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租税争訟レポート 【第50回】「準確定申告における無申告加算税の正当な理由(国税不服審判所2019(平成31)年2月1日裁決)」

租税争訟レポート 【第50回】 「準確定申告における無申告加算税の正当な理由 (国税不服審判所2019(平成31)年2月1日裁決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【裁決の概要】   【事案の概要】 本件は、審査請求人が、貨物の運送業務を請け負う個人事業者であった父(被相続人)が平成29年に死亡したことに伴って、同年分の所得税等の確定申告書をその死亡の日の翌日から4ヶ月を経過した後に提出したため、原処分庁が、無申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、①未成年者である請求人が相続の開始を知った日は、未成年後見人が選任された日であるから、選任された日の翌日から4ヶ月以内に提出された確定申告書は期限後申告書に該当しないとして、また、②仮に提出した確定申告書が期限後申告書に該当するとしても、確定申告書を法定申告期限までに提出しなかったことについて正当な理由があるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。   【準確定申告書を提出するまでの経緯】 審査請求人が、死亡した父の準確定申告書を提出し、審査請求するまでの経緯を、裁決をもとにまとめておきたい。 (注) 公開された裁決書では、被相続人の死亡の日がマスキングされていて確定できないが、被相続人の生前の関与税理士が、被相続人の確定申告の依頼を行った未成年後見人である弁護士から、「平成29年1月分から同年8月分までの収支表」を受け取ったという記述があることから、死亡の日は8月以降、おそらくは9月であると考えられる。   【裁決の概要】 1 争点 本件の争点は、次のとおりである。 2 審査請求人の主張 (1) 本件準確定申告書は、期限後申告書に該当するか否か(争点1) 審査請求人は、準確定申告における所得税法第125条第1項に規定する「相続の開始があったことを知った日」は、未成年後見人が選任された平成29年11月14日であるから、その翌日から4ヶ月を経過した日の前日までに提出された本件準確定申告書は期限後申告書に該当しないと主張した。 その理由として、次の2点を挙げている。 (※) 審査請求人の年齢について、公開された裁決文では不開示となっているため、本稿でも同様としている。なお、不開示の理由について後述の【解説】において検討している。 (2) 法定申告期限までに提出しなかったことについて、「正当な理由」があるか否か(争点2) 争点2について、審査請求人は、仮に、本件準確定申告における「相続の開始があったことを知った日」が、相続開始日であったとしても、次の2つの理由から、請求人が本件準確定申告書を法定申告期限までに提出しなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると主張した。 3 国税不服審判所の判断 (1) 本件準確定申告書は、期限後申告書に該当するか否か(争点1) 国税不服審判所は、争点1について、次のように判示して、請求人の主張を斥けた。 請求人は、被相続人が死亡するまで同居していたのであるから、相続開始日に、被相続人の死亡という事実を知ったとみるのが相当であり、「相続の開始があったことを知った日」は、本件相続間始日であることから、本件準確定申告書の提出期限は、本件相続開始日の翌日から4月を経過した日の前日となるところ、請求人は、準確定申告書を平成30年2月28日に提出しているから、本件準確定申告書は期限後申告書に該当する。 請求人の主張する最高裁判決は、本件とは、前提となる事実を異にするものであるというべきであり、請求人は、本件相続開始日において■■という年齢であったものの、意思能力を欠いていたと認めるに足る証拠はないことから、また、請求人には、「被相続人の財産に関する一切の権利又は義務の承継について認識することができる能力はなかった」という主張については、「相続の開始があったことを知った日」とは、被相続人の死亡という事実を知った日であり、未成年後見人が選任された日が「相続の開始があったことを知った日」に該当するという主張についても、「理由がない」として斥けたものである。 (2) 法定申告期限までに提出しなかったことについて、「正当な理由」があるか否か(争点2) 続いて、国税通則法第66条第1項に規定する「正当な理由」の有無について、国税不服審判所は、次のとおり、請求人の主張を斥ける判断を示した。 所得税法第125条第1項の規定によれば、被相続人について同法第120条第1項の規定による申告書を提出しなければならない場合に該当するときは、その相続人に当該申告書の提出義務が発生し、同法第125条第1項に規定する提出期限までに当該申告書を税務署長に提出しなければならないのであり、同条の適用は、相続人が未成年者であるか否かに関わらないから、請求人が主張する各事情は、期限内申告がなかったことについて真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情であるとはいえない。 また、請求人は、準確定申告における「正当な理由」の有無の判断において、民法第158条の規定やその法意等をしんしゃくすべきである旨主張するが、同規定は未成年者や成年被後見人についての時効の停止に関する規定であるから、準確定申告における「正当な理由」の有無の判断において、同条やその法意等をしんしゃくすべきものとはいえない。   【解説】 相続開始時に未成年者であり、単独で法律行為をすることができない場合において、未成年後見人の選任手続きに時日を要したことが、被相続人の準確定申告書をその申告期限までに提出することができないことの正当な理由として認められるか否かが争われた審判で、国税不服審判所は、未成年である審査請求人の主張を斥け、相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に準確定申告書の提出がなかったことを理由に、原処分庁による無申告加算税の賦課決定処分を適法であると判断した。 個人的には、国税不服審判所の判断はいささか杓子定規に過ぎていて、未成年後見人の選定から4ヶ月以内であれば、「正当な理由」があるとして無申告加算税の賦課決定処分を取消す判断をすべきではないかと思料するところもあるので、そのあたりを検討したい。 1 審査請求人の年齢を不開示とした理由 すでに見てきたとおり、情報開示請求によって開示された裁決文では、相続人である審査請求人の年齢が不開示となっている。TAINSに所収されている「開示対象行政文書の各不開示部分の不開示理由」を読むと、「審査請求人の年齢」を不開示としたことについて、直接の言及はない。該当する可能性がある不開示理由としては、第1項に、 とあり、「特定個人の生年月日」を不開示とするとしていることから、審査請求人の年齢も不開示としているのかもしれない。また。第5項では、 と説明されており、審査請求人の年齢を開示することが「国税不服審判所の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」につながるという判断がなされたのかもしれない。 しかし、本裁決が妥当性を有するかどうかの判断には、相続人である審査請求人の年齢が何歳であったのかは、大きな比重を占めていると思料する。同じ未成年であっても、請求人が小学生であるのと高校生であるのとでは、「父の死」とそれに伴う「相続」という法的手続きに対する認識には大きな差があるだろう。請求人の主張である、「請求人は、被相続人の死亡という事実は認識していたが、被相続人の財産に関する一切の権利又は義務の承継について認識することができる能力はなかった」ことが事実であったかどうかは、請求人の年齢不開示という判断により、検証ができなくなったと言えるのではないだろうか。 2 未成年後見人の選任がさらに遅れていた場合にはどういう裁決となるのか さらに、本件のように相続人が未成年者で親権者がいなかった場合において、未成年後見人の選定手続きが進まないまま、準確定申告書の提出期限を徒過することも考えられる。 その場合でも、国税不服審判所は、所得税法第125条第1項の適用は、相続人が単独で法律行為をすることができない未成年者であるか否かに関わらないことを理由に、期限内申告がなかったことについて真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情であるとはいえないとして、無申告加算税の賦課決定処分を適法だと判断するのであろうか。 その場合、民法第5条の規定をどう解釈して、無申告加算税賦課決定処分を適法と判断するのか、疑問に感じるところである。   (了)

