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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載45〕 会社分割の会計処理~株主資本の内訳を中心として

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載45〕 会社分割の会計処理 ~株主資本の内訳を中心として   公認会計士・税理士 安原 徹   Ⅰ 会社計算規則の条文 本稿では、まず吸収分割が行われたときに承継会社において変動する株主資本等について、会社計算規則の条項に従い、原則的な処理方法を定める37条とその例外処理である38条を検討する。 引き続いて、新設分割についても、新設分割設立会社の株主資本等の額に係る原則的な処理方法の49条とその例外処理である50条を取り上げることとする。   Ⅱ 吸収分割の条文 1 原則規定としての37条 会社計算規則37条は「吸収型再編対価の全部又は一部が吸収分割承継会社の株式又は持分である場合」の株主資本等の変動額について規定する。 「対価の全部又は一部が吸収分割承継会社の株式又は持分である場合」という要件を設けた理由は、もし対価の全部が承継会社の株式以外のもの(例えば対価が現金のみ)である場合には、承継会社において株式が発行されないのであるから、吸収分割によって株主資本等の額が変動しないことになるためである。 本条第1項は、承継会社において変動する株主資本等の総額の算定方法を定めている。 1号は承継会社から見て支配取得に当たるため時価受入れとする場合(逆取得を除く)。 2号は共通支配下関係だが企業結合会計基準にいう事業に該当しないものが吸収分割の対象となる場合に時価受入れとするもの。 3号は共通支配下関係にあるため簿価受入れとする場合。 4号は共同支配企業の形成や逆取得の場合に簿価受入れとするものである。 また第2項は、承継会社の資本金、資本剰余金(資本準備金、その他資本剰余金)の増加額は、株主資本等変動額の範囲内で吸収分割契約の定めに従いそれぞれ定めた額とし、一方、株主資本等変動額がマイナスの場合を除いて利益剰余金(利益準備金、その他利益剰余金)は変動しないと規定する。これは37条の吸収分割が、現物出資の発想に基づくため、原則として利益の性質を持つ項目を変動させることはできないという考え方によるものである。 2 例外規定としての38条 会社計算規則38条は、吸収分割における承継会社の株主資本等変動額を定める37条の特則として、株主資本等の内訳科目を引き継ぐことを認める規定である。吸収型再編対価の全部が承継会社の株式である分割型吸収分割の場合(第1項)と吸収型再編対価が存しない場合(第2項)について規定する。 本条第1項の「吸収型再編対価の全部が吸収分割承継会社の株式又は持分である場合」とは、交付される対価のなかに現金等が含まれず、承継会社株式のみを交付する場合である。 これは、もし吸収型再編対価のなかに吸収分割承継会社の株式以外のものが混じると、分割会社と承継会社において株主資本等の額が一致しなくなり、株主資本等を引き継ぐことができないからである。 また、同項には、「吸収分割会社における吸収分割の直前の株主資本の全部又は一部を引き継ぐものとして計算することが適切であるとき」という要件が定められている。 これは、組織再編を、現物出資と同じ発想のものと捉えるのではなく、会社と会社が合同する行為と捉え貸借対照表をそのまま合算させるという考え方によるものである。上記の要件は、このような会計処理によることを前提とする旨を表現したものである。 なお、「株主資本等を引き継ぐ」とは株主資本の内訳の資本金、資本準備金等の科目をそのまま引き継ぐという趣旨である。 ところで、第1項の適用場面は、例えば2つの事業を営む甲社が、そのうち1つを乙社に対して分割型の吸収分割する際、甲社の貸借対照表を事業別に2つに分けて、その1つの事業別貸借対照表を乙社の貸借対照表に合算させるといった場合である。このような場面では、旧商法の下での人的分割(分割型の分割)のように、吸収分割会社自体が2つに分割したものとして株主資本の内訳を配分することを認める実務上の必要があることから、会社法上でもこれを認めたものと説明される。 もっとも、旧商法時代の分割型吸収分割では、分割事業の受皿会社である乙社が、対価として乙社株式を分割会社甲社の株主に直接交付したが、会社法では、一旦乙社株式を甲社に割り当て、甲社が、割り当てを受けた乙株を、剰余金の配当もしくは分割会社甲発行の全部取得条項付種類株式の対価として甲社株主に交付することになった(後者は非按分型の分割で利用される)。 それでは、次に38条第1項の株主資本等変動額の内訳をどう決めるか。会社事業を2つに分けるのなら、株主資本の各項目もタテ割りにプロラタ配分しなくてはならないのかという疑問が生じる。ところが、38条第1項本文では、「変動する吸収分割会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額をそれぞれ当該吸収分割承継会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の変動額とすることができる」とだけ規定して、これらの計数の決め方については何も定めがない。 一方、会計基準においては、承継会社の増加資本金の処理について、「親会社で計上されていた株主資本の内訳を適切に配分した額をもって計上することができる。この場合、株主資本の内訳の配分額は、親会社が減少させた株主資本の内訳の額と一致させる。」と定められている(「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」234(2)、409(3)、446(以下「指針」という))。 したがって、38条第1項によって資産負債を切り出す際、承継会社で増加する株主資本の内訳については、分割会社の株主資本の各項目の金額の範囲内で、自由に決めることができると解される。 その結果、例えば分割会社が減資、準備金の減少を行わない場合、「その他利益剰余金」のみを変動させる処理も可能となる。 一方、第2項は、吸収分割会社と吸収分割承継会社が共通支配下関係にある場合で、無対価の吸収分割を対象とする。実務上完全親子会社関係にある組織再編で、対価の受渡しが行われない場合が数多く見受けられるので、そのような場合に対応するために設けられた規定である。 もっとも、会社計算規則は指針203-2のように「完全親子会社関係の存在」という要件を課していないが、手続の煩雑さ等もあって、実務において無対価吸収分割が利用されるのは、適用指針に掲げられた完全親会社→完全子会社、完全子会社→完全子会社、完全子会社→完全親会社のケースに限られるようである。 