日本の企業税制 【第24回】 「BEPS最終報告書と今後の動向」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに OECD加盟国に中国、インド、ロシア等のOECD非加盟の8ヶ国が参加して進められてきたBEPS(Base Erosion and Profit Shifting=税源浸食と利益移転)プロジェクトは、10月5日に1,600ページを超える最終報告書を公表して、一応、完結した。 BEPSプロジェクトは、もともと欧州において米国系多国籍企業が、複数の国々を結ぶ複雑なタックス・プランニングを駆使し、事業活動を行う国における税負担を軽減させていたことを端緒とし、多国籍企業による租税回避行為を封殺するために、先進国のみならず途上国を代表する諸国も参加し、国際課税における経済実態に即した課税を実現する新たなルールを網羅的に構築しようとする試みである。 2 15の行動の概要 財務省の説明に従って整理するならば、15の行動は以下のような3分野、6項目に分けられる。 〈実体法的側面〉 グローバル企業は価値が創造されるところで税金を支払うべきとの観点から、国際課税原則を再構築するもの。企業が調達・生産・販売・管理等の拠点をグローバルに展開し、グループ間取引を通じた租税回避のリスクが高まる中、経済活動の実態に即した課税を重視するルールを策定する。 〈手続法的側面〉 各国政府・グローバル企業の活動に関する透明性向上を図るもの。例えば、グローバル企業の活動・納税実態の把握のための各国間の情報共有等の協調枠組みの構築等。 〈紛争解決-企業の不確実性の排除と予見可能性の確保〉 租税に係る紛争について、より効果的な紛争解決手続を構築するとともに、今回のBEPSプロジェクトの迅速な実施を確保。 3 今後の予想される対応 15の行動は、いずれも何らかの意味で国際課税における租税回避行為に有効に対処しようとするための試みであり、これからの作業も含め、タックスヘイブン対策税制、移転価格課税、租税条約等の国際課税の基本的枠組みを大きく改めるものとなる。 15の行動の中には、OECD加盟国に対して法的な対応を求める勧告となるものや、モデル租税条約や移転価格ガイドラインの改正あるいは多国間協定の開発など、わが国においても、現行租税法令の改変を求められるものが数多く含まれている。 そこで、各行動についての今後のわが国の対応を予想するならば、以下のようになるものと思われる。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第1回】 「つまみ申告事件(ことさら過少事件)」 ~最判平成6年11月22日(民集48巻7号1379頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
国境を越えた役務の提供に係る 消費税課税の見直し等と実務対応 【第3回】 「内外判定基準の見直し」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 4 国境を越えた役務提供に対する消費税課税に関する平成27年度税制改正の内容 国境を越えた役務提供に対する消費税課税に関する平成27年度の税制改正の内容は、以下のとおりである。 (1) 内外判定基準の見直し 国境を越えた役務の提供のうち、電子書籍・音楽・広告の配信等の電気通信回線を介して行われる役務の提供を特に「電気通信利用役務の提供(消法2①八の三)」として区分し、当該「電気通信利用役務の提供」に関しては、内外判定基準を従来の役務提供に係る事務所等の所在地から、役務提供を受ける者の住所地等に改められた(仕向地主義への変更)。 【内外判定基準の見直し】 この「電気通信利用役務の提供」には、著作物の利用の許諾に該当する取引(旧消令6①七)が含まれる。これは、電子書籍や音楽配信等の電子コンテンツの提供が、従来の消費税法においては「役務の提供」と「資産の譲渡・貸付」のいずれに該当するのか明確ではなかったため、私法上、著作物の利用の許諾と解される取引で従来の消費税法上「資産の譲渡・貸付」に該当する可能性がある取引も、「電気通信利用役務の提供」に含まれるものとして明確化したものである(※1)。 (※1) 2014年6月27日政府税制調査会第10回総会資料「〔国境を越えた役務の提供に対する消費税について〕―制度案について―」2頁参照。 国境を越える役務の提供に対する消費税の課税については、政府税制調査会の制度改正案(※2)では、海外の事業者が行う役務の提供のうち、国内外に渡る役務提供など、その役務の提供が行われた場所が明らかでないもの(国際運輸・国際通信等の一定の取引を除く、旧消令6②七)全般について仕向地主義へと変更することが提案されていたが、税制改正大綱では上記「電気通信利用役務の提供」に限定されることとなり、条文化されたところである。 (※2) 政府税制調査会前掲(※1)資料2頁参照。 (2) 電気通信利用役務の提供の分類 上記「電気通信利用役務の提供」は、事業者向け(B to B取引)と消費者向け(B to C取引)の2つに分類される。EUの場合、取引相手が事業者であるか消費者であるかは事業者番号(VAT registration number)により判別することが可能であるが、わが国においては採用されていないため、以下の①②の方法で両者を分類することとなる。 ① 事業者向け電気通信利用役務の提供 海外の事業者(国外事業者(※3))が行う電気通信利用役務の提供のうち、その役務の性質又は役務の提供に係る規約条件等により、役務の提供を受ける者が事業者(国内の事業者)であることが明らかなものについては、「事業者向け電気通信利用役務の提供(消法2①八の四)」となった。具体的には、広告配信事業やクラウドサービスなどを指すと考えられる。 (※3) 所得税法上の非居住者である個人事業者及び法人税法上の外国法人をいう(消法2①四の二)。 ② 消費者向け電気通信利用役務の提供 国外事業者が行う電気通信利用役務の提供のうち、上記①の「事業者向け電気通信利用役務の提供」以外のものは、「消費者向け電気通信利用役務の提供」とされた。 ③ 電気通信利用役務の提供に関する改正前後の課税関係 電気通信利用役務の提供に関する改正前後の課税関係をまとめると、以下の図のようになる。 【電気通信利用役務の提供に関する改正前後の課税関係】 (出典) 国税庁「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等について」(平成27年5月)2頁 (3) 電気通信利用役務の提供に付随して行われる役務の提供 「電気通信利用役務の提供」には、電気通信利用役務の提供以外の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供や、単に通信回線を利用させる役務の提供は含まれない。これは、実質的な役務の提供が国外で完結しているような取引については、国外取引として消費税の課税対象外とする趣旨である(※4)。 (※4) 政府税制調査会前掲(※1)資料3頁参照。 具体的には、海外で行われた市場調査の結果を電子メールで送信するような場合は、当該送信は市場調査に「付随して行われる役務の提供」であるため、「電気通信利用役務の提供」には該当しないものと考えられる。後述【第7回】6(1)参照。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第16回】 「継続的取引の基本となる契約書②(契約上の地位を譲渡する場合)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は電化製品卸売会社です。 この度、当社とメーカーとの間で締結した売買取引基本契約上の地位を、譲渡することとなりました。その際に、下記の覚書を作成しましたが、印紙税の取扱いはどうなるのでしょうか。 なお、当初甲と乙との間で締結された売買基本契約書は第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当するものです。 第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当し、印紙税額4,000円となる。 [検討1] 印紙税法上の契約書に該当するか 印紙税法上の契約書とは、契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実を証すべき文書(通則5)とされている。事例における契約は、契約の更改を定める文書であり、印紙税法上の契約書に該当する。 なお、更改とは、一方の債務の消滅と他方の債務を成立させることであり、債務の消滅部分は課税事項には該当しない。新たに成立する債務の内容の文書として所属が決定されることとなる。 [検討2] 甲と乙との間で締結されている売買基本契約書を引用することができるか 覚書の第1条において、甲と乙との間で締結されている売買基本契約を引用する旨の記載があることにより、覚書に甲と乙との間の売買契約内容が記載されているものとして引用することができる。ただし、記載金額及び契約期間については引用できない。 ▷ まとめ ◆他の文書を引用している文書の判断 ◆契約の更改の意義等 ◆継続的取引の基本となる契約書の範囲(抜粋) (了)
改正電子帳簿保存法と企業実務 【第3回】 「国税関係帳簿書類のデータ保存の承認申請(1)」 税理士 袖山 喜久造 前回は国税関係書類のスキャナ保存制度の規制緩和に関し、書類のスキャナ保存をするためには、帳簿の備付け・保存がきちんとされていることが第一条件であると解説した。紙の書類の保存に代えて、スキャンデータによりこれらの書類を保存するには、帳簿と書類には相互に確認すべき項目を持ち、どちらからでも特定が可能な状態で保存しなくてはならないからである。これを「相互関連性の確保」の要件と言うが、このほかにも検索要件を満たすために帳簿のデータを利用することもあるため、帳簿のデータが正しく保存されていることが必須である。 第3回では、税法等で備付け・保存が義務付けられている国税関係帳簿書類について解説する。 (1) 申請対象の帳簿書類とは 電子帳簿保存法第4条第1項、第2項で規定される電磁的記録の保存に係る申請の対象となる文書は、法人税法、所得税法など税法等の規定で備付け、保存が義務付けされている帳簿書類(以下、「国税関係帳簿書類」)に限られる。 各税法では、国税関係帳簿書類は原則として書面で保存することを義務付けしているが、これを一定の要件の下で、電磁的記録による保存を認めた法律が電子帳簿保存法(以下、「電帳法」)である。 (2) 法人税法で規定される帳簿書類 法人税法においては、第4条の4で連結法人の帳簿書類の保存、第126条において青色申告法人の帳簿書類、第150条の2でそれ以外の法人(白色申告法人)の帳簿書類の備付け及び保存についてそれぞれ規定している。本稿では青色申告法人、連結申告法人について解説する。 青色申告法人及び連結申告法人の帳簿書類については、法人税法第4条の4《連結法人の帳簿書類の保存》と第126条《青色申告法人の帳簿書類》第1項に規定されている。具体的事項は、法人税法施行令に規定し、連結申告法人は施行令第8条の3の4から第8条の3の10までに、青色申告法人は施行令第53条から59条に関連条文がある。 連結申告法人も青色申告法人も、承認された場合にはそれぞれ税法上の特典があることから、白色申告法人と比較すると、より厳格な記録方法を要求されている。 (イ) 連結申告法人、青色申告法人の帳簿 連結申告法人の帳簿の規定は、連結親法人とその連結子法人の全ての法人に対して及び、青色申告法人は承認を受けている単体法人に対する規定となる。