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《速報解説》 偽りその他不正の行為により国税を免れた株式会社の役員等の第二次納税義務の整備~令和6年度税制改正大綱~

 《速報解説》 偽りその他不正の行為により国税を免れた株式会社の 役員等の第二次納税義務の整備 ~令和6年度税制改正大綱~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   1 はじめに 与党による令和6年度税制改正大綱(以下「大綱」と略称する)が、12月14日(木)に公表された。 本稿では、大綱で示された「偽りその他不正の行為により国税を免れた株式会社の役員等の第二次納税義務の整備」について、その概要をまとめたい。   2 偽りその他不正の行為により国税を免れた株式会社の役員等の第二次納税義務の整備 まずは大綱で示された改正案(整備内容)について引用する(括弧書き省略。大綱112ページ)。   3 本制度の目的と背景 (1) 現状・課題 こうした整備を必要とする現在の滞納国税を徴収する上での課題として、以下のような事例が考えられる。 (2) 改正案 上記のような課題を解決するために、令和6年度税制改正では、偽りその他不正の行為により国税を免れた法人がその不正行為に係る財産(不正還付金を含む)の移転を行っており、かつ、その国税を納付していない場合には、その法人財産から滞納国税の全額を徴収することができないときに限定した措置として、株式50%を保有するなど、法人を支配し、不正行為を実行し及び移転を受け、又は法人外部へ財産の移転を実行した代表者等に対して、その移転を受けた財産及び移転がされた財産の価額を限度として不正行為により免れた国税の第二次納税義務を課すという整備を行うものである。   4 「偽りその他不正の行為」の意義 ここで国税通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」とは、 ものとされている(広島地方裁判所平成28年9月21日判決、TAINS:Z266-12904、税務訴訟資料第266号-126(順号12904))。   5 「第二次納税義務」の意義 また「第二次納税義務」ついては、次のように解されている(金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂、2021年11月)162ページ)。   6 まとめ 上記を踏まえ、改正案のポイントをまとめると、次のとおりとなる。 なお、本改正は、令和7年1月1日以後に滞納となった一定の国税について適用することとされている(地方団体の徴収金についても同様の措置が講じられる(大綱116ページ))。 (了)

#米澤 勝
2023/12/21

プロフェッションジャーナル No.549が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年12月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.549を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/12/21

日本の企業税制 【第122回】「令和6年度税制改正大綱のあらまし」

日本の企業税制 【第122回】 「令和6年度税制改正大綱のあらまし」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   12月14日(木)に、与党(自由民主党・公明党)による「令和6年度税制改正大綱」が取りまとめられた。 今回の税制改正大綱における中心テーマは「安いニッポン」の解消である。 その観点から、国民の可処分所得の向上(所得税・個人住民税の定額減税、賃上げ税制等)及び生産性・潜在成長力の向上(戦略分野国内生産促進税制、イノベーションボックス税制、ストックオプション税制等)を目指した大胆な措置が講じられる。 一方、今回の大綱では、「賃上げや投資に消極的な企業に大胆な改革を促し、減税措置の実効性を高める観点からも、レベニュー・ニュートラルの観点からも、今後、法人税率の引上げも視野に入れた検討が必要である」と指摘されている。   〇所得税・個人住民税の定額減税 まず可処分所得向上のため、所得税・個人住民税の定額減税(特別控除)が行われる。 給与所得者(給与収入2,000万円超の者を除く)については、令和6年6月という一般的な夏のボーナス支給のタイミングで、本人・配偶者・扶養家族を問わず、1人当たり計4万円(所得税3万円、個人住民税1万円)の定額減税(特別控除)が実施される。この点、源泉徴収義務者の実務対応が課題となる。 また、子育て世帯への支援策として、住宅ローン控除の借入限度額の上乗せ措置や住宅リフォーム税制における子育て対応改修工事の追加が行われる。この2つの措置は急激な住宅価格高騰を踏まえた令和6年限りの措置として先行的に実施した上、子育て世帯に対する生命保険料控除の拡充と合わせ令和7年度税制改正において検討し改めて結論を得ることとされている。   〇賃上げ税制の強化・延長 現行制度では、大企業については、賃上げ率が「3%(控除率15%)」「4%(同25%)」の2段階の設定であったところ、新たに賃上げ率5%と7%のカテゴリを追加するとともに従来の賃上げ率の区分の控除率を見直し、賃上げ率「3%(控除率10%)」「4%(同15%)」「5%(同20%)」「7%(同25%)」の4段階となる。 併せて、プラチナくるみん認定又はプラチナえるぼし認定を取得した企業への上乗せ措置(控除率5%)を新設する。これにより、現行の教育訓練費(増加率を10%(現行20%)以上等に緩和)に係る上乗せ措置(控除率5%)との合計で、控除率10%の上乗せとなる。 また、新たに中堅企業(従業員2,000人以下)のカテゴリを設け、賃上げ率3%(控除率10%)、4%(同25%)という2段階の措置を講じる(「教育訓練費増加率10%以上等」及び「プラチナくるみん・えるぼし3段階目以上」による控除率上乗せ(合計10%)あり)。 さらに中小企業(資本金1億円以下)には、欠損法人が6割を占めることを背景に、控除限度超過額の5年間の繰越控除を設ける(ただし雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超える事業年度に限る)。また「教育訓練費控除率10%以上等」及び「くるみん・えるぼし2段階目以上」による控除率上乗せ(合計15%)も措置される。 その上で、これら制度の適用期限が令和9年3月31日まで3年延長される。   〇戦略分野国内生産促進税制の創設 6年度改正で創設される「戦略分野国内生産促進税制」の対象となる戦略物資は、電動車(EV、FCV、PHEV)、グリーンスチール、グリーンケミカル、SAF、半導体である。 この措置の適用には、令和9年3月31日までに産業競争力強化法に基づく事業適応計画の大臣認定を受けることが前提となる。事業適応計画の認定時から10年間の措置とされ、税額控除額は、対象物資ごとに設定される単位当たりの金額(電動車であれば1台当たり20万円(軽自動車でないEV及びFCVは40万円))に販売量を乗じた金額と、対象物資の取得価額を基礎とした金額とのいずれか少ない金額となる。ただし税額控除額は、生産開始時から8年目は税額控除額の75%、9年目は50%、10年目は25%と逓減する。 また、既存の「デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制」及び「カーボンニュートラル投資促進税制」との合計で当期の法人税額の40%(半導体は20%)が上限とされ、控除限度超過額の繰越期間は4年(半導体は3年)とされる。 なお、①所得金額が前年度より増加、②継続雇用者給与等支給額の対前年度増加率が1%未満、③国内設備投資額が当期の減価償却費の4割以下、のすべてに該当する事業年度においては、本制度は適用できない。   〇イノベーションボックス税制の創設 企業が国内で開発した知的財産権による所得の一定額を控除するイノベーションボックス税制が創設される。本制度の措置期間は7年間(令和7年4月1日~令和14年3月31日)である。他の所得から知的財産権由来の所得を切り出して優遇措置を講じるという「わが国で初の税制」である。 対象となる知的財産権は、令和6年4月1日以後に取得した特許権、ソフトウェア著作権(AIのみ)であり、これらの権利のライセンス(海外事業者からの所得も含む)、譲渡(海外事業者への譲渡除く)による所得の30%が所得控除される。 ただし、その財源確保のため、研究開発税制において、増減試験研究費割合がマイナスの場合について、控除率の段階的引下げ(令和8年、11年、13年)及び税額控除率の下限(現行1%)の撤廃が行われる。   〇ストックオプション税制の拡充・見直し ストックオプション税制については、年間権利行使限度額(現行1,200万円)の引上げ(設立以後5年未満は2,400万円、設立以後5年以上20年未満の未上場又は上場後5年未満は3,600万円)、株式保管委託要件の緩和(発行会社自らが管理)を行う。後者の要件緩和について、対象となる株式は譲渡制限株式に限定されている。   〇中小企業税制の拡充・見直し 中小法人の交際費課税の特例(800万円までの定額控除限度額)が令和9年3月31日まで3年延長されるとともに、交際費から除かれる飲食費の上限(現行:1人当たり5,000円)が1万円に引き上げられる。これは平成18年度税制改正で5,000円基準が創設されて以来の見直しとなる。 事業承継税制の特例措置に係る特例承継計画の提出期限が、令和8年3月31日まで2年延長されることとなった。ただし今回の大綱においても、事業承継税制の特例措置自体の「令和9年12月末までの適用期限については今後とも延長を行わない」とされている。 地方税では、法人事業税の外形標準課税の適用対象が見直される。現行の資本金1億円超の法人との基準は維持されるが、外形標準課税を逃れるために減資をして資本金の減少額を資本剰余金に計上する行為を今後防止する観点から、前事業年度において外形標準課税の対象であった法人で、当該事業年度末に「資本金+資本剰余金」の合計額が10億円超のものは、資本金1億円以下であっても、外形標準課税の対象とされる(令和7年4月1日以後開始事業年度から適用)。したがって、すでに減資している法人については影響がない。 一方、「資本金及び資本剰余金」の合計額が50億円超の法人を親法人とする企業グループにおける100%子法人(「資本金及び資本剰余金」の合計額が2億円以下の法人を除く)については、外形標準課税の対象とされる(令和8年4月1日以後開始事業年度から適用)。 (了)

