《速報解説》 「平成25年3月期有価証券報告書の 法令改正関係審査の実施結果」について 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年12月10日、金融庁は「平成25年3月期有価証券報告書の法令改正関係審査の実施結果」を公表した。 これは、平成25年3月29日の「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意事項(平成25年3月期版)と有価証券報告書レビューの実施について」において行った有価証券報告書レビューに関する「法令改正関係審査」の実施結果である。 後述するように、訂正報告書の提出が要請されていることもあり、有価証券報告書の開示については、「企業内容等の開示に関する内閣府令」及び「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」に従って適切に記載するように注意する必要がある。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 審査結果の概要 1 対象 平成25年3月31日を決算日とするすべての有価証券報告書の提出会社(2,788社) 2 審査項目 社外取締役及び社外監査役に関する記載内容 3 審査結果 下記の提出会社に対して、有価証券報告書の訂正報告書を提出するよう要請し、73社すべてから訂正報告書が提出された(重複:計5社)。 4 事例 次の事例について述べられている。 (1) 役員の状況 役員が社外取締役又は社外監査役に該当する場合に、その旨を欄外に注記していない事例 (2) コーポレート・ガバナンスの状況 (了)
monthly TAX views -No.11- 「日本の巨額な個人貯蓄を活性化させる 日本版IRA」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 アベノミクス第3の矢である成長戦略は、これまでさまざまな個別政策が打ち出されてきたが、どれも決定的なものはない。法人税実効税率引下げの議論も進んでおらず、来年度は復興特別法人税の前倒し廃止が決まる程度であろう。 内外のアベノミクスに対する評価も相当トーンダウンし始めている。 このように感じていたところ、11月9日付日経新聞(朝刊)が一面トップで「非課税の私的年金創設 金融分野で成長 戦略貯蓄から投資促す」と題する記事を掲載した。 わが国には1,600兆円にも及ぶ個人金融資産が貯蓄にクギ付けされており、その1割でもリスクマネーに回れば、わが国経済は相当活性化する。これこそアベノミクスの本命となるのにふさわしい、というのが第一印象である。 日経の記事内容を紹介すると、 (日経電子版より引用) となっている。 このようなことを検討する場として、金融庁と財務省は共同で有識者会議「金融・資本市場活性化有識者会合」(伊藤隆俊東大教授が座長)を立ち上げ、すでに第1回会合が行われている。 筆者も、日本版IRAの導入について、数年来提言してきた。 その具体的な提言の内容は、(例えば)年間120万円という拠出額限度を設け、一定年齢(例えば60歳)以降に引き出す場合には、運用益を含めて非課税とする制度である。金融商品間の中立性を確保する観点から、預貯金、株式、株式投資信託等幅広い投資を認め、その中では損益通算も認めるというものである。 同様な制度として、米国にはIRA(個人退職勘定)があるので、“日本版IRA”と称している(詳細は、ジャパン・タックス・インスティチュートのホームページを参照いただきたい)。 周知のように、わが国の企業年金制度は、大きな課題を抱えている。企業が丸抱えする制度(確定給付)が、米国GMではないが、積立て不足となり、企業経営の足かせとなっている。 リスク回避のため確定給付年金(401k)を導入したものの、加入要件が厳しく個人型401kはほとんど普及していない。また、正規雇用・非正規雇用間の加入の公平性の問題も存在している。 そこで、個人が国(公的年金)や企業(企業年金)に依存せず、自助努力で資産形成する本格的な個人年金を作り、国家が税制で支援することになれば、個人にとって極めて大きな意義がある。また、その資金が直接金融にシフトすれば、経済に与える影響も大きい。 導入に当たっての最大の検討課題は、税制である。 年金税制には、拠出時非課税、運用時非課税、給付時課税のEET型と、拠出時課税、運用時、給付時非課税のTEE型の2種類の課税方法がある。EET型とTEE型の実質的な経済的価値(納税額及び税引き後資産残高)は、適用税率が同じであれば同値である。 