《平成27年度改正対応》 住宅取得等資金の贈与税非課税特例 【第4回】 「『取得』に係る要件」 ~「分譲マンションの取得時期」「土地等の取得と名義」~ 税理士 齋藤 和助 前回は特例の適用要件の1つである「面積要件」について、床面積の判定で留意すべき事項を確認した。 今回は分譲マンションを取得する場合の取得時期、妻が贈与を受けた資金で土地等を取得する場合の名義、さらには住宅ローン控除との併用など、取得に係る要件において注意すべき点を確認してみたい。 【具体例①】 ~分譲マンションの取得~ 私は平成27年に父から住宅取得等資金1,000万円の贈与を受けて、建築中の分譲マンション(一般住宅に該当)の購入手付金を支払った。翌年(平成28年)2月末に完成引渡しの予定であったが、工期が長引き、申告期限の時点で、屋根を有し、土地に定着した建造物として認められる「新築に準ずる状態」である。 完成引渡しは同年4月の予定であるが、この場合、住宅取得等資金の贈与税非課税特例は受けられるか。 【回答】 分譲マンションの「取得」の場合には、住宅取得等資金の贈与を受けた年の翌年3月15日までに売主から住宅用家屋の引渡しを受けていなければならないため、特例の適用は受けられない。 【解説】 1 住宅取得資金で住宅を取得する場合の取得期限 住宅取得等資金の贈与税非課税特例は、住宅用家屋の新築又は建築後使用されたことがない住宅用家屋の取得の場合、その住宅用家屋を住宅取得等資金の贈与を受けた年の翌年3月15日までに新築又は取得をしていなければ、適用できない。 この場合の住宅用家屋の「新築」には、「新築に準ずる状態」として、屋根を有し、土地に定着した建造物として認められる状態が含まれるが、住宅用家屋の「取得」には、これらの状態にあるものは含まれないため、住宅取得等資金の贈与を受けた年の翌年3月15日までに売主から住宅用家屋の引渡しを受けなければならない。 分譲マンションの購入は、住宅用家屋の「取得」に該当するため、住宅取得等資金の贈与を受けた年の翌年3月15日において、住宅用家屋が「新築に準ずる状態」にある場合であっても、住宅取得資金等の特例の適用を受けることはできない。 たとえそれが新築される分譲マンションの取得の場合でも同様である。 2 建築中の場合には残金の贈与を受ける 住宅用家屋の新築は、さまざまな外的要因により工期が遅れ、取得時期が申告期限に間に合わないことも想定される。したがって、このような場合には、手付金ではなく、残金の贈与を受ければ、特例の適用は可能である。 本事例の場合も、平成28年4月にマンションが完成して、残金決済をし、引渡しを受ける時点で、父から住宅取得等資金の贈与を受ければ、平成28年に700万円(【第1回】参照)までの特例適用は可能である。 【具体例②】 ~土地の取得に特例を適用する場合~ 夫婦でマイホームを新築するに当たり、妻が、妻の父親から1,000万円の贈与を受けた。そこで、これに夫の手元資金1,000万円をプラスして土地を取得し、その土地の上に夫が住宅ローン2,000万円を組んで建物を新築した。 この場合、妻が土地の取得に充てた1,000万円について、贈与税非課税特例は受けられるか。 【回答】 妻が妻の父親からの贈与資金で土地を買い、夫が住宅を新築する場合、土地だけが一部妻名義で、建物に妻名義部分がない場合には、妻が土地の取得に充てた1,000万円について、贈与税非課税特例の適用はできない。 【解説】 1 家屋とともにする土地や借地権等の取得も対象 特例適用対象となる住宅用家屋には、住宅用家屋の新築若しくは取得とともにする敷地の用に供されている土地や借地権も含まれる。 具体的には、次に掲げる場合の区分に応じる土地等が該当する。 2 土地等を取得する場合の注意点 (1) 土地と建物の名義が同一である場合 土地と建物の名義が同一人である場合には、贈与により取得した金銭が土地等の取得の対価に充てられ、住宅用家屋の新築の対価に充てられなかった場合でも、土地等の取得の対価に充てられた金銭は住宅取得等資金に該当し、贈与税非課税特例の適用ができる。ただし、贈与があった日の属する年の翌年の3月15日までに住宅用家屋の新築をしていない場合には、適用はできない。 (2) 土地と建物の名義が同一でない場合 本事例のように、妻が妻の父親からの贈与資金で土地を買い、夫が住宅を新築する場合、妻の取得土地が、妻自身の住宅の敷地でなければならないため、土地が妻名義で、建物が夫名義だけであると、特例の適用はできない。 したがって、妻が受けた贈与資金を全額土地に充てず、建物を一部取得して、建物に妻の名義を入れることが必要である。また、土地購入時点で出資割合が決まっていれば、夫と妻の出資割合に応じて土地を登記し、建物もその割合で登記を行えばよい。 3 住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)との併用 本事例のように、マイホームの取得に際し、贈与を受けた住宅取得等資金に贈与税非課税特例を適用し、残額に住宅ローンを組んだ場合には、住宅ローン控除の要件を満たしていれば、住宅ローン控除との併用が可能である。 ただし、以下の2点に注意が必要である。 (※) この場合の床面積の判断基準は次のとおりである。 ① 床面積は、登記簿に表示されている床面積(マンションの場合は専有部分の床面積)により判断する。 ② 店舗や事務所などと併用になっている住宅の場合は、店舗や事務所などの部分も含めた建物全体の床面積により判断する。 ③ 親子や夫婦で共有する住宅の場合は、共有持分を含めた建物全体の床面積により、区分所有の場合は、区分所有する区画の床面積により判断する(前回参照)。 (了)
〈要点確認〉 非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度 ~昨今の事業承継税制等をめぐる改正事項~ 【第1回】 「適用要件等、あらためて制度内容を確認する」 エアーズ税理士法人 税理士 瀧尻 将都 1 「事業承継税制」創設の経緯 我が国の大多数を占める中小企業は、経営者の高齢化が進んでおり、経営者に相続が発生した場合、経営者の相続に伴う税負担のために、企業が行う事業継続に支障をきたすケースがみられる。 また、中小企業のオーナー経営者にとって自社株に係る相続税負担は、優良企業であればあるほど高額になる一方、非上場株式につき流通性は乏しく、これが事業承継を難しくしている要因の1つとなっていた。 そこで、平成20年10月1日に、中小企業の事業承継に関する総合的支援策として、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下「経営承継円滑化法」という)が制定された。この法律には、事業承継の際に直面する遺産分割、資金需要、そして相続税の税負担に対応するための支援策が盛り込まれている。 これらのうち、相続税の税負担の問題については、平成21年度税制改正により「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除の特定」が創設された。 