2015/04/02

組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第23回】「裁決例③」

組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第23回】 「裁決例③」   公認会計士 佐藤 信祐   現在の法人税法においては、外国法人に対して国内財産を移転する現物出資については、非適格現物出資として取り扱われるが(法法2十二の十四、法令4の3⑨、法基通1-4-12)、今回ご紹介する裁決例は、組織再編税制が導入される前の裁決例である。 しかしながら、外国で行われる組織再編成や資本等取引をどのように捉えるのかという点を理解するうえで、参考になる裁決例であると考えられる。   8 昭和61年1月13日裁決 (1) 事件の概要 本件は、審査請求人(以下、「請求人」という)が、その資本の100%を有する米国子会社の昭和54年3月7日の700,000USドルの増資に当たり、同社に対する長期貸付金1,420,000USドルのうち700,000USドルをもって増資払込金に振替充当する取引を行い、同日を含む事業年度である昭和54年3月期において、当該700,000USドルに相当する額である169,645千円を子会社株式勘定の金額88,200千円に追加計上した後に、その評価損として180,491千円を損金経理し、法人税確定申告書において加算留保を行った。 しかしながら、当該米国子会社の資産状態が著しく悪化したことに伴い、昭和56年3月期に当該加算した子会社株式評価損を、法人税確定申告書において減算を行った。 これに対し、原処分庁は、昭和54年3月7日に行った増資については、存在しない株式に対するものであり、寄附金に該当するものとして更正処分を行った。我が国の平成17年改正前商法や、現行の会社法では考えにくい制度ではあるが、米国の会計慣行及び内国歳入法の規定にそった「株式の発行を伴わない増資」という制度を用いたことが本事件について争いが生じた理由であると考えられる。 なお、本来であれば、法人税基本通達9-1-12に規定する「増資払込み後における株式の評価損」についても検討が必要になるが、本事件においては、特段、争いにはなっていないことから、本稿においては、当該増資取引が寄附金に該当するか否かについてのみ検討を行うこととする。 (2) 原処分庁の主張 我が国の法人税法は、「資本等取引」については課税関係を生ぜしめないこととしている。この「資本等取引」とは、法人の資本等の金額(資本の金額又は出資金額と資本積立金額との合計額をいう)の増加又は減少を生ずる取引等をいう(同法第22条第5項)こととされているから、「資本等取引」としての資本積立金額が増加又は減少する取引は、増資又は減資を伴う取引に限られることになる。 しかるに、B社の資本剰余金の増加は増資取引によるものではないから、請求人がした「B社の資本に対する拠出」は我が国の法人税法上の「資本等取引」には該当しないものと認められる。 (3) 請求人の主張 この資本剰余金勘定への繰入額は、米国歳入法では、その法人の総益金の額に含まれず(118条(a))、また、法人の株主が資本への拠出をした場合のその拠出額は、その株主が保有する当該法人の株式の基礎価額を増額修正するものとされている。更に、この資本剰余金勘定は将来表示資本に充当できる勘定でもある。 そうすると、B社にとって本件増資取引は、狭義の増資手続完了までのいわば資本に充当するための金員の拠出、すなわち、表示資本金に振り替わるまでの通過勘定としての拠出資本充当金と解釈できる資本取引であって損益取引ではないから、その振替充当額は寄附金には該当しない。 (4) 国税不服審判所の判断 A州法上の資本剰余金の使用に関する規定は、我が国の商法上の資本準備金に関する規定とその内容において大きな差異はないものと解されるところから、B社が処理した本件資本剰余金は、その実質において我が国の商法上の資本準備金にあたるものと思料される。 (5) 評釈 本事件においては、借入金を減額し、資本剰余金を増加させるデット・エクイティ・スワップ(DES)について、まず、米国子会社が所在する州法における資本剰余金の概念が我が国における資本準備金の概念に類似しているか否かを検討している。これにより、両者が類似していることから、株式の発行を伴わない取引ではあるものの、増資に類似する取引であるという認定がなされたというところに特徴がある。 すなわち、外国における組織再編成や資本等取引を、我が国の租税法上、どのように取り扱うべきかについては、我が国におけるどの取引と類似しているかという点を最初に検討する必要がある。ここで留意が必要なのは、「capital surplus」となっているから、我が国における資本剰余金と一緒であろうという推測を行うのではなく、米国における実際の取引や規定を慎重に調べる必要があるという点である。外国語を日本語に訳するときに、「資本剰余金」と辞書に載っているから、我が国における資本剰余金に該当するのであろうという推測を行ってしまうと、実際は全く異なる規定であることもあり得るため、外国の会社法や租税法を調べる時には留意が必要になってくる。 そして、本事件においては、国税不服審判所は増資であると認定を行ったが、現在の会社法、法人税法に当てはめを行うと、デット・エクイティ・スワップ(DES)に類似する取引であるという認定が行われる可能性がある。そうなると、本事件は、外国法人に対するデット・エクイティ・スワップであるのに対し、外国会社に対する貸付金については、国内事業所に帰属していると認められることから、国内資産に該当する可能性が高く、その結果、非適格現物出資として取り扱われる可能は否定できない。 そうなると、本事件と同様の取引が行われたとすると、現在の会社法、租税法においては、非適格現物出資として寄附金を認定する必要があるという結論になるため(法基通2-3-14)、留意が必要である。 (了)

