生産性向上設備投資促進税制の実務 【第5回】 「事前確認書(手続実施結果報告書)〔記載例〕」 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 小幡 修大 前々回と前回は、生産性向上設備投資促進税制(措法42の12の5)のうち設備ユーザーが作成する「産業競争力強化法の生産性向上設備等のうち生産ラインやオペレーションの改善に資する設備投資計画の確認申請書」及び「別紙根拠資料」の具体的な記載内容等を紹介した。 「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備の要件確認スキーム」においては、公認会計士や税理士が対象設備を確認し、投資利益率要件を満たしていることを確認することが要件となっている。 今回は公認会計士や税理士が記載する「事前確認書(手続実施結果報告書)」の記載例を紹介する。 なお、記載内容の前提となる設備投資の内容については、前々回紹介した確認申請書に基づいているため、そちらをご覧いただきたい。 《記載例》 「(様式2) 事前確認書(手続実施結果報告書)」 ※赤字部分にマウスを移動すると【コメント】が表示されます。 ※【コメント】がうまく表示されない場合は、こちらからPDF版をご覧ください。 (様式2) 平成26年7月31日 株式会社**** 私は、株式会社****(以下「会社」という。)からの依頼に基づき、会社の作成した平成26年度の産業競争力強化法の生産性向上設備等のうち生産ラインやオペレーションの改善に資する設備投資計画の確認申請書(以下「申請書」という。)及びこれに添付された「基準への適合状況」(以下「基準への適合状況」という。)について、以下の手続を実施した。なお、当該手続は、会社が産業競争力強化法の生産性向上設備等のうち生産ラインやオペレーションの改善に資する設備投資計画の確認申請を行うために作成した「申請書」及び「基準への適合状況」に記載された記載内容を対象として確認することを目的とするものである。 手続の目的 私は、「申請書」及び「基準への適合状況」に関して、本報告書の利用者が手続実施結果を以下の目的で利用することを想定し、「実施した手続」に記載された手続を実施した。 (1) 「申請書」に記載された設備投資の内容(「申請書」5で記載する事項)が、必要十分な設備として、当該設備の導入の目的(「申請書」2で記載する事項)及び事業者の事業の改善に資することの説明(「申請書」4で記載する事項)に照らして整合しているかどうかについて確かめること。 さらに、事業者の事業の改善に資することの説明(「申請書」4で記載する事項)が「基準への適合状況」に記載された「本件設備投資による効果」に照らして整合しているかどうかについて確かめること。 また、「申請書」の「設備投資の内容」に記載された内容(「申請書」5で記載する内容)が、会社において承認された設備投資計画及び見積書等の根拠資料に照らして整合しているかどうかについて確認すること。 (2) 「申請書」の「設備投資の内容」に記載された金額(「申請書」5で記載する金額)が、「基準への適合状況」に記載された設備投資額と整合しているかどうかについて確かめること。 また、「基準への適合状況」に記載された投資利益率並びに簡易CF(営業利益+減価償却費)の各年度及び3年平均の金額が、売上高、売上原価、販管費及び減価償却費の各年度の金額を用いて算定されているかどうかについて確かめること。 さらに、「基準への適合状況」において記載された「本件設備投資による効果」の金額が当該数値の算出根拠資料に照らして整合しているかどうかについて確認すること。 (「申請書」-申請要件及び基礎となる設備投資計画関連) 1. 「申請書」に記載された設備投資の内容(「申請書」5で記載する事項)が、「申請書」2及び4に記載したとおり、産業競争力強化法第2条第13項に規定する「商品の生産若しくは販売又は役務の提供の用に供する施設、設備、機器、装置又はプログラム(情報処理の促進に関する法律(昭和45年法律第90号)第2条第2項に規定するプログラムをいう。)であって、事業の生産性の向上に特に資する」ものとして必要十分な設備であるかどうかについて、会社のに質問した。 2. 「申請書」に記載された設備投資の内容(「申請書」5で記載する事項)のうち、「金額」について「数量」に「単価」を乗じて計算調べを行った。さらに、「金額」の合計について計算調べを行った。 3. 「申請書」に記載された設備投資の内容(「申請書」5で記載する事項)のうち、「設備の名称」「型番」「数量」「単価」「金額」について、会社から「申請書」に添付提出するものとして提示された設備投資計画(以下「設備投資計画」という。)の記載内容と合致するかどうかについて確かめた。さらに、「設備投資計画」に会社の代表者又はそれに代わる者の押印があるかどうかについて確かめた。 4. 「申請書」に記載された設備投資の内容(「申請書」5で記載する事項)のうち、設備別の「金額」について、当該設備に関連するため、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示された見積書を集計して突合し、両者が合致するかどうかについて確かめた。 (「基準への適合状況」-「申請書」及び根拠資料関連) 5. 「申請書」の「設備投資の内容」に記載された金額(「申請書」5で記載する金額)が、「基準への適合状況」に記載された設備投資額と合致しているかどうかについて確認した。 また、「基準への適合状況」に記載された投資利益率並びに簡易CFの各年度及び3年平均の金額について、売上高、売上原価、販管費及び減価償却費の各年度の金額を用いて計算調べを行った。 6. 「基準への適合状況」に記載された「本件設備投資による効果」のうち、各年度のスクラップ加工処理数量について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして提示を受けた「生産計画総括表」の増加数量と合致しているかどうかについて確認した。 7. 「生産計画総括表」においては、見積スクラップ加工処理能力は、既存設備の過去2年間の生産記録を根拠に新規設備の加工処理能力の増加を見込み、増加数量を算定していると会社から説明を受けた。 これを前提として、以下の手続を実施した。 (1) 「生産計画総括表」の記載事項のうち、各年度の生産実績について、当該数値の根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「原価計算資料」を根拠として算出した生産量と合致しているかどうかについて確認した。 (2) 「生産計画総括表」の記載事項のうち、新規設備の予想スクラップ加工処理量について、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「新規設備生産増加量算定資料」と合致しているかどうかについて確認した。また当該資料の生産増加見込量が、新規設備のメーカーが見込む処理量の範囲内であることを確認した。 8. 「基準への適合状況」に記載された「本件設備投資による効果」のうち、各年度の売上高の増加金額について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして提示を受けた「売上増加見込額算定表」の売上高増加金額と合致しているかどうかについて確認した。 9. 「売上増加見込額算定表」においては、「生産計画総括表」の見積スクラップ加工処理量を前提に、平成26年3月期の販売実績及び鉄スクラップ相場(新断)の推移を根拠に売上高増加を算定していると会社から説明を受けた。 これを前提として、以下の手続を実施した。 (1) 「売上増加見込額算定表」の記載事項のうち、各年度の販売数量について、当該数値の根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「平成26年3月期販売実績表」を根拠として計算した販売数量であることを確認した。 (2) 「売上増加見込額算定表」の記載事項のうち、各年度の1トン当たりの鉄スクラップ価額について、当該数値の根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「鉄スクラップ相場推移表(新断)」を確認した。 (3) 「売上増加見込額算定表」の記載事項のうち、各年度の売上高について、当該数値の根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「適正単価算定表」を確認した。 10. 「基準への適合状況」に記載された「本件設備投資による効果」のうち、各年度の売上原価金額について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして提示を受けた「売上原価減少見込額算定表」の売上原価金額と合致しているかどうか確認した。 11. 「売上原価減少見込額算定表」においては、「生産計画総括表」に記載された見積スクラップ加工処理量を前提に、新規車両について見積もった予想ガソリン消費量と、「申請書」に記載された既存車両の過去2年間の運搬記録から当該運搬量に相当するものとして算定されるガソリン消費量を比較して、「ガソリン消費増加見込量」を算定し、これに最近の請求記録から把握した「ガソリン単価金額」を乗じて、各年度のガソリン代を算定していると会社から説明を受けた。 これを前提として、以下の手続を実施した。 (1) 「売上原価減少見込額算定表」の「ガソリン消費見込量」に「ガソリン単価金額」を乗じて、各年度のガソリン代の計算調べを行った。 (2) 「売上原価減少見込額算定表」の記載事項のうち、新規設備の予想ガソリン消費量について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「ガソリン削減量算定資料」と合致しているかどうかについて確認した。 (3) 「売上原価減少見込額算定表」の記載事項のうち、「ガソリン代」について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「平成26年3月度のガソリン代請求書の単位当りガソリン代」の請求記録と合致しているかどうかについて確認した。 12. 「基準への適合状況」に記載された「本件設備投資による効果」のうち、各年度のその他製造原価の増加金額について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして提示を受けた「その他製造原価算定表」の増加金額と合致しているかどうかについて確認した。 13. 「その他製造原価算定表」においては、「生産計画総括表」に記載された新規設備について見積もったスクラップ加工処理量を前提に、新規設備について見積もった予想その他製造原価発生額と、「申請書」に記載された既存設備の過去2年間の生産記録から当該生産量に相当するものとして算定されるその他製造原価発生額を比較して、各年度のその他製造原価の増加金額を算定していると会社から説明を受けた。 これを前提として、以下の手続を実施した。 (1) 「その他製造原価算定表」の記載事項のうち、各年度のその他製造原価増加金額について、新規設備のその他製造原価発生額と既存設備について算定したその他製造原価発生額を比較して計算調べを行った。 (2) 「その他製造原価算定表」の記載事項のうち、新規設備のその他製造原価発生額について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「新規設備に係るその他製造原価算定資料」と合致しているかどうかについて確認した。 (3) 「その他製造原価算定表」の記載事項のうち、既存設備について算定したその他製造原価発生額について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「製造原価報告書」と合致しているかどうかについて確認した。 手続の実施結果 (「申請書」-申請要件及び基礎となる設備投資計画関連) 1. 上記の手続1.について、会社の代表取締役 ****氏から、「申請書」の対象とする設備が、「申請書」2及び4に記載したとおり、産業競争力強化法第2条第13項に規定する「商品の生産若しくは販売又は役務の提供の用に供する施設、設備、機器、装置又はプログラム(情報処理の促進に関する法律(昭和45年法律第90号)第2条第2項に規定するプログラムをいう。)であって、事業の生産性の向上に特に資する」ものであり、必要な十分な設備である旨の回答を得た。 2. 上記の手続2.について、計算調べを行った結果、計算結果は「申請書」に記載された設備投資の内容の「金額」及び「金額」の合計と合致した。 3. 上記の手続3.について、「申請書」と「設備投資計画」を突合した結果、「設備の名称」「型番」「数量」「単価」「金額」の記載内容は合致した。 また、提示された「設備投資計画」に代表取締役****氏の押印が記載されていた。 4. 上記の手続4.