#No. 549(掲載号)
#小畑 良晴
2023/12/21

相続税の実務問答 【第90回】「第一次相続と第二次相続の相続人が1人である場合の第一次相続における配偶者の税額軽減等の適用」

相続税の実務問答 【第90回】 「第一次相続と第二次相続の相続人が1人である場合の第一次相続における配偶者の税額軽減等の適用」   税理士 梶野 研二   [答] お父様及びお母様の相続人はあなた1人となってしまいましたから、もはやお父様の遺産について分割協議をすることはできません。しかしながら、お父様の遺産について分割協議ができないということは、お父様の遺産である各財産は、法定相続分の割合であなたとお母様の共有財産であることが確定したということです。このため、お母様及びあなたに帰属することとなったA建物の敷地の各共有持分(各2分の1)については、お母様はお父様の配偶者であることから、あなたはお父様の同居親族であったことから小規模宅地等の特例の適用が可能になります。また、お母様については配偶者の税額軽減の規定を適用できることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 第一次相続に係る相続人と第二次相続に係る相続人が同一の1人の者である場合の遺産分割 第一次相続の遺産の分割が未了のまま第一次相続の相続人(第一次相続人)が亡くなってしまい(第二次相続)、第一次相続人のうち第二次相続の開始時において生存している者と第二次相続に係る相続人(第二次相続人)が同一の者で、その者以外に第一次相続及び第二次相続に係る相続人がおらず、かつ、両相続に係る包括受遺者がいない場合には、前回(【第89回】「第一次相続と第二次相続の相続人が1人となった場合の遺産分割と相続税」)説明しましたとおり、その1人の者によって、第一次相続の被相続人の遺産を分割することはできず、第一次相続人に法定相続分の割合で確定的に帰属することとなります。   2 配偶者の税額軽減及び小規模宅地等の特例の適用 (1) 配偶者の税額軽減の適用 相続税法は、被相続人の配偶者がその被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した場合には、その配偶者の納付すべき相続税額の計算上、相続又は遺贈により取得した財産の価額のうち配偶者の法定相続分相当額又は1億6,000万円までの部分に対応する相続税額を控除する旨を定めています(相法19の2①)。この規定を「配偶者の税額軽減の規定」といいます。 ただし、相続税の申告書の提出期限までに、遺産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によって分割されていない場合には、その分割されていない財産については、配偶者が「相続又は遺贈により取得した財産」には含まれません(相法19の2②)。ただし、その分割されていない財産が相続税の申告期限から3年以内(この期間が経過するまでの間に遺産が分割されなかったことについて、相続又は遺贈に関して訴えの提起がされたことその他の一定のやむを得ない事情がある場合において、税務署長の承認を受けたときは、財産の分割ができることとなった日の翌日から4ヶ月以内)に分割された場合には、その分割された財産については、更正の請求等により配偶者の税額軽減の規定を適用することができることとされています(相法19の2②ただし書き、③)。 なお、配偶者の税額軽減の規定の適用の対象となる「相続又は遺贈により取得した財産」としては、次のものが該当します(相基通19の2-4)。 (注) ②から⑥は、遺産分割をするまでもなく配偶者に帰属している財産です。 (2) 小規模宅地等の特例の適用 租税特別措置法第69条の4第1項は、被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等を相続又は遺贈により取得した被相続人の親族が一定の要件を満たす場合に、当該事業の用又は居住の用に供されていた宅地等について、相続税の課税価格に算入する価額を減額する旨を定めています(措法69の4①②③)。この特例を「小規模宅地等の特例」といいます。 しかしながら、相続税の申告書の提出期限までに、共同相続人又は包括受遺者によって分割されていない宅地等については、この特例を適用することはできません(措法69の4④)。ただし、分割されていない宅地等が相続税の申告期限から3年以内(この期間が経過するまでの間に遺産が分割されなかったことについて、相続又は遺贈に関して訴えの提起がされたことその他の一定のやむを得ない事情がある場合において、税務署長の承認を受けたときは、財産の分割ができることとなった日の翌日から4ヶ月以内)に分割された場合には、配偶者の税額軽減の規定の場合と同様にその分割された宅地等について更正の請求等によりこの特例を適用することができます。 なお、遺産分割をするまでもなく特定の親族が相続又は遺贈により確定的に取得することとなる宅地等(上記2の(1)の枠内の②、③及び④のようなケース)については、小規模宅地等の特例の適用対象となります。   3 第一次相続人と第二次相続人が同一の1人である場合の配偶者の税額軽減の規定等の適用 上記2の(1)及び(2)のとおり、相続人及び包括受遺者の間で遺産分割がされていない財産については、配偶者の税額軽減の規定及び小規模宅地等の特例の規定(以下、この2つの規定を「これらの規定」といいます)を適用することはできません。これらの規定を適用した後に、遺産分割が行われ、その結果、これらの規定を適用した者以外の者が被相続人の財産を取得することによってこれらの規定の趣旨に反した適用が行われることを防止するためです。 しかしながら、上記2の(1)の枠内の②、③及び④のようにそもそも遺産分割をすることなく、確定的に配偶者又は特定の相続人や受遺者に帰属することとなる財産については、これらの規定を適用することができると解されます。 第二次相続開始時に生存している第一次相続人と第二次相続人が同一の者で、その者以外に第一次相続人及び第二次相続人や包括受遺者がいない場合には、その1人の者のみによっては、第一次相続に係る被相続人の遺産を分割することはできず、第一次相続に係る被相続人の遺言がない限り、第一次相続に係る遺産は、確定的に、法定相続分の割合により第一次相続人に帰属することとなります。そうしますと、第二次相続の後に、第一次相続の法定相続分とは異なる割合で第一次相続に係る相続人が相続をすることはできないこととなり、これらの規定の趣旨に反した適用も起こりえないこととなります。このことから、このような場合には、第一次相続における被相続人の配偶者、及び小規模宅地等の特例の要件を満たす親族についてはこれらの規定の適用が認められるものと考えられます。 なお、このようなケースは更正の請求の特則規定が適用される事由を列挙する相続税法第32条第1項各号(小規模宅地等の特例については租税特別措置法第69条の4第5項で同項を準用)に直接的には規定はされていませんが、同項第1号又は第8号に該当すると解する余地があると考えられます。   4 ご質問の場合 あなたとお母様の間でお父様の遺産の分割が行われる前に、お母様がお亡くなりになり、お父様の相続人で生存している者はあなた1人であり、お父様の相続人であったお母様の相続人もあなた1人となりました。そうしますとお父様の遺産である各財産は、お母様の相続開始と共に、あなたとお母様に法定相続分の割合での共有が確定し、その後、お母様が取得したお父様の遺産及びお母様の固有財産はあなたが相続することとなります。 そうしますと、お父様の相続開始時にあなた方ご家族が居住しており、その後も引き続きあなたが居住しているA建物の敷地は、租税特別措置法第69条の4第3項第2号の特定居住用宅地等に該当しますので、限度面積の範囲内で、配偶者であるお母様及び同居親族であるあなたが小規模宅地等の特例の規定を適用することができます。また、お父様の相続に係るお母様の相続税の計算において配偶者の税額軽減の規定を適用することができます。なお、これらの規定を適用する場合には、更正の請求をすることとなります。 (了)

