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法人・個人の所得課税における実質負担率の比較検証 【第2回】「実質負担率の比較と有利不利の境界線」

法人・個人の所得課税における 実質負担率の比較検証 【第2回】 「実質負担率の比較と有利不利の境界線」   (株)よつばコンサルティング 税理士 石渡 晃子 税理士 青木 岳人   はじめに 第1回では、法人の所得に対する課税制度と個人の所得に対する課税制度を整理した。そのうえで、どちらの形態をとるのが有利なのか、これは実質負担率を計算しなければ、比較できないことも述べた。 税理士業務を行うなかでしばしば遭遇するのが、法人の所得に対する税と個人の所得に対する税、いずれが有利なのか、という問題である。 いわゆる「法人成り」を行うにあたって有利となるラインはどこか、という問題もそのひとつである。これは個々人の家族体系や事業規模形態にも左右されるため、一概にラインを示すことは難しいが、「所得1,000万円」を超えるか超えないかがひとつの目安とされることが多い。 では、その1,000万円という数字は、何を根拠に導き出した金額であろうか。 そこで本連載の第2回では、実際に課税所得が①500万円の場合、②1,000万円の場合、③2,500万円の場合、④5,000万円の場合、⑤1億円の場合、について実質負担率を計算し、比較と検討を行うこととする。   1 実質負担率の計算 前回は「課税所得が1,000万円」の場合について、簡単に実質負担率の計算を行った。今回は、もう少し細かい設定で計算してみよう。 前提として、①個人の所得はすべて事業所得(物品販売業)かつ青色申告を行うものとし、②法人の規模は資本金2,000万円、従業員数は50人とし、③個人と法人、いずれの場合も東京都23区内に納税地を置き、④事業税については1年目と仮定して翌年の費用効果は考慮外とする。また、⑤個人の所得に対する税額の計算においては、課税所得から青色申告特別控除65万円のみを控除し、各種所得控除については考慮外とする。   同様に、いくつかの課税所得パターンによる実質負担率を下記に示す。 現況税制下での実質負担率 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 【実質負担率のシミュレーション】 個人の所得の場合 法人の所得の場合 【実質負担率の推移】   2 実質負担率の比較と検討 個人であろうと法人であろうと、営む事業の内容は何ら変わらない。しかし、「個人」と「法人」、課税所得の入る箱が変わるだけで、つまり、税の種類が異なるだけで、上記のように実質負担率にはこれほどの差が生じる。 課税所得が500万円の場合、個人の実質負担率のほうが8.12%低く、課税所得1,000万円でもまだ個人の実質負担率のほうが1.57%低い。 一般的に言われる「1,000万円」のラインで実質負担率を比較してみると、個人の実質負担率の方が低い。 ただし、仮に法人で得た1,000万円の利益すべてを個人へ給与として分配した場合、個人に対する税においては給与所得控除の控除があるため23%の税率までの適用となり、事業所得として得た場合より一段階下のブラケットまでの税率で済む。また、給与所得であるため事業税が課されない。実質負担率のみを比較すれば個人の形態をとるほうが若干有利なものの、1,000万円が有利なラインとされる所以であろう。 さて、話を実質負担率の比較に戻そう。 課税所得2,000万円のラインで、個人と法人の有利不利が完全に入れ替わり、課税所得2,500万円では5.17%、課税所得5,000万円では8.22%、課税所得1億円では10.32%もの開きが出てくる。単に法人形態をとるだけで、である。 これは、所得税は超過累進税率により最高40%まで所得税が課されるのに対し、法人税は比例税率により25.5%で頭打ちになることが大きな理由である。 所得税の場合、課税所得500万円の場合を1とすると、課税所得が1億円となると、所得ベースは20倍であるにもかかわらず、税額は83.5倍にもなる。課税所得1,000万円で3.5倍(2倍※カッコ内倍数は課税所得の倍率を示す。以下同様)、2,000万円で11.2倍(4倍)、2,500万円で15.7倍(5倍)、5,000万円で38.3倍(10倍)と、超過累進税率を採用するがゆえ、課税所得の伸び以上に税額が大きく伸びる。 一方、法人税の場合、課税所得500万円の場合を1とすると、課税所得が1億円となると、所得ベースは20倍であるのに対し、税額は32.9倍となる。課税所得1,000万円で2.3倍(2倍)、2,000万円で5.7倍(4倍)、2,500万円で7.4倍(5倍)、5,000万円で15.9倍(10倍)であり、比例税率を採用するため、課税所得の伸びと税額の伸びは比例関係に近くなる。800万円以下の所得については15%の軽減税率が適用されるため、完全な比例関係にはならないが、所得税と比較すれば、かなり比例関係に近いものとなる。 他の税目もみてみよう。 事業税(法人の場合は暫定措置のため地方法人特別税もあわせて考える)をみると、法人の所得に対する課税のほうが倍ほど大きい。 しかし住民税については、個人住民税は10%の比例税率だが、法人住民税(法人税割額)は課税標準を法人税額とするため、その税率は約2.6%(*1)~約5.3%(*2)であり、均等割額を除いて比較すれば、個人の所得に対する課税のほうが倍ほど大きい。 (*1) 法人税15%(軽減税率)×都民税17.3% (*2) 法人税25.5%×都民税20.7%(超過税率)   個々の税のみを比較すれば、個人のほうが有利、法人のほうが有利、と分かれるが、全体としてみれば、課税所得2,000万円のラインで法人で課税所得を得るほうが実質負担率は低くなる。 このように、事業を行い経済的利益を獲得しその経済的利益を課税所得として税が課される、という実態そのものは同じであっても、それを個人として獲得するのか、法人として獲得するのか、により税額が異なり、実質負担率は大きく変わることとなる。 その仕組みの是非はさておき、これをうまく利用して節税へつなげたいのは言うまでもない。 今回のシミュレーションの場合、課税所得500万円では、実質負担率は8%程度個人が有利であり、その税額には40万円ほどの乖離がある。これが課税所得1億円ともなると、実質負担率は10%程度法人が有利となり、その税額には1,000万円以上もの乖離があるのである。 最後に、平成28年1月1日時点における上記同様のシミュレーションを行ってみよう。 平成28年1月1日時点税制下(予定)での実質負担率 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 【実質負担率のシミュレーション】 個人の所得の場合 法人の所得の場合 【実質負担率の推移】   平成28年1月1日現在では、現況の税制とは①所得税の最高税率は45%(所得4,000万円超のブラケット追加)となる点、②復興特別法人税課税の適用期間は終了となる点が異なる。 つまり、個人の所得に対する課税は強化され、法人の所得に対する課税は下がる傾向にある。 この場合、まず、個人と法人の有利不利が入れ替わるラインが変化する。 また、課税所得が大きくなるに従い、その負担率の乖離も現況より大きくなる。1億円の課税所得の場合、現況では10%程度の差であるが、平成28年1月1日にはその差が約16%にまで大きくなる。 このように、個人で所得を得るか法人で所得を得るかの有利不利は、その時代によって変化するのである。 *  *  * 以上第2回では、同じ“事業を行い獲得した所得”であっても、個人・法人、どちらの形態で獲得したのかにより、税金の実質負担率が異なることについて比較と検討を行った。 では、個人に対する所得について、同じ課税所得であれば必ず同じ実質負担率となるのであろうか。 また、超過累進税率をとる以上、課税所得が大きくなればなるほど、実質負担率は最高税率に限りなく近づくのであろうか。 両者とも、答えは否である。 本連載の最終回となる第3回では、所得税に焦点をあて、一部分離課税を採用するが故の超過累進税率の矛盾点について考察する。 (了)  

