生産性向上設備投資促進税制の実務 【第9回】 「中小企業投資促進税制の上乗せ措置」 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 小幡 修大 前回までは、生産性向上設備投資促進税制(措法42の12の5)の制度概要や別表の記載例等を紹介してきた。 その中で、中小企業投資促進税制(措法42の6)の上乗せ措置については、制度自体は大変重要にもかかわらず、これまでの解説の中で混在していたため整理ができていなかった。 そこで今回は、中小企業投資促進税制の上乗せ措置の理解を深めるために、テーマを絞って解説する。 1 中小企業者等に対する上乗せ措置 生産性向上設備投資促進税制とは別に、中小企業者等が設備投資を行う際に利用できる「中小企業投資促進税制(以下「中促」)」という税制措置がある。 中促の対象設備であって、「先端設備」又は「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」に該当するもののうち、取得価額要件を満たすものについては、中促の『上乗せ措置』として、生産性向上設備投資促進税制よりもさらに厚い税制措置を受けることが可能となる。 【中小企業投資促進税制の上乗せ措置イメージ】 2 要件及び要件確認 中促の上乗せ措置を受けるための要件や要件確認の流れは、生産性向上設備投資促進税制の「先端設備」や「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」と同様である。 〈要件〉 ① 上乗せ措置の対象設備A(先端設備) ② 上乗せ措置の対象設備B(生産ラインやオペレーションの改善に資する設備) 〈要件確認〉 生産性向上設備投資促進税制の「先端設備」「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」の要件確認スキームと同様。 3 対象設備の取得価額要件 (※1) 複数合計120万円以上取得で、現行措置又は上乗せ措置を適用する場合には、単品30万円以上であることが必要。 (※2) 複数合計120万円以上取得で、上乗せ措置を適用する場合には、単品30万円以上であることが必要。 (※3) 複数合計70万円以上取得で、上乗せ措置を適用する場合には、単品30万円以上であることが必要。 4 中小企業者等に対する上乗せ措置:対象設備リスト (経済産業省ホームページより抜粋) 5 ソフトウェア組込型機械装置 上乗せ措置の対象設備Aにおいて、ソフトウェア組込型機械装置限定で対象となる「一代前モデル」とは、各メーカーの中で下記要件をすべて満たすものをいう。 (了)
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第29回】 (最終回) 「統計データでみる相続税の税務調査」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 〔高い確率で申告漏れを指摘〕 相続税の申告・納税が完了した後、一定の確率で、税務調査が行われる。 国税庁が公表した「平成24事務年度における相続税の調査の状況について」によれば、相続税の調査実績は以下のようになっている。 〈相続税の調査事績〉 (注) 「申告漏れ課税価格」は、申告漏れ相続財産額(相続時精算課税適用財産を含む。)から、被相続人の債務・葬式費用の額(調査による増減分)を控除し、相続開始前3年以内の被相続人から法定相続人等への生前贈与財産額(調査による増減分)を加えたものである。 平成24事務年度の相続税の実地調査は、「平成22年中及び平成23年中に発生した相続を中心に、国税局及び税務署で収集した資料情報を基に、申告額が過少であると想定されるものや、申告義務があるにもかかわらず無申告となっていることが想定されるものなどに対して実施」したとされている。 仮に、平成23年中に発生した相続を主たる対象としていると考えると、平成23年中に他界した被相続人に関する相続税申告書(相続税額があるもの)の数は51,409件である(国税庁「平成23年分の相続税の申告の状況について」)。 一方、相続税の実地調査件数は12,210件であり、相続税申告書数(相続税額があるもの、平成23年分)に対する割合は23.7%となる。また、実地調査件数のうち、申告漏れ等の非違件数は9,959件であり、実地調査件数に対する割合は81.6%となっている。 