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林總の管理会計[超]入門講座 【第23回】「管理会計は発展する」

林總の 管理会計[超]入門講座 【第23回】 (最終回) 「管理会計は発展する」   公認会計士 林 總   あらためて考えよう。 なぜ管理会計を学ばないといけないのか?   情報技術が管理会計を発展させる (連載了)

#No. 62(掲載号)
#林 總
2014/03/27

〔会計不正調査報告書を読む〕【第15回】株式会社リソー教育・「不適切な会計処理の疑義に関する第三者委員会調査報告書」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第15回】 株式会社リソー教育・ 「不適切な会計処理の疑義に関する 第三者委員会調査報告書」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】   【株式会社リソー教育の概要】 株式会社リソー教育(以下「リソー教育」という)は、1985年7月設立。TOMASという名称の学習塾を直営方式で経営している。売上高約218億円、従業員数539名(2013年2月期)。本店所在地は東京都豊島区。東証1部上場。 調査の結果、不適切な会計処理が判明したのは、リソー教育の連結子会社、株式会社名門会(以下「名門会」という)と株式会社伸芽会(以下「伸芽会」という)の2社であった。名門会は家庭教師派遣事業を営み、年商約51億円、伸芽会は幼児教育事業を営み、年商約30億円で、いずれも、連結売上高に占める割合が10%を超える重要な子会社である(2013年2月期)。   【報告書のポイント】 1  調査結果により判明した事実 (1) 不適切な会計処理に関する疑義が発覚した経緯 リソー教育は、平成25年11月下旬、証券取引等監視委員会の任意調査を受けたことから、同社及び同社の連結子会社である名門会において、不適切な会計処理が行われた疑いが明らかとなった。 (2) リソー教育における不適切な会計処理の概要 リソー教育における不適切な会計処理の手法は多岐にわたっているが、主な手法は以下の3種類である。調査報告書では、「監査法人の監査を擦り抜けるために、複数の方法を組み合わせたり、過去の方法を応用したりした」売上の不適正計上があったとされている。 ① 「当日欠席」「社員授業」を仮装した売上計上 「当日欠席」とは、授業当日の欠席は、役務の提供があったものとみなされる受講契約を悪用して、授業実施コマ数に応じた売上を計上するものであり、「社員授業」とは、専任講師としての社員が授業を実施したことを仮装して、未消化のコマ数を減らすことにより、売上を計上するものである。 仮装売上に「社員授業」の手法が使われた理由は、社員以外の講師が授業を実施したことを仮装すると、その分、講師料の支払が発生するため、授業実施の偽装には社員である専任講師が利用されたものであろう。 ② 「ご祝儀」を仮装した売上計上 「ご祝儀」とは、生徒が未消化授業を残しながら志望校に合格して退会した場合や、生徒が転居等によって未消化授業が残った場合に、教室の担当者が保護者から明示・黙示による「授業実施と前受金の返還はいずれも不要」との了解を得て、未消化授業相当の売上を計上するものであるが、売上が数字目標に達しないときに、実際には発生していない「ご祝儀」を仮装して、未消化コマ数を減らし、売上計上する不適切な会計処理が行われていた。 ③ 映像講座契約等を利用した不適正な売上計上 契約書の日付を遡及した売上計上、仮契約書に基づく売上計上、契約書の偽造による売上計上など、「映像講座等を使った売上の不適正な計上が大規模かつ組織的に行われたことは明らかである」と報告書は指摘している。 (3) 名門会における不適切な会計処理の概要 名門会の売上計上システムは、契約内容とは無関係に、講師に支払う指導料の算定システムを利用して、その指導料に見合う金額の授業料が入金されているとの仮定に基づいて売上を計上するものであるため、サービス授業(無料)や値引き契約分についても売上が計上される欠陥システムであった。 こうしたシステムの欠陥を利用して、サービス授業の実施により売上目標(ノルマ)の達成を図るとともに、契約を額を増やし、入金額を先取りすることにより、不適正売上の発覚を免れてきた。 (4) 伸芽会における不適切な会計処理の概要 平成25年3月実施予定の春期講習会契約について、実施日を2月と入力することにより、平成25年2月期の売上として64百万円を前倒し計上した。 (5) 不適切な会計処理による影響額について 売上の不適正計上金額は、3社合計で83億8百万円に及ぶ大規模なものであり、調査委員会は、「全社的に不適切な会計処理を行った事案と言っても過言ではなく、上場企業として投資家に対する大きな背信行為であって、企業責任は極めて大きい」と断じている。また、グレーゾーンに属する売上計上の是非については、第三者委員会は、「リソー教育が上場企業であり、投資家に不確実な情報を提供すべきではない」として、会社側が提出した証拠等によって正当なものと認められる場合を除き、不適正なものと推定して処理する方針をとったとしている。   2  調査報告書の特徴 (1) 学習塾運営ビジネスにおける売上計上基準 入塾金と月々の授業料で運営されている学習塾であるが、その一部には、授業料の複数月一括払い、複数年一括払いによる優待と塾生の囲い込みを行っているようである。リソー教育でも数百コマの講習会を一度に契約することも稀ではなかったようで、常に入金が先に立っていることから、コマ数消化を偽装して売上を計上することが横行していた。 本来、会計上の売上高は、契約や入金とは切り離して、授業実施に対応して計上するべきであるが、授業の実施状況と乖離した売上計上が行われていても、入金が先行している、つまり通常の架空売上と異なり、売掛金が滞留しないことから、実態が判明しづらい面があったかもしれない。 (2) 売上至上主義の企業風土 創業者であり、経営者であり、32%の持株を持つ岩佐実次代表取締役会長(以下「岩佐会長」という)の売上に重きを置く経営方針と、これに直結する短期(3ヶ月ごと)の昇給、昇格、降給、降格等の人事制度は、取締役や社員が売上目標達成のためには売上の不適正計上もやむを得ないとの心情に陥らせた。また、当該経営方針のもと、売上に貢献する営業部門(教務企画局)に焦点があてられた結果、同部門による不適正売上をチェックすべき管理部門の立場が弱くなり、内部監査室(在籍者1名は人事部との兼任)も有名無実であったため、不正を防ぐことができなかった。 平成25年2月期の有価証券報告書によると、岩佐会長以外の4名の取締役はいずれも教務企画局の出身であり、ほとんどが局長を経験した後、あるいは局長兼務のまま取締役の地位にある。一方、管理部門担当役員は存在しない。 (3) 監査法人により繰り返された不適切売上の指摘 当社の外部監査は平成19年2月期までは新日本監査法人が担当し、平成20年2月期からは九段監査法人が担当して、現在に至っている。 調査報告書によると、平成17年以降、新日本監査法人から売上計上の否認や過大計上の指摘が繰り返され、「体質改善の試みは見られるものの、実際に改善されるかは不透明な状況にある」との理由で、平成19年2月期の監査終了をもって、監査契約が打ち切られた。 その後を引き継いだ九段監査法人による監査では、教室の往査等により問題を把握した場合には、経営陣に指摘して改善を求めてはいたものの、今回発覚した売上の不適正計上の実態を把握するには至らなかった。 (4) 取締役の責任の有無 岩佐会長について、調査報告書は、「売上の不適正計上に関与し、あるいは認識していたとは認め難い」ことから、「不適切な会計処理の事実を知らなかったことに落ち度があったとまで断じることはできない」としながらも、「一般投資家の信頼を裏切る結果となったことの経営責任は大きいものがある」と述べてはいるが、経営責任の在り方については、「リソー教育の今後の再建を念頭に起きつつ慎重に判断されるべき」とするにとどめた。その後、リソー教育の代表取締役社長らの辞任に伴い、岩佐会長は、代表取締役会長兼社長として、再建を主導することとなった。 調査報告書で、「売上の不適正計上を知りながら黙認」したとされた伊東社長、「自ら指示・命令したことを自認」したとされた赤尾常務取締役、「売上の不適正計上の事実を知りながら黙認・放置したことを自認」したとされた名門会の大森代表取締役社長の3名は、2月14日付で退任した。 (5) 監査役の責任の有無 監査役会の構成メンバーを見ると、常勤監査役は、当社の元専務取締役管理企画局長兼総務部長であり、非常勤監査役(社外監査役)3名のうち1名は公認会計士・税理士であり、他の2名はいずれも国税OBの税理士であった。 不適切な会計処理を防止し、あるいは早期に発見することが強く期待されるメンバー構成であるが、常勤監査役について、調査報告書は、「任務を十分果たしていたとはいえず、その責任は免れない」としたものの、他の3名の非常勤監査役については、「社外監査役としての任務を果たしていなかったとまで言えるかは疑問の残るところである」としている。 (6) 再発防止策 調査報告書は、再発防止策の提言として10項目を挙げているが、根幹となるのは「売上を過度に重視する経営方針の見直し」であろう。 その具体策として、「岩佐会長に比肩しうる見識を持った社外取締役」の受け容れや管理部門の強化、監査役会・内部監査室の充実、人事制度の見直し、外部委員会による再発防止策の進捗状況の検証などが並んでいる。 この提言を受けて、リソー教育は、2月14日付で、再発防止策を発表した。 また、3月4日には、上記(2)組織改革によるコンプライアンス遵守体制の整備の一環として、再発防止委員会を設置し、外部委員に1名の弁護士を迎えることを発表した。しかし、調査報告書で提言されている「外部有識者からなる第三者委員会」ではなく、委員長に岩佐会長兼社長が就き、1名の外部委員以外はすべて社内の委員であることから、実効性には疑問が残るところである。 リソー教育は、「28年連続増収」を標榜してきた。連続増収は、今回発覚した不適正な売上に基づくものであったわけであり、法的責任はともかく、経営責任をとるべきであったはずの岩佐会長兼社長の意識がどのように変わるかが、再発防止のポイントであると言えよう。 (7) 不適切な会計処理が行われていた期間中の資金調達 調査報告書では、「有価証券の偽計募集罪の成否については慎重な判断を要する」と書くにとどまっているが、不適正な売上が計上されている時期に約80億円の資金を市場から調達していたことに対する責任は、法的責任にとどまらない。 「(投資家を)だましてお金を取るようなもので、恥以外の何物でもない」――。日本取引所グループ・斉藤惇CEOは2月25日の定例会見の場で語気を強めた、とする報道もある。 また、3月7日には、証券取引等監視委員会は、「株式会社リソー教育に係る有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について」というリリースを出し、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、約4億円の課徴金納付命令を発出するよう勧告を行った。   3  訂正された有価証券報告書の内容 (1) 訂正額が大きい勘定科目 訂正有価証券報告書に記載された連結貸借対照表を、訂正前のものと比較すると、訂正額が大きいのは以下のとおりである。なお、粉飾決算により、過年度において過大な法人税額等を納付していることから、繰延税金資産の額も大幅に増加しているが、これは割愛した。 (単位:百万円) (2) 訂正内容から読み取れる不正の手口 前受金の大幅な増加は、本来であれば売上計上できない未消化のコマ数を売上としていた処理を正規の形に戻す過程で発生したものと考えられる。現役の塾生を対象にした売上の前倒し・架空計上が44億円余りあったということであろう。 売上返戻等引当金については、これまで独立科目表示がされておらず、かつ、「重要な引当金の計上基準」に記載もないことから、「ご祝儀」売上の発覚に伴う、退会生に対する未消化コマ数の返金に見合うものであることが推察される。 (了)

