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《速報解説》 単体開示の簡素化に関する財務諸表等規則等の改正(確定)の解説

《速報解説》 単体開示の簡素化に関する 財務諸表等規則等の改正(確定)の解説   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成26年3月26日、金融庁は「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」等を公表した。 今回の改正は、企業会計審議会の「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(平成25年6月20日掲載)を踏まえ、単体開示の簡素化を図るためのものである。 改正の趣旨については、「『財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)』等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」(以下「コメント対応」という)が公表されている。 本稿では、主として、財務諸表等規則の改正及び企業内容等の開示に関する内閣府令の改正について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 財務諸表等規則に関する主な改正事項 財務諸表等規則等の改正確定版では、公開草案から修正されている部分があるので、コメント対応とともにお読みいただきたい。 1 特例財務諸表提出会社の新設 (1) 財務諸表等規則の規定 「特例財務諸表提出会社」として、次の規定が新設されている。 これにより、特例財務諸表提出会社の個別財務諸表の開示については、いわゆる経団連モデル(「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」)と同様の開示とすることが可能となり、貸借対照表や損益計算書の様式、重要な会計方針の注記、関係会社に対する資産の注記及び関係会社に対する負債の注記などについて、会社計算規則と同様の注記とすることが可能となる。 (2) 関連するコメント対応 コメント対応では、次のことが述べられている。 2 連結財務諸表を作成している会社の個別財務諸表の開示の簡素化 従来から、連結財務諸表を作成している会社については、個別財務諸表における記載を要しない規定があった。 確定版では、リース取引に関する注記、資産除去債務に関する注記、研究開発費の注記、減損損失の注記など多くの項目について、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないとの規定が設けられている。 コメント対応では、1株当たり情報については、連結財務諸表を作成している場合には注記を要しないが(財規68条の4、95条の5の2)、主要な経営指標等の推移への記載は引き続き必要となると述べられている(コメント対応No.15)。 3 規定の削除等 製造原価明細書の添付について、上記③のように改正した趣旨について、多角的に事業展開する会社が多くなってきている現在、複数の事業に関する原価の発生を合算して1つの明細書で開示しても、投資情報としての有用性は低いと考えられることが述べられている(コメント対応No.16)。 そして、例えば、単一事業の場合には、投資情報として製造原価明細書の有用性は低下していないと考えられることから、セグメント情報を開示していない会社については、引き続き製造原価明細書の添付を求めることとしていると述べられている(コメント対応No.16)。 また、売上原価明細書については、製造原価明細書と異なり、「投資情報としての有用性が低下している」等の特段の指摘があるわけではないとのことから、「当面の方針」に示された考え方に則り、改正を行っていない(コメント対応No.21)。 4 重要性基準の緩和 ③の改正は公開草案ではなかったが、コメントを受けて、確定版において改正したものである(コメント対応No.12)。 5 様式関係 前述のとおり、財務諸表等規則127条では、特例財務諸表提出会社が作成する財務諸表の様式を規定している。 確定版では、財務諸表等規則127条1項1号から第3号までの様式における記載上の注意において、次の規定が設けられている(下記は「貸借対照表:様式第5号の2」)。 これは次のコメントに対応する改正である(コメント対応No.23)。 6 別記事業 コメント対応No.28では、別記事業について、次のように述べられている。   Ⅲ 企業内容等の開示に関する内閣府令の主な改正事項 1 配当政策 「配当政策」において、会社法以外の法律の規定又は契約により、剰余金の配当について制限を受けている場合には、その旨及びその内容を注記するとの規定を設けている(第二号様式 記載上の注意(54)d、第三号様式 記載上の注意(34)c)。 2 特例財務諸表提出会社の記載 財務諸表等規則1条の2に規定する特例財務諸表提出会社が、財務諸表等規則127条の規定により財務諸表を作成している場合には、その旨を記載する(第二号様式 記載上の注意(59)i)。 3 合併により消滅した会社の財務諸表 従来、合併により消滅した会社の財務諸表の記載が求められていたが、当該規定を削除している(第二号様式 記載上の注意(67)e、第三号様式 記載上の注意(47)e、第三号の二様式 記載上の注意(27)d)。 4 製造原価明細書の記載 最近2事業年度の製造原価又は売上原価について、製造原価明細書又は売上原価明細書を掲げて比較し、原価の構成比を示し、かつ、会社の採用している原価計算の方法を説明するとの規定は従来と同様である。 ただし、連結財務諸表において、連結財務諸表規則15条の2第1項に規定するセグメント情報を注記している場合にあっては、製造原価明細書を掲げることを要しないとの規定が設けられている(第二号様式 記載上の注意(69)b)。 5 主な資産及び負債の内容 貸借対照表のうち最近事業年度のものについて、科目の内容又は内訳をおおむねそれぞれに掲げるところに従い記載するとの規定は従来と同様である。 ただし、連結財務諸表を作成している場合又は附属明細表に掲げた科目については、記載を省略することができると改正されている(第二号様式 記載上の注意(73))。   Ⅳ 適用時期等 平成26年3月31日以後に終了する事業年度等に関する財務諸表等について適用する。 (了)

#No. 62(掲載号)
#阿部 光成
2014/03/27

Profession Journal No.62が公開されました!

2014年3月27日(木)AM10:30、Profession Journal  No.62 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。 Profession Journalについての詳細はこちら。 バックナンバー一覧はこちら。

