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〈事例から理解する〉税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第11回】「国税通則法第68条における重加算税の「隠ぺい、仮装」と相続税法第19条の2第5項における「隠蔽仮装行為」の異同点」

〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第11回】 「国税通則法第68条における重加算税の「隠ぺい、仮装」と相続税法第19条の2第5項における「隠蔽仮装行為」の異同点」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 大阪国税不服審判所平成28年3月30日裁決(TAINSコード:J102-1-02) (1) 事実関係の概要 (2) 原処分庁の主張の概要 (3) 「隠ぺい、仮装」と「隠蔽仮装行為」の法令解釈 (4) 審判所の判断の概要・原処分庁の主張の排斥   2 法令解釈の出所 上記1(3)①の法令解釈は、最高裁判所第二小法廷平成7年4月28日判決(TAINSコード:Z209-7518)をほぼそのまま引用しているが、これは過少申告の重加算税の法令解釈であり、本件裁決では、「過少申告がされたことを要する」を「法定申告期限までに申告書を提出しなかったことを要する」に置き換えている。 しかし、法令解釈があるといってもその基準は定性的であり、これに当てはまるか否かは事実認定及びその当てはめの次第によるところが大きい。 原処分庁は、上記の法令解釈が存在することは当然承知の上で、何とかこれに当てはめられるような納税者による「外部からもうかがい得る特段の行動」を探索しているといって差し支えないだろう。 なお、上記1(3)②については、「隠ぺい、仮装」と「隠蔽仮装行為」という異なる文言を用いているが、あえて解釈に相違点があるとはいえず、原処分庁の主張のとおり両者は同質と考えて差し支えないだろう。   3 本件裁決のポイント 公表裁決によると、P証券扱いの金融資産が相続財産の大方を構成しているようであり、これを原処分庁に認識させなければ、相続税申告の必要性が乏しい水準であったのかもしれず、これが今回の証拠隠滅行為に走らせたのかもしれない。 しかし、本件の証拠隠滅行為が「外部からもうかがい得る特段の行動」であったかもしれないが、審判所の説示のとおり、相続税を無申告で済ませようとする態度、行動をできる限り貫こうとしたとまではいい難いし、法定申告期限までに「外部からもうかがい得る特段の行動」があったとも認定しがたいだろう。 過少申告の場合には「相続財産を間引いて申告した」という行動が生じやすいところ、本件のような無申告事案において、納税者による積極的な行動が、しかも、外部からうかがえる状態で発露するというのは相対的に限定的であり、その点において原処分庁にとってはハードルが高いと考えられる。 最近の税制改正において、無申告事案は過少申告事案より悪質(むしろ重加算事案に近い)と位置付けるような措置が講じられており、例えば、過去5年以内に無申告加算税又は重加算税を課された者が再び無申告であった場合の加重措置(平成28年度改正)、高額・連続で無申告であった者の加重措置(令和5年度改正)などが設けられている。   4 重加算税の取消事案は案外多い 重加算税の法令解釈が定性的であることに基因してか、重加算税の賦課決定処分が国税不服審判所の裁決によって取り消される(過少申告加算税・無申告加算税を超える部分の一部取消し)例は案外多い印象がある。 重加算税は賦課決定処分(不利益処分)であり、たとえ本税で納税者から(渋々とはいえ)修正申告をしたとしても、重加算税の取消しを求めて不服申立てをすることは可能であることを知らない納税者が多く、争えば取り消される可能性があったかもしれないにもかかわらず、処分を受忍して埋没している事案は案外多いものと思料する。 (了)

#No. 542(掲載号)
#大橋 誠一
2023/11/02

〈一から学ぶ〉リース取引の会計と税務 【第10回】「セール・アンド・リースバック取引と転リース取引の会計処理」

〈一から学ぶ〉 リース取引の会計と税務 【第10回】 「セール・アンド・リースバック取引と転リース取引の会計処理」   公認会計士・税理士 喜多 弘美   これまで、リース取引の借手の会計処理を扱ってきました。今回は、【第6回】で概要を整理したセール・アンド・リースバック取引と転リース取引の会計処理について、見ていきます。   1 セール・アンド・リースバック取引 (1) セール・アンド・リースバック取引とは(おさらい) セール・アンド・リースバック取引とは、「取引する物件を貸手に売却し、貸手から当該物件のリースを受ける取引」をいいます(「リース取引に関する会計基準の適用指針」48)。 (2) セール・アンド・リースバック取引の会計処理 それでは、セール・アンド・リースバック取引の会計処理はどのようになるのでしょうか。 まずは、他のリース取引と同じように、ファイナンス・リース取引に該当するか判定することになります。この判定において、経済的耐用年数は、リースバック時のリース物件の性能、規格、陳腐化の状況等を考慮して見積もった経済的使用可能予測期間を用います。また、リース物件の見積現金購入価額は、実際の売却価額を用いることになります。つまり、セール・アンド・リースバック取引時点の物件の実態で判断することになります。 次に、ファイナンス・リース取引に該当した場合、物件の売却取引とリース取引を一連の取引とみなして会計処理をします。借手は物件の売却損益について、長期前払費用又は長期前受収益等として繰延処理をします。その後、リース資産の減価償却費の割合に応じて、減価償却費に加減して損益に計上します。 セール・アンド・リースバック取引では、使用している物件を一度「売却」するものの、同じ物件を「借り受ける」(リース)ため、物件はそのまま使用することができ、物件の売却前も後も実態は変わらないといえます。しかし、売却益を計上することで業績を良く見せることができてしまうため、売却した時に売却益を計上するのではなく、リース期間に渡って計上するようにしています。 ただし、売却損失が生じる場合で、物件の合理的な見積市場価額が帳簿価額を下回ることが原因であることが明らかな時は、売却損を繰延処理せずに売却時の損失として計上することになっています。 また、ファイナンス・リース取引に該当しない場合は、売却損益の繰延処理はせず、売却時に売却損益として計上することになります。   2 転リース取引 (1) 転リース取引とは(おさらい) 転リース取引は、「リース物件の所有者から当該物件のリースを受け、さらに同一物件を概ね同一の条件で第三者にリースする取引」をいいます(「リース取引に関する会計基準の適用指針」47)。いわゆる「また貸し」です。 (2) 転リース取引の会計処理 では、転リース取引の会計処理は、どのようになるのでしょうか。 借手としてのリース取引と貸手としてのリース取引の双方がファイナンス・リース取引に該当する場合、貸借対照表上では、リース債権(又は、リース投資資産)とリース債務のどちらも計上することになります。一方、損益計算書上では、支払利息、売上高、売上原価等は計上せずに、貸手として受け取るリース料総額と借手として支払うリース料総額の差額を手数料収入として各期に配分し、転リース差益等の名称で計上します。 なお、リース債権(又は、リース投資資産)とリース債務は、利息相当額控除後の金額で計上することが原則となりますが、利息相当額控除前の金額で計上することもできます。   (了)

#No. 542(掲載号)
#喜多 弘美
2023/11/02

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第43回】「金融機関、顧問だからこそ知りうるM&Aの兆候と可能性(売り手編)」

