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〔会計不正調査報告書を読む〕【第31回】ジャパンベストレスキューシステム株式会社・「内部調査委員会調査報告書(平成27年4月28日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第31回】 ジャパンベストレスキューシステム株式会社・ 「内部調査委員会調査報告書(平成27年4月28日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【ジャパンベストレスキューシステム株式会社の概要(再掲)】 ジャパンベストレスキューシステム株式会社(以下「JBR」という)は、1997(平成9)年創業。創業時の社名は、日本二輪車ロードサービス株式会社。その後、平成11年8月に現社名に変更。 JBRホームページには、以下のような事業目的が記載されている。 連結売上高10,405百万円、連結経常利益141百万円(数字はいずれも平成25年9月期)。従業員数196名。本店所在地、愛知県名古屋市。東証1部、名証1部上場。   【2014(平成26)年5月以降の適時開示】   【内部調査委員会の概要】   内部調査委員会による報告書のポイント 1 内部調査委員会の設置に至った経緯 調査報告書によれば、証券取引等監視委員会開示検査課による開示検査の対応の過程において、JBRの連結子会社である株式会社バイノス(以下「バイノス」と略称する)における不適正な売上計上(以下「本件不正行為」という)に関して、B氏(平成26年12月の株主総会で退任した元取締役管理部長鈴木良夫氏。以下、本稿では、「鈴木元取締役」と略称する)が関与していたことを疑わせる事実が確認され、また、JBRの監査体制及び監査対応にも問題があったことを窺わせる事実が確認されたため、本件不正行為について再度徹底的な調査を行い、事実関係を明らかにするとともに、原因たる事実に即した改善措置を立案することを目的として、JBRの社外役員3名(全員、本件不正行為が発覚した後に役員に選任された者である)から構成される内部調査委員会を設置したというものである。   2  内部調査委員会による調査の結果判明した事実 (1) D氏メモ 第1次第三者委員会によって、バイノス元代表取締役とともに「売上計画未達の発覚を回避するため、不適切な売上計上を行った」と認定された、バイノス元取締役でJBR管理部経理グループの元シニアマネージャーでバイノス元取締役のD氏は、第2次第三者委員会調査後の鈴木元取締役の「自己保身のみを図る態度」に不信感と憤りを覚え、後日、真実を話す必要が生じた際のことを考え、第1次調査報告書及び第2次調査報告書に朱書きでメモを加筆していき、「D氏メモ」を作成し、保管していた。 (2) 鈴木元取締役の供述と委員会の事実認定 鈴木元取締役は、内部調査委員会に対して、以下のように供述している。 しかし、内部調査委員会は、関係者の供述及びメール等のその他の証憑書類等から、主に以下の点を理由として、バイノスにおける本件不正行為は、鈴木元取締役の指示に基づき、D氏らが行ったものと認められる、と結論づけた。 (3) 鈴木元取締役が第三者委員会に真実を供述しなかった理由 鈴木元取締役は、第1次第三者委員会に対しては「すべてバイノス元代表取締役がやったことである」と供述し、第2次第三者委員会に対しても自身関与または認識を否認しているが、内部調査委員会はこれを「鈴木元取締役の自己保身に基づく虚偽の供述であった」と認定している。 そのうえで、鈴木元取締役は、第1次第三者委員会設置後、D氏に対して、以下のように指示して虚偽の供述をさせたとしている。 他にも、鈴木取締役は、竹内取締役にも同様の指示を行い、また、K氏(常勤監査役加藤洋一郎氏。以下、本稿では「加藤常勤監査役」という)に対しても、「監査役や内部監査室が(本件不正行為に関して)認識していたということになれば、会社ぐるみということになり、JBRは上場廃止になる」と伝えていたということである。 (4) 鈴木元取締役の不正行為による責任について 内部調査委員会は、鈴木元取締役が、D氏及びバイノス元代表取締役に実行させた本件不正行為により、JBRのバイノスに対する融資判断が歪められた結果、JBRは約17億円もの多額の融資を行い、回収不能見込み額として約11億円の損害を被ることとなったと指摘し、また、自己保身のために第三者委員会に対して真実を伝えないよう指示したことが、適正な調査を阻害し、3度の第三者委員会及び内部調査委員会を設置するに至らしめたものであり、その責任は極めて重いと判断している。 (5) メールデータ消去について 第1次第三者委員会設置後、JBR社内では、D氏が発信したメールの中に「先食い」という本件不正行為を連想させる文言が入っていることが判明し、I氏(JBR管理部人事総務グループ室長・元内部監査室長)及び加藤常勤監査役は、自らメールを消去するとともに、関係者に対してメールデータの消去を指示、実行させた。 こうした行為の動機として、「監査役及び内部監査室が本件不正行為を知っていたとなると会社ぐるみとなり、JBRが上場廃止になるおそれがある」と鈴木元取締役から示唆されたことが挙げられているが、こうしたメールデータの消去が、第三者委員会の適正な調査を阻害したものであり、とくに、常勤監査役までが加担していたことについては、自らの関与が疑われることを避けるという自己保身の意味合いがあり、さらに、「上場会社の監査役としての職責を放棄したものと言わざるを得ない」と厳しく指摘している。 なお、消去を指示された関係者の中で、唯一、JBR子会社のジャパン少額短期保険株式会社取締役O氏だけは、これを拒否したということであり、O氏がメールデータを消去しなかったことにより、事実が明らかになったと言えよう。 (6) 過去の第三者委員かの調査において鈴木元取締役の関与が判明しなかった原因 上記のとおり、過去の第三者委員会では、鈴木元取締役の緘口令によるD氏らの虚偽の回答とメールデータの消去という証拠隠滅行為によって、鈴木元取締役の関与を認定できなかったものである。しかし、第三者委員会の調査に対し、JBR代表取締役社長が指導力を発揮し、たとえば、「すべてのデータを消去することなく第三者委員会に提出すること」、「調査に対して虚偽の答弁をした役員・社員は厳罰に処すこと」、「調査に正直に応じることがJBR信頼回復のために必要である」などのメッセージを役員・社員に発することができていれば、また違った結果が出ていたのかもしれない。 JBRは当時の会計監査人であった有限責任監査法人トーマツの第1次調査報告書に対する疑義を受けて、第2次第三者委員会により、「電子メール調査の範囲を広げた上で、追加の調査を実施(平成26年6月14日付リリース)」したものであるが、メールデータが削除されていたのでは、電子メール中心の調査手法自体、有効性を欠いたものとなってしまっていたということであろう。なお、内部調査員会の調査で判明した、メールデータの消去に応じなかったO氏については、第2次調査においても、電子メール調査の範囲には入っていなかった。   3  問題点及び再発防止策に係る提言 内部調査委員会は、JBRにおける問題点及び再発防止策として、次の2点を挙げている。 そのうえで、内部調査委員会による問題点及び再発防止策は、JBRが東京証券取引所及び名古屋証券取引所に提出した改善報告書、改善状況報告書の内容と実質的に同旨であるとしている。   4  内部調査委員会による調査報告書の特徴 平成26年12月10日付のJBR「第18回定時株主総会招集後通知」第3号議案「取締役6名選任の件」には、当時、取締役管理部長の要職にあった鈴木良夫氏の指名の記載はないことから、この時点までには、鈴木元取締役が何らかの形で関与していることが判明していたのではないかと推測できるのであるが、実際のところは不明である。 JBRの昨年来の一連のリリースに目を通して感じていることであるが、不正行為の首謀者が関係者によって隠匿され、結果的に、多額の回収不能債権が発生し、3度にわたる第三者委員会の設置によって相当程度の信用が毀損されたにもかかわらず、JBR代表取締役社長榊原暢宏氏の発言が伝わってこないように思える。 確かに、強力な社外取締役・社外監査役の招聘に成功し、内部調査委員会の調査によって、子会社バイノスにおける不正な売上計上についてはようやく全容が解明したかもしれない。しかし、最初の第三者委員会設置に際して、第三者委員会に対しては真実を伝えることを率先して示し、不正行為を罰するのではなく、不正行為を隠蔽することを許さないことを強く従業員に訴えれば、ここまで泥沼化することはなかったのではないか。 内部調査委員会調査報告書は、「役職員のコンプライアンス意識の欠如」に対する再発防止策として、「不正を許さない企業風土の醸成にはtone at the top(経営者の姿勢)が何よりも重要である」としたうえで、榊原社長が「積極的に情報を発信し、コミュニケーションを図られることを望む」と締め括っているが、まったく同感である。 そして、最後に、こう結んでいるところが、いかにも社外役員からなる内部調査委員会による報告書らしいと言えるだろう。 (了)

