2023年3月30日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.513を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
これからの国際税務 【第36回】 「OECDが主導する国際課税ルール改革の現状」 千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二 1 はじめに 2月にインドで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議は、2つの柱から成る国際課税ルール改革の推進に向けてのコミットメントを確認するとともに、当面の具体的課題として、①第1の柱については、OECD/G20の下にある包摂的枠組(IF)が、残存課題の作業を終了させ、2023年前半までに多国間条約の署名ができるようにすべきこと、②第2の柱のグローバルミニマム税を中心とするGloBEルールについては、GloBE実施細則の公表(2022年12月及び2023年2月)を経た国内法化に向けた各国の取り組みを歓迎するとともに、課税条件ルール(STTR)について多国間協定を含む立法化作業を進めるべきこと、を付言した。なお、上記の手順の進捗に際しては、途上国向けの技術支援が不可欠であることも強調している。 そこで、以下においては、同会議に提出されたOECD事務総長報告とその後のOECD事務局によるWeb会議(2月27日開催)での説明ぶりを踏まえて、改革の現状と今後の見通しを検証する。 2 2つの柱の実施状況 (1) 2つの柱の税収効果の見直し 2021年10月のG20/OECD合意の際に見積もられた2つの柱による法人税の税収効果は、2023年1月のOECD見直しにより大きく上方修正されており、このことを踏まえ、特に改革からの受益度の高い途上国での執行の重要性が強調されている。 (表1)2つの柱改革の税収効果 (注) 2023年1月の見直しレポートによれば、上記の税収効果の引上げ改定は、2021年の対象多国籍企業の業績好調の影響としている。 途上国向けには、OECDは執行能力増強のための技術支援を他の国際機関や地域行政機関と提携して展開している。 なお、私見では、スムーズな2つの柱改革の実行のためには、途上国・市場国の協調が不可欠であり、税収効果の今回の見直しはそれへの誘因を高める効果がある一方で、利益Aの収入閾値の将来引下げ問題(中堅企業への適用拡大)への関心や適格国内ミニマム上乗せ税(QDMTT)への取組促進などにより、多国籍企業にとっては、予測可能性を不確実にする状況も覚悟しなければならないと思われる。 (2) グローバルミニマム税(GloBEルール)の国内法制化 同法制実施のため合意された法的枠組みは、OECD/IFによる2021年12月のモデルルール及び2022年3月の同ルール・コメンタリーに加えて、2つの実施ガイダンス(2022年12月のセーフハーバー・ガイダンス及び2023年2月の執行ガイダンス)の公表により、ほぼ完成された。これらを参照した国内法改正は、2023年2月現在、EUの27ヶ国、イギリス、スイス、日本、韓国、シンガポールなど計46ヶ国で進行中であると報告されている(※1)。 (※1) 我が国の税制改正案を公表した与党大綱は、2つの実施ガイダンスの発出前に公表されたため、グローバルミニマム税の法制化は、令和6年以後の改正で補完されることとなっている。 なお、公表済みの実施ガイダンスの概要は、以下のとおりである。 イ セーフハーバー・ガイダンス 公表文書名は「GloBEルールに係るセーフハーバー及びペナルティ免除」であり、その主要な内容は下表のとおりである。 (表2)セーフハーバーの概要 ロ 執行ガイダンス 執行ガイダンスは、GloBEルールの解釈の明確化と、当局による同ルールの執行方法如何を示した詳細なもの(約110頁)であり、そのカバーする領域は、以下のとおりである。なお、これらは、2022年3月に公表されたGloBEルール・コメンタリーと一体をなすものであるため、今後、一体化編集され今年中に公表される見込みである。 (表3)執行ガイダンスの構成 (注) 本ガイダンスは、当面の明確化が必要な項目を掲げたものとしており、今後、2024年からの実施に向けての修正・追加の余地ありとしている。 上記の通り、執行に向けた細則の基本合意内容は一通り公表されたものの、現在も市中協議中の技術的課題(GloBE情報申告に係る公開協議文書及びGloBEルールに係る税の安定化(紛争解決が主たる中身)に関する協議文書)を含めて、2024年からの執行に向けた検討は、継続している(※2)。 (※2) 上記2つの市中協議文書については、2023年3月16日にOECDで公開コンサルテーションが行われた。 与党税制改正大綱は、グローバルミニマム税について、今後の国際協議による追加ガイダンスに応じた来年度以降の税制改正を留保しているのは、上記のガイダンス進捗状況を踏まえたものと推測される。 (3) 今後の見通し 第1の柱については、昨年中に多国間条約の中身となる利益Aの詳細設計項目について、順次合意を積み重ねており、今年中ごろには、その内容が多国間協定となって公表され、各国の署名のために開放されることとなっている。 来年度の我が国税制改正では、GloBEルールの積残し部分と、条約署名が見込まれる利益Aについての国内執行のための法制化(条約批准を含めて)が、国際課税の重要項目となる見込みである。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第13回】 「エスコ事件 -移転価格税制における推定課税- (地判平23.12.1、高判平25.3.14)(その2)」 ~租税特別措置法66条の4第7項(現行6項)~ 税理士 吉村 優 5 考察 (1) 租特法66条の4第7項「推定課税」の適用の可否(主たる争点①) 当時の租特法66条の4第7項に規定する「その各事業年度における国外関連者取引に係る第1項に規定する独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類」の範囲が不明確であると考える。 その後平成22年の税制改正において「財務省令で定めるもの」と明確化されたが、財務省令で定める書類とは「国外関連取引の内容を記載したもの」(租規22の10⑥一)及び「国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するための書類」(租規22の10⑥二)である。これに準じて考えると、Xが「国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するための書類」として提出したO及びP間の取引に関する書類が該当書類として適切か否かという問題になる。 前回の〈図解②:モーターKの取引の流れ〉からX及びO間の取引のうちPに転売するもののみ価格が異なることが分かる。