《速報解説》 金融庁より「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項について(平成27年3月期版)」及び「有価証券報告書レビューの実施について(平成27年3月期以降)」が公表 ~退職給付に関する注記等で『適切でない事例』を紹介~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年3月31日付で、金融庁は次のものを公表した。 平成27年3月期以降の有価証券報告書の作成に当たっては、これらに記載されている事項に特に注意し、適切に作成する必要があると考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意事項 「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項について(平成27年3月期版)」では以下の事項が述べられており、有価証券報告書の作成に際しては注意が必要である。 1 新たに適用となる開示制度・会計基準に係る留意すべき事項 2 平成26年度有価証券報告書レビュー(重点テーマ審査)を踏まえた留意事項 現在、実施中である平成26年度有価証券報告書レビュー(重点テーマ審査)に関して、現在までに把握された事象を踏まえた留意すべき点として、次の事項を述べている。 Ⅲ 有価証券報告書レビューの実施について(平成27年3月期以降) 今回は、重点テーマ審査として「退職給付」にかかる審査を実施するため、法令改正関係審査は実施しないとのことである。 1 重点テーマ審査 重点テーマ審査は、特定の重点テーマに着目して審査対象となる企業を抽出し、当該企業に対して所管の財務局等が個別の質問事項を送付し、回答を受けることで(ヒアリングを行うこともある)、より深度ある審査を実施するものである。 平成27年3月期以降の重点テーマは、以下のとおりである。 2 情報等活用審査 上記の重点テーマに該当しない場合であっても、適時開示や報道、一般投資家等から提供された情報等を勘案して、所管の財務局等から、個別の質問事項が送付されることがある。 「平成25年度有価証券報告書レビューの重点テーマ審査及び情報等活用審査の実施結果について」の別紙では、財務局等からの質問状には、次の観点も反映していると述べられており、本3月期の有価証券報告書の作成に際しても、下記の観点を十分に考慮し、開示の要否を判断すべきものと解される。 (了)
《速報解説》 平成27年度税制改正に係る 「所得税法等の一部を改正する法律」等が公布 (3月31日付 官報:特別号外第11号) ~参議院で可決・成立し同日公布、施行日は4月1日~ Profession Journal編集部 国会での審議が遅れていた平成27年度税制改正関連法である「所得税法等の一部を改正する法律」が、平成27年3月31日の参議院本会議で可決・成立し、同日夜に、3月31日付の官報特別号外第11号にて公布された(法律第9号)。施行日は平成27年4月1日(法附則第1条)。また地方税関係の改正法「地方税法等の一部を改正する法律」も官報同号にて公布された(法律第2号)。なお上記に関連する法令として、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の一部を改正する省令」についても官報同号にて公布されている。 官報:平成27年3月31日付(特別号外第11号)で公布された主な税制関連法令 ※告示は割愛しています。 ◆所得税法等の一部を改正する法律 所得税法の一部改正(第1条関係) 所得税法施行令等の一部を改正する政令 所得税法施行規則等の一部を改正する省令 法人税法の一部改正(第2条関係) 法人税法施行令の一部を改正する政令 法人税法施行規則の一部を改正する省令 地方法人税法施行令の一部を改正する政令 相続税法の一部改正(第3条関係) 相続税法施行令の一部を改正する政令 相続税法施行規則の一部を改正する省令 登録免許税法施行規則の一部を改正する省令 消費税法の一部改正(第4条関係) 消費税法施行令の一部を改正する政令 消費税法施行規則の一部を改正する省令 たばこ税法の一部改正(第5条関係) 国税通則法の一部改正(第6条関係) 国税通則法施行令の一部を改正する政令 国税通則法施行規則の一部を改正する省令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の一部改正(第7条関係) 租税特別措置法の一部改正(第8条関係) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 租税特別措置法施行令等の一部を改正する政令 ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令 ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 税理士法の一部改正(第9条関係) 税理士法施行規則の一部を改正する省令 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う所得税法等の臨時特例に関する法律の一部改正(第10条関係) 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律の一部改正(第11条関係) ※財産債務調書規定 