#No. 113(掲載号)
#佐藤 信祐
2015/04/02

税務判例を読むための税法の学び方【57】 〔第7章〕判例の探し方(その4)

税務判例を読むための税法の学び方【57】 〔第7章〕判例の探し方 (その4)   立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘   (11) 『第一審刑事裁判例集』 最高裁判所事務総局が、第一審裁判所における刑事裁判(判決・決定)の中から参考となるものを選択して掲載したもので、巻ごとに法条別索引、裁判所別索引が付いている。昭和34年以降は、前回に紹介した『高等裁判所刑事裁判特報』と併合して『下級裁判所刑事裁判例集』となっている。 なお、この『第一審刑事裁判例集』は、最高裁判所図書館で閲覧可能である。 最高裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「第一審刑事裁判例集」と入力して検索。 CiNiiによれば、現在81大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 第一審刑事裁判例集   (12) 『下級裁判所刑事裁判例集』 上記したように、昭和34年分から、上記『第一審刑事裁判例集』と前回紹介の『高等裁判所刑事裁判特報』が併合してその役割を引き継いだものである(『東京高等裁判所判決時報』のように巻号数は引き継がず、昭和34年分が第1巻である)。 下級裁判所の刑事裁判(判決・決定)の中から、最高裁判所事務総局が選択して掲載している。高等裁判所の裁判とそれ以外の裁判所の裁判とに区分し、さらに判決と決定に区別し、裁判年月日順に収録している。また上記『第一審刑事裁判例集』と同様に、巻ごとに法条別索引、裁判所別索引が付いている。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「下級裁判所刑事裁判例集」と入力して検索。 CiNiiによれば、現在111大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 下級裁判所刑事裁判例集 なお、CiNiiによれば、大学には法曹会による発行のものが大半のようであるが、裁判所図書館の蔵書状況に示されるように、編集元である最高裁判所事務総局による発行のものもある。   (13) 『刑事裁判月報』 これは、昭和44年に『下級裁判所刑事裁判例集』を改題したものである。ただし、巻号数は引き継がれず、昭和44年が第1巻となっている。また昭和61年の18巻6号を最後として、この役割を担う他の公的な裁判例集は、その後発行されていない。現在、裁判例は裁判所ホームページ等において公開されており、判例集を発行する意義が薄れているためであると思われる。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「刑事裁判月報」と入力して検索。 CiNiiによれば、現在142大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 刑事裁判月報(最高裁判所事務総局編) なお、CiNiiによれば、大学には最高裁判所事務総局による発行のものが大半のようであるが、法曹会による発行のものもある。 刑事裁判月報(法曹会)   (14) 『下級裁判所民事裁判例集』 毎月各地方裁判所から送られてくる民事事件(ただし、行政・労働・無体財産権・家事事件を除く)の中から、最高裁判所事務総局が参考になると思われるものを選択して掲載したものである。 1巻から10巻までは、判示事項を法令別に分類し、裁判の言渡し年月日、掲載号数、頁番号が記載されており、また同一法令は関連する条文ごとにまとめて表示された索引が付されている。11巻からは、巻末に裁判所別・裁判年月日順の索引が付されている。発行は昭和25年の1巻1号から59年の35巻8号までとなっている。これも上記『刑事裁判月報』と同様、この35巻8号を最後として、この役割を担う他の公的な裁判例集は、その後発行されていない。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「下級裁判所民事裁判例集」と入力して検索。 CiNiiによれば、現在201大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 下級裁判所民事裁判例集 なお、CiNiiによれば、これも大学には法曹会による発行のものが大半のようであるが、裁判所図書館の蔵書状況に示されるように、編集元である最高裁判所事務総局による発行のものもある。   (15) 『高等裁判所地方裁判所簡易裁判所民事裁判例特報』(『高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所民事裁判例特報』または『高等裁判所・地方裁判所・簡易裁判所民事裁判例特報』) 昭和24年分の下級審の裁判例を収録したものとして、『高等裁判所地方裁判所簡易裁判所民事裁判例特報』がある。これは最高裁判所事務総局民事局により編纂されたものである。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「、」や「・」の有無によるエラーを避けるため、「簡易裁判所民事裁判例特報」と入力して検索。 裁判所図書館では検索上、『高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所民事裁判例特報』または『高等裁判所・地方裁判所・簡易裁判所民事裁判例特報』が併存している。 CiNiiによれば、現在16大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 なおCiNiiでは『高等裁判所地方裁判所簡易裁判所民事裁判例特報』となっている。 高等裁判所地方裁判所簡易裁判所民事裁判例特報(図書扱い) 高等裁判所地方裁判所簡易裁判所民亊裁判例特報(雑誌扱い) 国立国会図書館では、デジタル資料化されている。 高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所民事裁判例特報(国立国会図書館) *  *  * 次回は、ある特定の分野(事件)の裁判例だけをまとめた裁判集について紹介する。  (続く)

