《速報解説》 会計士協会が「上場会社等の監査を行う監査事務所の 適格性の確認のためのガイドライン」を策定 ~【重要な不備事項】等の判断基準についても記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年6月19日付けで(ホームページ掲載日は2023年6月29日)、日本公認会計士協会は、「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」を公表した。 このガイドラインは、レビューチームが、適格性の確認のために品質管理レビューを行うに当たり、上場会社等の監査を行う監査事務所が、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を公正かつ的確に遂行するに足りる体制を備えているかどうかを判断するに当たっての着眼点及び判断基準を示すことを目的としている。 「適格性の確認」とは、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を公正かつ的確に遂行するに足りる体制(公認会計士法34条の34の6第1項各号及び同法34条の34の14並びに公認会計士法施行規則87条各号及び93条から96条まで)を備えているかどうかについて確認するプロセスである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 ガイドラインでは、次の(1)から(3)に掲げる項目についての着眼点及び判断基準を示している。 ガイドラインでは、【極めて重要な不備事項】、【重要な不備事項】の判断基準が記載されている。 当該判断基準において示されている不備の程度は、あくまでも1つの目安であり、【重要な不備事項】とされている項目も、当該判断基準に掲げる各項目を形式的に当てはめて捉えるのではなく、監査事務所の状況によりその不備の程度が重大であると捉えられる場合には、【極めて重要な不備事項】として判断されることもあるとのことである。 (了)
《速報解説》 JICPA、品質管理レビューの3ヶ年及び単年度の方針を明文化 ~品質管理レビューが果たすべき役割や基本姿勢、重点的実施項目等を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年6月19日付けで(ホームページ掲載日は2023年6月27日)、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これは、2023年4月1日施行の改正公認会計士法による上場会社等監査人登録制度の導入や、改訂品質管理基準の適用を踏まえて、品質管理レビューの3ヶ年及び単年度の方針を明文化するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 品質管理レビュー基本方針(2023年度~2025年度) 品質管理レビューが果たすべき役割や基本姿勢を示すとともに、制度改正や基準改訂への対応、環境変化に対応するための品質管理レビュー体制の強化、上場会社監査を行う中小監査事務所に向けた指導・監督の充実・強化など、重点をおいて実施すべき取組に係る対応方針を示している。 次のことが記載されている。 Ⅲ 2023年度品質管理レビュー方針 上場会社等監査人登録制度への対応を中心に、2023年度の品質管理レビューにおける重点的実施項目を記載している。 重点的実施項目とは、監査事務所における品質管理のシステムの構成要素のうち、特定の部分及び特定の監査手続等を示し、品質管理レビューにおいて必ず確認し、必要に応じて指導するものである。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和4年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2023(令和5)年6月21日、「令和4年10月から12月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、消費税法関係が3件、所得税法関係が2件、国税通則法関係、法人税法関係と国税徴収法関係が各1件で、合わせて8件となっている。直近1年あまりは各回の公表数が5件以下にとどまっていたが、久しぶりに件数が増加している。 【表:公表裁決事例令和4年10月から12月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された裁決事例のうち、審査請求人が法律の不備を主張した事例(前掲表①)、太陽光発電による売電収入が事業所得に当たるかどうかが争点となった事例(前掲表②)及び消費税の仕入税額控除の適用において帳簿等の不提示が争点となった事例(前掲表⑦)について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 1 審査請求人による法律の規定に不備がある旨の主張は採用できないとした事例・・・① (1) 事案の概要 本件は、原処分庁が、給与所得者である審査請求人は外国為替証拠金取引や株式等の譲渡取引によって生じた所得があったにもかかわらず確定申告をしなかったとして、所得税等の決定処分等をしたのに対し、審査請求人が、税法の不備を理由として、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 審査請求人の主張 審査請求人は、原処分について、国税に関する法律に基づいて実施された処分であることを認める一方、先物取引や株式の譲渡取引の各損益が、各取引を実施した全ての期間の損益を通算してそれぞれ赤字となる場合には、先物損失の繰越控除や上場株式等譲渡損失の繰越控除が認められる3年を超える期間であっても通算をそれぞれ認めるべきであり、また、先物取引の損益と株式の譲渡取引の損益の間でも通算を認めるべきであるから、このような取扱いのない現行の法律には不備がある旨主張した。