この制度は、一定の非上場会社のオーナー経営者から、後継者が自社株を相続又は贈与により取得する場合、一定の要件を満たすことを条件に、相続税の一部(又は贈与税の全部)の納税を猶予し、その後、一定の要件を満たした場合には、猶予税額が免除される制度である。 制度制定時は、非常に使いづらい制度であったが、平成25年度税制改正において、雇用確保要件が5年間の平均で当初の8割以上維持に緩和されたことや、経済産業大臣の事前確認が不要になる等、適用要件の緩和や手続の簡素化が行われた。 また、平成27年度税制改正において贈与税の納税猶予制度につき、連続贈与(1代目の存命中に2代目から3代目の贈与を行った場合、2代目の贈与税が免除される)が認められるなど、制度の拡充が図られた。 2 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例 (1) 制度概要 平成20年10月1日以後に開始した相続につき、後継者である相続人等が、相続等により、非上場会社の株式等を被相続人である先代経営者から取得し、その会社を承継していく場合は、発行済議決権総数の3分の2を上限として、当該株式等に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税を猶予する制度である。 (2) 適用要件 ① 先代経営者(被相続人等)の要件 先代経営者である被相続人は、次に掲げるすべての要件を満たしている必要がある。 ② 後継者(相続人等)の要件 後継者である相続人等は、次に掲げるすべての要件を満たす必要がある。この場合、1つの会社につき適用を受けられるのは1人に限られる。 ③ 適用会社要件 この特例が適用できる会社は、経営承継円滑化法の経済産業大臣の認定を受けた「中小企業者」で、次の資本金基準と従業員基準のいずれかに該当する同族会社である。 ただし、上記中小企業者に該当する場合でも、次のような会社は、適用できない。 (3) 事前準備 この特例の適用を受けるためには、相続開始前に「事前確認申請書」を経済産業大臣に提出し、「事前確認」を受ける必要があったが、平成25年度税制改正により、この事前確認制度は廃止されており、平成25年4月1日以降は、この「確認」を受けなくても、認定手続を行うことができるようになった。 (4) 相続後の継続要件 ① 5年間の事業継続要件 この非上場株式等についての相続税の納税猶予の特例は、後継者である相続人等が事業継続することを条件に認められた特例である。したがって、相続税申告期限後5年間は「経営承継期間」と定められ、申告期限の翌日から1年ごとに、税務署に「非上場株式等についての相続税の納税猶予の継続届出書」を提出するとともに、経済産業大臣に「事業継続報告書」を提出しなければいけない。 この提出を怠った場合や、次に掲げる事由に該当しないことが判明した場合には、納税猶予は打ち切られ、非上場株式等猶予税額の全額と利子税を納付しなければならない。 ② 5年間経過後の事業継続要件 相続税申告期限の翌日から5年(経営承継期間)経過後においても、一定の事由が生じれば、猶予税額を納付しなければならない。また、経営承継期間経過後からは、経済産業大臣への報告義務はなくなるが、経営承継期間末日の翌日から3年ごとに、税務署に「非上場株式等についての相続税の納税猶予の継続届出書」を提出しなければならない。 (5) 納税猶予税額の取消し 上記(4)の理由等で相続税の納税猶予が取り消された場合には、納税猶予は打ち切られ、猶予されていた相続税額の全部又は一部と申告期限の翌日から納税猶予期限までの期間に相当する利子税を納付しなければならない。 (6) 納税猶予税額の免除 猶予された税額は、次に掲げる事由に該当することとなった場合には、一定の期間内に「免除届出書(免除申請書)」等を所轄税務署長に提出することにより、猶予された税額の全部又は一部が免除される。 3 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免税の特例 (1) 制度概要 非上場株式等についての相続税の納税猶予制度が創設されたことにより、非上場株式の生前贈与に係る贈与税についても、納税猶予制度が創設された。この制度の適用を受けると、後継者である受贈者が非上場株式の全部又は一定数以上を取得し、その会社を経営していく場合には、発行済議決権総数の3分の2を上限に、その贈与に係る贈与税について全額が猶予される。 (2) 適用要件 ① 贈与者(先代経営者)の要件 以下の要件のすべてを満たしている必要がある。 ② 受贈者(後継者)の要件 以下の要件のすべてを満たしている必要がある。 ③ 適用会社要件 上記2(2)③の非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例制度の適用会社要件と同じである。したがって、資産保有型会社等などには、この特例は適用されない。また、この特例の適用に際して、経済産業大臣の「認定」を要するのも、相続税の場合と同じである。 (再掲) (3) 事前準備 この特例の適用を受ける場合には、贈与を行う前に「事前確認申請」を経済産業大臣に提出して「事前確認」を受ける必要があったが、平成25年度税制改正により、平成25年4月1日以降は、この確認を受けなくても認定手続を受けることができるようになった。 (4) 贈与後の継続要件 ① 贈与実行後贈与税申告期限までの継続要件 (経営承継期間の取扱い) 贈与税の納税猶予の適用を受けた後は、贈与税申告期限後の5年間は「経営承継期間」として事業継続要件がある。また、経営承継期間後も株式保有期間が続くこととなる。 経営承継期間における必要な手続は、申告期限の翌日から1年ごとに、税務署に「非上場株式等についての贈与税の納税猶予の継続届出書」を提出することと経済産業大臣に「事業継続報告書」を提出することを義務づけている。この提出を怠った場合や打ち切り事由に該当することが判明した場合には、納税猶予は打ち切られることになる。 ② 経営承継期間後の継続要件 後継者である受贈者は経営承継期間後も猶予税額免除となるまで、納税猶予の対象となる非上場株式等を保有し続け、一定の要件を引き続き満たし続ける必要がある。また、経営承継期間後も3年ごとに、税務署に「非上場株式等についての贈与税の継続届出書」を提出することも同様である。提出を怠った場合や、要件を満たさないこととなった場合には、納税猶予の打ち切りとなる。 (5) 納税猶予税額の取消し 贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた場合において、下記に掲げる事由に該当することとなった場合には、納税猶予は打ち切られ、猶予されていた贈与税額の全部又は一部と申告期限の翌日から納税猶予期限までの期間に相当する利子税を納付しなければならない。 (6) 納税猶予税額の免除 猶予された税額は、次に掲げる事由に該当することとなった場合には、一定の期間内に「免除届出書(免除申請書)」等を所轄税務署長に提出することにより、猶予された税額の全部又は一部が免除される。 (7) 先代経営者(贈与者)が死亡した場合 ① 贈与税の免除と相続税の課税 後継者である受贈者が「贈与税の納税猶予の特例」の適用を受けていた場合において、贈与者(先代経営者)が死亡した場合、その対象となった株式等を死亡時までに保有を継続したときは、後継者の猶予されていた贈与税は免除される。 この場合において、贈与税の納税猶予の特例を受けた一定の非上場株式等を後継者である受贈者が相続又は遺贈により取得したものとみなして、贈与時の価額を基礎として他の相続財産と合算して計算することになる。 ② 相続税の納税猶予制度への引継ぎ 上記①につき、一定の要件を満たせば、その相続税について相続税の納税猶予の特例を受けることができる。 (了)