これらの法人の帳簿の備付け及び保存に関する記載事項と記載方法については、法人税法第4条の4、同第126条第1項、法人税法施行規則第8条の3の5と同第8条の3の6、及び第54条と第55条に規定されている。 これらの規定によれば、仕訳帳とは 全ての取引を借方及び貸方に仕訳する帳簿であり、その記載方法は、取引の発生順であり、記載項目は、取引年月日、取引内容、勘定科目、金額を記載することとしている。また、総勘定元帳とは、全ての取引を勘定科目の種類別に分類して整理計算する帳簿であり、その記載方法は勘定科目の種類ごとに記載し、記載項目は、記載年月日、相手勘定科目、金額を記載することとしている。 さらに、帳簿の使用目的別に 現金出納帳や預金元帳、売掛金や買掛金の元帳、固定資産台帳などのその他必要な帳簿を備え、法人税法施行規則別表20に定めるところにより、取引に関する事項を記載することとされている。 ここで重要なのは、帳簿には「全ての取引」を記録することが規定されていることである。取引の単位とは、後述する帳簿代用書類に記載される明細を除き、集計された仕訳の単位ではなく、個別の取引の明細となる。すなわち、仕訳帳及び総勘定元帳には、原則として一事業年度中に行われた全ての取引の記帳がされていなくてはならない。 (ロ) 連結申告法人、青色申告法人の書類 「書類」と称される文書は、決算関係書類と取引関係書類に分類される。 ① 決算関係書類 決算関係書類とは、各事業年度終了の日現在における業種、業態及び規模等の実情に応じて法人税法施行規則別表21に掲げられている科目を参考にして作成される貸借対照表、損益計算書をいう。これら決算関係書類は、法人税、消費税の確定申告書等の根拠となるものであり、仕訳帳、総勘定元帳の集計の結果を表している。 決算関係書類には、決算に関して作成された棚卸表なども含まれ、商品、製品、半製品、仕掛品(半成工事を含む)、主要原材料、補助原材料、消耗品のうち、貯蔵中のものなどこれらに準ずる資産に係る事業年度終了の日においての棚卸しを行い、決算に必要な事項の整理を行い、その事績を明瞭に記録することとしている。 ② 取引関係書類 取引に関して相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収証、見積書、その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類で写しのあるものは、その写しを保存することとされている。 取引関係書類については、法人税法において、取引にあたり必ず作成するものとして規定されているわけではなく、取引に際して作成等された場合に、これらの書類の保存が規定されているのである。これらを電磁的記録で保存する場合には、電帳法4条2項の承認を得る必要がある。 ③ 帳簿代用書類について 法人税法では、法定事項を帳簿に記載することに代えて、それらの記載事項の全部又は一部が記載されている取引関係書類を整理・保存することが認められている。この書類を「帳簿代用書類」といい、例えば、注文書など注文品目等が細かく多数にわたる場合など帳簿に1件ごとを記載することができない場合などが該当する。帳簿代用書類をデータ保存するには、電帳法4条2項の申請が必要である。 (3) 保存場所と保存期間 国税関係帳簿書類の保存場所、保存期間については、法人税法施行規則第8条の3の10、同第59条第1項及び同第67条第2項において、保存場所、保存期間が規定されている。 法人税法では、帳簿書類を整理し、7年間納税地に保存することとされている。ただし、取引関係書類については、取引を行った国内の事務所、事業所等での保存も認められている。 保存期間を起算する日については、法人税法施行規則第8条の3の10第2項、同第59条第2項において定められており、帳簿については、その閉鎖の日の属する連結事業年度若しくは事業年度終了の日の翌日から2月を経過した日から起算することとし、書類については、その作成又は受領の日の属する事業年度の翌日から2月を経過した翌日から起算することとされている。これら保存年数については、帳簿データを保存する場合でも同様である。 (4) 消費税法で規定される帳簿書類 日本の消費税法は、インボイス方式(消費税額の記載された証憑により計算)でなく帳簿方式(帳簿の記録事項から消費税額を計算)による納付消費税額の計算が行われる方式を採用していることから、法人税法等で規定されている帳簿書類の備付けや記載事項よりも厳しい要件が規定されている。 (イ) 課税事業者の備え付ける帳簿 課税事業者は、帳簿を備え付け、消費税法第58条、消費税法施行令第71条、消費税法施行規則第27条に規定されている記載事項について、整然とかつ明瞭に記録しなければならない。 「記載事項」とは、資産の譲渡等、その対価の変換、課税仕入れ、保税地域から引き取った課税貨物、仕入れに係る対価の返還、消費税額の還付を受ける課税貨物、消費税額の還付を受ける課税貨物、及び貸倒れに関する事項としてそれぞれの氏名や名称、取引年月日等、その内容、対価の金額等が該当する。 簡易課税を選択した課税事業者を除く課税事業者が、仕入税額控除を受けようとする場合には、その課税期間の仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を保存しなければならないとされている。帳簿は、これらの記載事項を記録したものであれば、商業帳簿でも所得税又は法人税で備付け・保存が義務付けられた帳簿書類でも差し支えない。 (ロ) 仕入税額控除の適用要件 消費税法第30条においては、課税売上に係る消費税額から控除できる仕入控除税額について規定されている。仕入税額控除の適用を受けるためには、課税仕入れ等の事実を記載した帳簿及び請求書等の両方を保存する必要がある。