このことから分かる傾向としては、相続税申告(相続税額のあるもの)に対しては、約4件に1件の確率で相続税の実地調査があり、実地調査があると約8割の確率で、申告漏れの指摘を受ける、ということである(*1)。 〔相続人との事前準備を〕 相続税の実地調査は、通常2名の調査官で行われ、1日又は2日で実施されることが多い。実地調査は被相続人の自宅で行われることが多く、相続人代表者が立会いを行うこととなる。 相続税申告書、被相続人・相続人の預貯金取引(過去5年程度)などを事前に検討し申告漏れの可能性が高いと考える項目を見つけた上で、実地調査に来ているケースが多いため、どのような項目に関心があるのか、まず明確にした方が(要するに、税務職員の方に単刀直入に聞いてしまう方が)対応する時間が短縮できるケースが多い。 一般的な税務調査の流れとしては、初日午前中は、他界された方の経歴(職業、収入の状況)、趣味などの確認が行われる。質問の趣旨は、相続財産として申告漏れとなっているものがないか、という視点ですべて質問が行われている(ゴルフが趣味であれば、ゴルフ会員権を持っているのではないか、相続税申告書に記載されているか、というように)。初日午後からは、自宅金庫・貸金庫の確認、預貯金通帳の確認、印鑑の確認などが行われる。 税理士であれば税務調査の立会いには慣れているであろうが、相続人代表の方など一般の方の場合は、税務調査が行われるということ自体に不安を持つ方がほとんどと思われる。このため、その不安を軽減するために、税務調査でどのようなことが聞かれるのか、どのようなことを調べるのか、事前に相続人代表の方とミーティングの機会を持った方がよいと考える。 また、上記のとおり税務署の方は通常2名で実地調査に来ることが多いため、立会いを行う税理士も税務署の方と同数以上にすることが好ましい(*2)。 連載終了にあたって 平成27年1月1日以降に他界した被相続人の相続税申告案件に関しては、基礎控除が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」に引き下げられるため、東京23区などの都市部を中心に、相続税申告案件が増加することが予想される。 ただし、インターネットによる情報収集など、一般の方の情報収集力は(特に若い世代になるほど)増加する傾向にあると考えられるため、顧客である相続人から、相続税申告案件を担当する税理士に対して、従来よりもより一層、高水準の専門的能力・知識が求められていく可能性が高い。 相続税申告業務に積極的に携わっていこうと考える税理士の方は、相続に関する法務・税務、不動産に係る法務・税務・評価など、自己研鑚を継続していく必要性が従来にも増して増加していくものと思われる。 本連載が読者の皆様の参考となれば幸いである。 (連載了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第25回】 「判例分析⑪」 公認会計士 佐藤 信祐 第20回においては法人税基本通達9-6-1(3)についての検討、第21回から第23回までにおいては法人税基本通達9-6-1(4)についての検討、第24回においては法人税基本通達9-4-1についての検討を行った。 第25回にあたる本稿においては、法人税基本通達9-6-2についての検討を行う。前回までの取扱いと大きく異なるのは、債権放棄の効力が生じていなくても、その全額が回収不能であると認定することができれば、貸倒損失の計上が可能であるという点である。 ⑤ 法人税基本通達9-6-2の検討 (ⅰ) 法人税基本通達9-6-2の規定内容 法人税基本通達9-6-2においては、 と規定されている。 すなわち、「その債務者の資産状況、支払能力等からみて」と規定されていることから、債務者の状況のみが判断材料になるように思えるが、本事件においては、「債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断」すべきであると認定したという点に特徴がある。 そして、「その全額が回収できないことが明らかになった場合」と規定されていることから、一部でも回収することができる場合には貸倒損失を計上することができず、貸倒引当金を設定することができるか否かという問題になる。 なお、回収不能と認められる場合の判定として、昭和39年に改正された旧法人税基本通達(昭和39年6月1日付直審(法)89)78の3において、以下のように規定されている。 上記の内容については、昭和44年における法人税基本通達の全面的改正により削除されたが、現在においても参考になる内容であると考えられる。