法人税改革の行方 【第5回】 「外形標準課税の適用拡大(1)」 慶應義塾大学経済学部教授 土居 丈朗 与党内での法人税改革の議論は、消費税再増税の先送りの判断と、衆議院総選挙を挟んで進められ、昨年12月30日に「平成27年度税制改正大綱」が取りまとめられた。法人実効税率は、標準税率ベースで現行の34.62%から2015年度には32.11%に下げ、2016年度には31.33%に下げることが決まった。 この代替財源としての課税ベースの見直しでは、結局、外形標準課税の適用拡大が最も大きな項目(平年度ベースで6,600億円)となった。つまり、法人事業税の付加価値割の適用を拡大する(税率を上げる)ことで所得割の税率を下げ、法人実効税率を下げる策が採用されたのである。 「平成27年度税制改正大綱」では、外形標準課税の適用拡大は、資本金1億円超の大企業のみとなり、資本金1億円以下の中小企業への適用拡大は「引き続き慎重に検討を行う」とされた。外形標準課税の適用拡大は、中小企業から根強い反対論が出ている。それは、法人事業税における付加価値割が持つ性質に起因している。 付加価値割の課税ベース(付加価値額)は、報酬給与額+純支払利子+純支払賃貸料+単年度損益である。ただし、報酬給与額が収益配分額(=報酬給与額+純支払利子+純支払賃貸料)の70%を超える場合には、付加価値額から雇用安定控除額を控除する仕組み(雇用安定控除)がある。 付加価値割は、赤字法人でも課税される上に、付加価値額の大半が報酬給与額である中小企業が多いことから、中小企業にとって付加価値割はあたかも「人件費課税」と認識されている。そのことに配慮してか、付加価値割が導入された2004年度から、雇用安定控除が設けられている。 しかし、雇用安定控除があれども、報酬給与額が増えると増税になる性質がある。図1にあるように、例えば、報酬給与額が600、純支払利子が75、純支払賃貸料が75、単年度損益450である法人があるとする。 この企業では、控除前付加価値額は1,200、収益配分額は750となり、雇用安定控除=600-750×70%=75となる。したがって、控除後付加価値額=1,200-75=1,125となり、現行の税率では付加価値割税額=1,125×0.48%=5.40となる。ちなみに、所得割税額=450×7.2%=32.4である。 図1 賃金が増加した場合の付加価値割の例 出典:総務省「政府税制調査会第5回法人課税ディスカッショングループ参考資料」(2014年5月9日) 他方、図1の下方のように、同じ控除前付加価値額であっても、単年度損益を減らして報酬給与額を250増やすと、収益配分額は1,000となる。そして、雇用安定控除は150に増え、控除後付加価値額は1,050となり、付加価値割税額は5.04と減少する。 同じ控除前付加価値額であれば、単年度損益で計上するより、報酬給与額で計上した方が、雇用安定控除がある分税額が低くなる。 そこでもし、この法人の売上が250増えて、その分報酬給与額を250増やすという経営判断をしたとする(他は不変)。このとき、報酬給与額が850、純支払利子が75、純支払賃貸料が75、単年度損益450であり、控除前付加価値額が1,450、収益配分額は1,000となるから、雇用安定控除=850-1,000×70%=150となる。したがって、控除後付加価値額=1,450-150=1,300となり、付加価値割税額=1,300×0.48%=6.24である。他方、所得割税額=450×7.2%=32.4である。 つまり、売上が増えて、単年度損益を不変にして給与を増やすと、所得割税額は増えないが、付加価値割税額は増えることになる。 この度の税制改正大綱では、2016年度までに法人事業税の所得割の税率を7.2%から4.8%へ引き下げるとともに、付加価値割の税率を0.48%から0.96%へ引き上げることが決まった。 この性質を持ちながら、アベノミクスの成果を上げようと、政府が経済界に賃上げを要請する傍らで、報酬給与額を増やすと増税になりかねない付加価値割の適用拡大(税率引上げ)を行うこととした背景には、法人実効税率の引下げが至上命題となる中で、外形標準課税の適用拡大以外の代替財源が大きく確保できなかったことが挙げられる。 ただ、賃上げに不利となる付加価値割の現行制度に対しては、弥縫策ながらも、2つの特例措置が設けられることとなった。 1つは、2017年度までの特例として、適用年度に従業員に支払った給与総額が、基準年度(2012年度)に比べて一定割合以上増加している場合、当該増加額を「報酬給与額」から控除する(賃上げ分に係る付加価値割額を実質的に税額控除)仕組みである。 ここでいう「一定割合以上の増加」とは、法人事業税とは別に設けられている「所得拡大促進税制」と同じ要件を満たすことであり、給与等支給額が2012年度に比べて、2015年度においては3%以上増、2016年度においては4%以上増、2017年度は5%以上増となることを意味する。 もう1つは、2016年度末までの中堅企業への配慮措置として、適用年度における法人事業税の全課税標準(所得割、付加価値割、資本割)に、前年度の税率と適用年度の税率をそれぞれ乗じ、適用年度の方が負担が重くなる場合、適用年度の付加価値額が30億円以下の法人について、当該負担増加額の50%を控除する仕組みである。ちなみに、適用年度の付加価値額が30億円超40億円未満である法人については、控除率(50%)をなだらかに縮減させて適用される。 これらの特例措置が、賃上げに対してどの程度効果があるかは未知数だが、付加価値割が持つ前述の性質を踏まえて設けられたものと言えよう。 次回は、外形標準課税の適用拡大にまつわる中長期的な課題について言及したい。 (了)