#No. 119(掲載号)
#米澤 勝
2015/05/14

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第81回】減損会計⑤「遊休資産の取扱い」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第81回】 減損会計⑤ 「遊休資産の取扱い」   仰星監査法人 公認会計士 上村 治     〈事例による解説〉 【仕訳】(単位:百万円) ① 遊休資産の減損損失 (※1) 固定資産残高300百万円>回収可能価額180百万円 ∴減損必要 減損損失120百万円=固定資産残高300百万円-回収可能価額180百万円 ② 遊休資産が複数ある場合の減損損失 (※2) 遊休資産Aと遊休資産Bはそれぞれ独立して減損の判定を行う。 [遊休資産Aについて] 固定資産残高300百万円>回収可能価額180百万円 ∴減損必要 [遊休資産Bについて] 固定資産残高200百万円<回収可能価額350百万円 ∴減損不要 遊休資産Aだけを減損処理の対象とする。 減損損失120百万円=固定資産残高300百万円-回収可能価額180百万円   〈会計処理の解説〉 1 遊休資産の取扱いについて 遊休資産とは、過去の利用実態や将来の用途の定めにかかわらず、現在、企業活動にほとんど使用されていない状態にある資産をいいます(指針72)。遊休資産のグルーピングは、将来の使用見込に応じて取扱いが異なります。 将来の使用が見込まれない遊休資産のうち、重要なものは他の資産グループとは独立した資産グループとして取り扱います(指針8)。 現在、企業活動にほとんど使用されていない状態にあっても、将来に使用を見込んでいる遊休資産については、その使用見込に沿ってグルーピングを行います。そのため、将来の使用が見込まれない遊休資産とは異なり、遊休資産を独立した資産グループとして取り扱うことはしません。 前提条件①の場合、将来の使用見込が決まっていないことから、遊休資産Aを独立した資産グループとして取り扱い、減損処理を行うことが適当です。 2 遊休資産が複数ある場合の取扱い 遊休資産が複数ある場合、「遊休資産群」として複数の遊休資産を1つのグルーピングとすることができるとすると、含み益と含み損を相殺することができることになり、適切に減損損失の金額が計算されません。そのため、遊休資産は個別にグルーピングを行い、減損処理を行う必要があります(指針72)。 具体的には、前提条件②において、遊休資産AとBを1つの資産グループとして取り扱うと、資産グループの回収可能価額の合計金額が530百万円となり、同グループの固定資産残高の合計である500百万円を上回ります。そのため減損処理は不要と判定されることになり、遊休資産Aの損失計上が回避されてしまいます。 そのため、遊休資産AとBはそれぞれ個別にグルーピングを行い減損処理の判定を行うことになります。 *   *   * 次回は、減損会計における共用資産の取扱いについて解説します。 (了)

#No. 119(掲載号)
#上村 治
2015/05/14

中小企業事業主のための年金構築のポイント 【第4回】「老齢基礎年金の額」

中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第4回】 「老齢基礎年金の額」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   1 老齢基礎年金の満額と減額 老齢基礎年金の額は、20歳から60歳までの間がすべて保険料を支払った期間(納付済期間という)があれば、満額の780,100円(平成27年度)が支給される。 つまり、加入期間のうち保険料の未納期間等があれば、年金額が減額されることになる。 (1) 保険料納付済期間 保険料納付済期間とは、国民年金の種別ごとに下記の期間をいう。 第1号被保険者・・・保険料を支払った期間 第2号被保険者・・・昭和36年以後20歳から60歳までの期間 第3号被保険者・・・届出をして第3号被保険者となっている期間 厚生年金保険に加入している第2号被保険者の場合は、未納期間が生じないため、20歳から60歳までの被保険者期間すべてが保険料納付済期間になる。 (2) 保険料免除期間 保険料免除期間の種類(全額免除期間、4分の3免除期間、半額免除期間、4分の1免除期間)により、国庫負担相当分(給付費の2分の1)が年金額に反映される。 ただし、学生及び若年者納付特例(30歳未満のフリ-タ-等を対象にしたもの)による保険料免除期間は、年金額に反映されない。   2 老齢基礎年金の年金額の計算(保険料免除期間を有する場合) 保険料免除期間を有する人は、その時期により、以下のとおり計算式が異なる。 〈平成21年3月31日までに保険料免除期間期間を有する場合の計算式〉 〈平成21年4月1日以後に保険料免除期間期間を有する場合の計算式〉   3 振替加算額 加給年金(※)の対象となっている配偶者が65歳になると、老齢基礎年金に一定額が加算される。これを「振替加算」という。 (※) 「加給年金」とは、老齢厚生年金(被保険者期間20年以上)又は障害厚生年金(障害等級1級又は2級)を受給している人に65歳未満の配偶者がいる場合に加算されるもの(平成27年度:224,500円)。 老齢基礎年金が受給できる人(大正15年4月2日~昭和41年4月1日生まれの人に限る)で、65歳に達した日において、下記の①又は②に該当する配偶者によって生計を維持していたときは、老齢基礎年金の額にその人の生年月日に応じて224,500円から15,000円が定額で加算される。 〈例〉 上記の例では、夫に生計維持関係がある65歳未満の妻がいる場合には、原則として65歳から加給年金が支給される。 この加給年金は、妻が65歳になるまでしか支給されないため、それに代わって妻には65歳以降、老齢基礎年金に振替加算額がプラスされて支給される(平成27年度に65歳になる人の場合は年額80,800円)。 ただし、妻が下記に該当する場合は振替加算が支給されない。   《おさらいQ&A》   (了)

