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山本守之の法人税“一刀両断” 【第75回】「連結納税制度からグループ通算制度へ」

山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第75回】 「連結納税制度からグループ通算制度へ」   税理士 山本 守之   1 改正の概要 令和2年度税制改正で現行の連結納税制度が見直され、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から「グループ通算制度」に移行します。 従来の連結納税制度では、企業グループ全体を1つの課税単位として計算した法人税額を親会社が申告していましたが、グループ通算制度では、企業グループ内の親会社及び子会社それぞれを納税単位として各法人が個別に法人税額の計算と申告を行うことになります。   2 改正事項 連結納税制度からグループ通算制度に移行するにあたっての改正事項は、主に次のようになります。   3 改正の背景 平成14年度税制改正で創設された連結納税制度は、企業グループ内の個々の法人の損益を通算する等、グループ全体を1つの納税主体として課税する制度です。本制度は企業グループ内の損益通算や親法人の加入時の欠損金が利用できるメリットがありますが、所得計算や税額計算の煩雑さ、税務調査後の修正・更正等に時間がかかりすぎる点など、納税者及び課税当局の双方にとって事務負担が重くなっていました。 このような現行制度は、理論上、問題があるものとまでは言えませんが、連結納税制度導入から18年が経過することもあり、企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行うために損益通算等の調整を簡素な仕組みとすることで事務負担の軽減を図り、また、親法人の開始時の欠損金の利用制限を行うことにより公平公正な税負担の措置を考慮する観点から連結納税制度を見直し、グループ通算制度へ移行することになります。 以上が改正にあたっての財務省からの主な説明ですが、民間の立場から想像するに、連結納税制度を創設する際に損益通算による財政収入の減少を恐れて制度自体を必要以上に使いにくいものにした官僚が、現行制度を「厳しくしすぎた」という反省から簡素な制度にするということでしょう。   4 グループ通算制度の計算イメージ グループ通算制度の所得税等の計算イメージは、次のようになります。 【グループ通算制度における所得金額等の計算イメージ】 (出所) 経済産業省資料   5 時価評価の適用外 グループ加入時の時価総額の適用の類型を考えてみると、次のようになります。 【グループ加入時に時価評価課税等の対象外となる類型の例】 (出所) 経済産業省資料   6 適用時期 グループ通算制度は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。 連結納税制度を適用している法人は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度において、グループ通算制度の承認を受けたものとみなされます。 なお、グループ通算制度に移行せず、単体納税法人となる場合には、令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日の前日までに税務署長に届出書を提出する必要があります。   7 グループ通算制度の注意点 グループ通算制度への移行にあたっての注意点をまとめると、主に次のようになります。 (了)