平成26年分 確定申告実務の留意点 【第1回】 「平成26年分の申告から取扱いが変更となるもの」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 -はじめに- 平成26年分の確定申告の受付は、平成27年2月16日(月)から3月16日(月)まで行われる。還付申告については、2月15日以前であっても行うことができる。 今回から4回シリーズで、平成26年分の確定申告に係る実務上の留意点を解説する。 第1回目は、平成26年分の所得税計算から取扱いが変わるもののうち、主な3項目についてまとめることとする。 なお、確定申告に関する基本的な事項については、下記の拙稿「平成24年分 確定申告実務の留意点」(本誌No.1~5掲載)、「平成25年分 確定申告実務の留意点」(本誌No.51~54掲載)も併せてご参照いただきたい。 (1) 上場株式等に係る譲渡所得及び配当所得 平成26年1月1日以後の上場株式等の譲渡所得に係る税率、及び同日以後に支払を受ける上場株式等の配当等について申告分離課税を適用する場合の税率は、20%(所得税15%、住民税5%)となった(措法8の4、37の10)。 なお、少額投資非課税制度(NISA)を利用している場合には、非課税口座内で生じた上場株式等の譲渡益と配当所得は、非課税となる(措法9の8、37の14)。 〈上場株式等に係る譲渡所得及び配当所得(申告分離課税)に係る税率〉 (※) 上記税率は、金融商品取引業者を通じた上場株式等の譲渡の場合に適用されるものである。なお、平成25年分から平成49年分までは、この他に復興特別所得税が課される。 (2) 住宅税制 ① 居住用財産の買換え及び交換の場合の課税の特例 特定の居住用財産を買換え又は交換したときは、一定の要件を満たす場合に限り、譲渡益に対する課税を繰り延べることができる(措法36の2、36の5)。 平成26年1月1日以後に行う居住用財産の譲渡について、譲渡資産の譲渡対価に係る要件が「1億円以下」に引き下げられている。 〈買換え等の譲渡対価の要件〉 ② 住宅借入金等特別控除 平成26年に居住を開始した者に適用される住宅借入金等特別控除の各制度は、次の通りである(措法41、41の3の2、震災特例法13の2)。 消費税率引上げによる税負担の増加を緩和するため、住宅の対価に含まれる消費税等の税率が8%の場合には、対象となる借入限度額が拡充されている。 (ア) 住宅借入金等を有する場合(控除期間10年) (一般の住宅) (認定住宅) (※) 認定住宅とは、認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう。 (イ) 特定の増改築等に係る住宅借入金等を有する場合(控除期間5年) (※) 特定の増改築等をした家屋を平成26年4月1日以後に居住の用に供する場合には、特定の増改築等に係る費用の額(交付された補助金等の額控除後)が50万円(平成26年3月31日までは30万円)を超えることが要件となる。 (ウ) 東日本大震災の被災者等が再建住宅借入金等を有する場合(控除期間10年) (※) 再建住宅を居住の用に供した日にもとづいて適用する。 ③ 特別税額控除(借入金がない場合も適用あり) 平成26年に居住を開始した(特定の工事等を行った)者に適用される特別控除の各制度は、次の通りである(措法41の19の2、41の19の3、41の19の4)。 ②と同様に、消費税率引上げによる税負担の増加を緩和するため、住宅の対価や工事費用に含まれる消費税等の税率が8%の場合には、対象となる限度額が拡充されている。 (ア) 認定住宅の新築等をした場合 (イ) 既存住宅に特定の改修工事をした場合 (省エネ改修工事の場合) (※) 平成26年4月1日以後、対象となる特定の改修工事に係る工事費要件は、標準的な費用の額が50万円(平成26年3月31日までは30万円)を超えることが要件となる。 (バリアフリー改修工事の場合) (※) 平成26年4月1日以後、対象となる特定の改修工事に係る工事費要件は、標準的な費用の額が50万円(平成26年3月31日までは30万円)を超えることが要件となる。 (※) 前年以前3年内にバリアフリー改修工事を行い、本制度の適用を受けている場合には再適用できない。 (ウ) 既存住宅の耐震改修をした場合 (3) ゴルフ会員権等の譲渡損失 平成26年度税制改正において、「生活に通常必要でない資産」の範囲に“主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産以外の資産”が加えられた(所令178①)。 この“主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産以外の資産”に該当する資産は、ゴルフ会員権やリゾートホテル会員権等(以下、ゴルフ会員権等という)である。 当該改正により、平成26年中に行われたゴルフ会員権等の譲渡により生じた損失の取扱いは、次の通りとなる(所法69①②)。 〈ゴルフ会員権等の譲渡損失の取扱い〉 なお、ゴルフ会員権には、預託金方式のものと株式形態のものがあるが、どちらの会員権であっても取扱いは同じである(措法37の10、措令25の8、所基通33-6の2、33-6の3)。 また、リゾートホテル会員権のうち区分所有型のものを譲渡した場合には、土地建物等の譲渡等(分離課税)に該当するため、平成26年3月31日以前の譲渡等により生じた譲渡損失であっても他の所得と損益通算することはできない(措法31①、32①)。 * * * 次回は、給与所得者の特定支出控除を取り上げる予定である。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第1回】 「追加調査で得た間接証拠から給与収入額の認定をした事例」 税理士 佐藤 善恵 〔概要等〕 納税者(以下「甲」)は、遠洋マグロ漁船の漁労長兼船長として、外国法人A(以下「A社」という。)との乗船契約に基づきAからの給与収入を得ていたが、これを申告していなかったため、当該給与収入について更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分が行われた。 争点は、甲が居住者に該当するかどうかであり、また、予備的主張に関して甲の給与収入額についても争われた。