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第43回】 「金融機関、顧問だからこそ知りうるM&Aの兆候と可能性 (売り手編)」   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒金融機関、顧問との関係における売り手の視点を知る。 売り手企業 ⇒企業経営の出口の選択肢としてM&Aを検討する際のヒントを得る。 支援機関(第三者) ⇒売り手のM&Aの意向や可能性を酌んで、助言に役立てる。 その他の対象者 ⇒第三者視点による売り手のM&Aの兆候と可能性のポイントを知る。   1 事業承継手段の候補としてのM&A 多くの統計データなどが物語っているように、経営者の高年齢化、後継者不足、黒字廃業といった個々の要因が全てつながっている中小企業の課題・問題は深刻です。 自社のみで解決するのが難しく、本業に深く関わる問題でありながら商売上の判断ではないので先送りにされがちな点、経営者が決めないと前に進まない点からしても単純な課題・問題ではないのは明らかです。 【図1】 経営者年齢のピークは60~70代 (出典) 中小企業庁:財務サポート「事業承継を知る」(資料は中小企業白書(2021)より(株)東京商工リサーチ「企業情報ファイル」再編加工。「2020年」については、2020年9月時点のデータを集計) 【図2】 後継者不在率は70代経営者でも約40% (出典) 中小企業庁:財務サポート「事業承継を知る」(資料は中小企業白書(2021)より帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査」再編加工) 【図3】 廃業件数が増加する中、6割が黒字にも関わらず廃業 (出典) 中小企業庁:財務サポート「事業承継を知る」(資料は東京商工リサーチ) 【図4】 廃業理由の3割が後継者難 (出典) 中小企業庁:財務サポート「事業承継を知る」(資料は日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2020年)再編加工) しかし、こうした中小企業は、裏を返せば、別のスポンサーが現れれば事業を継続できます。そこで、事業承継、すなわち、事業を円滑に継続させるための手段の1つとして選択されるようになってきたのが中小企業のM&Aです。 かつては身売りのイメージがあった中小企業のM&Aも、M&Aファーム、地域金融機関の活動や、指針の整備、公的機関のサポート体制の充実などによって、否定的、消極的な声はかつてに比べると少なくなったように思われます。もちろん、事業承継手段はM&Aに限られませんが、M&Aのメリットを考慮すれば、現状ではやはり有力な選択肢になるのは間違いありません。 中小企業の支援者である第三者からみれば、「担当先、顧問先の経営者が高年齢化している」、「後継者はどうやら不在のようだ」、「企業経営は順調でこのままぜひ続けてほしい企業だ」、といった状況が重なるケースでは、M&Aの売り手候補企業になりやすいといえます。金融機関、税理士や公認会計士をはじめとする士業事務所にとって、もし、担当先、顧問先が廃業すれば、取引先の1社を無条件に失います。企業の存続が商売の存続につながる点を考えれば、無理強いできないまでも、企業存続の可能性を高める手段の1つとしてM&Aの提案につなげたいものです。   2 イグジット(出口戦略)としてのM&A (1) 事業承継型ではないM&Aの形 M&Aを通じて、企業の株式を譲渡する、事業譲渡する場合、中小企業のM&Aでは、大半が事業承継対策の手段として対策が講じられています。 しかし、M&Aは、事業承継にかかわらず、自社を欲しがる第三者に、正当な価値を付して売買できるのですから、その対価で売れるということは、これまでの事業の成果があった、成功した証明になります。言い換えれば、M&Aの売り手の多くは、売り抜ける事業になるまで成長させた勝ち組、成功者です。 イグジット又は出口戦略といって、ある経営者が自分の事業を通じて高い企業価値を創出し、その事業の出口として外部の第三者に売却する手段であるM&Aを活用するケースがあります。出口戦略は一般的にIPOという株式上場の手段が用いられますが、成功確率は低く、相当のコストや期間を要します。これに比べると、M&Aは合意した相手との相対取引で成立し、IPOのように主幹事証券会社や会計監査人を要しません。容易な手段ではありませんが、成就するという意味では、IPOよりも成功確率は高いでしょう。今後は、中小企業のM&Aでも、少しずつイグジットとしてのM&Aが浸透してくるはずです。 ただし、イグジットのM&Aができる売り手企業は、事業承継の売り手企業とは少し性格が異なります。より積極的な買い手ニーズが存在すること、つまり、買い手から魅力的であると思われる度合いが、通常、事業承継の場合よりも強くなります。買い手が欲しいと思う企業は、成長性があって、買い手にはない優れたリソースを有していて、魅力的な事業を展開している企業だからです。事業承継にも同様の企業はありますが、どちらかといえば、成長よりも存続や維持のウエイトが大きいでしょう。 ですから、このようなタイプのM&Aを検討するならば、事業承継を念頭に置いた企業とは違った切り口で経営を進める必要があります。あくまで相対的に、ですが、意図的に、意識的に、M&Aで売り抜けるような事業を展開し、企業を成長させ、M&Aの買い手にアピールし、戦略的にM&Aの売り手に名乗り出る力を持つ企業がこのタイプに該当しそうです。この点では、IPOを目指すような成長企業と成長スタイルは大きく異なる性格ではないように思われます。 (2) IPOに代替するM&A 経済産業省ホームページで公表されている「平成30年度産業経済研究委託事業(経済産業政策・第四次産業革命関係調査事業費)(大企業とベンチャー企業の経営統合の在り方に係る調査研究)報告書」(三菱総合研究所、2019)の「表2-1 ベンチャー投資先の IPO 及び M&A 件数の日米比較(日本は年度、米国は暦年)」(下記参照)によれば、2014年から2017年にかけて、米国ではベンチャー投資先の総数に占めるM&Aの割合が約9割なのに対して、日本では高くても約4割程度であり、米国に比べるとIPO偏重の傾向があります。 (出典) 経済産業省「「平成30年度産業経済研究委託事業(経済産業政策・第四次産業革命関係調査事業費)(大企業とベンチャー企業の経営統合の在り方に係る調査研究)報告書」(三菱総合研究所、2019)」(この表は、ベンチャーエンタープライズセンター「ベンチャー白書 2018」を基に三菱総合研究所作成したもの) 中小企業といっても、次世代を引っ張るスタートアップ企業やベンチャー企業(本稿では両者をほぼ同義の前提で捉えます)に対象が限定される話題かもしれませんが、金融機関や士業事務所、さらには他のパートナーの支援も受けながら、地域の成長エンジンが増え、今後は、その出口としてM&Aが活用されるサイクルに期待を持てます。 そのためには、買い手企業、特に大手企業による対ベンチャー・スタートアップ投資の拡大を待たなければなりませんが、出口戦略としてのM&A気運が高まれば、多数の成長の芽が第三者に継がれる可能性が広がり、日本でもIPOに頼らないファイナンスの主力市場が確立します。 中小企業の成長という括りでみれば、自力成長を遂げるのはもちろんですが、外部プレーヤーの金融機関、公認会計士、コンサルティング会社も成長支援を手掛けるサービスメニューを持っているはずですから、これまでのノウハウを活かして、安定、維持、事業承継に囚われない企業の展開を後押しできるはずです。 しかし、現実を眺めると、金融機関は成長マネーを投じるケースが多い一方で、顧問業を展開する士業事務所、特に、いわゆる町の事務所は、企業の成長にブレーキをかけてしまうような対策や提案が比較的多い印象を受けます。加えて、これらの事務所では、数字面や税額ばかりに視点が偏り、企業経営そのものを経営陣と一緒に創造するパートナーである意識はさほど高くない印象を受けることもあります。 中小企業自身は自社を取り巻く環境しか知り得ませんが、その中小企業を担当する金融機関や士業事務所は、他社や業界の環境とリアルな数字という情報を掴んでいます。その情報を担当する企業の成長に活かせないのであれば、多数の事例に接触している価値をクライアントに提供できていないことになります。情報そのものはクライアントの秘密情報ですが、知り得た情報の集合体を知の無形資産に転換し、知恵として還元するのは可能なはずです。 「担当先の企業は〇〇の技術を有しており、この技術力をもって、たとえば大企業の△△社と組むことができれば、お互いの成長につながるのではないか」といった想像力が働き、マッチングするネットワーク力を発揮できる金融機関や士業事務所が今後増えれば、出口戦略としてのM&A市場を拡大する流れにつながります。 現実に見えている課題解決手段としての事業承継型M&Aに加えて、潜在的な成長性を顕在化させるための出口戦略型M&Aを手掛ける機関の増加が待たれます。 (了)