なお、法人税基本通達9-6-1、9-6-2、9-6-3、9-4-1及び9-4-2がどのような歴史的経緯を得て、現在に至ったのかという点については、いずれ本連載において解説したいと考えている。 このように、法人税基本通達9-6-2の適用については、その全額が回収不能であることが要求されているため、本事件においても、その点が議論となっている。また、第19回で紹介した大阪地裁昭和44年5月24日判決(行集20巻5・6号675頁、判タ238号263頁、金判168号8頁、税資56号703頁)にあるように、「企業会計の場合よりも厳格なある種の制約を加えることは、当然に起こりうることである。」としていることから、企業会計における全額回収不能の判断よりも厳格な判断が行われる場合も考えられるという点に留意が必要である。 さらに、本通達においては、「担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできない」としているが、担保物があれば回収可能額が変動することから、かなり劣後にあるような債権者を除き、一般的には、保有する債権額のうちその全額が回収不能であると認定することができないため、担保物を処分した後である必要があるという趣旨であると解される。 なお、所得税法の事案であるが、担保付債権と無担保債権の両方を保有している場合において、担保付債権については一部回収可能であるものの、無担保債権の全額が回収不能であると認められる場合において、無担保債権に対して貸倒れとして必要経費に算入した事案が存在する。例えば、広島高裁昭和57年2月24日判決(税資122号355頁)においては、 として、その全額が回収不能であるとして、貸倒損失の必要経費算入を認めている。この点につき、大渕博義教授は、本件のような場合には、債権償却特別勘定の設定によることが妥当ではないかという意見に対して、 としたうえで、法人税法の場合についても同様の取扱いになるものと指摘されている。また、通達において、全額回収不能の場合としていることの整合性については、 としている。また、最高裁平成6年10月25日判決(税資206号57頁)、名古屋高裁平成5年9月30日判決(税資198号1213頁)、名古屋地裁平成4年24日判決(判タ803号136頁、税資189号219頁)も、貸倒損失の事件についてのそれぞれ上告審、控訴審、第1審判決であるが、同様の趣旨の判決がなされている。 このような、担保付債権と無担保債権の両方がある場合において、無担保債権の全額が回収不能であるときに、当該無担保債権に対して貸倒損失を計上することができるという点については、日本興業銀行事件の上告受理申立て理由において、 と記載されている。 なお、本連載においていずれ解説するが、金子宏教授が指摘されている部分貸倒れの議論とは別のものであり、私見ではあるが、部分貸倒れについては現行法上、認められる余地はないと考えている。しかしながら、上記のような無担保債権、劣後債権の議論については、部分貸倒れの議論とは別物であり、現行法上、当然に認められるべきであると考えられる。 次回においては、本事件において問題とされた「社会通念」について解説する予定である。 (了)
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《貸倒損失・貸倒引当金》編 【第2回】 「貸倒損失」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 前回ご紹介した有税引当となる貸倒引当金の繰入は、いずれその後の事業年度において、法人税法の規定する個別評価金銭債権に係る貸倒引当金繰入又は貸倒損失に該当し、税務上も損金算入されます。 今回は、このように前期以前に有税引当された貸倒引当金が税務上も損金算入されるときの処理をご紹介します。 1 当期の仕訳 〈A社〉 〈B社〉 〈C社〉 〈D社〉 (注) 損益計算書上、貸倒引当金戻入は貸倒損失と相殺されて、表示されません。 債権が法的に消滅した場合や、回収不能な債権がある場合には、その金額を貸倒損失として計上しなければなりません(中小企業会計指針要点)。各社の貸倒損失、貸倒引当金残高は、次のとおりです。 2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 税務上は、次のとおりです。 