#No. 549(掲載号)
#梶野 研二
2023/12/21

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第37回】「同族株主である個人が株式を個人又は法人に売却する場合の子会社株式の評価方法」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第37回】 「同族株主である個人が株式を個人又は法人に 売却する場合の子会社株式の評価方法」   税理士 柴田 健次   Q 甲は昭和40年にA社を設立し建設業を営んでいます。A社は昭和60年に資本金1,000万円でB社を設立し、現在に至るまでB社の株式を100%所有しています。 甲は、令和5年に代表取締役を辞任し、甲の甥である乙が新たに代表取締役に就任しました。甲はA社の株式を100%保有しており、乙に株式の承継を検討していますが、その方法として下記のいずれかの方法を考えています。 直前期末における会社規模区分は、A社は中会社の大であり、B社は中会社の中に該当し、いずれも特定の評価会社に該当しません。 個人である乙への譲渡については、財産評価基本通達に基づき売買価額を決定し、法人であるC社への譲渡については、所得税基本通達59-6の定めに基づいて財産評価基本通達を準用し、売買価額を決定することにします。 A社株式の類似業種比準価額は純資産価額よりも小さくなりますので、A社株式の相続税評価額は、類似業種比準価額×90%+純資産価額×10%で評価することになります。一方、所得税基本通達59-6の定めに基づく価額算定にあたっては、甲が中心的な同族株主に該当しますので、類似業種比準価額×50%+純資産価額×50%で計算することになります。 この場合において、上記A社の純資産価額の算定にあたり、第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の相続税評価額欄に記載されるB社株式の相続税評価額はいくらになりますか。 B社の発行済株式総数は10,000株であり、1株につき1議決権を有しているものとします。B社株式は、創業以来、売買されたことはなく、B社と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額もありません。 B社株式の1株当たりの類似業種比準価額と純資産価額は、次の通りとなります。 A B社株式の相続税評価額は、それぞれ次の通りとなります。 (1) 甲が乙にA社株式を売却した場合 1株26,500円(12,000円×75%+70,000円×25%)となりますので、相続税評価額は、265,000千円(26,500円×10,000株)となります。 (2) 甲がC社にA社株式を売却した場合 1株46,000円(12,000円×50%+80,000円×50%)となりますので、相続税評価額は、460,000千円(46,000円×10,000株)となります。  ◆  ◆  ◆ ① 個人から個人に非上場株式を売却する場合の税務上の時価算定 個人から個人に非上場株式を売却した場合において、課税上問題となるのは買主のみなし贈与課税となります。売主にとっては、売買価額が譲渡対価とされることから、課税上問題になることはありませんので、個人から個人に非上場株式を売却する場合には、買主の立場で売買価額を考えることになります。そして、非上場株式の場合には、負担付贈与通達(本連載【第35回】で解説)の適用はありませんので、時価は原則として、財産評価基本通達の価額となります。したがって、非上場株式の場合には、財産評価基本通達の178から189-7までの定めより時価を算定することになります。 【本問の場合の当てはめ】 個人から個人に非上場株式を売却した場合の納税義務者の判定は、相続や贈与の場合と同様に移転後の株主状況に基づき株主判定を行うことになりますので、株式を取得した乙を納税義務者として、株主判定を行うことになります。乙は、同族株主に該当し、かつ、5%以上の株式を取得していますので、原則的評価方式が適用される株主に該当します。 そして、A社は中会社の大であり、特定の評価会社に該当しませんので、類似業種比準価額×90%+純資産価額×10%で評価することになります。 上記の純資産価額の算定にあたって、B社株式の相続税評価額の算定については、下記の点に留意する必要があります。 ❶ 納税義務者の判定 B社株式の株主判定については、A社を納税義務者と考えて、株主判定を行うことになります。A社は、同族株主に該当し、かつ、5%以上の株式を所有していますので、原則的評価方式が適用される株主に該当します。 ❷ 法人税額等相当額の控除の可否 課税時期における評価会社の各資産を評価する場合において、その各資産のうち非上場株式があるときのその株式の1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)は、その株式の発行会社の課税時期における各資産を財産評価基本通達に定めるところにより評価した金額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とするとされています。この場合における1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)の計算に当たっては、評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除しないこととされています(評価通達186-3)。 したがって、本問の場合における1株当たりの純資産価額は、相続税評価により純資産価額を求め、その純資産価額から法人税額等相当額を控除しないで求めた価額70,000円となります。   ② 個人から法人に売却する場合の税務上の時価算定 個人から法人に売却した場合には、所得税におけるみなし譲渡課税の問題がありますので、所得税における時価を算定する必要があります。 個人から法人に売却する場合の所得税における時価は、下記の所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)により算定することになります。 所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」) (下線部は筆者による) 本問の場合には、財産評価基本通達を準用するものとしていますので、上記通達の(1)から(4)の定めに基づき時価算定することになります。なお、上記通達の法令解釈通達として令和2年9月30日国税庁資産課税課情報第22号が公表されています。 【本問の場合の当てはめ】 上記通達の(1)の定めにより、株主判定は譲渡前の議決権数に基づきその判定を行うことになります。甲は、同族株主に該当し、かつ、5%以上の株式を所有していますので、原則的評価方式が適用される株主に該当します。甲は中心的な同族株主に該当することになりますので、所得税法基本通達59-6(2)の適用により小会社に該当するものとして計算することになります。したがって、類似業種比準価額の使用割合であるLの割合は50%となり、類似業種比準価額×50%+純資産価額×50%で計算することになります。 上記の純資産価額の算定にあたって、B社株式の相続税評価額の算定については、下記の点に留意する必要があります。 ❶ 納税義務者の判定 B社株式の株主判定については、A社を納税義務者と考えて、株主判定を行うことになります。A社は、同族株主に該当し、かつ、5%以上の株式を所有していますので、原則的評価方式が適用される株主に該当します。 ❷ 類似業種比準価額の使用割合 所得税法基本通達59-6(2)の適用に際し、「中心的な同族株主」に該当し、かつ、原則的評価方式で評価する場合に類似業種比準価額の使用割合を50%と制限している趣旨は、「中心的な同族株主」である場合の株式の価値は、純資産価額を無視することはできないためとなります。このような趣旨からすると、子会社株式の価額につき、評価会社がその子会社の「中心的な同族株主」に該当し、かつ、原則的評価方式で評価する場合には、類似業種比準価額の使用割合を50%として評価することが相当になります。 したがって、本問のB社株式の価額算定については、類似業種比準価額の使用割合であるLの割合は50%となり、類似業種比準価額×50%+純資産価額×50%で計算することになります。 ❸ 類似業種比準価額の算定 類似業種比準価額の算定上は、大会社は「0.7」、中会社は「0.6」、小会社は「0.5」とする斟酌割合が定められています(評価通達180)。これは、評価会社の規模が小さくなるに従って、上場会社との類似性が希薄になっていくためです。あくまでも会社の規模区分に基づき、類似業種比準価額の算定をすることになりますので、所得税基本通達59-6(2)の定めに基づき、「小会社」に該当した場合であったとしても類似業種比準価額の算定における斟酌割合はその会社(B社)の会社規模区分(中会社)としての斟酌割合(0.6)を使用することになります。 したがって、採用する類似業種比準価額は、12,000円となります。 ❹ 純資産価額の算定 所得税基本通達59-6(3)及び(4)は、取引としての時価を考察しているものとなります。すなわち、実際の非上場株式の譲渡については、土地や上場株式は時価に基づき評価し、かつ、法人税額等相当額は控除しないで純資産価額を求めることが少なくありませんので、これを考慮することが求められています。このことは、A社株式が有する非上場株式(B社株式)の評価にも当てはめて考えることが相当です。したがって、B社が有する土地又は上場株式は相続税評価ではなく時価により算定し、法人税額等相当額の控除もしない価額80,000円となります。   ☆実務上のポイント☆ 所得税基本通達59-6の定めに基づき、株式の価額算定を行う場合には、その通達の趣旨を理解するとともに取引としての時価を考察する観点から財産評価基本通達の当てはめを検討する必要があります。 (了)

