《速報解説》 金融庁、開示府令の改正により金商法に基づく有価証券報告書等の提出期限を一律本年9月末まで延長する方針を示す 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年4月14日、金融庁は、「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」を公表した。 また、同日、東京証券取引所は、上記の金融庁の公表を受けて、「「有価証券報告書等の提出期限の延長」に伴う決算発表日程の再検討のお願い」を公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 金融庁の公表 今後、3月決算企業をはじめとする多くの企業において、決算業務や監査業務を例年どおりに進めることが困難になることが想定されることから、次の対応を行う。 Ⅲ 東京証券取引所の公表 東京証券取引所は、上場会社において決算作業等の円滑な実施が困難となった場合に、当初のスケジュールにかかわらず、役職員や取引先そのほかの関係者の健康及び安全の確保を最優し、決算発表日程を再検討するようお願いしている。 前述の金融庁の方針を踏まえ、改めて自社の決算作業等の進捗状況を的確に把握し、必要な対応を検討するようにお願いしている。 なお、東京証券取引所の有価証券上場規程601条1項10号に規定する「有価証券報告書又は四半期報告書の提出遅延」については、上場会社が新たに定められる期日(本年9月末)までに有価証券報告書等を内閣総理大臣等に提出しなかった場合に限って適用することとなる。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」を公表 ~不確実性の高い環境下における監査上の留意事項を中心に言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年4月10日、日本公認会計士協会は、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」を公表した。 これは、2020年3月18日の「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その1)」に続くものであり、主として、不確実性の高い環境下における監査上の留意事項について述べている。 なお、同日、企業会計基準委員会は、「新型コロナウイルス感染症への対応(会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方)」をホームページに掲載している。 その後、2020年5月11日 に企業会計基準委員会から議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(追補)」が公表されたことを受け、2020年5月12日付けで、留意事項(その2)が更新されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 基本的なポイント 留意事項(その2)の基本的なポイントは次のとおりである。 2 不確実性の高い環境下における監査の基本的な考え方 現在の新型コロナウイルス感染症拡大の影響下においては、財務諸表の利用者等の意思決定に資するという公共の利益を勘案して、各監査人は監査意見の形成局面において職業的専門家としての慎重な判断が求められることに留意する。 3 会計上の見積りの監査 新型コロナウイルス感染症拡大の影響下において、監査人は、監査報告書に記載されるとおり、経営者によって行われた会計上の見積りの合理性及び関連する注記事項の妥当性を評価する責任がある。 監査手続を実施する場合の留意事項は次のとおりである。 (了)
《速報解説》 金融庁から「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等が公表される ~財務諸表等規則ガイドラインにおいて「重要な会計方針の注記」に係る規定を新設~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年4月10日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 これは、2020年3月31日に公表された「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(改正企業会計基準第24号)、「収益認識に関する会計基準」(改正企業会計基準第29号)及び「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(企業会計基準第31号)等を踏まえ、財務諸表等規則等を改正するものである。 意見募集期間は2020(令和2)年5月11日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部改正(案)」、「四半期財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部改正(案)」、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部改正(案)」などのほか、「「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(財務諸表等規則ガイドライン)の一部改正(案)」などが公表されている。 以下では、主に財務諸表等規則に関する改正について解説する。 1 重要な会計方針の注記(財規8条の2関係) 「重要な会計方針の注記」(財規8条の2)では、従来、有価証券の評価基準及び評価方法、棚卸資産の評価基準及び評価方法など10項目を注記しなければならないとしていた。 