#No. 380(掲載号)
#米澤 勝
2020/08/06

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第34回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第34回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (4) 法人税法22条の2第3項の適用対象となる額 法人が資産の販売等を行った場合において、法人税法22条の2第3項の適用があると、その資産の販売等に係る収益の額について、「その額につき当該事業年度の確定した決算において収益として経理したものとみなして」2項の規定が適用されることになる。 「その額」とは、直前の「当該資産の販売等に係る収益の額」を指す。 「その額」を申告書に記載した額と(限定して)読むならば、例えば、処理を誤って同一取引に係る収益の額の一部のみを当初申告において近接日の属する事業年度の確定申告書に収益の額として記載した場合には、その一部のみが法人税法22条の2第3項の適用対象として取り扱われることになろうか。 あるいは、同一取引に係る収益の額の一部のみを当初申告において近接日の属する事業年度の確定申告書に収益の額として記載した場合であっても、近接する日の属する事業年度の確定申告書に「当該資産の販売等に係る収益の額」の益金算入に関する申告の記載があることには変わりはないから、一部ではなくその同一取引に係る収益の額の全額が、法人税法22条の2第3項の適用対象として取り扱われることになろうか。 法人が、誤って、同一取引に係る収益の額の一部のみを当初申告で近接日の属する事業年度の確定申告書に収益の額として記載している場合において、修正申告や課税処分が行われる際に、上記のような問題に直面することになろう。   (了)