米国IRAには2種類の税制優遇がある。通常のIRAは、拠出段階で所得控除、運用段階は非課税、給付段階では全額課税のEET型である。もう1つ、ロスIRAがあり、税引き後の金額を積み立てて運用益給付時は非課税というTEE型である。 一方、わが国の年金税制は、拠出・運用・給付段階ですべて課税されていないEEE型である。拠出時は社会保険料控除、運用段階の特別法人税は凍結中、給付時は公的年金等控除で大部分の年金は非課税と、わが国の所得税の課税ベースに大きな穴を開けている。 そこで、新たに導入する年金(日本版IRA)は、税制の優遇度を落として、欧米型の年金税制に合わせる必要がある。つまり、日本版IRAの税制は、EET型かTEE型かのどちらかにすることが、日本型IRAを導入する際の現実的な選択肢となる。 税引き後の資金を積み立てるTEE型のメリットは、基本的に貯蓄に対する税制として簡素で明瞭であること、受け取った税引き後所得の中から拠出するため拠出額をコントロールしやすいこと、制度導入時の財政負担が軽くなるため、わが国の財政状況を考えると魅力的な選択肢となることなどである。 これに対し積立時所得控除のEET型は、積立時に減税となり年金受取時には勤労所得はなく適用税率が低くなるという優れた点がある。しかし、新たに所得控除を設けることは、税制当局の理解を得にくいだろう。 筆者は、TEE型の課税方式(拠出時課税、運用・給付時非課税)で日本版IRAを提言している。こうすれば、来年から始まるNISA(少額投資非課税制度)と将来的な統合も視野に入れることができる。 来年度税制改革には間に合わないが、まずは導入をコミットし、早急な検討に入るべきだ。アベノミクスの成長戦略を絵に描いた餅にしないためにも。 (了)
〈平成26年1月から適用〉 延滞税等に関する改正事項のおさらい 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 石田 寿行 1 延滞税等の概要 延滞税及び利子税(以下「延滞税等」という)は、滞納を防止し、期限内に納付した納税者との間の税負担の公平を確保する観点から設けられたもので、債務不履行に対する遅延利息的なものである。 その延滞税及び利子税について、平成25年度税制改正により、平成11年度の税制改正以来、14年ぶりの税率引下げが行われた。併せて国からの還付金等に付される還付加算金についても引下げが行われ、地方税の延滞金、還付加算金についても同様の措置がとられる。今回の改正の背景には、低金利の時勢や納税者の負担軽減という狙いがある。 延滞税等が課税されるケースとしては、以下のような事例が挙げられる。 2 改正の概要 平成26年1月1日以後の期間に対応する延滞税等について、以下のように改正される。 上記の内容を改正前と改正後で図表にすると、以下のようになる。 〈改正前〉 (※2) 「年7.3%」と「前年の11月30日の公定歩合+4%」のいずれか低い割合となる。平成24年11月30日現在の公定歩合が0.3%のため、特例税率は4.3%。 〈改正後〉 3 具体例 [ 事 例 ] A社(3月決算5月末申告期限)は期限内に法人税の申告を行ったが、資金繰りの都合上、法人税1,155千円を8月末に納付した。 この場合の延滞税の金額を〈改正前〉と〈改正後〉に区分して以下計算する。 ※貸出約定平均金利を1%と仮定する。 〈改正前〉 ① 6月から7月までの延滞税 ② 8月末までの延滞税 ③ ①+②=22,500円(100円未満切捨て) 〈改正後〉 ① 6月から7月までの延滞税 ② 8月末までの延滞税 ③ ①+②=14,800円(100円未満切捨て) 上記の事例では、改正前と改正後で7,700円の延滞税が軽減されることになる。 4 地方税(延滞金等)について 地方税の延滞金等についても、平成26年1月1日以後、以下のように改正される。 〈改正前〉 〈改正後〉 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第9問】 「共有家屋と共にその共有敷地を譲渡した場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q XとYは、鉄筋3階建ての家屋及びその敷地を共有(各人の持分1/2)しています。 家屋の1階部分は第三者に貸し付けており、2階部分はX、3階部分はYが、それぞれ居住の用に供しています。 このほど、XとYは、建物と共にその敷地の全部を譲渡しました。 なお、この建物の1階部分、2階部分及び3階部分の各床面積はすべて同じです。 