#No. 119(掲載号)
#佐竹 康男
2015/05/14

確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望 【第2回】「今回改正が意味すること①」

確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望 【第2回】 「今回改正が意味すること①」   特定非営利活動法人確定拠出年金総合研究所(NPO DC総研) 理事長 秦 穣治   1 退職給付企業年金(DB)・確定拠出企業年金(DC)共通の問題 【第1回】では、今回の改正の底流に流れる背景について説明したが、一言で言えば、「公的年金が細る中、やらざるを得ない改正」だということである。日本人の定年退職後の生活(老後生活)を相応の水準とするためには、 という政策を採る他にないわけであり、このうち下の2点が今回改正のポイントとなる。 今まで企業年金は、適年、厚生年金基金、DB、DCとそれぞれ独立した法律の建付けで運営されてきた。【第1回】でも述べたが、やりたい企業が好きに制度を選択して導入すればよい、いわば、労使合意のもと「やりたいようにやってください」というものだったわけである。 このような労使合意に基づく“自由な設計”という考え方は、退職一時金制度を源泉とする日本の企業年金制度の世界において発足以来綿々と生き続けてきた。結果として、企業年金を持つ余裕があり、社員の老後まで面倒を見たい大企業が推進の中心となっていったのだが、大企業の社員は、全労働者からみればほんの一部に過ぎない。このままでは非常に拙いことになるのは目に見えている。 同様に、会社を辞めれば退職一時金という“お金”がもらえるというのは、支払う側の事業主も、受け取る側の社員も当然のこととしてきた(歴史的に日本の企業年金制度はそれ以前に一般化していた退職一時金制度をルーツにしている)。しかし、退職した際に、仮にそれが定年退職であっても、一時金で受領したお金が老後資金として有効に機能する保証はない。まして中途退職の場合、せっかく貯まっていた老後資金を使ってしまうリスクはかなり大きいと思われる。 “自由な設計”と“退職一時金受領”は、言葉を替えれば、日本の企業年金制度の根幹をなす根本思想だったのだが、厚生労働省は今までの根本思想を捨てて新しいステージに飛び込んでいったものと想像される。これが厚生労働省をして“大改革”と言わしめる所以ではないかと考えられる。 すなわち、今回の企業年金制度改正は、以下の基本的特長を有するものとなる。 ただし、この部分は既存制度の既得権を脅かすものであり、今後の議論を踏まえた上で詳細が決まることとなるが、少なくとも企業年金部会に提出された厚生労働省の資料からは、このような方向観がはっきりと見て取れる。   2 DCの資産運用に関し追加予定の諸規制 既に改正法案に盛り込み済みであるが、企業年金に関する既存概念を大きく覆す根本的な改正項目を含んでいるので、あえて、ここで取り上げる。諸規制の概略は以下の通りである。 この規制強化が意味するところは、 である。 そして、この3番目の指摘が極めて重要である。なぜならば、少なくとも今までのDCにおいては、運用された結果の妥当性に関する議論は皆無であり、むしろ、運用していくプロセスに関するものだけだったからである。 例えば、 というように、事業主や運営管理機関の責務が“情報提供・投資教育”を適切に実施しているかどうかに限定され、その結果として最終的な残高がどうであったかは不問に伏されている(結果については“自己責任原則”)。 しかし、今回法案化された内容は、正に結果が、すなわち、充分な資金が貯まる必要がある、という点が強調されている。これまでは事業主・運営管理機関は情報提供・投資教育のプロセス責任を果たして来ればよかったのだが、「これからはそうはいきませんよ」ということになったわけである。その理由としては、 ということであろう、と考える。特に、加入者の金融知識に関しては、日本だけが特殊なのではなくて、DCの最先進国である米国すら同様の問題が発生し、“行動経済学”として実を結んだことは多くの方がご存知ではないかと思われる。 いよいよ日本においても、投資教育は重要であり、継続して注力していく必要はあるが、今後は投資教育のみに依存することはできず、 時代に入った、との宣言と思われる。 この方向観に併せた前記法律案の狙いは以下の通りである。   3 DC投資教育に関する新しい整理 このように整理されてくると、DCの投資教育についても今までと同様には扱えなくなってくる可能性がある。 これまで、投資教育の目的は ことであったが、これからは、 ことになるかと考えられる。 何が違うか、と言えば、投資教育の目的が、実は投資知識そのものを学ぶことでなく、その奥にあって今まであまり問題にされて来なかった究極のゴールとしての“老後資金の安定的な増加”となるからである。 もちろん、その一つの方法として投資知識を学び自ら自律的に投資できるようになることを否定するものではない。ただ、いくら投資教育を学んだからといって、全員が投資のプロになれるわけはない以上、外の手段も用意されねばならないが、今般、その一つとして“デフォルト商品”が提案された。 今後、それ以外の方法として、個人相談・アドヴァイザリー業務などが検討されることになると思われる。 いずれにせよ、自分で勉強して自ら投資のプロになるのも良し、事業主が選定したデフォルト商品を選択した上でモニタリング及び管理していくのも良し、それも無理だと考える人はプロに相談し、その助力を得ながら老後資金管理を行っていくことになる。投資教育の軸も、投資知識そのものの習熟から、公的年金・企業年金の制度理解を含む投資を管理できる能力の習熟へシフトしていくことになると考えられる。 このシフトは、実は非常に大きな変化であることはお気付きになられたと思われるが、日本の現在存在する仕組み・システムの改変にも確実に繋がると考えられる。 (了)