#No. 387(掲載号)
#山本 守之
2020/09/24

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第44回】「租税法律主義の基礎理論」-租税法律主義の機能的考察と法の支配によるコーティング-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第44回】 「租税法律主義の基礎理論」 -租税法律主義の機能的考察と法の支配によるコーティング-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回から、「租税法律主義の基礎理論」を主題として、日税研論集77号(近刊)で公表予定の拙稿「租税法律主義(憲法84条)」をベースにして租税法律主義の「総論的」検討を始めたが、今回は、上記拙稿のⅠの4「租税法律主義の機能的考察-法の支配による租税法律主義のコーティング-」をベースにして租税法律主義の法的性格・法的構成を検討することにする。 その検討に入る前に、後述する租税法律主義の機能的考察との関係で、法学体系における「租税法の独立性のモメント」(金子宏『租税法理論の形成と解明 上巻』(有斐閣・2010年187頁[初出・1972年])。以下『形成と解明(上)』と略記する。太字筆者)について簡単に述べておきたい。 租税法律主義の基本的性格は、前回みたように、法律による行政の原理であるが、その原理は、租税法律主義の民主主義的再構成によって修正を受け厳格化された(第34回Ⅱ3・4参照)だけでなく、「課税要件法を租税法の中心にすえることによって、租税法を行政法とは独立の法の一部門として構成すること」(金子・前掲書187頁)によっても、修正を受け厳格化された(第3回Ⅲ、第34回Ⅲ参照)。そのような「租税法の独立性のモメント」を提供したのは、租税法律関係に関する債務関係説であったと考えられる(藤谷武史「租税法と行政法-歴史と展望」金子宏編『租税法の発展』(有斐閣・2010年)71頁、73頁等参照)。   Ⅱ 租税法律主義の機能的考察 「租税法の独立性のモメント」は、一方で、上述のように、債務関係説によって提供されたが、他方で、税法学における「租税実体法(特に課税要件法)中心の学問体系」(藤谷・前掲論文75頁)の選択を促し、租税法律主義の「現代取引社会における経済的機能」(金子・前掲『形成と解明(上)』13頁[初出・1966年]。太字筆者)に着目しこれを重視した「租税法律主義の機能的考察・・・・・」(同25頁注(12)[初出・1966年]。傍点原文・太字筆者)につながった。この学問的プロセスにおいて主導的役割を果たされたのは金子宏教授であった。 金子教授は「租税法律主義の機能的考察・・・・・」について夙に次のとおり述べておられた(同・前掲『形成と解明(上)』13-14頁[初出・1966年])。 金子教授は、これに続けて、「かかる見地から租税法律主義の内容とされるべき点を列挙してみると」として、❶課税要件法定主義、❷課税要件明確の原則、❸遡及立法の禁止、❹課税処分に対する司法的救済の途が完全に開かれていること等、を挙げておられた(同・前掲『形成と解明(上)』14-15頁[初出・1966年])。 以上でみた租税法律主義の機能的考察は、「私的経済活動の局面における租税法と私法の密接関連性という現実の法現象」(藤谷・前掲論文78頁)を前提にして、税法を私的経済活動の局面においていわば「私法(特に取引法)的に機能させる」ための基礎理論的考察とみることができるように思われる。   Ⅲ 法の支配による租税法律主義のコーティング ところで、一般に、「理性的な人々の行動を規制するために法が備えるべき特質、という意味における法の支配」(長谷部恭男『比較不能な価値の迷路-リベラル・デモクラシーの憲法理論-〔増補新装版〕』(東京大学出版会・2018年)149頁[初出・1991頁])とは、「①法が一般的抽象的であり、②公示され、③明確であり、④安定しており、⑤相互に矛盾しておらず、⑥遡及立法(事後立法)が禁止され、⑦国家機関が法に基づいて行動するよう、独立の裁判所によるコントロールが確立していること」(同『憲法〔第7版〕』(新世社・2018年)19頁。以下『憲法』と略記する)など、「一国の法秩序において、法が法として機能するための条件、言いかえれば人が法に従いうるための最低限の条件となる要請」(同129-130頁)をいうが、この要請は次のとおり敷衍されている(同130頁)。 法の支配の意味内容を以上のように理解する場合、金子宏教授は租税法律主義の機能的考察によって、租税法を私的経済活動の局面においていわば「私法(特に取引法)的に機能させる」ために租税法律主義が具備すべき条件を解明し、もって租税法の分野における法の支配を実現しようとされた、と解することができるように思われる。金子教授が租税法律主義の機能的考察により示された内容(前記Ⅱ)のうち❶は前記の法の支配の諸要素のうち①②⑤に、❷は③④に、❸は⑥に、❹は⑦にそれぞれ対応するものとみることができる。 そもそも、わが国では、租税法律主義の基本的性格は、前回述べたとおり、法律による行政の原理であるが、金子教授による租税法律主義の機能的考察は、そのような基本的性格の上に法の支配の諸要素をコーティング(coating)し、もって租税法律主義の下で私人に私的経済活動の租税効果につき予測可能性を保障しようとしたもの、と解することができるように思われる。 法律による行政の原理(侵害留保原理)は「自由主義の原理にまさに適合的である」(塩野宏『行政法Ⅰ〔第6版〕行政法総論』(有斐閣・2015年)80頁)が、法の支配も、「国家機関の行動を一般的・抽象的で事前に公示される明確な法によって拘束することにより、国民の自由を保障しようとする理念」(長谷部・前掲『憲法』18頁)であることから、法律による行政の原理の上にまさに「定着可能な」要請である。 そうであるからこそ、そのようなコーティングは成功するのである。