ただし、取引の実態を踏まえ、税込の支払額が30,000円未満の場合には、請求書等の保存を要せず、法定事項が記載された帳簿の保存のみでよいこととされている。 また、税込の支払額が30,000円以上であっても、請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある場合には請求書等の保存がなくても仕入税額控除ができるが、この場合には、法定事項を記載した帳簿にそのやむを得ない理由及び相手方の住所又は所在地を記載しなければならないこととされている。 仕入税額控除の適用を受けるためには、課税仕入れの事実を記載した帳簿の保存に加えて、請求書、領収書、納品書など取引の事実を証する書類も併せて保存が義務付けられている。 (ハ) 帳簿代用書類の保存の可否 法人税法では、法定事項を帳簿に記載することに代えて、それらの記載事項の全部又は一部が記載されている取引関係書類を整理・保存すること(帳簿代用書類)を認めているが、この帳簿代用書類は、消費税法第30条第8項《仕入れに係る消費税額の控除》に掲げる帳簿として扱われるものではなく、帳簿代用書類が保存されていても、消費税の仕入税額控除のための帳簿については、記載すべき事項の全部又は一部が欠落していることになることから、「帳簿及び請求書等の保存」があるとは認められないことになる。 ただし、帳簿代用書類のうち「請求書等」については、通常は課税仕入れの相手方から受け取ったものであり、仕入控除税額を計算できる程度に課税仕入れに関する法定事項が帳簿に記載されていれば、その請求書等と帳簿を保存することで仕入税額控除の要件を満たすことになる。 * * * 以上が法人税及び消費税の納税義務者が備え付け、保存するべき国税関係帳簿である。これらの帳簿を紙の保存に代えてデータ保存をするためには、まず紙の帳簿が正しく保存されていることが前提となるのである。 そして、契約書や領収証などの取引関係書類のスキャナ保存の承認を得るためには、これらの帳簿との相互関連性が法定要件となることから、帳簿には正しく取引の明細の仕訳データが保存され、法定保存年数にわたり見読可能であることが要件となるのである。 次回の【第4回】では、これら国税関係帳簿書類のデータ保存の承認申請について解説する。 (了)
〈要点確認〉 非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度 ~昨今の事業承継税制等をめぐる改正事項~ 【第4回】 (最終回) 「改正前後の経過措置及び 経営承継円滑化法・小規模企業共済法の改正事項」 エアーズ税理士法人 税理士 瀧尻 将都 本連載の最終回となる本稿では、【第2回】、【第3回】で解説した平成25年度及び平成27年度税制改正事項の適用に関する経過措置について解説し、さらに経営承継円滑化法・小規模企業共済法といった事業承継の関連法についても改正が行われているため、これらのポイントについて解説する。 1 税制改正事項に係る経過措置 (1) 平成25年度改正事項に係る経過措置 ① 原則的取扱い 【第2回】で解説した平成25年度税制改正事項は、原則として平成27年1月1日以後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得をする非上場株式等に係る相続税又は贈与税について適用することとされ、同日前に相続若しくは遺贈又は贈与により取得した非上場株式等に係る相続税又は贈与税については、改正前の規定がなお効力を有する。 ② 例外的取扱い 平成26年12月31日以前に相続若しくは遺贈又は贈与により取得をする非上場株式等につき、平成25年改正前の「非上場株式等に係る相続税又は贈与税の納税猶予制度」の適用を受けている経営承継受贈者等については、選択により平成27年1月1日以後は改正後の経営承継受贈者等として、改正後の適用を受けることができる経過措置が講じられている。 この場合、次の(イ)又は(ロ)のいずれか遅い日までに納税地の所轄税務署長に対し、新法の選択適用を受ける旨等を記載した書類を提出する必要がある。 (2) 平成27年度改正事項に係る経過措置 前回解説した平成27年度改正事項は、原則として平成27年4月1日以後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得をする非上場株式等に係る相続税又は贈与税について適用することとされ、同日前に相続若しくは遺贈又は贈与により取得した非上場株式等に係る相続税又は贈与税については、従前どおりとされている。 なお、同日において、既に、非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の適用を受けている経営承継受贈者、非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の適用を受けている経営承継相続人等又は非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除の適用を受けている経営相続承継受贈者である者についても、平成27年度の改正内容を適用することができる。 2 経営承継円滑化法・小規模企業共済法の改正事項 「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部改正法案」(経営承継円滑化法改正法案)が平成27年8月21日の参院本会議で可決、成立し、同月28日に公布されている。施行は公布の日から1年以内となる。 今回の改正は「事業承継の円滑化」を促進するための見直しで、現行では親族にしか対象としていない遺留分の民法特例制度を親族外へ拡充することと、個人事業者が親族内で事業承継した場合の小規模企業共済支給額の引上げを柱としている。 (1) 経営承継円滑化法の改正事項 ① 改正の背景 事業承継の形態が多様化し、20年前は親族外承継が1割未満であったのに対し、近年は親族外承継が約4割と増加傾向にある。このため、平成25年度税制改正により事業承継税制の後継者要件を親族外まで拡大したこと(【第2回】参照)に続き、民法特例制度においても、親族に限らず、親族外にも認めるよう、対象範囲の拡大が求められていた。 ② 遺留分特例制度の対象を親族外へ拡大 事業承継の際、安定した会社経営を行うには、後継者へ株式を集中させることが不可欠であるが、事業の後継者以外の相続人に遺留分(遺産を譲り受ける最低保証。法定相続分の1/2)として、株式を受け取る権利を定めているため、後継者に株式を集中させ、経営権を安定させることを難しくさせるケースも少なくない。 そこで、経営権の分散を防止する観点から、「遺留分に関する民法の特例」を設けて、事前に後継者を含めた現経営者の推定相続人全員の合意の上で、現経営者から後継者に贈与された自社株式について、遺留分算定基礎財産から除外する(「除外合意」)することができる。これにより後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株について、他の相続人は遺留分を主張できなくなるため、相続に伴う自社株の分散防止ができる。 今回の改正により、後継者は親族限定であったのが、親族外の第三者が後継者になる場合の事業承継についても「遺留分に関する民法の特例(除外合意)」の適用を受けることが可能となった。 ③ 中小企業基盤整備機構による事業承継サポートの強化 中小企業者の経営の承継の円滑化を図るため、独立行政法人中小企業基盤整備機構は、経営者、後継者等に対して、その経営の承継の円滑化に関しサポートを強化する。 (2) 小規模企業共済法の改正事項 ① 改正の背景 小規模企業共済制度は、個人事業者や会社の役員が、廃業、退職後の生活の安定を図るための資金の積立てとしての制度であるが、掛金額や納付年数が同じでも、共済事由により、支給される共済金額が異なり、廃業した場合が最も多額の共済金が支給されていた。 そのため、個人事業者が親族内で事業承継する場合でも、廃業と同額の支給額を認めるよう、見直しが求められていた。 ② 個人事業者の親族内における事業承継の円滑化 個人事業主の「個人事業主が配偶者又は子への事業の譲渡」及び共同経営者の「個人事業主の配偶者又は子への事業の全部譲渡に伴い、配偶者又は子への事業を全部譲渡」を準共済事由からA共済事由に見直しされた。 支給される共済金は共済事由により3段階に分かれる。個人事業の廃止でも配偶者や子への事業の譲渡の場合は最も低いランク(準共済事由)であったが、改正により、最も高いランク(A共済事由)に引き上げられた。 ③ 会社役員の次世代への交代の円滑化 会社等役員の「会社等役員の退任(疾病・負傷・死亡・解散を除く)」のうち、会社等役員の退任日において65歳以上の場合、準共済事由からB共済事由に見直しされる。 65歳以上の会社等役員が退任(疾病等除く)した場合、従来は最も低いランク(準共済事由)であったが、改正により、上のランク(B共済事由)に引き上げられた。 ④ 利便性向上のための改正 小規模企業共済制度の利便性向上のため、以下の措置が講じられた。 (※) 中小企業基盤整備機構ホームページより。 (連載了)
〔平成27年分〕 相続税の申告実務の留意点 【第3回】 「未成年者控除・障害者控除の引上げ」 税理士事務所ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 (1) 改正内容のポイント 未成年者控除(相法19の3)の額が年6万円から年10万円へ、障害者控除(相法19の4)の額が年6万円から年10万円へ、それぞれ引き上げられた。 この改正は、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用される(平成25年改正法附則1⑤ロ、10)。 ① 未成年者控除の引上げ 未成年者控除は、未成年者である相続人が成年に達するまでの養育費等を控除する趣旨から昭和25年のシャウプ勧告に基づき創設された制度であり、未成年者である相続人が20歳に達するまでの1年につき6万円を未成年者控除として控除する制度であったが、「昭和63年以降の物価上昇率、今般の相続税の見直しによる負担増等を勘案し」(財務省「平成25年度税制改正の解説」574頁)、10万円に引き上げることとされた。 ② 障害者控除 障害者控除は、相続人が障害者である場合、その者の相続税額から6万円(特別障害者の場合、12万円)にその者が85歳に達するまでの年数を乗じた金額を控除する制度であったが、未成年者控除の改正趣旨と同様の趣旨により、10万円(特別障害者の場合、20万円)に引き上げられることとなった。 (2) 相続税申告書様式 未成年者控除・障害者控除の額は、相続税申告書様式の第6表で計算される(※1)(※2)。 (※1) 未成年者控除及び障害者控除は、相続・遺贈により財産を取得した者について適用される(相法19の3①、19の4①)。したがって、相続・遺贈により財産を取得しない相続人については、未成年者控除及び障害者控除の適用はできないと考えられる。 (※2) 未成年者控除及び障害者控除を適用し、相続税額から控除しきれない残額がある場合、その相続人の扶養義務者の相続税額から控除できることとされている(相法19の3②、19の4③)。この制度を活用すると未成年者・障害者である相続人の扶養義務者も相続税圧縮効果があるため、この点も踏まえて、相続財産の分割を考慮する必要があると考えられる。 以下の赤線で囲んだ部分が、この税制改正により修正された部分である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (3) 実務に与える影響・留意点 相続人に未成年者・障害者がいるケースは多くはないと推測されるが、被相続人が若くして他界した場合、被相続人の孫を養子としている場合などは、相続人が未成年者であるケースも存在する。 