ただし、このうち38条2項が対象とするのは前二者の場合だけと考えられる。なぜなら、完全子会社→完全親会社の場合は親会社において抱合せ株式の価値の増減の問題として処理されるので、株主資本の変動を前提とする本条と関係ないことになるからである(平成21年改正前会社計算規則では18条第5項に規定があり子会社株式の目減り分を特別損益に計上する旨定められていた。21年改正では条文の簡素化が図られこの規定は削除されたが、法の趣旨は変わっておらず、また、改正後の規則では取扱いを会計慣行に委ねたと考えられることから、会計基準に従った処理をすることになる)。 また、無対価吸収分割の場合も分割会社では株主資本の各項目を適宜減少させることができるが、承継会社における株主資本の変動額には制限がある。すなわち、第2項本文が「吸収分割の直前の資本金及び資本剰余金の合計額を承継会社のその他資本剰余金の変動額と・・・」と定めた理由は、対価が存在しない場合には承継会社で株式が発行されず、払込資本や資本準備金の額を増加させることが適当でないことから、その他資本剰余金が変動するとしたものである。 さらに、同項では「吸収分割により変動する吸収分割会社の利益剰余金の額を当該吸収分割承継会社のその他利益剰余金の変動額とする」と定めており、分割会社で利益準備金やその他利益剰余金が変動するときには、承継会社ではその他利益剰余金だけが変動するとしている。これは、資本金や資本準備金の額を変動させないのに利益準備金の額を変動させるのは不自然なので、利益準備金を動かす代わりにその他利益剰余金を変動させるものである。 設例で示すと次のようになる。 分離する事業の株主資本が資本金のうち1,000、利益準備金の1,000、その他利益剰余金のうち21,000だったとする。この分割が無対価で行われると承継会社において資本金や利益準備金が増加せず、その他資本剰余金とその他利益剰余金が変動することになる。 なお、吸収分割を行う場合には、債務が吸収分割会社から吸収分割承継会社に移転することになり、また、会社分割により分割当事会社の資産状況に大きな影響を与えるため、吸収分割会社・吸収分割承継会社では原則として債権者保護手続が必要とされる(会社法789条①、②、799条①、②)。 この手続に加え、38条に従った吸収分割では、分割会社の資本金額や準備金額が変動することが多く、その際には、同条第3項による債権者保護手続が別途必要となる。このため、37条の吸収分割に比べ、手続がやや面倒なものとなっている(38条第3項では、会社「法第2編第5章第3節第2款の規定その他の法の規定に従うものとする」と規定されている)。 3 吸収分割のまとめ 会計計算規則37条と38条の概要をまとめると、次のとおりである。   Ⅲ 新設分割の条文 1 原則規定としての49条 会社計算規則49条は、単独新設分割の場合における新設分割設立会社の株主資本等について定める。 単独新設分割において、新設分割設立会社は新設分割会社の完全子会社となり、共通支配下関係の取引となるので、株主資本等変動額は、原則として分割対象財産の帳簿価格を基礎として算定される。また、新設分割は現物出資の発想に基づくため(ただし、共通支配下なので簿価ベース。なお、例外的な処理として、企業結合会計基準等における「事業」に該当しない財産が新設分割の対象となる場合等に時価処理によるべきことがありうることを想定した規定が設けられている)、株主資本等の内訳については資本性の科目のみとなり、損益取引から生ずべき利益剰余金はゼロとなる。 つまり、株主資本変動額をどのように資本金、資本準備金、その他資本剰余金の額に割り振るかについては、資本金額及び資本準備金額がいずれもゼロ以上の額である限り、新設分割会社が新設分割契約の定めに従って自由に定めた額とすることができる。 2 例外規定としての50条 会社計算規則50条は、49条の例外として株主資本等を引き継ぐ場合における新設分割設立会社の株主資本等についての規定である。 これは、新設型再編対価の全部が新設分割設立会社の株式である場合に、分割型新設分割により変動する新設分割会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額を、それぞれ新設分割設立会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額とすることができるとするもので、吸収分割における38条とパラレルな規定振りとなっている。 すなわち、分割型新設分割の対価の全部が設立会社の株式である場合においては、旧商法の下での人的分割(分割型の分割)のように分割会社自体が分割したものと捉え、株主資本の内訳を配分することを認める実務上の必要があることから、設けられた規定である。 「新設型再編対価の全部が新設分割設立会社の株式である場合」に限って本条の適用が認められる理由は、もし新設型再編対価の一部のみが新設分割承継会社の株式であったとすると、新設分割により分割会社において減少する株主資本等の各項目の金額と設立会社の株主資本等の各項目の額が一致しなくなるからである。また、例外的に「新設型再編対象財産に時価を付すべき」(49条①括弧書)の場合には、分割会社で減少する株主資本の額と設立会社の株主資本の額を一致させることができないため、本条を使うことはできない。 また、分割型新設分割の場合も、分割型吸収分割と同様、旧商法時代には新設会社の株式が分割会社の株主に直接交付されていたが、会社法では一旦分割会社に割り当てられたうえで、同社経由で分割会社株主に交付されることになっている。 次に、分割設立会社の株主資本の内訳が問題となる。50条1項本文では、「変動する新設分割会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額をそれぞれ新設分割設立会社の設立時の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額とすることができる」と規定するのみで、これらの計数をどのように決めるのかについて何も定めがない。一方、会計基準においては、「親会社が子会社に事業を移転する場合の子会社(吸収分割承継会社)の会計処理に準じて処理する。」と定められている(指針261)。 そこで、吸収分割の場合と同様に、資産負債を切り出す際、新設分割設立会社の株主資本の内訳については、分割会社の株主資本の各項目の金額の範囲内で、自由に決めることができると解される。その結果、例えば分割会社が減資、準備金の減少を行わない場合、「その他利益剰余金」のみを変動させる処理も可能となる。 なお、50条の新設分割では、38条の吸収分割と同様に、分割会社の資本金額や準備金額が変動する際には、債権者保護手続が必要となる(50条②)。 3 新設分割のまとめ 会計計算規則49条と50条の概要をまとめると、次のとおりである。 (了)