ただし、法の支配による租税法律主義のコーティングは、私的経済活動における私人の予測可能性の保障のための「表面処理」(機能の明確化)にとどまらず、租税の賦課・徴収の根拠となる法律の内部(内容)にまで法の支配の諸要素を「浸潤」させることによって、租税法律主義を、その名宛人に税務行政だけでなく租税立法者をも取り込むもの(特に❶❷❸)として再構成することを可能にしたもの、と解することができると考えるところである。 なお、金子宏教授は、明示的に租税法律主義の機能的考察それ自体の見地からではないが、その後、租税法律主義の内容に「手続的保障原則」を加えられた(同『租税法〔初版〕』(弘文堂・1976年)76頁参照)。金子教授は後に、手続的保障原則による租税法上の適正手続の保障を「ルール・オブ・ロー」の観点から論じておられる(同・前掲『形成と解明(上)』121頁以下[初出・2008年]参照)が、そもそも、適正手続の保障については「憲法31条以下の諸条文の中には、前述した『法の支配』の要請を直截に表現したものがある」(長谷部・前掲『憲法』265頁)以上、租税法律主義の内容に手続的保障原則を加えることは、法の支配による租税法律主義のコーティングの一環として理解してもよいであろう。   Ⅳ おわりに 今回は、金子宏教授による租税法律主義の機能的考察について検討を加え、それを法の支配による租税法律主義のコーティングとして理解することを試みた。そのような理解によれば、金子教授の租税法律主義論については次のように総括することができるように思われる。 すなわち、金子宏教授は、わが国で明治憲法の制定以来展開・再構成されてきた租税法律主義の「歴史的沿革や憲法思想史的意義」(前記Ⅱの囲みの引用文)を十分に踏まえられた上で、租税法律主義に、その機能的考察によって、法の支配の諸要素をコーティングし浸潤させ、租税法律主義の「総仕上げ」をされたものとみることができよう(第42回Ⅲ2も参照)。 そのような「総仕上げ」後の租税法律主義の内容として、金子教授は、体系書『租税法』(弘文堂)の初版(1976年)以降、課税要件法定主義、課税要件明確主義、合法性の原則、手続的保障原則、遡及立法の禁止及び納税者の権利保護の6つを挙げておられる(同『租税法〔第23版〕』では81頁参照)。 次回からは、租税法律主義の上記の6つの内容を順次検討していくことにする。 (了)

#No. 387(掲載号)
#谷口 勢津夫
2020/09/24

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第14回】「〔第2表〕比準要素数1の会社の判定の留意点」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第14回】 「〔第2表〕比準要素数1の会社の判定の留意点」   税理士 柴田 健次   Q A社は開業後30年の会社であり、創業以来、配当を行ったことがなく、債務超過になった事業年度もありません。毎期経常的に利益が出ていますが、前々期に社長の退職金を支給したことによって、前々期は赤字となっています。 A社の類似業種比準価額の計算要素である1株当たりの年配当金額、年利益金額、純資産価額は、下記の通りとなります。 1株当たりの年利益金額は、「直前期末以前1年間の利益金額」と「直前期末以前2年間の利益金額÷2」を選択することができますので、類似業種比準価額の計算上は、低い0円(直前期末以前2年間の利益金額÷2を基に計算)を選択した場合には、必ず比準要素数1の会社に該当するのでしょうか。 A 類似業種比準価額の計算上は、低い0円(直前期末以前2年間の利益金額÷2を基に計算)を選択した場合においても、特定の評価会社(比準要素数1の会社)の判定上は、50円(直前期末以前1年間の利益金額を基に計算)又は0円(前期末以前2年間の利益金額÷2を基に計算)を選択することができ、50円を選択した場合には比準要素数1の会社に該当しませんが、0円を選択した場合には、比準要素数1の会社に該当します。 したがって、必ず比準要素数1の会社に該当するわけではありません。  ◆  ◆  ◆ ① 比準要素数1の会社の意義と計算方法 比準要素1の会社に該当するのは、第4表で直前期末を基準に計算した「1株当たりの年配当金額(第4表の(B1)の金額)」「1株当たりの年利益金額(第4表の(C1)の金額)」及び「1株当たりの純資産価額(第4表の(D1)の金額)」のうちいずれか2の判定要素が0であり、かつ、直前々期末を基準にして計算した「1株当たりの年配当金額(第4表の(B2)の金額)」「1株当たりの年利益金額(第4表の(C2)の金額)」及び「1株当たりの純資産価額(第4表の(D2)の金額)」のうちいずれか2以上の判定要素が0であるものです。 比準要素数1の会社に該当した場合の株式の価額は、下記の通り計算されることになります。   ② 直前期末を基とした判定で「直前期末以前1年間の利益金額」を選択した場合 特定の評価会社(比準要素数1の会社)の判定上、50円(直前期末以前1年間の利益金額を基に計算)を選択した場合の比準要素数1の判定は下記の通り、「非該当」となります。 したがって、他の特定の評価会社に該当していない場合には、一般の評価会社に該当することになります。   ③ 直前期末を基とした判定で「直前期末以前2年間の利益金額÷2」を選択した場合 特定の評価会社(比準要素数1の会社)の判定上、0円(前期末以前2年間の利益金額÷2を基に計算)を選択した場合の比準要素数1の判定は下記の通り、「該当」となります。   ☆実務上のポイント☆ 比準要素数1で計算した株式の価額で当初申告した後に比準要素数1の会社に該当しないものとして株価を計算し、更正の請求を行うことは、計算の誤りに起因とするものではなく、課税負担の錯誤を理由とするもの(第10回参照)となりますので、原則として更正の請求は認められないものとなります。 特定の評価会社への該当を避けるためには、特定の評価会社の判定上は、「直前期末以前1年間の利益金額」と「直前期末以前2年間の利益金額÷2」のいずれか大きい方を選択することになりますが、実際の株価の計算においては、いずれか低い方を選択することで株価は下がることになります。 (了)