について、会社から提示された見積書を集計して「申請書」と突合した結果、設備別の金額は合致した。 (「基準への適合状況」-「申請書」及び根拠資料関連) 5. 上記の手続5.について、「設備投資の内容」と「基準への適合状況」を突合した結果、「設備投資の内容」に記載された金額は「基準への適合状況」に記載された設備投資額と合致した。また、「基準への適合状況」に記載された投資利益率並びに簡易CFの各年度及び3年平均の金額は、売上高、売上原価、販管費及び減価償却費の各年度の金額を用いた計算結果と合致した。 6. 上記の手続6.について、「基準への適合状況」と「生産計画総括表」を突合した結果、各年度のスクラップ加工処理量額は合致した。 7. 上記の手続7.(1)について、「生産計画総括表」に記載された各年度の生産実績は「原価計算資料」を根拠として計算した生産量と合致した。 上記の手続7.(2)について、「生産計画総括表」と「新規設備生産増加量算定資料」を突合した結果、新規設備の生産増加見込量は合致した。 8. 上記の手続8.について、「基準への適合状況」と「売上増加見込額算定表」を突合した結果、各年度の売上高増加金額は合致した。 9. 上記の手続9.(1)について、「売上増加見込額算定表」と「平成26年3月期販売実績表」を根拠として計算した数量を突合した結果、販売数量は合致した。 上記の手続9.(2)(3)について、「売上増加見込額算定表」と「適正単価算定表」を突合した結果、各年度の適正販売単価は合致した。 10. 上記の手続10.について、「基準への適合状況」と「売上原価減少見込額算定表」を突合した結果、各年度の売上原価金額は合致した。 11. 上記の手続11.(1)について、計算調べ及び合計調べを行った結果、計算結果は「売上原価減少見込額算定表」に記載された各年度のガソリン代削減金額と合致した。 上記の手続11.(2)について、「売上原価減少見込額算定表」と「ガソリン削減量算定資料」を突合した結果、新規車両のガソリン代発生額は合致した。 上記の手続11.(3)について、「売上原価減少見込額算定表」と「平成26年3月のガソリン代請求書の単位当たりガソリン代」の請求記録を突合した結果、「単位当たりガソリン代」は合致した。 12. 上記の手続12.について、「基準への適合状況」と「その他製造原価算定表」を突合した結果、各年度の売上原価増加金額は合致した。 13. 上記の手続13.(1)について、計算調べ及び合計調べを行った結果、計算結果は「その他製造原価算定表」に記載された各年度のその他製造原価増加金額と合致した。 上記の手続13.(2)について、「その他製造原価算定表」と「新規設備に係るその他製造原価算定資料」を突合した結果、新規設備におけるその他製造原価増加金額は合致した。 上記の手続13.(3)について、「その他製造原価算定表」と「製造原価報告書」を突合した結果、既存設備について算定したその他製造原価発生額は合致した。 上記の手続は、会社が行う産業競争力強化法の生産性向上設備等のうち生産ラインやオペレーションの改善に資する設備投資計画の確認申請に関連して実施したものであり、全体としての「申請書」又は「基準への適合状況」の各記載事項に対する監査意見又はレビューの結論の報告を目的とした一般に公正妥当と認められる監査の基準又はレビューの基準に準拠するものではない。 したがって、私は、「申請書」又は「基準への適合状況」の記載事項について、将来情報の予測の正確性に関する結論や保証を含め、いかなる結論の報告も、また保証を提供することもしない。また、実施した手続が十分であるかどうかについての結論の報告もしていない。 本報告書は、会社の産業競争力強化法の生産性向上設備等のうち生産ラインやオペレーションの改善に資する設備投資計画の確認申請に関連して作成されたものであり、確認申請以外の目的で利用又は配布されることを想定していない。 (以 上) (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第21回】 「判例分析⑦」 公認会計士 佐藤 信祐 第20回目においては、法人税基本通達9-6-1(3)についての検討を行った。 第21回目にあたる本稿においては、法人税基本通達9-6-1(4)についての検討を行う前に、大阪地裁昭和33年7月31日判決(行集9巻7号1403頁、税資26号773頁)を紹介したい。 本判決は、法人税基本通達9-6-1(4)が定められる前の判決であるため、本通達の判断を示すものではないが、放棄した債権が回収可能であったか否かという点について触れられている判決であり、貸倒損失の取扱いを理解するうえで、知っておくべき重要な判決であると言える。 ③ 法人税基本通達9-6-1(4)の検討 (ⅰ) 大阪地裁昭和33年7月31日判決(行集9巻7号1403頁、税資26号773頁) 本事件については控訴されていないため、第1審で確定した判決である。判決文において、 としている。 そのうえで、本事件においては、以下の事実により債権放棄が回収不能によるものとは言えないと判断している。 なお、「原告と訴外会社とは特殊密接な関係にあり」としていることから、子会社、関連会社に対する債権放棄について、法人税基本通達9-6-1(4)を適用することができないように誤解を受けてしまうが、「なるほど原告と右訴外会社との間に特殊密接な関係があること、あるいは回収手段をとらなかったことだけでは、債権放棄を回収不能によるものではないと見るわけにはいかないけれども」としているため、必ずしも、子会社、関連会社に対する債権放棄であったとしても、法人税基本通達9-6-1(4)を適用することができないわけではない。 ただ、「また僅か2年の後に右訴外会社が解散した事実(この事実は被告において明らかに争わないところである)があり、また放棄した債権が全額ではないけれども、だからといってそのために右債権放棄が回収不能によるものとすることはできず、」としていることから、2年後に解散したという事実は何ら回収不能の判断に影響を与えないという点のみを判断しているだけではなく、債権放棄した金額のうち、回収可能部分について貸倒損失とし、それ以外の部分については寄附金とするということではなく、そのすべてを寄附金として処理するという厳しい判断もなされていることが分かる。 なお、最近の事例として、宇都宮地裁平成15年5月29日判決(税資253号順号9355)があるが、 としたうえで、 と判示し、原告の主張を破棄している。 