公開草案は、会計方針については、財務諸表作成のための基礎となる事項であって、投資者その他の財務諸表の利用者の理解に資するものを注記しなければならないとし、現行の10項目の会計方針の記載を削除している。 一方、財務諸表等規則ガイドライン8の2において、次の規定を新設する。 2 重要な会計上の見積りに関する注記(財規8条の2の2関係) 「重要な会計上の見積りに関する注記」(財規8条の2の2)において、当事業年度の財務諸表の作成に当たって行った会計上の見積り(この規則の規定により注記すべき事項の記載に当たって行った会計上の見積りを含む)のうち、当該会計上の見積りが当事業年度の翌事業年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるもの(「重要な会計上の見積り」という)を識別した場合には、所要の事項を注記する。 当該財務諸表等規則の規定に対応して、財務諸表等規則ガイドライン8の2の2を新設する。 3 未適用の会計基準等に関する注記(財規8条の3の3関係) 財規8条の3の3第1項3号に掲げる事項は、当該会計基準等が専ら表示方法及び注記事項を定めた会計基準等である場合には、記載することを要しないとする。 4 収益認識に関する注記(財規8条の32関係) 顧客との契約から生じる収益については、次に掲げる事項であって、投資者その他の財務諸表の利用者の理解に資するものを注記しなければならない(重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる)。 当該財務諸表等規則の規定に対応して、財務諸表等規則ガイドライン8の32において、「収益認識に関する会計基準」が適用される場合の注記に関する留意事項を規定する。 5 表示科目等(財規15条、39条、47条、93条等関係) 次のように表示科目等について改正する。 6 棚卸資産及び工事損失引当金の表示(財規54条の4関係) 同一の工事契約に係る棚卸資産及び工事損失引当金がある場合に、所要の注記を行う。 7 売上高の表示方法(財規72条関係) 売上高については、顧客との契約から生じる収益及びそれ以外の収益に区分して記載するものとする。 この場合において、当該記載は、顧客との契約から生じる収益の金額の注記をもって代えることができる。 ただし、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成しているときは、当該記載及び当該注記を省略することができる。 財務諸表等規則ガイドライン72-1は、各企業の実態に応じ、売上高、売上収益、営業収益等適切な名称を付すものとし、また、顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合には、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)を損益計算書において区分して表示するものとしている。 Ⅲ 適用時期等 公布の日から施行する予定である(経過措置に注意)。 (了)
《速報解説》 ASBJが、会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方を公表 ~財務諸表を作成する際の留意点を明示~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年4月10日、企業会計基準委員会は、「新型コロナウイルス感染症への対応(会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方)」をホームページに掲載した。 これは、2020年4月9日に開催された第429回企業会計基準委員会における審議の概要であり、財務諸表を作成する上での会計上の見積りを行う際の留意点を述べている。 その後、2020年5月11日に開催された第432回企業会計基準委員会において、新型コロナウイルス感染症の影響に関する開示について審議が行われ、議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(追補)」を公表し、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示について強く要望している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計上の見積りを行う際の留意点 新型コロナウイルス感染症の広がりは、経済、企業活動に広範な影響を与える事象であり、また、今後の広がり方や収束時期等を予測することは困難であるため、会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況にあるとの認識を示した上で、次の留意点を述べている。 Ⅲ 会計上の見積りを行う際の留意点の追補 上記の会計上の見積りを行う際の留意点の④の「重要性がある場合」 について、 当年度に会計上の見積りを行った結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが財務諸表の利用者に有用な情報を与えることになると思われ、開示を行うことが強く望まれると記載されている。 (了)
