2014年12月11日(木)AM10:30、Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.98 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第24回】 「法人税法22条2項の「取引」の意義(その3)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅲ 固有概念としての「取引」概念 1 会計上の「取引」概念 前述したとおり、会計学では、「取引」とは「資産、負債および資本に増減変化を及ぼす一切の事象である」と解されている。このような理解は、当事者間の契約が前提とされるであろう一般概念としての「取引」とは異なるものかもしれない。すなわち、会計上の「取引」とは「資産、負債および資本に増減変化を及ぼす一切の事象」というのであるから、取引要素説(注)の8要素に従えば、次のような16のパターンが考えられる。 〔結合関係表〕 上記の結合関係表に表れる一切の事象が会計上の「取引」であるとすると、そこにいう「取引」には、売買及び金銭貸借はもちろん、火災、紛失等のような一般に取引と称されない単純な事実もがこれに含まれることになる。他方、一般に取引に含まれるものと理解されている物品の賃貸借契約は、資産、負債及び資本に価値変動を引き起こすことがないことから、会計上の「取引」には当たらないことになろう。刑事裁判において、検察官が求刑を軽減する代わりに被告人に罪を認めさせることを司法取引というが、このような取引も一般的には取引と理解されているかもしれないが、会計上の「取引」には含まれない。 このように、会計上の「取引」は、必ずしも当事者の意思の合致を前提とするものと考えることはできないであろう。 2 本件最高裁判決にいう「取引」概念に対する疑問 さて、本件最高裁判決は、「法人税法22条2項にいう取引とは、関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念と解される。」と論じている。このように、「取引」を当事者間の意思の合致に基づいて生じた結果を把握する概念であると考えると、上記の図にいう一般的な「取引」の理解にやや近接したものとなるようにも思われる。すなわち、例えば、物品の賃貸借は、関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念であるからである。 ところで、法人税法22条3項は、損金の額に算入すべき金額として、その3号に「損失の額」を規定している。 同条項3号は、損金の額に算入すべき金額として、損失の額で資本等取引以外の「取引に係るもの」と規定しているところであるが、ここにいう「取引」には、火災や紛失が含まれると解されている(渡辺淑夫=山本守之『法人税法の考え方・読み方〔4訂版〕』85頁(税務経理協会1997)、武田昌輔『立法趣旨法人税法の解釈〔新版〕』266頁(財経詳報社1988))。 つまり、法人税法22条3項3号にいう「取引」は、会計学において「取引」とされる火災や紛失といった、意思の合致に基づかないものも含まれて解釈されているのである。 およそ同じ条文内における同じ概念を異なる意味に理解するのは自然ではないことからすると、法人税法22条2項と3項とで「取引」の概念が異なるものとするのは、正しい理解とはいいがたい。そうであるとすると、法人税法22条2項の「取引」についても、意思の合致を前提としないものが含まれると解するのが素直であろう。 このように考えると、法人税法22条2項の「取引」概念には、意思の合致とは到底いえない火災や紛失が含まれると解されることになる。そうであるとすれば、同条項の「取引」を「関係者間の意思の合致に基づいて生じた・・・結果を把握する概念」とする本件最高裁判決の説示には疑問が残るといわざるを得ない。 もっとも、このように取引概念の説示については問題があるとしても、本件最高裁判決の「結論」に問題があるとまでは即断できない。けだし、法人税法22条2項の「取引」に火災や紛失が含まれると解したとしても、X社とC社の合意に基づいて実現された持分の譲渡が排除されるべきということにはならないからである。換言すれば、同条項にいう「取引」概念の理解を拡張的に捉えることが可能となっただけで、限定的に解釈すべきということにはならないのである。 そこで、最終的には、法人税法22条2項にいう「取引」には、会計上の「取引」以外の取引も含まれると解するべきかという論点こそが判決の「結論」に大きな影響を及ぼすことになるといえよう。 関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な取引を法人税法上の所得金額の計算に織り込むということは、税務調整に委ねることを意味するが、これは必ずしも記帳制度を否定するものではない。すなわち、記帳を前提としない「取引」概念を持ち込むことは、記帳制度を前提とする法人税法が同法施行規則53条において、青色申告法人に対して、「その資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引につき、複式簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りように記録し、その記録に基づいて決算を行なわなければならない。」と規定していることを否定するものでもなければ、制限をするものでもない。なぜならば、記帳制度はあくまでも帳簿体系内の問題であって、同規定が、税務調整を制限する趣旨を有するわけではないからである。 小括 そもそも、法人税法が会計制度を前提とした仕組みを採用し、記録された取引を計算した上で確定申告する制度を設けていることからすれば、会計記録に載らないものまでをも法人税法22条2項の「取引」と解するというのは理解しづらいように思われる。しかしながら、法人税法が、いわゆる企業会計準拠主義を採用しているからといって、企業会計上のルールに全面的に依拠するというものではない。 本件最高裁の判断には、概念の理解において租税法の思想が混入されるべき場合には、そのスクリーンにかけられることがあるとの思考が根底に流れているのかもしれない。 (了)