#No. 113(掲載号)
#長島 弘
2015/04/02

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第76回】純資産会計④「剰余金の配当」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第76回】 純資産会計④ 「剰余金の配当」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明     〈全体像〉 剰余金の配当には、①その他利益剰余金からの配当、②その他資本剰余金からの配当の2通りあり、どちらの原資から配当するかは任意で選択することができます。 以下は、配当に関する仕訳の一覧です。 今回は、その他資本剰余金からの配当のうち、受取側の会計処理について解説します。   〈事例による解説〉 【剰余金処分に関する株主総会決議の効力発生日の仕訳】   〈会計処理の解説〉 「その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理」(以下「適用指針」)3項から5項において、次のようにその他資本剰余金の処分による配当を受けた場合の会計処理が規定されています。 取引関係等の強化の目的で保有しているA社株式は、売買目的有価証券以外の有価証券に区分されると考えられるため(「金融商品に関する会計基準」70項)、原則として、配当受領額を配当の対象である有価証券の帳簿価額から減額します(適用指針3項)。 これは、その他資本剰余金の内容が原則として株主からの払込資本であるため、その他資本剰余金の処分による配当は、基本的には投資の払戻しの性格を持つという考え方に基づくものです(適用指針11項)。 なお、配当の対象となる有価証券が売買目的有価証券以外であっても、配当の対象となる有価証券を時価まで減損処理した期における配当等のように、配当受領額を収益として計上することが明らかに合理的である場合は、受取配当金に計上できるものとされています(適用指針5項)。 *   *   * 次回は、剰余金の配当に伴う準備金の計上について解説します。 (了)

#No. 113(掲載号)
#竹本 泰明
2015/04/02

中小企業事業主のための年金構築のポイント 【第1回】「公的年金制度の概要と加入資格」

中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第1回】 「公的年金制度の概要と加入資格」   特定社会保険労務士 佐竹 康男     1 公的年金制度 日本国内に住所を有する人は、一定の年齢に達すれば公的年金に加入しなければならない。企業経営者の方も例外ではなく、法人・個人を問わず、加入が義務付けられる。 現在、公的年金には、下記のとおり、国民年金、厚生年金、共済年金の3種類あるが、平成27年10月から被用者年金の一元化により、共済年金の加入者もすべて厚生年金保険制度に加入することになる。   2 国民年金の加入者 国民年金には、保険料の負担の仕方により、「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」と3種類の種別がある。 厚生年金保険に加入している人は、国民年金の第2号被保険者になるため、厚生年金保険と国民年金に二重に加入していることになる。ただし、国民年金の保険料は個々に納付することを要しない。 (※) 厚生年金保険等の保険料の一部が国民年金にまわっている(基礎年金拠出金という)。   3 厚生年金保険の加入者 適用事業所(下記参照)に使用される70歳未満の人が、加入者(被保険者という)となる。 従業員のみならず、法人の代表者、取締役であっても、その法人から報酬を得ているのであれば被保険者になる。 個人の事業所でも一定の要件を満たすことができれば適用事業所になるが、従業員は被保険者になっても、個人事業主は被保険者になることができない。 (※) 国又は地方公共団体を含む。   4 事業主が加入する年金制度 上記をまとめると、法人・個人の経営者が加入する年金制度は以下のようになる。   《おさらいQ&A》   (了)