#Profession Journal 編集部
2014/03/27

弁護士の必要経費訴訟からみた「個人事業者における必要経費」の判定をめぐる考察

弁護士の必要経費訴訟からみた 「個人事業者における必要経費」の判定をめぐる考察   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【現行規定の確認】 はじめに、必要経費に関連する所得税法の規定を確認しておきたい。 これをまとめると、必要経費となるのは、 であり、②の「その他所得を生ずべき業務について生じた費用の額」の範囲をめぐって、これまでも多くの訴訟が提起されてきた。 過去の判決では、本件第1審判決同様、「事業所得を生ずべき業務との直接関連性」と「業務遂行上の必要性」を要件として、法律上明文規定のない「直接関連性」がないことを理由に、必要経費であるとの納税者の主張を否定してきた。 学説としても、金子宏名誉教授が論じられた、「ある支出が必要経費として控除されうるためには、それが事業所得と直接の関連をもち、事業の遂行上必要な費用でなければならない。」(金子宏『租税法(第18版)』264ページ)というのが一般的な理解であった。 しかし、引用した所得税法からもわかるように、業務との「直接」関連性については、法律上の明文規定はなく、そこを明らかにしたのが本件控訴審判決であった。 必要経費から除外される支出として、個人課税に特有の費用がもうひとつある。 家事費及び家事関連費である。 こちらも所得税法の規定を確認しておきたい。 「家事費とは何か」という規定はないが、一般的には、個人の営む事業とは関連性のない、生活するために必要な支出を意味して使われており、これは必要経費には算入されない。 一方の家事関連費は、家事費と必要経費の双方の性質を持っている支出であり、以下の場合には、業務遂行上必要である部分は、必要経費に算入される。 士業をはじめ、個人事業者が支出した飲食を伴う費用については、「① 必要経費の該当性」、「② 家事費又は家事関連費の該当性」という2つの側面が、課税実務上問題とされてきた、というのが本稿における論考の前提である。 本件では、弁護士である納税者が、弁護士会の役員として行う会務活動に伴う支出が、事業所得の計算上必要経費になるかどうかが争われた。 第1審の東京地裁判決は、国(処分行政庁)の主張を全面的に認めたのに対し、控訴審である東京高等裁判所は第1審判決を覆して、納税者の主張を大幅に認めた判決を出し、国は最高裁判所に対して上告受理を申立て、最終的には、最高裁がこれを棄却するという形で決着を見たものである。 あらためて、本件の争点及び国側の上告申立て理由を確認する。   【本件の争点】 東京高裁判決は、第1審(東京地裁判決)が、 「所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ当該業務の遂行上必要であること」 とした部分をことごとく 「事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であること」 と書き改めたうえで、国側の主張を、 として退けている。 これに対して、国(課税庁)は、上告受理申立て理由書で反論を試みたが、最高裁によって不受理決定がされ、高裁判決が確定した。その詳細は、拙稿「租税争訟レポート【第1回】(高裁判決)」及び「同【第16回】(上告受理申立事件不受理決定)」を参照されたい。   【高裁判決に見る必要経費該当性の個別検証】 以下では、控訴審判決の事実認定に基づき、必要経費算入が認められた支出の内容を個別に検証したい。 必要経費となるかどうかが争われた支出は全部で68件、金額は2,509,434円であった。 1 必要経費算入を認めた懇親会等の参加費用 判決は、まず、弁護士会の活動について、 と認定した。 そして、弁護士である個人と弁護士会の役員は別人格であることから、個人の必要経費とは認めなかった役員として支出する費用について、これまでの課税実務を否定し、 として、具体的には、次に掲げる懇親会等の参加費用を必要経費として認めた。 判決は、弁護士会等の役員等が、これらのいわば公式行事の開催に関連して行われる懇親会等に出席する場合であれば、「その費用の額が過大であるとはいえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと解するのが相当である」とした。 判決により必要経費として認められた懇親会費は、5,000円から24,000円の範囲内であった(二次会費用と合算で計上されているものを除く。以下同じ)。 判決は、弁護士会等の役員等が、これらの懇親会等に出席することは、「会議体や弁護士会等の執行部の円滑な運営に資するものである」と認め、「特定の集団の円滑な運営に資するものとして社会一般でも行われている行事に相当するもの」であると同時に、「その費用の額も過大であるとはいえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと解するのが相当である」とした。 判決により必要経費として認められた懇親会費は、5,000円から34,100円の範囲内であった。 2 必要経費算入を認めなかった懇親会等の参加費用 具体的には、新年会、忘年会、執行部会後の懇親会、執行部の打ち上げ等に要した費用がこれに該当する。金額としては5,000円から230,000円を超えるものも含まれていた。 これらの各支出について、判決は、 として、必要経費に該当する要件を満たしていないとした。 懇親会等後に開催された二次会に出席した費用について、判決は、 ことから、二次会費用に相当する部分の金額については、すべて、必要経費とは認めなかった。 3 仙台弁護士会会長又は日弁連副会長に立候補した際の活動等に要した費用 判決は、「いずれかの弁護士が弁護士会等の役員に選任されない限り、弁護士会等が機能しないことは明らかである」ことから、「弁護士が弁護士会等の役員に立候補した際の活動に要した費用のうち、立候補するために不可欠な費用であれば、その弁護士の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出に該当する」こととして、必要経費算入を認め、これに該当しない費用とを、以下のように峻別した 日弁連副会長候補者選挙規程第10条第1項に基づく納付金100,000円については、日弁連副会長に立候補するために、日弁連副会長候補者選挙規定に基づく費用を支出したというものであり、立候補するために不可欠な費用であると認めることができるので、控訴人の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出に該当する。 上記(1)以外の「同期新年会18,150円」、「日弁連副会長選挙対策費用769,385円」及び「日弁連副会長立候補写真撮影料55,965円」の支出については、 と判断した。 4 その他の支出 判決は、以下の支出については、「弁護士会等の役員等として支出したものではない」こと及び「個人的な知己との交際や旧交を温めるといった側面を含む」ことから、「仮に弁護士としての業務の遂行上必要な部分が含まれていたとしても、その部分を明らかに区分することができると認めるに足りる証拠はない」として、必要経費に該当するとは認めなかった。 5 判決に対する考察 判決は、弁護士会の公式行事に伴う懇親会、会議体に出席した後の懇親会を必要経費の対象とする一方、忘年会・新年会等の参加費用を必要経費と認めなかった理由として、「公式行事、社会一般でも行われている行事に相当するもの」ではなく、かつ、「その費用の額も過大である」としている。 個別の支出内容・態様について検証する姿勢には賛成するし、参加者全員の飲食費用を支出するなど、必要経費として相応しくない過大な支出を否認したことは当然かとも考えるが、公式行事でないという理由だけで、会費が過大でない懇親会参加費用や新年会費、忘年会費までも含めて否認することには、反論の余地があるかもしれない。 二次会費用について、判決は、 「懇親会等に出席すれば、社会通念上、弁護士会等の役員等の業務遂行上の必要性は満たしたもの」であり、「個人的な知己との交際や旧交を温める」ための支出であり、「仮に業務の遂行上必要な部分が含まれていたとしても、その部分を明らかに区分することが」できないとして、一律、必要経費に算入できない旨を説明している。 つまり、所得税法37条1項の要件を満たしていないとしたうえで、さらに施行令96条に規定する家事関連費であるとしても、業務上の費用と家事費を区分することはできないことに言及し、これを必要経費としては認めなかった。 しかし、二次会参加費用を一律に必要経費として認めなかったことは、一次会に参加する費用について、それぞれの支出を個別に検討して必要経費算入の是非を判断したこととの比較において、いささか荒っぽい判断ではないだろうか。二次会が行われた場所、参加したメンバー、支出された金員などを個別に斟酌して、必要経費算入の是非を判断すべきであったと考える。 弁護士会等の役員へ立候補するための支出に関しては、選挙規程に基づく納付金だけを必要経費として認め、選挙対策費用、選挙のための写真撮影費用は必要経費とは認めなかった。撮影された写真を選挙活動以外にも使用したとすれば(例えば事務所のホームページに掲載するなど)、業務との関連性を主張できた可能性もあるが、概ね妥当な判断であろう。 日弁連事務次長の父親逝去に伴う香典を否認しているが、確かに業務との関連性のみを追求すれば、こうした判断に帰結するかもしれないが、「特定の集団の円滑な運営に資する」とか「社会一般に行われている」といった面を考えれば、社会通念上、弁護士業務にまったく関連しないとはいえないのではないか。 一方、二次会へのカンパや事務員会への寄附金については、事業との関連性が乏しく、また家事関連費との区分が不可能であるとする高裁判決を支持したい。   【本件判決の影響】 本件判決を受けて、筆者は、国税庁は士業の必要経費に関するこれまでの課税実務を変更する必要性から、個別通達を発遣すべきであると考えていたが、国税庁は、本件判決はあくまで事例判断であり、「事業所得の金額の計算上必要経費に算入される支出の取扱いが変更されるものではない 」という見解(※)を出している。 (※) 「週刊税務通信」(No.3297(平成26年2月3日)5ページ) そこで、本件判決が、他の士業団体の役員、強制加入が条件となっていない同業者団体の役員などの必要経費の判断にどのような影響を与えるのかを考察して、本稿のまとめとしたい。 1 他の士業団体役員への適用 本件判決は、強制加入を条件づけられている弁護士会等の活動が、弁護士の業務に密接に関係していることを認めたものであることから、他の士業団体の役員が会務に伴って支出する費用についても、本件判決同様、個別の支出内容、懇親会の態様、支出された金額の多寡などに従って、必要経費算入の可否が判断されることになろう。 具体的な判断については、本件高裁の判示が大いに参考となるところだが、従来の課税実務であった「士業団体役員と個人は別人格であるから、士業団体役員として支出した費用はその個人の必要経費とは認めない」といった一律の取扱いは改められ、個別に判断されることになることは間違いない。 2 同業者団体役員への適用 士業団体ではない、一般の同業者団体の役員がその会務に付随して発生する支出については、本件判決の枠組である「会員である弁護士がいわば義務的に多くの経済的負担を負うことで成り立っている」といった個別的事情が認められるかどうかは、同業者団体の運営方法などによって判断されることになるだろうが、こうした組織の活動が、個人の事業所得を生ずべき業務と関係がないとは言えない以上、必要経費かどうかの判断は、業務との関係性を軸に判断されることになるのは間違いないところである。 3 更正の請求の可否について 筆者の実感からすると、本件判決は、士業団体の役員自身が、会務に関連して支出する費用を必要経費に算入するかどうかの判断基準とさほど乖離はないものと思われる。これまでも、会務後の懇親会等の参加費用については、役員としての業務遂行上必要な支出であれば、必要経費に該当すると判断して申告が行われてきたのではないかと考える。 一方、自身が必要経費にすることが妥当であると判断していた範囲が、本件判決によって拡大したと判断するのであれば、今後の事業所得を計算するうえで、本件判決は大いに参考となるであろう。 ただし、本件判決を自身の申告における必要経費と比べた結果、必要経費の計上に洩れがあったことを理由に更正の請求を行った場合に、更正の請求が認められる余地は少ないのではないかと思料する。 本件判決でも、課税庁は一貫して「事業との直接関係性」と「事業遂行上の必要性」を必要経費の条件としており、弁護士会の役員として支出した費用は、これらの要件を満たさないから、必要経費には当たらないという主張にはまったく変化がない。 である以上、本件判決と同様の効果を得るためには、異議申立て、審査請求を経て、税務訴訟によることが求められよう。 (了)