よってこの取引に関する書類の提出をもって「独立企業間価格を算定するための書類」として適切であると判断することはできないと考える。 Xは、租特法66条の4第8項「・・・当該法人に対し、当該国外関連者が保存する帳簿書類又はその写しの提示又は提出を求めることができる。この場合において、当該法人は、当該提示又は提出を求められたときは、当該帳簿書類又はその写しの入手に努めなければならない。」の規定における努力義務を果たしていることをもって推定課税の要件から外れる旨を主張している。判示では「租特法66条の4第7項は第8項の努力義務の履行の有無を要件としない。」と述べている。たとえ第8項の努力義務を果たしていても、第7項に規定する書類等の提出等の要請に適切に対応していなければ推定課税の適用を免れないという解釈に矛盾はないと考える。 ただし、裁判所は租特法66条の4第7項の適用の可否を判断する独立企業間価格の算定に必要な書類として、Xの国外関連者であるBの財務書類を含める旨を判示している。国外関連者の財務書類の取得については困難を伴う場合が想定されること、第8項に国外関連者が保存する帳簿書類の入手について努力義務規定をおいているという条文構成から鑑みると、この判示については疑問を感じる。 (2) 租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たすか否か(主たる争点②) 裁判所は、「租特法66条の4第7項及び租特令39条の12第11項には、その文言上、同種事業類似法人を選定する場合に関連者取引を行っている法人を除外すべきことは規定されていない。・・・推定課税の適用が認められる場合における独立企業間価格と推定される金額の算定については、同項所定の算定方法に反しない限り、その要件を厳格に解する必要は必ずしもないというべきであり、同項の金額の算定にあたり、関連者取引を含んだ金額を基礎とすることが直ちに許されないものではないと解するべきである。」と判示している。 確かに、租税特別措置法施行令39条の12第6項及び7項には「非関連者」という文言が使用されている一方、11項には「非関連者」という文言は使用されていない。だからといって、推定課税の適用が認められる場合の独立企業間価格と推定される金額の算定について、本来の独立企業間価格算定の規定と異なるルールを認めるという解釈には賛同することはできない。 Xは「OECDガイドラインによれば、独立企業原則を適用し、関連者間の取引条件を独立企業間の取引条件に引き直す上での最も重要なステップは、比較可能性のある独立企業間の取引を選定することである。そして、この比較可能性とは、独立企業間(非関連者間)取引との比較可能性なのであるから、比較可能性が緩和されている場合であっても、比較の対象が独立企業間(非関連者間)取引であるという大前提を崩すことはできない。」と主張している。独立企業間価格の算定方法については、Xの主張の方に説得力があると考える。 同種事業類似法人の抽出方法について、課税庁は「上記cの17法人から、香港に所在する法人と取引を行う国内の製造メーカー11法人を抽出し、書面照会及び必要に応じて臨場による調査を行った。これら11法人の香港の取引先法人はいずれも当該国内の製造メーカーの子会社であったが、これは、結果的にそのような法人が抽出されたのであり、山形税務署長において意図的に子会社を選定しようとしたものではない。むしろ、国内法人の子会社でない法人の場合、必要な情報を入手する方法は容易には想定し難く、そのような法人を選定することは困難であった。また、山形税務署長は、Bの設立経緯は、原告が、仕入先であるDの工場の中国移転に伴い、香港に関連法人を設立して、それまで原告が行っていた購買業務を移転したのと同じ状況であると判断し、そのような状況からすれば、把握された香港の子会社の中にこそ、本件取引に係る事業と事業の同種性及び事業内容の類似性の要件を満たす法人が存在する蓋然性が高いと見込まれる事情も存在した。」と述べている。 ここからは、①中国で製造されたモーターを日本国内に輸入する場合、直接取引を行うケースより香港に設立した子会社を経由するというスキームが一般的なものであり、非関連者を経由する取引を見つけることができなかったのか、②非関連者を経由するケースも存在したが必要な情報取得のために敢えて選択しなかったのかは明確でない。非関連者を経由するケースが存在したのであれば、情報を取得する困難性はあったとしても同種事業類似法人の抽出についてはそちらを選択し、独立企業間価格算定の根拠とすべきであったと考える。 (3) 本判決の射程について 課税庁は、「利益分割法については、本件取引に係る所得を原告及びBのそれぞれ支出した費用額、使用した固定資産の価額その他当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて分割して本件取引に係る独立企業間価格を算定することになるところ、原告からBの財務情報が提示又は提出されなかったため、これを用いることができなかった。」と述べており、Bの財務諸表の提示又は提出がされていれば、利益分割法による独立企業間価格の算定が可能であったものと推察される。 XとBの株主構成及び訴訟開始後においてBの財務諸表が提出されているといった経緯を考えると、XがBの財務諸表を開示することは比較的容易なことであったように見受けられる。XがBの財務諸表の開示を頑なに拒むことにより、やむを得ず推定課税の適用に至った事例であることが想定され、本判決の射程は限定的なものであると考えられる。 なお、控訴審においては地裁判決を全面的に支持し、控訴は棄却されている。 (了)
令和5年以後の 国外居住親族に係る扶養控除等の適用ポイント 【第3回】 (最終回) 「支払額38万円以上の判定」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 実務において、外国人従業員より、国外に居住する両親や兄弟姉妹を控除対象扶養親族とする扶養控除等申告書の提出を受けることがある。両親や兄弟姉妹が30歳以上70歳未満である場合には、留学している又は障害者に該当するケースを除き、「扶養控除の適用を受ける人(外国人従業員)から、その年において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受けていること」が要件となる(所法2➀三十四の二ロ)。 令和4年以前は、支払について具体的な金額要件はなかったが、令和5年以後は、38万円以上の支払を受けていることが求められる。 そこで、本稿(最終回)では、支払額38万円の判定のしかたについて、「金融機関から送金する場合」と「親族がクレジットカードを利用する場合」に分けて解説を行う。 【1】 「38万円以上」の判定のしかた(金融機関から送金する場合) 金融機関から送金する場合の「38万円以上」の判定のしかたは、次のとおりである。 (1) 支払日 金融機関からの送金日に、生活費又は教育費の支払があったものとされる(所基通2-50(1)イ)。