#No. 45(掲載号)
#安原 徹
2013/11/21

活力ある会社を作る「社内ルール」の作り方 【第7回】「企業文化を就業規則に落とし込んだ会社の実例②」

活力ある会社を作る 「社内ルール」の作り方 【第7回】 「企業文化を就業規則に落とし込んだ会社の実例②」   特定社会保険労務士 下田 直人   今回も前回に引き続き、企業文化を就業規則に落とし込んだ会社の事例を見ていきたい。 〈有給休暇が無制限の会社〉 今回もアメリカの企業の事例から入っていこう。 この事例は、会社が大切にしている文化や価値観を直接ルールに落とし込んだものではないが、文化や価値観への“こだわり”が徹底しているからこそ導入できたルールの一例として見てほしい。 シカゴにある社員100名程度のイベント会社では、有給休暇の取得日数に制限がない。 また、管理もされていない。 つまりこの会社では、有給休暇を何日とっても構わないし、公式に誰が何日とったか記録しているものも存在しないのだ。 一見、このように見ると自由でのびのびした会社であり、従業員が休みを気ままに好き放題とっているようなイメージを持つかもしれない。 しかし、実際は異なる。 この会社では、コア・バリュー経営を大事にし、それに沿った採用を徹底している。 コア・バリューに沿った採用を実践すると、そもそも会社や仕事そのものが好きな人ばかりの組織になる。つまり、会社を休んで家でのんびりする人はいない。 仕事をさぼるよりも、会社に来て仕事をした方が楽しいと考える人ばかりの集団になるのだ。 このため有給休暇を無制限としても、結局のところ、皆が際限なく有給休暇をとるようなことにはならない。 彼らが有給休暇をとるのは、せいぜいプロジェクトが終わった後など、計画的にかつ、周囲に気を配りながら数日間とる程度だ。 だから、管理などしなくても問題ないのである。 ただし、これはどの会社でも応用できるわけではない。 もし、コア・バリューに沿った採用が行われていない会社で、同様に有給休暇の日数の制限を設けなかった場合、おそらく、各自が勝手気ままにたくさん有給休暇を取得し、組織が機能しなくなってしまうだろう。 コア・バリューが明確だからこそ、このような制度が機能し、また、このような制度を構築することが、従業員を信頼している証となり、労使間の絆をより強固にし、プラスのスパイラルを構築するのである。   〈ライフプラン支援一時金がある会社〉 次に日本の企業の事例を見てみよう。 従業員数20名強のこの会社では、従業員に子供が生まれた時や、子供が学校に入学した時などに、一時金を出す。 出産時に数万円程度の祝い金を出している会社は多いと思うが、この会社では、出産時に30万円、小学校入学時に30万円など、高額な一時金を支給している。 その意図は、企業文化との関連性が強い。 この会社は、従業員のみならず、その家族までも「ひとつの家族」として大切に見るという文化を持っている。 出産や進学はめでたいことであるし、また、そのような時期は何かと費用が生じるわけだが、従業員の慶事を祝い、費用の一部を援助することで、その文化を体現しているのだ。 この会社においては、当初、毎月の給与において家族手当を支払うことを計画していたのだが、上記の会社文化とのリンクを考えたとき、一時金の方がより明確に企業文化を体現できるとのことで、このような制度になった。   〈夜食が出る会社〉 とある従業員数50名程度の企業では、毎週水曜日に残業で会社に残る従業員がいる場合は、会社から夜食が支給され、従業員は無料でそれを食べることができる。 ただし、この会社の夜食制度には「一定のルール」がある。 それは、「夜食は決まった時間に、会議室で一斉に食べる」というルールだ。 つまり、支給された夜食は、好きな時間に食べたり、自分の机の上で食べることはできない。 なぜなら、夜食のねらいはチームワークの醸成、従業員間のコミュニケーションの充実にあるからだ。 したがって、同じ場所で一緒に食べることが重要なのである。 そのため、食事の内容にも気が使われている。 基本的には軽食なのだが、おにぎりやピザのように、気楽に手に取って自分の机に持って帰ることができるようなメニューは、基本的には選ばれない。 読者の中には、「なぜ夜食なのか?」「昼食でもいいのでは?」と思われる方もおられるだろう。 これには、理由がある。 人は、同じような目的や境遇にいる人とは仲間意識を持ちやすい。 「残業して仕事を仕上げる」という共通の目標に向かう人たちは、一体感を作りやすい。 つまり、残業中に一息ついて食事を取ることにより、一体感を強めることを目的としているのだ。そして一部の従業員の中で一体感が高まることにより、それが徐々に会社全体へ広まっていくことを考えている。 *   *   * 以上2回にわたって、様々な会社の事例を見てきた。 どの会社も、単なる思いつきでその制度を始めたのではなく、会社の価値観や文化をより強固なものにするために必要な制度として考え出された制度である。 つまり、どれも価値観や文化が植えつくよう戦略的に検討され、作り出されたものなのである。 前回も申し上げたが、このような制度の表面だけを見て、「こんな制度、ウチでは無理」という発想にはならないでほしい。 まずは、価値観、文化がありきであって、その後に、その文化をより強固なものにするルールとしてどのような内容が必要なのかを考えていただきたい。 また、奇をてらったルールを作る必要もないのである。 (了)

#No. 45(掲載号)
#下田 直人
2013/11/21

年俸制と裁量労働制  【第3回】「2種類の裁量労働制の特徴」

年俸制と裁量労働制 【第3回】 「2種類の裁量労働制の特徴」   なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美   裁量労働制とは、業務の遂行手段や時間配分について、使用者が細かく指示するのではなく、労働者本人の裁量に任せ、実際の労働時間数とは関係なく、労使の合意で定めた労働時間数を働いたものとみなす制度である。 裁量労働制には、「専門業務型」と「企画業務型」という2つの種類がある。   専門業務型裁量労働制 専門業務型裁量労働制は、業務の性質上その遂行方法を労働者の大幅な裁量に委ねる必要性があるため、業務遂行の手段及び時間配分につき具体的指示をすることが困難な一定の専門的業務に適用されるもので、現在19種類の業務に適用されている。 この制度により労働時間のみなし計算がされる場合の割増賃金の額は、あくまでもみなし時間を基準に判断されるが、みなし時間制は、労働基準法第4章の労働時間の計算に関してのみ用いられるものであり、みなしにより計算された時間が法定労働時間を超えたり、深夜業に該当する場合には、割増賃金が必要となる。 また、休憩や休日に関する規定も適用されるため、少なくとも深夜労働や休日労働に対して、使用者は割増賃金を支払う必要がある(S63.1.1基発1号)。   企画業務型裁量労働制 企画業務型裁量労働制は、企業の中枢部門で企画立案などの業務を自律的に行っているホワイトカラー労働者について、みなし制による労働時間の計算を認めるものである。 専門業務型裁量労働制の対象者と同様に、仕事の質や成果により処遇することが妥当であることを根拠としたものであるが、労使委員会における5分の4以上の多数決による決議を要するなど、専門業務型に比べて要件は厳格になっている。 企画業務型裁量労働制の対象業務に該当するどうかは個々の労働者ごとに判断され、一部門の全業務が対象業務となるものではない。 対象業務は、事業の運営に関し、企画・立案・調査・分析の各業務が相互に関連し合う作業を行う業務であることとされ、対象となる労働者としては、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験を持ち、対象業務を適切に遂行しうる知識・経験を持つ者が想定されている。   導入の条件 導入の条件は、専門業務型の場合には労使協定の締結、企画業務の場合には労使同数で構成された労使委員会における5分の4以上の賛成による決議が必要とされる。 労使協定の当事者となったり労働者代表委員を指名できるのは、労働者の過半数を組織する労働組合か、労働者の過半数により選出された労働者代表だけである。さらに、企画業務型の場合には労働者本人の同意が求められる。 *   *   * 次回は、年俸制と裁量労働制での運用上のポイントについてお伝えしたい。 (了)