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令の一部を改正する政令 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律の一部改正(第 13 条関係) 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令の一部を改正する政令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関 する特別措置法の一部改正(第14条関係) 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部改正(第 15 条関係) 附則:施行期日・経過措置など ◆地方税法等の一部を改正する法律 ( 附 則 ) 地方税法施行令の一部を改正する政令 地方税法施行規則の一部を改正する省令 ※その他関係法令 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令 減価償却資産の耐用年数等に関する省令等の一部を改正する省令 国税質問検査章規則等の一部を改正する省令 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の一部を改正する省令 (了)
《速報解説》 「監査及び四半期レビュー契約書の作成例」等が改正 ~改正会社法へ対応したひな型に~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年3月27日(ホームページ掲載日)、日本公認会計士協会は、次のものを公表した(改正の日付は、平成27年3月18日)。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「監査及び四半期レビュー契約書の作成例」の主な改正内容 基本的に、「会社法の一部を改正する法律」に対応した改正であり、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社など、改正会社法においても利用できる表現が用いられている。 1 特定取締役及び特定監査役の範囲 特定取締役は、指名委員会等設置会社の執行役を含み(会社計算規則130条4項2号)、また、特定監査役は、監査等委員会設置会社については監査等委員、指名委員会等設置会社については監査委員が該当する(会社計算規則130条5項3号、4号)。 2 守秘義務に関する文例 守秘義務が解除される正当な理由(法規委員会研究報告第14号の契約書作成例様式1から11では監査約款(又は四半期レビュー約款)9条、様式12から14では監査約款10条)として、例えば以下のような文例で合意しておくことも考えられるとして、文例が紹介されている。 Ⅲ 「財務情報の保証業務等の契約書の作成について」の主な改正内容 「財務情報の保証業務等の契約書の作成について」(法規委員会研究報告第10号)は、公認会計士等が実施する業務のうち、任意の財務諸表等のレビュー業務及び合意された手続業務を中心に、業務の違いによる契約書作成ガイドラインを示すとともに、契約書作成に関する概括的内容を付け加えている。ただし、調製については、対象外としている。 今回の改正では、「Ⅵ 作成例」において、裁判の管轄に関する規定などの改正が行われている。 (了)
《速報解説》 企業結合会計基準等の改正を踏まえた 「有価証券上場規程施行規則」等の改正、 「決算短信・四半期決算短信の作成要領」の改訂について ~施行・適用は4月1日から~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年3月26日、東京証券取引所は、「『企業結合に関する会計基準』等の改正に伴う有価証券上場規程施行規則等の一部改正について」を公表している。 また、「決算短信・四半期決算短信作成要領等」の一部改訂が行われており、「2015年3月版」として公表されている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 有価証券上場規程施行規則等の一部改正 次のものが改正されており、2015年4月1日から施行される(改正規定施行の日前に開始した連結会計年度に係るものについての付則に注意)。 今回の改正は、「企業結合に関する会計基準」等の改正を踏まえた「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の改正に伴うものであり、次のように用語の変更などが行われている。 「少数株主持分」 ⇒ 「非支配株主持分」 「連結当期純利益」 ⇒ 「親会社株主に帰属する当期純利益」 Ⅲ 決算短信・四半期決算短信作成要領等の一部改訂 「決算短信・四半期決算短信作成要領等(2015年3月版)」では、主な変更箇所を青字・下線で表示している。 主な改訂内容は次のとおりである。 四半期決算短信(サマリー情報)及び四半期決算短信(サマリー情報)の記載上の注意事項も同様に変更されている。 「決算短信・四半期決算短信作成要領等(2015年3月版)」は、2015年4月1日以後開始する連結会計年度の通期決算及び各四半期決算に係る決算短信及び四半期決算短信から適用し、早期適用はできないこととされている。 (了)