#No. 119(掲載号)
#秦 穣治
2015/05/14

常識としてのビジネス法律 【第23回】「会社法《平成26年改正対応》(その4)」

常識としてのビジネス法律 【第23回】 「会社法《平成26年改正対応》(その4)」   弁護士 矢野 千秋   7 質問と説明義務 取締役、会計参与、監査役および執行役は、株主総会において議題や議案について説明する必要があるが、加えて、株主の求めた事項について説明をする義務を負う(314条)。株主の質問権の正当な行使を妨げたときは、総会決議の手続きに瑕疵があることになり、決議取消しの事由になる。 株主には決議事項のみならず報告事項についても質問権があり、取締役等にはそれらについて原則として説明義務がある。しかし、どの取締役等が説明するかは原則自由であり、説明補助者や顧問弁護士に説明させてもよい。ただし、まず議長が指名するのは取締役等であり、その指名された取締役等が説明補助者を使うことが許されるということを知っておく必要がある。あくまで会社法は取締役等の説明義務と規定しているからである。 なお、多数の質問事項の通知があったときは、項目ごとに分類整理して一括回答しても有効である。 ただし、以下のような事項については株主に質問権はなく、議長は質問を却下することができる。 ①の場合は範囲と程度を超えて答えてもかまわないが、②の場合は答えてはならない点に注意を要する。もっとも②の判断は①に比して容易である。 そのうちの一つが説明のために調査を要する場合である。これは即答できないため当然の拒絶事由であるが、ただし、総会開催より相当期間(質問内容と調査能力による)以前に質問事項の通知があった場合はこの理由では拒めない(調査をしておけという通知であるから)。しかし、他の拒否事由に該当していれば、その事由で拒否することはできる。 その他の正当の事由ある場合とは、説明により自己または会社が刑事訴追を受けるおそれがある、調査に多額の費用が必要、役職員・会社関係者の名誉・信用・プライバシーなどに関する質問などがそれである。   8 動議 動議とは、株主総会において株主から提案され、総会で討論裁決に付される提案をいう。従来も解釈上認められてきたが、修正動議の提出が明文化された(304条。株主の議案提案権である)。 なお、修正動議には限界がある。取締役は、株主総会を招集する場合には、非取締役会設置会社(298条1項、299条4項反対解釈)以外の会社では総会の招集通知には会議の目的事項を記載することが必要である。株主はこれを見て賛否、出席欠席などを決めるのであるから、招集通知から全く予見されないような修正動議の提出は、株主の予想と期待に反するから許されない。 動議には実質的動議(議題議案修正動議)と手続的動議(議事運営に関する動議)がある。そして動議が提出されたとき、その採否を議長が総会に諮らねばならないもの(必要的動議)と、議長の裁量に委ねられているもの(裁量的動議)とがある。 必要的動議には実質的動議と、手続的動議のうち法令定款により総会において決定すべき事項とされたもの(総会の延期・続行、検査役選任、会計監査人の出席要求)と議長の信任・不信任または交代の動議がある。それ以外の手続的動議は議長の裁量に委ねられる(実務的にはすべての動議を総会に諮り、欲しくない動議は否決を取ればよい)。 原則としてその動議の採否を他の議題・議案より先に議場に諮らねばならない。ただし、総会に諮って順序を決めることは可能である。通常、実質的動議が出された場合は、順序を決めて会社原案を先議にし、会社原案の可決を取って自動的に修正案を否決とする運営が多い。   9 総会決議の瑕疵 株主総会の決議に手続上または内容上の瑕疵があれば、本来はその効力が否定されるべきである。しかし決議の効力は、会社・株主・取締役等の多数の者の利害に関わることであり、これを一般原則どおりの処理に委ねると多数の者の間で混乱が生じ、また決議を信頼したものの利益が害されることにもなる。そこで商法は、会社関係の画一的処理と、法的安定性を考慮し、会社法上の訴えの制度を設けた。 決議の瑕疵の軽重に応じて、総会決議取消の訴え(831条)、総会決議無効確認の訴え(830条2項)、総会決議不存在確認の訴え(同条1項)の3種の制度がある。 ① 総会決議取消の訴え これは決議の取消しを求める形成訴訟である。その取消原因は、 イ 招集手続または決議方法が法令もしくは定款に違反し、または著しく不公正なとき(831条1項1号) 具体的には招集通知漏れ、招集通知の記載の不備、招集通知期間の不足、取締役会の決議を経ない代表取締役の招集、取締役や監査役の説明義務違反、定足数の不足、非株主の決議参加、多数決の要件不足、出席困難な時刻・場所に招集した、などである。 ロ 決議内容が定款に違反するとき(2号) 具体的には定款所定の員数を超える取締役の選任、などである。 ハ 特別利害関係人が議決権を行使したため著しく不当な決議がなされたとき(3号) 具体的には事業の譲受人が株主として決議に加わったため著しく不当な条件の事業譲渡が可決されたとき、などである。 これらの瑕疵は一般に軽微なものであるから、決議を当然に無効とせず、一応有効としたうえで、取消判決の確定を待ってはじめて効力を奪うことにしている。したがって、提訴期間内に提訴がなければ、瑕疵は治癒され決議はそのまま有効に確定する。 決議取消の訴えは、株主(決議で地位を奪われた株主も含む。地位を奪われた取締役等も同じ)、取締役、清算人、監査役設置会社(概して言えば、監査役の監査の範囲が会計に関するものに限定する定款の定めが置かれていない会社のことである)では監査役、指名委員会等設置会社では執行役が提訴できる。 決議取消の訴えは、決議の日より3ヶ月以内に提起することが必要である(831条1項)。多数の関係者に影響するものなので、決議の効力に関する争いを早期に決着させるためである。会社の法律関係を画一的に取り扱う必要から、判決の効力は第三者に及ぶ(838条)(対世効)。 以上のように決議取消判決は会社関係に重大な影響を及ぼす。したがって、決議が取り消されることは決して望ましいことではないし、また濫訴を防止する必要もある。 そこで取消事由が招集手続または決議の方法が法令・定款に違反するという手続的な瑕疵に過ぎないときは、裁判所は、「瑕疵が重大でなく」かつ「決議結果に影響を及ぼさない」場合には、取消しの請求を棄却することができる(2項)。これを裁判所の裁量棄却という。 ② 総会決議無効確認の訴え(830条2項) 決議の内容が法令に違反する場合は、決議の内容的瑕疵であり瑕疵が重大であるので、一般原則どおり当然に無効である。この場合に決議無効確認の訴えが認められる。これは確認訴訟である。 提訴権者、提訴期間については、決議取消の訴えと異なり、誰でも、いつでも、確認の利益がある限り無効確認の訴えを提起できる(違法なものが時間が経ったからといって適法になるわけがない)。勝訴判決の効力は、決議取消判決と同様、会社の法律関係を画一的に取り扱う必要から、判決の効力が第三者に及ぶ(838条)(対世効)。 ③ 総会決議不存在確認の訴え(830条1項) 決議の手続的瑕疵が著しく、決議が法律上存在すると認められないとき、総会決議不存在確認の訴えが認められる。これも確認訴訟である。 具体的には、議事録は作成されているが集会が全くなかった場合、招集通知を受けた株主の方が少なかったような場合、平取締役が取締役会の決議を経ずに招集したような場合などである。 提訴権者、提訴期間は、決議取消の訴えと異なり、誰でも、いつでも、確認の利益がある限り不存在確認の訴えを提起できる。不存在のものが時間が経ったからといって存在するようになるわけがないから当たり前である。 判決の効力は、決議取消判決と同様、会社の法律関係を画一的に取り扱う必要から、判決の効力は第三者に及ぶ(838条)(対世効)。   10 総会議事録 (1) 作成時期、作成通数など 作成時期について、会社法に規定はない。しかし登記期間が本店所在地で2週間以内(915条1項)なので、この期間内に作成すべきである。 作成通数についても会社法に規定はない。原本は1通と解せるが、登記の時に原本還付をせずに、保存用原本1通、登記用原本1通を作成する会社が多い。 (2) 記載事項 株主総会議事録には株主総会が開催された日時および場所、議事の経過の要領およびその結果、出席した取締役等の氏名、議長の氏名、作成した取締役の氏名などを記載しなければならない(規72条3項)。議事の経過の要領とは、開会宣言から閉会宣言までの会議の経過の要約である。 (3) 署名・押印について 会社法では議長と出席取締役の署名義務は廃止され、議事録作成取締役の記名で足りる(規72条)。 (4) 備え置き 株主総会の日から議事録を本店に10年、その写しを支店に5年備え置く(318条2項3項)。支店とは、従たる営業所であって、本店以外の場所において独自の営業活動をし、対外的にも取引ができる要員・組織を備えているものをいう。   