したがって、令和5年中に送金している場合には、令和5年に生活費又は教育費の支払があったものとして「38万円以上」の判定を行うこととなる。親族の口座に実際に入金された日で判定しないことに留意が必要である。 (2) 邦貨への換算方法 原則として、送金をした金融機関(※)の送金日における対顧客直物電信売買相場の仲値(TTM)により換算する。ただし、円預金口座から送金する場合など、円により外国通貨を購入し直ちに送金するときには、円預金口座から引き落とされた金額をその額とすることもできる(所基通2-50(1)ロ)。 (※) 送金する者の主たる取引金融機関のものなど、合理的な為替レートを継続的に使用している場合にはそれも認められる。 また、その年中の国外送金合計額について、その年最後の支払日のTTM又は最後の支払に実際に適用された為替レートにより一括して円換算した金額で判定することもできる(所基通2-50(注)1)。 (3) 各種手数料の取扱い 金融機関から送金をするときにかかる各種手数料については、「38万円以上」を判定するときの金額に含めることができる。 この取扱いは、送金するときに手数料を支払う場合でも、送金を受ける親族が送金額から手数料分を差し引かれる場合でも同じであるが、送金を明らかにする書類に各種手数料の額が記載されていることが要件となる(Q&A[Q7])。 【2】 「38万円以上」の判定のしかた(親族がクレジットカードを利用する場合) 親族がクレジットカードを利用する場合の「38万円以上」の判定のしかたは、次のとおりである。 (1) 支払日 親族がクレジットカードを利用した日に、生活費又は教育費の支払があったものとされる(所基通2-50(2)イ)。したがって、令和5年中にクレジットカードを利用している場合には、令和5年に生活費又は教育費の支払があったものとして「38万円以上」の判定を行うこととなる。クレジットカード利用額の口座引き落とし日で判定しないことに留意が必要である。 (2) 邦貨への換算方法 外国通貨で決済されたものの場合には、原則として、クレジットカード利用日のTTMにより円換算する。ただし、クレジットカードの利用について円預金口座からの引落しにより支払われる場合には、口座から引き落とされた金額とすることもできる(所基通2-50(2)ロ)。 また、その年中の利用合計額について、その年最後のクレジットカード利用日のTTM又は最後の利用に実際に適用された為替レートにより一括して円換算した金額で判定することもできる(所基通2-50(注)1)。 〈参考〉邦貨への換算方法のまとめ 国外居住親族に係る扶養控除等の実務上の取扱いについては、国税庁から「令和5年1月からの国外居住親族に係る扶養控除等Q&A(源泉所得税関係)」が公表されているので参考にされたい。 (連載了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第14回】 「NFTに関する税務上の取扱いに係るFAQ詳解⑤」 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 問7 商品の購入の際に購入先が発行するトークンを取得した場合 FAQの解説では、トークンを無償で取得した場合の経済的価値は、法人からの贈与に当たることから、一時所得に該当するとされている。 一時所得の場合は、最大50万円の特別控除額があるため実際に納税が必要なケースは限られてくるし、これに加えて、長期譲渡所得の場合と同じように2分の1課税の適用があるため、税負担は軽いものとなろう(所法22②二、34)。 FAQの解説では、一時所得の総収入金額は「無償で取得したトークンの時価」となるが、「そのトークンが暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できないなどの理由により、時価の算定が困難な場合には、そのトークンの時価を0円として差し支えありません。」としている。 商品の購入の際に購入先の法人から発行を受けるトークンには、通常、いくばくかの価値があることが想定されるが、入ってきたもの(トークン)の時価を算定することが困難な場合に、総収入金額を計上しないという取扱いを認めているのである。 この部分は、「トークンが暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できない」こと以外の他の理由も含めて、トークンの「時価の算定が困難な場合」に該当するかどうかを判断する必要がある。 また、市場性のある暗号資産と間接的にでも交換できるのであれば、通常は、時価の算定が困難であるとはいえないと指摘されるかもしれない。 FAQではトークンの無償による取得を想定しているため、総収入金額から控除する「その収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額」(所法34②)については触れられていない。 なお、トークンを発行する法人側の処理については更なる考察が求められる。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第97回】 「「地方税統一QRコード付納付書」の領収証書に係る印紙税の取扱い」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 令和5年4月1日から地方税用QRコードを活用した、「地方税統一QRコード付納付書」での納付が開始されます。これにより、地方税統一QRコードを読み取ることによって、インターネットバンキング等、スマートフォン操作による電子納付、特定金融機関等の窓口に本件納付書を持参することによる納付が可能となる予定です。 それに伴い、一般社団法人全国地方銀行協会から国税庁に「地方税統一QRコード付納付書」の印紙税の取扱いについての文書照会がありました。その内容について教えてください。 法令の規定に基づき地方公共団体から地方税の収納の事務の委託を受けた者が、支払者から地方税の交付を受けたときに、受託者が支払者に対して交付する金銭の受取書は、「地方公共団体の公金の取扱いに関する文書」として、非課税文書に該当する旨定められている(印紙税法第5条第3号、印紙税法別表第3 非課税文書の表)が今回照会の「地方税統一QRコード付納付書」についても同様に非課税文書と取り扱うことができるかどうかの照会である。 〈前提条件〉 地方公共団体の公金の収納又は支払に当たっては、金融機関を指定して事務を取り扱わせなければならないこととされており、原則として、この指定金融機関等により取り扱われることとなっている。 また、地方税に係る地方公共団体の徴収金のうち、eLTAXを経由する方法により電子的に納付若しくは納入するものに係る収納の事務については、指定金融機関ではなく、地方税共同機構に行わせることとされているものの、この機構は地方税法において、地方公共団体が共同して運営する組織として位置づけられていて、特定徴収金の収納の事務の一部を特定金融機関等に委託することができるとされており、その場合は地方公共団体に通知することとされている。 このことにより、特定金融機関等は、地方税法の規定に基づき、特定徴収金の納付委託を受ける者として地方税法上「地方公共団体が共同して運営する組織」である機構から特定徴収金の収納の事務の一部の委託を受けていると認められ、特定金融機関等は「地方税法の規定に基づき地方公共団体から特定徴収金の収納の事務の委託を受けた者」であり、支払者から特定徴収金の交付を受けた時に、受託者(特定金融機関等)が支払者に対して交付する金銭の受取書であると認められることから、支払者に領収証書を交付する時点で、印紙税法第5条第3号に規定する非課税文書に該当するとの文書回答内容である。 (了)