#No. 387(掲載号)
#柴田 健次
2020/09/24

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の現行法上の問題点と今後の課題 【第4回】「無対価組織再編成、グループ法人税制及び株式交換等」

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第4回】 「無対価組織再編成、グループ法人税制及び株式交換等」   公認会計士 佐藤 信祐 6 無対価組織再編成 平成22年度税制改正により無対価組織再編成の明確化が図られ、対価の交付を省略したと同視することができる場合を条文に限定列挙し(法令4の3)、それ以外の場合には、非適格組織再編成に該当するという制度に改められた(※1)。 (※1) 佐々木浩ほか『平成22年版改正税法のすべて』320-321頁(大蔵財務協会、平成22年)。 この点につき、佐々木浩税理士は、「今は、段階を追って処理をしましょうということですね。将来的には、省略形にこだわらなくてもよいのではないかということになることもあるかもしれませんが。」(※2)と述べられている。つまり、対価の交付を省略したと同視することができる場合に限定しないことも、立法論としては可能であると言える。 (※2) 佐々木浩(発言)仲谷修ほか編『企業組織再編税制及びグループ法人税制の現状と今後の課題』57頁(大蔵財務協会、平成24年)。 そして、平成29年度税制改正により、適格合併に該当する現金交付型合併を行った場合には、法人サイドでは適格合併として処理しながらも、株主サイドでは株式譲渡損益を実現させるという制度となった(法法61の2②)。そのため、省略形でない無対価合併を行ったとしても、法人サイドでは適格合併として処理しながらも、株主サイドでは譲渡損益を実現させるという制度にすることに違和感がなくなったということが言える。 むしろ、合併法人が被合併法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有する場合には、1株当たり1円という軽微な金銭を交付する場合には適格合併となり、まったく交付しなければ非適格合併になってしまうことから、1株当たり0円の金銭を交付したと考えることにより、省略型でない無対価組織再編成についても、適格組織再編成に該当させることができるようにすることで、整合性の取れた制度にすることができると考えられる。 なお、被合併法人の株主に1円を交付する適格合併を行った場合には、増加すべき資本金等の額から被合併法人の株主に交付する金銭の額を減算するため(法令8①五)、被合併法人の資本金等の額が100円である場合には、合併法人において、以下の仕訳を行うことになる。 【合併受入仕訳】 ① 資産及び負債の引継ぎ ② 抱き合わせ株式の消却 これに対し、省略形でない無対価合併を適格合併として処理した場合における税務上の仕訳は以下のようになると思われる。 【合併受入仕訳】 ① 資産及び負債の引継ぎ ② 抱き合わせ株式の消却 このように、吸収合併、新設合併、株式交換及び株式移転については、資本金等の額から減算すべき金額を調整すれば済むことから、合併法人、株式交換完全親法人及び株式移転完全親法人の受入処理ができないという問題は生じない。 これに対し、現金交付型分割及び省略型でない無対価分割については、分割法人において簿価で資産及び負債を譲渡したものとみなすというだけでは済まない問題がある。なぜなら、分割により資産300円及び負債200円を移転し、対価として500円を交付した場合には、差額の400円についての譲渡損益を繰り延べるという仕訳にならざるを得なくなり、対価を交付しなかった場合には、500円の寄附金を認識したうえで、差額の400円についての譲渡損益を繰り延べるという仕訳にならざるを得なくなるからである。 【分割法人(500円を交付した場合)】 【分割法人(省略型でない無対価合併)】 この場合に、現行法上のグループ法人税制のように、時価で資産及び負債を譲渡したものとみなして譲渡損益を繰り延べるという税制にするという考え方もあるが、簿価で資産及び負債を譲渡したものとみなして譲渡損益を繰り延べるという税制にするという考え方もあり得る。 この点については、現金交付型分割及び省略型でない無対価分割については、分割法人においては投資が清算されているものの、グループ全体からすれば投資が清算されたわけではないという整理になると思われるため、時価で資産及び負債を譲渡したものとみなして譲渡損益を繰り延べるという税制にすべきであると思われる。そうなると、組織再編税制ではなく、グループ法人税制により解決すべき問題ということになるため、グループ法人税制の範囲と金銭等不交付要件が緩和される範囲を一致させる必要があると考えられる。   7 グループ法人税制の範囲を拡大する問題点 グループ法人税制の範囲を「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人に対する資産の譲渡」にまで広げ、金銭等不交付要件の緩和、省略型でない無対価組織再編成の緩和を行うとなると、避けて通れない議論として、例えば、少数株主が発行済株式総数の100分の10に相当する数の株式を保有している場合において、譲渡損益のうち100分の90に相当する金額を繰り延べるのか、譲渡損益の全額を繰り延べるのかという議論である(※3)。現行法上、吸収合併及び株式交換についてのみ金銭等不交付要件が緩和された理由も、こういった議論を避け、簡易な税制にするためであると考えられる。 (※3) 佐々木前掲(※2)74-76頁参照。 この点につき、移転資産に対する支配が継続しているという理由により譲渡損益を繰り延べるということであれば、少数株主がいることを理由として譲渡損益の一部を実現させる必要はないと考えられる。むしろ、少数株主がいることを理由として譲渡損益の一部を実現させるとなると、移転した資産のうち一部について支配が継続していないという理論構成が必要になるため、現行法とは異なるロジックによりグループ法人税制を整理しなおす必要が生じてくる。 さらに、グループ通算制度のように損益通算をするわけではないことから、繰り延べられた譲渡損益に相当する部分の金額を適正に分配する必要もないし、少数株主との間に利益相反が生じることもないため、譲渡損益の全額を繰り延べる制度になったとしても、不都合はないと思われる。   8 株式交換及びスクイーズアウト 株式交換等(※4)を行った場合において、支配関係内の株式交換等に該当するかどうかは、株式交換等の直前に支配関係があり、株式交換等後に支配関係が継続することが見込まれている必要がある(法令4の3⑲)。 (※4) 株式交換及びスクイーズアウトを総称したものを「株式交換等」という(法法2十二の十六)。 そのため、株式交換等完全子法人となる法人の発行済株式総数の100分の50に相当する数の株式を取得してから株式交換等を行うことにより、支配関係内の株式交換等に該当させることができる。さらに、発行済株式総数の3分の2以上に相当する数の株式を取得してから株式交換等を行った場合には、金銭等不交付要件も課されないことから、容易に適格株式交換等に該当させることができる。 すなわち、買収会社が被買収会社の支配株主から被買収会社株式を取得した後に、少数株主をキャッシュアウトするために株式交換又はスクイーズアウトを行うという典型的なM&A手法が税制適格要件を満たすようになっていることから、本来、非適格株式交換等として課税の対象にすべき取引というのが想定しがたいという問題がある。 それだけでなく、株式交換及びスクイーズアウトに対しては、そもそも資産の移転を伴わない有価証券取引を組織再編税制の対象にする必要があったのかという疑問がある(※5)。そして、資産の移転を伴わない有価証券取引であっても、時価評価課税の対象にするというのであれば、相対取引により発行済株式又は出資の全部を取得するという行為に対しても時価評価の対象にすべきであるという議論も考えられる。 (※5) 朝長英樹『現行税制の現状と課題(組織再編成税制編)』380頁(平成29年、新日本法規)。 さらに、令和元年の会社法改正により導入された株式交付の制度にまでその議論を発展させるのであれば、株式交付により発行済株式のうち相当部分を取得する場合にも時価評価の対象にすべきという議論にもなるし、相対取引により発行済株式又は出資のうち相当部分を取得する場合にも時価評価の対象にすべきという議論にもなる。 すなわち、現行法上、グループ通算制度の加入に伴う時価評価課税が導入されているが(法法64の12)、これをさらに広げ、グループ法人税制の加入に伴う時価評価課税を導入すべきであるという議論も考えられるのではなかろうか。具体的には、発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を取得した場合にグループ法人税制に加入させ、かつ、グループ法人税制の加入に伴う時価評価課税を課すことができれば、どのような手法により株式を取得したとしても時価評価課税の対象になることから、株式交換、スクイーズアウト、株式交付及び相対取引による株式購入との間で整合性の取れた制度にすることができる。 さらに発展させれば、グループ内の適格組織再編成を「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人との間で行われる組織再編成」としたうえで、グループ法人税制の範囲も同様にしてしまえば、合併の直前に発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有していることを理由として適格合併に該当した場合には、グループ法人税制に加入した時点で時価評価課税が課されていることから、繰越欠損金の引継制限、使用制限及び特定資産譲渡等損失額の損金不算入(法法57③④、62の7)を課すべきなのかという議論にまで繋がっていく(法令112の2⑥⑦参照)。 この点については、グループ通算制度の加入に伴う時価評価課税(法法64の12)、グループ通算制度への繰越欠損金の持込制限及び特定欠損金の制度(法法57⑧、64の6①③、64の7②三、64の14など)を分析する必要があるため、本連載を通じて検討を行っていきたい。 このように、グループ通算制度の一部をグループ法人税制に導入した場合には、組織再編税制への影響がかなり大きくなると思われるが、本連載においては、グループ通算制度の加入又は離脱における時価評価課税、離脱法人の株式に係る帳簿価額修正をグループ法人税制に導入することによる影響についても触れていきたいと思う。 *   *   * 次回では、株式移転税制について解説を行う予定である。 (了)

#No. 387(掲載号)
#佐藤 信祐
2020/09/24

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例90(法人税)】 「売却価額の高い順から1,500頭に「肉用牛の免税特例」を適用したため、1頭あたりの上限金額を超過して適用している頭数につき税務調査で否認され、追加適用ができなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例90(法人税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆農地所有適格法人の肉用牛の売却に係る所得の課税の特例(措法67の3①) 農地所有適格法人が、昭和56年4月1日から令和6年3月31日までの日を含む各事業年度において、定められた方法により肉用牛を売却した場合において、その売却した肉用牛のうちに免税対象飼育牛(売却価額が100万円(交雑種80万円、乳用種50万円)未満である肉用牛等をいう。以下同じ)があるときは、その農地所有適格法人のその免税対象飼育牛の売却による利益の額(1,500頭を限度とする)に相当する金額は、その事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する。 ◆「肉用牛の免税特例」の適用要件(措法67の3③) 「肉用牛の免税特例」は、確定申告書等に損金の額に算入される金額の損金算入に関する申告の記載があり、かつ、当該確定申告書等にその損金の額に算入する金額の計算に関する明細書並びに免税対象飼育牛の売却が定められた方法により行われたこと及びその売却価額その他一定の事項を証する売却証明書の添付がある場合に限り、適用する。 この場合において、特例により損金の額に算入される金額は、その申告に係るその損金の額に算入されるべき金額に限るものとする。したがって、更正の請求による免税対象飼育牛の追加適用は認められない。       (了)