#No. 38(掲載号)
#石渡 晃子、青木 岳人
2013/10/03

〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第6回】「相続財産を確定し評価することの意義」

〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第6回】 「相続財産を確定し 評価することの意義」   税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   〔相続税の課税対象は民法上の相続財産とは異なる〕 法律上、相続人になるは誰なのか(相続人の範囲)、その確定手続については、本連載の第3回から第5回にかけて説明してきた。 今回からは、相続の対象となる財産(*1)にどのようなものがあり、その評価をどうするか、という点について説明を行う。 まず、相続の対象となる財産であるが、基本的には、他界した人の所有するすべての財産が対象となる(民法896条)。 なお、死亡保険金、死亡退職金は、法律上は基本的には相続の対象とならないため、遺産分割協議の対象にはならない。また、生前に贈与した財産は、他界した人の財産ではなくなっているため、これも相続の対象とはならない。 ただし、相続税の計算上は、法律上の相続財産だけではなく、死亡保険金・死亡退職金(相続税法3条)、暦年課税制度を適用した相続前3年以内贈与(相続税法19条)(*2)、相続時精算課税制度を適用した贈与(相続税法21条の15)は、相続税の対象となる。   〔申告実務における財産評価の重要性〕 相続の対象となる財産が「確定」できたら、次に、その「評価」を行う必要がある。 相続財産の評価を行う目的は、遺産分割協議(どの相続人がどの財産を相続するかという話合い)を行う上で、どの財産がいくらの価値があるかわからないと意思決定ができないためである。 また、相続税の計算を行う上で、対象となる財産の評価がわからないと、相続税申告が必要か否か、また必要な場合、相続税がいくらになるのか、計算ができない。 このように相続対象となる財産について、「遺産分割協議」、「相続税申告」という2つの観点から評価を行う必要がある。 なお、遺産分割協議における財産評価は、通常、取引価額を意味し、相続税申告においては財産評価基本通達における評価を通常意味するため、評価額が異なる可能性がある。 具体的には、土地の相続税評価は、多くの場合、路線価を基礎にして評価を行う。一方、遺産分割協議における土地評価は、取引価額であるため、通常、路線価を基礎にして評価した金額よりも大きくなる(*3)。 実務上、家庭裁判所で争いになっているような場合でなければ、相続税評価額を遺産分割協議における評価額とみなして進める場合や、相続税評価額について一定の調整を行い(土地については相続税評価額を80%除することにより公示価格ベースに引き直すなど)、調整後評価額をもって遺産分割協議における評価額として協議を行う場合が多いと思われる。   〔相続税申告の有無を把握しスケジュールを立てる〕 相続税申告が必要か否かでスケジュールが異なるため(*4)、相続税申告業務の依頼を受けた初期の段階で、相続税の対象となる財産の範囲と評価がおおよそ把握できたら、相続税の基礎控除と比較することで、相続税申告の必要の有無、及び相続税の概算額について、依頼者に伝えた方がよいであろう。 ただし、その後に相続税の対象となる財産が発見されたり、評価が異なる結果となった場合には、相続税申告の必要の有無、相続税の概算額について、異なる結果となる可能性があるため、慎重に対応することが必要である。 (了)