連結納税適用法人のための 平成27年度税制改正 【第11回】 「事業税の改正」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 12 連結納税適用法人に係る事業税の改正 1 改正の内容 連結納税適用法人では、各連結法人ごとに単体納税と同様の取扱いで事業税の課税所得及び税額が計算される。したがって、今回の改正についても、後述する「(5)付加価値割における所得拡大促進税制の導入」以外については、連結納税適用法人も単体納税適用法人も同じ取扱いとなる。 (1) 事業税の税率の改正 資本金の額又は出資金の額が1億円超の普通法人の事業税の標準税率について、平成27年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する事業年度及び平成28年4月1日以後に開始する事業年度から段階的に改正された(地法72の24の7、地方法人特別税等に関する暫定措置法2、9、13)。 なお、事業税率が改正されたのは外形標準課税適用法人であり、それ以外の法人については事業税率は改正されていない。 ◆事業税率の改正 (注1) 所得割の税率下段のカッコ内の税率は、地方法人特別税等に関する暫定措置法適用後の税率。 (注2) 3以上の都道府県に事務所又は事業所を設けて事業を行う法人の所得割に係る税率については、軽減税率の適用はない。 ◆地方法人特別税率の改正 (2) 均等割の課税標準の見直し 均等割の税率適用区分の基準となる資本金等の額が、資本金の額及び資本準備金の額の合算額又は出資金の額を下回る場合、資本金の額及び資本準備金の額の合算額又は出資金の額を均等割の税率適用区分の基準とする(地法23四の五二、52①・②三・⑥、292四の五二、312①・③三・⑧)。 なお、資本金等の額は、無償増減資等の金額を加減算する措置((4)参照)をした後の金額をいう(地法23四の五二、292四の五二)。 また、地方自治体では今回の地方税法の改正に伴い条例改正が行われているが、法人税割の不均一課税の税率区分の「資本金等の額」についても上記の改正を反映させている地方自治体があるため、都税事務所、県税事務所、市区町村ごとに、法人税割の不均一課税の税率区分について、「資本金等の額」の取扱いを確認する必要がある。 (3) 資本割の課税標準の見直し 資本割の課税標準となる資本金等の額が、資本金の額及び資本準備金の額の合算額又は出資金の額を下回る場合、資本金の額及び資本準備金の額の合算額又は出資金の額を資本割の課税標準とする(地法72の21①②)。なお、資本金等の額は、無償増減資等の金額を加減算する措置((4)参照)をした後の金額をいう(地法72の21①②)。 (4) 資本金等の額に無償増減資等の金額を加減算する措置 均等割の税率適用区分の基準となる資本金等の額について、資本金等の額に無償増減資等の金額を加減算する措置を講ずることとした。 無償増減資等の金額を加減算する措置を加味した資本金等の額の計算方法は次のとおりとなる(地法23四の五二、292四の五二、地規1の9の2①~④)。 (※1) 会社計算規則29条2項1号に規定する額をいう。 (※2) 資本金の額を減少した場合は、会社計算規則第27条第1項第1号に規定する額とし、資本準備金の額を減少した場合は会社計算規則第27条第1項第2号に規定する額とする。ただし、損失の填補に充てた日以前1年間に剰余金として計上した額に限る。 (※3) 損失の填補に充てた日におけるその他利益剰余金が零を下回る場合のその零を下回る額をいう。 (※4) 無償減資に掲げる金額について「その内容を証する書類」(株主総会議事録、債権者に対する異議申立の公示(官報)等を想定している)を添付した申告書を提出した場合に限り、上記において減算することができることとしている(「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)の一部改正について」総税都第22号43の3、「地方税法の施行に関する取扱いについて(市町村税関係)の一部改正について」総税市第22号48の3)。 また、資本割の課税標準である資本金等の額についても、上記と同様の計算を行うこととなる(地法72の21①)。 従来から、債務超過会社など利益剰余金がマイナスの会社を再建する際に、親会社が増資を行って債務超過を解消するとともに、同時に増資した資本金を無償減資することで利益剰余金をプラスにする財務改善スキームが行われているが、その際に、資本金は元に戻ったのにもかかわらず、無償減資した金額(欠損填補した金額)が資本金等の額に含まれることによって、再建後に均等割が著しく増加するという問題があったが、今回の改正により、無償減資の金額を資本金等の額に含めなくてもよくなったため、その問題が解消されることとなった。 また、地方自治体では今回の地方税法の改正に伴い条例改正が行われているが、法人税割の不均一課税の税率区分の「資本金等の額」についても上記の改正を反映させている地方自治体があるため、都税事務所、県税事務所、市区町村ごとに、法人税割の不均一課税の税率区分について、「資本金等の額」の取扱いを確認する必要がある。 (5) 付加価値割における所得拡大促進税制の導入 平成27年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する各事業年度に国内雇用者に対して給与等を支給する連結法人について、次の要件を満たす場合は、各事業年度の付加価値額から、その雇用者給与等支給増加額に付加価値割に係る収益配分額から雇用安定控除額を控除した額を収益配分額で除して計算した割合を乗じて計算した金額を控除する(地法附則9⑭⑮、地法72の14、72の20②)。 [付加価値額からの控除額の計算方法] この適用要件は、「連結納税制度に係る所得拡大促進税制」(前回参照)と同じ3要件となっており、雇用者給与等支給額(措法68の15の5②三)、基準雇用者給与等支給額(措法68の15の5②四)、雇用者給与等支給増加額、比較雇用者給与等支給額(措法68の15の5②六)、平均給与等支給額(措法68の15の5②七)、比較平均給与等支給額(措法68の15の5②八)の定義についても「連結納税制度に係る所得拡大促進税制」の規定(措法68の15の5)を借用している。 