#No. 62(掲載号)
#米澤 勝
2014/03/27

内定・採用に関する「よくある質問」 【第3回】「採用内定者の研修会場に向かう途中での事故は労災か」

内定・採用に関する「よくある質問」 【第3回】 「採用内定者の研修会場に向かう途中での事故は労災か」   社会保険労務士 菅原 由紀   労災保険とは 会社で働く労働者は、正社員に限らずパート社員でも1日だけのアルバイトであっても、すべて労働者災害補償保険(以下「労災保険」)による補償を受けることができる。 労災保険には、業務上の事由による業務災害のための補償給付と、通勤の事由による通勤災害による給付がある。 それでは、まず「労働者」とはどういう者をいうかということであるが、労働基準法第9条では「事業又は事業所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されている。 労働者災害補償保険法の適用を受けられる「労働者」は、労働基準法の「労働者」と同じと解されている。 そこで内定者は「使用」されていて「賃金」を支払われている者に該当するかが、労災保険の適用を受ける上で問題になってくるのである。   研修は労働時間か 入社前研修(前回参照)について、それへの参加を強制する、あるいは「任意」と言いながらも、参加しないと入社後の処遇に影響があるような場合は、その研修への参加は会社からの命令であり、労務の提供とみられることになり、入社前研修に参加する内定者は「労働者」に該当すると考えられる。 なお、言うまでもなく労働時間については、賃金が支払われることが必要である。   内定者と労災保険 内定者への研修が全くの自由参加であり、その研修に参加していなかったことで内定が取消しになったり、入社後も不利益な取扱いを受けないものであれば、その研修への参加は、労務の提供とは言い難く、労災保険の適用の問題は発生しない。 一方、研修への参加が義務づけられていたり、入社後に必要な知識の習得や技能の訓練のための研修であったり、業務研修等の名目で実際に会社の指揮監督の下業務を行っているような場合は、その研修は実質的には「労働」とみなされ、労災保険の適用の可否が問題となってくる。 しかし一般的には、会社からの要請によって、ほとんどの内定者は特別の事情がない限り入社前研修に参加しているのが実情と思われる。そしてこれらの入社前研修については、「研修」であり「労働」ではないため、賃金を支払わないという取扱いをしている会社も少なくないと考えられる。 だが、現実に賃金が支払われていないからといって、直ちに労災保険が適用されないとは限らない。 「労働時間」かどうかは、会社と内定者間の同意ではなく、実態からみて客観的に労働時間と判断されれば、賃金の支払義務がある「労働時間」とされ、この場合、労災保険も適用されることになるであろう。 なお、労災保険の認定は個別具体的な内容を確認しながら、所轄の労働基準監督署長が行うものである。 実務上は、採用内定者の研修会場に向かう途中での事故に労災が適用されるか否かは、所轄労働基準監督署との協議をしながら判断されることになる。 (連載了)