《速報解説》 「居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除の適正化」に関する 消費税法基本通達の改正について ~新設項目の確認~ 税理士 石川 幸恵 令和2年度税制改正では、居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除の適正化が図られた(改正の概要は本誌掲載の下記拙稿を参照されたい)。 本稿では、国税庁より4月1日に公表された「消費税法基本通達等の一部改正等について(法令解釈通達)」のうち、本改正に関連する部分について解説する。 1 非課税となる住宅の貸付けの範囲の変更 (1) 改正通達の前提となる法令改正 「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)により、非課税となる住宅の貸付けの範囲(消法別表1十三)が変更され、契約による判定から建物の状況等による判定になった(下線部分が改正により追加。マーカーは筆者による)。 なお、上記消法別表1十三の改正は令和2年4月1日以後の貸付けからすでに適用されているので、留意されたい。 (2) 通達の内容 消基通6-13-10(貸付けに係る用途が明らかにされていない場合の意義)と6-13-11(貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかな場合の意義)は、上記マーカー部分に対応し、意義を補足している。 非課税となる住宅の貸付けの範囲を整理すると、〔図1〕のとおりである。 〔図1〕非課税となる住宅の貸付けの範囲 2 居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額 (1) 改正通達の前提となる法令改正 「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)により、居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の制限(消法30⑩)が新設された。 居住用賃貸建物は、住宅の貸付けの用(消法別表1十三)に供しないことが明らかな建物以外の建物で、高額特定資産(消法12の4①)又は調整対象自己建設高額特定資産(消法12の4②)に該当するものである(消法30⑩)。 改正通達では、以下の5つの新設項目において、この居住用賃貸建物について説明を加えている。 (2) 通達の内容 ① 11-7-1(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物の範囲)、11-7-3(合理的区分の方法)、11-7-5(居住用賃貸建物に係る資本的支出) 11-7-1(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物の範囲)、11-7-3(合理的区分の方法)、11-7-5(居住用賃貸建物に係る資本的支出)は、下記のとおり、居住用賃貸建物の範囲を明らかにしている。 イ 11-7-1(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物の範囲) 住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物を「建物の構造及び設備の状況その他の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなもの」としている。 ロ 11-7-3(合理的区分の方法) 住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分と居住用賃貸部分とに合理的に区分しているときは、居住用賃貸部分についてのみ居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の制限(消法30⑩)の規定が適用される(消令50の2①)。 この施行令の新設を受けて、建物の一部が店舗用の構造となっている居住用賃貸建物の区分方法について、例示している。 ハ 11-7-5(居住用賃貸建物に係る資本的支出) 居住用賃貸建物に係る資本的支出については、資本的支出自体が居住用賃貸建物の課税仕入れに該当する場合のみ、仕入税額控除の制限(消法30⑩)の適用があることを確認している。 ニ 消法30⑩の規定の適用がない例 イ~ハの通達では、仕入税額控除の制限(消法30⑩)の規定の適用がない例示を挙げている。 まとめると以下のとおりである。 ② 11-7-2(居住用賃貸建物の判定時期) 居住用建物に該当するかは、以下の日に判定する。 イ 自己建設資産以外のもの 課税仕入れを行った日。 ロ 自己建設資産 建設等に要した費用の額が1,000万円以上となった日(消法12の4①二に定める日)。 ハ イ・ロのそれぞれの日において住宅の貸付けの用に供しないことが明らかでない建物 課税期間の末日において、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかにされたときは、居住用賃貸建物に該当しないものとして差し支えない。 ③ 11-7-4(居住用賃貸建物が自己建設高額特定資産である場合) 自己建設高額特定資産が居住用賃貸建物と判定された課税期間以前の課税期間に行われた課税仕入れ等の税額については、仕入れに係る消費税額の控除(消法30①)の規定の適用がある。 * * * ②③について整理すると、〔図2〕のとおりである。 〔図2〕 自己建設高額特定資産 3 居住用賃貸建物を課税賃貸用に供した場合等の調整 (1) 改正通達の前提となる法令改正 「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)により、居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の制限(消法30⑩)の規定の適用を受けた居住用賃貸建物について、一定の期間に以下の事由が生じたときは、仕入れに係る消費税額の調整をする旨の規定が設けられた(消法35の2)。 (2) 通達の内容 消基通12-6-1(課税賃貸用の意義)及び12-6-2(居住用賃貸建物を中途で売却した場合等の法第35条の2第1項の不適用)が新設された。いずれも、消費税法第35の2条第1項と第2項の適用範囲を確認している。 ① 12-6-1(課税賃貸用の意義) 居住用賃貸建物を課税賃貸用に供した場合の仕入れに係る消費税額の調整(消法35の2①)の規定は、居住用賃貸建物を住宅の貸付け以外の貸付けに供した場合にのみ適用される。 