〔小説〕 『東上野税務署の多楠と新田』 ~税務調査官の思考法~ 【第3話】 「売上急増、所得低調」 税理士 堀内 章典 準備調査 7月の異動から早くも1月が経過し、お盆休みもあっという間に終わってしまった。 いよいよ今日から、調査部門が税務調査の最盛期に入る。 お盆休み中一斉に休暇をとる調査部門の調査官は、里帰りや家族サービスなど各々の時間を過ごし、十分に英気を養ったあと、人事評価の裁定期間となる12月まで、調査に没頭するのである。 多楠調査官はというと、異動後、税務大学校そして城東地区の税務署が持ち回りで行う調査1年目研修で1月ほどを費やしていた。 あの部門での顔合わせ、その後の赤羽のスナック「かわばた」での新田の奇異な立ち振る舞いは、多楠にとって強烈なインパクトとして残ったのは事実であるが、今となるとはるか以前に起きた出来事のように思えた。 その後、新田とは仕事上の最小限しか会話をしていない。 これから“あの”新田と一緒に仕事をするかと思うと、気が重くなる多楠であった。 ▼ ▲ ▼ お盆休み明け、久々に8時に出勤した多楠は淡路と共に、税務署の若手職員がしているように部門全員の机を拭いていた。 窓際に背を向けての配置されている田村統括官のデスク、その前に少しスペースを置いて統括官と同じ向きで配置されている三浦上席のデスク、Tの字形に三浦上席側から見ると、デスクの左側に新田調査官と多楠調査官、右側に小泉調査官と淡路調査官が縦に配置されている。新田と小泉、多楠と淡路がそれぞれ正面向かい合った配置になっている。 机拭きも終わりかけたころ、ポツポツと部門のメンバーが出勤してきた。 「やぁやぁ、多楠君元気?田舎に帰ったのはいいけど電車が混んで7時間立ちっぱなし、休暇にならなかったよ。」といつもの明るい調子の三浦上席。 最後から2番目に来たのは田村統括官 「みんな出勤しているかな。お盆休み中事故はなかったよね。何かあったら今からでもいいからチャンと報告してね。じゃないと私の責任になってせっかくの退職金が減額になるんだから。」 いつものように出勤時刻8時45分ギリギリに来たのは新田であった。 周りに聞こえるか聞えないかというような小さな声であいさつをした新田は、さっと自席についた。 ほぼ同時に始業のベルが鳴り、調査官たちのそれぞれの仕事が始まった。 ▼ ▲ ▼ 多楠は明日から調査に入る有限会社金杉商店の準備調査を始めた。準備調査とは、調査に着手する前に調査官が行う作業で、調査法人の3年から5年間のPL及びBS主要科目の推移を所定の様式にひろい出し、さらに不審な資料情報の確認、過去の調査事績などから調査のポイントを洗い出して、想定される不正計算や課税もれなどを事前に把握する重要な作業である。 前回の調査が5年前とすれば、それ以後5年間の取引の適否をわずか数日間の調査で判断する、極めて限られた時間で行うシビアな作業が税務調査なのだ。調査で会社に臨場する期間は会社の規模にもよるが、税務署の一般部門が投下する日数は2~3日が標準である。 まして、一般部門(注)の調査官の年間調査件数は30数件、限られた時間で件数をこなし、不正計算や課税もれを把握しなければならないのが税務調査である。 調査官のメンツ、他の調査官との競争など、とにかく12月まで、調査官はひたすら走り続けるのである。 そこで重要になってくるのが準備調査というわけである。 準備調査をしっかりと行い、調査する項目のポイントを絞り、会社に臨場、代表者などから概況を聴取し、限られた時間で何を調べるかをさらに絞り込み、効果的な調査をする。忙しくて満足に準備調査もしないで調査に行く調査官もいるが、それは会社のことをよく知らずに丸腰で調査に行くようなものであり、手を抜くのは簡単だが、調査結果もおのずとしれたものになりかねない。 多楠は新田から、最初から最後まで初めての準備調査を任されていた。 お盆休み前から少しずつ研修の合間をぬって作業はしていたが、着手の前日に新田に準備調査書を提出するのではちょっと遅すぎる。 三浦上席と淡路調査官のチームは、“万年上席”を自称する三浦が端正な顔立ちの淡路とのペアということで俄然張り切っていた。三浦と淡路は席が離れていたが、三浦は自席に淡路を呼び、準備調査書の記入の仕方から調査の進め方などを親切丁寧に教えていた。ただし、何度も呼びつけられるので、淡路も多楠に向かって思わず細い眉をひそめて苦笑いをしたこともあった。 一方の新田と多楠チームはどうかというと、新田の事案でありながら準備調査はすべて多楠にお任せ、アドバイスなど一切なかった。 初めての準備調査と研修過多で遅々として作業が進まず、準備調査が遅れに遅れた多楠であるが、新田相手に言い訳をしても始まらないと自分に言い聞かせ、午前11時、最後のチェックを終え、恐る恐る新田に準備調査書を提出した。 新田は、準備調査書の上りがギリギリになったことについては一切触れず、調査書をパラパラめくりながら、多楠へ顔を向けることなく言った。 「この会社の問題点、一言でいうとなんだ。」 (やはりそうきたか。) 多楠は先日までの調査1年目研修で習ったとおりに答えた。 「売上がここ5年間で急増していますが、申告所得金額が毎年2,000万円くらいで低調です。」 すると新田はすかさず言った。 「売上急増、所得低調? ・・・まったく調査のポイントが絞られていないな。お前は単に、ここ5年間の調査会社の実態を言っているに過ぎない。」 「えっ・・・」 多楠は言葉に窮した。 研修でも『売上急増、所得低調の会社は要注意』と講師であるベテラン調査官が言っていた。しかも、金杉商店の前回調査時の準備調査書にも同じ文言が書いてあったのである。 (自分の説明が足りないことは何となくわかったが、何が足りないのか・・・しかも一言でいうとなると・・・。) 大学で会計学や租税法もそれなりに勉強してきた多楠にとって、まったく理解しがたい新田の一言であった。 (僕は新田さんに嫌われているんだ。きっとそうに違いない。) 新田はそれ以上、多楠を問い詰めることはなかった。準備調査を手元に置くと、多楠が作成したPL及びBS主要科目の推移に見入っていた。 (次ページへ) (前ページへ) 調査着手 翌朝、ギラギラした太陽が照りつける厳しい残暑の中、午前10時に金杉商店の前に立つ多楠と新田。 多楠が先に会社の事務所受付で近くにいた社員と見られる女性に用件を言うと、しばらくして受付のドアが開き2人の男が現れた。 作業着を着た社長の森本と半袖シャツ姿の税理士の尾崎であった。 2人は会社の応接室に案内された。 尾崎税理士 「暑い中ご苦労様です。今回はお2人で調査ですか。よろしくお願いいたします。」 ここは本来先輩の新田が応える場面であり、税理士の尾崎も見た目年長の新田に向かって声をかけているのだが、新田は応えようとしない。 しかたなく多楠 「私が新人調査官なものですから、新田調査官に付いて指導を受けているのです。」 尾崎 「そうですか。税務署もベテランが退職し、若手の調査官が増えて調査技法を伝授するのが大変らしいですね。」 そんな導入の会話から事業の概況まで、多楠は前日に新田から指示されたとおり、いかにも新人調査官というぎこちなさの中、たどたどしい概況聴取を進めていった。 前回の調査では父和夫が社長で鉄男は専務取締役であった。その調査にも鉄男は父和夫と共に立ち会ったが、現在和夫は第一線を退き調査に立ち会っていない。税理士は同じく尾崎である。社長の森本鉄男は色黒の職人といった顔つきをしていて、受け答えもハッキリしており、いかにも江戸っ子という雰囲気であった。 ▼ ▲ ▼ 森本は自らの事業について、矢継ぎ早に語り出した。 「うちのような実質個人商店は、人がやらないことをやらないと儲かりません。」 「大手の工場の作業工程で発生したアルミやステンレスの切れっぱしを安い値段で買い取って、ひとつひとつ丁寧にバリを切り取るなど地味な作業をし、加工して再度既定の部材として販売する。誰もこんな仕事をしたいとは思いません。だから利益になるんです。」 「毎年利益は出しているんですが、鋼材の買い入れを安くするために現金で仕入をしています。一方の鋼材の売上は原材料の業者間取引では手形が原則、ほとんどが90日サイトの手形になっており、毎月資金繰りで頭を悩ませています。」 「オヤジの父親の代からこの商売をしていますが、なぜかこの事業は加工する作業員が10名を超えると目が行き届かなくなるせいか採算が悪くなる。だから今もベテランの職人が8名で作業をしているんです。」 11時を過ぎようとする頃、多楠の要領を得ない事業概況の聴き取りが一段落したので、作業場を見せてもらうことにした。事務所の隣にある作業場は昼間でも薄暗く、冷房もあまり効いておらず、まさに灼熱の世界であった。部材を切断する機械の甲高い音、旋盤のうなる音が響く中、金属が焼け付くときの独特の臭いが漂う過酷な作業場で、確かに8名の作業員が黙々と作業をしていた。 その作業場でどのような作業が行われ、どのような流れで作業が進められているのか、額に汗しながら森本は、騒音の中途切れ途切れで聞き取りにくい声ではあったが丁寧に説明をした。 70歳にはなると思われる尾崎税理士が真っ先に悲鳴を上げ、クーラーの効いた事務所に引き上げようと提案、一行は20分ほどの作業場の確認を終え事務所に戻った。 ヤレヤレという表情の尾崎税理士、手拭いで顔を拭う森本社長、汗でシャツがびっしょりの多楠の横で、唯一汗もかかないのが新田であった。 ここで初めて新田が口を開いた。 それは多楠も想定外の一言であった。 「社長にお伺いします。売上がここ5年間で急増していますが、所得金額が毎年2,000万円くらいで低調です。なぜですか?」 多楠は自分の耳を疑った。 『売上急増、所得低調』 (昨日僕が言った答えと同じだ。 それは答えになっていない、単に会社の5年間の実態を言っているだけに過ぎないと一蹴したじゃないか。 なぜ同じフレーズを社長に質問するんだ!) しかし、社長の森本は、多楠とはまったく異なる感覚で新田に対面していた。 