#No. 113(掲載号)
#佐竹 康男
2015/04/02

最新!《助成金》情報 【第13回】「雇用以外のその他の助成金情報」

最新!《助成金》情報 【第13回】 (最終回) 「雇用以外のその他の助成金情報」   特定社会保険労務士 五十嵐 芳樹   [1] 業務改善助成金 1 目的 この助成金は、東京、神奈川、大阪を除く44道府県の中小事業主に対して、賃金額の引上げや就業規則の作成、賃金制度の整備などを助成することで、中小企業の賃金と業務の改善を支援することを目的とする。 なお、この情報は平成26年度の制度に関するものであり、平成27年度の制度では継続廃止又は変更などもあり得るため、活用を検討する場合は必ず新年度の情報確認が必要であることをご理解されたい。   2 支給対象措置 この助成金の支給対象となる措置は次のいずれもの措置を実施した場合となる。   3 助成額 この助成金の助成額は、[表A]の助成対象経費に補助率を乗じた額と[表B]の上限額とのいずれか低い額となる。 [表A] (※1) 次のような社会通念上当然に必要な経費は除く=就業規則作成、一般自動車・パソコン購入費、飲食店の冷蔵庫・倉庫業のフォークリフト・美容業の美容機器等 (※2) 助成率3/4は企業全体の労働者数が30人以下の事業場 [表B]   4 対象外事業主 交付申請日の3ヶ月前から交付申請日が属する年度の末日までに次の行為等を行った事業主は支給対象外となる。   5 手続の流れ   6 活用のポイント ここ数年、最低賃金額の上昇幅が大きくなり全国的に最低賃金額が高くなっているが、地域によっては業種や企業規模により最低賃金額上昇の対応に苦慮している事業所も多々見受けられる。賃金額を引き上げるには労働能率を高め生産性を向上させることが重要だが、労働能率を増進させる設備機器導入やその研修、又は雇用管理制度を整え働く意欲を向上させる賃金制度や就業規則を整備するには、この助成金の活用は特に有効である。   [2] 職場意識改善助成金(職場環境改善・改善基盤整備コース) 1 目的 この助成金は、労働時間の削減適正化や有給休暇の取得促進、労働能率向上のための設備機器の導入等に取り組む中小事業主を助成することで、職場の士気を高めたり仕事と生活の調和の実現を目指す事業主を支援し、雇用を安定させることを目的とする。 なお、この情報は平成26年度の制度に関するものであり、平成27年度の制度では継続廃止又は変更などもあり得るため、活用を検討する場合は必ず新年度の情報の確認が必要であることをご理解されたい。   2 対象となる取組み この助成金の対象となる取組みは次のいずれか1つ以上を実施することである。   3 成果目標の設定と評価 実施する取組みを選択後に、達成を目指す次のいずれか2つ以上の具体的な数値目標を設定し、評価期間中に成果目標の実績を評価する。   4 支給額 支給対象経費に、設定した成果目標の達成状況に応じた補助率を乗じた額が支給される。ただし、次の通り上限額が定められている。 (1) 設備導入以外の支給額 (2) 設備機器等の導入の目標 次の2つの目標を達成できなければ助成対象とならない。   5 手続の流れ   6 活用のポイント 有給休暇取得日数の増加は、若い人や女性には歓迎されて定着率の向上に影響する。 また、時間外労働時間数の削減は従業員の意識改善だけでなく、作業環境や業務方法を見直すことで効率化につながるため、時間外労働の削減とともに企業の効率化を図り競争力を引き上げるには、この助成金は有効である。また、設備機器導入の成果目標は高いが目標を達成できれば企業の体質と効率化を大きく改善できる可能性があるため、是非活用し目標を達成したい。   [3] 職場意識改善助成金(テレワークコース) 1 目的 この助成金は、仕事と生活の調和推進のため終日在宅で就業するテレワークに取り組む中小企業事業主を助成することで、多様な働き方を実現させ仕事と育児介護の両立を実現したい優秀な人材を確保してもらうことで雇用を安定させることを目的とする。 なお、この情報は平成26年度の制度に関するものであり、平成27年度の制度では継続廃止や変更などもあり得るため、活用を検討する場合は必ず新年度の情報の確認が必要であることをご理解されたい。   2 対象となる取組み 次のいずれかひとつ以上を選択し実施しテレワークを実現する   3 成果目標の設定 1~6ヶ月間の間で設定した評価期間中に、次の両方の成果目標を達成できるように取組みを実施する。   4 支給額 支給対象経費に2つの成果目標の達成状況に応じた補助率を乗じた額が支給される。ただし、上限額が定められている。 ※従業員100人の企業で総務や経理部門で5人に1人当たり10万円の機器を導入する場合の経費は5人×10万円=50万円。 この場合の支給額は4万円×5人=20万円、又は6万円×5人=30万円となる。   5 手続の流れ   6 活用のポイント テレワークに興味を示す中小企業にとってこの助成金を考慮する価値はとても大きい。また、育児や介護と仕事との両立などで課題を抱える優秀な社員の雇用継続や新規採用を実現させるには、この助成金は特に有効である。   [4] 受動喫煙防止助成金 1 目的 この助成金は、労働安全衛生法により職場の受動喫煙防止対策が努力義務化課されたことに伴い、受動喫煙防止対策を実施する中小企業事業主を助成することで、職場の受動喫煙防止対策を促進し、職場の環境を整え労働者の健康を維持しかつ雇用を安定させることを目的とする。 なお、この情報は平成26年度の制度に関するものであり、平成27年度の制度では継続又は変更などもあり得るため、活用を検討する場合は必ず新年度の情報の確認が必要であることをご理解いただきたい。   2 対象措置 次のいずれかの対象措置を実施し、措置を講じた区域以外を禁煙とすること。   3 支給額 支給額は、「対象経費×助成率1/2」の額となる。ただし、次の上限額がある。また、リース契約や実績報告までに交付決定された経費を完済できない分割払いは認められない。   4 手続の流れ   5 活用のポイント 受動喫煙防止対策は、非喫煙者や妊娠中及び子の養育期間中の人にとって高い関心事であるため、受動喫煙防止対策は職場の環境を整え健康管理に資するだけでなく、人材の採用定着にも効果があり、さらに宿泊業や飲食店など顧客が来所する事業場では経営上も大きな効果が期待できる。そのため受動喫煙防止対策を実施したい中小企業事業主がこの助成金の活用することは大きなメリットがある。  (連載了)

