《速報解説》 改正会社法等を踏まえた『経団連ひな型』が公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年4月10日付で、一般社団法人 日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会は、「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」(改訂版)を公表した。いわゆる経団連ひな型である。 今回の改訂は、本年5月1日に施行される改正会社法及び改正法務省令への対応及び「企業結合に関する会計基準」等の改正を踏まえたものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 本稿では、事業報告と計算書類及び連結計算書類に関する改正点について解説を行う。 「株主総会参考書類」及び「監査報告」などの改正点については、改訂後の経団連ひな型をお読みいただきたい。 なお、改訂後の経団連ひな型の適用時期については、改正法務省令に合わせて、経団連ひな型の【本ひな型の適用時期】に詳細に述べられているので、お読みいただきたい。 1 事業報告関係 事業報告に関して、全体的に次の対応を行っている。 事業報告に関する主な改正点は次のとおりである。 2 計算書類及び連結計算書類関係 計算書類及び連結計算書類に関する主な改正点は次のとおりである。 (了)
《速報解説》 「国税徴収に係る猶予制度見直し」の適用開始(H27.4.1~)に合わせ 『取扱要領』等、関連資料が公表 弁護士 木村 浩之 1 はじめに 平成26年度税制改正において、納税環境整備の一環として、国税徴収に係る猶予制度の見直しがなされたが、今般、国税庁HPにおいて同制度の具体的な取扱要領(以下「本取扱要領」という)が公表された。 本取扱要領では、納税の猶予及び換価の猶予等の処理に当たっての基本的な考え方、具体的な処理方法等が詳細に定められており、実際にこれらの制度の適用を検討するに当たり、実務の参考になると思われることから、本稿においてその概要を紹介する次第である。 なお、本取扱要領以外にも以下の資料等が公表されているので、合わせて確認されたい。 2 基本的な考え方 本取扱要領では、以下の3点に留意することが明記されている。 注目すべき点として、近年、納税者保護の観点から、適正手続の保障ということが潮流になっているが、本取扱要領でも、納税者の視点に立って、猶予制度の活用を検討すること、また、その処理も迅速に行うよう努めることなどが明記されており、今後、同制度の積極的な適用が期待されるといえよう。 3 換価の猶予 換価の猶予は、事業の継続や個人の生活の維持に不可欠な財産について、国税差押えがなされたとしても、その換価手続(実際の売却処分等)が一定の期間猶予されるというものであり、従前は税務署長の職権によるものだけが認められていた。これが平成26年度税制改正により、毎月の分割納付を条件として、納税者の申請に基づいて換価の猶予をすることが認められるようになった。 本取扱要領では、換価の猶予が認められるための要件及び手続が詳細に定められているが、申請による換価の猶予の場合も、従来の職権による換価の猶予の場合と同様の要件が必要とされていることに注目される。また、そのほか注目すべき点として、換価の猶予がなされる場合の猶予される金額、猶予される期間及び分割納付の方法が詳細に定められている。 4 納税の猶予 納税の猶予は、災害等が生じた場合、賦課手続が遅延した場合などで、一時に国税を納付することが困難なときに、一定の期間納税が猶予されるというものである。 なお、換価の猶予と共通してのものであるが、従前は税額50万円を超える場合には担保の提供が必要であったのが、平成26年度改正により、100万円まで無担保での猶予が認められることになった。また、100万円を超える場合であっても、猶予期間が3ヶ月以内であれば同様に担保が不要とされ、より使いやすい制度となっている。 本取扱要領では、換価の猶予と同様、納税の猶予が認められるための要件及び手続が詳細に定められており、さらに、これらに共通の事項として、上記の担保の適用に関するものも含め、猶予の許可等に関する処理、猶予の取消し等に関する処理などが詳細に定められている。 5 適用時期 本取扱要領については、平成27年4月1日以降に適用される。特に、今回新たに認められることになった申請による換価の猶予に関しては、同日以後に納期限が到来する国税について適用されることになるので、留意されたい。 (了)
