〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第70話】 「信託型ストックオプション」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「・・・信託型ストックオプションか・・・」 浅田調査官は、新聞を見ながら呟く。 (※) 産経新聞2023年5月29日掲載記事より抜粋。 「・・・ストックオプションは、もともと、最高裁平成17.1.25判決で給与所得と判定されたのですが、信託型ストックオプションは、仕組みが違うのですか?」 昼休み、浅田調査官は傍らにいる中尾統括官に尋ねる。 ウトウトと居眠りをしていた中尾統括官は、突然、目を開ける。 「・・・」 浅田調査官は、不機嫌そうな顔をしている中尾統括官に対して、同じ質問を繰り返す。 「・・・信託型のストックオプションって・・・ストックオプションを・・・信託銀行などに信託することだろう・・・」 中尾統括官は、目をこすりながら、机の上に置かれているペットボトルのお茶を飲む。 「・・・信託型ストックオプションとは、有償ストックオプションの一種であり、信託を利用した報酬制度で・・・具体的には・・・発行したストックオプションを信託銀行等に信託し、それを信託期間満了まで保管してもらい、会社に対する業績貢献度に応じて、ストックオプションに交換できるポイントを役員・従業員等に付与し、信託期間満了時に獲得したポイント数に応じてストックオプションが割り振られるというスキームだ・・・」 中尾統括官は、そう言うと、図を描き始める。 (※) SO・・・ストックオプション 「・・・今回・・・国税庁は、この信託型ストックオプションについて、権利行使時に給与所得として課税するとの見解を発表したが、このスキームの開発者側は、株式の譲渡所得として、約20%の税金が課税されると主張し、また、権利行使時に株を取得しても課税しないとの回答を税務署から得ているとも言っているのですが・・・」 浅田調査官は、開発者側の主張を読む。 「・・・また、給与所得か譲渡所得かの見解だけではなく、課税の時期についての考えも違うわけだな・・・」 中尾統括官は、図を描きながら、思案顔になる。 「・・・行使時(②)に給与所得として課税するということになれば・・・会社が役員・従業員等から源泉徴収しなければならないということになるのですが・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「・・・現実に株式を譲渡しておらず・・・役員・従業員等は源泉納付すべきお金を持っていないから・・・納付は困難だろう・・・」 中尾統括官は、そう言いながら、それに対応する国税庁の「信託型ストックオプションの課税上の取扱いについて」(令和5年6月2日)の最後の文章を読む。 「・・・しかし、分割で納付といっても・・・株式を売らなければ、税金は支払えない・・・」 浅田調査官は、呟く。 「それに、既に行使している人は、遡って、源泉徴収されるということですか?」 浅田調査官は、中尾統括官に聞く。 「それは・・・そうだろう・・・会社側は、遡って、ストックオプションを行使した役員・従業員等から、給与所得として源泉徴収する必要がある・・・ただ、源泉徴収は、自動確定の国税(国通法15)だから、除斥期間ではなく、徴収権の時効(国通法72)を考えなければならない・・・すなわち、徴収権は、5年間行使しないことによって、時効により消滅するのだから、行使から5年が過ぎれば、徴収できないことになる・・・」 中尾統括官は、税務六法の国税通則法のページを開き、浅田調査官に説明する。 (つづく)
《速報解説》 国税庁、R5改正に対応した電帳法通達及び一問一答を公表 ~新たな猶予措置における「相当の理由」についても明示~ Profession Journal編集部 令和5年度税制改正では、国税関係書類の更なる電子化を進めるため、事業者等の対応状況や適正な課税の確保の観点からの必要性を考慮しつつ、電子帳簿保存制度につき必要な見直しが行われた。 主な改正事項としては、「電子取引データの保存制度」においては新たな猶予措置の創設や検索機能の確保要件の見直し、「スキャナ保存制度」においては解像度等情報の要件緩和、「電子帳簿等保存制度」においては過少申告加算税の軽減措置の対象となる優良な電子帳簿の範囲の見直し等が行われている。 なお、改正事項の詳細については下記連載をご覧いただきたい。 上記の改正については、適用関係等において一部不明確な部分もあったところ、6月30日付で国税庁より令和5年度改正を受けた「電子帳簿保存法取扱通達」等及び「電子帳簿保存法一問一答」がそれぞれ見直され、詳細が明らかとなった。 今回公表された情報は以下の通り。 冒頭述べたとおり「電子取引データの保存制度」では新たな猶予措置が創設されており、保存要件に従って電子取引データの保存ができなかったことについて、税務署長が「相当の理由」があると認める場合には、従前行われていた出力書面の提示・提出の求めに応じることに加え、その電子データのダウンロードの求めに応じることができるようにしておけば、保存要件を不要としてその電子取引データの保存が可能となる措置が設けられている。 