女性会計士の奮闘記 【第11話】 「税制改正ネタはいつでも出せる・使えるように」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 ◆ワンポントアドバイス◆ 税制改正をチャンスと捉えましょう。税制改正がお客様にとってどのような影響があるのか?同族会社の場合、社長の相続財産だけでなく、会社の財産も視野に入れ、トータルで考えることが必要です。 まずは、会社の決算書をじっくりと眺めてください。そして、会社と社長との取引を洗い出してください。 そうすれば、必ず“答え”は見えてくるでしょう。 (了)
税理士・公認会計士事務所 [ホームページ]再点検のポイント 【第10回】 「専門分野の絞込みが、集客につながる」 データライズ株式会社 代表取締役社長 公認会計士・税理士 河村 慎弥 今回は引き続き、 ということについてお話しましょう。 前回、事務所ホームページの目的として挙げた2つのうち 場合の定番の方法として、以下の2つがあることをご紹介しました。 ①については前回取り上げましたので、ここでは2つ目の「専門分野に特化したホームページにする」にはどうすればいいか、順を追ってご説明しましょう。 まず、ホームページで「どのような専門分野をアピールするか」を決める(絞る)必要があります。 この「専門分野」については、どのような切り口でもいいのですが、例えば、業務で分類するのなら「相続税」とか「デューデリ」、顧客の業種で分類するのなら「製造業の税務」とか「小売業の税務」など。 あるいはもっと細かく「食品の小売業の税務」としても良いでしょう。 このように言うと、 とお考えになる人もおられるかと思います。 しかし、集客においては という戒めがあります。 これは、逆の立場で考えてみるとよくわかるのですが、万が一、あなたが所得税について国と法廷で争うことになり、パートナーとなる弁護士を選ぶとしましょう。 「どんな訴訟でも引き受けます!」 と言う弁護士と、 「税務訴訟専門!」 と言う弁護士がいたとして、どちらの弁護士を選びますか? ・・・もちろん後者ですよね。 つまり「専門」というからには、税務訴訟に強そうだからです。 さらに税の中でも「所得税の税務訴訟専門!」だったりしたら、大歓迎でしょう。 このように、「なんでもできる」と言っていたら、どんな分野においてもその分野の「専門」と言っている同業者に客を奪われることになります。 結局、「なんでもできる」では、「何一つ仕事がない」ということになりかねないのです。 また、専門分野で獲得した顧客があなたを信頼してくれれば、その他の分野の仕事についても、まず初めにあなたに相談してくるはずです。 つまり、専門分野を絞るということは、これから様々な仕事を増やしていきたい新規開業における「はじめの一歩」の戦略としても使える方法なのです。 * * * 次に、上記で絞った専門分野に「特化したホームページ」にしていく場合には、ページを訪れた潜在顧客に対し「その分野なら任せてほしい!」と強く訴えかけなければなりません。 一番効果的なのは、その分野の実績や経歴をアピールすることです。 しかし、これからその分野をウリにしていこうという場合には、それほど実績や経歴はないでしょう。 その場合には、その分野についての知識をアピールすることです。 ただし、潜在顧客はたいていの場合、その分野の素人ですから、読みやすく、理解しやすいページを制作することが肝要です。 間違っても専門書を書き写したようなページは作らないことです。 専門分野に特化したホームページの場合、自分の事務所の紹介は必要最小限になります。自分の事務所も詳しく紹介したいという場合には、「事務所紹介のホームページ」の他に「専門分野に特化したホームページ」を開設する方法もあります。 このように本体となるホームページの他に公開するホームページを「サテライト・サイト」と呼びます。 サテライト・サイトは、従来の業務と全く異なる業務に進出するような場合に、今までの業務の集客に影響を与えずに、新業務に特化した集客をかけたい場合などに適しています。 * * * ここまで、ホームページからの集客を望んでいる場合の定番のホームページについてご説明してきました。 前回ご説明した「事務所に親しみをもてるホームページにする」方法は、すでにある程度の実績と規模のある事務所に適しているといえます。 そして「専門分野に特化したホームページにする」方法は、どのような人にもお薦めです。 次回以降お話していきますが、「専門分野に特化したホームページにする」方法の方が、集客には優れていることが多いようです。 さて、いよいよ次回からは、「集客できる」良いホームページというものを、より実践的に考えていくことにします。 「ホームページからの集客」という以上、ホームページを見る人(「訪問者」とか「閲覧者」と呼ばれます)がいて、その人たちから仕事の問合せが来ることが必要です。 ここで、以下のような場合を考えましょう。 この場合、訪問者の0.5%の問合せがあったことになります。 集客ということを考えた場合、仕事の問合せ件数が多いほど良いので、良い事務所ホームページとは、 ホームページということになります。 次回からは、これらのことをお話していきます。 (了)