#No. 62(掲載号)
#菅原 由紀
2014/03/27

現代金融用語の基礎知識 【第4回】「ビットコイン」

現代金融用語の基礎知識 【第4回】 「ビットコイン」   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 ビットコインとは? 最近よく耳にするビットコインとは、インターネット上で流通する仮想通貨であり、その実体は暗号データである。「仮想通貨」と混同しがちな言葉に「電子マネー」があるが、それとは異なる。JR東日本のSuicaなどを思い浮かべるとわかるように、電子マネーは事前あるいは事後に入金する必要があり、あくまで円など実物のある通貨の裏付けを伴うものである。それに対して、ビットコインは、そうした通貨とは別の独立した仮想通貨なのである。   2 どのようにして取得するのか? ビットコインは、通常、その専門取引所で通貨と交換することにより取得できる。電子マネーのように入金するというわけではない。ビットコインを売りたい者と買いたい者が、その専門取引所でビットコインと通貨を交換するのである。   3 自分で探し出すことも? ビットコインは、その専門取引所で通貨と交換して取得するだけでなく、何と自分で探し出すこともできる。どういうことかというと、ビットコインの実体は暗号データなのだが、それを解読することにより自分で探し出すこともできるのである。これは、地中から金を掘り出すことに似ているため、「採掘」とよばれている。   4 価値がなくなるのでは? 「採掘」により自分で探し出すことが可能だとすると、無制限に発行されることになり、価値が低下していき、仕舞いには価値がなくなってしまうのではないかと思われる。しかし、そうではなく、プログラムにより発行量の上限が決まっているのである。そのため、需要が大きくなるほど価値が高まっていくことになる。   5 ビットコインのメリットは? ビットコインが普及している理由は、その便利さのためである。クレジットカードで商品やサービスを販売した場合、売上の数パーセントを手数料としてカード会社に支払わなければならないが、ビットコインの場合、そうした手数料はかからない。また、ネットを通じて世界中に送ることができるが、銀行を介するわけではないため、その場合の手数料もほとんどかからないのである。 【ビットコインの取得と利用】   6 課税は? そうした便利なビットコインだが、それについて考えると、様々な疑問がわいてくる。例えば、課税されるのか否かである。ビットコインの便利さに注目して、それで商品やサービスを販売している事業者が、日本国内にも存在する。しかし、ビットコインにより商品やサービスを販売した場合、税法上の収入に当たり、課税されるのだろうか? また、「採掘」によりビットコインを取得した場合はどうなのだろうか?   7 ビットコインのリスクは? ビットコインには、もちろんリスクもある。通貨のように中央銀行が発行量を調整するわけではないため、価値の変動が激しく、また、政府が管理するものではないため、価値が保障されているわけではなく、無価値になる可能性もある。その専門取引所も、現在のところ政府による規制の対象外のため、そこが破綻すれば、ビットコインを通貨に戻せなくなってしまうのである。   8 投資者保護か自己責任か そうした懸念が現実化したのが、ビットコインの専門取引所「マウントゴックス」を運営するMTGOXの破綻である(平成26年2月28日に民事再生手続申請)。これを受けて、政府はビットコインの規制に乗り出そうとしている。 しかし、その前に、投資者保護のためにしっかりと規制すべきなのか、それとも、規制は行わず、あるいは、行うとしても最低限にして、あくまで投資者の自己責任に委ねるべきなのかについて議論が必要なのではないだろうか。 今回のような事件があると、必ず投資者保護のための規制強化が行われる。そのため、わが国の金融商品に関わる法制度は、投資者を手厚く保護するものになっている。しかし、それが本当に良い方法なのだろうか。そうした方法では、自分で適切な投資判断を行える投資者がいつまで経っても育たないようにも思われるのだが。 (了)