しかし、この「相当の理由」の詳細や、令和4年度改正の宥恕規定に係る「やむを得ない事情」との差異についてはこれまで明らかではなかったところ、上記公表の「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和5年6月)」の問61の【回答】において、「相当の理由」とは、「例えば、その電磁的記録そのものの保存は可能であるものの、保存時に満たすべき要件に従って保存するためのシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わない等といった、自己の責めに帰さないとは言い難いような事情も含め、要件に従って電磁的記録の保存を行うための環境が整っていない事情がある場合については、この猶予措置における「相当の理由」があると認められ、保存時に満たすべき要件に従って保存できる環境が整うまでは、そうした保存時に満たすべき要件が不要」となること等が示された。 加えて、「ただし、システム等や社内のワークフローの整備が整っており、電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存時に満たすべき要件に従って保存できるにもかかわらず、資金繰りや人手不足等の理由がなく、そうした要件に従って電磁的記録を保存していない場合には、この猶予措置の適用は受けられない」(取扱通達7-12)として、不適用の場合についても例示がされている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 国税庁が令和5年分の路線価を公表 ~新型コロナの影響脱し全国平均は2年連続上昇~ Profession Journal編集部 7月3日、国税庁は相続税及び贈与税の算定基準となる令和5年分の路線価(1月1日時点)を公表した。 令和5年分の全国平均路線価は1.5%の上昇となり、昨年の0.5%を1ポイント上回った。昨年から緩やかな回復がみられていたが、今年は新型コロナの影響を脱したことで、回復が鮮明になったといえる。 上昇の要因としては、コロナ禍で大きく減少していた訪日客数が戻りはじめたことから、今後の更なるインバウンド需要を見込んで上昇地点が広がったほか、在宅勤務から通常の出社に戻る企業も多く都市部のオフィス需要についても回復傾向にあること、また、都心についてはマンション需要が依然として根強くあり、円安かつ低金利が続いている状況も相まって日本の不動産が海外投資家の投資対象として注目されていることなどが考えられる。コロナ禍において路線価が下落したうえで回復後に急な上昇がみられる地域もあるため、思わぬ税負担が生じないよう留意しておきたい。 上記のような要因から繁華街や観光地、都市部のオフィス街などを中心に路線価が上昇しており、三大都市圏については、東京都3.2%、大阪府1.4%、愛知県2.6%の上昇となっている。なお、上昇率の大きかった東京都の地点別の路線価最高額は、今年も中央区銀座5丁目の「鳩居堂」前で、1平方メートルあたり4,272万円を記録し38年連続全国路線価トップとなった。 なお、各国税局において令和5年分の国税局管内各税務署の最高路線価を以下のとおり公表している。 〈各局が公表した最高路線価(別表)のページ〉 上記のとおり、令和5年分路線価については繁華街や観光地を中心に上昇が目立つ結果となった一方で、地方部については下落が続いている地域もあり、コロナ禍前から問題とされている2極化については、以前解消が難しい状況となっている。 (了)
《速報解説》 経産省、社外取締役の質向上の後押しとして 「社外取締役向け研修・トレーニングの活用の8つのポイント」及び 「社外取締役向けケーススタディ集」を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年6月30日、経済産業省は、「社外取締役向け研修・トレーニングの活用の8つのポイント」及び 「社外取締役向けケーススタディ集-想定される場面と対応-」を公表した。 これは、社外取締役の質の向上に向けて、社外取締役向けの研修やトレーニングの活用の後押しを図るためのものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 社外取締役向け研修・トレーニングの活用の8つのポイント 社外取締役やその候補者が研修等を活用する際や、企業が社外取締役向けの研修等の活用方法や支援体制を検討する際に参照されることを想定しているとのことである。 1 主な内容 主な内容は次のとおりである。 2 研修・トレーニングの活用の8つのポイント 次の8つのポイントが記載されている。 Ⅲ 社外取締役向けケーススタディ集 「社外取締役向けケーススタディ集-想定される場面と対応-」は、表紙を含めて121ページに及ぶものである。 社外取締役が取締役会や各種委員会で直面するであろう場面と課題を提示し、社外取締役として求められる行動や留意すべき点等について、「ケース設例」、「解説・回答例」、「補足情報」について記載している。 ケーススタディを題材とする研修等での活用だけではなく、実際に取締役会や各種委員会で課題に直面したときに社外取締役としてどう振る舞うかを考える際に参照されることも想定しているとのことである。 次の事項に関するケーススタディが記載されている。 (了)