再生計画認可の決定により切り捨てられることとなった部分の金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入されます(法基通9-6-1)。B社貸付金のうち4,000,000円がこれに該当します。 再生計画認可の決定に基づいて弁済を猶予され、又は賦払により弁済される場合におけるその金銭債権のうち、その事由の生じた事業年度末の翌日から5年を経過する日までに弁済されることとなっている金額以外の金額(担保権実行その他により取立て又は弁済の見込のあると認められる部分の金額を除いたもの)については、個別評価金銭債権の貸倒引当金繰入限度額に含められます(法令96①)。B社貸付金のうち3,000,000円がこれに該当します。 また、継続的な取引を行っていた債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時がその停止をした時以後である場合にはこれらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(その売掛債権について担保物のある場合を除く)には、その売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない)についてその売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理したときは、税務上損金算入が認められます(法基通9-6-3)。C社とD社の売掛債権は金額も小さいので、この設例ではこれを適用することとします。 当期末における貸借対照表上の貸倒引当金残高は下記のとおりです。 (注) 期末資本金が1億円を超える法人で、かつ、貸倒引当金の適用法人に該当しない場合など所定の法人については、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に開始する事業年度において、上記の繰入限度額の4分の3、平成25年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する事業年度において、上記の繰入限度額の4分の2、平成26年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する事業年度において、上記の繰入限度額の4分の1が損金算入限度額となります(平成23年度税制改正)。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第54回】 連結会計④ 「子会社の資産及び負債の評価」 仰星監査法人 公認会計士 上村 治 〈事例による解説〉 A社は×1年3月31日にB社の株式100%を500で取得した。 ×1年3月31日のA社及びB社の貸借対照表は以下のとおりである。 B社が保有している資産の×1年3月31日時点の時価は1,500であり、含み益100が存在する。負債については簿価と時価とが一致している。 法定実効税率は40%とする。 〈会計処理〉 ① B社の資産の時価評価 ② 投資と資本の相殺消去 (*1) 資本金、準備金、剰余金が含まれます。 (*2) B社株式500 - B社純資産400 - B社資産の時価評価差額60 〈X1年3月期の連結貸借対照表〉 〈会計処理の解説〉 〇資産の時価評価について 連結財務諸表を作成するにあたって、子会社の支配を獲得した日の時価で子会社の保有するすべての資産及び負債を時価評価する必要があります。 A社は、×1年3月31日にB社株式100%を取得しており、この時点で支配を獲得したことになります。B社保有の資産について同日、つまり支配獲得日において含み益が存在するため、時価評価を行うこととなります。 資産の時価1,500と簿価1,400との差額100について、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額の差に該当しますので、税効果会計を適用する必要があります。 法定実効税率を40%とした場合、含み益100に税効果会計を適用し、繰延税金負債40を計上し、差額の60が評価差額となります。 〇投資と資本の相殺消去について 税効果会計適用後の評価差額60は、投資と資本の相殺消去仕訳において、子会社の資本とされます。そのため、投資である子会社株式500と、資本である子会社の純資産(簿価)400に評価差額60を合計した460とを相殺し、その差額40がのれんとされることになります。 のれんは買収プレミアムの性格を有します。このプレミアムを適切に計算するためには、買収する会社の簿価(純資産400)ではなく、買収する会社の時価(純資産+評価差額460)と購入金額(子会社株式500)の差額で計算することが必要になります。 (了)