第5 取締役・代表取締役・取締役会に関する重点ポイント 1 総説 会社法は、株式会社には、1人又は2人以上の取締役を置かなければならない(326条1項)とし、株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる(同条2項)として、取締役会を株式会社の必須の機関としていない。 ただし、公開会社、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は、取締役会を置かなければならない(327条1項)。   2 取締役 (1) 取締役の資格、員数 ① 株主限定 会社法は、公開会社については定款の定めをもってしても取締役の資格を株主に限ることはできないとしつつ(結果的に取締役に選任されたものが株主であっても問題はない。株主の中から取締役を選べと定款で定めてはいけないということである)、非公開会社については、定款をもって取締役の資格を株主に限定することを認めた(331条2項)。なお、この規定は、監査役についても準用される(335条1項)。 理由は、公開会社においては、より広く人材を世に問えとの要請が強いからであると説明されている。 ② 欠格事由(331条1項) ⅰ 法人(1号) ⅱ 成年被後見人若しくは被保佐人等(2号) 法人や、外国の法令上成年被後見人または被保佐人と同様に取り扱われている者が、取締役になることができないことを明文化した。未成年者は取締役になれる。 旧法にあった破産者については、取締役が会社の債務を個人保証し会社の経営破綻と同時に個人としても破産することが少なくない。そこで破産した者すべてについて取締役になることができないとすることは、債務者に経済的再生の機会をできるだけ早期に与えるという観点からは酷である。 そこで、会社法は、旧法が取締役の欠格事由としていた「破産手続開始の決定を受け復権していない者」を取締役の欠格事由から外した。 ⅲ 会社犯罪者(3号) 会社法等所定の罪により刑に処せられ、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から2年を経過していない者は、いわゆる会社犯罪者であり、欠格である。これは極めて厳しい欠格事由といえる。要は、会社犯罪者は罰金刑だろうと執行を猶予されようと、欠格者にあたることになる。 また、金融商品取引法は公開会社に関する法秩序と同視されるものであり、また各種倒産法制は株式会社の清算手続と同視されるものである。そこで、これらの法律に定める罪を一般の犯罪よりも厳しく扱うこととし、金融商品取引法や各種倒産法制に定める罪を犯した者を欠格事由に加えることとした。 ⅳ 通常犯罪者(4号) 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)。これは実刑になり収監された者を意味するから当たり前の欠格事由である。 なお、取締役の欠格事由に関する上記規定は、監査役にも準用される(335条1項)。 【会社法関係の主な罰則一覧】 ③ 兼任制限 取締役(支配人、その他の使用人等を含む)は、自社の監査役や親会社の監査役を兼ねることができない(335条2項)。 自己監査となったり(監査対象である取締役と監査をする監査役とを兼ねてしまっては監査の実効性が期待できない。すなわち監査役の受任者性に反するからである。【図1】)、監査される側の影響を受ける監査となったりして(親会社監査役が、通常弱い立場の子会社取締役を兼ねてしまうと、監査対象である親会社の取締役に従属する地位に置かれることになり、監査役の独立性に反するからである。【図2】)、公正な監査が期待できないからである。 上記の場合が禁じられるだけであるから、親会社の取締役が子会社の監査役を兼務することはできる。また、もちろん親会社の取締役が子会社の取締役を兼務することもできる。 【図1】 【図2】 ④ 員数 取締役会設置会社においては、取締役は、3人以上でなければならない(331条1項)。 非取締役会設置会社においては、1人または2人以上の取締役を置かなければならない(326条1項)。定款で最低数を高め、または最高限を定めてもよい。法律、定款の最低数を下回った場合は、直ちに株主総会を招集して後任の取締役を選任する。これを補完するため、ある取締役の任期満了や辞任などによって欠員が生じた場合は、退任した取締役は後任の取締役が選任されるまで、取締役としての権利義務を負う(346条1項)。また裁判所に請求して一時取締役を選任してもらうこともできる(2項)。 また、取締役が辞任するなどして、法や定款で定められた人数を欠くこととなる場合に備えて、補欠取締役を株主総会決議であらかじめ選任しておくことができるとした。補欠取締役の選任決議が効力を有する期間は、定款に別段の定めがない限り、当該決議後最初に開催する定時株主総会の開始の時までである(規則96条3項)(必要なら再度その総会で補欠を選任すれば足りるからである)。また、このような補欠となるべき者の予選は、監査役または会計参与についても認められる(329条1項2項)。補欠役員の選任に定款の定めは不要である。 (2) 任期 株主構成の変化に伴い一定期間ごとに株主の意思を問い直す必要があることから、取締役の任期は選任後2年(監査等委員会設置会社の監査等委員以外の取締役及び指名委員会等設置会社の取締役の場合は1年)以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結の時までとする(332条1項3項)。ただし、定款または株主総会決議により任期を短縮することもできる(332条1項但書)。 株主構成の変化が頻繁に生ずることが予定されていない非公開会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く)については、定款で、その任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結の時まで伸長することができる(332条2項)。これは、株主構成が変化しないのであれば頻繁に総会の意思を問い直す必要がないからである。 なお、取締役の任期に関する上記規定は、会計参与についても準用される(334条1項)。監査役は後述。 (3) 選任、解任 役員(取締役、会計参与および監査役)および会計監査人は、株主総会の普通決議によって選任する(329条1項、309条1項)。取締役の選任が株主総会の目的である場合において招集の通知を書面等で行うときは、招集者はその議案の概要を記載しなければならない(298条1項5号、299条4項、規63条7号イ)。なお、株主総会参考書類に議案の概要を記載した場合は、招集通知に記載する必要はない(301条1項、302条1項、規74条)。 役員および会計監査人は、いつでも株主総会の決議によって解任することができる(339条1項)。その解任決議は普通決議で足りる(309条1項)が、監査役、監査等委員である取締役または累積投票(342条)で選任された取締役を解任する場合は特別決議によることを要する(309条2項7号)。監査役の独立性から解任決議の決議要件を高めているものである。 役員の選任または解任を行う場合の株主総会決議の定足数は、定款で定めても、議決権を行使することができる株主の議決権総数の3分の1以上でなければならない(341条)。 なお、取締役の選任決議に加えて被選任者の承諾が必要である。選任決議は単に株主総会の意思であって、それだけで被選任者との間に「委任契約」が成立するわけではないからである。 通常、この承諾は就任承諾書によるが、株主総会の議事録に被選任者が株主総会の席上(したがって被選任者が株主総会に出席していることが必要である)で承諾した旨が明記されていれば、就任登記申請の添付書類は議事録のみで足りる。 取締役と会社との関係は委任の規定に従うから取締役はいつでも辞任することができる(民651条)が、会社のために不利な時期に辞任したときは、取締役は民法651条2項により損害賠償責任を負わされる。ただし、やむを得ない事情があったときは賠償責任を負わされない。不利な時期とは、一般的には会社が他に取締役を求めることができない時期に辞任を告知することをいう。 逆に会社は、いつでも株主総会の決議をもって取締役を解任できる。ただし、正当の事由がなく解任したときは、会社は損害賠償を要する(339条1項2項)。 正当の事由とは、具体的には、取締役に職務執行上の法令定款違反行為があった場合、心身の故障のため職務執行に支障がある場合、職務への著しい不適任等である。 損害賠償の範囲は、当該取締役が解任されなければ残任期間中と任期満了時に得られたであろう利益(所得)の喪失による損害。具体的には、役員報酬、支払いを受けた可能性の高いときは賞与や退職慰労金も認められる。  (続く)