#No. 380(掲載号)
#泉 絢也
2020/08/06

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第5回】「《特別編》コロナ禍が変える中小企業のM&A」~その2:第三者の視点で支えるウィズコロナ・アフターコロナの世界~

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第5回】 「《特別編》コロナ禍が変える中小企業のM&A」 ~その2:第三者の視点で支えるウィズコロナ・アフターコロナの世界~   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   1 第三者の視点がコロナ後の世界を支えるカギとなる 支援機関をはじめとするM&Aに携わる第三者は、これまでも中小企業経営者の高年齢化、事業承継型M&Aといった中小企業M&Aに特有の様々な事象と向き合ってきました。 加えて起きた新型コロナウイルスの感染拡大による影響は、中小企業経営を取り巻く環境を一変させました。これからのウィズコロナ、アフターコロナの時代を見据え、すでに動き出しつつあるM&Aの買い手・売り手もありますが、多くは現状への対応に追われ、それどころではないのが現実です。 しかし、企業は生き物ですから、やがて必ず、時代の流れに応じた新たなM&Aの形が見えてくるはずです。その時に備えて、あるいは、現状窮境にある中小企業に対して、どのようにM&Aを活用すれば、再び中小企業や地域経済の活性化を迎えることができるのか、今のうちに考えておくことは有益です。 コロナ禍で間違いなくM&Aの支援機関など第三者の役割と重要性が増しています。資金や予算上の制約から、中小企業M&Aに対する戦略の見直しを迫られた支援機関などもありますが、このような時こそ、M&Aの買い手、売り手の状況を冷静に見極められる第三者の力量に期待がかかります。 この環境下で期待される第三者が、中小企業M&Aに新たな“視点”で臨み、M&Aの買い手・売り手に対して効果的な助言をすることで、中小企業や地域経済の地盤沈下を防ぐ契機となり、その第三者の視点はコロナ後の世界を支えるカギとなります。   2 買い手・売り手・マーケット別にみる第三者の視点 第三者の視点といっても、M&Aの対象者ごとに対する視点と、中小企業M&Aのマーケット全体を眺めたときの視点とでは多少異なるはずです。 そこで、以下では①中小企業M&Aマーケット全体の視点②買い手に対する視点③売り手に対する視点という、3つの形態で第三者の視点を考えます。 今回は、①から③のうち、①中小企業M&Aマーケット全体の視点に着目し、中小企業M&Aの第三者が、M&A支援を行うにあたって、マーケット全体をとらえた上で、どのような視点をもって臨めばよいかを紹介します。 3 中小企業M&Aマーケット全体の視点 第三者による中小企業M&Aマーケット全体の視点を考える上では、次に示すように、中小企業M&Aで登場する各プレイヤー別に望まれる視点を紹介します。 コロナ禍を機に、中小企業M&Aの流れが完全にストップしてしまうのは、今後の地域経済の活性化を考える上で避けなければなりません。買い手・売り手がM&Aをどう考えればよいか迷う今こそ、主導する第三者の腕に期待がかかります。 M&A当事者の1社1社の姿勢が今後の中小企業を取り巻く環境にも大きく影響します。マーケットの将来を考えた上で行われるべきM&Aが確実に履行されるよう、第三者の視点を存分に活かしてM&Aに臨むことが、各プレイヤーに期待されているところです。 *  *  * 次回も引き続き第三者の視点を取り上げますが、なかでも買い手・売り手への直接の助言に活かす視点を中心に解説します。 (了)