「なんにしましょうか」 「メニューあります?」 「メニューはないんですよ。こっちがスコッチで、こっちがバーボンです」 私はバックバーの酒が並ぶ真ん中ぐらいで手をささっと振る。 輸入洋酒はすぐに値上がりするのと、酒の種類も入れ替えるので書き換えが面倒になりメニューはやめた。 「じゃあ、ジャック・ダニエルをロックで」 「会社はご近所ですか」 新顔の客には、だいたいこのセリフを使う。客の緊張を解すつもりで話し掛けている。 「近いですね。すぐそこですよ」 「お仕事は何屋さんで」 客が応えたその後にこれを続ける。 「え、まあ、普通のサラリーマンですよ」 客は「詮索好きなヤツだな」と続くせりふを飲み込んでいる。 私はここまでのやり取りで、話して面白い相手かどうかも探っている。今夜最初の客はあまり面白い人ではなさそうだ。 「なにか聴きたいのありますか」 「いえ、ジャズはあまり詳しくないんで」 「じゃあ、マイルスのカインド・オブ・ブルーでもかけますか」 CDを交換していると、石さんがドイツ人2人を連れて入ってきた。続いて田中さん、会計士の本橋さん、小山田さんも会社の同僚3人と、ギターの川上くんとピアノの瞳ちゃん、奥にある小部屋を除いてほぼ満席になった。 石さんはオールド・クロウのロック+チェイサー、ドイツ人2人は銘柄は決まっていないがスコッチのシングルモルトをストレートで(ほとんどのドイツ人はウイスキーをストレートでしか飲まない)、田中さんはこの時間だとメイカーズをロックで、本橋さんは冷凍庫のタンカレーをストレート+チェイサー、小山田さんグループはボウモアのロックを4つ、川上くんはターキーのロック、瞳ちゃんはアードベックのロック。この人たちの飲むものはだいたい決まっている。 「これでいいですよね」オールド・クロウの酒ビンを右手で持ち上げながら石さんの方を見れば頷いている。以下も銘柄だけ一応確認しながらどんどん作る。全員に酒を出し終わっても「カインド・オブ・ブルー」1曲目の『ソー・ホワット』はまだ途中だった。 月末の金曜日。時刻は9時を過ぎたところ。昼間から空は晴れ、さわやかな風が吹いていた。こんな夜はぶらぶらと2軒目へ足を向けるにはもってこいで、客の多さに不思議はない。 「私は招き猫なんですよ。客が1人もいない店に私が入るとそのあとにいっぱい入ってくるんですよ」と普通のサラリーマン。 こんなことをいうヤツがよくいる。 「そうですね」と笑って答えておくが、ほとんどの店の人は(そうじゃない、おれの日々の努力の結果だ)と思っているのではないだろうか。努力などしていない私もあんたのお陰じゃないとは思ってる。 普通のサラリーマンは得意そうに微笑を浮かべている。 「あんたは普通に客が多い日に来た普通のひとだ」といいたいが我慢する。その通りにいったら来なくなったひとがいるのだ。 (了)
日本の企業税制 【第1回】 「法人税実効税率引下げへの道筋」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 1 はじめに 法人実効税率の引下げが、にわかに現実味を帯び始めている。 10月1日に取りまとめられた与党「民間投資活性化等のための税制改正大綱」(以下、大綱)では、復興特別法人税の1年前倒し廃止について12月中に結論を得ると表記されたのに続き、以下のような記述がなされている。 これには官邸よりの強い要請があったとされるが、その伏線は8月に遡る。 8月13日の日本経済新聞朝刊1面に、安倍首相が法人税率の引下げを検討するよう関係省庁に指示したと報じられた。これを好材料として株価は13日、14日と続伸したが、15日に至り麻生副総理兼財務大臣、菅義偉官房長官等がこれを否定したため、株価は大きく下落した。 この記事の信憑性はともかく、市場が法人実効税率引下げを強く待望していることが、改めて明確になった。 その後、9月10日に至り、今度は本当に総理から実効税率引下げが提案され、これに対して財務省は復興特別法人税の1年前倒し廃止ならば、と応じたのが、この大綱に至る経緯である。 もともと消費税率の引上げを決めた消費税法改正法(平成24年8月22日成立)では、法人実効税率の見直しは平成27年度以降の検討課題とされていたのであるが、ともかくも、「速やかに検討を開始する」こととなった。 2 なぜ、法人実効税率引下げか それでは、なぜ、法人実効税率の引下げなのか。 法人税負担を軽減するのであれば、税率だけが唯一の手段ではない。現に「税制秋の陣」では、経済活性化のために生産性向上設備等投資促進税制の創設や所得拡大税制の見直しなど、政策税制が大胆に拡充された。 今後も、政策税制により、日本経済を支えていくべき企業の税負担を実質的に軽減していく方が、すべての企業を対象に税率を引き下げるよりも、効果が高く、財源も少なくて済むのではないか。 実効税率引下げか政策減税かは、この10年以上、わが国の法人税のあり方をめぐる根本的な問題であり、経団連も税率引下げを絶えず主張しながら、毎年の税制改正では政策税制を取りに出ていたことも事実である。 