#No. 119(掲載号)
#矢野 千秋
2015/05/14

此の国にも『日本企業』! 【第5回】「《モンゴル》 モンゴルで暖かな省エネ住宅を~(株)高組・マイベース~」

此の国にも『日本企業』! 【第5回】 「《モンゴル》 モンゴルで暖かな省エネ住宅を ~(株)高組・マイベース~」   中小企業診断士 西田 純     今月は、北海道で長年培った高気密・高断熱住宅建設技術を応用してモンゴルで普及型の住宅建設事業を進める旭川市の(株)高組と、同社のモンゴルにおける現地法人であるマイベース社を取り上げます。   〈投資会社を通すことでリスクを低減〉 マイベース社は、北海道旭川市に本拠を置く建設会社の(株)高組が100%子会社としてモンゴルに設立した投資会社で、現地の建設会社と組んで住宅開発案件に参画することを主な目的にしています。 そのプロセスにおいて親会社たる(株)高組から派遣された技術者の指導により、現地建設会社の施工技術向上が図られるという仕組みになっており、(株)高組が自ら100%のリスクを取って独資で住宅建設をするというわけではないことがプロジェクトの安全性を高めていると言えます。   〈北海道で培った技術を海外へ〉 従業員わずか25名の(株)高組にとって、近年そして将来的にも市場縮小が続くことが予想される北海道で売上維持を図ることは容易なことではありませんでした。他方で北海道という立地を生かせるかもしれない機会として、サハリンやモンゴルでの住宅建設など、海外のビジネスチャンスに関する情報はさまざまなルートを通じ入手できていました。 日本式の高気密高断熱住宅は、同じ寒冷地のロシアやモンゴルでは一般的とは言えず、断熱性の低い旧式の住宅で寒い日は石炭をどんどん焚くのが一般的な方法です。冬のウランバートルは街が石炭の煙で煤だらけになり、PM2.5も高レベルで健康被害が懸念されているのだそうです。省エネ住宅を導入することで、冬の空気を少しでもきれいにできたら・・・(株)高組の取組みにはそんな思いが込められていました。   〈成功に繋がった公的資金の活用〉 サハリンへの住宅輸出を成功させた実績に続き、(株)高組は2011年に「JAPANブランド育成支援事業」を利用してモンゴルで市場調査を行う機会を得ました。さらに2012年、国際協力機構が新たに始めた中小企業向けのF/S支援事業において、モンゴルで寒冷地仕様省エネ住宅建設に関する調査を実施できたことが同社にとっての転機になりました。 調査を通じてモンゴルでは、近代的な住宅建設技術が導入されている事例は少なく、特に施工技術面で大きく立ち遅れていることが指摘されるとともに、経済の急成長に伴って新築住宅の需要が飛躍的に伸びる可能性があることが確認されました。 海外進出を考える中小企業にとって、信頼できるパートナー探しほど重要なプロセスはないと言っても過言ではないでしょう。(株)高組の成功要因の一つは、これら公的資金による複数の調査機会を上手く組み合わせて、じっくりとパートナー探しを行ったところにあります。   〈挑戦はまだ始まったばかり〉 2012年に登記を終えたマイベース社は観光事業と資産運用で毎年黒字を計上し、2015年1月には初の建設プロジェクトとして、現地パートナーと組んで2棟10戸のタウンハウスを完成させました。現在は現地住宅ローンを活用して、回収不能債権を作らないよう慎重に販売活動を行っています。 今後は住宅開発案件をさらに進めるとともに、日本政府のインフラ開発援助案件への参入を目指して、現地子会社社員を増員し、社員教育を強化しています。 (了)