#No. 542(掲載号)
#荻窪 輝明
2023/11/02

空き家をめぐる法律問題 【事例55】「所在等の不明な区分所有者を決議から除外する区分所有法の改正中間試案」

空き家をめぐる法律問題 【事例55】 「所在等の不明な区分所有者を決議から除外する 区分所有法の改正中間試案」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私が区分所有するマンションでは所在等の不明な区分所有者と空き部屋が増えており、このままでは集会決議に影響が生じることを懸念しています。現在、法制審議会で区分所有法の改正が審議されており、所在等の不明な区分所有者がいる場合に、集会決議から除外する仕組みが検討されていると聞いています。どのような手続が検討されているかを教えてください。   1 はじめに 現在、法務省の法制審議会区分所有法制部会において、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という)の改正が審議されている。これは、高経年の区分所有建物の増加や区分所有者の高齢化を背景に、相続等を契機として区分所有建物の所有者不明化や区分所有者の非居住化が進行する問題に対応するための改正である。既に、令和5年6月8日に、「区分所有法制の改正に関する中間試案」(以下「中間試案」という)が公表され、パブリックコメントの結果を踏まえて審議が継続されている。今後も審議が継続され、令和6年の通常国会に法案が提出される予定である。 そこで、今回は、今後の改正を見据えて、所在等の不明な区分所有者がいる場合に想定されている改正事項の概要を確認することにしたい。   2 現行の区分所有法の問題 現行の区分所有法は、集会決議を、同法又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決するものとしている(同法第39条第1項)。また、所在等の不明な区分所有者は、集会に出席して反対をした者と同様に扱われる。そのため、所在等の不明な区分所有者が増加すればするほど、相対的に集会の決議が成立しにくくなる。例えば、所在等の不明な区分所有者が全体の20%超となっている場合には、老朽化した区分所有建物の建替え決議(区分所有者及び議決権の各5分の4以上の賛成、同法第62条第1項)を成立させられず、その他の特別決議事項の成立も困難となる。また、不在者財産管理人の選任等によって対応することも考えられるが、所在等の不明な区分所有者が多数になる場合には必ずしも現実的な選択肢ではない。   3 所在等の不明な区分所有者を決議の母数から除外する仕組み 上記2のような問題があることから、所在等の不明な区分所有者を次のように新たに「所在等不明区分所有者」と定義し、これを集会の決議の母数から除外するための仕組みとして、中間試案では次のような規律が提案された(「中間試案」1頁)。 (※) 中間試案では「理事」とされていたが「管理組合法人」に変更される予定である(「令和5年10月17日開催の部会資料21」3頁)。 所在等不明区分所有者の除外決定の手続は、令和3年民法改正で創設された民法第252条第2項を参考にした手続となることが想定される。所在等不明区分所有者の除外決定において想定されている所在等不明区分所有者であるかの調査は、可能な調査を尽くしてもなお不明である程度まで行う必要があるとされている。なお、認知症等によって意思疎通が困難な区分所有者については、その住所・居所を知ることができるときには所在等不明ではないため、所在等不明区分所有者の除外決定の仕組みは適用されない(以上につき、「中間試案の補足説明」4頁)。 また、上記中間試案の(注1)のとおり、所在等不明区分所有者の除外決定の手続の対象となる決議は、建替え決議(区分所有法第62条第1項)等の区分所有権の処分を伴うものを含む全ての決議が想定されている。これは、所在等不明区分所有者が区分所有建物を利用しておらず、全ての決議について関心を失い、他の区分所有者の決定に委ねていると考えられることを理由とするものである(「中間試案の補足説明」5頁)。この点については、区分所有権の処分を伴うものに限定して所在等不明区分所有者の除外決定の手続を利用できるものとし、処分を伴わないものについては別途審議中の出席者の多数決による決議を可能とする仕組みで対応するべきとする提案もされていたが(「令和5年4月11日開催の部会資料13」2頁)、中間試案公表後のパブリックコメントの結果を踏まえると、今後も中間試案の内容を基本路線として審議が進むものと想定される。 所在等不明区分所有者以外の区分所有者は、上記中間試案の①の規律によって、所在等不明区分所有者の除外決定を受けたときは、管理者又は理事に対し、遅滞なくその旨を通知するものとされている。これは、所在等不明区分所有者以外の区分所有者が所在等不明区分所有者の除外決定の請求を行う場合、管理者や理事が当該除外決定の事実を認識していない可能性があることから、議長が当該除外決定を看過して決議を行うことを防ぐための措置である(「中間試案の補足説明」5頁)。 上記2のとおり、所在等不明区分所有者がいる場合に、不在者財産管理人等の管理人制度も利用することができる。そのため、所在等不明区分所有者の除外決定の手続が創設された場合、当該管理人の権限との関係の調整が問題となりうる。この問題については、①所在等不明区分所有者の除外決定がされた後に管理人が選任された場合は、当該除外決定が取り消されるまでの間、所在等不明区分所有者は決議から除外された状態が継続するものとされている。そのため、管理人が決議に関与する必要がある場合、当該除外決定の取消しを申し立てる必要がある。他方、②管理人が選任された後に所在等不明区分所有者の除外決定の申立てがされた場合、区分所有者に代わって専有部分の管理や共用部分の管理を行う者がいることから、当該除外決定の申立ては却下されることになると考えられている(以上につき、「中間試案の補足説明」4頁)。 (了)