5%・8%税率が混在する消費税申告書の作成手順 【第1回】 「一般課税の申告書・付表作成の流れ(前編)」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 小嶋 敏夫(執筆) 平成26年4月1日に消費税率が5%から8%に引き上げられたことで、施行日以後に終了する課税期間については旧税率と新税率が混在することとなり、経過措置用の付表を作成する等、これまでの申告実務とは異なる対応が必要となる。 そこで本連載では、一般課税と簡易課税による申告書及び付表の作成方法について、具体例を交えつつ確認していくこととする。 1 施行日以後に作成する確定申告書及び付表について 施行日以後に作成する消費税の申告において提出しなければならない帳票は、以下のとおりである。 (1) 一般課税用の確定申告 ① 経過措置の適用がない場合 消費税及び地方消費税確定申告書(一般用) ⇒様式はこちら 付表2(課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表) ⇒様式はこちら ② 経過措置の適用がある場合 確定申告書に控除不足還付税額の記載がある場合には、「消費税の還付申告に関する明細書」も併せて提出しなければならない。 消費税及び地方消費税確定申告書(一般用) ⇒様式はこちら(同上) 付表1(旧・新税率別、消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表〔経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用〕) ⇒様式はこちら 付表2-(2)(課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表〔経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用〕) ⇒様式はこちら (2) 簡易課税用の確定申告 ① 経過措置の適用がない場合 消費税及び地方消費税確定申告書(簡易課税用) ⇒様式はこちら 付表5(控除対象仕入税額の計算表) ⇒様式はこちら ② 経過措置の適用がある場合 消費税及び地方消費税確定申告書(簡易課税用) ⇒様式はこちら(同上) 付表4(旧・新税率別、消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表〔経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用〕) ⇒様式はこちら 付表5-(2)(控除対象仕入税額の計算表〔経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用〕) ⇒様式はこちら 2 一般課税における申告書及び付表の作成手順 (1) 申告書及び付表の作成手順 施行日以後に終了する課税期間で、消費税の確定申告(一般課税)を行う場合には、旧税率と新税率が混在することが考えられ、従来の付表2ではなく、複数税率の計算をするための付表1及び付表2-(2)を作成し、確定申告書に添付することとなる。 具体的には、以下の手順で作成することとなる。 《確定申告書作成の流れ》 各付表及び確定申告書を作成するためには、まず、その課税期間における課税売上げや課税仕入れを税率ごとに区分して計算することとなるが、具体的には、以下のような数値が必要になる。 (2) 付表2-(2)の作成 ⇒様式はこちら 付表2-(2)は、課税売上割合や仕入税額控除の計算を行うために作成するのであるが、旧税率と新税率が混在している場合には、それぞれの税率を基に計算をしていくこととなるが、具体的には、以下のようになる。 この付表2-(2)を上記に従って作成し、各欄の中に「付表1へ」と記載がある部分は、そのまま付表1に記載することとなる。 次回は付表1と確定申告書の作成の流れを確認する。 (了)
【施行前に再チェック】 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例の見直し 【第2回】 「施行前におさえておくべき事項」 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 平成26年度税制改正により、相続財産に係る譲渡所得の課税特例(措法39)(以下「相続税の取得費加算の特例」という)について、現行では相続したすべての土地等に対応する相続税相当額が取得費に加算できるのに対し、改正後は譲渡した土地等に対応する相続税相当額だけが取得費に加算できることになる(平成27年1月1日以後の相続等により取得した土地等を譲渡した場合により適用)。 前回では改正点を一通り確認したので、今回は、施行前の注意点や対応方法をまとめてみた。 2 具体例による検証 改正前と改正後を数字を使って具体例で検証すると以下のようになる。 このケースでは、取得費加算額が1億円減少し、譲渡所得税は2,000万円増加している。土地等を多く相続し、その一部を譲渡した者は取得費加算上著しく有利な状況となっていたことがよくわかる。 上記具体例は、相続税評価額が時価の8割であると仮定して譲渡価額を設定しているが、取得費加算改正後は、時価で譲渡できたとしても、相続税額の完納はできないため、相続財産の中に預貯金等がない場合、とりわけ相続財産のほとんどが土地の場合には物納の検討が必要となる。 3 「譲渡」か「物納」か 相続財産のほとんどが土地の場合には、譲渡所得税が増加すれば、物納を検討する必要がある。したがってこのようなケースにおいて、税理士は、相続財産である土地を譲渡した場合と物納した場合との有利選択に必要な資料を事前に提供する必要がある。 この場合、ポイントとなるのが土地の取得時期や取得価額である。 相続税の申告上、今まではあまり気にせずに済んだことだが、上記有利選択には「いつ」「いくら」で取得した土地なのかが重要な要素となる。「いつ」は税率に、「いくら」は譲渡所得金額に影響する。 例えば、取得後5年以下の土地を譲渡した場合には39%(所得税30%、住民税9%(※復興税を除く))の譲渡所得税がかかる。