#No. 113(掲載号)
#五十嵐 芳樹
2015/04/02

〈公取委勧告事例にみる〉消費税転嫁で『買いたたき』と指摘されないための実務教訓

〈公取委勧告事例にみる〉 消費税転嫁で『買いたたき』と指摘されないための実務教訓   のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳   1 はじめに 平成25年10月1日に消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法(以下「消費税転嫁対策特措法」という)が施行されて、1年6ヶ月が経過しようとしている。 この間、平成27年2月末日までの公正取引委員会(以下「公取委」という)及び中小企業庁による転嫁拒否等の行為に対する調査着手件数は4,072件、立入検査件数は2,183件、指導は1,615件に及び(公取委平成27年3月16日公表「平成27年2月までの消費税転嫁対策の取組について」別紙表1)、また、平成27年3月27日までの公取委による勧告・公表も19件に及んでおり、同法違反とされた事例が集積してきた。 消費税転嫁対策特措法違反とされた事例のうち、勧告事案の全てと、指導事案1,615件中1,305件が「買いたたき」の事例であり、同法が禁止する転嫁拒否等の行為(①減額、②買いたたき、③商品購入、役務利用又は利益提供の要請、④本体価格での交渉拒否、⑤報復行為)の中でも、買いたたきが圧倒的に重要視されていることが分かる。 そのため、企業においては、いずれ行われると予想される消費税率の10%への引上げを前に、特に買いたたきと指摘されるようなことのないよう、万全の注意を払う必要がある。 そこで、本稿では、集積された勧告・公表事例を題材として、「買いたたき」に当たるとされたポイント等を検討し、今後企業において留意すべき事項を読み解きたい。   2 勧告・公表事例の概観と検討 (1) 買いたたきの禁止 消費税転嫁対策特措法が禁止する「買いたたき」とは、商品もしくは役務の対価の額を当該商品もしくは役務と同種もしくは類似の商品もしくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むことをいう(同法3条1号後段)。 「通常支払われる対価」とは、通常は、特定事業者と特定供給事業者との間で取引している商品又は役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額をいうとされ、「合理的な理由」がない限り、これより低い額での取引は「買いたたき」に当たるとされる(公取委「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」(以下「公取委ガイドライン」という))。 「買いたたき」に当たらない「合理的な理由」とは、単に特定供給事業者との合意があるというだけでは足りないとされ、その有無は、コスト削減等の客観的な事情の有無、価格交渉の具体的な経緯・状況、競合する他社の提示価格等の様々な事情を総合的に勘案して判断される。なお、買いたたきと合理的な理由の詳細については、本誌No.68掲載の拙稿「事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A」第6回をご参照いただきたい。 (2) 勧告・公表事例の概観と検討 前述のとおり、公取委は、これまで19件の買いたたき事案(ただし、うち3件は減額を含む)に対して勧告・公表を行った(平成27年2月までの勧告事例一覧表として、「平成27年2月までの消費税転嫁対策の取組について」別添1) そこで、以下、これらの事例のうち、典型的・特徴的なものをピックアップし、買いたたきに当たるとされたポイント等を検討する。 【事例①】 (株)JR東日本ステーションリテイリング ▷事案の概要 商業施設を運営する同社が、納入業者(161社)に対し、既存の商品について、内容を変更することなく税込価格を据え置くなど、仕入価格を通常支払われる仕入価格に比べ3%程度低く設定することになる販売促進企画への参加を要請したとして、初の勧告が行われた事案である。 ▷「買いたたき」とされたポイント 同社の納入業者からの仕入価格は、「商品の店頭販売価格×仕入率」として決められていたところ、同社は、納入業者に対し、消費税率引上げ後、既存の商品について、内容を変更することなく引上げ前の税込価格を据え置くなどとする販売促進企画への協力を要請していた。 当該販売促進企画によれば、例えば、平成26年3月31日以前に税込店頭販売価格が1,050円(税抜1,000円)、税込仕入価格が840円(税抜800円)であった商品は、税込仕入価格が840円に据え置かれることにより、税抜仕入価格が自動的に778円に圧縮され、差額24円分が上乗せされないこととなる。これが、「買いたたき」に当たると判断されたのである。 本件において、「合理的な理由」がないと判断されたのは、客観的にみて納入業者の側にはコスト削減効果が生じているとはいえないにもかかわらず利幅が圧縮されていることや、本件の販売促進企画の導入経緯からして当事者間の実質的な意思の合致があったとはいえず、対象者たる特定事業者が特定供給事業者たる納入業者に対して一方的に導入したと評価されてもやむを得ない事情があることによると考えられる(詳細は、本誌No.67掲載の拙稿「事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A」第5回を参照)。 ▷今後の実務への教訓 本件においては、商業施設を運営する事業者が、消費税率引上げを受けた買い控えなどを警戒し、販売促進策を企画したものと思われる。消費税率の引上げが消費者の財布の紐を固くする方向に働くことは明らかであり、小売業者にとって、消費税率引上げは死活問題ともいえる。しかし、小売業者が消費税率引上げに際して行うセール等の原資を納入業者に負担させようとすると、本件のように買いたたきと判断され、勧告を受けるリスクがある。 今後予測される消費税率10%への引上げ時にも、本件のような販売促進企画が催される可能性が高いが、その際にも、納入業者に対し、一方的に価格を据え置くようなことのないよう、十分留意する必要がある。 【事例②】 (株)三城 ▷事案の概要 メガネ等の小売業を行う同社が、店舗の賃貸人のうち、内税契約になっている賃貸借契約(例えば「賃料月額50万円(消費税を含む)」というような記載のあるもの)の賃貸人(127名)に対し、税込賃料を据え置いた事案である。 ▷「買いたたき」とされたポイント 契約書に「賃料月額50万円(消費税を含む)」と記載されている場合、「あくまでも税込月額50万円と契約したのであるから、消費税率引上げ後も税込月額50万円から変更する必要はない。」と考える読者もいるかもしれない。しかし、消費税率が8%に引き上げられた以上、税込価格を据え置けば、自動的に税抜価格がその分だけ圧縮されることとなり、これが買いたたきに当たるのである。 賃料は、建物の使用収益に対して支払われるものであり、消費税率引上げの前後で、税抜価格が圧縮されることを正当化するような事情が生じることは通常考えにくい。