#No. 380(掲載号)
#荻窪 輝明
2020/08/06

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第159回】収益認識基準④「履行義務の識別」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第159回】 収益認識基準④ 「履行義務の識別」   仰星監査法人 公認会計士 小林 清人     〈事例による解説〉   〈会計処理〉(単位:百万円) ① X1年4月 [機械設備Zの引渡し時] ② X1年5月 [機械設備Zの据付作業完了時]   〈会計処理の解説〉 履行義務を識別するにあたっては、下記「収益認識に関する会計基準(以下「会計基準」とする)」の34項に照らして、財又はサービスが別個のものであるかどうか判定する必要があります。 上記の34項(1)を検討するうえで、下記の「収益認識に関する会計準の適用指針(以下「適用指針」とする)」の5項に留意する必要があります。 本設例においては、まず、機械設備Z(=財を顧客に移転する約束)と据付サービスの提供(=サービスを顧客に移転する約束)とに分けて検討します。 ① 機械設備Zに関する検討 上記5項の(1)に照らすと、B社は、機械設備Zを使用、あるいは廃棄における回収額より高い金額による売却(=スクラップ価値よりも高い金額で売却)をすることができ、B社が容易に利用できる他の資源(例えば、A社以外の企業から購入できる据付サービス)と組み合わせて便益を享受することができると判断できます。 ② 据付サービスに関する検討 機械設備Z(=既に取得した他の資源)に対する据付サービスから便益を享受することができると判断できます。 上記①と②の検討により、機械設備Zと据付サービスはそれぞれ会計基準第34項(1)の要件を満たしていると判断できます。 次に、会計基準34項(2)を検討します。この時、適用指針の第6項に留意する必要があります。契約に含まれた他の複数の約束が、契約の観点から別個であること、すなわち、別個に独立して履行できるものかどうかを検討する必要があります。 適用指針の第6項では、財又はサービスを顧客に移転する複数の約束が区分して識別できないことを示す要因として次の3点が示されています。 設例にあてはめた場合に、下記のように整理されます。 上記の1~3の検討により、機械設備Zを移転する約束と据付サービスを提供する約束は、会計基準第34項(2)に従って、それぞれ区分して識別できると判断されます。 したがって、機械設備Zと据付サービスは別個の履行義務として識別されます。 また、前提条件の(6)より、一定の期間に渡り充足されるものはありません。ステップ5の「履行義務の充足時点」については、別途検討が必要ですが、今回はステップ2の「履行義務の識別」がメイントピックであるため、ステップ5の回に取り上げます。 本設例においては、それぞれの履行義務は下記の一時点で充足されると判断し、収益を認識しています。 *  *  * 〈会計処理の補足〉 本設例のキーポイントは、前提条件の だと考えられます。これらの条件により、履行義務が機械設備Zと据付サービスに分かれることになります。 これらの条件を下記のように変えるとどうなるでしょうか。 上記の要件の場合、前述した適用指針6項の例示に該当すると考えられ、①機械設備Zと②据付サービスのそれぞれの約束を区分して識別することはできず、単一の履行義務として取り扱う可能性が高いと考えられます。 *  *  * (了)