#No. 45(掲載号)
#成澤 紀美
2013/11/21

常識としてのビジネス法律 【第4回】「印章に関する法律知識」

常識としてのビジネス法律 【第4回】 「印章に関する法律知識」   弁護士 矢野 千秋   1 署名と記名はどう違うか 「署名」とは、狭義では自署、すなわち自己の名称を手書きすることを言う。広義では記名捺印も含むが、特に断らない限り一般的には狭義で使われる。 「筆跡」という本人特有の痕跡により、本人確認(文書署名者と、ある人物が同一の人間であることを認定すること。以下、略して「同定」という)を可能とする手段である。 また「記名」とは、署名以外の方法、ゴム印やスタンプ、PCのプリントアウト、印刷等何らかの方法で名称を表すことを指す。   2 なぜ記名には捺印が必要か 上記のごとく記名はゴム印等でもよいとされているため、記名のみでは本人特有の痕跡が残らず、またその文書を本当に本人が作成したかどうかが明らかでない。 したがって、「捺印」を併せて用いることにより、「印影」という本人特有の痕跡により同定する必要がある。 そこで、手形のように署名(広義)を要件とする文書などでは、記名捺印も法定の要件としている(手形法1条、75条、82条)。通常、銀行が銀行届出印と照合して手形を決済するためである。 すなわち、当座預金者であるAと、例えば約束手形上の振出人Aとを印影により同定して、決済するか否かを決定しているわけである。   3 実印と認印はどう違うか 「実印」とは後述するように、公的に届け出た印章を指し、「認印」とはそれ以外の印章を指す。 実印を要すると法定されている場合を除き、法的効力には差がない。つまり、認印でも本人が押したものであることを証明できれば、本人に効力が及ぶ。 しかし、その印章が本人のものであるかどうか、本人が押したものであるかどうか等が争われたときに、認印では証明力が弱い。 実印なら、公的な届出が必要になるなど、本人固有のものであるから同定してよいし、いざという場合に同定されるなら厳重に保管するであろうから、実印が押してあれば本人が押したものと推定される。 結局、実印は本人特有の痕跡が濃厚であり、認印は希薄だからである。   4 個人の実印と会社の実印 ① 個人 個人が印章を印鑑登録するには、住民登録してある市区町村役場か出張所に登録しようとする印章を持参して、「印鑑登録申請書」に必要事項を記入して申請する。 申請の際、本人確認ができるものを持参すれば、印鑑登録証明書を交付してもらえる。 氏名を表していないものや氏名以外の事項が入っているもの、判読困難なものや外枠や文字が切れているものは登録できない。 ② 会社 会社の場合は、会社の本店所在地を管轄する法務局に設立登記をする際に印鑑も届け出ることになっており、この印章が代表者印となる。 代表者印は「会社の実印」とも言えるものであり、極めて重要な印章である。 代表者印の印鑑登録証明書は管轄法務局から取ることができる。 通常は二重の円内に「〇〇株式会社(外円内)代表取締役印(内円内)」と刻印している例が多いが、会社名や代表取締役等の記載を入れる必要はない。 なお、あまりに複雑な文字や簡単過ぎるものは登録できない。   5 実印を押すときの注意 実印が必要な書類にのみ押捺すること。つまり、不用意に捨て印は押さない。後日、文書内容が訂正されてしまう危険性があるからである。 また、カスレや欠けがないように、明瞭に押すこと。かすれたときなどは、その陰影を二重線やバツ印で消し、新たに押し直す。 取扱いに注意し、使用後は直ちに保管場所に戻す。悪用されたような場合にも本人が押したものと推定されてしまうからである。   6 印鑑証明書の提出期限と保存方法 例えば法務局や公証役場などにおけるように、法律上印鑑証明書を必要とされる場合は、3ヶ月以内のものを要求されることが多い。 したがって、そのような短期間に同一当事者間で再度印鑑証明書が必要なような場合が生ずる可能性は低いので、余分に渡しても意味がないことが多く、かつ、乱用される危険性もある。 この「3ヶ月」といった期間は、あくまで当該機関に対する印鑑証明書の提出使用期限であり、印鑑証明書自体の有効期間ではない。 また、実印と印鑑登録証明書・印鑑登録証(カード)は別々に保管する。全部が盗難などに遭うと極めて危険だからである。 実印は印の部分が欠けると使用不可能(登記所などは受け付けてくれなくなる)となるので、注意深く取り扱い、机の上に放置したりせず、できればケースに入れて保管すべきである。 以上により、不用意に実印を他人に預けたり、印鑑登録証や印鑑登録証明書を渡したりせず、印鑑証明書を要求されたときは必ずその必要な理由を聞き、必要通数だけを渡すようにする。   7 印影の種類 ① 契印とは 「契印」とは、1通の文書が2枚以上にわたるとき、その文書が一体のものであり、かつ、その順序に綴られていることを明らかにするために、文書の綴り目に両ページにまたがって押捺する印影である。 これにより、文書一部の抜き取り、差し替え等を防止できる。 数ページの文書を帯で糊付けする袋綴じの場合は、裏表紙と帯にまたがって1箇所契印すれば足りる。大きい文房具屋などでは、袋に当たるものを製本テープとして販売している。 契印に使用する印章は、その文書の署名部分に押捺する印章を使う。これは意思表示、すなわち文書の意味内容に関わるからである。 ② 訂正印とは 「訂正印」とは、文書の字句を訂正する際に押捺する印影である。 文書の署名部分に押捺した印章と同じ印章を使い、署名者が数名いるときは全員の押捺が必要である。これも文書の意味内容に関わるからである。 訂正部分を2本線で消し、横書きならその上、縦書きなら右横に訂正後の字句を記入し、訂正印は訂正箇所に押捺するか、欄外に「〇字削除」「〇字加入」等と記載してそこに押捺する。 ③ 捨て印とは 「捨て印」とは、後日の文書内容の訂正に備え、あらかじめ欄外に文書の署名部分に押捺した印章と同じ印章を使って押捺しておく印影である。 上記の訂正印の“事前版”である。 ある程度の範囲の訂正が自由にできることから、便利ではあるが危険でもあるので、乱用は謹むべきである。 ④ 止め印とは 「止め印」とは、文書の終了を示すために、文書末尾に押捺する印影である。 後日の不正な書き込みを防止するもので、印章でなく「以下余白」等と記入してもよい。ただし、あまり使われていない。 ⑤ 消印とは 「消印」とは、収入印紙の再使用を防ぐために、印紙と台紙にまたがって押捺する印影である。 使用する印章は通常文書の署名部分に押捺した印章と同じ印章を使い、また印章でなく署名でもよい。 消印を忘れると、印紙税に加えて印紙税額と同額の過怠税が課せられる。 ⑥ 割印とは 「割印」とは、2通以上の独立した文書がある際に、その文書が同一であるとか、関連があることを示すために、それらの文書にまたがって押捺する印影である。 割印は、必ずしも文書の署名部分に押捺した印章と同じ印章を使わなくともよい。 単に文書間の関連性を示すもので、文書の意味内容に関わらないからである。   8 印を間違って押した場合の訂正方法 ボールペンなどで間違った印影に2本線を引いたり、バツ印をしたりし、再度正しく押し直す。 方式は自由なので、要は「その印影を使用しない」という当事者の意思が表れていればよい。   9 拇印や書き判の効力 結局、印章は本人特有の痕跡を残すために使用されているものである。 であれば指紋や筆跡等も本人特有の痕跡なのであるから、真実本人が押したり、書いたりしたことが証明可能であり、その結果本人に効力が及ぶことになる。その意味では拇印や書き判も、記名捺印の捺印に当たるとも言える。 しかし、方式が厳重である手形などでは、これらは捺印とは認められない。つまり、銀行が決済しないという意味である。古い判例ではあるが、法的には拇印でも有効であるとした判例がある。   10 会社印の種類とその効力 ① 社長印(代表者印) 俗に「丸印」とも呼ばれ、最も重要な会社の印章であり、登記申請、株券発行、重要な契約の締結等に必要である。 その意味では会社の実印に当たる。 通常二重の同心円になっており、小円の中に「代表取締役之印」と彫られ、大円と小円間の環状の部分に「〇〇株式会社」などと彫られている。 紛失・破損の恐れもあるので、不用意な使用や不注意な保管は厳に謹むべきである。 ② 社印 俗に「角印」とも呼ばれ、通常「〇〇株式会社之印」等と社名のみが刻印されている。 請求書や領収書等、会社外部に対して発行する文書に、社名に重ねて押印して用いられる。 一見大きくて重要な印章に思えるが、単なる認印の一種にすぎず、この印章を押捺していなくても文書の効力に変わりはない。 したがって代表者印を法的に要求されているときに、社印を押捺しても無効である。 ただし、社印はその会社固有のものであるので、その会社の内部者が押したという推定はかなり強力に働くであろう。 ③ 担当者印 担当者が職務上使用する印章である。したがって、真実担当権限のある者が押捺したものであれば、法的に会社への法効果は及ぶ(担当権限の問題)。 しかし、あくまで認印の一種であるから、担当権限のある者の印章であるか否かが争われれば、証明に困難がある場合もある(同定の問題)。 ④ 銀行印 取引銀行に届け出た印章のことであり、銀行と取引をする際に必要となる。預金の払戻し、手形小切手の振出しは、この印章で行わないと支払ってもらえない。 要は、銀行がこの印章の印影で本人の同定をしているからである。 上記より、銀行印は代表者印とほぼ同等の重要性を有しており、保管等についても代表者印と同等の注意を払うべきである。 その重要性から悪用されては危険であるので、特段の必要性もないのであれば危険を2倍にすることもなく、代表者印を銀行印として届け出て兼用している会社も多い。 (了)