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であって、その処分の基となった法令自体の適否又は合理性を判断することはその権限に属さないことであるので、審査請求人が主張する法律に不備があるか否かについては、当審判所の審理の限りではないとの判断を示したうえで、本件各決定処分は適法であり、審査請求は理由がないから、これを棄却する裁決をした。 2 審査請求人が相続財産の一部の貯金のみを申告していなかった事例・・・ ② (1) 事案の概要 本件は、会社役員であり給与所得のある審査請求人が、太陽光発電への取組に係る損失の金額を事業所得の金額の計算上生じたものとして所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該損失の金額は雑所得の金額の計算上生じたものであるなどとして更正処分等をしたのに対し、審査請求人が原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (2) 審査請求人の主張 審査請求人は、太陽光発電に係る取組は、20年間のシミュレーションに基づき利益を見込んだ上で、資金調達を行い、各太陽光発電設備等及びa市設備を取得するなど、その規模からみても事業に該当する経済的行為であり、有償性、営利性を有していると主張し、実際に売電収入が発生していたa市設備と売電収入が発生していない他の太陽光発電設備を分離・区分せずに、諸般の要素に照らし判断すると、本件取組は「事業」に該当する旨主張した。 (3) 原処分庁の主張 原処分庁は、調査が行われた時点において、各太陽光発電設備は存在しないか、他の者により管理・運営されており、審査請求人は、本件各太陽光発電設備から何ら収入を得ていなかったことなどから、本件各契約については、H社の代表取締役であるRが審査請求人から金員を詐取することを企図して締結したものであったと推認されるとして、太陽光発電に係る取組のうち本件各太陽光発電設備の設置又は取得等については、事業とは認められないと主張した。 (4) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、審査請求人による太陽光発電に係る取組について、次のような事実を認定したうえで、これらの認定した事実を総合的に検討し、社会通念に照らして判断すると、本件業務は、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務ということができないから、「事業」に該当しないという判断を示した。 3 帳簿の保存期間を徒過した課税期間における仕入税額控除の適用可否事例・・・⑦ (1) 事案の概要 本件は、原処分庁が、野菜の生産及び販売を事業として営む個人事業者である審査請求人に対し、審査請求人の弟名義の農産物取引に係る収益は審査請求人に帰属するなどとして、青色申告の承認の取消処分、所得税等及び消費税等の更正処分等並びに源泉所得税等の納税告知処分等をしたのに対し、審査請求人が、当該収益は審査請求人に帰属しないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 審査請求における争点は多岐にわたっているが、本稿では、調査対象となった課税期間において、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上の取引について、仕入税額控除が適用されるか否か(争点7)について、国税不服審判所の裁決を検証したい。 (2) 審査請求人の主張 審査請求人は、本件3課税期間(平成26年課税期間から平成28年課税期間)の法定請求書等は、調査の初日に調査担当職員を帳簿の保管場所に案内した際に保存があり、審査請求人は調査担当職員に対し提示しようとしたのだから、審査請求人は法定請求書等を確実に提示したことになる旨、及び審査請求人が調査担当職員から法定請求書等の保存の確認や提示の要請をされた事実はないことは、調査中の調査担当職員の発言の記録や調査担当職員が提示した本件3課税期間の修正申告書案等において仕入税額控除が適用されていたことなどからも明らかである旨を主張した。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、本件3課税期間について、平成26年課税期間は、調査が開始された令和2年12月1日において、法定請求書等の保存を要しないこととなっており、同月10日に総勘定元帳が提示されているのであるから、保存要件を充足しているものと認められるが、平成27年課税期間及び平成28年課税期間においては、調査担当職員は、令和2年12月10日に本件3課税期間各総勘定元帳の提示を受け、これを留め置いた後、再三にわたり、留置帳簿等以外で保存している帳簿書類等の提示を求めているが、税理士は、法定請求書等の保存を要する期間内である令和3年3月3日に、審査請求人には本件留置帳簿等以外の資料の保存はない旨回答し、本件留置帳簿等以外の帳簿書類等の提示をしなかったことが認められることから、平成27年課税期間及び平成28年課税期間については、法定請求書等の保存を要する期間において、税務職員からの提示の要請に対して適時に提示せず、法定請求書等の保存要件を充足していないものと認められるという判断を示したうえで、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上である取引について仕入税額控除は認められないから、結論としては、審査請求人の平成26年課税期間の消費税等については、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上の取引についても仕入税額控除が適用されるが、平成27年課税期間及び平成28年課税期間の消費税等については、課税仕入れに係る支払対価の合計額が3万円以上である取引について、仕入税額控除は適用されないという裁決を示した。 (了)