《速報解説》 「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い」が確定 ~契約変更時の借手の会計上の取扱いについて規定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年3月11日、企業会計基準委員会は、「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第31号の改正)を公表した。これにより、平成26年11月21日付で意見募集を行っていた公開草案が確定することになる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 平成26年6月30日の実務対応報告第31号の公表に際して、「契約変更時の借手の会計上の取扱いについて別途定める」とされていたものについて、規定を設けたものである。 リース・スキームにおけるリース契約の変更の取扱いについて、以下のように会計処理を行う。 次の設例が示されている。 1 ファイナンス・リース取引かどうかの再判定 リース取引開始日後にリース取引の契約内容が変更された場合のファイナンス・リース取引かオペレーティング・リース取引かの再判定にあたっては、契約変更日に、契約変更後の条件に基づいてリース取引開始日に遡って、実務対応報告第31号3項の判定を行う(6項、23項)。 判定を行うにあたって、借手が現在価値基準を適用する場合において現在価値の算定のために用いる割引率は、借手が契約変更後の条件に基づいてリース取引開始日における貸手の計算利子率を知り得るときは当該利率とし、知り得ないときは契約変更後の条件に基づいてリース取引開始日における借手の追加借入に適用されていたであろうと合理的に見積られる利率とする(7項)。 2 オペレーティング・リース取引からファイナンス・リース取引への変更 リース取引開始日後にリース取引の契約内容が変更された結果、オペレーティング・リース取引からファイナンス・リース取引となるリース取引については、契約変更日より通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行い、契約変更日に、リース物件とこれに係る債務を、リース資産及びリース債務として実務対応報告第31号9項に示す価額で計上する(8項)。 所有権移転外ファイナンス・リース取引については、リース適用指針23 項から30項の方法に準じて会計処理し、所有権移転ファイナンス・リース取引については、リース適用指針38項から44項の方法に準じて会計処理する。 リース物件とこれに係る債務をリース資産及びリース債務として計上する場合の価額は、原則として①の方法による。ただし、当該リース資産及びリース債務の価額を②の方法によることもできる(9項、25項)。 Ⅲ 適用時期 適用時期は、公表日(平成27年3月11日)以後適用する。 (了)
《速報解説》 「自己株式等会計基準」「退職給付会計基準」「在外子会社の取扱いに関する実務対応報告」等の改正が確定 ~各改正の適用時期に留意~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年3月26日、企業会計基準委員会は次の会計基準等の改正について公表した。 これにより、平成26年12月24日に意見募集されていた公開草案が確定することになる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準等の改正 1 主な改正内容 平成26年3月26日付の「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(平成26年内閣府令第19号)の単体開示の簡素化により、財務諸表等規則107条2項では、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、自己株式に関する注記を要しないと規定されている。 当該規定に対応して、以下のように改正する。 なお、アンダーラインは筆者が記載したものである。 2 適用時期等 改正された会計基準等は、公表日(平成27年3月26日)以後最初に終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用する。 Ⅲ 退職給付に関する会計基準の適用指針の改正 1 確定拠出制度に準じた場合の開示 平成24年1月31日付で厚生労働省から発出された、厚生労働省通知「厚生年金基金の財政運営について等の一部改正及び特例的扱いについて」などにおいて、厚生年金基金及び確定給付企業年金に関する財務諸表の表示方法について変更が行われている(「退職給付に関する会計基準の適用指針」72-2項)。 当該変更に対応して、複数事業主制度の会計処理及び開示に関する「確定拠出制度に準じた場合の開示」について改正する(「退職給付に関する会計基準の適用指針」65項、126-2項)。 2 簡便法による退職給付債務の計算 簡便法による退職給付債務の計算について、112-2項が新設され、簡便法による退職給付債務の計算にあたり、年金財政計算上の数理債務の額を用いる場合には、厚生年金基金及び確定給付企業年金の貸借対照表の欄外に注記されている「数理債務」の額(厚生年金基金の場合は当該「数理債務」の額と貸借対照表に表示されている「最低責任準備金」(負債)の額の合計額)を勘案して退職給付債務を計算することに留意する必要があると述べられている。 3 適用時期等 公表日(平成27年3月26日)以後最初に終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用する。 