#No. 62(掲載号)
#米澤 勝
2014/03/27

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例12(所得税)】 「相続税対策のため、税理士の提案により、依頼者の所有する同族法人株式を発行法人に売却したが、みなし配当の計算を誤ったため、追徴税額が発生し、「正しい税額の説明を受けていれば売却は行わなかった。」として賠償請求を受けた事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例12(所得税)】   税理士 齋藤 和助   《事例の概要》 税理士は、相続税対策のため、依頼者の所有する同族法人株式を発行法人に売却することを提案した。その際、みなし配当所得の計算の基礎となる「資本金等の額」の解釈を誤り、利益剰余金をも含めたところの「株主資本」の金額に基づいて1株当たりの資本金等の額を過大に計算してしまった。 そのため、配当所得が過少で、譲渡所得が過大なシミュレーションで説明を行ってしまった。 この誤ったシミュレーションにより、依頼者は同族法人への株式売却を決断し実行した。しかし、税務調査により、上記誤りを指摘され、結果として源泉所得税の追加納付を余儀なくされ、トータルでの税負担が当初のシミュレーションの金額より過大となってしまった。 依頼者は正しい税額の説明を受けていれば売却は行わなかったとして、更正処分により増加した所得税及び住民税相当額7,000万円につき賠償を求めてきた。   《賠償請求の経緯》 税理士は発行法人の顧問税理士であった。 税理士が相続税対策のため依頼者の所有する同族法人株式を発行法人に売却することを提案。 みなし配当の計算を誤り、株式の譲渡所得を分離課税で過大に申告。 税務調査による指摘により、発行法人への株式売却に係る所得税について、分離課税で申告した株式の譲渡所得が総合課税のみなし配当所得に是正されたため、所得税及び住民税の合計で7,000万円が追徴課税された。   《基礎知識》 ◆みなし配当(法法24①、法令23①四) 同族法人の株主がその法人の自己株式の取得により金銭の交付を受けた場合において、その金銭の額が資本金等の額を超えるときは、その超える部分の金額は、剰余金の配当とみなされ、みなし配当として課税される。 ◆譲渡損益(法法61の2①) 交付金銭の額からみなし配当を控除した残額が譲渡原価より大きい場合には、譲渡所得として課税される。 〈自己株式買取り時の課税関係〉   《税理士の落とし穴》   《税理士の責任》 依頼者は正しい税額の説明を受けていれば売却は行わなかったとして、更正処分により増加した税額につき賠償を求めてきた。しかし、相続税対策の観点から考えれば、当初の目的は達成している。 したがって、税理士に責任はあるが、税賠保険の観点からは、更正処分による増加税額は「本来納付すべき本税」であり、損害額とはいえないため、対象にはならない。   《予防策》 [ポイント①] シミュレーションは慎重に 当初のシミュレーションが依頼者の意思決定につながるような場合には、シミュレーションの数字が判断のポイントとなるため、慎重に作成する必要がある。 特に、本事例のように税理士サイドから提案するような場合には、単独では行わず、複数人でチームを組んで対応するのが望ましい。   [ポイント②] 契約書を作成する 相続対策の場合、長年にわたって行われることが多い。このような場合には関与時点で契約書を交わして、受任業務の内容、具体的な成果物、それに対する報酬、責任の範囲などを明確化しておくべきである。 (了)