#No. 38(掲載号)
#根岸 二良
2013/10/03

交際費課税Q&A~ポイントを再確認~ 【第10回】「法人税申告書[別表15]記載のポイント」

交際費課税Q&A ~ポイントを再確認~ 【第10回】 (最終回) 「法人税申告書[別表15]記載のポイント」   公認会計士・税理士 新名 貴則   1 交際費課税の改正と別表15の様式変更 平成25年度改正により、交際費課税(平成25年度末まで)は次のとおりに改正された。 【改正後の中小企業の特例のイメージ】   これに伴い、法人税申告書別表15「交際費等の損金算入に関する明細書」の様式も変更されている。 平成25年4月1日以後終了事業年度分の別表15の様式は、次のとおりである。 【法人税申告書別表15「交際費等の損金算入に関する明細書」】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます(国税庁ホームページへ)。 新しい別表15では、上記の改正に対応するため、下記のように(2)と(3)の文言が変更されている。   2 別表15のケーススタディ 次の事例に基づいて、別表15の記載上の留意点を解説する。 ◆ケースⅠ◆ 資本金5億円の場合 資本金が1億円を超えているため、交際費等は全額が損金不算入となる。これは平成25年度税制改正の前後で変更はない。また、別表15の記載の仕方も変更はない。 この場合、交際費等の10,000,000円に対して定額控除限度額はゼロであり、10,000,000円全額が損金不算入となる。 (別表15の記載例)   ◆ケースⅡ◆ 資本金1億円の場合 (資本金5億円以上の大法人の完全子会社ではない) 資本金が1億円以下であるため、一定の控除額が認められる。ただし、上記で述べたとおり平成25年度税制改正により控除額が改正されており、その適用のタイミングによって次のとおり控除額に違いが生じるため、注意が必要である。 ① 平成25年3月31日以前に開始した事業年度の場合 この場合は交際費課税に係る改正の適用前であるため、定額控除限度額は600万円となる。 また、交際費等の支出額と定額控除限度額のうち少額の方に90/100を乗じた金額が、損金算入限度額となる。 (別表15の記載例) ② 平成25年4月1日以後に開始した事業年度の場合 この場合は交際費課税に係る改正の適用後であるため、定額控除限度額は800万円となる。 また、交際費等の支出額と定額控除限度額のうち少額の方の全額が、損金算入限度額となる。 (別表15の記載例)   (連載了)

#No. 38(掲載号)
#新名 貴則
2013/10/03

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第17話】「源泉徴収に係る所得税の調査(その3)」

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第17話】  「源泉徴収に係る所得税の調査(その3)」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   (前回の続き) 「ということは・・・」 山口調査官は、少し考えながら、言葉を続けた。 「・・・もし、支給者である徴収義務者が受給者に対して源泉所得税を徴収しなかった場合でも、受給者は、本来支払うべき源泉所得税を、確定申告から控除をすることができるんですね」 山口調査官は、田村上席の顔を見て、確認する。 「そのとおりだよ」 田村上席は大きく頷く。 「しかし・・・そうすると、もし、支給者から源泉所得税を徴収できなくなったら、永久に、その税金は国庫に入らないということですか」 山口調査官は、またペンをとって、図を描いた。 山口調査官は、図を見ながら説明する。 「この図で説明すると、本来、国に源泉所得税が100入るところ、50しか入っていない・・・という状態で、支給者が・・・例えば、倒産した場合、支給者である徴収義務者から源泉所得税50を徴収できなくなります。・・・でも、この場合、税務署は受給者に対して、源泉所得税100の控除を拒否できないということなんですね」 田村上席も図を見ながら、頷く。 「そうだな・・・確かに、受給者の確定申告で、控除する源泉所得税を100から50にすれば、簡単に解決しそうな感じであるが・・・しかし、源泉所得税制度では、そのようになっていない・・・」 田村上席は、最高裁(平成4.2.18判決)の判例の一部を読み上げる。 「・・・しかし、支給者が源泉所得税を徴収・納付していないのに、受給者が確定申告において、その徴収・納付されていない源泉所得税を控除できるというのは、何となく不合理に思えるのですが・・・」 山口調査官は、不満そうに言う。 「そうだな・・・結局、このケースにおいては、源泉所得税の50は、国庫に入ってこないから、国の損失だな」 田村上席が付け加える。 「受給者である本来の納税義務者が目の前にいながら、その受給者から受給者の本来の所得税を徴収できないのですからね。こんなおかしいことはないと思いませんか・・・国と受給者との間には「所得税」という債権債務関係が発生しているにもかかわらず、源泉徴収制度がそれを邪魔している・・・」 山口調査官は、悔しそうな表情をする。 「・・・それに・・・」 山口調査官は、机の引き出しからファィルを取り出す。 「これ、国税庁のホームページからプリントした「最近10年間の動き(平成11年7月~21年6月)」ですけど・・・」 山口調査官は、言葉を続ける。 「ここで、所得税の源泉徴収制度について・・・このように説明しています」 山口調査官は、その文章を読み上げる。 山口調査官は、読み上げた文章を田村上席に見せる。 「・・・源泉徴収制度が・・・ここでいう前取制度というものであれば・・・その税額が十分でなければ・・・確定申告で是正させるという考え方もありうると思うのですが・・・」 「確かに、山口君の考え方もあると思う・・・しかし、何度も繰り返すが、最高裁が述べているように、国税通則法や所得税法からは、国と受給者の間で、源泉所得税の是正(精算)をすることはできないようになっていると解せられる・・・つまり、源泉所得税と申告所得税との各租税債務の間には同一性がないんだ・・・それぞれ別個の債権債務ということになる・・・」 田村上席は自分にも言い聞かせるように話をする。 「そうですか」 山口調査官は、小さく頷く。 「ただ、山口君が指摘するケースというのは、かなり多くあるのかもしれないな。その意味で、国はかなりの損失を被っているのかもしれない・・・」 田村上席は「国税庁統計年報書」を取り出して、源泉徴収税額の累年比較の欄の金額を見ながら、説明する。 「・・・平成21年分の源泉徴収税額は・・・12兆5,926億円で・・・そのうち8兆6,269億円が給与所得分だね・・・」 「けっこう大きい金額ですね」 山口調査官が感心する。 「いや、ピーク時には、源泉徴収税額は20兆円を超えている・・・えっと、平成3年から5年だから・・・ちょうどバブル時期の終わり頃かな・・・」 田村上席がコメントする。 「・・・源泉徴収税額が12兆円であっても、源泉徴収の漏れが、仮に、その1%だとしたら、それだけで1,200億円の源泉徴収洩れが発生する・・・」 山口調査官は少し大袈裟そうに言う。 「1,200億円か・・・確か、平成25年度の税制改正で創設された「国内設備投資を促進するための税制措置」によって、1,050億円の税収が減少すると言われているが、それに匹敵する源泉徴収洩れになるということか・・・」 「その金額って、大きいですよね・・・やっぱり、何らかの立法が必要なんでは・・・」 山口調査官は、小さくつぶやいた。 (了)