また、当連結事業年度の所得が欠損である等の理由により連結法人税の税額控除を受けられない連結法人(外形標準課税適用法人)についても、事業税においては適用することとなる(「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)の一部改正について」総税都第22号4の2の17)。 そして、連結法人については、単体法人ごとに適用するため、3要件のうち、[要件1]及び[要件2]は、単体法人ごとに判定することとなる。ただし、[要件3]における平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額については、単体法人の額又は連結法人の合算額のいずれかの場合に要件を満たしていれば足りるものとする(「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)の一部改正について」総税都第22号4の2の17)。 (6) 事業税の税率の改正に伴う負担変動の軽減措置 事業税の税率の改正に伴う負担変動の軽減措置として、平成27年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する事業年度又は平成28年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する事業年度において、次の要件を満たした場合、次の金額を事業税額から控除する措置を講ずる(平成27年地法改正法附則8②③④⑤、9②③④⑤)。 【参考図】 [出典]「資料(法人税改革)」(財務省資料) 2 適用時期(まとめ) (1) 事業税の税率の改正 平成27年4月1日以後に開始する事業年度又は平成28年4月1日以後に開始する事業年度からそれぞれ適用される(平成27年地法改正法附則8①、9①)。 (2) 均等割の課税標準の見直し 平成27年4月1日以後に開始する事業年度から適用される(平成27年地法改正法附則6⑦、15⑥)。 (3) 資本割の課税標準の見直し 平成27年4月1日以後に開始する事業年度から適用される(平成27年地法改正法附則8①)。 (4) 資本金等の額に無償増減資等の金額を加減算する措置 平成27年4月1日以後に開始する事業年度から適用される(平成27年地法改正法附則6⑦、8①、15⑥)。 (5) 付加価値割における所得拡大促進税制の導入 平成27年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する各事業年度に適用される(地法附則9⑭)。 (6) 事業税の税率の改正に伴う負担変動の軽減措置 平成27年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する事業年度又は平成28年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する事業年度に適用される(平成27年地法改正法附則8②③④⑤、9②③④⑤)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第50回】 「法人税基本通達9-6-2の具体的内容」 公認会計士 佐藤 信祐 第47回から第49回では、法的に債権が消滅した場合における法人税基本通達9-6-1の取扱いについて解説を行った。 本稿においては、法的に債権が消滅していないものの、経済的に回収不能であることが見込まれている場合における法人税基本通達9-6-2の取扱いについて解説を行う。 5 実質的に回収不能である場合 (1) 概要 法人税基本通達9-6-2では、 と規定されている。第32回から第43回で法人税基本通達の歴史を遡ってみたが、法人税基本通達9-6-2の要件を満たすことについてかなり厳格な要件が課されていたということはご理解いただけたと思う。 このような厳格な要件が課されていることから、同通達の要件を充たせる典型的なケースとしては、法人債務者が実質的に事業を閉鎖していたり、個人債務者が生活保護を受けていたりするような場合が考えられる。 そのため、可能であるならば、法人税基本通達9-6-1で解決を図っていくことをお勧めするが、それが困難な場合も考えられるため、本稿では、法人税基本通達9-6-2の射程を探っていきたいと思う。 なお、第39回で解説したように、「全額が回収できないことが明らかになった事業年度」において貸倒損失を計上せずに、それ以降の事業年度において貸倒損失に計上することは認められないため、貸倒損失の計上を失念していた場合には、法人税基本通達9-6-1と同様に、損金の額に算入すべきであった事業年度に遡って、減額更正をする必要があるという点に留意が必要である。 (2) 担保物が未処分である場合 法人税基本通達9-6-2では、 と規定されている。これは、「全額が回収できない」ということが貸倒損失を計上するための要件となっていることから当然のことであると考えられる。 しかしながら、抵当権順位が第2位以下であることにより、担保物からの配当が全く期待できないことも想定される。この点につき、国税庁のHPの質疑応答事例では、「担保物がある場合の貸倒れ」として、「担保物の適正な評価額からみて、その劣後抵当権が名目的なものであり、実質的に全く担保されていないことが明らかである場合には、担保物はないものと取り扱って差し支えありません。」と解説されている。 そのため、担保物からの配当が全く期待できない場合には、法人税基本通達9-6-2の要件を充たす余地はあると考えられる。 (3) 連帯保証人が存在する場合 連帯保証人が存在する場合には、当該連帯保証人から回収することができるため、通常は貸倒損失の計上を行うことができない。 しかしながら、国税庁のHPの質疑応答事例では、「保証人がいる場合の貸倒れ」として、「保証人Cは生活保護と同程度の収入しかない上、その資産からも回収することができないと見込まれるとのことですので、実質的に保証人からは回収できないものと考えられます。」と解説されている。 さらに、貸倒引当金の通達ではあるものの、法人税基本通達11-2-7において、連帯保証人が個人であって、次のいずれにも該当する場合には、個別貸倒引当金の計算において、連帯保証人からの回収可能額を考慮しないことができる旨が明らかにされており、法人税基本通達9-6-2の適用においても参考にすることができると考えられる。 ① 当該保証人が有する資産について評価額以上の質権等が設定されていることなどにより、当該資産からの回収が見込まれないこと。 ② 当該保証人の年収額が当該保証人に係る保証債務の額の合計額の5%未満であること。 (4) 法人債務者が事業を閉鎖していた場合 実務上、法人債務者が解散手続を行わず、事業を閉鎖したまま放置しているような場合が考えられる。この場合の解釈としては、第34回で解説した昭和42年度法人税基本通達改正前の法人税基本通達78の3における全部貸倒れの規定を参考にすることができよう。 具体的には、「債務者が破産、和議、強制執行または整理の手続に入りあるいは解散または事業閉鎖を行なうにいたつたためまたはこれに準ずる事情があるため回収の見込みがない場合」には貸倒損失として計上することができるものとされていた。 