私見であるが、日本に既にある企業、とりわけ国際競争に直面している企業には、投資減税等の政策税制を有効に活用していくことで実質的な税負担を軽減していくことでもよい。 一方、目を外に転じると、企業が立地先を選ぶ重要な条件が税負担であるが、政策税制は大部分が時限措置であり、また毎年のように改正され、対象や要件も当然のことながらバラバラであり、一目瞭然とはなり得ない。 そこで、分かりやすい実効税率(表面税率)が重要となる。 日本再興戦略では、「2020 年における対内直接投資残高を35 兆円へ倍増(2012 年末時点17.8 兆円)することを目指す」とされているが、その実現のためには「国家戦略特区」だけでは不十分であり、法人実効税率をアジア近隣諸国並みの25%にまで引き下げることが必要であろう。 まさに、法人実効税率の引下げは、わが国の立地競争力を強化し、国内における生産・開発拠点等を維持するとともに、内外の企業による投資を促進する上で、避けて通ることのできない改革の本丸である。 【法人実効税率の国際比較-財務省資料より】 (2013年1月現在) 3 課税ベースと実効税率 しかしながら、復興特別法人税廃止後も実効税率は35.64%(東京都)に止まり、25%までには未だ10%ポイントもの開きがある。これは税収としては4兆円にも上り、経済活性化による自然増収がある程度は期待できるとしても、実効税率引下げを実現するためには、財源を確保することが不可欠になる。 大綱では、財源として「政策減税の大幅な見直しなどによる課税ベースの拡大」が明記されているが、実効税率の引下げ分だけ課税ベースを拡大したのでは全く意味がないとしても、それなりの対応はしなければならない。 平成23年度税制改正では、実効税率を5%引き下げるために、国税の法人税率を30%から25.5%に引き下げたが、そのための財源のおよそ半分を法人税の課税ベース拡大で捻出している(下表参照)。 減価償却制度の見直しや欠損金の繰越控除制度の見直しなどが主なものであったが、これらをこれ以上深堀りすることになれば、企業活力をかえって損ないかねない。 政策税制の見直しは当然であるとしても、仮に今回創設された投資減税等を含めすべての政策税制を廃止しても、税率換算で4%にもならない。 また、政策税制の多くが中小企業の特例であるが、その廃止は困難である。 【平成23年度税制改正の法人税(国税のみ)増減収】(単位:億円) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 4 「他税目」とは何か 大綱では「他税目での増収策による財源確保」も言及されている。従来、法人税の中で税収中立が言われてきたことからは大きな前進である。 しかし、実効税率引下げを可能とするような「他税目」とは、何であろうか。 個人所得課税を増税して法人税減税では政治的には通らない。実効税率引下げで企業収益が向上し、株価の上昇や配当の増大が期待できるとすれば、株式譲渡益や配当への課税を見直すことはあり得るとしても、来年からの20%への引上げの先にすぐ増税ができるであろうか。資産課税の強化や酒税・たばこ税も考えられるが、それぞれ税収には限界がある。 結局は消費税となるが、8%、10%ヘの引上げ分は社会保障財源とされている。その先の消費税率引上げを見通すとすれば、2020年のプライマリーバランス回復を目標とする財政再建との絡みで、2016年度から2020年度のどこかで、さらなる消費税率引上げがあり得るとしても、かなり先のことでしかない。 5 地方法人課税をどうする 法人税の課税ベース拡大にせよ、他税目を勘定に入れるにせよ、国税だけで実効税率10%分の財源を得ることは困難であり、地方法人課税の見直しが不可欠である。 もともと、わが国の法人実効税率が高いのは、法人事業税、法人住民税のためである。また、地方税全体の中でこの“法人2税”のウエイトが高いために、景気変動による税収の不安定さとともに偏在性の問題がつきまとっている。 地方法人特別税は、消費税率引上げまでの暫定措置という経緯からしても廃止すべきものだが、それが困難である場合は、地方法人2税の全部又は一部、とりわけ所得に対する課税部分を国税の法人税に統合し、その全額を、地方交付税の不交付団体に対する一定の配慮を行いつつ、各自治体に配分することが考えられる。その上で、地方消費税も含む財源を見出しながら、実効税率を国際的な水準へと段階的に縮減すべきである。 なお、消費税改正法では、地方税制については、次に定めるとおり検討することとされていた(第7条五号)。 6 実効税率引下げへの道筋を早急に 法人実効税率の引下げをめぐっては、いくつか批判的な見解も存在する。 欠損法人割合が7割のため税率引下げの効果は限定的との意見、減税をしても内部留保が積み上がるだけであるとの批判、国際競争にさらされているのは製造業等の一部業種に過ぎず一律減税には意味がない、といった主張である。 しかし、欠損法人が永久に欠損状態であるということはあり得ない。