基礎から学ぶ統合報告 ―IIRC「国際統合報告フレームワーク」を中心に― 【第6回】 「8つの「内容要素」とは?(その1)」 公認会計士 若松 弘之 1 8つの「内容要素」の解説 フレームワークの目的は、統合報告書の全般的な内容を統括する「指導原則」と「内容要素」を規定し、それらの基礎となる概念を説明することでした。前回までで「基礎概念」と「指導原則」については詳しく解説してきましたので、今回はいよいよ最後のヤマ場である「内容要素」について、しっかり理解していきましょう。 フレームワークでは、「内容要素」を以下のように定義付けています。 以前、「指導原則」の「情報の結合性」で解説したとおり、統合報告書では、それぞれの開示事項や内容の相互関連性を大事にしていることが、上の定義からも分かります。また、企業や組織が様々な「内容要素」をもれなく検討し、開示要求事項を確実に記載していけるよう質問に回答するような形で記述されています。 「内容要素」は以下の(A)から(H)までの8つの項目で構成されていますが、まずは全体像を見てみましょう。 「内容要素」を明確にして確実に記載するための質問事項はこれで全てです。思ったより少ないですね。ただし、それぞれの質問は企業価値の本質に関連する非常に深いものといえるでしょう。そして何よりこれらを相互に関連付けて説明していくというとても難しい作業が伴います。 ここで、ぜひ活用したいのが、以前登場した「価値創造プロセス」イメージ図です。 (出所:IIRC国際統報告フレームワーク日本語訳) よく見てみると、確かに中央の箱の中に「内容要素」のうち、「(B)ガバナンス」「(C)ビジネスモデル」「(D)リスクと機会」「(E)戦略と資源配分」「(F)実績」「(G)見通し」が関連する形で含まれています。また、「(A)組織概要と外部環境」についても、図中キーワードである「使命とビジョン」や「外部環境」と重なってきます。「(H)作成と表示の基礎」は、「指導原則」と密接なつながりがありますので、この図には登場しませんが、ほとんど全ての「内容要素」がこの図に表れています。 それでは、1つずつ解説していきましょう。 (A) 組織概要と外部環境 まず、はじめに企業の使命やビジョンを明確に伝えることが求められます。企業や組織が何のために存在し、どのような経営理念、文化、倫理観に基づき、どのような人により経営されているのかという基本的な概要を提供します。これに加えて、その企業が属する業界やマーケット、競合他社や市場シェアなどのポジション、事業所や展開地域、従業員数や売上高など、組織概要が分かる情報も提供します。 さらに、長期にわたる価値創造能力に影響を及ぼす外部環境(例えば、法規制、マクロ及びミクロの経済状況や商慣習、社会的課題、環境対応や規制、政治的リスクなど)について、これに対する企業の対応も含めて情報提供する必要があります。 (B) ガバナンス 企業や組織をきちんと統治(ガバナンス)する能力や構造は、長期にわたる価値創造を支える重要な要素になります。フレームワークでは、具体的例示として以下の要素などについて情報提供を求めています。 (C) ビジネスモデル 「価値創造プロセス」イメージ図を見て分かるとおり、「ビジネスモデル」とは、組織の戦略目的を達成し、短、中、長期に価値を創造することを目的として、「事業活動」を通じて「インプット」を、「アウトプット」及び「アウトカム」に変換するシステムです。 したがって、その要素である①「インプット」、②「事業活動」、③「アウトプット」、④「アウトカム」について詳しく説明することが「ビジネスモデル」の情報提供につながります。以下は①から④を説明する視点です。 (D) リスクと機会 企業にとって重要かつ固有な「リスクと機会」を特定したうえで、外部環境に起因する「外的なリスクと機会」及び、企業の事業活動に起因する「内的なリスクと機会」について、なるべく具体的に説明します。 また、「リスクと機会」がどのような状況で実際に発生するかの可能性や、その場合の影響評価についても合わせて説明します。 さらに、戦略目標や方針、その達成状況を示すKPI(目標の達成度合いを計る定量的な指標)を識別することなどを通じて、主要なリスクを低減または管理したり、主要な機会から価値を創造したりするための具体的な手順も示します。 * * * 「(E)戦略と資源配分」以降の「内容要素」については、次回解説いたします。 (了)