適用のない具体例は明示されていない。私見であるが、事業者の社屋への転用や社宅として従業員に無償で貸し付けるなど、仕入税額控除の計算において、個別対応方式の課税売上と非課税売上に共通して要するものへの転用については、調整計算はないものと考えられる。 ② 12-6-2(居住用賃貸建物を中途で売却した場合等の法第35条の2第1項の不適用) 課税賃貸用に供した場合の調整計算(消法35の2①)と譲渡したときの調整計算(消法35の2②)の重複適用はない。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2020年4月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.364を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第87回】 「政策目的からみる租税法(その3)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅲ 自動車重量税法の沿革と趣旨 1 法の解釈姿勢 租税法の解釈を考えるに当たって、かかる法の趣旨目的を探ることは非常に重要である。法の趣旨目的から逸脱したところで法解釈がなされることは、租税法律主義の観点から問題があることはいうまでもない。 そして、法の趣旨目的を探るには、その法の立法経緯をはじめとする沿革に目を向ける必要がある。 創設当初の議論が直接参考になることもあれば、他方で、経済社会の進展を受けて法の趣旨目的に変容が認められる場合もあり得よう。 以下では、簡潔に自動車重量税法の沿革を確認し、改めてその趣旨を探ってみたい。 2 沿革 ここまで繰り返し確認してきたとおり、自動車重量税は、車検を受けることで自動車が走行可能になるという法的地位を得ることに対して課される一種の権利創設税と解されている。本件判決はこの立場に立っている。 かような自動車重量税の沿革を時系列に沿って確認しておくこととしよう(以下は、佐藤良「車体課税をめぐる経緯及び論点」調査と情報935号(2017)を基に、筆者が時系列として再整理したものである。なお、平成27年以下については、国土交通省の税制改正要望などを参考にしている。)。 3 法の趣旨の変容 上記のとおり、自動車重量税は昭和46年に創設されたものであるが、自動車に係る社会的費用を確保するとともに、第6次道路整備5か年計画(昭和45~49年度)における財源不足に対応することを目的としていたものである(佐藤・前掲稿、7頁)。 その後、自動車重量税は、昭和49年以降、平成20年に、同30年4月末までの10年間の適用期限が設けられるまで、累次、暫定税率の適用期間が延長されてきたわけであるが、同税を含む自動車関連税は、「急増する道路整備需要を賄う財源を求めるとともに、燃料間の税負担格差、地方の道路整備財源の確保等の見地」から、税率の引上げが繰り返されてきたのである(古川浩太郎「自動車関連税制の現状と課題―道路特定財源としての側面を中心に―」レファレンス57巻8号80頁(2007))。 このように、自動車重量税は、(その運営上、一般財源とされてきたのか、特定財源であったのかは一先ず置いておくとして)道路整備を主目的として運用されてきた税であるといってよいであろう。 しかし、その方向性は、平成20年代になって導入されたいわゆる「エコカー減税」を契機に大きく変わったもののように解される。 すなわち、かかる減税が、環境性能に優れた自動車に対する時限的な減免措置であるとおり、自動車重量税の減免というインセンティブを設けることによって、環境に配慮した自動車の普及促進が図られるようになったのである。 なお、自動車重量税法は、「13年経過車」や「18年経過車」といった基準を設け、新規登録から13年以上の車に対しては税率が上がる仕組みを採用している。加えて、18年以上となると更に税率が高くなるのであるが、これは、新規登録から13年以上経過したガソリン車などは、環境にかける負荷が大きいことから重課されるようになったものと解される。 このように、環境に対する負荷の観点から、自動車重量税の税率には差異が設けられており、これは、自動車重量税法の主たる目的が、道路整備から環境配慮に移行していることの証左といってもよいであろう。 なお、近時、「エコカー減税縮小」といった報道等がなされることがあり(日本経済新聞電子版2018年12月4日「車検時のエコカー減税縮小 免税枠はEV・PHVなど」参照)、その点のみを切り取ると、上記とは逆のベクトルに進んでいるようにも見受けられるところではあるが、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車など、特に環境についての配慮性が高い車を重点的に免税とすることで、それらの普及促進を図るものであると捉えれば、昨今の自動車重量税法は、より一層の環境配慮を目的としているものと整理することもできそうである。 また、本稿では詳しく取り上げてこなかったが、自動車関連税の1つであった自動車取得税は、平成31年10月の消費税率10%への引上げに伴い廃止されている。その一方で、自動車の取得時において、その環境性能に応じて課税する「環境性能割」が導入されており、自動車関連税全体が、環境配慮の目的に向かっていることも指摘しておきたい。 結びに代えて このように当初は、道路財源の確保という意味合いの強かった自動車重量税であるが、その後、同税を取り巻く環境にも変化があり、今日において、自動車重量税の法的性質はグリーン化促進のためのものという意味合いが強くなってきているといえよう。 そうであるとするならば、単なる「権利」の創設に関心を寄せ、所有権が公証等されているか否かという点についてのみ自動車重量税の趣旨を見出して課税をすることには限界があるというべきなのではなかろうか。 