#No. 387(掲載号)
#齋藤 和助
2020/09/24

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第45回】「外国所在財産に係る遺産分割と相続税申告の留意点」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第45回】 「外国所在財産に係る遺産分割と相続税申告の留意点」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 日本に住んでいる日本人が、米国に不動産を遺して死亡しました。遺言書はありません。 この場合、相続人間で遺産分割協議書を作成してこの財産を取得する者を決め、相続税の申告をすれば、手続上、問題ないですか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷相続法の適用に関する考え方 日本人が死亡した場合の相続は、日本の民法(相続法)で定められたルールによって相続手続が行われる。しかし、被相続人が外国籍の場合は、日本の法律を適用させることができるかどうか、確認する必要がある。 この場合、法の適用に関する通則法36条によると、「相続は、被相続人の本国法による。」とされていることから、日本において発生した外国籍の被相続人に係る相続の手続は、本国法(例えば被相続人がアメリカ国籍の場合は米国法)に基づくことになる。   ▷日本人が米国に財産を遺した場合の相続法の適用と現実的対応 上記通則法によると、日本人が外国に財産を遺して死亡した場合、その外国財産に関する相続の手続は、被相続人の本国法である日本の民法によるというのが、日本側の実務から見た考え方である。ただし一方で、本事例の場合、財産は米国内にあるので、財産所在地の法律ではどのように定められているかも検討しなければならない。 ここで米国においては、連邦相続法というものはなく、相続に関する手続は州法で定められており、また不動産については所在地法が適用される。上記の通り日本サイドからみると日本法による相続の手続をすべきであるが、不動産が存在している州では州法による相続の手続を求めているため、法の適用に関する通則法では解決できない。 このため現実的には、現地の相続法に基づいて相続の手続を行っていくケースが多いと思われる。   ▷相続法の考えの違いとプロベイト 米国の相続法は、日本と大きく仕組みが異なっている。日本においては、相続の開始により被相続人の財産が相続人に包括承継されるという仕組みであるが、米国では、死亡と同時にその遺産は一旦、遺産財団へ移行する。そして、遺産財団に集められた財産が最終的に相続人に分配されるまでは、裁判所が主導して手続を行う。この遺産に係る検認手続のことを「プロベイト(probate)」という。 プロベイトでは、裁判所が遺産財団の代表者を任命し、代表者が主導して被相続人の財産を調査し、債権を回収し、債務を弁済する。この債務の中には相続税(遺産税)の申告納税も含まれている。最終的には、裁判所が許可をして、相続人や受遺者に残余財産が分配され、プロベイトの手続は終結する。 このプロベイトの手続には時間とコストがかかるという問題があることから、プロベイトを避ける方法もいくつかあるが、特にプロベイトを外す手法を採らなかった場合は、たとえ遺言があったとしても、プロベイトを避けることできない。 したがって、日本人が米国に遺した不動産を相続人が取得するための手続は、現実的には、プロベイトを経て行うことになると考える。 なおプロベイトにかかる費用の取扱いについては、本連載【第36回】を合わせて参照されたい。   ▷遺産分割協議の有効性 日本において、被相続人が適法な遺言を残していなかった場合は、通常、相続人が集まって遺産分割協議を行い、相続財産の帰属者を決めていく。しかし、被相続人の死亡により被相続人の財産が相続人に包括承継するのではなく、一旦、遺産財団に移転するという考えに基づく英米の相続法において、そもそも未分割遺産を相続人が分割協議するという概念はない。 本事案のように、米国に相続財産として不動産がある場合は、米国の裁判所でプロベイトの手続を行うことが原則と考えられるが、一般的には、現地の弁護士に裁判所との交渉を依頼することになる。ただし、依頼した現地の弁護士が日本の相続法に基づく遺産分割協議を理解した上で裁判所と交渉できるかどうかは、不透明な部分がある。さらに、裁判所が遺産分割協議に基づいた分配を必ず認めるとも限らない(※1)。 (※1) 中田朋子・水谷猛雄 著『世界の相続専門弁護士・税理士による国際相続とエステート・プランニング』(税務経理協会、2017年)110頁、111頁を参考にしている。 また、現地において、一旦現地の法律に基づく法定相続の定めにより相続人が取得し、その取得持分を遺産分割協議で指定された相続人に譲ると構成した場合、結果的には、日本での遺産分割協議による相続人の取得と同様な状況にはなるが、現地で贈与税が課される場合もある(※2)。 (※2) 三輪壮一・並木宏仁 著、鈴木あかね・中田朋子 監修『海外相続ガイドブック-プランニングおよび相続実務におけるQ&A66』(きんざい、2013年)22頁を参考にしている。 したがって、相続財産の取得者が適法な遺言により定められていない場合は、プロベイトが開始される前の段階において、現地の弁護士に対し、日本の遺産分割協議に基づいて指定された相続人が財産を取得することが可能か、また可能な場合は、現地で贈与税のような想定外の課税リスクがないかを確認すべきである。   ▷相続税の申告における留意点 では、このように現地の手続で相続財産の帰属に不透明な部分がある場合、相続税の申告はどうなるのであろうか。 本事案の場合、被相続人が日本国籍であることから、日本の民法に基づいて相続の手続が行われることは問題がない。国外財産についても当然に民法の手続が認められるから、遺産分割協議による財産の取得は有効である。したがって、プロベイトの対象となっている国外財産を遺産分割協議に基づき分割財産として期限内に相続税の申告をすることも問題ないと考える。 しかし上述のように、現地でのプロベイトの結果、遺産分割協議に沿った財産の取得ができなくなるケースも想定される。 現地での財産の分配が最終的に確定し、その結果、遺産分割協議による財産の取得価額よりも相続人の取得財産の価額が減少した場合は、最終的に確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求ができ(相法32①六、相令8②一)、他方、取得財産の価額が増加した場合は、修正申告、期限後申告ができると考える(相法30①、31①)。 なお現地において、遺産分割協議に基づく財産の取得が認められた場合は、相続人間の財産の取得に変動はないが、現地で想定外の贈与税が課せられた場合、この贈与税は、相続税の計算上、外国税額控除として処理することはできない。なぜなら、相続税の計算上、控除できる外国税は、「その地の法令により相続税に相当する税」とされているからである(相法20の2)。   (了)