相続人が未成年者・障害者である場合、特別代理人・成年後見人の選任という問題も生じることが多く、それに伴い、遺産分割につき一定の制約が生じることも多い。 ただし、未成年者控除・障害者控除が適用できる場合、未成年者・障害者である相続人が相続・遺贈で財産を取得する必要がある点、未成年者控除・障害者控除を相続税額から控除しきれない残額については未成年者・障害者である相続人の扶養義務者の相続税額からも控除可能である点、については留意しながら、遺産分割の相続税助言を行う必要があると考える。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第53回】 (最終回) 「その他の論点」 公認会計士 佐藤 信祐 前回は、法人税基本通達9-4-1に規定されている子会社整理損失について解説を行った。 連載の最終回となる本稿では、法人税基本通達9-4-2に規定する子会社支援損失とその他の論点についてまとめて解説を行う。 8 子会社支援損失 法人税基本通達9-4-2では、 と規定されている。さらに、合理的な再建計画かどうかについては、 と規定されている。 法人税基本通達9-4-2の取扱いについては、国税庁HPのタックアンサーNo.5280において、「子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等」でまとめられており、さらに、再建支援等事案に係る事前相談の窓口が各国税局の審理課(審理官)・沖縄国税事務所の法人課税課・調査課で設けられており、かつては、これに従って処理をすることが一般的であった。 しかしながら、第41回、第42回で解説したように、不良債権処理の件数が膨大になってくると、個別に事前相談をするわけにもいかず、私的整理ガイドラインなどについての事前照会文書が次々に公表され、金融機関の不良債権処理はこれらに従って処理するか、サービサーに対して債権譲渡を行うことが一般的な手法となった。 そして、一般事業会社の赤字子会社に対する不良債権の処理については、特別清算を利用した第2会社方式が中心的な手法として活用されるようになっている。 そのため、近年において、私的整理ガイドラインなどの事前照会文書が出されているもの以外での本通達の適用事例はあり得るとは思われるが、極めて稀であると考えられる。 9 計上されていない未収利息の債権放棄 法人税基本通達2-1-25では、以下のような場合には、未収利息を計上しないことを認めている。 上記の事由に該当したことにより、計上されていなかった未収利息について債権放棄を行った場合であるが、法的には債権放棄を行ったという事実は変わらないものの、計上していない未収利息について寄附金として取り扱うためには、未収利息を計上させたうえで、寄附金として処理するという本通達の趣旨に反する処理を行う必要がある。そのため、このような計上されていない未収利息について債権放棄を行ったとしても、寄附金として処理する必要はないと考えられる。 10 債権譲渡と迂回債権放棄 債権譲渡を行った場合には、債権者において生じた譲渡損については、低廉譲渡に該当しない限り、損金の額に算入することができるという点に争いはないと思われる。 しかしながら、あくまでも、低廉譲渡に該当しないということが前提であり、債務者や連帯保証人に対する贈与の意図を持って、低廉な価格により債権譲渡を行い、当該債権の譲受人から債務者に対する債権放棄を行わせた場合には、寄附金に該当する可能性があるため、留意が必要である。 11 結び 第1回から第4回までは貸倒損失の概要、第5回から第14回までは子会社支援のための無償取引、第15回から第31回までは貸倒損失に関する判例分析、第32回から第43回までは法人税基本通達改正の歴史について解説を行った。 そして、その内容を受けて、第44回から第46回は貸倒損失の法律論をまとめたうえで、第47回から第53回(本稿)までは貸倒損失に関連する通達の具体的な取扱いについて解説を行った。 とりわけ第32回から第43回までの法人税基本通達の歴史については、他に類を見ない内容であり、その内容が法人税基本通達の根本的な理解に繋がると考えている。 本連載を通じて確信したのは、法人税基本通達9-6-2、9-4-2の極めて厳格的な運用である。 法人税基本通達9-6-2の厳格的運用は、そもそも戦前から実質的に回収不能な場合における貸倒損失の取扱いがかなり厳格に運用されていたことが理由であり、同通達9-4-2の厳格的運用は、そもそもの制度趣旨が極めて政治的なものであったということが理由であろう。 それに対応する形で、バブル崩壊後の不良債権処理が進められてきており、一般事業会社の赤字子会社に対する不良債権については、特別清算を用いた第2会社方式が利用されるようになった。 しかしながら、第2会社方式はグループ内の企業に対する債権であるから利用可能であり、実際の不良債権の種類は多種にわたる。法人税基本通達9-6-3に該当する売掛債権であれば比較的容易であるが、法人税基本通達9-6-1又は9-6-2により処理せざるを得ない場合には、より厳格な取扱いが求められよう。 全53回にわたる連載であったが、貸倒損失の取扱いについて、学術的な見地と実務的な見地を融合させた上で読者に情報提供をするという当初の目的は達成できたと思われるため、一旦ここで終了させていただきたい。 本連載が読者のお役に立つことができれば幸いである。 (連載了)