《速報解説》 会計士協会公表の「2022年度 品質管理レビューの概要」等において、のれんの評価・固定資産の減損会計に係る改善勧告事項等の事例解説を掲載 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年6月27日、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これらは、監査法人又は公認会計士が行う監査の品質管理の状況をレビューする制度(品質管理レビュー制度)に基づくものであり、基本的な対象は、監査法人又は公認会計士である。 しかしながら、これらに記載されている内容については、一般の事業会社における会計処理等にも関連するものがある。 「品質管理レビュー事例解説集(Ⅰ部)」は、改善勧告事項を社会一般に分かりやすく伝えることを目的として、品質管理レビュー制度の概要と改善勧告事項の意義を説明し、改善勧告事項の中で基本的かつ重要な項目を取り上げている。 「品質管理レビュー事例解説集(Ⅱ部)」は、改善勧告事項の多くの領域を取り上げることにより、主として日本公認会計士協会の会員の監査実務に資することを目的としつつ、監査役や経理責任者等に対する参考情報の提供も目的としている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計処理等に関連する改善勧告 「2022年度 品質管理レビューの概要(本編)」では、従来と同様に、「会計上の見積りの監査」に関して、下記の指摘事項が記載されている。 また、「2022年度 品質管理レビュー事例解説集(Ⅰ部)」及び「2022年度 品質管理レビュー事例解説集(Ⅱ部)」では、例えば、次のような事項が指摘されている。 具体的な内容は、「2022年度 品質管理レビュー事例解説集(Ⅰ部)」及び「2022年度 品質管理レビュー事例解説集(Ⅱ部)」をお読みいただきたい。 Ⅲ 品質管理レビューの概要(資料編) 「2022年度 品質管理レビューの概要(資料編)」では、会計監査人の異動理由の分析や、監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)による上場会社の監査業務における品質管理の項目別の指摘なども記載されている。 監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)は、世界各国・地域の監査監督機関から構成された組織である。 (了)
2023年6月29日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.525を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
これからの国際税務 【第37回】 「第2の柱:軽課税所得ルール(UTPR)の見通し」 千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二 1 第2の柱についての我が国国内法の動向 2021年10月にOECD/G20から公表された経済のデジタル化対応の2つの柱から成る国際課税の新ルール合意のうち、2022年中に詳細設計の国際協議が進捗した(※1)第2の柱(15%のグローバル・ミニマム課税、租税条約面の対応も含めて「GloBE税制」とも呼称)の中核をなす所得合算ルール(IIR)について、政府は、令和5年度税制改正で国内法への導入を行った。 (※1) 2021年12月にOECDから公表された国内法のモデルルールとその実施要領を展開した2022年3月公表のコメンタリー、更には、2022年12月に公表された執行細則を指す。 多国籍企業の世界の法人税負担を、実効税率15%まで確保することを目的とするGloBE税制の中核となるIIRの国内法制化は、法人税法へ規定を追加する形で行われた。すなわち、内国法人の課税所得の範囲を定める総則規定において、各事業年度の所得に対する法人税(法5条)、連結親法人に対する法人税(同6条)に続けて、「特定多国籍企業グループ等に属する内国法人に対する各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」(同6条の2)を規定し、その課税標準等を定める細則は、法人税法第2編(内国法人の法人税)の第2章(同82条~82条の10)において、詳細に規定されている。 なお、上乗せ税額を算定する上で控除される構成会社等の所在地国で課される「自国内最低課税額に係る税額(QDMTT)」は、上乗せ税額の算定上の控除項目として規定されているものの、我が国自身が発動する根拠となるQDMTT課税条項は、今回の改正法に含まれていない(※2)。また、IIRの採用が任意とされたため、IIRを行使する資格のある親会社所在地国が軽課税国であったり15%のトップアップ課税を行わない場合の、バックストップとして設計されている軽課税所得ルール(UTPR)についても、同様の理由で来年度以降の改正に繰り延べられている(※3)。 (※2) QDMTTについては、ハブ機能を果たす国を中心に多くの国で導入の意向が伝えられている。租税特別措置の広範な適用があった場合など、我が国所在の構成会社も15%を下回る実効税率となりうるため、与党大綱では、我が国も、OECDでのガイダンス発出を踏まえた同制度導入を来年度以降の改正候補に挙げている。 (※3) 我が国には、合算課税の適用対象となりうるグループ企業(グローバル売上7.5億ユーロ以上)の親会社が多く存在することに加えて、我が国政府が、多国籍企業間の競争条件の公平化をもたらす本合意形成に、OECD/G20で終始リーダー的な役割を果たしてきたこともあって、IIRに関する速やかな法改正が行われたとみられる。 (図表)3種類の国内法対応規則 (出典) 財務省パンフレット「令和5年度税制改正」(令和5年3月発行) GloBE税制の国内法制化は、我が国のみならずEUやハブ国を中心に確実に進展しているものの(※4)、IIRのバックストップ税制とされるUTPRについての施行ガイダンスの遅れや同税制の国際法との整合性への懸念提起などにより、第2の柱の進展動向に陰りがみられている。以下では、米国での議会審議の停滞と学界や実務者間でのUTPRの正統性をめぐる議論を紹介するものである。 (※4) EUは、2022年12月にグローバル・ミニマム課税ルールに係る導入指令を全会一致で採択した(同指令の適用時期は2023年12月31日以降に開始する事業年度。ただし、UTPRについては、更に1年遅れの2024年12月31日以降開始の事業年度)。なお、OECDでの合意形成に貢献した米国は、昨年GloBEルールと整合性のない独自の代替ミニマム税を導入している。 2 米国における議会の反応 2021年10月の2つの柱に関する国際合意に向けてリーダーシップを発揮した米国イエレン財務長官は、GloBEルール実施を決議したEU指令(2022年12月)にエールを送りつつ、米国においても同ルールの国内法制化(米国の場合は、GloBEルールと同じ目的を持つ既存のGILTI税制等をGloBEルールと整合的なものに修正する過程)の最終的な実現については楽観的な見通しを示していた。 しかし、与野党の勢力保持が上・下院でねじれ状況にある米国議会は、昨年から今年の2年間にわたり、OECDとの協調を目指すバイデン政権税制改正提案(通称グリーンブック)に対して、以下のとおりストップをかけ続けており、今後の見通しも立っていない状況にある。 (1) 2022年の議会対応 第2の柱との整合性を目指したGILTI税制の改革(実効税率15%の判定基準をグローバルから国別に変更する等の内容)を含む2022年春のグリーンブックに基づく政府税制改正案(Build Back Better Act法案)について、議会は民主党有利と見られた上院での支持獲得に失敗し、成立したThe Inflation Reduction Actでは、多くの点で第2の柱と整合的とはいえない、「15%の法人ミニマム税(法人AMT)(※5)」の導入が行われた。 (※5) 法人AMTは、国別所得ではなくグローバル所得に対して課されるなど、課税ベースがGloBEルールと異なるため、GloBEルールを採用した国から、米国での実効税率が15%に達していないとして米国法人グループが課税を受けるリスクがあると指摘されていた。Jane G. Gravelle, Congressional Research Service, ”The 15% Corporate AMT”(2022.12) (2) 2023年の議会の対応 政府からは昨年同様Build Back Better Act法案と同様のGILTI税制をGloBEルールと整合的にする改正案が提案されたが、それに対しては、5月末に、同意できないとする問題意識を持った下院共和党議員たちによるThe Defending American Jobs and Investment Act法案が下院歳入委員会に提出された。同法案の提案者たちは、特に、第2の柱の下でのUTPRの適用は、米国企業を狙い撃ちにした課税の域外適用である点を問題視しており、そのような執行を行う国に対しては、当該国の法人や投資者に対する米国での課税を強化する措置を実施すべきと主張している。 このように、共和党法案は、OECD及びその背後にいる欧州勢との対決姿勢を明確にしており、同党からは、「第2の柱の執行は停止し、まず第1の柱の処理から始めよう」との主張(※6)まで出ているため、今後の動向から目を離せない状況にある。 (※6) ”House Tax Bill to focus on TCJA Extensions” Tax Notes International(2023.6.9) 3 学界等での百家争鳴の議論 第2の柱のうちUTPRについては、昨年来から研究者・実務家を含めて国際課税の新ルールとしての合理性・理論的正統性をめぐって、多くの議論が行われてきた。批判・肯定の両論についてその大枠を以下に紹介する(※7)。 (※7) この点をまとめた論文として、Michel Tumpel他4名による”The UTPR and International Law: Analysis From Three Angles”(Tax Notes International,2023.5.15)があり、以下の紹介はこれを参照している。 (1) 批判論 批判論の中心は、UTPRが、「価値創造地に課税権を配分すべし」とするBEPSでの新しい課税ルール見直しの原点に違反するというものである。すなわち、親会社所在地国でのGloBEルール不採用により、バックストップとして与えられる構成事業体所在地国への課税権賦与は、当該構成事業体が創造する付加価値と無関係のものであり、そのような課税は、既存の国際課税ルール(2国間租税条約の基礎をなしている諸原則)と整合しておらず、違法の懸念があって認められないとしている。 この点は、GloBE ルールが、UTPRは新たな租税条約の合意なしに国内法の措置で課税可能と整理したことにより、特に批判を強めるところとなっている。