この場合、XとYそれぞれについて「3,000万円特別控除(措法35)」の適用対象となる居住用財産の範囲はどこまででしょうか? A XとYは共に、自己の持分に係る家屋と敷地のうち3分の2に相当する部分(全体の3分の1(1/2×2/3)に相当する部分)について「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる。 〈解説〉 家屋については、 ① その家屋のうち、その居住専用部分がその家屋全体に占める割合(以下「居住用専用割合」という)がその者の共有持分の割合に等しいか、それより大きい場合には、その共有持分に係る家屋の全部が「3,000万円特別控除」の特例適用対象となり、 ② その者の居住用専用割合が共有持分の割合に満たない場合には、その者の共有持分に係る家屋のうち、次の算式により計算した割合に相当する部分が特例適用対象となる。 次に、敷地についても上記と同様に、 ① その者の居住専用割合が土地の共有部分の割合に等しいか、それより大きい場合には、その共有持分に係る土地の全部が「3,000万円特別控除」の特例適用対象となり、 ② その者の居住用専用割合が共有持分の割合に満たない場合には、その者の共有持分に係る土地のうち、次の算式により計算した割合に相当する部分が特例適用対象となる。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【24】 〔第5章〕法令用語 (その10) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 7 法の「適用」に関する法令用語 (③ 例による)【前回参照】 (承前)前回、税法においては「従前の例による。」という中で使われることが圧倒的に多いと書いた。 この「従前の例による。」は、廃止制定法や改正法の施行後において、これまでの事柄や状態が新しい法制度の下でどうなるのかということを定めた附則の経過規定の中で用いられる慣用句であって、これまでと同じである旨を簡潔に表現したものである。 国税通則法(平成25年3月30日改正)の附則には、次のようにある。 この附則により、改正法施行前の行為等については、改正後の罰則規定ではなく、改正前の規定が適用される旨が明らかにされている。 「例による」に似た表現として、「例とする」がある。 その使用例としては、公職選挙法附則の別表第2(第13条関係)の末尾に、 という規定が置かれている。 この「例とする」という場合には、通常の場合にはここに定められた通りにすべきであるが、合理的な理由がある場合にはその通りにしなくとも違反とはならないとされている。 この「例とする」と同じような意味を表わす法令用語に、「常例とする」がある。 以下にその例を挙げる。 これらの場合には、定めに従わなかったとしても直ちに法令違反にはなるわけではなく、したがって「しなければならない」という法的拘束力を持つ言葉とは内容が異なるものである。 しかし、合理的な理由もなく、従わないことが認められるものではないという点は注意を要する。 あくまでも、合理的な理由がある場合にはその通りにしなくとも違反とはならないとされているのであって、全く法的拘束力をもたないものと考えるべきではないであろう。 ④ 同様とする この「同様とする」は、その法律上の性質が類似している事項に関して、ある事項について定められたものと同様の規定を設ける場合に、重複を避けて同様の内容をもつものであることを示す場合に用いられる。 したがって、「準用する」とか「例による」と同様に、簡潔に表現するための立法技術上の法令用語の一つである。 同一の条や項の中で、文が2つに分かれるときには、前の文を「前段」、後の文を「後段」というが、「同様とする」は前段の述語と同様である場合に、後段の文の述語として使われる場合が多い。 以下にその例を挙げる。 上記の例は、「相殺することができない」という前段の述語を後段においても述語として使うため、「同様とする」という語を用いて規定している。 なお、「同様とする」は後段の文章の中で使われるのが原則であるが、独立した項の述語として使われる場合もある。 以下にその例を挙げる。 これは、第1項の述語である「10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」を、第2項においても使うにあたり、「同様とする」と規定している。 (了)