《速報解説》 マイナンバー法の施行時期を定める政令が公布 ~番号の付番開始は「平成27年10月5日」から~ 仰星監査法人 公認会計士 岡田 健司 1 はじめに 平成27年4月3日の官報第第6506号において「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の施行期日を定める政令」(以下「本政令」という)が公布された。 本政令は、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号、以下「マイナンバー法」という)附則第1条(第1号から第3号まで及び第5号を除く、すなわち柱書と第4号)の委任規定を受け交付されたものである。 これにより、個人番号及び法人番号の付番の開始は「平成27年10月5日」から、個人番号の利用の開始は「平成28年1月1日」からとなる。 2 マイナンバー法の各規定の施行期日について 本政令の交付により、マイナンバー法の施行は平成27年10月5日と定められた。つまり、個人番号及び法人番号の付番は平成27年10月5日から開始されることになる。個人番号の利用は平成28年1月1日からとなる。 そこで、関係事務実施者である各事業者においては、改めてこれらの期日を確認し、各期日に間に合うように実務対応の準備を進めていく必要がある。 なお、内閣官房から、平成27年2月17日付で「事業者による個人番号の事前収集について」と題したお知らせが公表されている。そこで、平成27年10月5日以降付番を受けた個人番号については事業者による事前の情報収集が可能である。本件についての詳細は、下記の拙稿をご覧いただきたい。 参考までに、マイナンバー法における各規定の施行期日についてまとめておく。 (了) ↓お薦め連載↓
2015年4月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.114が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第28回】 「「海洋掘削装置」は所得税法上の「船舶」に当たるか?(その1)」 ~同一税法内部における同一用語の解釈~ 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 前回までは、異なる租税法で用いられている同一の用語をいかに解釈すべきかという問題を取り上げた。 具体的には、消費税法上の「事業」概念と所得税法上の「事業」概念について、これを同義のものとして理解すべきかどうかという問題を検討したが、そこでは、法の趣旨に従った解釈が展開される余地があることを論じたところである。 そこで、今回からは、同じ租税法の中で用いられている同一の用語はどのように解するべきかという問題について検討することとする。具体的には、ここでは、所得税法161条3号にいう「船舶」の意義を巡って争われた東京地裁平成25年9月6日判決を素材として、この問題を考えてみたい。 所得税法は、内国法人が外国法人からリースをしている資産が「船舶」に当たると、その内国法人が支払うリース料に対して20%の源泉徴収義務があると規定している(所法161三、212)。 ある対象物がこの「船舶の貸付け」に当たるか否かの判断に当たっては、まず、そこにいう「船舶」の意味を明らかにしなければならないのはいうまでもない。しかしながら、所得税法には「船舶」の定義はない。 これまでこの連載で紹介してきた検討の流れを考えると、所得税法上の「船舶」という概念を理解するに当たっては、まず、固有概念なのか、あるいは他の法律からの借用概念なのかという点から考察をすることになりそうである。 また、そもそも、所得税法161条3号にいう「船舶」とは、同法2条1項19号や同法26条1項にいう「船舶」と同じ意味に解釈すべきなのであろうかという疑問も生じるところである。すなわち、同一租税法内における用語の意義が異なることがあり得るのかという問題である。 1 事案の概要 内国法人X社(原告・控訴人)は、石油・天然ガスの探鉱・開発に係る海洋掘削等の事業を行う株式会社であり、パナマ共和国内に主たる営業所がある法人である本件各パナマ法人から、それぞれ海洋掘削の作業の用に供する「リグ(油田の掘削装置)」であるSAGADRIL-1(以下「本件リグ1」という)及びSAGADRIL-2(以下「本件リグ2」といい、本件リグ1と併せて「本件各リグ」という)の貸付けを受けていた。 所轄税務署長は、本件各リグの賃借の対価(以下「本件賃借料」という)は所得税法161条3号が国内源泉所得と定める「船舶の貸付けによる対価」に該当するから、その支払の際に所得税の源泉徴収をして国に納付しなければなければならなかったのに、これを怠ったとして、源泉所得税の納税の告知の処分(以下「本件各納税告知処分」という)及び不納付加算税の賦課決定の処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各納税告知処分と併せて「本件各処分」という)を行った。本件は、X社が、本件各リグの貸付けは同号の船舶の貸付けには該当しないなどと主張して、国Y(被告・被控訴人)を相手取り本件各処分の各取消しを求めた事案である。 本件リグは、ジャッキアップ型(甲板昇降型)のリグであり、掘削機器や居住用の施設等を搭載したハル(胴体)にジャッキ装置で上下に動く3本のレグ(脚)を取り付けた構造をしている。 例えば、本件リグ1のハルは、全長59メートル、全幅56メートル、深さ(高さ)6.58メートルの台状の構造体で、上から見ると三角形様の形状をしている。