#No. 38(掲載号)
#八ッ尾 順一
2013/10/03

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載38〕 民事再生法において資産評定がある場合とない場合

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載38〕 民事再生法において資産評定がある場合とない場合   税理士 長岡 栄二   Q 民事再生法による再生手続開始の決定を受け、財産評定の作成に着手しています。 民事再生等では、資産評定がある場合とない場合で、欠損金等の取扱いに違いがあるといわれていますが、どのような違いがあるのでしょうか。 A 民事再生法による認可決定を受けて債務免除益が計上される場合には、いわゆる期限切れ欠損金と青色欠損金から構成される設立当初からの欠損金を損金算入することができるが、「資産評定」がある場合とない場合では、期限切れ欠損金から優先して控除するのか、青色欠損金から優先して控除するのかの違いがある。 解 説 1 民事再生法の概要と関連税制 民事再生法は、経済的に窮境にある債務者について、債権者の多数の同意を得、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等により、債務者と債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し、その債務者の事業又は経済生活の再生を図ることを目的としている(民事再生法1)。 民事再生手続の認可決定までの標準的な流れは、次のとおりである。   再生計画の認可決定によって計上される多額の債務免除益には、それに見合う損金や青色欠損金がないと、税負担が生じるおそれがある。通常、民事再生を申し立てる法人は、業績等が悪化している場合がほとんどで、多額の含み損や欠損金を有している場合が少なくない。しかし、青色欠損金の繰越期間は、最長9年間(平成20年3月31日以前終了年度の繰越期間は最長7年間)である。 法人税法では、再建計画への影響を考慮して、民事再生法等の適用を受ける一定の場合には、いわゆる期限切れ欠損金を含めた設立当初からの欠損金を控除して課税所得を圧縮できるようになっている。 また、再生手続開始の決定を受けた場合には、法人税法上、「再生手続開始の決定があった場合の損金経理方式」と「再生計画認可の決定があった場合の別表添付方式」という2つの評価損の損金算入制度が用意されている。 以下では、民事再生手続における債務者について、評価損益と設立当初からの欠損金の規定を中心に解説する。   2 民事再生法における財産評定と法人税法における資産評定などの相違点 民事再生法における財産評定(民事再生法124①)は、再生手続開始決定日の処分価値により行われるが、清算価値以上を再生債権者に付与する必要があるための手続であり、財産評定によって資産の帳簿価額を付け替える必要はない。 この点は、別表添付のみを要件とし、帳簿価額の付替えを要しない法人税法における「別表添付方式」による「資産評定」と同様であるが、財産評定による価額を新たな帳簿価額として付け替える会社更生法や、法人税法における帳簿価額を付け替えて減額する「損金経理方式」とは異なる。 なお、ここでは民事再生法における「財産評定」と、法人税法における「別表添付方式」による「資産評定」は、異なる手続として用いる。 ちなみに、法人税法における評価損益の時価は、使用収益する際に通常付される(正常)時価による(法基通4-1-3、9-1-3)。また、時価の算定時期は、「損金経理方式」による評価替えが再生手続開始決定日の期末時価、「別表添付方式」による「資産評定」が再生手続認可決定時の時価による。 民事再生法における財産評定の時価と、法人税法における評価損益の時価は、その意義及び時点においても異なるため注意が必要である。 さらに、ここでは詳細には触れないが、民事再生法における財産評定が全ての資産に対して行われるのに対し、法人税法における評価損益の対象資産は限定的である点も、あわせて注意したい。   3 再生手続開始の決定があった場合の資産の評価損【損金経理方式】 再生手続開始の決定により財産評定を行い(法基通9-1-3の3)、資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額した評価損の金額は、評価換え年度の損金の額に算入される(法法33②、法令68①)。この規定は損金経理を要件とすることから、一般に「損金経理方式」と呼ばれる。 4 再生計画認可の決定があった場合の資産の評価損益【別表添付方式】 (1) 概要 再生計画認可の決定時の価額により「資産評定」を行っているときは、資産の評価損益の額は、認可決定時の事業年度の益金の額又は損金の額に算入される(法法25③、法法33④)。この規定は別表の添付が要件とされることから、一般に「別表添付方式」と呼ばれる。 別表添付方式による評価損益の計上は、後述する「5 設立当初からの欠損金」の「(3) 評価損益の計上が行われる場合」に該当し、民事再生における期限切れ欠損金を優先的に控除するための要件の1つとなる。 (2) 留意点   5 設立当初からの欠損金 (1) 概要 欠損金は、平成23年12月税制改正によって、青色欠損金を除外せずに設立当初からの欠損金として整理され、期限切れ欠損金と青色欠損金から構成されるものと改正された。 あわせて、設立当初からの欠損金の控除額(損金算入額)のうち青色欠損金に相当する部分は、翌期に控除対象とならないように切り捨てられることとなった。 (2) 設立当初からの欠損金を利用できる一定の場合 次の①②③のいずれかの事由に該当する場合には、対象利益額①②③の合計の範囲で、設立当初からの欠損金が控除できる(法法59②、法令117一)。 ③の事由に該当するか否か、つまり、「別表添付方式」による評価損益の計上が行われるか否かによって、以下(3)と(4)のように、期限切れ欠損金の優先性に違いが生じる。 (3) 評価損益の計上が行われる場合 再生手続認可の決定による債務免除益等が計上される際に、上記(2)③の事由に該当する場合、つまり別表添付方式により資産の評価損益の計上が行われる場合の設立当初からの欠損金は、上記(2)債務免除益等①②③の合計額の範囲内で、期限切れ欠損金を青色欠損金に優先して控除(所得金額を限度)できる。 (4) 評価損益の計上が行われない場合 再生手続認可の決定による債務免除益等が計上されても、上記(2)③に該当しない場合、つまり、別表添付方式による評価損益の計上が行われない場合の設立当初からの欠損金は、青色欠損金の部分から先に利用されたものとされる。期限切れ欠損金の部分は、上記(2)債務免除益等①②の合計額の範囲で控除(青色欠損金控除後の所得金額を限度)できる。 評価損益の計上が行われない場合は、債務免除益等に対し青色欠損金を優先して控除するが、中小法人等以外の法人については、青色欠損金の控除額が制限された金額であっても設立当初からの欠損金で控除が可能であった。そのため、債務免除益等を超える部分の所得についても結果的に控除が認められており、課税上弊害が生じていた。 平成25年度税制改正によって、債務免除益等を超える部分の所得が生じている場合の設立当初からの欠損金の控除額は、青色欠損金の控除後の所得金額から「債務免除益等を超える部分の所得金額の20%相当額」を控除した金額を限度とすることに改正された(法法59②)。 なお、青色欠損金の所得制限がない中小法人等については、この改正による変更はない(法法57⑪、59②)。 (了)