[子会社不祥事を未然に防ぐ] グループ企業における内部統制システムの再構築とリスクアプローチ 【第1回】 「子会社不祥事が親会社・親会社役員にもたらすインパクト」 ~場合によっては親会社の屋台骨をゆらがしかねない子会社の不祥事~ 弁護士 遠藤 元一 1 後を絶たない会計不祥事 本年9月、東芝は、2度の有価証券報告書等の提出の延期を経て「不適切な会計処理」(不正会計・粉飾)を行っていたとして過年度決算訂正等を行った。 2011年に資本市場の信頼性を損なうような大規模な会計不祥事・経営者不正が起きたことを契機に、監査基準の改定および監査基準の特別基準として「監査における不正リスク対応基準」が導入され、会社法でも企業統治のための制度改正が行われる等、多方面で公正な資本市場の維持のための努力が続けられている最中、企業統治の優等生としてトップランナーと考えられていた東芝が長期にわたり粉飾を行っていたことが市場関係者に衝撃を与えたことは想像に難くない。 もっとも、東京商工リサーチの調査によると、会計不祥事により過年度決算に影響がでた、あるいは今後、影響がでる可能性があることを開示した上場企業は2012年度(2012年4月1日~2013年3月31日)が26件、2013年度が38件、2014年度が42社となっている。 つまり、上記の事例ほどの大掛かりなものではなくても、上場企業において会計不祥事が間断なく発生している。これらの中には、資本市場の信頼性を担保する目的で適正な企業情報を開示するために会計・監査に関する制度・基準が厳格化され、四半期報告の義務化や会計情報の見積的な要素の増加に伴い、会計基準の選択や見積・評価の誤謬等が原因となって生じた事例も多いが、意図的・故意による粉飾事案も少なくない。 2 会計不祥事が及ぼす企業危機 粉飾決算は、一般に公正妥当と認められる会計基準に反する手続により利益を計上する会計行為である。不正・違法な会計操作の積み重ねは、雪だるま式に飛躍的に大きくなり、財務諸表に対し、定量的ではなく、定性的な影響を及ぼし、当初は、アリの一穴と思われていたものであっても、堤防が崩れ、企業の存亡を左右する大災害を及ぼす。 いったん、会計不祥事が発覚すると、その企業は資本市場での信認が著しく毀損される。その信認を回復するため、企業は第三者委員会を設置して調査を行い、事案の解明、原因分析、役職員の責任の明確化等を内容とした調査報告書が市場に公表され、調査報告書の内容に基づき過年度決算訂正が行われる。 市場規制当局も、証券取引等監視委員会による開示調査・特別調査、勧告を経て金融庁による課徴金納付命令の発出がなされ、特に悪質な場合は検察庁に対して刑事告発され、検察庁による強制捜査が行われることもある。また、金融商品取引所からも、逐次、状況の報告を求められ、改善報告書の提出を求められる等の対応を求められ、上場違約金等の措置のほか、特設市場注意銘柄に指定されたり、悪質な場合には市場からの退出(上場廃止)に至るケースもないではない。 さらに、株主等から、役員が任務を十分に果たさなかった(善管注意義務違反)ために、分配可能限度を超えた金員を支払い、第三者委員会の設置・調査費用や、決算訂正(過去の決算期に遡って訂正する場合もある)に費用を支払うなどの損害を被ったとして役員の対会社責任が追及され、あるいは株価の下落により損害を被ったとして会社法・金融商品取引法上の損害賠償を請求されるなどの事態も発展する。 3 子会社における会計不祥事 ところで、会計不祥事事案の中で、子会社・関係会社が舞台となった事案が2013年度で12件(31・5%)、2014年度で16件(38%)と、本社以外で会計不祥事が行われた事案が目につくが、子会社で生じた会計不祥事は、親会社にどのような影響を与えるだろうか。 現代の企業経営では、国際的に事業展開している大規模なグローバル企業だけでなく、中小企業でも、子会社・関係会社(以下「子会社等」という)から構成されるグループ経営が広く浸透している。 法的観点からは、親会社は、子会社等を通じて事業を行う場合、親会社自らが事業を行う場合に比べてコストを減少させ(親会社が自ら行う場合に負担しなければならない、事業部門に配賦される管理費等の間接費用をコストセーブできる)、子会社等の自律的・独立的な経営に委ねることにより法域や業態を超えて、事業を機動的・効率的に多角化できる点にグループ経営の意義があるが、会計面でも、単体ではなく、連結経営での企業業績評価である連結会計が基軸になっており、株主、投資家・資本市場も、単体ではなく、連結ベースでの企業業績の評価が重視され、企業価値も連結ベースでの評価が通例となっている。 子会社等において会計不祥事が発生すると、連結会計の下では、グループ会社の頂点にある親会社に与える影響は、親会社自身で生じた会計不祥事と質的に差異はない。子会社等の会計不祥事が決算に重要な虚偽記載等と認められる程度に至る場合は、親会社の決算に重要な虚偽をもたらし、親会社の企業価値を毀損し、親会社の屋台骨をゆるがすという深刻な事態にも発展しかねない。 JVCケンウッドは、2010年3月、子会社であるビクターの欧州販売会社で営業関係経費の先送り等の会計不正が発覚し統合初年度の2009年3月の連結業績の営業損益を黒字から赤字に修正し、2010年3月期の業績の最終損益の赤字も拡大したほか、取引金融機関と締結した契約に定める「財務上の特約」(財務制限条項)に抵触し、決算短信に「継続企業の前提に疑義」がある旨の注記がなされた。 また、LIXILグループは、本年6月、2014年に買収した中国の子会社が在庫の過大評価、巨額な簿外債務が判明した後、債務超過を理由に破産したことで、連結純利益を大幅に下方修正する事態に追い込まれたこと等の例がみられる。 このように、親会社は、親会社自らにおいて会計不祥事が生じた場合と同様の対応が求められるほか、子会社管理責任が問われる事態も生じ得る。 今回は会計不祥事の事案を取り上げたが、グループ会社の事業・ビジネスには、事業リスク、信用リスク、為替リスク、従業員不祥事やインシデント等、企業価値を左右する様々な事故・事件等が生起する。 グループ会社を統率する親会社にとって、単体のみならず連結の企業業績を重視し、グループ企業全体の企業価値の向上を図るため、どのようなグループ企業管理の基本方針を構築し運用するかが喫緊の課題であることは疑いがないことである。 本連載では、公認会計士の松藤斉先生、公認会計士・公認不正検査士の松澤公貴先生と、弁護士の筆者とがそれぞれの専門的知見の立場から、この課題に関連したテーマを取り扱っていく予定である。しばらく、お付き合いいただきたい。 (了)
