《速報解説》 地方法人税の創設に係る改正実務対応報告「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い」が確定 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年1月16日、 企業会計基準委員会は次の実務対応報告を公表した。これにより、平成26年9月26日の公開草案が改正実務対応報告として確定することになる。 今回の改正は、平成26年度税制改正において、地方法人税が創設されたことを受けたものである。地方法人税法は平成26年10月1日から施行されており、施行日以後開始する課税事業年度から適用されている。 公開草案に対するコメントとして、実務対応報告第5号の改正案と実務対応報告7号の改正案とを1つにまとめるという意見が寄せられたが、従来どおり、2つの実務対応報告のままとなっている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正事項 平成26年度税制改正における地方法人税の創設に伴い記載内容を改正しているが、連結納税制度を適用している場合の税効果会計の考え方を変更するものではない。 地方法人税法では、連結納税制度を適用している場合、地方法人税の課税標準である基準法人税額は、連結事業年度の連結所得の金額から計算した法人税の額とするとされている。 1 連結納税主体における連結財務諸表上の取扱い 地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性の判断は個別所得見積額だけでなく、連結所得見積額も考慮して行うこととなるため、連結財務諸表において、地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性は、連結納税主体を一体として判断する。 2 連結納税会社における個別財務諸表上の取扱い 連結納税制度を適用する場合の地方法人税の個別帰属額は連結納税会社ごとに把握できるため、連結納税会社の個別財務諸表において、地方法人税に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の金額は、連結納税会社ごとに計算する。 Ⅲ 適用時期 (了) お薦め連載記事↓↓
2015年1月22日(木)AM10:30、 Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.103 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
日本の企業税制 【第15回】 「成長戦略としての平成27年度税制改正」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに 平成27年度税制改正は、アベノミクスの第3の矢としての成長戦略に色濃く縁取られたものとなった。 昨年末12月30日にとりまとめられた与党平成27年度税制改正大綱の「基本的考え方」では、デフレ脱却・経済再生をより確実なものにしていくため、「企業収益の拡大が速やかに賃金上昇や雇用拡大につながり、消費の拡大や投資の増加を通じてさらなる企業収益に結び付くという、経済の好循環を着実に実現していくことが重要である。」として、法人税改革が冒頭に掲げられている。 このほかにも、高齢者層から若年者層への資産移転に関する様々な措置も、住宅投資や個人消費の活性化という成長戦略に沿うものである。また、地方創生関係の措置も、成長の成果を地方へ波及させようとするものにほかならない。 そこで、本稿では、今回の法人税改革を成長戦略の中での位置づけを通して読み込んでいくこととしたい。 2 成長志向の法人税改革 今回の法人税改革は「「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」ことにより、法人課税を成長志向型の構造に変えるもの」(大綱)と位置付けられている。 税率引下げにより「稼ぐ力のある企業」の税負担の軽減を図る一方で、課税ベースの拡大(特に欠損金繰越控除の制限)や外形標準課税の拡大により、赤字企業や収益力の乏しい企業には厳しい内容となっている。 事実、経団連の推計では、赤字企業では外形標準課税の拡大により税負担が増加することはもとより、所得計上企業の中でも結果的に税負担が増大する企業が現れ、収益力の高い企業ほどみかけ以上の減税となることが予想される。 