本件リグ1の各レグは、いずれも鉄骨等をはしご状に組んだ長さ(高さ)128.380メートルの三角柱様の構造体で、それぞれハルの各角にこれを貫通するように取り付けられている。ハルを洋上に浮かせた場合の本件リグ1の排水量は、9,228トンである。 本件リグ1を用いた掘削作業は、各レグを下げて海底に着底させ、これらを支えにしてハルを波浪の影響を受けない高さまで上昇させた状態で行われる。本件リグ1が掘削作業を行う場合の最大稼働水深は92メートルであり、最大掘削深度は6,000メートルである。 本件リグ1には、自航を可能とする推進機関が備えられていない。本件リグ1を海上で移動させる手段としては、いずれもレグを上げた状態で本件リグ1を海上に浮かせて曳航船で牽引する「ウェットトウ」と本件リグ1を台船に搭載し溶接及び固定をして運搬する「ドライトウ」がある。 なお、本件リグ2もまた、ジャッキアップ型のリグであり、ハルを洋上に浮かせた場合の排水量が8,720トンであることなどを除いて、その構造等は本件リグ1の構造等と同様である。 以下は、日本海洋掘削株式会社(JDC)からの引用である。 2 争点 本件の争点は、本件各リグが所得税法161条3号にいう「船舶」に該当するか否かである。 3 判決の概要 東京地裁平成25年9月6日判決(訟月61巻1号207頁)は、 とする。 そして、その上で、次のように説示して、「水上に浮揚しての移動及び積載に係る特徴を備えた本件各リグ」について「船舶」該当性を否定しない。 さらに、東京地裁は、次のように論じて本件各リグを所得税法161条3号にいう「船舶」に当たると判断し、X社の主張を斥けた。 控訴審東京高裁平成26年4月24日判決(訟月61巻1号195頁)は、原審の判断は相当であるとして、X社の控訴を棄却した。 (続く)
マイナンバー制度と 税務手続 【第1回】 「マイナンバー制度の理解」 税理士 坂本 真一郎 【はじめに】 平成25年5月24日に「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下「番号法」という)」を含む関連4法案が成立し、平成27年10月から個人番号(以下「マイナンバー」という)及び法人番号が通知され、平成28年1月から社会保障・税・災害対策の3分野で利用が開始される。 マイナンバーは、導入当初は社会保障・税・災害対策分野に係る行政機関等の事務のための利用に限定されているが、マイナンバー制度においては、民間事業者が番号収集・保管という非常に重要な役割を担わなくてはならないものの、未だに特別な対策を立てていないという事業者も多い。 特に、特定個人情報(※1)の適正な取扱いに関するガイドライン(以下「ガイドライン」という)では、特定個人情報の安全管理措置が義務づけられており、事業規模による対策のボリュームの差はあっても、すべての事業者が対応を行わなければならない。 (※1) マイナンバーをその内容に含む個人情報をいう。 それでは、事業者はどういったことを念頭にこのマイナンバー制度に取り組んでいけばよいのか、現時点で公開されている情報をもとに、筆者の視点から解説していきたいと思う。 【マイナンバー制度導入の目的】 番号法第1条では「マイナンバー制度導入の目的」として次の3点が掲げられており、制度を理解する上で重要な部分であるので、まず触れておきたい。 1 行政の効率化 マイナンバー制度の導入後は、国や地方公共団体等に対する行政手続において、マイナンバーの申告、申請書等への記載などが求められることとなる。国や地方公共団体等の間で情報連携が始まると、これまで相当な時間がかかっていた情報の照合、転記等に要する時間・労力が大幅に削減され、手続が正確でスムーズになると見込まれる。 例えば、市町村、税務署、年金事務所等が情報連携することにより、所得税確定申告書に記載している社会保険料控除等についての確認が容易となることや、配偶者控除及び扶養親族控除の適否も容易に確認されることが考えられる。 2 公平・公正な社会の実現 行政機関等の連携により、国民の所得状況等が把握しやすくなり、税や社会保障の負担を不当に免れることや不正受給の防止、さらに本当に困っている方へのきめ細かな支援が可能になる。 例えば、毎年税務署に提出される法定調書は、これを納税者ごとに名寄せして申告書と突合し、税務調査のための事前準備資料として管理しているが、氏名、屋号及び住所等の不一致により、同一人物に帰属するはずの情報が名寄せされずに「不明資料」として埋もれてしまうものも相当数発生している。 マイナンバー制度が導入され、申告書や法定調書等の税務関係書類にマイナンバーや法人番号が記載されることになれば、「不明資料」は減少し、申告書等との突合をより正確かつ効率的に行うことができるようになり、所得把握の正確性が向上すると考えられる。 3 国民の利便性の向上 これまでは、市町村、税務署、年金事務所など複数の機関から証明書類等を入手し、申請書等に添付して提出するということが多々あったが、マイナンバー制度導入後は、社会保障・税務関係の申請時に所得証明、住民票など複数の行政機関等で入手し提出していた添付書類を省略でき、手続が簡素化される。 