裁判では、居住者該当性は地裁・高裁とも揺るがなかったが、給与収入額については、その一部の金員について地裁と高裁で判断が別れた。 以下、その点を検証する。 〔双方の主張の要旨〕 〇原処分庁の主張 〇甲の主張 〔地裁の判断〕 地裁判決は、甲とA社との乗船契約は平成15年6月に再契約がされたことを認めているが、その際に月固定給の増額が合意された形跡はなく、甲の口座への振込状況等の事実に照らすと、本件金員が給料精算金であることまでは認めることはできず、そのほか全証拠を精査しても、被告の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はないとして、国の主張を認めなかった。 〔高裁の判断〕 高等裁判所は、国の提出した新たな調査結果により、甲についても平成15年4月1日からの再契約の際に、月固定給が従前の月額70万円から月額80万円に増額されたことが十分推認されること。及び、平成17年10月又は11月からは、必ずしも再契約の締結の際ではないのに、同業者はいずれも固定給を減額されていることから、日本人漁労長の月固定給の増減がA社に生じた一般的な事情(業績の好調や悪化等)によるものと推認されると述べた。 そして、甲の各主張を排斥し、甲は、処分年においても、各月10万円を留保金としていた事実を優に認めることができ、その留保金相当額も甲の給与収入に当たるとの判断を下した。 〔判断の分水嶺〕 本件では、「月固定給増額の合意」の存在が認定できたか否かに判断の分水嶺がある。外国法人であるA社には原処分庁の調査権限が及ばないため、地裁では、給与額の増額(合意)に関する直接証拠がなく、増額の合意があったと判断されなかった。 一方、高裁では、国が新たな調査によって証拠を提出し、同業者の固定給の増減状況などの間接証拠の積み重ねによって、「月固定給増額の合意」があったと判断された。直接証拠がなくとも、間接証拠の積み重ねによって合意の事実が認定されたということである。 〔本判決が示唆するもの〕 給与の収入額がいくらであるのかの判断にあたっては、あくまで当事者間で法的な合意があったか否かで判断するのであり、振込状況等の事実のみで、給与額の変更に関する合意があったことを主張しても認められない。これは、当たり前のことであるが、調査現場で忘れられがちなことである。 納税者の立場から言えば、調査担当者に契約書等の不存在を指摘されたとしても、直ちに法律効果が否定されるものでないということである。契約書等が存在しない場合は、本件のように様々な間接証拠が事実認定において重要となる。 (了)
土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第1回】 「評価単位はどのように分けるのか」 税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉 -本連載の趣旨- 筆者は昨年6月に株式会社清文社より『グレーゾーンから考える 相続・贈与税 土地適正評価の実務』と題する書籍を上梓した。 土地の評価は、あらかじめ定められた国税庁評価基準(財産評価基本通達。以下、評価通達)により行われているのが一般的であるが、土地は極めて個別性が強いことから、すべての個別事情を想定して評価基準を定めることは難しい。したがって、ある程度包括的な規定ぶりにならざるを得ない。 例えば、評価通達の中には、「著しく不適当(評価通達6)」「著しく不合理(同7-2)」「実際の面積(同8)」「相当と認める金額(同20-2)」「著しく広大(同24-4)」「通常必要と認められる(同40)」など数多くの包括的表現がある。広大地補正における広大地であれば、「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」をいうが、何が標準的なのか、著しく地積が広大とはどの程度をいうのか、具体的に示されていない。 これが拙著における、いわゆる“グレーゾーン”であり、実務においては判断に迷う場面が多くある。このようなグレーゾーンについて、適正な評価を行う手がかりとなるのが過去の判例・裁決事例である。 本連載ではその中から特に重要と思われる10の論点を引き出し、土地を評価するうえで、複数の評価方法があることによりグレーゾーンが存在することを指摘し、そのグレーゾーンを解決するための実務上の取扱いや裁判例・裁決例を検討し、ポイントとしてまとめた。 [1] 地目の異なる土地を一団として評価する場合 (1) 国税庁質疑応答事例 国税庁質疑応答事例においては、以下の【事例①~④】のような場合には、農地、山林及び雑種地の全体を一団として評価することが合理的とされている。 なお、【事例⑤】のような場合はそれぞれを地目の別に評価する。 【事例①】の場合、標準的な宅地規模を考えた場合には、(A)土地は地積が小さく、形状を考えた場合には、(B)土地は単独で評価するのではなく(A)土地と合わせて評価するのが妥当と認められる。 また、(C)土地は道路に面していない土地となり、単独で評価するのは妥当でないと認められることから、(A)、(B)及び(C)土地全体を一団の土地として評価することが合理的であると認められる。 【事例①】 【事例②】の場合、山林のみで評価することとすると、形状が間口狭小、奥行長大な土地となり、また、山林部分のみを宅地として利用する場合には、周辺の標準的な宅地と比較した場合に宅地の効用を十分に果たし得ない土地となる。 【事例②】 同様に【事例③】では各地目の地積が小さいこと、【事例④】では山林部分が道路に面していないことから、やはり宅地の効用を果たすことができない土地となる。 これらのような場合には、土地取引の実情からみても隣接の地目を含めて一団の土地を構成しているものとみるのが妥当であることから、全体を一団の土地として評価する。 【事例③】 【事例④】 しかし、【事例⑤】のように農地と山林をそれぞれ別としても、その形状、地積の大小、位置等からみても宅地の効用を果たすと認められる場合には、一団としては評価しない。 