#No. 38(掲載号)
#長岡 栄二
2013/10/03

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第20回】減損会計①「減損会計の目的」─損失の早期計上

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第20回】 減損会計① 「減損会計の目的」 ─損失の早期計上   仰星監査法人 公認会計士 菅野 進   〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ×3年3月31日(決算日) (*1) 固定資産400÷耐用年数4年=減価償却費100 ×4年3月31日(決算日) (*2) 固定資産の帳簿価額300-回収可能価額100=減損損失200 〈会計処理の解説〉 企業は事業用固定資産を事業に用いて利益を得ることを期待しているため、その固定資産自体の市場価格が変動しても、企業にとっての価値が変動するわけではありません。また、事業用の固定資産を使って利益を得るには、通常、ある程度の時間が必要となります。 そのため、事業用の固定資産は金融商品のように毎期末に時価評価を行うことはせずに、貸借対照表では取得原価から減価償却費等を控除した帳簿価額で評価され、損益計算書では減価償却費が計上されます(図1)。 図1 しかし、上記のように減価償却による費用配分等を通じて貸借対照表価額を評価する事業用の固定資産であっても、将来の収益性(当該事業から得ることのできる将来のキャッシュ・フロー)が低下し、当該固定資産への投資額の回収が見込めなくなった場合に、回収可能性を反映させ固定資産の帳簿価額を減額させる必要があります。 そのような場合にその事業から得ることができる将来のキャッシュ・フロー(回収可能価額といい、使用価値と正味売却価額のうち、いずれか高い方となります。詳しい説明は減損会計③で行います)と現在の事業用固定資産の帳簿価額を比較して、当該固定資産の過大な帳簿価額の部分を早めに減額し、将来に損失を繰り延べないために行われる会計処理を「減損会計」といいます(図2)。 図2 すなわち、事業用固定資産を400百万円で購入したものの、B外食事業がふるわないため、翌期以降使い続けていたとしても100百万円しか回収できない見込みとなってしまった場合に、期末帳簿価額300百万円と回収見込額100百万円の差額200百万円を将来の損失とせずに、当期に損失を認識しようというのが減損会計です。 では具体的に、どのように減損損失を認識するのでしょうか。 次回の減損会計②では「減損会計のステップ ~減損損失の測定までの流れ」について解説します。 (了)