3 法人実効税率の引下げと先行減税 平成27年度改正の最大の課題は法人実効税率の引下げであったが、実際の検討過程では、まず財源としての課税ベース拡大の方策を課税当局と経団連との間で可能な限り実務的に詰め切り、最終段階で税率をどこまで下げて「先行減税」を確保するかが政治的に決定された。 経団連では、まずは平成27年度で実効税率2.5%以上の引下げを求めていたが、結果として、現行34.62%(標準税率)から平成27 年度に2.51%引き下げ32.11%に、平成28 年度に3.29%引き下げ31.33%となり、両年度でそれぞれ2,100億円の先行減税とされた。 この先行減税とは、課税ベースの拡大のうち欠損金の制限が平成29年度に50%まで拡大されることで税収中立となるまでの間の先行との意味である。 【法人実効税率引下げと先行減税の関係】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 大綱では、平成29年度以降においても、「引き続き、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続する。」とされているが、その財源策として、 などが明記されている。 4 賃上げの原資としての法人税減税 成長戦略の中に法人実効税率引下げが明確に位置づけられたのは、平成26年度改正において復興特別法人税の前倒し廃止されたことから始まるが、その際に、賃金引上げがその条件とされた。その結果、昨年の春闘の結果は、厚生労働省調べによれば、民間主要企業で賃上げ率は2.19%(前年比0.39ポイント増)、平均妥結額は6,711円(前年比1,233円増)との大幅なアップとなった。 法人税減税が、企業の内部留保の増大ではなく設備投資や研究開発投資に向かうことは従来から期待されていたが、それにとどまらず賃金引上げにより経済の好循環を促すとの考えは、平成26年度改正からであり、今回はこの傾向がより明確に示されている。 大綱では、法人税改革を通じて「企業が収益力を高めれば、継続的な賃上げが可能な体質となり、より積極的な賃上げへの取組みが可能となる。」とした上で、極めて異例だが、「経済界においては、今般の改革がもたらす経営環境の変化も踏まえ、収益力や生産性の向上に向けて一層の企業努力を行い、得られた利益を従業員や株主に適切に還元するとともに、取引先企業への支払単価を改善することを通じて、経済の好循環の実現に向けて積極的に貢献していくことを求めたい」との言及がなされている。 また、賃金引上げを促すための仕組みが税制の中でも取られている。法人税における所得拡大促進税制の要件緩和と、法人事業税の外形標準課税における所得拡大促進税制の導入である。経団連では外形標準課税の拡大について、法人実効税率20%台への引下げのためには不可避と考えつつ、その大半が賃金課税であるところから、少なくとも政府の要請に応えての賃金引上げ部分については課税対象から除くことを求めてきたが、ほぼ要望が充たされたものと考える。 平成27年度税制改正を受けて、今期の賃金引上げは経団連としての政治的な公約となっており、昨年12月16日開催の政労使会議において経団連は次期賃金改定での賃金引上げを了解するとともに、本年1月20日公表の経営労働委員会報告書の中では、ベースアップを含めた賃金引上げを会員企業に対して呼び掛けている。 5 課税ベースの拡大 法人税減税財源については、昨年6月に閣議決定された「日本再興戦略2014」に中では、課税ベースの拡大とアベノミクスの成果としての自然増収がともに示されていたが、実際には「2020年度の基礎的財政収支黒字化目標との整合性を確保するため制度改正を通じた課税ベース等により、恒久財源をしっかり確保する」(大綱)との方針が貫かれていた。 具体的な課税ベース拡大については、昨年8月末に、法人事業税外形標準課税の拡大と併せて欠損金繰越控除の制限、受取配当益金不算入の制限、研究開発税制の縮減を平成27年度・28年度に行い、さらに減価償却制度の定額法一本化を29年度に行うとの方針が、財政当局より自民党税調幹部に対して示され、既報のように、9月初めより経団連と財務省主税局との折衝が続けられ、11月中にはほぼ合意をみていた。ここに改めてその概要を整理しておく。 【課税ベース拡大の概要】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