森本は、先ほどから脈絡のない、たどたどしい質問をしてくる多楠に少々イライラしながらも、傍らでさりげない態度ながら鋭い眼光の新田がただならぬ存在であることを見抜いていた。 森本は金杉商店に入る前、父親のコネで10年ほど中堅どころの鋼材卸会社に勤務、主に営業を担当していた。その後、金杉商店に入社し10年ほどで専務に就任、以来上場会社の工場が多い仕入先の役員の接待から、一癖二癖ある業界仲間や鼻息の荒い若い衆を相手に丁々発止のやり取りをしてきた森本には、直感的に人を見る目が備わっていた。 “コイツは要注意だ。” その新田から初めて聞いた声が「売上急増、所得低調の理由」。 前回の調査にも立ち会っており、調査とはどういうものか経験済みの森本も、いきなり発せられた素朴な質問に答えを窮してしまった。 「え~と、あの、その・・・。」 江戸っ子らしさがなくなり口ごもる森本を、新田はじっと見つめていた。 (続く)
《速報解説》 「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」がパブコメに ~平成27年6月1日からの適用を想定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年12月12日付(掲載日12月17日)で、 コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議から、「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)《コーポレートガバナンス・コード原案》~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」が公表され、意見募集が行われている。 意見募集期間は、平成27年1月23日までである。 本稿では、「コード(原案)」のうち、特徴的と思われる部分について述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ コード(原案)の主な特徴 コード(原案)では、次のように、コーポレートガバナンス・コードについて述べている。 コード(原案)については、次のような特徴が述べられている(コード(原案)、2~5ページ)。 Ⅲ コード(原案)の主な内容 基本原則として次のことが述べられている。 基本原則には、「考え方」、「補充原則」、「背景説明」が記載されているので、それらを含めてお読みいただきたい。 例えば、より詳細に、次のことが述べられている。 Ⅳ 今後の予定 今後、東京証券取引所において、「『日本再興戦略』改訂2014」を踏まえ、関連する上場規則等の改正を行うとともに、コード(原案)をその内容とする「コーポレートガバナンス・コード」を制定することが期待されている。 コード(原案)は、東京証券取引所において必要な制度整備を行った上で、平成27年6月1日から適用することが想定されている。 (了)
本誌連載 「居住用財産の譲渡所得3,000万円特別控除[一問一答]」が 『100問100答』として書籍になりました! - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
《速報解説》 パブコメを受け、「マイナンバーの取扱いに関するガイドライン」が公表 ~「事業者編」・「金融業務編」に分け取扱いを具体的に解説。『Q&A』も公表~ 仰星監査法人 公認会計士 岡田 健司 はじめに 特定個人情報の取扱い全般について監視・監督する役割を担う特定個人情報保護委員会は、平成26年12月11日付で、「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(以下「ガイドライン」という) を公表した。ここでは、このガイドラインの概要について解説する。 1 本ガイドラインの位置づけ 本ガイドラインは、番号法第4条の規定(国が特定個人情報の取扱いの適正を確保するために必要な措置を講ずる責務を負っている旨の規定)を受け、個人番号を取り扱う事業者(金融機関を含むすべての民間企業等)が特定個人情報の適正な取扱いを確保するための具体的な指針を定めたものである。 番号法では、特定個人情報の利用範囲を限定的に定めていることから(番号法第9条及び別表第1参照)、その運用を確実にすべく入手、利用、管理等についての具体的な方法等を定めるものである。 なお、特定個人情報とは、個人番号を含むその内容に含む個人情報をいう(番号法第2条第8項)。 2 本ガイドラインの読み方と活用方法 本ガイドラインは「4章+2つの資料」という編成となっている。第1章は導入部、第2章は番号法にも規定のある主要な用語の定義規定であることから、第3章、第4章が本ガイドラインの具体的な内容を定めたものである。 特に第4章は事業者の参考となる実務上の指針、典型的な具体例等が設けられ、留意すべき点にはアンダーラインを付すなどの配慮もなされていることから、まずは第4章から確認していき、適宜第2章の定義規定等に振り返るのがよいと思われる。 