最新!《助成金》情報 【第1回】 「雇用関連助成金の活用(その1)」 特定社会保険労務士 五十嵐 芳樹 1 雇用関連助成金の目的 雇用関連助成金は、雇用保険二事業である雇用保険法第62条の雇用安定事業と第63条の能力開発事業の規定に基づいて次の目的を達成するために実施される。 失業予防や雇用機会の増大などは社会の安定に不可欠のため、時の政府にとって重要な政策目標となる。例えば長引くデフレによる景気低迷時には新分野への事業進出と雇用拡大のため中小企業基盤人材確保助成金を拡充したり、リーマンショック以降の景気悪化時には離職者抑制のため雇用調整助成金の要件大幅緩和と支給額の増額を実施したりしていた。 このように雇用関連助成金は、景気社会情勢、経済状況、雇用情勢などを色濃く反映するため毎年制度の改正や新設、廃止などが行われるので、効果的に活用するためには定期的な制度のチェックが必要である。 また、雇用関連助成金には、法改正に伴う新制度施行を後押しする役割を担っているものもある。例えば仕事と家庭の両立支援、非正規労働者の教育訓練や正規労働者への転換、あるいは障害者などの雇用促進である。他に先駆けての新制度導入を検討している事業主においては、活用できる助成金があるかどうかチェックすることも重要となる。 2 雇用関連助成金の手続と手順 雇用関連助成金を受給するには、定められた手順に従い計画的に手続を行わなければならない。例えば新規雇用関連の助成金ではハローワーク等への事前の求人申込が必要であるし、教育訓練関連の助成金では事前に教育訓練計画の認可を得ることが必要である。 すでに新規雇用や教育訓練などを実施した後で助成金を受けようとする事業主が時々いるが、定められた手順の手続を経なければ助成金は支給されない。これは助成金が新規雇用や教育訓練の決断を促すことで政策目標を達成しようとするものであり、助成金がなくとも新規雇用や教育訓練を実施したのであればそもそも助成する必要はないためと、恣意的な措置を講じた後の不正受給を防止するなどのためである。 以上により、助成金を活用しようとする場合は、事前にどのような手順による手続が定められているのかを確認したうえで、その手順に従って計画的に手続を進める必要がある。 3 雇用関連助成金の意義 助成金は返済する必要のないお金を受け取れるものであるが、すべての助成金がタダということではない。例えば新規雇用が条件の助成金では新規雇用した従業員に賃金を支払い続ける必要がある。 これは以前、実際にあった事例であるが、ある事業主が求人に応募した何人かの中から人柄や能力に多少の不安点があったにもかかわらず助成金の対象となる人を採用し、採用後にその不安点が問題として顕在化して職場が不安定になってしまった、ということがあった。その事業主は、「今回の採用は失敗だった、助成金を返還してでもその人に退職してもらいたい」と嘆くような事態となってしまったのである。 助成金が支給されると確かに一時的にお金は増えるが、やがてそのお金はなくなる。しかし新規雇用した人の賃金は支払い続けることになる。その新規雇用した人が職場に適応し能力を発揮して働き続けられればその採用は成功であるが、そうでない場合はその採用は失敗となる。 新規採用の真の目的は良い人材を採用して事業に貢献して働いてもらうことであり、助成金そのものではない。助成金はあくまでも取るべき措置の一助でしかなく、助成金自体を目的にすることは危険なのである。 4 雇用関連助成金の費用 雇用保険料は、雇用保険被保険者の賃金総額に事業の種類に応じて次表の保険率を乗じて算出するが、その雇用保険率の事業主負担率の中には雇用保険二事業のための保険率(表中カッコ内の率)が含まれており、その額は全額が事業主の負担となっている。 そのため、雇用関連助成金は費用負担がないままもらえるわけではなく、事業主は毎年その費用の一部を負担していることになる。言い換えれば、助成金を活用していない事業主は費用負担だけを続けていることになる。 5 雇用関連助成金の支給対象事業主 雇用関連助成金の支給対象となる事業主の要件は、助成金の種類に応じて個々に定められているが、すべての雇用関連助成金に共通する要件として次の①と②がある。この要件については随時参照していただきたい。 