結論を端的にいえば、自動車重量税の法的性質や趣旨は既に変容してきているといってもよく、その趣旨に応じた課税上の取扱いが解釈論として展開されることも検討されるべきではなかろうか。 なお、平成28年1月、多くの大学生を乗せたスキーバスが軽井沢で転落したという痛ましい事故が起こったが、それ以前から、平成24年4月に関越自動車道で高速バスの大事故が起こるなどしており、バスやトラックについて、衝突被害軽減ブレーキ等のASV装置の備付けが喫緊の課題とされてきた。 そうした装置設備を促進するため、自動車重量税法は、かかる装置を搭載した場合の特例措置を講じ、平成25年、27年、29年、31年と、かかる措置の拡大と延期が続けられている。 このように、自動車重量税法は、当初は道路整備に関する5か年計画にみる経済成長に資するために設けられ、その後、近年では、環境への負荷を基準とした税率が採用されている。そして、高速バスツアーの大事故を防ぐべく装置取付けを促進することで、交通事故の減少も目的としているのである。 このように見てくると、自動車重量税法はその時々の政策目的を色濃く反映している税制であるといってよいであろう。それは、まるで、優良な住宅普及を促進するために設けられている、住宅借入金等特別控除(いわゆる住宅ローン控除。措法41)のようにである。 同控除の適用を巡って争われた事例に、東京高裁平成14年2月28日判決(訟月48巻12号3016頁)(第16回~18回「建替え建築は『新築』か『改築』か?」参照)があるが、そこでは、「本件特別控除は、住宅政策の一環として、持家取得の促進と良質な住宅ストックの形成を図るとともに、住宅投資の活発化を通じた景気刺激策として、所得税額から一定額を控除する制度である。」とした上で、同控除の趣旨目的に即した解釈が展開されている。 このように、政策目的が強い租税法の解釈においては、かかる政策目的を念頭に置いた解釈がなされるべきであると解される。 そうであるとすれば、やはり、自動車重量税法の適用に当たって、単なる「権利」の創設に関心を寄せて法解釈を行うことには疑問を挟む余地もあり、いわば、もう運転できない車に対しての自動車重量税の課税のあり方については再考すべき時期が来ているように思われるのである。 もっとも、そうであるとはいっても、そこには「文理解釈」という租税法解釈において最優先されるべき解釈論が存在することを忘れてはならないし、また、そうした文理解釈を否定するものでは決してないことを付言しておきたい。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第33回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -個別的否認規定と一般的否認規定との関係- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前々回、前回と2回にわたって、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避を素材として、個別的否認規定と個別分野別の一般的否認規定との関係について検討してきたが、今回は、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避だけでなく、私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用による租税回避も含めて、租税回避一般について個別的否認規定と一般的否認規定との関係を検討する。 わが国には、分野を特定・限定せずすべての分野を包括するタイプの一般的否認規定は存在しないが(租税回避否認規定の類型については第30回参照)、ドイツには、そのような一般的否認規定として租税基本法(Abgabenordnung. 以下「AO」という)42条が存在し、この規定の適用をめぐって個別的否認規定との関係が議論されてきたところである。今回は、その議論を紹介することにする。 Ⅱ AO42条の現行(新)法文と旧法文 議論の紹介に入る前に、AO42条について現行規定(2008年度改正税法(Jahressteuergesetz [JStG] 2008. 2008年1月1日施行)による新法文)を邦訳しておこう(下線筆者)。 また、議論の中では前記改正前のAO42条にも言及されることがあるので、その法文(旧法文)についても邦訳を以下に記しておくことにする(下線筆者)。 AO42条と個別的否認規定との適用関係については、新法文ではAO42条1項第3文が、旧法文ではAO42条2項が重要である。なお、旧法文のAO42条2項の規定は2001年度改正税法で追加されたものであるが、同条1項の租税回避否認規定は1977年AO42条以来、更に遡れば1919年ライヒAO(Reichsabagbenordnung)5条以来、基本的には同じ内容である。 Ⅲ 個別的否認規定と一般的否認規定との関係をめぐる議論 AO42条と個別的否認規定との関係をめぐる議論については、60年近い歴史と定評のあるティプケ=クルーゼのAOの加除式コンメンタール(Tipke/Kruse, Abgabenordnung, Finanzgerichtsordnung, Kommentar, Loseblatt)において的確でよくまとまった注釈がされているので、関連する欄外番号(Textziffer [Tz])の箇所(Drüen , Vor § 42, TK Lfg. 145 Juni 2016, Tz 13 ff.)を以下に邦訳しておくことにする(訳文中の太字の部分は原文でも太字。ただし、原文中の括弧書は原則として省略することにする)。その箇所の見出しは、「要件が充足されていない個別租税法律上の租税回避否認規定の保護効果(Abschirmwirkung)?」となっている。 