また、資料として(別添)資料があるが、後述する保護措置の具体的な例示が箇条書きで整理されているため、イメージを掴むのによい。また、巻末資料には個人番号の取得から廃棄までの一連のプロセスについて、本ガイドラインの該当する箇所が記載されていることから全体像が把握しやすい。 そこで、第4章と2つの資料を横置きして読み進めていくのが効率的だと思われる。 なお、事業者のうち金融機関が行う金融業務については、第4章について、事業者のうち金融機関が行う金融業務は別冊の「金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」が適用される。 3 本ガイドラインの主な内容並びに具体例 本ガイドラインが規定する主な内容を理解するうえでのキーワードは「保護措置」である。 保護措置とは、要するに、個人情報を厳格かつ完全に管理するための方法である。 これまで個人情報保護法においても保護措置は規定されていたものの、個人情報保護法の対象は個人情報の取扱い件数が相当数以上の事業者のみであったことから、全事業者が対象となる番号法においても同様に、また「個人番号」という極めて機密性の高い個人情報をその内容に含むことから、より高い水準の保護措置を定める必要がある。 そこで、本ガイドラインで事業者が採るべき保護措置の具体的な方法等を定めている。 保護措置の内容としては、大別すると、 の3つである。 簡単にいえば、 である。 これらを遵守するための事業者の指針となるものが本ガイドラインである。 例えば、第4章には、①について、事業者は社員の管理のために、として、個人番号を社員番号として利用してはならないことなどが定められている。利用制限を理解するうえでそもそも個人番号の利用が認められる目的の範囲について事例を交えて比較的わかりやすく解説されている。 また、②について、事業者が採るべき必要な監督の内容として、特定個人情報に関する事務の一部を外部に委託する場合に契約内容として盛り込むべき内容が具体的に解説されている。また、③についても同様に、個人番号の提供・収集・保管等が認められるケース、認められないケースがわかりやすく解説されている。 なお、特定個人情報の廃棄の具体的な方法については(別添)資料「特定個人情報に関する安全管理措置(事業者編)」にも記載されている。 なお、内閣府からは本ガイドラインに関するQ&Aも公表されている。併せて確認されたい。 4 まとめ 本ガイドライン中には「しなければならない」あるいは「してはならない」という記載が多くみられる。そこで、これらの記載のある事項について遵守されていない場合には法令違反と判断されるケースもありうる。 ご周知のとおり、番号法は、その違反について一般法である個人情報保護法等よりも重い罰則(刑事罰を含む)を設けていることから、遺漏なき対応が求められる。 また、特定個人情報に関する事務の一部を受けようとする事業者、あるいは税理士や弁護士等の専門家においては、自社の体制が本ガイドラインで規定される水準以上のものとなっていることが業務の実施(あるいは業務の受注)の前提となることから、当該事務に従事する従業員や職員等の教育研修も含め、社内体制の整備と充実に努められたい。 (了)
2014年12月18日(木)AM10:30、Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.99 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
日本の企業税制 【第14回】 「平成27年度税制改正を展望する」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに 総選挙で中断されていた平成27年度税制改正は、12月16日の自民党税調インナー開催により再開された。 12月25日からは連日、自民党税調正副顧問幹事会・小委員会が開催され、同時並行で公明党の税調、与党税制改正協議会も断続的に開催され、12月30日に与党税制改正大綱とりまとめが予定されている。 また、事務的な作業は、財務省・総務省で選挙中も継続されており、与党税調に上るのは、マル政(=政治的な決着)が必要とされる事項のみとなろう。 そこで、本稿では、既に結論が出ている事項の概要、ならびにマル政事項の予想を含め、平成27年度税制改正の全体を展望してみたい。 2 法人税制 既報の通り法人税の財源論(課税ベースの拡大等)は主要な租税特別措置を含め、以下のような内容で、既に財務省・総務省と経団連の間でほぼ決着している。 ① 法人事業税 ② 欠損金の繰越控除 ③ 受取配当の益金不算入 ④ 研究開発税制 ⑤ 特定事業用資産の買換え特例(9号買換え) 以上の課税ベース拡大等を実効税率に換算すれば、仕上り時(平年度)分で2.1%~2.2%、平成27年度(初年度)分では1.5%程度でしかない。