2023年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】 (最終回) 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 Ⅶ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い 2022年8月26日に、ASBJより実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い(以下、「実務報告」という)」が公表された。 これは、2019年5月に「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、金融商品取引法が改正されたことに伴い、投資性ICO(Initial Coin Offering)が金融商品取引法の規制対象となったため、会計上の取扱いが必要となり、公表されたものである。 1 実務報告の範囲 実務報告は、株式会社が金融商品取引業等に関する内閣府令(以下、「金商業等府令」という)第1条第4項第17号に規定される「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としている(実務報告2)。 ここで、「電子記録移転有価証券表示権利等」とは、金商業等府令第1条第4項第17号に規定される権利をいい、金融商品取引法第2条第2項に規定される有価証券とみなされるもの(以下、「みなし有価証券」という)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものをいう(実務報告3(1))。 電子記録移転有価証券表示権利等は、従来のみなし有価証券と権利の内容は同一のため、「基本的に」みなし有価証券と同様の会計処理を規定している(実務報告27)。 2 電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理 電子記録移転有価証券表示権利等を発行する場合、その発行に伴う払込金額を負債、株主資本又は新株予約権として会計処理を行う(実務報告4~6)。 これまで、払込金額が負債となるのか株主資本となるのかについての明確な会計基準は存在していなかっため、有価証券の法的形式等を勘案して、実務上の対応が行われていた。したがって、電子記録移転有価証券表示権利等を発行した場合の払込金額の区分についても、特段の定めを設けず、現行の実務を参考にして判断する(実務報告30)。 3 電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理 電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理については、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準(以下、「金融商品基準」という)」及び会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針(以下、「金融商品実務指針」という)」上の有価証券に該当する場合と該当しない場合に分けて会計処理を行う(実務報告7)。 (1) 金融商品基準及び金融商品実務指針上の有価証券に該当する場合 ① 発生及び消滅の認識 金融商品基準及び金融商品実務指針(以下、「金融商品基準等」という)上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識は、金融商品基準第7項から第9項及び金融商品実務指針の定めに従って会計処理を行う。 ただし、電子記録移転有価証券表示権利等の売買契約について、契約締結時から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合は、金融商品実務指針第22項の定めにかかわらず、契約締結時に、買手は電子記録移転有価証券表示権利等の発生を認識し、売手は電子記録移転有価証券表示権利等の消滅を認識する(実務報告8)。 ② 期末時 金融商品基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の貸借対照表価額の算定及び評価差額に係る会計処理については、従来のみなし有価証券を保有する場合と同様に、金融商品基準第15項から第22項及び金融商品実務指針の定めに従って会計処理(その他有価証券であれば時価評価等)を行う(実務報告9)。 (2) 金融商品基準及び金融商品実務指針上の有価証券に該当しない場合 金融商品基準等の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等の会計処理は、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い(以下、「実務報告23号」という)」の定めに従って行う。 ただし、金融商品基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等のうち、金融商品実務指針及び実務報告23号の定めにより、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱うものについては、その発生の認識(信託設定時を除く)及び消滅の認識は、金融商品実務指針及び実務報告23号の定めにかかわらず、実務報告第8項の定め(上記(1)①参照)に従って行う(実務報告10)。 4 表示 電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の表示は、従来のみなし有価証券と同様である(実務報告11)。 5 注記 電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の注記事項は、従来のみなし有価証券で求められる注記事項(金融商品関係注記、有価証券関係注記)と同様である(実務報告12)。 6 適用時期 適用時期は、以下のとおりである(実務報告13)。 2023年3月期決算の会社で、適用していない場合、未適用の会計基準の注記が必要でないか検討する必要がある(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」22-2)。 