#No. 62(掲載号)
#齋藤 和助
2014/03/27

〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第18回】 「被相続人の各種債務に関する取扱いと留意点」

〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第18回】 「被相続人の各種債務に関する取扱いと留意点」   税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   前回までは相続財産について見てきたが、今回は相続の対象となる「債務」について検討を行う。 なお、法律的には葬式費用は相続の対象となる債務ではないが、相続税の計算上、相続財産から控除できる対象であり(相続税法13条)、まとめて説明することとする。   〔被相続人の債務の取扱い〕 被相続人の債務は、原則として相続の対象となる。 相続税の課税価格の計算上、債務控除としてマイナスするものは、被相続人の債務で相続開始の際に現に存するもの(公租公課を含む)、被相続人に係る葬式費用、とされている(相続税法13条)。   〔債務控除の対象となる債務〕 債務控除の対象となる債務としては、未払所得税・住民税、未払固定資産税・都市計画税、未払医療費、住宅ローン等借入金、預かり敷金(賃貸不動産を所有している場合)などがある。 以下、個別に解説する。   〔未払所得税・住民税〕 被相続人の所得税について申告が必要な場合、他界後4ヶ月以内に準確定申告を行う必要がある(所得税法125条)(*1)。 この結果、所得税の納税が発生するときは、その未払所得税は、相続税の計算上、債務控除の対象となる(所得税が還付となる場合は、未収金として相続財産に含まれることとなる)。また、他界した年の住民税に関して未払いがあれば、債務控除の対象となる。   〔未払固定資産税・都市計画税〕 被相続人の所有していた不動産につき、固定資産税・都市計画税が未払いとなっている場合には、それらは債務控除の対象となる。 固定資産税・都市計画税は1月1日現在における所有者に対して課税されるが、固定資産税・都市計画税の納税通知書が送付されてくるのは、5月から6月となる。1月1日から納税通知書が送付されてくる前までは、全額が未払いとなっているため、それらは未払固定資産税・都市計画税として債務控除となる(*2)。納税通知書が送付された後に他界している場合、未納となっている固定資産税・都市計画税が、債務控除の対象となる。 また、自動車税(4月1日現在の所有者に対して5月末までに納付)、償却資産税(1月1日の所有者に対して、5~6月に納税通知書が送付される。通常、納期は4回(4期分は翌年2月))についても、同様である。   〔未払医療費〕 被相続人が他界する前に入院していた場合、他界日において医療費が未払いとなっていることが多い(*3)。 この場合には、他界日の翌日以後に支払ったものについて、未払医療費として債務控除の対象となる。   〔住宅ローン等借入金〕 被相続人の住宅ローン等借入金については、他界日現在における債務の金額が債務控除の対象となる。 ただし、住宅ローンの場合には、団体信用生命保険に加入しており、住宅ローンの残債が債務免除されることがあるが、この場合には、他界日における住宅ローン残高は債務控除の対象とはならない。また、団体信用生命保険から支払われる死亡保険金の受取人は債権者であるため、その死亡保険金も相続税の対象とならない(国税庁(文書回答事例)「団体信用生命保険に係る課税上の取扱いについて」)(*4)。 高齢の方が他界したケースでは、住宅ローンは完済していることが多いと思われるため、住宅ローン残高があるケースは多くないと考えられるが、住宅ローン残高がある相続税案件の場合には、団体信用生命保険の取扱いについて留意が必要である。   〔預かり敷金〕 被相続人が賃貸不動産を所有していた場合、敷金・保証金を預かっていることが通常であり、この預かり敷金・保証金は法律上、返還義務があるものであるため、債務控除の対象となる。 なお、店舗など非居住用家屋を賃貸している場合、預かり敷金・保証金のうち一部について、時間の経過とともに償却され返還義務がなくなる契約となっているものがあるが、その場合には、他界日において契約上返還義務がある金額が、債務控除の対象となる。   〔墓地・仏具の購入についての未払金〕 なお、他界日において未払いとなっている金額については、基本的には債務控除の対象となるが、墓地・仏具を他界直前に購入し、他界日において未払いとなっている場合には、それらの未払金は債務控除とならないことに留意する必要がある(相続税法13条3項、相続税基本通達13-6)。 これは、墓地・仏具は非課税財産として相続税の対象となっていないため、それに対応する債務も債務控除の対象から除くという趣旨であると考えられる。   〔会社経営者の連帯債務・保証債務〕 また、会社経営者などの場合には、連帯債務、保証債務が問題となる可能性があるため(相続税基本通達14-3)、会社経営者など事業をされていた方の相続税案件の場合には、この点についても特に留意が必要である。 (了)