法人税改革の行方 【第7回】 (最終回) 「まとめ」 慶應義塾大学経済学部教授 土居 丈朗 本連載では、わが国の法人税改革の背景と経過について論じてきた。 法人税改革はまだ終わってはいない。2016年度改正においても、課税ベースの拡大等により財源を確保して、2016年度における税率引き下げ幅の更なる上乗せを図ることとされている。また、その後の年度の税制改正においても、引き続き、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続するともうたわれている。 2015年度税制改正大綱の取りまとめにおける過程で見えたことは、グローバル化に適合した法人税制のあり方を模索する一方で、税収確保の必要性があって、それらをどう両立するかに腐心したことである。 2015年度税制改正大綱では、法人実効税率の引下げの代替財源には、その過半に外形標準課税の拡大が用いられた。果たしてこのままでよいのだろうか。 外形標準課税、中でも付加価値割は、世界的にみてもこうした税はむしろ廃止する方向に向かっている。別の言い方をすれば、本連載の前回で述べたように、加算法付加価値税ではなく、控除法付加価値税で課税するのが世界の趨勢になっているといえる。その現実を、わが国の今後の法人税改革でも重く受け止めるべきである。 グローバル化への対応と税収確保の必要性を両立させるには、わが国の税制は、所得課税から消費課税へとシフトさせることが求められる。もちろん、消費税は社会保障の財源として活用するという発想は良い。しかし、1対1で対応しなくてもよいから、法人所得課税で税収を確保するのではなく、消費課税(基本的には消費税)で税収を確保する税制に改めてゆくのがふさわしい。 グローバル化の中で、(個人、法人を問わず)所得の源泉地を変えることができる状況の中で、所得を得る個人はどこかの土地で生活し、消費活動を営まなければならない。そうした中で、政府が供給する公共サービスには税財源が必要である。こうした時代には、源泉地で所得に課税するより、消費地で消費に応じて課税するのが望ましい。そして、所得課税から消費課税へとシフトさせることで、課税によって経済活動を阻害する度合いを小さくすることができ、経済成長にも親和的な税制となる。 あとは、それを実現する政治的説得が求められる。所得課税、中でも法人所得課税から消費課税へとシフトさせることは、結果的に、法人税を減税し消費税を増税することを意味する。税目の名前だけにとらわれて、法人税は法人だけが負担し消費者は負担せず、消費税は消費者だけが負担し企業は負担しない、という誤解に基づくと、法人税減税と消費税増税は、企業優遇・消費者冷遇という勘違いを助長する。これが、所得課税から消費課税へのシフトを政治的に阻む一因になる。 また、税務当局も、法人課税は“too big to fail”(税収が大きすぎてなくせない)との認識が潜在的にあり、法人税を減税するにしても、消費税の増税を有権者の多数がすぐに賛同しないならば、税収を確保するためには法人課税を軽くできないというジレンマにある。しかし、グローバル化の中で、いつまでも法人課税を重課し続ければ、企業の海外流出等によってわが国の法人課税の課税ベースはジリ貧となる。ジリ貧となる法人課税にいつまでもしがみついていては、わが国の財政健全化も全うできない。やはり、早期に所得課税から消費課税へのシフトを進めて、わが国の税制の基盤を安定させるべきである。 結びに、本連載が、今後の税制改革論議に資するものになることを願う。 (連載了)
〔平成26年分〕 贈与税申告の留意点 【第1回】 「過年度及び本年度改正についての確認」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 平成27年1月1日以降に他界した方の相続税については、基礎控除が従前よりも4割引き下げられるため、生前贈与の活用が従前よりも活発になると考えられる。本稿は2回にわたり平成26年分贈与税申告の留意点を説明すると同時に、平成26年分の贈与税申告を行う際に(今後贈与を行う場合との有利不利を理解した上でのアドバイスも求められる可能性があるため)、平成27年以降の贈与税についての改正事項も理解しておく必要があるため、その点もあわせて解説することとしたい。 1 平成26年分贈与税申告に係る主な改正事項 (1) 直系尊属からの住宅取得等資金贈与税非課税特例 〈平成26年贈与〉(非課税額限度額の引下げ) 平成24年1月1日から平成26年12月31日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築若しくは取得又は増改築等の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」)を取得した場合で、一定の要件を満たすときは、次の表の非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となる(措法70の2)。 (国税庁「平成26年分贈与税の申告のしかた」P60) この非課税限度額は上記のように贈与年により異なり、平成26年分贈与については、省エネ等住宅は1,000万円、省エネ等住宅以外の住宅は500万円となるため、留意が必要である。 (2) 医療法人の持分に係る相続税及び贈与税の納税猶予等の創設 〈平成26年贈与〉 認定医療法人の出資者が持分の放棄をしたことにより他の出資者に贈与税が課される場合には、当該他の出資者が納付すべき贈与税額のうち、当該放棄による受けた経済的利益に係る課税価格に対する贈与税額については、担保の提供を条件に移行計画に記載された移行期限までその納税を猶予し、移行期限までに当該他の出資者が持分のすべてを放棄した場合には、猶予税額を免除することとされた(措法70の7の8、70の7の9)。 この制度は、平成26年10月1日以後に認定医療法人の持分の放棄があった場合の経済的利益に係る贈与税について適用される。 (国税庁「平成26年分贈与税の申告のしかた」P72) 2 平成27年以降の贈与税の税率等の改正事項 平成26年分の贈与税申告には影響しないが、今後の贈与対策に必要となるため、平成27年以降の贈与税に係る改正事項をまとめると以下のとおりである。 (1) 贈与税の税率構造の見直し 平成27年1月1日以降に行われる贈与については、贈与税の税率が以下のように改正される。 (国税庁「平成26年分贈与税の申告のしかた」P81) 直系尊属からの受贈者(20歳以上)への贈与については、平成26年よりも平成27年に贈与を行ったほうが贈与税の負担が少なくて済む場合があるため、(上図の特例税率を適用した場合)贈与の実行のタイミングには留意が必要と考えられる。 (2) 相続時精算課税制度の適用要件の緩和 平成27年1月1日以降の贈与について、相続時精算課税を適用する場合の要件が以下のように改正される。 (国税庁「平成26年分贈与税の申告のしかた」P81) 平成27年以降の贈与については、相続時精算課税制度を選択できる贈与者、受贈者が増えるため、この点を理解して贈与を検討する必要があると考えられる。 * * * 次回(2015/1/29公開)は、贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)を活用するときの留意点について解説する。 (了)
平成26年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 「海外転勤者の確定申告」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 近年、企業活動のグローバル化に伴い、海外転勤は一部の個人を対象とするものではなくなっている。海外転勤者の税務については、転勤する本人と企業側の双方が理解しておくことが大切である。 (1) はじめに 所得税の課税の対象となる所得の範囲は、個人の居住形態に応じて次の通り定められている(所法7①一・二・三)。 〈居住形態と課税所得の範囲〉 (※) 内国法人の役員の場合には、役務の提供が国外で行われたとしても、その者に対する役員報酬は(海外の支店等に使用人として常時勤務している等の場合を除き)国内源泉所得として所得税の課税対象となる(所法161八イ、所令285①、所基通161-29)。 年の途中で海外へ転勤し居住者から非居住者になった人や、反対に海外から帰国し非居住者から居住者となった人、また、非居住者期間中に国内源泉所得が生じる人については、確定申告が必要となる場合がある。 海外転勤者の確定申告に関する留意点を、以下にまとめる。 (2) 年の途中で海外へ転勤した人の場合(出国年分の確定申告) ① 確定申告が必要な人 年の途中で海外へ転勤する場合、居住者期間内に支払いを受けた給与等については、原則として出国までに年末調整が行われる。そのため、他に国内における所得がなければ確定申告は不要である(所法190、所基通190-1)。しかし、年末調整の対象となった給与の他に国内での所得がある人や年末調整を受けていない人は、確定申告が必要となる場合がある(所法120、121、127①)。 また、義務ではないが、申告をすれば還付を受けることができる場合もある(所法122①、127②)。 確定申告の対象となる所得は、上図(A)と(B)(源泉分離課税となるものを除く)を合計したものである(所法102、所令258、所基通165-1、措法41⑲)。 ② 確定申告書の提出時期と提出先 確定申告書の提出時期は、出国までに納税管理人を選任しているか否かで異なる。 