すなわち、UTPRはもともと構成事業体からの税源浸食を伴う支払いについての損金算入否認規定として位置づけられていたもの(Under Taxed Payment Rule)――これ自体は、既存ルールの枠内とみられる――が、最終時点でIIRのバックストップ機能確保のための追加的な調整を含む制度(Under Taxed Profit Rule)と位置づけられた点にも批判の焦点が当てられているようである。 (2) 肯定論 上記の多くの批判論に共通する点は、UTPRはいくつかの国々に対し、正統化されるべき資格なしで課税することを許容しているという主張であるが、これに対しては、以下の反論が行われている(※8)。 (※8) この点を具体的に指摘するものとして、Allison Christians, T.D. Magalhaes, ”Undertaxed Profits and the Use-It-or-Lose-It Principle”(Tax Notes International,2022.11.7) 4 私見 批判論は、現行の国際課税ルールの解釈基準から見て、合理的な主張と筆者自身も考える。 第2の柱の合意内容のうち、IIRが国内法改正のみで執行可能なのはCFC税制の前例から見ても首肯できるところであるが、UTPRに係る合意は、多国間条約によるサポートが必要ではなかったかと思われるところである。 いずれにしても、最大のステークホルダーであるアメリカの政治状況とともに、その背後にあると思われる学界・実務界でのUTPRをめぐる議論にも注目する必要があろう。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第27回】 「合法性の原則の外在的制約」 -青色申告承認「信義則」事件・最判昭和62年10月30日訟月34巻4号853頁の意義と限界- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は、合法性の原則の制約について、租税平等主義との関係で内在的制約を検討したが、今回は、信義則との関係で外在的制約を検討することにする。その検討の素材としては、青色申告承認「信義則」事件・最判昭和62年10月30日訟月34巻4号853頁(以下「本判決」という)を取り上げ、その判断の内容及び限界を明らかにしながら、合法性の原則と信義則との適用関係について検討する。 その検討を始めるに当たって、まず、合法性の原則の「外在的制約」の意味について確認しておくことにしたい。前回は、租税平等主義との対立思考の下で合法性の原則の外在的制約を論じたが、今回論じる「外在的制約」については、次のⅡで述べるように、それとは意味を異にするものとして捉えている。 Ⅱ 合法性の原則に対する信義則による制約の捉え方 金子宏教授は、夙に、合法性の原則と信義則との適用関係について次のとおり述べておられた(同『租税法理論の形成と解明 上巻』(有斐閣・2010年)62頁[初出・1974年]。下線・傍点筆者)。 金子教授は、その権威ある体系書『租税法』(弘文堂)においても初版(1976年)76頁から第24版(2021年)143-144頁まで、上記の見解を基本的には維持してこられた。金子教授の見解の特徴は、合法性の原則と信義則との適用関係の問題を「租税法律主義の内部における価値の対立の問題」(第24版では144頁。太字筆者)として捉えている点にある。そうすると、合法性の原則に対して信義則が「優越」する場合、租税法律主義の「内在的制約」が論じられていると解することもできるかもしれないが、果たしてそうであろうか。 租税法律主義は、確かに、「法的安定性」を重視するものであり、このことに異論はない。法的安定性とは「どのような行動がどのような法的効果と結びつくかが安定していて、予見可能な状態」(高橋和之ほか編集代表『法律学小辞典〔第5版〕』(有斐閣・2016年)1203頁)をいうから、これを「信頼の保護」と同義・同等に取り扱うことも妥当である(金子・前掲書『租税法理論の形成と解明 上巻』61頁も参照)。 しかしながら、法的安定性は、租税法律主義の機能として保障されるものであり(金子・前掲書『租税法理論の形成と解明 上巻』47頁、同『租税法〔第24版〕』79頁参照)、しかもその機能(筆者は予測可能性と結びつけて予測可能性・法的安定性保障機能と呼んでいる)は、租税法律主義の派生的機能として、租税法律主義の本来的機能である課税の適法性保障機能から導出されこれと両立し得るものでなければならないと考えるところである(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【11】参照)。 そうすると、法的安定性を信頼の保護と同義・同等に取り扱うとしても、それは合法課税すなわち合法性の原則に適合する課税に対する法的安定性であり信頼の保護であると考えるべきであろう。ただ、そのような意味での「信頼の保護」は、合法性の原則それ自体によって保障されるのであるから、信義則を適用するとしても、それは合法性の原則による保障を確認する意味しかもたず、信義則の適用を論ずることそれ自体に特段の実益はないといってよかろう。 これに対して、租税法律関係において信義則の適用が意味をもつのは、先に引用した金子教授の見解でも述べられているように、「誤った解釈や認定」による課税すなわち合法性の原則に反する課税に対する納税者の信頼を保護する場合である。この場合において合法性の原則と信義則との適用関係の問題を「租税法律主義の内部における価値の対立の問題」というとすれば、それは、合法性の原則に反する課税とこれに対する納税者の信頼の保護という、租税法律主義の外部にある価値の対立の問題を、租税法律主義の内部に取り込もうとすればその内部でも価値の対立を惹起するであろう問題、というような意味においてであろう。そうすると、そこで問題とされているのは、執行上の原則としての租税法律主義すなわち合法性の原則に対してその外部にある信義則によって加えられる制約であり、合法性の原則の「外在的制約」というべきものであると考えるところである。 