#No. 542(掲載号)
#羽柴 研吾
2023/11/02

電子書類の法律実務Q&A 【第13回】「株主総会招集の際、招集通知と添付資料を電子提供できるか」

電子書類の法律実務Q&A 【第13回】 「株主総会招集の際、招集通知と添付資料を電子提供できるか」   弁護士法人 咲くやこの花法律事務所 弁護士 池内 康裕   〔Q〕 当社は、株主総会招集の際、株主に対する招集通知と添付資料の提供を書面で行っています。現在、当社株主の人数が100名を超えています。株主総会招集に際して、印刷や郵送のコストも増大しています。そこで、株主総会資料の電子化をすることができないか検討しています。 そもそも法的に、株主総会招集の際、招集通知と添付資料の提供を書面で行う必要はあるのでしょうか。 法改正により、上場会社では2023年3月1日以降実施の株主総会から株主総会資料の電子提供制度の運用が開始されたと聞いています。当社で電子提供制度を利用するメリットはあるのでしょうか。 〔A〕 取締役会設置会社と、書面投票又は電子投票(以下「書面投票制度等」といいます)を採用している会社は、株主総会招集の際、招集通知と添付資料を書面で提供する必要があり、株主から個別に同意を得なければ、電子化することはできません。 それ以外の会社の場合、招集通知と添付資料を書面で提供する必要はありません。 また、法改正により新設された株主総会資料の電子提供制度により、株主が承諾していなくても、株主総会資料をウェブサイトにアップロードする方法で提供することができるようになりました。上場会社の場合、電子提供制度の利用が義務となります。 上場会社以外の会社の場合、株主の数が100名前後でも、コスト削減の観点から電子提供制度を採用するメリットはないと思います。電子化する場合、従来どおり株主から個別同意を取得するのが現実的です。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 株主総会招集の際、招集通知及び添付資料を書面で提供する必要があるか (1) 招集通知について 株主総会の招集通知を書面で行う必要があるのだろうか。 招集通知というのは、株主総会の日時・場所、株主総会の目的事項等を定めたものだ(会社法299条4項、298条1項)。 取締役会を設置している会社の場合、株主の承諾を得ない限り、招集通知は書面でしなければならない(会社法299条2項2号)。 株主に書面投票制度等を認める場合にも、株主の承諾を得ない限り、書面で招集通知をする必要がある(会社法299条2項1号)。 他方、取締役会を設置していない会社で、書面投票制度等を採用していない場合、招集通知を書面でする必要がない。株主総会の招集を電子メールで行うこともできるし、口頭で伝えても構わない。 (2) 添付書類について 次に、株主総会の招集通知に際して株主に提供・交付する添付書類については、どうだろうか。 ここでいう添付書類とは、計算書類、事業報告、参考書類を念頭においている。 取締役会設置会社は、株主の承諾を得ない限り、定時株主総会招集の際、計算書類及び事業報告の提供を、書面で行わなければならない(会社法437条・会社法施行規則133条2項1号・会社計算規則133条2項1号、会社法444条6項・会社計算規則134条1項1号)。 次に、書面投票制度等を採用している場合には、株主の承諾を得ない限り、参考書類の提供を、書面で行わなければならない(会社法301条1項)。 取締役会を設置していない会社で、書面投票制度等を採用していない場合、招集通知に際して、株主に提供・交付しなければならない書類はない。 もちろん、法的な義務とは別に、計算書類、事業報告、参考書類を事前に提供してもよいが、書面でなくてもよいし、メールに添付する方法で構わない。 取締役会を設置していない会社で、書面投票制度等を採用していない場合は、定時株主総会で、いきなり計算書類、事業報告を株主に提供して、承認を受けることも許されるのだ。 (3) まとめ ここまでの説明をまとめよう。 会社法上、株主総会招集に際しての招集通知と添付資料を原則として、書面提供しなければならない会社は、取締役会設置会社又は書面投票制度等を採用している会社だ。 それ以外の会社の場合、招集通知と添付資料を書面で提供する必要はない。   2 電子提供制度について (1) 2022年9月1日施行の電子提供制度の概要 本連載の性質上、2022年9月1日に施行(上場会社については2023年3月1日以降開催される株主総会において適用)された電子提供制度についても解説しておきたい。 上述したとおり、取締役会設置会社又は書面投票制度等を採用している会社は、招集通知と添付書類を原則として、書面提供しなければならない。 例外的に電磁的方法で行うためには、株主の事前承諾が必要だ。事前承諾してくれない株主に対しては、書面での情報提供が必要となる。株主の数が多い会社の場合、個別同意は現実的でない。 法改正される前は、ウェブ開示によるみなし提供制度という制度があった。しかし、これは、議案、貸借対照表、損益計算書の内容について、電子提供することができないので、あまり使えない制度だった。 そこで、事前承諾してくれない株主に対しても、幅広く電磁的方法で株主総会資料の提供を行うことができるようにしたのが、株主総会資料の電子提供制度である。 電子提供制度を利用して、招集通知に最低限の事項のみを記載した場合、書面1枚で足りる。 (出典) 法務省「会社法の一部を改正する法律の概要」1頁 株主総会資料の電子提供制度のポイントを一言でいえば、原則と例外を逆転させ、電子提供を原則、書面提供を例外としたものだ。 振替株式発行会社(上場会社)については、電子提供制度を採用することが義務となる。 (※) 金融商品取引所のウェブサイトに掲載することも可能。 アップロードする情報は印刷できる状態にあることが必要(会社法施行規則222条2項)。 (2) 電子提供制度により書面作成が一切不要になるか では、電子提供制度をとる場合、株主に書面を一切送る必要がないかといえば、そうではない。以下の3点を指摘しておきたい。 第1に、招集通知自体は、書面で行う必要がある(会社法299条2項、325条の4第2項)。 第2に、書面投票制度等を採用している場合、株主本人が議決行使書面をプリントアウトして会社に返送するのは手間がかかる。そのため、議決権行使書面について、実務上、書面送付されることが多い。 第3に、株主総会の議決権行使の基準日までに、株主から請求があった場合、当該株主に対しては、書面提供が必要になってしまう(会社法325条の5)。これを書面交付制度という。書面交付制度は、高齢者等インターネットをあまり利用していない株主を保護するために設けられた。 ただし、株主の側から積極的に交付請求する必要があるので、利用率は低い。書面交付制度の利用率は、0.5%程度であり、株主が1,000名前後の会社でも請求が1件もなかったという指摘もされている(「電子提供制度下の株主総会初年度を終えて〔下〕」)。 (3) 電子提供制度採用のコスト このように電子提供制度といっても、完全に電子化されたわけではない。 また、アップロードするためのウェブサイト整備のコストがかかる。アクセス障害やハッキング対策も必要になる。 万一のサーバダウンに備えて、複数のウェブサイトで電子提供制度をとる会社もいるようだ。 会社がウェブサイトのメンテナスを怠ったことにより、株主がウェブサイトにアクセスできなかった場合などは、決議取消事由になると考えられる。維持管理等のコストもかかる。 紛争になる場合に備えて、ウェブサイトのログの保存も必要である。 コストと手間を考えると、株主の数が多い上場会社が利用することを前提に設計された制度といえるだろう。 また実際に利用している上場会社においても、コスト削減のメリットがどの程度あるのか疑問だ。2023年6月に実施された調査によれば、電子提供制度を利用した上場会社のうち68.5%が従来と同じ書類を送っている(「電子提供制度下の株主総会初年度を終えて〔上〕」)。書面交付請求をする株主とそうでない株主で、送付物のパターンが分かれると、コストがかかるので、一律に従来と同じ書類を書面で送った方が、印刷代が安くなるという指摘もされている。そうすると、現時点ではペーパーレス化によるコストの削減につながっているとも言えない。 上場会社以外の株主の数が少ない会社が、株主総会資料を電磁的方法により提供する場合、株主に事前同意してもらう方が、現実的な方法といえるだろう。   (了)