【事例⑤】 (2) 重要裁決事例 裁決事例においても、市街地農地等は現況の利用状況により評価単位を捉えるのではなく、宅地としての標準的使用を基準として評価単位を捉えるのが相当であると解されている。 平成19年11月5日裁決〔裁決事例集第74集357頁〕において評価の対象となった土地は、J1土地、J2土地、J3土地及びJ4土地に区分され、J1は畑、J2は駐車場として利用されており、J3土地及びJ4土地は第三者に賃貸されていた。 (※) 拙著『グレーゾーンから考える相続・贈与税の土地適正評価の実務』(清文社・2014)P20より 納税者は、J1土地(畑)とJ2土地(雑種地)を区分して評価すべきと主張し、課税庁はJ1土地とJ2土地を一体として評価すべきと主張した。 裁決は、J1土地は畑として利用されているものの、①宅地と状況が類似する雑種地であるJ2土地と隣接していること、②道路に面していない土地であることから、宅地としての利用を前提にすると単独で利用するのは合理的ではないものと認められ、このような場合には、宅地としての有効利用を基準とし、隣接する宅地と状況が類似する雑種地であるJ2土地とともに一体利用することを前提として評価することが相当であると判断している。 [2] 同一利用単位の宅地が1画地として判定されない場合 (1) 国税庁・質疑応答事例 土地の評価単位においては、下図のように、所有する宅地を自用地としていずれも自ら使用している場合には、居住の用か事業の用かにかかわらず、その全体を1画地の宅地として評価する。 (2) 重要裁決事例 ただし、平成16年1月8日裁決〔TAINS・F0-3-132〕においては、土地の位置及び利用されている路線からみて、全体を一画地とすることが合理的でない場合にはその全体は必ずしも一画地と判定されないこととされている。 評価対象地(下図)のA土地及びB土地は使用貸借、E土地は被相続人の居住用として利用されていたが、自用地であるB土地と相続人が居住用に供しているE土地の接している距離が1.6mと度合いが低く、B土地とE土地の位置及び利用されている路線からみて、E土地を含めてこれらの土地全体で一団の画地を形成していると解するのは合理的ではなく、A及びB土地については1画地の評価単位とし、E土地は単独で1画地の評価単位とするのが相当と判断している。 (※) 拙著『グレーゾーンから考える相続・贈与税の土地適正評価の実務』(清文社・2014)P30より (了)
法人税の解釈をめぐる論点整理 《交際費》編 【第1回】 弁護士 木村 浩之 1 はじめに 法人が支出する交際費の中には、事業との関連性が必ずしも高いとはいえないものが含まれており、また、無制限に損金算入を認めるとすれば、いたずらに冗費・濫費を増大させ、法人の所得金額が操作されるおそれもある。特に、法人の役員等が交際費を使用する際には、それが役員等に対する現物給与には該当しないとしても、どの程度法人の事業と関連性を有するものであるか不透明な場合がある。 そこで、交際費(ただし、一定の範囲のものは除かれる。後記2(2)参照)については、中小法人の場合に限り、定額の控除限度額(現在800万円)を定めて、その限度額の範囲内で損金算入を認め、それを超える部分については損金算入を認めないものとされている(措法61の4)。 ただし、交際費のうち接待飲食費については、平成26年度税制改正により、大法人であっても、50%に相当する金額までは損金算入が認められることになった。また、中小法人については、かかる50%の特例と上記の控除限度額のいずれか有利な方の選択適用が認められることになっている。 いずれにせよ、交際費については、一定の範囲で損金不算入とされていることから、税務調査などで、交際費の範囲等をめぐって問題となるケースは実に多い。そこで、本稿では、交際費をめぐる論点について整理した上で、あわせて問題となることが多い使途不明金(使途秘匿金)についても取り上げて解説することとしたい。 本稿で取り上げる予定のテーマは、以下のとおりである。 2 交際費の範囲(総論) (1) 交際費の要件 交際費課税の対象となる交際費とは、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」(措法61の4④柱書)をいい、その要件は次のとおり整理することができる。 このうち、(ⅰ)の相手方要件については、相手方が事業とは全く関係のない場合は除かれるものの、事業に多少なりとも関係していれば広く含まれるのであり、法人内部の者(役員、従業員、株主等)であっても同様である。通常は、何らかの意味で事業に関係すると言い得るのであり、この要件が独立して問題になることは乏しいといえる。 そこで、重要となるのは、(ⅱ)の目的要件であるが、これは要するに、支出の目的が特定の相手方の歓心を買うことを主たるものとするかどうかという基準で判断がなされることになる。この支出の目的は主観的要素ではあるものの、その判断は客観的になされるものであり、相手方の属性、支出の経緯、背景、金額、態様、効果等の具体的事情を総合的に評価して判断されることになる(東京高判平成15年9月9日・税資253号順号9426参照)。 (2) 交際費から除外されるもの 上記の交際費の要件を満たす場合であっても、次に掲げる費用については、明文において交際費から除外されている(措法61の4④一~三、措令37の5①②)。 これらは形式的に交際費に該当するものであるとしても、事業との関連性が比較的高いと評価し得るもの、冗費としての性質が乏しいと評価できるものであり、実質的な観点からみて、交際費ではなく、通常の営業費用として単純に損金算入することが認められる。 (3) 交際費の判定手順 前記(1)でみたとおり、交際費に該当するかどうかは総合的な評価による判断とならざるを得ないことから、交際費と隣接費用(広告宣伝費、販売促進費、会議費、福利厚生費等の交際費以外の営業活動に伴う費用)との区分が問題となることは実に多いといえる。 