そうなれば、全体としては税収中立でも、企業・業界によってはかえって増税となる企業が続出する。 法人税収は企業業績の拡大以上のペースで順調に伸びており、平成26年度は当初見積り10兆円(国税のみ)を1兆円以上上回ることが見込まれている。 経団連としては、平成27年度に少なくとも2.5%の実効税率引下げを求めているところである。 3 個人所得課税 女性の働き方に中立的な税制として見直しが求められている配偶者控除、配偶者特別控除については、議論不十分として先送りされる見込みである。平成28年度税制改正以降の課題として、控除制度全体の見直しと併せて検討されることになろう。 ① NISAの拡充 ② 出国税(個人)の創設 4 土地・住宅税制 ① 固定資産税 ② 住宅税制 5 その他 以上、現時点までに事務的にはほぼ結論が得られている事項を説明してきたが、現在までに方向性が示されておらず、与党税調の中でマル政扱いとなる事項を列挙すれば以下のような点である。 (了)
5%・8%税率が混在する消費税申告書の作成手順 【第2回】 「一般課税の申告書・付表作成の流れ(後編)」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 小嶋 敏夫(執筆) (3) 付表1の作成 ⇒様式はこちら (※)付表2-(2)の様式はこちら この帳票は、従来作成していた確定申告書の内容を税率ごとに計算するための帳票となっている。したがって、この帳票を税率区分ごとに正確に作成し、その合計額を確定申告書に反映させることとなる。 具体的には、以下のようになる。 この付表1の作成で留意すべき点は、税率区分ごとに課税標準額に対する消費税額から控除税額小計を差し引いて計算し、それぞれ「控除不足還付税額」又は「差引税額」を求めることである。 したがって、例えば、4%適用分は「控除不足還付税額」、6.3%適用分は「差引税額」となるケースが考えられ、そのような場合には、それぞれの税額を相殺して、プラスが生じたときは「差引税額」、マイナスが生じたときは「控除不足還付税額」として確定申告書へ転記することとなる。 (4) 確定申告書の記載方法 ⇒様式はこちら 確定申告書の作成については、付表1及び付表2-(2)を作成し、その内容を反映させることとなるが、付表1及び付表2-(2)から転記する項目は、以下のようになる。 【付表からの転記項目】 上記以外の記載項目は、以下のようになる。 次回より、具体例を通じて一般課税の消費税確定申告書・付表の作成手順を確認する。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第16回】 「日本IBM事件①」 公認会計士 佐藤 信祐 第16回以降においては、みなし配当と株式譲渡損の両建てを行った後に、連結納税により損益通算を行った行為に対して、同族会社等の行為計算の否認が適用された事件について解説を行う。 本事件で利用されたストラクチャーについては、平成22年度税制改正によりグループ法人税制が導入されたことにより利用することができなくなったが、資本等取引、連結納税に対する同族会社等の行為計算の否認の適用可否について、今後、参考になるものと考えられる。 4 日本IBM事件(東京地裁平成26年5月9日判決) (1) 判決の概要 本件は、外国法人である米国WTを唯一の社員とする同族会社であった原告(内国法人)が、平成14年2月に海外の親会社である米国WTから日本IBMの発行済株式の全部の取得をし、その後、平成17年12月までに3回にわたり同株式の一部をそれを発行した法人である日本IBMに譲渡をして、当該株式の譲渡に係る対価の額(利益の配当とみなされる金額に相当する金額を控除した金額)と当該株式の譲渡に係る原価の額との差額である有価証券(日本IBMの株式)の譲渡に係る譲渡損失額を本件各譲渡事業年度の所得の金額の計算上損金の額にそれぞれ算入し、このようにして本件各譲渡事業年度において生じた欠損金額に相当する金額を、平成20年1月1日に連結納税の承認があったものとみなされた連結所得の金額の計算上損金の額に算入して平成20年12月連結期の法人税の確定申告をしたところ、処分行政庁が、法人税法132条1項の規定を適用して、本件各譲渡に係る上記の譲渡損失額を本件各譲渡事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することを否認する旨の更正の処分をそれぞれするとともに、そのことを前提として、 をそれぞれしたため、原告が、本件各譲渡事業年度更正処分は同項の規定を適用する要件を満たさずにされた違法なものであるとして、本件各更正処分等の取消しを求める事案である。 