#No. 542(掲載号)
#池内 康裕
2023/11/02

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第74話】「必要経費(交際費)の判断基準」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第74話】 「必要経費(交際費)の判断基準」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   税務調査から帰ってきた浅田調査官は、中尾統括官のデスクに直行する。 カバンを持ったまま立っている浅田調査官は、稟議書を熱心に読んでいる中尾統括官に声をかける。 「・・・調査から帰ってきたのですが・・・」 中尾統括官は、驚いたように顔を上げる。 「・・・ああ、ご苦労さん・・・」 再び、稟議書を読もうとする中尾統括官に、浅田調査官は、もう一度、声をかける。 「・・・ちょっと・・・質問があるのですが・・・」 怪訝そうな顔をした中尾統括官は、浅田調査官を見る。 「・・・なんだい?」 浅田調査官は、持っていたカバンを中尾統括官のデスクの上に置いて、話し始める。 「・・・今日、調査に行った弁護士事務所のことなんですが・・・帳簿上、交際費として支出されている金額が多く、その中に、必要経費とされない『家事関連費』のようなものが含まれていました・・・」 浅田調査官は、カバンから一覧表のコピーを取り出し、「これが3年間の交際費の一覧表です」と言って、中尾統括官に見せる。 「・・・ほう・・・毎年900万円くらいの交際費を支出しているのか・・・」 中尾統括官は、一覧表を見て、驚いた表情をする。 「・・・ここに示されている交際費は、ほとんどが飲食代ということか・・・これだけ飲み食いをすると、逆に身体を壊すのでは・・・」 中尾統括官は、苦笑する。 「・・・本来、弁護士や税理士などの業種は・・・顧客から接待を受けても、自ら接待をすることはあまりないと思えるのですが・・・」 浅田調査官は、答える。 「そうだな」 中尾統括官は、頷く。 「・・・弁護士が言うには、将来、顧客になってくれる可能性のある人と飲食をともにしているのだから、これらの支出は営業のための活動費用なんだ・・・」 浅田調査官は、弁護士の主張をそのまま伝える。 「・・・所得税法37条では、必要経費について・・・『販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用』・・・と規定していますが・・・」 浅田調査官は税務六法を広げて、所得税法施行令96条1項1号を読み上げる。 「このような経費は、家事関連費に該当しないと施行令では規定していますが・・・この『業務の遂行上必要』の範囲なのですが・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「・・・必要経費の判断基準として・・・東京高裁平成24年9月19日判決の『弁護士交際費事件』が参考になると思う・・・」 そう言うと、中尾統括官は、パソコンに弁護士交際費事件の判決文を表示して、判旨の一部を読み上げる。 「・・・東京高裁の原審である東京地裁平成23年8月9日判決は、必要経費に『直接性』を求めていたが、その判断を斥けている・・・」 「・・・ということは、必要経費の範囲が広がったということですか?」 浅田調査官は、尋ねる。 「・・・この東京高裁の判決は、事例判決・・・・ともいわれているが、僕は、文理解釈上、東京高裁の判断は正しいと思う・・・」 中尾統括官は、判決文を見ながら言う。 「・・・ところで・・・今回の税務調査の件ですが・・・この弁護士が主張する将来の顧客を獲得するための支出金(交際費)について、必要経費として認められるのでしょうか・・・」 浅田調査官は、再度、尋ねる。 「・・・そうだなあ・・・明らかに友人との飲食であれば、もちろん必要経費を否認することはできるが・・・」 中尾統括官は、思案顔になる。 「・・・法人税の交際費と所得税の交際費では、その範囲は違うのでしょうか?」 浅田調査官は、中尾統括官に問いかける。 「所得税法には、必要経費の規定しかない・・・それに対して、法人税では、租税特別措置法で交際費等の具体的な規定をしているから、一概に比較はできない・・・また、所得税では必要経費と認められる交際費は、全額、費用として認められるが、法人税では、交際費は、原則損金不算入の取扱いになっている・・・ただし、中小企業は、800万円まで損金算入できるが・・・」 中尾統括官は、若い頃、部門の交流で、法人課税部門に5年間勤務したことがある。 「・・・僕の経験からすると、交際費については、法人税の方が所得税よりも範囲は広いように思える・・・すなわち、個人の交際費の方が、税務調査では、厳しい取扱いをするようだ・・・それに対し、法人、特に中小企業は、800万円という損金算入の枠を持っているから、交際費と認定してもその枠内であれば、課税されないということが影響しているのだろう・・・」 中尾統括官は、昔のことを思い出しながら説明する。 「・・・ということは、今回の弁護士の交際費支出については、厳しく取り扱ってもよいということですか?」 浅田調査官は、元気よく反応する。 (つづく)

#No. 542(掲載号)
#八ッ尾 順一
2023/11/02

プロフェッションジャーナル No.541が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年10月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.541を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/10/26