#No. 45(掲載号)
#矢野 千秋
2013/11/21

〔税理士・会計士が知っておくべき〕情報システムと情報セキュリティ 【第9回】「ERP(統合型システム)入門」

〔税理士・会計士が知っておくべき〕 情報システムと情報セキュリティ 【第9回】 「ERP(統合型システム)入門」   公認会計士・税理士 小田 恭彦   はじめに 会計システムを含む業務システムのスタイルの一つとして、『ERP』がある。 ERPという言葉自体はかなり定着してきたが、具体的な内容については統一的な定義がされていないのが現状である。 そこで今回は、ERP(統合型システム)について考えたい。   ERPとは ERPとは、“Enterprise Resource Planning”の略であり、直訳すれば、「企業資源計画」である。 そもそもERPとは何なのか? あるWebサイトでは、以下のように定義されている。 (IT用語辞典 e-Words より引用) 筆者も上記定義と同じ理解をしている。つまり、ERPという言葉自体は手法や概念であるが、一般的には「ERP=統合型業務パッケージシステム」という理解である。   ERPの歴史 日本にERP(=統合型業務パッケージ。以下同じ)が導入され始めたのは、1990年代である。 ちょうどオフコンの時代からパソコンを使ったクライアントサーバ型の時代へ移行していく時期と重なり、日本の大企業による欧米製ERPの導入が始まった。それを追うように、国内の各メーカーから日本製のERP製品も発売されるようになった。 2000年代に入ると欧米製品を中心に製品の統合や淘汰が行われるようになり、現在のERPは成熟と定着の時期を迎えていると思われる。   ERPの特徴(要素) 上述のように、ERPとは統合型業務パッケージであり、その要素としては、以下の3つに分解できると考えられる。 以下、それぞれについて考えてみたい。 (1) 業務システムである 「業務システム」とは、一般的な企業の日々の業務活動、具体的には、販売業務、調達業務、生産業務、設備保全業務、会計業務、財務管理業務、人事管理業務、給与計算業務、資産・リース業務などの活動を支援するシステムであり、「業務系システム」と呼ぶこともある。 ERPの場合、これら業務の単品のシステムではなく、複数の業務が1つのシステムの中に組み込まれているシステムである。 組み込む業務領域に関する定義や範囲は明確ではなく、上述のすべてを1つのシステムの中に組み込んでいる製品もあれば、会計業務、財務(債権債務)管理業務、資産・リース業務の3つを1つのシステムに組み込んだものをERPとして販売している場合もある。 単体システムでない限りは、ERPという表現を使っている製品が多く見受けられる。 なお、これら1つ1つの業務に対応するシステムを「モジュール」と呼ぶことが多い。 (2) 統合型システムである 統合型システムの「統合」とは、以下の3点と考えられる。 「① データの統合」とは、各業務(モジュール)でのデータの連携・整合性が担保されていることをいう。 例えば、販売モジュールの売上データと会計システムの売上仕訳データの連携や整合性、固定資産モジュールの固定資産取得データと財務(債務)管理モジュールの債務データの連携・整合性などである。 「② マスタの統合」とは、ERPの各モジュールが使用するマスタ(顧客、仕入先、製品、部門、勘定、担当者など)について、すべてのモジュールがこれを共通する仕組みになっていることをいう。 例えば、販売モジュールの顧客コードと財務(債権)管理モジュールの売掛先コード、販売モジュールの自社担当者コードと人事モジュールの社員マスタなどである。 よってERPの中では、「マスタ二重管理」「マスタ同期管理」は考えなくてよい。 「③ システム管理の統合」とは、ERPを利用するユーザのID情報、権限範囲、履歴管理などがモジュール横断的に統合管理されていることをいう。 (3) パッケージシステムである 「パッケージシステム」とは、既製品であり、基本的には顧客固有ニーズに対するカスタマイズはしない(できない)システムである。 対義語としては、「フルスクラッチシステム」「個別開発システム」などといった表現があり、いわゆる顧客ニーズに合わせて個別専用開発したシステムのことをいう。 実際にはパッケージシステムであっても、部分的に顧客固有ニーズに合わせてカスタマイズを行うこともあり、スクラッチシステムと言いながら、過去に開発したモジュールの部分回収及び複数モジュールの統合によりシステムを組み上げる場合もある。 〈ERP(統合型システム)のイメージ〉   ERPのメリット ERP導入のメリットは多くあるが、そのうち主なものは以下の2点である。 (1) 企業データの蓄積 販売、購買、生産、財務など、企業のさまざまな業務活動に関する情報がERPという1つシステムに蓄積されるため、情報の集計や分析作業を柔軟かつ効率的に行うことができる。ERPにはこうした集計や分析を行うモジュールが組み込まれている場合も多い。冒頭に述べたERPの本来の意味である「企業資源計画」という概念が、このように統合型システムで実現されることになる。 (2) メンテナンスの効率化 ERPでは1つのシステムの中でデータの整合性(整合性チェック不要)、マスタ整合性(二重入力不要)、ユーザ一元管理(IDやパスワードの管理も1つでよい)など、システム管理に関する業務を効率的に行うことができる。 (了)