「企業結合に関する会計基準」等の 改正点と実務対応 【第5回】 「共通支配下の取引の会計処理③」 ~子会社株式を売却した場合(売却後は支配関係が解消)の連結財務諸表上の会計処理~ 有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 布施 伸章 (注)本連載記事において、文中、意見に関する部分は筆者の私見である。 1 はじめに 今回は、平成25年改正連結会計基準のうち、子会社株式を一部売却し、売却後は支配関係が解消された場合、すなわち、売却後の投資先の株式(残存株式)が関連会社株式又はその他有価証券となった場合の連結財務諸表上の会計処理について解説する。 今回改正された組織再編に関する会計基準では、子会社株式の売却により、残存株式が関連会社株式又はその他有価証券に分類が変更された場合の会計処理については特に改正されていない。ただし、支配が継続している場合の子会社に対する親会社の持分変動の会計処理が改正されたことに伴い、のれんの未償却残高の取崩し方法等の論点がある。 解説に当たっては、【第4回】の設例を前提に、会計基準の改正前と改正後の会計処理及び連結財務諸表への影響を比較しながら行う。 なお、以下の文中、「改正前(後)仕訳○」は、設例中の「改正前(後)会計基準」欄の仕訳No.を示している。 2 子会社株式の一部売却(売却により支配関係は解消)の会計処理 (1) 子会社株式の一部売却により、投資先が子会社から関連会社になった場合 ① 関連会社株式の評価に関する事項 子会社株式の売却により支配を喪失し、投資先が関連会社となった場合には、当該子会社に係る資産及び負債を連結貸借対照表から除外し、連結貸借対照表に計上される関連会社株式は持分法による投資評価額により計上することになる。 持分法を適用する場合には、資産及び負債の評価並びにのれんの償却は連結の場合と同様の処理を行うものとされている(持分法会計基準8項)。 また、改正会計基準では、投資先が子会社から関連会社となっても投資の清算の会計処理は行わない。 このため、子会社株式の一部を売却し連結子会社が関連会社となった場合には、会計基準の改正後においても、投資先の連結財務諸表上の評価額(連結上の評価額)と整合性のある持分法による投資評価額を算定することが必要になる。 ② 持分法による投資評価額の算定 改正前会計基準では、持分法による投資評価額は、親会社の個別貸借対照表に計上された関連会社株式の帳簿価額に以下のaからbを控除した額を加算して算定するものとされていた。 改正後会計基準では上記に加えて、以下のcの額も調整されることになると考えられる。 設例では、支配を喪失する直前の子会社株式(X3/3期末の60%持分)に係る持分法による投資評価額(連結上の評価額)は、改正前は209(=108(個別簿価)+120(a)-19(b))、改正後は228(=209+19(c))となる。 持分法による投資評価額は、改正前は投資持分に含まれるもののみから構成されていたが、改正後は投資持分には含まれないのれんの未償却残高も含まれることになる点に留意する必要がある。 ③ 子会社株式の売却に関する会計処理(子会社→関連会社) 子会社株式の一部売却により、投資先が子会社から関連会社になった場合には、親会社の個別損益計算書に計上された子会社株式売却損益から、既に連結上損益処理された額(売却持分対応額)を控除して、子会社株式売却損益を修正することになる。 具体的には、以下のaからbを控除して、子会社株式売却益の修正額を算定する。 これらの調整は上記②の内訳項目に対応したものである。 改正前仕訳では、aは40、bは6、子会社株式売却益の調整は34となる。 他方、改正後会計基準では、具体的な会計処理は示されていないが、上記に加えて、以下のcの額も調整することになると考えられる。 改正後会計基準では、【第4回】で解説したとおり、支配が継続している場合には子会社株式を一部売却(100%→60%)しても支配獲得時に発生したのれんの未償却残高を取り崩さないこととされたが、支配が解消された場合には、当該子会社は連結除外となるため、当該のれんの未償却残高を取り崩し、子会社株式売却損益から控除することが必要になると考えられる(当該のれんの未償却残高は支配喪失時の売却株式(60%→40%)に直接対応するものではないが、支配喪失後の残存株式(関連会社株式)に対応したのれんでもないため、支配喪失を伴う子会社株式の売却にあわせて取り崩すことになるものと考えられる)。 この際、のれん未償却残高の取崩額の算定方法は、改正後会計基準では示されていないが、売却後の関連会社株式(残存株式)に含まれるのれんの未償却額とは、支配喪失直前ののれん未償却残高のうち、支配獲得時の持分比率に占める支配喪失後の関連会社に対する持分比率に相当する額とすることが適当と考えられる。残存する関連会社株式に含まれるのれんは、支配獲得時に発生したものから構成されていると考えられるためである。 