また、同じ相続税評価額の土地であっても、先祖伝来の土地で譲渡価額の5%が取得価額となる土地と、高い時期に購入し、譲渡価額を上回る取得価額のある土地とでは譲渡の際の税負担が異なるため、相続税法上同じ価値とはいえ、所有財産としての価値が違うと言える。 これらの要素は相続財産のほとんどが土地であり、納税資金のない相続人にとっては、以前にも増して必要な情報となる。 4 物納に対する事前準備 上記有利選択で物納有利が判断された場合でも、簡単に物納が認められるわけではない。平成18年度の税制改正により物納の状況も以前とはだいぶ事情が違っている。 改正前はとりあえず物納申請しておいて、譲渡先を探し、譲渡できたら延納や金銭一時納付に切り替えることが実務上行われていた。しかし、平成18年度の税制改正により、納付順位の厳格化や、物納申請財産の適格性が以前にも増して求められるようになっている。 それぞれの実務におけるポイントを挙げると以下のようになる。 (1) 相続税納付順位の厳格化 相続税の納付は金銭一時納付が原則である。そして一時納付の例外として第二順位の延納が、金銭の例外として第三順位の物納が認められている。したがって、第三順位の物納が認められるためには、第一順位の金銭一時納付、第二順位の延納が不可能であることを納税者自らが示す必要がある。 このために用意されているのが「金銭納付を困難とする理由書」である。 改正前は提出さえしておけば認められた感のあるこの理由書であるが、改正後は申請者である相続人の生活費があらかじめ印字されているなど厳格化されている。物納を認めてもらうためには、まずはこの理由書の記載がポイントとなる。 (2) 物納申請財産の適格性 物納申請財産の適格性も厳しく求められている。土地に関しては、隣地との境界が不確定なものなども、以前であれば容認されていたが、改正後は物納申請の審査期間が原則3ヶ月に法定化され、申請者による延長届出も最長1年とされたことから、申請の段階で管理処分不適格財産として認められない可能性がある。 したがって、相続財産のほとんどが土地等であるような場合には、物納を想定して、生前に測量等を行い、隣地との境界線を確定するなど、物納財産としての適格性を満たしておくよう生前対策を行う必要がある。 5 その他の留意事項 「相続税の取得費加算の特例」の実務上の解釈指針は措置法通達39に記載されており、全部で22ある。今回の改正を機に一通りその内容を確認していただきたいが、特に改正により影響がありそうな項目は次の3つである。 (1) 相続財産を譲渡した場合の取得費に加算する相続税額(措通39-8) 譲渡所得に加算する相続税額相当額は、取得費加算の計算式により計算した金額となるのであるから、当該計算した金額のうちその一部のみを当該譲渡資産の取得費に加算することはできない。 これは、取得費加算額はその譲渡した資産にだけに認められているものであり、他の譲渡資産の取得費として使用することを認めないことを明らかにしている。今回の改正において特に変更はないが、特例適用の基本的考え方として再確認しておきたい。 (2) 相続等により取得した土地等の譲渡が2以上ある場合(措通39-9) 土地等の譲渡に係る譲渡所得のうちに適用税率の異なる譲渡所得がある場合の当該譲渡所得等の取得費に加算する相続税相当額は、税率の高い譲渡所得の順に加算することとし、2以上の資産がある場合の取得費加算の特例の適用はそれぞれの資産ごとに任意に適用する。 改正前は、土地等に係る取得費加算額は同額であるが、改正後は同額ではなくなる(個々に計算する)ことから、取得費や譲渡費用、特例の適用の有無などを考慮して、納税者に有利になる土地を選択する必要がある。 (3) 土地等以外の資産を2以上譲渡した場合の取得費に加算する相続税額(措通39-11) 譲渡所得に加算する相続税相当額は、それぞれの資産ごとに計算することとし、土地以外の資産について、譲渡した資産のうちに譲渡損失が生じた資産がある場合には、譲渡損失の生じた資産に対応する部分の相続税額を他の譲渡資産の取得費に加算することはできない。 改正後は土地等についても同様となる。譲渡所得に加算する相続税相当額は譲渡した土地ごとに計算する。また、譲渡損失の生じた土地に対応する部分の相続税額を他の譲渡した土地の取得費に加算することはできない。 6 おわりに この改正により、取得費加算額が減少し、所得税額が増加することは確実である。しかし、反面、取得費加算が過大に使えることによる、物納の減少による税務署側の事務処理負担の軽減や、土地譲渡の促進等の副次的なプラス効果があったことも見逃してはならない。 今回の改正により、これらのプラス効果にどれだけ影響が出るのだろうか。改正後のこれらの数字にも注目していきたい。 (連載了)
欠損金の繰越控除制度の見直しは何を意味するのか? 【第2回】 「現行制度の制約要件と改正が意味するもの」 税理士 小谷 羊太 ▷はじめに 欠損金の繰越控除制度は、事業年度単位課税の弊害をカバーするものであるという根本的な考え方については前回述べたとおりである。 今回はそのことを踏まえ、現行制度における欠損金の繰越控除の要件やグローバル化を目指す税制改正の意味と懸念について考えてみたい。 ▷特典としての本制度のあり方 本制度の本来の存在理由は、前回述べたように、事業年度単位課税の弊害をカバーすることにある。しかし、そのような制度であるにもかかわらず、我が国の現行の法人税法では、規定の適用を受けるために様々な制約が強いられている。 その1つが、本制度が「青色申告の特典」であることである。 これについては先にも述べたが、複式簿記による帳簿書類を作成できる会社でなければ、事業年度単位における正しい数値を追っていくことは難しいであろう。 ただ、欠損事業年度のみ青色申告書である確定申告書を提出していることが要件となっており、その後の事業年度においては、連続して確定申告書を提出していればよいことになっている。 つまり、連続して提出していれば、繰り越された欠損金を損金算入する所得事業年度については、青色申告であるか否かは問われない。さらには期限内申告である必要もない。 たとえ期限後申告であっても損金算入できることになる。 ▷見直されてきた控除期間と控除上限額 次に、損金算入できる欠損金額の控除期間は、「9年以内の事業年度」において生じたものに限定されている。 この「9年」という年数については、税制改正により延長されてきた経緯がある。 現行制度では、平成13年4月1日前に開始した各事業年度において生じた欠損金額については5年、平成13年4月1日以後に開始した事業年度から平成20年4月1日前に終了した事業年度において生じた欠損金額については7年、それ以降のものについては9年となっている。 青色申告の特典であるために、情報を付け加えると、平成16年度税制改正により繰越期間が7年とされたことに伴い、平成13年4月1日以後に開始した事業年度においては、従来保存期間が5年間とされていた帳簿書類については7年間に延長され、また、平成23年12月税制改正により繰越期間が9年とされたことに伴い、平成20年4月1日以後に終了した欠損金の生じた事業年度においては、帳簿書類の保存期間は9年間に延長されている。 控除上限額としては、中小法人の場合は、繰越欠損金のうち、所得から控除できる金額がその全額であるのに対し、大法人については80%までとされている。 先にも述べたように、本来は獲得した利益に対して課税されるべき税金であるにもかかわらず、事業年度単位課税を原則としているために、弊害となっている問題点を解決するための制度が欠損金の繰越控除制度であるはずが、現行の法人税法においては、それについて、期限付きで認めるにとどまっているのが現状である。また、大法人については80%という上限額も設定されている。 この上限額の見直しが、法人税率引下げの代替案として掲げられているが、結果として上限額を超える欠損金額は、その控除のタイミングが翌年以降に先延ばしされることになるので、一時的な代替財源の確保を実現するに留まる。 ▷諸外国との比較からみる日本の現行制度 これらの内容は、諸外国の欠損金に関する税制とはかけ離れた日本特有の厳しい制限であるともいえる。例えば、イギリス、ドイツ、フランスにおいては、繰越期間は無制限となっている。また、アメリカは期限付きではあるが、20年という長い期間をその期限としている。 これとは逆に、控除制限については、アメリカではAMTという独自の計算を合わせて、AMT課税所得の90%として制限している。また、ドイツでは100万ユーロを超える金額について60%、フランスでは、100万ユーロを超える金額について50%という制限をしている。イギリスでは全額が控除の対象となっている。 この控除制限に関する考え方は、過去に失敗したことについてはフォローするけれども、当期において儲かっているという事実がある以上、そのうちいくらかでも社会還元をしながらその失敗を取り戻すべきである、というところにある。 ただし、ドイツ、フランスについての控除制限は100万ユーロであるので、1ユーロ=135円で換算すると、1億3,500万円までは全額が控除対象となるのであるから、相当に大きな会社にのみ該当する制限となっていることになる。 このように、諸外国との比較によっても、税制改革によって日本が何をしたいのかを垣間見ることができる。要するに日本もこの国際競争社会において、国単位としての競争の渦中に立たされている現状があるため、グローバルな税制の採用は必須となっている局面がある。つまりは、緩い税制によりグローバル企業の誘致及び流出の抑制を図るのが目的といえる。 世界情勢の煽りを直接受け、赤字となったり黒字となったりするグローバル企業にとっては、無期限かつ無制限を採用しているイギリスに本拠地を構えて事業をするのが、今後のリスク回避にもつながる戦略であることは誰しも想像がつく。 ▷おわりに 欠損金の繰越控除の制度については、無期限・無制限が事業年度単位課税の弊害を完全に補完できる税制であるとはいえ、今までの短い期限付きの厳しい制度は逆に、日本の長い歴史や日本民族特有の気質からみても、この国際社会における強靱な日本経済の発展に大きく寄与してきた制度のひとつなのではなかろうかとも考える。 つまり、過去の失敗は社会に迷惑をかけることなく自らの努力により回復し、力強く右肩上がりに短期回復することができる企業こそが、淘汰されることなく生き残るべき企業であり、それが日本企業としてのあり方である、ということである。 (連載了)
法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第3回】 「改正の内容②」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 3-1-5 恒久的施設帰属所得金額の計算 3-1-5-1 恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算 《改正前》 恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算は、内国法人の課税標準の計算規定に準ずることとされていた(旧法法142)。 具体的には、法人税法第二編第1章第1節第二款から第九款(内国法人の各事業年度の所得の金額の計算)まで及び第十一款(各事業年度の所得の金額の計算の細目)の規定に準じて計算することとされていたが、例えば次の規定は除くこととされていた。 また、政令において、法律の規定の意味内容を明確化するための修正規定が定められていた(旧法令188①)。 例えば、法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)については、外国法人にあっては各事業年度の販売費・一般管理費その他の費用についてはその外国法人の国内源泉所得に係る収入金額若しくは経費又は固定資産の価額その他の合理的な基準を用いてその国内において行う業務に配分されるものに限り損金算入が認められる等である。 《改正後》 (1) 概要 「恒久的施設帰属所得」に係る所得金額の計算と「非恒久的施設帰属所得」に係る所得金額の計算とに区分して規定された。 「恒久的施設帰属所得」については、当該事業年度のPEを通じて行う事業に係る益金の額から損金の額を控除して計算することになるが、AOAの考え方に基づいて内部取引の認識や資本配賦計算等の独自の計算を行う。 (2) 恒久的施設帰属所得の益金の額と損金の額に算入すべき金額 別段の定めがある場合を除き、内国法人の所得計算規定に準じて計算することとされている(法法142②)。除外することとされる規定についても、以下については今回見直しが行われている。 (3) 課税標準を計算する際の修正規定 内国法人の規定に準じて計算する場合の修正規定は、以下のとおり定められた(法法142③④、法令184) ① 法人税法22条:各事業年度の所得の金額の計算 イ 益金の額 外国法人のPEを通じて行う事業に係るものに限る(法令184①一)。 ロ 損金の額 外国法人のPEを通じて行う事業に係るものに限る(法令184①一)。 (イ) 内部取引に係る費用と債務確定基準 内部取引に係る販売費・一般管理費その他の費用は、債務の確定しないものであっても損金に算入できることとした(法法142③一)。これは無条件で損金算入を認めるというのではなく、債務確定に相当する事実の有無を検討する必要がある(「平成26年度税制改正の解説」(財務省)691頁) なお、販売費及び一般管理費の損金算入可能な時期については、別途定めがあるものを除き、次のすべてに該当することとなった日の属する事業年度の損金の額に算入するとしている(法基通20-5-8)。 (ロ) 本店配賦経費 恒久的施設帰属所得の計算上損金に算入する販売費・一般管理費その他の費用には、外国法人の恒久的施設を通じて行う事業とそれ以外の事業に共通する費用を、合理的な基準で配分した金額が含まれることとした(法法142③二、法令184②)。 (ハ) 資本等取引 支店開設資金やPEからの剰余金の送金は、内部取引のうち資本等取引として認識する(法法142③三)。 ② 法人税法23条:受取配当等の益金不算入(法令184①二) 負債利子控除額は、改正前は国内において行う事業に係るものに限るとしていたが、改正後はPEを通じて行う事業に係るものに限るとした。 ③ 法人税法25条:資産の評価益の益金不算入(法令184①三) 従来は評価損についてのみ対象資産の範囲を限定していたが、改正後は評価損と評価益で取扱いを違える特段の事情はないので、評価損と同様評価益についても、PEを通じて行う事業に係るものに限ることとした。 * * * 同様に、以下④から⑳に掲げる規定について、従来国内事業に係るものに適用していたものを、PEを通じて行う事業に限定する形で改正された(個々の規定に関する改正の内容は「平成26年度税制改正の解説」(財務省)692頁から696頁を参照)。 (4) 内部取引により取得した資産 外国法人の本店等とPEとの間でPEが資産を取得する内部取引が行われた場合には、その内部取引の時に資産を取得したものとして、取得価額を計算することとされた(法令184⑥)。したがって、PEにおける資産の取得価額は本店等における帳簿価額ではなく、内部取引の種類及び内容に応じた取得価額となる。 また、PEの設立に当たって本店等の資産を持ち込んだ場合には、PE帰属所得の計算上は現物出資に相当する内部取引が認識されることになるので、PEに資産の含み益が持ち込まれないこととなる(「平成26年度税制改正の解説」(財務省)696頁)。 3-1-5-2 還付金等の益金不算入 法人税の還付金の益金不算入(法法142の2①)、外国税額の減額部分の益金不算入(法法142の2②)、課徴金等の還付金の益金不算入(法法142の2③)が規定された。 3-1-5-3 保険会社の投資資産及び投資収益 保険会社の収益の帰属場所について、AOAでは保険リスクを引き受けた構成部分に帰属するものと整理している。これを踏まえ、外国保険会社のPEに係る投資資産の額がPEの引き受けた保険リスクに応じてPEに帰せられるべき投資資産の額に満たない場合には、その満たない部分に相当する金額(投資資産不足額という)に係る収益の額をPEの益金に加算することとした(法法142の3①)。 投資資産とは、いわゆる保険運用資産であり、具体的には保険業法施行規則47条各号に掲げる方法により運用を行う資産としている(法法142の3①、法規60の5)。 恒久的施設に帰せられるべき投資資産の額は、次の算式で計算される(法令187①)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第32回】 「法人税基本通達改正の歴史①」 公認会計士 佐藤 信祐 貸倒損失についての具体的な規定は、法人税法、法人税法施行令には明記されておらず、法人税基本通達に規定されている。これに対し、法人税法52条に規定されている貸倒引当金の制度は昭和25年度税制改正によって導入された貸倒準備金制度まで遡るが、現在の個別評価金銭債権に対する貸倒引当金に相当する部分の金額については、平成10年度税制改正まで、法人税基本通達に定められる債権償却特別勘定として取り扱われており、貸倒損失、貸倒引当金についての法人税法上の位置付けは、近年になって定着したものとも考えられる。 第32回以降は、どのような改正の経緯を受けて、現在の体系になったのかという歴史を遡ることにより、貸倒損失、貸倒引当金についての法人税法上の位置付けを探っていきたいと考えている。 1 貸倒準備金制度の導入と貸倒引当金制度への移行 法人税法における貸倒損失、貸倒引当金の規定は、戦後のシャウプ勧告に基づいて、昭和25年度に導入された貸倒準備金制度にまで遡る。 シャウプ使節団によって作成されたシャウプ勧告書は、昭和24年8月27日付、昭和25年9月21日付の2つの報告書から成るものであり、我が国の戦後税制に大きな影響を与えた。このうち、貸倒準備金制度は、昭和24年8月27日付けの報告書において、「Chapter7 Section G- Bad Debt Reserve」として記載されている。なお、本報告書は英文で作成されたものであるが、和訳されたものもあるため、興味のある読者は、是非、一読されたい。 シャウプ勧告書においては、貸倒準備金の設定および準備金繰入額の損金算入については、主として、金融機関からの要求によって行われており、理論的には問題がないものの、貸倒準備金が妥当な範囲内にとどまる必要があることが指摘されている。また、貸倒準備金の設定は、どの年度に不良債権が価値のないものとして消却されるのが妥当であるかという点について、納税者と課税庁との間に争いが起きることを防止する効果も認められることが記されている。