#No. 549(掲載号)
#柴田 健次
2023/12/21

相続空き家の特例 [一問一答] 【第47回】「共有で相続した家屋とその敷地を譲渡する場合」-共有に係る個々の特別控除額-(令和6年(2024年)1月1日以後の譲渡)

相続空き家の特例 [一問一答] 【第47回】 「共有で相続した家屋とその敷地を譲渡する場合」 -共有に係る個々の特別控除額- (令和6年(2024年)1月1日以後の譲渡)   税理士 大久保 昭佳   Q X(兄)、Y(妹)、Z(弟)は、昨年4月に死亡した母親の居住用家屋等(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を、各持分1/3共有で相続し、その家屋を取り壊して更地にし、本年10月に合計9,000万円で譲渡しました。 相続開始直前まではその家屋に母親が1人で暮らし、取壊し時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 この場合、XとYとZは、それぞれ3,000万円の特別控除額を限度として、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 令和6年(2024年)1月1日以後の譲渡については、「相続空き家の特例」を受ける相続人の数が3人以上である場合には、それぞれの譲渡者に係る特別控除額は、それぞれ2,000万円が限度となります。 ●○●○解説○●○● 「令和5年度税制改正」前においては、相続した土地家屋が共有であるとしても、それぞれの譲渡者について、それぞれが当該適用要件を満たす場合には、本特例を受ける相続人の数にかかわらず、それぞれの個人に3,000万円特別控除の適用がありました(【第33回】を参照)。 しかし、当該改正により、令和6年(2024年)1月1日以後の譲渡については、相続又は遺贈により被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等を取得した相続人の数が3人以上である場合の控除額が引き下げられ、本特例に係る特別控除額は2,000万円とすることとされました。 なお、「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価が1億円以下であることが、その適用要件の1つとされています。したがって、共有者全体の譲渡対価の合計額が1億円を超える場合などには、各共有者ともどもこの特例を適用することができませんので、当該改正前と同様に注意が必要です(〔譲渡価額要件の判定〕【第19回】~【第24回】を参照)。 (了)

#No. 549(掲載号)
#大久保 昭佳
2023/12/21

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第56回】「役員が関連法人から金員の支給を受けた場合の課税関係」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第56回】 「役員が関連法人から金員の支給を受けた場合の課税関係」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 役員給与と受贈益 法人が役員に対して支給した役員給与のうち、定期同額給与等に該当しないものは損金不算入となることに対し(法法34①)、法人が他から受けた受贈益は益金算入となる(法法22②)。また、その法人が役員に対して支給すべき給与を他の法人等が負担した場合、その法人と他の法人の間に完全支配関係がある場合に限りグループ法人税制により受贈益の額が益金不算入となる(法法25の2)(※1)。 (※1) その他、株式の簿価修正の論点もある。 つまり、法人間の完全支配関係の有無で課税関係が異なり、完全支配関係がない場合には受贈益の額が益金算入されることとなる。そして、いずれにしても当該役員給与の額が定期同額給与等に該当しない給与であるとして損金不算入となる可能性は高く、特に受贈益課税がなされた場合には思いがけない税負担を負うという可能性が考えられる。 このリスクについて検討する場合、関連法人が負担したものが「その法人が役員に対して支給すべきであった」かどうかを確認することとなる。そこで、関連法人がその法人の役員に対して直接支給した金員が受贈益と認定された事例を紹介する。   (2) 役員に対して関連法人が直接支給した金員が受贈益に当たるとされた事例 その法人の役員に対して関連法人から直接支給された金員が問題となった事例として、国税不服審判所平成23年8月2日裁決がある(※2)。なお、この事例は平成22年度税制改正によるグループ法人税制導入前の事業年度に関する事例である。 (※2) 裁決事例集84集191頁、TAINS:J84-3-11。 本件において、更正処分等の対象となった金員の支払いは以下の4つである。 【第1金員】 H社より、納税者とK社の取締役を兼ねるRに対して支払われた金員である。H社は賞与として経理し、その総勘定元帳の摘要欄には「褒賞金」と記載されている。なお、納税者とH社には直接の取引はなかった。 審査請求段階で、RがH社の営業に同行して指導を行った対価である旨の陳述書が新たに提出されているが、国税不服審判所はその内容が不自然であること、総勘定元帳にその旨の記載がないこと、そして調査時にそのような説明が無かったことから、第1金員は、Rが納税者やK社の取締役の地位にあることを理由に支払われた可能性があるものの、納税者やK社の指示に基づいて支払われたことを認めるに足りる証拠はないことから、取締役の地位にあることを理由に支払われたとまでいうこともできないとした。 国税不服審判所は、これらの理由により、役務提供の対価や納税者又はK社が負担すべき役員給与としてではなく、H社からRに直接支払われた金員であるというべきであり、納税者が支払うべきRに対する給与をH社が負担したと認めることはできないとして、課税庁の主張を退けた。 【第2金員・第3金員】 L社より、納税者の取締役であるSと上記Rに対して支払われた金員である。L社はこれらを賞与として経理し、その総勘定元帳の摘要欄に、それぞれ「S 永年勤続賞金」及び「R 褒賞金」と記載されている。 審査請求段階で、L社とS及びR間のアドバイザリー業務合意書が新たに提出されているが、国税不服審判所は、納税者の役員は日常的にL社の業務を手伝っており、法人である納税者に対して多額の業務委託手数料が支払われているとして、納税者とL社間に包括的な業務委託契約が存在すると認定した。そのうえで、Sに対しては納税者の経費請求書つづりに「勤続20年の永年勤続賞として1,000,000円を支払う」旨の記載があること、Rについても包括的な業務委託契約の範囲内であることから、納税者が支払うべき給与をL社が負担したことにより、請求人に受贈益が生じつつ、当該金員が役員給与として損金不算入となる旨を示している。 【第4金員】 K社より、納税者の取締役Tに対し支払われた金員である。K社は賞与として経理し、総勘定元帳の摘要欄には「T 永年勤続賞金」と記載されている。なお、K社の売上の大半は納税者からのものである。 国税不服審判所は、100%支配関係のある納税者とK社との関係について、販売会社と系列メーカーとの関係にあるとし、TがK社に行ったと納税者が主張する業務は、専門家でなくともある程度のノウハウがあればできるものであるため、納税者の業務として行われたとした。そのうえで、納税者の経費請求書つづりに「勤続20年の永年勤続賞として1,000,000円を支払う」旨の記載があるために、納税者が支払うべき給与をL社が負担したことにより、請求人に受贈益が生じたものと認めている。   (3) 本件裁決例の意義と実務上の留意点 この事例のように、役員に対し関連法人から何らかの金員の支給がなされるケースは皆無ではなく、同族経営であれば特に起こり得るといえる。そして、同族経営で法人を複数設置する場合において、法人間の完全支配関係がないケースが一定数見られるが、この場合には寄附金・受贈益に関するグループ法人税制の取扱いが適用されない。 この事例からは、第1金員の支給とそれ以外の金員の支給との相違点の1つに、支給する法人と支給を受ける役員が在籍する法人との間に、直接の取引があったか否かであるという点が読み取れる。つまり、直接の取引があれば、役員個人として行う行為が、その基本的な取引関係の中で行われたものであると認定されやすく、その関連法人が役員個人に支給した金員が、本来はその役員が在籍する法人が支給すべきであったとされやすいだろう。 また、本件は納税者側の経費請求書つづりに、納税者自身が支給すべきとするエビデンスがあったことも大きな要素であるだろう。例えば、【第26回】で触れたように、単なるメモの形態であったとしても役員報酬額の同意がある旨のエビデンスとなったケースもある。その法人が本来支給すべきものを正しくエビデンスとして残すのが本来の姿であるため、この点にも留意が必要である。 このようなことを踏まえ、仮に法人に在籍する役員が関連法人から金員の支給を受けることがある場合、グループ法人税制における受贈益の益金不算入の適用有無の確認に加え、どのような対価として役員個人が支給を受けるのか、法人間の取引に付随するような業務の一環ではないか、本件裁決例のような勤続賞等の支給すべき事情が他にあるための代替案に過ぎないといえるか等について確認をしておくべきであると考えられる。   (了)