非居住者となった人の確定申告書の提出先は、出国前の納税地(従前の住所地)を所轄する税務署とする他、いくつかの規定が設けられている(所法15四・五・六、所令53、54)。納税管理人の住所地を所轄する税務署ではないことに注意が必要である。 ③ 所得控除についての注意点 出国した年分の確定申告では、所得控除の適用において次の点に注意が必要である(所令258①三、③、292①十六、所基通165-2)。 ④ 外国税額控除の適用 外国税額控除適用については、非居住者期間内に生じた所得はないものとみなす(所法102、所令258④、所基通165-1)。 (3) 海外赴任中の人の場合(出国中の年分の確定申告) ① 確定申告が必要な人 1年以上の予定で海外勤務している場合には、日本国籍の有無にかかわらず「非居住者」に該当するため、日本においては国内源泉所得のみが課税対象となる。 海外へ転勤した翌年以後(帰国年を除く)で、確定申告が必要となるのは、国内源泉所得のうち一定の所得が基礎控除の額を超える場合である。 なお、当該国内源泉所得は、勤務地国においても課税の対象とされることがある。その場合には、勤務地国において外国税額控除の適用を受けることができる可能性がある(勤務地国の税制による)。 ② 確定申告書の提出時期と提出先 確定申告書は、翌年の2月16日から3月15日までの間に納税管理人を通して提出する(所法120)。 非居住者の確定申告書の提出先は、出国前の納税地(従前の住所地)を所轄する税務署とする他、いくつかの規定が設けられている(所法15四・五・六、所令53、54)。この場合も、納税管理人の住所地を所轄する税務署ではないことに注意が必要である。 ③ 所得控除についての注意点 非居住者期間の確定申告に適用される所得控除は、雑損控除、寄附金控除、基礎控除の3種類のみに制限されている(所法165)。 ④ 事例 (4) 年の途中で海外から帰国した人の場合(帰国年分の確定申告) ① 確定申告が必要な人 海外から帰国した年について確定申告の必要があるか否かの判断は、基本的には年間を通して居住者であった者の場合と同じである(所法120、121)。還付申告についても同様である(所法122)。 ただし、住宅借入金等特別控除の再適用を受ける場合、又は居住開始年度に海外転勤したため帰国後に同制度の適用を初めて受ける場合には、帰国した年に確定申告をする必要がある(措法41⑱・⑲・(21)・(22))。 確定申告の対象となる所得は、上図(A)と(B)を合計したもの((A)がない場合には(B)のみ)である(所法102、所令258)。 ② 確定申告書の提出時期と提出先 確定申告書は、翌年の2月16日から3月31日までの間に、納税地(住所地)を所轄する税務署長に提出する(所法15①、120)。 ③ 所得控除についての注意点 帰国した年分の確定申告では、所得控除の適用において次の点に注意が必要である(所令258①三、③)。 ④ 外国税額控除の適用 外国税額控除適用については、非居住者期間内に生じた所得はないものとみなす(所法102、所令258④)。 * * * 次回(最終回)は、誤りやすい事例を取り上げる予定である。 (了)
5%・8%税率が混在する消費税申告書の作成手順 【第6回】 「平成27年3月期における確定申告書及びその付表の作成方法」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 小嶋 敏夫(執筆) 3月末決算法人で平成27年3月期の場合には、その課税期間の開始の日が施行日となることから、経過措置の適用がない限り、原則としてはすべて新税率が適用されることとなる。 しかしながら、一般の事業者の場合には、3月に販売した商品の返品処理、3月に仕入れた商品の返品処理、3月に前払いした旅費交通費、4月分の水道光熱費・通信費など経過措置の適用を受ける取引が発生する可能性があり、旧税率と新税率が混在する場合の確定申告書及び付表を作成することとなる。 したがって今回は、3月末決算法人の平成27年3月期で、旧税率が適用される売上げに係る対価の返還等、旧税率が適用される課税仕入れ、旧税率が適用される仕入れに係る対価の返還等があった場合の確定申告書等の記載方法につき、設例では旧税率が還付、新税率が納付となる場合について、具体例を用いて解説する。 設 例 D株式会社の当課税期間(平成26年4月1日~平成27年3月31日)の課税売上高等の状況は以下のとおりである。なお、仕入税額控除の計算方法は、全額控除方式である。 (※) 設例の数値が変更されました(2015/1/30)。 【付表2-(2)の作成方法】 3月末決算法人の場合においても経過措置が適用され、旧税率と新税率が混在しているときは、この帳票を用いて計算することとなる。 