#No. 38(掲載号)
#菅野 進
2013/10/03

税効果会計を学ぶ 【第19回】「連結財務諸表における税効果会計の取扱い④」~連結会社相互間の債権と債務の相殺消去による貸倒引当金の減額修正

-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。   税効果会計を学ぶ 【第19回】 「連結財務諸表における 税効果会計の取扱い④」 ~連結会社相互間の債権と債務の相殺消去による貸倒引当金の減額修正   公認会計士 阿部 光成   「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第6号。以下「連結税効果実務指針」という)3項では、連結財務諸表固有の一時差異として、「連結会社相互間の債権と債務の相殺消去による貸倒引当金の減額修正」を規定している。 そこで、本稿では、連結財務諸表における税効果会計として上記に関する一時差異を取り上げる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 連結会社相互間の債権と債務の相殺消去に関する基本的な考え方 親会社と子会社との間で債権と債務があった場合には、連結財務諸表作成において、債権と債務を相殺消去することになる(「連結財務諸表に関する会計基準」31項)。 個別財務諸表では、通常、債権に対して貸倒引当金が計上されていることから、連結財務諸表作成上、債権と債務の相殺消去に伴い貸倒引当金も調整されることになる。 貸倒引当金については、個別財務諸表において、税務上損金として認められたものである場合と、税務上損金として認められず所得に加算されている場合がある。   Ⅱ いわゆる無税分 1 考え方 個別財務諸表において、債権に対して計上した貸倒引当金が税務上損金として認められたものである場合、個別貸借対照表上の貸倒引当金と税務上の貸倒引当金との間に差異はない。 連結財務諸表においては、債権の消去に伴い、それに対する貸倒引当金が減額されることから、連結貸借対照表上の貸倒引当金は税務上の貸倒引当金より小さくなり、将来加算一時差異が生ずることとなる(連結税効果実務指針18項)。 2 会計処理 減額修正された貸倒引当金が税務上損金として認められていたものについては、前述のように将来加算一時差異が生ずるため、原則として連結手続上、繰延税金負債を計上する。 適用される税率は債権者側の連結会社に適用されるものである(連結税効果実務指針19項)。 ただし、債務者である連結子会社の業績悪化に伴い、債権者が個別財務諸表上で貸倒引当金を計上し、税務上損金算入した場合には、将来加算一時差異について税効果を認識しない。 これは、税務上の損金算入が認められる貸倒引当金が、債権債務の相殺消去に伴い減額修正されても、将来加算一時差異に係る税金は将来においてその支払が見込まれないと考えられるためである(連結税効果実務指針50項)。   Ⅲ いわゆる有税分 1 考え方 前述のように、連結財務諸表においては、債権の消去に伴い、それに対する貸倒引当金が減額されるが、減額修正される貸倒引当金が税務上損金として認められず所得に加算されている場合には、個別貸借対照表上の貸倒引当金は税務上の貸倒引当金より大きくなるため、個別財務諸表上、将来減算一時差異が発生する。 しかしながら、連結手続上、貸倒引当金の減額修正が行われると、連結貸借対照表上の貸倒引当金は当該修正額だけ小さくなり、結果として税務上の貸倒引当金に一致し、個別財務諸表上で発生した将来減算一時差異は消滅することになる(連結税効果実務指針18項)。 2 会計処理 減額修正された貸倒引当金が税務上損金として認められていないものであれば、その減額修正により個別財務諸表上の将来減算一時差異は消滅するため、個別貸借対照表に計上した繰延税金資産を連結手続上、取り崩すことになる(連結税効果実務指針20項、51項)。 (了)

#No. 38(掲載号)
#阿部 光成
2013/10/03

建設業が危ない!労務トラブル事例集・社会保険適用の実態 【第1回】「社会保険加入の現状」

建設業が危ない! 労務トラブル事例集・ 社会保険適用の実態 【第1回】 「社会保険加入の現状」   なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美   1 建設業における社会保険未加入問題 建設業は、上位の工事発注元から下位の一人親方・職人まで、複数の下請構造となっており、末端になればなるほど小規模零細事業者・個人事業主となることから、労災保険・雇用保険・健康保険等の保険への未加入が多い業種といえる。 労災保険は、業務上での様々な事故が多いことから加入率も高いが、一方で、業務上の事故が発生した際には、保険料率が上がることを避けたいがために、元請事業者が下請事業者に自身の保険利用を強制するなどの不正もしばしば見受けられる。   2 建設国保とは 建設業の健康保険・厚生年金保険については、全国建設工事国民健康保険組合(以下「建設国保」)という制度がある。 これは全国の大工・とび・土木・造園・左官・板金などの建設工事業に従事する者が加入できる保険制度として、昭和45年6月に設立されたもので、通常の健康保険に比べると保険料が安いという特徴がある。 加入資格は、建設工事業に携わっている個人事業所又は一人親方が原則となる。ただし、株式会社などの法人事業所や常時5人以上の従業員を雇用している個人事業所は、健康保険(協会けんぽなどの被用者保険)と厚生年金保険に加入することが義務づけられているが、すでに建設国保に加入している者は、日本年金機構に手続を行い「健康保険適用除外」の承認を受けることで、引き続き建設国保に加入することになっている。   3 平成24年10月調査における加入状況 では現実に、どの程度の加入状況となっているのか。 平成24年10月調査の「公共事業労務費調査における保険加入状況調査の結果」によると、企業別では雇用保険の未加入企業は5%、健康保険の未加入企業は11%、厚生年金保険の未加入企業は11%となっている。 労働者別(一般の被保険者、日雇い、短期雇用)では、雇用保険の未加入は25%、健康保険の未加入は39%、厚生年金保険の未加入は40%となっており、4割が健康保険・厚生年金保険へ加入していないという状況になる。 元請・下請別での加入率でみると、元請79%、1次下請55%、2次下請以下は46%と、下請になるほど加入率は低くなり、年齢別では24歳以下で平均54%程度、65歳以上では50%以上が未加入という状況である。 都道府県別でみると、全国平均で58%に対し、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の都市部での加入率が38%程度と加入率が低い。 職種別では、関連職種平均で58%に対し、とび工・鉄筋工・型枠工は43%程度と加入率が低くなる。これは小規模事業所や個人事業主比率が高い職種での加入が低い傾向につながると考えられる。 社会保険への加入がされていない状況は、技能労働者に対する処遇が低い状況でもあり、万が一、ケガや病気になった際に、適正に保険を利用することができず、健康保持ができない状況が続くと持続的な発展に必要な人材が確保できず、業界全体の発展にも影響することから、行政では5年計画で社会保険加入推進を掲げている。 *    *    * 次回は、なぜこのように社会保険未加入が多い状況となっているのかをお伝えしたい。 (了)