このように、「事業閉鎖」という事実だけでは足りず、「回収の見込みがない」というところまで至らないと貸倒損失として認められないため、実務上は、当該法人債務者の状況等の調査を行ったうえで、その全額が回収不能であることを確認するなど、慎重な対応が必要となる。 なお、法人債務者の代表者が行方不明になる場合には、当該法人債務者に対する金銭債権のほとんどが回収不能になると考えられるが、後述する個人債務者が行方不明になる場合と異なり、当該法人債務者の経理担当者等が残っている場合も考えられるため、可能な限り調査を行う必要があると考えられる。 (5) 個人債務者が行方不明である場合 実務上、個人債務者が債務の支払いに耐え切れず、行方不明になる場合が考えられる。この点につき、第34回で解説した昭和42年度法人税基本通達改正前の法人税基本通達78の3では、「債務者の死亡、失そう、行方不明、刑の執行その他これに準ずる事情により回収の見込みがない場合」と規定されていた。 すなわち、債務者が行方不明になったということだけでは足りず、回収の見込みがないという事実まで必要になってくる。 この点につき、「貸倒償却および個別貸倒引当金繰入れの税務上の取扱いについて(平成11年3月30日、全国銀行協会連合会)」では、「興信所調査書、現況調査所等」により疎明することにより、法人税基本通達9-6-2の要件を満たすことができるとされており、一般事業会社においても、どのような資料により疎明するのかという点に限定すれば、参考になるものと考えられる。 さらに、金井澄雄『貸倒損失・貸倒引当金』158-160頁(中央経済社、第3版補訂版、平成22年)において、個人債務者の失踪・行方不明による貸倒処理のポイントについて解説されており、実務上も参考になると考えられる。 (6) 求償権に対する貸倒損失 法人税基本通達9-6-2では、「保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできない」と規定されている。すなわち、保証債務を履行する前は、金銭債権として認められないため、実際に履行した後に貸倒損失の計上を行うことができるか否かの判定を行うことになる。 なお、この場合における「履行」につき、中村慈美氏は、「この場合の弁済(履行)とは、保証債務の確定をいうのではなく、現実に支払うことをいいますから、分割支払の場合は、その支払の都度その求償権について貸倒処理をすることとなります。」(※)と解説されており、留意が必要である。 (※) 中村慈美『貸倒引当金制度廃止後の不良債権処理の税務 要点解説』68頁(大蔵財務協会、平成24年) 次回では、法人税基本通達9-6-3の取扱いについて解説を行う予定である。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第5回】 「取締役に「宿日直料」として支払った金銭の 支払時期はいつか(源泉所得税)」 税理士 佐藤 善恵 (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 納税者(X社)は、取締役である甲に対し宿日直料として年間約200万円を支給し(本件支給額)、それが所得税基本通達28-1(本件通達)により課税しないものとされている宿日直料に該当するとして、本件支給額について源泉徴収をしていなかった。 課税庁は、本件支給額は、役員が業務執行の対価を宿日直料の名目で受領しているものに過ぎず、本件通達に定められる宿日直料には該当しないとして、X社の総勘定元帳の記載に基づき、源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分(本件告知処分等)を行った。 〔地裁判決〕 一審横浜地裁は、本件支給額については、次のようなことから、実質においては役員報酬と異ならないから、給与所得に該当すると判断したため、本件告知処分等は適法であるとされた。 〔控訴審における新たな争点〕 控訴審において、X社は、仮に本件支給額が所得税法28条1項の「給与所得」に該当するとしても、X社は、甲に対し、本件支給額を平成19年1月から12月までの各末日に支払ったことはなく、実際に支払ったのは、平成20年2月4日である旨の新たな主張をした。 具体的には、X社の会計慣行によれば、宿日直料等のいくつかの科目については、実際の出入金時点で帳簿に計上されるのではなく、年度末(12月末)から3ヶ月以内に1年分の未収金・未払金をまとめて清算することになっており、平成19年度分については、平成20年2月4日に支払われたというものである。 ▷解説 給与等の支払をする者は、その支払の際に所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならないと規定されているところ、原処分は、X社が本件支給額を甲に支払ったのが毎月末日であることを前提に本件告知処分等を行っている。 つまり、仮にX社の主張するとおりであるならば、原処分は誤った事実認定に基づいていることになる。 〔本件高裁判決〕 東京高裁は、本件支給額が本件通達の宿日直料として課税されないものに当たるとのX社の主張は認めなかった。つまり、本件支給額は、全額課税ということである。 しかし、上記の[新たな争点]については、次のようにX社の主張を認め、本件告知処分等を違法として取り消した。 すなわち、東京高裁は、X社及び甲の預金の動きから、毎月末日に金員が移動した記録が認められない上に、甲の妻も未払金等については、1年分の清算をしている旨を原処分調査時に述べていたという事実に着目したのである。 そして、1年分の未収金等の内訳が明らかでないため、その中に本件支給額が含まれているか否かは明らかではないとして、X社主張事実が認められるものではないにしても、X社帳簿のみで、毎月末日に支払われたことを認定することはできないと判断した。 〔判断の分水嶺〕 本件の判断の分水嶺は、所得税法183条1項の「支払の際」の事実、すなわち、毎月末日に本件支給額を支払ったとの事実が認定できなかった点にある。 課税要件事実の立証責任は原処分庁に存する。したがって、本件では、X社の主張事実が認められなかったとしても、課税庁の主張するような毎月末日に支払っていたとの事実も認められないのであるから、結局、毎月末に支払われたとの事実を認定することはできず、納税者側に軍配が上がることになる。 〔本判決が示唆するもの〕 本件は、原処分庁が所得税法183条1項の要件を意識しておらず、支払の事実をしないままに告知処分を行ったものである。納税者としても、調査段階では、課税要件を確認していなかったのであろう。調査対応の際には、常に基本に立ち返り、課税要件を確認する必要がある。 なお、参考とした「重要判決情報」には、調査担当者向けに次のようなコメントが付されている。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第13回】 「契約書のコピーに原本と割印した場合」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 不動産売買契約書を作成するにあたり、売主と買主が所持するために2通作成すると、双方に収入印紙が必要だと聞きました。