また、本件では、特定事業者が一方的に賃料の据え置きを決定して賃貸人に文書で送付して通知したとされており、両者の間で実質的な交渉に基づく意思の合致があったといえるだけの事情はうかがえない。そのため、合理的理由がないと判断されたものと考えられる。 ▷今後の実務への教訓 賃貸借契約における賃料は内税での契約とされていることも多いと思われ、「買いたたき」と判断される典型例として注意が必要である。 賃貸借契約以外の契約においても、消費税率5%当時の対価が内税表記されている場合は、「税込いくらと書いてあるから消費税率引上げ後もそのままでよい」と考えることは許されず、「契約書記載の税込価格÷1.05×1.08」という計算式に基づいて算出される金額を支払わなければならない。そして、今後、消費税率が10%に引き上げられた場合にも、同様の再計算が必要となる。 このように、内税契約の場合は、合理的理由がない限り、契約書に直接記載されていない上乗せ額を払うこととなるため、これが煩雑であると考える場合には、契約書上の対価の記載を外税表記に修正しておくことも一案である。 【事例③】 (株)ルネサンス ▷事案の概要 スポーツ施設の運営等を行う同社が、スポーツ指導を行うインストラクター(個人事業者約2,000名)に支払う委託報酬について、これらの事業者が免税事業者であるという理由から、消費税率引上げ相当分を上乗せせず税込価格を据え置くことを決定・通知した事案である。 ▷「買いたたき」とされたポイント 消費税率引上げ分を上乗せせず、税込価格を据え置いたという事案であり、典型的な「買いたたき」のパターンに該当する。 もっとも、同社が税込委託報酬を据え置いたインストラクターは消費税免税事業者であるため、そのような事業者に消費税相当額を支払う必要はないのではないか、あるいは、そのような事業者にまで消費税相当額を支払わなければならないのは納得がいかないと考える向きもあるかもしれない。しかし、免税事業者も仕入においては消費税相当額を支払っていることに照らし、そのような考え方は通用するものではない。 この点、公取委ガイドラインにおいても、取引先が免税事業者であるという点は、合理的理由にならないと明記されている。 ▷今後の実務への教訓 取引先が免税事業者であるということは、「買いたたき」に当たらない合理的理由とはいえない。仮に、法務担当者はこの点を理解しているとしても、取引の現場担当者等が理解しているかは微妙であり、今後も、法務部門等による注意喚起が必要であろう。 【事例④】 吉野家グループ((株)吉野家資産管理サービス、(株)北日本吉野家、(株)中日本吉野家) ▷事案の概要 店舗等の賃貸借等の事業又は外食業を行う同社らが、店舗の賃貸人のうち、内税契約になっている賃貸借契約の賃貸人の一部に対し、賃料の消費税引上げ分を減額し、又は賃料の消費税率引上げ分を上乗せせず据え置いた事案である。 ▷「買いたたき」とされたポイント 本件は、内税契約とされている店舗の賃貸借契約において税込賃料を据え置いたという点では、【事例②】(株)三城の事案と類似しているが、本件においては、税込賃料の据置き等が行われたのは(吉野家グループの)「要請に応じた賃貸人に対して」のみであったと認定されている。つまり、賃貸人と賃借人という契約当事者間において、税込価格を据え置くことを合意したとしても、それだけでは「合理的な理由」があるとは認められないということである。 前述のとおり、店舗の賃貸借契約においては、例えば原材料費の変動のように、消費税率引上げ前後で対価の額に影響する特段の事情の変化が生じるとは考えにくい。そのため、契約当事者間の合意があるとしても、税込価格の据置きを正当化することができないのである。 ▷今後の実務への教訓 企業の素朴な実務感覚からすれば、契約当事者間で合意したことが法律違反とされることは理解しづらい面があるかもしれない。素朴な実務感覚に頼ることなく、消費税転嫁対策特措法を正確に理解して対処することが重要である。 【事例⑤】 山佐産業(株) ▷事案の概要 スロットの販売等を行う同社が、販売代理店(約170事業者)に支払う委託報酬について、消費税率引上げ分相当額を上乗せせず税込価格を据え置いて支払った事案である。 ▷「買いたたき」とされたポイント 公取委が公表した違反事実の概要によると、本件においては、平成26年4月1日以後の業務委託手数料について、消費税率引上げ分を上乗せせず、同年3月31日までの業務委託手数料と同額を支払い続けたことが認定されているにすぎず、同社が税込価格を据え置く方針を決定したとか、税込価格を据え置く旨を取引先に通知したなどとの事実は認定されていない。 つまり、単に、同社が平成26年4月以降も消費税率引上げ前と同じ税込価格を支払い続けているという事実をもって、買いたたきの要件である「低く定めた」に当たると解釈された可能性がある。 ▷今後の実務への教訓 本件に照らすと、税込価格を据え置く旨を取引先に通知したり、消費税率引上げ分の上乗せに係る取引先の要請を拒絶したりするような場合に限らず、単に、合理的な理由なく消費税率引上げ前の税込価格と同額の支払いを続けているだけで、買いたたきに該当すると判断される可能性があることになる。 したがって、売り手ないし業務委託先から、消費税率引上げ分の上乗せについて特段の要請を受けていない場合でも、買い手ないし発注者の側で、積極的に消費税率引上げ分の上乗せを行っていくという対応が必要になるということができる。   3 勧告事案の共通点からみた『買いたたき』判定を分けるポイント 買いたたきに当たるとされた事例のうち、勧告・公表まで至った事案の割合は高くないが、指導に止まるか、勧告・公表まで至るかを分けるポイントはどこにあるのだろうか。 これまでの勧告事例を横断的に検討すると、勧告を受けた事業者の業種は多岐にわたるが、問題とされた対価の性質は、業務委託料、納入価格、賃料が中心となっている。 「合理的な理由」のうち、コスト削減等の客観的な事情の有無という要素についてみると、例えば、工業製品の製造委託や生鮮食料品の仕入においては、コストの変動が生じやすく、消費税率引上げの前後でコストをめぐる事情に変化が生ずる場合も多いと思われるのに対し、サービスや賃料の場合、消費税率引上げの前後で特段の事情の変化がなく、消費税率引上げ分を上乗せしない理由が見当たらないことが一般的であると思われる。 工業製品の製造委託など、コストの変動が生じやすい取引においても、原材料価格の下落分と販売価格の関係次第では、買いたたきに問われることがあり得るが、そのような微妙な判断を要する事例は、少なくともこれまでの勧告事例には現れていない。 勧告・公表に至るリスクが高いのは、①コストの下落等の客観的な状況の変化がみられないのに、②多数の取引先に対し、一律・一定に税込価格を据え置くような場合であるといえる。 消費税率の引上げから約1年が経過し、買いたたきに係る摘発は落ち着く傾向にあるかといえば、そうではない。公取委は、平成27年3月に4件の勧告・公表を行っており、活発な摘発は今後も続くと思われる。 消費税率の10%への引上げ直前はもちろんのこと、それ以前においても油断は禁物というべきである。 (了) ↓お薦め連載記事↓