この点に関する具体的な取扱いは、JICPAの実務指針等で定められることが考えられる。 改正後仕訳はaが40、bが6、cが19(=支配喪失直前ののれん未償却残高48×40%/100%)となり、子会社株式売却損益の調整額は53になるものと考えられる。 【図表】 設例の仕訳No.2の抜粋 (2) 子会社株式の一部売却により、投資先が子会社及び関連会社に該当しなくなった場合 子会社株式の売却等により被投資会社が子会社及び関連会社に該当しなくなった場合には、連結財務諸表上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価することになる(連結会計基準29項)。 この場合の子会社株式売却損益の修正額は、関連会社になった場合に準じて算定する。 また、売却後の投資の修正額を取り崩すことが必要であり、当該取崩額を連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に「連結除外に伴う利益剰余金減少高(又は増加高)」等その内容を示す適当な名称をもって計上することになる。 3 改正による連結財務諸表への影響 設例では、X4/3期は、親会社の損益はゼロ(子会社株式売却益34を除く)、関連会社の当期純利益は100としている。 〈X4年3月期(持分比率40%)〉 ① 連結P/L 親会社(投資会社)の個別財務諸表上、子会社株式売却益が34計上されているが、改正前会計基準の場合には、売却持分対応額のうち既に連結損益で認識された額が34(当期純利益40、のれん償却累計額6)あるため、結果として、子会社株式売却益はゼロとなる。 改正後会計基準の場合には、上記に加えて、子会社株式の一部売却(100%→60%)に対応するのれんの未償却残高19も併せて取り崩すことになるため、結果として、子会社株式売却損19が計上されることになる。 言い換えれば、改正後会計基準では、子会社株式を一部売却しても、売却後も支配が継続している限り、のれんの未償却残高は取り崩されないが、支配喪失時にこれらの残高が取り崩されるため、子会社株式売却益のマイナス要因となる(本設例では、支配喪失直前に連結貸借対照表に計上されたのれんの額の差異(会計基準の改正前は29、改正後は48)と一致している)。 ② 連結B/S 設例では、関連会社株式の連結貸借対照表計上額は会計基準の改正前と改正後とで一致している。 ただし、のれんの取崩額の算定方法によっては、両者は常に一致するわけではないと考えられる。 支配喪失前に当該会社に対する親会社の持分が増減している場合(例えば、支配獲得時60%→追加取得後100%→一部売却後60%の場合)には、両者は一致しないこともありうると思われるが、この点はJICPAの実務指針等で取扱いが示されることが考えられる。 4 設例 【追加売却年度(X4/3/31)子会社(60%)→関連会社(40%)】 本シリーズ【第4回】の子会社株式の一部売却(X1/3期からX3/3期)を前提とする。 取引の流れは以下のとおりであるが、P社のS社に対する持分の推移とのれん未償却残高の推移(X1/3/31からX3/3/31まで)は、下表のとおりである。 ●P社はX1/3末にS社の株式のすべてを180で取得した。 ●支配獲得時のS社の純資産(時価)は100であり、のれんが80発生した。 ●のれんはP/Lが連結されるX2/3期から5年で償却を開始した。 ●P社はX3/3期の期首にS社株式の40%を150で売却した(個別上、売却益を78計上)。 ●X1/3期からX3/3期までのP社の利益はゼロ(S社株式売却益を除く)、S社の利益は毎年100とする。 ●X3/3期末におけるのれんの未償却残高は改正前会計基準では29、改正後会計基準では48である。 ●X3/3期末におけるS社株式に係る個別簿価と連結簿価との差額は、改正前会計基準では101、改正後会計基準では120である。 【参考】 会計基準の改正前と改正後の連結上の評価額の推移 〈X4/3期の前提〉 ●P社は期首(X3/4/1)にS社株式の20%を70で売却し(売却後持分40%)、個別財務諸表上、子会社売却益を34計上(=70-(180×20%))した。 ●P社の当期純利益(売却益34を除く)は0、S社の当期純利益は100 ●持分法投資額に含まれるのれんの償却期間は5年(残存年数3年)(年間償却額6) ●P社及びS社のX4/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【参考】 会計基準の改正前と改正後の持分法による評価額の推移 (了)