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第31回】「私人の公法行為に対する私法の適用の可否」-家督相続「錯誤」申告事件・最判昭和39年10月22日民集18巻8号1762頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第31回】 「私人の公法行為に対する私法の適用の可否」 -家督相続「錯誤」申告事件・最判昭和39年10月22日民集18巻8号1762頁-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回までは租税実体法の領域(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)第2編第1章)における税法基本判例を3回にわたって取り上げ検討したが、今回からは租税手続法の領域(同編第2章以下)における税法基本判例を取り上げ検討することにする。 租税手続法は、租税実体法における課税要件の充足による納税義務の成立を前提にして、その成立した納税義務(抽象的納税義務)の具体的内容(税額等)を確認する納税義務の確定並びにその確定した納税義務(具体的納税義務)の履行のための租税の納付及び徴収に関する行政手続を定める法(租税行政法)とそこでの納税者の権利救済に関する法(租税争訟法ないし租税救済法)とで構成されるが(前掲拙著【86】参照)、今回から、租税行政法の領域における手続の流れに即して税法基本判例を検討することにしよう。 まず、納税義務の確定については、国税の多くにおいて採用されている申告納税方式(税通16条1項1号)では納税者に第一次的確定権が与えられ納税者のする申告(納税申告)によって納税義務が第一次的に確定することが建前とされている(前掲拙著【121】参照)ことから、納税申告に関する税法基本判例の検討から始めることにする。 納税申告については、「この申告が、納税者たる私人によつてされる行為であり、その行為に納税義務の確定等公法上の法律効果が付与されるものであることは疑いがない。」(税制調査会『国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)』(昭和36年7月)52頁)といわれるが、その意味で、行政法学でいう私人の公法行為に分類される。 私人の公法行為は、私人の私法行為に対応して、法律行為的行為と準法律行為的行為とに分類されることがあるが(詳しくは新井隆一『行政法における私人の行為の理論〔第2版〕』(成文堂・1980年)とりわけ第1章第3節参照)、納税申告は後者のうち「一種の通知行為」(税制調査会・前掲答申別冊52頁)に該当する(新井隆一「申告行為の法的性格」租税法研究5号(1977年)21頁、28頁は納税申告を「観念の通知をその行為の中核的要素とする準法律行為的行為」と性格づける)。すなわち、「この申告の主要な内容をなすものは課税標準と税額であるが、その課税標準と税額が租税法の規定により、すでに客観的な存在として定まつている限り、納税者が申告するということは、これらの基礎となる要件事実を納税者が確認し、定められた方法で数額を確定してそれを政府に通知するにすぎない性質のものと考えられるから、これを一種の通知行為と解することが適当であろう。」(税制調査会・前掲答申別冊52頁)。 ただ、「申告行為の性格を上記のように通知行為として理解する場合、これにたとえば民法の無能力者に関する規定や無効、取消しに関する規定等が適用されるかどうか」(税制調査会・前掲答申別冊52頁)が問題になるが、この問題については、国税通則法の制定に当たっては、「各種の考え方があり得よう」(同頁)が「特に国税通則法の問題として、この問題を検討することは適当でない」(同頁)とされた結果、その解決は学説・判例の展開に委ねられることになった。そのような状況の下で示されたのが最判昭和39年10月22日民集18巻8号1762頁(以下「本判決」という)である。   Ⅱ 錯誤に基づく納税申告の効力の問題に関する判例の立場 本判決は、私人の公法行為のうち納税申告について錯誤に基づく意思表示に関する民法95条(平成29年改正前)が適用されるかどうかという問題(これをその結果の側からみれば、錯誤に基づく納税申告の効力の問題)に対する判例の立場を確立したものである。本件における納税申告について問題になった錯誤は、納税者が民法の共同相続の制度を知らず旧民法当時の家督相続が依然として行われているものと考え、長男である自身が遺産全部を相続したものと誤解していたというものであった。 錯誤に基づく納税申告の効力の問題については、私人の公法行為における意思主義の原理の妥当性及び妥当範囲の観点から判断することも考えられる(名古屋地判昭和29年10月12日行集5巻10号2315頁は「もしその意思が表示と一致しないときは、これに関して民法の分野における意思主義の原理がこの場合にも妥当し民法の錯誤の規定が類推適用でママあるものと解するを相当とする。」と判示した。ただし、この判決は控訴審・名古屋高判昭和30年12月28日行集6巻12号2896頁で取り消された。なお、渡部吉隆「判解」最判解民事篇(昭和39年度)384頁、385-386頁、室井力=塩野宏編『行政法を学ぶ1』(有斐閣・1978年)285頁、287-289頁[碓井光明執筆]も参照)。しかし、本判決はそのようにはせず、その問題に関する判断枠組みを次のとおり判示し(下線筆者)、これに基づき本件確定申告の錯誤無効の主張を認めなかった。 本判決は、このように、錯誤に基づく納税申告の効力の問題について、「その錯誤が客観的に明白且つ重大であつて、前記所得税法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合」には例外的に錯誤の主張を認めるという判断枠組み(以下「特段の事情判断枠組み」という)を定立し、これに従って判断したのである。この判断枠組みについては次のⅢで検討することにする。   Ⅲ 特段の事情判断枠組み 本判決は、「租税債務を可及的速かに確定せしむべき国家財政上の要請」と「納税義務者に対しても過当な不利益を強いる虞れ」との比較衡量によって、原則として前者を重視しつつ、例外的に後者の観点から「安全弁」(清永敬次「判批」民商法雑誌52巻5号(1965年)766頁、772頁)として「特段の事情」を考慮する余地を認める判断枠組みを定立したものと解される。 「特段の事情」の意味内容については、「特段の事情の内容は必ずしも明らかではないが、おそらく要件は極めて厳重であり、将来の判例法によつて具体化されるのをまつの外はあるまい」(杉村章三郎「判批」シュトイエル39号(1965年)1頁、2頁。清永・前掲「判批」771頁も同旨)といわれるが、ただ、少なくとも納税申告の錯誤の「客観的に明白且つ重大」の意味については、次のような理解が可能であるように思われる(なお、可部恒雄「判批」租税判例百選〔第2版〕別冊ジュリスト79号(1983年)150頁、151頁は本判決後の裁判例について「錯誤が『客観的に明白かつ重大』という一常套句の内容は、実は一向に明白でなく、法定の方法によらずして申告の無効を主張することが許される例外的ケースの識別の基準(指標)としては、十分に機能していないように思われる。」と述べている)。 本件では民法の相続制度に関する不知・誤解が錯誤の原因であったが、そのような錯誤は、「表意者の意思の形成に際して錯誤を生じたもの」で「この場合には、表示と内心の効果意思との間には不一致は存しない」(四宮和夫『民法総則〔新版〕』(弘文堂・1976年)180頁)ことから、動機の錯誤に該当するが、本判決はこれに基づく納税申告の無効の主張を認めなかった。これに対して、本判決は「本件確定申告書自体に誤記、誤算等の誤謬の存することは、上告人の主張しないところであ[る]」と説示していること(この説示については原審・大阪高判昭和38年1月22日行集14巻1号34頁参照)からすると、「意思を決定してから表示行為に至る過程で錯誤を生ずる場合」である「表示行為の錯誤」のうち「表示行為そのものに関する錯誤」である「表示上の錯誤」(以上は四宮・前掲書181頁)であれば、その主張を認める余地があったと解される(清永・前掲「判批」770-771頁も参照)。そうすると、錯誤の「客観的に明白且つ重大」の要件については、錯誤が動機の錯誤ではなく表示上の錯誤であることを要求するものであると解される。 上記の理解によれば、特段の事情判断枠組みは、原則的には、「私人の公法行為に意思と表示の不一致がある場合に錯誤の主張が許されるかどうかは、窮極的には立法政策に属する問題である」(渡部・前掲「判解」386頁)という立場に立つものと考えられるが、ただ、例外的には、意思主義の妥当する余地を認め、もって民法95条の類推適用による法創造の余地を認めるものとも考えられる(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)144頁[初出・2021年]参照)。 なお、特段の事情判断枠組みにおいて錯誤が「客観的に明白」であること(錯誤の客観的明白性)が要件とされているのは、大量反復的な税務行政においては納税申告の過誤の是正につき課税庁にあまり高度の注意義務を課すべきではないという税務行政側の事情が考慮されたためであろうが、そうすると、課税庁があまり高度の注意義務を尽くさなくても認知することができる程度の表示上の錯誤であれば、納税申告書それ自体から明らかなものに限定するのではなく、納税申告に関連する行為等の事情から容易に推認することができるようなものでも、錯誤の客観的明白性の要件を充たし得ると考えるところである(拙稿「判批」シュトイエル336号(1990年)1頁、7-8頁参照)。錯誤が税務職員の誤指導に基因する場合は尚更である(京都地判昭和45年4月1日行集21巻4号641頁、東京地判昭和56年4月27日行集32巻4号661頁、札幌地判昭和63年12月8日訟月35巻5号900頁等参照)。 また、錯誤の重大性の要件は、前述のように、錯誤の種類ないし類型が動機の錯誤(内心の意思形成過程の瑕疵)ではなく表示上の錯誤(意思と表示の不一致ないし意思欠缺)であることのほか、「納税義務者の利益を著しく害する」という要件とも重なり合う、錯誤の金額の大きさを意味するものと解される(前掲拙稿「判批」8-9頁参照)。   Ⅳ おわりに 今回のタイトルとして述べた「私人の公法行為に対する私法の適用の可否」については、租税法律主義(課税要件法定主義)の下「私法上の債務関係の成立に必要な意思の要素に代わる」(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)156頁)法定の課税要件の充足によって納税義務(抽象的納税義務)が成立する以上、その納税義務の確定(抽象的納税義務の具体化)のための納税申告に、その納税義務の内容(税額等)を決定する効果意思を観念することはできないのは当然であり、その意味及び限りでは納税申告に意思主義の原理は妥当せず、したがって私法の適用は認められない。 もっとも、「近代法の構造というものは、すべて個人の意思を中心に構成されている」(伊藤正己『近代法の常識〔第3版〕』(有信堂・1992年)163頁)ところ、そのような法の構造は私法についてだけでなく法理論上は公法についても認められるべきであることからすると、意思主義の原理は、税法の明文の規定によって排除されている場合のほか、その趣旨・目的、構造、体系等に照らして排除されていると解される場合は、税法の解釈適用上は援用することはできないものの、そうでない場合には、税法の分野においても妥当し得ると解される。本判決が示した特段の事情判断枠組みは、このような考え方に基づくものと解される。 上記の考え方によれば、納税申告についても、成立した納税義務の内容(税額等)に係る表示上の錯誤のように意思の欠缺が問題になる場合には、意思主義の原理に基づきその効力を否定することができると考えるべきである。例えば、「体調が非常に悪く、署名をさせるのも躊躇する程の状態であった」納税者に代わって長男が提出した修正申告書については、その申告をする意思(申告意思)が認め難いため、納税義務を確定させる法律効果を否定した裁判例(福岡高宮崎支判平成12年6月13日税資247号1175頁)があるが、妥当な判断である。 (了)