#No. 45(掲載号)
#小田 恭彦
2013/11/21

〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第21回】「未来の成長のために 今なすべきこと」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第21回】 「未来の成長のために 今なすべきこと」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   1 ダイエットでは輝けない 2010年度診療報酬改定以降、大規模病院を中心とした経営状況は大幅に改善されている。 しかし、主に中小規模の病院については、経営が相変わらず厳しいところも少なくないのが現実である。 厳しい経営状況を乗り切るために、多くの病院では経営の改善に、懸命に取り組んでいる。 改善こそが経営であると捉える経営者も少なくない。 改善にも大きく分けて2パターンある。 1つは医療と直接関わらない改善であり、例えば清掃委託費等の低減など、事務の力によって実現するものである。 これらは質を落とさない範囲でスリム化することが必要である。 もう1つは医療と直接関わる改善であり、例えば人件費や医薬品費の低減等など、効果は比較的見込めるが実現が難しいものである。 病院では、人件費及び医薬品材料費のウェイトが高い。そこで、ここにメスを入れようとする経営者は少なくなく、短期的な経済性の改善だけを考えれば最も効果的であるとも考えられる。 しかし、人件費を削減することは人を減らすことにつながり、「人材が支える」医療機関の存在価値が低くなる可能性も高い。設備などの構造だけがあっても、医療提供を行うことはできない。 また、医薬品材料費に関しても、医薬品の適正使用の推進は大切なことである。 しかし、経営層からの医薬品の使用に関する過度な介入は、現場の医師のモチベーションを下げることも少なくない。 つまり、ダイエットをしても医療機関が良くなることは難しく、その場凌ぎの対処療法にしかならない。 過度なダイエットは、リバウンドにつながることも多いのである。   2 何をすれば輝けるか 医療機関がその存在を輝かせるためには、地域の中で特色のある差別的な立ち位置を築く必要がある。つまり、自院のポジショニングを明確化することである。 地域の中で存在感のある医療機関は必ず存続し、成長できる潜在能力を有している。 地域の競争状況等の医療提供体制によっても異なるが、差別的なポジショニングを構築するためには、「何をしないか」を明確化することである。つまり、限られた医療資源を分散させるのではなく、集約化し、突出した領域を創ることが求められている。 ポジショニングは、地域内における立ち位置であり、これが大切であることは誰でも容易に理解できるはずである。 しかし、差別的なポジショニングは、“掛け声”だけで築くことはできない。 医療は患者の命を預かるものであり、質が高くなければ自院が行きたい方向にたどり着くことはできない。 今日、DPCデータなどで地域の医療提供状況を可視化することは容易にできる。 病院全体だけでなく、診療領域別に戦略を策定することが期待される(下図参照)。 外傷のポジショニング 西部医療圏     3 「医療機関を経営する」ということ 医療機関の経営というと、お金儲けを意味し、収支の改善をすることであると捉えられることもある。 もちろん無駄は省くべきであるし、経済性の改善が重要であることを否定することはできない。 経済性の改善は医療機関の目的ではないが、存在するための最低条件といえる。 しかし、医療機関の経営者に求められることは、医療の質を高めるための積極的な取組みをすることであると、筆者は考えている。 その質を高めるためには、優秀な医師等のスタッフを採用してくればいいと多くの方は考えるであろう。 もちろん、優秀なスタッフは必要不可欠であるし、採用できるならばそれに越したことはない。 しかし、限られた医療資源の中で、いかに結果を出すかを最優先にして考える方が現実的であろう。 そのためには、診療プロセスへ介入しなければならない。 「診療プロセスへの介入」とは、医師の行動を制約するものではなく、医師やその他のスタッフと共に、客観的なデータをもとに、質の向上へ向けて議論をすることを意味する。 例えば、脳梗塞で緊急入院した患者の予後を良くするためには、早期のリハビリテーションが有効である。自院のリハビリテーションの実施状況を可視化し、その改善に向けてスタッフ一丸となって取り組むのである。さらに、質を高めるためには、スタッフが働く仕組みを再構築することが求められる。 やるべきことはわかっているのに、自院の様々な制約により理想の医療が提供できないことが多い。その制約条件を取り除き、皆が患者と向き合える仕組みを創ることが大切である。 とは言っても、今までと同じ給料しかもらえないのに、唐突に行動変容を求められても困惑するスタッフも多いことだろう。 このため、モチベーションを高めるためのあらゆる取組みを行い、職員の成長を促すことも必要である。 医療職は患者と向き合うために生きている。命の尊さを経営陣が強調し、その命を預かるにふさわしい人材となれるよう教育研修体制を充実させることが求められる。   4 未来の成長のために 医療機関の経営は、誰が中心となって担うべきであろうか。 医療機関は地域社会を支える基盤であり、決して誰かのものではない。医療機関の付加価値を最大化でき、医療の質を高められる者こそが経営を預かるべきであろう。それは医師であるかもしれないし、その他の職種かもしれない。法律上の制約は別問題とすれば、経営者にはあらゆる職種がなれる可能性がある。 しかし、医療機関の経営者になるためには、医療について一定の知識がなければならないし、経営戦略や財務に関する知見も兼ね備えていることが求められる。医療のことがわからなければ、医療職と共通言語での円滑なコミュニケーションが図れない。それでは質の向上に共に取り組むことはできない。また、経営に関する知見がなければ、部分最適を志向してしまい、全体最適のマネジメントが実現困難になる可能性が高い。 そうは言っても、この両方を兼ね備えた人材を見つけることは難しい。 ただし、難しいからといって育てようとしなければ、未来を担う人材は存在しえない。まずは中核人材を本気になって育てることである。 未来の大いなる成長の芽を枯らしてしまわないために。 (了)