減損会計を学ぶ 【第4回】 「減損会計の特徴②」 公認会計士 阿部 光成 減損会計は、固定資産を対象にした会計処理方法であり、減損の兆候、減損損失の認識の判定、回収可能価額に基づく減損損失の測定のプロセスである。 本連載の第2回では減価償却との関係を解説しているが、今回はさらに減損会計の特徴を述べ、今後、減損会計基準を読む際のポイントを解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 減損会計のプロセス あらためて減損会計を述べると、それは資産又は資産グループについて、まず減損の兆候の識別を行い(減損の兆候)、兆候があると判断された場合に割引前の将来キャッシュ・フローに基づいて減損損失を認識するかどうかの判定を行い(減損損失の認識の判定)、認識すべきと判定された資産又は資産グループについて、回収可能価額に基づいて減損損失を測定する一連のプロセスである(減損損失の測定)。 「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「減損会計意見書」という)は、このような減損に係る会計処理を、金融商品に適用される時価評価とは異なるものであり、資産価値の変動による利益の測定や決算日の資産価値の表示を目的とするものではなく、あくまでも取得原価基準における帳簿価額の臨時的な減額と位置付けている(減損会計意見書三、1)。 Ⅱ 減損会計の特徴 減損会計には、次のような特徴が考えられる(注)。 (注) 監査法人トーマツ編『Q&A減損会計適用指針における会計実務』(清文社、2004年4月)8~10ページ 1 当初投資の失敗 減損会計意見書は、減損処理の本質を、本来、投資期間全体を通じた投資額の回収可能性を評価し、投資額の回収が見込めなくなった時点で、将来に損失を繰り延べないために帳簿価額を減額する会計処理としている。 当初の投資額を回収するという視点から考えて、投資期間全体を通じた投資額の回収可能性を評価することが減損処理の本質に関わるものと考えると、期末の帳簿価額を将来の回収可能性に照らして見直すだけでは、収益性の低下による減損損失を正しく認識するとはいえないことになる。なぜなら、期末の帳簿価額の回収が見込めない場合であっても、過年度の回収額を考慮すれば、投資期間全体を通じて投資額の回収が見込める場合もあるからである(減損会計意見書三、3)。 つまり、減損処理とは、当初の投資額が投資期間全体を通じても回収ができない場合に行う帳簿価額の減額処理であり、これは当初投資が失敗であったことを意味していると解される(注)。 (注) 投資の失敗を表す損失額を利益計算に反映する考え方については、辻山栄子編著『逐条解説減損会計基準(第2版)』(中央経済社、平成16年1月)8から11ページを参照していただきたい。 2 固定資産の期末の時価評価を行うものではない 減損会計意見書及び「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」という)では、次のように述べている。 このため、減損会計は固定資産の期末の時価評価を行うものではないと解される。 3 将来キャッシュ・フローを見積もる 「固定資産の減損に係る会計基準」では、減損損失の認識の判定及び減損損失の測定において、将来キャッシュ・フローの見積り及び使用価値の算定を行う。これらは、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて行われることになる。 減損会計が適用される前では、減損会計のように固定資産に係るキャッシュ・フローの見積りは、一般的には行われていなかった。 4 固定資産のグルーピングが行われる 減価償却計算は、通常、個々の固定資産を対象に行う。 減損会計は、将来キャッシュ・フローを見積もって回収可能性を反映するように帳簿価額を減額する会計処理であり、将来キャッシュ・フローを生成する単位を判定するときに、個々の固定資産だけでなく、複数の資産が一体となって独立したキャッシュ・フローを生み出す場合には、資産のグルーピングを行う(減損会計意見書四、2(6)①)。 5 合理的な経営者の意思決定の仮定 回収可能価額は、正味売却価額と使用価値のいずれか高い方である(「固定資産の減損に係る会計基準注解」注1、1)。 投資の回収考えた場合、合理的な経営者であれば、正味売却価額が使用価値よりも高いときは当該資産を売却し、使用価値が正味売却価額よりも高いときは当該資産の使用を継続するであろうという合理的な意思決定を行うものと考えられる。