#No. 549(掲載号)
#中尾 隼大
2023/12/21

基礎から身につく組織再編税制 【第59回】「適格株式交換(共同事業)」

基礎から身につく組織再編税制 【第59回】 「適格株式交換(共同事業)」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、共同事業を行うための適格株式交換の要件について解説します。   1 共同事業を行うための適格株式交換の要件 共同事業を行うための適格株式交換の要件は次の7つです。   2 金銭等不交付要件 「金銭等不交付要件」とは、株式交換完全子法人の株主に株式交換完全親法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十七)。 ただし、下記の①から④を交付しても金銭等不交付要件には抵触しません。 (※) ①~④の詳細は本連載の【第57回】を参照。   3 従業者継続要件 (1) 従業者継続要件とは 「従業者継続要件」とは、株式交換直前の株式交換完全子法人の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が株式交換後に株式交換完全子法人の業務((2)参照)に引き続き従事することが見込まれていることをいいます(法令4の3⑳三)。 (2) 株式交換完全子法人の業務について 前回解説した「支配関係がある場合の適格要件」と同様に、株式交換完全子法人との間に完全支配関係がある法人の業務と株式交換後の次に行われる適格合併等に係る合併法人等の業務も株式交換完全子法人の業務に含まれます。   4 事業継続要件 「事業継続要件」とは、株式交換完全子法人の株式交換前に行う主要な事業が株式交換後に株式交換完全子法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法令4の3⑳四)。 前回解説した「支配関係がある場合の適格要件」と同様に、株式交換完全子法人との間に完全支配関係がある法人と株式交換後の適格合併等に係る合併法人等において、株式交換完全子法人の株式交換前に行う主要な事業が引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。   5 事業関連性要件 (1) 事業関連性要件とは 「事業関連性要件」とは、株式交換完全子法人の株式交換前に行う主要な事業のうちのいずれかの事業(子法人事業)と株式交換完全親法人の株式交換前に行ういずれかの事業(親法人事業)とが相互に関連するもの((3)参照)であることをいいます(法令4の3⑳一)。 (2) 「事業」とは 事業関連性要件における「事業」とは、固定施設を有していること、従業者を有していること、売上が生じていることという3つの要件を満たすものをいいます(法規3①一)。 (3) 「相互に関連する」とは 事業関連性要件における「相互に関連する」というのは、次のような場合をいいます(法規3①二・②・③)。   6 事業規模要件又は経営参画要件 冒頭述べたとおり、共同事業を行うための適格株式交換の要件として、事業規模要件又は経営参画要件のいずれかを満たすことが求められています(法令4の3⑳二)。 (1) 事業規模要件 「事業規模要件」とは、株式交換完全子法人の子法人事業と株式交換完全親法人の親法人事業(子法人事業と関連する事業に限ります)のそれぞれの売上金額、従業者の数若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないことをいいます。共同事業を行うための適格合併の要件と異なり、資本金による規模の判定はできませんのでご留意ください。 事業規模要件は、規模があまりに異なる株式交換は共同で事業を行うものとは認められないという趣旨により設けられたもので、事業の規模の割合がおおむね5倍を超えないかどうかは、いずれか1つの指標が要件を満たすかどうかにより判定します(法基通1-4-6(注))。 (例) (2) 経営参画要件 ① 経営参画要件とは 「経営参画要件」とは、株式交換前の株式交換完全子法人の特定役員(②参照)の全てが株式交換に伴って退任するものでないことをいいます。 事業規模要件を満たさない場合でも、株式交換完全子法人の経営陣が退任せずに、株式交換後においても経営参画しているものは共同で事業を行うものとして認めるという趣旨により設けられています。 ② 特定役員とは 「特定役員」とは社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者(③参照)で法人の経営に従事している者をいいます。 ③ 「これらに準ずる者」とは 「これらに準ずる者」とは、役員又は役員以外の者で、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役又は常務取締役と同等に法人の経営の中枢に参画している者をいいます(法基通1-4-7)。   7 株式継続保有要件 (1) 株式継続保有要件 「株式継続保有要件」は、株式交換により交付される株式交換完全親法人株式又は株式交換完全支配親法人株式のいずれか一方の株式(議決権のないものを除きます)のうち、支配株主((2)参照)に交付されるものの全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれていることをいいます(法令4の3⑳五)。 (2) 支配株主とは 株式継続保有要件における「支配株主」とは、株式交換の直前に株式交換完全子法人の発行済株式の50%超を保有する株主をいいます。 下図の株主Aは、支配株主に該当するため、対価(株式交換完全親法人株式)を継続保有することが求められます。   8 完全支配関係継続要件 完全支配関係継続要件は、株式交換後に株式交換完全親法人と株式交換完全子法人の間に株式交換完全親法人による完全支配関係が継続することが見込まれていることをいいます(法令4の3⑳六)。   ◆共同事業を行うための適格株式交換の要件のポイント◆ 金銭等不交付要件において、原則として株式交換完全親法人株式以外の対価を交付しないことが求められています。 株式交換完全子法人の株式交換直前の従業者の総数のおおむね80%以上に相当する者が引き続き株式交換完全子法人の業務に従事することが見込まれるかを確認します。 株式交換完全子法人の主要な事業が株式交換後に株式交換完全子法人において引き続き営まれることが見込まれるかを確認します。 事業関連性の判定において、株式交換完全子法人側は株式交換前の主要な事業に限定されていますが、株式交換完全親法人の事業は限定されていません。 事業規模要件については、事業関連性要件の判定において関連性があるとした事業により判定します。 経営参画要件については、単なる役員ではなく特定役員が退任しない必要があります。 支配株主がいる場合のみ、株式継続保有要件の判定を行います。 株式交換後には株式交換によって生じた株式交換完全親法人による完全支配関係が継続することが求められます。   (了)