このように、法人税基本通達9-6-1(4)においては、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」について、貸倒損失として損金の額に算入することができるが、単純に債務超過の状態が相当期間経過していただけでは足りず、債権放棄を行った金額について、回収することができないということが必要になってくる。 また、大阪地裁判決においても、宇都宮地裁判決においても、債権放棄を行った金額のうち、回収不能部分だけについて寄附金と認定したのではなく、債権放棄を行った金額の全額について寄附金と認定したという点に留意が必要である。 なぜならば、そもそも、その全額が回収可能であることが明らかな債権を放棄するということは考えにくく、回収可能か否かの判断が曖昧であり、少なくとも、納税者の側からするとかなり回収可能性が乏しい債権について債権放棄を行っているのであるから、債権放棄額のうち、回収不能部分を見積もることは不可能ではなかったはずである。 しかしながら、いずれの裁判においても、納税者側が主張していないというのもあるが、裁判所の判断としては触れられていない。また、課税実務上も、債権放棄損を回収不能部分と回収可能部分に分けて処理するという考え方は採用されていない。さらに、デット・エクイティ・スワップ(DES)が非適格現物出資に該当した場合における債権者の処理についても、帳簿価額と時価との差額が譲渡損として処理されたに過ぎないのに対し、法人税基本通達9-4-2に該当しない場合には、当該譲渡損が寄附金として処理されてしまうというのが現行法上の解釈であるが(法基通2-3-14)、ここでいう「時価」とは回収可能見込額であることから、譲渡損に相当する金額は回収不能見込額であるため、これを寄附金とするということは、理論上は疑問を感じるところであるが、上記のように、債権放棄損を回収不能部分と回収可能部分に分けずに、その全額を寄附金として処理するという考え方に足並みを揃えるのであれば、実務的には、そのような解釈もやむを得ないと考えられる。 このように、法人税基本通達9-6-1(4)の要件を満たすことはハードルが高く、債権放棄の対象となった債権の全額が回収不能であることを立証しないとその全額が寄附金として処理されてしまうことになるが、本稿で紹介した判決については、回収不能部分を明らかにしたうえで、当該回収不能部分についてのみ債権放棄をした場合について、貸倒損失として損金算入を認めないということまでは意味していない。 実務上、同一の債権者に対して、担保付債権と無担保付債権の両方を有しているケースは少なからず存在し、担保付債権については一部回収可能なものの、無担保付債権についてはその全額が回収不能ケースも考えられるからである。 次回においては、このような場合において、回収不能な債権のみを債権放棄したときに、法人税基本通達9-6-1(4)を適用することができるのか否かについて検討を行う。 (了)
〔大法人のための〕 交際費課税の改正ポイント 【第2回】 「改正後の取扱いに関するQ&A」 税理士法人山田&パートナーズ 税理士 吉澤 大輔 今回は、本改正によって生じる交際費等の取扱いの変更点について、大法人の現場で起こりそうな疑問点を想定し、Q&A形式で解説する(なお、本連載で取り扱う大法人の判定については、前回のフローチャートを参照)。 本稿で取り上げるQ&Aは、以下のとおりである。 改正後の確認事項Q&A Q1 接待飲食費の範囲 「接待飲食費」は、どのような範囲まで含まれるのでしょうか。 また、1回あたりの「接待飲食費」の金額に、上限はあるのでしょうか。 A 大法人が支出する交際費等のうち平成26年度税制改正により損金計上が認められることになる「接待飲食費」とは、社内飲食費※を除いた次のような費用で、帳簿書類により飲食費であることが明らかにされているものをいう。 なお、1回あたりの「接待飲食費」の上限は設定されていない。 ※社内飲食費とは、専ら当該法人の役員若しくは従業員又はこれらの親族に対する接待等のために支出するものをいう。 Q2 5,000円基準の適用について 本改正後も引き続き、大法人でも5,000円基準は適用されるのでしょうか。 A 法人が支出する交際費等がQ1の接待飲食費に該当し、かつ、次の算式で計算した1人当たりの金額が5,000円以下である場合には、当該支出は交際費等に含まれない。 したがって、支出した法人の規模にかかわらず、当該支出は全額損金算入される。 Q3 交際費等の支出時期と適用関係 いつから支出した交際費から損金算入できるようになるのでしょうか。 例えば、平成26年3月30日の接待飲食費を平成26年4月5日に支払った場合には、適用できるのでしょうか。 A 大法人が支出する接待飲食費について損金計上の規定を適用するためには、平成26年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度において支出する接待飲食費であることに注意しなければならない。 なお、平成26年度税制改正を受けた改正租税特別措置法関係通達は、本稿執筆時点においてまだ公表されていないが、改正前措通61の4(1)-24では、「各事業年度において支出する・・・」の意義を実際に支出した時ではなく「接待飲食の行為があった時」であることを述べている。 したがって、例えば平成26年4月1日に事業年度を開始した大法人が平成26年3月30日の接待飲食費を平成26年4月5日に支払った場合には、当該接待飲食費については平成26年3月期の事業年度の交際費に該当することから、平成26年度税制改正の影響を受けることはないと考えられる。 ※上記については、改正通達公表後、追記を行う予定。→2014/7/14追記(論末)参照。 大法人特有の論点Q&A Q4 グループ会社間の接待交際費 当社の事業に関係のある孫会社の役員等に対して接待を行いました。 接待に際して支出した飲食代は、接待飲食費に該当するのでしょうか。 A 接待飲食費に該当する。 孫会社はグループ会社ではあるが、社外である。 したがって、孫会社の役員等に対する接待は社内飲食費には該当せず、接待飲食費に該当することになる。 Q5 海外のグループ会社社員への接待交際費 当社の事業に関係のある海外のグループ会社役員等(国籍問わず)に接待飲食を行いました。 この接待飲食に支出した飲食代は、接待飲食費に該当するのでしょうか。 A 接待飲食費に該当する。 接待飲食の場所は国内に限定されていないため、海外で支出した飲食代も接待飲食費の額に該当する。 Q6 出向者への接待 当社の事業に関係のあるグループ会社へ出向している当社の社員に対して、当社社員が接待を行いました。 