法人実効税率の引下げは、利益計上法人の税引後当期純利益を増大させ、新たな投資や雇用を生み出すということのみならず、欠損法人から利益計上法人へと復帰した企業を強力に後押しするという効果もある。 また、創業期にある企業のキャッシュ・フローの改善による開業率の向上や海外からの直接投資の増加を通じた雇用の創出と産業構造変革の推進という効果も忘れてはならない。 日本はこの面で諸外国に大きく見劣りしており、改善が急務である。 内部留保については、まず、議論の前提として、余剰資金を意味しないということを認識すべきである。 内部留保は、会計上、利益剰余金を指すことになるが、これらは貸借対照表において現金預金のみならず、機械・設備などにも対応している。すなわち、企業は内部留保を源泉として、広く事業用資産への投資を行っている。 企業が保有する現金預金がマクロで増加していることは事実であるが、その要因としては、第1に、需給ギャップの存在により企業の設備投資意欲が低下していたこと、第2に、先行き不安によるリスク回避傾向があったと考えられる。ただし、これらも安倍政権が進める経済政策とあいまって、解消の傾向にあると考えられる。 法人実効税率の引下げによるメリットを享受するのは、製造業に留まらない。今や非製造業を含め、熾烈な国際競争が行われている。法人実効税率の引下げについては、改めて大所高所に立った議論を行い、平成26年度税制改正において、具体的な道筋=スケジュールを明らかにする必要がある。 (了)
〈平成25年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第5回】 (最終回) 「実務上、判断に迷うケースQ&A」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 連載最終回となる今回は、筆者がこれまで年末調整に関し質問を受けた事項のうち、特に質問の多かったもの、又は、その判定が難しいものを選定し、実務的な観点から解説を行うこととする。 【Q1】 控除対象配偶者等の判定の時期 〈解 説〉 居住者の配偶者その他の親族が、控除対象配偶者若しくは扶養親族に該当するかどうかの判定、及び控除対象配偶者や扶養親族が障害者に該当するかどうかの判定は、原則としてその年の12月31日の現況による(所法85②③)。 居住者がその年の中途で死亡した場合(又は出国する場合)には、その者の死亡時(又は出国時)の現況により判定し、居住者の配偶者その他の親族のうちに年の中途で死亡した者がいる場合には、それらの者の死亡時の現況により判定する(所法85①②③)。 また、居住者本人が障害者、寡婦(寡夫)、勤労学生に該当するかどうかの判定も、その年の12月31日の現況によることが原則であり、居住者がその年の中途で死亡した場合(又は出国する場合)には、死亡時又は出国時の現況によって判定する(所法85①)。 年末調整に係る控除対象配偶者等の判定の時期についての事例を以下に示す。 [事例①]従業員が年の中途で死亡したケース 従業員が死亡した時の現況により、従業員本人が障害者、寡婦(寡夫)、勤労学生に該当するかどうか、また、配偶者その他の親族が控除対象配偶者、扶養親族、障害者に該当するかどうかを判定する。 この場合、配偶者その他の親族の合計所得金額は、従業員が死亡した時の現況によりその年の1月1日から12月31日までの金額を見積もることとされている(所基通85-1(2))。 なお、死亡時の現況で控除対象配偶者や扶養親族と判定された人の合計所得金額が、死亡時以後の状況変化により結果として38万円を超えたとしても、死亡時に行った年末調整をやり直す必要はない。 また、判定の時期が異なることにより、死亡した従業員の控除対象配偶者や扶養親族と判定された人が、12月の年末調整において他の給与所得者の控除対象配偶者や扶養親族に該当することもある(所基通83~84-1)。 [事例②]配偶者が年の中途で死亡したケース 配偶者が死亡した時の現況により、その配偶者が従業員等の控除対象配偶者、障害者に該当するかどうかを判定する。控除対象配偶者として申告されていない配偶者であっても、年の中途で死亡したため合計所得金額が38万円以下となり、その年は控除対象配偶者に該当するケースもある。 [事例③]配偶者と死別し、その年中に再婚したケース 年の中途において控除対象配偶者に該当する配偶者と死別した者が、その年中に再婚した場合、控除対象配偶者として扱う配偶者は死別した配偶者か再婚した配偶者のいずれか1人に限られ、2人分の配偶者控除を適用することは認められない(所令220①)。 この場合、控除対象配偶者としなかった方の配偶者は、扶養親族の定義を充たさないため扶養控除の対象とすることもできない。 【Q2】 合計所得金額の範囲 〈解 説〉 年の中途で海外転勤し非居住者となった者については、出国前の最後に支給する給与で年末調整を行う(所基通190-1(2))。【Q1】で解説した通り、年の中途で出国する場合は、出国時の現況により控除対象配偶者や扶養親族の判定を行うこととされている(所法85③、所基通85-1(2))。 