改正適用指針の適用については、表示方法の変更として取り扱い、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)14項の定めに従って、表示する過去の期間における本適用指針65項の注記についても新たな表示方法を適用する(129-2項)。 Ⅳ 連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い 1 主な改正内容 平成26年1月に改正された米国におけるのれんに関する会計基準への対応及び平成25年9月に改正された「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号)への対応として、次の改正を行う。 なお、IFRS 第9号における、その他の包括利益を通じて公正価値で測定する資本性金融商品への投資の公正価値の変動におけるノンリサイクリング処理等を修正項目として追加するか否かについては、今後、検討を行う予定であるとのことである。 2 適用時期等 改正された実務対応報告及び平成27年改正実務対応報告の公表による他の会計基準等についての修正は、平成27年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用する。 ただし、今回の改正により削除された「少数株主損益の会計処理」に関する取扱いを除いて、平成27年改正実務対応報告公表後最初に終了する連結会計年度の期首から適用できる。 適用に際しての詳細な規定が設けられているので、注意が必要である。 (了)
《速報解説》 馬券訴訟の最高裁判決を受け所得税基本通達の改正パブコメが公表 ~雑所得に該当する場合の詳細な要件を通達34-1に追加~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 1 はじめに 競馬の馬券の払戻金に係る所得区分については、去る3月10日の最高裁判所判決により、争点となった馬券の購入の態様から、営利を目的とする継続的行為から生じたものであり、雑所得に該当すること、必要経費についてはすべての外れ馬券の購入金額が対象となることが確定した。 判決の確定を受けて、国税庁は、翌11日、「最高裁判所判決(馬券の払戻金)に係る課税の概要等について」と題するリリースを発表し、裁判で争点となっていた所得税基本通達の改正予定を明らかにした。 〔追記:2018/3/5〕上記国税庁ホームページは公開が終了しています。 次いで、国税庁は、3月25日、パブリックコメントを求める手続きを公示した。 本稿では、所得税基本通達改正に向けた国税庁のリリース内容及び改正案について、検討したい。 なお、最高裁判所3月10日判決については、4月2日に本誌No.113掲載予定の拙稿「租税争訟レポート」【第22回】で取り上げる予定である。 2 「最高裁判所判決(馬券の払戻金)に係る課税の概要等について」 国税庁は、3月11日に公表した当リリースにおいて、「今後の対応」として、次のように記述している。 ここでは、基本通達の改正を行うことが明言されているうえ、同様の課税処分を受け、あるいは争訟となっている納税者に対する救済(リリース上は「是正」)についても言及されているので、全文を引用したい。 3 パブリックコメントの公示(3月25日) 基本通達改正のリリースから約2週間後の3月25日、「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(競馬の馬券の払戻金に係る所得区分)に対する意見公募手続の実施について」と題されたパブリックコメントの募集手続が公示された。 (1) 所得税基本通達改正(案)の内容 現行の所得税基本通達34-1(一時所得の例示)の(2)に掲げられている「競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等」の後に、以下(下線部)のような括弧書きと注書きを加えるというのが、改正案の内容である。 (2) 改正(案)に対する国税庁の解説 上記の所得税基本通達改正(案)について、公示の際のリリースには、以下のような解説が記載されている。 (3) 改正(案)の検討 改正(案)を一読して感じることは、馬券の購入を「営利を目的とする継続的行為」と認定させるためには、相当に高いハードルがあるという点であろう。 通達は(注)1として、適用要件を詳細に規定したうえで、さらに、「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合」としており、馬券の払戻金が「雑所得」であると認定することをできるだけ制限したいという国税庁の考えがうかがえるところである。 今回の改正(案)については、競馬の馬券の払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じたもの」であるとする取扱いを認めることが明確に規定されたのは一歩前進であると評価できるが、そのための要件が細かく、また、「客観的に明らか」という課税庁・調査担当者の恣意性が介入する余地のある規定が入れられていることは、課税の公平の面からは問題があると言わざるを得ないところである。 パブリックコメントとしてどのような意見が集まり、それを受けて、国税庁長官が基本通達をどのように改正するかについて、今後も注視したい。なお、パブリックコメントの受付締切は、4月24日とされている。 (了)