#No. 549(掲載号)
#川瀬 裕太
2023/12/21

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第33回】「移転価格税制と住民訴訟(地判平7.3.6、高判平8.3.28)(その2)」~旧日米租税条約11条、25条1項、租税条約実施特例法7条、8条、国税通則法23条2項3号、同施行令6条1項4号~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第33回】 「移転価格税制と住民訴訟(地判平7.3.6、高判平8.3.28)(その2)」 ~旧日米租税条約11条、25条1項、租税条約実施特例法7条、8条、国税通則法23条2項3号、同施行令6条1項4号~   税理士 中野 洋     5 Xの主張 本件地方税還付は、本件日米合意に端を発する手続きの流れによってもたらされた(前回図解参照)。Xは、この流れを遮断すべく、まず(1)Zらに相互協議を申し立てる権利がなかったとし、次いで(2)合意後の国税の減額更正処分の手続きに、さらに(3)国税に連動する地方税の減額更正手続きに、各々瑕疵があると主張した。 (1) 本件日米合意の租税条約適合性 第一審におけるXの主張は「日米条約11条1項は、条約締約国の一方が移転価格税制を適用できるとしているが、その場合に相手国が対応的調整を行う旨の規定を排除しているから、我が国の税務当局が内国法人に対し対応的調整を行わず当初の課税処分を維持しても、日米条約25条1項・・・に規定されている『この条約に適合しない課税』とはいえず」したがって、Zらは「日米条約25条1項の申立をする権利を有しない」というものである。 Zらに相互協議の申立権がなければ、本件日米合意は違法・無効ということになる。日米条約11条にはモデル条約9条2項のような対応的調整の規定がないことから、対応的調整に関する協議は、同25条1項の申立による協議ではなく、納税者の申立を契機としない同条2項の協議に基づく合意であるとした。 (2) 本件国税処分の適法性 対応的調整に関する国内手続き規定である特例法7条は、昭和61年(1986年)4月1日から施行されたことから、対応的調整として減額更正処分ができるのは、同61年(1986年)度以降の所得のみである。 (3) 本件更正処分の違法性 日米条約上の政府間協議の結果によって地方公共団体が影響を受ける場合には、あらかじめ大蔵大臣が自治大臣と協議をし、また自治大臣は関係地方公共団体の意見を聞くべきことが特例法8条に定められているが、本件においては、この手続きがされていない。   6 判示(第一審) (1) 本件日米合意の租税条約適合性 概ね、以下の2つの視点に区分することができる。いずれも日米条約25条による協議の申立が認められるかどうかに帰着する。 ① 日米条約25条1項と2項の区分について 日米条約25条1項を個別事案協議、同条2項を解釈適用協議と定義した上で「解釈適用協議については、個別事案協議の場合と異なり、関係者に協議申立権は認められていないが、関係者が自己に関する事案が重要な解釈適用問題を含んでいるとして陳情の意味で事実上の申立をすることは可能であり、それが協議の必要がある問題であれば権限のある当局は協議を開始することになる」と判示した。さらに、同条1項及び2項の規定が「相互に関連することが明らかである以上、25条1項又は2項のいずれによる申立も可能であるとみて差し支えない」とする金子教授の見解を採用している。 ② 適合しない課税の対象について この点について、判示は、「適合しない課税」について広く解することで、Zらの申立を可能とした。曰く「租税条約に移転価格課税に相当する規定と相互協議に関する条項が規定されていれば、右条約は、移転価格税制に伴う経済的二重課税をも相互協議の対象としているものと解するのが相当であり、日米条約にこの条項(25条)がある以上、同条約においては当然経済的二重課税に対しても相互協議の申立をし得ると解すべきである」(下線筆者)。さらに、「日米条約11条に対応的調整の規定がないとしても、同条約25条により、対応的調整をすることが可能」と判示した。 (2) 本件国税処分の適法性 「日米における対応的調整の法的根拠は日米条約25条に求めることができ、特例法7条が存在しなくとも、対応的調整を行うことは可能であり、右7条は、このことを明確にした規定であると解し得るから、同条の施行が昭和61年4月1日からであるからといって、それ以前の分に対する対応的調整ができないというものでないことは明らかである」(下線筆者)として、特例法7条が確認的規定である点を述べた上で、施行日以前に遡って対応的調整ができるとした。 さらに、日米条約25条4項では、権限ある当局間で合意が成立した場合、その合意に従って租税の還付を行うことができる旨を規定していること、国通法71条2号、国通令6条1項4号では、権限ある当局間の協議による合意が行われたときは、一般的な更正の期間制限が適用されないことなどを述べ、施行日以前の対応的調整を違法無効とするXらの主張に理由がないとした。 (3) 本件更正処分の違法性 特例法8条所定の協議等が行われていない点について「日米条約1条は、同条約の対象に・・・地方税をこれに含めていないこと」を述べ、さらに「特例法8条の『協議又は合意の内容が地方公共団体が課する租税に係るものであるとき』」にいう、「~に係るもの」の意味については「単に右条約に基づく協議等が地方税にかかわりがあるというだけではなく、地方税が直接その協議等の対象となるときに限り必要なものであると解するのが相当」として、自治大臣との協議等は必要でないとした。   7 判示(控訴審) (1) 本件日米合意の租税条約適合性 ◎適合しない課税の対象について 控訴審でも第一審と同様に広く解している。曰く「日米条約が、国際間の二重課税の回避を主たる目的として締結されたことを考えると、移転価格税制の規定を設けながら、その適用によって他方当事国の関連者に生ずる国際的、経済的二重課税の問題について、これを放置していたと解するのは常識的でなく、対応的措置については25条の協議に委ね、合意が可能な限りにおいて、経済的二重課税の回避を図ろうとしているものと解するのが相当である」(下線筆者)と述べる。この判示でも、何に適合しないことが25条の協議の申立事由になるのかについて、「目的」や「常識」という抽象的な基準により、適合しない課税を条約に求めている。 しかしながら、控訴審では「モデル条約9条2項に相当する条項がない場合であっても、第1項に相当する条項の存在は、経済的二重課税を条約の対象に含めようとする締約国の意図を示している。従って、移転価格の調整によって生ずる経済的二重課税は、少なくとも租税条約の精神に反するものであることから、モデル条約第25条第1項及び第2項の相互協議手続の対象となり得る」(下線筆者)というOECD租税委員会の昭和59年の報告書を引用している点で、第一審より理由付けができている。 (2) 本件国税処分の適法性 第一審とは異なり、国内において対応的調整手続きを行うには、特例法7条の規定が必要であるとした。ただし、判示は対応的調整の定義について混同している。国内における対応的調整の手続きは相互協議による合意に基づき行われるが、対応的調整に関する国内手続規定の存在が相互協議による合意の前提になるという認識に立っている。曰く、「仮に我が国が対応的措置について合意するためには、特例法7条の規定を要するとの考え方に立ったとしても、同条は昭和61年4月1日から施行されたのであるから、同日以降に合意に達した本件日米合意が、同条に基づく合意であることは明らかであり、また、同条には、対応的調整を遡ってなしうる期間についてはなんらの制限も設けていないから、Z1について昭和51年3月期、Z2について昭和54年3月期に遡って対応的調整に合意したからといって、なんら国内法上違法となるものではない」(下線筆者) (3) 本件更正処分の違法性 第一審の判断を引用。   8 評釈等 第一審及び控訴審ともに、判示には金子教授の見解が色濃く反映されているが、訴訟後も同教授によって本件に関する論文が多数発表されている。 (1) 本件日米合意の租税条約適合性 ① 日米条約25条1項と2項の区分について この点に関しては、第一審において、モデル条約の解釈を前提とした金子教授の見解が判示でも述べられている(※6) (※6) 金子宏「相互協議(権限のある当局間の協議および合意)と国内的調整措置-移転価格税制に即しつつ-」『所得課税の法と政策』有斐閣(1996年)395~396頁では、判示と同様の解釈が述べられている。 ② 適合しない課税の対象について(「条約」か「規定」か) 先述のとおり、昭和59年のOECD報告書の見解が控訴審判決の根拠となっていることから、「適合しない課税」を経済的二重課税に求める控訴審の判示は、OECDの見解に整合したものであるといえる。さらに「我が国及び主要諸国は、この見解を受入れ、これに準拠した条約を締結している。したがって・・・相手国で移転価格課税を受けた場合には、租税条約の相互協議条項に基づき、我が国の権限ある当局に相互協議の申立てを行うことができ 」(※7)る、と解される。 (※7) 五味雄治・大崎満『国際取引課税-その理論と実務-』財経詳報社(1996年)108頁 金子教授は「経済的二重課税が相互協議の対象となるかどうかは、それが条約の規定に適合しない課税に当たるか否かにかかっている 」(※8)とした上で、控訴審判決に疑問を呈している。すなわち「租税条約のそもそもの目的は国際的二重課税を排除することにあり、経済的二重課税も二重課税の一種であるから、それも条約の目的に反する措置として当然に相互協議の対象となる、という解釈も成り立ちうる 」(※9)とした上で、次のように続ける。「条約締結国間の国際取引に対するものである限り・・・特殊関連企業条項に基づく措置であり、・・・それは『条約の規定に適合しない措置』に該当する、と立論することによって、明快に経済的二重課税も相互協議の対象になる 」(※10)。この見解は、「適合しない課税」とは具体的にどの条項に適合しない課税をいうのかについて述べるものであり、移転価格課税に伴う経済的二重課税の場合には、特殊関連企業条項に適合しない課税と解すべきことを指摘している。判示は、概ね、金子教授の意見を述べているが、この点については、同教授の意見が正確に反映されていなかったのかもしれない。 (※8) 金子前掲(※5)書369頁 (※9) 金子前掲(※5)書370頁 (※10) 金子前掲(※5)書370頁 ◎日米条約11条に対応的調整の規定がなかった点について この点については、わが国が対応的調整を自動的調整規定と勘違いしていた点を指摘する見解がある。「日本国政府は、上記の対応調整に関するモデル9条2項を租税条約に導入するについて留保しており、ために、わが国が締結した租税条約にはこの対応調整に関する規定が存しない。留保の理由は、この条項を自動的調整(automatic adjustment)、すなわち当初の調整(増額更正)が行われる限り減額更正(対応調整)は自動的に行われるべきことを定めたものとの認識に立つことによるようである。・・・・してみれば、自動的な調整を理由とするわが国の留保にはまったく根拠がない」(※11) (※11) 小松芳明『国際課税のあり方』有斐閣(1987年)58頁~59頁。日本は平成4年のモデル条約改正の際に留保を撤回している。なお、この点についてのモデル条約コメンタリーでは「調整は、単にA国において利得が増額されたことを理由に、自動的にB国において行われるべきものではないことに留意すべきである。」とし、A国における利得の調整をB国が正当と認める場合にB国で調整が行われるべきことを述べている。川端康之『OECDモデル租税条約2008年版簡略版』日本租税研究協会(2009年)145頁。 (2) 本件国税処分の適法性 対応的調整の国内規定について、金子教授は、合意に基づく国内的調整措置としては、国通法23条2項3号、国通令6条1項4号などの規定が整備されていた点をもって、必要にして十分としつつ「しかし、若干の疑義があったためであろうか、1986年(昭和61年)に、移転価格税制の導入と同時に特例法が改正され、移転価格税制の適用にかかる合意があった場合の対応的調整の規定が新たに設けられた」とする(※12)。特例法7条について金子教授は確認的規定としている。 (※12) 金子前掲(※6)書405頁。なお、対応的調整の定義については、国際税務研究グループ『国際課税問題と政府間協議-相互協議手続と同手続をめぐる諸問題-』大蔵財務協会(1993年)131頁において、次のように解説している。「合意が成立した場合には、わが国は当該合意に従い減額更正処分を行うことになる。これが『対応的調整』である。このように、対応的調整は・・・わが国の国内処理のことを意味する」さらに、同132~133頁においては、対応的調整の要件として、①相手国か移転価格課税を行ったこと、②権限のある当局間で合意が成立したこと、③納税者が合意内容を受入れ更正の請求を行うこと、が挙げられている。 ((その3)へ続く)