この場合、判定の基礎となる合計所得金額には、非居住者の国外源泉所得は含まれない。したがって、配偶者その他の親族が、出国後に海外で働くことにより所得を得るとしても、その所得は0として合計所得金額を計算する。 【Q3】 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の再適用 〈解 説〉 (1) 特別控除の適用要件 特別控除の主な適用要件は、次の通りである(措法41①、措通41-2(1))。 (2) 転勤等により居住の用に供することができなくなった場合の取扱い 転勤等の事情により、それまで特別控除の適用を受けていた家屋を居住の用に供することができなくなった場合、特別控除の適用関係は次の通りとなる。 ① 国内転勤の場合 〈単身赴任の場合〉 (1)①~④をはじめとする特別控除の適用要件をすべて満たしていれば、(年末調整で)特別控除の適用を受けることができる。 〈家族と共に赴任する場合〉 (1)④の要件を満たしていないので、特別控除の適用を受けることはできない。 ② 海外転勤の場合 1年以上の予定で海外転勤する者は、出国日の翌日から非居住者となるため、海外赴任中は(1)①の要件を満たしていないことになる。したがって、単身赴任であるか、家族とともに赴任するかにかかわらず、特別控除の適用を受けることはできない。 (3) 特別控除の再適用(再び居住の用に供した場合の再適用) 特別控除の対象となっていた家屋を再び居住の用に供した場合には、一定の要件の下、一定の手続を行うことにより、特別控除の再適用を受けることができる。 下記①と②のケースについて、再適用に必要となる手続及び要件を解説すると、次の通りとなる。 ① 海外へ単身赴任していた場合 海外へ単身赴任していた者が帰国した場合には、帰国した年から(1)①の要件を満たすことになる。その他の要件もすべて満たしていれば、通常の年末調整の手続(*)により残存控除期間内につき特別控除の再適用を受けることができる。 (*) 通常の年末調整の手続 「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」に住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書を添付して勤務先に提出する。 ② 家族と共に赴任していた場合(国内、海外) 特別控除の適用期間内に勤務先からの転任の命令等により転居した場合には、次のすべての要件を満たしていれば、再び居住した年以後の残存控除期間について特別控除の再適用を受けることができる(措法41⑪)。この制度は、平成15年4月1日以後に対象となる家屋に居住しなくなった場合に適用される(平成15年改正法附則83)。 【Q4】 年末調整後の再調整 〈解 説〉 年末調整後、所得控除に異動があった場合には、その年分の源泉徴収票が作成される時(翌年の1月末日)までにその異動に関する申告があれば、異動後の状況により年末調整のやり直しをすることができる(所基通190-5)。 年末調整のやり直しをしなかった場合には、確定申告により精算することができる(所基通190-5(注))。 質問のケースの他、次のような場合には年末調整のやり直しをすることができる。 ① 年末調整後に控除対象配偶者や控除対象扶養親族の異動があった場合 年末調整後、その年の12月31日までの間に控除対象配偶者や控除対象扶養親族に異動があった場合には、異動申告の内容に基づいて年末調整をやり直すことができる。 例えば、次のようなケースが該当する。 ② 年末調整後に「生命保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」や「住宅借入金等特別控除申告書」の提出があった場合 年末調整後に「生命保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」や「住宅借入金等特別控除申告書」の提出があった場合には、その申告の内容に基づいて年末調整のやり直しをすることができる。 ③ 年末調整後に生命保険料等の追加支払いがあった場合 年末調整後、その年の12月31日までの間に生命保険料や地震保険料等の支払いがあった場合で、「生命保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」の再提出を受けた時には、再提出された申告書の内容に基づいて控除額を再計算し、年末調整のやり直しをすることができる。 ◆ ◆ ◆ なお、年末調整のやり直しができるのは「給与所得の源泉徴収票」を受給者に交付することとされている翌年の1月末日までである。 また、年末調整後に給与の追加払いがあった時には、追加支払額を給与等の支払金額に含めたところで年末調整のやり直しをすることとされている(所基通190-4)。この場合は、必ず年末調整のやり直しをしなければならない。 (連載了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第7問】 「区分所有に係る建物とその単独所有の土地を譲渡した場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、下図のような居住用財産を譲渡しました。 家屋は区分所有に係るもので、1階はXの所有(Xが居住)であり、2階はY(Xの長女の夫)の所有(Yが居住)であって、生活するにあたってそれぞれ独立した機能を有しています。 また、YのXに対する土地使用関係は使用貸借です。 この場合、Xについて「3,000万円特別控除(措法35)」の適用対象となる居住用財産の範囲はどこまででしょうか? A 家屋のうちX所有部分(1階)と、敷地の用に供されている土地のうちX所有の家屋に対応する部分(全体の1/2)が、「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる居住用財産に該当する。 〈解説〉 敷地の用に供されている土地のうちY所有の家屋に対応する部分(全体の1/2)については、Yに無償で使用させていることになる。 したがって、土地については、X所有の家屋に対応する部分(全体の1/2)が居住用財産となる。 (了)
鵜野和夫の不動産税務講座 【連載8】 路線価図の読み方(5) 税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫 (一) 私道 ―不特定多数の通行の用に供されているものは非課税だが 図表1 図表2(ア) 図表2(イ) 図表2(ウ) (二) 私道の評価は 図表3 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 図表4 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (三) 崖地のある宅地の評価は 図表5 崖地のある住宅団地の例 〈がけ地補正率表〉 (注) がけ地の方位については、次により判定する。 1 がけ地の方位は、斜面の向きによる。 2 2方位以上のがけ地がある場合は、次の算式により計算した割合をがけ地補正率とする。 3 この表に定められた方位に該当しない「東南斜面」などについては、がけ地の方位の東と南に応ずるがけ地補正率を平均して求めることとして差し支えない。 図表6 ① がけ地割合 ② 1㎡当たりの価格 図表7 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【23】 〔第5章〕法令用語 (その9) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 7 法の「適用」に関する法令用語 (① 適用する・施行する)【前回参照】 ② 適用する・準用する では次いで、「準用する」との差異について見ていく。 前回記したように「準用する」は、ある事項に関する規定をそれとは異なるが本質的には類似する他の事項について当てはめることをいい、これに対して、「適用する」は、ある事項に関する規定を本来その規定が対象としている事項について、そのまま当てはめることをいう。 通常「準用する」場合は、その準用ないし適用される法令の規定中の用語等(例えば、目的語、引用条文等)とその準用ないし適用する場合に関する法令の規定中のこれらの用語等とが異なるところから、 元の「適用する」とされている条文に若干の変更を加えることを要する。 そのため通常、「○○を△△と読み替える」などのいわゆる読替規定により、その用語を置き換える規定が設けられている。 この読替規定は、通常、準用規定の後段として規定され、例えば、 などと規定される。 国税通則法38条(繰上請求)第4項には、以下のようにある。 国税徴収法の159条は、保全差押について規定している条文であるが、同条第2項では国税局長の承認、同条第3項では書面通知といったように、第2項 から第11項 までに手続き等について規定している。国税通則法38条による繰上保全差押の場合にも、保全差押の場合と同様の手続き等を課すことを規定するにあたり、保全差押の条文を準用しているのである。なお第5項においては、保全差押においては書面通知した日から6ヶ月を経過した日までに税額の確定がない場合には差押を解除すべき旨等が規定されている。 上記読替規定は、保全差押のこの「6ヶ月」の期間が、繰上保全差押の場合には「10ヶ月」となることを規定している。 なお、保全差押と繰上保全差押は、異なるものではあるが本質的には類似するために「準用する」としている。 これに対し次の国税通則法第61条第1項では、「の規定を適用する」としている。 この前条である第60条は延滞税の規定であり、第2項には延滞税の利率が定められている。そしてこの61条の第1項も第2項とも、当初からこの60条の規定が適用されるものとして規定されており、「同項の規定を適用する。」と規定されている。 もう1つ別の例を示そう。 これは国税通則法第3条(人格のない社団等に対するこの法律の適用)である。 これはいわゆる「みなし法人」の規定である。