#No. 541(掲載号)
#谷口 勢津夫
2023/10/26

〈令和5年度税制改正で創設された〉パーシャルスピンオフ税制のポイント 【第1回】「創設の背景と制度の概要」

〈令和5年度税制改正で創設された〉 パーシャルスピンオフ税制のポイント 【第1回】 「創設の背景と制度の概要」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   1 はじめに 令和5年度税制改正により、親会社に持分を一部残す株式分配(パーシャルスピンオフ)についても、一定の要件を満たせば、適格株式分配とする特例措置(パーシャルスピンオフ税制)が創設された。 本連載では、この新たな制度であるパーシャルスピンオフ税制を3回にわたって解説する。【第1回】は、まずパーシャルスピンオフ税制の創設の背景と制度の概要について確認する。   2 創設の背景 平成29年度税制改正でスピンオフを組織再編税制の一類型として整備し、平成30年度税制改正でスピンオフの適格要件緩和がなされたが、上場会社のスピンオフ事例は1件(2020年のコシダカホールディングスによるカーブスホールディングスのスピンオフ)のみとなっており、実質的に活用がされていないという状況であった。 活用の妨げとなっている原因の1つが、スピンオフの適格要件では、完全子会社が対象とされ、対象となる完全子会社株式の全ての交付が求められ、スピンオフを行う会社は対象子会社と完全に資本関係を解消しなければならないことと考えられている。 スピンオフが一般的に行われている米国でも、対象子会社の経営が安定するまでの間、スピンオフを行う会社がシナジーを確保しつつ、安定株主として引き続き支援をするために、対象子会社の持分を一部残すパーシャルスピンオフを行う例は多い。 経済産業省の令和4年度税制改正要望の中でも、「スピンオフについて、段階的に事業を切り出そうとする企業などが活用できるよう、一部持ち分を残したスピンオフや完全子会社以外のスピンオフについても円滑な実施を可能とするための税制措置を講ずる」旨の要望を行っていたところであるが、令和4年度税制改正ではそのような措置の導入は見送られた。 そして、令和5年度税制改正要望でも、下記のような改正要望が挙げられていた。 このような改正要望を受けて、令和5年度税制改正でスピンオフを行う企業に一部持分を残すパーシャルスピンオフについても一定の要件を満たせば適格株式分配に該当する特例措置(パーシャルスピンオフ税制)が創設されることとなった。 なお、令和4年度税制改正要望で出されていた完全子会社以外のスピンオフは、パーシャルスピンオフ税制の対象となっていない点には留意が必要である。   3 制度の概要 (1) 概要 産業競争力強化法の事業再編計画の認定を令和5年4月1日から令和6年3月31日までの間に受けた法人が行う現物分配が認定株式分配(※)に該当する場合で、その認定株式分配が一定の要件を満たすときは、適格株式分配とみなされ、スピンオフを行う会社が完全子会社株式を株主に現物配当する際の株主に対する配当課税が対象外とされ、スピンオフを行う会社に対する完全子会社株式の譲渡損益課税が繰り延べられることとなる(措法68の2の2)。 (※) 認定株式分配とは、認定された事業再編計画に従って行う剰余金の配当で、配当財産が事業者の関係事業者の株式等であるものをいい、配当により関係事業者でなくなる(一定の資本関係を有しないこととなる)場合に限り、認定株式分配に該当することとされている(措法68の2の2、産競法2⑮⑯⑰、31①)。 ※図表をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について」11頁の図を筆者一部加工) (2) 認定株式分配があった場合の現物分配法人の取扱い ① 株式の譲渡 認定株式分配により現物分配法人の株主に完全子法人株式の移転を行った場合には、完全子法人株式を現物分配法人の株主に帳簿価額で譲渡したものとされ、譲渡損益は生じない(法法62の5③、措法68の2の2)。 ② 認定株式分配により減少する資本金等の額 現物分配法人の認定株式分配の直前の完全子法人株式の帳簿価額に相当する金額に交付する株式割合を乗じて計算した金額が、資本金等の額から減算される(措令39の34の3②、法令8①十六)。 ③ 認定株式分配により減少する利益積立金額 認定株式分配が行われた場合には、利益積立金額は減少しない。 (3) 認定株式分配を行った場合の現物分配法人の株主の取扱い ① 完全子法人株式の取得価額 完全子法人株式の取得価額は、完全子法人株式対応帳簿価額(下記②参照)となる(法令119①八)。 ② 完全子法人株式対応帳簿価額 完全子法人株式対応帳簿価額とは、下記算式で計算した金額をいう。 ③ みなし配当 認定株式分配があった場合には、みなし配当は生じない。 ④ 現物分配法人株式の譲渡損益 認定株式分配を行った場合には、現物分配法人の株主は、現物分配法人株式のうち、完全子法人株式に対応する部分の譲渡を行ったものとみなされる。 金銭等が交付されない(完全子法人株式のみ交付される)場合の譲渡損益の計算については、譲渡対価と譲渡原価が、いずれも完全子法人株式対応帳簿価額となり、譲渡損益は生じない(法法61の2⑧、法令119の8の2①)。 *  *  * 次回は、パーシャルスピンオフ税制の適用要件について解説する。   (了)