#No. 380(掲載号)
#小林 清人
2020/08/06

空き家をめぐる法律問題 【事例25】「隣接する空き家から雨水が流入してくる場合の諸問題」

空き家をめぐる法律問題 【事例25】 「隣接する空き家から雨水が流入してくる場合の諸問題」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私の自宅の隣には、空き家になった2階建の民家がありますが、2階の縦といの部分が外れており、横といの部分も私の自宅側に向かって傾いているため、雨天の時には、横といと縦といとの境目から、雨水が地面に向かって直接降り注ぐような状態となっています。 小雨の時には特に問題ありませんが、大雨の時には、隣地との擁壁を越えて、私の自宅敷地内に降り注ぎ、壁や窓ガラスに当たることもあります。 このような場合、私は隣地の所有者に対し、修繕などを請求することができるでしょうか。   1 はじめに 近年、豪雨や大型台風に伴う自然災害が増加しており、これによって住環境に深刻な被害を与えている。老朽化して管理が十分に行われていないような空き家の中には、排水設備が損傷したまま放置されているものも少なからず存在し、隣地の所有者に被害を与えていることもある。 そこで、今回は、管理が十分でない空き家から雨水が流入した場合に、どのような法的な問題があるか検討することとしたい。   2 雨水に関する民法のルール 隣接する土地や建物については、一方の土地や建物の利用が、他方の利用を阻害することもあるため、民法は、隣接する土地や建物の利用を調整するために、相隣関係に関する各種の規定を設けている(民法第209条~第238条)。 土地が隣接するため、地形によって隣地からの流水が生じうるが、自然に流れてくる雨水等を遮断すると、当該隣地の排水を行うことができず、土地の利用や公衆衛生上の支障が生じることになる。そのため、土地の所有者は、隣地から自然に流れてくる雨水等の流れを妨げてはならない義務を負う(民法第214条)。同条は、土地の所有者に自然の流水を承認する消極的義務を負担させているに留まり、それ以上の義務を負担させるものではない。 そこで、民法は、隣地の所有者に、直接に雨水を注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない義務を負わせている(民法第218条)。 民法第218条にも関係するが、土地の所有者は、建物を建築する場合、境界線から50センチメートル以上距離を保たなければならない(民法第234条第1項)。ただし、建築基準法第65条所定の防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、同項の適用は排除されている(最高裁平成元年9月19日判決・民集43-8-955)。問題は、建物のどの部分から境界線までが50センチメートル以上である必要があるかである。 この点に関して、同条の趣旨は、一定の距離を確保することによって、通風や日照を良好に保つとともに、境界線付近において、建物の建築や修繕の際に必要な空間を確保することにある。そのため、同条の距離制限は、建物側壁や出窓のような固定された突出部分からの距離をいうものと解されている(同旨、東京地判平成4年1月28日判タ808-205参照)。   3 受忍限度論 それでは、土地の所有者は、隣地からわずかでも人工的な雨水等の流入がある場合、隣地の所有者に対して、法的な請求を行うことができるだろうか。 上記民法の文言上は、特に制限はされていないため、隣地の建物の雨どいから雨水が注がれているような事実関係さえあれば、修繕工事や損害賠償等を請求できるようにも思われる。しかし、一般論として、隣接する土地でそれぞれが生活することからすると、一定の生活環境上の支障が生じることは当然のことであり、いかなる侵害も許されないと解するのは、社会共同生活に支障を生じさせるため、現実的でもない。そのため、受忍限度を超えた不利益が生じる場合に、所有権や占有権等の侵害(違法性)が認められると解されている。 具体的には、受忍限度を超えるような場合にはじめて、所有権に基づく物権的予防請求権等に基づいて修繕工事を要求することや、不法行為に基づく損害賠償請求を行うことが可能となる(同旨、前記東京地判、佐賀地判昭和32年7月29日下民集8-7-1355参照)。そして、この受忍限度を超えているかどうかは、①雨水が流入してくる頻度や量、隣地への影響の内容といった侵害される側の不利益の内容や、②雨水の流入の原因となっている排水設備の状況といった侵害する側の態様を比較衡量して判断する必要があると考えられる。   4 本件について 本件の場合、隣家の雨どいが損傷しており、雨天時には自宅敷地内や自宅に雨水が直接注がれている状況であるため、所有権や占有権等の侵害は認められる。しかし、雨水の流入は、豪雨のときに限られており、頻度も決して高くないため、受忍限度を超えていないと判断される可能性を否定できない。 上記東京地判の事案においては、雨水が雨どいから隣地に流入していることは認めつつも、その頻度等が限られていることや、当該建物の所有者が雨どいの改善工事を行っていたことを考慮して、受忍限度を超えるものではないと判断しており、実務の指針として参考になるだろう。 受忍限度を超えていない場合、受忍限度を超えているとしても修繕の請求に応じてもらえないような場合、その他空き家の所有者と連絡が取れないような場合には、事務管理として、隣家の雨どいの修繕を行い、費用償還請求を事後的に行うことも法律構成としては考えうるが、他人の建物の修繕工事を行うことは現実的ではない場合もある。 自宅敷地内において暫定的な予防措置を講じるなどして、より被害が現実的・具体的なものになった際に、再度請求を検討することになろうと思われる。 (了)