《速報解説》 「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案が金融庁から公表される ~有価証券報告書等及び臨時報告書における「重要な契約」の開示について改正~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023(令和5)年6月30日、金融庁は、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正(案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、有価証券報告書及び有価証券届出書(以下「有価証券報告書等」)及び臨時報告書における「重要な契約」の開示について改正するものである。「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」も改正する。 意見募集期間は2023年8月10日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 企業・株主間のガバナンスに関する合意 有価証券報告書等の提出会社(提出会社が持株会社の場合には、その子会社(重要性の乏しいものを除く)含む)が、提出会社の株主との間で、次のガバナンスに影響を及ぼし得る合意を含む契約を締結している場合、当該契約の概要や合意の目的及びガバナンスへの影響等の開示を求める。 Ⅲ 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意 有価証券報告書等の提出会社が、提出会社の株主(大量保有報告書を提出した株主その他の重要な株主)との間で、次の株主保有株式の処分等に関する合意を含む契約を締結している場合、当該契約の概要や合意の目的等の開示を求める。 Ⅳ ローン契約と社債に付される財務上の特約 1 臨時報告書の提出 2 有価証券報告書等への記載 有価証券報告書等の提出会社が、財務上の特約の付されたローン契約の締結又は社債の発行をしている場合であって、その残高が連結純資産額の10%以上である場合(同種の契約・社債はその負債の額を合算する)、当該契約又は社債の概要及び財務上の特約の内容の開示を求める。 Ⅴ 施行期日等 改正後の規定は公布の日から施行する予定である。 なお、改正後の規定は、以下の適用を予定している。 (了)
《速報解説》 金融庁、上場承認前届出書の記載事項にかかる開示府令等の改正案を公表 ~日程・株式数・価格関連の記載に関する改正~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023(令和5)年6月30日、金融庁は、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正(案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、新規公開(IPO)の公開価格設定プロセス等について見直すものであり、上場日程の短縮化や日程設定の柔軟化の課題に対する改善策として、あらかじめ上場承認前に有価証券届出書(以下「承認前届出書」という)を提出することが考えられ、その際の承認前届出書の記載事項について改正するものである。 「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」も改正する。 意見募集期間は2023年7月31日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 日程関連の記載(「企業内容等開示ガイドライン」5-8-2-3) 承認前届出書において、上場日に紐づく次の日程について、一定の幅を持った期間での記載を可能とする改正を行う。 Ⅲ 株式数関連の記載(「企業内容等の開示に関する内閣府令」9条9号) 承認前届出書において、発行数や売出数について「未定」と記載することを可能とする改正を行う。 Ⅳ 価格関連の記載(「企業内容等の開示に関する内閣府令」9条9号、「企業内容等開示ガイドライン」5-8-2-2及び5-8-3) 承認前届出書において、価格関連の次の項目について記載しないことを可能にする改正を行う。 上記のほか、承認前届出書の位置づけに関連した事項として、承認前届出書に、上場承認前の募集又は売出しの相手方に関する記載を求める等の改正を行う。 Ⅴ 施行期日等 パブリックコメント終了後、所要の手続を経て公布、施行(2023年10月1日)の予定である。 (了)