Ⅷ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準 2022年10月28日に、以下の会計基準の改正が公表された。 本改正では、その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、改正が行われている。 1 その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分 (1) 改正理由 その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下、「取引等」という)が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等が課される場合がある。 法人税、住民税及び事業税等は、法令に従い算定した金額を損益に計上している。一方、取引等については、従来ではその他の包括利益に計上されるが、これに対して課される法人税、住民税及び事業税等は損益に計上され、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていなかった。 そのため、その他の包括利益に対して課される法人税、住民税及び事業税等のほか、株主資本に対して課される法人税、住民税及び事業税等も含めて、所得に対する法人税、住民税及び事業税等の計上区分についての見直しが行われた(改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表)。 (2) 影響があるケース 影響があるケースとして、以下の例示が挙げられている(企業会計基準公開草案第71号(企業会計基準第27号の改正案)「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」等の公表)。 なお、株主資本に対して課税される場合については、従来から税効果適用指針等において取扱いが示されているため、以下の場合を除き、影響はない(改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表)。 (3) 法人税等の計上区分 当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益(又は評価・換算差額等)に区分して計上する(法人税等基準5、5-2、8-2)。 なお、課税の対象となった取引等が、損益に加えて、株主資本又はその他の包括利益に関連しており、かつ、株主資本又はその他の包括利益に対して課された法人税、住民税及び事業税等の金額を算定することが困難である場合(退職給付に関する取引を想定)には、当該税額を損益に計上することができる(法人税等基準5-3(2))。 (4) 株主資本又はその他の包括利益に計上する金額の算定 株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等は、課税の対象となった取引等について、株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、法定実効税率を乗じて算定する。 なお、課税所得が生じていないこと等から法令に従い算定した額がゼロとなる場合、株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができる(法人税等基準5-4)。 (5) その他の包括利益の組替調整(リサイクリング) その他の包括利益累計額に計上された法人税、住民税及び事業税等は、当該法人税、住民税及び事業税等が課される原因となる取引等が損益に計上された時点で、これに対応する税額を損益に計上する(法人税等基準5-5)。 なお、税率変更に係る差額はリサイクリングしない(法人税等基準29-10)。 (6) 関連する繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合 親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合に、当該子会社に対する投資を売却し、一時差異が解消した際の繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩しについて、従来は法人税等調整額で計上していたが、改正後は、資本剰余金を相手勘定として取り崩す(税効果適用指針9(3))。 (7) その他の包括利益の開示 包括利益計算書におけるその他の包括利益の内訳項目は、税効果を控除した後の金額で表示し、税効果の金額を注記する。そのため、その他の包括利益の内訳項目から控除する「税効果の金額」及び注記する「税効果の金額」について、「その他の包括利益に関する、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金及び税効果の金額」と改正された(包括利益基準8)。 2 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果 (1) 改正理由 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却(連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上、当該売却損益を繰り延べる場合)に係る税効果について、従来では、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されている場合は、連結上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正されなかった。 しかし、税効果適用指針の取扱いは、連結上、消去される取引に対して税金費用を計上するため、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していないため、改正が行われた。 (2) 影響を受けるケース 100%子会社を所有する親会社の連結財務諸表において、その100%子会社同士又は親会社と100%子会社との間で、親会社又は100%子会社が所有する子会社株式等を売却し、当該売却に伴い生じた売却損益について、グループ法人税制が適用される場合に、影響を受ける。 (3) 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い及び子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の取扱い 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上、当該売却損益を繰り延べる場合、連結財務諸表において、以下の会計処理を行う(税効果適用指針39)。 3 適用時期 適用時期は、以下のとおりである(法人税等基準20-2、包括利益基準16-5、税効果適用指針65―2)。 2023年3月期決算の会社で、適用していない場合、未適用の会計基準の注記が必要でないか検討する必要がある(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」22-2)。 