また、実施において検討されるべき措置として、以下のものを挙げている。 このシャウプ勧告に基づいて、昭和25年税制改正により貸倒準備金制度が導入された。 貸倒準備金制度が導入される前は、「将来生ずべき損失というような不確実な損失を各事業年度の損失として計上することは、大体これを認めない建前であった(『税務と会計経理』233頁)」ことから、シャウプ勧告書においても、「納税者と課税庁との間に争いが起きることを防止する効果」を貸倒準備金制度に期待したものと推定される。しかしながら、当時の東京国税局の解説にも、「一時に発生する偶発多額の損失を平均化することにより、会社の経理を安定させるのに役立たせ、徴税上も、急激な変化なく平均した調整がなされるようにした(『詳解法人税法』126頁)」とされており、そもそもの制度趣旨からして、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金を要請するような内容にはなっていなかった。 そのため、当時の貸倒準備金の制度は、貸金基準(*1)と所得基準(*2)のいずれか大きい金額を繰入限度額としながらも、累積限度額として、当該事業年度終了の日における帳簿価額の100分の20を累積限度額とされていた。すなわち、制度の具体的な内容は異なるとしても、一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の考え方に近いものであったということもできる。しかしながら、現在の制度と異なり、洗替え方式ではなく、累積方式であったというのもひとつの特徴である。 (*1) 貸金基準は、貸金の帳簿価額の1,000分の3(一定の金融機関は1,000分の6)として算定していた。 (*2) 所得基準は、所得金額の100分の20(一定の金融機関は100分の30)として算定していた。 さらに、昭和25年度に改正された法人税基本通達116項において、貸倒損失についての取扱いが明確にされ、以下のように規定されることになった(*3)。 (*3) 上記の他、「金融機関の貸倒金の取扱いについて(昭和25年直法1-42)」が定められており、以下のように規定された。 (一) 金融機関が回収不能に属する債権としてこれを消却し、損金に計上した場合において、消却した当該債権が金融検査官の実地検査により銀行検査様式により第四分類の債権及びこれに準ずるものとして金融検査官が書面により証明したものは、その後の事情に変更のない限り原則として法人の計算を是認するものとする。但し、調査に当たり消却することが不適当と認めるものについては、当該証明をなした金融検査官と協議の上処理すること。 この場合において当該債権の担保に供されている資産がある場合において、当該担保に供されている資産について、担保権が実行されていないときにおいても、当該債権の額のうち担保物の価額をこえている金額が明らかに回収不能と認められる場合は、その回収不能と認められる金額について法人の計算を認めるものとする。 前項の担保に供された資産の価額は金融機関が担保として受け入れた価額をいうのではなく、当該債権を消却した事業年度終了の日における当該担保物の時価によるものとする。 (二) 調査事業年度前の事業年度において、金融機関が損金に計上した貸付金の消却額で損金に算入されなかった金額がある場合において当該消却した貸付金が第四分類の債権に準ずるものと認められるときは、当該否認額は調査事業年度の損金に算入する。 当時の東京国税局の解説によると、 としており、貸倒損失の計上については、かなり厳格に捉えていたことが分かる。また、 としており、当時から債権の評価損を認めていなかったことが分かる。 その後、貸倒準備金制度については、昭和26年から昭和36年までの間に微修正が行われることになったが、最も大きな改正は昭和36年度税制改正により、所得基準が廃止されるとともに、経常的な貸倒れに備えるための洗替え方式、将来の偶発的な貸倒れに備えるための累積方式に分けられたという点である。 具体的には、例えば当時の製造業であれば、繰入率が1,000分の7であったことから、1,000分の5については、発生した貸倒損失を超える部分の金額が戻し入れられ益金の額に算入され、1,000分の2については累積限度額まで累積されることになる。 このような累積方式は昭和39年度税制改正により、貸倒準備金制度から貸倒引当金制度に移行するに伴って廃止され、全面的に洗替え方式が採用されることになる。なお、昭和39年度税制改正においては、洗替え方式の採用に伴って、繰入率の引上げも行っている。 その後も貸倒引当金の改正は何度か行われているが、最も大きな改正は平成10年度税制改正により、法人税基本通達で規定されていた債権償却特別勘定が個別評価金銭債権に係る貸倒引当金として法人税法に取り込まれた点であるが、次回以降、昭和29年に導入された「売掛債権の償却の特例等について(昭和29年7月24日直法1-140)」と題する通達により債権償却引当金が導入され、その後、法人税基本通達に取り込まれるまでの歴史を遡ってから、平成10年度税制改正の解説を行いたい。 (了)
日本の会計について思う 【第12回】 (最終回) 「世界会計学会(IAAER)の存在意義」 関西学院大学教授 平松 一夫 フィレンツェで世界会議を開催 2014年11月、イタリア・フィレンツェで世界会計学会(IAAER)の「会計教育者・研究者世界会議」が開催された。 簿記・会計の歴史を語る上でイタリアは重要である。1494年、ルカ・パチオリが最古の簿記書といわれる『ズンマ』を出版したのがイタリアであった。今回の世界会議は開催校であるフィレンツェ大学のキャンパスを主会場として開催されたが、フィレンツェ市の特別な配慮で初日の開会式と開会レセプションはヴェッキオ宮で開かれた。 私はそこで、会長として開会挨拶をしたのであるが、歴史的建造物で挨拶できたことは記念になる出来事であった。なお、パチオリはフィレンツェ大学の教員をしていたこともあり、そのことも今回の世界会議に、会計学者としての感慨を覚えさせてくれた。 フィレンツェ会議の参加者数は約400名であった。