2015年3月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.112が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第9回】 「税制改正とその問題点」 税理士 山本 守之 1 2段階の法人税改革 政府は法人税改革として2段階に分けて法人税率を引き下げることにしています。 まず、第一段階(平成27年度~29年度)では実効税率を改正前34.62%から平成27年度32.11%、平成28年度に31.33%とし、(以後は明らかではない)、第2段階は平成30年度、31年度はさらに引き下げ、ドイツ(29.59%)並みにするようです。 第二段階では、次のような改正を見込んでいます。 2 定額法一本化の目的 このうち、減価償却(定額法に限定)や事業税(損金不算入)についてはドイツの2000年改正でも行われたものです。わが国の政府税調では「定率法は節税効果や所得操作の可能性がある」等不合理な発言をしていますが、「定率法も定額法も理論的ですが、税率引下げの財源として定額法に限定します」と言った方が正直です。 また、協同組合等の事業分量配当金は経済的性格が売上割戻しと同じだから損金算入を認めているので、決して過剰支援ではありません。税調はもう少し勉強したらどうでしょうか。 これらを廃止し、協同組合等の法人税等の引下げを行わず所得計算で財源措置を適用すると、これらの法人の所得が増加して公益法人等や協同組合等か普通法人の税率引下げの犠牲となってしまいます。 (注) 財務省では、私のこの指摘に配慮し、平成28年度改正で協同組合の税率を19%から17%~18%に下げるという検討をしているようです。 3 実効税率に関する議論の問題 「日本の法人税は高い、日本の企業の国際競争力向上のためにも法人税の実効税率を引き下げて」という考え方で、平成27年度から数年かけて実効税率を20%台に引き下げることにしています。 「実効税率」は、次のように法人税率と事業税の表面税率をプラスしたものに過ぎません。 (※) 実効税率の計算は、地方税については標準税率ベースで計算している。 税負担は税率に課税ベース(課税所得)を足したものですから、税負担を比較する場合には、表面税率(実効税率)の引上げ・引下げだけで検討すべきでありません。 わが国の税制調査会でも、かつては次の①のように述べていました。 しかし、昭和61年以降は②のように態度を変えました。 しかし、「差し当たり」としてから30年も経過しており、日本の学者の不勉強を示しています。 ②の後、平成8年11月の法人課税小委員会報告では③のように指摘しています。 日本の「実効税率」に事業税率を含めて「高い」としていることにも問題があります。 日本の事業税は本来収益税ですから、収益を生む客体に対しても課税するものですから、たまたまその課税客体を課税標準とするときに所得金額にしているため、税の性格に反して「実効税率」の計算に組み入れられています。これが日本の実効税率を高くしている要因となっているのです。 この計算には「課税標準は所得金額だから所得のうちから支払われるもの」との考え方があるのかもしれません。 しかし、事業税の所得計算上の扱いは物税たる性格に着目して損金の額に算入されており、一般には、製品原価を構成する費用となっています。製造原価に含まれていれば、事業税を負担するのは企業ではなく消費者ですから、企業の実効税率に含めるのは理論的ではありません。 法人税実務では、事業税を原価に含めるか否かは企業の意思に委ねています。これは、 という考え方に基づくものでしょう。 これらの計算のあり方について、日本の学者は意見を述べていません。 今次の税制改正でも、減価償却が定額法に限定され、事業税を損金不算入として所得金額が増加するので、かえって増税になるところもあります。 このように、税負担を検討すべきときに実効税率だけを取り上げるのは誤りなのですが、日本の有識者(学者)や政治家はこれに気付いていません。 4 実効税率に反映されない政策減税 大企業は租税特別措置による政策減税で法人税負担が少なくなっていますが、これは実効税率に反映されていません。政策減税が特定の大企業に集中し、法人税の仕組みに欠陥があるからですが、これも考慮されていません。 平成25年度の研究開発減税は6,240億円で、前年に比べて5割以上増えました。これはトヨタ自動車など大手製造業や製薬業界が研究開発への投資を増やしたためです。上位10社の適用額が全体の4割を占めています。 売上額に占める研究開発費の大きい企業の減税は適用額の9割が上位10社(267億円)という状態です。 利用の偏りという意味では、肉用牛の売却益への減税(222億円)があり、船舶の特別償却(267億円)では、適用額の5割が上位10社です。これらに対してアベノミクスによる賃上げ促進税制は630億円の減収を見込んでいましたが、実際の適用分は420億円だけです。設備投資の税額控除は想定の半分しか利用されていませんでした。 租税特別措置にメスを入れないままに実効税率だけを比較し、税率の引下げをするのは単純な発想です。 5 相続税の基礎控除をめぐる問題 マスコミ論調は「相続税増税」「大変だ、相続税対策が急務」となっています。 これは、相続税の基礎控除が次のように引き下げられたからです。 〈相続税の基礎控除〉 実は、このように改正したのは、過去の税制改正を的確に行っていなかったのを反省したからです。