#No. 62(掲載号)
#根岸 二良
2014/03/27

経理担当者のためのベーシック税務Q&A 【第13回】「会社設立と税務」-税務署等への届出書類-

経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第13回】 「会社設立と税務」 -税務署等への届出書類-   仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久   1 税務署への届出書類 設立の登記が完了した後、税務署、市町村役場、都道府県税事務所、年金事務所、労働基準監督局、公共職業安定所へ各種書類を提出する必要があります。 (1) 税務署(法人税関係) 法人税法では、一定の帳簿書類を備え付け、日々の取引を正確に記帳し、納税地の所轄税務署長に青色申告の承認申請をして、その承認を受けた場合は、所得計算上一定の特典を受けられる「青色申告制度」を設けています。 (2) 税務署(所得税関係) (3) 税務署(消費税関係) 新規に設立した法人は、設立第1期目及び第2期目について基準期間(当事業年度の前々事業年度)がありませんので、原則として、消費税の免税事業者となります。 ただし、会社設立時の資本金の額が1,000万円以上である新設法人と平成26年4月1日以後に設立される特定新規設立法人(※)は、基準期間のない課税期間(設立第1期目及び第2期目)についても消費税の納税義務の免除規定の適用はありませんので、設立第1期目から課税事業者となります。 また、設立第3期目以降は、基準期間の課税売上高が1,000万円超である場合に課税事業者となります。なお、平成25年1月1日以後に開始する事業年度については、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても特定期間(法人の場合、原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいいます)における課税売上高が1,000万円を超えた場合、当課税期間から課税事業者となります。 免税事業者の場合、顧客等から支払いを受けた消費税(仮受消費税)を納税する義務はありませんが、仕入先等に支払った消費税が仮受消費税を上回る場合には消費税の還付を受けられませんので注意が必要です。 免税事業者となる事業年度において、消費税の還付が予想される場合には、課税事業者を選択する課税期間の初日の前日までに「消費税課税事業者選択届出書」を提出して、課税事業者となる必要があります。 ただし、いったん課税事業者を選択すると、最低2年間は課税事業者を継続しなければならないので注意が必要です。 2 市町村役場と都道府県税事務所 市町村役場と都道府県税事務所へも、次のような届出をする必要があります。 なお、東京都23区内に法人を設立する場合は、所管の都税事務所へ提出するだけで足り、区役所へ届出する必要はありません。 3 その他の届出 年金事務所へは、健康保険・厚生年金保険新規適用届等の届出等の書類を、労働基準監督局へは、①労働保険の保険関係成立届、②就業規則、③適用事業報告等の書類を、公共職業安定所(ハローワーク)へは、①雇用保険適用事業所設置届、②雇用保険被保険者資格取得届の書類を提出する必要があります。 (了)

#No. 62(掲載号)
#草薙 信久
2014/03/27

居住用財産の譲渡所得3,000万円特別控除[一問一答] 【第24問】「所有者の異なる2棟の建物を一体として居住の用に供している場合」-一の家屋-

居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第24問】 「所有者の異なる2棟の建物を一体として居住の用に供している場合」 -一の家屋-   税理士 大久保 昭佳   Q 下図のように、X所有の土地の上にX所有の家屋AとY所有の家屋Bがあります。XとYは親子であり生計を一にしています。また、XとYの家屋は渡り廊下(Y所有)で結合されています。 XとYそれぞれの家族は、2つの家屋全体を居住の用に供しています。 このほど、この土地全体と2つの家屋を一括して売却しました。 この場合、Xは、Y所有の家屋Bの敷地の用に供されている部分の土地譲渡所得についても、「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができるでしょうか? A Y所有の家屋の敷地の用に供されている部分の土地譲渡所得についても「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる。 〈解説〉 X所有の家屋AとY所有の家屋Bとが一体として一の機能を有する一構えの家屋と認められる場合には、Y所有の家屋の敷地の部分も含めて居住用財産に該当するものとして差し支えないものと考える。 (了)

#No. 62(掲載号)
#大久保 昭佳
2014/03/27

貸倒損失における税務上の取扱い 【第14回】「子会社支援のための無償取引⑩」

貸倒損失における税務上の取扱い 【第14回】 「子会社支援のための無償取引⑩」   公認会計士 佐藤 信祐 第13回においては、無利息貸付けにおける貸方側の処理、すなわち、収益を認識するための理論構成についての分析を行った。 本稿においては、借方側の処理である寄附金についての取扱いを分析することにより、法人税基本通達9-4-2の基本的な考え方について解説を行う。 (2) 貸方側の処理 ① 条文上の根拠 第13回目で解説したように、無利息貸付けによって収益を認識したのであるから、借方側をどのように処理するのかという問題が生じる。 二段階説(有償取引同視説)を採用するのであれば、まず、未収利息を認識したうえで、当該未収利息の債権放棄を行ったとみなすことから、法人税法第22条第3項第3号により、「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」が発生したと考えることになる。 しかしながら、別段の定めである法人税法第37条に規定する寄附金に該当する場合には、損金の額に算入することはできないという整理になる。 つまり、逆に言えば、法人税法第37条に該当しなければ、別段の定めに該当しないことから、原則に戻って、損金の額に算入されるという結論になる。 なお、寄附金に該当するか否かという点については、本来は収受すべき利息を収受しなかったのであるから、原則として、寄附金が発生することになるが、例外的に、法人税基本通達9-4-2に該当した場合に限り、寄附金として処理しないという整理になる。 この場合における法人税法の条文の理解であるが、法人税法第37条第7項(清水惣事件では同条第5項)において、 と規定されており、括弧書きにおいて、寄附金から除くものと規定しているため、これらが単なる例示であると解するのであれば、法人税基本通達9-4-1、9-4-2に該当したものについて、括弧書きに含めることにより、寄附金から除くことができるという条文解釈があり得る。 また、法人税基本通達9-4-1、9-4-2に該当したものについて、経済合理性があることから、「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に含まれないと解するのであれば、寄附金から除くことができるという条文解釈もあり得る。 判例、学説からは、いずれとも解釈することが可能であり、法人税基本通達9-4-1、9-4-2の法人税法上の根拠が極めて曖昧なものであるということができよう。 清水惣事件の控訴審判決文を見る限り、合理的な経済目的を有するのであれば、「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当しないという解釈のように読めるが、そのような条文解釈が可能であるのかという点は疑いがある。 しかしながら、法人税法第37条第7項括弧書きが例示列挙であるとみなすというのは、条文の文言からすると、条文解釈として可能であるか否かについては疑問が残るところである。 結局のところ、法人税基本通達9-4-1、9-4-2の取扱いについてはかなり限定的なものであり、子会社等の解散や経営権の譲渡等が行われ、社会通念上も親会社責任等が問われる場合である法人税基本通達9-4-1についてはともかくとして、法人税基本通達9-4-2が存在する根拠については個人的には疑問に感じている。 あえて解釈するのであれば、昭和38年の税制調査会の「所得税法及び法人税法の整備に関する答申」において、 との提言を受けて、現在の法人税法第37条第7項において、 としたことから、これを例示列挙としたうえで、経済合理性のある無利息貸付け等については、業務に明らかに関係あるものとすることにより、法人税基本通達9-4-2がこれに含まれると解さざるを得ないと考えられる。 ② 法人税基本通達9-4-1、9-4-2の位置付け このように、法人税基本通達9-4-1、9-4-2に対する条文上の根拠は曖昧ではあるが、原則として寄附金として処理し、法人税基本通達9-4-1、9-4-2に該当したものについて寄附金として処理しないとしていることから、そもそも「寄附」の要素は存在するのである。 第8回目で解説を行ったが、清水惣事件は合理的な経済目的がある場合には、寄附金としないという余地を残しており、その後に定められた法人税基本通達9-4-1、9-4-2においても、一定の要件を満たした場合には、寄附金とはしないものとしており、寄附を行っているという事実がありながらも法人税法上の寄附金とはしないと規定しているという点に特徴がある。 このことは、国税庁のHP上のタックスアンサー「No.5280 子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等 Q2-3」においても、 としており、「経済取引として十分説明がつく」という点が重視されている。 この場合における「経済取引として十分説明がつく」という点については、その典型的なケースとしては、子会社の倒産を防止するために行われる緊急的な融資が該当するであろう。 この点につき、森文人氏は と説明されており、合理的な再建計画に基づくつなぎ資金については、無利息貸付けを行ったとしても寄附金とはしない、すなわち、損金の額に算入することができることになる。この場合には、法人税法第22条第2項に基づいて認識した利息収益と同額が損金の額に算入されることになるから、結果として、利息収益を認識しなかったのと同じ効果をもたらすことになる。 法人税基本通達9-4-1、9-4-2の具体的な内容は、昭和55年度において新設された経緯、平成10年度において改正された経緯を含めて、いずれ細かな検討を行う予定である。 今の段階では、法人税基本通達9-4-1、9-4-2は「寄附」の要素は存在するものの、合理的な経済目的がある場合には、寄附金とすべきではないという趣旨から設けられた通達であるということをご理解いただきたい。 また、次回以降は、貸倒損失の具体的な内容を解説する前に、貸倒損失に関連する判例をいくつか紹介する予定である。 (了)