これらを判定する手順としては、まずは、交際費から除外される費用に該当するか否かを検討することが思考経済上有益と思われる(前記(2)参照)。その上で、除外要件に該当しないものであるとしても、法人にとって単純損金となる費用に該当するのか、それとも交際費に該当するのかを支出の目的に照らして判断することになる(前記(1)参照)。その際には、支出の主たる目的が何であるのかを整理して検討することが有益であると思われる。 なお、交際費に該当する費用の支出については、相手方にとって無償でなされることが多く、寄附金との区分も問題となり得るが、その具体的な判断基準については、本連載の《寄附金》編を参照されたい。 (4) 小括 以上のとおり、交際費をめぐっては、隣接費用との区分が問題になることが多いといえるのであり、その一般的な判定方法について解説した。 次回以降は、交際費に関連して問題となることが多い論点を個別に敷衍して解説することとしたい。 (了)
5%・8%税率が混在する消費税申告書の作成手順 【第4回】 「個別対応方式による具体例」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 小嶋 敏夫(執筆) 今回は個別対応方式を採用している事業者の確定申告書及び付表の記載方法を具体例に従って解説する。 設 例 B株式会社の当課税期間(平成26年1月1日~平成26年12月31日)の課税売上高等の状況は以下のとおりである。 【付表2-(2)の作成方法】 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 【付表1の作成方法】 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 《確定申告書の記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 * * * 次回は、一括比例配分方式の場合の確定申告書及びその付表の作成方法を確認する。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第17回】 「日本IBM事件②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回においては、日本IBM事件の概要について解説を行った。日本IBM事件の争点については3つ存在するが、そのうち、裁判所が判断を行っているのは、【争点1】のみである。 そのため、本稿においては、【争点1】についての原告、被告のそれぞれの主張について解説を行う。 (5) 当事者の主張 ① 被告の主張 (ⅰ) 法人税法132条1項の射程範囲について 法人税法132条1項にいう「不当」なものであるか否かは、同項が、同族会社について、一般に1人又は少数の株主又は社員によって支配されていることから、会社の意思決定を容易に操作することが可能であり、租税回避行為を容易になし得ることに鑑みて創設されたものであることを踏まえると、専ら経済的・実質的見地において、当該行為又は計算が通常の経済人の行為又は計算として不合理・不自然なものと認められるかどうかを基準として判断すべきであり、行為・計算が経済的合理性を欠いている場合とは、それが異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在せず、専ら租税回避の目的に出たものと認められる場合や、独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なっている場合をいうものと解すべきである。 そして、これらの事項を解明するためには、当該行為又は計算の内容、その必要性、合理性等といった当該行為又は計算自体に関する事情を考慮することはもとより、当該行為又は計算が行われるに至った経緯や目的、その後の状況、当該行為又は計算を行った同族会社と関連会社(同族親会社等)との関係等といった当該行為又は計算に関連する周辺事情も含めて考慮する必要があり、これらを総合して不当性の評価を行うべきである。 また、当該行為を行った時点における当該法人の租税回避の意図の有無だけを問題とするのではなく、当該法人と密接に関連する法人の租税回避の意図に従って当該行為が行われたという事実が認定又は合理的に推認できるのであれば、当該法人がいつの時点でその意図を有するに至ったかが必ずしも明確に特定されていなくても、その一連の事実関係は不当性の評価を基礎づける重要な事実となり得るというべきである。 このように、法人税法132条1項において、不当性の評価に影響を与える具体的な事実は、「否認」の対象となる法人の行為又は計算自体に関する事実に限られるものではなく、その周辺事情も広く含まれると解するのが相当である。 (ⅱ) 本事件への当てはめ 本件株式購入がされる前は、米国WTが日本IBMに対して直接に同社の株式を譲渡することによって、日本IBMから利益の還元を受けるという通常の経済人の行為又は計算として合理的かつ自然な取引がされていたところ、本件各譲渡は、上記のような取引の間に、独立した法主体としての事業上の存在意義が極めて希薄な原告を中間持株会社としてあえて介在させたものであり、原告は米国WTのいわゆる分身として、米国IBMの意を受けて日本IBMの株式を法律上形式的に保有していたにすぎず、経済実質的に見れば、日本IBMの株式を保有していたのは米国WTであって、本件各譲渡における実質的な譲渡人も原告ではなく米国WTであるということができる。このことは、 〔1〕 チェック・ザ・ボックス規則等を活用しつつ、米国の税制上は内部取引として扱われる米国WTから原告への日本IBMの株式の譲渡を行うことによって、原告の下で同社の株式の取得価額をかさ上げする結果を作り出すとともに、 〔2〕 本件株式購入の前後において、日本IBMが自己株式を取得した都度、その代金を日本から直ちに米国WTへ送金し、米国IBMに日本IBMが得た利益を還元するという経済的、実質的実態は何ら変わっていないにもかかわらず、原告を日本IBMが自己株式を取得する取引に介在させて原告が日本IBMから自己株式の取得に係る譲渡対価を受領することとしたことにより、米国WTの分身としての我が国の内国法人である原告をして、法人税法24条1項5号等の規定の適用を受けることを可能とし、我が国において利用可能な多額の株式譲渡損を計算上発生させた ことを意味する。 