法人格を持たない社団や財団であっても代表者又は管理人の定めがあるものは、税法上の法人として扱うことを規定している。 法人の規定をみなし法人に「準用する」のではなく、法人格を持たない社団や財団であっても代表者又は管理人の定めがあるものは、税法上は法人と本質的に同じであるとして、法人の一種として扱うため「適用する」としている。 ③ 例による これは、ある事項に関する法令上の制度を他の事項について包括的に借りてきて、これについても同様の取扱いをしようとする場合に用いられる。 「準用する」が個々の規定を他の事項について借用しようとするものであるのに対して、「例による」は一つの制度を全体として借用しようとする場合に用いる。 税法においては「従前の例による。」という中で使われることが圧倒的に多いのであるが、これ以外の使い方の例を一つ挙げる。 この第3号では利子所得及び配当所得に係る源泉徴収義務が挙げられており、第240条においては源泉徴収に係る所得税を納付しなかった場合の罪について規定している。 このように、他の規定を包括的に借りてきてそれと同様の取扱いをしようとする場合に「例による」が用いられるのである。 (次回に続く)
「企業結合に関する会計基準」等の 改正点と実務対応 【第3回】 「共通支配下の取引の会計処理①」 ~子会社株式の追加取得に関する連結財務諸表上の会計処理~ 有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 布施 伸章 (注)本連載記事において、文中、意見に関する部分は筆者の私見である。 1 はじめに 今回は、平成25年改正会計基準のうち、子会社株式の追加取得に関する連結財務諸表上の会計処理について解説する。 解説に当たっては、以下の設例をもとに、会計基準の改正前と改正後の会計処理及び連結財務諸表への影響を比較しながら行う。 なお、以下の文中、「改正前(後)仕訳○」は、設例中の「改正前(後)会計基準」欄の仕訳No.を示している。 2 子会社株式の追加取得の会計処理 子会社株式を追加取得した場合、改正前会計基準では、以下の改正前仕訳⑥のように、追加取得した株式に対応する持分60を非支配株主持分から減額(※)し、追加取得により増加した親会社の持分(追加取得持分(※))60を追加投資額100と相殺消去したうえで、追加取得持分と追加投資額との間に生じた差額40をのれんに計上し、20年以内の効果の及ぶ期間にわたり償却することとされていた(負ののれんが計上された場合には一時の利益に計上する)。 改正後会計基準では、改正後仕訳⑥のように、追加取得持分(※)60と追加投資額100との間に生じた差額40を、資本剰余金とすることとされた(改正連結会計基準28項)。 (※) 追加取得持分及び減額する非支配株主持分は、追加取得日における非支配株主持分の額により計算する(連結会計基準(注8))。 【図表】 設例の仕訳No.6を抜粋 なお、本設例のように、上記の差額を資本剰余金から控除した結果、資本剰余金が△40と負の値となる場合(X3/3期の連結B/S参照)には、連結会計年度末において、資本剰余金をゼロとし、当該負の値を利益剰余金から減額することになる(改正連結会計基準30-2項)。 3 改正による連結財務諸表への影響 設例では、X2/3期とX3/3期のいずれの期も、親会社の損益はゼロ、子会社の当期純利益は50としている。 (1) X2/3期(持分比率60%) X1/3期末に子会社株式の60%を取得しているため、X2/3期に子会社で計上された利益50のうち、親会社帰属額(60%)は30、非支配株主持分帰属額(40%)は20となる。 また、支配獲得時に計上した親会社持分(60%)に係るのれん償却額4が控除されるため、当期純利益のうち、親会社帰属額は26(=30-4)となる。 (2) X3/3期(持分比率100%) ① 連結P/L 期首に子会社株式のすべてを追加取得しているので、その年度に子会社が計上した利益はすべて親会社に帰属することになる。 改正前会計基準では、追加取得時の差額40はのれんに計上され(改正前仕訳⑥)、それに対応するのれんの償却額8が新たに生じることになるため(改正前仕訳⑧)、当期純利益のうち親会社帰属額は38(=50×100%-(4+8))となる。 改正後会計基準では、改正後仕訳⑥のように、追加取得時にはのれんは追加計上されないため、のれんの償却額は当初取得時持分(60%)に対応する額4のみが計上される。このため、当期純利益のうち親会社帰属額は46(=50×100%-4)となる。 このように、子会社株式を追加取得した場合には、子会社が計上した利益の親会社帰属割合(100%)とのれん償却額の親会社帰属割合(60%)とは異なることになる(子会社株式を追加取得したときは、改正後会計基準による方が当期純利益及び親会社帰属利益が大きくなる)。 ② 連結B/S 改正前会計基準では、追加取得時ののれんは資産に計上したうえで償却するため、のれんの減損がない限り、純資産が一時に大きく減少することはなかった(X3/3期の連結B/Sの純資産は564)。 