#No. 549(掲載号)
#中野 洋
2023/12/21

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第149回】株式会社アルデプロ「社外調査委員会調査報告書(開示版)(2023年9月22日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第149回】 株式会社アルデプロ 「社外調査委員会調査報告書(開示版)(2023年9月22日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【株式会社アルデプロ社外調査委員会の概要】   【株式会社アルデプロの概要】 株式会社アルデプロ(以下「アルデプロ」と略称する)は、1988年3月設立。設立時の社名は株式会社白川エンタープライズで、内装事業を目的としていた。2001年12月から、中古マンションを仕入れ、リフォーム後戸別に販売する中古マンション再活事業に進出。複数の社名変更を経て、2002年1月、現商号に変更。不動産再活事業を主たる事業とし、6社の連結子会社を有している。連結売上20,596百万円、経常利益2,589百万円、資本金2,428百万円。従業員数24名(2023年7月期連結実績)。本店所在地は東京都新宿区。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人は、霞友有限責任監査法人。 調査報告書において「重要な当事者」とされたのは、2021年7月期までアルデプロの主要な株主であった株式会社ドラゴンパワー(報告書上の表記は「A社」。以下「ドラゴンパワー」と略称する)である。   【社外調査委員会による調査報告書の概要】 1 社外調査委員会設置の経緯 アルデプロは、外部からの指摘により、過去の特定の取引(本件取引)に関連して、貸付債権に係る貸倒引当金の計上、取引先の連結子会社該当性等に関する疑義等が判明することとなり、これまでアルデプロと利害関係のない独立の専門家により構成される社外調査委員会を設置のうえ、社外調査委員会による調査によって、事実関係の調査及び当該事実に基づく評価結果を踏まえた対応を行うことを決定した。 2023年7月19日、アルデプロは、白井真弁護士、小島冬樹弁護士及び髙木明公認会計士に対して委員就任を委嘱し、各委員就任候補者がこれを受嘱したことから、社外調査委員会を設置し、委員間の互選により白井真弁護士が委員長となった。 2 社外調査委員会による調査結果の概要 社外調査委員会による調査は多数の取引について行われているが、調査の結果、何らかの修正が必要という評価を受けた案件について、次のとおり区分し、社外調査委員会により認定された事実関係と評価をまとめておきたい。 (1) B社案件 ① 事案の概要 アルデプロは、2019年6月11日付で乙ビルをC社に売却した際に、C社から借入れの要請を受けて、2020年2月28日、C社の指定するB社との間で、3億7,770万3,530円を貸し付ける旨の金銭消費貸借契約を締結し、同日、B社が指定したF社名義の口座に、貸付金額から1年分の利息を控除した残額の3億7,268万74円を振り込むとともに、金銭消費貸借契約上の貸付金額を短期貸付金として計上した。 B社は、2020年11月4日付通知書において、「実質的には、債務不存在である」と主張しており、現在に至るまで、弁済はなされていない。 ② 会計処理に対する評価 社外調査委員会は、結論として、アルデプロのB社に対する貸付金に係る貸金返還請求権が有効に成立したことを否定する事情は認められないことから、アルデプロが、2020年2月28日付で、B社に対する短期貸付金を計上したことに合理性を否定する事情は認められないとしたうえで、本件貸付金に係る貸倒引当金について、遅くとも2021年7月期末の決算においては、B社の財産のみが本件貸付金の返済原資となることを前提に、B社自身の当時における財務状態を調査したうえで、その結果を踏まえて貸倒引当金の計上額(アルデプロの決算関連マニュアルにより50%を計上することで足りるか否か等)を検討すべきであったものと考えられると評価している。 (2) 関連当事者との取引の疑義がある案件 ① 事案の概要 アルデプロが不動産売買取引を行った複数の合同会社等について、当該法人が、アルデプロの子会社もしくは関連会社又は関連当事者に該当するのではないかという疑義が生じており、いずれかに該当する場合には、過年度の有価証券報告書の訂正又は過去に適時開示した「支配株主等に関する事項」の記載について訂正が必要となることから、社外調査委員会による調査が行われたものである。 ② 会計処理に対する評価 社外調査委員会は、事実関係を調査した結果として、これら一連の不動産売買に係る取引の相手方については、アルデプロの子会社もしくは関連会社には該当せず、実質的には、アルデプロの支配株主であったドラゴンパワーの子会社に該当することを認め、ドラゴンパワーがアルデプロの支配株主であった期間の取引については、アルデプロにとっては関連当事者に該当することを認めている。 (3) 循環取引の疑義のある案件(辛案件) ① 事案の概要 アルデプロは、2023年2月20日付で、辛物件に係る不動産信託受益権(以下「辛信託受益権」という)をCC社から取得したうえで、同日付でQQ社に売却する取引を行っているが、本件売買契約については、2023年2月14日及び翌15日にNN社のaa氏から椎塚社長らに対し、スキーム図がメールで送付されており、このスキーム図によれば、辛信託受益権が、権利者である辛LL社から、CC社、アルデプロ、QQ社と順次売却されたあと、再び辛LL社が取得する内容となっていることから、このスキーム自体が循環取引ではないかとの疑義が生じたため、社外調査委員会により、本件売買契約を含むスキームが循環取引に該当するかどうかを検証したものである。 ② 会計処理に対する評価 社外調査委員会は、事実関係を調査した結果、経済的実質を伴わない循環取引であるスキームの一部を構成している本件売買契約によって生じた取引を収益(売上)として認識することはできないと評価したうえで、本件取引は、たとえ、NN社(aa氏)が主として椎塚社長に持ち掛け、椎塚社長はこれに応じたものであったとしても、本件における取引(スキーム)を全体として判断すれば経済的実質がある取引とは認められず、営業取引として扱うべきではないため、売上計上はできないと結論づけている。 3 社外調査委員会による原因分析(調査報告書162ページ以下) 社外調査委員会は、原因分析の冒頭で、本件事案は、取締役会や仕入投資委員会を通じた確認、牽制及び監督といったガバナンスが機能しなかったことが、大きな発生原因の1つであったと考えられるとしたうえで、その背景において、上場企業として求められる会計報告責任を果たすために必要な知識や意識が各関係者に不足していたこと、さらには、これらガバナンスに関する問題点及び会計責任に関する問題点に留まらず、不適切な行為が容易に起き得る社内環境があったと結論を述べたうえで、下記の項目を列挙している。 いくつか特徴的な指摘事項を見ておきたい。 まずは、アルデプロが、2009年に発覚した会計不正事件の再発防止策における内部統制システムの一環として設置した「仕入投資委員会」の牽制機能が形骸化していたという指摘である。社外調査委員会は、循環取引であると判断した辛案件において、取引全体のスキーム図が仕入投資委員会に提供されず、対象物件が実質的に移転していない点が示されていなかったこと、午後6時過ぎに審査を依頼するメールが送信され、その審査の返答が翌日午前中に求められ、十分な検討時間が確保されない懸念がある状況も見受けられ、仕入投資委員会の審査が軽視されていたことを示すものと指摘している。