#No. 62(掲載号)
#鈴木 広樹
2014/03/27

神田ジャズバー夜話 「11.ジントニック」

多分、ネットで調べたのだろう。知らない会社からバー向けの雑誌やら酒の通販カタログやらが送られてくる。その内の一冊に東京の有名なバー7店のジントニックを紹介しているものがあった。ジンはゴードンだ、ブードルスだ、ライムじゃなくてレモンだ、いや何も入れない、小さなグラスを使うとか店によってバラバラで、どの店も「これが辿り着いた究極のジントニックです」のようなコメントをしていた。 味覚は人によって嗜好が異なり、体調や気分でも変わる。つまり味については万人共通の絶対的評価が存在しない。それでも繁盛していて、多くの客から「ここのジントニックは最高だね」などと言われれば、店の人も「うちのが究極だ」などと言ってみたくなる。 「ふーん、言い切っちゃえばいいんだ」と思った。 時刻は11時半。1時間前から5人のグループ客が飲んでいる。 今夜の客はこのグループだけだ。カウンター席は5席あるが、話すのが目的らしいので4人掛けのボックス席に椅子を1つ足して5人纏めた。音楽は眠くなるようなジュリー・ロンドンを小さく流している。 話の様子から5人は同じ会社の人たちで、40代の男が部長で30代の男が課長、あとは20代の男が2人と女が1人。店に入ってからずっと部長の独演会が続いている。 課長はトイレへ立った帰りにカウンター席へ移動してしまった。20代の男の1人は座ったまま寝ている。女は口をつけていないモスコミュールが入ったグラスをじっと見つめている。もう1人の20代の男だけが部長の聴衆で、たまに頷いているが、やはり眠そうに見える。それでも部長は話を続ける。まだ誰も一杯目の酒を飲み切っていない。 「マスター、ジントニックください」カウンターで課長が2杯目を注文した。 ジントニックは細長いゾンビグラスに製氷機の角氷を5、6個入れ、ビーフイータージンを45ミリとトニックウォーターを注ぎ、最後に半割のライムのさらに1/5ぐらいをみかんの房みたいに切ったのを入れる。ごく普通のレシピのジントニックだ。 「いかがですか。ごく普通のレシピなんですけど結局これが一番だと思うんです」 「おいしいですねえ」 普通のものでもそれらしく一言添えればうまくなる。それは確かなようだ。 退屈なのでカウンター越しに課長と話を続けた。 「皆さんどちらまで帰るんですか」 「千葉とか埼玉とかバラバラですよ」 「まだ電車あるんですか」 「もう、そろそろヤバイですね。タクシーかな」 「いいですね。タクシー代が出るんですか」 「いや、自腹ですよ」 ここまで普通の声で話していたが、部長がトイレへ立った隙に課長に小声で訊いた。 「もう、帰りたい? 」 課長は黙って頷いた。ボックス席を見ると、寝ている男以外の2人も頷いている。 トイレで水を流す音がして部長が戻ってきた。 「マスター、全員にズブロッカ一杯ずつください」 「すいません、もう閉めますんで」 「えー、そうなんだ。じゃあ、お会計」 「はい、えーと6,100円です」 「ということは、ひとり1,200円でいいや、あと俺出すから」と部長は私に一万円札を差し出した。部下たちはゴソゴソと鞄や財布から千円札と小銭を取り出して部長に渡している。 若い3人が先に出て、釣り銭を確かめた部長も「じゃ、また」と続いた。課長が最後になったので話し掛けた。 「電車、大丈夫? 」 「もう、タクシーですね」 「おごりでもないんだ」 「いつものことです。でもジントニックはおいしかったです」 課長は重そうに膨らんだ鞄を肩に掛け、「次はひとりで来ます」と言い残した。 (了)

#No. 62(掲載号)
#山本 博一
2014/03/27

FAQ(よくある質問)ページを更新しました。

FAQ(よくある質問)ページを更新しました。 株式会社プロフェッションネットワークのFAQ(よくある質問)ページを更新しました。 プロフェッションネットワークの会員サービスについてお知りになりたい方は、ぜひご覧ください。

#Profession Journal 編集部
2014/03/26

開催期限せまる!〔3/24(月)開催セミナー〕【間違えると大変なことになる】広大地評価の実務~誤りやすい論点を裁決事例で確認~[講師:笹岡宏保氏]