#No. 62(掲載号)
#佐藤 信祐
2014/03/27

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第3回】「貸倒引当金」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第3回】 「貸倒引当金」   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   「貸倒引当金」とは、売掛金、受取手形、貸付金、未収入金、立替金、差入保証金、敷金等の債権に対する将来の取立不能見込額を見積もった金額をいう。 将来、貸倒れが発生する可能性が高いであろう事実が当期に発生しているにもかかわらず、実際に貸倒れ事実が発生した時に費用(損失)処理すると、費用(損失)が将来に計上されることになってしまう。そのため、期間損益が正しく表されないこととなる。 そこで、期間損益を正しく表すために、将来の取立不能見込額を見積もり、「貸倒引当金」を計上する必要がある。 貸倒引当金の算定は、以下の4つのステップに分けることができる。 この4つのステップをフロー・チャートにすると、以下のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 なお、ゴルフ会員権においても貸倒引当金を計上することがある(金融商品会計に関する実務指針(以下「実務指針」という)311)が、本解説では言及していない。   【STEP1】では、債権の区分を行う。 金融商品に関する会計基準(以下「基準」という)では、債権を債務者の財政状態及び経営成績等に応じて、「一般債権」、「貸倒懸念債権」、「破産更生債権等」の3つの区分に分け、その区分ごとに貸倒引当金を計上するという方法を採用している(基準27、28)。   (1) 債権の区分 債権の区分は、債務者の経営状態に応じて区分する。 まず、経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権については、「一般債権」に区分する(実務指針109)。 「経営状態に重大な問題が生じている」とは、以下のような場合が該当する。 次に、経営状態に重大な問題はあるが、まだ、経営破綻の状況には至っていない場合、言い換えると、債務の弁済に重大な問題が生じている又は生じる可能性の高い場合には、「貸倒懸念債権」に区分する(実務指針112)。 最後に、経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている場合には、「破産更生債権等」に区分する(実務指針116)。 3つの区分は以下のように、まとめることができる。 ① 一般債権 一般債権とは、経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権をいう(基準27(1))。言い換えると、貸倒懸念債権及び破産更生債権等以外の債権が一般債権となる。 ② 貸倒懸念債権 貸倒懸念債権とは、経営破綻の状況には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか、又は生じる可能性の高い債務者に対する債権をいう(基準27(2))。 「債務の弁済に重大な問題が生じている」とは、具体的な例として以下のような場合が該当する(実務指針112)。 「債務の弁済に重大な問題が生じる可能性が高い」とは、業況が低調ないし不安定、又は財務内容に問題があり(債務超過又は実質的に債務超過の状態等)、過去の経営成績又は経営改善計画の実現可能性を考慮しても債務の一部を条件どおりに弁済できない可能性の高いことをいう(実務指針112)。 貸倒懸念債権に該当するかどうかについて、恣意性を排除するため具体的な基準を決定する必要がある。 ③ 破産更生債権等 破産更生債権等とは、経営破綻(破産、会社更生、民事再生等)又は実質的に経営破綻(深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状態)に陥っている債務者に対する債権をいう(基準27(3))。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) 【STEP2】では、一般債権の貸倒引当金について検討する。 一般債権については、債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた「貸倒実績率法」により、貸倒引当金を算定する(基準28(1))。 貸倒実績率法とは、「債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準により貸倒見積高を算定する」方法をいう。 ここでは、貸倒実績率による貸倒引当金の算定について、解説する。 貸倒実績率法による貸倒引当金の算定において、具体的には、以下の検討が必要となる。   (1) 貸倒実績率の算定 貸倒実績率の算定は、以下の①から③の順に算定する。 ① 債権残高の集計 一般債権の対象となる債権を集計する。集計は会社の状況により、債権全体で行うか、勘定科目別(例えば、売上債権とその他)や発生原因別(例えば、営業債権と営業外債権)、その他の方法によるグルーピングにより行う。 貸倒実績率は、当期を最終年度とする算定期間を含むそれ以前の2~3期間に係る貸倒実績率の平均値で計算する(詳細は下記③参照)。そのため、算定期間を決定した上で、その決定した期間に対応する債権残高を集計する必要がある(実務指針110)。 算定期間は、一般的に債権の平均回収期間とするのが妥当である(実務指針110)。例えば、平均回収期間が1年の場合、前期末の債権に対する貸倒損失額としては、当期に発生した貸倒損失額を集計することになる。 なお、債権の平均回収期間が1年を下回る場合には、1年とする(実務指針110)。例えば、下記②で貸倒損失額を集計するときに平均回収期間が6ヶ月の場合、前期末の債権に対する貸倒損失額としては、当期の6ヶ月で発生した貸倒損失額ではなく、当期1年間に発生した貸倒損失額を集計することになる。 ② 貸倒損失額の集計 貸倒損失額を債権全体又はグルーピングごとに集計する。貸倒損失額は上述した算定期間に発生した金額を集計する。 貸倒実績率は、当期を最終年度とする算定期間を含むそれ以前の2~3期間に係る貸倒実績率の平均値で計算するため(詳細は下記③参照)、①で決定した期間に対応する貸倒損失額を集計する必要がある(実務指針110)。 なお、貸倒損失額に個別引当金の金額(貸倒懸念債権及び破産更生債権等について計上した貸倒引当金繰入額)を含めるかどうかは、基準上、明確になっていない。しかし、専門家による評価など十分に精度の高い担保及び保証の回収見込額に基づいて引き当てられているものや、損失として早々に実現する可能性が高いものについては、より実態を表すため、個別引当金の金額を貸倒損失額に含めることは差し支えないと考えられる(金融商品会計に関するQ&A(以下「Q&A」という)41)。 ③ 貸倒実績率の算定 貸倒実績率は、上記②で集計した貸倒損失額を①で集計した債権残高で除して算定する。また、算定は債権全体又はグルーピングごとに行う。 当期末に保有する債権について適用する貸倒実績率は、当期を最終年度とする算定期間を含むそれ以前の2~3期間(具体的には①で決定した期間)に係る貸倒実績率の平均値で求める(実務指針110)。 なお、貸倒実績率の算定においては、以下の3つにも留意する必要がある。 なお、貸倒実績率の算定対象期間中に貸倒実績がないからといって、安易に貸倒実績率をゼロと判断してはいけない。 貸倒実績率の算定対象期間中には貸倒れの実績はないものの、それより前に貸倒れの発生があった場合、当該貸倒れの相手先及び債権の内容、発生した当時における企業内の債権管理体制と外部経営環境等を、企業が現在有する債権及び企業の状況と比較して、期末に有する債権の回収期間内において貸倒れの発生がないものと合理的に予想される場合以外は、貸倒実績率をゼロとすることは認められないと考えられる。 この場合には、過去における貸倒実績率の推移等に基づいて、適用する貸倒実績率を算定しなければならない(Q&A40)。   (2) 貸倒実績率による貸倒引当金の算定 貸倒実績率により、貸倒引当金は以下のように算定する。 会計処理の例は以下のとおりである。 【会計処理】 また、前期に貸倒引当金を計上しており、「前期の貸倒引当金」>「当期の貸倒引当金」の場合、当期の貸倒引当金と前期貸倒引当金の差額を取り崩す(実務指針125)。 