6 中小事業主の範囲 雇用関連助成金は中小事業主に限定して対象とするものや、支給額が中小事業主とそうでない事業主では異なることもあるので、中小企業事業主であるか否かは重要である。雇用関連助成金で定める中小企業事業主の範囲は次のものである。 7 雇用関連助成金の申請に際しての注意点 雇用関連助成金の申請に際しては、次の①~③に十分注留意する必要がある。 8 雇用関連助成金の担当窓口 雇用関連助成金の担当窓口は、助成金ごとの種類に応じて事業所を管轄する地域の次のいずれかとなる。担当窓口が不明の場合は、事業所管轄のハローワークへ問い合わせて確認する。 9 主な雇用関連助成金 雇用関連助成金には多くの種類と内容の助成金があるが、その主な助成金の名称や特長及び支給額の概略及び【 】内の担当窓口は次の通りである。なお、支給額の( )内の金額は中小企業事業主に対する支給額となる。 今回は主な助成金のワンポイントについて解説し、次回以降に個々の助成金についてもう少し詳しく解説する予定である。 (1) 労働者の職業能力の向上を図るための助成金 (2) 新たに労働者を雇い入れる際の助成金 (3) 労働者の雇用維持を図るための助成金 (4) 離職する労働者の再就職支援を行う場合の助成金 (5) 仕事と家庭の両立支援や女性活用推進に取り組む事業主への助成金 (6) 労働者の処遇や雇用環境の改善を図るための助成金 (7) 高齢者の雇用を安定させるための助成金 (8) 障害者の雇用促進や障害者が働き続けられるようにするための助成金 (了)
建設業をめぐる労災制度のポイント 【第1回】 「建設業に特有の労災制度とは」 社会保険労務士 菅原 由紀 1 労災保険の概要 労災保険とは、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷・疾病・障害又は死亡に対して労働者やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度である。 労災保険給付の概要は以下の通りである。 図1 労災保険給付の概要 (出典:厚生労働省「労災保険給付の概要」P11) 2 建設業の労災保険の特徴 一般の事業に関する労災保険は、労働者が勤務している会社の労災保険が適用されるが、建設業の場合は構造が異なる。 建設業は、「元請→下請→下請」といった重層的な請負構造で事業が行われていることが多々ある。工事現場で下請の事業所に使用される労働者は、所属する会社の労災保険で保護されるのではなく、元請の労災保険で保護されることになるという特徴がある。 また、労災保険料の算定においても、請負金額をベースに保険料を算出するため、一般の労働保険の手続きとは大きく異なる。 さらに、元請の労災が適用されるのは、「労働者だけ」であることにも注意が必要となる。下請の事業主は元請の労災保険は適用されないため、実際に工事現場で業務を行う下請の事業主は、事業主自身も労災に加入する必要がある。 労災保険料は、請負金額を基にして算定されるため、元請のみが支払って、下請には労災保険料はかからない。このように、建設業は労災保険料を支払う対象も労災保険料の計算方法も一般事業とは異なる特徴を持つ。 3 工事現場の労災保険の適用範囲 一つの工事現場が数次の請負によって行われている建設事業などの場合には、その事業を一つの事業とみなし、元請負人(元請会社)のみをその事業の事業主とすることになっている。 では、年間を通じて全工事が下請である会社は、労災に加入しなくてもよいのだろか。 また、元請工事がある場合は、工事現場の労災保険関係のみ成立していればよいのだろうか。 以下に、元請工事会社の工事現場の労災保険で補償される範囲を図で示す。 図2 元請の労災保険の適用範囲 上図のように、下請であっても労働者の日常の動きを考えると、工事現場の保険関係だけでは不十分で、事務所(現場以外)の保険関係は自社で成立させる必要がある。 (了)