#No. 119(掲載号)
#西田 純
2015/05/14

プロフェッションジャーナル No.118が公開されました!~今週のお薦め記事~

2015年5月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.118が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中!   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2015/05/07

monthly TAX views -No.28-「ピケティ氏による問題提起と金融所得課税」

monthly TAX views -No.28- 「ピケティ氏による問題提起と金融所得課税」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   まずは以下の図表を見ていただきたい。 申告納税者の所得税負担率(平成25年度) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 上図は財務省の「申告納税者の所得税負担率(13年度)」サンプル調査の結果を表したもので、太い実線は、わが国の所得階層ごとの負担割合を示している。これを見ると、所得1億円まで負担率(実効税率)は増加するが、1億円を超えると負担割合は逓減する。 このような負担の逆転現象が生じる原因は、高所得者に偏った株式譲渡益や配当(金融所得)が、低税率(図表の時点では10%)で分離して課税されるためで、図表の点線部分はそのことを表している。 これが2014年からは20%に引き上げられた。その影響を筆者が簡単に試算したのが図表の薄いグレーの線であるが、1億円でピークをつけることは変わらない。 このような実効税率の推移は米国でも同様で、世界有数の富豪であるバフェット氏が、「自らの所得に対する実効税率は17%で、自分の秘書の税負担33%より低い」として高所得者の税負担の増加を求める運動を行ったことは有名である。 アベノミクスで株価や地価が上がり、トマ・ピケティ氏による著書『21世紀の資本』も契機となって、わが国でも格差議論が盛んにありつつある。仮に格差対策を税制で行うべきだという議論になれば、ここにその解決の糸口がある。 注意すべきは、「配当や株式譲渡益といった金融所得を勤労所得と合算して累進税率を課す総合課税を行うべきだ」という議論である。マイナンバーの導入がその追い風になる。 しかし今日のグローバルな資金移動のもとでは、金融所得に対して分離課税(あるいは勤労所得の税体系と比べて低い税率での課税)を基本とすることが世界の主流となっており、当面課税方式を変えるべきではない。 そこで、分離課税の税率を、例えば2、3%引き上げてはどうかという議論となるが、その際には、金融所得間の損益通算の範囲を拡大する、つまり預金利子をも含め、金融所得一体課税を拡充し投資家のリスクテイク能力を高める必要がある。またNISAも今以上に拡大する必要があるだろう。 アベノミクスの成果ともいえる配当や株式譲渡益の拡大に、多少の負担増を求めることは、決して唐突な考えではない。 (了)

#No. 118(掲載号)
#森信 茂樹
2015/05/07

マイナンバー制度と税務手続 【第3回】「本人確認の方法(概要)」

マイナンバー制度と 税務手続 【第3回】 「本人確認の方法(概要)」   税理士 坂本 真一郎   今回からは、税理士等が個人番号を取り扱うケースに応じて、当該個人番号を収集・提出する際の「本人確認の方法」について見ていきたい。 【税理士等が個人番号を取り扱うケース】 税理士等が個人番号関係事務実施者(※1)として個人番号を取り扱う事務については、以下のケースに分類される。 (※1) 個人番号関係事務とは、事業者が番号法に基づき、従業員等の個人番号を給与所得の源泉徴収票、支払調書、健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届等の書類に記載して、行政機関及び健康保険組合等に提出する事務であり、この事務を行う者を「個人番号関係事務実施者」という。  なお、番号法2条9項では、「この法律において個人番号関係事務実施者とは、個人番号関係事務を処理する者及び個人番号関係事務の全部又は一部の委託を受けた者をいう。」とされている。 (※2) 税理士等が業務委嘱契約に基づき、顧問先である個人の納税者の個人番号のみを記載した所得税等の確定申告書等を作成し所轄税務署等に提出する場合(納税者の扶養親族の個人番号を取得しない場合)には、当該納税者そのものが個人番号関係事務を行わないことから、代理人である税理士等は「個人番号関係事務実施者」に該当しない(番号法2条9項)。しかしながら、このように個人番号関係事務を行わない場合であっても、顧問先の個人番号を含む特定個人情報を取り扱うことに変わりはないため、税理士法の規定を遵守し、必要かつ適切な安全管理措置を行う必要がある(「税理士のためのマイナンバー対応ガイドブック(日本税理士会連合会)」より抜粋)。   【本人から本人確認を行う方法】 個人番号利用事務実施者が、個人番号が記載された書類の提出を受ける場合、または、事業者等の個人番号関係事務実施者が番号法で規定されている利用目的により個人番号を収集する場合には、その番号が正しい番号であることの確認(番号確認)と、その番号が間違いなく本人のものであることの確認(身元確認)が必要となる。 原則として、 のいずれかの方法で確認する必要がある。 なお、これらの方法が困難な場合には、過去に本人確認を行って作成したファイルで番号確認を行うこと、雇用関係にあることなどから本人に相違ないことが明らかであると個人番号利用事務実施者が認めるときは、身元確認を不要とすることなども認められている。 詳しくは下記表1-1「本人から〈対面・郵送〉で本人確認を行う方法」のとおりである。 また、対面・郵送だけでなく、オンラインや電話により個人番号を収集する場合にも、番号確認と身元確認が必要となる。詳しくは下記表1-2「本人から〈オンライン〉で本人確認を行う方法」及び表1-3「本人から〈電話〉で本人確認を行う方法」のとおりである。     表1-2 「本人から〈オンライン〉で本人確認を行う方法」   表1-3 「本人から〈電話〉で本人確認を行う方法」 (注) 本人確認の上特定個人情報ファイルを作成している場合であって、個人番号利用事務・個人番号関係事務にあたって電話で個人番号の提供を受け、当該ファイルにおいて個人情報を検索、管理する場合に限る。   【代理人を通じて本人確認を行う方法】 個人番号利用事務実施者や事業者等の個人番号関係事務実施者が、代理人から個人番号の提供を受ける場合には、 という「3つの確認」を行う必要がある。 具体的には、 により確認が行われるが、これらの方法が困難な場合には他の方法も認められており、詳しくは下記表2-1「代理人を通じて〈対面・郵送〉で本人確認を行う方法」のとおりである。 また、オンラインや電話による場合も同様に、代理権の確認、代理人の身元確認及び本人の番号確認が必要となる。詳しくは表2-2「代理人を通じて〈オンライン〉で本人確認を行う方法」及び表2-3「代理人を通じて〈電話〉で本人確認を行う方法」のとおりである。   表2-1 「代理人を通じて〈対面・郵送〉で本人確認を行う方法」 (注) 郵送の場合は、書類又はその写しを提出   表2-2 「代理人を通じて〈オンライン〉で本人確認を行う方法」   表2-3 「代理人を通じて〈電話〉で本人確認を行う方法」 (注) 本人確認の上特定個人情報ファイルを作成している場合であって、個人番号利用事務・個人番号関係事務にあたって電話で個人番号の提供を受け、当該ファイルにおいて個人情報を検索、管理する場合に限る。 *  *  * 以上をふまえたところで、次回は、税理士等が個人番号を取り扱うケースごとに、具体的な「本人確認の措置」を見ていきたい。 (了)