そのため、1通作成して原本は買主が保管し、売主はコピーにて対応しようと思いますが、コピーに原本との割印を行った場合であっても収入印紙は必要ないのでしょうか。 (原本) (コピー) 契約書のコピーは、正本等の単なる複写にすぎないため、収入印紙を貼付する必要はない。しかし、事例のように、正本等との割印のあるものについては課税文書となり、収入印紙が必要となる。 [検討1] 同一の文書を2通以上作成した場合 印紙税は、契約が成立したという事実そのものを課税の対象とするものではなく、契約の成立を証明する目的で作成された文書に対して課税の対象とされるものであり、1つの契約において、同一の文書を2通以上作成した場合、その2通以上の文書がそれぞれ課税事項を証明する目的で作成されたものである場合は、それぞれの文書が課税文書となる。 [検討2] 正本との割印等 日本において、文書を作成する場合、一般的に印鑑の有無が文書の証明力の有無の判断基準とされており、その点からも事例における正本との割印のあるものについては、課税文書に該当することとなる。 ただし、文書の所持者のみが署名又は押印しているものは除かれることとなる。 理由としては、自己の所持する文書に自己のみの印鑑を押印した場合は、契約の相手方当事者に対しては証明の用をなさないため、契約の成立を証明する目的で作成するものとは認められないこととなり、課税文書からは除かれている。 なお、下記文書例のように、コピーに「原本と相違ありません。」と記載し、契約当事者双方の署名・押印されている場合なども課税文書に該当することとなる。 (コピー) ▷ まとめ ◆同一の内容の文書を2通以上作成した場合 契約当事者間において、同一の内容の文書を2通以上作成した場合において、それぞれの文書が課税事項を証明する目的で作成されたものであるときは、それぞれの文書が課税文書に該当する(基通19①)。 ◆写、副本、謄本等と表示された文書 写、副本、謄本等と表示された文書で次に掲げるものは、課税文書に該当する。 (1) 契約当事者の双方又は一方の署名又は押印があるもの(ただし、文書の所持者のみが署名又は押印しているものを除く) (2) 正本等と相違ないこと、又は写し、副本、謄本等であることの契約当事者の証明(正本等との割印を含む)のあるもの(ただし、文書の所持者のみが証明している ものを除く)(基通19②) (了)
会計上の『重要性』 判断基準を身につける ~目指そう!決算効率化~ 【第10回】 「重要性判断の実践事例①」 ~未払計上の要否はベンチで考える 公認会計士 石王丸 周夫 今回は期末の未払費用の計上について、重要性判断との関係を考えてみます。 まず手始めに、以下の問題にチャレンジしてみてください(解答は問題のすぐ下にあります)。 いかがでしたか。正解できたでしょうか。 未払費用をどこまで厳密に計上するかは、決算早期化にも関係する大事な話です。 以下、この解答について触れながら、解説していきます。 《未払費用はやっかいな科目》 まず、未払費用の定義を確認しておきます。 企業会計原則注解では、次のように説明されています。 この定義からもわかりますが、未払費用というのは、支払が役務提供の事後に行われるという特徴があります。期末月に提供された役務については、請求が役務提供後遅滞なく行われたとしても翌月の初め、つまり翌年度が始まってからになるので、代金決済も同じく翌年度になるのです。 これが未払費用のやっかいなところです。 未払費用を計上する側は、期末日を過ぎて請求書が届くまで、会計処理できません。相手が速やかに請求してくれればまだしも、そうでなければ相手次第で、いつまでも待たされる羽目になります。 未払費用と似た科目に前払費用がありますが、これは未払費用とは逆に、支払が役務提供に先行します。前払費用は期末日以前に支払が終了しているので、期末日を迎えれば、相手のことを気にせずに会計処理可能です。 決算早期化との関係で見ると、ネックになるのは未払費用のほうです。これを早めに処理できるかどうかが早期化のポイントになってきます(⇒したがって、問題10のアの記述は正しいです)。 《遅れて届いた請求書は翌年度に先送りでよいか》 期末月に係る費用の請求書は、通常、翌年度のはじめに届きます。3月決算であれば4月のはじめ頃です。企業会計では、費用の計上は発生主義によって行うので、届いた請求書(3月分)に基づいて未払費用を計上します。 この請求書が4月の上旬に届けばよいのですが、相手によっては遅れるところもあります。しかし、3月分の請求書がすべてそろうまで、決算を締めずに待っているわけにもいきません。 たいていの会社では、期限を区切って、その日までに届いた請求書を未払計上します。それ以後届いたものは翌年度の費用にします。実務上、そうせざるをえないので、あまり疑問に感じることもないのでしょうが、会計的には理屈が通りません。 というのは、遅れて届いたとはいえ、「3月末までに発生した費用は3月までの費用に計上すべき」というのが会計のルールだからです。 届くのが遅かったからといって翌年度の費用にしてしまうと、当年度の決算上は未計上債務(計上漏れ)という扱いになります(⇒したがって、問題10のイの記述は誤りです)。 遅れて届いた請求書は翌年度の費用に先送りせざるをえないという扱いは、実務的には理解できますが、そこには会計的にもきちんと説明できる理由が欲しい。 重要性判断というのは、こうした場面で大事な役割を果たします。 《金額的重要性により請求書を振り分ける》 【第2回】で述べましたが、未払費用は、重要性が乏しければ計上しないことができます。「重要性の原則」です。このルールを使って未払費用を計上するかどうかを判断すれば、きちんとした説明ができます。 一定の期日を過ぎて到着した請求書について、重要性の乏しいものは未払費用の計上対象とはせずに、翌年度の費用に先送りするのです(⇒したがって、問題10のウの記述は誤りです)。期日だけでなく、「金額的重要性」という観点からも請求書を選り分けるのです。 問題は、その重要性の「しきい値」をいくらにするかでしょう。 考えられる基準としては2つあります。 税引前利益の5%によって求められる「重要性の基準値」か、そのさらに5%程度以下として求められる「明らかに僅少な額」です。 実務的に考えると、後者の「明らかに僅少な額」が適当です。請求書の未払計上に関する重要性判断を行う場合、その判断は担当者に相当程度任されます。「明らかに僅少な額」による重要性判断は、個々の担当者が機械的に行うことができる判断なので、こういう場面で採用しやすいでしょう。 《経常的に発生する費用かどうかも判断の参考に》 「明らかに僅少な額」による重要性判断は、運用しやすいというメリットがある反面、そのしきい値が小額であるため、重要性が乏しいと判定される取引が少なくなるというデメリットがあります。翌期に届いた請求書のほとんどについて、未払費用の計上が必要であるという結果になるかもしれません。 そこで決算早期化という観点からは、もう1つ、考慮に入れておきたいことがあります。 それは、「その費用が、毎月ほぼ同額、経常的に発生しているかどうか」という点です。 