会計処理の例は以下のとおりである。 【会計処理】 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) 【STEP3】では、貸倒懸念債権の貸倒引当金について検討する。 貸倒懸念債権については、債権の状況に応じて、「財務内容評価法」又は「キャッシュ・フロー見積法」により貸倒引当金を算定する。   財務内容評価法とは、担保又は保証が付されている債権について、債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法をいう(実務指針113(1))。 一方、キャッシュ・フロー見積法とは、債権の元本の回収及び利息の受取に係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権について、債権の発生又は取得当初における将来キャッシュ・フローと債権の帳簿価額との差額が一定率となるような割引率を算出し、債権の元本及び利息について、元本の回収及び利息の受取が見込まれるときから当期末までの期間にわたり、債権の発生又は取得当初の割引率で割り引いた現在価値の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法をいう(実務指針113(2))。   (1) 算定方法の選択 将来キャッシュ・フローを合理的に見積もることが可能であり、かつ、実際の回収が担保処分によるのではなく、債務者の収益を回収原資とする方針である場合は、財務内容評価法よりもキャッシュ・フロー見積法によることが望ましい(実務指針299)。したがって、このような場合には、キャッシュ・フロー見積法を選択することになる。 将来キャッシュ・フローを合理的に見積もることができない場合、又は将来キャッシュ・フローを合理的に見積もることができるが、実際の回収原資が債務者の収益ではなく担保処分によるものである場合には、財務内容評価法を選択することになる。   (2) 財務内容評価法 ① 債務者の支払能力の総合的判断 財務内容評価法を採用する場合には、まず、債務者の支払能力を総合的に判断する必要がある。具体的には、債務者の経営状態、債務超過の程度、延滞の期間、事業活動の状況、銀行等金融機関及び親会社の支援状況、再建計画の実現可能性、今後の収益及び資金繰りの見通し等、定量的・定性的要因を考慮し判断する(実務指針114)。 一般事業会社においては、債務者の支払能力を判断する資料を入手することが困難な場合もあり、例えば、以下のような簡便的な方法を採用することも考えられる。 ただし、個別に重要性の高い貸倒懸念債権については、可能な限り資料を入手し、評価時点における回収可能額の最善の見積りを行うことが必要である(実務指針114)。 ② 担保・保証の評価 次に担保又は保証がある場合、その担保又は保証の評価を行う。 担保の処分見込額を求める場合、合理的に算定した担保の時価に基づくとともに、担保の信用度、流通性及び時価の変動の可能性を考慮する必要がある。なお、簡便法として、担保の種類ごとに信用度、流通性及び時価の変動の可能性を考慮した一定割合の掛目を適用する方法が認められる(実務指針114)。一定割合の掛目としては、実務上、以下の金融検査マニュアルにおける掛目の例示が参考となる。また、定期的に担保の評価について見直しを行う必要がある。 【金融検査マニュアル】 保証による回収見込額を求める場合、保証人の資産状況等から保証人が保証能力を有しているか否かを判断する。また、個人にあっては保証意思の確認、法人にあっては保証契約など保証履行の確実性について検討する必要がある。さらに、定期的に保証人の資産状況等について見直しを行う必要がある(実務指針114)。 なお、清算配当等により回収が可能と認められる金額(債務者の資産内容、他の債権者に対する担保の差入れ状況を正確に把握して当該債務者の清算貸借対照表を作成し、それに基づく清算配当等の合理的な見積りが可能である場合における、当該清算配当見積額)については、担保の処分見込額及び保証による回収見込額と同様に債権額から減額することができる(実務指針114)。 ③ 財務内容評価法による貸倒引当金の算定 財務内容評価法では、貸倒引当金を以下のように算定する。 (※) 買掛金、支払手形等と相殺した後の実質的な債権の金額。 会計処理については、【STEP2】(2)を参照。また、一般事業会社の債務者の支払能力を判断する資料を入手することが困難な場合における簡便的な貸倒引当金の方法については、【STEP3】(2)①を参照。   (3) キャッシュ・フロー見積法 ① 将来キャッシュ・フローの見積り キャッシュ・フロー見積法を採用する場合、まず、将来キャッシュ・フロー(元本の返済+利息の支払)を見積もる(実務指針115)。将来キャッシュ・フローの見積りの際には、債務者の貸借対照表、損益計算書、事業計画、資金繰り表等の情報を加味して、合理的に見積もる必要がある。 また、以下の2点に留意する必要がある。 ② 割引率の算定 割引率には、債権発生時の約定利子率(又は取得した債権の場合、取得時の実効利子率)を用いる(実務指針115)。 ここで使用する割引率は、債権発生時のものである。キャッシュ・フロー見積法が、債権を時価で評価し直すために行われるのではなく、あくまでも債権の取得価額のうち当初の見積キャッシュ・フローからの減損額を算定することを目的として行われるため、将来キャッシュ・フロー見積り時点の改定約定利子率又は市場利子率は使用しない(実務指針299)。 ③ キャッシュ・フロー見積法による貸倒引当金の算定 ①で算定した将来キャッシュ・フローを②で算定した割引率で割引計算する。その割引後将来キャッシュ・フローと債権残高の差額が貸倒引当金となる。 将来キャッシュ・フローの見積りは、少なくとも各期末に更新し、貸倒見積高を洗い替える(実務指針115)。ここで、キャッシュ・フロー見積法は割引計算を行うため、時の経過により割引期間が短くなると、割引後将来キャッシュ・フローが大きくなる。そのため、貸倒引当金が減少する。 その減少分は、金利要素であるため、原則として、受取利息に含めて処理する。ただし、受取利息に含めないで貸倒引当金戻入益として営業費用又は営業外費用から控除するか、営業外収益に計上することもできる(実務指針115)。 《設例2》の会計処理は以下のとおりである。 【X1年度末 貸倒引当金の会計処理】 【X2年度 利息の受取の会計処理】 【X2年度末 貸倒引当金の会計処理】 (次ページ【STEP4】へ進む) (前ページ【STEP3】へ戻る) 【STEP4】では、破産更生債権等の貸倒引当金について検討する。破産更生債権等の貸倒引当金は、「財務内容評価法」により算定する。 (1) 担保・保証の評価 担保又は保証がある場合、その担保又は保証の評価を行う。 評価方法は、貸倒懸念債権の財務内容評価法を同一である(【STEP3】(2)②参照)。 なお、清算配当等により回収が可能と認められる金額は、担保の処分見込額及び保証による回収見込額と同様に、貸倒引当金の算定の際に債権額から減額することができる。 ここで、清算配当等により回収が可能と認められる金額には、債務者の資産内容、他の債権者に対する担保の差入れ状況を正確に把握して当該債務者の清算貸借対照表を作成し、それに基づく清算配当等の合理的な見積りが可能である場合における当該清算配当見積額のほか、清算人等から清算配当等として通知を受けた金額も含まれる(実務指針117)。 なお、貸倒懸念債権では、清算配当等の通知を受けることは稀のため、清算配当等の通知を受けた金額は貸倒懸念債権には含まれない(【STEP3】(2)②参照)。   (2) 貸倒引当金の算定 貸倒引当金は以下のように算定する(実務指針117)。 会計処理については、【STEP2】(2)を参照。 なお、破産更生債権等の貸倒引当金について、どの時点で償却(貸倒引当金と債権額との相殺)を行うかが問題となるが、その時点は、以下のとおりである。 破産更生債権等に区分した時点においては、担保及び保証による回収見込額を控除した残額を貸倒引当金として計上し、次に損失がほとんど確実となった時点でその引当金を回収不能となった債権額と相殺する(Q&A42)。 *   *   * 以上、4つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。    (了)