#No. 38(掲載号)
#成澤 紀美
2013/10/03

活力ある会社を作る「社内ルール」の作り方 【第4回】「就業規則による管理のポイント」

活力ある会社を作る 「社内ルール」の作り方 【第4回】 「就業規則による管理のポイント」   特定社会保険労務士 下田 直人   〈就業規則がなくなるわけではない〉 前回においては、企業統治についても「螺旋階段的発展の法則」に従って、以下のようなステップを踏んでいくという話をした。 これは、世の中全体もそうであるし、1つの企業の動向を見ても同じことがいえる。 また、どんなに文化や風土による統治の時代が来たとしても就業規則が全くなくなるわけではないことも、IBMのレポートの中のコメントを引用して述べた。 今回は、就業規則による統治のポイントを述べてみたい。 最終的な上記[ステップ3]の文化や風土による統治に至る前段階の明文化された規則による統治のステージにいる企業にとって必要な事項となる。   〈明確化すべきは自社ルール〉 就業規則による統治のポイントは、労働基準法に定めのない部分に先回りして、「自社オリジナルのルール」として明確にしておくところにある。 法的に定めがある部分については、極論を言ってしまえば工夫の余地はない。 例えば、年次有給休暇の付与については、正社員であるならば、入社から6ヶ月経過した時点で10日は付与しなければならない(もちろん、法律の基準より前倒しすることは自由だが)。 これをいくら就業規則で「当社は入社1年後に有給休暇を付与する」としても、無効である。 それに対して、法律に特段の定めがないことは、会社によって扱いが異なるため明確なルールを定めておくことが重要となる。特に“服務規律”と呼ばれる、「当社の従業員であるならばやってはならないこと」「当社の従業員であるならばやらなければならないこと」については明確に定めておく必要がある。 例えば、副業、遅刻・欠勤時の手続、Facebookなどのソーシャルメディアの取扱い、社内への私物の持込みなどについては、会社により考え方が異なる部分でもあるので、自社のルールを明確にして示しておくことが重要である。 例えば会社を欠勤するときは、上司へ許可を求めるのか、届出さえすればいいのか? ある会社は、「欠勤時は上司に届け出ろ」としている。 また、ある会社では、「上司の許可をもらえ」となっている。 前者は特段許可を要しないので、これも極論を言えば、本人に出欠を決定する権利をゆだねているといえる。 それに対して、後者は、欠勤を決定する権利は従業員にはなく、会社側にあることを明確にしている。   〈SNSの取扱いをどこまで言及するか〉 ソーシャルメディアについての取扱いも注意を要する。 もちろん、プライベートにおける使用についてまで、会社で制限をかけることはできない。また、会社の秘密事項などを書き込むことについて問題があることは、一般的には理解あるだろう。 例えば、競争入札をするときに、会社の入札額がわかる資料をソーシャルメディアにアップしてしまっては大問題となることは容易に想像がつく。判断が難しくなってくるのはそういうことではなく、会社で行った日常的な出来事や社員や役員のプライバシーに間接的に関わってくるようなものの取扱いだ。 例えば、営業の社員が得意先である●●社を訪問したことが明らかとなるような写真をアップした場合等だ。具体的に「●●社に訪問した」とコメントしなくても、その会社の看板が写った写真をアップすれば取引関係にあることが想像ついてしまう。これがライバル会社にわかってしまえば、いらぬ問題に発展する可能性もある。 このようなところから、自社のソーシャルメディアの取扱いをどのようにするのかは、基準を定めておくことが望ましい。 このほかにも労働時間の設定や休暇の設定、懲戒処分の設定などを決めておく必要がある。   〈米国企業における自社ルールの定め方〉 ただし、何度も述べていることであるが、就業規則による統治を進めていくと、どんどん細部までルール化する必要が出てきて不便極まりない状況に陥り、どこかで方向転換が必要になってくる。そのターニングポイントが、文化や価値観などを明確にして、それによる経営に転換していくときだ。 前回も紹介したが、IBMのレポートでは、グローバル企業のCEOへのインタビュー結果を次のようにまとめている。 これに基づけば、ある時点から価値観を共有することで遵守されるルールは廃止していくことになる。例えば、そのような会社では、ソーシャルメディアの取扱いについてはポリシーのみ定めて、具体的なルールは廃止していくことになるだろう。 実際、筆者が9月に企業訪問したアメリカの企業では、会社の価値観(コアバリュー)による経営が徹底されており、Facebookの扱いなどについて管理はしていないと言っていた。そして、そのことが経営陣が従業員を尊敬している証となりモチベーションを高めていると話しているのが印象的だった。 また、ある会社では、年次有給休暇の日数管理すらしていなかった。価値観の浸透により悪用する者がいないからだそうだ。 このような会社の業績が悪いのであれば見習うこともできないだろうが、共通しているのはどの会社も複数年にわたって業績好調であった。 (了)