#No. 45(掲載号)
#井上 貴裕
2013/11/21

顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第24回】「原価管理のKPI(その② 目標コスト改定)」

顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第24回】 「原価管理のKPI (その② 目標コスト改定)」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 今回は、原価管理を構成する複数のKPIから、「目標コスト改定」のサービスレベルを評価するKPIを取り上げる。 原価管理は、製品・商品・サービス1単位あたりの原価標準となる目標コストを設定し、目標コストと実際に発生したコストを比較して原価差異の要因を分析し、実際のコストを目標コストの範囲に抑える活動であるが、その原価管理を有効に行うためには、目標コストが生産販売実態に即して設定されることが求められる。 そこで、今回は、原価管理の目的を達成するために目標コストの適切性を担保する業務プロセスのサービスレベルを評価するKPIを取り上げる。   KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 経済産業省スタンダードでは、原価管理において、会社が担う一般的な機能として、「予算策定」と「実績管理」を挙げている。 「予算策定」は、原価予算策定という機能で構成される。 また「実績管理」は、実績原価算定と実績原価分析という機能で構成される。 今回解説するKPIは、「原価予算策定」と「実績原価分析」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:原価管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   さらに、経済産業省スタンダードでは、「原価予算策定」と「実績原価分析」に関連する業務プロセスを次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:6.1.1参考データ提供〉 〈経済産業省スタンダード:6.1.2製造原価予算検証〉 〈経済産業省スタンダード:6.3.1報告書作成〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   「原価予算策定」は、原価予算策定に必要な参考データを提供する業務プロセスと策定した原価予算の実現可能性を検討する製造原価予算検証という2個の業務プロセスに分かれるが、その概要は、前回既に述べたとおりである。 「実績原価分析」は、原価予算に対応した実績原価データを収集し、予算原価と実績原価の差異の原因を分析する。材料費であれば価格差異、数量差異、配賦差異、労務費であれば賃率差異、作業時間差異、製造間接費であれば操業度差異、能率差異等に分析する。 この過程で、あらかじめ設定した原価標準の前提となる原価要素が、生産販売の基本条件や実態から乖離していることが判明すれば、原価標準を見直すことが求められる。 今回のKPIは、原価管理の目的達成のためには、実績原価分析の結果を原価予算策定に反映し、目標コストを会社の生産販売実態に対応させることが重要である点に着目し、定期的に目標コストの改定を検討する頻度を問うものである。   定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「目標コストの改定」とは、採用する原価計算制度を問わず、予定価格、予定作業能率、予定操業度等に基づきあらかじめ設定した製品・商品・サービス1単位あたりの原価標準を見直すことをさす。 通常、目標コストと実際コストを比較した原価差異の原因となる材料価格の差異、材料消費量の差異、賃率の差異、作業時間の差異、それらと不可分の関係にある予算差異、操業度差異、能率差異の分析を通じて行われる。 そして、会社が良好な能率に基づいてそれらの差異を解消することが期待できればコスト低減活動を継続するが、そのような期待がおぼつかなければ、あらかじめ設定した原価標準の前提となる原価要素が、生産販売の基本条件や実態から乖離している可能性があるため、原価標準を見直すことが求められる。 「改定を検討する頻度」とは、改定の要否を検討する頻度をさし、実際に改定した頻度ではない。 すなわち、実際に目標コストを改定するか否かの判断は、内外事業環境に左右されるので、目標コストを定期的に改定すること自体を評価基準にすることはできない。むしろ、目標コストが内外事業環境から乖離しないように、定期的に改定の要否を検討することが重要であると考えられる。   KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、適正な原価管理と業績評価を行うため、定期的に、内外事業環境に関する情報を考慮し、目標とする原価標準の改定を検討することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 そもそも、原価標準は、一定の内外事業環境の前提に基づく正常な原価の発生額を表す点で、見積の要素が含まれているから、前提が変わり見積の誤りが明白になった場合、早急により確からしい前提に基づいて原価標準を変更しなければ、意味のある原価管理に利用できない。 そして、原価標準が目標コストとして設定された場合、目標コストは、コスト低減に向けた具体的行動の指針となるだけでなく、より厳格な業績評価基準として採用されることもある。目標コストと実際コストを比較した原価差異が異常原因を除去した通常のシナリオで説明できない程度に大きく、目標としての合理性に欠ける場合は、責任会計の観点から、目標コスト自体の改定が求められる。 また、上場企業等で適用が検討されている国際財務報告基準(IFRS)を採用した場合、棚卸資産の原価の測定技法として簡便法である標準原価を適用するためには、その適用結果が実際原価と近似していることが求められる。 これは、多額の原価差異を勘定科目別に売上原価と棚卸資産に配賦して解決すればよいという考え方でなく、実際原価に近似した標準原価の設定を担保することにより、棚卸資産の公正価値の変動を適正に管理する必要性を意味する。 もし会社の中で、このようなKPIを設定した価値判断が共有されず、目標コストの改定の要否を定期的に検討していない場合、どのような事態が想定されるのか。 財務諸表を作成する財務会計の観点からは、原価差異が多額になるため、実態と乖離した配賦の余地が大きくなり、売上原価と棚卸資産の金額が歪む可能性があるだろう。 コストを低減する原価管理の観点からは、会社が良好な能率を前提にしても原価差異を解消することが期待できないにもかかわらず、非現実的な目標を課されたコスト低減活動が際限なく続くことによって、従業員は疲弊し、改善に対する意欲の低下を招くだろう。   顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、原価予算策定と実績原価分析の業務プロセスが組み込まれていることを確認していただきたい。 例えば、経理規程、管理対象部門の予算を閲覧し、当年度の原価標準が設定されていること、原価標準の改定を検討する頻度の日数を確認していただきたい さて、読者の顧問先において、製品・商品・サービス1単位あたりの目標コストの改定を検討する頻度は何日になったであろうか。 *  *  * 次回は、「原価管理」を構成する複数のKPIから、「原価差異分析」に関連する業務プロセスを評価するKPIを取り上げる。 (了)