#No. 387(掲載号)
#菅野 真美
2020/09/24

〔弁護士目線でみた〕実務に活かす国税通則法 【第5回】「『更正の請求』が利用できる場面」

〔弁護士目線でみた〕 実務に活かす国税通則法 【第5回】 「『更正の請求』が利用できる場面」   弁護士 下尾 裕   本稿では、前回の(税務当局による)更正処分に続いて、納税者側が確定申告又は更正処分等により一度確定した納税義務の軽減を求める手続である「更正の請求」について解説する。   1 更正の請求とは (1) 制度趣旨 上記のとおり「更正の請求」とは、納税者自らが一度確定した納税義務の軽減を求める手続である。 過大納付された税金については、本来、国側の不当利得であるなどとして広く返還を求める余地もあるところ(最高裁昭和49年3月8日判決・民集28巻2号186頁)、「租税債務の早期確定」という国家財政上の要請を踏まえ、所定の手続によって限定的に認めるべく設定されているものである。 納税者から更正の請求がなされた場合、課税当局は、当該更正の請求に理由があるか調査・検討を行った上、更正処分又は「更正をすべき理由がない旨の通知処分」のいずれかを下す流れとなる。 (2) 更正の請求の期間制限 更正の請求は、国税の申告期限から5年以内(法人税に係る純損失等の金額について更正の請求をする場合(国税通則法第23条第1項第2号)には10年)、それ以外の後発的事由に基づく更正の請求は、当該事由の発生から2ヶ月以内に限り、行うことができるものとされている。 なお、例外的に、相続税法は、贈与税の申告書提出者について、贈与税の更正決定の期間制限(相続税法第36条第1項第1号)と合わせるべく、更正の請求の期限を法定申告期限から6年と定めている(相続税法第32条第2項)。 (3) 更正の請求が認められる場面 更正の請求は、具体的にどのような場面で認められるのであろうか。 更正の請求が利用できる場面は、国税通則法第23条に以下のとおり定められている。なお、これらの事由とは別に、所得税法(第51条第2項、第63条、第64条第1項)、法人税法(法人税法基本通達2-2-16)及び相続税法(第23条第1項)において、個別の更正の請求事由に関する定めがある。 【更正の請求が認められる場面】 (4) 「通常の更正の請求」と「後発的事由に基づく更正の請求」の関係 後発的事由による更正の請求は、その条文構造からして、通常の更正の請求の期限経過後も一定の場合に更正の請求を認めるべく定められたものと読めるが、条文だけを読むと更正の請求を認めるべき事由が一致していない。 すなわち、国税通則法第23条第1項各号は上記のとおり課税標準等又は税額等の計算が税法に従っていない又は計算に誤りがあったということのみを事由としているのに対し、第2項各号は判決、更正又は決定、処分取消、解除等の具体的事実関係を列挙しており、これだけを読むと、法定納期限から5年以内においては、これら判決等を理由とする更正の請求ができないようにも読める。 しかしながら、この点に関し、東京高裁昭和61年7月3日判決は、第1項所定の法定納期限から5年以内の更正の請求については第2項各号所定の事由(すなわち後発的事由)を用いることができると判示している。税務当局は、かかる国税通則法第23条第1項と第2項の関係について態度を明確にしていないが、筆者の見解としては、第1項所定の法定納期限から5年以内において、第2項各号の事由による更正の請求を否定する理由はないと思われ、穏当な結論であると考えられる。 本稿における本題は、ここで法定された更正の請求の事由以外には、更正の請求を認める余地はないのかという問題である。本来、この国税通則法の定めは、税法全体の総則として機能すべきものであるが、実際には、例えば、所得税法第152条・同施行令第274条第1号においては、総則として機能すべき「無効原因がある場合」が定められているなど、十分に整理されているとは言い難い状況にある。   2 更正の請求の事由に関する諸問題 上で述べた事由以外で納税者が更正の請求を検討すべき場面としては、例えば、土地を売却し、代金を受領したが、その後、年度をまたいで当事者間で紛争を生じ、課税標準等の基礎となった契約を合意解除した場合等が考えられるが、このような場合にも更正の請求は認められるのであろうか(一定の理由により年度をまたいで譲渡代金が減額された場合なども同様である)。 ここでのポイントは、あくまで国税通則法第23条第2項第3号・同施行令第6条第2号の「解除」ではなく、当事者間の合意による解除等である点である。 少なくともこうした合意解除等は、国税通則法が定める更正の請求の事由には直接には該当しないように読めるが、一方で、特に事業所得ではない個人の所得のケースでは、このような場合に更正の請求を認めないと、実質的には享受されていない所得に課税されてしまうことになり、いかにも落ち着きの悪い結論になる。 この点に関し、東京地裁平成21年2月27日判決は、相続財産である同族会社の株式につき、配当還元方式が適用されることを前提に遺産分割合意をし、同方式に基づいて前記株式を評価した上で相続税の申告を行ったが、その後、遺産分割合意を前提とすると類似業種比準方式による評価に基づき相続税が課税されることが判明したため、改めて配当還元方式の適用を受けられる内容の遺産分割合意をした上で、その遺産分割合意の内容を前提とした更正の請求を行った事案につき、以下のように述べて、更正の請求を認容している。 (※) 下線筆者 本裁判例は、まず、遺産分割における株式の配分に係る部分につき、相続人間に旧民法における錯誤無効(原始的無効)があることを前提に、国税通則法23条1項1号にいう「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」に該当すると判示している。言い換えれば、この裁判例は、原始無効、すなわち、元々合意がないといえるようなケースであれば、形式的には合意解除したとしても、国税通則法第23条第1項の計算誤り等と同視できることを前提としたもの理解される。 その上で、当該裁判例は、反対利益として、租税公平主義、すなわち「法定申告期限を経過した後も、更なる課税負担の軽減のみを目的とする課税負担の錯誤の主張を無制限に認め、当該遺産分割が無効であるとして納税義務を免れさせたのでは、租税法律関係が不安定となり、納税者間の公平を害し、申告納税制度の趣旨・構造に背馳する」との価値判断を示したうえで、上記のような判断基準を示したものである。 上記裁判例は、国税の更正の請求に関する実務に一定の影響を及ぼしている可能性があるものの、通常の更正の請求の制限が法定納期限から1年であった時分の判断であり、これが5年に延長されている現行法の下で同様の結論が得られるのかも含め、実務的には不明瞭な部分が多く残っている。他の裁判例等の流れからみても、一定の場合には合意解除による更正の請求が認められることは読み取れるが、その要件については多くの議論を残す状態になっている。 筆者の個人的見解としては、納税者の恣意性がない状態で、当初の契約に内在する理由により申告後に申告の前提となった経済的利益が失われてしまう場合については広く更正の請求を認めていくべきだと考えているが、この点は、今後の裁判例等に期待したい。 (了)