改正後会計基準では、追加取得時の差額40すべてが資本剰余金から控除されるため、純資産が一時に大きく減少することがあるので、留意する必要がある(X3/3期の連結B/Sの純資産は532)。 4 設例 【買収年度(X1/3/31)】 ●P社はX1/3/31にS社株式の60%を80で取得した。 ●支配獲得時のS社の諸資産の時価と簿価は同じである。 ●P社及びS社のX1/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【翌年度(X2/3/31)】 ●P社の当期純利益は0、S社の当期純利益は50である。 ●のれんの償却期間は5年(年間償却額4)である。 ●P社及びS社のX2/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【追加取得年度(X3/3/31)】 ●P社は期首(X2/4/1)にS社株式の40%を100で追加取得した。 ●P社の当期純利益は0、S社の当期純利益は50である。 ●のれん償却期間は5年(年間償却額4)(改正前の追加取得に係るのれん償却期間は5年(年間償却額8)) ●P社及びS社のX3/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【参考】 会計基準の改正前と改正後の連結上の評価額の推移 【参考】 会計基準の改正前と改正後の子会社の当期純利益の帰属額の比較 (了)
減損会計を学ぶ 【第3回】 「減損会計の対象」 公認会計士 阿部 光成 「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)の表題を見てもわかるように、同会計基準は固定資産を対象としている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 対象資産 1 固定資産 減損会計基準は、固定資産を対象に適用すると規定している(減損会計基準一)。 固定資産には、有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産が含まれる(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」という)5項)。 2 減損会計基準の対象とならない資産 減損会計基準では、他の基準に減損処理に関する定めがある資産については対象とされていない(減損会計基準一)。 また、減損適用指針でも減損会計基準の対象とならない資産が示されている(減損適用指針6項、68項、69項)。 これらの規定をまとめると、次の資産が減損会計基準の対象外となる。 Ⅱ 対象となる固定資産の留意点 前述のように、減損会計基準の対象は固定資産である。 例えば、次のような資産についても対象となるので注意が必要である(減損適用指針6項、68項、69項)。 「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)では、ファイナンス・リース取引は、リース契約上の諸条件に照らしてリース物件の所有権が借手に移転すると認められるもの(所有権移転ファイナンス・リース取引)と、それ以外の取引(所有権移転外ファイナンス・リース取引)に分類されている(リース会計基準8項)。 ファイナンス・リース取引の会計処理は、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うとされており、所有権移転外ファイナンス・リース取引についても通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理されることから、いずれのファイナンス・リース取引についても貸借対照表に計上されることになる(リース会計基準9項)。 ただし、「リース取引に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第16号)79項では、リース取引開始日がリース会計基準適用初年度開始前のリース取引で、リース会計基準に基づき所有権移転外ファイナンス・リース取引と判定されたものについては、「リース取引に関する会計基準の適用指針」第77項又は78項の定めによらず、引き続き通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を適用することができるとされている。 このため、上記⑥の所有権移転外ファイナンス・リース取引のうち、借手側が通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行っている資産が存在することになり、減損会計基準の対象となるものが存在することになる。 そのほか、貸借対照表上、「固定資産」という科目を用いていない業種においても、その内容から、一般の企業における有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産に該当するものは、減損適用指針の対象となる固定資産に含まれることに留意する。 (了)