それまでの改正は、昭和58年を100とした場合の地価は平成3年で336.8(三大都市の公示地価、全国の公示地価では199.3)となって「相続税が払えない」という資産家の声を反映して基礎控除を引き上げてきました。 分からないのは、地価がかなり下がった平成6年以降も基礎控除を上げ続けたことです。平成24年時点では、地価は昭和58年を100とした場合に70.0(三大都市地価表示)、84.8(全国地価公示)となっても手を付けていなかったのです。 さらに、地価が上がったため相続税の基礎控除を安易に引き上げると、金融資産を多額に保有している者の相続税負担を不当に減少させてしまうという筆者の意見を無視してきた立法当局の態度がこのような現象を生んでしまったといえます。 相続税の負担には耳を貸すが、勤労による所得によってマイホームを手に入れ、多額の住宅ローンを抱える庶民の所得税負担を無視してきたのも問題です。 〈地価と基礎控除額の推移〉 (財務省ホームページより) さて、相続税の基礎控除が引き上げられると、「大変だ」という声につられて安易な相続税対策が行われるようになりました。 銀行から数億円の借金をして不用な土地を立地を買い漁り、借入金と土地の相続税評価額の差額を使って相続資産の評価額を下げて「節税」しようとしています。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例24(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 東京都より立ち退きによる移転補償金2,000万円を収受したが、移転補償金は収用換地等の場合の所得の特別控除(以下「収用等の特別控除」という)の適用が受けられないと判断し、その適用をせずに申告をした。しかし、その内容は特別控除の適用がある借家人補償金であった。これにより法人税額等につき過大納付が発生し、賠償請求を受けた。 《賠償請求の経緯》 平成X4年10月11日 東京都より立ち退きによる1回目の移転補償金を収受。 平成X5年2月5日 東京都より立ち退きによる2回目の移転補償金を収受。 平成X5年5月31日 平成25年3月期の法人税を「収用等の特別控除」を適用せずに申告。 平成X6年8月 関連会社が東京都より立ち退きによる移転補償金を収受。 平成X6年11月21日 関連会社の申告において「収用等の特別控除」の適用が受けられたことから、平成X5年3月期の申告につき確認を求められ、ミスが発覚。 平成X6年11月26日 関与先に報告し、賠償請求を受ける。 《基礎知識》 ◆収用換地等の場合の所得の特別控除(措法65の2) 法人の有する資産につき土地収用法等の規定により資産を譲渡した場合において、その事業年度のうち同一の年中に収用換地等により譲渡した資産のいずれについても圧縮記帳又は特別勘定の適用を受けていないときは、譲渡益の額と収用換地等により取得した補償金の額のうち5,000万円に達するまでの額とのいずれか低い金額を、当該譲渡の日を含む事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができる。 ◆補償金等の種類と課税上の取扱い(措通64(2)-1~2) 収用換地等の場合の課税の特例の適用が受けられる補償金等は、名義のいかんを問わず、原則として資産の収用換地等の対価たる金額に限られる。 ◆対価補償金等の判定(措通64(2)-3) 法人が交付を受けた補償金等のうちにその交付の目的が明らかでないものがある場合には、当該法人が交付を受ける他の補償金等の内容及びその算定の内訳、同一事業につき起業者が他の収用等をされた者に対してした補償の内容等を勘案して、それぞれ対価補償金、収益補償金、経費補償金、移転補償金又はその他補償金たる実質を有しない補償金のいずれに属するかを判定する。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 依頼者は東京都の再開発事業に伴い入居していたビルからの立ち退きを余儀なくされ、立ち退きによる移転補償金2,000万円を収受した。移転補償金は原則として「収用等の特別控除」の適用はないが、例外として建物の収用等に伴い借家人が転居先の建物の賃借に要する権利金に充てるものとして交付される借家人補償金には適用がある。しかし、被保険税理士は補償金を雑収入に計上しただけで、特別控除の適用をしなかった。 その後、依頼者の関連会社が同様の移転補償金を収受した際、「収用等の特別控除」の適用が受けられたことから、依頼者から平成X5年3月期に収受した移転補償金についても「収用等の特別控除」の適用が受けられたのではないかとの指摘を受け、はじめて特別控除の適用が受けられたことに気づいている。補償金を収受した段階で、その内容を確認していれば特別控除の適用は受けられたことから、税理士に責任がある。 《予防策》 [ポイント①] 思い込みに注意する。 本事例は「収用等の特別控除」は対価補償金以外は対象にならないとの思い込みから生じたものである。上記《基礎知識》にも記載したように、例外があること、及び、名義のいかんを問わず補償の内容で適用を判断することを再認識し、場合によっては起業者に確認すること。 [ポイント②] チェックリストを活用したダブルチェック体制の構築 申告時のミスは、期中処理と違い、ある程度は申告書自体をチェックすることで防げる。したがって、申告時のチェックリストを作成して、担当者だけでなく、所長税理士又は有資格者等によるダブルチェック体制を構築することが必要である。 (了)