以上の注釈のうち、まず、【欄外番号13】で述べられている、2001年度改正税法によるAO42条2項の追加及び2008年度改正税法による同条1項第3文の挿入については、それぞれの背景事情や立法理由を含め、かつて、拙稿「ドイツにおける租税回避の一般的否認規定の最近の展開」『税務大学校論叢40周年記念論文集』(2008年)237頁、243頁以下(拙著『租税回避論』(清文社・2014年)243頁以下)で検討した。そこでは、連邦財政裁判所のAO42条関係判例に対する不満・怒りを露わにする税務行政当局と、「特別法は一般法に優先する」という原則を遵守し、その原則に対する例外を正当化する明確な立法理由の欠如を問題にする学説やこれに従う判例との「確執」がみられたところである。 次に、【欄外番号13a】で述べられている見解は、学説においてライヒAO5条の時代から広く支持されてきた見解に従うものである。ヘンゼルは、ドイツにおける租税回避論の基礎を構築したと考えられるが(第21回Ⅱ2、第25回Ⅱ1等も参照)、AO5条と特別規定との関係について以下のとおり述べていた(Hensel, Zur Dogmatik des Begriffs "Steuerumgehung", in Bonner Festgabe für Zitelmann, 1923, 217, 273f. 以下の訳文中のイタリック体部分の原文は活字間の間隔が広い強調部分)。 【欄外番号13a】で述べられている見解は、今日においても広く支持されており、1973年の初版以来定評のあるティプケ=ラングの基本書(Tipke/Lang, Steuerrecht, 23. Aufl. 2018)における以下の邦訳部分(Englisch, § 5 Rz. 124. 訳文中の太字とイタリック体の部分は原文でも太字とイタリック体。下線筆者)中の下線部に係る脚注でも、参照されている。 最後に、【欄外番号14】で述べられている見解は、【欄外番号13a】で述べられている原則に対する例外を述べるものである(ヘンゼルは、前記引用の末尾でも述べられているように、例外を認めてはいなかったが)。その例外のうちとりわけ「個別租税法律(特別法)上の濫用否認規定の濫用」については、上記の基本書の邦訳部分(Englisch, § 5 Rz. 124.)の末尾でも「特別規定の要件要素の回避」として述べられているように、AO42条の適用を認める見解が有力である。ドイツ税法学会(Deutsche Steuerjuristische Gesellschaft)第34回年次総会(2009年)において示された次の見解(Hey, Spezialgesetzgebung und Typologie zum Gestaltungsmissbrauch, DStJG 33 (2010), 139, 146. 訳文中のイタリック体の部分は原文でもイタリック体)も、その1つである。 このような見解は、近時、下級審レベルではあるが財政裁判所によっても支持されるようになってきている(Drüen , Grundlagen und Grenzen administrativer Missbrauchsabwehr im gewaltengegliederten Verfassungsstaat, SteuW 2020, 3, 9)。 Ⅳ おわりに 以上において、租税回避の個別的否認規定と一般的否認規定の関係をめぐるドイツの議論を概観した。ドイツでは、AO42条の「強化」を意図する税務行政当局の強い意向とそれを受けた2回の法改正(2001年度改正税法、2008年度改正税法)にもかかわらず、「特別法は一般法を破る」という原則を打破しようとする試みは、同原則を遵守する学説及び判例によって、阻止されているように見受けられる。ただ、とりわけ「個別租税法律(特別法)上の濫用否認規定の濫用」については、AO42条の適用を認める見解が学説上有力であり、財政裁判所によっても採用されるようになってきている。 わが国には、AO42条のようなすべての分野を包括するタイプの一般的否認規定は存在しないが、それでも、前々回及び前回に検討したように、個別分野別の一般的否認規定は存在するので、それらについては個別的否認規定との関係が問題になる。しかし、個別分野別の一般的否認規定において、ドイツの2001年度改正税法のAO42条2項や2008年度改正税法のAO42条1項第2文・第3文のような、個別的否認規定との関係を定める明文の規定は、定められていない。 そのような法状態の下では、「特別法は一般法を破る」という原則を遵守すべきであり、そうすることによって、納税者の予測可能性・法的安定性が確保され、もってこの問題に関して租税法律主義の実現が図られることになると考えるところである。もっとも、ドイツで「個別租税法律(特別法)上の濫用否認規定の濫用」について上記の原則に対する例外が認められているが、わが国でもそのような例外を認めてよいように思われる。ヤフー事件最判が認めた法人税法132条の2の「重畳的」適用(第31回Ⅱ3参照)は、そのような例外に該当すると考えられる。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第16回】 「筆頭株主の譲渡等により原則的評価となる株主への対応」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳 相談内容 私Eは、製造業を営むF社で代表取締役社長を務めています。当社は創業メンバーの3名(A・B・C)が脱サラして設立した製造業で、ABCの3名が均等に株式を保有したまま順調に規模を拡大してきました。 私は当社の創業メンバー3名(A・B・C)と親族関係にはありませんが、設立直後から創業メンバーの3名を支えてきた功績が認められ、F社の経営を託されることになりました。 当社は、先述のとおり、創業メンバー3名が均等に株式を保有していた関係で、創業メンバーそれぞれの退任に合わせて資本政策の見直しを迫られてきました。 