下図は、ある経費が毎月ほぼ同額発生している場合に、現金主義(支払時に費用計上)で費用計上するケース(3月決算会社)のイメージです。 ① 支払い時に費用計上(現金主義) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 現金主義なので、*1年4月から*2年3月までに支払った額を年度の費用(ベンチに乗っている分)としています。合計で「1,110」です。*2年3月の費用は*2年4月支払となるため、費用計上はされていません。 これを発生主義(消費の発生時に費用計上)に修正すると、以下のようなイメージになります。 ② 発生時に費用計上(発生主義) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ①の現金主義のベンチで一番左に乗っていた「90」がストンと地面に落ち、代わりにベンチの右横に置いてあった「100」がベンチの上にのっかります。その結果、ベンチの上に乗っかっている費用は発生主義ベースに変わります。合計で「1,120」です。 ①と②の差額は10です。ベンチから落ちた費用と新たにのっかった費用の差になります。この差額10が損益に与える影響であり、これが「明らかに僅少な額」以下であるなら、現金主義計上が容認できます。 毎年ほぼ同額が経常的に発生している場合には、この差は少額になるはずですから、損益に与える影響はほとんどないでしょう。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第92回】 人件費に関する会計処理③ 「従業員への給与の支払(社会保険料、源泉所得税含む)」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 [ケース①の月末日] (※1) 給与手当に係る未払費用(当月1日~当月末分) (※2) 会社負担の法定福利費に係る未払費用(当月1日~当月末分) [ケース①の給与支払日] (※3) 月末日(給与手当に係る未払費用の計上時)に計上することもあります。 [ケース②の給与支払日] (※4) 前月末に計上した給与手当に係る未払費用(前月16日~前月末分) (※5) 当月1日~当月15日分の給与手当 (※6) 会社負担の法定福利費に係る未払費用(当月1日~当月15日分)・・・納付時に取り崩します。 [ケース②の月末日] (※7) 給与手当に係る未払費用(当月16日~当月末分) (※8) 会社負担の法定福利費に係る未払費用(当月16日~当月末分) なお、月末日の会計処理について、実務的には本決算においてのみ経過勘定を計上し、月次決算においては経過勘定の計上は行わず、支払ったときに費用計上する会計処理が一般的です。 〈会計処理の解説〉 発生主義に基づき費用計上するため、給与の締日や支払日にかかわらず、給与手当と法定福利費(会社負担分)は毎月1ヶ月分が計上されます。 給与は総額(額面)で費用計上します。社会保険料のうち会社負担分は「法定福利費」で費用計上し、従業員負担分については“会社は預かって代わりに納付する”だけであるため「預り金」に計上します。源泉徴収税額についても同様に預り金に計上します。 社会保険料については、原則として一定の日に会社負担分・従業員負担分を合わせて納付するため、納付日に未払費用と預り金が取り崩されることとなります。 * * * 次回は、人件費に関する会計処理のうち、労働保険料の会計処理について解説します。 (了)
社外取締役の教科書 【第6回】 「『コーポレート・ガバナンスの実践』 (経済産業省報告書)が示すもの(その2)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 1 他社の「プラクティス」に着目することの重要性 【第5回】では、経産省の研究会による「コーポレート・ガバナンスの実践」から、総論的な考え方とそれを具体化する4つの柱を紹介した。 今回は、その柱の4つ目である「具体的な取組み(プラクティス)と制度双方の検討の必要性」という点に関連して、我が国の企業が「コーポレートガバナンス」についてどのような実践を重ねてきたか、その具体的な事例を紹介する。 これらは、上記報告書の「別紙1 我が国企業のプラクティス集」として整理されているものである。 一口に「コーポレートガバナンスは重要だ」、「社外取締役が監督機能を果たすべきだ」と言ってみても、では自社ではどこから取り組んでいくのか、現状のどの点に改善の余地があるのかを具体的に計画していくことは、相当な困難を伴う。 その中で、他社における具体的な事例を確認しておくことは、現場でのイメージをつかむためにも、また自社での議論を活発化させるためにも極めて有効である。 前記報告書が取り上げている事例は膨大であるため、以下では、社外取締役に関して特に参考となると思われる事項をピックアップし、紹介する(下線は、筆者が付したものである)。 2 【場面その1】 社外取締役の情報収集に関するプラクティス 「社外」にその本籍を置く取締役は、社内の人材に比べ、当該企業の実情に関して持ち合わせている情報が少ないことは当然である。 そのため、下記のような工夫により、社外取締役自身が、経営監督に必要となる各種の情報を十分得られるような環境を整える必要性は高い。 3 【場面その2】 取締役会参加の実効化に関するプラクティス 社外取締役制度を導入しても、その主要な活躍の場であるはずの取締役会における議論が活発化せず、社外取締役がただ儀式的に参加しているに過ぎないようでは、監督機能の強化は果たせない。 そのため、社外取締役が取締役会に積極的に参加し、議論が真に充実化するために、以下のような取り組みをしている事例がある。 4 【場面その3】 経営者選任への効果的関与に関するプラクティス 社外取締役の“究極の役割”が、「現経営陣に会社経営を任せることの可否」を判断すること、すなわち、必要な場合には経営陣に“引導を渡す”ことであることは、【第4回】でも触れたとおりである。 それを実効化あらしめるために、以下のような取り組み例がある。 5 自社においてまず取り組むべき事項は何か? この「プラクティス集」では、以上に取り上げたものも含め、実に326の事例が紹介されている。 掲載された事例はどれも具体的であり、参考になる点が多々ある。そのため、今後必要に応じて「プラクティス集」記載の各事例そのものを参照していただきたい。 その中で、「プラクティス集」では、コーポレート・ガバナンス強化に関して、自社のあり方を検討すべき項目を整理しているので、本稿を終えるにあたり紹介しておきたい。これらを軸に、自社の実情に応じた効果的なガバナンスシステムのあり方を議論していく必要がある。 (了)