#No. 62(掲載号)
#西田 友洋
2014/03/27

過年度遡及会計基準の気になる実務Q&A 【第8回】「遡及適用と税務処理」

過年度遡及会計基準の気になる実務Q&A 【第8回】 「遡及適用と税務処理」   公認会計士 阿部 光成   《解 説》 前述のように、過年度遡及会計基準による遡及適用を行ったとしても、税務上の過去の確定申告については、過年度に誤った課税所得の計算をしていないのであれば、特に影響を及ぼすものではない。 税務上の取扱いについては、次のことに注意する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 国税庁Q&Aの概要 国税庁Q&Aでは、問1の答の2(1)「当期における申告調整」において、次のように述べている。 すなわち、法人税の確定申告は「確定した決算」に基づき行うこととされているが(法人税74条1項)、過年度遡及会計基準に基づく遡及処理は過去に「確定した決算」を修正するものではないので、遡及処理が行われた場合でも、その過年度の確定申告において誤った課税所得の計算を行っていたのでなければ、過年度の法人税の課税所得の金額や税額に対して影響を及ぼすことはない。ただし、遡及適用及び修正再表示を行う結果、利益剰余金の前期末残高と当期首残高が不一致となることから、税務上は、当期の法人税申告書別表において所要の調整を行うことが必要になると述べている。 なお、遡及処理とは、遡及適用、財務諸表の組替え又は修正再表示により、過去の財務諸表を遡及的に処理することをいう(過年度遡及会計基準27項)。   Ⅱ 会計方針の変更があった場合の取扱い 国税庁Q&Aの問2「会計方針の変更があった場合(棚卸資産の評価方法の変更)」の設例に基づいて、税務上の取扱いの概要を述べる。 【前提条件】 【遡及適用による影響額の算定】 会計方針の変更に伴い、過年度遡及会計基準に従って遡及適用を行ったところ、前期末の棚卸資産は遡及適用前の550(先入先出法)から遡及適用により500(総平均法)と算定された。 この結果、過年度にすでに開示された財務諸表と異なる資産(棚卸資産)の金額が当期の財務諸表の比較情報として表示され、当期首の棚卸資産及び利益剰余金が、それぞれ50減額して算定されることとなる。 株主資本等変動計算書では、遡及適用の影響が次のように表示される。   【税務処理】 税務上の過去の確定申告については、過年度に誤った課税所得の計算をしていないのであれば、特に影響を及ぼすものではない。 国税庁Q&Aでは、別表の記載方法について次の例を示している。 (了)

#No. 62(掲載号)
#阿部 光成
2014/03/27
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