被告は、本件において、本件各譲渡を容認して法人税の負担を減少させることは法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価されるべきである旨主張し、その評価根拠事実として、 を挙げたが、裁判所は、「本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められる旨の評価根拠事実として被告が挙げるいずれの事実についても、これを裏付けるものと認めるに足りる証拠ないし事情があるものとは認め難い」として、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認の適用を認めなかった。 被告はこれを不服として、東京高裁に控訴を行っている。 (2) 事実の概要 ① 当事者の概要 原告は、平成11年4月1日にデロイトが資本の総額300万円の全額の出資の払込みをして成立した有限会社であり、成立した当時の商号は、有限会社トーマツプランニングであった。米国WTは、平成14年2月12日、デロイトから、原告の持分の全部を譲り受け、原告は、同月28日、商号を有限会社アイ・ビー・エム・エイ・ピーホールディングスに変更した。その後、原告の持分の全部は、平成16年12月16日、米国WTからIBM World Trade Asia Holdings LLCに譲渡され、会社法の施行に伴い平成18年5月1日に特例有限会社となった後、平成19年5月23日には、その株式の全部が同社からIBM Japan Holdings LLCに譲渡された。 米国WTは、米国IBMにその持分の全部を保有される同社の海外の関連会社を統括する持株会社であり、米国IBMは、明治44年に成立してその株式をニューヨーク証券取引所に上場し、同社及び同社によって直接又は間接に株式を保有されている子会社及び関連会社から成る企業グループ(IBMグループ)の経営を率いる本部としての機能を有する株式会社である。 IBM World Trade Asia Holdings LLC及びIBM Japan Holdings LLCは、その持分の全部をいずれも米国WT又は米国IBMに直接又は間接に保有されている。 原告には、専任の役員及び使用人はいない。 原告は、固有の事務所を有していない。 米国IBMは、ハードウェア中心の製造販売多国籍企業からグローバルに統合された組織体制でのハードウェア、ソフトウェア及び企業向けサービスを併せて提供するグローバルに統合された企業グループへの業態変革という大きな変革を遂げること目指し、財務管理の権限を米国IBMの財務部門に集中させたり、不要となったハードウェア製品部門の多数の事業を売却してソフトウェア又は企業向けサービス事業を営む多数の企業を買収したりするとともに、平成13年から平成16年にかけて、北米、欧州及び日本を含む事業上主要と考えられる地域に地域又は国単位の中間持株会社を置くことによる子会社の組織の再編をすることとし、日本においても、従前、米国WTの下に日本IBM、APSC及びYSCが、米国IBMの下にDTIが子会社として置かれていたところ、日本IBM、APSC、YSC及びDTIをすべて原告の下に子会社として置くこととする組織の再編(日本再編プロジェクト)をすることとした。 ② 原告(有限会社アイ・ビー・エム・エイ・ピーホールディングス)による日本IBM株式の取得 平成14年4月22日に日本IBMの発行済株式の全部を代金1兆9,500億円で購入した。本件株式購入における取得価額以外の主な契約の内容を成すものは、次のとおりである。なお、当該株式の取得価額はDCF法により算定されている。 原告は、取得の価額のうち、1,317億8,000万円は現金で支払い、残額の1兆8,182億2,000万円の代金支払債務については、米国WTと原告との間で消費貸借の目的とする。 本件融資につき担保の定めはない。 本件融資は、平成24年12月20日を弁済の期日とし、当該日において、原告は本件融資に係る残高総額及び未払利息の総額を支払う。ただし、原告は、米国WTに通知することによって、上記の日の前に融資額の一部又は全部を返済することができる。 原告は、米国WTに対し、本件融資に係る利息を毎年12月20日に支払う。なお、原告は、利息の支払日に利息を支払うことに代えて、利息相当額を未返済残高に組み込むことを選択できる。 平成14年4月22日から平成17年12月20日までの期間の利率は、年0.6344%とする。 ③ 自己株式の取得について 平成14年12月20日において、前事業年度終了の時における簿価純資産価額を基に同社の1株当たりの価額を30万5,586円、当該1株当たりの価額を基に取得する株式数を69万7,000株、取得価額の総額を2,129億9,344万2,000円として、自己株式の取得を行った。ただし、平成15年1月6日付けで、直近の取引価額である本件株式購入時の1株当たりの価額(127万1,625円。時価純資産価額)を基礎として、上記の取得する株式数を算出し直している。これにより、日本IBMから送金を受けた金員については、日本IBM株式を取得するための借入金の返済に充てられている。 