#No. 380(掲載号)
#羽柴 研吾
2020/08/06

〔これなら作れる ・使える〕中小企業の事業計画 【第5回】「事業計画の作成手順(後編)」

〔これなら作れる ・使える〕 中小企業の事業計画 【第5回】 「事業計画の作成手順(後編)」   税理士・中小企業診断士・ITストラテジスト 高畑 光伸   第4回は、事業計画の作成手順について、【STEP1】から【STEP2】までのポイントについて整理した。第5回では、【STEP3】から【STEP4】までのポイントについて確認する。 (3) 【STEP3】:課題と解決策を検討する ① 課題の設定 「あるべき姿」と「現状」のGap(ギャップ)を解消するため、課題を抽出する。「あるべき姿」は事業者が思い描く企業の理想像である。たとえば、現状分析によって、製品・サービス力の低下が見られる場合、従業員の人材育成・評価制度の整備⇒製品・サービス力の向上⇒収益力の向上という課題を抽出することができる。この課題を達成するための解決策では、ヒトの活動(アクションプラン)に結びつけることが重要である。 ② 「製品」×「顧客」のマトリクス 【STEP2】で検討した経営目標を達成するための具体的なアクションプランを作成する。アクションプランを作成する際に、次のようなマトリクス表(アンゾフの成長ベクトル)を利用して、事業者が採りうる方向性を検討する。縦軸に「製品・サービス」を、横軸に「顧客層」をとり、それぞれ既存と新規に区分する。 マトリクス上、事業者が採りうる方向性は、 があげられる。経営資源に限りがある中小企業では、一般的に領域A~Cの方向性を検討することになる。 さらに、各領域を詳細に分類し、誰に(ターゲット)、何を(製品・サービス)提供しているのかを具体的に把握することが重要となる。 (中小機構「小規模事業者支援ガイドブックⅠ」25pの図を元に筆者加工) ③ 課題と解決策(アクションプラン)の検討 課題として「製品・サービスの損益改善」による収益力の向上を設定した場合、製品・サービスの損益状況などを整理して、具体的なアクションプランを検討する。 《製品・サービスの損益状況》 ※[割合]の小数点第2以下は四捨五入している。 アクションプランを洗い出し、販売数量、販売単価、原価率、経費のいずれに、どのような影響があるのかを試算する。また、アクションプランを作成する際、取り組むべき重要度(優先度)を考慮することが望ましい。 《アクションプランの内容と効果》 ④ 解決策による効果の測定 課題解決による定量効果は次のようになる。 《定量効果》 《課題解決による損益状況》 ※[割合]及び[伸び率]の小数点第2以下は四捨五入している。 (4) 【STEP4】:事業計画を策定する 【STEP3】まで検討したアクションをベースに、損益計画・資金計画を作成する(場合によっては予想貸借対照表の作成を求められる)。そして、事業計画を策定した後のフォローアップとして、月次、あるいは四半期ごとに事業計画を見直す。 策定した事業計画が計画どおりに進んでいるか、定期的に進捗管理を実施する。また、事業計画を軌道修正する必要があるかどうかを、利害関係者を交え検討する。事業計画が「絵に描いた餅」にならないよう、PDCAサイクルを十分に回すことが重要である。 (了)

#No. 380(掲載号)
#高畑 光伸
2020/08/06

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第35話】「泉佐野市ふるさと納税訴訟」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第35話】 「泉佐野市ふるさと納税訴訟」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「・・・やりましたね。」 そう言いながら、浅田調査官は嬉しそうに、最高裁の判決文を中尾統括官に見せる。 「この判例は、最高裁判所のホームページの新着情報から見つけたものですが・・・報道で発表された翌日に、もうインターネットで掲載されるなんて・・・早いですね。」 浅田調査官は、笑顔で言う。 中尾統括官は、浅田調査官から判決文を受け取って、ペラペラとめくる。 「これって・・・泉佐野市の事件だったか?」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「ええ・・・高裁では、泉佐野市は負けているのですが、最高裁で逆転しました。」 浅田調査官の声は、弾んでいる。 「たしかあれは・・・総務省が通知を発して・・・返礼品について、換金性の高いものや高額な又は返礼割合の高いものの送付を行わないように自治体に求めたのだけれど・・・泉佐野市はそれに従わなかった・・・という事件だったな。」 中尾統括官は、判決文を見ながら言う。 「ええ、そうです。」 浅田調査官は頷く。 「その後、平成31年3月に地方税法の改正が行われ、返礼品は寄附金の30%以下であることや地場産品であることの規定が設けられたのです。」 浅田調査官は、判決文の内容をスラスラと述べる。 「・・・地方税法37条の2第2項(市町村民税:同法314条の7第2項)は、指定の基準のうち寄附金募集の適正な実施に係る基準の策定を総務大臣に委ねているが・・・この委任に基づいて、募集適正基準の1つとして本件告示2条3号が定められている・・・そして、この告示の内容が不指定理由の1つになっています・・・」 浅田調査官は、判決文から該当の箇所を示す。 「この告示は、改正法の施行前の一定期間において同号に定める寄附金の募集及び受領をした地方団体について、一律に指定の基準に満たさないこととするものなのです。」 中尾統括官は、黙って、浅田調査官の説明を聞いている。 「すなわち・・・本件改正前における募集実績自体を理由に、指定対象期間において寄附金の募集を適正に行う見込みがあるか否かにかかわらず、指定を受けられないこととしているのです・・・」 「・・・しかし、泉佐野市は、ふるさと納税について露骨なキャンペーンを行っていたのだろう・・・」 中尾統括官は、判決文を読んでいた顔を上げる。 「ええ、泉佐野市は次のようなキャンペーンを、平成30年11月1日以降も次々に行っていました。」 浅田調査官は、判決文の中からキャンペーンの状況を紹介する。 「しかし・・・これは、少しやり過ぎだなあ・・・」 中尾統括官は、眉をひそめる。 「そうです・・・ただし法律論としては、この告示の適法性について、地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱したものでないということが必要なのですが、条文の文理解釈、委任の趣旨そして本件法律改正の作成の経緯等に鑑みると、最高裁は、次のように違法なものとして無効であると判示しています。」 そう言うと、浅田調査官は、判決文の中の下線をしている部分を読む。 「そうか・・・告示では、法律施行前の寄附金の募集及び受領を指定の対象とする判断基準にしており、また、法律にもそれを許すと規定していないことから、委任の範囲を逸脱していると判断している。」 中尾統括官は、浅田調査官の説明に頷く。 「それに、このような告示は、実質的に総務大臣による技術的な助言(地方自治法245条の4第1項)に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを定める側面があるとしている・・・地方自治法247条3項は、国の職員は、普通地方公共団体が国の行政機関が行った助言等に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないと規定しているのだから・・・」 浅田調査官は、ポケット六法を片手に説明する。 「・・・ところで浅田君は、この最高裁の判決について、大賛成ということか?」 中尾統括官が尋ねる。 「もちろんですよ。法律が施行される前の状況を考慮して、新しい制度の適用の有無の判断をすること自体、おかしいと思いますよ。」 浅田調査官は、自信たっぷりに、答える。 (つづく)