米国IBM及びIBMグループは、わざわざ有限会社である原告を取得し、中間持株会社とするための各種手続を手間暇かけて行ったが、それは、当初から、将来的に日本におけるIBMグループを成す法人について連結納税制度を利用して、日本IBMの株式の譲渡によって生じる有価証券譲渡損失を連結課税所得から控除することを想定したものである。このことは、本件株式購入後に原告が果たした機能やその活動を勘案しても、その持株会社としての役割、活動は形式的、名目的なものにすぎず、原告の持株会社としての具体的な事業上の存在意義は極めて希薄であると評価せざるを得ないことからも裏付けられる。 このように、いずれもIBMグループを成す法人である米国WTが保有する日本IBMの株式を同社が取得する取引について、傘下に多数のグループ企業を擁する日本IBMとは別に、わざわざ原告を中間持株会社として米国WTと日本IBMの中間に置き、原告を介して日本IBMが自己株式取得により米国側へ利益を還元した一連の行為は、巨額の税負担の軽減という効果を除けば、通常の経済人として正当な事業目的を有する合理的な行為とは到底認められない異常ないし変則的行為であって、遅くとも本件各譲渡の計画がされた時点までに原告ひいては米国IBM及びIBMグループの不当な租税回避を企図した上でされたものといわざるを得ないから、原告による本件各譲渡を容認した場合には、原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となるものであることは明らかである。 ② 原告の主張 (ⅰ) 法人税法132条1項の射程範囲について 対象となる行為又は計算の内容あるいは行為そのものが不合理、不自然なものであることが否認の要件となっているというべきであり(札幌高裁昭和51年1月13日判決・訟務月報22巻3号756頁及びその上告審判決である最高裁昭和53年判決も同旨であると解される。)、対象となる行為又は計算が行われた背景事情を基礎づける事実にすぎない経緯、目的、その後の状況等の周辺事情又は対象となる行為又は計算を行うに至った同族会社の意思決定過程等の特殊性は、行為若しくは計算の内容又は行為そのものの不合理、不自然さを基礎づける事実ではないから、これらの事情を総合的に判断することにより同項にいう「不当」性を肯定することはできないというべきである。 (ⅱ) 本事件への当てはめ 日本再編プロジェクト(日本におけるIBMグループを成す会社に係る持株会社として原告を設置するプロジェクト)は、IBMグループが平成14年頃に進めていたグローバルな組織再編の一環として、日本における事業展開を見据えた上で、 〔1〕 日本におけるIBMグループを成す会社を全て持株会社である原告の下に統合すること 〔2〕 原告を当時米国IBMが精力的に行っていた事業買収取引における日本の受皿会社とすること 〔3〕 原告をして資金のより効率的な配分を行う機能を担わせること 〔4〕 原告をして日本において新規事業を行う場合の受皿会社とすること という4つの目的を達成するために企画実行されたものであるところ、中間持株会社の設置は、いわゆる多国籍企業が世界中において各国への投資形態として頻繁に採用している形態であり、外国企業の対日投資の形態として一般的に採用されるようになった異常性も変則性もないものである。また、本件各譲渡は、そもそも、日本IBMが平成9年以降株主への利益還元手段として採用してきた取引そのものであって、異常な法形式でもなく、変則的な取引でもないところ、日本再編プロジェクトとは全く別の時期に、全く別の意思決定によってされた取引である。そして、これらのこと(原告の設置及び本件各譲渡)は、上記の法人税法の改正、連結納税制度の導入に係る税制改正の動向とは全く無関係に企画、決定及び実行されたものであって、本件各譲渡により原告に有価証券の譲渡損が生ずることや将来連結納税制度を利用してかかる譲渡損を利用することについては何らの関心の対象ではなかった。さらに、自己株式を譲渡する取引によってみなし配当の額が計算されることにより有価証券の譲渡損が発生し、みなし配当の額を含む配当等の額の益金不算入の制度と相まって欠損金が計上されるという結果は、法人税法が定める計算規定の論理的帰結であって、特別な課税の減免ではなく、租税法規が課税所得の計算結果として当然に予定しているものである。 被告は、 〔1〕 行為又は計算を容認した場合には法人税の負担を減少させる結果となることと 〔2〕 法人税の負担の減少が法人税法上不当と評価される行為又は計算に基づくものであること とを分断して、各々独立した要件とし、いわば縦割り方式で、それぞれに該当する事実の認定及び評価を行うという論法を採っている。その結果、上記〔1〕の要件については、原告による正常な行為又は計算による税額との比較を示すことなく、原告自身の行為としては株式譲渡損の計上に基づく欠損金の計上のみを摘示(比較対象として、米国WTが直接日本IBMに対し同社の株式を譲渡した場合という原告以外の者の行為又は計算を挙げる)し、上記〔2〕の要件については、例えば、原告における意思決定過程の特殊性や独立性、主体性の欠如といった、同族会社の行為又は計算であることという別の要件において既に評価済みであって法人税負担の減少と直接結びつかない事実を法人税法132条1項の「不当」性を基礎づける事実として摘示して、それぞれの要件が充足された旨主張する。このような被告の主張・立証における論法は、例えば、税負担の減少効果のある行為又は計算について、重箱の隅を突いて少しでも不合理、不自然な事実が見つかれば、それが税負担の減少と無関係な事実であっても、同項の適用要件を満たすというものであり、要件事実論を悪用した典型的なこじつけである。 ③ 総括 このように、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認の適用対象として、原告側は従来の判例・通説に従って厳格に捉えようとしているのに対し、被告側は周辺事情も含めたうえで、広く捉えようとしているという点が特徴的である。 すなわち、第1回から第15回で解説した法人税法132条の2に規定する包括的租税回避防止規定と同様に、射程範囲を広くしようとしている国税当局の試みを窺い知ることができ、本来であれば、法人税法132条の2と同様に、制度の濫用と認められるものについても同族会社等の行為計算の否認対象に含めたいのであろうという印象を受ける。 次回以降は、このような当事者の主張を受けて、裁判所がどのような判断を行ったのかについて解説を行う予定である。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第17回】 「源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額の還付請求・充当届出」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、設立直後に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署へ提出しています。 7~12月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税の合計額は20万円、年末調整による還付額の合計額は15万円、結果として、1月20日までに納付する所得税及び復興特別所得税は5万円となりました。ところが、経理担当のAさんが納付書を作成する際、5万円と記載すべきところ、誤って20万円と記載し、1月8日に銀行にて納付しました。 納め過ぎた15万円の処理についてご教示ください。 次の理由で源泉所得税及び復興特別所得税を納め過ぎたときは、会社は税務署に過誤納金の還付請求をすることができる。また、過誤納金が給与や賞与に係るものであるときは、還付請求に代えて、その後に納付する源泉所得税及び復興特別所得税に充当することができる。 今回のケースにおいては、上記下線部に該当することから会社は税務署に過誤納金の還付請求をすることができる。また、過誤納金が給与や賞与に係るものであることから、還付請求に代えて、その後に納付する源泉所得税及び復興特別所得税に充当することもできる。具体的には、会社は所轄の税務署に次に掲げる書類を提出する。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【51】 〔第6章〕判例の見方 (その9) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 ⑤ 裁判の不服申立てに係る裁判の種類 裁判に対する不服申立てには、上級裁判所への「上訴」がある。ただし手形訴訟及び少額訴訟については、同一裁判所への異議の申立てが可能である(民事訴訟法第357条、第378条)。そのほか、特別の不服申立てとして、一定の事由に該当した場合には、再審の訴えと特別上訴がある。 (a) 通常の上訴 上訴は、裁判が確定する前に、上級裁判所に対し、その裁判の取消し・変更を求める不服申立てであるが、裁判の形式(判決・決定・命令)に対応して、判決に対する控訴及び上告と、決定・命令に対する抗告及び再抗告とがある。 このように判決には二段階の上訴が規定されており、第一審と合わせて三審級にわたって裁判を受けることができるようになっている(三審制)。 控訴審(及び抗告審)では、原裁判における事実認定と法規の適用の両面について審理される(事実審)が、上告審(及び再抗告審)は、原則として原裁判の法令違反についてのみ審理する法律審である。 なお、本連載【第43回】や【第44回】に示したように、上告理由は限定されており、事実上は三審制が保障されているとは言い難い状況にある。 再抗告は、民事訴訟法第330条に「抗告裁判所の決定に対しては、その決定に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があること、又は決定に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときに限り、更に抗告をすることができる。」と規定されている。【第43回】以下に記載しなかったため、ここで示す。 また、高等裁判所への上告の場合と最高裁判所への上告の場合には、若干上告理由が異なる(後掲)。 なお第一審が簡易裁判所の場合には、控訴審(及び抗告審)は地方裁判所で、上告審(及び再抗告審)は高等裁判所で行われることになる。ただし刑事裁判では、控訴審は高等裁判所、上告審は最高裁判所である(裁判所法第16条第1~3号)。また刑法第77条乃至79条の内乱罪等に関する裁判は、第一審から高等裁判所である(裁判所法第16条第4号))。 では、第一審がどのような場合に簡易裁判所になるかであるが、裁判所法第33条によれば、次の事項のものとされている。なお、行政事件訴訟に係る請求は、訴訟価額にかかわらず、第一審はすべて地方裁判所となる。 (b) 特別上訴 特別上訴は、憲法審への不服申立ての制度である。 憲法第81条において、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と規定されており、このような最高裁判所の違憲審査権を保障しようとするものであるため、原裁判に憲法解釈上の誤りがあること、その他憲法違反がある場合に限って許される。 特別上告は、高等裁判所が上告審としてした判決に対して認められる(民事訴訟法第327条、第380条第2項)。 特別抗告は、高裁の決定・命令や地裁・簡裁の決定・命令で不服を申し立てることができないものに対して認められるが、特別抗告の理由は、原裁判の憲法解釈の誤り又は憲法違反に限られる(民事訴訟法第336条)ため、違憲抗告とも呼ばれる。