4 経過措置 その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分について、以下の経過措置が定められている。 法人税等の計上区分については、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減する。また、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、適用初年度期首から新たな会計方針を適用することができる(法人税等基準20-3、包括利益基準16-5、税効果適用指針65-2)。 Ⅸ 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項 2023年3月24日に金融庁より「令和4年度の有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」が公表された。 これは、令和4年度の有価証券報告書レビューの実施状況を踏まえ、複数の会社に共通して記載内容が不十分であると認められた事項に関し、記載に当たって留意点等を取りまとめたものである。 レビュー結果の内容は、上場会社のみならず、非上場会社の2023年3月期決算においても参考となる箇所がある。 1 時価の算定に関する会計基準等 2 収益認識に関する会計基準 (※) 収益認識に関する注記の開示目的とは、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することである。 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 * * * 〈改善の開示例〉 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 * * * 〈実際の開示を元に加工した例〉 〈改善の開示例〉 3 コーポレートガバナンスの状況等における株式の保有状況 4 年金資産の連結貸借対照表における表示 5 退職給付に係る調整額の注記 6 セグメント注記 (連載了)
〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《金銭債権-手形債権・電子記録債権》編 【第2回】 「電子記録債権」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 2008年12月から施行されている電子記録債権法に基づいて、従来の紙媒体である手形債権だけでなく、電子記録債権も手形債権の代替として機能しており、中小企業においても、特に大企業の取引先との決済から徐々に普及してきています。そこで今回は、電子記録債権の会計処理をご紹介します。 【設例2】 当社(12月31日決算)は、当期(X1年1月1日~X1年12月31日)に、次の取引を行いました。 (1) X1年10月20日に、製品2,000,000円(税抜金額、消費税10%)を甲社に掛けで販売しました。 (2) X1年11月30日に(1)の代金について、販売先甲社がその取引銀行に電子記録債権2,200,000円(支払期日X2年2月28日)の発生記録を請求し、電子記録債権機関の記録原簿に発生記録が行われ、その通知を受けた当社の取引銀行から当社が甲社の電子記録債権の発生記録の通知を受けました。 (3) 当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に譲渡しない場合 (3-1) 支払期日X2年2月28日に、(2)の電子記録債権2,200,000円が決済(甲社の銀行口座から引き落とされて当社の当座預金に2,200,000円振込)されました。 (4) 当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に割引する場合 (4-1) 当社の取引銀行に電子記録債権の割引申込を行い、その電子記録債権の譲渡記録が請求されて、X1年12月15日に、電子債権記録機関の譲渡記録(保証記録も随伴)が行われ、その通知を受けた当社の取引銀行が審査の上、電子記録債権と引換えに割引料80,000円を差し引いた2,120,000円を当社の当座預金に入金しました。 (4-2) X1年12月31日決算日。 (4-3) その後、支払期日X2年2月28日に、(2)の電子記録債権2,200,000円が決済されました。 (5) 当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に(手形裏書と同様の)譲渡をする場合として、当社の仕入先乙社に対する買掛金2,200,000円を(2)の電子記録債権と相殺するケース (5-1) 当社の取引銀行に電子記録債権の譲渡記録を請求し、X1年12月20日に、電子債権記録機関の記録原簿に譲渡記録(保証記録も随伴)が行われ、その通知を受けた乙社の取引銀行から乙社へその譲渡記録が請求された旨を通知しました。これにより、当社の仕入先乙社に対する買掛金2,200,000円と相殺するために、電子記録債権2,200,000円の譲渡が成立しました。 (5-2) X1年12月31日決算日。 (5-3) その後、支払期日X2年2月28日に、(2)の電子記録債権2,200,000円が決済されました。 1 会計処理 上記(1)~(5-3)の仕訳等は、次のとおりです。 (1) (2) (3) 当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に譲渡(割引や裏書)しない場合 (3-1) (4) 当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に割引する場合 (4-1) (4-2) 仕訳なし。電子記録債権割引高2,200,000円を決算書に注記。 (4-3) 仕訳なし。 (5) 当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に(手形裏書と同様の)譲渡をする場合として、当社の仕入先乙社に対する買掛金2,200,000円を(2)の電子記録債権と相殺するケース (5-1) (5-2) 仕訳なし。電子記録債権譲渡高2,200,000円を決算書に注記。 (5-3) 仕訳なし。 2008年12月から施行されている電子記録債権法に基づいて、従来の紙媒体である手形債権だけでなく、電子記録債権も手形債権の代替として機能しており、中小企業においても、特に大企業の取引先との決済から徐々に普及してきています。 電子記録債権とは、その発生又は譲渡について、電子記録を要件とする金銭債権です。ここでの電子記録とは、磁気ディスク等をもって電子債権記録機関が作成する記録原簿への記録事項の記録をいいます。 〇電子記録債権の発生 上記(2)について、手形債権であれば、販売先の甲社が振出人として紙媒体の手形を取引銀行から購入した所定の手形用紙を用いて作成して振り出し、当社はその紙媒体の手形を受け取ります。 