#No. 541(掲載号)
#川瀬 裕太
2023/10/26

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第33回】「〔第5表〕課税時期前3年以内に増築、改築、修繕を行った場合における建物等の相続税評価額の取扱い」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第33回】 「〔第5表〕課税時期前3年以内に増築、改築、修繕を 行った場合における建物等の相続税評価額の取扱い」   税理士 柴田 健次   Q 経営者甲(令和5年10月19日相続開始)が100%保有している甲株式会社の株式を長男が相続していますが、甲株式会社の資産の中にA支店土地建物、B支店土地建物及びC支店土地建物があります。各支店の土地建物の取得日と取得価額は、下記の通りとなりますが、課税時期前3年以内にA支店では増築工事を、B支店では大規模の模様替をC支店では修繕工事を行っています。 甲株式会社の第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する相続税評価額について、課税時期前3年以内に取得又は新築した家屋等の相続税評価額は、通常の取引価額又は帳簿価額によることとされていますが、各支店で行われた工事については、3年以内取得家屋等に該当することになりますか。それぞれの工事に係る建物等の評価方法についても教えてください。 なお、甲株式会社は3月決算で直前期末は令和5年3月31日となります。 A 各支店におけるそれぞれの工事について3年以内取得家屋等に該当するか否か、また、その工事に係る建物等の評価方法は、下記の通りとなります。  ◆  ◆  ◆ ① 3年以内取得土地等及び3年以内取得家屋等の計上金額 評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとされています。この場合において、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとするとされています(評価通達185括弧書)。 帳簿価額が通常の取引価額として認められない場合として、買い急ぎや関連会社からの有利な価額による取得など適正な時価による取得として認められない場合や取得時期から課税時期までの間における地価の急騰や資材の高騰があった場合など取得時期と課税時期の時価に大きな変動があった場合が考えられます。   ② 3年以内取得家屋等に該当するか否かの判断 相続開始前3年以内に工事が行われた場合には、その工事の種類によって、3年以内取得家屋等に該当するか否か異なります。増築は3年以内取得家屋等に該当しますが、改築、通常の修繕(資本的支出に該当しないもの)は、3年以内取得家屋等には、該当しないものとして取り扱います。資産価値の有無ではなく、資産の取得があったか否かを基準にして判断を行うことになります。 本連載【第32回】で旧租税特別措置法(以下「旧措置法」という)69条の4について解説をしていますが、旧措置法69条の4の規定と評価通達185括弧書の取扱いは、いずれも「課税時期前3年以内に取得又は新築をした土地等及び家屋等」を対象としていますので、旧措置法69条の4の取扱いは参考になります。旧租税特別措置法関係通達69の4-4、69の4-5には、家屋等の取得の範囲について下記の記載があります。通達上には、建物等と記載されていますが、評価通達185括弧書における家屋等と同義となります。 上記通達に記載のとおり、増築については新築に該当し、改造については建物等の取得には該当しない旨が記載されています。また、所得税や法人税においても建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たると定められています(所基通37-10、法基通7-8-1)。 なお、不動産所得税における用語の意義として増築、改築は、下記の通り規定がされています(地方税法73七・八)。 上記の改築の定義に記載されている家屋と一体となって効用を果たす設備で政令で定めるものは、次に掲げる設備をいいます(地方税法施行令36の2)。 また、上記の改築の説明として、「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」の第5章第1(納税義務者及び課税客体)の2(4)において下記の通り説明がなされています。 旧租税特別措置法関係通達69の4-5における「改造」の定義は明確ではありませんが、基本的な考え方として上記に記載されている改築とほぼ同義と考えて問題ないかと思います。したがって、「増築」は建物等の取得に該当し、「改造・改築」は建物等の取得には当たらないと考えられます。すなわち、建物の増築、構築物の拡張、延長等などの明らかな量的な支出については、建物等の取得に該当し、「改造・改築」は、建物等の取得ではなく、資本的支出として取り扱います。そして、資本的支出に該当しないような通常の維持管理や原状回復のために要したものは修繕費として処理がなされます(法基通7-8-2)。 大規模の修繕や大規模の模様替は、建築基準法上は、下記の通り定義がされています(建築基準法2五、十四、十五)が、通常の修繕とされる部分を除き、上記で解説した地方税法73条八号に規定する「改築」に含まれることになります。 (※) 主要構造部とは、壁、柱、床、はり、屋根又は階段をいい、建築物の構造上重要でない間仕切壁、間柱、付け柱、揚げ床、最下階の床、回り舞台の床、小ばり、ひさし、局部的な小階段、屋外階段その他これらに類する建築物の部分を除くものとする。   ③ 本問の場合の当てはめ ■A支店の増築工事 A支店の増築工事は、3年以内取得家屋等に該当しますので、通常の取引価額又は増築工事に係る帳簿価額により評価を行います。増築工事以外の従前の建物部分については、相続開始年における固定資産税評価額により評価を行いますが、固定資産税評価額が増築工事により改訂されている場合には、改訂前の固定資産税評価額により財産評価を行う必要があります。 財産評価基本通達185括弧書は、「帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとする。」とされており、実務的には増築工事部分に係る帳簿価額により評価することが一般的となります。 ただし、工事金額について、関連会社からの有利な価額により工事が行われたなど適正な時価による取得として認められない場合や取得時期から課税時期までの間における資材の高騰があった場合など取得時期と課税時期の時価に大きな変動があった場合には、帳簿価額が認められない可能性はあります。そのような場合には、通常の取引価額での計上を検討することになりますが、増築部分のみの不動産鑑定評価は困難であると考えられますので、その評価方法としては、増築部分の再建築価額から減価償却に相当する金額を控除して求めることになります。 なお、増築に伴い固定資産税評価額の見直しが行われている場合には、その見直し後の固定資産税評価額を時価として考え、増築前の建物と合わせて、その見直し後の固定資産税評価額を相続税評価額として計上しても問題はないかといった意見もあるかと思います。 平成25年7月1日裁決(TAINSコード:F0-3-394)は、平成20年に相続開始した同族会社の株式を評価するに当たり、その同族会社が相続開始前3年以内に土地建物を取得(土地の価格は2億4,000万円、建物の税抜価格は2億円)し、当該建物の相続税評価額として、平成20年度の固定資産税評価額(89,059,794円)が通常の取引価額として認められた事例となります。 ただし、上記記載の建物は、昭和61年5月20日に新築された鉄骨造陸屋根地下1階付3階建ての中古建物の取得の事案であり、相続開始まで約22年経過している場合の固定資産税評価額となります。一般的に、新築当初においては、「建物の時価評価額 > 固定資産税評価額」となりますが、一定期間経過後は建物に係る固定資産税評価額が高止まりすることになりますので、「建物の時価評価額 < 固定資産税評価額」になると考えられます。 したがって、課税上の弊害がない範囲内において、固定資産税評価額を時価として考えることができると解釈するべきとなりますので、上記の裁決事例の射程範囲は限定的であるといえます。私見としては、新築や本問の場合の増築の場合には、固定資産税評価額を通常の取引価額と考えることは適切ではないかと思います。 ■B支店の大規模の模様替工事 B支店の大規模の模様替工事は、3年以内取得家屋等には該当しませんが、改築に該当しますので、財産評価の必要があります。改築工事により固定資産税評価額が改訂されている場合には、その改訂された固定資産税評価額により評価を行います。ただし、固定資産税評価額の改訂がされていない場合には、国税庁から公表されている下記の質疑応答事例にあるとおり、再建築価額から減価償却費を控除した価額の70/100に相当する金額により評価することになります。 なお、改築により固定資産税評価額が改訂される場合には、改築に係る在来分は控除され改築部分が加算されます。これに対し、固定資産税評価額が改訂されない場合には、改築に係る在来分(滅失部分)は控除されず、下記の国税庁質疑応答事例の方法により計算された改築部分が加算されるため、滅失部分が控除されないことになり、不合理となります。 したがって、改築の場合には、本来的には固定資産税評価額の改訂をしてもらうことが適正な評価になりますので、固定資産税評価額の改訂を役所に依頼するかについて検討が必要になります。通常の場合には、改訂された固定資産税評価額により評価した方が国税庁質疑応答事例の方法より評価額は低くなりますが、毎年の固定資産税等の負担が増えることになります。 【国税庁質疑応答事例】 「増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価」 ■C支店の修繕工事 C支店の修繕工事は、現状回復のための工事であり、資産性を有しませんので、財産評価は不要となります。実務上においては、相続開始前に行われたリフォーム等の財産計上の可否について、その判断に迷うところとなりますが、②で解説した地方税法73条八号に規定する「改築」に該当するか否かを検討するとよいかと思います。 平成28年11月17日裁決(TAINSコード:F0-3-518)は、納税者が相続財産である家屋を、固定資産税評価額に1.0を乗じて計算した金額によって評価して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、当該固定資産税評価額には、相続開始前に行われた改築工事による価値の上昇が反映されておらず、当該家屋は、増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋に当たるとして、納税者の家屋の評価額を否認した事案となります。当該事案の工事は、従前家屋の基礎、柱、梁及び屋根を残し、それ以外の部分については解体、撤去した上で、新たに外壁、床、天井、室内壁等を構築し、内装の仕上げをし、設備を設置するなど、家屋全般にわたり改築を施すものであったため、いわゆる地方税法73条八号に規定する「改築」に該当するため、財産評価が必要と考えられます。   ☆実務上のポイント☆ 増築、改築、通常の修繕で相続税評価額に計上するべき金額が異なりますので、工事見積書等も確認しながら、計上するべき金額を検討する必要があり、3年以内に行われた増築工事については、3年以内取得家屋等に該当することになります。 (了)

#No. 541(掲載号)
#柴田 健次
2023/10/26
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