また、平成29年以降設置予定の「マイ・ポータル(情報提供等記録開示システム)」サイトを通じて、自己が受けることができる行政サービス等のお知らせを受け取ることや、行政機関等が保有する自己の情報を確認し、その運用状況を監視することもできるようになる。 マイナンバー導入後は、住宅ローン控除のための所得税確定申告書の添付書類である「住民票の写し」の提出を省略することができるので、市町村窓口に出向く手間や発行手数料等の負担がなくなる。 また、平成30年にもマイナンバーを戸籍情報に紐付けすることが検討されており、実現すれば、相続税申告書の添付書類である「戸籍謄本」の提出を省略することができる。 それ以外にも、現在は国と地方公共団体それぞれ別々に提出する必要のある給与所得等の源泉徴収票、支払報告書の電子的提出について、提出先が地方税ポータルに一元化される予定となっている。 【マイナンバー制度の前提とされる事項】 前述のマイナンバー制度の目的を達成するためには、次の前提事項が必要となる。 1 付番 マイナンバーは、日本国内に住民票を有する人全員に予測不可能な番号が付番されること(悉皆性)、1人につき1つの番号が重複することのないように付番されること(唯一無二性)、「民-民-官」の関係で流通させて利用できる目に見える12桁のマイナンバー(視認性)が、最新の基本4情報(氏名、住所、性別、生年月日)と関連付けて付番されることが必要である。 このようにして付番されたマイナンバーは、平成27年10月以降、各市町村から住民登録上の住所地宛てに「通知カード」により送付される。 また、法人等については、国税庁において、上記の悉皆性、唯一無二性及び視認性のある13桁の法人番号が付番され、平成27年10月以降、登記上の本店所在地や税務署で登録されている住所地等に、法人番号の「通知書」が送付される。 2 情報連携 1人に1つの番号が付番されても、それぞれの行政機関の持っている個人に関する情報が、マイナンバーに紐付けされなければまったく意味をなさないことになる。 マイナンバー制度は、複数の行政機関等の間において、それぞれの機関ごとに管理している同一人の情報を符号で紐付けし、情報提供ネットワークシステムを通じて、紐付けられた情報を相互に活用できることが前提である。 マイナンバー制度の情報連携の仕組みは、個人のプライバシー権への配慮や国家管理に対する懸念への対応として、個人情報を特定の機関に集約せず、必要に応じて情報の照会・提供を行うことができる「分散管理」の方法が採用されている。 3 本人確認 個人番号を提供する者が、間違いなく番号の持ち主である本人でなければ、マイナンバー制度の前提が崩れてしまう。本人確認は、成りすまし等の防止のため、個人がマイナンバーを提供する際には、その番号が正しいかを確認するとともに、提供者がマイナンバーの真の持ち主であることを確認することであり、この制度の一番重要な手続の一つである。 この本人確認は、個人番号を利用して業務を行う行政機関等(個人番号利用事務実施者(※2))と、これに関連して業務を行う民間事業者等(個人番号関係事務実施者(※3))が行う最も重要な行為である。 (※2) マイナンバーを使って、番号法別表第一で定められる事務を処理する者をいう。 (※3) 個人番号利用事務に関し、他人のマイナンバーを必要な限度で使用して事務を処理する者をいう。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第3回】 「変更契約書を作成した場合の記載金額等」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は建築工事を行う法人です。発注者との間で、工事請負契約を締結し、「建築工事請負契約書」を作成しましたが、仕様変更等が発生し、契約金額が変更になりました。 その際に、変更契約書を交わそうと思いますが、変更契約書の記載金額の取扱いはどのようになるのでしょうか。 変更契約書の記載金額については、変更前の契約金額を証明した契約書が作成されているか否か、及び変更契約書における契約金額の記載の証明方法により、取扱いが異なる。 変更前の契約金額等の記載のある文書が作成されていることが明らかであり、かつ、変更の事実を証すべき文書により変更金額(変更前の契約金額等と変更後の契約金額等の差額に相当する金額をいう)が記載されている場合(変更前の契約金額等と変更後の契約金額等が記載されていることにより変更金額を明らかにすることができる場合を含む)には、当該変更金額が変更前の契約金額等を増加させるものであるときは、当該変更金額を当該文書の記載金額とし、当該変更金額が変更前の契約金額等を減少させるものであるときは、当該文書の記載金額はないものとする(通則4の二)。 上記通則4の二に規定する「当該文書に係る契約についての変更前の契約金額等の記載のある文書が作成されていることが明らかであり」とは、契約金額等の変更の事実を証すべき文書(変更契約書)に変更前の契約金額等を証明した文書の名称、文書番号又は契約年月日等変更前契約書を特定できる事項の記載があること又は変更前契約書と変更契約書が一体として保管されていること等により、変更前契約書が作成されていることが明らかな場合をいう(基通30)。 