#No. 387(掲載号)
#下尾 裕
2020/09/24

〈ツボを押さえて理解する〉仕訳のいらない会計基準 【第1回】「会計基準の世界にようこそ」

〈ツボを押さえて理解する〉 仕訳のいらない会計基準 【第1回】 「会計基準の世界にようこそ」   公認会計士・税理士 荻窪 輝明 ◆第1章:さあ、会計基準の世界に飛び込もう!◆ ◆会計基準はムズカシイ 新聞を読むときやニュースを聞いている時に飛び込んでくる、たとえば「四半期」、「連結」、「減損」、「繰延税金資産」、「のれん」などなどの言葉、これらは会計基準と呼ばれる、会計のルールの中で登場する言葉たちです。 その多くは、上場会社を中心に使われていて、簿記や会計を学んだことがあっても、「実は詳しく知らない」、「実務で使ったことがない」という方が多いものです。もしかすると、会計はよく知らないけれど、新聞やニュースでよく見聞きする言葉なので意味くらいは理解したいと思っている、という方が案外多いかもしれません。 本来会計は、「知りたい」、「学びたい」と思う全ての方に開かれたものであってよいはずですが、会計基準そのものをいちから理解することは容易ではありません。なぜかというと、そもそも会計基準は、職業で会計に携わる人が実務で使うことを想定しているので、会計基準を読んで理解できる知識や経験があることが前提となっています。わたしたち実務家でさえ、理解や解釈に苦しむ難解な会計基準が存在するのも事実です。 さらに、一つ一つの会計基準には、法律の条文と同じように特に強弱が付けられているわけではないので、「ここがポイント!」、「ここはマニアックだから知らなくても大丈夫」などとは書かれていません。ですから、いったいどこがこの会計基準のポイントで、何を知っていれば全体像や大事なところが理解できているといえるのか、判断が難しいのです。 そして、「仕訳」です。会計基準は公表される会社の決算や財務諸表を通して活かされるものですので、多くは会計処理を伴います。仕訳は会計処理の答えになる型なので、早く答えを探したいときは、つい会計基準の言わんとすることをほったらかしにして、仕訳を求めにいってしまいます。実はこのタイプの方はとても多いのです。 会計基準が何を意図していて、なぜその処理になるのか、会計基準設定の趣旨や背景といったことを知らなくても、会計基準に則った仕訳さえ知っていれば、何となく答えが合ってしまいます。これが悪いとは言わないのですが、答えありきとなってしまうため、会計基準に対する理解にはなかなか結びつきません。 「会計基準」という言葉自体は新聞やニュースなどで見聞きするので、わたしたちにとって近い存在のように思いますが、理解するとなるとムズカシイ、そもそも理解せずに使っている方も多いものなのです。   ◆会計基準の理解に仕訳はいらない 「“仕訳”を使わないで、主な会計基準のツボを理解する」、これが本連載の目指したいところです。 会計基準の理解と仕訳(会計処理)はどちらも大切ですが、まずは「理解なくして処理はなし」が基本です。新聞やニュースで見聞きする言葉の意味を知るための理解だけで十分な方々の場合には、そもそも会計処理を知る必要性はないため、簿記の知識や仕訳という仕組みすら知る必要性も薄いでしょう。ならば、いっそのこと、「会計基準から仕訳を切り離して理解することに重点を置く」というのが本連載の持つ大きな特徴です。 さらに、一つ一つの会計基準の中でも大事なところに絞った方が、特にはじめて会計基準の世界に足を踏み入れる方々にとっては、わかりやすいはずです。思い切って、難解な部分、細かいところは置いておき、まずは全体像をつかむことを優先に、核となるところ、誰もが理解しておきたいところを中心に解説する連載を目指します(より専門的な内容や詳細な解説については、会計基準の原文そのものや、他の専門解説にゆだねることにしましょう)。 「“仕訳”を使わないで、主な会計基準のツボを理解する」ことを目指したいのには、このようなワケがあるのです。さあ、みなさんも会計基準の世界に飛び込みましょう!   ◆会計基準はレア情報 会計基準のスタート地点に立つ前に、まずは、会計基準のない世界のお話をします。実は、会計実務の世界では、会計基準の理解や知識が必要とされる機会はそうそうありません。前述した「会計基準はムズカシイ」の中で触れたように、会計基準は“上場会社を中心に使われて“いるものだからです。規模に限らず会社では、基本的に会計基準それ自体は使っています。ですが、適用する会計基準の数はとても限定的で、しかも、会社は使っている自覚すらないということがほとんどです。 それは、多くの会社がいわゆる“税務会計”というものによっているからです。本連載では、この仕組みについて詳しく触れませんが、会計で求める利益を基準にして法人税の所得を算出することが関係しています。会社は、会計を用い決算を行いますが、多くの会社にとって決算の主な目的は、その先にある法人税額を出すことにあります。ですから、会計を用いる決算や、決算結果を集約する決算書(決算報告書)は、法人税の計算を行うために必要な限りにおいて作成するもの、というのが実務の慣行となっています。 これに対して、数ある会計基準を全面的に適用することを“企業会計”と呼んでいます。範囲でいうと、「企業会計 > 税務会計」という関係性です。 企業会計は、税務会計のみでは満たされない目的を果たすためにあります。大げさにいうと、会社の状態や成果をよりリアルに伝えるためです。「時価」、「含み損益」、「回収できそうな額」に「発生しそうな額」、「グループの成果」に「3ヶ月間の成果」など、各社の置かれている状況をできるだけ詳細に伝えるのが企業会計の役割であり、そのためのルールとして、たくさんの会計基準が用意されています。 上場会社など、多くの人が関心を持ち時には世界からも注目されるような会社では、法人税の計算に必要な範囲に限った決算書では満足されず、会社の状況がよりリアルに反映されるように、会計基準に則ったより充実した情報提供が求められています。企業会計を適用する会社の数は税務会計のそれと比べると圧倒的に少なく、基本的に企業会計を適用することが制度上で求められているなどの、ごく一部の会社に限られます。ちなみに、管理会計に対する「財務会計」、あるいは「制度会計」といった別の名称が企業会計と同様の意味で使われることもあります。 これから皆さんが会計基準を一つ一つ知るということは、限られた適用会社の、しかしながら、新聞やニュースで見聞きするような有名な会社では確実に使われている、知る人ぞ知るレア情報を得るようなものなのです。 *  *  * 一つ一つの会計基準の内容は第2章(第7回)以降で解説するとして、それまでもう少し第1章にお付き合いください。次回は、会計基準の世界を俯瞰しましょう。 (了)