この場合、接待に際して支出した飲食代は、接待飲食費に該当するのでしょうか。 A 接待飲食費に該当する。 自社(出向元)の社員であっても、実際に勤務しているのは出向先である。そのため出向先の立場で出向者が受けた接待に際して自社が支出した飲食代は、接待飲食費に該当する。 ただし、自社の同期会等の感覚の集まりに出向者が参加した場合で、自社が支出した同期会等の飲食代は社内飲食費に該当し損金不算入となる可能性がある。 Q7 地方支店の社員との飲食 東京本社の社員が地方支店へ出張した際に、地方支店の社員と名刺交換をし、業務終了後には会社負担で食事会を開きました。 会社が負担した食事会の飲食代は、接待飲食費に該当するのでしょうか。 A 社内飲食費に該当し、接待飲食費には含まれない。 全国展開している会社の場合、顔と名前を互いに知らない社員同士の存在は十分に考えられる。 しかしながら、同じ会社内である社員同士の飲食は社内飲食費に該当する。 (了)
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第25回】 「『配偶者の税額軽減』の適用を受ける」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 相続税の特例で、税額に大きな影響があるものには、前回まで説明を行った小規模宅地特例とともに、配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)がある。 今回は、相続税の「配偶者の税額軽減」について説明を行う。 1 配偶者の税額軽減の概要 この「配偶者の税額軽減」とは、被相続人の配偶者が相続・遺贈で取得した財産については、次のいずれか大きい金額までは、配偶者は相続税の負担はないという特例である。 (※) 「配偶者の法定相続分相当額」とは、相続・遺贈で財産を取得したすべての者の課税価格の合計額に、配偶者の法定相続分を乗じた金額を意味する。 具体的には、配偶者の税額軽減額は、次のように計算される。 配偶者の税額軽減が適用できる場合、相続税申告業務のうち多くのケースにおいて、配偶者に関しては、相続税の負担が全くない、若しくは非常に少額の負担にとどまる結果となる。 このように、配偶者の税額軽減の特例は、夫婦間での財産の相続・遺贈については、相続税の負担を免除する、又は少額に圧縮する効果があるが、これは「①同一世代間における財産の移転であること、②配偶者は被相続人の遺産の形成に寄与していること及び③被相続人の死亡後における生存配偶者の生活保障を考慮する必要があることなどにより設けられている」(『相続税法基本通達逐条解説(平成22年版)』加藤千博編、財団法人大蔵財務協会、332頁)という趣旨に基づいている。 2 配偶者の税額軽減の適用要件 (1) 遺産分割協議の合意 配偶者の税額軽減の適用を受けるためには、原則、相続税の申告期限までに、遺産分割協議の合意がされている必要がある。 ただし、相続税の申告期限までに、遺産分割協議の合意がなされていない場合でも、申告期限後3年以内に遺産分割が行われた場合等においても一定の手続を行っておくことで、配偶者の税額軽減の適用を受ける余地はある(*1)。 (2) 相続税申告書の提出 配偶者の税額軽減の適用を受けるためには、相続税申告を行い、かつ、配偶者の税額軽減に関する必要事項を記載し、かつ必要な書類を添付する必要がある(*2)。 (3) 仮装・隠ぺい 仮装・隠ぺいにより相続税申告を行った場合には、その部分については配偶者の税額軽減は適用されない。これは、相続財産につき、「仮装・隠ぺい」という不正手段を用いていた場合には、配偶者といえども、他の相続人と同様に相続税を負担させることにより、悪質な納税義務違反の発生を防止する趣旨であると考えられる。 この場合、具体的には、配偶者の税額軽減額は、次のように計算される。 なお、「仮装・隠ぺい」とは、相続又は遺贈により財産を取得した者が行う行為で当該財産を取得した者に係る相続税の課税価格の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装することと定義される。 仮装・隠ぺい行為があったか否かの判断は、 か否かで判断される(平成23年11月25日裁決、平成24年4月24日裁決)。 (了)
基礎から学ぶ統合報告 ―IIRC「国際統合報告フレームワーク」を中心に― 【第2回】 「基礎概念における「価値」を理解する」 公認会計士 若松 弘之 前回は、現状の「開示情報の氾濫」と「非財務情報の有用性」を踏まえて、近い将来「統合報告」の取組みが、企業価値の判断に有用な開示手法になる可能性について述べました。 今回はまず、2013年12月にIIRCから公表(日本語版は2014年3月に日本公認会計士協会から公表)された「国際統合報告フレームワーク」(以下、「フレームワーク」という)の具体的内容から説明していきます。 1 統合報告書とフレームワークの関係とは? フレームワークによると、統合報告書は であり、フレームワークに準拠して作成することが求められています。 フレームワークは、統合報告書の全般的な内容を統括する「指導原則」及び「内容要素」を規定し、それらの「基礎概念」を説明することを目的としており、画一的かつ詳細なルールを定めるものではなく、原則主義アプローチに基づいています。 したがって、企業が「フレームワークに準拠した統合報告書である」と宣言するためには、「基礎概念」を十分理解したうえで、フレームワークが要求する事項(フレームワーク本文に太字の斜字体で明示されている)である「指導原則」や「内容要素」を取り入れたものでなければなりません。 2 統合報告書のターゲット(情報提供先)は? 統合報告書は、企業に資本を出資する投資家(株主)や資金を融資する金融機関や社債権者などの「財務資本の提供者」を主たる情報提供先と考えています。これは一義的に企業の価値増減の影響を受けるのが「財務資本の提供者」となるためです。 しかしながら、フレームワークでは統合報告書のターゲットを「財務資本の提供者」に限定するのではなく、従業員、顧客、サプライヤー、事業パートナー、地域社会、立法者、規制当局及び政策立案者など、組織の長期的価値創造能力に関心を持つ「全てのステークホルダー」にとって、統合報告書は有益なものとして位置付けています。 3 「基礎概念」とは? フレームワークの中で一番理解が難しいのはどこかと言われれば、この「基礎概念」の部分ではないでしょうか。なぜなら、「基礎概念」は新しい観念に関する抽象的な表現を多く含んでいるからです。ただし、「基礎概念」は、統合報告の本質に迫るうえで非常に重要なコンセプトになっており避けて通ることはできませんので、次の会話を手がかりに理解していきましょう。 2人の会話から、統合報告が明らかにしようとしている主題が、企業が将来にわたり、2種類の「価値」をどのように増やしていけるのか、また、その関係性や相互作用はどうなっているのかという点であることが理解できたでしょうか。 * * * それでは、そもそもその「価値」の源泉はどこにあるのでしょうか。 フレームワークの「基礎概念」を理解するうえで、もう1つおさえておかなければならないポイントが、「価値」と「資本」の関係です。 この部分については、次回詳しく解説していきます。 (了)