最初に創業メンバーCが当社を退任した際には、Cが保有する株式を後任の取締役に就任した私Eが5%、それ以外の28%を当社の従業員持株会が譲り受けました。 創業メンバーBは、当社の経営に関与していないBの子D氏に全株を相続させ、将来にわたってD氏が配当収入を得られることを望んでいましたが、顧問税理士が議決権割合を30%未満に引き下げれば配当還元価額による相続が可能となることを提案してくれたおかげで、私Eが5%分の株式をBから引き取り、Bの議決権割合を3分の1未満に引き下げ、その後Bは亡くなりました。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 そして、まもなく最後の創業メンバーAの退任時期が近づいています。Aは当社の株式に固執することなく、当社が安定経営できるように経営陣や従業員持株会に株式を譲渡しても構わないと考えてくれているようです。 現在の筆頭株主であるAが株式を手放した場合、当社は30%以上の株式を保有する同族株主のいない会社となり、筆頭株主となるD氏が同族株主と同じ原則的評価になってしまうと顧問税理士から説明を受けました。D氏は、筆頭株主といっても議決権の28%しか株式を保有しておらず、会社に経営権を主張したりできる株数ではありません。このような場合でも、D氏が同族株主と同じ評価方法になってしまうのでしょうか。 D氏はBからの相続時に配当還元価額により株式を相続しています。突然、株式の相続税評価額が高くなることについて、どのように説明すればよいでしょうか。 また、D氏が原則的評価となることを回避するために、D氏に対して当社から提案できることが何かあるでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 同族株主のいる会社 現在のF社は、創業メンバーAが30%以上の議決権割合を保有しています。議決権の30%以上の株式を保有する「同族株主」が存在する場合、議決権割合が30%未満の株主は、財産評価基本通達に規定する「同族株主以外の株主等」となるため、D氏は比較的評価額が低くなる配当還元価額と呼ばれる評価方式により、株式の承継(相続・贈与)を行うことが可能です(財基通188-2)。 〈F社の株主構成〉 同族株主のいる会社の株式の評価方式は次のとおりです。 〈同族株主のいる会社の評価方式〉 (※) 財産評価基本通達188(1)(2)を元に筆者作成。 [2] 同族株主のいない会社 Aが退任にあたって保有株式のすべてを複数の役員に譲渡した場合、F社には議決権の30%以上の株式を保有する「同族株主」が存在しなくなります。 この場合、議決権割合が15%以上の株主は、財産評価基本通達に規定する「中心的な株主」となるため、D氏が株式の承継(相続・贈与)を行う場合は配当還元価額ではなく、原則的評価と呼ばれる同族株主等と同じ評価方式によることになります(財基通178)。 〈F社の株主構成〉 (※) 従業員持株会については、構成員である各従業員の議決権割合が5%未満と小さいこと。「同一の内容の議決権を行使することに同意している者」(財基通188(1)に引用する法令4⑥)に該当しないように留意した会員規約に基づく運営が行われている前提で「中心的な株主」に該当しないものと取り扱っています。 同族株主のいない会社の株式の評価方式は次のとおりです。 〈同族株主のいない会社の評価方式〉 (※) 財産評価基本通達188(3)(4)を元に筆者作成。 [3] D氏に提案可能な資本政策の一例 (1) 株式の譲渡 同族株主のいない会社において、すべての株主の議決権割合が15%未満である場合には、株主全員が配当還元価額によることが可能となります。したがって、D氏の議決権割合が15%未満となるように他の株主への譲渡を提案することが現実的です。 自己株式による株式取得を検討する際には、議決権数が減少することにより他の株主の議決権割合が増加することになるため、他の株主が15%以上の議決権割合にならないように注意が必要です。 〈F社の株主構成〉 (2) 議決権制限株式への変更 同族株主判定は、保有株数による判定ではなく、議決権数により行われます。したがって、D氏の株式保有目的が配当の受領であるならば、D氏の保有株式を議決権制限株式(無議決権株式)に変更することもD氏に対する原則的評価を回避するための一案でしょう。 ただし、D氏の保有株式を議決権制限株式に変更した場合、他の株主の議決権割合が相対的に増加することになるため、自己株式による場合と同様、他の株主が15%以上の議決権割合にならないように注意が必要です。 〈F社の株主構成〉 [4] 結論 発行会社の経営陣としては、株主に対して意図せぬ税負担が生じることのないよう、新たに原則的評価の対象となる株主に対して、議決権割合の引下げや資本政策の見直しについて提案することが必要でしょう。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第26回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (イ) 「別段の定め」から法人税法22条4項が除かれていること 以下では、「別段の定め」そのものではなく、そこから法人税法22条4項が除かれていることに着目した考察を行ってみたい。 〔「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が関係する2箇所〕 少し考えてみると、法人税法22条の2第2項においては、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が次の2つの箇所で関係することに気がつく。 それぞれにおける「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の機能について考察しておこう。 