#No. 387(掲載号)
#荻窪 輝明
2020/09/24

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第51回】「組合等への出資の会計処理」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第51回】 「組合等への出資の会計処理」   RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 会社は、投資等のために任意組合、匿名組合、パートナーシップ等(以下、「組合等」という)に出資する場合がある。 今回は、組合等への出資の会計処理について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 組合等への出資の会計処理としては、「純額法」、「総額法」、「折衷法」がある。原則は、純額法であるが、その契約内容の実態及び経営者の意図を考慮して、経済実態を適切に反映する会計処理及び表示を選択する(会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針(以下、「実務指針」という)」132、308)。 (※1) 任意組合、パートナーシップに関し有限責任の特約がある場合にはその範囲で損益を認識する(実務指針132)。 (※2) 匿名組合及びリミテッド・パートナーシップについては、それらが実質的に匿名組合出資者等の計算で営業されている場合もあり得るため、純額法が妥当でないことも想定される(実務指針308)。 【留意点】 ➤組合等のBSに金融資産がある場合には金融商品会計基準に従って評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とする。例えば、組合の保有するその他有価証券の評価差額金に対する持分相当額は、その他有価証券評価差額金に計上される(実務指針132)。 ➤有限責任事業組合が出資者の子会社又は関連会社となる場合でも、当該組合への出資について出資金又は有価証券として計上する場合には、個別財務諸表上、取得原価ではなく、持分相当額をもって貸借対照表価額とする(実務対応報告第21号「有限責任事業組合及び合同会社に対する出資者の会計処理に関する実務上の取扱い(以下、「実務報告」という)」Q1)。   《設例》 〈会計処理〉 1 X0年4月1日 2 X1年3月31日 【純額法】 (※1) 当期純利益500,000 × 20% = 100,000 【総額法】 (※1) 現金預金1,000,000 × 20% = 200,000 (※2) 有価証券4,500,000 × 20% = 900,000 (※3) 出資時の金額 (※4) 有価証券売却益400,000 × 20% = 80,000 (※5) 受取配当金100,000 × 20% = 20,000 1 子会社・関連会社の範囲 子会社・関連会社の範囲には、会社のほかに、組合その他これらに準ずる事業体(外国におけるこれらに相当するものを含む)が含まれる。そのため、組合等についても支配力基準及び影響力基準に基づき、子会社及び関連会社の範囲に含まれるかどうかについて検討する必要がある(実務報告Q2)。特に、投資事業組合は留意が必要である。   2 連結上の会計処理 「金融商品会計に関するQ&A」において、投資事業組合のみ連結上の会計処理が明記されている。 投資事業組合については、通常、出資者は平等であり、共有財産として処理するのが原則であるが、連結上、支配力基準又は影響力基準により実質的に子会社又は関連会社として扱われる場合には、以下のとおり会計処理する(「金融商品会計に関するQ&A」Q71)。 (注) なお、その他の組合等についても同様の会計処理になると考えられる。 (1) 連結 通常の子会社と同様に、当該組合の資産及び負債を連結した上で、親会社に帰属しない部分を「非支配株主持分」として計上する(この場合、個別財務諸表の組合の処理を戻し入れて全体を改めて連結する方法が実務的)。また、親会社に帰属しない部分の損益は、「非支配株主に帰属する当期純利益」として計上する。 (2) 持分法 個別財務諸表上の会計処理はそのまま連結財務諸表に取り込んだ上で、投資者(自社)以外の出資者が負担しない損失がある場合には、この分の損失を追加で計上する。 *  *  * 以上、2のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)

#No. 387(掲載号)
#西田 友洋
2020/09/24

税効果会計を学ぶ 【第13回】「連結財務諸表固有の一時差異の取扱い①」-子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額に係る一時差異など-

税効果会計を学ぶ 【第13回】 「連結財務諸表固有の一時差異の取扱い①」 -子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額に係る一時差異など-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、連結財務諸表固有の一時差異の取扱い(連結財務諸表)のうち、次のものについて解説する。 「連結財務諸表固有の一時差異」とは、連結決算手続の結果として生じる一時差異のことをいい、課税所得計算には関係しないものである(税効果適用指針4項(5))。詳細は本シリーズの【第4回】を参照願いたい。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額に係る一時差異の取扱い 資本連結手続では、子会社の資産及び負債は、支配獲得日の時価をもって評価され、その評価差額(個別財務諸表において資本又は損益に計上されたものを除く)は資本として処理される(税効果適用指針101項)。 当該評価差額は親会社の投資と子会社の資本との相殺消去及び非支配株主持分への振替により全額消去されるが、評価対象となった子会社の資産及び負債の連結貸借対照表上の価額と個別貸借対照表上の価額との間に差異が生じることから、当該差異は連結財務諸表固有の一時差異に該当する(税効果適用指針101項)。 当該連結財務諸表固有の一時差異は、次のように会計処理する(税効果適用指針18項、19項)。   Ⅲ 個別財務諸表において子会社株式の評価損を計上した場合の連結財務諸表における取扱い 親会社の個別財務諸表において子会社株式の評価損が計上される場合、当該評価損が資本連結手続によって消去されることにより、当該評価損の消去に伴う連結財務諸表固有の将来加算一時差異が生じる(税効果適用指針102項)。 子会社株式の評価損について税務上の損金算入の要件を満たしていない場合、連結決算手続において生じた当該評価損の消去に伴う将来加算一時差異に対して計上される繰延税金負債の額は、個別貸借対照表において計上された繰延税金資産の額と一致し、連結財務諸表上、子会社に対する投資について一時差異が生じていないことと同様になる(税効果適用指針102項)。 当該連結財務諸表固有の一時差異は、次のように会計処理する(税効果適用指針20項、21項)。 (了)

#No. 387(掲載号)
#阿部 光成
2020/09/24
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