これに対して電子記録債権の場合、例えばこの設例のように、販売先甲社がその取引銀行に電子記録債権の発生記録を請求し、電子記録債権機関の記録原簿に発生記録が行われ、その通知を受けた当社の取引銀行から当社が甲社の電子記録債権の発生記録の通知を受けることになります。 電子取引債権について、貸借対照表上、「電子記録債権(又は電子記録債務)」等、電子記録債権を示す科目をもって表示します。ただし、重要性が乏しい場合には、営業取引により発生した債権(又は債務)については、受取手形(又は支払手形)に含めて表示することができます(実務対応報告27号「電子記録債権に係る会計処理及び表示についての実務上の取扱い」)。この設例では、「電子記録債権」勘定を用いています。 〇電子記録債権の割引 上記(4)について、仮に手形債権であれば、販売先から受け取った紙媒体の手形を当社の取引銀行に持ち込み、所定の割引料を差し引いて支払期日を待たずに早期に現金化します。 これに対して、電子記録債権の場合、例えばこの設例のように、当社の取引銀行に電子記録債権の割引申込を行い、その電子記録債権の譲渡記録が請求されて、電子債権記録機関の譲渡記録(保証記録も随伴)が行われ、その通知を受けた当社の取引銀行が電子記録債権と引換えに割引料を差し引いた金額で当社の当座預金に支払期日を待たずに早期入金します。割引料は、手形債権であれば「手形売却損」勘定を用いるのと同様に、「電子記録債権売却損」勘定を用います。 〇電子記録債権の(手形債権の裏書と同様の)譲渡 上記(5)について、仮に手形債権であれば、当社の支払先への支払手段の1つとして、販売先から受け取った紙媒体の手形を、その用紙の裏に譲渡先を記入して、引き渡します。 これに対して電子記録債権の場合、例えばこの設例のように、当社の取引銀行に電子記録債権の譲渡記録を請求し、電子債権記録機関の記録原簿に譲渡記録(保証記録も随伴)が行われ、その通知を受けた支払先乙社の取引銀行から乙社へその譲渡記録が請求された旨を通知します。この電子記録債権2,200,000円の譲渡により、当社がこの債権を対価とした相殺取引として、乙社に対する買掛金2,200,000円を支払ったことになります。 * * * 上記(4)と(5)は、いずれも、電子記録債権の譲渡に際して、電子債権記録機関の記録原簿に譲渡記録が行われると同時に、保証記録も行われます。これは紙媒体の手形債権の割引や裏書譲渡と同様であり、割引や譲渡が行われた後に、電子記録債権を当初発生させた支払義務者(この設例では当社販売先甲社)が支払期日X2年2月28日時点で支払不能になっていれば、割引や譲渡を行った者(この設例では当社)は債権者(この設例(4)では当社の割引先銀行、設例(5)では当社の仕入先乙社)へ2,200,000円の支払をしなければならず、条件付き遡及義務を負います。この設例では、当期末(X1年12月31日)現在、電子記録債権の割引や譲渡が行われた後であり、かつ、電子記録債権の支払期日(X2年2月28日)前であるので、当社は条件付き遡及義務を負っています。 「手形遡及債務」は、「貸借対照表等に関する注記」の1つ(会社計算規則103)です。会社計算規則では、会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く)には、「貸借対照表等に関する注記」を表示することは要しないとされています(同規則98②)。しかし、中小企業会計指針では、受取手形割引額及び受取手形譲渡額は、注記を要求されていない場合においても、それぞれ注記することが望ましいとされている(中小企業会計指針15(4))ため、電子記録債権割引高及び電子記録債権譲渡高も同様に注記することが望ましいと考えられます。 2 当期(X1年12月31日決算)における決算書の表示 当期(X1年12月31日決算)における決算書の表示は、他に取引がないと仮定すると、次のとおりです。 ➤上記(3)の「当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に割引や譲渡をしない場合」 〈当期末貸借対照表〉 ➤上記(4)の「当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に割引する場合」 〈損益計算書〉 〈個別注記表〉 ➤上記(5)の「当社が(2)の電子記録債権を支払期日前に(手形裏書と同様の)譲渡をする場合」 〈個別注記表〉 (《金銭債権-手形債権・電子記録債権》編 終了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第43回】 「金額表示単位のミスの見つけ方」 公認会計士 石王丸 周夫 1 「千円」を「百万円」と表記したミス 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 【事例43-1】 金額表示単位の表記ミス。 (出所) 株式会社SIGグループ「第31期定時株主総会招集ご通知」 【事例43-1】は、連結注記表の「剰余金の配当に関する事項」の記載でのミスです。金額の表示単位を「千円」とすべきところを「百万円」としてしまったというミスになります。 この事例の会社は、2022年6月14日に本事例を含む定時株主総会招集ご通知を公表し、同日に当該誤記載の訂正を公表しています。 会社法決算書の表示単位については、この連載の【第22回】で解説したとおり、一円単位、千円単位又は百万円単位のいずれかを会社が選択することになります。「剰余金の配当に関する事項」は連結株主資本等変動計算書に関する注記であり、【事例43-1】の会社は、連結株主資本等変動計算書を千円単位で作成していることから、この注記も千円単位で作成することになります。【事例43-1】では、数字は正しかったのですが、表示単位の表記を間違えてしまったというわけです。 2 どうしてここで間違えたのか 【事例43-1】は見るからに単純なミスですが、連結計算書類等の作成実務を担当している人からすると、なぜそこで間違ってしまったのか不思議かもしれません。間違った箇所は定型フォームの一部であって、一度正しく作成してしまえば翌年度からはそこに手を加えることはなく、間違うはずがないからです。実際、よくあるミスは配当額の数値に関するミスです。参考までに1例紹介しておきます。 【事例43-2】 配当金の総額の記載ミス。 (出所) 株式会社ヨータイ「「第124回定時株主総会招集ご通知」の一部修正について(2022年6月1日)」 【事例43-2】では、修正前と修正後の期末配当の注記が上下に並べてあり、下線が引かれてあるところが修正箇所です。配当金の総額の数字が間違っていたことがわかります。この欄は毎年書き換える箇所なので、間違うこともあるわけです。 では、さきほどの【事例43-1】のようなミスはなぜ起きたのかというと、【事例43-1】の会社の株主総会招集通知を見てみると、あることに気づきます。この会社は連結計算書類をこの年度から作成し始めたのです。前年度までは子会社がなく、連結決算が不要であり、単体の計算書類のみを作成していました。 