#No. 113(掲載号)
#大東 泰雄、山田 瞳
2015/04/02

〔小説〕『東上野税務署の多楠と新田』~税務調査官の思考法~ 【第7話】「無予告調査」

〔小説〕 『東上野税務署の多楠と新田』 ~税務調査官の思考法~ 【第7話】 「無予告調査」 税理士 堀内 章典     多楠の休日 休みの日、多楠は両親が可愛がっているミニチュアダックスフンドの“キチ”と“ララ”を連れて、近所の行田公園へ散歩に来ている。10月下旬とはいえ、この日は小春日和の暖かさ。 多楠は公園のベンチに腰を下ろすと、大いに盛り上がった昨日の飲み会を思い出していた。 ▼   ▲   ▼ 単発とはいえ、多楠調査官が100万円の売上除外を自ら考え、提示を求めた領収証控から発見したことについて、すでにほろ酔い気味の淡路調査官はいつものように顎の尖った小顔に眉をひそめながら言った。 「よく領収証控を見る気になったわよね。売上と合っていて当然だと思うから、私はまず見ないと思うわ。」 多楠に不正発見で先を越されたせいか、少し悔しそうな様子の淡路。 多楠は少々優越感に浸りながら 「たまたまですよ。何か予感めいたものがあって、領収証控を確認したんですが、結局1回こっきりの不正で、広がらなかったのが残念でした。」 2人の話を聞いていた田村統括官が満面の笑みを浮かべながら 「いやいや、“合っていて当たり前”と先入観を持たずに調べたところが素晴らしい!」 さらに安倍副署長が田村統括官の言葉に相槌を打ちながら 「多楠調査官、結果はまた別、そうやって常に問題意識を持って調査に臨むことが大事さ。その心構えがあれば、おのずと成果は上がって来るもんだよ。」 安倍副署長は、東京国税局資料調査課(リョウチョウ)の課長補佐から昨年7月の異動で東上野署に配属になった、資料調査課のエースである。 調査のプロ中のプロである安倍副署長の一言に、その場にいた全員が納得の表情を浮かべた。 ▼   ▲   ▼ 公園の大きな広場では、小学校の低学年と思われる男の子たちが歓声を上げながらサッカーに興じている。公園のベンチに腰かけている多楠はそんな子供たちを笑顔で眺めながら、“なんとか幸先の良いスタートが切れてよかった。”と、しみじみと安堵した。 実は昨日から、多楠の中に、大きな気持ちの変化が起きていた。 部門飲み会の後はいつものように『かわばた』へ向かった新田と多楠であったが、終電となったその帰り、京成線の列車内でのことである。 酔いと、いろいろなことが起こりすぎてボーっとした頭の中、多楠は新田のことを考えていた。 しかし、関東貿易商会の1日目の調査を終え、新田に報告をしたときの “多楠、取れるぞ。” の一言は、強い印象として多楠の中に残っていた。 いずれにしても、新田という男、一流の調査官であることは間違いない。 多楠はスマホを手に取り、思いつくまま、メモをしてみた。 メモを眺めながら、多楠は思った。 “まだまだ学ぶべきものがあるはず。新田さんは・・・僕が大いに盗むべきすべを持っている調査官だ。” そしてひと言、つぶやいた。 「・・・仕事以外は別として、だけど。」 (次ページへ) (前ページへ) 澤村トッカンとの出会い、そして次の試練 暖かい日差しの中、足元でじゃれ合う2匹のミニチュアダックスフンドをあやしながら、昨日までの中身の濃い出来事を整理する多楠から、ふと大きなあくびが出た。 「しかし、なんて眠いんだ・・・。」 昨年法人課税第1部門に配属になったばかりのときも仕事に慣れるまでは毎日眠くて仕方がなかった多楠であったが、調査部門に配属になって・・・いや、新田さんと組んでいるからか、そのときの3倍くらい眠い日々が続いていた。 いつしか多楠は、公園で読もうと思って自宅から持ってきた法人税法のコンメンタールを枕に、ベンチで横になり居眠りをし始めた。コンメンタールの厚さが枕の替わりに、適度な硬さが快感へ。いくら休日とはいえ、現職の税務職員が公園のベンチで横になる様は何とも行儀の良いものではないが・・・・襲い来る・・・睡魔には・・・勝て・・・なかった・・・。 ▼   ▲   ▼ 夢の中、多楠の脳裏に現れたシーンは、昨日の夜、スナック『かわばた』であった。 京子ママ 「澤さん、本当に久しぶりね。今も竹橋税務署なの?」 “澤さん”と呼ばれている澤村トッカンは爽やかに笑って言った。 「そう3年目、もう完璧な窓際族だよ! はいこれ、ママにお土産!」 