これは例えばアメリカ会計学会に毎年約3,000名近い参加者があり、日本会計研究学会にも900名を超える参加者があることを思えば、決して大きい数ではない。しかしながら、世界会計学会は各国や地域の学会とは質的に異なる特性をもち、かつ、各国・地域の学会が担わない特別な役割を果たしている。 私は、世界会計学会が世界を代表する学会であることと、途上国の人材育成に貢献していることにその存在意義があると考えている。 『世界代表』としての世界会計学会 IASB(国際会計基準審議会)やIFAC(国際会計士連盟)が会計や監査等の基準を作成していることはよく知られている。その委員を選任するに当たり、世界の会計学会を代表するのは他ならぬ世界会計学会である。 アメリカ会計学会やヨーロッパ会計学会は有力ではあるが、特定の国または地域の学会であるため、世界を代表することには難がある。 例えば、IASBの理事の一人は学者から選任されているが、初代のMary Barth教授(米国・スタンフォード大学)、現在のChungwoo Suh教授(韓国・国民大学)の選任に当たり世界会計学会が果たした役割は大きい。また、IFACに設けられている国際会計教育基準審議会(IAESB)のオブザーバーの一人は世界会計学会から出ている。 現在は研究担当副会長のKeryn Chalmers教授(豪、モナシュ大学)がこれを務めている。 途上国の会計人材育成への取り組み 世界会計学会は広く世界に目を向け、次代を担うと目される途上国の有望な若手研究者の育成に、真剣に取り組んでいる。 その取り組みの一つとして「デロイト・スカラー」がある。 大手会計事務所のデロイトから資金援助を得て、ルーマニア、ポーランド、ブラジル、南アフリカ、インドネシアの5ヶ国の研究者が世界の各地で開催される学会に参加できるよう参加費、交通費、宿泊費などを支給している。さらに、著名な学者がメンターとして任命され、指導の役割を担っているのである。 メンターには、Katherine Schipper(デューク大学)、Mary Barth(スタンフォード大学)、 Sidney Gray(シドニー大学)、Ann Tarca(西オーストラリア大学)、阪智香(関西学院大学)の各教授が選ばれている。 いま一つ、注目すべき人材育成の取り組みがある。それはACCA(英国勅許公認会計士協会)の資金援助をえて開催されている「論文作成ワークショップ」である。 特に途上国の若手研究者が優れた論文を作成することができるよう、論文作成の初期段階から雑誌掲載に至るまで指導するもので、指導は世界の有力な学者が担当している。 フィレンツェの世界会議では招待者限定の論文作成ワークショップが開かれた。途上国の研究者による20チームがあらかじめ作成した論文を、16名の学者があらかじめ読み、論文の改訂を示唆し、改訂後の論文をさらに会議当日に報告するのである。 また、フィレンツェ会議における論文作成ワークショップでは、著名な2人の会計学者が「会計研究者として自身を改善するために、公開されている情報源をどのように利用するか」、「適切な研究方法をどのように選び分析の厳密さを増すか」と題する講演を行った。 非常に参考になる講演であったが、途上国でない日本の若手は含まれておらず、惜しい思いがした。 このあと、論文報告・討論を行い、最後はレセプションで約100人の参加者(途上国からの若手研究者と指導者)が交流を深めた。指導者に選ばれた16名の学者の一人は日本の阪智香教授であった。 世界会計学会の生みの親は日本 このように貴重な働きをしている世界会計学会であるが、日本がその誕生に深く関わっていることを知る人は少ない。 日本で世界会計学会が開催されたのは1987年であった。当時、日本会計研究学会が日本側の主催者を務めたが、日本会計研究学会が単独で主催しても国際会議として日本学術会議の支援をえることができなかった。 そこで、日本が世界会計学会の創設を働きかけ、1984年に世界会計学会が創設されたのである。 貴重な働きをしている世界会計学会。その創設に日本が関わっていたことをぜひ覚えおいていただきたい。 (連載了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第65回】 外貨建取引② 「為替予約」 ―独立処理 仰星監査法人 公認会計士 石川 理一 日本公認会計士協会準会員 永井 智恵 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 為替予約の締結時(X1年3月1日) ② 決算時(X1年3月31日) (*1) 1,000ドル×(予約レート104円/ドル-先物レート101円/ドル)=3,000 ③ 決済時(X1年4月30日) (*2) 1,000ドル×(予約レート 104円/ドル-決済時レート103円/ドル)=1,000 〈会計処理の解説〉 「為替予約」とは、将来の一定の期日において、一定量の通貨を他の通貨による一定の価額で売買する先物為替取引です。本事例では「X1年4月30日において、1,000ドルを104円/ドルで売却する契約」を締結しています。 為替予約を締結していなかった場合、売掛金の決済額は決済時レートの変動により増減します。例えば、外貨建ての売掛金1,000ドルについて、取引発生時の為替相場(以下、取引発生時レート)が100円/ドルであった場合、取引発生時の売掛金の円換算額は100,000円(=1,000ドル×100円/ドル)です。 これに対し、決済時レートが103円/ドルと円安に傾けば決済額は103,000円(=1,000ドル×103円/ドル)となり3,000円の為替差益が発生します。逆に96円/ドルと円高に傾いていると決済額は96,000円(=1,000ドル×96円/ドル)となるので4,000円の為替差損が発生します。 しかし、本事例のように為替予約を締結しておけば、円貨での回収額を予約レートで固定することができるため、為替変動リスクを回避(ヘッジ)することができます。具体的には、外貨建ての売掛金1,000ドル(ヘッジ対象)を104円/ドルで売却する為替予約(ヘッジ手段)を締結しておけば、決済時レートとは無関係に売掛金の回収額を104,000円で固定することができます。 