なお、上記の結果、平成14年12月期において、有価証券(日本IBMの株式)の譲渡に係る譲渡損失額1,981億9,782万9,185円が、原告の所得の金額の計算上、損金の額に算入される金額として生じた。 このような取引が、平成15年度、平成17年度にそれぞれ行われている。 (3) 主たる争点 ① 本件各譲渡による有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が本件各譲渡事業年度において原告の所得の金額の計算上損金の額に算入されて欠損金額が生じたことによる法人税の負担の減少が、法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価することができるか否か【争点1】 (ⅰ) 原告をあえて日本IBMの中間持株会社としたことに正当な理由ないし事業目的があったとはいい難いこと (ⅱ) 本件一連の行為を構成する本件融資は、独立した当事者間の通常の取引とは異なるものであること (ⅲ) 本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められること ② 前記①において法人税の負担の減少が法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価することができる場合に、処分行政庁による本件各譲渡事業年度の課税標準等に係る引き直し計算が適法であるか否か【争点2】 ③ 本件更正理由に理由の附記の不備による違法があるか否か【争点3】 上記のうち、裁判所は【争点1】のみを判断し、「不当」なものと評価されるべきであると認めるに足りないものとして、【争点2】、【争点3】については、【争点1】が否定されている以上は判断するまでもないものとしているため、本稿においても、【争点1】のみを検討するものとする。 (4) 本事件における特徴 本事件においては、原告による日本IBM株式の取得については、純粋な国内取引であれば課税されていたところ、株式の譲渡を行った者が米国法人である米国WTであり、日米租税条約により日本において課税されず、チェック・ザ・ボックス規則により米国においても課税されない結果となる。 これに対し、自己株式の取得により、平成22年度改正前法人税法においては、みなし配当と株式譲渡損の両建てが可能になっていたところ、当該株式譲渡損を平成20年12月期から開始した連結納税制度を利用して、日本IBMの所得との通算を行っている。 さらに、法人税法61条の11第1項2号において、最初連結親法人事業年度開始の日の5年前の日から継続して100%子会社であれば、連結納税開始に伴う時価評価課税の適用を避けることができると規定されているところ、最初連結親法人事業年度開始の日が平成20年1月1日であり、その5年前の日が平成15年1月1日であり、日本IBM株式を取得したのが、平成14年4月22日であることから、これら一連のストラクチャーが5年を超える長期に渡るものであったということは、連結納税開始に伴う時価評価課税の適用を避けるためであったという可能性も窺える(なお、当時の繰越欠損金の期限は5年であったことから、原告はその可能性を否定している)。 なお、本事件においては、法人税法132条の3に規定する包括的租税回避防止規定ではなく、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認を適用しているが、連結事業年度開始の日前の株式譲渡損について損金算入を否定するためであったからと推定される。 次回以降は、【争点1】における被告、原告の主張についてそれぞれ解説する予定である。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第16回】 「源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額の還付請求」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、設立直後に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署へ提出しています。 7~12月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税の合計額は20万円、年末調整による還付額の合計額は25万円、結果として、1月20日までに納付する所得税及び復興特別所得税は0円となりました。また、当社は、業績不振のため、平成26年12月31日をもって休眠します。差額の5万円は、平成27年1月以降の給与から順次控除すべきですが、平成27年中に給与を支給する予定はなく、控除ができないため、還付を受けたいと考えています。 源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額の還付請求についてご教示ください。 