Ⅲ 合法性の原則に対する信義則による制約の余地 では、合法性の原則に対する信義則による制約(外在的制約)、換言すれば、合法性の原則に対する信義則の「優越」の余地は認められるのであろうか。以下では、この問題について、本判決に則して検討していくことにする。 本判決は、租税法律関係における信義則の適用について次のとおり判示している(下線・傍点・[]内数字記号筆者)。 本判決を一読してまず気がつくのは、本判決が租税法律関係における信義則の適用について極めて慎重な態度でいわば「三段構えで極めて腰の引けた判断」(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)150頁[初出・2021年])を示している、ということである。つまり、租税法律関係における信義則の適用について、❶では、適用できる場合があると断定せず、適用できる場合がある「としても」と説示し、❷では、適用を考えるのではなく、適用の「是非」を考えると説示し、❸では、適用のために不可欠の考慮要素を完結的に列挙するのではなく、最低限(「少なくとも」)列挙するにとどめている、ということである。 それでも、本判決については、一般論としては、信義則の適用(法律による行政の原理=合法性の原則に対する「優越」)の余地を認めた判決として理解する見解が多く(差し当たり水野忠恒「判批」租税判例百選〔第7版・別冊ジュリスト253号・2021年〕36頁、原田大樹「判批」行政判例百選Ⅰ〔第8版・別冊ジュリスト260号・2022年〕42頁参照)、筆者自身もそのように理解している(前掲拙著『税法基本講義』【82】参照)。それは、「法律による行政の原理の形式的適用では、具体的妥当性に欠ける事態が生ずる」(塩野宏『行政法Ⅰ〔第6版〕行政法総論』(有斐閣・2015年)92頁)場合があり得る以上、そのような場合には「個別的救済の法理としての信義則の適用が肯定されるべきである」(金子・前掲『租税法〔第24版〕』144頁。下線筆者)と考えられるからである。 ただ、本判決は「法の一般原理である信義則の法理」を「個別的救済の法理」として適用する場合において、前回検討した租税平等主義のように、それを直接そのまま適用して合法性の原則を退けるか否かを判断するのではなく、前掲判決文中の❸で列挙した考慮要素を信義則の適用要件として形成し、それらの要件の充足の有無によって合法性の原則を退けるか否かを判断する、という法創造に基づく判断枠組みを採用したものと解される。このことは、本判決が前掲判決文に続く下記の判示において、❸で形成した適用要件のうち①公的見解の表示要件の不充足のみをもって信義則の適用を否定したこと(このことはこの要件を、裁判における訴訟要件すなわち本案判決の要件に相当する「入口要件」として、形成したことを意味する)から、明らかである(宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第7版〕』(有斐閣・2020年)51頁も参照)。 要するに、本判決は、信義則を法創造根拠理由としてその適用要件を法創造によって形成し、「少なくとも」①公的見解の表示要件、②行動要件、③経済的不利益要件及び④帰責要件を適用要件として判示したものと解される(前掲拙著『税法創造論』149頁参照。法創造根拠理由の意味については同131頁参照)。この法創造は、当該合法課税に係る根拠規定について、納税者の信頼を保護するための宥恕規定(この意味をも有する規定として例えば税通23条2項3号(「やむを得ない理由」)、同65条4項・66条1項柱書但書・5項(「正当な理由」)がある。前掲拙著『税法基本講義』【84】参照)の欠缺を補充するという意味での法創造であり、法学方法論の観点からみると、ある法規に関する適用除外規定の欠缺を補充するための法創造である目的論的制限(teleologische Reduktion. これについて参照、Larenz, Methodenlehre der Rechtswissenschaft, 6. Aufl., Berlin 1991, 391ff., 前掲拙著『税法基本講義』【46】)と類似する機能を有するものである。 ところで、本判決の判断が「三段構えで極めて腰の引けた判断」であることは既に述べたが、租税法律関係を「法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき」ものとする本判決の態度が、租税法律関係における信義則の適用をそのように過度に慎重なものとしたことは、①公的見解の表示要件を信義則の適用要件のうち「入口要件」として形成し、かつ、これを税務「官庁」概念(税務行政の意思を決定し外部に表示する権限を有する税務行政機関)により記述することによって税務行政内部の事情を納税者側の事情よりも優先的に考慮すること、換言すれば、税務行政側の公的見解の表示に対する納税者の信頼が保護に値するか否かを判断するために考慮すべき前記②ないし④のいわば「本案要件」を検討しないこと、に帰結したものと解される。 しかし、それでは、本判決が信義則を「個別的救済の法理」として位置づけその適用について「本腰」を入れて検討したとはいえないように思われる。つまり、本判決が示した信義則に関する法創造は「中途半端なもの」といわざるを得ず、そこに本判決の根本的な限界があるように思われるのである。 Ⅳ おわりに 今回は、合法性の原則の制約(外在的制約)について信義則との関係で検討し、租税法律関係における信義則の適用に関する本判決の内容及び限界を明らかにした。 本判決の以上で明らかにした根本的な限界を、次の見解(中川一郎編『税法学体系総論〔第6版〕』(三晃社・1974年)141頁。下線筆者。同書の全訂増補版(1977年)104頁では叙述が簡略なものとされている。