この場合において、建築工事請負契約書(原契約)の請負金額を8,000万円とした事例に基づきパターンにより説明すると以下のとおりとなる。 【原契約】 (事例1-1) 変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかな場合で変更金額が変更前の契約金額を増加させるものであるとき (事例1-2) 変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかな場合で変更金額が変更前の契約金額を減少させるものであるとき (事例2-1) 変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかでない場合で変更後の金額が記載されているとき (事例2-2) 変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかでない場合で変更金額のみが記載されているとき (了)
贈与実務の頻出論点 【第6回】 「認知症の母からの贈与」 税理士法人チェスター 解 説 [1] 認知症と後見制度 認知症はかつて痴呆症と呼ばれていたもので、後天的な脳の器質的障害で、もともとあった知能等が低下していく状態をいいます。物覚えが悪くなるといった誰にでも起こる老化現象ではなく、病的に能力が低下してくるものです。 認知症で判断能力が不十分な人は、財産管理や契約行為が難しくなります。判断能力が不十分な人を保護して支援する制度として、成年後見制度があります。成年後見制度を利用すると、本人に代わって成年後見人等が法律行為を行うことができます。 ただし、成年後見人等は本人の財産を守るために選任されているため、贈与等により本人の財産を減らすような行為は認められていません。成年後見人等が勝手に贈与契約を行った場合には、裁判所からその贈与行為の取消しや成年後見人等の解任をされる可能性があり、成年後見人等が贈与契約を行うことは難しいです(民7、846)。 [2] 生前贈与が否認される場合 贈与は贈与者と受贈者の贈与の意思があって成立します。このため、財産をあげる贈与者が認知症により判断能力が衰えてしまった場合、あげる側の意思能力に疑問が生じるため、贈与契約は成立しなくなります。 意思能力とは有効に意思表示する能力のことをいい、意思能力を欠く人の法律行為は無効とされているように、法律行為を行うためには意思能力が前提とされています。 司法書士が不動産の贈与登記を行う場合、司法書士が本人確認と意思確認をします。贈与契約書に署名捺印があったとしても、贈与者が認知症である場合には、司法書士は登記手続を進めることができません。 一方、認知症にも軽度のものから重度のものまで様々で、認知症だから意思能力がないとは一概に言い切れません。認知症と診断された後に作成された公正証書の死因贈与契約が有効とされた判例(東京地判平22.7.13)もあるように、認知症の人の意思能力の有無は事例ごとに個別検討が必要となります。 認知症が進行して判断が難しくなってきた場合や成年後見人が選任されている場合には、契約書に本人の署名があったとしても、贈与が無効とされてしまうので、注意が必要です(民549)。 (了)
法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第11回】 「内国法人の法人税②」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 3-2-1-2 国外所得金額の計算 (1) 国外所得金額の計算の概要 外国税額控除の控除限度額の計算の基礎となる国外所得金額は、国外源泉所得に係る所得に対してのみ法人税を課するものとした場合に課税標準となるべき当該事業年度の所得の金額とされ、国外事業所等に帰せられるべき資本に対応した利子の損金不算入相当額について加減算の調整を行う必要がある(法法69①、法令141の2①)。 前回述べたように、国外源泉所得は16種類が定められているが、国外事業所等帰属所得とそれ以外の国外源泉所得に区分して検討する必要がある。国外事業所等帰属所得は国外事業所等ごとに独立の事業者と擬制して帰せられるべき所得を計算する必要がある。その結果、国外事業所等帰属所得に係る国外所得金額は、内国法人全体として算出される所得金額と一致しないこととなる。 他方で、国外事業所等帰属所得以外の国外源泉所得に係る国外所得金額は、内国法人全体として算出される所得金額の範囲内に収まる。 (2) 国外事業所等帰属所得に係る国外源泉所得の認識時期 国外事業所得等帰属所得は独立して事業を行う事業者と擬制するので、収益認識の時期も独立の事業者であるとした場合に所得を認識すべき時期となる。例えば、支店から本店に商品の販売を行った場合は、内国法人全体として収益が実現していない場合でも、支店の収益を認識することとなる。 (3) 国外事業所等が内部取引により取得した資産 例えば、国外事業所が本店等から商品を取得して外部に販売した場合は、外国税額控除における国外所得金額の計算上は、本店等における取得価額ではなく、その内部取引における取得価額を基礎として売上原価の計算を行うことになる。 (4) 内外共通費用の配分 当期の所得金額の計算上損金算入された販売費・一般管理費その他の費用のうち国外源泉所得を生ずべき業務とそれ以外の業務の双方に関連して生じた共通費用がある場合は、収入金額、資産の価額、使用人の数その他の基準のうち内国法人の行う業務の内容及び費用の性質に照らして合理的と認められる基準によって国外所得金額の計算上の損金の額として配分する必要がある(法令141の2③)。 共通費用の配分の基礎となる費用の明細及び内容、配分の計算方法及びその方法が合理的であるとする理由を記載した書類を作成しなければならない(法令141の2④、法規28の5)。 (5) 国外事業所等に帰せられるべき資本に対応する負債利子の加算調整 ① 概要 国外事業所等に係る自己資本の額がその国外事業所等に帰せられるべき資本の額に満たない場合には、その国外事業所等を通じて行う事業に係る負債の利子のうち、その満たない額に対応する部分の金額を、国外所得金額の計算上加算調整しなければならない(法令141の2①一)。 (※) 上記及び以下の算式については「平成26年度税制改正の解説」(財務省)766~775頁より引用。 この加算調整額は、各国外事業所ごとに計算する。同一国に複数の拠点がある場合には、その国の複数の拠点を1つの国外事業所等として計算を行う。 ② 国外事業所等に係る自己資本の額 上記算式の「国外事業所等に係る自己資本の額」は、会計帳簿に記載した資産と負債の金額について、合理的な方法により計算した平均的な残高による(法令141の2⑫)。 ③ 国外事業所等に帰せられるべき資本の額 上記算式の「国外事業所等に帰せられるべき資本の額」は、資本配賦法又は同業法人比準法により計算する(法令141の2⑥)。 (表) 内国法人のPE帰属資本配賦方法 (注) 外国法人との違いは、資本配賦法で連結の数値を用いる方法がない点である。 【イ 資本配賦法】 内国法人の自己資本の額に、内国法人の資産の額の国外事業所等に帰せられるべき資産の額の割合を乗じて、その国外事業所等に帰せられるべき資本の額を計算しようとする方法である。 (ⅰ) 銀行等以外の内国法人・・・資本配賦原則法又は資本配賦簡便法 a 資本配賦原則法(法令141の2⑥一イ) b 資本配賦簡便法 銀行等以外の内国法人は資本配賦原則法に代えて、資本配賦簡便法を選択できる(法令141の2⑨)。発生し得る危険を計算する必要はなく、帳簿価額を用いることにより計算の簡素化を図ったものである。 (ⅱ) 銀行等である内国法人 a 規制資本配賦法 銀行等とは、預金保険法第2条第1項に規定する金融機関、農水産業協同組合貯金保険法第2条第1項に規定する農水産業協同組合、株式会社日本政策投資銀行、金融商品取引法第2条第9項に規定する金融商品取引業者をいう(法令141の2⑥一ロ、①二)。 また、規制上の自己資本の額とは、銀行法第14条の2第1号(経営の健全性の確保)に規定する自己資本の額に相当する金額、金融商品取引法第46条の6第1項(自己資本規制比率)に規定する自己資本規制比率に係る自己資本の額に相当する金額その他これらに準ずる自己資本の額に相当する金額をいう(法令141の2⑥一ロ)。 b リスクウェイト資産の算定の特例 「資産の額について発生し得る危険を勘案して計算した金額」とは、いわゆるリスクウェイト資産をいうが、銀行等の国外事業所等が多数存在する場合の事務負担に配慮して、総リスクのうちに貸出債権に係る信用リスクの占める割合が著しく高い場合には、貸出債権に係る信用リスクのみを用いてリスクウェイト資産の額の計算を行うことができる。 具体的には、発生し得る危険を勘案した金額を計算する際に、全リスク額に対する信用リスク額の割合が80%を超え、かつ、貸出債権リスク額(事業年度終了時の取引相手方の契約不履行により発生し得る危険を勘案して計算した金額をいう)のその信用リスク額に対する割合が50%を超えるときは、貸出債権に係る信用リスク額により計算することができる(法規28の10)。 【ロ 同業法人比準法】 同業法人比準法は、その国外事業所等に帰せられる資産の額に、同所在地国で事業を行う同業他社の自己資本比率を乗じて、その国外事業所等に帰せられるべき資本の額を計算しようとする方法である(法令141の2⑥二)。 (ⅰ) 銀行等以外の内国法人 a リスク資産資本比率比準法 その内国法人の事業年度終了の時の国外事業所等に帰せられる資産の額について発生し得る危険を勘案して計算した金額に、比較対象法人の貸借対照表計上の純資産の額を比較対象企業の総資産(発生し得る危険を勘案して計算した金額)で除した比率を乗じて計算した金額をもって、その国外事業所等に帰せられるべき資本の額とする方法である(法令141の2⑥二)。 b 簿価資産資本比率比準法 銀行等以外の内国法人(日本政策投資銀行及び保険業法第2条第2項に規定する保険会社を除く)は、リスク資産資本比率比準法に代えて簿価資産資本比率比準法により国外事業所等に帰せられるべき資本の額を計算することができる(法令141の2⑨)。 