《速報解説》 実施基準の改訂を受けて、内部統制報告書等に係る改正を行った「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」等が公布 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023(令和5)年6月30日、「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第57号)が公布された。 これにより、2023年4月10日から意見募集されていた内閣府令(案)が確定することになる。「「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令」の取扱いに関する留意事項について(内部統制府令ガイドライン)」 も改正されている。また、内閣府令(案)対するコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方も公表されている。 これは、2023年4月7日に改訂された「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(企業会計審議会)を受けて、所要の改正を行うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 内部統制報告書 前年度に開示すべき重要な不備を報告した場合には、内部統制報告書において、付記事項として、当該開示すべき重要な不備に対する是正状況を記載する。 2 訂正内部統制報告書 事後的に内部統制の有効性の評価が訂正される際には、訂正内部統制報告書において、具体的な訂正の経緯や理由等を記載する。 3 内部統制監査報告書 企業が内部統制報告書の内部統制の評価結果において内部統制は有効でない旨を記載している場合には、監査人はその旨を内部統制監査報告書において監査人の意見に含めて記載する。 Ⅲ 施行期日等 2024(令和6)年4月1日から施行する。 改正後の財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令6条の規定並びに同令第一号様式及び第二号様式は、この府令の施行の日以後に開始する事業年度に係る内部統制報告書に係るものについて適用し、同日前に開始した事業年度に係る内部統制報告書に係るものについては、なお従前の例による。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「環境価値取引の会計処理に関する研究報告」の公開草案を公表 ~新たな環境関連取引に係る会計上の取扱いについての考え方を整理し、取りまとめ~ 公認会計士 石王丸 周夫 Ⅰ はじめに 2023年6月26日付で、日本公認会計士協会は、会計制度委員会研究報告「環境価値取引の会計処理に関する研究報告-気候変動の課題解決に向けた新たな取引への対応-」(公開草案)(以下、公開草案という)を公表した。 この公開草案は、脱炭素社会実現に向けた日本企業の最近の取組みを踏まえ、現行の会計基準等では明らかにされていない新たな環境関連取引に係る会計上の取扱いについて、その考え方を整理するために取りまとめられたものである。 Ⅱ 主な内容 1 公開草案の検討対象 公開草案のタイトルにあるとおり、環境価値取引を対象としている。環境価値取引とは、環境価値を直接取引対象とする取引であり、環境価値とは、「例えば温室効果ガス排出削減・吸収という環境の保全に関する付加価値」(公開草案1ページ)を指す。 2 公開草案の位置付け 環境価値取引に関する現行の会計基準としては、2004年に企業会計基準委員会より公表された実務対応報告第15号「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」(以下、実務対応報告15号という)がある。しかしながら、非化石証書等、近時広がりを見せている新たな環境価値取引について、実務対応報告15号をどう適用すべきかが明確ではない。 公開草案ではこうした新たな環境価値取引に関する会計上の取扱いを整理、検討し、複数の考え方を示しているが、「実務上の指針として位置付けられるものではなく、また、実務を拘束するものでもない」(公開草案3ページ)としている。 Ⅲ 着目すべき点 非化石証書とは、太陽光発電等の非化石電源からつくられた電気であるという価値を取り出して証書化したものである。例えば鉄道業等でも、非化石証書を利用してCO2排出量が実質的にゼロとなる電力への切替えの取組み(実質再エネ化と呼ばれている)が広がっている。 公開草案では、非化石証書に関する会計処理について検討を行っているが、中でも関心が高いと思われる項目としては、バーチャルPPA(※)と呼ばれる非化石証書を用いた環境価値取引に係る会計上の取扱いであろう。これも電力の需要家が実質的に再生可能エネルギー由来の電力を調達したのと同じ効果を得ることができる仕組みであるが、この取引に特有の差金決済が、会計上、デリバティブ取引に該当するか否かという論点があると指摘している。デリバティブ取引に該当する場合は時価評価が求められる上、その時価を求めるにあたっても必要なデータの入手等に課題があるという。公開草案では付録として「バーチャルPPAの設例」を示しており、理解の助けとなる。 (※) PPA・・・「Power Purchase Agreement 電力購入契約)」の略 ◆BOOK◆ 『気候変動リスクと会社経営 はじめの一歩』 好評販売中 「気象災害の多い日本で、気候変動リスクと会社経営を考えるとき、最初に読む一冊。」 (了)