#No. 45(掲載号)
#島 紀彦
2013/11/21

《速報解説》 「監査基準の改訂について(公開草案)」の解説

《速報解説》 「監査基準の改訂について(公開草案)」の解説   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年11月19日、企業会計審議会監査部会は「監査基準の改訂について(公開草案)」を公表した。 公開草案は、特定の利用者のニーズを満たすべく特別の利用目的に適合した会計の基準に準拠して作成された財務諸表に対して、監査という形で信頼性の担保を求める要請に応えたものであり、従来の適正性に関する意見の表明の形式に加えて、準拠性に関する意見の表明の形式を監査基準に導入するものである。 意見募集期間は平成25年12月19日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正事項 1 現行監査基準における監査の目的 現行監査基準における監査の目的は、経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することである。 主なポイントは次の点である。 2 公開草案で示された特別目的の財務諸表と準拠性に関する意見 公開草案では、特別目的の財務諸表と準拠性に関する意見の表明について述べられている。 特別目的の財務諸表とは、次のような性質をもつ財務諸表である。 準拠性に関する意見とは、上記のような場合に、適正性に関する意見と同程度の保証水準を維持しつつも、その保証範囲等が異なることを踏まえ、財務諸表が当該財務諸表の作成に当たって適用された会計の基準に準拠して作成されているかどうかについて意見を表明するものである。 国際監査基準では、財務諸表の利用者のニーズに応じて、一般目的の財務諸表と特別目的の財務諸表という財務報告の枠組みが分類され、適正性に関する意見と準拠性に関する意見とのいずれかが表明されることが規定されている。   Ⅱ 適用時期等 改訂監査基準は、平成26年4月1日以降に発行する監査報告書から適用することが予定されている。 (了)

#No. 44(掲載号)
#阿部 光成
2013/11/20

《速報解説》 連結財務諸表規則等の改正に関する公開草案(企業結合関係)の解説

《速報解説》 連結財務諸表規則等の改正に関する 公開草案(企業結合関係)の解説   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年11月18日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表した。 公開草案は、平成25年9月13日に改正された「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)及び「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第10号)等を踏まえたものである。 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則、連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則、財務諸表等の監査証明に関する内閣府令、関連するガイドラインなど広範囲な改正が予定されている。 意見募集期間は平成25年12月18日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 1 連結財務諸表規則関係 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部改正(案)では、主な改正事項として次のものが予定されている。   2 適用時期等 ●平成27年4月1日以後に開始する事業年度に係る財務諸表及び同日以後に開始する中間会計期間に係る中間財務諸表並びに同日以後に開始する事業年度に属する四半期累計期間及び四半期会計期間(以下「四半期累計期間等」という)に係る四半期財務諸表について適用する。 ただし、平成26年4月1日以後に開始する事業年度に係る財務諸表及び同日以後に開始する中間会計期間に係る中間財務諸表並びに同日以後に開始する事業年度に属する四半期累計期間等に係る四半期財務諸表について適用できる。 ●平成27年4月1日以後に開始する連結会計年度に係る連結財務諸表及び同日以後に開始する中間連結会計期間に係る中間連結財務諸表並びに同日以後に開始する連結会計年度に属する四半期連結累計期間及び四半期連結会計期間(以下「四半期連結累計期間等」という)に係る四半期連結財務諸表について適用する。 ただし、表示に係る事項(連結財務諸表規則2条、42条など)を除いては、平成26年4月1日以後に開始する連結会計年度に係る連結財務諸表及び同日以後に開始する中間連結会計期間に係る中間連結財務諸表並びに同日以後に開始する連結会計年度に属する四半期連結累計期間等に係る四半期連結財務諸表について適用できる。 (了)

#No. 44(掲載号)
#阿部 光成
2013/11/19

《速報解説》 消費税転嫁対策特別措置法に関する調査(公正取引委員会・中小企業庁)の概要と対応について

《速報解説》 消費税転嫁対策特別措置法に関する調査 (公正取引委員会・中小企業庁)の概要と対応について   弁護士 大東 泰雄   平成25年11月1日、公正取引委員会(以下「公取委」という)と中小企業庁は、それぞれ、多数の企業等に対し、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法(以下「消費税転嫁対策特別措置法」という)が禁止する消費税の転嫁拒否等の行為の有無に関する調査票(以下あわせて「本調査票」という)を一斉に発した。 なお、消費税転嫁対策特別措置法については、拙稿「『消費税転嫁対策特措法』を理解するポイント」(本誌No.25掲載)及び拙著(共著)『Q&A改正消費税の経過措置と転嫁・価格表示の実務』(清文社)を参照されたい。   1 本調査票の概要 公取委の本調査票は「消費税の転嫁拒否等の行為の有無についての調査」、中小企業庁の本調査票は「消費税の転嫁拒否等に関する調査について」と題し、設問の組み立てや書式は異なっているが、いずれも、おおよそ以下のようなものである。   2 本調査への対応 (1) 本調査票の受領への対応 本調査票は、全国の事業者から無作為に抽出して送付されたものであるため、本調査票が送付されてきたこと自体について、心配する必要はない。 しかし、本調査の目的は、中小企業庁の調査書に、 と明記されているとおり、当局が、転嫁拒否等の行為を把握し、本格的な調査を行うための端緒とすることにある。 したがって、公取委及び中小企業庁は、本調査票に対する回答を分析した後、転嫁拒否等の行為について本格的な取締りを開始するものと思われる。 (2) 報告(回答)の検討 本調査票の特徴的な点は、特定供給事業者(売り手)の立場における回答のみを求めるものであり、特定事業者(買い手)の立場からの回答を求めるものではないということである。 そこで、本調査票は企業等に対し回答を義務づけるものではないものの、取引先から転嫁拒否等の行為を受けている場合には、本調査票への回答が当局の調査の端緒となる可能性もあるため、積極的に回答すべきである。 また、取引上優位な地位に立ちやすい大企業であっても、物やサービスを販売する場面では「特定供給事業者」に当たる可能性があるため、報告を検討すべきであろう。 なお、消費税転嫁対策特別措置法は、特定事業者が転嫁拒否等の行為を行っていることを公取委等に知らせたことを理由に、取引の数量を減らしたり、取引を停止したりするなど不利益な取扱いをすること(報復行為)を厳しく禁止しているから(消費税転嫁対策特別措置法3条4号)、「特定事業者」による報復を恐れるべきではない。 (3) 下請法に基づく書面調査との関連 公取委は、平成25年11月8日付けで、下請法に基づき、下請事業者に対する書面調査(マークシート方式のもの)を行っており、消費税転嫁対策特別措置法に関する上記調査票とほぼ同時期に受領した企業も多いと考えられるが、これら2つの調査は、相互に緩やかな関連性はあるものの、別の法律に基づく別の調査であるため、双方に対する回答を検討することが必要である。 (了)  

#No. 44(掲載号)
#大東 泰雄
2013/11/15
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