#No. 38(掲載号)
#下田 直人
2013/10/03

常識としてのビジネス法律 【第1回】「ビジネスと文書(その1)」

常識としてのビジネス法律 【第1回】 「ビジネスと文書(その1)」   弁護士 矢野 千秋   1 ビジネスにはなぜ文書が必要か ビジネスには文書が必要とされる場合が多く、そのうち権利義務に関するものや、それを証明するものを「法律文書」と呼ぶ。 その代表例は、営業関係でいえば、領収証、請求書、注文書、注文請書、催告書、報告書、契約書、委任状などであるが、その形式について、どのように作るべきかなどの法律上の制約は、原則として存在しない。 これは、もともと私的自治の原則(私法上の大原則)とそれから派生する契約自由の原則(締結の自由、相手方選択の自由、内容決定の自由、方式の自由。この4つの自由が含まれている)に由来する。 「私的自治の原則」とは、簡単に言うと、他人に迷惑をかけない限り私人間のことは自由である、官は余計な規制をしない、という意味であり、歴史上、人民が国家権力から勝ち取ってきたものである。 したがって、方式も内容も規制がなく、書面にするかしないか、どのような内容を盛り込むかも自由なのであるが、実務上は重要なものであれば書面化が望ましいし、内容的にも、最小限「いつ」「誰が」「どのような内容を」「誰宛に」(4W)書いたかを明らかにすることが必要である。 上記のように方式に法律上の制約がないのであれば、文書を作っても作らなくてもよいはずなのに、なぜ文書を作成することが望ましいのか。 それは以下のメリットがあるからである。 ① 内容の明確性を担保する(すなわち、誤解、思い違い、忘却等を防ぐ) 書面化することによってお互いの意思を再確認できるし、内容が複雑な場合に忘却等を防ぐことができる。 このメリットを考えれば、担当者の記憶だけに任せておくようなことでは確実な回収は望めないことが明らかであろう。 また内容の明確性は、次の②の前提ともなっている。 ② 後日の証拠となる(すなわち、紛争となった場合に、水掛け論を防止し、裁判上の強力な証拠となる) 裁判上の証拠としては、書面のみならず証人の証言も法律上は均しく証拠として同じ扱いなのであるが、人証(証人の証言)と書証(書面による証拠)には実務上証明力の違いがあり、一般に書証の方が強力である。 その理由は、利害が絡むと人間は嘘をつくこともあるので、いきおい裁判官は書証に重きを置くことになるからである。 以上より、たとえ訴訟になった場合にも、勝訴判決が取れる可能性が高い。ということは、相手方は訴訟で争っても敗訴の可能性が高いわけであるから、手間ヒマをかけても無駄になり、それなら争わずに履行することにもつながる。 すなわち、紛争の抑止力にもなるのである。   2 作成が望ましい文書 私的自治の原則から、原則として法律上文書作成が義務づけられているものは少ない。 以下、法律上文書作成が義務づけられているわけではないが、後日の証拠とする意味で作成しておくことが望ましい文書について説明する。 内容としては最小限、前述の4Wは落さないようにする。なお、契約書については稿を改めて説明する。   3 「領収証」の記載ポイント 金銭を支払ったときには領収証を請求できる。これは「相手方が領収証を出さないときには支払いを拒否できる」ということである。 そして領収証の証明力を担保するためには、以下の事項の記載が最少限必要である。 ① 領収金額 できるだけタイプ等で印刷したものが望ましい。手書きの場合は算用数字のみならず、漢数字を併記する方がベターである。 もちろん手書きの算用数字は変造が容易だからである。 算用数字は3桁ごとにコンマを入れ、冒頭に¥、末尾にピリオド(.)及びハイフン(-)を記載して終了を示す。 漢数字は冒頭に「金」、末尾に「円也」で終了を示すべきである。 金額の訂正は好ましくない。 できれば金額を誤った領収証は破棄し、新しい領収証用紙を用いるべきである。 どうしても訂正が必要な場合は訂正すべき金額欄全体を2本線で消し、その真上に新しい金額を記載して領収証作成に使用した印章を訂正箇所の上から押捺する。 ② 領収文言(領収金額と合わせてWHAT) 金額欄の下に、「上記金額を領収致しました。」との文言を入れるべきである。 通常表題に「領収証」と記載するから、表題のもつ補充的効力から一定金額を領収したものであることが推測できるが、文書作成のメリットの1つが「内容の明確性の担保」にあることから、補充的効力に頼るのは望ましいことではない。 ③ 領収年月日(WHEN) 実際に金銭を領収した日を入れるべきである。 実際の日と異なった日を入れると、相手方の帳簿の日付などと相違した場合に領収証自体の信憑性が問われることにもなりかねない。 また、担当者に金銭の受領権限があったか否かなども、一応この記載された日が基準となって判断されるからである。 ④ 領収者の記名・捺印(WHO) 領収者の署名(自署)でも構わないのだが、通常取引では記名、すなわち印刷かゴム印が良い。 これは、取引では記名が用いられることが一般的だからである。 捺印は受領担当者のものになることが多い。したがって、真実その者に受領権限があるかどうかに注意する。 ⑤ 宛名(支払った者。会社間取引では会社名になる)(WHOM) できるだけ「上様」はやめる。 支払いをした会社名を完全に記載して交付すべきである。 「上様」は税務署が偽造を疑う場合の一つであり、取引先に迷惑をかけることにもなる。 ⑥ 「領収したのが何の代金か」も記載した方が望ましい(望ましいもう1WのWHY) 単発的な取引においても金銭を受け取った原因、理由は書くべきであるし、また文書化のメリットから考えて、多数取引があるときや、継続取引などでは、個々の請求権との対応関係を明らかにするために必須ともいえる。 ⑦ 領収金額に応じた収入印紙の貼付 3万円未満は非課税、3万円以上100万円以下は200円、100万円超200万円以下は400円等となる(くわしくは「印紙税額一覧表」17号文書を参照のこと)。 消費税額は必ず別記載する。 【例:525万円(消費税額25万円を含む)等】 この場合、記載金額は500万円となり、印紙税額は1,000円である。合計額525万円だけを書いていると合計額が記載金額となり、印紙税額は2,000円となる。 金銭を領収したもの、すなわち領収証作成者が印紙代を負担する。 なお、消印は領収者が領収証作成に用いた印章を用いて消すのが無難である。 ボールペンでのバツ(×)印などでは、税務署は消印と認めない。 ⑧ 領収証用紙など 市販の領収証用紙などを用いるのは好ましくない。 領収者の属する会社特有のものを使用すべきである。 市販の領収証用紙などは、やはり税務署が脱税を疑う場合の一つだからである。 それ以外にも、日付、領収者の住所・電話番号などが入っていないもの、捺印に三文判が用いられているもの、金額が妙に丸いもの(10万円などのようにキリのいい数字)なども疑惑を持たれやすい。 *   *   * 次回も引き続き「作成が望ましい文書」のうち、「請求書」「注文書」などの記載上の留意点について紹介する。 (了)

#No. 38(掲載号)
#矢野 千秋
2013/10/03
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