《速報解説》 マンション評価めぐる有識者会議(第3回)開催で 見直しの具体案が示される ~相続税評価額が市場価格理論値の60%となるよう補正、 令和6年1月1日以後の相続等より適用を予定~ Profession Journal編集部 マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議の第3回会議が6月22日付で開催され、その内容が30日に公表された。 既報のとおり同委員会では6月1日開催の第2回会議において、相続税評価額と市場価格の乖離を是正するための方法として、相続税評価額に築年数や総階数などを元にした乖離率を乗じる方法を有効とする方針が示されていたが、第3回ではより具体的な算定方法が示されている。 評価方法の見直しについて、概要は以下の通り、相続税評価額が市場価格理論値の60%になるよう評価額を補正するもので、この評価方法は令和6年1月1日以後の相続等又は贈与により取得した財産に適用するとされている。 〈見直しのイメージ〉 (※) 国税庁ホームページより 上記を踏まえ、具体的な見直し案として、以下の要旨が示されている。 相続税評価の見直し案(要旨) 1.区分所有に係る財産の各部分(建物部分及び敷地利用権部分。ただし、構造上、居住の用途に供することができるものに限る。以下「マンション一室」という。)の価額は、次の算式により計算した価額によって評価することとする。 (注1) 「マンション一室」には、総階数2階以下の物件に係る各部分及び区分所有されている居住用部分が3以下であって、かつ、その全てが親族の居住用である物件(いわゆる二世帯住宅等)に係る各部分は含まない。 (注2) 評価乖離率が0.6分の1以下(約1.67以下)となるマンション一室は現行の相続税評価額×1.0とする。 (注3) 評価乖離率が1.0未満となるマンション一室の評価額は次による。 現行の相続税評価額×当該マンション一室の評価乖離率 (注4) 不動産鑑定評価書等に照らし評価額が通常の取引価額を上回ると認められる場合には、当該価額により評価する。 (注5) 令和6年1月1日以後の相続等又は贈与により取得した財産に適用する。 2.上記の「評価乖離率」は、「①×△0.033+②×0.239+③×0.018+④×△1.195+3.220」により計算したものとする。 ①:当該マンション一室に係る建物の築年数 ②:当該マンション一室に係る建物の「総階数指数」として、「総階数÷33(1.0を超える場合は1.0)」 ③:当該マンション一室の所在階 ④:当該マンション一室の「敷地持分狭小度」として、「当該マンション一室に係る敷地利用権の面積÷当該マンション一室に係る専有面積」により計算した値 【参考】上記の算式は、次の(1)の目的変数と(2)の説明変数に基づく重回帰式である。 (1)目的変数平成30年分のマンション一室の取引事例における取引価格÷当該マンション一室の相続税評価額 (2)説明変数2.に掲げる算式における①、②、③、④ 3.上記の評価方法の適用後も、最低評価水準と重回帰式については、固定資産税の評価の見直し時期に併せて、当該時期の直前における一戸建て及びマンション一室の取引事例の取引価格に基づいて見直すものとする。 また、当該時期以外の時期においても、マンションに係る不動産価格指数等に照らし見直しの要否を検討するものとする。 加えて、マンション市場価格の大幅な下落その他見直し後の評価方法に反映されない事情が存することにより、当該評価方法に従って評価することが適当でないと認められる場合は、個別に課税時期における時価を鑑定評価その他合理的な方法により算定する旨を明確化する(他の財産の評価における財産評価基本通達6項に基づくこれまでの実務上の取扱いを適用。) なお、今後、上記を踏まえた通達案が国税庁によって作成され、意見公募手続(パブリックコメント)が実施されるとのことだ。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 R5改正に対応し、経済産業省が『「スピンオフ」の活用に関する手引』を改訂 ~パーシャルスピンオフ税制の創設に伴い、設問や事例の追加等行う~ 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 1 はじめに 経済産業省は令和5年6月26日付けで『「スピンオフ」の活用に関する手引』を改訂し、Q&Aの追加等を行った。 経済産業省は、日本企業が収益力や中長期的な企業価値の向上に向け、大胆な事業再編を行うことを可能とするための環境整備の取組みの一環として、『「スピンオフ」の活用に関する手引』を公表している。今回は、令和5年度税制改正でパーシャルスピンオフに関する税制措置が創設されたこと等に伴い、この手引の改訂が行われた。 そこで本稿では、手引の改訂内容について解説していくこととする。 2 改訂の主な内容 改訂の主な内容は、以下の通りである。 3 パーシャルスピンオフ税制創設のために追加・更新されたQ&Aのポイント (1) 税務に関するQ&A (2) 税務以外に関するQ&A (了)