これは、内国法人の国外事業所等に帰せられる資産の帳簿価額の平均的な残高として合理的な方法により計算した金額に、比較対象法人の純資産の金額の同じく総資産の割合を乗じて計算する方法である(法令141の2⑨二)。 (ⅱ) 銀行等である内国法人・・・リスク資産規制資本比率比準法 リスク資産規制資本比率比準法とは、銀行等の事業年度終了時の国が事業所等に帰せられる資産の額について発生し得る危険を勘案して計算した金額に、(a)の金額の(b)の金額に対する割合を乗じて計算する方法をいう(法令141の2⑥二ロ)。 ④ 危険勘案資産額の計算日の特例 ⅰ 特例の内容 危険勘案資産額に関し、確定申告期限までにその金額の計算をすることが困難な常況にあると認められる場合には、その各事業年度終了の日前6月以内の一定の日における(ⅰ)から(ⅳ)までの金額について発生し得る危険を勘案して計算した金額をもって計算することができる(法令141の2⑦)。 ⅱ 特例の適用要件 本特例の適用を受けようとする最初の事業年度の確定申告書の提出期限までに、納税地の所轄税務署長に対し、申告書の提出期限までに危険資産勘案額を計算することが困難である理由、危険資産勘案額を計算する一定その他の事項を記載した届出書を提出した場合に限り認められる(法令141の2⑧、法規28の8)。 ⑤ 国外事業所等に帰せられるべき資本の額の計算方法の選定・変更 国外事業所等に帰せられるべき資本の額の計算は、各国外事業所等ごとに行う。帰せられるべき資本の額の計算方法についても、各国外事業所等ごとに、資本配賦法と同業法人比準法のいずれかを選択する。いったん選択した方法は、その国外事業所等を通じて行う事業の種類の変更等の特段の事情がない限り、継続適用する必要がある(法令141の2⑩)。 資本配賦法又は同業法人比準法等に属する別の方法に変更することについては、特段の制限なくできる。 ⑥ 加算調整の適用要件 加算調整は確定申告書等に加算金額及び計算明細書が添付されており、かつ、国外事業所に帰せられるべき資本の額の計算の基礎となる事項を記載した書類その他の一定の書類の保存がある場合に限り適用できる(法令141の2⑬、法規28の9)。 したがって、国外事業所等に帰せられるべき資本配賦の計算を行わず、国外所得金額の加算調整を行わないという選択肢も可能である。ただし、銀行・証券会社等の金融機関については、銀行等の資本に係る負債利子の減算調整との関係上、資本配賦が必須となる。 (6) 銀行等の資本に係る負債利子の減算調整 銀行等の自己資本の額については、銀行法や金融商品取引法等において、利子を生じない資本だけでなく、一定の劣後債のように利子が生ずる負債も自己資本に含められている。このような自己資本に含められる負債は銀行等の全体の便益のための負債であることから、その利子費用について国外事業所等に対して適切に配分される必要がある。 そこで、銀行等である内国法人の有する資本に相当するものに係る負債につき当該事業年度において支払う負債の利子の額のうち、その内国法人の国外事業所等に帰せられるべき資本の額に対応する部分の金額は、国外所得金額の計算上減算調整することとされた(法令141の2①二)。 減算調整すべき金額は、具体的には次の算式により計算する(法令141の2⑮)。 (7) 保険会社の国外事業所等に帰せられるべき投資資産に係る収益の額の減算調整 AOAでは保険会社の投資資産は保険リスクを引き受けた構成部分に帰属するものと整理されていることを踏まえ、保険会社である内国法人の国外事業所等に係る投資資産の額がその国外事業所等に帰せられるべき投資資産の額を上回る場合には、その上回る部分に相当する金額(投資資産超過額という)に係る収益の額を国外所得金額の計算上減算調整することとされた(法令141の2①三)。 (8) 確定申告書等への国外所得金額の計算明細書の添付 国外所得金額の計算明細書は従来実務上の取扱いとして申告書別表以外に添付が求められてきたところであるが、今回の改正で明細書の添付が法令上義務化された(法令141の2第22項)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第40回】 「法人税基本通達改正の歴史⑨」 公認会計士 佐藤 信祐 平成4年度において、「認定による債権償却特別勘定の設定に関する運用上の留意点について(平成4年9月18日課法2-4、査調4-4)」が公表された。このころからバブル崩壊による影響が出始めており、金融システム全体の安定性が脅かされる危険性が出てきたため、官民ともにあらゆる対応をし始めてきている。 本稿においては、平成4年度に公表された同個別通達についての解説を行う。 9 認定による債権償却特別勘定の設定に関する運用上の留意点について 平成4年8月18日に「金融行政の当面の運営方針」が大蔵省から公表され、それを踏まえた措置のひとつとして、「認定による債権償却特別勘定の設定に関する運用上の留意点について(平成4年9月18日課法2-4、査調4-4)」が公表された。これは、債権償却特別勘定設定における緩和措置とも言われており、その具体的な内容は以下の通りである。 