また、同『税法学巻頭言集』(清文社・2013年)30-31頁[初出・1952年]も参照)で明確に述べられている税法における信義則の重要性及び法的性格に照らしてみると、本判決の判断態度から判断内容に至るまで判例理論を抜本的に見直す必要があると考えるところである。 この見解は、正当にも、信義則は「それ自体法規範ではない」ものの「法規範の形成力」を有することを指摘しているが、ここで信義則の「法規範の形成力」というのは、信義則が前述の「法創造根拠理由」たり得ることを意味するものと解される。上記見解の説くように、憲法は国民主権原理に基づき「相互信頼関係」の上に租税法律関係を形成することを要請すると解すべきであるが、信義則は法創造根拠理由として「法規範の形成力」によってその要請を実現しなければならないと考えるところである。このことは、裁判の場面では、信義則を司法における「個別的救済の法理」として個別具体化することを意味するものである。 このような信義則の重要性及び法的性格を考慮すると、租税法律関係における信義則の適用については、まず第1に、裁判所は本判決にみられるような「三段構えで極めて腰の引けた判断」態度を改めなければならない。そのような態度は、信義則に基づき創造・形成される法規範の内容を曖昧・不明確なものにするが、裁判官による法創造が司法的立法と呼ばれるとおり、国家機関による立法の一種である以上、それにも租税法律主義とりわけ課税要件明確主義が適用されると考えるべきであることから、信義則に基づき創造・形成される法規範の内容も一義的明確なものでなければならないことはいうまでもない。 このことを踏まえた上で、次に、信義則に基づき創造・形成される法規範の適用要件は、本判決のように、税務行政側の事情を納税者側の事情よりも優先的に考慮するものであってはならず、その適用要件の創造・形成に当たっては、両者の事情につき公正な比較衡量を行うことが不可欠であると考えるところである。 そうすると、とりわけ「入口要件」としての公的見解の表示要件については、税務「官庁」概念に着目し税務行政内部の権限ないし責任の所在を重視するのではなく、権限・責任のある者による見解の表示であるかの如き外観を呈しているかどうかを重視すべきであろう(前掲拙著『税法基本講義』【83】参照)。このことは、信頼の対象となるそのような外観が「長年にわたり恒常的に存在して租税法制自体に基因していると認められるような場合」であれば、一層強く要請されるであろう(これは、大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁が捕捉率の較差に関する平等原則違反の判断について示した考え方を、信義則違反の判断の場面に「転用」したものである。前掲拙著『税法創造論』151頁参照)。 (了)
〈令和5年度税制改正〉 特定非常災害に係る損失の繰越控除期間の延長 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 令和5年度税制改正において、特定非常災害に係る損失(純損失及び雑損失)の繰越控除期間が3年間から5年間に延長された(所法70の2、71の2)。 本改正は、令和5年4月1日以後に発生する特定非常災害について適用される(改正法附則3)。 以下、本改正について解説を行う。 【1】 特定非常災害とは 本改正により繰越控除期間が延長されるのは、特定非常災害に係る損失である。特定非常災害とは、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律(平成8年法律第85号)」第2条第1項の規定により、特定非常災害として指定された非常災害をいう。 阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)、令和2年7月豪雨(2020年)他、過去に7つの災害が特定非常災害に指定されている。 【2】 純損失と雑損失の繰越控除(原則) 純損失とは、不動産所得、事業所得、譲渡所得及び山林所得の金額の計算上生じた損失の金額のうち、損益通算をしてもなお控除しきれない部分の金額をいう(所法2①二十五、69①)。 青色申告書を提出した年に生じた純損失の金額は、翌年以降3年間の所得金額から繰越控除することができる(所法70①)。また、青色申告書を提出していない年分の純損失の金額であっても、変動所得の金額の計算上生じた損失及び被災事業用資産の損失の金額については、翌年以降3年間の所得金額から繰越控除することができる(所法70②)。 雑損失とは、青色申告書を提出しているかどうかに関わりなく、雑損控除の適用金額のうちその年に控除しきれない損失の金額をいう(所法2①二十六、72①)。 雑損失も、翌年以降3年間の所得金額から繰越控除することができる(所法71)。 【3】 改正の内容 今回の改正により、特定非常災害に係る損失(純損失及び雑損失)については、繰越控除できる期間が、例外的に3年間から5年間へ延長された。 損失の程度(特定非常災害による損失が事業用固定資産の価額の10%以上かどうか)及び青色申告かどうかに応じ、繰越控除期間が延長される損失の範囲は、次のとおりとなる。 (1) 特定非常災害に係る純損失 ① 事業資産特定災害損失額(又は不動産等特定災害損失額)≧ 事業用固定資産の価額(※1)× 10%の場合(所法70の2①②④) (※1) 事業用固定資産の価額:特定非常災害による損失が生じた日にその資産の譲渡があったものとみなしたときに取得費とされる金額に相当する額 〈用語の定義〉 (※2) 事業用固定資産には、土地及び土地の上に存する権利は含まれない。 ② 事業資産特定災害損失額(又は不動産等特定災害損失額)< 事業用固定資産の価額 × 10%の場合(所法70の2③) (※3) 被災事業用資産特定災害損失合計額:特定非常災害により棚卸資産及び事業の用に供される固定資産等や山林について生じた損失の金額 (2) 特定非常災害に係る雑損失 雑損失の金額のうち、特定非常災害により生じた損失の金額は、青色申告書を提出しているかどうかに関わりなく、繰越控除期間が5年間へ延長された(所法71の2)。 (了)