私が出会った[相続]のお話 【第9回】 「当家全員のハートをつかむには、真摯に。そして、実意丁寧に。」 ~困難な遺留分侵害の遺言執行が第2・第3の事案依頼へ~ 財務コンサルタント 木山 順三 〔一族の犠牲になってきたFさん〕 Fさんはご両親のお世話のため、他の兄弟姉妹に代わり、70歳になるまでずっと独身のまま過ごしてこられました。Fさんのおかげで、他の兄弟姉妹は今日まで気楽な生活を過ごしてこられたわけです。 いわばFさんは、他の兄弟姉妹の犠牲になってきたと言っても過言ではないでしょう。 そんなわけで妻に先立たれたお父様も、Fさんにほとんどの財産を相続させる旨の公正証書遺言書を残されました。これは完全なる「遺留分侵害の遺言書」です。 遺言執行者は信託銀行の遺言信託契約により、当時勤務していた私が前任者の定年により引き継ぎ、後任者としてその任に当たることになりました。 Fさんの家族構成や資産状況、遺言書の内容等は下記のとおりです。 〔事前活動を開始〕 前任者から引き継ぎを受けた私は、まず前任者が作成した公正証書遺言書の内容を見て遺留分侵害であると確認し、来るべき相続開始に際してどのような方法をとるのが最良かを考えました。 そのために、上記に述べた遺留分侵害の遺言書作成に至る経緯や、当家の財産保有状況や家庭環境等の把握に努めました。 以上の状況を担当者として把握した私は、来るべき相続開始に備え、活動を始めました。 まずは、実権者である長男の信頼を得なくてはなりません。 たまたま長男の妻が亡くなられ、その死亡に伴う遺産整理の手続依頼を受けることになりました。あまり手間のかからない整理手続でしたが、真摯に取り組んだことで大変感謝していただき、それを機に将来のご自分の遺言書作成の支援依頼をされるほどになりました。 そんな時に、お父様の相続が発生したのです。 〔長男の真意は〕 すっかり親しくなった長男へ、私は正直に尋ねました。 以上のような事前の説得(根回し?)の上で、長男主導のもと、遺言書披露を行いました。幸いにして相続人全員が了解していただき、無事遺言執行手続が完了しました。 でも、物語の本題はこれからだったのです。 〔長男の死去〕 お父様の相続後、長男から「自筆証書遺言書の見本を書いてほしい」との依頼がありました。私は公正証書で作成するよう申しましたが、とりあえず見本がほしいとお願いされました。 それからしばらくして、二男から、長男が死去した旨の連絡が入りました。 そして、万一の時は私に相続手続をお願いするとのことでした。 葬儀関連も終わり落ち着いた段階で、二男から「自筆証書遺言書」の存在を確認しました。そして、二男と共に遺言書の検認の申立てと審判を受けました。 その審判を受けた時です。二男が私に思わず言いました。 二男が差し出した自筆証書遺言書を拝見すると、そこには「(愛人)A子に〇千万円遺贈する。」との文言が。 やはり長男としても、公証人や証人に内容を知られたくなかったのでしょう。 このようなことがあってから、私は、公正証書遺言書を作成したがらない方には「何か不都合なことでも?」と、必ずお尋ねするようにしています。 〔そして二女(Fさん)の死去〕 長男の相続手続も終わり、次の私の仕事は、Fさんに遺言書作成をお勧めすることです。 と、このような状態でした。 それからしばらくして、Fさんが体調を崩し、入院することになりました。 私はすぐさま二男に連絡し、看護に努めるよう申し上げました。 その甲斐もあってか、Fさんは体調も回復し、退院することに。 そして退院後のある日、私のもとにFさんから電話が入ったのです。 そんなFさんも数年後、亡くなってしまわれました。 今回は公正証書遺言書で、かつ、遺留分も生じず、スムーズに遺言執行手続を実行することができました。 思えばご当家の財産が、父親から二女に、そして二男へと引き継がれたわけです。 もっとも居宅を含む不動産は、二男の住居地の関係から処分せざるを得ず、お墓を含む仏壇等の祭祀関係の引き取りに時間を要しました。 しかしながら、形の上ではご当家の先祖からの永続性は引き継がれたわけです。 〔二男がやるべきことは〕 以上のような経緯で、ご当家は無事、二男に継承されました。 次に大切なのは、二男が子供たちに引き継ぐ準備を忘れずにすることです。 そして現在、二男に遺言書作成を勧めているのですが、興味深いことに、兄弟間の遺言書による相続手続の重要性を経験された二男が、自分のことになるとなかなか腰を上げられない。むしろ奥さんの方が積極的に遺言作成を勧められておられます。 やはり各々の立場によって、考え方や感情が変化していくものなのですね。 〔真摯に。実意丁寧に。〕 いかがですか? このように資産家からの信頼を得ることができれば、その時の一事案にととまらず第2、第3の事案対応へと展開していくのです。 要は、その時々の事案に対し、真摯に、実意丁寧に取り組むことが、一家丸抱えという成果に結びつくものと確信します。 (了)
2014年8月28日(木)AM10:30、Profession Journal No.83 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。