〔3/24(月)開催セミナー〕 【間違えると大変なことになる】 広大地評価の実務 ~誤りやすい論点を裁決事例で確認~ 株式会社プロフェッションネットワーク主催のセミナー「【間違えると大変なことになる】広大地評価の実務~誤りやすい論点を裁決事例で確認~」の開催が、3月24日(月)とせまってまいりました。 ※このセミナーの受付は終了しました。 昨年よりご好評をいただいております税理士 笹岡 宏保氏による【1日で理解する】セミナーシリーズ。 今回は土地の評価のうち「広大地の評価」に論点を絞り、通達制定の趣旨、広大地の定義からその解釈運用について、基本的な考え方から既に現実に発生している実務における運用上の論点まで広範囲にわたって検討します。 特に、広大地の評価をめぐる最新の論点別に、当該論点を分析するうえで最適な裁決事例を確認分析することにより、実務上の勘所を養うことを目標とした内容です。 各回のセミナー内容は各々独立して1日単位で内容は完結しており、どの回からでもご受講いただけますので、この機会にぜひご参加ください。

#Profession Journal 編集部
2014/03/20

《速報解説》 「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて(法令解釈通達)」のポイント

 《速報解説》 「消費税法等の施行に伴う 源泉所得税の取扱いについて(法令解釈通達)」のポイント   税理士・社会保険労務士 上前 剛   1 概要 消費税が税率3%で最初に導入されたのが平成元年4月1日、税率5%に引き上げられたのが平成9年4月1日、そしてこの春、平成26年4月1日に8%へ引き上げられる。 これに対応する形で、平成元年1月30日に公表(直法6-1)、平成9年2月26日に改正(課法8-1)された「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて(法令解釈通達)」が、平成26年3月5日付けで改正(課法9-1)された。 上記の通達は、 の3項目からなる。 課法8-1(平成9年改正)と今回の課法9-1を比較すると、「2 非課税限度額の判定」において、課法8-1では“105分の100を乗じた金額”という表現であったものが、課法9-1では“消費税及び地方消費税の額を除いた金額”という表現に改正されている。 上記以外は、課法8-1と課法9-1は全く同一の内容となっているが、改めて実務上の注意点について触れておきたい。   2 実務上の注意点 まず、「1 給与所得等に対する源泉徴収」については、現物給与を支払った場合にその現物の価額に消費税が含まれる場合は、消費税込の金額を給与として源泉徴収する。 例えば、4月1日以降に税抜価格10万円(税込価格10万8,000円)の商品を支給する場合、10万8,000円に対して源泉徴収しなければならない。特に、税抜経理を採用している場合、10万円に対して源泉徴収することのないよう注意が必要である。 次に、「2 非課税限度額の判定」については、所得税法基本通達36-22、36-38の2に定める非課税限度額の適用の判定にあたり、消費税抜の金額で非課税限度額を超えるかどうかの判定をする。 所得税法基本通達36-22は、一定の創業記念品等の評価額が1万円以下の場合には給与課税しないという規定である。つまり、1万円以下かどうかの判定を消費税抜の金額で行うことになる。 例えば、4月1日以降に税抜価格9,500円(税込価格10,260円)の創業記念品を支給する場合、9,500円≦1万円なので非課税となる。 特に、税込経理を採用している場合、10,260円>1万円と判定しないよう注意が必要である。所得税法基本通達36-38の2や直法6-5についても同様である。 最後に、「3 報酬・料金等所得等に対する源泉徴収」については、原則として報酬・料金等の金額に消費税を含めた金額を源泉徴収の対象とし、例外として報酬・料金等の支払いを受ける者からの請求書等において報酬・料金等の金額と消費税が明確に区分されている場合には、報酬・料金等の金額のみを源泉徴収の対象として差し支えないとされる。 (了)

#No. 61(掲載号)
#上前 剛
2014/03/20

【重要】消費税率の変更に伴う各種サービスに関するご案内

【重要】消費税率の変更に伴う各種サービスに関するご案内 株式会社プロフェッションネットワークの各種サービスに関する消費税率引上げへの対応につきましては、こちらをご覧ください。

#Profession Journal 編集部
2014/03/20

Profession Journal No.61が公開されました!

2014年3月20日(木)AM10:30、Profession Journal  No.61 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。 Profession Journalについての詳細はこちら。 バックナンバー一覧はこちら。

#Profession Journal 編集部
2014/03/20
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