為替予約をはじめとするデリバティブ取引は、その取引契約から生ずる正味の債権および債務を時価評価し貸借対照表に計上するとともに、評価差額は、原則として、当期の損益として処理することが求められます(金融商品会計基準25項)。 為替予約の時価評価額、すなわちその時点における為替予約の価値は、先物レート同士の比較により算定されます。 本事例でのX1年3月1日における為替予約(予約レート104円/ドルで決済期日X1年4月30日に1,000ドルを売却する契約)は、決算時におけるX1年4月30日の先物レート101円/ドルでの同様の為替予約と比べて、X1年4月30日に回収できる売掛金の金額が3,000円だけ多くなります。よって、決算時における為替予約の時価評価額は3,000円となります(②の仕訳)。 なお、為替予約の締結時(X1年3月1日)においては、当然に先物レートに差異がないため、時価評価額はゼロになり、会計処理は必要ありません(①の仕訳)。 別の見方をすると、決算時レートが98円/ドルであり、取引発生時レート100円/ドルと比較して円高になっているため、外貨建ての売掛金の換算替えにより為替差損が発生しますが、円高の影響を受け為替予約の時価は上昇しているため、為替予約からは売掛金の換算替えにより発生した為替差損を相殺するように、為替差益(設例の場合3,000円)が発生します。 上記のとおり、保有している外貨建ての売掛金(ヘッジ対象)の評価替えにより生じる為替差損と、為替予約(ヘッジ手段)の評価替えにより生じる為替差益とは、損益計算書において相殺されるため、為替変動リスクは会計上自動的にヘッジされることになります。 そして、為替予約の決済時には、決算時に計上した為替予約3,000円を振り戻すとともに、為替予約の決済額1,000円(=1,000ドル×(予約時レート104円/ドル-決済時レート103円/ドル))との差額の2,000が為替差損として計上されることになります(③の仕訳)。 このように、金融商品会計基準では、原則的に、ヘッジ手段である為替予約を、ヘッジ対象である売掛金とは独立した取引として処理することを求めています。そのため、当該原則処理は、一般的には「独立処理」と呼ばれています。 * * * 次回は為替予約における振当処理について解説します。 (了)
IFRSの適用と会計システムへの影響 【第3回】 「サブシステムへの影響(前編)」 公認会計士 小田 恭彦 会計システムとは ここで改めて、「会計システム」の定義について少し触れたいと思います。 会計システムとは狭い意味では仕訳を登録して試算表や決算書を出力するシステムです。いわゆる「総勘定元帳システム」です。広い意味では総勘定元帳に加え以下のシステムを含みます。 「システム」という表現以外に「モジュール」という言い方をします。ERPと呼ばれる統合型会計システムは1つのシステムの中に上記の各システムがラインナップされており、その場合に各システムのことを「総勘定元帳モジュール」「債権債務モジュール」などといいます。 一般的には「総勘定元帳システム」「債権債務管理システム」「固定資産管理システム」あたりまでを含んで「会計システム」と呼ぶことが多いと認識しています。 なお、その他の会計システムとして「連結会計システム」も含まれることもありますが、一般的に「会計システム」というと単体用の会計システムを指すことが多く、連結会計システムと明確に区別する時には連結会計システム対して「単体会計システム」「個別会計システム」と表現します。 ここでは、個別会計システムに対して解説をします。連結会計システムについては別の機会に解説します。 総勘定元帳システムへの影響 総勘定元帳システムへの影響のひとつである「複数元帳」については前回解説をしました。その他の総勘定元帳システムへの影響として、「財務諸表の表示」「セグメント情報」「過年度遡及修正」などのIFRSに関連するものがあります。いずれの基準もここ数年でIFRSとのコンバージェンスが進み日本基準との差異はあまりなくなってきていますが、こうした最近の会計基準変更の影響という意味も含めて解説をしたいと思います。なお、各基準がIFRS何号のどの条項であるかなど細かい点については詳細には言及せず、これらIFRSが会計システムにどのような影響を与えるかを中心に解説しようと思います 《財務諸表の表示》 IFRSを適用すると、決算書類の名称や表示の方法が変わります。具体的には貸借対照表は「財政状態計算書」、損益計算書は「包括利益計算書」になります。後者はすでに日本基準でも取り入れられ「(連結)損益計算書及び(連結)包括利益計算書」が開示されています。 名称が変わるということは、単に名称だけでなく科目の並び順や開示する情報の質が変わってきます。単純に括り方や並び順が変わるだけであれば、見せ方だけの問題でありシステムへの影響もさほど大きくありません。「包括利益」はそのひとつです。一方で表示方法が変わったためにその元情報を収集するための定義や作業方法が変更になる場合があり、この場合はシステムへの影響も大きいと思われます。「廃止事業」はそのひとつかと思います。 財務諸表の表示に関しては、この「包括利益」と「廃止事業」を例に解説をしたいと思います。 《セグメント情報》 セグメント情報についても、IFRSとのコンバージェンスが行われ、IFRSと日本基準との大きな差異はなくなっています。両者ともマネジメント・アプローチを採用しており、日本基準でもすでに適用になっています。マネジメント・アプローチとは経営者が経営管理上設定しているカテゴリを基準に事業セグメント別の損益等を開示するというものです。 これも、前述の廃止事業と同じで、企業(グループ)全体の財務諸表に内訳を持つことになります。セグメント情報の場合、内訳のメッシュは経営者が設定するので情報開示のレベル感がセグメントに整合しないということは基本的にはないですが、事業セグメント共通の資産、負債及び損益等を按分する必要があります。 * * * 次回は、「サブシステムへの影響(後編)」として、総勘定元帳への影響の続きである「過年度遡及修正」と「債権債務管理システム」、「固定資産管理システム」について解説します。 * * * なお本文中、意見に関する部分は私見であることを申し添えます。 (了)