刑事訴訟法では、そのほか判例違反も特別抗告の理由となる(刑事訴訟法第433条、第405条)。 高裁への上告では、憲法違反(民事訴訟法第312条第1項)と絶対的上告理由(民事訴訟法第312条第2項第1~6号に列挙される手続違反)のほか、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反も、上告理由とされている。民事訴訟法第312条第3項には、「高等裁判所にする上告は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときも、することができる。」と規定されている。しかし、最高裁への上告の場合には、上告理由として憲法違反と絶対的上告理由に限られ、憲法以外の法令の違反は、上告理由とならず、上告受理の申立てによるしかない。 この上告受理の申立てとは、民事裁判において(刑事裁判においては「事件受理の申立」という)、上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合に、原判決に最高裁判所の判例と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、最高裁判所に対して上告審として受理することを求める申立てをいう(民事訴訟法第318条1項)。 (続く)
減損会計を学ぶ 【第24回】 (最終回) 「減損会計の開示・税効果」 公認会計士 阿部 光成 減損会計の適用により、財務諸表における開示として、貸借対照表及び損益計算書の表示並びに注記事項が規定されている。 また、通常、固定資産の減損損失については、税務上、損金算入されないことから、税効果会計の対象となる一時差異等が発生することになる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 財務諸表における開示 減損適用指針では、財務諸表における開示について以下のように規定している。 実際の財務諸表における開示に際しては、財務諸表等規則及び連結財務諸表規則に従って開示を行っていただきたい。 1 貸借対照表の表示 減損処理を行った資産の貸借対照表における表示は、以下のように行う(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」という)57項、139項)。 減損処理を行った資産の貸借対照表における表示形式は、例えば、減価償却累計額については各資産科目に対する控除項目として掲記する(間接控除形式)が、減損損失については直接控除形式を採るなど、減価償却累計額の表示形式と同じものである必要はない(減損適用指針57項、139項)。 2 損益計算書の表示 減損損失は、原則として、特別損失とする(「固定資産の減損に係る会計基準」四、2)。 3 注記事項 重要な減損損失を認識した場合には、損益計算書(特別損失)に係る注記事項として、以下の項目を注記する(減損適用指針58項、140項)。 上記の注記事項は、資産グループごとに記載する。ただし、多数の資産グループにおいて重要な減損損失が発生している場合には、資産の用途や場所等に基づいて、まとめて記載することができる(減損適用指針59項)。 割引率の開示については、少なくとも割引率のみ開示すれば足り、その算定方法の開示までは求められていない(減損適用指針141項)。 また、経済的残存使用年数を注記することまでは求められていない(減損適用指針142項)。 Ⅱ 固定資産の減損損失に係る税効果会計 固定資産の減損損失に係る税効果会計については、「その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い」(監査委員会報告第70号)に規定されている。 減損損失を計上することにより発生する将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性の監査上の取扱いについても、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(監査委員会報告第66号)に従って検討及び判断する。 減損損失に係る将来減算一時差異は、解消までに長期間を要する可能性が高いこと、また、事業として使用している固定資産であることから、監査委員会報告第66号の適用に際しての留意点を、次のように規定している。 適用に際してのポイントは、「スケジューリングの可能性」にあると解される。 1 スケジューリングの可能性の判定 固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異についての繰延税金資産の回収可能性は、監査委員会報告第66号によって判断することになる。 そこで、当該将来減算一時差異の解消時期について、スケジューリング可能な一時差異であるか、スケジューリング不能な一時差異であるかの判定を行う。 次のことに留意する必要がある(監査委員会報告第70号、Ⅱ2)。 2 スケジューリング可能な一時差異 監査上、次のように取り扱う。 なお、監査委員会報告第70号は、「土地の再評価に関する法律」に関する「再評価に係る繰延税金資産」の取扱いについても言及しているので、税効果会計の適用に際しては、注意が必要である(監査委員会報告第70号、Ⅱ2(2))。 3 スケジューリング不能な一時差異 スケジューリング不能な一時差異と判定されたものについては、監査委員会報告第66号の「5.(1)①(分類1)の会社等」を除いて、回収可能性はないものと判断する(監査委員会報告第70号、Ⅱ2)。 Ⅲ 終わりに 「減損会計を学ぶ」については今回の「第24回」で終了することとなる。 減損会計は、適用されてから時間が経過していることもあり、実務に定着していると思われる。 固定資産に関する会計は、減価償却などとも関連するものであり、また、実務上の論点が多岐にわたっているので、今回の連載が、少しでも実務に役立つことを期待している。 (連載了)