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 【付表1の作成方法】 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 設例の場合、付表1の作成で留意すべき点は、旧税率適用分は「控除不足還付税額」、新税率適用分は「差引税額」となり、それぞれの税額を相殺して、プラスが生じていることから確定申告書の「差引税額」へ転記することとなる。 【確定申告書の作成】 確定申告書については、上記の付表1及び付表2-(2)の内容を反映させることとなるが、設例の場合では、差引税額(⑨欄)及び譲渡割納税額(⑳欄)を記載し、控除不足還付税額(⑧欄)及び譲渡割還付額(⑲欄)の記載は不要となる。 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第2回】 「地積は何を使うのか」 税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉 [1] 地積の種類 上記のうち、実務上よく使うものが公簿地積、課税地積、測量地積である。 「公簿地積」とは、土地登記簿の表題部に記入されている地積のことをいう。 「課税地積」とは、固定資産税の台帳に登録されている地積のことをいい、原則として、土地登記簿に登記されている地積によるものとされている(固定資産評価基準第1章第1節《地積の認定》)。 「測量地積」とは、対象地を個別に測量を行った結果である。 [2] 「公簿・課税地積 ≦ 測量地積」の場合 公簿地積・課税地積と測量地積が異なる場合がある。 評価通達は、すべての土地について実測を要求するものではなく、原則として、課税時期において実際の地積が実測等により明らかなものについては実際の地積により、実際の地積が明らかでないものについては台帳地積によると解されている(平成13年8月13日裁決〔TAINS・F0-3-130〕)。 ただし、熊本地裁平成6年4月25日判決〔税資201・131〕においては、本件土地の地積は、納税者が主張する登記簿上の地積134.62㎡ではなく、土地家屋調査士による地積測量図の地積347.19㎡であるとされている。 公簿地積や課税地積よりも地積の大きい測量図がある場合には、注意が必要である。 [3] 「公簿地積 ≧ 課税地積」の場合 例えば、国土調査法に基づく地籍調査が行われて、登記地積が修正されている場合である。 国土調査が終わった土地の登記地積は、その結果を受けて訂正される。 しかし、固定資産税を課税するに当たっては、国土調査が市内全域に実施されるまでの間、調査した土地としない土地で不公平が生じないように旧来の登記地積を課税地積としたままとなる。 相続または贈与の課税時期が、地籍調査後で課税地積修正前である場合、旧来の登記地積によるのはなく、修正後の地積によるものとされていることに留意が必要である。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第18回】 「日本IBM事件③」 公認会計士 佐藤 信祐 前回においては、【争点1】についての原告及び被告の主張について解説を行った。第18回に当たる本稿においては、裁判所がどのような判断を行ったのかについて解説を行うこととする。 (6) 裁判所の判断 ① 法人税法132条1項の射程範囲について 法人税法132条1項は、税務署長は、内国法人である同族会社(同項1号)に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる旨を定めており、同項は、その趣旨、目的に照らすと、上記の「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められる」か否かを、専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否かを基準として判定し、このような客観的、合理的基準に従って同族会社の行為又は計算を否認する権限を税務署長に与えているものと解するのが相当である(最高裁昭和53年判決参照)。 ② 原告をあえて日本IBMの中間持株会社としたことに正当な理由ないし事業目的があったとはいい難いか否かについて 原告は、 〔1〕 米国IBMが主導的にした日本におけるIBMグループを成す会社に係る組織の再編における持株会社又は企業を買収した複数の案件における受皿会社としてそれぞれ一定の役割を果たしたとはいえないとまではいい難いし、 〔2〕 資金を柔軟に移動させることを可能としたりIBMグループに係る租税の負担を減少させたりすることを通じてIBMグループが必要とする資金をより効率的に使用することを可能とするような一定の金融上の機能(金融仲介機能)を果たしていないともいい難い上、 〔3〕 上記の企業を買収した複数の案件以外の企業を買収する案件における受皿会社としての一定の役割を果たすことも期待されていたことも一概に否定し難い と認められる。