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第26回】 連結会計① 「投資と資本の相殺消去」 仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広 〈事例による解説〉 ●A社はB社の株式100%を500で取得しました。 ●X1年3月期のA社・B社の貸借対照表は以下のとおりです。なお、B社純資産の簿価と時価は同額です。 〈会計処理〉 ① 個別財務諸表の単純合算 A社とB社の貸借対照表を合算します。 ② 投資と資本の相殺消去 (*1) 資本金、準備金、剰余金などが含まれます。 (*2) B社株式500-B社純資産400=100 〈X1年3月期の連結財務諸表〉 〈会計処理の解説〉 連結財務諸表は、企業グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を報告するために作成されるものです。 連結財務諸表は、親会社・子会社の個別財務諸表を単純合算し、これに連結消去・修正仕訳を計上して作成されます。 A社個別財務諸表とB社個別財務諸表を単純合算すると、単純合算財務諸表には、A社の資産であるB社株式(子会社株式)とB社の純資産(資本金、準備金、剰余金等)が計上されます。 しかし、企業グループとして見ると、B社株式は自己に対する投資であり、一方のB社の純資産は自己からの出資であるため、連結財務諸表上は、これを消去する必要があります。 本事例では、B社株式が500、B社純資産が400であるため、これらを相殺消去すると100の差額が発生します。 当該差額は連結財務諸表上、「のれん」として計上されます。「のれん」とは、子会社の超過収益力のことをいいます。 A社がB社の純資産400を上回る500の投資を行ったのは、B社の超過収益力に対するプレミアムを支払ったためです。 A社はB社を買収し、営業エリアを拡大することによって、100(もしくはそれ以上)の利益を得られると見込んでいるのです。 買い手企業が会社の価値を評価し、実際にプレミアム(=投資と純資産の差額)を支払った場合、当該プレミアムは連結財務諸表上、「のれん」として計上されます。 なお、子会社の純資産よりも少ない金額で株式を取得した場合は、投資と資本の消去差額を「負ののれん発生益」として特別利益に計上します。 次回は、連結会社相互間の取引等の消去について解説します。 (了)
退職金制度の作り方 【第1回】 「退職金制度の現状」 なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 中小企業の8割近くで制度あり 退職金制度はどこの企業にもあるものと思われるかもしれないが、中小企業では必ずしも制度があるとは限らない。 従業員数10人~300人未満の東京都内の中小企業のみを対象とした「中小企業の賃金・退職金事情(平成24年版)」(東京都産業労働局)によると、「退職金制度がある」と回答した企業が77.7%、「退職金制度がない」と回答した企業が21.1%となっている。 調査結果より、中小企業の80%近くで制度が導入されているが、労働基準法では退職金制度を必ず導入するよう求めているものではなく、退職金制度がなくても、労働法令上は特段の問題はない。労働基準法が求めているのは、退職金制度を設けた時点で賃金債権となり得るため、就業規則に規定をし支給ルールを明確にすることである。 一度制度として設けた退職金は、経営者の義務となり、労働者の権利となる。 特に注意が必要なのは、就業規則を労働者側に不利な内容に変更をする場合は、労働者側の同意を要する点である。退職金制度の見直しについても同様で、労働者側に不利益な内容となる場合は、労働者側の同意が必要であり、経営者側が一方的に変更することはできない。 退職金制度は、企業が独自のルールを設け、任意に定めることができるものではあるが、一度定めた内容を変更する際には、労働者の権利も十分に考慮しながら運用をしていかなければならないものとなるため、様々な不都合が生じてしまうケースが多々あるといえる。 支払方法は7割以上が一時金方式 前述の調査結果では、「退職金制度がある」と回答した企業の72.2%が「退職一時金制度のみを採用」、23.7%が「退職一時金と退職年金を併用している」となっている。 これは退職金の支払方法であり、一時金制度は退職時点に一括して支払うものであり、退職年金は、退職後の一定期間にわたり定額で支払う方法をいう。 定年前の中途退職時に退職金を支給する際は、勤続年数に応じて「一時金制度」又は「一時金制度+退職年金」を併用し、定年退職時は「退職年金」として一定期間支払う場合が多い。 退職金の計算方法は、算定基礎額×支給係数が多い 調査結果によると、退職一時金の算出方法としては「退職金算定基礎額×支給率」と回答した企業が49.1%で最も多く、次いで「勤務年数に応じた一定額」と回答した企業が21.1%となっている。 「退職金算定基礎額×支給率」の算出方法は、一般的には勤続年数×退職時点での支給給与額に、退職理由(自己都合・会社都合)に応じた支給係数を乗じて計算される。 「勤務年数に応じた一定額」での算出方法は、勤続年数に応じた確定支給額をあらかじめ定めておく方法となる。 * * * 次回は、退職金制度の種類についてお伝えしたい。 (了)