従業員等からの 『マイナンバー』入手の手順 【第5回】 「取引先など外部の個人からのマイナンバーの入手」 仰星監査法人 公認会計士 岡田 健司 【第2回】、【第3回】で「本人確認」の方法について詳しく解説を行い、前回(第4回)は従業員及びその扶養親族(配偶者含む)からのマイナンバーの入手について解説を行った。 【第5回】となる本稿では、前回と異なり企業外部における個人(例えば業務委託先(個人、個人事業主)、地主・家主、株主など)からのマイナンバーの入手について解説する。 企業外部の個人からのマイナンバーの入手は、日常の接点の多寡からして、いわば身内ともいえる従業員とは同じようにいかないことが想定される。このため、円滑に制度の運用に乗るためには、いかに周到に準備を行い、できるだけ事前に、彼らに対しマイナンバーの提供についての理解を得ておくことがポイントである。 1 取引先などからマイナンバーを入手する際に必要な対応 前回の従業員等からのマイナンバーの入手と重複する点もあるが、企業が外部の個人からマイナンバーを入手する際に、以下の事項について対応・決定ができているか、確認していただきたい。 ①から⑤は従業員等からのマイナンバーの入手と重複することから、並行して検討すればよいが、⑥及び⑦については冒頭で申し上げたとおり、慎重かつ十分な検討が必要である。 上記7項目について、以下で詳しく解説する。 ① 利用目的の洗い出しと、通知や公表のための方法を検討し、決定する ①について、読者におかれては、筆者作成による以下の【図1】を参考に、利用目的の洗い出しと並行して、マイナンバーを入手すべき個人の洗い出しも網羅的に行われているかを改めて検討・確認されたい。 なお、利用について本人の「同意」は不要とされており、通知または公表すればよいとされている(ガイドラインQ&A1-4参照)。 【図1】 マイナンバーを入手すべき個人とその範囲並びにその利用目的(例示) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※1) これらの金額は、通常消費税及び地方消費税の額を含めて判断するが、消費税及び地方消費税の額が契約書等で明確に区分されている場合には、その額を含めないで判断しても差し支えないとされている。 (※2) 「要」:取得する必要がある。「不要」:取得してはならない。 (※3) 株式管理事務、株主管理を信託銀行等の株主名簿管理人に委託せず、自社で行っている場合を想定する。 (※4) なお、番号法の施行日(2015/10/5)において既に氏名及び住所を事業者に告知している既存の株主については、マイナンバーを記載して調書を提出するのに3年間の経過措置が定められており、特にマイナンバーの収集に困難が予想される株主について一定の配慮がなされている。 (※5) この他には、新株予約権の行使に関する調書作成事務、株式無償割当てに関する調書作成事務なども考えられる。 ② 本人確認の方法を検討し、決定する ②についての詳細は本連載の【第2回】【第3回】を参照されたい。 なお、従業員と異なり、取引先などの外部の個人について直接対面で本人確認を行うのは実務上相応のコストを要すること、直接的な接点をもつことが困難であることが予想される。 そこで、実務的には、【第3回】で【図4】(郵送による方法)、【図5】(電子メール等の電子的な方法)として紹介した方法を中心に本人確認を行うとともにマイナンバーを取得することになると思われる。つまり、郵送あるいは電子メール等の電子的な方法でマイナンバーを取得することを前提に、下記⑥に列挙したマイナンバーの提供をお願いする方法を検討するのが実務的であると考えられる。そして、これらを③のマニュアルに落とし込んでいくことになる。 ④ 取引先などの外部の個人について、特定個人情報等に係る「安全管理措置」の体制を整備する 特定個人情報等に係る安全管理措置の内容については、従業員に係る特定個人情報等の安全管理措置と異なることはないため、マイナンバーを取得する前に厳格な情報管理体制を整備し具体的な対策を図っていく必要がある。 ⑤ 取引先などの外部の個人から、個人番号を「いつ」取得するかを決定する この点は従業員のケースと若干異なる。というのも、マイナンバーの取得の時期については、平成28年1月以降に具体的に関係事務が発生したときに個人番号の提供を求めるのが原則的な考え方であるが、実務的には、当該個人番号を用いて、平成28年1月以降の関係事務を処理することが予想される時点で個人番号を取得するのがよいと考えられるためである(ガイドライン4-3-(1)に同趣旨の規定がある)。 そこで、上記【図1】のとおり、想定される取得時期に個人番号を取得できるよう、事務フロー等の見直しを行う必要がある。 具体的には、不動産の使用料等の支払調書(所得税法225条1項9号)を提出する必要があるのは、年間の賃料の支払額が15万円を超える場合であるが、通常地主・家主等への賃料は年間で定額であり、契約時点で予め年間の賃料の支払額は予測できるものと思われる。そこで、地主や家主に係るマイナンバーの取得の要否は不動産賃貸借契約書等の締結時点で判断するのが通常である。 また、年間の賃料の支払額が明らかに15万円以下となる見込みであり、不動産の使用料等の支払調書の作成を要しない相手先については個人番号を取得してはならない。 このように、企業の実務としては、地主や家主については一律にその個人番号を取得するのではなく、年間の賃料の支払見込額に応じて取得の要否を判断する必要があり、そのように実務への落とし込みを行う必要がある。 ⑥ 「マイナンバーの提供のお願い」をどのようにして行うかを検討し、決定する 従業員であれば社内のイントラネットや社内メール・社内通達あるいは事前の説明会でマイナンバーの提供を一斉にお願いすることが可能であろう。しかしながら、取引先等は同じようにはいかない。必ずしも、すべての取引先等がインターネットを使用できる環境にあるわけがないことから、ホームページによって提供をお願いする旨や利用目的を周知することはできないと考えるべきである(※)。 (※) 個人情報についての各省庁のガイドラインにおいても、電子メールやインターネットを常時使用する者でない者に対して、電子メールを送信したり、インターネットにおいて掲示することは、本人に通知しているとはいえないとされる例がある。 よって、取引先等については、個々の取引先の属性(年齢、緊密度合い、企業との力関係等)を踏まえ、マイナンバーの提供をお願いする方法とコンタクトの方法を考えなければならない。既述のとおり、郵送、電子メールによる方法を中心に、場合によっては、直接訪問してマイナンバーの提供をお願いするということも視野に入れておかなければならない。 ⑦ ⑥と並行して「マイナンバーの提供をお願いする書面」を作成し、手渡しあるいは郵送する。そのうえで、提供についての事前の理解を得ておく 取引先などの外部の個人へ伝えるべき事項をまとめると、以下のようになる。 以上のことを踏まえて、取引先等の外部の個人に対してマイナンバーの提供をお願いする書面の例示すると、以下のようになる。 〈例示〉 マイナンバー制度の開始のお知らせと、個人番号の提供に関するお願い文案 2 よくある質問 3 最後に 本稿では、前回までの解説と理解を前提に、取引先等の外部の個人からのマイナンバー取得に向けた準備を中心に解説を行った。最終回となる次回では、これまでに紹介できなかったその他のよくある質問について解説を行い、本連載の総括を行いたい。 (了)