上記〔1〕ないし〔3〕を前提とすれば、原告に持株会社としての固有の存在意義がないとまでは認め難いというべきである上、企業グループにおける組織の在り方の選択が基本的に私的自治に委ねられるべきものであることや、法令上、外国にある持株会社と我が国にある事業会社との間に有限会社である持株会社を置くことができる事由を限定する規定が見当たらないことも考慮すると、米国WTと日本IBMとの間に中間持株会社としての原告を置いたことに税負担の軽減以外の事業上の目的が見いだせないともいい難いというべきである。 ③ 本件一連の行為を構成する本件融資は、独立した当事者間の通常の取引とは異なるものであるか否かについて 原告は、本件融資のされた当時、日本IBM等4社の発行済株式の全部を保有していた上、基本的にいずれもIBMグループに属する米国WT及び日本IBM以外の者と債権債務関係が発生することが想定されていないことが認められるから、これらの事情を前提とすれば、本件融資が、独立した当事者間の通常の取引として到底あり得ないとまでは認め難いというべきである。 ④ 本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められるか否かについて 被告は、本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められるとして、 (ⅰ) 本件株式購入及び本件各譲渡は経済的合理性がないこと (ⅱ) 原告に有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が生ずることとなった経緯から米国IBMが税負担の軽減を目的として意図的に原告に有価証券の譲渡損を生じさせるような事業目的のない行為である本件一連の行為をしたことを推認することができること (ⅲ) 原告が中間持株会社として置かれた当初からいわゆる連結納税制度を利用して本件各譲渡により原告に生ずる有価証券の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することが想定されていたことが合理的に推認されること (ⅳ) 本件につき法人税法の適用のない米国法人が濫用的にその適用を受けて租税回避を企図したものと評価することができること をその評価根拠事実として挙げていたが、それぞれ裁判所によって否定されている。 なお、租税回避の意図が認められるか否かという点については、同族会社等の行為計算の否認を適用すべきか否かの判断としては間接的なものであると考えられるため、本稿においては、詳細な解説は省略する。 (7) 評釈 このように、中間持株会社としての機能を持たせたことについて、不自然・不合理なものとはいい難いという理由により、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認の適用を否定している。 本事件における当事者の主張において、前回解説した内容は、裁判所の判断に繋がったところのみを抽出しているが、実際の判決文においては、当事者の主張が多岐に渡るうえに、ほとんど噛み合っていないというところが印象的である。 とりわけ、中間持株会社としての実体については、物理的な意味での法人役員、従業員の事業活動の不存在、専用事業所ないし固有の事務所の不存在、業務の外部委託の事実については原告も認めているものの、そのような実体の有無と、事業目的の有無とは異なるものとして原告が主張しており、現場における感覚と裁判所における感覚の違いを窺い知ることができるものとして興味深い。 また、同族会社等が行った「行為」または「計算」が「不当」であった場合について適用されるべき同族会社等の行為計算の否認について、同族会社である中間持株会社の「実体」や「事業目的」を争っていたという点はやや物足りなさを感じるところである。 とりわけ、株式移転の方が容易に行えた持株会社の設立について、資金異動を伴わざるを得なかった本件スキームを実施することにより、多額の法人税の負担を減少させているという点については、一種の迂回取引のようにも思えてしまうが、この点についても、あまり踏み込んだ判断がなされていないし、被告側もあまり主張していない。 