活力ある会社を作る 「社内ルール」の作り方 【第8回】 「企業文化を体現した就業規則の作成へ」 特定社会保険労務士 下田 直人 〈就業規則を作るプロジェクトの立ち上げ〉 このシリーズも終盤に入ってきたが、今回は、企業文化や価値観が体現された就業規則の作成方法を見ていきたい。 就業規則の構成は、基本的には2部に分かれる。 ひとつは、労働時間や休日・休暇、給与体系などの労働条件を定めている部分。そしてもうひとつは、従業員が遵守すべき義務やルールを定めた服務規律と言われる部分である。 企業文化や価値観が明確になり、それに基づき物事を判断する文化が根付き始めたのであれば、就業規則もそれに基づいて規定されるべきである。 その際に、労働時間や休日・休暇、賃金体系などの労働条件に関するところは経営者側で決めることになろうと思うが、服務規律に関する部分は、その決定に際して従業員側にも参加してもらい決定する方が良い。 よく言う話であるが、人は他人に決められたルールより、自分たちで決めたルールの方を守ろうとするものだ。 次に、どのように進めていくか、である。 会社の規模にもよるとは思うが、全員参加は基本的には難しい。また、選抜メンバーとすることで、選抜された者はプロジェクトに向き合う心構えが変わってくるので、プロジェクト方式でメンバーを選んだ方が良いだろう。 人数的には、多くても10名程度と考える。これより多いと当事者意識に欠ける者がメンバーに含まれ、かえって場が活性化しない恐れがある。そして、部門やポジションに偏りがないようにする(例えば、営業部ばかりになったり、リーダークラスばかりにならないよう注意する)。 また、管理職者はプロジェクトメンバーには入らず、アドバイザーとして1~2名付けると良い。 〈決め方はポジティブで〉 プロジェクトメンバーには、自社の企業文化と照らし合わせて、自社の文化を体現している人ならば、「こういう時にはどういう行動をとるだろうか?」という視点で意見を出し合っていく。 やり方としては、大きいサイズのポストイットにメンバーが各自、思いつくことを書き出していき、同じような項目をまとめていくような形で集約していくのが良い。 そして、ある程度集約されたものの中から、規定とすべきもの、規定にはしないもの、修正を加えるものなどを議論していき決定していくようにする。 ここでのポイントは、すべてを規定するのではなく、文化や価値観が共有されているのであれば、当然に守られるであろうルールは極力規定しないことだ。以前にご紹介したIBM調査、「global ceo study 2012」の内容、「共有される価値観に基づいて行動すれば遵守されるようなルールは、廃止することを検討する。」という一文を思い出してほしい。 例えば、以下のようなケースを用意しておき、そのケースごとに議論してもらう。 上記のようなテーマを決めておき、それについて、具体的にどのような行動、心がけが重要かを各自が書き出していく。そして、メンバーが書き出したものを集約する。集約したものをひとまとめにしたり、本当に自社の従業員としてふさわしい行動か否かを議論する。その結果、就業規則に定めるべきと決めて事項については、文書を整えていく。 この際のポイントは、「〇〇しなければならない」、「〇〇してはいけない」といった表現ではなく、「〇〇すべきだ」「〇〇することが求められる」「〇〇することができる」という表現にすることだ。 つまり、禁止ではなく、ポジティブな行動を促す表現にすることが重要である。 例えば、 ではなく、 あるいは といった具合である。 以上のようにプロジェクトメンバーで議論し作成していく。 アドバイザーはプロジェクトの議論がおかしな方向に行きそうになったら軌道修正を行い、メンバーの議論が浅い場合にはその内容について深める役割を担う。 このようにして、服務規律の部分については、プロジェクトメンバーを中心に作成していく。それを基に経営者サイドから見て足りない部分については、付け加えていく方式で決めていくと良い。 (了)