企業結合会計基準に対応した 改正連結実務指針等の解説 【第6回】 (最終回) 「複数の取引が1つの企業結合等を構成している場合の会計処理」 公認会計士 布施 伸章 ◆ 解説 ◆ 1 一体取引とみるかどうかの考え方 企業結合会計基準5項及び事業分離等会計基準4項では、複数の取引が1つの企業結合又は事業分離を構成している場合には、それらを一体として取り扱うものとしている。 また、企業結合会計基準66項及び事業分離等会計基準62項では、通常、複数の取引が1事業年度内に完了する場合には一体として取り扱うことが適当であると考えられるが、1つの企業結合又は事業分離を構成しているかどうかは状況によって異なるため、当初取引時における当事者間の意図や当該取引の目的等を勘案し、実態に応じて判断することとなるとされている。 資本連結実務指針7-3項では、「当初取引時における当事者間の意図」など企業結合会計基準66項の趣旨を踏まえて、 と定めている。 したがって、そのポイントは以下の2点になると考えられる。 ①の取扱いは、ある目的を達成するために、関連性のある組織再編が段階的に行われていたとしても、第三者間で行われている場合には、それぞれの時点で合理的な取引条件でなされているものと想定されることから、会計上もその順序に従って処理することが、一連の組織再編の実態を適切に表すことが多いと考えられるためと思われる。 ②の取扱いは、株主等の取引当事者間で事前に契約等により1つの企業結合等を構成していると判断されるような場合には、個々の取引に着目した会計処理よりも、一連の取引を一体として扱うことが経済実態を反映すると考えられるためと思われる。 取引の一体性について、事前に契約等により明確な場合は必ずしも多くはないと考えられるため、②に該当するかどうかは判断が必要になる。 実務では、ある企業の株式の過半数を取得する場合、残りの株式の扱い(非支配株主が保有する株式の扱い)も同時に検討されることが多いと思われるが、残りの株式を有利な固定価格で買い取る権利を有している場合には、残りの株式の取扱いも、事実上、当初の株式の取得時点で決定していると評価できることがあり、一体処理として扱われる可能性が高いと思われる。 他方、残りの株式の買取りに関して単に優先買取権があるというだけでは、追加取得の判断は事後的に行われることになるため、別々の取引として扱われる可能性が高くなると思われる。 このほか、追加買取りの相手が当初買取りの相手と同じ場合には、両者が異なる第三者の場合に比べて、一体取引として扱われる可能性は高いと思われ、取引価格の調整、売り戻し、買い戻しの有無や取引毎にみたときの経済合理性なども踏まえ、総合的に判断することが求められることになると考える。 なお、会計基準では、「通常、複数の取引が1事業年度内に完了する場合には一体として取り扱うことが適当である」との記述があるが、これはあくまで例示と考えられる。したがって、複数の取引が1事業年度内に行われたときは一体取引として会計処理を行い、事業年度を越えれば別々の取引として会計処理する、というような画一的な判断は適当ではないと考えられる。 2 一体取引とされた場合の会計処理 複数の取引が1つの企業結合等を構成しているものとして一体として取り扱われる場合、支配獲得後に追加取得した持分に係るのれん(別々の取引とされた場合には、資本剰余金として処理される額)については、支配獲得時にのれんが計上されていたものとして算定し、追加取得時までののれんの償却相当額を追加取得時に一括して費用として計上することになる(資本連結実務指針7-4項)。 例えば、第1四半期に60%の株式を取得して支配を獲得し連結子会社とし、同一事業年度内の第3四半期に20%の株式を追加取得した場合(子会社に対する持分比率は80%)で、当該取引が一体のものとして取り扱われたときは、追加取得時の差額については、支配獲得時(第1四半期の60%の株式取得時)にのれんが計上されていたものとして、第3四半期から、第1四半期及び第2四半期の償却分も含めて償却計算を行うことになる(資本連結実務指針66-4項)。 (連載了)
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《退職給付債務・退職給付引当金》編 【第3回】 「確定給付型企業年金制度のみの場合」 公認会計士・税理士 前原 啓二 1 掛金支出時と決算時の仕訳 〈企業年金掛金支出時〉 〈X2年3月31日の仕訳〉 この設例は、退職金の財源をすべて外部拠出し、確定給付企業年金法に基づく確定給付企業年金制度のみから退職給付を行う場合です。適用する方法は、簡便的方法で、直近の年金財政計算上の数理債務をもって退職給付債務とする方法(退職給付に関する会計基準の適用指針50(2)③)です。 この方法によると、当期末における退職給付引当金残高は、年金財政計算上の数理債務34,500,000円から年金資産の時価25,500,000円を控除した額9,000,000円になります。 当社の決算日(3月31日)と年金財政計算の決算日(2月28日)に差異がありますが、この設例では年金財政計算の決算日X2年2月28日から当社の決算日X2年3月31日までの間に年金資産の時価や年金財政計算上の数理債務に重要な影響を与える事象はないものとし、また、年金財政計算のX2年3月31日の報告書も特にないことから、簡便的にX2年2月28日現在の年金財政計算上の数理債務34,500,000円と年金資産25,500,000円を用いて計算します。 同様に、前期末の退職給付引当金残高を計算すると下記のとおりです。 退職給付引当金の前期末残高から当期末残高の増減を、退職給付債務と年金資産に分解して示すと、次のとおりです。 