やはり、本事件の判決については、法人税法132条の限界ともいうべきであるが、そうなってくると、第1回目から第15回で解説した法人税法132条の2が極端に射程範囲が広いという印象を持たざるを得ない。本事件についても、控訴審、上告審についてそれぞれ見守りたい。 次回以降は、平成17年改正前商法の事件ではあるが、自動車の開発、製造等の事業を目的とする株式会社である原告が、本件子会社との間で事業再編による子会社株式の消却による払戻金を理由に、更正処分を受けた事件について解説を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【52】 〔第6章〕判例の見方 (その10) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 (⑤ 裁判の不服申立てに係る裁判の種類) (承前) これに対して、事件受理の申立ては、刑事訴訟規則第258条の以下の条文によるものである。 民事裁判の場合の上告受理の申立てには、その理由として「原判決に最高裁判所の判例と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件」とあったものが、刑事裁判による事件受理の申立ての場合には、その理由として「その事件が法令(裁判所の規則を含む。)の解釈に関する重要な事項を含むものと認めるとき」とされており、刑事事案の方が上告(事件)受理の申立ての範囲が狭い印象を受ける。しかし、刑事裁判の場合には、刑事訴訟法第405条において、以下のように規定されている。 このように刑事事件においては、原裁判所の判断が、最高裁判所の判例と相反する判断の場合には、(民事裁判の場合には、上告受理申立ての理由であるのに対して)上告理由とされているためであり、刑事裁判の方が上告の対象が狭くなっているわけではない。 なお、民事訴訟規則第192条に「前2条(法第312条第1項及び第2項の上告理由の記載の方式並びに法第312条第3項の上告理由の記載の方式)に規定する上告において、判決が最高裁判所の判例と相反する判断をしたことを主張するときは、その判例を具体的に示さなければならない」とある(本連載【第44回】参照)が、これは民事裁判においても、原裁判所の判断が、最高裁判所の判例と相反する判断の場合には、上告理由となるわけではない。 民事訴訟法312条第1項及び第2項各号には、原裁判所の判断が、最高裁判所の判例と相反する判断の場合については挙げられていない。したがってこれは、民事訴訟法312条第1項及び第2項各号を理由として上告した場合で、原裁判所の判断が、最高裁判所の判例と相反する判断をしたことを主張するときに具体的な記載を定めたものである。 なお上告受理申立ての場合には、これは「受理」の申立てであるから、最高裁判所がこれを受理しないという決定がなされた場合には、これは上告受理申立ての「不受理決定」ということになる。しかし、刑事裁判における事件受理申立ての場合には、最高裁判所が14日以内に上告受理決定がなされない場合は判決が確定し棄却決定されたものとみなされる。 (c) 跳躍上告 刑事訴訟法では第405条の上告理由に続いて、第406条において次のように規定されている。 この件につき刑事訴訟規則第254条第1項では、次のように規定されている。 したがって、第一審判決が、法律、命令・規則もしくは処分が憲法違反であるとした場合、又は地方公共団体の条例又は規則が法律に違反するとしたものである場合、あるいは地方公共団体の条例又は規則が憲法又は法律に適合するとしたものである場合に、その第一審の判断が不当であることを理由として、控訴審を飛び越えて上告することができる。 (d) 飛越上告 民事訴訟及び行政訴訟において、第一審の終局判決に対して控訴を経ずに、直接法律審へ上訴することで、先の跳躍上告が刑事訴訟の場合であるのに対して、民事訴訟及び行政訴訟に設けられたものである。 これについては、民事訴訟法第281条第1項、及び第311条第1項・第2項には、次のように規定されている。 この281条但書以下に、控訴をしない旨の合意をし、当事者双方が共に上告を求めた場合には、直ちに上告が可能であると規定されている。上告裁判所は、第311条第2項にあるように、第一審が地方裁判所の場合は最高裁判所、第一審が簡易裁判所の場合には高等裁判所となる。 第一審や控訴審は、事実問題と法律問題を併せて判断する事実審である。そこで事実認定については当事者間に争いがなく法律問題のみが争点となっている場合には、法律問題のみを争えばよいのであるから、直ちに法律審に進めるように、この制度が設けられている。 (続く)