なお、本通達は平成10年税制改正により廃止されることになる(「法人税基本通達の一部改正等について」、平成10年12月3日課法2-15)が、上記のうち、(1)については平成10年改正後法人税基本通達11-2-6、(3)については同通達11-2-6の2(平成14年2月15日課法2-1により、通達番号が11-2-7へ変更)に組み込まれる。なお、(2)については、「相当部分」という要件が現在の法人税法施行令96条1項2号から除外されていることから、現在の法人税基本通達には規定されていない。 このように、不良債権が増加し、金融システムの安定性が脅かされることになったため、債権償却特別勘定の設定を緩和したというのが、「認定による債権償却特別勘定の設定に関する運用上の留意点について」の背景であるが、現在の法人税基本通達の中に取り込まれ、事業会社にも影響の与える通達となっている。 しかしながら、この段階では、現在の貸倒引当金と異なり、国税当局による認定が必要であったため、不良債権処理は遅々として進んでいなかった。わが国における金融ビッグバンが平成8年から平成13年までに行われたことを考えると、この段階では仕方がないようには思える。 その後、平成5年1月に株式会社共同債権買取機構(以下「共同債権買取機構」という)が設置された。共同債権買取機構は不良債権の買取りのために設けられた機構であり、平成16年3月にすべての業務を終了して清算されることになる。共同債権買取機構につき、太田洋弁護士は、 と解説されており、また、当時は不動産抵当権によって担保されている不良債権しか対象にすることができなかったことから、不良債権処理の初期段階における背景をよく表しているように思える。 その後、次回、解説するように、平成10年度の法人税基本通達の改正により、同通達9-4-2が改正され、不良債権処理が一気に進むことになるが、平成11年4月1日に、旧住専債権の整理回収のために「特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法」に規定する「債権処理会社」として設立された株式会社住宅金融債権管理機構と、破綻金融機関の不良債権等の処理のために預金保険法に規定する「協定銀行」として設立された株式会社整理回収銀行が合併することにより、株式会社整理回収機構(以下「RCC」という)が誕生することになる。さらに、平成13年度の臨時国会において、RCCの業務として企業再生に関わる業務が法律上規定され、「RCC企業再生スキーム」が誕生することになる。 さらに、平成15年から平成19年までの時限的な機構として株式会社産業再生機構が誕生し、平成21年から株式会社企業再生支援機構が誕生した後に、平成25年に地域経済活性化支援機構へ改組されている。また、平成24年に株式会社東日本大震災事業者再生支援機構が設けられるなど、共同債権買取機構をスタートとした仕組みについては、目的や手法を変えながらも、継続していることになる。 また、それだけでなく、法人税基本通達9-4-2を利用した仕組みとして、私的整理ガイドライン、事業再生ADR、中小企業再生支援協議会などが設けられるなど、不良債権処理が進められていくことになる。 平成10年度税制改正前の流れを見てみると、貸倒損失の認識については、とにかく厳格に捉えていたことが分かる。そもそも、債権償却特別勘定についても、貸倒損失の認識がとにかく厳格であったことから、それを緩和する措置として設けられており、平成4年度に公表された「認定による債権償却特別勘定の設定に関する運用上の留意点について」も、債権償却特別勘定の認識をさらに緩和しようとした措置であったことが分かる。しかしそれだけではやはり不十分であり、共同債権買取機構が平成7年度に誕生している。 平成23年度税制改正においては、金融機関等は対象外として、事業会社のうち大法人について貸倒引当金の設定を認めないという形になっているが、金融機関等と異なり、地域経済活性化支援機構や事業再生ADRなどのような不良債権処理のための措置は整備されておらず、焦げ付いた不良債権について、会計上、損失として処理したものの、法人税法上は、別表4、5(1)で加算留保処理をしたまま、数年間も放置されてしまうケースは少なくない。しかしながら、そもそもかなり厳格なもののみが貸倒損失として認められ、それを緩和するために債権償却特別勘定が認められていたという流れを見ると、財源確保という大義名分の下で、金融機関等、中小法人を除いては、戦前の制度に戻っていったように感じられる。そう考えると、昭和29年度に貸倒準備金制度が導入された当時の東京国税局の解説にあるように、 としているのであるから、「相手方に少しでも支払う能力がある場合には認められない」というのが、現在の法解釈になると考えられる。 次回では、平成10年度の法人税基本通達の改正について解説を行う。 平成10年度税制改正においては、債権償却特別勘定が廃止され、個別評価金銭債権に対する貸倒引当金として改組されることになるが、法人税基本通達の改正においては、それに対応した改正だけではなく、同通達9-4-1、9-4-2についての見直しがなされている。 (了)