連結計算書類作成初年度においては、連結計算書類のフォームを一から作成することになります。その際、ひな型や他社の連結計算書類を見ながら作成するものと思われ、それらが百万円単位で作成されていれば、うっかりそのまま写してしまった可能性が考えられます。もちろん、筆者の推測にすぎませんが、こうした書類の作成初年度は間違いが発生しやすいことは確かです。 3 このミスの見つけ方 【事例43-1】のようなミスを公表前に発見することは、それほど難しくはありません。データの検索機能を使えば見つかるからです。千円単位で連結計算書類を作成している会社であれば、原稿データの段階で「百万円」で検索してヒット箇所を確認してあげればよいでしょう。 これに加えて、このミスが起きる特有のタイミングがあることも頭に入れておくと、ミス発見につながります。【事例43-1】のように連結計算書類作成初年度に起こることは理解できたと思いますが、これ以外のタイミングでも起きています。それは、無配が続いた後に復配した年度とその翌年度です。 無配になると、「剰余金の配当に関する事項」の記載が削除されます(もしくは、該当ない旨を記載します)。いったん削除した定型フォームを復配時に復活させるため、定型フォーム部分で間違う可能性が出てくるのです。復配時及びその翌年度に、この注記の記載を落としてしまうケースを【第9回】及び【第19回】で解説していますが、落とさないまでも【事例43-1】のように誤記載をしてしまう場合があることを覚えておきましょう。 〈今回のまとめ〉 金額表示単位のミスは検索機能を使うと比較的簡単に見つけることができます。連結計算書類作成初年度等、ミスが起こりやすいタイミングにも留意しましょう。 (了)
〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第16回】 「新設された具体的相続分による遺産分割の時的限界の概要」 司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行 【Q】 相続開始から長期間が経過した場合の遺産分割について、どのような見直しが行われたのか教えてください。 【A】 具体的相続分による遺産分割の時的限界が設けられ、相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、一定の場合を除き、具体的相続分ではなく法定相続分(又は指定相続分)により分割することとされた。 -《解説》- 1 改正の経緯 相続が開始して相続人が複数存在する場合、遺産(相続財産)に属する土地や建物、動産、預金などの財産は、原則として相続人により共有されることになる(民法第898条)。このような遺産共有関係にある場合、各相続人の持分権が互いに制約し合う関係に立つことから、遺産の管理に支障を来すおそれがある。とりわけ、遺産分割がされないまま相続が繰り返されて多数の相続人による遺産共有関係となると、遺産の管理・処分が困難な事態が生じる。また、このような状態の下で相続人の一部が所在不明になり、所有者不明土地が生ずることも少なくない。 よって、遺産分割による遺産共有関係の解消は、所有者不明土地の発生予防の観点からも重要であるといえる。 他方で、具体的相続分の割合による遺産分割を求めることについては、これまで時的制限がなく、長期間放置をしていても具体的相続分の割合による遺産分割を希望する相続人に不利益が生じないことから、相続人が早期に遺産分割の請求をすることについてインセンティブが働きにくい状況であった。また、相続開始後遺産分割がないまま長期間が経過すると、生前贈与や寄与分に関する書証等が散逸し関係者の記憶も薄れることから、長期間が経過すると、具体的相続分の算定が困難になり、遺産分割の支障となるおそれがある。 そこで、今回の改正により、遺産分割をできる限り早期に実施し、遺産共有関係を円滑に解消するために、具体的相続分による遺産分割に時的限界が設けられることとなった。 2 改正の内容 (1) 原則 相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、下記(2)の場合を除き、民法第903条から904条の2までの規定は適用しないこととされ、具体的相続分ではなく法定相続分(相続分の指定があるときは、指定相続分)により遺産分割を行うこととされた(新民法904条の3)。 (2) 例外 ① 相続開始から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき ② 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6ヶ月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6ヶ月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき 3 相続開始から10年経過後の法律関係 (1) 共有物分割ではなく遺産分割 相続開始から10年の経過により遺産分割の基準は法定相続分(又は指定相続分)によることとなるが、分割方法は基本的に遺産分割であって共有物分割ではない。 (2) 具体的相続分による遺産分割をする旨の合意 相続開始から10年が経過し、法定相続分等による分割を求めることができるにもかかわらず、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意したケースでは、10年経過後であっても、具体的相続分による遺産分割が可能である。 なお、相続開始から10年が経過する前に、相続開始から10年を経過した後も具体的相続分による遺産分割をする旨の合意をした場合については、このような合意を有効なものとすると具体的相続分による遺産分割に時的限界を設けた趣旨が没却されてしまうことや、消滅時効においても時効完成前に予め時効完成の利益を放棄することはできないとされていること(民法第146条)から、当該合意には効力が認められないと解される。 4 経過措置 改正法の施行日前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても、改正後のルールが適用されることになる(令和3年法律第24号附則第3条)。 ただし、この場合には、経過措置により、少なくとも施行時から5年の猶予期間が設けられている。 具体的には、以下の図のとおり、(A)改正法施行時に相続開始からすでに10年が経過しているケース及び(B)相続開始から10年を経過する時点が施行時から5年を経過する時点よりも前に来るケースでは、改正法施行時から5年を経過した時点が基準になり、(C)相続開始から10年を経過する時点が施行時から5年を経過する時点よりも後に来るケースでは、相続開始から10年を経過した時点が基準となる。 (※) 法務省民事局作成『令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント』48頁より抜粋 (了)