〔令和5年度税制改正における〕 電子帳簿等保存制度の見直し 【後編】 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 【前編】はこちら 2 スキャナ保存制度の見直し 改 正 前 決算関係書類を除く国税関係書類(取引の相手方から受領した領収書・請求書等)については、以下の要件で、スキャナにより記録された電磁的記録の保存により、その書類の保存に代えることができる(電帳法4③)。 (注1) 決算関係書類以外の国税関係書類(一般書類を除く) (注2) 資金や物の流れに直結・連動しない書類として国税庁長官が定めるもの (注3) スキャナ保存制度により国税関係書類に係る電子データ保存をもって当該国税関係書類の保存に代えている保存義務者であって、その当該国税関係書類の保存に代える日前に作成又は受領した重要書類 改 正 後 (1) 要件の緩和 (注) 重要書類とは、資金や物の移動に直結・連動する書類をいう(契約書・領収書・納品書・請求書など)。これに対して、重要書類以外の書類を一般書類という(見積書・注文書・検収書など)。 (2) 適用時期 上記(1)の改正内容は、令和6年1月1日以後に行うスキャナ保存について適用される(電帳規附則2①)。 3 優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の見直し 改 正 前 一定の国税関係帳簿(注1)について優良な電子帳簿の要件(注2)を満たして電磁的記録による備付け及び保存を行い、本措置の適用を受ける旨等を記載した届出書をあらかじめ所轄税務署長に提出している保存義務者については、その国税関係帳簿(優良な電子帳簿)に記録された事項に関し申告漏れがあった場合、その申告漏れに課される過少申告加算税が5%軽減される(電帳法8④)。 (注1) 一定の国税関係帳簿 一定の国税関係帳簿とは、所得税法・法人税法に基づき青色申告者(青色申告法人)が保存しなければならないこととされる総勘定元帳、仕訳帳その他必要な帳簿又は消費税法に基づき事業者が保存しなければならないこととされている帳簿をいう(電帳規5①)。 (注2) 優良な電子帳簿の要件 改 正 後 所得税・法人税に関する過少申告加算税の軽減措置の対象となる優良な電子帳簿の範囲については、上記の通り、「仕訳帳、総勘定元帳その他必要な帳簿(全て)」とされている。優良な電子帳簿の範囲の合理化・明確化を行うため、「その他必要な帳簿(全て)」については、申告(課税所得)に直接結びつきやすい経理誤り全体を是正しやすくするかどうかといった観点から、以下の記載事項に係るもの(補助帳簿)に限ることとされる。 《優良な電子帳簿に位置づけられる「その他必要な帳簿」の取引に関する記載事項(法人税の場合)》 (注1) 優良な電子帳簿に位置づけられない「その他必要な帳簿」の取引に関する記載事項の例・・・現金出納帳、当座預金出納帳、上記以外の資産台帳 (注2) 所得税の場合は、費用(経費)に関する事項のうち、雇人費、青色専従者給与額及び福利厚生費(賃金台帳)も優良な電子帳簿の対象とする。 適用時期 上記の改正は、令和6年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用される(電帳規附則2③)。 (連載了)
令和5年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第2回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 4 一般試験研究費の税額控除制度及び中小企業技術基盤強化税制の税額控除率及び控除上限率の見直し グループ通算制度では、通算グループを一体として計算した税額控除限度額と控除上限額とのいずれか少ない金額(税額控除可能額)を各通算法人の調整前法人税額の比(控除分配割合)で配分した金額(税額控除可能分配額)を各通算法人の税額控除限度額とする。 [税額控除可能分配額(各通算法人の税額控除限度額)の計算式] この計算は、一般試験研究費の税額控除制度、中小企業技術基盤強化税制、特別試験研究費の税額控除制度に区別して計算される。 このように、グループ通算制度を適用する場合、通算グループ全体で税額控除率及び控除上限率を決定し、通算グループ全体で試験研究費の税額控除限度額を計算する仕組みであることから、令和5年度税制改正において、グループ通算制度における一般試験研究費の税額控除制度及び中小企業技術基盤強化税制の税額控除率及び控除上限率の見直しが行われている。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について(令和4年12月)」20頁の図を基に筆者一部加工 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について(令和4年12月)」48頁の図を基に筆者一部加工 グループ通算制度を適用している場合の一般試験研究費の税額控除制度、中小企業技術基盤強化税制、特別試験研究費の税額控除制度の改正前と改正後の取扱いは次のとおりとなる(新措法42の4①④⑦⑧⑱、旧措法42の4①④⑦⑧⑱)。 なお、この試験研究費の税額控除制度に係る改正は、令和5年4月1日以後に開始する事業年度から適用される(令5改所法等附38)。 (1) 一般試験研究費に係る税額控除制度(一般型) ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (続く)