次のいずれかに該当する場合には、会社は税務署に年末調整過納額の還付請求をすることができる。 今回のケースにおいては、上記下線部に該当することから、会社は税務署に年末調整過納額の還付請求をすることができる。具体的には、会社は所轄の税務署に次に掲げる書類を提出する。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【50】 〔第6章〕判例の見方 (その8) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 ④ 通常訴訟と特別訴訟 民事訴訟には、通常の手続で訴訟が進められる「通常訴訟」と、対象となる事件の性質に応じて手続上の特則が定められている「特別訴訟」がある。 特別訴訟には、人事訴訟手続法が規定する人事訴訟、行政事件訴訟法が規定する行政訴訟がある。また、通常の手続より簡略な手続が定められた特別訴訟に、手形・小切手訴訟、少額訴訟、支払督促などがある。 (A) 通常訴訟 民事訴訟法の原則的規定に従った通常の訴訟をいう。 (B) 特別訴訟 (ア) 人事訴訟 身分関係の争いを解決するための民事訴訟である。家族法上の法律関係について民事訴訟法の特則を定めた法律である人事訴訟法に所定の婚姻関係訴訟(第2章)、実親子関係訴訟(第3章)、養子縁組関係訴訟(第4章)がこれにあたる。 なおこれと類似の概念で、家事事件というものがある。ただし家事事件といった場合、日常用語としては家庭内の紛争に対する法的解決手段のすべてを指す言葉であるから、広義の意味として、家事調停、家事審判、人事訴訟をすべて含む概念となる。 しかし、法律的には、人事訴訟と対比して、家事審判と家事調停を家事事件と呼ぶことになる。 家事事件手続法では、第1条に「家事審判及び家事調停に関する事件(以下「家事事件」という。)の手続については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。」と規定されており、人事訴訟は人事訴訟法に規定されているのであるから、家事事件と人事訴訟は、適用法令の点から見た場合には、明確に区分されている。 ただし例えば、離婚事件については、調停前置主義が採られているため、最初は離婚調停によらなければならないが、この離婚調停は家事調停の一種であり、家事事件に該当することになる。しかし離婚調停が不成立となり、離婚訴訟に至れば、それは人事訴訟となる。 (イ) 行政訴訟 公権力の行使に当たる行政庁の行為の取消しを求める訴訟である行政訴訟もまた、通常、特別訴訟の一種とされている。 行政事件訴訟法第7条に「行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。」と規定されているように、行政訴訟は行政事件訴訟法を根拠法令としつつも、行政事件訴訟法の規定がない事項に関しては民事訴訟法に依ることから、広い意味で民事訴訟の一種とされ、その意味で特別訴訟の一種されている。 (ウ) 手形・小切手訴訟 手形訴訟は、手形による金銭の支払の請求及びこれに附帯する法定利率による損害賠償の請求を目的とする(民事訴訟法第350条)略式訴訟である。手形に関する訴訟はその性格上、迅速さが要求されるものであるため、通常の訴訟とは異なる特徴を有している。民事訴訟法では第350条から第366条までに規定がある。 小切手に関する同様の訴訟は小切手訴訟として、民事訴訟法第367条に定めが置かれている。しかし内容は、手形訴訟の規定を準用することとされている。そこでこの両者を合わせて、「手形・小切手訴訟」と呼ばれる。 この手形・小切手訴訟の場合には、反訴はできず(民事訴訟法第351条)、また文書提出命令や文書の送付嘱託は認められないため(同法第352条第2項)、原則として証拠として提出できるのは当事者自身が有する書証(すなわち「手形」自体である)のみといった大きな特徴がある。 (エ) 少額訴訟 民事訴訟法第368条から第381条までに規定のある、60万円以下の金銭の支払請求について争う裁判制度である。 同一の簡易裁判所において同一の年に少額訴訟ができる回数は10回までであり、訴えの際にその年に少額訴訟を求めた回数を申告しなければならず(同法第368条第1項及び第3項、民事訴訟規則第223条)、もし回数を偽って申し立てた場合には、10万円以下の過料に処せられことになる(同法第381条第1項)。そして通常審理を終え、その日のうちに判決が下される(同法第370条、第374条)。 (オ) 支払督促 ここまで紹介したものと異なり名称は「〇〇訴訟」ではないが、これも民事訴訟法第382条から第396条までに規定のあるものであり、広義では特別訴訟と一種とされている。 ただしその内容は、債権者の申立てに基づき、債務者に金銭の支払等をするよう督促する旨の裁判所書記官の処分をいう。 したがって、厳密な意味では訴訟にはあたらない。 (続く)