法人税法22条の2第2項を適用して、引渡日又は役務提供日以外の日の属する事業年度に収益を計上する場合には、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って、当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の引渡日又は役務提供日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理しなければならない。 「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」としていることからすると、公正妥当性や基準性が求められるのであり、とりわけ、「一般に公正妥当と認められる」という部分は、基準の公正妥当性を判断ないし確保する機能を有する。 他方、法人税法22条の2第2項は、「別段の定め」があるものを除いて適用されるものであるところ、ここでいう「別段の定め」から法人税法22条4項が除かれている。法人税法22条の2第2項は、収益の額を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算することを求める22条4項に優先し、かつ、同項以外の「別段の定め」に劣後して、適用されるものと一応、整理できる。 上記①の箇所において、資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の引渡日又は役務提供日に近接する日について、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従ったものであることを要求している。 よって、法人税法22条の2第2項によって認められる近接日基準は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従ったものに限定される。すると、①の箇所における公正処理基準準拠要件は、資産の販売等に係る収益の計上時期について、原則的基準である引渡・役務提供基準とは異なる基準を採用することを制限している、あるいは原則的基準から離れることが正当化できる理由を表していると見ることもできよう。 その一方、上記②の箇所において、法人税法22条の2第2項に優先して適用される同項の「別段の定め」の範囲から、収益の額を「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算することを求める法人税法22条4項を除外していることをどのように理解すればよいであろうか。 上記②の箇所の意義は、法人税法22条の2第1項に組み込まれているものと同様に、22条4項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」を根拠として、これに該当する基準(公正処理基準に該当する具体的な会計処理の基準)を22条の2第2項に優先して適用することを遮断するためにあると推察される。 いわば、規定間の交通整理の規定であり、法人税法22条の2第2項の他の適用要件を満たしている場合には、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従っていたとしても、同項によらずに(同項に優先して)法人税法22条4項を根拠として益金算入を行うことはできないことをわざわざ述べているものといえる。 そうであるとすると、ある収益計上に係る基準ないし実際の収益計上日が近接日基準を満たすか否かが問題となる場面では、上記①の箇所における公正処理基準準拠要件の方がより重要な役割を果たすことになろう。 〔「別段の定め」から除かれる法人税法22条4項・公正処理基準〕 法人税法22条の2第2項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」について、特に定義規定等を設けずに直前の22条4項のものと同一の文言を使用しているのであるから、22条4項のそれと同義に解することが自然である。 もっとも、法人税法22条4項の場合と異なり、22条の2第2項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の具体的範囲は、実際には、収益の計上時期に関する「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に限定されるであろう(本連載第20回参照)。 また、22条の2第2項は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従っていないと同項を適用できないというものであるが、22条4項における「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は、ある種、法人税法の規範の空白領域において補充的に会計規範の採用を認める働きをするものであるといえ、この点でそれぞれ趣きが異なることも指摘しておく。 後述するとおり、『平成30年度 税制改正の解説』274頁においては、法人税法22条の2第2項にいう「別段の定め」から同法22条4項を除いた趣旨及び「別段の定め」の具体例は、法人税法22条の2第1項と同様であると説明されている。 法人税法22条の2第1項にいう「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨について、資産の販売等に係る収益を益金の額に算入するかどうかという点は引き続き22条2項の規定によることとし、その時期及び金額について同法22条の2で規定された。かように資産の販売等に係る収益の額について22条4項と同法22条の2の両方が適用されると、割賦基準・延払基準のようにこれらの規定が互いに抵触する場合に優先関係が不明確となるおそれがあることから、優先関係を明確にするために、収益認識の時期については法人税法22条4項が適用されないこととしたというのである(本連載第18回参照)。 (了)