年金資産については、当期の年金掛金支出額3,600,000円(上表の注①)により増加します。退職給付引当金残高は年金財政計算上の数理債務から年金資産の時価を控除した額なので、年金資産の増加は退職給付引当金の減少要因となり、年金掛金の支出は会計上退職給付引当金の減額で仕訳されます。前期末貸借対照表上の退職給付引当金残高8,000,000円から当期の年金掛金支出額3,600,000円を差し引いた4,400,000円が決算整理前の退職給付引当金残高となります。 当期末の退職給付引当金残高9,000,000円を退職給付引当金期末残高とするため、決算整理前の退職給付引当金残高4,400,000円から4,600,000円を増加させます。この増加額4,600,000円は、退職給付債務の増加5,000,000円と年金資産の増加400,000円に分解できます。前者は、直近年金財政計算上の数理債務の前期末金額30,000,000円から当期の年金給付額500,000円を控除した29,500,000円と、直近年金財政計算上の数理債務の当期末金額34,500,000円との増差額5,000,000円(上表の注②)です。後者は、年金資産の運用益400,000円(上表の注③)です。 2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 税務上は、実際に退職給与を支給した日の属する事業年度にその支給額が損金算入されます。したがって、当期の退職給付引当金の計上費用4,600,000円は加算・留保します。 一方、確定給付企業年金の掛金については支出額をその支出した事業年度に損金算入できます(法令135)が、会計上はこの支出額を退職給付引当金の減額で処理し費用計上していないことから、税務上はこの金額を減算調整します。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第48回】 金融商品会計④ 「その他有価証券の評価」 仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① X2年3月31日 (*1) 100株×(120-100)=2,000 (*2) 2,000×40%=800 (*3) 2,000-800=1,200 ② X2年4月1日 ③ X3年3月31日 (全部純資産直入法による場合) (*4) 100株×(100-90)=1,000 (*5) 1,000×40%=400 (*6) 1,000-400=600 (部分純資産直入法による場合) 〈会計処理の解説〉 会計上、有価証券として取り扱われるものには、株式、社債券、国債などがありますが、会社がこれら有価証券を保有する目的は実にさまざまです。 そこで、会計上は、有価証券を以下の4つの保有目的に分類し、保有目的ごとに異なる会計処理を行います。 本事例におけるA社株式は、取引関係の維持を目的としているため、(d)その他有価証券に該当します。 その他有価証券は、取引関係の維持などを目的として保有しており、事業遂行上の必要性から直ちに売却することが困難な場合もあるため、評価差額を当期の損益とせず、税効果を調整の上、純資産の部に直接計上します(これを「全部純資産直入法」といいます)。 一方、保守主義の観点から、時価が取得原価を上回る銘柄の評価差額については純資産の部に計上し、時価が取得原価を下回る銘柄の評価差額については損益計算書に計上する方法も認められます(これを「部分純資産直入法」といいます)。 その他有価証券の評価方法をまとめると、以下のようになります。 〈時価が著しく下落した場合〉 上記のとおり、その他有価証券の評価差額は、全部純資産直入法か部分純資産直入法により処理しますが、時価が著しく下落した場合においては、回復する見込みが“ある”と認められる場合を除き、評価差額を当期の損失として処理(減損処理)しなければなりません(基準20項)。 「著しく下落した場合」に該当するかどうかは、状況に応じて個々の企業が合理的な基準を設ける必要があります。ただし、時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合には、個々の企業が設けた基準に関係なく、「著しく下落した場合」に該当し、合理的な反証がない限り、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められず、評価差額を当期の損失としなければなりません。 有価証券の時価の下落率が概ね30%未満の場合には、一般的に「著しく下落した場合」には該当しないと考えられています。 一方、時価が回復する見込みがあるかどうかは、市場環境の動向や発行会社の業況等を総合的に勘案して判断します。ただし、株式の時価が過去2年間にわたり著しく下落した状態にある場合や、株式の発行会社が債務超過の状態にある等の場合には、通常、回復する見込みがあるとは認められません。 有価証券の減損処理をまとめると、以下のようになります。 ①時価の著しい下落があり、②回復可能性があると認められない場合(すなわち、回復可能性がない、あるいは回復可能性があるかどうか不明な場合)、有価証券は減損処理が必要となります。 * * * 次回は、子会社株式・関連会社株式の評価について解説します。 (了)
国際出向社員の人事労務上の留意点 (日本から海外編) 【第1回】 「国際出向社員の各種法律における身分関係①(税務)」 社会保険労務士 平澤 貞三 近年、企業規模の大小を問わず、日本企業の海外進出が加速しているのは周知のとおりである。また、大震災後に減ってしまった国内在住のエクスパット(業務命令で海外から日本へ赴任している社員)も徐々に勢いを戻しつつあり、人事の国際化が活発化を増してきている。 そこで本連載では、日本と海外の間を出向している社員の人事労務上の取扱いや留意点について、7月から8月にわたり全8回で、『日本から海外編』、『海外から日本編』として解説していきたい。 (1) 国際出向社員の税務上の立場 日本の国内法において、個人の納税義務者の居住形態は、居住者、非居住者に分かれ、また、その居住形態ごとに課税所得の範囲が定められている。 これらを表にまとめると次のようになる。 【居住形態の区分】 【居住形態ごとの課税所得の範囲】 (2) 税務上の居住形態の判定基準 居住者の定義は、「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」となるが、これに対し所得税法において、住所の有無の推定規定が設けられている。 