「あら“魚八の京粕漬け”、わたし大好物なの、うれしい!」 澤村は京子ママと少し話をした後、スタスタと奥のテーブルに向かった。 そこで待っていたのはもちろん新田である。 多楠からは暗くて新田たちの顔が見えないが、ときどき2人の笑い声が聞こえる。奥には2人しかいない。 多楠は驚いた。 “新田さんの笑い声、初めて聞いたな・・・” 入り口近くのカウンターに1人座り、奥の方を盛んに気にしている多楠を見て、京子ママが笑いながら言った。 「あの2人、仲がいいのよね。」 「2人は昔、三田税務署の特調のときの統括官と部下の調査官で、新田チャンを最初にこの店へ連れてきたのが澤さんなの。当時は毎日のようにこのお店に来ていたわ。今座っている席でいつもおしゃべりして、カラオケを歌っていたの。もう何年前になるかしら。」 京子ママから、特別調査部門の略称で税務職員しか知らないはずの“特調”という言葉があまりにも自然に飛び出したのにはびっくりした。 しかし、何よりも驚いたのは “新田さんが笑うなんて・・・そんなこともあるんだ。” ▼   ▲   ▼ それから1時間もたたないうちに、奥から澤村が出てきて多楠の元へやってきた。 多楠は硬直した。 「やぁ、初めまして! 僕は竹橋署のトッカンで澤村と言います。君が多楠君だね。新田君とペアなんだって? 勉強になるだろう。諦めないで新田君について行けば、きっといいことがあるはずだよ。」 「は、はぁ・・・ありがとうございます。」 とうなずくしかない多楠であった。 澤村は人懐っこい笑顔を浮かべると 「じゃあママ、悪いけど、俺帰るね。」 京子ママ 「あらいやだ、せっかく来たのにもうお帰り?」 照れた様子の澤村。 「カナダに留学している娘にこれから電話しなきゃならないんだよ。あんまり酔っぱらってから電話すると叱られるからね。」 京子ママ 「あら、本当に娘さんなの?これからどこかの美女とデートじゃないの?」 澤村は照れくさそうに笑って言った。 「いやだな。本当だよ。また今度ゆっくり来るね。多楠君、ガンバって!じゃあ!」 多楠は、澤村が出て行く様子を呆然と見ていた。 “何ともせわしい人だ・・・” 残された新田がまた一人、カラオケを歌いはじめる声が聞こえた。 ▼   ▲   ▼ 多楠がまどろみから戻ると、公園の林を抜けて少し風が吹いてきた。頬を舐める2枚の生温かい舌にビックリして目を開ける多楠。魚眼レンズで見たように、2匹のダックスフンドの顔が目の前に大きく現れた。 多楠はあまりの可愛さに2匹の犬を一度に抱きしめると、むくっとベンチから起き上がり、公園内のジョギングコースへと向かって歩きはじめた。 県立公園である行田公園の隣には、広大な敷地に税務大学校東京研修所が建っている。 公園を抜け、研修所前の一方通行の小路を歩いて、里山の雰囲気がそこかしこに残っている船橋市近郊の畑の中の道を、多楠と短い脚の2匹のミニチュアダックスフンドがちょこちょこと歩いて行った。 ▼   ▲   ▼ 翌週の月曜日、淡路と昼食を終え席に戻った多楠は、田村統括官に呼ばれた。 田村の側には、すでに新田と小泉調査官が立っていた。 多楠はニヤけた表情を浮かべている田村を見て、少しの緊張を覚えた。最近わかってきたことだが、こんなときの田村は、たいてい何やら企てをしている。 田村は多楠が席までやって来るとおもむろに言った。 「多楠君、御徒町駅の近くにあるすし屋を調査してほしいんだ。小泉調査官の事案なんだけど、1人で無予告調査は難しいから、新田・多楠ペアに手伝ってほしいんだよ。」 「ハイ?・・・・・」 急な話で戸惑う多楠、 「多楠君、無予告調査は初めてかな。無予告調査も経験しておかないとネ。2人の先輩からよく教わるといいよ。じゃぁ新田君、小泉君の支援を頼むね。」 普段から物静かな小泉調査官が、2人に深々と頭を下げた。 「新田さん、多楠君、よろしくお願いします。」 3人はさっそく調査の打ち合わせに入った。 急に舞い込んできた事案、着手は明日の10時、なにやら気忙しく、緊迫した感じがしてきた。 多楠にとって初めてとなる無予告調査。 実は大きな試練が、多楠を待ち構えていた。 (続く)

#No. 113(掲載号)
#堀内 章典
2015/04/02
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