#No. 380(掲載号)
#八ッ尾 順一
2020/08/06

《速報解説》 東証、市場区分の再編に係る第一次制度改正事項として新規上場基準等の見直し案を公表~年内には新市場区分の上場維持基準等、第二次制度改正事項を公表予定~

《速報解説》 東証、市場区分の再編に係る第一次制度改正事項として 新規上場基準等の見直し案を公表 ~年内には新市場区分の上場維持基準等、第二次制度改正事項を公表予定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年7月29日、東京証券取引所は、「資本市場を通じた資金供給機能向上のための上場制度の見直しについて(市場区分の再編に係る第一次制度改正事項)」を公表し、意見募集を行っている。 これは、2022年4月に予定している市場区分の再編に係る第一次制度改正事項として、新規上場基準等の見直しや債務超過に係る上場廃止基準の見直しなどを行うものである。 既存の上場会社の新市場区分への移行に係る手続や新市場区分における上場維持基準等については、市場区分の再編に係る第二次制度改正事項として、本年内の公表を予定しているとのことである。「新市場区分への移行に向けた今後の工程とスケジュール」が公表されている。 意見募集期間は2020年9月11日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 新規上場基準等の見直し 市場区分再編を見据えて、新規上場基準等を次のように改正する。 以下は、「(参考)新規上場等に係る形式基準の改正事項」をもとに作成している。 1 本則市場・JASDAQスタンダード 〈見直し前〉 〈見直し後〉 2 市場第一部 〈見直し前〉 〈見直し後〉 3 マザーズ 〈見直し前〉 〈見直し後〉   Ⅲ 債務超過に関する上場廃止基準等の見直し (了)

#No. 379(掲載号)
#阿部 光成
2020/07/31

《速報解説》 会計士協会からCOVID-19により変化し続ける環境下での会計上の見積りの監査(翻訳情報)が公表される~会計上の見積りに関する開示の重要性を強調し追加的な開示の必要性を指摘~