また、仕入投資委員会の委員に対するヒアリングでは、「案件に疑義があるという理由でストップをかけたことはない」、「一応多少の実質面は見るが、NOとは言わないという機関だと思われている可能性はある」、「会社に質問をするのは、イメージ的には20~30件に1件ぐらい」との供述があることなどから、審査の実効性に疑間を投げかけざるを得ないとしたうえで、仕入投資委員会の審査が十分に機能していれば本件事案の発生が防げた可能性を否定できないとまとめている。 次に、アルデプロが、不動産業者であるにもかかわらず、不動産業界における取引慣行に起因するリスク及びそのリスクに係る考慮、対応が不十分であったという指摘である。社外調査委員会は、不動産業界の一部における取引慣行として次の3つを挙げ、こうした特有の取引慣行は、取引実態が不透明なものとなりやすく、一般的な取引と比べて循環取引等の会計上の問題が生じる危険性も高いとしている。 そのうえで、社外調査委員会は、アルデプロについて、相手先との間で貸付等の取引をするに際して、将来的に当該相手先が他の第三者に対して不動産を売却する際に、 アルデプロが仲介等の形で関与することにより収益を獲得することを見込んで、当該取引を実行していた例について、不動産取引においては、買主を紹介することで不動産売買に関与すること自体は一般的であるため、取引の合理性自体は否定できないが、調査対象となった貸付について、現時点で回収ができていないことを踏まえれば、将来の収益獲得が不確実であるリスクを考慮できていないと指摘している。 4 社外調査委員会による再発防止策の提言(調査報告書170ページ以下) 上記の原因分析を踏まえて、社外調査委員会は、以下の再発防止策を提言している。 ここでも、仕入投資委員会に注目して、社外調査委員会によるガバナンスの強化策を見ておきたい。 社外調査委員会は、仕入投資委員会が、循環取引の疑義のある取引について取引中止の勧告を含む慎重な判断が必要だったにもかかわらず、案件の属人化に伴う情報の共有不足があったことを改善し、現在の仕入投資委員会の委員及びそのサポート体制に会計専門家が含まれていないことを踏まえて、委員、委員を補助する外部専門家を含む人員の増強、十分な審査時間の確保、仕入投資委員会が否決した取引については実行を禁止する強い権限の付与等、牽制機能を強化すべきであると提言している。 さらに、社外調査委員会は、取締役会においても、機能強化あるいは実効的な機能を発揮できる体制とされた仕入投資委員会における議論状況や勧告内容を踏まえた深度ある検討が必要不可欠であり、代表取締役の説明のみで議論が完結し、必要な議論や検討を欠いていた実態を改め、適切な監督機能が発揮される必要があると提言している。   【報告書の特徴】 2009年11月24日付で、証券取引等監視委員会が2億8,155万円の課徴金納付命令勧告を発出し、翌25日付で、東京証券取引所から特設注意市場銘柄指定を受けた過去を有するアルデプロが、再び、特定の取引に関し、社外調査委員会を設置して事実関係を調査することとなった。その結果は、代表取締役が主導する不動産取引の一部に循環取引があり、過年度有価証券報告書等の修正を余儀なくされるものであるとともに、過去において開示していた「支配株主等に関する事項について」の記載につき、大幅な訂正の必要が生じることとなった。 調査結果の公表を受けて、東京証券取引所は早々に2度目の特設注意市場銘柄指定に踏み切っており、本稿執筆時点ではまだ公表されていないものの、同じく2度目の課徴金納付命令勧告の発出が予想される。本件の特徴を見ておきたい。 1 アルデプロが、2009年10月23日に受領した調査報告書における再発防止策 アルデプロは、前回の特設注意市場銘柄指定及び課徴金納付命令勧告の原因となった取引(過去の業績に影響を与える事象)に関して、2009年6月16日に設置した調査委員会から、10月21日付で調査報告書を受領し、公表している。 調査報告書では、調査委員会による再発防止策の提言として、以下の4項目が挙げられている。 再発防止策が履行されていたからこそ、特設注意市場銘柄指定の解除が可能であったことは間違いないところであるが、その後の運用において、機能していなかったことは、社外調査委員会による原因分析で指摘されているとおりである。 なお、2009年設置の調査委員会には、取締役(監査等委員)で弁護士の伊禮勇吉氏(2003年9月から、アルデプロ監査役に就任している)も、調査委員として参加しているが、自らが調査委員として策定した再発防止策が、時間の経過とともに形骸化していたことに対して、伊禮取締役(監査等委員)がどのような見解を有しているのか、社外調査委員会による調査報告書には記載がない。 2 会計監査人の異動に関するお知らせ アルデプロは、2023年9月29日、「会計監査人の異動に関するお知らせ」をリリースし、会計監査人である霞友有限責任監査法人が、2023年10月30日開催予定の第36回定時株主総会の終結の時をもって任期満了となることから、当社の事業規模に見合った監査品質の確保の観点から勘案した結果として、新たにフロンティア監査法人を会計監査人として選任することを公表した。 3 東京証券取引所による特設注意市場銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求 東京証券取引所は、11月29日、「特設注意市場銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求について」をリリースして、アルデプロについて、「適時開示の規定に違反し、内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められる」ことを理由に特設注意市場銘柄に指定すること、「適時開示の規定に違反し、当取引所の市場に対する株主及び投資者の信頼を棄損したと認められる」ことを理由に上場違約金2,880万円を徴求することを公表した。 東京証券取引所が公表した「理由の詳細」の一部を引用する。 4 2024年7月期第1四半期報告書に係る四半期レビュー報告書の結論の不表明 アルデプロは、12月15日、「2024年7月期第1四半期報告書に係る四半期レビュー報告書の結論の不表明に関するお知らせ」をリリースして、会計監査人であるフロンティア監査法人が実施した四半期レビューにおいて、「株式会社アルデプロ及び連結子会社の2023年10月31日現在の財政状態及び同日をもって終了する第1四半期連結累計期間の経営成績を適正に表示していないと信じさせる事項が全ての重要な点において認められなかったかどうかについての結論を表明しない」との記載のある四半期レビュー報告書を受領したことを公表した。 フロンティア監査法人による「結論の不表明の根拠」は以下のとおりである。 5 代表取締役の辞任、役員報酬の減額 アルデプロは、上記4のリリースと同日、「代表取締役の辞任、取締役・人事の異動ならびに役員報酬の減額に関するお知らせ」をリリースして、2024年3月31日付で、椎塚社長が辞任をするとともに、取締役執行役員管理本部長佐藤孝二氏(以下、「佐藤取締役」と略称する)が、2023年12月15日付で取締役を辞任することを公表した。 椎塚氏の辞任理由については、次のとおりである。 一方、佐藤取締役の辞任理由については、「2024年7月期第1四半期報告書の独立監査法人の四半期レビュー報告書において、結論が不表明となったことの責任を取って、本人からの取締役を退任したいとの申し出」があったとのことである。 さらに、同リリースでは、椎塚社長以下3名の取締役及び3名の取締役(監査等委員)全員の役員報酬減額も合わせて公表され、同日開催の取締役会及び監査等委員会において、社外調査委員会の調査報告書の提言内容を厳粛に受け止め、責任の明確化を図るため役員報酬の減額を実施することを決議したことが説明されている。 (了)

#No. 549(掲載号)
#米澤 勝
2023/12/21
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