簡単に言えば、日本から海外へ赴任する場合で、継続して1年以上海外に居住することを通常要する場合は、その出国時点から日本での住所を失ったものとみなして、1年以上の海外居住の実績を待たずに出国日の翌日から非居住者して扱うというものである。 海外から日本の場合も同様に、1年以上の勤務の予定で来日する社員は、入国日の翌日から住所又は居所を1年以上有する者とみなされ、入国日の翌日から居住者として扱われることになる。 (3) 国内源泉所得 国内源泉所得とは、給与所得に限って簡単に言えば、日本国内で勤務したことに基因して発生した給与である。その給与が日本国内で払われたものか、国外から払われたものかを問わず、日本で税金を納めるべき所得となる。 その国内源泉所得に該当する給与が、日本の会社から払われた場合(上記表中①、⑥、⑪)は源泉徴収(給与計算)を通じて、また、国外から払われた場合(上記表中②、⑦、⑫)は確定申告により、所得税を納めることになる。 逆に国外源泉所得は、国外で勤務したことに基因して発生した給与であり、1年以上の予定で海外に赴任した社員(=非居住者)に対する給与は日本での課税所得にあたらないため、仮に日本から給与を支給している場合であっても、所得税の源泉徴収は不要である(上記表中⑬、⑭、⑮)。 (了)
事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第14回】 「消費税転嫁阻害表示〔③禁止される「表示」の具体例(その2)〕」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳 1 セールの実施自体は問題ない 本連載第12回において述べたとおり、消費税転嫁対策特別措置法の消費税転嫁阻害表示の禁止規定は、消費税分を値引きする、消費税分を転嫁しない、消費税分相当分のポイントを付与するなどの宣伝や広告等の表示を禁止するものである。 よって、この規定は、あくまで表示を規制するものであり、事業者が、自身の企業努力によって価格設定を行うこと自体を制限するものではない。そのため、事業者がセールを実施することそのものが、消費税転嫁対策特別措置法に違反するものではない。 設例の事案でも、アパレル事業者が、各商品の値札に記載の値引き率に加えて、レジでの会計の際に消費税率と一致する8パーセント分を割引にするようなセールを実施すること自体は、特段問題ない。 2 消費税転嫁阻害表示として禁止されるセールの表示 このようなセールを行うこと自体には問題がないとしても、セールの宣伝・広告等の表示については、消費税転嫁阻害表示との関係で注意する必要がある。 (1) 禁止される表示と禁止されない表示の判断基準 本連載第12回でも述べたとおり、「消費税」「消費税分」「消費税引上げ分」「増税分」「税率引上げ分」(*1)等の消費税に明らかに関連する文言を含み、消費税相当分8パーセントや消費税引上げ分の3パーセントの値引きをする表示は、消費税転嫁阻害表示として禁止される。 (*1) 「消費税の転嫁を阻害する表示に関する考え方」(平成25年9月10日 消費者庁)第2の3、注5 他方、上記のように「消費税」等の文言を含まず、「3%値下げ」「8%還元セール」等とのみ記載された表示については、消費税との関連が明らかでなく、いずれも、禁止される消費税転嫁阻害表示には当たらない。 なお、消費税転嫁対策特別措置法8条2号における「消費税との関連を明示」するという要件については、もともとの消費税転嫁対策特別措置法の法案には置かれていなかった。もっとも、法案提出後の衆議院経済産業委員会において多数の質疑が提出されたことから、この経緯を踏まえ、禁止の対象を消費税との関連を明示しているものに限ることによって、消費税転嫁阻害表示の範囲を明確化することになった。そのため、同委員会で、このような要件を規定する文言を含む形で修正案が提案され、その後、衆議院本会議及び参議院本会議で可決されたものである。 この要件が置かれたことによって、従前の法案に比べ、禁止される表示の範囲が明確になり、事業者にとっても、禁止されるか否かの予測がはるかに容易になった。 (2) 禁止されるか否かの判断方法 消費税転嫁阻害表示に当たるか否かは、ある宣伝や広告における特定の文言だけに着目するのではなく、事業者が行う宣伝や広告の表示全体から判断されることとなる。 例えば、ある広告チラシの表面に大きく と記載されているとき、この文言のみに着目すれば、消費税との関連性が明らかでないため、消費税転嫁阻害表示には当たらないことになる。 しかし、同一のチラシの同一面に相対的に小さく、あるいは、同一のチラシの裏面に、 等と記載してあるときには、上記表面の文言と合わせて表示全体を見れば、消費税率3パーセント分を値引きするということが明らかとなるので、消費税分を値引きする等の表示として消費税転嫁阻害表示に当たることになる。 よって、事業者が、消費税分を値引きする旨の宣伝や広告を作成する際には、ある特定の文言にだけ注意するのではなく、表示全体をみたときに、消費税との関連が明示される結果になってしまっていないか、広く注意を払う必要がある。 (3) 設例のチラシの場合 設例のチラシを見ると、チラシの上部には、消費税との関係では としか記載されておらず、これだけに着目すれば、消費税との関連を明示するものとはいえない。 しかしながら、チラシの下部の吹き出しの中を見ると、小さく、 と記載がある。 したがって、このチラシの表示全体から判断すると、消費税分8パーセント分が値引きになる旨が読み取れ、当該値引き分と消費税との関連を明示しているとみられる。 よって、設例のチラシは、消費税転嫁阻害表示に当たり、消費税転嫁対策特別措置法に違反すると考えられる。 3 値引き分の負担を供給業者に求めることは「買いたたき」として禁止される 他方で、小売店等が、ある商品についてセールを実施し、実質的に消費税8パーセント分も含めた値引き価格を設定する際、その原資を自らの企業努力のみによって捻出するのではなく、納入業者に協力を求めて納入価格を値引きさせることは、「買いたたき」として、消費税転嫁対策特別措置法に違反する可能性が高い(同法3項1号。なお、消費税の転嫁を拒否する等の行為が禁止される事業者間については、本連載第1回を参照)。 この「買いたたき」とは、本連載第3回で述べたとおり、 をいい、合理的理由の有無が問題とされることになる。 したがって、設例のアパレル事業者が、商品の納品業者に対して、セールの原資を得るため仕入価格の値引きを求めることは、「買いたたき」に当たるであろう。 (了)