#No. 118(掲載号)
#坂本 真一郎
2015/05/07

~税務争訟における判断の分水嶺~課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第3回】「建物賃貸借契約を合意解約したことに伴って貸主が受領した金員が不動産所得に当たるとされた事例」

~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第3回】 「建物賃貸借契約を合意解約したことに伴って貸主が受領した金員が 不動産所得に当たるとされた事例」   税理士 佐藤 善恵     (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 納税者(甲)の父(乙)は、ショッピングセンターの一部を区分所有して、A社に賃貸期間20年で賃貸していたが、乙の死亡後に、その権利を承継した甲が、その賃貸借契約を合意解約等した。これにより、A社は甲に対して1億9,000万円余り(本件金員)を支払うこととなった。甲は本件金員を譲渡所得として申告したが、税務署長はこれを不動産所得として更正処分をしたために争いとなったものである。 ここでは、本件の争点のうち、本件金員が不動産所得に係る収入金額に当たるか否かについて取り上げる。 なお、事実関係は、争点等に影響を及ぼさない範囲において、簡略化している。   〔事実関係〕 (1) 平成4年4月11日、A社はD社及び乙とともにショッピングセンター建設に関する事業協定を締結した。これにより①A社、D社及び乙は、建物(本件建物)を建設し、②A社、D社及び乙は、本件建物完成と同時に、本件建物を各々区分所有し、乙は自己所有部分をA社に賃貸することとした。 (2) 本件建物の敷地(本件土地)は、乙のほか十数名の者の所有する27筆の土地から構成されており、A社は、乙以外の者から、本件土地上に本件建物を建設する同意を得て、借地権の設定を受けた。 なお、本件建物のうち乙が区分所有する部分(本件区分所有建物)に対応する敷地の利用関係は建物所有を目的とする使用貸借とし、A社は敷地所有者から借地権の設定を受けた上、転借に関する承諾を得た。 (3) A社は、乙に対し本件建物の建設に必要な建築関係費用を建設協力金として支払う。 その建設協力金は、乙が所有する本件建物の区分所有権(部分)に関する賃貸借契約の成立と同時に、その70%を同契約の保証金に変更し、残りの30%を同契約の敷金の一部に変更する。 (4) 乙とA社は、平成4年11月27日、本件建物のうち乙が区分所有する各部分(本件区分所有建物)を、A社に賃貸する賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結した。なお、その内容は要旨次の条項を含んでいる。 (※) 建設協力金から変更される部分に当たる(上記(3)に対応)。 (5) 乙は平成17年1月3日に死亡し、甲が本件賃貸借契約に係る地位等を承継した (6) 甲とA社は、平成17年9月27日、本件賃貸借契約を合意解約すると同時に、A社は本件建物を利用したショッピングセンター事業から撤退して、この合意解約に伴い建設協力金(本件保証金の残高)及び本件敷金を清算すること、本件建物のうちA社及び他の区分所有者の所有部分の売却に併せて、甲の本件区分所有建物も第三者に譲渡することに双方合意した。 (7) 甲とA社は、平成19年11月26日、同日付で本件賃貸借契約を合意解約するとともに、以下の事項について合意した([本件解約合意])。 (8) 甲は、平成19年11月27日、A社との間で、甲所有土地(図解の部分)について、土地賃貸借契約([本件土地賃貸借契約])を締結し、A社が本件建物のうちA社及びD社の所有する区分所有部分を、甲所有土地上に持つことに合意した。この契約では、A社が甲に対して月額17万円の賃料を支払う旨の定めはあるが、借地権設定の対価(権利金)に関する定めはない。   〔地裁における双方の主張(要旨)〕   〔課税要件〕 ◆所得税法施行令94条1項2号◆   〔東京地裁の判断(要旨)〕 ▷解説 裁判所は、本件金員の趣旨を判断するために、一連の経緯や甲の金銭面の事情等を観察している。A社は、赤字累積によってショッピングセンター事業からの撤退が不可避な状況下で、本件賃貸借契約の解約を申し出て、一方、甲としては、本件保証金等の返還の原資は、20年間の賃料収入を前提にしていた(と推認されている)。 このような状況を踏まえると、甲は、保証金等の返還にあたって、残存期間の賃料収入を確保する必要があり、本件金員はそのためのものであると解せられた。   〔判断の分水嶺〕 本件における判断の分水嶺は、裁判所が、本件解約合意について、甲の将来の賃料収入相当額をA社が補償することについて、両者が合意したものであると推認したところにある。 この点、甲は、本件金員に賃料補償の趣旨が含まれていなかったと主張し、その理由として、賃料補償の対象となる物件を譲渡する(本件区分所有建物をD社に売却する)ことを予定していたこと等を挙げていた。 しかし、裁判所は、①本件解約合意において、甲が本件保証金等の支払債務を引き続き負うことが合意されていたこと、②本件賃貸借契約における賃貸人の地位をDが承継することは予定されておらず、本件保証金等にかかる返還債務を承継することになっていたことを述べて、甲は、賃料補償が得られるからこそ、中途解約に応じて、本件区分所有建物を売却することにも応じたとみるのがむしろ自然であるとして、甲の主張を排斥した。   〔本判決が示唆するもの〕 本件は、当事者の合意内容について、推認を用いて判断した事例である(※)。 本件解約合意、本件売買契約及び本件土地賃貸借契約は、形式的には、甲主張のように一連をなしていると見えなくもない。しかし、当初の本件賃貸借契約の合意内容や契約に至る経緯をみれば、本件解約合意における当事者の真意は、自然と明らかになる。 納税者が主張するストーリー全体に不自然さがないかどうかは常に考えなければならない。 (了)

#No. 118(掲載号)
#佐藤 善恵
2015/05/07
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