《速報解説》 会計士協会からCOVID-19により変化し続ける環境下での会計上の見積りの監査(翻訳情報)が公表される ~会計上の見積りに関する開示の重要性を強調し追加的な開示の必要性を指摘~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により変化し続ける環境下での会計上の見積りの監査」(2020年6月26日、IAASBスタッフ文書)を公表した。 この文書は、ISA540(改訂)「会計上の見積りと関連する開示の監査」に基づいて作成されており、監査人の監査実務の動向を理解するうえで参考になる部分があると考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 会計上の見積りと関連する開示に関する経営者の責任 経営者は、適用される財務報告の枠組みに従って、会計上の見積り及び関連する開示を認識し測定する責任を負っている。 会計上の見積りは、多くの企業にとって財務諸表の重要な項目であり、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の世界的流行による事業環境や世界経済への影響は、減損テストのトリガーとなる可能性もある。   Ⅲ 会計上の見積りと関連する開示に関する監査人の責任 ISA540(改訂)は、会計上の見積りと関連する開示を監査する際の監査人の要求事項を規定している。 現状を踏まえると、会計上の見積りと関連する開示に関して評価された重要な虚偽表示リスクに対応する際には、追加的な又はより強固な手続が必要となる可能性が高い。 本文書では次の事項に焦点を当てている。   Ⅳ リスク評価手続とこれに関連する活動 次の事項が記載されている。   Ⅴ 重要な虚偽表示リスクの識別と評価 次の事項が記載されている。   Ⅵ 評価した重要な虚偽表示リスクへの対応 会計上の見積りの性質、適用される財務報告の枠組み、事業、産業及び経営環境を踏まえ、重要な仮定を検討する際には、経営者が作成した感応度分析を入手することも含まれる。 感応度分析は、代替的な仮定により生じ得る結果の範囲、及び経営者が「楽観的」シナリオと「悲観的」シナリオのどちらを選択したかの理解を監査人に提供するかもしれない。 COVID-19の世界的流行による不確実性を考慮すると、重要な仮定の変更が会計上の見積りに与える影響及び企業の財務状態に及ぼす影響を判断するためには、感応度分析が特に重要かもしれないと述べられている。   Ⅶ 開示 現在の環境下では、会計上の見積りに関する開示の重要性が特に強調されなければならないと述べられている。 ISA540(改訂)は、一定の状況において、適正表示を達成するために、財務報告の枠組みが明示的に要求しているもの以外にも追加的な開示が必要となる可能性があることも強調している。現在の環境下では、COVID-19の世界的流行以前には必要とされていなかった追加的な開示が必要となる可能性がある。 (了)

#No. 379(掲載号)
#阿部 光成
2020/07/29

《速報解説》 経済産業省が「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」報告書を公表~新たな電子的手段の活用の在り方や近年の環境整備等について検討~

《速報解説》 経済産業省が「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」報告書を公表 ~新たな電子的手段の活用の在り方や近年の環境整備等について検討~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年7月22日、経済産業省に設置された「新時代の株主総会プロセスの在り方に関する研究会」は、「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」報告書を公表した。 これは、株主総会当日の新たな電子的手段の活用の在り方及び近年の内外の制度整備や実務の積み重ねを踏まえたさらなる対話のための環境整備等について検討したものである。 また、参考として下記のものが公表されている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 報告書は表紙を含めて83ページに及ぶものであり、次の内容である。 本稿では主なものについて解説する。 1 意思決定機関としての株主総会 株主総会には、(1)意思決定機関の側面と(2)会議体の側面という2つの側面がある。 意思決定機関としての株主総会に関して、企業、投資家・株主におけるそれぞれの現状と課題を踏まえ、今後、株主総会プロセスにおける企業と投資家・株主との対話をさらに効果的なものにしていくための方策として、次の事項を取り上げている。 (1) 目的に応じた効果的な対話・情報開示 目的に応じた効果的な対話・情報開示に関して、次のように、実施することが望ましいと考えられるポイントが記載されている。このほか、具体的な取組事例も紹介されている。 【実施することが望ましいと考えられるポイント】 (2) 対話環境の整備としての議決権電子行使の促進 対話環境の整備としての議決権電子行使の促進に関して、プラットフォームを利用していくにあたっての方策として、次の事項が記載されている。 (3) 対話環境の整備としての実質株主の判明 実質株主を議決権行使の判断を行っている者として、現状と改善の方向性として、議決権基準日時点における実質株主(企業が対話する相手方としての機関投資家)とその持株数について、企業が効率的に把握できるよう、実務的な検討がなされるべきと記載されている。 2 会議体としての株主総会 (1) ハイブリッド型バーチャル株主総会の活用状況 2020年2月26日に、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」が公表されている。 2020年3月以降の株主総会において、ハイブリッド型バーチャル株主総会は新型コロナウイルス感染症の拡大防止策としても検討され、様々なかたちで実施された際の企業の取組状況が記載されている。 (2) 新時代の株主総会プロセスに向けて 株主及び投資家との対話を重視し、株主総会当日に限定されない株主との双方向のコミュニケーションを充実させる企業も増えつつあり、今後、各社において株主総会プロセス及び株主総会当日の在り方についても検討が進むことが期待されると記載されている。 (了)

#No. 379(掲載号)
#阿部 光成
2020/07/29
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