会計上の『重要性』 判断基準を身につける ~目指そう!決算効率化~ 【第13回】 「重要性判断の実践事例④」 ~税効果会計とアサリの計量 公認会計士 石王丸 周夫 今回は、税効果会計における重要性判断を取り上げます。 まず手始めに、以下の問題にチャレンジしてみてください(解答は問題のすぐ下にあります)。 いかがでしたか。正解できたでしょうか。 税効果会計は、イメージがつかみにくい会計処理です。 そんな税効果会計における重要性判断は、どのように行われるのでしょうか。 以下、この解答について触れながら、解説していきます。 《はっきり書いてある「重要性の原則」の適用》 「重要性の原則」というのは、会計のあらゆる場面で広く適用される考え方ですが、税効果会計についてもその適用の例外ではありません。税効果会計の会計基準には、そのことがはっきりと書いてあります(⇒したがって、問題13のアの記述は正しいです)。 (税効果会計に係る会計基準注解(注4)) ここで注意すべきは、重要性判断を一時差異等(一時差異と繰越欠損金等の合計)により行うということです。 繰延税金資産、繰延税金負債あるいは法人税等調整額の金額により重要性を判断するわけではありません(⇒したがって、問題13のイの記述は誤りです)。 《アサリは殻付きで量る》 一時差異の金額と税効果の仕訳の関係を見てみましょう。 以下では、理解しやすいようにあえて単純な前提を置いています。 ▷前提条件 期首の一時差異は0、税率は期首期末ともに30%とする。 一時差異の金額が1,300,000円なので、貸借対照表に計上される繰延税金資産の額は税率30%を乗じた390,000円、損益計算書に計上される法人税等調整額も同じく390,000円です。 この場合の重要性判断について考えてみましょう。 金額的重要性の判定は1,300,000円について行われます。上で見たとおり、実際に決算数値に反映される額はその30%である390,000円ですから、仕訳計上される金額(390,000円)よりも大きな金額で重要性判断が行われます。 これはちょうど、潮干狩りで獲ったアサリの計量に似ています。 アサリはグラムいくらで買い取りますが、計量は殻付きの状態で行われます。実際に食べる部分(可食部)の重さはその40%程度でしかないのにです。 「重要性」というのは、「財務諸表の利用者にとって重要かどうか」を判断するためのものなので、財務諸表への影響額390,000円(可食部)でもって判断してもよさそうですが、なぜか一時差異の金額1,300,000円(殻付き)で判断します。 以下、その点を考えてみます。 《B/S、P/Lにどう影響するか》 税効果の仕訳が財務諸表にどう影響するのかを図示してみます。 借方の繰延税金資産は資産科目です。貸借対照表に影響を与えます。 上の仕訳により、資産の額が390,000円増加します。 貸方の法人税等調整額は損益科目です。損益計算書に影響を与えます。 上の仕訳により、利益が390,000円増加します。 ただし、利益といっても、影響が及ぶのは「当期純利益」です。「税引前当期純利益」には影響しません。法人税等調整額が「税引前当期純利益」の下で加減されるからです。 損益計算書への影響を、税効果を認識したケースとしないケースで比較してみましょう。 上の図の左側は「税効果を認識した場合」、右側は一時差異に重要性が乏しいと判断して「税効果を認識しなかった場合」です。 いずれの場合も、税引前当期純利益は100,000,000円で同じです。 税効果を認識してもしなくても影響ないということです。 一方、税引後の当期純利益は2つのケースで数字が異なります。 税効果を認識するケースでは、法人税等調整額390,000円が税引前当期純利益の2行下で計上されています。その結果、税効果を認識しないケースの当期純利益より390,000円大きい当期純利益となっています。 《一時差異で判断する意味》 ところで、重要性判断の基準値というのは、税引前利益の何%という形で算定されていたことを思い出してください。この連載の【第6回】でお話しましたね。 「重要性の基準値」が税引前利益の5%、「明らかに僅少な額」がその5%とすると、「明らかに僅少な額」は、「税引前利益の0.25%」と言い換えることができます。 上の例では、税効果会計を適用するかどうかで利益が390,000円変動します。その390,000円を「税引前利益の0.25%」と比べて重要性判断を行ってもよさそうですが、理屈からするとちょっと違います。 なぜなら、390,000円は税引後の利益に対する影響ですが、「税引前利益の0.25%」という基準値は、税引前の金額について判断するために設定されたものだからです。ベースが違うのですね。 「税引前利益の0.25%」という基準値を使って重要性判断をするなら、390,000円を税引前ベースに引きなおして考えるべきです。390,000円を税率で割り返した値です。390,000円÷0.3=1,300,000円、まさに一時差異の金額です。 この1,300,000円を「税引前利益の0.25%」(明らかに僅少な額)と比べることになります。390,000円が「明らかに僅少な額」以下かどうかということとは、無関係な話なのです(⇒したがって、問題13のウの記述は誤りです)。 潮干狩りの場合も同じようなものです。殻付きでアサリを持って帰る以上、持つ人にとっては、殻付きの重さがどれほどなのかが気になりますよね。 (了)